「MRSA菌血症」の記事一覧

MRSA菌血症に用いるバンコマイシンまたはダプトマイシンへの抗ブドウ球菌βラクタム系薬が死亡率、菌血症、効果および治療失敗にもたらす効果 無作為化比較試験
MRSA菌血症に用いるバンコマイシンまたはダプトマイシンへの抗ブドウ球菌βラクタム系薬が死亡率、菌血症、効果および治療失敗にもたらす効果 無作為化比較試験
Effect of Vancomycin or Daptomycin With vs Without an Antistaphylococcal β-Lactam on Mortality, Bacteremia, Relapse, or Treatment Failure in Patients With MRSA Bacteremia: A Randomized Clinical Trial JAMA. 2020 Feb 11;323(6):527-537. doi: 10.1001/jama.2020.0103. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【重要性】メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)菌血症は20%以上の死亡率と関連がある。標準治療にβラクタム系抗菌薬の併用によって死亡率が低下することが報告されているが、この介入を検討した十分な検出力がある無作為化臨床試験は実施されていない。 【目的】MRSA菌血症に用いる抗ブドウ球菌βラクタム系抗菌薬の標準治療との併用が標準治療単独よりも有効性が高いかどうかを明らかにすること。 【デザイン、設定および参加者】2015年8月から2018年7月にかけて、4カ国27施設で、MRSA菌血症成人患者352例を対象に非盲検無作為化臨床試験を実施した。2018年10月23日に経過観察を終了した。 【介入】被験者を標準治療(バンコマイシンまたはダプトマイシン静注)と抗ブドウ球菌βラクタム系抗菌薬(flucloxacillin、クロキサシリンまたはセファゾリン)の併用(174例)と標準治療単独(178例)に割り付けた。治療に当たる医師が総治療期間を決め、βラクタム系抗菌薬は7日間投与した。 【主要転帰および評価項目】主要評価項目は90日時の死亡、5日目の菌血症持続、微生物学的再発および微生物学的治療失敗の複合とした。14、42、90日時の死亡率、2、5日時の菌血症持続、急性腎障害(AKI)、微生物学的再発、微生物学的治療失敗および抗菌薬静注の期間を副次評価項目とした。 【結果】データ安全性評価委員会は、安全性の観点から、440例を登録する前に試験の早期中止を推奨した。無作為化した352例(平均年齢62.2歳、121例[34.4%]が女性)のうち345例(98%)が試験を完遂した。主要評価項目は、併用療法群の59例(35%)と標準治療群の68例(39%)に発生した(絶対差-4.2%、95%CI -14.3-6.0%)。事前に規定した副次評価項目9項目のうち7項目に有意差が認められなかった。併用療法群と標準治療群を比較すると、35例(21%)と28例(16%)に90日総死亡率が発生し(差4.5%、95%CI -3.7-12.7%)、166例中19例(11%)と172例中35例(20%)に5日目に菌血症の持続(同-8.9%、-16.6--1.2%)が見られ、ベースラインで透析を実施していた患者を除くと、145例中34例(23%)と145例中9例(6%)がAKIを来した(同17.2%、9.3-25.2%)。 【結論および意義】MRSA菌血症、バンコマイシンまたはダプトマイシンを用いた標準的抗菌薬療法に抗ブドウ球菌βラクタム系抗菌薬を追加しても、死亡率、菌血症持続、再発または治療失敗の主要複合評価項目の有意な改善にはつながらなかった。この結果を解釈する際は、安全性の懸念による試験の早期中止および臨床的に重要なさを検出する力が試験に不足していた可能性を考慮しなければならない。 第一人者の医師による解説 腎毒性の低いβラクタム薬の併用は 検討の余地あり 塩塚 美歌 国立がん研究センター中央病院感染症部/岩田 敏 国立がん研究センター中央病院感染症部部長 MMJ. December 2020;16(6):175 成人のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)菌血症に対する現在の標準治療薬は、バンコマイシン(VCM)とダプトマイシン(DAP)である。近年、MRSA菌血症の標準治療薬とβラクタム薬の併用による患者のアウトカム改善を示唆する研究報告が増えている中、本論文はオーストラリア、シンガポールなどの27病院で実施されたランダム化非盲検比較試験の結果を報告している。血液培養からMRSAが検出された18歳以上の入院患者を対象とし、血液培養採取から72時間以内に次の2群に無作為に割りつけた。標準治療群では、VCMまたはDAPを、臨床経過に従い14~42日間投与した。併用療法群では、標準治療に加えて抗黄色ブドウ球菌βラクタム薬(フルクロキサシリン、クロキサシリン、またはセファゾリン)を治療開始から7日間併用した。主要評価項目は、90日間の全死亡、5日後の持続的菌血症、血液培養陰性化後72時間以降の菌血症再燃、14日目以降における細菌学的な治療失敗を併せた複合エンドポイントとされた。副次評価項目として急性腎障害(AKI)や投薬治療期間なども解析した。当初440人の登録が予定されたが、中間解析で併用療法群のAKI発症率が有意に高いことが示され、以降の参加登録は中止された。  結果として、無作為化された患者352人の年齢中央値は64歳(47~79歳)、349人(99%)はVCM、13人(4%)は最低1回DAPを投与されていた。主要評価項目の発生率に関して併用療法群と標準治療群に有意差は認められなかった(35% 対 39%:差 , -4.2%;95%信頼区間[CI], -14.3~6.0%;P=0.42)。また、併用療法群は標準治療群と比較し、5日後の持続的菌血症の頻度が有意に低い(11% 対 20%:差 , -8.9%;95% CI, -16.6~ -1.2%;P=0.02)一方、AKIの頻度は有意に高かった(23% 対 6%:差 , 17.2%;95% CI, 9.3~25.2%;P<0.001)。  MRSA菌血症に対するβラクタム薬の併用療法は、本研究では腎毒性の弊害を上回る有効性は示されなかった。抗MRSA薬とβラクタム薬の併用療法は、日本感染症学会・日本化学療法学会による「JAID/JSC感染症治療ガイド2019」でも推奨されておらず、これに矛盾のない結果となった。過去にも、黄色ブドウ球菌による心内膜炎に対するアミノグリコシド併用療法(1)や、黄色ブドウ球菌菌血症に対するリファンピシン併用療法(2)の効果が期待されたが、死亡率の改善はなく、有害事象(前者では腎毒性)が多く認められた。今回、腎毒性がより低いセファゾリンを用いた患者数は併用療法群の約20%と少なく、今後改めて比較試験を実施してもよいかもしれない。 1. Korzeniowski O, et al. Ann Intern Med. 1982;97(4):496-503. 2. waites GE, et al. Lancet. 2018;391(10121):668-678.