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微小粒子状物質への長期的曝露と脳卒中発症 China-PARプロジェクトの前向きコホート研究
微小粒子状物質への長期的曝露と脳卒中発症 China-PARプロジェクトの前向きコホート研究
Long term exposure to ambient fine particulate matter and incidence of stroke: prospective cohort study from the China-PAR project BMJ. 2019 Dec 30;367:l6720. doi: 10.1136/bmj.l6720. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【目的】中国人成人で、粒子径2.5 μm未満の微小粒子状物質(PM2.5)への長期的暴露が全体、虚血性および出血性脳卒中の発症率に及ぼす作用を調べること 【デザイン】住民対象前向きコホート研究。 【設定】中国の15省で遂行したPrediction for Atherosclerotic Cardiovascular Disease Risk in China(China-PAR)プロジェクト。 【参加者】China-PARプロジェクトで追跡開始時に脳卒中がなかった中国人男女11万7575例。 【主要評価項目】全体、虚血性および出血性脳卒中の発症。 【結果】参加者の居住地住所の2000~2015年の平均PM2.5濃度は64.9μg/m3(範囲31.2~ 97.0μg/m3)だった。90万214人年の追跡中、脳卒中3540件が発生し、そのうち63.0%が虚血性、27.5%が出血性だった。PM2.5曝露量の最低四分位群(54.5μg/m3未満)と比べると、最高四分位群(78.2μg/m3)は脳卒中(ハザード比1.53、95%CI 1.34~1.74)、虚血性脳卒中(同1.82、1.55~2.14)および出血性脳卒中(同1.50、1.16~1.93)発症のリスクが高かった。PM2.5濃度が10μg/m3高くなると、脳卒中、虚血性脳卒中および出血性脳卒中の発症リスクがそれぞれ13%(同1.13、1.09~1.17)、20%(1.20、1.15~1.25)、12%(1.12、1.05~1.20)上昇した。PM2.5への長期的曝露と脳卒中発症率(全体と種類別)の間にほとんど線形の曝露反応関係が認められた。 【結論】この試験は、濃度がいくぶん高いPM2.5への長期的暴露に脳卒中とその主要な種類の発症との正の関連を示した中国からの科学的根拠を提示するものである。この結果は、中国だけでなく、その他の低所得国および中所得国の大気汚染と脳卒中予防関連の環境および健康政策の立案に意義あるものである。 第一人者の医師による解説 中国より低濃度の日本でも 脳血管障害のリスクに関する知見が必要 道川 武紘(講師)/西脇 祐司(教授) 東邦大学医学部社会医学講座衛生学分野 MMJ. October 2020; 16 (5):146 以前は、微小粒子状物質、PM2.5(空気力学径が2.5μ m以下の粒子)、というと「午後2時半?」と聞き返されたと聞いているが、今では小学生でも聞いたことがある環境用語になっていて、その健康に与える影響が懸念されている。PM2.5の健康影響に関して米国環境保護庁は定期的に最新の科学的知見を整理した報告書を公表しており、最新2019年版では以前の2009年版と同様に「長期的(年単位)なPM2.5曝露と循環器疾患との関連性には因果関係がある」と発表した(1)。ただしこれは主に心血管疾患との関連性に関するもので、脳血管疾患については心血管疾患よりも疫学研究の知見は少なく、分類別(虚血性と出血性)の検討も十分とは言えない。  本研究は中国の4つのコホートからなるChinaPAR projectのデータを利用して、15省に住んでいた117,575人の男女(ベースライン時平均年齢50.9歳)について長期的なPM2.5曝露と脳血管疾患初回発症との関連性を、虚血性と出血性に分けて検討した。2000~15年にかけて、その間の引っ越しも考慮したうえでの各参加者自宅におけるPM2.5濃度の平均は64.9 μ g/m3(範囲 , 31.2~ 97.0 μ g/m3)であった。年齢、性別、地域、喫煙など交絡しうる因子を調整したうえで、PM2.5濃度が10 μ g/m3高くなると虚血性の脳血管障害発症は1.20(95%信頼区間[CI], 1.15 ~ 1.25)倍、出血性は1.12(1.05 ~ 1.20)倍増えるという関連性が観察された。今回の濃度範囲(31.2 ~97.0 μ g/m3)では、PM2.5濃度上昇に伴い直線的に脳血管障害のリスクが上昇していた。  2017年における東京区部年平均 PM2.5濃度は13.4 μ g/m3あったのに対して北京では58.5 μg/m3であった。これまでのところ日本のPM2.5濃度は中国よりも明らかに低いので、相対的に低濃度の日本でも同様の関連性が観察されるのか興味深い。最近、茨城県健康研究データを利用し、PM2.5とそれよりも径の大きい粒子を含む浮遊粒子状物質(SPM)への長期曝露と循環器疾患死亡との関連性を調べた結果が報告された(2)。この研究では、男性においてベースライン調査時点(1990年)のSPM濃度と虚血性脳血管障害リスクは正の関連性を示す傾向にあった(SPM 10 μ g/m3上昇に対して1.25[95% CI, 0.99~1.57]倍リスク上昇)。日本ではPM2.5の環境基準設定から10年経過しようやく観測データが蓄積されてきたので、わが国においても長期的なPM2.5曝露が脳血管障害の危険因子となりうるのか、知見が待たれる。 1. United States Environmental Protection Agency. Integrated Science Assessment (ISA) for Particulate Matter, 2019.(https://bit.ly/31BxuMI) 2. Takeuchi A, et al. J Atheroscler Thromb 2020 (in press).