「腎疾患」の記事一覧

メトホルミン内服が早産期の妊娠高血圧腎症に有効な可能性
メトホルミン内服が早産期の妊娠高血圧腎症に有効な可能性
Use of metformin to prolong gestation in preterm pre-eclampsia: randomised, double blind, placebo controlled trial BMJ. 2021 Sep 22;374:n2103. doi: 10.1136/bmj.n2103. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【デザイン】無作為化、二重盲検、プラセボ対照試験 【設定】南アフリカ共和国、ケープタウンの紹介病院。 【参加者】妊娠26+0週から31+6週の妊娠早期の子癇の女性180人:90人がメトホルミン徐放型、90人がプラセボにランダムに割り付けられた。 【主要評価項目】主要アウトカムは妊娠期間の延長であった 【結果】180人中、1人が試験薬服用前に出産した。無作為化から出産までの期間の中央値は、メトホルミン群で17.7日(四分位範囲5.4-29.4日、n=89)、プラセボ群で10.1日(3.7-24.1、n=90)、中央値の違いは7.6日(幾何平均比1.39、95%信頼区間0.99-1.95、P=0.057)であった。試験薬を任意の用量で継続投与した群では、妊娠期間延長の中央値がメトホルミン群で17.5日(四分位範囲5.4~28.7、n=76)であるのに対し、プラセボ群では7.9日(3.0~22.2、n=74)と、9.6日(幾何平均値 1.67, 95%信頼区間 1.16~2.42 )差が生じました。また、全用量投与群における妊娠期間延長の中央値は、メトホルミン群16.3日(四分位範囲4.8-28.8、n=40)に対してプラセボ群4.8日(2.5-15.4、n=61)、その差11.5日(幾何平均値 1.85 信頼区間 1.14-2.88 )となりました。母体、胎児、新生児の複合アウトカムと可溶性fms様チロシンキナーゼ-1、胎盤成長因子、可溶性エンドグリンの循環血中濃度に差はなかった。メトホルミン群では、出生時体重は有意差なく増加し、新生児室での滞在期間は短縮した。メトホルミン群では下痢が多かったが、試験薬に関連する重篤な有害事象は認められなかった。 【結論】この試験は、さらなる試験が必要であるが、メトホルミン徐放製剤が早産性子癇前症の女性において妊娠期間を延長できることを示唆している。TRIAL REGISTRATION:Pan African Clinical Trial Registry PACTR201608001752102 https://pactr.samrc.ac.za/. 第一人者の医師による解説 血管内皮機能障害を引き起こす蛋白濃度に有意差なし 今後さらなる研究必要 後藤 美希 虎の門病院産婦人科 MMJ. April 2022;18(2):53 妊娠高血圧腎症(pre-eclampsia)とは、妊娠20週以降に初めて高血圧を発症し、かつ蛋白尿を伴う病態、または高血圧と妊娠高血圧症候群関連疾患(子癇やHELLP症候群など)の両方を伴う病態の総称である。日本では20人に1人の割合で発症する比較的よく遭遇する疾患であるが、根本的治療は妊娠の終結しかない(1)。実際の医療現場では母児の命を守るために妊娠の終結を選ぶことになるが、児の予後を考えると少しでも長く妊娠を継続したいというジレンマに遭遇する。特に妊娠32週未満では在胎日数を数日延長できるだけでも児の予後は変わってくる。 本論文は早産期の妊娠高血圧腎症に対してメトホルミンが妊娠期間の延長に寄与するか否かを調べる目的で南アフリカ共和国の病院で実施された、無作為化二重盲検プラセボ対照試験の報告である。妊娠26週から妊娠31週6日に妊娠高血圧腎症と診断された180人を、メトホルミン群とプラセボ群に1:1に割り付けて比較した。メトホルミン群では徐放性メトホルミン 3g/日を1日3回にわけて分娩まで服用を継続した。 メトホルミン 3g/日の服用を継続した群における服用開始から分娩(妊娠の終結)までの期間中央値は16.3日で、プラセボ群の4.8日に比べ延長していた(幾何平均比1.85;95%信頼区間[CI],1.14 ~ 2.88)。服用量を問わずメトホルミンを継続した群の場合、上記期間の中央値は17.5日で、プラセボ群の7.9日に比べ延長していた(幾何平均比1.67;95% CI, 1.16 ~ 2.42)。一方で、妊娠高血圧腎症の病因(2)と考えられている可溶性 fms様チロシンキナーゼ 1、胎盤成長因子(placental growth factor)、可溶性エンドグリンの値は両群間で有意差を認めなかった。児の出生時体重に関して両群間に有意差はなかったが、新生児集中治療室(NICU)入院期間はメトホルミン群で有意に短かった。有害事象はメトホルミン群で下痢が高頻度に発現したが(33% 対6%[プラセボ群])、治験薬に関連する重篤な有害事象は両群ともにみられなかった。著者らの結論としては、メトホルミンは早産期の妊娠高血圧腎症において、妊娠期間の延長に寄与する可能性があるとしている。 今回の報告は現時点では妊娠の終結しか主な治療法がない妊娠高血圧腎症に対して、治療の可能性があることを示唆している。一方で妊娠高血圧腎症に関連する、血管内皮機能障害を引き起こす蛋白の濃度は両群で有意差を認めておらず、今後さらなる研究が必要と思われる。 * HELLP=hemolysis, elevated liver enzymes, and low platelet count 1. 日本産科婦人科学会ウエブサイト:産科・婦人科の病気 / 妊娠高血圧症候群  (https://www.jsog.or.jp/modules/diseases/index.php?content_id=6) 2. Levine RJ, et al. N Engl J Med. 2004;350(7):672-683.
世界の国や地域における末期腎臓病のケアの状況:国際断面調査。
世界の国や地域における末期腎臓病のケアの状況:国際断面調査。
Status of care for end stage kidney disease in countries and regions worldwide: international cross sectional survey BMJ 2019 ;367:l5873 . 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【目的】腎代替療法(透析と移植)と保存的腎臓管理を提供するための世界的な能力(利用可能性、アクセス性、品質、価格)を明らかにする。 デザイン]国際横断的調査。 【設定】国際腎臓学会(ISN)が2018年7月から9月に182か国を調査した。 【参加者】ISNの国・地域のリーダーが特定した主要なステークホルダー。 [MAIN OUTCOME MEASURES]腎代替療法と保存的腎臓管理のコアコンポーネントを提供する国の能力のマーカー。 結果]182カ国中160(87.9%)から回答があり、世界の人口の97.8%(7億5,010万人のうち7億3,850万人)が含まれていた。腎代替療法と保存的腎臓管理に関する能力と構造、すなわち、資金調達メカニズム、医療従事者、サービス提供、利用可能な技術に大きなばらつきがあることが判明した。治療中の末期腎臓病の有病率に関する情報は、世界218カ国のうち91カ国(42%)で入手可能でした。推定値は人口100万人あたり4〜3392人と800倍以上のばらつきがあった。ルワンダは低所得国で唯一、治療中の疾患の有病率に関するデータを報告していた。アフリカの53カ国中5カ国(10%未満)がこれらのデータを報告していた。159カ国のうち、102カ国(64%)が腎代替療法に公的資金を提供していた。159カ国のうち68カ国(43%)が医療提供の時点で料金を徴収せず、34カ国(21%)が何らかの料金を徴収していた。血液透析は156カ国中156カ国(100%)、腹膜透析は156カ国中119カ国(76%)、腎臓移植は155カ国中114カ国(74%)で実施可能と報告されている。透析と腎移植は、これらのサービスを提供している154カ国のうち、それぞれ108(70%)と45(29%)のみで、50%以上の患者が利用可能でした。保存的腎臓管理は154カ国中124カ国(81%)で利用可能であった。世界の腎臓専門医数の中央値は人口100万人あたり9.96人であり、所得水準によって差があった。 【結論】これらの包括的データは、末期腎臓病患者に最適なケアを提供する各国の能力(低所得国を含む)を示すものである。このような疾患の負担、腎代替療法や保存的腎臓管理の能力にはかなりのばらつきがあることを示しており、政策に影響を与えるものである。 第一人者の医師による解説 持続可能な発展のため 腎臓病診療の国家間格差の是正を 岡田 啓(糖尿病・生活習慣病予防講座特任助教)/南学 正臣(腎臓内科学・内分泌病態学教授) 東京大学大学院医学系研究科 MMJ.April 2020;16(2) 本研究は、国際腎臓学会(ISN)が主導する世界腎 疾患治療地図(Global Kidney Health Atlas)調査の第2弾である。第1弾は、地域間・地域内での腎臓病診療における格差が記述されていたが、診療実態の詳細やアクセス・供給能力、また腎疾患でも末期腎不全医療について記述されていないことが限界であった(1)。そこで、第2弾となる本研究では、第1弾を拡張して、末期腎不全医療に対する詳細な供給能力・アクセス・質と世界的な腎疾患がもたらす「負荷」を記述し、低中所得国での政策立案に有用なものとなっている。 研究 デザインとしては、2018年7~9月 に 182カ国を対象にISNが行った調査をもとにした 国際共同横断的研究で、対象者はISN加入の地域代表者が選んだ関係者(stakeholder)、アウトカムは 対象国の腎代替療法と保存期腎疾患治療を実行できる能力とされた。調査の結果は、腎代替療法と保存期腎疾患治療の供給能力と制度に大きな差異が 存在することが明らかになった。 具体的には、末期腎不全の治療実施割合は、100万人当たり4人から3,392人と800倍以上の差異を認めた。159 カ国中、64%が 腎代替療法に 公的資金を投入し、 43%は同治療を無償で、21%は有償で提供していた。血液透析は100%、腹膜透析は76%、腎移植は74%の国で実施されていた。半数以上の患者への供給能力を持つ国は、透析で70%、腎移植では29%のみであった。保存期腎疾患治療を利用できる国は81%であった。腎臓専門医は100万人当たり9.96人(中央値)で、この割合は所得水準と 関連していた。 本研究は、末期腎不全患者治療への供給能力が国家間で大きく異なることを明らかにした。強みとしては人口カバー率が98%にも上ること、弱みとしては低所得国の情報が不足していることである。実際は本報告よりさらに腎疾患による負荷がかかっている状況だと推察される。世界的に近年話題になっている「持続可能な発展」を成し遂げるためにも、腎代替療法は低所得国でも、腎疾患による機会損失を生まないために提供されるべきである。 日本の現状は、腎臓専門医へのアクセスは地域によって異なり、一部では腎臓専門医の不足が示唆されている(2)。地域における腎臓専門医の数が腎臓病診療の質と相関することを示唆する報告もある(3)。日本腎臓学会もこの問題を解決すべく努力しており、加えて患者支援・教育や他職種との連携を促進するなどの目的で、日本腎臓病協会が主体となり腎臓病療養指導士という制度を作っている。これらの活動により、日本でも腎臓病診療に地域格差が なくなることが望まれる。 1. Bello AK et al. JAMA. 2017 ;317(18):1864-1881. 2. 日腎会誌 2013;55(8):1391 - 1400. 3. Inoue R et al. Clin Exp Nephrol. 2019 Jun;23(6):859-864