「極早産児」の記事一覧

極早産児の死亡率および重度の脳障害と出生後の早期転院および三次病院外での出生との関連:傾向スコアマッチングを用いた観察的コホート研究。
極早産児の死亡率および重度の脳障害と出生後の早期転院および三次病院外での出生との関連:傾向スコアマッチングを用いた観察的コホート研究。
Association of early postnatal transfer and birth outside a tertiary hospital with mortality and severe brain injury in extremely preterm infants: observational cohort study with propensity score matching BMJ 2019 Oct 16;367:l5678. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【目的】産後の転院や非三次病院での出産が有害転帰と関連するかどうかを明らかにすること 【デザイン】傾向スコアマッチングによる観察コホート研究 【設定】イングランドの国民保健サービスの新生児医療;National Neonatal Research Databaseに保有される集団データ。 【参加者】2008年から2015年の間に妊娠週数28週未満で生まれた極早産児(n=17 577)を、出生病院と出生後48時間以内の転院に基づいて、上方転院(非三次病院から三次病院、n=2158)、非三次医療(非三次病院で出生、転院せず、n=2668)、対照(三次病院で出生、転院せず、n=10 866)グループに分類する。傾向スコアと事前に定義された背景変数で乳児をマッチングさせ、交絡因子の分布がほぼ同じサブグループを形成した。 【主要アウトカム評価項目】死亡、重度の脳損傷、および重度の脳損傷を伴わない生存率 【結果】2181人の乳児、各群(上方転院、非三次医療、および対照)から727人がよくマッチングされた。対照群と比較して,上方転院群の乳児は退院前の死亡のオッズに有意差はなかったが(オッズ比1.22,95%信頼区間0.92~1.61),重度の脳損傷のオッズが有意に高く(2.32, 1.78~3.06;Number needed to treat(NNT)8),重度の脳損傷がなく生存できるオッズは有意に低かかった(0.60, 0.47~0.76;NNT 9)。対照群と比較して,非三次医療群の乳児は死亡のオッズが有意に高かったが(1.34, 1.02~1.77; NNT 20),重度の脳損傷のオッズ(0.95, 0.70~1.30),重度の脳損傷なしの生存(0.82, 0.64~1.05) に有意差はなかった.上方転院群の乳児と比較して,非三次医療群の乳児は,退院前の死亡(1.10,0.84~1.44)に有意差はなかったが,重度の脳損傷のオッズ(0.41, 0.31~0.53,NNT 8)は有意に低く,重度の脳損傷を伴わない生存(1.37, 1.09~1.73, NNT 14)は有意に高いオッズであった.水平搬送群(n=305)と対照群(n=1525)の転帰に有意差は認められなかった。 【結論】極早産児において、三次病院以外での出産と48時間以内の搬送は、三次病院での出産と比較して、転帰不良と関連することが示された。周産期医療サービスでは、産後の転院よりも三次病院での極早産児の出産を促進する経路を推進することを推奨する。 第一人者の医師による解説 極早産児の予後改善 3次施設での出生が2次施設での出生より有利 海野 信也 北里大学医学部産科学教授 MMJ.June 2020;16(3) 英国の新生児医療を提供する施設は、妊娠28週未満で出生した児に対応可能な3次施設、28~32 週の児を担当する2次施設および32週以降の児を担当するspecial care unitに階層化されている。 一方、日本では周産期医療の基本コンセプトを「新生児搬送中心から母体搬送中心の体制への移行」の推進とし、高次産科医療と新生児医療を同一施設で 提供できる総合・地域周産期母子医療センターのネットワークを各地域に整備し、重症母体および新生児への医療提供を最適化することが中心になっている。英国のように明確な役割分担はなく、基本的に重症例は総合またはそれに準じた体制の施設で対応している。 本論文は、イングランドで2008~2015年に 出生した妊娠28週未満のすべての極早産児を対象とし、3次施設で出生しそのまま治療された群(3 次群)、2次施設で出生しそのまま治療された群(2 次群)、2次施設で出生し、その後48時間以内に3 次施設に搬送された群(新生児搬送群)の間で生命予後と神経学的予後を傾向スコアマッチング法で後ろ向きに比較した研究の報告である。その結果、極早産児において新生児搬送群の予後は3次群よりも不良であるため、母体搬送を推奨する、と結論している。この結論自体は日本の取り組みとも一致する。 しかし、結果の解釈にあたり若干の留保が必要である。まず、退院前死亡率は2次群の方が3次群より高いが、新生児搬送群と3次群に差はない。また重度脳障害の発生率は、新生児搬送群の方が3次群だけでなく2次群よりも高く、2次群と3次群に差はない。これらの結果は、2次施設で出生した極早産児において、その状態による臨床的対応の選択が行われている可能性を示唆している。2次施設で出生した児の状態がきわめて不良であれば搬 送は選択されず、その結果として2次群の死亡率が高くなるかもしれない。 一方、2次施設で出生直後の処置実施中に脳室内出血などの合併症が生じれば、2次施設での管理が困難となり3次施設に搬送されやすくなるであろう。新生児搬送群の予後が悪いのは搬送行為の結果というよりは原因であるのかもしれない。 しかし、2次施設出生群(2次群+新生児搬送群) に比べ、3次群の方が予後良好であると推察される こ と か ら(退院前死亡率:2次施設出生群25.3% 対 3次群21.0 %; 重度脳障害:2次施設出生群 20.5% 対 3次群14.0%;重度脳障害を伴わない 生存:2次施設出生群60.7% 対 3次群68.8%)、 本研究の結果は、3次施設で出生する方が2次施設 で出生するより極早産児の予後改善に有利だというエビデンスとなりうるものと考えられる。