「TAVI」の記事一覧

高リスクまたは超高リスクの重症大動脈弁狭窄症に用いる自己拡張型intra-annular留置大動脈弁と市販の経カテーテル心臓弁の比較 無作為化非劣性試験
高リスクまたは超高リスクの重症大動脈弁狭窄症に用いる自己拡張型intra-annular留置大動脈弁と市販の経カテーテル心臓弁の比較 無作為化非劣性試験
Self-expanding intra-annular versus commercially available transcatheter heart valves in high and extreme risk patients with severe aortic stenosis (PORTICO IDE): a randomised, controlled, non-inferiority trial Lancet. 2020 Sep 5;396(10252):669-683. doi: 10.1016/S0140-6736(20)31358-1. Epub 2020 Jun 25. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】自己拡張型intra-annular留置経カテーテル大動脈弁置換システムPortico(Abbott Structural Heart社、米ミネソタ州セントポール)と市販大動脈弁のデザインの違いによる性能を比較する無作為化試験データが必要とされる。 【方法】この多施設共同前向き非劣性無作為化試験(Portico Re-sheathable Transcatheter Aortic Valve System US Investigational Device Exemption:PORTICO IDE)では、経カテーテル大動脈弁置換の経験が豊富な米国およびオーストラリアの医療機関52施設から、高リスクまたは超高リスクの重症症候性大動脈弁狭窄症患者を登録した。NYHA心機能分類II以上で、重症大動脈弁狭窄症の既往がない21歳以上の患者を適格とした。実施施設、手術のリスク、カテーテル挿入部位で層別化し、置換ブロック法を用いて、適格患者を第1世代Portico弁およびその送達システムと市販の弁システム(intra-annularバルーン拡張型弁Edwards-SAPIEN、SAPIEN XT、SAPIEN 3 valve[いずれも米Edwards LifeSciences社]、supra-annular自己拡張型弁CoreValve、Evolut-R、Evolut-PRO[いずれも米Medtronic社]のいずれか)に(1対1の割合で)無作為に割り付けた。施設の職員、植込み担当医師および被験者には治療の割り付けが分かるようにした。重要な検査データおよび臨床的イベントの評価者には治療の割り付けを伏せた。主要安全性評価項目は、30日時の全死因死亡、障害が残る脳卒中、輸血を要する生命を脅かす出血、透析を要する急性腎障害、重大な血管合併症の複合とした。主要評価項目は、1年時の全死因死亡または障害が残る脳卒中とした。処置後最長2年間、臨床転帰および弁の機能を評価した。Intention-to-treatで主要解析を実施し、カプラン・マイヤー法でイベント発生率を推算した。非劣性のマージンは、主要安全性評価項目で8.5%、有効性評価項目で8.0%に設定した。この試験はClinicalTrials.govにNCT02000115番で登録されており、現在も進行中である。 【結果】資金提供者による11カ月間の組み入れ停止期間があったため、2014年5月30日から2015年9月12日までの間および2015年8月21日から2017年10月10日までの間に、1034例を登録し、適格基準を満たした750例をPortico弁群(381例)と市販の弁群(369例)に割り付けた。平均年齢83(SD 7)歳、395例(52.7%)が女性であった。30日時の主要安全性評価項目をみると、Portico弁群のイベント発生率が市販の弁群よりも高かった(52例[13.8%] vs 35例[9.6%]、絶対差4.2、95%CI -0.4~8.8、信頼区間の上限[UCB]8.1%、非劣性のP=0.034、優越性のP=0.071)。1年時の主要有効性評価項目発生率は、両群同等であった(Portico弁群55例[14.8%] vs 市販の弁群48例[13.4%]、差1.5%、95%CI -3.6~6.5、UCB 5.7%、非劣性のP=0.0058、優越性のP=0.50)。2年時の死亡率(80例[22.3%]vs 70例[20.2%]、P=0.40)や障害の残る脳卒中発生率(10例[3.1%]vs 16例[5.0%]P=0.23)は両群同等であった。 【解釈】Portice弁の2年時の死亡率や障害の残る脳卒中発生率は市販されている弁とほぼ同じであったが、30日時の死亡など主要複合安全性評価項目の発生率が高かった。第1世代Portico弁およびその送達システムに市販されている他の弁を上回る優越性は認められなかった。 第一人者の医師による解説 医療機器の成績は機器性能と使用する医療者の技術に依存 learning curveの考慮が必要 戸田 宏一 大阪大学大学院医学系研究科心臓血管外科准教授(病院教授) MMJ. February 2021;17(1):21 高齢化に伴い高齢者の大動脈弁狭窄症に関する関心が高まっている。開心術を要さない経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI)は日本では2009年に導入され(1)、現在190以上の施設で年間8,000件以上実施されている。TAVIの成績は手術死亡率2%以下と優れているが、克服する問題もあり新しいデバイスに対する期待は高い。 本論文は、手術リスクの高い(STS-PROMスコア8%以上)重症大動脈弁狭窄症患者を対象に、弁植え込み部位での位置調整を容易にしたTAVI弁Portico(Abbott社)を市販のTAVI弁(SAPIENシリーズ[Edwards社]、CoreValveシリーズ[Medtronic社])と比較した多施設共同無作為化対照非劣性試験の報告である。その結果、安全性の主要評価項目である30日以内の全死亡・重症脳梗塞・輸血を要する出血・透析を要する急性腎障害・血管合併症の複合イベントの発生率は、Portico弁群の方が市販弁群よりも高かったが、非劣性の基準を満たした。30日以内全死亡率は、intention-to-treat解析ではPortico弁群の方が市販弁群よりも高いものの有意差はなかったが、per protocol解析では有意に高かった(4.3% 対 1.2%;P=0.01)。一方、有効性の主要評価項目である術後1年の全死亡・重症脳梗塞に関しては非劣性が示された。副次評価項目である術後1年の中等度以上の大動脈弁逆流はPortico弁群で有意に高く(7.8% 対 1.5%;P=0.0005)、術後30日以内のペースメーカー埋め込み率もPortico弁群で有意に高かった(27.7% 対 11.6%;P<0.001)。そのほか、術後2年までの生活の質(QOL)や心不全症状の改善について有意な群間差はなく、術後1年の6分間歩行距離でも差を認めなかった。 今回の試験においてPortico弁の優位性は示されなかったが、著者らは、①各施設のPortico弁使用数は5例と少なく経験が不十分であった可能性②研究期間の前半に比べ、後半の手術症例では、Portico弁群の術後死亡率、主要安全評価項目の改善がみられたと述べている。さらに、術後1年の中等度以上の大動脈弁逆流に関しても経験豊富な施設の多施設研究では改善がみられることから、医療技術のlearning curveの重要性を指摘している。一方、次世代Portico-FlexNav TAVI弁は今回の第1世代Portico弁よりも安全性の向上がみられ、次世代Portico弁の臨床試験が進められていると報告している。これら医療機器を用いた治療は医薬品と異なり、その成績は機器の性能と使用する医療者の技術に依存するため、機器の進歩を技術の進歩が追いかけ続けるmoving targetの状態となり、その評価を複雑にしていると思われる。 1. Maeda K, et al. Circ J. 2013;77(2):359-362.