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進行性心不全患者における間葉系前駆細胞の心筋内注入と左室アシスト装置サポートからの一時的な離脱の成功。無作為化臨床試験。
進行性心不全患者における間葉系前駆細胞の心筋内注入と左室アシスト装置サポートからの一時的な離脱の成功。無作為化臨床試験。
Intramyocardial Injection of Mesenchymal Precursor Cells and Successful Temporary Weaning From Left Ventricular Assist Device Support in Patients With Advanced Heart Failure: A Randomized Clinical Trial JAMA 2019 Mar 26 ;321 (12):1176 -1186. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【重要】左室補助循環装置(LVAD)療法は心筋機能を改善するが、摘出できるほど回復する患者は少なく、心臓の回復を増強する幹細胞に注目が集まっている。 【目的】LVAD移植中の間葉系前駆細胞(MPC)の心筋内注射の有効性と副作用を評価する。 デザイン、設定、参加者]北米19施設でLVAD移植中の進行心不全の患者を含む無作為化第2相臨床試験(2015年7月から2017年8月)。1年間のフォローアップは2018年8月に終了。 【介入】同種MPC1億5000万個または偽治療としての凍結保護培地を2:1の割合で心筋内注射(n=106 vs n=53)。 【主要アウトカムおよび評価】主要有効性エンドポイントは、ランダム化後6カ月以内にLVAD支持からの一時的ウィーン(3回の評価予定分)に成功する割合であった。このエンドポイントは、成功を示す事後確率80%という事前に定義された閾値を用いたベイズ分析で評価された。1年間の安全性の主要エンドポイントは、介入関連の有害事象(心筋炎、心筋破裂、新生物、過敏性反応、免疫感作)の発生率であった。副次的評価項目は6ヶ月後の再入院と有害事象、1年生存率とした。 【結果】159例(平均年齢56歳、女性11.3%)のうち155例(97.5%)が1年間のフォローアップを完了した。MPCが離脱成功の可能性を高める事後確率は69%であり、事前に定義された成功の閾値以下であった。6 ヵ月にわたる LVAD 支援からの一時的な離脱が成功した平均割合は,MPC 群で 61%,対照群で 58%であった(rate ratio [RR], 1.08; 95% CI, 0.83-1.41; P = 0.55).安全性の主要エンドポイントを経験した患者はいなかった。事前に指定された10個の副次的エンドポイントが報告されたが、9個は統計的有意差に達しなかった。1年死亡率は、MPC群と対照群の間で有意差は認められなかった(14.2% vs 15.1%;ハザード比[HR]、0.89;95%、CI、0.38-2.11;P = 0.80)。重篤な有害事象の発生率は群間で有意差はなく(100患者月当たり70.9 vs 78.7、差:-7.89、95%CI、-39.95~24.17、P = .63)、再入院率(100患者月当たり0.68 vs 0.75、差:-0.07、95%CI、-0.41~0.27、P = 0.68 )も同様であった。 【結論と関連性】進行した心不全患者において、間葉系前駆細胞の心筋内注射は、偽治療としての凍結保護培地の注射と比較して、6ヵ月後の左室補助装置サポートからの一時離脱の成功率を向上させることはなかった。この結果は、デバイスサポートからの一時的な離脱によって測定される心臓の回復を促進するための心筋内間葉系幹細胞の使用を支持しない。 【臨床試験登録】clinicaltrials. gov Identifier.NCT02362646:NCT02362646. 第一人者の医師による解説 再生医療での可能性持つ間葉系幹細胞 臨床試験の成果を期待 池田 宇一 地方独立行政法人 長野市民病院・病院長 MMJ.August 2019;15(4) 心筋細胞はほとんど増殖能を持たないため、急性心筋梗塞や拡張型心筋症で心筋細胞が壊死をきたすと心臓のポンプ機能は低下し、心不全に至ると生命予後は不良となる。近年、心筋細胞を再生して心不全を治療する細胞療法の研究が注目されている。間葉系幹細胞(mesenchymal stem cells: MSC)や心筋幹細胞などの体性幹細胞を用いた臨床試験はすでに数多く進められており、胚性幹細胞(ES細胞)や人工多能性幹細胞(iPS細胞)を用い た再生医療への期待も高まっている。 体性幹細胞の中で、再生医療の細胞ソースとして最も注目されている細胞はMSCである。MSC は1979年に見いだされ、1999年にヒト骨髄中にその存在が発見されてから、現在では多くの結合組織中に存在することが明らかにされている。 MSCは心筋細胞、内皮細胞、骨芽細胞、軟骨細胞、脂肪細胞、神経細胞や肝細胞などへ分化可能である。 心不全の再生医療の臨床試験において広く使用されている細胞は骨髄由来のMSCである。MSC は冠動脈内、あるいは心筋内に注入される。MSC 治療の作用機序については不明な点も多い。投与部位におけるMSCの心筋細胞への分化はわずかであり、心機能改善にはMSCから分泌される種々の液性因子による血管新生作用、抗アポトーシス作用、 抗炎症作用、免疫制御作用などの関与が大きいと推測されている。 本研究では、北米19施設で左室補助人工心臓 (LVAD)植え込みを実施する重症心不全患者159 例を対象に、植え込み時にMSCを心筋内に注入し、 有効性および安全性を第 II相無作為化試験で評価している。6カ月時点でLVADからの一時的離脱成功率は、MSC群61%、対照群58%で有意差は示されなかった。1年死亡率、再入院率、重篤な有害事 象の発現率も2群間で有意差はなかった。LVAD植え込み時のMSC心筋内注入は支持されない結果となった。 これまでに、虚血性心筋症患者の冠動脈内や心筋内にMSCを注入することにより、左室の収縮能やリモデリング、運動耐容能が改善するという臨床試験の結果がいくつか報告されている。一方、否定的な報告も多く、欧州心臓病学会(ESC)のワーキンググループも、細胞療法への期待はまだ実現していないと結論付けている。 MSCは再生医療における大きな潜在的可能性を有する多能性幹細胞である。今後、さらなる臨床試験によるevidence-based medicine(EBM)の確立が望まれる。