「MMJ - 五大医学誌の論文を著名医師が解説」の記事一覧

物理的距離確保の介入と新型コロナウイルス感染症発症 149カ国の自然実験
物理的距離確保の介入と新型コロナウイルス感染症発症 149カ国の自然実験
Physical distancing interventions and incidence of coronavirus disease 2019: natural experiment in 149 countries BMJ. 2020 Jul 15;370:m2743. doi: 10.1136/bmj.m2743. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【目的】世界の物理的距離を確保する介入と新型コロナウイルス感染症(COVID-19)発症の関連を評価すること。 【デザイン】分割時系列解析を用いた自然実験。メタ解析を用いて結果を統合した。 【設定】欧州疾病予防管理センターからCOVID-19症例の日報データ、オックスフォードCOVID-19 政策反応追跡から物理的距離確保の政策に関するデータが入手できる149の国または地域。 【参加者】2020年1月1日から5月30日までの間に、物理的距離を確保する政策5項目(学校閉鎖、職場閉鎖、公共交通機関の閉鎖、大規模集会やイベントの制限、移動の制限[都市封鎖])のうち1項目以上を導入した国または地域。 【主要評価項目】2020年5月30日または介入後30日間のいずれか先に発生した日付までのデータを用いて推算した物理的距離確保政策導入前後のCOVID-19の発生率比(IRR)。ランダム効果メタ解析を用いて各国のIRRを統合した。 【結果】物理的距離介入策の導入で、COVID-19発生率が全体で平均13%低下した(IRR 0.87、95%CI 0.85-0.89、149カ国)。他の4項目の物理距離確保政策が実施されていた場合、公共交通機関の閉鎖によってCOVID-19発症率がさらに低下することはなかった(公共交通機関の閉鎖あり:統合IRR 0.85、95%CI 0.82-0.88、72カ国、閉鎖なし:同0.87、0.84-0.91、32カ国)。このほか、11カ国のデータから、学校閉鎖、職場閉鎖および大規模集会の制限にほぼ同じ全般的な効果があることが示唆された(同0.85、0.81-0.89)。政策導入の順序を見ると、他の物理的距離確保政策の後に都市封鎖を実施した場合(同0.90、0.87-0.94、41カ国)と比較すると、都市封鎖の早期導入によってCOVID-19発生率が低下した(同0.86、0.84-0.89、105カ国)。 【結論】物理的距離の介入によって、世界的にCOVID-19発生率が低下した。他の4項目の政策を導入した場合、公共交通機関を閉鎖することによってさらに効果が高くなる根拠は見られなかった。都市封鎖の早期導入によってCOVID-19発生率が大きく低下した。この結果から、今回または将来の感染症流行のため、国が物理的距離政策の強化に備える政策決定に役立つと思われる。 第一人者の医師による解説 149カ国の自然実験 適切な身体的距離確保の介入指針となる可能性 神林 隆道(臨床助手)/園生 雅弘(主任教授) 帝京大学医学部附属病院脳神経内科 MMJ. February 2021;17(1):13 世界的なパンデミックとなっている新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対し、ほとんどの国が身体的距離(physical distancing)を確保することを目的とした介入を行っているが、それらの有効性の検討はこれまで主にモデル研究でなされており、実際の患者集団におけるデータに基づく有効性評価の報告は乏しい。 本研究では、2020年1月1日~5月30日に以下の5種類の身体的距離確保のための介入(学校閉鎖、職場閉鎖、公共交通機関の閉鎖、大人数の集会や公共イベントの制限、移動制限)のうち1つ以上が行われた国を対象に国別に分割時系列解析を実施し、データのメタ解析によって身体的距離確保の介入前後のCOVID-19発生率比を評価した。 149カ国が1種類以上の身体的距離確保のための介入を行っており、ベラルーシとタンザニアを除くすべての国が5種類のうち3種類以上を実施していた(日本は公共交通機関の閉鎖以外の4種類)。118カ国では5種類すべてが実施されていた。全体の結果として、身体的距離確保の介入によってCOVID-19発生率が13%低下したことが示された。 データのメタ解析からは、最初の症例報告から介入開始までの日数(P=0.57)や、PCR検査実施率(P=0.71)は、発生率に有意な影響を与えておらず、一方で65歳以上の高齢人口比率(P<0.001)や1人当たりのGDPが高い(P=0.09)国は、身体的距離確保の介入による発生率の低下がより大きかった。また、注目すべき点として、介入の組み合わせについて、学校閉鎖、職場閉鎖、公共イベントの制限、移動制限の4種類が一緒に実施された場合のCOVID-19発生率比(0.87;95 % 信頼区間[CI], 0.84~0.91;32カ国)は、さらに公共交通機関の閉鎖を加えた5種類すべての介入を行った場合とほぼ同等(0.85;95% CI, 0.82~0.88;72カ国)で、公共交通機関の閉鎖に付加的なCOVID-19発生抑制効果は認められなかった。 介入の順序に関しては、移動制限を早期に実施した場合のCOVID-19発生率比(0.86;95% CI, 0.84~0.89;105カ 国)は、他の身体的距離確保による介入後に遅れて移動制限を行った場合(0.90;95 % CI, 0.87~0.94;41カ国)よりも 低く、より早期の移動制限の介入の方がCOVID-19発生率の抑制効果は大きいことが示唆された。 著者らはこれらのデータが、今後流行が起こった際の施策決定に役立つだろうと結論している。日本でも引き続き適切な行動変容によって、医療崩壊に陥らずかつ社会・経済活動を維持できる程度に感染者数をコントロールしていくことが重要であろう。
ビタミンD長期的補給がうつまたはうつ症状リスクおよび気分スコアの変化にもたらす効果 無作為化試験
ビタミンD長期的補給がうつまたはうつ症状リスクおよび気分スコアの変化にもたらす効果 無作為化試験
Effect of Long-term Vitamin D3 Supplementation vs Placebo on Risk of Depression or Clinically Relevant Depressive Symptoms and on Change in Mood Scores: A Randomized Clinical Trial JAMA. 2020 Aug 4;324(5):471-480. doi: 10.1001/jama.2020.10224. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【重要性】25-ヒドロキシビタミンD値が低いと後にうつ病リスクが高くなるが、長期にわたる高用量摂取を検討した大規模試験がほとんどない。 【目的】ビタミンD3補給が後のうつ病リスクおよび気分スコアにもたらす効果を検証すること。 【デザイン、設定および参加者】米国で成人2万5871例を対照に心血管疾患とがんの予防を検討した無作為化試験VITALの補助的試験、VITAL-DEP(Vitamin D and Omega-3 Trial-Depression Endpoint Prevention)に50歳以上の男女1万8353例が参加した。1万6657例にうつ病発症リスク(うつ病既往歴なし)、1696例にうつ病再発リスク(うつ病既往歴があるが、過去2年間うつ病の治療を受けていない)があった。2011年11月から2014年3月にかけて無作為化し、2017年12月31日に割り付けた治療が終了し、この日が最終追跡日となった。 【介入】2×2要因デザインを用いて、ビタミンD3(コレカルシフェロール1日当たり2000IU)、魚油またはプラセボに無作為化。9181例をビタミンD3、9172例をマッチさせたプラセボに割り付けた。 【主要評価項目】主要評価項目は、うつ病または治療を要するうつ症状のリスク(総発症例数および再発例数)および気分スコア(8項目から成る患者健康質問票うつ尺度[PHQ-8]、0[症状なし]から24点[症状が多い]、臨床的意義のある最小変化量は0.5点)の平均差。 【結果】無作為化した1万8353例(平均年齢67.5[SD 7.1]歳、女性49.2%)の治療期間中央値は5.3年間で、90.5%が試験を完了した(試験終了時生存していた参加者の93.5%)。ビタミンD3群(うつ病または治療を要するうつ症状609例、1000人年当たり12.9)とプラセボ群(同625例、13.3)のうつ病または治療を要するうつ症状のリスクに有意差は見られず(ハザード比0.97、95%CI 0.87-1.09、P=0.62)、うつ病発症または再発に群間差はなかった。時間の経過に伴う気分スコアの変化に治療群間の有意差は見られず、PHQ-8スコアの平均変化量も有意差はなかった(気分スコアの平均変化量0.01点、95%CI -0.04-0.05)。 【結論および意義】試験開始時に治療を要するうつ症状がない50歳以上の男女を中央値5.3年間追跡した結果、プラセボを比較して、ビタミンD3治療によってうつ病の発症や再発、治療を要するうつ症状、気分スコアの変化に有意な差は認められなかった。この結果は、うつ病予防のための成人へのビタミンD3投与は支持するものではない。 第一人者の医師による解説 大規模 RCTによる長期介入でも効果は確認できず 山口 智史/佐々木 司(教授) 東京大学大学院教育学研究科健康教育学分野 MMJ. February 2021;17(1):15 うつ病は疾病負荷の主要因の1つとなっている(1)。特に、高齢者のうつ病は十分に治療されていないケースが多いため(2)、医療において、高齢者のうつ病予防は重要な領域である。高齢者では、血中ビタミンD濃度が低い場合に抑うつリスクが高いことが、横断研究のメタ解析によって示されている(3)。しかし、ビタミンD濃度を上昇させる介入がうつ病予防に有効であるかどうかについては十分に検討されていない。今回報告されたVITAL-DEP試験は、ビタミン Dのサプリメントを毎日服用することで、うつ病の予防が可能であるかを5年にわたる介入により検証した、ランダム化二重盲検プラセボ対照試験である。 試験対象者は、50歳以上の男女で、研究参加時点までにうつ病の診断を受けたことがない人か、うつ病既往があっても寛解後2年以上経過している人である。主要評価項目は2つあり、1つ目は、うつ病の発症および再発の有無である(うつ病の発症および再発は、医師によるうつ病の診断を受けたかどうか、うつ病の治療を受けているかどうか、うつ症状を測る質問票[PHQ-8]で点数がカットオフ以上となったかどうかのいずれかを指す)。2つ目は、PHQ-8で測ったうつ症状の長期的変化である。割り付けられた参加者は18,353人、このうち57.5%が5年間研究に参加し続けた。追跡調査は年1回の郵送による質問票で行われ、うつ病の発症と再発の確認、うつ症状の測定が行われた。また、割り付けられた錠剤の3分の2以上を服用したと回答し、プロトコール遵守とみなされた参加者は毎年の調査で90%を超えていた。ビタミンD服用群9,181人中、うつ病が発症または再発した人は609人であった(12.9/1,000人・年)。一方、プラセボ群では9,172人中625人であった(13.3/1,000人・年)。うつ病の発症・再発に関して、ビタミンD服用群とプラセボ群の間で、ハザード比は有意とならなかった。また、質問票で測ったうつ症状の点数も、2群間に有意差は認められなかった。これは、介入期間中のどの時点でも同様であった。 今回の結果は、10,000人を超える非常に多くの一般住民に対して、5年という長期の介入を続けたランダム化試験によるものである。著者らはこれらの点をVITAL-DEP試験の強みとして挙げており、得られた結果は、成人のうつ病予防のためにビタミンDを服用させることを支持するものではなかったと結論している。 1. Mathers CD, et al. PLoS Med. 2006;3(11):e442. 2. Unutzer J, et al. J Am Geriatr Soc. 2000;48(8):871-878. 3. Li H, et al. Am J Geriatr Psychiatry. 2019;27(11):1192-1202.
サイトメガロウイルス感染妊婦の胎児への垂直感染予防に用いるバラシクロビル 無作為化二重盲検プラセボ対照試験
サイトメガロウイルス感染妊婦の胎児への垂直感染予防に用いるバラシクロビル 無作為化二重盲検プラセボ対照試験
Valaciclovir to prevent vertical transmission of cytomegalovirus after maternal primary infection during pregnancy: a randomised, double-blind, placebo-controlled trial Lancet. 2020 Sep 12;396(10253):779-785. doi: 10.1016/S0140-6736(20)31868-7. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】サイトメガロウイルスはよく見られる先天性感染であり、妊娠早期の初回感染の後の死亡率が高い。胎児への垂直感染を予防するのに有効な手段はない。著者らは、妊娠早期にサイトメガロウイルスに感染した妊婦から胎児への垂直感染がバラシクロビルで予防できるかを調査することを試みた。 【方法】この前向き二重盲検プラセボ対照無作為化試験は、Infectious Feto-Maternal Clinic of Rabin Medical Center(イスラエル・ペタフ ティクヴァ)で実施された。妊娠初期または第1三半期中のサイトメガロウイルス初回感染が血清学的検査で確定した18歳以上の妊婦を経口バラシクロビル(1日8g、1日2回)またはプラセボに無作為に割り付け、登録時から21週または22週時に羊水穿刺検査実施まで投与した。妊娠初期と第1三半期中に感染した被験者を別々に無作為化し、4つのブロックで無作為化した。試験期間中、被験者と研究者に治療の割り付けを伏せた。主要評価項目は、サイトメガロウイルスの垂直感染率とした。per-protocol原理にしたがって統計学的解析を実施した。この試験は、ClinicalTrials.govにNCT02351102番で登録されている。 【結果】2015年11月15日から2018年10月8日にかけて100例を無作為化し、バラシクロビルまたはプラセボを投与した。10例を除外し(各群5例ずつ)、最終解析にはバラシクロビル群45例(いずれも単胎妊娠)、プラセボ群45例(単胎妊娠43例、2例が双胎妊娠)を対象とした。バラシクロビル群は第1三半期中および妊娠初期の感染例を含み、羊水穿刺45件中5件(11%)がサイトメガロウイルス陽性、プラセボ群では羊水穿刺47件中14件(30%)が陽性であった(P=0.027、垂直感染のオッズ比0.29、95%CI 0.09-0.90)。第1三半期中のサイトメガロウイルス初回感染例で、バラシクロビル群(羊水穿刺19件中2件[11%])の方がプラセボ群(羊水穿刺23件中11件[48%])よりも羊水穿刺でのサイトメガロウイルス陽性が有意に少なかった(P=0.020)。臨床的に有意な有害事象は報告されなかった。 【解釈】バラシクロビルは、妊娠早期にサイトメガロウイルスに感染した妊婦のから胎児への垂直感染率を抑制するのに有効である。初回感染妊婦の早期治療によって、妊娠喪失や先天性サイトメガロウイルス感染乳児の出産を防ぐことができると思われる。 第一人者の医師による解説 妊娠初期のCMVスクリーニング検査と バラシクロビル投与の広まりに期待 田中 守 慶應義塾大学医学部産婦人科教授 MMJ. February 2021;17(1):28 先天性サイトメガロウイルス感染症は、世界で最も多い母児感染の原因の1つであり、器官形成期である妊娠初期に感染すると児に重篤な神経学的障害を残す疾患である。有効なワクチンもないため、初回感染妊婦のスクリーニング法と治療法の確立が求められてきた(1)。出生後の先天性サイトメガロウイルス感染症に使用されているアシクロビルやバラシクロビルは、米国食品医薬品局(FDA)分類でカテゴリーBに分類され、妊娠中の安全性が認められている。また、母体へ投与されたバラシクロビルは、胎盤を通過し、母体、胎児、羊水中に十分な治療濃度が確保されると報告されている(2)。 本論文は、妊娠初期に母体サイトメガロウイルス初回感染が確認された妊婦に対してバラシクロビルの有効性と安全性を検討した無作為化二重盲検プラセボ対照試験のイスラエルからの報告である。100人のサイトメガロウイルス初回感染妊婦に対して、1日8gのバラシクロビル群とプラセボ群の2群に分け、治療効果を判定する羊水 PCR検査まで最低6週間の薬剤服用を行った。最終的に45人のバラシクロビル群と45人のプラセボ群の結果が解析された。妊娠中期に実施された胎児感染を調べるための羊水 PCR検査において、バラシクロビル群では45検査中5例(11%)がサイトメガロウイルス陽性となり、プラセボ群の44検査中14例(30%)に比較して有意に低値となった。特に妊娠初期に判明した母体サイトメガロウイルス初回感染例に対しては、顕著な胎児垂直感染予防効果が認められた(羊水PCR検査陽性率:バラシクロビル群11%、対するプラセボ群48%)。一方、バラシクロビル群に明らかな有害事象は認められなかった。 日本では、イスラエルほど妊娠初期のサイトメガロウイルス初回感染スクリーニング検査が普及していない現状であり、いまだ多くの先天性サイトメガロウイルス感染症の子どもが生まれてきている。妊娠初期にスクリーニング検査を行い、陽性者にはバラシクロビルを投与することで垂直感染が予防できる可能性が示されたことは意義深い。今後、日本での妊婦に対するサイトメガロウイルス感染症スクリーニング検査とバラシクロビル投与による垂直感染予防策が広まっていくことが望まれる。 1. Tanimura K, et al. J Obstet Gynaecol Res. 2019 45(3):514-521. 2. Jacquemard, F, et al. BJOG 2007 114(9): 1113-1121.
新世代ガドリニウム造影剤による腎性全身性線維症リスク 系統的レビュー
新世代ガドリニウム造影剤による腎性全身性線維症リスク 系統的レビュー
Risk for Nephrogenic Systemic Fibrosis After Exposure to Newer Gadolinium Agents: A Systematic Review Ann Intern Med. 2020 Jul 21;173(2):110-119. doi: 10.7326/M20-0299. Epub 2020 Jun 23. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】従来のガドリニウム造影剤(GBCA)と比較した新世代GBCA投与後の腎性全身性線維症(NSF)リスクは明らかになっていない。 【目的】腎機能の観点から見て従来GBCAと比べた新世代GBCAのNSFリスクについての科学的根拠を統合すること。 【データ入手元】MEDLINE、EMBASE、Cochrane Central Register of Controlled TrialsおよびWeb of Scienceで、開始から2020年5月5日までの英語の文献を検索した。 【試験の選択】GBCA曝露後に発生したNSFを評価した無作為化試験、コホート試験および症例対照試験 【データ抽出】1名がデータを要約し、もう1名が検証した。検証ツールを用いて、2人1組でバイアスリスクを評価した。 【データ統合】対象とした試験32件のうち、20件が新世代GBCA曝露後のNSFリスクを評価し、12件(コホート試験11件および症例対照試験1件)が新旧GBCAのNSFリスクを比較していた。新世代GBCAに曝露した8万3291例でNSFを発症した症例はなかった(正確95%CI 0.0001-0.0258)。新旧GBCAのリスクを比較した12件(対象11万8844例)で、従来GBCA投与後に37例(正確95%CI 0.0001-0.0523)、新世代GBCA投与後に4例(3例confounded)がNSFを発症した。急性腎障害患者および慢性腎不全のリスクがある患者のデータは不十分であった。 【欠点】試験に異質性があり、メタ解析ができなかった点。曝露および転帰の把握が不十分であったため、ほとんどの試験でバイアスリスクが高かった点。 【結論】新世代GBCA暴露後のNSF発症が非常にまれであったが、急性腎障害患者や慢性腎不全の危険因子がある患者のデータが乏しかったため、この集団での安全性に関する結論を示すことができない。 第一人者の医師による解説 腎障害患者へのガドリニウム造影剤使用 これまで同様に慎重な判断が必要 渡谷 岳行 東京大学大学院医学系研究科 生体物理医学専攻放射線診断学准教授 MMJ. February 2021;17(1):26 2007年、米国食品医薬品局(FDA)は腎性全身性線維症(nephrogenic systemic fibrosis;NSF)の発症に、ガドリニウム含有 MRI造影剤の関連が疑われるという警告を行った。現在ではNSFの発症には、造影剤のキレートから遊離したガドリニウム原子の組織沈着が関与していると言われており、NSFの発症には①造影剤分子におけるガドリニウム原子の安定性②腎機能の2つの因子が強く関与していると考えられている。 米国放射線学会(ACR)はガドリニウム造影剤をNSFの報告数が多いGroup I、報告数の少ないGroup II、報告数は少ないがデータの少ないGroup IIIに分類している。本研究ではGroup IIとIIIを新世代の造影剤と位置づけて、文献報告をレビューしている。20の文献が新世代造影剤によるNSF発症率のアセスメントに採用され、95%信頼区間(CI)の上限は0.0258であった。12の文献が新世代と旧世代造影剤のNSF発症率の比較に採用され、旧世代の95% CI上限は0.0523、新世代では0.0204であった。旧世代(Group I)の造影剤に比べ、新世代造影剤の発症リスクが低いことが示されたが、本研究で採用された文献のほとんどは、メーカー主導の市販後臨床試験を除き、被験者が少数の研究に基づくものである。また、それらの中でも腎障害を有する被験者の割合は低く、高リスク群に対する評価が十分なされているとは言えない。この点は本論文内でも言及されている。 NSFは稀な合併症とはいえ一度発症すると有効な治療法が確立されておらず、致死率も低くないため十分なデータを集めること自体が難しい領域である。現在の日本では新世代造影剤が十分に普及している状況ではあるが、腎障害患者へのガドリニウム造影剤使用の適応については、これまで同様に慎重な判断を行っていく必要があると考えられる。
再発または難治性多発性骨髄腫に用いるカルフィルゾミブ+デキサメタゾンと比較したカルフィルゾミブ+デキサメタゾン+ダラツムマブ(CANDOR) 第III相多施設共同非盲検無作為化試験の結果
再発または難治性多発性骨髄腫に用いるカルフィルゾミブ+デキサメタゾンと比較したカルフィルゾミブ+デキサメタゾン+ダラツムマブ(CANDOR) 第III相多施設共同非盲検無作為化試験の結果
Carfilzomib, dexamethasone, and daratumumab versus carfilzomib and dexamethasone for patients with relapsed or refractory multiple myeloma (CANDOR): results from a randomised, multicentre, open-label, phase 3 study Lancet. 2020 Jul 18;396(10245):186-197. doi: 10.1016/S0140-6736(20)30734-0. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】レナリドミドおよびボルテゾミブを用いた1次治療によって、再発または難治性多発性骨髄腫の新たな治療の必要性が高まっている。カルフィルゾミブとダラツムマブの併用は、第I相試験で、再発または難治性多発性骨髄腫での高い有効性が示されている。この試験では、再発または難治性多発性骨髄腫に用いるカルフィルゾミブ、デキサメタゾンおよびダラツムマブの併用をカルフィルゾミブとデキサメタゾンの併用と比較した。 【方法】この第III相多施設共同非盲検無作為化試験では、北米、欧州、オーストラリアおよびアジアの102施設から組み入れた再発または難治性多発性骨髄腫患者466例をカルフィルゾミブ+デキサメタゾン+ダラツムマブ(KdD)とカルフィルゾミブ+デキサメタゾン(Kd)に2対1の割合で無作為に割り付けた。全例にカルフィルゾミブ56mg/m2(第1サイクルの第1、2日は20mg/m2)を週2回投与した。ダラツムマブは、第1サイクルの第1、2日に8mg/kg、残りの第1サイクルと第2サイクルでは週1回16mg/kg、第3-6サイクルでは2週に1回16mg/kg、その後は4週に1回16mg/kgを投与した。デキサメタゾン40mgを週1回(第2週以降、75歳以上の患者に20mg)投与した。主要評価項目は、intention-to-treatで評価した無増悪生存期間とした。安全性解析集団で有害事象を評価した。この試験(NCT03158688)は、ClinicalTrials.govに登録されており、現在進行中であるが、登録は終了している。 【結果】2017年6月13日から2018年6月25日にかけて、適格性を評価した569例のうち466例を組み入れた。追跡期間中央値約17カ月後、KdD群は無増悪生存期間未達であったのに対し、Kd群は15.8カ月であった(ハザード比0.63、95%CI 0.46-0.85、P=0.0027)KdD群の治療期間中央値はKd群よりも長かった(70.1週 vs 40.3週)。KdD群の253例(82%)、Kd群の113例(74%)にグレード3以上の有害事象が報告された。治療中止に至った有害事象の発生頻度は、両群同等であった(KdD群69例[22%]、Kd群38例[25%])。 【解釈】KdD療法によって、Kd療法と比べて再発または難治性多発性骨髄腫患者の無増悪生存期間が長くなり、リスク便益のデータも良好であった。 第一人者の医師による解説 他の3剤併用療法との比較は未実施 併用療法の選択や順番は臨床現場での判断 中澤 英之 信州大学医学部血液内科講師 MMJ. February 2021;17(1):24 多発性骨髄腫(MM)の治療は、20年ほど前まで選択肢が限られていたが、その後、プロテアソーム阻害薬(PI)のボルテゾミブ、免疫調整薬(IMiDs)のレナリドミドが登場し、さらにこの10年間に7種類の新規薬剤が利用可能になった。現在、新規薬剤を含めた複数の選択肢の中から、患者ごとに治療を選ぶことが、臨床医の課題となっている。一方、MM患者の治療開始からの平均余命は約6年とされ、特に再発・難治性 MMの治療にはまだ改善の余地がある。 本論文は、再発・難治性 MMに対する新たな併用療法として、PIのカルフィルゾミブ(K)、抗CD38抗体薬のダラツムマブ(D)、デキサメタゾン(d)の3剤併用療法(KdD療法)の有用性を評価したランダム化国際共同非盲検第 III相 CANDOR試験の報告である。この試験結果に基づき、日本では2020年11月からKdD療法が保険診療で実施可能となった。本試験には北米、欧州、豪州、アジアの102施設から、前治療レジメン数1~3の再発・難治性MM患者が登録され、KdD群とKd(対照)群に割り付けられた。その結果、主要評価項目の無増悪生存期間(PFS)は追跡期間中央値17カ月時点において、KdD群は未到達、Kd群は15.8カ月(ハザード比[HR], 0.63)で、KdD療法の優位性が示された。頻度の高い有害事象(AE)として血小板減少、貧血、消化管症状、高血圧、感染症、疲労感などが認められ、ほかに注目すべきAEとして、末梢神経障害、注射反応、心不全、急性腎不全、虚血性心疾患などが報告された。有害事象による中止率はKdD群22%、Kd群25%で、Kの中止要因は心不全、Dの中止要因は肺炎が最多であった。 本試験の追跡調査結果が2020年秋の米国血液学会(ASH)で報告された。観察期間およそ28カ月時点の解析(1)によると、PFS中央値はKdD群28.6カ月、Kd群15.2カ月であり、KdD群の優位性はその後も維持されていることが明らかになった(HR, 0.59;95% CI, 0.45~0.78)。サブグループ解析では、細胞遺伝学的に高リスク患者、前治療歴2レジメン以上の患者、レナリドミド不応性患者でもKdD療法の優位性が示された。新たなAEの報告はなかった。 CANDOR試験によって、KdD療法は再発・難治性MMに対して有効で認容性の良好な治療選択肢であることが明らかになった。しかし、他の3剤併用療法との直接比較は現時点では実現していない。どの併用療法を、どのような順番で行うかは、まだ臨床現場での判断に任されている。MMの治療選択肢が劇的に増えたこの10年間は、解決すべき多くの課題を再認識した10年間であったとも言えるだろう。 1. Meletios A Dimopoulos, et al. Blood 2020; 136 (Supplement 1): 26-27.
小児の喘息発症および喘鳴持続に関連がある大気汚染および家族関連の決定因子 全国症例対照研究
小児の喘息発症および喘鳴持続に関連がある大気汚染および家族関連の決定因子 全国症例対照研究
Air pollution and family related determinants of asthma onset and persistent wheezing in children: nationwide case-control study BMJ. 2020 Aug 19;370:m2791. doi: 10.1136/bmj.m2791. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【目的】小児の喘息発症および喘鳴時属の危険因子(大気汚染および家族関連)を明らかにすること。 【デザイン】全国症例対照研究 【設定】デンマーク 【参加者】1997年から2014年に出生したデンマーク人小児全例。1歳から15歳まで喘息発症および喘鳴持続を追跡した。 【主要評価項目】喘息発症および喘鳴の持続。 【結果】両親に喘息がある小児(調整ハザード比2.29、95%CI 2.22~2.35)および母親が妊娠中に喫煙していた小児(1.20、1.18~1.22)の喘息発症率が高く、親が高学歴の小児(0.72、0.69~0.75)および親が高収入の小児(0.85、0.81~0.89)の喘息発症率が低かった。直径2.5μm以下および10μm以下の大気中微小粒子状物質(PM2.5およびPM10)、硝酸塩への曝露があると喘息発症および喘鳴持続のリスクが上昇し、汚染物質濃度5μg/m3増加当たりのハザード比はPM2.5で1.05(95%CI 1.03~1.07)、PM10で1.04(1.02~1.06)、二酸化窒素で1.04(1.03~1.04)だった。PM2.5の喘息および喘鳴持続との正の関連は、さまざまなモデルや感度解析の結果、唯一頑強性が維持された。 【結論】この研究結果からは、高濃度PM2.5に曝露した小児は、曝露していない小児に比べて喘息発症および喘鳴持続が起きやすいことが示唆される。この転帰に関連を示すその他の危険因子に、両親の喘息、両親の学歴および母親の妊娠中の喫煙があった。 第一人者の医師による解説 地域差が大きいPM2.5の影響 日本のエコチル調査の結果が待たれる 勝沼 俊雄 慈恵会医科大学附属第三病院小児科診療部長・教授 MMJ. February 2021;17(1):16 小児の喘息発症に関わる因子は個体因子と環境因子からなり、それらは予防対策の基本となる。個体因子は家族歴が主となり、環境因子としては吸入アレルゲン曝露と気道ウイルス感染が議論や対策の中心といえる。少なくとも近年において大気汚染の寄与を強調する傾向はみられない。 しかし今回、デンマークにおける18年に及ぶ全国規模の症例対象研究の結果を踏まえ、本論文の結語として最も強調しているのは、PM2.5の喘息・持続性喘鳴への関与でありその対策である。デンマークでは1976年に国家的な患者登録制度(National Patient Register;LPR)を開始し、本研究は上記患者レジストリに登録されている1997~2014年にデンマークで生まれた子どものデータを解析している。すなわち1歳から15歳までに喘息の診断を受けたか、2種類以上の抗喘息薬を処方された小児(122,842人)に関し、喘息の診断を受けていないランダムに選択された25倍の数の対照(3,069,943人)と比較した。 その結果、喘息・喘鳴頻度を高める因子として親の喘息(調整済みハザード比[HR], 2.29;95%信頼区間[CI], 2.22~2.35)と妊娠中の母体喫煙(HR, 1.20;95% CI, 1.18~1.22)、低める因子として親の高い教育レベル(HR, 0.72;95% CI, 0.69~0.75)と 高収入(HR, 0.85;95 % CI, 0.81~0.89)が特定された。そして大気汚染物質の中では、唯一PM2.5への曝露が喘息・喘鳴のリスクを有意に高めることが明らかとなり、PM2.5濃度が5μg/m3上昇するごとにリスクが1.05(95% CI, 1.03~1.07)倍高まるという結果が得られた。調査全体におけるPM2.5の平均値(SD)は12.2(1.5)μg/m3であった(下位5%の平均値は9.7μg/m3、上位5%は14.8g/m3)。 数年前の中国のように著しいPM2.5曝露下においては、半世紀以前の公害喘息(川崎喘息、四日市喘息など)同様、強い関与がありうると私自身は考えていた。しかしながら、本研究で示された平均約12μg/m3というPM2.5のレベルは、東京(15μg/m3程度)と大差ないレベルである。PM2.5が5μg/m3上昇するごとに小児の喘息・喘鳴リスクが5%高まるということは、喘息自体の有病率が5%であることから無視できない影響といえる。喘息の最前線で働いてきた臨床医としては実感しにくいが、PM2.5の影響は地域差が大きいであろうから日本における調査に注目したい。喘息、アレルギーを含む大規模な出生コホート調査で、2011年から始まったエコチル調査の結果が待たれる
ビタミンD低値喘息患児の重度喘息増悪にもたらすビタミンD3補給の効果 VDKA無作為化臨床試験
ビタミンD低値喘息患児の重度喘息増悪にもたらすビタミンD3補給の効果 VDKA無作為化臨床試験
Effect of Vitamin D3 Supplementation on Severe Asthma Exacerbations in Children With Asthma and Low Vitamin D Levels: The VDKA Randomized Clinical Trial JAMA. 2020 Aug 25;324(8):752-760. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【重要性】重度の喘息増悪は死に至ることがあり、医療費もかかる。ビタミンD3補給によって小児期の重度喘息増悪が抑制できるかは明らかになっていない。 【目的】ビタミンD3補給によって、ビタミンD低値喘息患児の重度増悪までの時間が改善するかを明らかにすること。 【デザイン、設定および参加者】Vitamin D to Prevent Severe Asthma Exacerbations(VDKA)試験は、血清25-ヒドロキシビタミンD値が30ng/mL未満で低用量吸入ステロイドを投与している6~16歳の高リスク喘息患児で、ビタミンD3補給によって重度増悪までの時間が改善するかを検討した二重盲検プラセボ対照無作為化臨床試験である。米国7施設から被験者を組み入れた。2016年2月に、400例を目標に登録を開始した。試験は無益性のため早期に(2019年3月)中止され、2019年9月に追跡を終了した。 【介入】被験者をビタミンD3群(1日当たり4000IU、96例)とプラセボ群(96例)に割り付け、48週間にわたって投与し、フルチカゾン176μg/日(6~11歳)または220μg/日(12~16歳)投与を継続した。 【主要評価項目】主要評価項目は、重度喘息増悪までの時間とした。ウイルス誘発重度増悪までの時間、試験期間の中間時点で吸入ステロイド用量が減少した被験者の割合および期間中のフルチカゾン累積投与量を副次評価項目とした。 【結果】無作為化した192例(平均年齢9.8歳、女児88例[40%])のうち180(93.8%)が試験を完遂した。ビタミンD3群の36例(37.5%)およびプラセボ群の33例(34.4%)が1回以上の重度増悪を来した。プラセボと比べると、ビタミンD3補給による重度増悪までの時間の有意な短縮は見られず、増悪までの平均期間はビタミンD3群240日、プラセボ群253日だった。(平均群間差-13.1日、95%CI -42.6~16.4、調整ハザード比1.13、95%CI 0.69~1.85、P=0.63)。同様に、プラセボと比較したビタミンD3補給によるウイルス誘発重度増悪、試験期間の中間時点で吸入ステロイド用量が減少した被験者の割合および期間中のフルチカゾン累積投与量の改善度に有意差はなかった。両群の重度有害事象発現率はほぼ同じだった(ビタミンD3群11例、プラセボ群9例)。 【結論および意義】喘息が持続する低ビタミンD値の小児で、プラセボと比べてビタミンD3補給によって重度喘息増悪まで時間の有意な改善は認められなかった。この結果からは、この患者群に重度喘息増悪予防のためビタミンD3を補給することは支持されない。 第一人者の医師による解説 小児に対するプラクティスとしてのビタミンD投与は中止すべき 横山 彰仁 高知大学医学部呼吸器 ・アレルギー内科学教授 MMJ. February 2021;17(1):17 ビタミンDは肺の重要な成長因子であり、また免疫系において制御性T細胞の誘導、Th2やTh17反応の抑制、IL-10産生などを引き起こすことが知られている。さらに、気道のマイクロバイオームに影響し、平滑筋肥大を抑制しコラーゲン沈着を抑制することで気道リモデリングに抑制的に働くことも報告されている。こうした研究に一致するように、血中ビタミン D濃度が低下した患者では、重症の喘息増悪、肺機能低下、ステロイド反応性の低下などが生じることも知られている。 以上から、ビタミンDには喘息の1次予防効果が期待されるが、残念ながらその有用性は不明である。妊婦や幼児へのビタミンD補充は後年の家ダニへの感作抑制につながるとの報告もあるが、喘息発症を抑制するかは不明である。ただし、ビタミンDには、ライノウイルスの増殖を抑制し、インターフェロンによる抗ウイルス作用を促進するなど、ウイルス感染による発作を抑制する可能性はある。実際にメタ解析ではビタミンD補充は、喘息増悪のリスクを有意に低下させることが示されている。ただ、16歳以下に関しては有意な結果は得られていない。以上から、小児へのビタミンD投与は推奨されるに至っていないが、これまでの研究では、血中濃度が低い、重症増悪リスクが高い患児を対象としていないなどの問題点が指摘されていた。 本研究の利点として以下の3点が挙げられる:①参加者の血中ビタミンD濃度を測定し、濃度が低いことを確認した上で試験に登録している、②補充により実際に血中濃度が上昇したことを確認している、③前年に重症増悪歴のあるリスクが高い患児を対象とし、重症増悪発症までの期間を主要評価項目としている。 当初、本試験では重症増悪発症率で16%の絶対差を検出できるサンプルサイズの400人を目標として設定したが、予定されていた中間解析で有効性が認められず早期中止となった。最終的には目標の半分以下の192人を、48週間のプラセボ群またはビタミンD群に1:1に割り付けた。結果として、重症増悪はビタミン群で36人(37.5%)、プラセボ群で33人(34.4%)に認められ、主要評価項目である発症までの期間はもとより、ウイルス感染による重症増悪、吸入ステロイド薬の減量や累積使用量に関しても有意差は認められず、ビタミンD投与の有効性は認められなかった。 今回の結果を踏まえると、既報から小児に対しプラクティスとしてビタミン D濃度を測定し、投与する施設があるならば、中止すべきであろう。
COVID-19患者の病理解剖所見および静脈血栓塞栓症 前向きコホート試験
COVID-19患者の病理解剖所見および静脈血栓塞栓症 前向きコホート試験
Autopsy Findings and Venous Thromboembolism in Patients With COVID-19: A Prospective Cohort Study Ann Intern Med. 2020 Aug 18;173(4):268-277. doi: 10.7326/M20-2003. Epub 2020 May 6. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】新型コロナウイルス、SARSコロナウイルス2(SARS-CoV-2)によって、世界で21万人以上が死亡している。しかし、死因やウイルス病理学的特徴についてはほとんど明らかになっていない。 【目的】病理解剖、死亡時画像診断およびウイルス学的検査のデータから臨床的特徴を検証し、比較すること。 【デザイン】前向きコホート試験。 【設定】ドイツ・ハンブルク州から委託され、大学病院1施設で実施したPCR検査でCOVID-19診断が確定した患者の病理解剖。 【患者】COVID-19陽性で死亡した最初の連続症例12例。 【評価項目】死後CT検査、組織学的およびウイルス学的解析を含む死体解剖を実施した。臨床データおよび疾患の経過を評価した。 【結果】患者の平均年齢は73歳(範囲52~87歳)、患者の75%が男性であり、病院内(10例)または外来病棟(2例)で死亡が発生した。冠動脈疾患、喘息または慢性閉塞性呼吸器疾患が最も頻度の高い併存疾患であった(それぞれ50%、25%)。解剖から、12例中7例(58%)に深部静脈血栓症があったことが明らかになったが、いずれも死亡前に静脈血栓塞栓症の疑いはなかった。4例では肺塞栓が直接的な死因であった。死後CT検査で8例に両肺にコンソリデーションを伴う網状浸潤影、病理組織学的検査で8例にびまん性肺胞傷害が認められた。全例の肺から高濃度のSARS-CoV-2 RNAが検出された。10例中6例からウイルス血症、12例中5例からは肝臓や腎臓、心臓からも高濃度のウイルスRNAが検出された。 【欠点】検体数が少ない点。 【結論】静脈血栓塞栓症が高頻度に見られることから、COVID-19による凝固障害が重要な役割を演じていることが示唆される。COVID-19による死亡の分子的構造および全体の発生率、死亡を抑制するための有望な治療法を明らかにすべく、詳細な研究が必要とされる。 第一人者の医師による解説 死に至る病態はびまん性肺胞傷害で急速悪化のケースと 合併症により徐々に衰弱するケースか 福澤 龍二 国際医療福祉大学大学院医学研究科基礎医学研究分野・医学部病理学教授 MMJ. February 2021;17(1):8 本論文は、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症(COVID-19)12例(全例基礎疾患あり)の臨床像、血液、凝固系、PCRなどの検査所見、死後のCT、病理解剖所見を報告している。剖検による死因として全例に肺病変が挙げられ、2種類の肺病理像に分類できる。 (1)間質性肺炎(IP)─びまん性肺胞傷害(DAD):8例は、IPが先行しDADに進展した症例であった。血液、肺、その他複数の臓器からSARS-CoV-2が検出され、ウイルス血症による全身への播種、IPとの関連が示唆される。 (2)気管支肺炎(BP):残り4例は、末梢気道への好中球浸潤を主体とするBPであった。間質性病変はなく、経気道的な細菌感染が示唆される。このようなウイルス性IPの組織像が明確でない症例でも、肺組織からウイルスが検出されていることから、ウイルスが気道上皮細胞に感染し、粘液線毛クリアランスを低下させることが細菌感染の一因と思われる。 肺病理像に基づいて、血液凝固異常との関連をみると、IP-DAD症例8例中6例に深在静脈血栓が形成され、4例は肺塞栓を伴っていた。全例が病院外で突然死または集中治療室で死亡している。重篤な呼吸障害を起こすDADに加え、肺塞栓を高頻度に認める解剖所見は死亡時の状況を反映している。一方、BPの症例では、肺塞栓はなく、静脈血栓を1例のみ認めた。全例が一般病棟で支持療法中に死亡しており、経過は緩徐で、IP-DADに比べ血液凝固異常は起こりにくい病態であることが示唆される。 以上から、COVID-19により死に至る病態は以下の2つが想定される:①IPが先行し、DAD発症により急速に呼吸状態が悪化し、重症化する(急性呼吸促迫症候群)。また、血液凝固異常の頻度が高く、肺塞栓症の併発は循環動態をも悪化させ、急死に至らしめる。全身性病態へ進展する背景には、ウイルスの全身播種とこれに対する宿主の過剰防御反応(サイトカインストーム)が想定され、過剰な免疫反応がCOVID-19関連死の最大の誘因と考えられる②合併症(BP増悪や敗血症への進展)により徐々に衰弱し死亡すると思われる病態。これらの症例ではIP(肺胞壁の炎症・免疫応答)がみられないことから、ウイルスは肺胞上皮までは感染していないか、しても複製量が少なく肺外に拡がりにくい可能性がある。このため、過剰な免疫反応が起こりにくく、DADに至らず、凝固異常の頻度も低いと推測される。 〈脚注〉 IP:多くはウイルスが原因である。上気道粘膜に侵襲したウイルスが肺胞に至り、肺胞壁にリンパ球主体の炎症が起き、肺野にびまん性に拡がりやすい。DAD:急性呼吸促迫症候群の肺病理像で、肺胞壁の毛細血管から肺胞内への滲出性変化(硝子膜の形成)を特徴とする。誘発因子は肺炎、敗血症など。 BP:細菌の気道感染により発症する。気管支・肺胞内に炎症を起こす局所的な肺炎で、炎症は好中球が主体である。
SARS-CoV-2に対するChAdOx1 nCoV-19ワクチンの安全性および免疫原性 第I/II相単盲検無作為化比較試験の仮報告
SARS-CoV-2に対するChAdOx1 nCoV-19ワクチンの安全性および免疫原性 第I/II相単盲検無作為化比較試験の仮報告
Safety and immunogenicity of the ChAdOx1 nCoV-19 vaccine against SARS-CoV-2: a preliminary report of a phase 1/2, single-blind, randomised controlled trial Lancet. 2020 Aug 15;396(10249):467-478. doi: 10.1016/S0140-6736(20)31604-4. Epub 2020 Jul 20. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】SARSコロナウイルス2(SARS-CoV-2)の世界的流行は、予防接種によって縮小できると思われる。著者らは、SARS-CoV-2のスパイク蛋白を発現するウイルスベクターコロナウイルスワクチンの安全性、反応性および免疫原性を評価した。 【方法】英国5施設で、SARS-CoV-2のスパイク蛋白を発現するチンパンジーアデノウイルスをベクターに用いたワクチン(ChAdOx1 nCoV-19)を対照の髄膜炎菌結合型ワクチン(MenACWY)と比較する第I/II相単盲検無作為化比較試験を実施した。検査によるSARS-CoV-2感染確定歴やCOVID-19様症状がない18~55歳の健康成人をChAdOx1 nCoV-19群とMenACWY群に(1対1の割合で)無作為に割り付け、いずれも5×1010ウイルス粒子を筋肉内に単回投与した。5施設中2施設でプロトコールを修正し、接種前にパラセタモルを予防投与してもよいこととした。10例を非無作為化非盲検のChAdOx1 nCoV-19プライムブースト群に割り付け、2回の接種日程を設け、初回投与28日後に追加投与した。SARS-CoV-2スパイク蛋白三量体に対する標準総IgG ELISA、多重免疫アッセイ、3通りの生SARS-CoV-2中和アッセイ(50%プラーク減少中和アッセイ[PRNT50]、マイクロ中和アッセイ[MNA50、MNA80、MNA90]およびMarburg VN)を用いて、偽ウイルス中和アッセイを用いて、試験開始時および追加接種時の液性応答を評価した。体外インターフェロンγenzyme-linked immunospot(ELISPOT)アッセイを用いて、細胞性応答を評価した。主要評価項目は、ウイルス学的に確定した症候性COVID-19で測定した有効性および重度有害事象の発生率で測定した安全性とした。患者を割り付けたグループごとに解析した。ワクチン投与後28日間にわたって安全性を評価した。ここに、安全性、反応性および細胞性および液性免疫反応に関する仮の結果を報告する。この試験は進行中であり、ISRCTN(15281137)、およびClinicalTrials.gov(NCT04324606)に登録されている。 【結果】2020年4月23日から同年5月21日にかけて1077例を登録し、ChAdOx1 nCoV-19(543例)とMenACWY(534例)に割り付、そのうち10例を非無作為化ChAdOx1 nCoV-19プライムブースト群に組み入れた。ChAdOx1 nCoV-19群では局所および全身反応が対照群より多く、熱っぽさ、寒気、筋肉痛、頭痛や倦怠感など多くの症状がパラセタモルの予防投与によって改善した(いずれもP<0.05)。ChAdOx1 nCoV-19による重度の有害事象はなかった。ChAdOx1 nCoV-19群では、スパイク特異的T細胞応答が14日目にピークに達した(末梢血単核球100万個当たりのスポット形成細胞数中央値856個、IQR 493~1802、43例)。28日時までに高スパイクIgG反応が上昇し(中央値157 ELISA単位(EU)、96~317、127例)、2回目の投与後にさらに上昇した(639EU、360~792、10例)。単回投与後、MNA80で測定した35例中32例(91%)、PRNT50で測定した35例(100%)でSARS-CoV-2中和抗体反応が検出された。ブースター投与後、全例に中和活性が認められた(42日時にMNA80で測定した9例全例、56日時にMarburg VNで測定した10例全例)。中和抗体反応にELISAで測定した抗体値と強い挿管が認められた(Marburg VNによるR2=0.67、P<0.001)。 【解釈】ChAdOx1 nCoV-19は許容できる安全性を示し、同種ブースター投与によって抗体反応が増強された。この結果を液性および細胞性免疫反応の誘導を併せて考えると、このワクチン候補を進行中の第III総試験で大規模な範囲で評価する妥当性を支持するものである。 第一人者の医師による解説 第3相試験でも70%の感染防御能確認 過去の研究の積み重ねの成果 中山 哲夫 北里大学大村智記念研究所特任教授 MMJ. February 2021;17(1):10 2019年12月に中国・武漢市で発生した重症肺炎の原因がコロナウイルスと判明し、SARSCoV-2と命名された。そのスパイク蛋白を主要な感染防御抗原としてワクチン開発が進んでいる。本論文はアストラゼネカ社とオックスフォード大学の共同開発によるチンパンジーアデノウイルス(ChAd)をベクターとしてSARS-CoV-2のスパイク抗原を発現する組換えワクチン(ChAdOx1nCoV-19)を健常成人543人に接種し、対照として4価髄膜炎ワクチンを534人に接種した第1/2相試験の免疫原性と安全性に関する報告である。 SARS-CoV-2スパイク蛋白に対するIgG抗体は接種28日後までに全例陽転化し、SARS-CoV-2中和抗体は80%抑制法で1回接種後に35人中32人(91%)が陽転化し、2回接種後に全例陽転化した。細胞性免疫能(ELISPOT)は1回接種14日後には43例全例に検出された。副反応としては487人中に接種部位の疼痛が67%(328人)、圧痛が83%(403人)、全身反応として倦怠感や頭痛がそれぞれ70%(340人)と68%(331人)に認められたが軽度で第3相試験に進むこととなった。 本論文以降、4月から英国、ブラジル、南アフリカで実施された4件の第III相試験の中間統合解析による有効性、免疫原性、安全性の結果が報告された(1)。感染者は標準量ワクチン2回接種群では27/4,440(0.6%)、対照(髄膜炎菌ワクチンまたは生食)群では71/4,455(1.6%)で有効率は62.1%(95% CI, 41.0~75.7)であった。低用量で1回接種し、その28日後に標準量を接種した群では3/1,367(0.2%)、対照群では30/1,374(2.2%)でワクチン有効率は90.0%(95% CI, 67.4?97.0)、全体のワクチン有効率は70.4%(54.8~80.6)であった(1)。また、英国で実施された70歳以上の高齢者も含めた同ワクチンの第2/3相試験では、18~55歳群と比較し、70歳以上では局所反応、全身反応ともに発現率が低いことが報告されている(2)。中和抗体は2回接種2週後に高値を示した。細胞性免疫能も検出され、英国では昨年12月8日から予防接種が始まった。 COVID-19発生後1年でワクチンができたように報道されているが、オックスフォード大学グループは種痘ワクチンをベクターとしたHIVワクチンの開発からヒトアデノウイルスをベクターとするシステムの構築へと進み、そして既存抗体陽性例で免疫能が低下する問題を解決すべく今回のChAdベクターを開発した。インフルエンザ、エボラ、MERS、SARS、Zikaウイルスなどに対するワクチンを研究開発し、一部は臨床試験まで実施した。こうした研究の積み重ねが今の成果につながっていることを忘れてはいけない(3)。 1. Voysey M, et al. Lancet. 2020:S0140-6736(20)32661-1. 2. Ramasamy MN, et al. Lancet. 2021;396(10267):1979-1993. 3. Gilbert SC, et al. Vaccine. 2017;35(35 Pt A):4461-4464.
2型糖尿病に用いる血糖降下薬の有効性比較 系統的レビューおよびネットワークメタ解析
2型糖尿病に用いる血糖降下薬の有効性比較 系統的レビューおよびネットワークメタ解析
Comparative Effectiveness of Glucose-Lowering Drugs for Type 2 Diabetes: A Systematic Review and Network Meta-analysis Ann Intern Med. 2020 Aug 18;173(4):278-286. doi: 10.7326/M20-0864. Epub 2020 Jun 30. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】2型糖尿病の治療には、薬理学的に幾つか選択肢がある。 【目的】2型糖尿病成人患者に用いる血糖降下薬の便益と有害性を比較すること。 【データ入手元】数件のデータベース(開始から2019年12月18日まで)および2020年4月10日時点のClinicalTrials.gov。 【試験選択】介入期間が24週間以上あり、血糖降下薬の死亡率、血糖値および血管転帰を評価した英語の無作為化試験 【データ抽出】2人1組でデータを抽出し、バイアスリスクを評価した。 【データ統合】9つの薬剤分類で21通りの糖尿病治療法を検討した試験453件を対象とした。介入に、単剤療法(134試験)、メトホルミン主体の併用療法(296試験)、単剤療法とメトホルミン主体の併用療法の比較(23試験)があった。治療歴がなく心血管リスクが低い患者で治療による差は見られなかった。メトホルミンを用いた基礎療法にインスリン治療またはグルカゴン様ペプチド(GLP)-1受容体作動薬を併用した治療が、HbA1c低下量が最も大きかった。メトホルミン基礎療法を実施している心血管リスクが低い患者で、死亡率および血管転帰に臨床的に意味のある差は見られなかった(298試験)。メトホルミン基礎療法を実施している心血管リスクが高い患者で、経口セマグルチド、エンパグリフロジン、リラグルチド、エキセナチド徐放製剤およびダパグリフロジンの使用によって全死因死亡率が低下した(21試験)。このほか、経口セマグルチド、エンパグリフロジンおよびリラグルチドで、心血管死も減少した。セマグルチド皮下投与およびデュラグルチドで、脳卒中のオッズが低下した。ナトリウム/グルコース共輸送体(SGLT)2阻害薬投与で、心不全による入院および末期腎臓病の発生率が低下した。セマグルチド皮下投与で網膜症発症率、カナグリフロジンで下肢切断率が低下した。 【欠点】心血管リスクが低い患者の推定て、心血管リスクの定義が一定でなく、確実性が弱い点。 【結論】心血管リスクが低い糖尿病患者では、治療による血管転帰には差がない。メトホルミン基礎療法を実施している心血管リスクが高い患者では、特定のGLP-1受容体作動薬やSGLT-2阻害薬が特定の心血管転帰に良好な作用をもたらす。 第一人者の医師による解説 血糖降下薬の効果をネットワークメタアナリシスで間接比較 原井 望1)、辻本 哲郎3)、森 保道2) 虎の門病院本院内分泌代謝科 1)医員、2)部長、3)虎の門病院分院糖尿病内分泌科医長 MMJ. February 2021;17(1):22 2型糖尿病の治療選択肢は多種多様であり、病態に合わせた個別化医療が重要である。そのような中で、今回紹介するのは成人2型糖尿病に対する血糖降下薬の有効性および有害性を系統的レビュー(SR)とネットワークメタアナリシス(NMA)で検討した論文である。主要文献データベースおよびClinical Trials.govデータベースを用いて、介入期間24週以上、血糖降下薬の効果を血糖転帰、死亡率、血管転帰で評価している無作為化試験を抽出し、21種類の血糖降下薬(9薬剤クラス)が含まれた453試験を対象とした。これらを試験介入前の背景治療と心血管リスクで分類し、各薬剤による血糖改善効果(HbA1cのベースラインからの変化量)や死亡率、血管転帰などを評価した。背景治療は、薬物未使用(単剤療法)群とメトホルミンベースの治療群に分類した。 結果は、どちらの群でも各薬剤によりHbA1cは低下した中で、メトホルミンベースの治療群ではGLP-1受容体作動薬、またはインスリンを追加した群のHbA1c低下効果が大きかった。心血管リスクの高い患者では、経口セマグルチド、エンパグリフロジン、リラグルチド、エキセナチド徐放製剤、ダパグリフロジンで死亡率が低下した。前者3薬剤は心血管死も減少させた。そのほか、SGLT-2阻害薬は心不全入院や末期腎不全を減少させた。皮下セマグルチドで糖尿病網膜症、カナグリフロジンで下肢切断の増加が示唆された。本研究の限界として、心血管リスクの定義が一貫してないこと、心血管リスクの低い患者に対するいくつかの推定値は信頼度が低いことがあげられる。 さまざまな大規模臨床研究でGLP-1受容体作動薬やSGLT-2阻害薬の心血管保護作用や腎保護作用が発表されており、本論文でも同様の結果であった。ADA/EASD Consensus Report 2019(1)でも、動脈硬化性心疾患や慢性腎臓病、心不全の合併または高リスク状態の2型糖尿病患者に対しては、メトホルミンに続く2次治療薬としてGLP-1受容体作動薬やSGLT-2阻害薬が推奨されている。今回の論文は、NMAを採用したことで直接比較データのない血糖降下薬間の間接比較が可能となり、臨床的意義があると考える。一方、試験間の類似性や均質性、一致性が成り立っていないと結果の妥当性に問題が生じるため注意が必要である。2型糖尿病患者の治療法を選択する上で、患者の病態や合併症、ライフステージを把握するとともに、薬剤の有効性や、副作用、合併症抑制に関するエビデンスの情報は重要であり、今後もさらなるエビデンスの蓄積や検討が必要である。 1. Buse JB, et al. Diabetes Care. 2020;43(2):487-493.
高リスクまたは超高リスクの重症大動脈弁狭窄症に用いる自己拡張型intra-annular留置大動脈弁と市販の経カテーテル心臓弁の比較 無作為化非劣性試験
高リスクまたは超高リスクの重症大動脈弁狭窄症に用いる自己拡張型intra-annular留置大動脈弁と市販の経カテーテル心臓弁の比較 無作為化非劣性試験
Self-expanding intra-annular versus commercially available transcatheter heart valves in high and extreme risk patients with severe aortic stenosis (PORTICO IDE): a randomised, controlled, non-inferiority trial Lancet. 2020 Sep 5;396(10252):669-683. doi: 10.1016/S0140-6736(20)31358-1. Epub 2020 Jun 25. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】自己拡張型intra-annular留置経カテーテル大動脈弁置換システムPortico(Abbott Structural Heart社、米ミネソタ州セントポール)と市販大動脈弁のデザインの違いによる性能を比較する無作為化試験データが必要とされる。 【方法】この多施設共同前向き非劣性無作為化試験(Portico Re-sheathable Transcatheter Aortic Valve System US Investigational Device Exemption:PORTICO IDE)では、経カテーテル大動脈弁置換の経験が豊富な米国およびオーストラリアの医療機関52施設から、高リスクまたは超高リスクの重症症候性大動脈弁狭窄症患者を登録した。NYHA心機能分類II以上で、重症大動脈弁狭窄症の既往がない21歳以上の患者を適格とした。実施施設、手術のリスク、カテーテル挿入部位で層別化し、置換ブロック法を用いて、適格患者を第1世代Portico弁およびその送達システムと市販の弁システム(intra-annularバルーン拡張型弁Edwards-SAPIEN、SAPIEN XT、SAPIEN 3 valve[いずれも米Edwards LifeSciences社]、supra-annular自己拡張型弁CoreValve、Evolut-R、Evolut-PRO[いずれも米Medtronic社]のいずれか)に(1対1の割合で)無作為に割り付けた。施設の職員、植込み担当医師および被験者には治療の割り付けが分かるようにした。重要な検査データおよび臨床的イベントの評価者には治療の割り付けを伏せた。主要安全性評価項目は、30日時の全死因死亡、障害が残る脳卒中、輸血を要する生命を脅かす出血、透析を要する急性腎障害、重大な血管合併症の複合とした。主要評価項目は、1年時の全死因死亡または障害が残る脳卒中とした。処置後最長2年間、臨床転帰および弁の機能を評価した。Intention-to-treatで主要解析を実施し、カプラン・マイヤー法でイベント発生率を推算した。非劣性のマージンは、主要安全性評価項目で8.5%、有効性評価項目で8.0%に設定した。この試験はClinicalTrials.govにNCT02000115番で登録されており、現在も進行中である。 【結果】資金提供者による11カ月間の組み入れ停止期間があったため、2014年5月30日から2015年9月12日までの間および2015年8月21日から2017年10月10日までの間に、1034例を登録し、適格基準を満たした750例をPortico弁群(381例)と市販の弁群(369例)に割り付けた。平均年齢83(SD 7)歳、395例(52.7%)が女性であった。30日時の主要安全性評価項目をみると、Portico弁群のイベント発生率が市販の弁群よりも高かった(52例[13.8%] vs 35例[9.6%]、絶対差4.2、95%CI -0.4~8.8、信頼区間の上限[UCB]8.1%、非劣性のP=0.034、優越性のP=0.071)。1年時の主要有効性評価項目発生率は、両群同等であった(Portico弁群55例[14.8%] vs 市販の弁群48例[13.4%]、差1.5%、95%CI -3.6~6.5、UCB 5.7%、非劣性のP=0.0058、優越性のP=0.50)。2年時の死亡率(80例[22.3%]vs 70例[20.2%]、P=0.40)や障害の残る脳卒中発生率(10例[3.1%]vs 16例[5.0%]P=0.23)は両群同等であった。 【解釈】Portice弁の2年時の死亡率や障害の残る脳卒中発生率は市販されている弁とほぼ同じであったが、30日時の死亡など主要複合安全性評価項目の発生率が高かった。第1世代Portico弁およびその送達システムに市販されている他の弁を上回る優越性は認められなかった。 第一人者の医師による解説 医療機器の成績は機器性能と使用する医療者の技術に依存 learning curveの考慮が必要 戸田 宏一 大阪大学大学院医学系研究科心臓血管外科准教授(病院教授) MMJ. February 2021;17(1):21 高齢化に伴い高齢者の大動脈弁狭窄症に関する関心が高まっている。開心術を要さない経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI)は日本では2009年に導入され(1)、現在190以上の施設で年間8,000件以上実施されている。TAVIの成績は手術死亡率2%以下と優れているが、克服する問題もあり新しいデバイスに対する期待は高い。 本論文は、手術リスクの高い(STS-PROMスコア8%以上)重症大動脈弁狭窄症患者を対象に、弁植え込み部位での位置調整を容易にしたTAVI弁Portico(Abbott社)を市販のTAVI弁(SAPIENシリーズ[Edwards社]、CoreValveシリーズ[Medtronic社])と比較した多施設共同無作為化対照非劣性試験の報告である。その結果、安全性の主要評価項目である30日以内の全死亡・重症脳梗塞・輸血を要する出血・透析を要する急性腎障害・血管合併症の複合イベントの発生率は、Portico弁群の方が市販弁群よりも高かったが、非劣性の基準を満たした。30日以内全死亡率は、intention-to-treat解析ではPortico弁群の方が市販弁群よりも高いものの有意差はなかったが、per protocol解析では有意に高かった(4.3% 対 1.2%;P=0.01)。一方、有効性の主要評価項目である術後1年の全死亡・重症脳梗塞に関しては非劣性が示された。副次評価項目である術後1年の中等度以上の大動脈弁逆流はPortico弁群で有意に高く(7.8% 対 1.5%;P=0.0005)、術後30日以内のペースメーカー埋め込み率もPortico弁群で有意に高かった(27.7% 対 11.6%;P<0.001)。そのほか、術後2年までの生活の質(QOL)や心不全症状の改善について有意な群間差はなく、術後1年の6分間歩行距離でも差を認めなかった。 今回の試験においてPortico弁の優位性は示されなかったが、著者らは、①各施設のPortico弁使用数は5例と少なく経験が不十分であった可能性②研究期間の前半に比べ、後半の手術症例では、Portico弁群の術後死亡率、主要安全評価項目の改善がみられたと述べている。さらに、術後1年の中等度以上の大動脈弁逆流に関しても経験豊富な施設の多施設研究では改善がみられることから、医療技術のlearning curveの重要性を指摘している。一方、次世代Portico-FlexNav TAVI弁は今回の第1世代Portico弁よりも安全性の向上がみられ、次世代Portico弁の臨床試験が進められていると報告している。これら医療機器を用いた治療は医薬品と異なり、その成績は機器の性能と使用する医療者の技術に依存するため、機器の進歩を技術の進歩が追いかけ続けるmoving targetの状態となり、その評価を複雑にしていると思われる。 1. Maeda K, et al. Circ J. 2013;77(2):359-362.
左室駆出率が低下した心不全に用いるSGLT2阻害薬 EMPEROR-Reduced試験とDAPA-HF試験のメタ解析
左室駆出率が低下した心不全に用いるSGLT2阻害薬 EMPEROR-Reduced試験とDAPA-HF試験のメタ解析
SGLT2 inhibitors in patients with heart failure with reduced ejection fraction: a meta-analysis of the EMPEROR-Reduced and DAPA-HF trials Lancet. 2020 Sep 19;396(10254):819-829. doi: 10.1016/S0140-6736(20)31824-9. Epub 2020 Aug 30. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】DAPA-HF試験(ダパグリフロジンを評価)とEMPEROR-Reduced試験(エンパグリフロジンを評価)から、糖尿病の有無を問わない左室駆出率が低下した心不全(HFrEF)患者ナトリウム・グルコース共輸送体-2(SGLT2)阻害によって心血管死や心不全による入院の複合リスクが低下したことが示された。しかし、いずれの試験も、心血管死または全死因死亡にもたらす効果の評価および臨床的に重要な下位集団に見られた効果の特徴を明らかにするのに十分な検出力はなかった。そこで著者らは、DAPA-HF試験のデータおよびEMPEROR-Reduced試験の患者データを用いて、両試験で無作為化したHFrEF患者全例および関連下位集団を対象に、SGLT2阻害が非致命的心不全イベントおよび腎転帰にもたらす効果を推定することを目的とした。 【方法】SGLT2阻害薬が糖尿病の有無を問わないHFrEF患者の心血管転帰にもたらす効果を検討した大規模試験2件、DAPA-HF試験(ダパグリフロジンを評価)とEMPEROR-Reduced試験(エンパグリフロジンを評価)のメタ解析を実施した。主要評価項目は、全死因死亡までの時間とした。さらに、事前に規定した下位集団を対象に、心血管死または心不全による入院の複合リスクにもたらす効果も検討した。この下位集団は、2型糖尿病の状態、年齢、性別、アンジオテンシン受容体・ネプリライシン阻害薬(ARNI)治療、NYHA心機能分類、人種、心不全による入院歴、推算糸球体濾過量(eGFR)、BMIおよび地域(事後)を基にしている。イベント発生までの時間にCox比例ハザードモデル、治療の相互作用にコクランのQ検定を用いてハザード比(HR)を求めた。イベント再発の解析は、Lin-Wei-Yang-Yingモデルで得た率比を基にした。 【結果】両試験の被験者計8474例でみた推定治療効果は、全死因死亡率低下率13%(統合HR 0.87、95%CI 0.77~0.98、P=0.018)、心血管死亡率低下14%(0.86、0.76~0.98、P=0.027)であった。SGLT2阻害によって、心血管死亡または心不全による初回入院の複合リスクの相対的低下率は26%(0.74、0.68~0.82、P<0.0001)、心不全による再入院または心血管死の複合減少率は25%であった(0.75、0.68~0.84、P<0.0001)。このほか、腎転帰の複合リスクも低下した(0.62、0.43~0.90、P=0.013)。試験間の効果量の異質性を検討した検定はいずれも有意ではなかった。統合した治療効果からは、年齢、性別、糖尿病の有無、ARNIを用いた治療および試験開始時のeGFRで分類した下位集団で、一貫して便益が見られたが、NYHA心機能分類および人種で分類した下位集団では、集団による治療の交互作用が認められた。 【解釈】エンパグリフロジンとダパグリフロジンが心不全による入院にもたらす効果は、両試験を通して一貫して見られ、両薬剤によってHFrEF患者の腎転帰が改善し、全死因死亡および心血管死を抑制することが示唆された。 第一人者の医師による解説 SGLT2阻害薬は糖尿病薬に収まらず 心不全治療薬としてエビデンスの構築へ 深谷 英平 北里大学医学部循環器内科学講師 MMJ. February 2021;17(1):19 元来、糖尿病薬として登場したSGLT2阻害薬であったが、近年報告された大規模臨床試験において心不全による入院、心血管イベント、腎機能悪化の抑制を認めたことから、多面的効果が期待される薬剤へと変わってきた。さらに糖尿病の有無にかかわらず、左室駆出率の低下した心不全(HFrEF)患者を対象に同様の効果が期待できるかを検証した、エンパグリフロジンを用いたEMPERORReduced試験(1)とダパグリフロジンを用いたDAPA-HF試験(2)が相次いで発表された。両試験ともに、糖尿病の有無にかかわらずSGLT2阻害薬群において心不全入院の有意な減少を認めた一方で、患者数の限界から、心血管死や全死亡における差を見出すには至らなかった。そこで本論文では両試験を統合解析し、HFrEF患者8,474人を対象にSGLT2阻害薬の有効性を再検討した。 その結果、SGLT2阻害薬群ではプラセボ群に比べ全死亡リスクは13%低下、心血管死リスクは14%低下した。心血管死と初回心不全入院の複合リスクは26%低下、心不全再入院と心血管死の複合リスクも25%低下した。腎関連の複合エンドポイント(eGFRの低下、透析への移行、腎移植、腎不全死)についても38%のリスクの低下が認められた。サブグループ解析でも、糖尿病の有無、性別、年齢(65歳超対以下)、心不全入院の既往、腎機能低下の有無、肥満の有無(BMI 30kg/m2以上対未満)にかかわらずSGLT2阻害薬の一貫した有効性が実証された。一方、55歳未満の比較的若い年齢層、心不全機能分類 NYHA III-IVの重症例では、SGLT2阻害薬の有効性についてプラセボよりも優位な傾向はみられるが有意差は認めなかった。異なる人種間でも一貫した有効性が示され、アジア人や黒人では白人に比べSGLT2阻害薬のイベント抑制効果がさらに強い可能性も示された。ダパグリフロジンとエンパグリフロジンの間で有効性の差は認められず、SGLT2阻害薬のクラスエフェクトの可能性が示唆された。 今回のメタ解析により、HFrEF患者に対するSGLT2阻害薬のイベント抑制効果、予後改善効果が明らかとなった。日本では2020年11月にダパグリフロジンは慢性心不全への適応追加が承認され、エンパグリフロジンも適応追加が申請された。SGLT2阻害薬は単なる糖尿病の薬に収まらず、イベント抑制効果が実証された心不全治療薬の1つになった。今後も心不全治療薬としてさらなるエビデンスが構築されていくことが予想される。 1. Packer M, et al. N Engl J Med. 2020;383(15):1413-1424. 2. McMurray JJV, et al. N Engl J Med. 2019;381(21):1995-2008.
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