ライブラリー エンドトキシン値が高い敗血症性ショック患者における標的化ポリミキシンB血液潅流の 28日死亡率に与える効果:EUPHRATES無作為化臨床試験
Effect of Targeted Polymyxin B Hemoperfusion on 28-Day Mortality in Patients With Septic Shock and Elevated Endotoxin Level: The EUPHRATES Randomized Clinical Trial
JAMA 2018 Oct 9;320(14):1455-1463.
上記論文のアブストラクト日本語訳
※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。
【重要】ポリミキシンBの血液灌流は敗血症の血中エンドトキシン濃度を低下させる.エンドトキシン活性は、迅速なアッセイで血中濃度を測定できる。敗血症性ショックでエンドトキシン活性が高い患者に対して、ポリミキシンBの血液灌流を行うことで臨床転帰が改善する可能性がある。
【目的】敗血症性ショックでエンドトキシン活性が高い患者において、従来の内科治療にポリミキシンB血液灌流を追加することで従来の治療単独と比較して生存率が改善するかどうかを検証することである。
【デザイン、設定および参加者】2010年9月~2016年6月に北米の55の三次病院で登録された敗血症性ショックでエンドトキシン活性測定値が0.60以上の成人重症患者450例を対象とした多施設共同無作為化臨床試験。最終フォローアップは2017年6月。
【介入】登録後24時間以内に完了した2回のポリミキシンB血液灌流治療(90~120分)+標準療法(n=224人)、または偽血液灌流+標準療法(n=226人)。
【主要評および測定法】主要評価項目は、無作為化された患者(全参加者)および多臓器不全スコア(MODS)が9以上の患者における28日後の死亡率とした。
【結果】適格登録患者450例(平均年齢59.8歳;女性177例[39.3%];平均APACHE IIスコア29.4[範囲,0~71,スコアが高ければ重症度が高い])のうち449例(99.8%)が試験に完走した。ポリミキシンBの血液灌流は,全参加者において28日後の死亡率に有意差を認めなかった(治療群223例中84例[37.7%] vs 偽薬群226例中78例[34.5%],リスク差[RD]3.2%,95% CI,-5.7%~12.7%).0.0%;相対リスク[RR],1.09;95%CI,0.85-1.39;P = 0.49) またはMODSが9以上の集団(治療群,146例中65例[44.5%] vs 偽薬,148例中65例[43.9%]; RD,0.6%;95% CI,-10.8% ~ 11.9%; RR,1.01;95% CI,0.78-1.31;P = 0.92 )においてであった。全体で264件の重篤な有害事象が報告された(治療群65.1% vs 偽薬群57.3%)。最も頻度の高い重篤な有害事象は、敗血症の悪化(治療群10.8% vs 偽薬群9.1%)および敗血症性ショックの悪化(治療群6.6% vs 偽薬群7.7%)でした。
【結論と関連性】敗血症性ショックおよび高エンドトキシン活性の患者では、ポリミキシンB血液浄化療法+通常の内科治療と偽治療+通常の内科治療を比較しても28日目の死亡率は低下しませんでした【試験登録】 ClinicalTrials. gov Identifier:NCT01046669.
第一人者の医師による解説
エンドトキシンのみ標的の治療に限界 CARS への対策必要
織田 成人 千葉大学大学院医学研究院救急集中治療医学教授
MMJ.February 2019;15(1):9
ポリミキシンB固定化ファイバーによる直接血液 潅流法(PMX-DHP)は、日本発の治療法であり、日 本では敗血症性ショック、特に消化管穿孔による敗 血症性ショックに対して広く用いられている。しか し、PMX-DHPの有効性に関する報告の多くは日本の観察研究によるものであり、明確なエビデンスに乏しかった。最近になり主に海外で無作為化対照 試験(RCT)が行われ、その効果が検証されてきた。 本論文は3報目のRCT結果である。
最初の RCT は 2009 年に報告された EUPHAS trial(1)である。イタリアの集中治療室(ICU)10施設が参加し、腹膜炎による重症敗血症/敗血症性ショックを対象にPMX群34人、対照群30人が登録された。その結果、28日死亡率が対照群の53%に比べPMX群で32%と有意に改善したことが報告された。しかし、最終的には統計学的な有意差はないことが判明した。
2つ目の RCT は、2015 年に報告された ABDOMIX study(2)である。フランスのICU 16施設 が参加し、腹膜炎による敗血症性ショックを対象に PMX群119人、対照群113人が登録された。その 結果、28日死亡率はPMX群で27.7%、対照群で 19.5%と有意差はなく、2次評価項目である臓器障害の改善でも有意差は認められなかった。
本論文で紹介しているEUPHRATES trialでは過 去最大の450人が登録された。これまでのRCTと異なり、腹膜炎のみでなく他の原因による敗血症性 ショックも対象としており、臓器障害スコアが9以 上の重症患者を対象とし、血中エンドトキシン活性 を米食品医薬品局(FDA)が認めたEAA法で測定し、 EAAが0.6以上の高値例のみを登録した。しかし PMXによる28日死亡率の改善は認められなかった。一方、本文中には記載されていないが、電子サプリメントではPMX群で有意な血圧上昇が認められており、循環動態改善に関しては一定の効果が認められている。
2016年に敗血症の国際定義が見直され、敗血症 は「感染に対する制御不十分な生体反応に起因する 臓器障害」と定義された(Sepsis-3)(3) 。従来、グラム 陰性菌の菌体成分であるエンドトキシンは敗血症の病態で重要な役割を演じていると考えられていたが、最近の研究によりエンドトキシン以外のさまざまな病原体関連分子パターン(PAMPs)や、体内で 産生されるダメージ関連分子パターン(DAMPs)が 自然免疫を活性化し、各種サイトカインの産生を介して臓器障害を発症することが明らかにされている(4) 。 これら3つのRCTの結果は、敗血症という複雑な病態に対して、数多あるPAMPsやDAMPsの中で エンドトキシンのみを標的にした治療の限界を示すものであり、以前行われた抗エンドトキシン抗体や、 エンドトキシン受容体アンタゴニスト(エリトラン) の試験が失敗したのも同じ理由と考えられる。
敗血症という複雑な病態を制御するには、自然免疫の活性化によって生じた高サイトカイン血症の制御や、同時に発生する代償性抗炎症反応症候群 (CARS)への対策が必要であり、これらの治療に関するエビデンスの確立が望まれる。
1. Cruz DN, et al. JAMA. 2009;301(23):2445-2452.
2. Payen DM, et al. Intensive Care Med. 2015;41(6):975-984.
3. Singer M, et al. JAMA. 2016;315(8):801-810.
4. Vincent JL, et al. Lancet. 2013;381(9868):774-775.