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低温や高温による死亡 2019年には全世界で169万と推定
低温や高温による死亡 2019年には全世界で169万と推定
Estimating the cause-specific relative risks of non-optimal temperature on daily mortality: a two-part modelling approach applied to the Global Burden of Disease Study Lancet. 2021 Aug 21;398(10301):685-697. doi: 10.1016/S0140-6736(21)01700-1. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】気温の高低と死亡率や罹患率の増加との関連は以前から報告されているが、疾病負担の包括的な評価は行われていない。そこで、最適でない気温への曝露による世界的及び地域的な負担を推定することを目的とした。 【方法】本研究の第1部では、ERA5再解析データセットからの毎日の気温推定値と死亡を関連付けた。我々は、ベイズメタ回帰の枠組みの中で、二次元スプラインを用いて、日温と23の平均気温ゾーンに沿った176の個々の死因の原因特異的相対リスクをモデル化した。そして、日ごとの死亡データが入手可能な国について、気温に起因する原因別負担と総負担を計算した。第2部では、第1部の原因別相対リスクを世界の全地域に適用した。我々は、曝露反応曲線と日次グリッドの気温を組み合わせ、1990年から2019年までの世界疾病負担、傷害、リスク要因研究からの疾病負担に基づいて、原因別負担を算出した。リスク,気温への曝露,及び含まれる全ての原因における最小死亡率の温度として定義される理論的最小リスク曝露レベルを含むモデリングチェーンの全ての構成要素からの不確実性は,1000ドローの事後シミュレーションを用いて伝播させた。 【調査結果】1980年1月1日から2016年12月31日までに発生した,9か国からの国際疾病分類でコードされた個人死亡64~900万件を対象とした。17の死因が包含基準を満たした。虚血性心疾患,脳卒中,心筋症・心筋炎,高血圧性心疾患,糖尿病,慢性腎臓病,下気道感染症,慢性閉塞性肺疾患は日気温とJ型の関係を示したが,外因(例:殺人,自殺,溺死,災害・機械・輸送・その他の不慮の負傷に関連)のリスクは気温とともに単調に増加した。理論的な最小リスク暴露レベルは、死因の構成に基づく機能として、場所や年によって異なる。最適でない気温の推定値は,ブラジルの 10 万人当たりの死亡数 7-98 人(95%不確実性区間 7-10-8-85 ),人口起因率(PAF)1-2%(1-1-1-4)から中国の 10 万人当たりの死亡数 35-1 人(同 29-9-40-3 ),PAF4-7%(4-3-5-1 )までであった。2019年、データが入手できたすべての国で、寒さ起因の平均死亡率が暑さ起因の死亡率を上回った。寒さの影響は中国で最も顕著で、PAFは4-3%(3-9-4-7)、10万人当たりの帰属率は32-0人(27-2-36-8)、ニュージーランドでは3-4%(2-9-3-9)、26-4人(22-1-30-2)であった。熱の影響は中国で最も顕著で、PAFは0-4%(0-3-0-6)、10万人当たりの帰属率は3-25人(2-39-4-24)、ブラジルでは0-4%(0-3-0-5)、死亡数は2-71人(2-15-3-37)であった。我々の枠組みを世界のすべての国に適用すると、2019年には世界で1-6900万人(1-52-1-83)の死亡が最適でない気温に起因すると推定されました。熱に起因する負担が最も高いのは南・東南アジア、サハラ以南のアフリカ、北アフリカ・中東で、寒さに起因する負担が最も高いのは東・中央ヨーロッパ、中央アジアでした。 【解釈】急な暑さや寒さへの暴露は、多様な死因の死亡リスクを増加または減少させる可能性があります。ほとんどの地域では寒冷の影響が支配的であるが、実勢気温が高い場所では寒冷起因の負担をはるかに上回る実質的な暑熱の影響を示すことがある。特に、外的死因の負荷が高いことが暑さの影響を強くしているが、心肺疾患や代謝性疾患も大きく寄与している可能性がある。曝露と死因の構成の両方における変化が、時間の経過に伴うリスクの変化を促した。高温のリスクへの曝露が着実に増加していることは、健康への懸念が高まっている。 【FUNDING】ビル&メリンダ・ゲイツ財団。 第一人者の医師による解説 高温地域では高温による負荷も大きく 温暖化の影響にも今後注目 山口 聡子(特任准教授)/岡田 啓(特任助教) 東京大学大学院医学系研究科糖尿病・生活習慣病予防講座 MMJ. April 2022;18(2):54 気温と死亡についてはこれまでも関連性が報告されてきたが、特定の地域に関する報告が多く、また、詳細な死因別の報告は少なかった。本論文ではまず気候情報と死亡統計が得られた地域で予測モデルを作成し、全世界に適用して非至適気温による死亡者数の推計を行った。 モデル作成では、9カ国(ブラジル、チリ、中国、コロンビア、グアテマラ、メキシコ、ニュージーランド、南アフリカ、米国)における1980年〜2016年の死亡(6490万人)と気温の関係を解析した。全地域をERA5のデータセットから算出した、この期間の平均気温によって23温度帯に分類した。日平均気温を曝露要因、死亡の相対リスクを応答変数として、176の死因のうち気温と有意な関連性がみられた17の死因について、23温度帯とそのそれぞれの年平均気温を考慮し、ベイズモデルで結果を統合し、2次元スプラインモデルを作成した。循環器・呼吸器疾患(虚血性心疾患、脳卒中、下気道感染症、慢性閉塞性肺疾患[COPD]など)、代謝疾患(糖尿病、慢性腎臓病)などの非外因性の死因では、低温と高温で相対リスクが上昇するJ字型の曲線がみられたのに対し、外因性死因(他殺、自殺、溺水、損傷など)では、気温が上がるにつれてリスクが単調上昇する傾向がみられた。全9カ国で、低温による負荷は高温による負荷を上回っていた。高温と低温を合わせた非至適気温による影響は、ブラジルで最小、中国で最大で、10万人あたりの死亡数および人口寄与割合はそれぞれ7.98(95%不確実性区間 7.10〜8.85)と1.2%(1.1〜1.4)、35.1(29.9〜40.3)と4.7%(4.3〜5.1)だった。 次に、上記のように作成されたモデルを全世界の204の国・地域に適用した。この結果、2019年の非至適気温による死亡は169万人(152〜183万人)と推定された。高温による負荷は、南アジア、東南アジア、サハラ以南のアフリカ、北アフリカ、中東で特に大きく、低温による負荷は、東ヨーロッパ、中央ヨーロッパ、中央アジアで特に大きかった。以上から、多くの地域では低温による影響が優位であるが、高温の地域では、高温の影響が低温による負荷を上回ることがわかった。著者らは今後地球温暖化による影響も懸念されると考察した。 本研究では、現在限られた地域で入手可能な気候情報と死亡統計を元に予測モデルを作成し、データが入手できない地域も含めた全世界に適用することにより、低温と高温がもたらす死因別死亡を推定した。本研究では死亡当日の気温のみを見ており、死亡前の一定期間の気温を用いた先行研究(1),(2)に比べ気温による影響が過小評価されている可能性があることに留意する必要がある。 1. Gasparrini A, et al. Lancet. 2015;386(9991):369-375. 2. Guo Y, et al. Epidemiology. 2014;25(6):781-789.