「急性呼吸促迫症候群」の記事一覧

COVID-19患者の病理解剖所見および静脈血栓塞栓症 前向きコホート試験
COVID-19患者の病理解剖所見および静脈血栓塞栓症 前向きコホート試験
Autopsy Findings and Venous Thromboembolism in Patients With COVID-19: A Prospective Cohort Study Ann Intern Med. 2020 Aug 18;173(4):268-277. doi: 10.7326/M20-2003. Epub 2020 May 6. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】新型コロナウイルス、SARSコロナウイルス2(SARS-CoV-2)によって、世界で21万人以上が死亡している。しかし、死因やウイルス病理学的特徴についてはほとんど明らかになっていない。 【目的】病理解剖、死亡時画像診断およびウイルス学的検査のデータから臨床的特徴を検証し、比較すること。 【デザイン】前向きコホート試験。 【設定】ドイツ・ハンブルク州から委託され、大学病院1施設で実施したPCR検査でCOVID-19診断が確定した患者の病理解剖。 【患者】COVID-19陽性で死亡した最初の連続症例12例。 【評価項目】死後CT検査、組織学的およびウイルス学的解析を含む死体解剖を実施した。臨床データおよび疾患の経過を評価した。 【結果】患者の平均年齢は73歳(範囲52~87歳)、患者の75%が男性であり、病院内(10例)または外来病棟(2例)で死亡が発生した。冠動脈疾患、喘息または慢性閉塞性呼吸器疾患が最も頻度の高い併存疾患であった(それぞれ50%、25%)。解剖から、12例中7例(58%)に深部静脈血栓症があったことが明らかになったが、いずれも死亡前に静脈血栓塞栓症の疑いはなかった。4例では肺塞栓が直接的な死因であった。死後CT検査で8例に両肺にコンソリデーションを伴う網状浸潤影、病理組織学的検査で8例にびまん性肺胞傷害が認められた。全例の肺から高濃度のSARS-CoV-2 RNAが検出された。10例中6例からウイルス血症、12例中5例からは肝臓や腎臓、心臓からも高濃度のウイルスRNAが検出された。 【欠点】検体数が少ない点。 【結論】静脈血栓塞栓症が高頻度に見られることから、COVID-19による凝固障害が重要な役割を演じていることが示唆される。COVID-19による死亡の分子的構造および全体の発生率、死亡を抑制するための有望な治療法を明らかにすべく、詳細な研究が必要とされる。 第一人者の医師による解説 死に至る病態はびまん性肺胞傷害で急速悪化のケースと 合併症により徐々に衰弱するケースか 福澤 龍二 国際医療福祉大学大学院医学研究科基礎医学研究分野・医学部病理学教授 MMJ. February 2021;17(1):8 本論文は、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症(COVID-19)12例(全例基礎疾患あり)の臨床像、血液、凝固系、PCRなどの検査所見、死後のCT、病理解剖所見を報告している。剖検による死因として全例に肺病変が挙げられ、2種類の肺病理像に分類できる。 (1)間質性肺炎(IP)─びまん性肺胞傷害(DAD):8例は、IPが先行しDADに進展した症例であった。血液、肺、その他複数の臓器からSARS-CoV-2が検出され、ウイルス血症による全身への播種、IPとの関連が示唆される。 (2)気管支肺炎(BP):残り4例は、末梢気道への好中球浸潤を主体とするBPであった。間質性病変はなく、経気道的な細菌感染が示唆される。このようなウイルス性IPの組織像が明確でない症例でも、肺組織からウイルスが検出されていることから、ウイルスが気道上皮細胞に感染し、粘液線毛クリアランスを低下させることが細菌感染の一因と思われる。 肺病理像に基づいて、血液凝固異常との関連をみると、IP-DAD症例8例中6例に深在静脈血栓が形成され、4例は肺塞栓を伴っていた。全例が病院外で突然死または集中治療室で死亡している。重篤な呼吸障害を起こすDADに加え、肺塞栓を高頻度に認める解剖所見は死亡時の状況を反映している。一方、BPの症例では、肺塞栓はなく、静脈血栓を1例のみ認めた。全例が一般病棟で支持療法中に死亡しており、経過は緩徐で、IP-DADに比べ血液凝固異常は起こりにくい病態であることが示唆される。 以上から、COVID-19により死に至る病態は以下の2つが想定される:①IPが先行し、DAD発症により急速に呼吸状態が悪化し、重症化する(急性呼吸促迫症候群)。また、血液凝固異常の頻度が高く、肺塞栓症の併発は循環動態をも悪化させ、急死に至らしめる。全身性病態へ進展する背景には、ウイルスの全身播種とこれに対する宿主の過剰防御反応(サイトカインストーム)が想定され、過剰な免疫反応がCOVID-19関連死の最大の誘因と考えられる②合併症(BP増悪や敗血症への進展)により徐々に衰弱し死亡すると思われる病態。これらの症例ではIP(肺胞壁の炎症・免疫応答)がみられないことから、ウイルスは肺胞上皮までは感染していないか、しても複製量が少なく肺外に拡がりにくい可能性がある。このため、過剰な免疫反応が起こりにくく、DADに至らず、凝固異常の頻度も低いと推測される。 〈脚注〉 IP:多くはウイルスが原因である。上気道粘膜に侵襲したウイルスが肺胞に至り、肺胞壁にリンパ球主体の炎症が起き、肺野にびまん性に拡がりやすい。DAD:急性呼吸促迫症候群の肺病理像で、肺胞壁の毛細血管から肺胞内への滲出性変化(硝子膜の形成)を特徴とする。誘発因子は肺炎、敗血症など。 BP:細菌の気道感染により発症する。気管支・肺胞内に炎症を起こす局所的な肺炎で、炎症は好中球が主体である。
COVID-19重症患者に用いる全身性コルチコステロイド投与と死亡率の関連メタ解析
COVID-19重症患者に用いる全身性コルチコステロイド投与と死亡率の関連メタ解析
Association Between Administration of Systemic Corticosteroids and Mortality Among Critically Ill Patients With COVID-19: A Meta-analysis JAMA. 2020 Oct 6;324(13):1330-1341. doi: 10.1001/jama.2020.17023. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【重要性】新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の有効な治療法が必要であり、臨床試験データから、低用量デキサメタゾンで呼吸管理を要するCOVID-19入院患者の死亡率が低下することが示されている。 【目的】通常治療またはプラセボと比較したコルチコステロイド投与と28日全死因死亡率との関連を推定すること。 【デザイン、設定および参加者】COVID-19重症患者1703例を対象にコルチコステロイドの有効性を評価した無作為化臨床試験7件のデータを統合した前向きメタ解析。試験は、2020年2月26日から6月9日にかけて12カ国で実施され、最終追跡日は2020年7月6日であった。個々の試験、全体および事前に定義した下位集団別に統合したデータを集計した。Cochrane Risk of Bias Assessment Tool用いてバイアスリスクを評価した。I2統計量を用いて試験間の結果の非一貫性を評価した。主要解析は、全死因死亡率の分散逆数重み付け固定効果メタ解析とし、介入と死亡率との関連はオッズ比(OR)で定量化した。このほか、(異質性のPaule-Mandel推定値とHartung-Knapp調整を用いて)変量効果メタ解析、リスク比を用いて分散逆数重み付け固定効果解析を実施した。 【曝露】患者をデキサメタゾン、ヒドロコルチゾン、メチルプレドニゾロンいずれかの全身投与群(678例)と通常治療またはプラセボ投与群(1025例)に無作為に割り付けた。 【主な転帰評価項目】主要転帰評価項目は、無作為化後28日時の全死因死亡率とした。治験責任医師が定義した重篤な有害事象を副次評価項目とした。 【結果】計1703例(年齢中央値60歳[四分位範囲52~68歳]、女性488例[29%])を解析の対象とした。試験7件中6件で死亡率の結果が「低度」、1件は無作為化法が「懸念あり」とバイアスリスクを評価した。5試験が28日時の死亡率、1試験が21日死亡率、1試験が30日死亡率を報告していた。コルチコステロイドに割り付けた678例中222例、通常治療またはプラセボに割り付けた1025例中425例が死亡した(OR要約値0.66[95%CI 0.53~0.82]、固定効果メタ解析に基づくP<0.001)。試験間の結果は不一致性がほとんどなく(I2=15.6%、異質性のP=0.31)、変量効果メタ解析に基づくOR要約値は0.70(95%CI 0.48~1.01、P=0.053)であった。 死亡の関連を示す固定効果OR要約値は、通常治療またはプラセボと比較して、デキサメタゾンで0.64(95%CI 0.50~0.82、P<0.001、3試験計1282例中527例死亡)、ヒドロコルチゾで0.69(同0.43~1.12、P=0.13、3試験計374例中94例死亡)、メチルプレドニゾロンで0.91(同0.29~2.87、P=0.87、1試験47例中26例死亡)であった。重篤な有害事象が報告された6試験のうち、64件がコルチコステロイド投与群354例、80件が通常治療またはプラセボ群342例に発生した。 【結論および意義】COVID-19重症患者を対象とした臨床試験の前向きメタ解析では、通常治療またはプラセボと比較すると、全身性副腎皮質ステロイド投与によって28日全死因死亡率が低下した。 第一人者の医師による解説 COVID-19に対するステロイド療法 当面デキサメタゾン 6mg投与が望ましい 藤島 清太郎 慶應義塾大学医学部総合診療教育センター・センター長 MMJ. April 2021;17(2):42 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックの中、世界でさまざまな臨床試験が同時進行的に行われ、その成果が日々オンライン上で公表されている。治療薬としては抗ウイルス薬に加えて、副腎皮質ステロイドやトシリズマブなどの抗炎症薬も有力な候補となっている。 本論文は、2020年2~6月に12カ国で実施された重症COVID-19患者を対象とした7件のランダム化対照試験(RCT)の世界保健機関(WHO)による前向きメタ解析である。本解析には1,703人の患者が組み入れられ、ステロイド投与群で有意な28日死亡率の低下を認め、重篤な有害事象には差がなかった。サブ解析では、投与薬別でデキサメタゾン(DEX)(3試験、1,282人)でのみ有意差があり、ヒドロコルチゾン(3試験、374人)とメチルプレドニゾロン(1試験、47人)では差を認めなかった。以上の結果は、解析対象患者の57%を英国のRECOVERY試験参加者が占めていることを踏まえて解釈する必要がある。同 RCTではDEX 6mg/日の最長10日間投与による有意な28日死亡率改善が示された。サブ解析では人工呼吸管理群、酸素投与群での有効性が示唆されている。一方、本論文のメタ解析では、より高用量や他のステロイドの有用性は明らかになっていない。 また、COVID-19重症例は敗血症、急性呼吸促迫症候群(ARDS)を高率に合併するが、抗炎症薬の適応や投与量の判断に当たっては、両病態に対する抗炎症薬開発の歴史も踏まえる必要がある。すなわち、過去半世紀以上にわたり膨大な数の抗炎症薬 RCTが実施された中で、最近の一部ステロイド試験を除き生存率改善効果が認められず、サイトカインストームに代表される過剰炎症反応が病態形成や不良転帰に関与しているという単純仮説は両病態に必ずしも当てはまらない可能性がある。COVID-19病態下では、炎症性サイトカイン値が他の原因によるARDSや敗血症よりもむしろ低く、DEXが免疫異常の修復により効果を発揮している可能性も最近示されている(1),(2)。以上を勘案すると、現状ではステロイド療法の適応と判断したCOVID-19患者に対し、DEX 6mg/日の投与が妥当と思われる。今後は、患者要因、重症度、診断マーカーなどに基づく治療の個別化に向けたさらなる研究の遂行が望まれる。 本論文以降も新たなメタ解析が逐次公表されており、これらの最新版を活用し(3)、不応性の病態に探索的な治療を行った場合は、その結果にかかわらずエビデンスとして集積・発信していくことが、将来的な治療成績の向上につながることを申し添えたい。 1. Sarma A, et al. Res Sq. 2021:rs.3.rs-141578. 2. Leisman DE, et al. Lancet Respir Med. 2020;8(12):1233-1244. 3. 日本版敗血症診療ガイドライン 2020 特別委員会 . COVID-19 薬物療法に関する Rapid/Living recommendations 第三版 . 2021.
COVID-19に用いる体外式模型人工肺支援 体外生命維持機構レジストリの国際コホート研究
COVID-19に用いる体外式模型人工肺支援 体外生命維持機構レジストリの国際コホート研究
Extracorporeal membrane oxygenation support in COVID-19: an international cohort study of the Extracorporeal Life Support Organization registry Lancet. 2020 Oct 10;396(10257):1071-1078. doi: 10.1016/S0140-6736(20)32008-0. Epub 2020 Sep 25. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】COVID-19に伴う急性低酸素血症性呼吸不全に対して、主要医療機関の多くが体外式模型人工肺(ECMO)による支援を推奨している。しかし、COVID-19に対するECMO使用の初期報告から、死亡率が非常に高いことが明らかになり、これまでにCOVID-19に用いるECMOを検討する大規模な国際的コホート研究は報告されていない。 【方法】2020年1月16日から5月1日の間に36カ国213施設でECMOによる支援を開始したCOVID-19確定患者(16歳以上)の疫学、入院経過および転帰を明らかにするため、体外生命維持機構(ELSO)レジストリのデータを用いた。主要転帰は、ECMO開始90日時に生存時間解析で評価した院内死亡とした。多変量Coxモデルを用いて、患者および病院因子に院内死亡率と関連があるかを検討した。 【結果】ECMO支援を用いたCOVID-19患者1035例のデータをこの研究の対象とした。このうち、67例(6%)が入院中、311例(30%)が自宅に退院または急性期リハビリ施設に転院、101例(10%)は長期急性期医療施設に転院または転院先不明、176例(17%)が他院に転院、380例(37%)が死亡した。ECMO開始90日後の院内死亡の推定累積発生率は37.4%(95%CI 34.4~40.4)であった。最終記録が死亡または退院だった患者の死亡率が39%(968例中380例)であった。循環補助を目的としたECMOの使用には、院内死亡率上昇と独立の関連があった(ハザード比1.89、95%CI 1.20~2.97)。静脈-静脈方式ECMO支援を受け、急性呼吸窮迫症候群の特徴が見られたCOVID-19患者の下位集団では、ECMO開始90日後の院内死亡の累積発生率は38.0%(95%CI 34.6~41.5)であった。 【解釈】ECMOを実施したCOVID-19患者で、ECMO開始90日後の推定死亡率および最終記録が死亡または退院だった患者の死亡率はいずれも40%未満であった。世界213施設から得られた今回のデータは、COVID-19に用いるECMOの死亡率の一般化可能な推定値を提示するものである。 第一人者の医師による解説 非 COVID-19関連 ARDSのECMO導入後死亡率と同程度 肺保護人工呼吸器療法との比較にはRCTが必要 佐藤 ルブナ(フェロー)/大曲 貴夫(センター長) 国立国際医療研究センター病院国際感染症センター MMJ. April 2021;17(2):44 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行以前には、急性呼吸促迫症候群(ARDS)患者に対する体外式膜型人工肺(ECMO)使用は肺保護を目指した従来の人工呼吸器療法に比べ死亡率を低下させることが報告されている(1)。しかし、ECMOを導入したCOVID-19患者を対象とした初めての報告では、ECMO導入群の死亡率が90%を超える結果であった(2)。この報告はARDSの定義を満たしてECMOを導入されたCOVID-19患者の死亡率を検討したプール解析であったが、病態が解明されていなかった流行初期の中国の報告のみが解析の対象となった背景があり、より大規模な国際コホート研究が望まれていた。 本論文はExtracorporeal Life Support Organization(ELSO)レジストリをもとに、ECMO導入COVID-19患者の予後を明らかにすることを主な目的としたコホート研究である。対象は2020年1~5月に36カ国のECMOセンター213施設でECMOを導入された16歳以上のCOVID-19患者1,035人で、研究期間終了(解析)時点において生存退院、死亡退院、ECMO導入後90日間の追跡終了のいずれかに該当した患者は968人(94%)であった。主要評価項目はECMO導入後90日間の院内死亡率(生存時間解析)であった。 対象患者の年齢中央値は49歳、男性が74%を占めていた。70%の患者が肥満、糖尿病、喘息、呼吸器疾患、腎不全、心疾患、免疫不全などの基礎疾患を有していた。ARDSのベルリン定義を満たしたのは79%であった。患者全体の90日院内死亡率は37.4%(95% CI, 34.4~40.4)であり、ARDSのベルリン定義を満たし、静脈脱血-静脈送血(V-V)ECMOを導入された群では38.0%(34.6~41.5)であった。これはCOVID-19以外の病態を誘因としたARDSに対してECMOを導入された患者における死亡率の既報(3)と同程度であった。また、ECMO使用中の出血性合併症として、6%の患者が脳出血を発症したが、これも非COVID-19患者の既報(1)と同程度であった。 本論文は重症呼吸不全を呈したCOVID-19患者に対してECMOの導入とECMOセンターでの管理を検討するよう勧めている世界保健機関(WHO)のガイドラインを支持する結果を示した。本論文の対象期間はステロイドや抗ウイルス薬に関する知見が集積する以前であったため、ステロイドは41%、レムデシビルは8%の使用にとどまり、現在の標準的治療が反映されていない点もある。標準化治療を行った上でのECMO導入率や死亡率の解明、肺保護戦略を徹底した人工呼吸器管理とECMOの有効性の比較にはさらなる研究が必要である。 1. Munshi L, et al. Lancet Respir Med. 2019;7(2):163-172. 2. Henry BM, et al. J Crit Care. 2020;58:27-28. 3. Combes A, et al. N Engl J Med. 2018;378(21):1965-1975.