「先天性疾患」の記事一覧

重症左横隔膜ヘルニアに対する胎児手術の無作為化試験
重症左横隔膜ヘルニアに対する胎児手術の無作為化試験
Randomized Trial of Fetal Surgery for Severe Left Diaphragmatic Hernia N Engl J Med. 2021 Jul 8;385(2):107-118. doi: 10.1056/NEJMoa2027030. Epub 2021 Jun 8. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】観察研究から、胎児鏡下気管閉塞術(FETO)により、孤発性先天性横隔膜ヘルニアのため重度の肺低形成を来した胎児の生存率が向上することが示されているが、無作為化試験によるデータがない。 【方法】FETOなどの出生前手術の経験がある施設で非盲検試験を実施し、左側の重症孤発性先天性横隔膜ヘルニアの単生児を妊娠した女性を無作為化により、妊娠27~29週にFETOを施行するグループと待期的治療を実施するグループに1対1の割合で割り付けた。両群ともに、出生後に標準的な治療を実施した。主要評価項目は、新生児集中治療室の生存退室とした。優越性に関する中間解析を5回実施することを事前に定め、群逐次デザインを用いた。最大症例数を116例とした。 【結果】3回目の中間解析ののち、有効性が認められたため試験は早期に中止された。80例を対象としたintention-to-treat解析で、FETO群の出生児の40%(40例中16例)および待期的治療群の出生児の15%(40例中6例)が新生児集中治療室退室まで生存した(相対リスク2.67、95%CI 1.22-6.11、両側のP=0.009)。生後6ヵ月までの生存率は、生存退室率とほぼ同じであった(相対リスク、2.67;95%CI、1.22~6.11)。早期前期破水の発生率は、FETO群の女性の方が待期的治療群の女性よりも高く(47% vs. 11%;相対リスク、4.51;95%CI、1.83~11.9)、早産の発生率も同様であった(75% vs. 29%;相対リスク、2.59;95%CI、1.59~4.52)。胎児鏡下バルーン抜去に伴う胎盤裂傷のため緊急分娩後に1例が死亡し、バルーン抜去失敗のため1例が死亡した。試験中止後にデータが得られた11例を追加した解析で、FETO群の生存退室率が36%、待機的治療群では14%であった(相対リスク、2.65;95%CI、1.21~6.09)。 【結論】左側の重症孤発性先天性横隔膜ヘルニア胎児で、在胎27~29週時点でのFETO施行により、待期的治療群より生存退室率の有意な便益が得られ、この便益は生後6ヵ月まで持続した。FETOにより早期前期破水と早産のリスクが上昇した。 第一人者の医師による解説 出生前治療の有効性を示唆する注目すべき前向き研究 黒田 達夫 慶應義塾大学医学部小児外科教授 MMJ. February 2022;18(1):18 先天性横隔膜ヘルニアは横隔膜に形成不全による欠損孔があり、そこを通して腹部臓器が胸腔内に脱出する疾患である。胎生期の肺は脱出臓器により圧排され、欠損側のみならず対側の肺までもが低形成となり、生後に重篤な呼吸障害を呈する。死亡率は日本小児外科学会の2020年の集計でも4.7%に上り、特に重症例では世界的にも3割近い。この疾患は胎生期からの病態により肺低形成を来すため、古くから出生前治療の適応と考えられてきた。歴史的には1990年にHarrisonらが母体を開腹して妊娠子宮を開き、胎児手術を行った成功例を報告しているが、侵襲が大きい治療で成績は悪かった。その後、ボストンのグループが、胎生期の気道に閉塞機転のある場合に胎児肺発育が助長される現象を発見し、以後、本疾患に対する出生前治療として気管の閉塞が試みられてきた。 本論文で述べられているfetoscopic endoluminal tracheal occlusion(FETO)はその最終到達点といえる手技で、母体の経腹的に挿入された胎児鏡を胎児気管まで進め、胎児気管内でバルーンを膨らませてこれを分娩直前まで気管内に留置することにより胎児の肺発育を促進しようとするものである。この手技の有用性について今世紀はじめに欧米でそれぞれ臨床試験が行われた。先天性横隔膜ヘルニアの危険因子に健側肺容積を頭囲で除して標準化したlung-to-head ratio (LHR)があるが、米国ではLHR 1.4未満の重症例を対象に生後治療例とFETO施行例の生存率を比較した。その結果、生後治療例の生存率77%に対してFETO施行例の生存率は73%で出生前治療による有意の成績改善が得られず、以後、米国におけるFETO施行は限定的になっている。一方、その2年後に出された欧州の臨床試験の報告では、対象をLHR 0.9未満の超重症例にしたところ、生後治療例の生存率9%に対してFETO施行例では63.3%が生存したとしており、欧州ではその後も世界中に呼び掛けてFETOの臨床試験を継続していた。 本論文はその最新の成績として日本を含む世界12カ 国 のFETO施行群40例 と 通常治療群40例の成績を比較した報告で、FETO施行群の生存率が40%と先行報告よりも低いものの、通常治療群の生存率15%を大きく上まわったとする。これより従来の主張と変わらず、FETOは超重症例に対しては生後治療よりも有意に有効であると結論している。一方で米国の研究者の間では、医療レベルや臨床試験体制の異なる多くの国が参加している臨床試験でのデータの質の担保や、適応基準などを疑問視する向きもある。ともあれ出生前治療の有効性を示唆する前向き研究の報告として、注目すべきものと思われる。
先天性胆汁酸代謝異常症~知っておきたい希少疾患
先天性胆汁酸代謝異常症~知っておきたい希少疾患
 先天性胆汁酸代謝異常症は、肝臓において胆汁酸の生合成を担う酵素群のいずれかの遺伝子が欠損している先天性疾患である。毒性のある中間代謝物(異常胆汁酸または胆汁アルコール)が肝細胞内に蓄積する進行性の疾患であり、適切な治療を行わなければ重度の肝疾患により生命を脅かす可能性がある。今回は、先天性胆汁酸代謝異常症およびその治療薬であるオファコル Ⓡ[一般名:コール酸]についての取材内容を紹介する。 肝障害を呈する「先天性胆汁酸代謝異常症」  先天性胆汁酸代謝異常症は、胆汁酸生合成の過程に関与するいずれかの酵素が遺伝的に欠損することにより、毒性のある中間代謝物(異常胆汁酸または胆汁アルコール)が肝細胞内に蓄積し、肝機能障害を生じる進行性の疾患であること、また生命活動において必要不可欠な胆汁酸を自ら生合成することができないことから、適切な治療を行わなければ死亡に至るケースも少なくない。先天性胆汁酸代謝異常症は12種類の疾患に分類されるが、本邦で報告されている症例は、HSD3B欠損症、AKR1D1欠損症、CYP7B1欠損症、脳腱黄色腫症(CTX)の4種類である1~5) 。早期に治療されれば予後は比較的良好であるが、発見が遅れれば肝移植の適応となり予後が悪いと言われている。 非常に稀な疾患も新生児~成人にかけて診断される可能性あり  先天性胆汁酸代謝異常症は、非常に稀な疾患であり、本邦における先天性胆汁酸代謝異常症患者数は、HSD3B欠損症、AKR1D1欠損症、CYP7B1欠損症の3疾患合わせて10人未満、CTXで60人程度の報告にとどまっており、欧米と比較し本邦では報告症例が少なく、これまで発見されていない症例もあると考えられる。拡大新生児スクリーニングの普及や今回の治療薬の承認を機に、今後の診断率の向上による早期発見が期待される。 原因不明の肝障害や黄疸、尿検体から異常胆汁酸を測定  以下のような所見がみられる場合には先天性胆汁酸代謝異常症を疑う。  ・原因不明の肝障害、肝疾患  ・家族性の肝疾患(特に兄弟例など)  ・新生児肝炎と診断された後、症状の改善が見られない  ・胆汁うっ滞があるにもかかわらず‘かゆみ’ がない  ・慢性下痢を伴う発育不全のある乳児(軟便のこともあり)  ・脂溶性ビタミン欠乏症状(頭蓋内出血、原因不明のくる病など)  ・若年性白内障、黄色腫  注目すべきは閉塞性黄疸が存在するにかかわらず血清総胆汁酸とγ-GTP が正常か低値という特徴がみられる点である。異常胆汁酸の測定には、液体クロマトグラフ質量分析法による胆汁酸分析が有用である。検体には、血清、尿、便、胆汁などが用いられるが、採取の容易さと排出量からも尿検体が最も適切であると考えられる。また、異常胆汁酸が検出された場合には、遺伝子解析を実施し、確定診断を行う。 先天性胆汁酸代謝異常症の標準治療薬「コール酸」、承認までの道のり  海外では、コール酸は先天性胆汁酸代謝異常症の治療薬としての使用実績があり、古くから臨床研究報告が発表され経験的に有効性及び安全性が確認されてきた歴史がある。このことから欧米では、コール酸が先天性胆汁酸代謝異常症の適応で承認されており、標準的治療法とされている6~9)。 一方、日本ではコール酸製剤は無く、ケノデオキシコール酸は胆石溶解薬としてのみ承認されていた。そのため、日本小児栄養消化器肝臓学会および日本先天代謝異常学会からの要望を受け、厚生労働省の「未承認薬・適応外薬検討会議」より開発企業の募集が行われ、株式会社レクメドは仏CTRS社(現:THERAVIA社)と共同で本剤の国内開発に着手し、2020年8月に先天性胆汁酸代謝異常症に対し希少疾患用医薬品指定を受け、2023年3月に本邦で初めて「先天性胆汁酸代謝異常症」を効能効果とするオファコル Ⓡカプセル50mg(製造販売元:株式会社レクメド)が承認された。 日本初の先天性胆汁酸代謝異常症治療薬オファコルⓇカプセルが登場  オファコル Ⓡは、コレステロールから胆汁酸への生合成ステップを促進する最初の酵素(Cholesterol-7 α-hydroxylase)に対して負のフィードバックをかけて毒性のある中間代謝物の生成を抑制する。また、欠乏するコール酸を補充することで、胆汁流量を増加させ、肝臓内に蓄積した毒性物質の排出を促進し、胆汁うっ滞を改善する。さらに、脂溶性ビタミンと脂肪の吸収を促進し、成長障害等を改善する。  承認にあたり、4名の日本人患者を対象にオファコル Ⓡを5~15mg/kg/日、74週間経口投与を行う国内第III相臨床試験を実施した。4名とも既にケノデオキシコール酸による治療を受けており、治験開始時にコール酸への切換えを行った。4名中1名でコール酸投与開始後に尿中および血清中の異常胆汁酸濃度の低下、肝機能検査値の改善、血清中ビタミンD濃度の上昇が認められた。他の3名では、ケノデオキシコール酸の治療により治験開始時に既に症状が安定しており、コール酸への切換え後も尿中および血清中の異常胆汁酸濃度は概ね安定して推移し、AST、ALTおよび血清中ビタミンD濃度も概ね基準値範囲で維持した。臨床試験における副作用は、一過性の低カルシウム血症が1名で認められた10) 。オファコルの安全性および有効性については、使用成績調査(全例調査)により引き続き情報収集が行われている。 (エクスメディオ 鷹野 敦夫) 参考資料 1) Ueki I, et al. J Gastroenterol Hepatol. 2009; 24: 776-85.▶https://hpcr.jp/app/article/abstract/pubmed/19175828/ 2) Mizuochi T, et al. Pediatr Res. 2010; 68: 258-63.▶https://hpcr.jp/app/article/abstract/pubmed/20531254/ 3) Nittono H, et al. Pediatr Int. 2010; 52: e192-5.▶https://hpcr.jp/app/article/abstract/pubmed/20958862/ 4) Seki Y, et al. J Inherit Metab Dis. 2013; 36: 565-73. ▶https://hpcr.jp/app/article/abstract/pubmed/23160874/ 5) Mizuochi T, et al. Liver Transpl. 2011; 17: 1059-65.▶https://hpcr.jp/app/article/abstract/pubmed/21567895/ 6) Setchell K, et al. Cambridge University Press. 2007; 736-66. 7) Gonzales E, et al. Gastroenterology. 2009; 137: 1310-1320.▶https://hpcr.jp/app/article/abstract/pubmed/19622360/ 8) Sundaram SS, et al. Nat Clin Pract Gastroenterol Hepatol. 2008; 5: 456-68. ▶https://hpcr.jp/app/article/abstract/pubmed/18577977/ 9) Gonzales E, et al. Orphanet J Rare Dis. 2018; 13: 190.▶https://hpcr.jp/app/article/abstract/pubmed/30373615/ 10) オファコルⓇカプセル50mg添付文書 ▶https://www.reqmed.co.jp/wordpress/wp-content/uploads/2023/06/オファコルカプセル50mg-添付文書_v2.pdf ヒポクラ × マイナビ無料会員登録はこちら▶https://www.marketing.hpcr.jp/hpcr