ライブラリー 米国成人で検討した末梢神経障害と全死因および心血管死亡率 前向きコホート研究
Peripheral Neuropathy and All-Cause and Cardiovascular Mortality in U.S. Adults : A Prospective Cohort Study
Ann Intern Med. 2021 Feb;174(2):167-174. doi: 10.7326/M20-1340. Epub 2020 Dec 8.
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上記論文の日本語要約
【背景】糖尿病がない患者でも末梢性神経障害(PN)が多く見られることを示す根拠が増えている。しかし、PNの後遺症は一般集団では定量化されていない。
【目的】米国一般成人のPNと全死因および心血管死亡率の関連を評価すること。
【デザイン】前向きコホート研究。
【設定】1999~2004年のNHANES(全国健康栄養調査)。
【参加者】PNの標準モノフィラメント検査を受けた40歳以上の成人7116例。
【評価項目】Cox回帰分析を用いて、人口統計学的因子および心血管危険因子で調整後のPNと全死因および心血管死亡率の関連を、参加者全体に加えて糖尿病の有無で層別化して評価した。
【結果】全体のPN有病率(±SE)は、13.5%±0.5%(糖尿病患者27.0%±1.4%、非糖尿病患者11.6%±0.5%)であった。追跡期間中央値13年間の間に2128例が死亡し、そのうち488例が心血管系の原因によるものであった。1000人年当たりの全死因死亡率は、糖尿病+PN患者で57.6(95%CI 48.4~68.7)、PN+糖尿病患者で34.3(同30.3~38.8)、糖尿病+非PN患者で27.1(同23.4~31.5)、非糖尿病+非PN患者で13.0(同12.1~14.0)であった。調整後モデルで、糖尿病患者で、PNに全死因死亡(ハザード比1.49、CI 1.15~1.94)および心血管死亡(同1.66、1.07~2.57)との有意な関連が認められた。非糖尿病患者では、PNに全死因死亡との有意な関連が認められたが(同1.31、1.15~1.50)、調整後のPNと心血管死亡の関連は統計学的に有意ではなかった(同1.27、0.98~1.66)。
【欠点】心血管疾患の有無が自己報告であった点、PNをモノフィラメント検査のみで定義した点。
【結論】末梢神経障害は、米国成人の間でよく見られ、糖尿病がなくても死亡との独立の関連が認められた。この結果からは、足底感覚の鈍化が、これまで認識されていなかった一般集団の死亡の危険因子であることが示唆される。
第一人者の医師による解説
末梢神経障害の有病率は高く 温痛覚試験など足病変リスク評価を積極的に
伊藤 努 慶應義塾大学医学部外科学(心臓血管)准教授
MMJ. August 2021;17(4):115
末梢神経障害(peripheral neuropathy;PN)は末梢神経に起こる疾患の総称でさまざまな原因や病態による。糖尿病性 PNは原因として最も多く、一方で糖尿病の3大合併症(神経障害、網膜症、腎症)の中でも最も早期に発症し頻度も高いとされる。最近の欧米の横断的研究によると、成人糖尿病患者のPN有病率は6~51%と報告され(1)、1、2型の病型以外にも年齢、糖尿病罹病期間、血糖コントロールの状態などが発症に影響する。日本の糖尿病患者のPN有病率は2008年のデータでは47.1%と報告された。
糖尿病性 PNは多彩で全身性、局所性とあるが、多くは全身性の遠位性対称性多発神経障害と呼ばれる感覚運動神経障害と自律神経障害である。温痛覚や自律神経は小径神経線維であり、触圧覚・運動神経である大径神経線維よりも神経線維脱落障害が優位に先行する。したがって、しびれや痛み、起立性低血圧・神経因性膀胱など自律神経障害も糖尿病初期より出現してくる。糖尿病性 PNの病期が進行すると感覚低下により外傷、炎症に気付かず足病変の発生は著明に上昇する。米国の報告では足潰瘍の推定有病率は6%、糖尿病患者の25%は生涯の中で足潰瘍を発症し、そのうち14~28%が下肢切断を要すと報告され、糖尿病患者においてPNの予防、早期診断、早期治療は重要である。
本研究では、糖尿病が原因ではないPNに着目し、1999~2004年のNational Health and Nutrition Examination Survey(NHANES)に基づき40歳以上の一般成人7,116人を対象とし、心血管死亡率との関連が評価された。PN有病率は全体で13.5%、糖尿病患者では27.0%、非糖尿病患者では11.6%であった。糖尿病(DM)の有無とPNの有無の組み合わせによる4群で全死亡率(1,000人・年)を比較すると、DM(+)/PN(+)で57.6、DM(-)/PN(+)で34.3、DM(+)/PN(-)で27.1、DM(-)/PN(-)で13.0、同様に心血管死亡率を比較するとそれぞれ、19.7、7.3、7.6、2.4であった。糖尿病患者におけるPNの存在は死亡の危険因子であることはよく知られているが、糖尿病の有無にかかわらず全死亡、心大血管死亡いずれにもPNは関連していると報告した。その理由は明確ではないが、PNは心臓自律神経障害のリスク上昇、あるいは全身性の無症候性微小血管病変の存在を反映している可能性を指摘している。
今回の検討ではPNをモノフィラメントを用いた感覚低下のみで評価していること、原因を例えば中毒性、免疫介在性、ビタミン欠乏など特定できていないこと、PN罹病期間などが明確でないなど今後も検討の余地はあるものの、非糖尿病性患者であってもPNの存在が死亡の独立した危険因子であることを示したという点で興味深い。
1. Hicks CW, et al. Curr Diab Rep. 2019;19(10):86.