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交感神経刺激薬ミドドリン 血管迷走神経性失神予防に有意な効果
交感神経刺激薬ミドドリン 血管迷走神経性失神予防に有意な効果
Midodrine for the Prevention of Vasovagal Syncope : A Randomized Clinical Trial Ann Intern Med. 2021 Oct;174(10):1349-1356. doi: 10.7326/M20-5415. Epub 2021 Aug 3. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】血管迷走神経性失神の再発はよくあることであり、治療への反応も悪く、身体的外傷やQOLの低下を引き起こす。ミドドリンは、血管迷走神経性失神患者におけるティルトテスト時の低血圧および失神を予防する。 【目的】ミドドリンが通常の臨床条件下で血管迷走神経性失神を予防できるかどうかを判断する。 【デザイン】無作為化、二重盲検、プラセボ対照の臨床試験。(ClinicalTrials. gov: NCT01456481)。 【設定】カナダ、米国、メキシコ、英国の25の大学病院。【患者】血管迷走神経性失神を再発し、重篤な併存疾患がない患者。【介入】患者を1対1でプラセボまたはミドドリンにランダムに割り当て、12ヶ月間追跡調査した。 【測定】主要アウトカム指標は、追跡期間中に少なくとも1回の失神エピソードがあった患者の割合とした。 【結果】この試験には、前年度に中央値で6回の失神エピソードがあった133人の患者(年齢中央値32歳、女性73%)が参加した。プラセボ投与群に比べ、ミドドリン投与群では失神が1回以上発生した患者は少なかった(66例中28例[42%] vs 67例中41例[61%])。相対リスクは0.69(95%CI、0.49~0.97、P = 0.035)であった。絶対的なリスクの減少は19%ポイント(CI,2~36%ポイント)であり,1人の患者の失神を防ぐために必要な治療数は5.3(CI,2.8~47.6)であった。最初の失神までの時間はミドドリンで長かった(ハザード比,0.59[CI,0.37~0.96];P = 0.035;log-rank P = 0.031).副作用は両群で同様であった。【LIMITATION】試験規模が小さい、若年で健康な患者、観察期間が比較的短い、1施設の患者の割合が高い。 【結論】ミドドリンは健康で若年で失神の負荷が高い患者の失神の再発を抑制できる。 【主要資金源】The Canadian Institutes of Health Research(カナダ保健研究所)。 第一人者の医師による解説 ミドドリンは保険適応外 待たれる日本人での使用実績の蓄積 柴 信行 国際医療福祉大学医学部循環器内科学教授・国際医療福祉大学病院副院長 MMJ. April 2022;18(2):40 失神は日常診療で頻繁に遭遇する病態である。共通の病態生理は「脳全体の一過性低灌流」であり、最多の原因は血管迷走神経反射などによる神経調節性失神とされ、全体の35 ~ 65%を占める(1)。血管迷走神経性失神は、交感神経抑制による血管拡張と迷走神経緊張による徐脈がさまざまなバランスをもって生じる結果発生するとされ、自律神経調節の関与を背景として、長時間の立位、精神的・肉体的ストレス、環境要因などが誘因となる。併存疾患がなければ一般に生命予後良好だが、転倒による外傷や生活の質の低下などが問題となる。診断は、器質的疾患の除外・特徴的な症状・必要に応じてチルト試験によって行われる。多くの薬物療法が試みられてきたが(2)、クラス I適応となる治療薬はなく、病態に対する十分な理解を前提として、生活習慣の改善を行い、誘因を避け、関連する薬剤の中止を検討し、前駆症状があれば回避法を学ぶといった予防が重要である(1)。 交感神経刺激薬(α1刺激薬)であるミドドリンは末梢血管を収縮させ静脈還流減少を予防し、反射性血管拡張に拮抗して血圧低下を予防する作用があり、日本循環器学会のガイドラインではクラスIIaとして推薦されているが十分なエビデンスはなかった(1)。 本論文は、併存症のない血管迷走神経性失神以外は健常な患者133人を対象とした4カ国多施設共同無作為化試験(POST 4試験)の報告である。対象者はCalgary Syncope Symptom Score(3)が2点以上で、試験開始前1年間に6回(中央値)の失神を経験しており、年齢中央値は32歳であった。試験薬は日中に4時間あけて1日3回投与され、実薬群の最終投与量は中央値で1回7.5mgであった。実薬群において以下の有意な効果が認められた:(1)1回以上の失神を経験した患者の割合の低下(42% 対 61%)、(2)治療必要数(NNT)は5.3、(3)失神再発の相対リスクは0.69。この結果は年齢・性別・失神既往数・心拍数・地域による影響を受けなかったが、収縮期血圧120mmHg超の群では120mmHg以下の群に比べ失神再発の相対リスクが低かった(0.53対 0.92)。著者らは「考察」において、(1)対象者は失神既往の多い患者であるため、軽症者での臨床的意義は高くない可能性があること、(2)高血圧を併存する高齢者には使用が制限されることなどを述べている。 日本ではミドドリンの保険適応病名は本態性低血圧と起立性低血圧であり、通常1日4 mgを2回に分けて経口投与するが、重症の場合は1日8 mgまで増量できる。本剤を含めて、日本人の血管迷走神経性失神治療に関する薬物療法のエビデンスの蓄積が待たれる。 1. 循環器病の診断と治療に関するガイドライン;失神の診断・治療ガイドライン(2012 年改訂版) 2. Vyas A, et al. Int J Cardiol. 2013;167(5):1906-1911. 3. Sheldon R, et al. Eur Heart J. 2006;27(3):344-350.