ライブラリー COVID-19に用いる体外式模型人工肺支援 体外生命維持機構レジストリの国際コホート研究
Extracorporeal membrane oxygenation support in COVID-19: an international cohort study of the Extracorporeal Life Support Organization registry
Lancet. 2020 Oct 10;396(10257):1071-1078. doi: 10.1016/S0140-6736(20)32008-0. Epub 2020 Sep 25.
原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む
上記論文の日本語要約
【背景】COVID-19に伴う急性低酸素血症性呼吸不全に対して、主要医療機関の多くが体外式模型人工肺(ECMO)による支援を推奨している。しかし、COVID-19に対するECMO使用の初期報告から、死亡率が非常に高いことが明らかになり、これまでにCOVID-19に用いるECMOを検討する大規模な国際的コホート研究は報告されていない。
【方法】2020年1月16日から5月1日の間に36カ国213施設でECMOによる支援を開始したCOVID-19確定患者(16歳以上)の疫学、入院経過および転帰を明らかにするため、体外生命維持機構(ELSO)レジストリのデータを用いた。主要転帰は、ECMO開始90日時に生存時間解析で評価した院内死亡とした。多変量Coxモデルを用いて、患者および病院因子に院内死亡率と関連があるかを検討した。
【結果】ECMO支援を用いたCOVID-19患者1035例のデータをこの研究の対象とした。このうち、67例(6%)が入院中、311例(30%)が自宅に退院または急性期リハビリ施設に転院、101例(10%)は長期急性期医療施設に転院または転院先不明、176例(17%)が他院に転院、380例(37%)が死亡した。ECMO開始90日後の院内死亡の推定累積発生率は37.4%(95%CI 34.4~40.4)であった。最終記録が死亡または退院だった患者の死亡率が39%(968例中380例)であった。循環補助を目的としたECMOの使用には、院内死亡率上昇と独立の関連があった(ハザード比1.89、95%CI 1.20~2.97)。静脈-静脈方式ECMO支援を受け、急性呼吸窮迫症候群の特徴が見られたCOVID-19患者の下位集団では、ECMO開始90日後の院内死亡の累積発生率は38.0%(95%CI 34.6~41.5)であった。
【解釈】ECMOを実施したCOVID-19患者で、ECMO開始90日後の推定死亡率および最終記録が死亡または退院だった患者の死亡率はいずれも40%未満であった。世界213施設から得られた今回のデータは、COVID-19に用いるECMOの死亡率の一般化可能な推定値を提示するものである。
第一人者の医師による解説
非 COVID-19関連 ARDSのECMO導入後死亡率と同程度 肺保護人工呼吸器療法との比較にはRCTが必要
佐藤 ルブナ(フェロー)/大曲 貴夫(センター長) 国立国際医療研究センター病院国際感染症センター
MMJ. April 2021;17(2):44
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行以前には、急性呼吸促迫症候群(ARDS)患者に対する体外式膜型人工肺(ECMO)使用は肺保護を目指した従来の人工呼吸器療法に比べ死亡率を低下させることが報告されている(1)。しかし、ECMOを導入したCOVID-19患者を対象とした初めての報告では、ECMO導入群の死亡率が90%を超える結果であった(2)。この報告はARDSの定義を満たしてECMOを導入されたCOVID-19患者の死亡率を検討したプール解析であったが、病態が解明されていなかった流行初期の中国の報告のみが解析の対象となった背景があり、より大規模な国際コホート研究が望まれていた。
本論文はExtracorporeal Life Support Organization(ELSO)レジストリをもとに、ECMO導入COVID-19患者の予後を明らかにすることを主な目的としたコホート研究である。対象は2020年1~5月に36カ国のECMOセンター213施設でECMOを導入された16歳以上のCOVID-19患者1,035人で、研究期間終了(解析)時点において生存退院、死亡退院、ECMO導入後90日間の追跡終了のいずれかに該当した患者は968人(94%)であった。主要評価項目はECMO導入後90日間の院内死亡率(生存時間解析)であった。
対象患者の年齢中央値は49歳、男性が74%を占めていた。70%の患者が肥満、糖尿病、喘息、呼吸器疾患、腎不全、心疾患、免疫不全などの基礎疾患を有していた。ARDSのベルリン定義を満たしたのは79%であった。患者全体の90日院内死亡率は37.4%(95% CI, 34.4~40.4)であり、ARDSのベルリン定義を満たし、静脈脱血-静脈送血(V-V)ECMOを導入された群では38.0%(34.6~41.5)であった。これはCOVID-19以外の病態を誘因としたARDSに対してECMOを導入された患者における死亡率の既報(3)と同程度であった。また、ECMO使用中の出血性合併症として、6%の患者が脳出血を発症したが、これも非COVID-19患者の既報(1)と同程度であった。
本論文は重症呼吸不全を呈したCOVID-19患者に対してECMOの導入とECMOセンターでの管理を検討するよう勧めている世界保健機関(WHO)のガイドラインを支持する結果を示した。本論文の対象期間はステロイドや抗ウイルス薬に関する知見が集積する以前であったため、ステロイドは41%、レムデシビルは8%の使用にとどまり、現在の標準的治療が反映されていない点もある。標準化治療を行った上でのECMO導入率や死亡率の解明、肺保護戦略を徹底した人工呼吸器管理とECMOの有効性の比較にはさらなる研究が必要である。
1. Munshi L, et al. Lancet Respir Med. 2019;7(2):163-172.
2. Henry BM, et al. J Crit Care. 2020;58:27-28.
3. Combes A, et al. N Engl J Med. 2018;378(21):1965-1975.