「ルスパテルセプト(レブロジル)」の記事一覧

骨髄異形成症候群~知っておきたい希少疾患
骨髄異形成症候群~知っておきたい希少疾患
 骨髄異形成症候群(MDS)は、未熟な造血幹細胞に生じた異常が原因と考えられる骨髄系造血器腫瘍の1つである。今回は、MDSおよび2024年5月に発売されたレブロジルⓇ[一般名:ルスパテルセプト(遺伝子組換え)]について紹介する。 MDSの主な症状「貧血、易感染状態、出血傾向」、AMLへの進展も  MDSは、正常な血液細胞(赤血球、白血球、血小板)が作られないことで、貧血、易感染状態、出血傾向などがみられ、重篤な感染症を引き起こす可能性もある1) 。さらに、急性骨髄性白血病(AML)への進展の可能性が高いことも特徴であり、MDS患者の10〜30%はAMLに移行するといわれている。  日本におけるMDSの罹患率は、人口10万人あたり年間約3.0人と報告されており2) 、厚生労働省による2020年の患者数調査では、日本のMDS患者の総数は約2万2,000人と報告されている3) 。罹患率は、年齢とともに増加し、とくに70歳以降で急激に上昇している4) 。男女比は、約2:1で男性に多い傾向である。 MDS症状を疑ったら、専門医に相談を  MDSの診断に際しては、「慢性貧血を主とし、出血傾向,発熱を認める(症状を欠く場合もある)」「持続的な血球減少を認める」「骨髄は過形成が多い(低形成の場合もある)」が認められた場合に、MDSが疑われる。血液検査、骨髄検査、分子生物学的検査などと合わせて感染症性疾患、炎症性疾患、他の造血器疾患などとの除外診断により、慎重に鑑別する必要がある5) 。  MDSの病態は多様であり複数の病型に分類される。病型により治療や予後が異なるため、病型分類は重要であるが、治療方針を決定する上で、予後予測を行う必要がある。複数の予後予測スコアリングシステムが提唱されており、特徴はそれぞれ異なるが、臨床的な対応としてはMDSを低リスクと高リスクに分類することが多い6) 。確定診断、病型分類、予後予測を円滑に実施するためにも、原因不明の貧血、出血傾向、発熱等を認める患者は、専門医へ紹介することが望まれる。 低リスクMDSの基本的な支持療法は輸血、さまざまな課題も  MDSは、疾患経過中に約80%~90%の患者において貧血が認められるといわれている7) 。貧血を呈するMDS患者の多くは、正常な赤血球の循環量を確保するために支持療法として定期的な輸血が必要となるが、頻繁な輸血によって鉄過剰症、輸血反応、輸血血液からの感染リスク増加が懸念される。さらに、輸血の負荷増加に伴い低リスクMDS患者においても生存率が低下することも報告されている8) 。一定量以上の赤血球輸血は、鉄過剰症の原因となり、臓器障害の進行や死亡リスクへの影響も報告されているため9) 、鉄キレート療法を行うことが推奨されている10) 。また、低リスクMDSの血球減少に対しては免疫抑制療法、サイトカイン療法、蛋白同化ステロイド療法、ビタミン製剤なども用いられてきた。  造血器腫瘍診療ガイドライン2023年版において、低リスクMDSに対するこれらの治療法のほとんどは推奨グレード「カテゴリー2A」または「カテゴリー2B」とされており、「カテゴリー1」に該当する治療法は、5番染色体長腕の欠失[del(5q)]を伴う低リスクMDSで赤血球輸血依存例に対するレナリドミド投与および貧血を伴う低リスクMDS-RS(環状赤芽球を伴う骨髄異形成症候群)に対する当時国内未承認であったルスパテルセプト投与のみであった6) 。 新規作用機序を有する赤血球成熟促進薬レブロジルⓇ登場  2024年5月、MDSに伴う貧血の治療薬として、レブロジルⓇ[一般名:ルスパテルセプト(遺伝子組換え)]が発売された。レブロジルⓇは、新規作用機序を有する赤血球成熟促進薬であり、造血幹細胞から赤血球への分化過程の後期段階における分化を促進し、成熟した赤血球数の増加を誘導する11)。低リスクMDS患者を対象とした国際共同第Ⅲ相試験(COMMANDS試験)、海外第Ⅲ相試験(MEDALIST試験)、国内第Ⅱ相試験(MDS-003試験)において、レブロジルⓇの有効性・安全性が確認された。日本人患者を含むMDS患者を対象としたCOMMANDS試験の24週中間解析において、主要評価項目である12週間以上の赤血球輸血を必要としない状態かつ平均ヘモグロビン濃度がベースライン値より1.5g/dL以上増加した患者の割合は、レブロジル群で59%、対照(エポエチンアルファ)群で31%であったことが報告されている(共通リスク差:26.6、95%CI:15.8〜37.4、p<0.0001)。最も頻度の高いグレード3/4の治療関連有害事象(患者の≧3%)として、レブロジル群では高血圧、貧血、呼吸困難、好中球減少症、血小板減少症、肺炎、COVID-19感染症、MDS、失神が、対照群では貧血、肺炎、好中球数減少症、高血圧、鉄過剰症、COVID-19肺炎、MDSがみられた12) 。  高齢化が進む日本において、MDS患者は着実に増加している。新規作用機序を有するレブロジルⓇの登場により、これまで治療選択肢が限られていたMDSに伴う貧血治療が促進され、MDS患者のQOL向上が期待される。 (エクスメディオ 鷹野 敦夫) 参考資料 1)Cazzola M, et al. N Engl J Med. 2020; 382: 140-151.▶https://hpcr.jp/app/article/abstract/pubmed/31914241/ 2)国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」▶https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/data/dl/index.html 3)「政府統計の総合窓口(e-Stat)」.統計で見る日本.患者調査.令和2年度患者調査▶ https://www.e-stat.go.jp/ 4)Chihara D, et al. J Epidemiol. 2014; 24: 469-473.▶ https://hpcr.jp/app/article/abstract/pubmed/25088696/ 5)骨髄異形成症候群診療の参照ガイド令和 4 年度改訂版▶http://zoketsushogaihan.umin.jp/file/2022/Myelodysplastic_Syndromes.pdf 6)造血器腫瘍診療ガイドライン2023年版 ▶ http://www.jshem.or.jp/gui-hemali/1_6.html 7)Zeidan AM, et al. Blood Rev. 2013; 27: 243-59. ▶https://hpcr.jp/app/article/abstract/pubmed/23954262/ 8)Malcovati L, et al. Haematologica. 2006; 91: 1588-90. ▶https://hpcr.jp/app/article/abstract/pubmed/17145593/ 9)Takatoku M, et al. Eur J Haematol. 2007; 78: 487-94. ▶https://hpcr.jp/app/article/abstract/pubmed/17391310/ 10)輸血後鉄過剰症の診療参照ガイド令和4年度改定版▶http://zoketsushogaihan.umin.jp/file/2022/Post-transfusion_iron_overload.pdf 11)レブロジルⓇ皮下注用25mg / 75mg添付文書▶https://file.bmshealthcare.jp/bmshealthcare/pdf/package/REBLOZYL.pdf 12)Platzbecker U, et al. Lancet. 2023; 402: 373-385. ▶https://hpcr.jp/app/article/abstract/pubmed/37311468/ ヒポクラ × マイナビ無料会員登録はこちら▶https://www.marketing.hpcr.jp/hpcr
低リスクMDSの新たな標準治療に、ルスパテルセプト第III相試験主要解析
低リスクMDSの新たな標準治療に、ルスパテルセプト第III相試験主要解析
公開日:2024年8月6日 Porta MGD, et al. Lancet Haematol. 2024 Jul 19. [Epub ahead of print]  赤血球造血刺激因子製剤(ESA)治療歴のない輸血依存の低リスク骨髄異形成症候群(MDS)患者の貧血治療に対するルスパテルセプトの有用性は、エポエチンアルファと比較した第III相試験COMMANDS試験の事前に計画された中間解析において示された。イタリア・ヒューマニタス大学のMatteo Giovanni Della Porta氏らは、COMMANDS試験の主要解析結果を報告した。The Lancet. Haematology誌オンライン版2024年7月19日号の報告。  COMMANDS試験は、26ヵ国、142施設で実施された第III相非盲検ランダム化対照試験である。対象は、ESA治療歴なし、輸血依存のVery low、Low、Intermediateリスク(IPSS-Rによる予後層別化)の18歳以上のMDS患者(血清エリスロポエチン濃度:500U /L未満)。対象患者は、ベースライン時の赤血球輸血負荷、血清エリスロポエチン濃度、環状鉄芽球の状態により層別化され、24週以上のルスパテルセプトまたはエポエチンアルファの投与を受ける群に1:1でランダムに割り付けられた。ルスパテルセプトは3週間に1回皮下投与され、1.0mg/kg体重から開始して可能な場合は最大1.75mg/kgまで漸増した。エポエチンアルファは週1回皮下投与され、450IU/kg体重から開始して可能な場合は最大1,050IU/kgまで漸増した(最大総投与量8万IU)。主要エンドポイントは、ITT集団において、試験開始から24週までに、12週以上で赤血球輸血非依存状態が達成され、同時に平均ヘモグロビン量が1.5g/dL以上増加することとした。安全性評価対象は、1回以上治療を行ったすべての患者を含めた。 主な結果は以下のとおり。 ・2019年1月2日〜2022年9月29日、低リスクMDS患者363例がスクリーンングされ、ルスパテルセプト群182例、エポエチンアルファ群181例にランダムに割り付けられた。 ・年齢中央値は74歳(IQR:69〜80)、女性が162例(45%)、男性が201例(55%)であった。 ・人種別では、白人289例(80%)、アジア人44例(12%)、黒人またはアフリカ系米国人2例(1%)であった。ヒスパニックまたはラテン系は23例(6%)、311例(86%)はヒスパニックまたはラテン系ではなかった。 ・主要エンドポイントのフォローアップ期間中央値は、ルスパテルセプト群で17.2ヵ月(10.4〜27.7)、エポエチンアルファ群で16.9ヵ月(10.1〜26.6)であった。 ・主要エンドポイントを達成した患者は、ルスパテルセプト群110例(60%)、エポエチンアルファ群63例(35%)であり、ルスパテルセプト群で有意に高率であった(奏効率の共通リスク差:25.4%、95%CI:15.8〜35.0、p<0.0001)。 ・安全性評価のフォローアップ期間中央値は、ルスパテルセプト群で21.4ヵ月(IQR:14.2〜32.4)、エポエチンアルファ群で20.3ヵ月(IQR:12.7〜30.9)であった。 ・頻度の高いグレード3〜4の治療関連有害事象は、ルスパテルセプト群(182例)では高血圧(19例[10%])、貧血(18例[10%])、肺炎(10例[5%])、失神(10例[5%])、好中球減少症(9例[5%])、血小板減少症(8例[4%])、呼吸困難(8例[4%])、MDS(6例[3%])であった。エポエチンアルファ群(179例)では貧血(14例[8%])、肺炎(14例[8%])、好中球減少症(11例[6%])、MDS(10例[6%])、高血圧(8例[4%])、鉄過剰症(7例[4%])、COVID-19肺炎(6例[3%])が認められた。 ・両群で最も多く認められた重篤な治療関連有害事象は、肺炎(ルスパテルセプト群:9例[5%]、エポエチンアルファ群:13例[7%])、COVID-19(ルスパテルセプト群:8例[4%]、エポエチンアルファ群:10例[6%])であった。 ・中間解析では、ルスパテルセプト関連と考えられる死亡例として、急性骨髄性白血病と診断されて死亡した1例が報告されている。  著者らは「ルスパテルセプトは、エポエチンアルファと比較し、赤血球輸血依存性および血液学的に有意な改善を示しており、ESA治療歴のない、輸血依存の低リスクMDSに対する新たな標準治療として期待される」としている。 (エクスメディオ 鷹野 敦夫) 原著論文はこちら Porta MGD, et al. Lancet Haematol. 2024 Jul 19. [Epub ahead of print]▶https://hpcr.jp/app/article/abstract/pubmed/39038479 血液内科 Pro(血液内科医限定)へ ※「血液内科 Pro」は血液内科医専門のサービスとなっております。他診療科の先生は引き続き「知見共有」をご利用ください。新規会員登録はこちら