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トラネキサム酸の高用量持続点滴投与は心臓手術における輸血率を低減
トラネキサム酸の高用量持続点滴投与は心臓手術における輸血率を低減
Effect of High- vs Low-Dose Tranexamic Acid Infusion on Need for Red Blood Cell Transfusion and Adverse Events in Patients Undergoing Cardiac Surgery: The OPTIMAL Randomized Clinical Trial JAMA. 2022 Jul 26;328(4):336-347. doi: 10.1001/jama.2022.10725. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【重要】トラネキサム酸は、心臓手術における失血や輸血の軽減に推奨されています。しかし、高用量のトラネキサム酸が、心臓手術における血栓性合併症や発作のリスクを増加させることなく、低用量よりも優れた血液節約効果をもたらすかどうかは不明のままです。心肺バイパスを伴う心臓手術を受ける患者における低用量トラネキサム酸。この研究には、2018 年 12 月 26 日から 2021 年 4 月 21 日まで、中国の 4 つの病院で 3079 人の患者が登録されました。最終フォローアップは 2021 年 5 月 21 日でした。 kg プライム (n = 1525) または 10 mg/kg ボーラス、2 mg/kg/h 維持用量、および 1 mg/kg プライムを含む低用量レジメン (n = 1506)。[主な結果主要な有効性エンドポイントは、手術開始後の同種赤血球輸血率であり(優越性仮説)、主要な安全性エンドポイントは、術後30日間の死亡率、発作、腎機能障害の複合値でした(ステージ 2 または 3 の腎臓病: Improving Global Outcomes [KDIGO] 基準)、および血栓性イベント (心筋梗塞、虚血性脳卒中、深部静脈血栓症、および肺塞栓症) (マージン 5% の非劣性仮説)。主要な安全性エンドポイントの個々の構成要素を含む、15 の副次的エンドポイントがありました。 [結果] 治療群に無作為に割り付けられた 3079 人の患者 (平均年齢 52.8 歳、女性 38.1%) のうち、3031 人 (98.4%) が試験を完了しました。 .同種赤血球輸血は、高用量群の患者 1525 人中 333 人 (21.8%)、低用量群の患者 1506 人中 391 人 (26.0%) で発生した (リスク差 [RD]、-4.1% [片側97.55% CI、-∞ ~ -1.1%]; 相対リスク、0.84 [片側 97.55% CI、-∞ ~ 0.96; P = .004])。術後発作、血栓性イベント、腎機能障害、および死亡の複合は、高用量群の 265 人の患者 (17.6%) および低用量群の 249 人の患者 (16.8%) で発生した (RD、0.8%; 片側97.55% CI、-∞ ~ 3.9%; 非劣性の場合は P = .003)。事前に指定された 15 の二次エンドポイントのうち 14 は、高用量群の 15 人の患者 (1.0%) と低用量群の 6 人の患者 (0.4%) で発生した発作を含め、群間で有意差はありませんでした (RD、0.6 %; 95% CI, -0.0% to 1.2%; P = .05). [結論と関連性] 心肺バイパスを伴う心臓手術を受けた患者では、高用量は低用量のトラネキサム酸注入と比較して統計的に中程度の結果でした.同種赤血球輸血を受け、30 日死亡率、発作、腎機能障害、および血栓性イベントからなる複合主要安全性エンドポイントに関して非劣性の基準を満たした患者の割合が大幅に減少しました。[試験登録]臨床試験。政府識別子: NCT03782350。 第一人者の医師による解説 RCTによる低用量群との比較で 有害事象を増加させず輸血率低下効果を示した貴重な研究 島村 和男 大阪大学大学院医学系研究科外科学講座心臓血管外科学准教授 MMJ.February 2023;19(1):12 心臓手術に用いられる人工心肺(CPB)は線溶系を亢進させ,術中・術後の出血傾向を促進することが知られている。このため凝固障害を予防する目的で体外循環の施行中に線溶阻害薬が投与され、近年ではトラネキサム酸が主に使用されてきた。しかしながら、高用量のトラネキサム酸による有害事象として、てんかんと血栓塞栓症が報告されており、2017年に報告された多施設共同無作為化試験(1)では、冠動脈バイパス手術におけるトラネキサム酸1回投与の輸血量低減効果が示されたものの、てんかん発生率の上昇が認められた。一方、トラネキサム酸の持続点滴投与は1回投与に比べ安定した血中濃度が維持され、かつピーク濃度を低下させることから、理論的には有害事象を減少させ安定した止血効果が得られるとの報告(2)もあり、さまざまなトラネキサム酸投与プロトコールがこれまで使用されてきた。 本論文で報告されているOPTIMAL試験は、CPBを使用する心臓手術例に対するトラネキサム酸持続点滴投与の有効性を検証する二重盲検無作為化試験であり、2018年12月~ 21年4月に中国4施設で実施された。対象患者は、高用量群(ボーラ ス 静注30mg/kg+術中維持量16mg/kg/時、CPB充填2mg/kg)または低用量群(ボーラス静注10mg/kg+術中維持量2mg/kg/時、CPB充填1mg/kg)に、1対1の比で割り付けられた。3,079人(平均年齢52.8歳、女性38.1%)が無作為化の対象となり、このうち3,031人(98.4%)が試験を完了し、高用量群に1,525人、低用量群に1,506人が割り付けられた。結果では、少なくとも1回の同種赤血球輸血を受けた患者の割合は、高用量群は21.8%と低用量群の26.0%に比べ有意に低かった(群間リスク差[RD], -4.1%、リスク比 , 0.84;P=0.004)。また、安全性の主要複合エンドポイント発現率は、高用量群17.6%、低用量群16.8%と、高用量群の低用量群に対する非劣性が確認された(群間 RD, 0.8%;非劣性検定 P=0.003)。てんかん発作は、高用量群15例(1.0%)、低用量群6例(0.4%)に発現したが、両群間に有意差はなかった(群間 RD, 0.6%;P=0.05)。 本論文ではトラネキサム酸持続投与の有効性が高いエビデンスレベルにて示されており、心臓血管外科手術の安全性向上に寄与する投与プロトコールが提示された点で貴重なものと考えられる。 1. Myles PS, et al. N Engl J Med. 2017;376(2):136-148. 2. Dowd NP, et al. Anesthesiology. 2002;97(2):390-399.
小児心臓手術時の人工心肺中のNO添加 術後人工呼吸期間への効果なし
小児心臓手術時の人工心肺中のNO添加 術後人工呼吸期間への効果なし
Effect of Nitric Oxide via Cardiopulmonary Bypass on Ventilator-Free Days in Young Children Undergoing Congenital Heart Disease Surgery: The NITRIC Randomized Clinical Trial JAMA. 2022 Jul 5;328(1):38-47. doi: 10.1001/jama.2022.9376. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 [重要] 心臓手術を受ける小児では、心肺バイパス人工肺のガス流に一酸化窒素を投与すると、術後の低心拍出量症候群が軽減され、回復の改善と呼吸補助の持続時間の短縮につながる可能性があります。心肺バイパス人工肺に一酸化窒素を投与することで、人工呼吸器を使用しない日 (人工呼吸器を使用しない生存日数) が改善されるかどうかは不明のままです。 [設計、設定、および参加者]オーストラリア、ニュージーランド、およびオランダの6つの小児心臓外科センターでの二重盲検、多施設、無作為化臨床試験。 2017 年 7 月から 2021 年 4 月の間に、先天性心臓手術を受けている 2 歳未満の合計 1,371 人の子供が無作為に割り付けられ、最後の参加者の 28 日間の追跡調査が 2021 年 5 月 24 日に完了しました。 [介入] 患者は一酸化窒素を受けるように割り当てられました。心肺バイパス人工肺 (n = 679) または一酸化窒素なしの標準ケア心肺バイパス (n = 685) に送達された 20 ppm で。 28日目まで。低心拍出量症候群、体外生命維持、または死亡の複合を含む4つの二次エンドポイントがありました。集中治療室での滞在期間;入院期間; [結果] 無作為に割り付けられた 1371 人の患者 (平均 [SD] 年齢、21.2 [23.5] 週、女児 587 人 [42.8%]) のうち、1364 人 (99.5%) が試験を完了した。人工呼吸器を使用しない日数は、一酸化窒素群と標準治療群の間で有意差はなく、絶対差の中央値はそれぞれ 26.6 日 (IQR、24.4 ~ 27.4) 対 26.4 日 (IQR、24.0 ~ 27.2) でした。 -0.01 日 (95% CI、-0.25 ~ 0.22; P = .92)。一酸化窒素グループの合計 22.5% と標準治療グループの 20.9% が、48 時間以内に低心拍出量症候群を発症し、48 時間以内に体外サポートが必要になるか、28 日目までに死亡しました。調整後のオッズ比は 1.12 (95% CI、0.85 ~ 1.47)。その他の副次的転帰は、群間で有意差はなかった. [結論と関連性] 先天性心疾患のために心肺バイパス手術を受けている2歳未満の小児では、心肺バイパスによる一酸化窒素の使用は、人工呼吸器を使用しない日数に有意な影響を与えなかった. .これらの調査結果は、心臓手術中に心肺バイパス人工肺に送達された一酸化窒素の使用を支持していません。 第一人者の医師による解説 急性腎不全や血小板機能へのNO添加効果 進行中の研究結果に期待 清水 達彦 岡山大学病院周術期管理センター助教/岩﨑 達雄 岡山大学病院小児麻酔科教授 MMJ.February 2023;19(1):14 一酸化窒素(NO)はアポトーシスの制御を介した急性炎症の制御において複雑な役割を担っており、小児心臓手術時の人工心肺(CPB)中のNO添加は、低心拍出量症候群を減少させることが単施設ランダム化対照試験(1)で示されており、Follow四徴症において術後トロポニン値の低下、人工呼吸期間と集中治療室(ICU)滞在日数の短縮をもたらすことがパイロット研究(2)で報告されている。そこで本論文の大規模多施設共同ランダム化対照試験(NITRIC試験)では、オーストラリア、ニュージーランド、オランダ で登録した2歳未満の先天性心疾患患者1,317人を対象に術後人工呼吸期間への影響が検討された。 患者はCPB酸素供給装置 に20ppmのNOを添加するNO群とNOを添加しない標準的 CPB(対照)群に割り付けられた。その結果、主要評価項目であるCPB開始後28日目までの人工呼吸離脱日数の中央値は、NO群26.6日(四分位範囲[IQR], 24.4~ 27.4)、対照群26.4日(IQR, 24.0~27.2)で、有意差はなかった(P=0.92)。また、副次評価項目であるCPB開始後48時間以内の低心拍出量症候群・体外式心肺補助、28日以内の死亡を合わせた複合アウトカムの発生率はNO群22.5%、対照群20.9%、補正オッズ比は1.12(95%信頼区間 , 0.85 ~ 1.47)となり、ICU滞在期間、入院期間、術後トロポニン値についても群間で有意差はなかった。 CPB酸素供給装置 へ のNO添加は、NO吸入投与と異なり、肺自体にはほぼ到達しないと考えられるため、先行研究での人工呼吸期間への効果は心臓および他臓器の虚血再灌流障害軽減による間接的な影響と推測される。しかし、NITRIC試験ではその心保護作用も認められず、Jamesらの報告1と異なる結果になっているが、著者らはその理由について特に述べていない。近年、“del Nido”という新しい心筋保護液が広まりつつあるが、本論文およびJamesらの報告1には心筋保護に関する記載がなく、心筋の虚血再灌流障害に影響した可能性は気になるところである。 今回の結果からは、2歳未満児の先天性心疾患手術において、低心拍出量症候群の軽減と人工呼吸期間の短縮を目的としたCPB酸素供給装置へのNO添加は推奨されないということになる。しかしながら、完全大血管転位症に限定した研究や、急性腎不全および血小板機能への効果を検討した研究は進行中であり、それらの結果が待たれるところである。 1. James C, et al. Intensive Care Med. 2016;42(11):1744-1752. 2. Checchia PA, et al. J Thorac Cardiovasc Surg. 2013;146(3):530-536.