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ブドウ球菌菌血症患者に対するアルゴリズムに基づく治療と通常治療の臨床的成功および 重篤な有害事象に与える影響の比較:無作為化臨床試験
ブドウ球菌菌血症患者に対するアルゴリズムに基づく治療と通常治療の臨床的成功および 重篤な有害事象に与える影響の比較:無作為化臨床試験
Effect of Algorithm-Based Therapy vs Usual Care on Clinical Success and Serious Adverse Events in Patients with Staphylococcal Bacteremia: A Randomized Clinical Trial JAMA 2018 Sep 25;320(12):1249-1258. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【重要】ブドウ球菌性菌血症に対する適切な抗生物質の投与期間は不明である。 【目的】ブドウ球菌性菌血症の治療期間を定めたアルゴリズムと標準治療の比較により、重篤な有害事象を増加させずに非劣性の有効性が得られるかを検証する。 デザイン・設定・参加者】米国(n=15)とスペイン(n=1)の学術医療センター16施設で2011年4月から2017年3月までブドウ球菌性菌血症の成人に関わる無作為抽出試験を実施した。患者は、黄色ブドウ球菌の場合は治療終了後42日間、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌菌血症の場合は28日間フォローアップされた。対象は18歳以上で、1回以上の血液培養で黄色ブドウ球菌またはコアグラーゼ陰性ブドウ球菌が陽性となった患者である。無作為化時点で既知または疑いのある複雑な感染症を有する患者は除外した。 【介入】患者はアルゴリズムに基づく治療(n = 255)または通常の診療(n = 254)に無作為に割り付けられた。アルゴリズム群では、診断評価、抗生物質の選択、治療期間が事前に設定されたのに対し、通常診療群では、抗生物質、治療期間、その他の臨床的ケアの側面について、臨床医が自由に選択できた。 【主要評および測定法】主要アウトカムは、(1)盲検判定委員会が決定し15%以内のマージンで非劣性を検証した臨床成功、(2)意図的治療集団の重篤有害事象率、優位性を検証したもの。 【結果】無作為化された509例(平均年齢56.6歳[SD、16.8]、女性226例[44.4%])中、480例(94.3%)が試験を完了した。臨床的成功は、アルゴリズムに基づく治療に割り付けられた255人中209人と、通常の診療に割り付けられた254人中207人で記録された(82.0% vs 81.5%、差、0.5%[1サイド 97.5% CI, -6.2% ~ ∞]])。重篤な有害事象は、アルゴリズムに基づく治療では32.5%、通常の診療では28.3%で報告された(差、4.2%[95%CI、-3.8%~12.2%])。単純または合併症のない菌血症のプロトコールごとの患者において、平均治療期間はアルゴリズムベースの治療で4.4日、通常の診療で6.2日(差、-1.8日[95%CI、-3.1~-0.6])。 結論および関連性]ブドウ球菌菌血症患者では、検査および治療のガイドとしてアルゴリズムを使用すると通常のケアと比べて非劣性の臨床成功率となることが示された。重篤な有害事象の発生率に有意な差はなかったが、信頼区間が広いため解釈は限定的である。アルゴリズムの有用性を評価するために、さらなる研究が必要である。 【臨床試験登録】ClinicalTrials. gov Identifier:NCT01191840。 第一人者の医師による解説 臨床医の経験、勘、努力を補助する AI どのように応用していくか 舘田 一博 東邦大学医学部微生物・感染症学講座教授 MMJ.February 2019;15(1):7 近年、人工知能(artificial intelligence:AI)の応用 がさまざまな分野で検討されている。医療において も例外ではなく、特に画像診断スクリーニング、鑑 別診断の列挙、パニック状態の早期発見などへの応用が検討されている。本論文では、500例を超える実症例を対象にブドウ球菌菌血症患者へのアルゴリズム治療の有効性に関して検討している。黄色ブド ウ球菌による菌血症症例では、uncomplicatedと complicatedに分類し、それぞれ14(±2)日、28~ 42(±2)日での治療を実施し、通常治療群(主治医 の判断による症例ごとの対応)における治療成績と比較している。結果は前述されているように、 intention-to-treat(ITT)群における重篤な有害事象 (副反応)がアルゴリズム群で83/255(32.5%)、通常 治療群で72/254(28.3%)と有意な差は認められていない。死亡率はどうかというと、アルゴリズム群で 16/255(6.3%)、通常治療群で14/254(5.5%)であったと報告されている。これらの結果はブドウ球菌菌 血症、少なくとも黄色ブドウ球菌菌血症患者に対する治療アルゴリズム導入の“非劣性”が示された成績となっている。 本研究ではアルゴリズム導入において注意しなければいけないポイントも示されている。治療中に認められる臓器ごとの重篤な有害事象に関して、アルゴリズム群で腎・尿路系障害が12例(4.7%)、通常治療群では4例(1.6%)となっている。黄色ブドウ球菌の中でもメチシリン耐性黄色ブドウ球菌による菌血症は依然として頻度の高い耐性菌感染症であり、本症に対してはバンコマイシンあるいはダプトマイシンの治療が選択されることになっている。バンコマイシンが選択される場合には当然のことながら本剤の血中濃度測定が原則であり、患者の全身状態や合併症(特に腎機能障害など)に応じて投与量を調整する必要がでてくる。アルゴリズム治療においても、血中濃度測定による投与量の調整が求められるわけであるが、この結果の解釈とその後の対応は治療の成否を決める極めて重要な要因であることは よく知られている。この点に関連しているのかどうかは不明であるが、治療薬による有害事象の発現のための治療中止がアルゴリズム群で 4 例(1.6%)、 通常治療群で1例(0.4%)みられたと報告されている。もちろんこの差異にも有意差は認められていな い。 医療の分野におけるAIの導入は我々が目指さなければいけない方向性である。ただしAIに完全に 置き換わりにくいのも医学であろう。優秀な臨床医の経験と勘、さらには無駄とも思えるような努力が 1人の患者を救うことがあるというのも真実である。その助けとしてどのようにAIを導入していくのか、AIの応用の仕方に関する研究がさらに活発になってくるものと思われる。