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慢性疾患がある高齢者のポリファーマシーを減らす電子意思決定支援ツールの使用 クラスター無作為化比較試験
慢性疾患がある高齢者のポリファーマシーを減らす電子意思決定支援ツールの使用 クラスター無作為化比較試験
Use of an electronic decision support tool to reduce polypharmacy in elderly people with chronic diseases: cluster randomised controlled trial BMJ . 2020 Jun 18;369:m1822. doi: 10.1136/bmj.m1822. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【目的】慢性疾患高齢者を対象とした包括的な薬剤処方見直しのための電子化意思決定支援ツールの効果を評価すること。 【デザイン】多施設共同実用的クラスター無作為化比較試験。 【設定】オーストリア、ドイツ、イタリアおよび英国の一般診療所359施設。 【参加者】一般診療医が組み入れた、定期的に8種類以上の薬剤を服用している75歳以上の高齢者3904例 【介入】一般診療医がふさわしくない可能性のある薬剤や根拠のない薬剤を減薬することを支援するべく新たに開発した、包括的な処方の見直しを組み込んだ電子意思決定支援ツール。医師を電子意思決定支援ツール使用群と通常通りの治療提供群に無作為に割り付けた。 【主要評価項目】主要評価項目は、24カ月以内の予期せぬ入院または死亡とした。主要副次評価項目は、薬剤数の減少とした。 【結果】2015年1月から10月の間に3904例を組み入れた。181施設、1953例を電子意思決定支援ツール(介入群)、178施設と1951例を通常通りの治療(対照群)に割り付けた。主要評価項目(24カ月以内の予期せぬ入院または死亡の複合)は、介入群の871例(44.6%)、対照群の944例(48.4%)に発生した。intention-to-treat解析で、複合転帰のオッズ比は0.88(95%CI 0.73-1.07、P=0.19、1953例中997例vs. 1951例中1055例)であった。手順に従って受診した参加者に絞った解析で、差から介入群の優位性が示された(オッズ比0.82、95%CI 0.68-0.981、1682例中774例vs. 1712例中873例、P=0.03)。24カ月までに、介入群の処方薬数の方が対照群よりも低下していた(調整前の平均変化量-0.42 vs. 0.06、調整後平均差-0.45、95%CI -0.63--0.26、P<0.001)。 【結論】intention-to-treat解析で、ポリファーマシーの高齢者で包括的に薬剤処方を見直す電子化した意思決定支援ツールが24カ月以内の予期せぬ入院または死亡の複合にもたらす決定的な効果は示されなかった。しかし、患者の転帰が悪化することなく、減薬に成功した。 第一人者の医師による解説 日本ではまずかかりつけ医による 一元管理の推進が必要 秋下 雅弘 東京大学大学院医学系研究科老年病学教授 MMJ. December 2020;16(6):176 「“ポリファーマシー”は、単に服用する薬剤数が多いのみならず、それに関連して薬物有害事象のリスク増加、服用過誤、服薬アドヒアランス低下等の問題につながる状態」と、厚生労働省による「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」(1)は定義している。また、患者の病態、生活、環境により適正処方も変化するとしており、一律な減薬(deprescribing)ではなく、総合的な視点から処方見直し(medication review)を行う必要性を強調している。  本研究は、まさにそのような目的で作成された電子処方支援ツールを用いて、欧州4カ国の診療所医師359人と、その75歳以上の患者(8種類以上の薬剤服用)およそ4,000人を対象に行われたクラスターランダム化比較試験である。1次アウトカムの予期せぬ入院または2年以内の死亡についてintention-to-treat解析では有意差がなかった。  ただし、プロトコールに従って診療所に通った患者を対象としたper-protocol解析では有意差があり、生存曲線で両群間の差が開きつつある時点で試験が終了していることから考えると、本ツールの有用性を示唆する結果と言える。何より、薬剤数は介入群で対照群に比べて有意に減少していたが、それが有害な転帰につながらなかったこと、つまり本ツールをプライマリケアの現場で用いても安全に処方見直しと減薬がなされたことに意義がある。  ポリファーマシーは、上述したように不適正な処方状態を指し、それ自体医療の質に関わる問題である。実際に、高齢者では薬剤に起因すると思われるふらつき・転倒や認知機能低下などの老年症候群(薬剤起因性老年症候群)をしばしば認める。また、残薬として無駄になる薬剤費だけで最低でも年間数百億円と日本では推計されており、薬物有害事象に要する医療費を加えると、医療経済的にも大問題である。  ポリファーマシー対策は、診療報酬でも次々と取り上げられるなど施策上の手は打たれているが、期待どおりの効果はみられない。医師・薬剤師間など職種間の連携不足や受療者側の処方に対する意識も課題だが、多病と複数診療科受診がポリファーマシーの主因であり、まずはかかりつけ医による一元管理を推進することが肝要だと考えられる。その上での処方支援ツールであり、電子ツールの活用である。本研究の成果を日本の医療に還元するには、まだいくつものハードルがあると言える。 1. 「高齢者の医薬品適正使用の指針(各論編[療養環境別])」(厚生労働省 2018 年 5 月発行) https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/kourei-tekisei_web.pdf