「MMJ - 五大医学誌の論文を著名医師が解説」の記事一覧

デンマーク人女性の4価ヒトパピローマウイルスワクチン接種と自律神経機能障害の関連 住民対象自己対照症例集積解析
デンマーク人女性の4価ヒトパピローマウイルスワクチン接種と自律神経機能障害の関連 住民対象自己対照症例集積解析
Association between quadrivalent human papillomavirus vaccination and selected syndromes with autonomic dysfunction in Danish females: population based, self-controlled, case series analysis BMJ. 2020 Sep 2;370:m2930. doi: 10.1136/bmj.m2930. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【目的】4価ヒトパピローマウイルスワクチンと慢性疲労症候群、複合性局所疼痛症候群および体位性頻脈症候群などの自律神経機能障害を伴う症候群の間の関連を評価すること。 【デザイン】住民対象自己対照症例集積。 【設定】デンマークの全国レジストリに記録されたICD-10診断コードを用いて特定したヒトパピローマウイルスワクチン接種および自律神経失調症症候群(慢性疲労症候群、複合性局所疼痛症候群および体位性頻脈症候群)に関する情報。 【参加者】2007年から2016年の間に参加した10~44歳の女性コホート137万5737例のうち自律神経失調症症候群がある女性869例。 【主要評価項目】4価ヒトパピローマウイルスワクチンを接種していない参加者と比較した同ワクチンを接種した女性参加者の慢性疲労症候群、複合性局所疼痛症候群および体位性頻脈症候群の複合転帰の自己対照症例集積率比(95%CI)で年齢および季節で調整した。このほか、二次解析で慢性疲労症候群、複合性局所疼痛症候群および体位性頻脈症候群を個別に検討した。 【結果】追跡期間1058万1902人年で、自律神経失調症症候群女性869例(慢性疲労症候群136例、複合性局所疼痛症候群535例および体位性頻脈症候群198例)を特定した。4価ヒトパピローマウイルスワクチンによって、ワクチン接種後365日のリスク期間中の自律神経機能障害を伴う各症候群の複合転帰発生率(率比0.99、95%CI 0.74~1.32)やリスク期間中の個々の症候群発生率(慢性疲労症候群[0.38、0.13~1.09]、複合性局所疼痛症候群[1.31、0.91~1.90]および体位性頻脈症候群[0.86、0.48~1.54])が有意に上昇することはなかった。 【結論】ワクチン接種導入後、全くの偶然でワクチン関連の有害事象が起こることがあると思われる。一連の結果からは、4価ヒトパピローマウイルスワクチンと慢性疲労症候群、複合性局所疼痛症候群および体位性頻脈症候群の間の因果関係は、個別にみても複合転帰としても支持されない。最大32%のリスク上昇を正式に除外することはできないが、試験の統計的検出力からは、ワクチン接種によって各症候群発生率が上昇する可能性は低いと考えられる。 第一人者の医師による解説 研究期間後期ほど接種後発症が増加 生物学的反応以外の要素を示唆か 上坂 義和 虎の門病院脳神経内科部長 MMJ. February 2021;17(1):27 子宮頸がん予防のためのヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンは大きな成果をあげてきたが、日本のほかにデンマーク、アイルランドなどで慢性疲労症候群、体位性起立性頻拍症候群、複合性局所疼痛症候群などの自律神経失調症候群が接種後有害事象として報告された。これらは散発的な報告で接種との因果関係を示す科学的根拠は乏しかったが、メディアがこぞって取り上げたことで予防接種プログラムは大きく後退した。その後英国、ノルウェー、フィンランド、オランダから上記関連を否定する報告がなされたが、ノルウェー以外は主に2価HPVワクチンでの検討であった。デンマークは国民識別番号制度を持ち医療費はすべて税金でまかなわれるため、詳細な受診情報が外来、入院とも国家レベルで登録されている。本研究ではその登録データを利用し、4価HPVワクチンに関する検討が行われた。 デンマークでは2009年から12歳の女性を対象に国レベルの4価HPVワクチン接種が開始、2012年からは20~27歳の女性に対する予防接種も開始された。本研究では2007~16年にデンマーク生まれの10~44歳の女性を対象とした。結果、137万人以上が対象となり1000万人年以上の検討がされた。52万9千人以上が4価HPVワクチン接種を1回以上受けていた。最終接種から12カ月(3回接種では計18カ月)までをリスク期間とし、自律神経失調症候群発症をその前後期間と比較する自己対照研究デザインによる検討もなされた。自律神経失調症候群は869例でみられた(発症率10万・人年あたり8.21)。このうち433例がHPVワクチン接種例であり、接種後の発症例(309例:12カ月未満72例、12カ月以降237例)は接種前の発症例(124例)よりも多かったが、研究期間の後期になるほどその傾向が顕著であった。また、慢性疲労症候群、体位性起立性頻拍症候群、複合性局所疼痛症候群の合計およびそのいずれか1つの症状をとってもリスク期間中の発症率は対照期間と比較し有意な上昇を認めなかった。最終接種から12カ月以降をリスク期間に含めて検討した場合でも非接種期間に比べ有意な発病率上昇を認めなかった。 本研究を含めてHPVワクチン接種と自律神経失調症候群の関連を検討した研究の結果は接種後の発症率上昇について否定的である。本研究で研究期間後期になるほど接種後発症(接種後50カ月以上、最大100カ月以上)が次第に増加していることは生物学的反応以外の要素が加わっていることを示唆しているように思える。
喘息患者の医療利用を減らしQOLを改善する自己管理介入 系統的レビューおよびネットワークメタ解析
喘息患者の医療利用を減らしQOLを改善する自己管理介入 系統的レビューおよびネットワークメタ解析
Self-management interventions to reduce healthcare use and improve quality of life among patients with asthma: systematic review and network meta-analysis BMJ. 2020 Aug 18;370:m2521. doi: 10.1136/bmj.m2521. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【目的】3通りの自己管理モデル(集学的個別管理、定期的支援および最小支援)と自己監視モデルを通常治療および教育を比較し、喘息の医療資源利用を減らしQOLを改善するのに最も効果的な方法を明らかにすること。 【デザイン】系統的レビューおよびメタ解析。 【データ入手元】2000年1月から2019年4月までのMedline、Cochrane Library、CINAHL、EconLit、Embase、Health Economics Evaluations Database、NHS Economic Evaluation Database、PsycINFおよびClinicalTrials.gov。 【レビュー方法】喘息の自己管理方法数種類を検討した無作為化比較試験。主要評価項目は、医療資源の利用(入院または救急外来受診)およびQOLとした。ランダム効果を用いたベイズネットワークメタ解析から、標準化平均差(SMD)の要約および95%信頼区間を推定した。異質性および出版バイアスを評価した。 【結果】文献1178件から、計2万7767を検討した試験105試験を解析対象とした。医療資源利用の観点からみると、集学的個別管理(SMD -0.18、95%CI -0.32~-0.05)および定期的支援がある自己管理(-0.30、-0.46~-0.15)が通常治療より有意に良好だった。QOLは、定期的支援がある自己管理のみが、通常治療と比較して統計的有意な便益が示された(SMD 0.54、0.11~0.96)。思春期の小児・小児(5~18歳)を検討した試験で、定期的支援がある自己管理のみが有意な便益を示した(医療資源の利用:SMD -0.21、-0.40~-0.03、QOL:0.23、0.03~0.48)。集学的個別管理(SMD -0.32、 -0.50~-0.16)および定期的支援がある自己管理(-0.32、-0.53~-0.11)が、試験開始時に重度の喘息症状がある患者の医療資源利用削減効果が最も高かった。 【結論】このネットワークメタ解析から、定期的支援がある自己管理で、喘息の重症度に関係なく医療資源の利用率が低下し、QOLが改善することが示唆された。今後、医療に投資することで、計2時間以上の支援を提供し患者の自己管理能力を養い、複雑な疾患がある患者の集学的個別管理を可能にすべきである。 第一人者の医師による解説 支援濃度の目安やリモート支援も可能な点が示され 実地臨床に有益 松本 久子 京都大学大学院医学研究科呼吸器内科学准教授 MMJ. February 2021;17(1):18 喘息は世界で3.3億人以上が罹患し、年間25万人が喘息死する(1)など、社会経済上大きな負荷となる疾患である。吸入ステロイド薬の定期吸入により、喘息死は減少したものの、世界的にみると喘息の影響はいまだ大きい。喘息のより良いケアには、患者に喘息の知識を与えるだけでは不十分であり、患者の自己管理を促す介入が推奨されてきた。この介入の概要は「知識・手技の習得や精神的・社会的資源の支援、患者教育・指導により、患者自身が健康状態を自己管理できるようにすること」(2)である。しかし具体的にどの程度の支援が有用かなどのエビデンスはこれまでなかった。 本研究では、3種類の自己管理モデル(集学的個別管理[主に対面式]、定期的支援、最小支援)やセルフモニタリングモデル(症状やピークフロー値のモニタリングなど。悪化時の自己対処の指導は含まない)を通常ケアと比較し、どのモデルが最も医療資源の使用(入院または救急受診)を減らし、喘息患者の生活の質(QOL)を改善させるかを解析した。定期的支援とは、喘息の状態や治療内容の聞き取り・見直しのための医療者による定期的なコンサルト(計2時間以上)であり、最小支援とは2時間未満の支援である。Medlineなど9つのデータソースをもとに、2000年以降の自己管理モデルに関する無作為化対照試験について系統的レビューとベイジアンネットワークメタ解析を行った。1,178本の論文から105試験(27,767人、介入期間中央値8カ月)が解析された結果、医療資源使用については、集学的個別管理(標準化平均差-0.18;95 % CI,-0.32~-0.05)と定期的支援(-0.30;-0.46~-0.15)で通常ケアよりも有意に抑制されていた。QOLは定期的支援(0.54;0.11~0.96)のみが通常ケアよりも良好であった。小児・思春期例の検討では、医療資源使用、QOLとも定期的支援のみが有用であった。重症喘息例の医療資源使用抑制には、集学的個別管理と定期的支援が最も有用であった。 喘息自己管理についての最大規模のメタ解析である本研究から、医療者からの定期的支援により自己管理が促されれば、重症度を問わず喘息増悪による医療資源の使用を抑制でき、患者QOLの改善につながる可能性が示された。必要な支援濃度の目安が示された点、またリモートでも可能な支援であることが示され、実地臨床に有益な情報と考えられる。 1. Masoli M, et al. Allergy. 2004;59(5):469-478. 2. Wilson SR, et al. J Allergy Clin Immunol. 2012;129(3 Suppl):S88-123.
敗血症ショックの臓器障害にもたらすアスコルビン酸、副腎皮質およびチアミンの効果 ACTS無作為化比較試験
敗血症ショックの臓器障害にもたらすアスコルビン酸、副腎皮質およびチアミンの効果 ACTS無作為化比較試験
Effect of Ascorbic Acid, Corticosteroids, and Thiamine on Organ Injury in Septic Shock: The ACTS Randomized Clinical Trial JAMA. 2020 Aug 18;324(7):642-650. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【重要性】アスコルビン酸、副腎皮質ステロイドおよびチアミンの併用は、敗血症ショックの有望な治療法として考えられている。 【目的】アスコルビン酸、副腎皮質ステロイドおよびチアミンの併用によって敗血症ショックの臓器障害を改善するかを明らかにするため。 【デザイン、設定および参加者】成人敗血症ショック患者に用いるアスコルビン酸、副腎皮質ステロイドおよびチアミンの併用をプラセボと比較した多施設共同無作為化盲検比較試験。2018年2月9日から2019年10月27日にかけて、米国の14施設で205例を組み入れた。2019年11月29日まで追跡した。 【介入】被験者を非経口アスコルビン酸(1500mg)、ヒドロコルチゾン(50mg)およびチアミン(100mg)6時間に1回、4日間投与するグループ(103例)と同じタイミングでマッチさせた用量のプラセボを投与するグループ(102例)に無作為に割り付けた。 【主要評価項目】主要評価項目は、登録時と72時間後のSOFAスコア(範囲0~24点、0点が最も良好)の変化量とした。腎不全および30日死亡率を重要な副次評価項目とした。試験薬を1回以上投与した患者を解析対象とした。 【結果】無作為化した205例(平均年齢68[SD 15]歳、女性90例[44%])のうち200例(98%)に試験薬を1回以上投与し、全例が試験を完遂し、解析対象とした(介入群101例、プラセボ群99例)。全体で、登録後72時間にわたるSOFAスコアの変化を見ると、時間と治療群の間に有意差は見られなかった(平均SOFAスコア変化:介入群9.1点から4.4点[-4.7点] vs プラセボ群9.2点から5.1点[-4.1点]、調整平均差-0.8、95%CI -1.7~0.2点、交互作用のP=0.12)。腎不全発生率(介入群31.7%vs プラセボ群27.3%、調整リスク差0.03、95%CI -0.1~0.2点、P=0.58)や30日死亡率(34.7%vs 29.3%、ハザード比1.3、95%CI 0.8-2.2、P=0.26)にも有意差は見られなかった。よく見られた銃独な有害事象は、高血糖(介入群12例、プラセボ群7例)、高ナトリウム血症(それぞれ11例と7例)、新規院内感染症(それぞれ13例と12例)であった。 【結論および意義】敗血症ショックで、アスコルビン酸、副腎皮質ステロイドおよびチアミンの併用による登録後72時間のSOFAスコア低下量はプラセボと有意差が見られなかった。このデータからは、敗血症ショック患者にこの併用療法のルーチンの使用は支持されない。 第一人者の医師による解説 ACTS試験:注目のMetabolic resuscitation療法 またも期待外れ 西田 修 藤田医科大学医学部麻酔・侵襲制御医学講座主任教授 MMJ. February 2021;17(1):25 2016年、敗血症の定義と診断基準が変更された(1)。「感染症に対する制御不能な宿主反応に起因する生命を脅かす臓器障害」と定義され、「全身性炎症」として評価する従来の診断基準から、「臓器障害そのものの進展」に重きを置いた診断基準に変更されている。 救命率は向上してきているものの、依然として致死率は高く、最近の全世界的な調査によると、すべての死亡原因の約20%は敗血症関連といわれている。敗血症は一刻を争う治療が必要とされるが、感染巣のコントロール・過不足のない輸液・昇圧薬の適正使用と人工呼吸管理などのライフサポートが主体であり劇的な改善をもたらす治療法はない。このような中で、細胞の機能を改善し組織障害を防ぐ手立てとして、“metabolic resuscitation”の考えが近年注目され、ステロイド(Hydrocortisone)、ビタミンC(Ascorbic acid)、ビタミンB1(Thiamine)の併用療法(HAT療法)が試みられるようになった。また、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)でもアスコルビン酸は補助療法として提唱されている。2017年に発表された後ろ向き前後比較研究(2)では、敗血症・敗血症ショック患者の院内死亡率が31.9%(40.4→8.5%)低下、昇圧薬使?期間が約3分の1に短縮という治療成績を示した。これを検証するための無作為化対照試験(RCT)が複数実施され、その結果が最近報告されてきているが、いずれも期待したほどの効果はみられていない。本論文で報告された大規模なACTS試験もその1つで、成人の敗血症性ショック患者200人をアスコルビン酸(1,500mg)、ヒドロコルチゾン(50mg)およびチアミン(100mg)を6時間ごとに4日間静注する群もしくはプラセボ群に割り付け、治療効果を比較した。主要評価項目は、各臓器の障害の程度を示すSequential Organ Failure Assessment(SOFA)スコアの変化(入室時と72時間後の比較)としている。両群の患者背景に差はなかった。SOFAスコアの変化において両群間に有意差はなく、副次評価項目の30日死亡率、腎機能障害などでも有意差はなかった。循環改善効果として、shock free daysに有意差を認めているが、差は1日である。ヒドロコルチゾン単独群を対照としたRCT(3)では循環改善効果が示されなかったことから、ACTS試験における差はヒドロコルチゾンの効果であると推定できる。最頻度の有害事象として高血糖と高ナトリウム血症を認めている。 今回のACTS試験ならびに他のRCTの結果を総合的に考えると、HAT療法はルーチンで用いるべきものではなく、効果は限定的であると考えられる。 1. Singer M, et al. JAMA. 2016;315(8):801-810. 2. Marik PE, et al. Chest. 2017;151(6):1229-1238. 3. Fujii T, et al. JAMA. 2020;323(5):423-431.
急性冠症候群に用いるチカグレロル単剤療法とチカグレロル+アスピリン併用療法が大出血および心血管イベントにもたらす効果 TICO無作為化臨床試験
急性冠症候群に用いるチカグレロル単剤療法とチカグレロル+アスピリン併用療法が大出血および心血管イベントにもたらす効果 TICO無作為化臨床試験
Effect of Ticagrelor Monotherapy vs Ticagrelor With Aspirin on Major Bleeding and Cardiovascular Events in Patients With Acute Coronary Syndrome: The TICO Randomized Clinical Trial JAMA. 2020 Jun 16;323(23):2407-2416. doi: 10.1001/jama.2020.7580. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【重要性】短期間の抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)後のアスピリン投与中止が、出血抑制戦略として評価されている。しかし、チカグレロル単剤療法の戦略は、急性冠症候群(ACS)患者に対象を限定して評価されていない。 【目的】薬剤溶出性ステントで治療したACS患者で、3カ月間のDAPT後にチカグレロル単剤療法に切り替えることによってチカグレロル主体の12カ月間のDAPTより純有害臨床事象が減少するかと明らかにすること。 【デザイン、設定および参加者】韓国の38施設で、2015年8月から2018年10月にかけて、薬剤溶出性ステントで治療したACS患者3056例を対象に、多施設共同無作為化試験を実施した。2019年10月に追跡が終了した。 【介入】患者を3カ月間のチカグレロルとアスピリンを用いたDAPT後にチカグレロル単剤療法(1日2回90mg)へ切り替えるグループ(1527例)とチカグレロル主体の12カ月間のDAPTを実施するグループ(1529例)に割り付けた。 【主要評価項目】主要評価項目は、1年後の純臨床有害事象とし、大出血および有害心脳血管イベントの複合(死亡、心筋梗塞、ステント血栓症、脳卒中、標的病変の血行再建術のいずれか)と定義した。重大な有害心脳血管イベントを事前に副次評価項目に規定した。 【結果】無作為化した3056例[平均年齢61歳、女性628例(20%)、ST上昇型心筋梗塞36%]のうち2978例(97.4%)が試験を完遂した。主要評価項目は、3カ月間のDAPT後チカグレロル単剤療法への切り替え群の59例(3.9%)、チカグレロル主体の12カ月間のDAPT群の89例(5.9%)に発生した(絶対差-1.98%[95%CI 3.50~-0.45%]、ハザード比[HR]0.66[95%CI 0.48~0.92]、P=0.01)。事前に副次評価項目に規定した10項目中8項目に有意差が見られなかった。3カ月間のDAPT後チカグレロル単剤療法への切り替え群の1.7%、チカグレロル主体の12カ月間のDAPT群の3.0%に大出血が発生した(HR 0.56[0.34~0.91]、P=0.02)。重大な有害心脳血管イベントの発生率には、3カ月間のDAPT後チカグレロル単剤療法への切り替え群(2.3%)とチカグレロル主体の12カ月間のDAPT群(3.4%)に有意な差が見られなかった(HR 0.69[95%CI 0.45~1.06]、P=0.09)。 【結論および意義】薬剤溶出性ステントで治療した急性冠症候群で、3カ月間のDAPT後のチカグレロル単剤療法への切り替えによって、チカグレロル主体の12カ月間のDAPTよりも、1年時の大出血および有害心脳血管イベントの複合転帰が控えめだが統計的に有意に減少した。この試験で検討した患者集団および予想されるイベント発生率がこれより低い患者には、この試験で検討した治療を検討すべきである。 第一人者の医師による解説 ACS患者に新世代 DESを留置した後のDAPT期間は3カ月で良い 前村 浩二 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科循環器内科学教授 MMJ. February 2021;17(1):20 冠動脈にステントを留置した後には、ステント内血栓症を防ぐために一定期間、抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)を行う必要があり、通常アスピリンとP2Y12受容体拮抗薬を使用する。第1世代の薬剤溶出性ステント(DES)では留置後長期間経ってもステントが内膜に覆われず血栓を形成することがあったため、DES留置後は1年間、可能ならさらに長期間DAPTを継続することが推奨された。その後DESは改良され、第2、3世代のDESではステント血栓症は少なくなったため、DAPT期間を短縮できるとする報告が相次いでいる。 本研究は、DES留置を受けた急性冠症候群(ACS)患者に、チカグレロルとアスピリンによるDAPTを3カ月行った後に、チカグレロル単剤群とDAPT12カ月群で全臨床的有害事象を比較した試験である。その結果、1年以内の大出血と心血管イベントの複合ではチカグレロル単剤群が3.9%、12カ月DAPT群が5.9%であり単剤群の方が優れていた。この試験では新世代の極薄型ストラット生体吸収性ポリマーDESを用いたことがDAPT期間の短縮に寄与したと考えられる。また、DAPT後にアスピリン単剤でなくチカグレロル単剤にしたことも、DAPT期間短縮に寄与した可能性が高い。チカグレロルはP2Y12受容体を直接阻害するため、効果発現までの時間が短く、欧米ではACS患者に多く使用されている。しかし日本人を多く含む研究であるPHILO試験において、チカグレロルはクロピドグレルに比べ、統計学的有意差はないものの、大出血や心血管イベントが多い傾向にあった(1)。そのため日本ではクロピドグレルまたはプラスグレルが多く使用され、チカグレロルはこれらが使用できない場合のみ適応とされている。クロピドグレルを用いた試験としては、日本でDAPT1カ月+クロピドグレル単剤投与とDAPT12カ月を比較したSTOPDAPT-2試験が行われ、DAPT1カ月群の優越性が示された(2)。現在ACS患者を対象としたSTOPDAPT-2ACS試験が進行中である。 このようにDAPT期間を短縮できるという報告が相次いでいるため、日本のガイドラインが最近更新された。2020年の日本循環器学会「冠動脈疾患患者における抗血栓療法ガイドライン」フォーカスアップデート版では、ACS患者は血栓リスクが高いと考えられるため、出血リスクが低い場合のDAPT期間は3~12カ月を推奨しているが、高出血リスク患者では1~3カ月を推奨している。このようにDESの改良によりDAPT期間は以前より短くなり、個々の患者の出血リスクと血栓リスクを勘案して決定することになる。 1. Goto S, et al. Circ J. 2015;79(11):2452-2460. 2. Watanabe H, et al. JAMA. 2019;321(24):2414-2427.
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