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サイトメガロウイルス感染妊婦の胎児への垂直感染予防に用いるバラシクロビル 無作為化二重盲検プラセボ対照試験
サイトメガロウイルス感染妊婦の胎児への垂直感染予防に用いるバラシクロビル 無作為化二重盲検プラセボ対照試験
Valaciclovir to prevent vertical transmission of cytomegalovirus after maternal primary infection during pregnancy: a randomised, double-blind, placebo-controlled trial Lancet. 2020 Sep 12;396(10253):779-785. doi: 10.1016/S0140-6736(20)31868-7. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】サイトメガロウイルスはよく見られる先天性感染であり、妊娠早期の初回感染の後の死亡率が高い。胎児への垂直感染を予防するのに有効な手段はない。著者らは、妊娠早期にサイトメガロウイルスに感染した妊婦から胎児への垂直感染がバラシクロビルで予防できるかを調査することを試みた。 【方法】この前向き二重盲検プラセボ対照無作為化試験は、Infectious Feto-Maternal Clinic of Rabin Medical Center(イスラエル・ペタフ ティクヴァ)で実施された。妊娠初期または第1三半期中のサイトメガロウイルス初回感染が血清学的検査で確定した18歳以上の妊婦を経口バラシクロビル(1日8g、1日2回)またはプラセボに無作為に割り付け、登録時から21週または22週時に羊水穿刺検査実施まで投与した。妊娠初期と第1三半期中に感染した被験者を別々に無作為化し、4つのブロックで無作為化した。試験期間中、被験者と研究者に治療の割り付けを伏せた。主要評価項目は、サイトメガロウイルスの垂直感染率とした。per-protocol原理にしたがって統計学的解析を実施した。この試験は、ClinicalTrials.govにNCT02351102番で登録されている。 【結果】2015年11月15日から2018年10月8日にかけて100例を無作為化し、バラシクロビルまたはプラセボを投与した。10例を除外し(各群5例ずつ)、最終解析にはバラシクロビル群45例(いずれも単胎妊娠)、プラセボ群45例(単胎妊娠43例、2例が双胎妊娠)を対象とした。バラシクロビル群は第1三半期中および妊娠初期の感染例を含み、羊水穿刺45件中5件(11%)がサイトメガロウイルス陽性、プラセボ群では羊水穿刺47件中14件(30%)が陽性であった(P=0.027、垂直感染のオッズ比0.29、95%CI 0.09-0.90)。第1三半期中のサイトメガロウイルス初回感染例で、バラシクロビル群(羊水穿刺19件中2件[11%])の方がプラセボ群(羊水穿刺23件中11件[48%])よりも羊水穿刺でのサイトメガロウイルス陽性が有意に少なかった(P=0.020)。臨床的に有意な有害事象は報告されなかった。 【解釈】バラシクロビルは、妊娠早期にサイトメガロウイルスに感染した妊婦のから胎児への垂直感染率を抑制するのに有効である。初回感染妊婦の早期治療によって、妊娠喪失や先天性サイトメガロウイルス感染乳児の出産を防ぐことができると思われる。 第一人者の医師による解説 妊娠初期のCMVスクリーニング検査と バラシクロビル投与の広まりに期待 田中 守 慶應義塾大学医学部産婦人科教授 MMJ. February 2021;17(1):28 先天性サイトメガロウイルス感染症は、世界で最も多い母児感染の原因の1つであり、器官形成期である妊娠初期に感染すると児に重篤な神経学的障害を残す疾患である。有効なワクチンもないため、初回感染妊婦のスクリーニング法と治療法の確立が求められてきた(1)。出生後の先天性サイトメガロウイルス感染症に使用されているアシクロビルやバラシクロビルは、米国食品医薬品局(FDA)分類でカテゴリーBに分類され、妊娠中の安全性が認められている。また、母体へ投与されたバラシクロビルは、胎盤を通過し、母体、胎児、羊水中に十分な治療濃度が確保されると報告されている(2)。 本論文は、妊娠初期に母体サイトメガロウイルス初回感染が確認された妊婦に対してバラシクロビルの有効性と安全性を検討した無作為化二重盲検プラセボ対照試験のイスラエルからの報告である。100人のサイトメガロウイルス初回感染妊婦に対して、1日8gのバラシクロビル群とプラセボ群の2群に分け、治療効果を判定する羊水 PCR検査まで最低6週間の薬剤服用を行った。最終的に45人のバラシクロビル群と45人のプラセボ群の結果が解析された。妊娠中期に実施された胎児感染を調べるための羊水 PCR検査において、バラシクロビル群では45検査中5例(11%)がサイトメガロウイルス陽性となり、プラセボ群の44検査中14例(30%)に比較して有意に低値となった。特に妊娠初期に判明した母体サイトメガロウイルス初回感染例に対しては、顕著な胎児垂直感染予防効果が認められた(羊水PCR検査陽性率:バラシクロビル群11%、対するプラセボ群48%)。一方、バラシクロビル群に明らかな有害事象は認められなかった。 日本では、イスラエルほど妊娠初期のサイトメガロウイルス初回感染スクリーニング検査が普及していない現状であり、いまだ多くの先天性サイトメガロウイルス感染症の子どもが生まれてきている。妊娠初期にスクリーニング検査を行い、陽性者にはバラシクロビルを投与することで垂直感染が予防できる可能性が示されたことは意義深い。今後、日本での妊婦に対するサイトメガロウイルス感染症スクリーニング検査とバラシクロビル投与による垂直感染予防策が広まっていくことが望まれる。 1. Tanimura K, et al. J Obstet Gynaecol Res. 2019 45(3):514-521. 2. Jacquemard, F, et al. BJOG 2007 114(9): 1113-1121.