「潜在性結核感染症」の記事一覧

ツベルクリン皮膚反応検査またはインターフェロンγ遊離試験結果が陽性を示した未治療集団の結核絶対リスク システマティック・レビューとメタ解析
ツベルクリン皮膚反応検査またはインターフェロンγ遊離試験結果が陽性を示した未治療集団の結核絶対リスク システマティック・レビューとメタ解析
Absolute risk of tuberculosis among untreated populations with a positive tuberculin skin test or interferon-gamma release assay result: systematic review and meta-analysis BMJ. 2020 Mar 10;368:m549. doi: 10.1136/bmj.m549. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【目的】結核リスクが上昇すると考えられる特徴がある未治療集団(リスクのある集団)で、ツベルクリン皮膚反応検査(TST)およびインターフェロンγ遊離試験(IGRA)、またはそのいずれかで陽性を示した後の結核年間発症率を明らかにすること。 【デザイン】システマティック・レビューとメタ解析。 【データ入手元】1990年1月1日から2019年5月17日までのEmbase、MedlineおよびCochrane Controlled Register of Trialsで、英語またはフランス後で出版されたヒト対象試験。参考文献一覧を参照した。 【選択基準とデータ解析】結核抗原検査陽性(TSTまたはIGRA)で12カ月以上追跡した未治療者10例以上を対象とした後ろ向きまたは前向きコホートおよび無作為化試験。システマティック・レビューおよびメタ解析のための優先的報告項目(PRISMA)および疫学研究に求められる観察試験のメタ解析(MOOSE)ガイドラインに従って、2名の査読者が独立して試験データを抽出し、改変版診断精度を検討した試験の質評価(QUADAS-2)ツールを用いて質を評価した。ランダム効果一般化線形混合モデルを用いてデータを統合した。 【主要評価項目】主要転帰は、リスク小集団別の検査(TSTまたはIGRA)陽性未治療集団の1000人年当たりの結核発症率とした。リスク小集団で検査陰性者と比較した不顕性結核検査陽性参加者の結核の累積発症率および発症率比を副次評価項目とした。 【結果】特定した試験5166件のうち122件を解析対象とした。一般住民を対象とした試験3件で、TSTの硬結径が10mm以上だった参加者3万3811例の結核発症率は、1000人年当たり0.3(95%CI 0.1-1.1)だった。19のリスク集団で不顕性結核感染検査が陽性だった11万6197例の発症率が一般集団よりも一貫して高かった。あらゆる種類の結核患者の接触者で、IGRA検査陽性例の結核発症率は1000人年当たり17.0(同12.9-22.4)、TST検査陽性例(硬結径5mm以上)で1000人年当たり8.4(同5.6-12.6)だった。HIV陽性者で、結核発症率はIGRA陽性例で16.9(同10.5-27.3)、TST陽性例(硬結径5mm以上)で27.1 (15.0-49.0)。このほか、移民、珪肺または透析患者、移植レシピエント、囚人の間で発症率が高かった。検査陰性例に対する検査陽性例の発症率比がいずれの検査でも、ほぼ全リスク集団で1.0以上有意に高かった。 【結論】結核発症率は、TSTまたはIGRA検査陽性後にリスクのある集団で大幅に高かった。このレビューで得られた情報は、不顕性結核感染の検査および治療に対する臨床的判断の伝達に有用となるものである。 第一人者の医師による解説 潜在性結核感染症の検査と治療の決定に必要な情報 加藤 誠也 公益財団法人結核予防会結核研究所所長 MMJ. October 2020; 16 (5):138 潜在性結核感染症(latent tuberculosis infection;LTBI)の治療の推進は、国内では低蔓延化さらに根絶を目指すため、また、国際的には世界保健機関(WHO)が進めている結核終息戦略(End TB Strategy)の目標達成のために重要である。日本結核病学会のLTBI治療指針の根拠となる論文の1つは本論文の著者 Menzies D.が関与したものであり、対象となる疾患・病態における発病リスク比が示されている(1)。本論文は,ツベルクリン反応(ツ反)またはインターフェロンγ遊離試験(interferon gamma release assay;IGRA)の結果が陽性で未治療のLTBIの発病率の絶対値を広範な系統的レビューとメタ解析によって算出したことに意義がある。さらに副次成果として感染検査で陽性者および陰性者の発病率および発病率の比を求めた。  例えば、一般の人でツ反の硬結10mm以上の陽性であった場合の1,000人年あたりの発病率は0.3であったのに対して、結核患者との接触者の発病率は、ツ反の硬結が5mm以上の場合を陽性とすると8.4、IGRA陽性では17.0と、一般の人よりもそれぞれ28倍、56倍と極めて高かった。接触者における感染検査結果による発病率の違いは、ツ反の硬結5mm以上を陽性とすると6.0倍、IGRAでは10.8倍であった。  WHOは資源が限られた国においてはHIV感染者にツ反を実施せずにLTBI治療を勧めているが、本研究の結果から感染検査の陽性者と陰性者の発病率の比は大きいので、検査は便益があることが示された。ただし、検査結果が陰性であっても一般の人よりは発病率が高いのでLTBI治療の意義はあるかもしれない。  接触者、HIV感染者、囚人、塵肺患者では発病率が極めて高かったのに対して、最近の移民・亡命者、透析が必要な人、臓器移植を受けた人、免疫抑制薬を投与されている人は、一般の人よりは高かったが、前述の群ほどではなかった。これらの情報は、臨床医が、それぞれの地域における対策の優先度、治療の可能性、受け入れ易さ、費用対効果を踏まえたうえで、LTBIの検査と治療を決定するのに有用な情報となる。なお、糖尿病、免疫抑制薬投与、低体重についてはさらにデータの蓄積が求められる。  今後、LTBI治療をさらに広く推進するために必要なのは、発病をより正確に予測可能なバイオマーカーである。WHOは専門家による合意文書を刊行し、その求められる性能として検査実施2年以内に活動性結核を発病する人を予測できることを想定している(2)。 1. Landry J et al. Int J Tuberc Lung Dis. 2008;12:1352-1364. 2. World Health Organization. (2017). Consensus meeting report: development of a target product prole (TPP) and a framework for evaluation for a test for predicting progression from tuberculosis infection to active disease.World Health Organization. https://bit.ly/2ZSeo2c. License: CC BY-NC-SA 3.0 IGO