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食事性コレステロールまたは卵の摂取と心血管疾患の発症および死亡率との関連性。
食事性コレステロールまたは卵の摂取と心血管疾患の発症および死亡率との関連性。
Associations of Dietary Cholesterol or Egg Consumption With Incident Cardiovascular Disease and Mortality JAMA 2019 Mar 19 ;321 (11):1081 -1095. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【重要】コレステロールはヒトの食事によく含まれる栄養素であり、卵は食事性コレステロールの主要な供給源である。食事性コレステロールまたは卵の摂取が心血管疾患(CVD)および死亡率と関連するかどうかは依然として議論の余地がある。 【目的】食事性コレステロールまたは卵の摂取とCVDおよび全死亡の発症との関連を明らかにする。 【 デザイン・設定・参加者】1985年3月25日から2016年8月31日までに収集したデータを用い、米国の前向きコホート6施設から個人参加データをプーリングした。自己申告の食事データは、標準化されたプロトコルを用いて調和させた。 【曝露】食事性コレステロール(mg/日)または卵消費量(個/日)。 【主要アウトカムと測定】人口動態、社会経済、行動要因を調整した、CVD発症(致死性および非致死性冠動脈心疾患、脳卒中、心臓不全、その他のCVD死の複合)および全死亡に関するフォローアップ全体にわたるハザード比(HR)と絶対リスク差(ARD)。 【結果】この解析には29 615名の参加者(ベースライン時の平均[SD]年齢,51.6[13.5]歳)が含まれ,うち13 299名(44.9%)が男性,9204名(31.1%)が黒人の参加者であった。追跡期間中央値17.5年(四分位範囲、13.0~21.7、最大31.3)、5400件のCVDイベント発生と6132件の全死因死亡があった。食事性コレステロールまたは卵の摂取とCVD発症および全死亡との関連は単調であった(非線形項のすべてのP値は0.19-0.83)。1日に消費される食事性コレステロールが300mg増えるごとに、CVD発症リスク(調整後HR、1.17[95%CI、1.09-1.26];調整後ARD、3.24%[95%CI、1.39%-5.08%])および全死亡率(調整後HR、1.18[95%CI、1.10-1.26];調整後ARD、4.43%[95%CI、2.51%-6.36%])は高くなると、有意の関連性を示した。1日あたりの卵消費量が半個増えるごとに、CVDの発症リスク(調整後HR、1.06[95%CI、1.03-1.10];調整後ARD、1.11%[95%CI、0.32%-1.89%])および全死亡(調整後HR、1.08[95%CI、1.04-1.11];調整後ARD、1.93%[95%CI、1.10%-2.76%])は高くなると有意に関連していた。卵の消費とCVD発症(調整後HR、0.99[95%CI、0.93-1.05];調整後ARD、-0.47%[95%CI、-1.83%~0.88%])および全死亡(調整後HR、1.03[95%CI、0.97~1.09];調整後ARD、0.71%[95%CI、-0.85%~2.28%])との関連については、いずれも有意差はなくなった。28%])は、食事性コレステロールの消費量を調整すると有意ではなくなった。 【結論と関連性】米国の成人において、食事性コレステロールまたは卵の消費量が多いことは、用量反応的にCVDおよび全死亡の発生リスクの高さと有意に関連することが示された。これらの結果は、食事ガイドラインの策定や更新の際に考慮されるべきものである。 第一人者の医師による解説 因果関係を結論できない観察研究 メンデルランダム化解析は未実施 香川 靖雄 女子栄養大学副学長・医化学教授 MMJ.August 2019;15(4) 従来は心血管疾患(CVD)予防の常識とされてきたコレステロールの摂取量上限値300mg/日を米国心臓病学会(ACC)が廃止し、「日本人の食事摂取基準2010年版」の上限値男性750mg/日、女 性600mg/日も同基準2015年版から廃止された。これは卵の摂取量が37.1g(コレステロール 156mg)と世界で最も多い日本で特に関心の深い課題である。 上限値廃止の理由の1つは日本人の大規模調査で卵の毎日摂取者に比べて週1個以下摂取者は有意に血清コレステロールが高く、冠動脈疾患のハザード比(HR)も有意ではないが28%も高かったからである(1)。しかし、高いコレステロー ル値を知った人が卵の摂取を控えたために起こった「因果の逆転」がありうる。また、食事性コレス テロール量よりも飽和脂肪から体内で合成されるコレステロール量の方がはるかに多く、卵1個には飽和脂肪が1.56mgと乳製品よりも少ない点も 上限量の廃止を支持した(2)。 しかし、今回紹介する研究では、コレステロール 摂取(300mg/日)と卵の摂取が有意にCVDと全死亡の増加と関連することを人口統計学的、社会経 済的、行動的要因で調整した解析で再確認した。参 加者29,615人(平均年齢51.6歳)の追跡期間(中央値17.5年)中に5,400件のCVDイベントおよび6,132件の全死亡が発生した。主要評価項目は CVDおよび全死亡のHRと絶対リスク差(ARD)である。 食事性コレステロール量または卵の消費量 の増加に伴い、CVDおよび全死亡は単調に増加した。コレステロール摂取(300mg/日)はCVD(HR, 1.17;95%CI, 1.09~1.26; ARD, 3.24%;1.39 ~5.08%)および全死亡(HR, 1.18;1.10~1.26; ARD, 4.43%;2.51~6.36%)のリスクと有意に関連していた。卵半個/日毎の摂取増加はCVD (HR, 1.06;95%CI, 1.03~1.10; ARD, 1.11%; 0.32~1.89%)および全死亡(HR, 1.08;1.04 ~1.11; ARD, 1.93%;1.10~2.76%)のリスク上昇と有意に関連していた。 CVDと全死亡のリスクの用量依存的な上昇に基づき、現在の食事ガイドラインの再考を求めている。 しかし、この結果は因果関係を結論できない観察研究による。また、因果関係を求めるためのコレステロールや卵の摂取量の無作為化対照試験はCVD や死亡の確認に長期を要するため実施困難である。 筆者は遺伝子検査を伴った観察研究で冠動脈疾患とLDLコレステロールの因果関係を確立したメンデルランダム化解析の結果(3)を信頼するが、コレステロールや卵の摂取量とCVDのメンデルランダム化解析はまだない。 1. Nakamura Y, et al. Br J Nutr. 2006;96(5):921-928. 2. Soliman GA. Nutrients. 2018;10(6). pii:E780. 3. Jansen H, et al. Eur Heart J. 2014;35(29):1917-1924.
大豆および発酵大豆食品摂取量と総死亡および死因別死亡の関連 前向きコホート研究
大豆および発酵大豆食品摂取量と総死亡および死因別死亡の関連 前向きコホート研究
Association of soy and fermented soy product intake with total and cause specific mortality: prospective cohort study BMJ. 2020 Jan 29;368:m34. doi: 10.1136/bmj.m34. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【目的】大豆製品数種類と総死亡および死因別死亡の関連を調べること。 【デザイン】住民対象コホート研究。 【設定】日本全国11カ所の保健所を対象としたJapan Public Health Centre-based Prospective(JPHC)前向き研究。 【参加者】45-74歳の参加者9万2915例(男性4万2750例、女性5万165例) 【曝露】5年間のアンケート調査による大豆製品、発酵大豆食品、非発酵大豆食品および豆腐の総摂取量。 【主要評価項目】住民登録および死亡診断書から取得した総死亡率および死因別死亡率(がん、心血管疾患、心疾患、脳血管疾患、呼吸器疾患および外傷)。 【結果】追跡期間14.8年間の間に1万3303件の死亡を特定した。多変量調整モデルでは、大豆製品の総摂取量に総死亡率との有意な関連はなかった。大豆食品総摂取量の最低五分位群に対する最高五分位群のハザード比は、男性で0.98(95%CI 0.91-1.06、傾向のP=0.43)、女性で0.98(同0.89-1.08、傾向のP=0.46)であった。発酵大豆食品の摂取量に、あらゆる死因による死亡率との逆相関が見られた。最低五分位群に対する最高五分位群のハザード比:男性で0.90、0.83-0.97、傾向のP=0.05、女性で0.89、0.80-0.98、傾向のP=0.01)。納豆には、男女ともに心血管疾患による死亡率との有意な逆相関が見られた。 【結論】この研究では、発酵大豆の摂取量が多いほど死亡リスクが低くなった。しかし、大豆食品の総摂取量にあらゆる死因による死亡率との有意な関連は見られなかった。発酵大豆食品の有意な関連が残存する交絡因子が補正されていないことで弱まることが考えられるため、この結果は慎重に解釈すべきである。 第一人者の医師による解説 和食に多い発酵性大豆製品の積極的摂取 健康増進維持に重要 小久保 喜弘1)、東山 綾1)、渡邉 至1)、河面恭子2) 国立循環器病研究センター予防健診部(1)医長、2)医師) MMJ. October 2020; 16 (5):148 1995年にAndersonらは、大豆蛋白投与群(平均47g/日)での脂質値%変化量が対照群と比べて、総コレステロールで-9%、LDLコレステロール(LDL-C)で-13%、HDLコレステロールで+2%、中性脂肪で-11%であった、と臨床研究38件のメタ解析結果をN Engl J Medに報告した。  Sacksらは、2006年 Circulationに大豆の脂質異常症改善効果をまとめた。大豆以外の蛋白質摂取と比較して、イソフラボン含有大豆蛋白投与群でLDL-C値の低下がランダム化試験22件中10件、イソフラボン非含有大豆蛋白投与群でLDL-C値の低下が8件中1件、またイソフラボン単独で19件中3件の試験でみられた。日本の追跡研究で、女性の食事性イソフラボン摂取量の下位20%群(平均値11 mg/日)を基準に、上位20%群(41mg/日)での脳梗塞、心筋梗塞発症リスクがともに0.4倍で(1)、その関連性は閉経後の女性のほうが強かった。大豆蛋白は、英米で健康表示の承認を受けている。日本でも「動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2017年版」に、大豆製品を多く摂取することが推奨されている。  最近の米国統合追跡研究によると(2)、イソフラボン摂取量下位20%群(平均値0.1 ~ 0.2mg /日)を基準に、上位20%群(3 ~ 4mg/日)での冠動脈疾患発症リスクが0.9倍であり、日本の平均摂取量(16 ~ 22mg /日)と比べ少量でも関連性がみられた。  今回の研究では、92,915人の男女(45 ~ 74歳)を約15年間追跡し、発酵性大豆製品摂取量が多い群(上位20%)では、少ない群(下位20%)に比べ全死亡リスクが男女とも0.9倍低く、さらに、納豆の摂取量が多いほど心血管死リスクが低かった。  大豆には蛋白質、食物繊維、イソフラボン、ミネラル、レシチンなどさまざまな成分が含まれている。中でも、イソフラボンは大豆中に配糖体として存在する。配糖体は腸内細菌で糖が切り離されてアグリコンになり腸管から吸収されるが、腸内細菌の働きに個人差がある。一方、発酵性大豆では糖が切り離されたアグリコンとして存在し、そのまま腸管から吸収される。発酵性大豆製品からのイソフラボンを多く摂った(10.4mg/日以上)正常血圧群で、正常高値血圧以上(130/85mmHg以上)の罹患リスクは0.8倍であると縦断的研究で報告されている(3)。  発酵性大豆製品はそのほかに、一部のがん、骨粗鬆症、認知症など多くの疾患で予防効果が示されている。日本でも古くから和食で発酵性大豆製品が使われているが、近年その摂取量の減少が懸念されている。塩分摂取に留意して上手に発酵性大豆製品を摂取し、健康増進に努めていただきたい。 1. Kokubo Y et al. Circulation 2007;116(22):2553-2562. 2. Ma L et al. Circulation 2020;141(14):1127-1137. 3. Nozue M et al. J Nutr 2017;147(9):1749-1756.