ライブラリー COVID-19重症患者に用いる全身性コルチコステロイド投与と死亡率の関連メタ解析
Association Between Administration of Systemic Corticosteroids and Mortality Among Critically Ill Patients With COVID-19: A Meta-analysis
JAMA. 2020 Oct 6;324(13):1330-1341. doi: 10.1001/jama.2020.17023.
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上記論文の日本語要約
【重要性】新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の有効な治療法が必要であり、臨床試験データから、低用量デキサメタゾンで呼吸管理を要するCOVID-19入院患者の死亡率が低下することが示されている。
【目的】通常治療またはプラセボと比較したコルチコステロイド投与と28日全死因死亡率との関連を推定すること。
【デザイン、設定および参加者】COVID-19重症患者1703例を対象にコルチコステロイドの有効性を評価した無作為化臨床試験7件のデータを統合した前向きメタ解析。試験は、2020年2月26日から6月9日にかけて12カ国で実施され、最終追跡日は2020年7月6日であった。個々の試験、全体および事前に定義した下位集団別に統合したデータを集計した。Cochrane Risk of Bias Assessment Tool用いてバイアスリスクを評価した。I2統計量を用いて試験間の結果の非一貫性を評価した。主要解析は、全死因死亡率の分散逆数重み付け固定効果メタ解析とし、介入と死亡率との関連はオッズ比(OR)で定量化した。このほか、(異質性のPaule-Mandel推定値とHartung-Knapp調整を用いて)変量効果メタ解析、リスク比を用いて分散逆数重み付け固定効果解析を実施した。
【曝露】患者をデキサメタゾン、ヒドロコルチゾン、メチルプレドニゾロンいずれかの全身投与群(678例)と通常治療またはプラセボ投与群(1025例)に無作為に割り付けた。
【主な転帰評価項目】主要転帰評価項目は、無作為化後28日時の全死因死亡率とした。治験責任医師が定義した重篤な有害事象を副次評価項目とした。
【結果】計1703例(年齢中央値60歳[四分位範囲52~68歳]、女性488例[29%])を解析の対象とした。試験7件中6件で死亡率の結果が「低度」、1件は無作為化法が「懸念あり」とバイアスリスクを評価した。5試験が28日時の死亡率、1試験が21日死亡率、1試験が30日死亡率を報告していた。コルチコステロイドに割り付けた678例中222例、通常治療またはプラセボに割り付けた1025例中425例が死亡した(OR要約値0.66[95%CI 0.53~0.82]、固定効果メタ解析に基づくP<0.001)。試験間の結果は不一致性がほとんどなく(I2=15.6%、異質性のP=0.31)、変量効果メタ解析に基づくOR要約値は0.70(95%CI 0.48~1.01、P=0.053)であった。
死亡の関連を示す固定効果OR要約値は、通常治療またはプラセボと比較して、デキサメタゾンで0.64(95%CI 0.50~0.82、P<0.001、3試験計1282例中527例死亡)、ヒドロコルチゾで0.69(同0.43~1.12、P=0.13、3試験計374例中94例死亡)、メチルプレドニゾロンで0.91(同0.29~2.87、P=0.87、1試験47例中26例死亡)であった。重篤な有害事象が報告された6試験のうち、64件がコルチコステロイド投与群354例、80件が通常治療またはプラセボ群342例に発生した。
【結論および意義】COVID-19重症患者を対象とした臨床試験の前向きメタ解析では、通常治療またはプラセボと比較すると、全身性副腎皮質ステロイド投与によって28日全死因死亡率が低下した。
第一人者の医師による解説
COVID-19に対するステロイド療法 当面デキサメタゾン 6mg投与が望ましい
藤島 清太郎 慶應義塾大学医学部総合診療教育センター・センター長
MMJ. April 2021;17(2):42
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックの中、世界でさまざまな臨床試験が同時進行的に行われ、その成果が日々オンライン上で公表されている。治療薬としては抗ウイルス薬に加えて、副腎皮質ステロイドやトシリズマブなどの抗炎症薬も有力な候補となっている。
本論文は、2020年2~6月に12カ国で実施された重症COVID-19患者を対象とした7件のランダム化対照試験(RCT)の世界保健機関(WHO)による前向きメタ解析である。本解析には1,703人の患者が組み入れられ、ステロイド投与群で有意な28日死亡率の低下を認め、重篤な有害事象には差がなかった。サブ解析では、投与薬別でデキサメタゾン(DEX)(3試験、1,282人)でのみ有意差があり、ヒドロコルチゾン(3試験、374人)とメチルプレドニゾロン(1試験、47人)では差を認めなかった。以上の結果は、解析対象患者の57%を英国のRECOVERY試験参加者が占めていることを踏まえて解釈する必要がある。同 RCTではDEX 6mg/日の最長10日間投与による有意な28日死亡率改善が示された。サブ解析では人工呼吸管理群、酸素投与群での有効性が示唆されている。一方、本論文のメタ解析では、より高用量や他のステロイドの有用性は明らかになっていない。
また、COVID-19重症例は敗血症、急性呼吸促迫症候群(ARDS)を高率に合併するが、抗炎症薬の適応や投与量の判断に当たっては、両病態に対する抗炎症薬開発の歴史も踏まえる必要がある。すなわち、過去半世紀以上にわたり膨大な数の抗炎症薬 RCTが実施された中で、最近の一部ステロイド試験を除き生存率改善効果が認められず、サイトカインストームに代表される過剰炎症反応が病態形成や不良転帰に関与しているという単純仮説は両病態に必ずしも当てはまらない可能性がある。COVID-19病態下では、炎症性サイトカイン値が他の原因によるARDSや敗血症よりもむしろ低く、DEXが免疫異常の修復により効果を発揮している可能性も最近示されている(1),(2)。以上を勘案すると、現状ではステロイド療法の適応と判断したCOVID-19患者に対し、DEX 6mg/日の投与が妥当と思われる。今後は、患者要因、重症度、診断マーカーなどに基づく治療の個別化に向けたさらなる研究の遂行が望まれる。
本論文以降も新たなメタ解析が逐次公表されており、これらの最新版を活用し(3)、不応性の病態に探索的な治療を行った場合は、その結果にかかわらずエビデンスとして集積・発信していくことが、将来的な治療成績の向上につながることを申し添えたい。
1. Sarma A, et al. Res Sq. 2021:rs.3.rs-141578.
2. Leisman DE, et al. Lancet Respir Med. 2020;8(12):1233-1244.
3. 日本版敗血症診療ガイドライン 2020 特別委員会 . COVID-19 薬物療法に関する Rapid/Living recommendations 第三版 . 2021.