ライブラリー 肝硬変の入院患者に用いるアルブミン点滴の無作為化試験
A Randomized Trial of Albumin Infusions in Hospitalized Patients with Cirrhosis
N Engl J Med. 2021 Mar 4;384(9):808-817. doi: 10.1056/NEJMoa2022166.
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上記論文の日本語要約
【背景】非代償性肝硬変患者では、感染や全身性炎症の亢進が臓器障害や死亡の原因となる。前臨床試験の結果から、アルブミンの抗炎症作用が期待されているが、それを検証する大規模臨床試験がない。このような患者で、血清アルブミン値30g/L以上を目標とした20%ヒトアルブミン溶液の連日点滴によって、標準治療と比較して感染症、腎障害および死亡の発生率が低下するかは明らかになっていない。
【方法】組み入れ時の血清アルブミン値が30g/L未満の非代償性肝硬変入院患者を対象に、多施設共同無作為化非盲検並行群間比較試験を実施した。患者を目標値を設定した20%ヒトアルブミン溶液の最長14日間または退院のいずれかまで投与するグループと標準治療を実施するグループに割り付けた。入院後3日以内に治療を開始することとした。複合主要評価項目は、治療開始後3~15日目に発生した新たな感染症、腎機能障害または死亡とした。
【結果】777例を無作為化し、患者の大部分でアルコールが肝硬変の原因であることが報告された。患者1例当たりのアルブミン総投与量中央値は、目標値設定アルブミン群(アルブミン値を30g/Lまで上昇させる)では200g(四分位範囲140~280)、標準治療群では20g(四分位範囲0~120)であった(調整後の平均差143g、95%CI 127~158.2)。主要評価項目が発生した患者の割合は、目標値設定アルブミン群(380例中113例、29.7%)と標準治療群(397例中120例、30.2%)の間で有意差が認められなかった(調整オッズ比0.98、95%CI 0.71~1.33、P=0.87)。データを退院時または15日目で打ち切りとした生存時間解析でも、群間差は認められなかった(ハザード比1.04、95%CI 0.81-1.35)。アルブミン群の方が標準治療群よりも、重度または生命を脅かす重篤な有害事象の発生率が多かった。
【結論】非代償性肝硬変入院患者で、アルブミン値30mg/L以上を目標とするアルブミン点滴に、英国の現行標準治療を上回る有益性は認められなかった。
第一人者の医師による解説
数値目標に固執したアルブミン投与は推奨されず 必要に応じ適切な投与を
岡田 啓 東京大学糖尿病・生活習慣病予防講座特任助教
MMJ. August 2021;17(4):117
アルブミンは、70年以上前から肝硬変患者に対して投与されてきたが、その投与の是非については意見が分かれていた。基礎研究では、アルブミン投与が全身炎症抑制や腎障害リスク低下に寄与することで予後を改善することが示唆されていたが、臨床試験においてはアルブミン投与が一貫して有効だというエビデンスは存在しなかった。
今回報告されたATTIRE試験は、非代償性肝硬変患者における急性合併症で入院した18歳以上の患者を対象とした、多施設共同ランダム化非盲検並行群間比較試験である。入院後72時間以内の血清アルブミン値が3.0g/dL未満、ランダム化時点で5日以上の入院を見込む患者を組み入れた。主な除外基準は、進行肝細胞がんを有し予後8週未満と予測され緩和治療を受けている患者とした。介入群では、非介入群で行う通常治療に加えて、血清アルブミン値3.5g/dLを目標として設定したアルブミン補充を行った。ただし、腹水穿刺で大量排液の施行や突発性細菌性腹膜炎や肝腎症候群を発症した場合、ガイドラインでアルブミン投与が推奨されているため1,2、非介入群でもアルブミン投与を医師の判断で行うこととした。主要エンドポイントは試験開始から3〜15日での感染症・腎機能障害・死亡の複合エンドポイントとし、副次エンドポイントは28日、3カ月、6カ月時点の死亡や合併症発症であった。
結果は、患者777人がランダム化され、intention-to-treat(ITT)解析において、主要エンドポイント発生割合は介入群29.7%、非介入群30.2%であった(調整済みオッズ比,0.98;95%信頼区間 ,0.71〜1.33;P=0.87)。発生したイベントの内訳は、新規感染症、腎機能障害、死亡の順に多く、個々の発症割合に関しても、両群で有意差を認めなかった。副次エンドポイントにおいても、有意なリスク差を認めず、むしろ介入群において肺水腫や細胞外液過剰状態が多く発現した(23人対8人[非介入群])。
本論文の結論は、血清アルブミン値目標を定めたアルブミン投与は推奨されないというものである。しかしその対象は、あくまで、数値目標に固執したアルブミン投与であって、既存の方法でのアルブミン投与を否定するものではないことに注意したい。海外ガイドライン 1,2と同様、日本の「肝硬変診療ガイドライン2020改訂第3版」でも、特発性細菌性腹膜炎や1型肝腎症候群合併例に対して同様にアルブミン製剤投与が推奨されている。なお、本研究はアルブミン数値目標や体液管理困難な患者が対象であるため二重盲検化は難しく、非盲検が正当化される状況であった。
1. European Association for the Study of the Liver. J Hepatol. 2018;69 (2) :406-460.
2. Runyon BA; Hepatology. 2013;57 (4) :1651-1653.