ライブラリー 成人の体重および心血管危険因子減少に用いる14の人気名称付き食事法の主要栄養素の比率の比較 無作為化試験の系統的レビュートネットワークメタ解析
Comparison of dietary macronutrient patterns of 14 popular named dietary programmes for weight and cardiovascular risk factor reduction in adults: systematic review and network meta-analysis of randomised trials
BMJ. 2020 Apr 1;369:m696. doi: 10.1136/bmj.m696.
原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む
上記論文の日本語要約
【目的】主要栄養素の比率と人気のある名称付き食事法による過体重または肥満の成人の体重減少および心血管危険因子改善効果でみた相対的有効性を明らかにすること。
【デザイン】無作為化試験の系統的レビューとネットワークメタ解析
【データ入手元】開始から2018年9月までのMedline、Embase、CINAHL、AMEDおよびCENTRAL、適格とした試験の文献一覧および関連レビュー。
【試験選択】過体重(BMI 25-19)および肥満(BMI 30以上)の成人を組み入れ人気のある名称付き食事法または代替食を検討した無作為化試験。
【評価項目】追跡6カ月時、12カ月時のBMI、LDLコレステロール値、HDLコレステロール値、収縮期血圧、拡張期血圧およびCRPの変化量。
【レビュー方法】2人のレビュアーが別々に試験参加者、介入および転帰に関するデータを抽出し、GRADE(grading of recommendations, assessment, development, and evaluation)を用いてリスクバイアス、根拠の質を評価した。ベイジアンフレームワークを用いたランダム効果ネットワークメタ解析で、食事法の相対的有効性を推定した。
【結果】2万1942例を検討した適格試験121件を対象とし、全体で14の名称付き食事法と3通りの対照の食事法を報告していた。通常の食事法と比較すると、低炭水化物食と低脂肪食に6カ月時の体重減少(4.63 vs. 4.37kg、いずれの中等度の確実性)、収縮期血圧(5.14mmHg、中等度の確実性 vs. 5.05mmHg、低度の確実性および拡張期血圧(3.21 vs. 2.85mm Hg、いずれも低度の確実性)の減少に同等の効果があった。中等度の主要栄養素食でわずかな体重と血圧の減少が見られた。低炭水化物食は、低脂肪食および中等度の主要栄養素よりもLDLコレステロール値低下効果がわずかに低かった(それぞれ1.01mg/dL、低度の確実性 vs. 7.08 mg/dL、中等度の確実性 vs. 5.22mg/dL、中等度の確実性)が、HDLコレステロール値が上昇し(2.31mg/dL、低度の確実性)、低脂肪食(-1.88mg/dL、中等度の確実性)と中等度の主要栄養素食(-0.89 mg/dL、中等度の確実性)ではこの上昇が見られなかった。人気のある名称付き食事法の中で、通常の食事法と比べて6カ月時の体重減少と血圧低下に最も大きな効果があったのは、アトキンスダイエット(体重5.5kg、収縮期血圧5.1mmHg、拡張期血圧3.3mmHG)、DASH食(3.6kg、4.7mmHg、2.9mmHg)およびゾーンダイエット(4.1kg、3.5mmHg、2.3mmHg)であった(いずれも中等度の確実性)。6カ月時のHDLコレステロール値とCRP値が改善した食事法はなかった。全体で、主要栄養素の比率と人気のある名称付き食事法いずれも12カ月時に体重減少効果が低下し、いずれの介入による心血管危険因子改善にもたらす便益は、地中海食を除いて、実質的に消失した。
【結論】中等度の確実性から、ほとんどの主要栄養素ダイエットで、6カ月間にわたり、中等度の体重減少と心血管危険因子、特に血圧の大幅な改善が示された。12カ月時、体重減少と心血管危険因子改善の効果はほとんど消失した。
第一人者の医師による解説
6カ月程度の短期なら 各自の食事様式に合った食事療法を選択して問題ない
柳川 達生 練馬総合病院院長
MMJ. December 2020;16(6):179
過体重・肥満者の心血管疾患予防の観点からさまざまな食事療法プログラムの効果が検討されている。従来のメタアナリシスでは2つの食事療法を比較しており、多様なプログラム間の比較は行われていない。本論文では、系統的レビューとネットワークメタアナリシスの手法を用いて、14の食事療法の効果が比較・評価された。エビデンスの質はGrades of Recommendation, Assessment,Development, and Evaluation(GRADE)により評価された。14の名称付き食事療法が3大栄養素の比率で以下の3つに分類された:(1)炭水化物40%以下の低炭水化物(LC食:AtkinsやZoneなど)(2)脂質20%以下の低脂肪食(LF食:Ornishなど)(3)中等度の栄養素(Moderate macronutrients[MN]食:DASHや地中海食など)。パレオダイエット(paleolithic diet)(1)は報告(2試験)の栄養組成に基づきそれぞれMN食とLC食に分類された。
解析対象は121件のランダム化試験、患者は過体重(体格指数[BMI], 25~29未満)または肥満(BMI 30以上)の21,942人(平均年齢49歳、女性69%)、介入期間中央値26週であった。結果、通常の食事と比較し、LC食とLF食は6カ月では体重減少(4.63 対 4.37 kg)、収縮期血圧の低下(5.14 対 5.05 mmHg)で同等の効果を認めた。MN食の効果はLC食とLF食よりも効果は小さかったが、低比重リポ蛋白(LDL)の低下は大きかった。しかし、いずれも12カ月以降は効果が低減し、食事療法間の差はなくなった。名称付き食事療法のうち、Atkins(LC食)とCraig(MN食)が最も減量に効果があり、パレオダイエットが収縮期血圧、Atkinsが拡張期血圧、地中海食がLDL低下に有効であった。血圧と脂質で若干の差がみられた食事療法もあるが、12カ月以降は差が減少し無視できるほどになった。
今回の結果を解釈するにあたり、ネットワークメタアナリシスとはいえバイアスの問題など限界があることに留意が必要だ。長期の観察データが少ないことも有効性の証明ができなかった要因である。また多くの研究では食事遵守のデータがなく、食事療法不遵守は効果を減弱させる原因となりうる。
現時点では“各自の食事様式に合った食事療法を選択”という結論にして良いだろうか? 少なくとも6カ月といった短期では問題ない。ただ最終エンドポイントである心血管疾患発症の抑制は地中海食(2)以外ではほとんど検証されていない。減量に至り心血管危険因子が低減しても、疾患の発症が抑制される証明にはならない。今後の検討課題である。
1. Challa HJ, et al. In: StatPearls. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing;
2020.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK482457/
2. 柳川達生 . 月刊糖尿病 .2019; 11(5):6-11.