「MMJ - 五大医学誌の論文を著名医師が解説」の記事一覧

HPV遺伝子型起因の子宮頸部浸潤がんの割合 グローバルな全体像が初めて示される
HPV遺伝子型起因の子宮頸部浸潤がんの割合 グローバルな全体像が初めて示される
Causal attribution of human papillomavirus genotypes to invasive cervical cancer worldwide: a systematic analysis of the global literature Lancet. 2024 Aug 3;404(10451):435-444. doi: 10.1016/S0140-6736(24)01097-3. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ 論文検索による機械翻訳です。 背景:異なるヒトパピローマウイルス(HPV)遺伝子型による浸潤性子宮頸がん(ICC)の割合を理解することは、特定のHPV遺伝子型を標的とした一次予防(ワクチン接種など)および二次予防(スクリーニングなど)の取り組みに役立つ。しかし、世界的な文献を使用して集団帰属率(AF)を推定するには、集約されたデータからHPV遺伝子型固有の因果関係を扱うための方法論的枠組みが必要である。われわれは、異なるHPV遺伝子型に起因するICCの割合を、世界レベル、地域レベル、国レベルで推定することを目的とした。 方法:この系統的レビューでは、ICCまたは子宮頸部細胞診正常者におけるHPV遺伝子型特異的有病率を報告した研究を同定した。2024年2月29日までのPubMed、Embase、Scopus、およびWeb of Scienceを、検索語「子宮頸部」および「HPV」を用いて言語制限なしで検索した。オッズ比(OR)は、地域、論文発表年、HPVプライマーまたは検査で調整したロジスティック回帰モデルを用いて、HPV陽性ICCと正常子宮頸部細胞診のHPV遺伝子型特異的有病率を比較することにより推定した。ORの95%CIの下限が1-0より大きいHPV遺伝子型をICCと因果関係があると判定した。対応する地域遺伝子型特異的AFは、ICCにおける地域HPV有病率に(1-[1/OR])を乗じて算出し、合計100%に比例調整した。グローバルAFは、地域AFを2022年の地域ICC症例数で加重平均して算出した(GLOBOCAN)。 結果:システマティックレビューでは、HPV陽性ICC症例111 902例と正常子宮頸部細胞診症例2755 734例を含む1174件の研究が同定された。17のHPV遺伝子型がICCと因果関係があると考えられ、ORはHPV16の48-3(95%CI 45-7-50-9)からHPV51の1-4(1-2-1-7)までと幅が広かった。HPV16のグローバルAFが最も高く(61-7%)、次いでHPV18(15-3%)、HPV45(4-8%)、HPV33(3-8%)、HPV58(3-5%)、HPV31(2-8%)、HPV52(2-8%)であった。残りの原因遺伝子型(HPV35、59、39、56、51、68、73、26、69、82)のAFは、合計で5-3%であった。HPV16と18、HPV16、18、31、33、45、52、58を合わせたAFは、アフリカで最も低く(それぞれ71-9%、92-1%)、中央アジア、西アジア、南アジアで最も高かった(それぞれ83-2%、95-9%)。HPV35のAFはアフリカで3-6%と他の地域(0-6-1-6%)より高かった。 解釈:本研究は、HPVワクチン接種の影響を受ける前のICCにおけるHPV遺伝子型特異的AFの包括的な世界像を提供する。これらのデータは、ICCの負担を軽減するためのHPV遺伝子型特異的ワクチン接種およびスクリーニング戦略に役立つ。 資金提供:EU Horizon 2020 研究革新プログラム。 第一人者の医師による解説 HPV遺伝子型の人口寄与割合のデータは ワクチンとスクリーニングの戦略に有用 森定 徹 杏林大学医学部産科婦人科学教室准教授 MMJ.April 2025;21(1):20 子宮頸がんをはじめ、肛門がん、腟がんなどの多くのがんの発生に関わっているヒトパピローマウイルス(HPV)には、200種類以上の遺伝子型があることが知られている。HPVの各遺伝子型はその発がん性と有病率について多様性がある。遺伝子型の違いによる子宮頸部浸潤がんの割合を把握することはHPV遺伝子型を標的としたがん対策としての1次予防(ワクチン接種など)、2次予防(がん検診など)に有用である。 この論文では、広範囲な文献検索により、異なるHPV遺伝子型に起因する子宮頸部浸潤がんの人口寄与割合(population attributable fraction) を推定している。系統的文献レビューでは、HPV陽性の子宮頸部浸潤がん罹患者または子宮頸部細胞診の正常例における遺伝子型別のHPV保有率を報告した研究をPubMed、Embase、Scopus、Web of Scienceから“cervix”および“HPV”の検索語で検索している。オッズ比はロジスティック回帰モデルを用いて子宮頸部浸潤がんと細胞診正常例の間で遺伝子型別のHPV保有率を比較することで推定した。 その結果、121カ国の子宮頸部浸潤がん罹患者111,902 人と細胞診正常例2 ,755 ,734 人を含めた1,174件の研究を対象に解析が行われ、オッズ比の95% CI下限値が1.0を超えた17のHPV遺伝子型が子宮頸部浸潤がんと因果関係があると考えられた。HPV16型のグローバル寄与割合が最も高く(61.7%)、次いでHPV18型(15.3%)、HPV45型(4 .8%)、HPV33型(3.8%)、HPV58型(3.5%)、HPV31型(2.8%)、HPV52型(2.8%)であった。残りの10種類の原因遺伝子型(HPV35、59、39、56、51、68、73、26、69、82型)によるグローバル寄与割合は合計で5 .3%であった。HPV16 型と18 型の合計、およびHPV16、18、31、33、45、52、58型の合計による寄与割合は、アフリカで最も低く(それぞれ71.9%、92.1%)、アジアで高い傾向であった(それぞれ83 .2%、95 .9%)。地域差としてHPV35 型の寄与割合はアフリカで3.6%と他の地域(0.6〜1.6%)より高かった。 本研究では、原因となるHPV遺伝子型に起因する子宮頸部浸潤がんの割合について、世界全体および地域における包括的なデータが得られ、グローバルな全体像が初めて示された。このデータはHPV遺伝子型に特異的なワクチンの接種およびスクリーニングの戦略に役立つと考えられる。
絶対的な子宮不妊に対する子宮移植 良好な成績で有効性と安全性を確認
絶対的な子宮不妊に対する子宮移植 良好な成績で有効性と安全性を確認
Uterus Transplant in Women With Absolute Uterine-Factor Infertility JAMA. 2024 Sep 10;332(10):817-824. doi: 10.1001/jama.2024.11679. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ 論文検索による機械翻訳です。 重要性:絶対子宮因子不妊症の女性に対する子宮移植は、自らの妊娠の可能性を提供する。 目的:子宮移植が実行可能で安全であり、その結果、健康な乳児が誕生するかどうかを明らかにすること。 デザイン、設定、参加者2016年9月14日から2019年8月23日の間に米国の大規模3次医療施設で子宮移植を受けた、子宮因子性不妊で少なくとも1個の卵巣が機能している20人の参加者を含むケースシリーズ。 介入:子宮移植(生体ドナー18例、死亡ドナー2例から)は、外腸骨血管に血管吻合を行い、同所的に手術で設置された。参加者は、1~2回の生児出産後または移植失敗後に移植子宮が摘出されるまで免疫抑制を受けた。 主な転帰と評価基準子宮移植片の生存率およびその後の出生数。 結果:20人の参加者(年齢中央値、30歳[範囲、20~36歳];アジア系2人、黒人1人、白人16人)のうち、14人(70%)が子宮移植に成功した;14人のレシピエント全員が少なくとも1人の生児を出産した。レシピエント20人中11人に少なくとも1件の合併症がみられた。母体および/または産科合併症は、成功した妊娠の50%に発生し、最も多かったのは妊娠高血圧症候群(2例[14%])、子宮頸管機能不全(2例[14%])、早産(2例[14%])であった。16人の出生児に先天奇形はみられなかった。18人の生体ドナーのうち4人にグレード3の合併症がみられた。 結論と意義:子宮移植は技術的に可能であり、移植片の生存に成功した後の高い生児出生率と関連していた。有害事象は一般的であり、医学的および外科的リスクはレシピエントだけでなくドナーにも影響した。先天異常や発達の遅れは、現在までのところ出生児には生じていない。 臨床試験登録:ClinicalTrials.gov ID:NCT02656550。 第一人者の医師による解説 症例数は少なく単一施設事例 データ集積が今後の課題 末岡 浩 静岡社会健康医学大学院大学教授 MMJ.April 2025;21(1):21 不妊治療に対する技術革新とその普及は急速で、あらゆる不妊原因に対して、日夜対応が検討されてきた。体外受精に代表される生殖補助技術がその代表的なものである。その中で妊娠出産をするための最後の臓器が子宮であり、子宮が機能しない、または先天的にない女性に対しての医療対応が残されてきた。それに対して、他の臓器移植と同様に提供者からの子宮を移植して妊孕性を創造しようとする技術が子宮移植である。 この課題に対して、これまでにスウェーデンなどで子宮移植による治療が開始され、その成績も報告されてきた。また死亡者からの提供子宮に関する報告もなされてきた。中には公的医療補助のもとに行われてきた国もあるが、なお実施例も少なく、そのエビデンスについては不明な点が少なくない。他の臓器移植と異なる課題は、移植の生着率、ドナーおよびレシピエントの安全性に加え、この治療の目的が妊娠出産に至るエビデンスが求められることにある。免疫抑制剤の使用法や安全性、妊娠成績、妊娠経過中および出産における安全性、出生児の予後などについて多様な検討が必要である。 本論文はダラス子宮移植研究(DUETS)のデザインに基づき、20症例の移植事例を対象とした症例累積研究の報告である。子宮提供者の9割は生存者、1割が死亡者からの子宮を移植し、70%に移植子宮が生着し、全症例で出産までの妊娠が成功した。母体の妊娠合併症として妊娠高血圧症や頸管無力症などの通常妊娠でも生じる病態の発生が確認されたが、生児に関して合併症などの異常は何ら認められなかった。なお、症例数は少なく、しかも単一施設事例であることなど、データ集積が必要であることは今後の課題として残るが、良好な成績から、有効性と安全性が確認できていることが報告された。 この実施プロトコールでは、妊娠は体外受精によるものであり、その治療時期に関しても移植後、比較的短期に胚移植を実施している。その理由は免疫抑制剤の使用への配慮である。妊娠を終了した後には帝王切開時に摘出する症例を含め、速やかに子宮摘出を行っている。分娩方式についても、9割の対象者がMayer-Rokitansky- Küster-Hauser症候群であり、先天的に腟形成不全により経腟分娩ができないため、帝王切開分娩が行われている。子宮移植の適応は限定される可能性が高いが、これまで残されてきた子宮の不妊因子に対する新たな治療法として脚光と期待を浴びている。
新生血管型加齢黄斑変性に対する定位放射線治療 抗VEGF治療回数を低減
新生血管型加齢黄斑変性に対する定位放射線治療 抗VEGF治療回数を低減
Stereotactic radiotherapy for neovascular age-related macular degeneration (STAR): a pivotal, randomised, double-masked, sham-controlled device trial Lancet. 2024 Jul 6;404(10447):44-54. doi: 10.1016/S0140-6736(24)00687-1. Epub 2024 Jun 11. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ 論文検索による機械翻訳です。 背景:血管新生加齢黄斑変性(nAMD)は失明の主要な原因である。第一選択治療は抗血管内皮増殖因子薬(抗VEGF薬)の硝子体内注射である。電離放射線は、nAMDの基礎となる主要な発症過程を緩和するため、治療の可能性がある。STARの目的は、定位放射線治療(SRT)が視力を犠牲にすることなく、抗VEGF注射の必要回数を減らすかどうかを評価することであった。 方法:この重要な無作為化二重マスク偽薬対照試験には、英国の30の病院から前治療歴のある慢性活動性nAMD患者が登録された。参加者は、ロボット制御装置による16グレイ(Gy)のSRTと偽SRTに2:1の割合で無作為に割り付けられ、治療センターごとに層別化された。参加資格は、年齢50歳以上で、慢性活動性nAMDを有し、少なくとも3回の抗VEGF注射歴(少なくとも過去4ヵ月間に1回を含む)がある者であった。参加者、すべての試験および画像読影センタースタッフは、マスクされていない統計担当者1名を除き、治療割り付けについてマスクされた。主要アウトカムは2年間に必要なラニビズマブ硝子体内注射の回数で、優越性(注射回数が少ない)を検証した。主要副次アウトカムは2年後の早期治療糖尿病網膜症研究の視力で、非劣性(5文字のマージン)を検証した。主要解析ではintention-to-treatの原則が用いられ、安全性はデータが入手可能な参加者を対象にper-protocolで解析された。本試験はClinicalTrials.gov(NCT02243878)に登録され、募集は終了している。 結果:2015年1月1日から2019年12月27日までに411人が登録し、274人が16Gy SRT群に、137人が偽SRT群に無作為に割り付けられた。全参加者のうち240人(58%)が女性、171人(42%)が男性であった。16GyのSRT群241人、偽薬群118人が最終解析に組み入れられ、409人の患者が治療を受け安全集団となったが、このうち偽薬に割り付けられた2人の患者が誤って16GyのSRTを受けた。SRT群では2年間で平均10-7回(SD 6-3)の注射を受けたのに対し、偽薬群では13-3回(同 5-8回)であり、治療センターを調整した後では2-9回の減少であった(95%信頼区間-4-2~-1-6、p<0-0001)。SRT群の最良矯正視力変化は偽薬に対して非劣性であった(調整後の群間平均視力差は-1-7レター[95%CI -4-2~0-8])。有害事象発生率は各群で同程度であったが、読影センターで検出された微小血管異常はSRT群77眼(35%)、偽薬群13眼(12%)で発生した。全体として、微小血管異常のある眼はない眼よりも最高矯正視力が良好である傾向がみられた。ラニビズマブの注射回数が少なかったため、SRTの費用が相殺され、参加者1人あたり平均565ポンド(95%信頼区間-332~1483ポンド)の節約となった。 解釈:SRTは視力を損なうことなくラニビズマブ治療の負担を軽減できる。 資金提供Medical Research CouncilおよびNational Institute for Health and Care Research Efficacy and Mechanism Evaluation Programme。 第一人者の医師による解説 有用性は示されたが ラニビズマブ以外の抗VEGF薬との比較検証が望まれる 五味 文 兵庫医科大学眼科学主任教授 MMJ.April 2025;21(1):22 新生血管型加齢黄斑変性(nAMD)は、中途失明を引き起こす眼疾患の1つであり、今後も患者数の増加が見込まれる。nAMDに対する第1選択治療は抗血管内皮増殖因子(VEGF)薬の硝子体内注射であるが、長期にわたる通院管理が必要なため医師・患者にかかる負担は大きく、特に高額の薬剤費が患者の重荷となっている。放射線照射はnAMDの病的プロセスである細胞増殖や炎症・線維化を抑制し、新生血管の安定化を促進できる可能性があることから、以前からnAMD治療の1つとなる可能性が示唆されてきた。nAMDに対する放射線治療の有用性を評価した先行のINTEREPID試験では、16グレイ(Gy)または24 Gyの放射線照射により1年間に必要とされる抗VEGF薬ラニビズマブの注射回数が有意に減少した(1)。 本論文は、nAMDに対する放射線治療の有用性を、より多くの患者でより長期に評価することを目的として医師主導で実施されたSTAR試験の報告である。本試験では、抗VEGF薬治療歴があり、依然活動性を有する慢性期nAMD患者を16Gyの定位放射線治療(SRT)もしくはシャム治療に割り付け、二重盲検下で2 年間にわたり治療を行った。解析に必要とされたサンプルサイズは411人(SRT群274 人、シャム群137人)で、実際にこの患者数で試験が開始された。初回治療として、ロボット制御下でSRT群では16Gy、シャム群では0GyのX線が黄斑に照射され、照射後ただちにラニビズマブの硝子体内注射が行われた。患者は4週ごとに来院し、ラニビズマブ追加基準を満たす変化がみられた際には、注射治療を受けた。その結果、主要評価項目である2年間のラニビズマブ注射回数の平均は、SRT群10.7回、シャム群13.3回と、SRT群で有意に少なく、2群間の差は1年目より2年目において大きかった。副次評価項目の視力変化量は、SRT群で3文字、シャム群で0 .6文字の低下がみられ、調整後も有意な視力悪化がSRT群でみられたがその差は1.7文字で、非劣性基準の5文字以内であった。安全性に関して、全身性の有害事象は両群間に大差はなく、被検眼の有害事象として、網膜細小血管異常がSRT群の35%、シャム群の12%でみられたが、視力に与える影響はわずかであった。費用解析の結果では、SRT群では少ないラニビズマブ総注射回数により、患者1人あたり2年間で565ポンド(日本円約11万円)の治療コストを低減できたとのことである。 考察では、ラニビズマブ以外の抗VEGF薬、特により効果持続性のある薬剤では、SRTの効果を払拭してしまう可能性がある一方、両者の相乗効果でより大きな恩恵をもたらす可能性もある、と述べられていた。 1. Jackson TL, et al. Ophthalmology. 2013;120(9):1893-900.
再発・難治性多発性骨髄腫で ベランタマブ マホドチンを含むBVd療法は有用
再発・難治性多発性骨髄腫で ベランタマブ マホドチンを含むBVd療法は有用
Belantamab Mafodotin, Bortezomib, and Dexamethasone for Multiple Myeloma N Engl J Med. 2024 Aug 1;391(5):393-407. doi: 10.1056/NEJMoa2405090. Epub 2024 Jun 1. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ 論文検索による機械翻訳です。 背景:ベランタマブ・マフォドチンは再発または難治性の多発性骨髄腫患者において単剤で有効であり、この知見は標準治療と併用した場合の本薬のさらなる評価を支持するものである。 方法:この第 3 相非盲検無作為化試験では、少なくとも 1 ラインの治療後に多発性骨髄腫の増悪を認めた患 者において、ダラツムマブ、ボルテゾミブ、デキサメタゾン(DVd)と比較し、ベランタマブ・マフォドチ ン、ボルテゾミブ、デキサメタゾン(BVd)を評価した。主要評価項目は無増悪生存期間であった。主要な副次的エンドポイントは、全生存期間、奏効期間、および最小残存病変(MRD) 陰性状態であった。 結果:合計494人の患者がBVd療法を受ける群(243人)とDVd療法を受ける群(251人)に無作為に割り付けられた。追跡期間中央値28.2ヵ月(範囲、0.1~40.0)において、無増悪生存期間中央値はBVd群で36.6ヵ月(95%信頼区間[CI]、28.4~未到達)、DVd群で13.4ヵ月(95%CI、11.1~17.5)であった(病勢進行または死亡のハザード比、0.41;95%CI、0.31~0.53;P<0.001)。18ヵ月時点の全生存率はBVd群で84%、DVd群で73%であった。制限平均奏効期間の解析では、BVd群がDVd群より有利であった(P<0.001)。完全奏効以上かつMRD陰性は、BVd群では25%、DVd群では10%であった。グレード3以上の有害事象は、BVd群では95%、DVd群では78%に発現した。眼イベントはDVd群よりもBVd群で多くみられた(79%対29%)。このようなイベントは用量の変更で管理され、視力悪化のイベントはほとんど消失した。 結論:BVd 療法は DVd 療法と比較して、少なくとも 1 ラインの治療後に再発または難治性の多発性骨髄腫を発 症した患者において、無増悪生存期間に関して有意な有益性をもたらした。ほとんどの患者にグレード 3 以上の有害事象が認められた。(GSK社より資金提供;DREAMM-7 ClinicalTrials.gov番号、NCT04246047;EudraCT番号、2018-003993-29)。 第一人者の医師による解説 BCMAを標的とした抗体薬物複合体を含む併用療法は 新たな治療選択肢に 山本 豪 虎の門病院血液内科部長 MMJ.April 2025;21(1):23 多発性骨髄腫の初回治療では、ボルテゾミブやレナリドミドを含む3剤または4剤併用化学療法が標準とされ、移植適応がある場合は自家末梢血幹細胞移植が行われる。しかし、ほとんどの患者で再発が避けられず、有効な2次治療の開発が求められている。B-cell mature antigen(BCMA)は骨髄腫細胞の生存や増殖に関与する抗原であり、BCMAを標的とした治療が注目されている。ベランタマブ マホドチン(belantamab mafodotin)はBCMAを標的とする抗体薬物複合体であり、先行する第2相試験(DREAMM-2試験)(1)では、3ライン以上の治療歴を有する患者に単剤投与され、主 要評価項目の客観的奏効率(ORR)は31 ~ 34 %と良好な抗腫瘍効果を示し、グレード3 ~ 4の有害事象として角膜症(21 ~ 27%)、血小板減少症(20 ~ 33 %)、貧血(20 ~ 25 %)が報告されたものの、忍容可能な安全性であった。 本論文は、ベランタマブ マホドチン、ボルテゾミブ、デキサメタゾンの3剤併用療法(BVd)の有用性をダラツムマブ、ボルテゾミブ、デキサメタゾンの3剤併用療法(DVd)と比較した第3相無作為化非盲検試験(DREAMM-7試験)の結果を報告している。結果として、主要評価項目の無増悪生存期間において、BVd群が有意に良好であり、全生存率も良い傾向を示した。しかし、BVd群では眼関連毒性を含むグレード3以上の有害事象の発生率が高く、注意が必要である。 BCMA標的療法には、抗体薬物複合体のほか、二重特異性抗体やCAR-T療法が含まれる。本稿執筆時点で、日本国内でエルラナタマブ(2)(二重特異性抗体)やイデカブタゲン ビクルユーセル(3)(CAR-T療法)が利用可能であり、さらなる治療選択肢の導入が期待されている。これらの治療法間の比較は難しいものの、本論文の著者らはほぼ同等の効果を示しつつ、有害事象が少ないと主張している。ただし、本試験の対象患者の約半数は治療歴が1ラインのみと治療歴が浅い患者が多く、また長期的な効果・副作用については今後の検討が必要である。また、本試験でベランタマブ マホドチンに治療抵抗性を示した患者においてもBCMAの発現が確認され、著者らは他のBCMA標的療法の効果が期待できるとしている。この点についても、さらなる研究結果が待たれる。 以上の結果から、再発・難治性多発性骨髄腫に対するBCMAを標的とした抗体薬物複合体を含む併用療法が新たな治療選択肢として有用であることが示された。 1. Lonial S, et al. Lancet Oncol. 2020;21(2):207-221. 2. Lesokhin AM, et al. Nat Med. 2023;29(9):2259-2267. 3. Munshi NC, et al. N Engl J Med. 2021;384(8):705-716.
重症インフルエンザの治療 抗ウイルス薬間で有意差を認めず
重症インフルエンザの治療 抗ウイルス薬間で有意差を認めず
Antivirals for treatment of severe influenza: a systematic review and network meta-analysis of randomised controlled trials Lancet. 2024 Aug 24;404(10454):753-763. doi: 10.1016/S0140-6736(24)01307-2. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ 論文検索による機械翻訳です。 背景:重症インフルエンザの治療に最適な抗ウイルス薬は未だ不明である。WHOインフルエンザ診療ガイドラインの更新を支援するため、この系統的レビューとネットワークメタ解析では、重症インフルエンザ患者の治療に対する抗ウイルス薬を評価した。 方法:MEDLINE、Embase、Cochrane Central Register of Controlled Trials、Cumulative Index to Nursing and Allied Health Literature、Global Health、Epistemonikos、ClinicalTrials.govを系統的に検索し、2023年9月20日までに発表された、インフルエンザが疑われるか検査で確認された入院患者を登録し、直接作用型インフルエンザ抗ウイルス薬をプラセボ、標準治療、または別の抗ウイルス薬と比較した無作為化対照試験を検索した。二人一組の共著者が独立して、試験の特徴、患者の特徴、抗ウイルス薬の特徴、転帰に関するデータを抽出し、相違点は話し合いまたは三人目の共著者が解決した。主なアウトカムは、症状緩和までの期間、入院期間、集中治療室への入室、侵襲的機械的人工呼吸への移行、機械的人工呼吸の期間、死亡率、退院先、抗ウイルス剤耐性の出現、有害事象、治療に関連した有害事象、重篤な有害事象であった。エビデンスを要約するためにフリークエンティストネットワークメタ解析を実施し、GRADE(Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation)アプローチを用いてエビデンスの確実性を評価した。本研究はPROSPERO、CRD42023456650に登録されている。 発見:検索により特定された11 878件の記録のうち、1424人が参加した8件の試験(平均年齢または中央値を報告した試験では平均年齢36~60歳;男性患者43~78%)がこの系統的レビューに含まれ、そのうち6件がネットワークメタ解析に含まれた。季節性インフルエンザおよび人獣共通感染症に対するオセルタミビル、ペラミビル、またはザナミビルの死亡率に対する効果は、プラセボまたはプラセボなしの標準治療と比較して、非常に低い確実性であった。プラセボまたは標準治療と比較して、オセルタミビル(平均差 -1~63日、95% CI -2~81~-0~45)およびペラミビル(-1~73日、-3~33~-0~13)により季節性インフルエンザの入院期間が短縮されたという確信度の低いエビデンスが認められた。標準治療と比較して、オセルタミビル(0~34日、-0~86~1~54;確実性の低いエビデンス)またはペラミビル(-0~05日、-0~69~0~59;確実性の低いエビデンス)では、症状緩和までの期間にほとんど差がなかった。有害事象または重篤な有害事象については、オセルタミビル、ペラミビル、ザナミビルで差はなかった(確信度の非常に低い証拠)。重症インフルエンザ患者のその他の転帰に対する抗ウイルス薬の効果については、不確実性が残っている。適格試験の数が少ないため、出版バイアスの検定はできなかった。 結論:重症インフルエンザの入院患者において、オセルタミビルおよびペラミビルは、標準治療またはプラセボと比較して入院期間を短縮する可能性があるが、エビデンスの確実性は低い。死亡率やその他の重要な患者の転帰に対するすべての抗ウイルス薬の効果は、ランダム化比較試験のデータが乏しいため、非常に不確実である。 資金提供世界保健機関(WHO)。 第一人者の医師による解説 治療薬のエビデンスは不足 抗ウイルス薬の有効性を把握する臨床試験が待たれる 高山 陽子 北里大学医学部附属新世紀医療開発センター横断的医療領域開発部門感染制御学教授・北里大学病院感染管理室室長 MMJ.April 2025;21(1):24 インフルエンザの報告数は、COVID-19の流行以降、世界的に激減していたが、2021年後半から多くの国で小~中規模の流行が確認されている。発症から48時間以内の抗インフルエンザ薬投与が重要であり、特に高齢者や免疫不全者などの高リスク者は抗インフルエンザ薬投与のメリットが大きいため、積極的な使用が推奨される。 重症インフルエンザとは、主に集中治療室(ICU)利用または人工呼吸器装着を伴う場合を指すが、最良の抗ウイルス薬は定まっていない。本論文は、無作為化対照試験(RCT)8 件( 参加者1 ,424 人)の系統的レビュー、うち6試験のネットワークメタ解析により、入院を要する重症インフルエンザにおける抗ウイルス薬の有効性を評価した。その結果、オセルタミビルとペラミビルは、標準治療またはプラセボと比較して入院期間を短縮する可能性が示されたが、エビデンスレベルは「low」と判断された。 本研究の限界点として、有害事象のデータが得られたのは、オセルタミビルとザナミビルを比較した1件の試験のみであるなど季節性・人獣共通インフルエンザともにRCTのデータが少なくエビデンスレベルが低いこと、続発する細菌感染症やウイルスの型(A型、B型)が結果に与える影響を評価できなかったこと、そして小児と高齢者(60歳以上)のデータが含まれておらず有効性を検討できなかったこと、などが挙げられる。 重症インフルエンザに関して、本論文を根拠として世界保健機関(WHO)は2024 年9 月にインフルエンザ診療ガイドラインを更新した(1)。季節性インフルエンザ、パンデミックの可能性があるインフルエンザ、新型インフルエンザの感染者を対象に、オセルタミビル投与を条件付きで推奨するとの内容であるが、エビデンスレベルは「very low」で類似の結果であった。 インフルエンザは高リスク者で重症化しやすく、続発する肺炎から死亡につながるリスクも上昇しやすい。毎年流行を繰り返すウイルスとは表面の抗原性が全く異なる新型のウイルスが出現することにより、約10〜40年の周期で新型インフルエンザが発生するが、新型インフルエンザによるパンデミックでは、致死率が高くなる場合がある。重症インフルエンザに対する効果的な治療法の確立は、感染対策や公衆衛生の観点から重要であり、抗ウイルス薬の有効性を詳細に把握するための臨床試験が待たれる。 1. Clinical practice guidelines for influenza. Geneva: World Health Organization; 2024.
敗血症・敗血症性ショックに対するβ-ラクタム系抗菌薬の長時間静注:間欠静注よりも90日死亡抑制で有用
敗血症・敗血症性ショックに対するβ-ラクタム系抗菌薬の長時間静注:間欠静注よりも90日死亡抑制で有用
Prolonged vs Intermittent Infusions of β-Lactam Antibiotics in Adults With Sepsis or Septic Shock: A Systematic Review and Meta-Analysis JAMA. 2024 Aug 27;332(8):638-648. doi: 10.1001/jama.2024.9803. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ 論文検索による機械翻訳です。 重要性:敗血症または敗血症性ショックを有する重症成人において、β-ラクタム系抗生物質の長期輸注が臨床的に重要な転帰を改善するかどうかについては不明確である。 目的:敗血症または敗血症性ショックの重篤な成人において、β-ラクタム系抗生物質の長期注入が、間欠注入と比較して死亡リスクの低下と関連するかどうかを明らかにすること。 データの出典一次検索はMEDLINE(PubMed経由)、CINAHL、Embase、Cochrane Central Register of Controlled Trials(CENTRAL)、ClinicalTrials.govで、開始時から2024年5月2日まで実施した。 試験の選択:敗血症または敗血症性ショックの重症成人において、βラクタム系抗生物質の長期(持続または延長)注入と間欠注入を比較したランダム化臨床試験。 データの抽出と統合:データの抽出とバイアスのリスクは、2人のレビュアーが独立して評価した。エビデンスの確実性は、Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluationのアプローチにより評価した。一次解析手法としてベイジアンフレームワーク、二次解析手法として頻出主義フレームワークを用いた。 主要アウトカムと評価基準主要アウトカムは全死因90日死亡率であった。副次的アウトカムは集中治療室(ICU)死亡率および臨床的治癒であった。 結果:敗血症または敗血症性ショックの重症成人9108人(年齢中央値54歳;IQR、48~57;男性5961人[65%])を対象とした18の適格ランダム化臨床試験から、17試験(参加者9014人)が主要転帰にデータを提供した。β-ラクタム系抗菌薬の長期輸注と間欠輸注を比較したプール推定全死因90日死亡リスク比は0.86(95%信頼区間、0.72-0.98;I2=21.5%;高確率)であり、長期輸注が90日死亡率の低下と関連する事後確率は99.1%であった。β-ラクタム系抗生物質の長期注入は、集中治療室での死亡リスクの低下(リスク比、0.84;95%信頼区間、0.70-0.97;高い確実性)および臨床的治癒の増加(リスク比、1.16;95%信頼区間、1.07-1.31;中程度の確実性)と関連していた。 結論と意義:敗血症または敗血症性ショックを発症した集中治療室の成人において、β-ラクタム系抗生物質の長期輸注の使用は、間欠的な輸注と比較して90日死亡リスクの低下と関連していた。今回のエビデンスは、臨床医が敗血症および敗血症性ショックの管理における標準治療として長期輸注を考慮するための高い確実性を示している。 試験登録:PROSPERO Identifier:CRD42023399434。 第一人者の医師による解説 長時間静注と間欠静注の比較結果は 評価の視点により異なる 山岸 由佳 高知大学医学部臨床感染症学講座教授 MMJ.April 2025;21(1):25 本論文は、β -ラクタム系抗菌薬の長時間静注あるいは間欠静注の敗血症・敗血症性ショックの成人例における有用性を検討したメタ解析の報告である。これまでもその時の最新データ(既報)を用いたメタ解析がなされており、2020年以降報告された主なメタ解析結果について、古いものから順に紹介する。 Kondoらは、敗血症・敗血症性ショックの成人患者を対象にβ -ラクタム系抗菌薬の長時間静注と間欠静注を比較した13件の無作為化対照試験(RCT)についてメタ解析を行った(1) 。その結果、長時間静注群では主要評価項目の院内死亡率は低下しなかった(リスク比[RR], 0.69)。目標血漿濃度の達成と臨床的治癒は長時間静注群で有意に改善した(それぞれRRが0.40、0.84)。しかし、有害事象と薬剤耐性菌の発生率では両群間に有意差は認められなかった。Kiranらは、成人の重症急性感染症患者を対象に抗緑膿菌β -ラクタム系抗菌薬の長時間静注と間欠静注の臨床効果と安全性について、RCT20件のメタ解析を行った(2)。全死亡リスクは間欠静注群よりも長時間静注群の方が有意に低かった(RR,0 .77)。長時間静注による治療は臨床的効果が有意に高かった(RR, 1.09)。微生物学的効果(RR,1.12)、有害事象(RR, 0 .96)および重篤な有害 事象(RR, 0.99)について有意差はなかった。Liらは、成人の敗血症患者を対象に、β -ラクタム系抗菌薬の長時間静注と間欠静注を比較したRCT9件のメタ解析を行った(3)。その結果、間欠静注群と比較し長時間静注群では30日全死亡率が有意に低下した(RR, 0 .82)。また院内死亡率、ICU内死亡率はいずれも低下し臨床的治癒が増加した。長期予後での有益性は認められていない。Zhaoらは、成人の敗血症患者を対象にβ -ラクタム系抗菌薬の長時間静注と間欠静注を比較したRCT15 件についてメタ解析を行った(4)。その結果、長時間静注群では全死亡率の有意な低下(RR, 0.83)、臨床的改善(RR, 1.16)が認められた。微生物学的効果(RR,1.10)、有害事象(RR, 0.91)について有意差はなかった。特にサンプル数が各群20人を超える研究(RR, 0.84)、2010年以降に実施された研究(RR,0 .84)、主にグラム陰性菌による感染症患者を含む研究(RR, 0 .81)、初期負荷投与(RR, 0 .84)およびペニシリン系抗菌薬の使用(RR, 0.61)において有効性が確認された。 以上のように、これまで報告された敗血症・敗血症性ショックの成人患者に対するβ -ラクタム系抗菌薬の長時間静注あるいは間欠静注の有用性は報告年数や評価項目によってさまざまである。今回の論文は長時間静注が90日死亡率の低下と関連していることを示した新規性のある結論であった。 1. Kondo Y, et al. J Intensive Care. 2020;8:77. 2. Kiran P, et al. J Infect Chemother. 2023;29(9):855-862. 3. Li X, et al. Ann Intensive Care. 2023;13(1):121. 4. Zhao Y, et al. Ann Intensive Care. 2024;14(1):30.
手術部位感染予防での皮膚消毒 アルコール製剤ならポビドンヨードはクロルヘキシジンに劣らない
手術部位感染予防での皮膚消毒 アルコール製剤ならポビドンヨードはクロルヘキシジンに劣らない
Povidone Iodine vs Chlorhexidine Gluconate in Alcohol for Preoperative Skin Antisepsis︓A Randomized Clinical Trial JAMA. 2024 Aug 20;332(7):541-549. doi: 10.1001/jama.2024.8531. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ 論文検索による機械翻訳です。 重要性:術前の皮膚消毒は、手術部位感染(SSI)を予防するための確立された手順である。消毒薬、ポビドンヨードまたはグルコン酸クロルヘキシジンの選択については、依然として議論がある。 目的:心臓手術後または腹部手術後のSSI予防において、アルコール中のポビドンヨードがアルコール中のグルコン酸クロルヘキシジンに劣らないかどうかを判定すること。 デザイン、設定、参加者:多施設、クラスター無作為化、医師マスク、クロスオーバー、非劣性試験;2018年9月~2020年3月にスイスの3次ケア病院で心臓手術または腹部手術を受けた患者4403例を評価し、3360例を登録した(心臓、n=2187[65%]、腹部、n=1173[35%])。最終フォローアップは2020年7月1日であった。 介入:連続18ヵ月間にわたり、試験施設は毎月、ポビドンヨードまたはグルコン酸クロルヘキシジンのいずれかを使用するよう無作為に割り付けられた。消毒薬および皮膚適用プロセスは標準化され、公表されたプロトコールに従った。 主要転帰と評価基準主要転帰は腹部手術後30日以内および心臓手術後1年以内のSSIとし、米国疾病対策予防センターのNational Healthcare Safety Networkの定義を用いた。非劣性マージンは2.5%とした。副次的アウトカムには、感染の深さと手術の種類で層別化したSSIを含めた。 結果:合計1598人の患者(26クラスター期間)がポビドンヨード投与群に、1762人の患者(26クラスター期間)がグルコン酸クロルヘキシジン投与群にランダムに割り付けられた。患者の平均(SD)年齢は、ポビドンヨード群が65.0歳(39.0-79.0歳)、グルコン酸クロルヘキシジン群が65.0歳(41.0-78.0歳)であった。女性はポビドンヨード群で32.7%、グルコン酸クロルヘキシジン群で33.9%であった。SSIはポビドンヨード群80例(5.1%)に対してグルコン酸クロルヘキシジン群97例(5.5%)で確認され、その差は0.4%(95%CI、-1.1%~2.0%)であり、CIの下限は事前に定義された非劣性マージンである-2.5%を超えなかった;結果はクラスタリングで補正しても同様であった。ポビドンヨード対クロルヘキシジングルコン酸塩の未調整相対リスクは0.92(95%CI、0.69-1.23)であった。外科手術の種類による層別化では有意差は認められなかった。心臓手術では、SSIはポビドンヨード投与群4.2%に対してグルコン酸クロルヘキシジン投与群3.3%に認められた(相対リスク、1.26[95%CI、0.82-1.94]);腹部手術では、SSIはポビドンヨード投与群6.8%に対してグルコン酸クロルヘキシジン投与群9.9%に認められた(相対リスク、0.69[95%CI、0.46-1.02])。 結論および意義:術前の皮膚消毒としてのポビドンヨードアルコール溶液は、心臓手術後または腹部手術後のSSIの予防において、グルコン酸クロルヘキシジングルコン酸塩アルコール溶液よりも劣っていなかった。 臨床試験登録:ClinicalTrials.gov ID:NCT03685604。 第一人者の医師による解説 PVI含有アルコール製剤は有用 国内では臨床使用できないが我が国の現状にも有益 安田 英人 自治医科大学附属さいたま医療センター救急科 EICU病棟医長・講師 MMJ.April 2025;21(1):26 手術部位感染(SSI)の予防において、術前の皮膚消毒は確立された重要な手順である。世界保健機関(WHO)はクロルヘキシジングルコン酸塩(CHG)を推奨しているが、米疾病予防管理センター(CDC)と米国外科感染症学会(SIS)はCHGとポビドンヨード(PVI)のいずれも推奨しており、選択については議論が続いていた。さらに、先行研究では主に CHG含有アルコール液とPVI含有水溶液が比較されており、同じアルコールベースでの比較は見当たらない。本研究は、この問題に対してエビデンスを提供するスイスの多施設クラスターランダム化非劣性試験である。 本試験では、心臓手術または腹部手術を受ける予定の患者がPVIアルコール群とCHGアルコール群に割り付けられた。主要評価項目は、腹部手術では術後30日以内、心臓手術では1年以内のSSI発生とされ、CDCのNational Healthcare Safety Networkの定義に従って判定された。非劣性マージンは2.5%に設定された。結果として、SSI発生率はPVIアルコール群で5.1%、CHGアルコール群で5 .5%であり、群間差0 .4%(95% CI, -1.1〜2.0%)で非劣性が確認された。手術部位別のサブグループ解析では、心臓手術においてPVIアルコール群4.2%、CHGアルコール群3.3%(相対リスク[RR], 1.26;95% CI, 0.82〜1.94)、腹部手術ではそれぞれ6.8%、9.9%(RR, 0.69;95% CI,0.46〜1.02)と、いずれも有意差は認められなかった。 今回の結果は、術前皮膚消毒においてPVIアルコールがCHGアルコールと同等の効果を持つことを示す重要なエビデンスとなる。特に、医療資源の制約がある状況や、CHG耐性への懸念が存在する状況において、消毒薬選択の意思決定に影響を与える可能性がある。また、先行研究で示唆されていた手術の種類による消毒薬の有効性の違いについても、本研究では主要な手術タイプ間で有意差は認められなかった。 しかしながら、本結果をそのまま日本の臨床に外挿することはできない。その所以は、両消毒薬とも国内では臨床使用することができないからである。まず、本試験で用いられたCHGの濃度2%は国内で使用可能な濃度1%を超えている。また、PVIの濃度は10%と日本と同じであるが、我が国では水溶液であるところ、本試験の薬剤はアルコール製剤である。現時点では日本におけるSSI予防の皮膚消毒薬に対する考え方に影響を与えないかもしれないが、PVI含有アルコール製剤の有用性を示したことは我が国の現状にも有益である。
代謝機能障害関連脂肪肝炎に対するチルゼパチド第2相試験 肝臓の組織を改善
代謝機能障害関連脂肪肝炎に対するチルゼパチド第2相試験 肝臓の組織を改善
Tirzepatide for Metabolic Dysfunction-Associated Steatohepatitis with Liver Fibrosis N Engl J Med. 2024 Jul 25;391(4):299-310. doi: 10.1056/NEJMoa2401943. Epub 2024 Jun 8. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ 論文検索による機械翻訳です。 背景:代謝機能障害関連脂肪性肝炎(MASH)は、肝臓関連の合併症や死亡を伴う進行性の肝疾患である。グルコース依存性インスリン分泌促進ポリペプチドおよびグルカゴン様ペプチド-1受容体のアゴニストであるtirzepatideのMASHおよび中等度または重度の線維症患者における有効性と安全性は不明である。 方法:生検でMASHが確認され、F2期またはF3期(中等度または重度)の線維症を有する患者を対象に、第2相、用量設定、多施設、二重盲検、無作為化、プラセボ対照試験を行った。参加者は、週1回チルゼパチド皮下投与(5mg、10mg、15mg)を受ける群とプラセボを52週間投与する群に無作為に割り付けられた。主要エンドポイントは、52週時点における線維症の悪化を伴わないMASHの消失であった。重要な副次的エンドポイントは、MASHの悪化を伴わない少なくとも1段階の線維化の改善(低下)であった。 結果:無作為化を受けた190人の参加者のうち、157人は52週目の肝生検結果が評価可能であった。欠損値はプラセボ群の結果のパターンに従うという仮定のもとにインプットされた。線維症の悪化を伴わないMASHの消失の基準を満たした参加者の割合は、プラセボ群で10%、チルゼパチド5mg群で44%であった(プラセボ群との差は34%ポイント;95%ポイント)。チルゼパチド5mg群では44%(プラセボ群との差、34%ポイント;95%信頼区間[CI]、17~50)、チルゼパチド10mg群では56%(差、46%ポイント;95%CI、29~62)、チルゼパチド15mg群では62%(差、53%ポイント;95%CI、37~69)であった(3つの比較すべてについてP<0.001)。MASHの悪化なしに少なくとも1つの線維化ステージが改善した参加者の割合は、プラセボ群で30%、5mgのチルゼパチド群で55%(プラセボとの差、25%ポイント;95%CI、5~46)、10mgのチルゼパチド群で51%(差、22%ポイント;95%CI、1~42)、15mgのチルゼパチド群で51%(差、21%ポイント;95%CI、1~42)であった。チルゼパチド群で最も多くみられた有害事象は消化器系事象であり、そのほとんどは軽度または中等度の重症度であった。 結論MASHおよび中等度または重度の線維症を有する参加者を対象としたこの第2相試験では、線維症を悪化させることなくMASHを消失させるという点で、チルゼパチドによる52週間の治療がプラセボよりも有効であった。MASH治療に対するチルゼパチドの有効性と安全性をさらに評価するためには、より大規模で長期間の試験が必要である(Eli Lilly社からの資金提供;SYNERGY-NASH ClinicalTrials.gov番号、NCT04166773)。 第一人者の医師による解説 代謝機能障害関連脂肪性肝疾患の薬物療法 全身臓器がターゲットの治療として期待 芥田 憲夫 虎の門病院肝臓内科部長 MMJ.April 2025;21(1):16 代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)は2024年8月に従来の非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)から名称変更された病名であり、肝炎を伴うMASLDは従来の非アルコール性脂肪肝炎(NASH)から代謝機能障害関連脂肪肝炎(metabolic dysfunction associated steatohepatitis;MASH)に名称変更された(1) 。MASLDに対して日本のガイドラインで推奨されている薬物療法はいまだ存在しない。2024 年3 月、米食品医薬品局(FDA)はMASHに対する初の治療薬となる甲状腺ホルモン受容体β作動薬のレスメチロムを承認した(2)。さらに、2024年11月にはグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)受容体作動薬のセマグルチドがMASH患者を対象とした第3相試験(ESSENCE試験)(3)で主要エンドポイントを達成したことが報告された(4)。MASLD治療は、日本においても、薬物療法の時代を迎えようとしている。 本論文は、肝線維化ステージ2(中等度)または3(高度)のMASH患者を対象にチルゼパチドの有効性と安全性を検討した、第2相用量設定多施設共同二重盲検無作為化プラセボ対照試験(SYNERGYNASH試験)の報告である。チルゼパチドは、持続性のグルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド(GIP)受容体およびGLP-1受容体の作動薬であり、日本では2型糖尿病の効能または効果で承認を取得している。本試験では、チルゼパチド(5mg、10mg、15mgのいずれか)を週1回、52週間皮下投与する群と、プラセボを投与する群に無作為に割り付けた。主要エンドポイントは、52週時点での肝線維化の進行を伴わないMASH 消失とした。結果、主要エンドポイントを達成した患者の割合は、プラセボ群10%、チルゼパチド5 mg群44%、10 mg群56%、15 mg群62%であった。チルゼパチド群で頻度の高かった有害事象は消化器系の事象であり、大部分が軽度または中等度であった。結果的に、チルゼパチドの52週間投与は、肝線維化の進行を伴わないMASH消失に関してプラセボよりも有効であることが確認された。 糖尿病領域でGLP-1受容体作動薬は、MASLD最大のイベントである心血管イベント抑制効果において、高いエビデンスが示されている(5)。MASLD治療の将来的な展望として、食事・運動療法と複数の薬剤を組み合わせることで、肝疾患イベントのみならず、心血管イベントの抑制まで視野に入れた併用療法の時代を迎えようとしている。まさに、GLP-1受容体作動薬を軸とした薬物療法は肝臓にとどまらない全身臓器をターゲットとした治療として今後期待される。 1. 日本消化器病学会.「脂肪性肝疾患の日本語病名に関して」(https://www. jsge.or.jp/news/20240820-3/)(2025 年1 月8 日確認) 2. FDA Press Announcements. https://bit.ly/3BHq26Z(2025 年1 月8 日確認) 3. Newsome PN, et al. Aliment Pharmacol Ther. 2024;60(11-12):1525-1533. 4. Novo Nordisk company announcement No 79 / 2024(https://bit. ly/4iCxgtG)(2025 年1 月8 日確認) 5. Marso SP, et al. N Engl J Med. 2016;375(4):311-322.
成人における胸腺摘出術は 全死亡率とがん、自己免疫疾患のリスクを上昇させる
成人における胸腺摘出術は 全死亡率とがん、自己免疫疾患のリスクを上昇させる
Health Consequences of Thymus Removal in Adults N Engl J Med. 2023 Aug 3;389(5):406-417. doi: 10.1056/NEJMoa2302892. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】人間の成人における胸腺の機能は不明であり、胸腺の日常的な除去はさまざまな外科的処置で行われます。私たちは、免疫能力と全体的な健康を維持するために、成体胸腺が必要であると仮定しました。 【方法】胸腺切除なしで同様の心臓胸部手術を受けた人口統計学的に一致するコントロールと比較して、胸腺切除を受けた成人患者の死亡、癌、および自己免疫疾患のリスクを評価しました。T細胞産生および血漿サイトカインレベルも、患者のサブグループで比較されました。 【結果】除外後、胸腺切除術と6021のコントロールを受けた1420人の患者が研究に含まれました。胸腺切除術を受けた患者の1146は、コントロールが一致し、一次コホートに含まれていました。手術後5年後、全死因死亡率はコントロールグループよりも胸腺切除群の方が高かった(8.1%対2.8%、相対リスク、2.9; 95%信頼区間[CI]、1.7〜4.8)、癌のリスク(7.4%対3.7%、相対リスク、2.0; 95%CI、1.3〜3.2)。自己免疫疾患のリスクは、一次コホート全体のグループ間で実質的に差はありませんでしたが(相対リスク、1.1; 95%CI、0.8〜1.4)、術前感染、癌、または自己免疫疾患の患者が除外された場合に違いが見つかりました。分析から(12.3%対7.9%、相対リスク、1.5; 95%CI、1.02〜2.2)。5年以上の追跡調査(対照の有無にかかわらず)を持つすべての患者が関与する分析では、全米国の人口(9.0%対5.2%)よりも胸腺切除群で全死因死亡率が高かった。癌による死亡率でした(2.3%対1.5%)。T細胞産生および血漿サイトカインレベルが測定された患者のサブグループでは(胸腺切除群で22、対照群で19;平均フォローアップ、術後14.2)、胸腺切除を受けた人は、新たな産生の産生が少なくなりました。コントロールよりもCD4+およびCD8+リンパ球(平均CD4+シグナル関節T細胞受容体切除円[SJTREC]カウント、1451対526 DNA [P = 0.009];平均CD8+ SJTRECカウント、1466対447 DNA [1466対447P <0.001])および血液中のより高いレベルの炎症性サイトカイン。 【結論】この研究では、全死因死亡率と癌のリスクは、コントロールよりも胸腺切除を受けた患者の方が高かった。胸腺切除術は、術前感染、癌、または自己免疫疾患の患者が分析から除外された場合、自己免疫疾患のリスクの増加に関連していると思われました。(TraceyとCraig A. Huff Harvard Stem Cell Institute Research Support Fundなどから資金提供。)。 第一人者の医師による解説 重症筋無力症での胸腺摘出術の実施 今回のエビデンス踏まえ協働意思決定を 下畑 享良 岐阜大学大学院医学系研究科脳神経内科学分野教授 MMJ.April 2024;20(1):10 成人における胸腺の機能は不明で、かつ生理的萎縮を受ける最初の臓器であるため、成人では重要な役割を果たさないと広く信じられている。このため胸腺摘出術がさまざまな外科手技でルーチンに行われている。脳神経内科領域でも重症筋無力症(MG)に対して行われてきた。 本研究は、胸腺摘出術を受けた患者の全死亡とがん、自己免疫疾患のリスクを後方視的に検討したものである。方法は、マサチューセッツ総合病院で胸腺摘出術を受けた成人患者の死亡、がん、自己免疫疾患のリスクを、類似の心臓胸部手術を受けた、胸腺摘出術の経験のない対照と比較している。胸腺摘出術を受けた1,420人と対照6,021人が研究に組み入れられ、このうち胸腺摘出術を受けた1,146人が対照とマッチし検討が行われた。術後5年の時点で、全死亡率は胸腺摘出術群のほうが対照群よりも有意に高く(8.1% 対 2.8%;相対リスク[RR],2.9[95%信頼区間〈CI〉, 1.7~4.8])、がんも同様に有意に高かった(7.4% 対 3.7%;RR, 2.0[1.3~3.2])。自己免疫疾患については、術前に感染症、がん、自己免疫疾患を認めた患者を解析から除外すると有意差が認められた(12.3% 対 7.9%;RR, 1.5[1.02~2.2])。追跡期間が5年を超える全例を対象とすると、全死亡率は胸腺摘出術群のほうが米国の一般集団よりも高く(9.0% 対 5.2%)、がん死亡率も同様であった(2.3% 対 1.5%)。 さらに、T細胞産生量と血漿中サイトカイン濃度を測定した胸腺摘出術群22人と対照群19人の検討では、胸腺摘出術群はCD4陽性リンパ球とCD8陽性リンパ球の新生量が有意に少なく、逆に血中炎症性サイトカイン濃度が高かった。具体的には胸腺摘出術群で15種類のサイトカイン値が有意に変化し、炎症性サイトカインのIL-23、IL-33、トロンボポエチンのレベルは対照群の10倍以上であった。つまり胸腺摘出術群患者の免疫環境は、免疫調節異常と炎症を引き起こすことが知られるサイトカイン環境にシフトしていると考えられる。 MGでは、「胸線摘除の有効性が期待でき、その施行が検討される非胸腺腫 MG は、50歳未満の発症で、発病早期のAChR抗体陽性過形成胸線例である(重症筋無力症/ランバート・イートン筋無力症候群診療ガイドライン 2022)」とされ、以前と比べその適応患者は限定されているが、上記患者であっても、今回の新しいエビデンスを提示し、協働意思決定により治療方針を決定する必要があるだろう。また今後、MG 患者全体においても今回の論文と同様の検討が必要と思われる。
テストステロン補充療法はプラセボに対して心血管系有害事象の発生率で非劣性
テストステロン補充療法はプラセボに対して心血管系有害事象の発生率で非劣性
Cardiovascular Safety of Testosterone-Replacement Therapy N Engl J Med. 2023 Jul 13;389(2):107-117. doi: 10.1056/NEJMoa2215025. Epub 2023 Jun 16. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】性腺機能低下症の中高年男性におけるテストステロン補充療法の心臓血管への安全性はまだ確認されていない。 【方法】多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照非劣性試験において、心血管疾患の既往またはリスクが高く、性腺機能低下症の症状を報告し、空腹時テストステロンが2つある45~80歳の男性5,246人を登録した。 1デシリットルあたり300ng未満のレベル。患者は、1.62%テストステロンゲル(テストステロンレベルを1デシリットルあたり350~750ngに維持するように用量を調整した)を毎日経皮投与するか、プラセボゲルを投与するかに無作為に割り当てられた。心血管安全性の主要評価項目は、発生までの時間分析で評価された、心血管死、非致死性心筋梗塞、または非致死性脳卒中による死亡の複合要素の最初の発生であった。二次心血管エンドポイントは、イベント発生までの時間分析で評価された、心血管死、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中、または冠動脈血行再建術の複合要素の最初の発生であった。非劣性には、テストステロンまたはプラセボを少なくとも 1 回投与された患者のハザード比の 95% 信頼区間の上限が 1.5 未満である必要がありました。 【結果】平均(±SD)治療期間は21.7±14.1ヶ月、平均追跡期間は33.0±12.1ヶ月でした。主要な心血管エンドポイントイベントは、テストステロン群の患者 182 人(7.0%)、プラセボ群の患者 190 人(7.3%)で発生しました(ハザード比、0.96、95% 信頼区間、0.78 ~ 1.17、p<0.001)。非劣性)。同様の所見は、テストステロンまたはプラセボの中止後のさまざまな時点でイベントに関するデータが打ち切られた感度分析でも観察されました。二次エンドポイント事象の発生率、または複合一次心血管エンドポイントの各事象の発生率は、2 つのグループで同様であるように見えました。テストステロン群では、心房細動、急性腎障害、肺塞栓症の発生率が高いことが観察されました。 【結論】性腺機能低下症を患い、心血管疾患の既往またはリスクが高い男性において、テストステロン補充療法は、重大な心臓有害事象の発生率に関してプラセボよりも劣りませんでした。 (AbbVie およびその他によって資金提供されています。TRAVERSE ClinicalTrials.gov 番号、NCT03518034。)。 第一人者の医師による解説 非致死的不整脈、心房細動、急性腎障害、肺塞栓症の既往がある場合は注意 佐々木 春明 昭和大学藤が丘病院泌尿器科教授 MMJ.April 2024;20(1):20 性腺機能低下症の中高年男性におけるテストステロン補充療法の心血管系への影響は確定されていない(1)。これまでの報告では、心血管リスクの上昇を示す研究もあれば、リスクの低下を示す研究もあり、相反する結果が示されている(1)。 本論文 は、米国 の316施設で実施された第4相、無作為化、二重盲検、プラセボ対照、非劣性試験(TRAVERSE試験)の報告である。45~80歳、性腺機能低下症状を有し、心血管疾患の既往があるか心血管リスクが高く、かつ午前11時までの採血による空腹時血清テストステロン値が300 ng/dL(10.4 nmol/L)未満が対象とされた。患者は、1.62%のテストステロンゲルを連日経皮投与する群(T群)またはプラセボ群(P群)に1:1で割り付けられた。安全性の主要評価項目は主要心血管イベント、あるいは心血管疾患・非致死的心筋梗塞・非致死的脳卒中による死亡までの期間とした。最大の解析対象集団(FAS)は5,204人(T群2,601人、P群2,603人)で、安全性解析対象は5,198人(T群2,596人、P群2,602人)であった。 12カ月時点の血清テストステロン値のベースラインからの上昇中央値はT群148 ng/dL、P群14ng/dLであった。平均(± SD)治療期間は21.7±14.1カ月、平均追跡期間は33.0±12.1カ月であった。主要心血管イベントは、T群で182人(7.0%)、P群で190人(7.3%)に発生した(ハザード比 ,0.96;95%信頼区間[CI];0.78 ~ 1.17;非劣性に関してP<0.001)。前立腺特異抗原(PSA)値はT群で有意に上昇したが(P<0.001)、前立腺がんの発生率は同程度であった(0.5% 対 0.4%;P=0.87)。T群では治療介入が必要な非致死的不整脈(5.2% 対 3.3%;P=0.001)、心房細動(3.5%対 2.4%;P=0.02)、急性腎障害(2.3% 対 1.5%;P=0.04)、肺塞栓症(0.9% 対 0.5%)が多かった。 本論文では、心血管疾患の既往があるか心血管リスクが高い男性性腺機能低下症において、テストステロン補充療法はプラセボに対して心血管系の有害事象の発生率に関して非劣性であったと結論している。また、前立腺がんの発生率も有意に上昇しなかったことが確認された。ただし、治療介入が必要な非致死的不整脈、心房細動、急性腎障害、肺塞栓症の既往がある場合は注意を要する。 日本でも男性性腺機能低下症が広く認知されるようになり、対象となる患者が増加しているので、安全に投与できることを再確認できた。 1. Bhasin S, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2018;103(5):1715-1744.
RNAi治療薬ジレベシランの第 I相試験 単回皮下投与で24週後も降圧効果が持続
RNAi治療薬ジレベシランの第 I相試験 単回皮下投与で24週後も降圧効果が持続
Zilebesiran, an RNA Interference Therapeutic Agent for Hypertension N Engl J Med. 2023 Jul 20;389(3):228-238. doi: 10.1056/NEJMoa2208391. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】アンジオテンシノーゲンは、アンジオテンシンペプチドの唯一の前駆体であり、高血圧の病因に重要な役割を果たしています。Zilebesiranは、長期にわたる作用期間を持つ治験RNA干渉治療剤が肝臓のアンジオテンシノゲン合成を阻害します。 【方法】このフェーズ1の研究では、高血圧症の患者は2:1の比率でランダムに割り当てられ、Zilebesiranの1回の上行皮下用量(10、25、50、100、200、400、または800 mg)またはプラセボのいずれかを受け取り、24週間続いた(パートA)。パートBでは、低塩または高塩の食事条件下での血圧に対するZilebesiranの800 mgの用量の効果、およびイルベサルタンとの採用時のその用量の効果を評価しました。エンドポイントには、安全性、薬物動態および薬力学的特性、および24時間の外来血圧モニタリングで測定される収縮期および拡張期血圧のベースラインからの変化が含まれます。 【結果】登録された107人の患者のうち、5人は軽度の一時的な注射部位反応を示しました。低血圧、高カリウム血症、または腎機能の悪化の報告は、医学的介入をもたらしませんでした。パートAでは、Zilebesiranを投与された患者は、投与された用量と相関していた血清アンジオテンシノゲンレベルの減少を示しました(8週目のr = -0.56; 95%信頼区間、-0.69〜 -0.39)。Zilebesiran(≥200mg)の単回投与量は、8週目までに収縮期血圧(> 10 mm Hg)と拡張期血圧(> 5 mm Hg)の減少と関連していました。これらの変化は、日中のサイクル全体で一貫しており、24週間で維持されました。パートBとEの結果は、高塩の食事による血圧への影響の減衰と、それぞれイルベサルタンとの同時投与による増強効果と一致していました。 【結論】血清アンジオテンシンゲンレベルと24時間の外来血圧の用量依存性減少は、200 mg以上のZilebesiranの単回皮下用量の後、最大24週間維持されました。軽度の注射部位反応が観察されました。(Alnylam Pharmaceuticals; ClinicalTrials.gov番号、NCT03934307; Eudract Number、2019-000129-39による資金提供)。 第一人者の医師による解説 RNAiのメカニズムを活用した革新的降圧薬 服薬アドヒアランス不良患者のコントロール改善を期待 苅尾 七臣 自治医科大学循環器内科学教授 MMJ.April 2024;20(1):6 RNA干渉(RNAi)薬が世界で注目を集めている。ベースとなっているのは、1998年にFire、Melloらの研究チームがNature誌に発表した、線虫への二本鎖 RNA導入により観察されたRNAiの機構である(1)。RNAiは、もともと生体に備わっている遺伝子発現抑制のプロセスであり、これを応用したRNAi薬は、疾患をもたらすタンパク質の産生をコードするメッセンジャー RNA(mRNA)を分解する。つまり、より上流のプロセスにおいて疾患を阻止できる可能性がある。この発見によって両博士は2006年にノーベル生理学・医学賞を受賞した。世界初のRNAi薬は、2018年に米国で承認されたトランスサイレチン型アミロイドーシス治療薬オンパットロである。日本では2023年12月時点でオンパットロを含む4剤のRNAi薬が承認されており、うち1剤は高コレステロール血症治療薬である。 本稿で紹介するのは、アンジオテンシノーゲンを治療標的とし肝臓のアンジオテンシノーゲンmRNAを特異的に減少させるように設計されたRNAi治療薬ジレベシラン(zilebesiran)の第 I相試験の結果である。本試験のPartAでは英国の4施設で登録した高血圧患者(収縮期血圧130 ~ 165mmHg)84人をプラセボ群(28人)と10、25、50、100、200、400、800 mg群(各群8人)にランダムに割り付け、試験薬を単回皮下投与して24週追跡した。治療を要する低血圧、高カリウム血症、または腎機能悪化の報告はなく、ジレベシラン 100 mgまたはそれ以上の用量を投与した群では、3週~12週目にかけて血中アンジオテンシノーゲン濃度が90%以上抑制されていた。また、ジレベシラン 200 mgまたはそれ以上の用量を投与した群は投与8週後の収縮期血圧がベースラインに比較して10 mmHg超低下し、投与24週後も降圧効果が持続した。この降圧効果は昼間から夜間・早朝にわたり24時間持続していた。 1回の注射で半年近い安定した降圧が得られる革新的治療薬の登場で、服薬アドヒアランス不良患者の血圧コントロール改善が期待される。2021年に国際共同疫学研究グループ NCD-RisCから発表された高血圧治療管理状況の長期推移によれば、降圧薬で治療しても、コントロールできているのはそのうちの半数に満たないという(2)。日本においても、既存降圧薬2剤以上で治療中の高血圧患者における早朝、夜間血圧のコントロール不良の割合はそれぞれ55%、45%にも及ぶ(3)。現在進行中の第 II相試験 KARDIA-1とKARDIA-2の結果が待たれる。 1. Fire A, et al. Nature. 1998;391(6669):806-811. 2. NCD Risk Factor Collaboration (NCD-RisC). Lancet. 2021;398(10304):957-980.(MMJ2022 年 4 月号で紹介) 3. Kario K, et al. Hypertens Res. 2023;46(2):357-367.
心房細動に対するアブレーションは 精神的ストレスの改善にも有効
心房細動に対するアブレーションは 精神的ストレスの改善にも有効
Atrial Fibrillation Catheter Ablation vs Medical Therapy and Psychological Distress: A Randomized Clinical Trial JAMA. 2023 Sep 12;330(10):925-933. doi: 10.1001/jama.2023.14685. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【重要性】精神衛生の結果に対する心房細動(AF)カテーテルアブレーションの影響はよく理解されていません。 【目的】AFカテーテルアブレーションが、医学療法のみと比較して、心理的苦痛のマーカーのより大きな改善に関連しているかどうかを判断する。 【設計、設定、および参加者】心房細動(修復)研究における心理的苦痛に対するカテーテルアブレーションの影響のランダム化された評価は、2018年6月から2021年3月の間にオーストラリアの2つのAFセンターで実施された症状のある参加者のランダム化試験でした。 【介入】参加者は無作為化され、AFカテーテルアブレーション(n = 52)または医学療法(n = 48)を投与されました。 【曝露】主な結果は、12か月での病院不安とうつ病スケール(HADS)スコアでした。二次的な結果には、重度の心理的苦痛の有病率(HADSスコア> 15)、不安HADSスコア、うつ病HADSスコア、およびベックうつ病インベントリII(BDI-II)スコアの追跡評価が含まれていました。不整脈の再発とAF負荷データも分析されました。 【結果】合計100人の参加者が無作為化されました(平均年齢、59 [12]年; 31 [32%]女性、54%が発作性AF)。成功した肺静脈分離は、アブレーショングループのすべての参加者で達成されました。結合されたHADSスコアは、6か月(8.2 [5.4]対11.9 [7.2]; p = .006)で、アブレーショングループ対医療グループでは低かった(7.6 [5.3] vs 11.8 [8.6];グループの違い、-4.17 [95%CI、-7.04〜 -1.31]; p = .005)。同様に、重度の心理的苦痛の有病率は、アブレーション群と6ヶ月(14.2%対34%、P = .02)で、12か月(10.2%対31.9%; P = .01)での医学療法群では低かった、6か月で不安HADSスコア(4.7 [3.2]対6.4 [3.9]; p = .02)および12か月(4.5 [3.3]対6.6 [4.8]; p = .02);うつ病は3か月で得点(3.7 [2.6]対5.2 [4.0]; p = .047)、6か月(3.4 [2.7]対5.5 [3.9]; p = .004)、および12か月(3.1 [2.6)] vs 5.2 [3.9]; p = .004);6か月でのBDI-IIスコア(7.2 [6.1]対11.5 [9.0]; p = .01)および12か月(6.6 [7.2]対10.9 [8.2]; p = .01)。アブレーション群の中央値(IQR)AF負担は、医学療法グループよりも低かった(0%[0%-3.22%]対15.5%[1.0%-45.9%]; p <.001)。 【結論と関連性】症候性AFの参加者のこの試験では、不安とうつ病の心理的症状の改善がカテーテルアブレーションで観察されましたが、医学療法は観察されませんでした。 【試行登録】ANZCTR識別子:ACTRN12618000062224 第一人者の医師による解説 不安や抑うつ症状軽減に果たす役割は大きく 治療方針決定でも考慮すべき重要な要因 五十嵐 都 筑波大学医学医療系循環器内科准教授 MMJ.April 2024;20(1):8 本論文に報告されたREMEDIAL試験では症候性の心房細動(AF)患者をアブレーション群と薬物療法群に割り付け、精神的ストレス状態の評価指標HADSスコア、重症な精神的ストレス状態(HADSスコア 15超)の患者の割合などさまざまな指標について登録時と治療後の複数時点において両群間で比較した。AF再発の有無および累積時間率(burden)についても解析した。 登録時には評価項目に関して両群間に有意差はなかった。重症の精神的ストレス状態は32%の患者に認められ、不安症や抑うつ的な性格(タイプD)およびAF症状の重症度を示す指標 AFSSSとも関連があった。12カ月の経過でアブレーション群では薬物療法群に比べAFの再発が有意に少なく(47% 対 96%)、burden中央値も少なかった(0%対 15.5%)。その結果アブレーション群では抗不整脈薬を中止する傾向にあった(登録時90%、12カ月時点30%)。12カ月時点でアブレーション群では薬物療法群よりHADSスコア中央値が有意に低く(7.6 対 11.8)、重症の精神的ストレス状態の患者も少なかった(10.2% 対 31.9%)。 本試験ではまずAFがメンタルヘルスに悪影響を及ぼすことが示された。過去には逆に緊張や不安といった精神的ストレスがAF発症に関わるといった報告があり(1)、AFと精神的ストレスは両方向性に作用し悪循環を招く。その悪循環を断ち切るためにもAFの適切な治療は重要である。本試験では、精神的ストレス状態が薬物療法よりもアブレーションにより経時的に改善されることが明らかとなった。このことはAFの再発がないこと、抗不整脈薬やβ遮断薬の中止と関連があった。AFの症状を解消することが精神的ストレスを改善した可能性はあるが、抗不整脈薬やβ遮断薬の使用はうつや不眠、倦怠感などさまざまな神経精神症状に影響を与えることが知られているため(2)、これらの中止による直接の影響もあるかもしれない。 カテーテルアブレーションは侵襲的な治療ではあるが、3Dマッピングシステムやコンタクトフォースセンシング付きカテーテルなどテクノロジーの進歩に伴い有効性と安全性が年々向上している。そのため日本のガイドラインでも以前は「薬剤抵抗性症候性心房細動患者」に対してclass IIa適応であったが、現在は「薬剤抵抗性」という文言は削除された(3)。一方で有症候性 AFに対する薬物療法は国際的なガイドラインでもclass Iaのままである。本試験の結果から、カテーテルアブレーションがAF患者の不安や抑うつ症状を軽減するために果たす役割は大きいことが示され、このことは今後治療方針を決定する際に考慮すべき重要な要因であるといえる。 1. Eaker ED, et al. Psychosom Med. 2005;67(5):692-696. 2. von Eisenhart Rothe A, et al. Europace. 2015;17(9):1354-1362. 3. Nogami A, et al. Circ J. 2021;85(7):1104-1244.
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