「急性低酸素性呼吸不全」の記事一覧

急性低酸素血症性呼吸不全成人患者に用いる非侵襲的換気療法と全死亡率の関連 系統的レビューとメタ解析
急性低酸素血症性呼吸不全成人患者に用いる非侵襲的換気療法と全死亡率の関連 系統的レビューとメタ解析
Association of Noninvasive Oxygenation Strategies With All-Cause Mortality in Adults With Acute Hypoxemic Respiratory Failure: A Systematic Review and Meta-analysis JAMA . 2020 Jul 7;324(1):57-67. doi: 10.1001/jama.2020.9524. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【重要性】急性低酸素血症性呼吸不全成人患者に用いる非侵襲的換気や高流量経鼻酸素などの非侵襲的酸素療法が、標準酸素療法より有効性が高いと思われる。 【目的】急性低酸素血症性呼吸不全成人患者で、各種非侵襲的換気療法の死亡率と気管内切開との関連を比較すること。 【データ入手元】以下の文献データベースの開始から2020年4月までを検索した――MEDLINE、Embase、PubMed、Cochrane Central Register of Controlled Trials、CINAHL、Web of ScienceおよびLILACS。言語、出版年、性別、人種に制限は設けないこととした。 【試験選択】急性低酸素血症性呼吸不全成人患者を組み入れ、高流量経鼻酸素、フェイスマスク型非侵襲換気、ヘルメット型非侵襲的換気および標準的酸素療法を比較した無作為化臨床試験。 【データ抽出および合成】レビュアー2人が別々に個別試験データを抽出し、コクランバイアスリスクツールを用いてバイアスリスクを評価した。リスク比(RR)およびリスク差を95%信用区間(CrI)と共に得るため、ベイジアンフレームワークを用いたネットワークメタ解析を実施した。根拠の確実性の等級付けには、GRADEの方法論を用いた。 【主要転帰および評価項目】主要転帰は、最大90日間の全死因死亡率に規定した。最大30日間の気管挿管を副次評価項目とした。 【結果】無作為化試験25件(参加者3804例)を対象とした。標準酸素療法と比べると、ヘルメット型非侵襲的換気(RR 0.40、95%CrI 0.24-0.63、絶対リスク差-0.19、95%CrI -0.37--0.09、低度の確実性)とフェイスマスク型非侵襲的換気(RR 0.83、95%CrI 0.68-0.99、絶対リスク差-0.06、95%CrI -0.15--0.01、中等度の確実性)の死亡リスクが低かった(21試験、3370例)。ヘルメット型非侵襲的換気(RR 0.26、95%CrI 0.14-0.46、絶対リスク差-0.32、95%CrI -0.60--0.16、低度の確実性)、フェイスマスク型非侵襲的換気(RR 0.76、95%CrI 0.62-0.90、絶対リスク差-0.12、95%CrI -0.25--0.05、中等度の確実性)および高流量経鼻酸素(RR 0.76、95%CrI 0.55-0.99、絶対リスク差-0.11、95%CrI -0.27--0.01、中等度の確実性)の気管切開率が低かった(25試験、3804例)。挿管時の盲検下の欠如によるバイアスリスクは、高いと考えられた。 【結論および意義】この急性低酸素血症性呼吸不全成人患者を検討した試験のネットワークメタ解析では、非侵襲的換気による治療が標準酸素療法よりも死亡リスクが低かった。各戦略の相対的便益に対する理解を深めるために、さらに詳細な研究を要する。 第一人者の医師による解説 重症度と病態に合わせたデバイスの選択が重要 出井 真史 東京女子医科大学病院 集中治療科 助教 MMJ. December 2020;16(6):163 集中治療室に入室する急性低酸素性呼吸不全(AHRF)患者の管理では、原疾患の治療と同時に呼吸療法の良否が予後に大きく影響する。呼吸療法は標準酸素療法、非侵襲的酸素療法、侵襲的酸素療法(気管挿管を伴う人工呼吸)の3段階が存在し、重症ほど侵襲性の高い手段が必要となるが、合併症のリスクや求められる医療資源も増大する。本論文では、成人AHRF患者において3種類の非侵襲的酸素療法(フェイスマスク非侵襲的換気[NIV]、ヘルメットNIV、経鼻高流量酸素療法[HFNC])と従来の酸素療法を比較した無作為化対照試験(RCT)のネットワークメタアナリシスを行い、死亡率・気管挿管率を評価した。  すでにNIVの有用性が示されている(1)慢性閉塞性肺疾患(COPD)急性増悪、心不全、心臓外科周術期、抜管直後の患者を主な対象とした研究は除外した。2020年4月までの25のRCT(患者数3,804人)が収集され、原因疾患は64%のRCTで市中肺炎が最多であった。標準酸素療法と比較し、ヘルメットNIV(相対リスク[RR], 0.40)、フェイスマスクNIV(RR, 0.83)は死亡リスク低値と関連していた。気管挿管率もヘルメット NIV(RR, 0.26)、フェイスマスク NIV(RR, 0.76)、HFNC(RR, 0.76)でいずれも低値であった。  標準酸素療法と比べて、3つの非侵襲的酸素療法とも有用性が示された結果である。ヘルメットNIVはフェイスマスク NIVほど一般的ではないが、リークが少なく安定した呼気終末陽圧(PEEP)をかけることができ、肺胞のリクルートメントに寄与する可能性がある(2)。患者の忍容性も良く、顔面の皮膚損傷もないため比較的長期に使用できるという利点もある。フェイスマスクNIVはすでに多くのAHRFの病態で予後改善のエビデンスが蓄積されている(1)。HFNCは挿管率の低下のみ示されたが、これはNIVに比べ圧のサポートが不十分なことが影響していると思われる。  一方、非侵襲的酸素療法で粘りすぎ、いたずらに気管挿管のタイミングを遅らせることは危険である。一般的にデバイスを装着して30分から1時間で酸素化の改善、呼吸数の減少、呼吸苦の軽減などがみられなければ次の段階(HFNCならNIV、NIVなら気管挿管)を考慮すべきである。また呼吸努力の強い患者では、非侵襲的酸素療法に頼り自発呼吸で管理すると肺障害を増悪させる可能性があるので慎重な選択が求められる。PEEPを要さずPaCO2の貯留がない軽症のAHRFはHFNC、PEEPや吸気圧のサポートを要する中等症以上のAHRFはNIVを検討し、ヘルメット NIVが使用できる施設では積極的に選択する。そして反応が乏しい場合は機を逸せず気管挿管に移行する、というのが現段階での最良の介入であろう。 1. Rochwerg B, et al. Eur Respir J. 2017 Aug 31;50(2):1602426. 2. Patel BK, et al. JAMA. 2016 Jun 14;315(22):2435-2441.