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標準治療を受けた早期トリプルネガティブ乳がんで検討した低用量かつ高頻度のカペシタビン維持療法と経過観察が無病生存率にもたらす効果の比較 SYSUCC-001無作為化臨床試験
標準治療を受けた早期トリプルネガティブ乳がんで検討した低用量かつ高頻度のカペシタビン維持療法と経過観察が無病生存率にもたらす効果の比較 SYSUCC-001無作為化臨床試験
Effect of Capecitabine Maintenance Therapy Using Lower Dosage and Higher Frequency vs Observation on Disease-Free Survival Among Patients With Early-Stage Triple-Negative Breast Cancer Who Had Received Standard Treatment: The SYSUCC-001 Randomized Clinical Trial JAMA. 2021 Jan 5;325(1):50-58. doi: 10.1001/jama.2020.23370. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【重要性】乳がんのサブタイプのうち、トリプルネガティブ乳がんは標準治療後の再発率がいくぶん高く、予後が不良である。再発と死亡リスクを下げる効果的な戦略が求められている。 【目的】早期トリプルネガティブ乳がんで、標準的な術後化学療法後に用いる低用量カペシタビン維持療法の有効性と有害事象を評価すること。 【デザイン、設定および参加者】2010年4月から2016年12月の間に、中国の大学病院と臨床施設計13施設で実施した無作為化臨床試験。最終追跡調査日は2020年4月30日であった。参加者(443例)は早期のトリプルネガティブ乳がん患者であり、標準的な術後化学療法を終了していた。 【介入】標準的な術後化学療法終了後、適格患者をカペシタビン650mg/m^2を1年間にわたって1日2回投与するグループ(222例)と経過観察するグループ(221例)に1対1の割合で無作為に割り付けた。 【主要評価項目】主要評価項目は無病生存率であった。無遠隔転移生存率、全生存率、局所無再発生存率、有害事象を副次評価項目とした。 【結果】無作為化した443例のうち、34例を最大の解析対象集団[平均年齢(SD)46(9.9)歳、T1/T2期93.1%、リンパ節転移陰性61.8%]とした(98.0%が試験を完遂)。追跡調査期間中央値61カ月(四分位範囲44~82)の後、イベント94件が発生し、内訳はカペシタビン群38件(再発37例、死亡32例)、経過観察群56件(再発56例、死亡40例)であった。推定5年無病生存率は、カペシタビン群82.8%、観察群73.0%であった(再発または死亡リスクのハザード比[HR]0.64[95%CI 0.42~0.95]、P=0.03)。追跡調査期間中央値61カ月(四分位範囲44-82)の後、イベントが94件発生し、内訳はカペシタビン群38件(再発37件、死亡32件)、観察群56件(再発56件、死亡40件)であった(再発または死亡リスクのHR 0.64、95%CI 0.42~0.95、P=0.03)。カペシタビン群と観察群を比較すると、推定5年無遠隔転移生存率は85.8% vs 75.8%(遠隔転移または死亡リスクのHR 0.60、95%CI 0.38~0.92、P=0.02)、推定5年全生存率は85.5% vs 81.3%(死亡リスクのHR 0.75、95%CI 0.47~1.19、P=0.22)、推定5年局所無再発生存率は85.0% vs 80.8%(局所再発または死亡リスクのHR 0.72、95%CI 0.46~1.13、P =0.15)であった。最も発現頻度が高かったカペシタビン関連の有害事象は手足症候群(45.2%)であり、7.7%からグレード3の有害事象が報告された。 【結論および意義】標準的な術後治療を受けた早期トリプルネガティブ乳がんで、1年間の低用量カペシタビン維持療法によって、経過観察と比べて5年無病生存率が有意に改善した。 第一人者の医師による解説 忍容性高く5年無病生存率を10%上昇 患者選択と至適投与法のさらなる検討必要 三階 貴史 北里大学医学部乳腺・甲状腺外科学主任教授 MMJ. June 2021;17(3):88 近年、乳がん薬物療法の進歩は著しく、ホルモン受容体陽性、またはHER2陽性タイプの転移性乳 がんの予後は年単位で改善した。一方、トリプルネガティブ乳がん(TNBC)に関しては最近、PARP阻害薬や免疫チェックポイント阻害薬が日本でも保険診療で使用されているが、いまだ予後不良である。 転移性乳がんに対する新たな分子標的治療の開発が進む一方で、経口5-FU製剤はその効果と副作用の少なさから、こと日本では術後療法への応用が1980年代から進められていた。その有効性を示す日本発のエビデンスは2000年代に入って示されたが、高リスク患者に対してはアントラサイクリン系、タキサン系薬剤が国際的な標準治療となるにつれ、高齢者など一部の患者に対する選択肢としての位置づけに留まっていた。しかし、2017年に術前化学療法後に病理学的に腫瘍の残存を認めた患者に対するカペシタビン投与が、特にTNBCで有効であることが日韓国際共同試験の結果で示され(1)、現在NCCNガイドラインでは標準治療として推奨されている(2)。 本論文はTNBC患者に標準的な手術、術前/術後化学療法、放射線療法を行った後、1,300mg/m2/日という低用量(通常2,500mg/m2/日)でカペシタビンを2週内服、1週休薬で1年間投与することの有効性と副作用を明らかにすることを目的として中国で行われた多施設共同試験の結果である。解析対象はカペシタビン群221人、経過観察 群213人、観察期間中央値は61カ月であった。その結果、主要評価項目である5年無病生存率はカペシタビン群で経過観察群よりも有意に高いことが示された(82.8%対73.0%;ハザード比[HR],0.64)。また、副次評価項目である5年無遠隔転移生存率もカペシタビン群の方が有意に高かったが (85.5%対75.8%;HR,0.60)、5年全生存率、5年無局所再発生存率の統計学的有意差は認められなかった。アジア人の経口5-FU製剤に対する忍容性は高いと考えられているが、低用量で行われた本試験でもカペシタビンの相対用量強度(予定投与量に対する実際の投与量の割合)の中央値は85%であり、主な副作用である手足症候群は全グレードで45%、グレード3で8%の発現率であった。 これまでにも乳がん術後カペシタビン投与の有効性を検討する臨床試験はいくつか行われているものの、結果はcontroversialである。いまだ日本では術後療法としての投与は保険適用外であるが、TNBCの予後を改善するためにもカペシタビン投与が必要な患者選択と至適投与法の確立が待たれる。 1. Masuda N, et al. N Engl J Med. 2017;376(22):2147-2159. 2. NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology Breast Cancer (Version 4.2021) (https://www.nccn.org/professionals/physician_gls/pdf/breast.pdf)
COVID-19入院患者の経過 コホート研究
COVID-19入院患者の経過 コホート研究
Patient Trajectories Among Persons Hospitalized for COVID-19 : A Cohort Study Ann Intern Med. 2021 Jan;174(1):33-41. doi: 10.7326/M20-3905. Epub 2020 Sep 22. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】米国コホートでは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症化や死亡の危険因子が調査されていない。 【目的】COVID-19の重症化や死亡を予測する入院時の因子を明らかにすること。 【デザイン】後ろ向きコホート解析。 【設定】メリーランドおよびワシントンDC地域の病院5軒。 【患者】2020年3月4日から4月24日の間にCOVID-19のため入院した連続症例832例を2020年7月27日まで追跡した。 【評価項目】世界保健機関のCOVID-19重症度尺度で分類した患者の経過(軌道)および転帰。死亡および重症化または死亡の複合を主要転帰とした。 【結果】患者の年齢中央値が64歳(1~108歳)、47%が女性、40%が黒人、16%がラテンアメリカ系であり、21%が介護施設居住者であった。全体で、131例(16%)が死亡し、694例(83%)が退院した(523例[63%]が軽症ないし中等症、171例[20%]が重症)。死亡例のうち66例(50%)が介護施設居住者であった。入院時に軽症ないし中等症であった787例のうち302例(38%)が重症または死亡へと進行し、第2病日までに181例(60%)、第4病日までに238例(79例)が死亡した。年齢、介護施設居住、併存疾患、肥満、呼吸器症状、呼吸数、発熱、リンパ球絶対数、低アルブミン血症、トロポニン値、CRPおよびこの一連の因子の相互作用によって疾患進行の確率が大きく異なっていた。入院時に見られた因子のみを用いると、院内での疾患進行を予測するモデルの第2病日、第4病日および第7病日の曲線下面積がそれぞれ0.85、0.79および0.79であった。 【欠点】試験は単一の医療システムで実施された。 【結論】人口統計学的変数および臨床変数の組み合わせに、COVID-19重症化または死亡および早期発症との強い関連が認められた。COVID-19 Inpatient Risk Calculator(CIRC)は入院時に見られた因子を用いて作成したものであり、臨床および資源の割り当ての決定に有用である。 第一人者の医師による解説 重症化や死亡リスク予測のためのRisk Calculator作成 5 ~ 90%の確率で予測 小倉 翔/荒岡秀樹(部長) 虎の門病院臨床感染科 MMJ. June 2021;17(3):76 2019年末に中国の武漢で肺炎の原因として確認されたSARS-CoV-2による新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は急速に全世界へと拡大し、現在も世界の各地域で大きな脅威となり、社会経済活動や医療リソースを圧迫し続けている。入院時に予後不良を予測する因子を特定することにより、人工呼吸器や治療薬など潜在的に不足している医療資源の割り当てや、治療の方向性に関する患者や家族との話し合いに、有益な情報を提供できる可能性がある。 本研究は米国の5つの病院を含む単一の医療システム(Johns Hopkins Medicine)における後方視的コホート解析である。研究期間中に、832人の患者がCOVID-19で入院した。最終評価時において、694人(83%)の患者が退院し、131人(16%)が死亡し、7人(0.8%)が重症で入院したままだった。退院した患者のうち、523人(63%)は軽度〜中等症で、171人(21%)は重症であった。入院時からの臨床経過によると、45人(5%)の患者は病院到着時にすでに重症の状態であり、残りの787人の患者のうち、120人(15%)が12時間までに、149人(19%)が24時間までに、185人(24%)が48時間までに、215人(27%)が72時間までに、244人(31%)が96時間までに重症化または死亡した。重症化または死亡までの期間の中央値は1.1日(四分位範囲,0.07〜3.4日)だった。体格指数(BMI)、呼吸器症状、C反応性蛋白(CRP)値、呼吸数、アルブミン値および38.0°Cを超える発熱が年齢に関係なく重症化または死亡と関連していた。死亡のみを評価した場合、重要な危険因子には、年齢、ナーシングホームからの入院(75歳未満)、複数の併存疾患(CCI*で計算)、およびSaO2/FiO2 比が含まれた。これらのデータをもとに、重症疾患 または死亡のリスク(累積発生率)を予測するためのCOVID-19 Inpatient Risk Calculator(CIRC)が作成された(https://rsconnect.biostat.jhsph.edu/covid_predict/で入手可能)。 本研究では、米国におけるCOVID-19による入院患者の疾患経過と重症化または死亡に関連する危険因子が検討された。これらの危険因子の組み合わせにより、5%程度から90%を超える確率で重症化もしくは死亡が予測された。 本研究は、データが米国における単一の医療システムから取得されている点や、発症日のデータがないために疾患全体の経過が明確でない点が限界として挙げられる。 *CCI(Charlson Comorbidity Index):慢性疾患に関連する17の状態についてスコア化し評価し た指標
脳性麻痺患者のエクソーム解析の分子診断率
脳性麻痺患者のエクソーム解析の分子診断率
Molecular Diagnostic Yield of Exome Sequencing in Patients With Cerebral Palsy JAMA. 2021 Feb 2;325(5):467-475. doi: 10.1001/jama.2020.26148. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【重要性】脳性麻痺は、運動や姿勢に影響を及ぼすよく見られる神経発達障害であり、他の神経発達障害と併発することが多い。脳性麻痺は出生時仮死に起因することが多いが、最近の研究から、仮死が脳性麻痺症例に占める割合が10%未満であることが示唆されている。 【目的】脳性麻痺患者でエクソーム解析の分子診断率(病原性変異および病原性の可能性が高い変異の検出率)を明らかにすること。 【デザイン、設定および参加者】2012~18年のデータを用いた臨床検査紹介コホートと2007~17年のデータを用いた医療機関主体コホートから組み入れた脳性麻痺患者の後ろ向きコホート研究。 【曝露】コピー数変異を検出するエクソーム解析。 【主要評価項目】主要評価項目は、エクソーム解析の分子診断率とした。 【結果】臨床検査紹介コホート1345例の年齢中央値は8.8歳(四分位範囲4.4~14.7歳、範囲0.1~66歳)で、601例(45%)が女性であった。医療機関主体コホート181例の年齢中央値は41.9歳(同28.0~59.6歳、範囲4.8~89歳)で、96例(53%)が女性であった。エクソーム解析の分子診断率は、臨床検査紹介コホートで32.7%(95%CI 30.2~35.2%)、医療機関主体のコホートでは10.5%(同6.0~15.0%)であった。分子診断率は、知的障害、てんかん、自閉症スペクトラム障害がない患者の11.2%(同6.4~16.2%)から、上記の3疾患がある患者の32.9%(同25.7~40.1%)まで幅があった。遺伝子229個(1526例のうち29.5%)から病原性変異および病原性の可能性が高い変異が同定され、そのうち2例以上(1526例のうち20.1%)に遺伝子86個の変異があり、両コホートから変異がある遺伝子10個が独立して同定された。 【結論および意義】エクソーム解析を実施した脳性麻痺患者の2つのコホートで、病原性変異および病原性の可能性が高い変異の有病率は、主に小児患者から成るコホートで32.7%、主に成人患者から成るコホートで10.5%であった。一連の結果の臨床的意義を理解するために、さらに詳細な研究が必要である。 第一人者の医師による解説 脳性麻痺児にエクソーム解析が行われれば、3分の1で病的バリアントを検出 武内 俊樹 慶應義塾大学医学部小児科専任講師 MMJ. June 2021;17(3):86 脳性麻痺は、脳を原因とする運動や姿勢の異常であるが、実際には、運動障害に限らず、知的障害や発達障害を合併することも多い。これまで脳性麻痺は、胎児期や分娩時の低酸素虚血が主な原因と考えられてきたが、近年では、明らかな分娩時低酸素虚血に起因するものは、脳性麻痺の10%程度を占めるに過ぎないことがわかってきた。また、知的障害や自閉症の多くについて、コピー数変異、遺伝子変異・多型と関連していることがわかってきている。 本論文は、脳性麻痺の小児・成人患者におけるエクソーム解析による分子遺伝学的診断率(病的バリアントおよび病的と思われるバリアントの有病率)を明らかにすることを目的とした後方視的研究の報告である。2012~18年にエクソーム解析を受けた「臨床検査室紹介コホート」(1,345人、年齢中央値8.8歳)、および主に民間医療機関(Geisinger)共同ゲノム解析プロジェクト(DiscovEHR)において2007~17年にエクソーム解析を受けた「医療機関登録コホート(181人、年齢中央値41.9歳)の2群に分けて検討した。病的および病的と思われるバリアントの有病率は、「臨床検査室紹介コホート」では32.7%(95%信頼区間[CI], 30.2 ~ 35.2%)、「医療機関登録コホート」では10.5%(95% CI, 6.0 ~ 15.0%)であった。 本研究の意義は、大規模な脳性麻痺の集団に対してエクソーム解析を行った場合に、かなりの頻度で病的バリアントが検出されることを明らかにした点である。特に、小児を中心とする「臨床検査室紹介コホート」における病的バリアントの有病率は、一般的な、未診断疾患患者に対するエクソーム解析の診断率に近い。すなわち、「脳性麻痺」という臨床診断の有無にかかわらず、原因不明の知的障害、運動障害の小児においては、両親も含めたトリオのエクソーム解析を行うことで、3割ほどで分子遺伝学的診断を得ることができる。本研究の限界点として、保険病名をもとに抽出した後方視的研究であり脳性麻痺の定義が厳密ではないこと、また「医療機関登録コホート」の患者は成人であり、両親が高齢のため、両親と本人のデータの比較ができていない点が挙げられる。診断法が進歩した今日でも、運動障害、知的障害・発達障害の原因を特定することは容易ではないが、日本における脳性麻痺児においても、エクソーム解析が行われれば、本研究と同程度の頻度で、症状を説明しうる遺伝子異常が検出されると類推される。
急性虚血性脳卒中に用いる機械的血栓除去術単独と機械的血栓除去術+静脈内血栓溶解療法併用による機能的転帰に対する効果の比較 SKIP無作為化臨床試験
急性虚血性脳卒中に用いる機械的血栓除去術単独と機械的血栓除去術+静脈内血栓溶解療法併用による機能的転帰に対する効果の比較 SKIP無作為化臨床試験
Effect of Mechanical Thrombectomy Without vs With Intravenous Thrombolysis on Functional Outcome Among Patients With Acute Ischemic Stroke: The SKIP Randomized Clinical Trial JAMA. 2021 Jan 19;325(3):244-253. doi: 10.1001/jama.2020.23522. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【重要性】急性大血管閉塞性脳卒中で、機械的血栓除去術に静脈内血栓溶解療法を併用する必要があるかどうか明らかになっていない。 【目的】機械的血栓除去術単独が、脳梗塞後の良好な転帰で静脈内血栓溶解療法+機械的血栓除去術に対して非劣性を示すかを明らかにすること。 【デザイン、設定および参加者】2017年1月1日から2019年7月31日の間に日本の23の病院ネットワークで組み入れた大血管閉塞に伴う急性期脳梗塞患者204例を対象とした医師主導型多施設共同無作為化非盲検非劣性臨床試験であり、最終経過観察日は2019年10月31日であった。 【介入】患者を機械的血栓除去術単独群(101例)と静脈内血栓溶解療法(アルテプラーゼ0.6mg/kg)+機械的血栓除去術併用群(103例)に無作為に割り付けた。 【主要評価項目】有効性の主要評価項目は、90日時の修正ランキン尺度スコア0~2点(0点[無症状]~6点[死亡])と定義した転帰良好とし、非劣性マージンオッズ比0.74、片側有意閾値0.025(97.5%CI)で評価した。副次評価項目に90日死亡率などの7項目を規定した。あらゆる脳出血、36時間以内の症候性脳出血などの4項目を安全性の評価項目とした。 【結果】204例(年齢中央値74歳、男性62.7%、National Institutes of Health Stroke Scaleスコア中央値18点)のうち全例が試験を完遂した。機械的血栓除去術単独群の60例(59.4%)、静脈内血栓溶解療法+機械的血栓除去術併用群の59例(57.3%)の転帰が良好であり、群間で有意差はなかった(差2.1%[片側の97.5%CI -11.4%~∞]、オッズ比1.09[同0.63~∞]、非劣性のP=0.18)。7項目の有効性評価項目と4項目の安全性評価項目のうち、90日死亡率(8例[7.9%] vs. 9[8.7%]、差-0.8%[95%CI -9.5%~7.8%]、オッズ比0.90[同0.33~2.43]、P>0.99)などの10項目に有意差がなかった。機械的血栓除去術単独群の方が併用群よりもあらゆる脳内出血の発症率が低かった(34例[33.7%] vs. 52例[50.5%]、差-16.8%[同-32.1%~1.6%]、オッズ比0.50[同0.28~0.88]、P=0.02)。両群間で症候性脳内出血の頻度に有意差はなかった(6例[5.9%] vs. 8[7.7%]、差-1.8%[同-9.7%~6.1%]、オッズ比0.75[同0.25~2.24]、P=0.78)。 【結論および意義】急性大血管閉塞に伴う脳梗塞に用いる機械的血栓除去術単独は、機能的転帰に関して、静脈内血栓溶解療法と機械的血栓除去術の併用に対する非劣性が示されなかった。しかし、効果推定の信頼区間が広かったため、劣性であるとの結論を示すこともできなかった。 第一人者の医師による解説 機械的血栓回収療法の施行前の t-PA投与が不要になる可能性を示唆 木村 和美 日本医科大学大学院医学研究科神経内科分野大学院教授 MMJ. June 2021;17(3):78 ガイドラインには、「機械的血栓回収療法を行うときは、t-PA静注療法の適応例に対してはt-PA静注療法を優先すること(グレード A)」と記載されている。t-PA静注療法は、脳主幹動脈閉塞の早期再開通率が高くない上に、薬剤による出血合併症のリスクがあり、また、治療に要する時間、複数の医療スタッフの必要性など、コスト・ベネフィットが高くない。以上の理由から、この数年来「機械的血栓回収療法の施行前に、t-PA投与が必要か否か」が急性期脳梗塞の治療上解決すべき大きな命題であった。 本論文で報告されたSKIP研究の目的は、脳主幹動脈閉塞を伴う急性期脳梗塞患者を対象としたラ ンダム化比較試験(RCT)により機械的血栓回収療法単独と併用療法(機械的血栓回収療法+t-PA静注療法)の間で患者転帰良好に差があるか否かを明らかにすることである。目標症例数は、過去の文献より算出し200人が適切と判断した。適格基準は(1)年齢18〜85歳(2)急性期脳梗塞(3)発症前mRS(Rankin Scale)スコア2以下(4)閉塞血管は内頸動脈と中大脳動脈(5)初診時NIHSS(National Institutes of Health Stroke Scale)は6以上(6)ベースラインASPECTS(Alberta Stroke Program Early CT Score)6以上(7)発症から4時間以内に穿刺が見込まれる患者である。主要評価項目は発症後90日の転帰良好(m RS 0〜2)の割合とし、機械的血栓回収療法単独が併用療法に対して非劣性であるか否かを検証した(非劣性マージンのオッズ比0.74)。有害事象評価項目は、発症後36時間の頭蓋内出血の割合とした。 結果は、患者204人の登録があり、機械的血栓回収療法単独群が101人、併用群が103人であった。患者背景は2群間で差はなく、均等に割り付けされていた。主要評価項目の発症後90日のm RS 0〜2の割合は、単独群59.4%と併用群57.3%であり、補正なしのロジスティック回帰モデルにおけるオッズ比は1.09(97.5%CI,0.63〜∞;P=0.17)で、機械的血栓回収療法単独群の方が転帰良好例は多いが、非劣性は証明できなかった。発症後36時間の頭蓋内出血の割合は、単独群が34人(33.7%)、併用群が50人(50.5%)と、併用群の方が有意に多かった(P=0.02)。以上より、脳主幹動脈閉塞例には、t-PA投与なしに可及的速やかに機械的血栓回収療法を行う方が、患者の転帰が良好になる可能性が示されたが、非劣性は証明できなかった。中国から同様な研究が2件(DIRECT-MT(1)、DEVT(2))報告されており、非劣性を証明している。そのほか、世界では3件のRCTがon goingであり、結果が楽しみである。SKIP研究は、機械的血栓回収療法の施行前に、t-PA投与が不要になる可能性を示唆した研究で、今後、脳梗塞急性期治療にパラダイムシフトが起こるかもしれない。 1. Yang P, et al. N Engl J Med. 2020;382(21):1981-1993. 2. Zi W,et al.JAMA.2021;325(3):234-243.
乳児に用いるビデオ喉頭鏡の初回成功率(VISI) 多施設共同無作為化対照試験
乳児に用いるビデオ喉頭鏡の初回成功率(VISI) 多施設共同無作為化対照試験
First-attempt success rate of video laryngoscopy in small infants (VISI): a multicentre, randomised controlled trial Lancet. 2020 Dec 12;396(10266):1905-1913. doi: 10.1016/S0140-6736(20)32532-0. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】乳児に対する直接喉頭鏡を用いた気管挿管は困難である。今回、麻酔科医による標準ブレード型ビデオ喉頭鏡によって、直接喉頭鏡と比較して気管挿管初回成功率が改善し、合併症リスクが低下するかを明らかにすることを目的とした。著者らは、ビデオ喉頭鏡による初回成功率は直接喉頭鏡よりも高いという仮説を立てた。 【方法】この多施設共同並行群間無作為化対照試験では、米国の小児病院4施設とオーストラリアの小児病院1施設の手術室で気管挿管を要するが気道確保が困難でない乳児を組み入れた。ブロック数2、4、6の置換ブロック法を用いて、患児をビデオ喉頭鏡と直接喉頭鏡に(1対1の比率で)無作為に割り付け、施設と医師の役割で層別化した。保護者に処置の割り付けを伏せた。主要評価項目は、気管挿管時に初回で成功した乳児の割合とした。解析(修正intention-to-treat[mITT]集団およびper-protocol)に一般化推定方程式モデルを用いて、在胎期間、米国麻酔学会の術前全身状態分類、体重、医師の役割および施設で層別化した。試験は、ClinicalTrials.govにNCT03396432で登録されている。 【結果】2018年6月4日から2019年8月19日の間に乳児564例を組み入れ、282例(50%)をビデオ喉頭鏡、282例(50%)を直接喉頭鏡に割り付けた。乳児の平均年齢は5.5カ月(SD 3.3)であった。ビデオ喉頭鏡群の274例と直接喉頭鏡群の278群をmITT解析の対象とした。ビデオ喉頭鏡群では254例(93%)、直接喉頭鏡では244例(88%)が初回挿管に成功した(調整絶対リスク差5.5%[95%CI 0.7~10.3]、P=0.024])。ビデオ喉頭鏡群の4例(2%)、直接喉頭鏡群の15例(5%)に重度合併症が発生した(-3.7%[-6.5~-0.9]、P=0.0087)。ビデオ喉頭鏡群(1例[1%未満])の方が直接喉頭鏡群(7例[3%])よりも食道挿管が少なかった(同-2.3[-4.3~-0.3]、P=0.028)。 【解釈】麻酔下の乳児で、標準ブレード型ビデオ喉頭鏡を用いると初回成功率が改善し、合併症も減少した。 第一人者の医師による解説 乳児に対する気管挿管はビデオ喉頭鏡の使用が望ましい 大原 卓哉(助教)/清野 由輩(講師)/山下 拓(教授) 北里大学医学部耳鼻咽喉科・頭頸部外科 MMJ. June 2021;17(3):90 毎年、多くの乳児が気管挿管を必要とする全身麻酔手術を受けている。乳児は成人に比べ気管挿管時のリスクが高く、初回での気管挿管成功は重要であり、複数回の気管挿管は生命を脅かす合併症につながる可能性がある。ビデオ喉頭鏡は、気道確保が困難な乳児に対して直接喉頭鏡よりも初回成功率が高いことが報告されているが、構造的に正常な気道を持つ乳児におけるビデオ喉頭鏡の有用性については議論の余地があった。 本論文は、全身麻酔手術を受ける乳児に対する標準ブレード型ビデオ喉頭鏡を使用した気管挿管の有効性と安全性を検討した米国とオーストラリアの小児病院における多施設共同並行群間ランダム化比較試験の報告である。対象は、年齢12カ月齢未満、全身麻酔手術(30分以上の非心臓手術)、麻酔科医による気管挿管を受ける患者とされた。除外基準は、挿管困難の病歴、頭蓋顔面異常の病歴、または身体検査に基づく挿管困難が予測された患者であった。麻酔科医は、標準ブレード型ビデオ喉頭鏡(Storz C-Mac Miller Video Laryngoscope)または直接喉頭鏡のいずれかをランダムに割り当てられ、乳児に気管挿管を行った。気管チューブのサイズはガイドラインに基づいて選択され、気管挿管後24時間までの挿管関連有害事象が検討された。 最終的に274人(50%)がビデオ喉頭鏡、278人(50%)が直接喉頭鏡に割り付けられ、結果が解析された。ビデオ喉頭鏡の93%、直接喉頭鏡の88%で気管挿管に初回で成功し、特に体重6.5kg以下の乳児では、ビデオ喉頭鏡の初回成功率が直接喉頭鏡に比べ有意に高かった(92%対81%;P=0.003)。挿管試行回数も、ビデオ喉頭鏡の方が少なかった。重篤でない合併症(軽度喘鳴、喉頭痙攣[薬物 投与の必要性、緊急気管挿管を伴う]、気管支痙攣 、軽度気道外傷 、気道過敏化)の発生率は2群間で差はなかったが、ビデオ喉頭鏡では、重篤な合併症(中等度〜重度低酸素血症、食道挿管、心停止、咽頭出血)の発生が少なかった。特に、食道挿管は直接喉頭鏡では3%であったのに対し、ビデオ喉頭鏡では1%未満であった。また、ビデオ喉頭鏡では輪状軟骨圧迫の必要性が減少した。 毎年乳児への気管挿管が多く行われているが、 気管挿管中は重篤な有害事象が発生するリスクがあるため、初回成功率が5%向上することは非常に意味があると考えられる。費用的な課題はあるが、より高い初回成功率およびより少ない合併症のため標準ブレード型ビデオ喉頭鏡が広く使用されることが望まれる。
治療歴のない局所再発の切除不能または転移性トリプルネガティブ乳がんに用いるペムブロリズマブ+化学療法とプラセボ+化学療法の比較(KEYNOTE-355) 無作為化プラセボ対照二重盲検第3相試験
治療歴のない局所再発の切除不能または転移性トリプルネガティブ乳がんに用いるペムブロリズマブ+化学療法とプラセボ+化学療法の比較(KEYNOTE-355) 無作為化プラセボ対照二重盲検第3相試験
Pembrolizumab plus chemotherapy versus placebo plus chemotherapy for previously untreated locally recurrent inoperable or metastatic triple-negative breast cancer (KEYNOTE-355): a randomised, placebo-controlled, double-blind, phase 3 clinical trial Lancet. 2020 Dec 5;396(10265):1817-1828. doi: 10.1016/S0140-6736(20)32531-9. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】転移性トリプルネガティブ乳がんで、ペムブロリズマブ単独療法による抗腫瘍活性の持続と管理可能な安全性が示された。今回、ペムブロリズマブの併用によって、転移性トリプルネガティブ乳がんに用いる化学療法の抗腫瘍活性が増幅するかを明らかにすることを目的とした。 【方法】29カ国209施設で実施したこの無作為化プラセボ対照二重盲検第3相試験では、ブロック法(ブロック数6)と統合ウェブ応答の自動音声応答システムを用いて、未治療の局所再発切除不能または転移性トリプルネガティブ乳がん患者をペムブロリズマブ(200mg)3週に1回+化学療法(ナブパクリタキセル、パクリタキセルまたはゲムシタビン+カルボプラチン)とプラセボ+化学療法に無作為に割り付けた。患者を化学療法の種類(タキサンまたはゲムシタビン・カルボプラチン)、試験開始時のPD-L1発現状態(統合陽性スコア[CPS]1点以上または1点未満)および術前または術後補助療法で用いた同等の化学療法による治療歴の有無で層別化した。適格基準を18歳以上、中央判定機関が確定したトリプルネガティブ乳がん、測定可能な腫瘍1個以上、中央検査機関でトリプルネガティブ乳がんの状態およびPD-L1発現を免疫組織学的に確認するために新たに採取した腫瘍検体の提供が可能、米国東海岸癌臨床試験グループの全身状態スコア0または1点、十分な臓器機能とした。スポンサー、治験担当医師、その他の施設職員(治療の割り付けを伏せなかった薬剤師を除く)および患者にペムブロリズマブと生理食塩水の投与の割り付けを伏せた。さらに、スポンサー、治験担当医師、その他の施設職員および患者に患者ごとの腫瘍PD-L1バイオマーカーの結果も知らせずにおいた。PD-L1 CPSが10以上、1以上およびITT集団のそれぞれで評価した無増悪生存期間および総生存期間を主要有効性評価項目とした。無増悪生存期間の最終的な評価はこの中間解析で実施し、総生存期間を評価すべく追跡を継続中である。無増悪生存期間に階層的検定手順を用いて、まずCPSが10以上の患者(この中間解析では事前に規定した統計学的基準がα=0.00111)、次にCPSが1以上の患者(この中間解析ではα=0.00111、CPSが10以上の患者の無増悪生存期間から得たpartial α)、最後にITT集団(この中間解析ではα=0.00111)を評価した。本試験はClinicalTrials.govにNCT02819518で登録されており、現在も進行中である。 【結果】2017年1月9日から2018年6月12日の間に1372例をふるいにかけ、847例を治療に割り付けることとし、566例をペムブロリズマブ+化学療法群、281例をプラセボ+化学療法に割り付けた。2回目の中間解析(2019年12月11日にデータカットオフ)では、追跡期間中央値がペムブロリズマブ+化学療法群25.9カ月(IQR 22.8~29.9)、プラセボ+化学療法群26.3カ月(22.7~29.7)であった。CPSが10以上の患者の無増悪生存期間中央値が、ペムブロリズマブ+化学療法群9.7カ月、プラセボ+化学療法群5.6カ月であった(進行または死亡のハザード比[HR]0.65、95%CI 0.49~0.86、片側のP=0.0012[主要目的達成]。CPSが1以上の患者の無増悪生存期間中央値がそれぞれ7.6カ月と5.6カ月(HR 0.74、0.61~0.90、片側のP=0.0014[有意差なし])、ITT集団で7.5カ月と5.6カ月(HR 0.82、0.69~0.97[検定未実施])であった。ペムブロリズマブの治療効果によってPD-L1発現が増加した。グレード3~5の治療関連有害事象発現率がペムブロリズマブ+化学療法群68%、プラセボ+化学療法群67%であり、そのうちの死亡率がペムブロリズマブ+化学療法群1%未満およびプラセボ+化学療法群0%であった。 【解釈】ペムブロリズマブ+化学療法で、CPSが10以上の転移性トリプルネガティブ乳がんの無増悪生存期間が、プラセボ+化学療法と比べて有意で臨床的意義のある改善が認められた。この結果は、転移性トリプルネガティブ乳がんの1次治療に用いる標準化学療法にペムブロリズマブを上乗せした場合の効果を示唆するものである。 第一人者の医師による解説 化学療法への上乗せ効果が示されたことで 新たな治療選択肢が増える 川端 英孝 虎の門病院乳腺内分泌外科部長 MMJ. June 2021;17(3):87 本論文は2020年に米国臨床腫瘍学会(ASCO)で発表された第3相KEYNOTE-355試験の中間解析結果の詳報である。PD-L1発現陽性(Combined Positive Scoreが10以上)の手術不能または転移性のトリプルネガティブ乳がんの1次治療として、抗PD-1モノクローナル抗体ペムブロリズマブと化学療法の併用が、化学療法のみの場合よりも有意に無増悪生存期間(PFS)を延長できるという内容である。なお、PFSはKEYNOTE-355試験の主要評価項目の1つであるが、もう1つの主要評価項目である全生存期間(OS)の評価は未発表で試験は継続されている。 ER陰性、PR陰性、HER2陰性を特徴とするトリプルネガティブ乳がんは他のサブタイプの乳がんに比べ治療ターゲットに欠けており、進行乳がんの治療戦略としては化学療法を主体としたものになるが、早晩治療抵抗性になってしまう。免疫チェックポイント阻害薬に分類されるペムブロリズマブは単剤でも抗腫瘍活性を示し、化学療法との併用が期待されていた。今回この薬剤の化学療法への上乗せ効果が示されたことで、我々は新たな治療選択肢を手に入れたことになる。 同じ免疫チェックポイント阻害薬として先行して2019年9月20日に適応拡大の承認を日本で受けたアテゾリズマブとの比較は重要である。アテゾリズマブは抗PD-L1モノクローナル抗体でIMpassion130試験(1)においてトリプルネガティブ進行乳がんにおける化学療法への上乗せ効果を示した。2つの薬剤の標的は異なっており、それぞれの臨床試験におけるPD-L1陽性例の評価もオーバーラップが多いが別個のコンパニオン診断を用いている。また臨床試験で用いられた化学療法がIMpassion130試験ではnab-パクリタキセルであるのに対してKEYNOTE355試験ではいくつかの化学療法レジメンが用いられている。 KEYNOTE-355試験には当院も含め日本の施設も参加しており、論文発表に先立ちMSD社は2020年10月12日、ペムブロリズマブについて、手術不能または転移性のトリプルネガティブ乳がんへの適応拡大申請を行ったと発表している。執筆時点(2021年4月17日)で審査中となっているが、承認されると、このセッティングの乳がん治療薬としてアテゾリズマブに加えて、新たな免疫チェックポイント阻害薬が加わることになる。なお、マイクロサテライト不安定性(MSI-High)を有する固形がんにおいてはがん種横断的にペムブロリズマブの使用が承認されており、この条件を満たせば現在でもペムブロリズマブを乳がんに使用することは可能である。 1. Schmid P, et al. N Engl J Med. 2018;379(22):2108-2121.
変形性膝関節症の症状および滑膜炎による関節水腫の治療に用いるCurcuma longa抽出物の有効性:無作為化比較試験
変形性膝関節症の症状および滑膜炎による関節水腫の治療に用いるCurcuma longa抽出物の有効性:無作為化比較試験
Effectiveness of Curcuma longa Extract for the Treatment of Symptoms and Effusion-Synovitis of Knee Osteoarthritis : A Randomized Trial Ann Intern Med. 2020 Dec 1;173(11):861-869. doi: 10.7326/M20-0990. Epub 2020 Sep 15. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】変形性関節症の現行の薬物療法は最適なものではない。 【目的】症候性変形性膝関節症および滑膜炎による関節水腫がある患者で、膝の症状と関節水腫の軽減に対するウコン(Curcuma longa:CL)抽出物の有効性を明らかにすること。 【デザイン】無作為化二重盲検プラセボ対照試験(オーストラリアニュージーランド臨床試験レジストリ:ACTRN12618000080224)。 【設定】オーストラリア・南タスマニアの患者を対象とした単施設試験。 【参加者】超音波検査で滑膜炎による関節水腫が認められた症候性変形性膝関節症患者70例 【介入】1日当たり2錠を12週間にわたって投与するCL(36例)とマッチさせたプラセボ(34例)。 【評価項目】主要評価項目は、視覚的アナログ尺度(VAS)を用いた膝疼痛スコアおよび磁気共鳴画像法(MRI)で描出された関節液量の変化とした。主な副次評価項目は、Western Ontario and McMaster Universities Osteoarthritis Index(WOMAC)の疼痛スコアおよび軟骨の質の変化とした。各項目を12週間にわたって評価した。 【結果】CL群のVAS疼痛スコアがプラセボと比べて-9.1mm(95%CI -17.8、-0.4、P=0.039)改善したが、関節液量には変化がなかった(3.2mL、CI -0.3~6.8mL)。このほか、CL群ではWOMAC疼痛スコアが改善した(-47.2mm、CI -81.2~-13.2、P=0.006)が、外側大腿骨軟骨のT2緩和時間には改善が見られなかった(-0.4ms、CI -1.1~0.3ms)。有害事象発現率はCL群(14例、39%とプラセボ群(18例、53%)で同等であり(P=0.16)、CL群の2件、プラセボ群の5件が治療関連と考えられた。 【欠点】規模が中程度で、短期間であった点。 【結論】CLは、膝の疼痛に対してプラセボよりも有効であったが、滑膜炎による関節水腫や軟骨の質には影響がなかった。一連の結果の臨床的意義を評価すべく、さらに大規模な多施設共同試験が必要である。 第一人者の医師による解説 生薬(Curcuma longa)による変形性膝関節症治療のエビデンス 大規模で長期の臨床試験を期待 沢田 哲治 東京医科大学病院リウマチ・膠原病内科教授 MMJ. June 2021;17(3):74 変形性関節症(osteoarthritis;OA)は加齢を素因として緩徐に進行する軟骨の変性疾患であり、遠位指節間関節や手根中手関節、脊椎、下肢荷重関節などに疼痛や運動障害をきたす疾患である。X線像では骨棘形成や軟骨下骨硬化像、骨囊胞などの骨変化や関節裂隙狭小化(軟骨菲薄化)がみられる。非炎症性疾患と見なされているが、MRIでは滑膜病変やT2強調像の高信号領域として検出される骨髄 病変(bone marrow lesion)を認め、その病態形成に局所的な炎症機転の関与が示唆されている。 OAの進行を停止または逆転させる治療法はなく、対症療法として非薬物療法(運動療法、減量指導、装具使用、温熱療法など)、薬物療法、関節内注射(副腎皮質ステロイドやヒアルロン酸)、外科的療法などが行われる。疼痛緩和の薬物療法としてアセトアミノフェン内服、非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)内服、外用NSAID貼付などが行われるが、効果不十分なことも少なくない。また、NSAID内服では消化管障害や心血管系障害のリスクも懸念される。ウコン(turmeric)はアジアの熱帯地方で自生または栽培されるショウガ科の生薬である。カレー粉として料理に使われるが、主成分のクルクミンは利胆作用などのほかに抗炎症作用も有することが示されている(1)。 本論文の著者らは、ウコン抽出物の疼痛緩和効果を検証するため、関節水腫-滑膜炎を伴う膝OA患者70人を対象にランダム化二重盲検プラセボ対照試験を実施した。その結果、12週後のMRI画像上の関節液-滑膜炎量の改善は認められなかったが、ウコン抽出物の経口投与により疼痛と機能障害は有意に改善することが示された。日本の中川らの報告(2)を含むランダム化比較試験(試験期間は16週以下)のメタ解析でも、その有用性が示されている(3)。一方、臨床試験では重篤な副作用は報告されていないが、健康食品としてのウコン摂取では肝障害の発生がまれながら報告されている(https://www.med.or.jp/people/knkshoku/ukon.html)。今後ウコンの長期的有用性と安全性を確認するため、より大規模で長期にわたる臨床試験の実施が 期待される。 なお、日本では、関節水腫を伴う膝OAの漢方製剤として、防已黄耆湯が用いられることが多く、患者の臨床症状に合わせて越婢加朮湯や薏苡仁湯なども用いられている。ウコンは生薬であるが、これ らの漢方製剤には含まれていない。 1. Hoppstädter J, et al. J Biol Chem. 2016;291(44):22949-22960. 2. Nakagawa Y, et al. J Orthop Sci. 2014;19(6):933-939. 3. Wang Z, et al. Curr Rheumatol Rep. 2021;23(2):11.
SARS-CoV-2ワクチン接種の可能性に対する態度 米国成人を対象とした調査
SARS-CoV-2ワクチン接種の可能性に対する態度 米国成人を対象とした調査
Attitudes Toward a Potential SARS-CoV-2 Vaccine : A Survey of U.S. Adults Ann Intern Med. 2020 Dec 15;173(12):964-973. doi: 10.7326/M20-3569. Epub 2020 Sep 4. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、またたく間に世界的大流行を引き起こした。ワクチン開発が異例の早さで進んでいる。利用できるようになれば、ワクチン接種と接種対象者を最大限に拡大することが重要になるであろう。 【目的】米国成人の代表的標本でCOVID-19に対するワクチン接種を受ける意志を評価し、ワクチン接種躊躇の予測因子や理由を明らかにすること。 【デザイン】2020年4月16~20日の間に実施した横断的調査。 【設定】米国の成人居住者の代表的標本。 【参加者】米国世帯人口の約97%に当たるAmeriSpeakの確率パネルから抽出した成人約1000例。 【評価項目】COVID-19ワクチン接種の意志を「コロナウイルスのワクチンができたら接種したいですか」という質問で測定した。回答選択肢を「はい」「いいえ」「分からない」とした。「いいえ」または「分からない」と回答した回答者に理由を聞いた。 【結果】AmeriSpeakパネル会員計991例が回答した。全体の57.6%(571例)がワクチン接種の意向を示し、31.6%(313例)が「分からない」と回答、10.8%(107例)にワクチンを接種する意志がなかった。ワクチン接種躊躇(「いいえ」または「分からない」の回答)と関連を示す独立の因子に、若年齢、黒人、低学歴および前年のインフルエンザワクチン非接種があった。ワクチン接種躊躇の理由に、ワクチンに対する懸念、詳しい情報の必要性、反ワクチンの姿勢や信念、および信頼感の欠如があった。 【欠点】ワクチンが販売される前および大流行が米国に大きな影響を及ぼす前にワクチン接種の意志を調査した。ワクチンの受容性を高める特定の情報や因子に関する質問がなかった。調査の回答率は16.1%であった。 【結論】コロナウイルス大流行中に実施したこの全国調査から、成人の約10人に3人がCOVID-19のワクチンを接種したいか分からず、10人に1人がワクチンを接種する意志がなかった。ワクチンが完成したときにCOVID-19ワクチンに対する受容性を増やすため、目標を定めた多方面からの努力が必要とされる。 第一人者の医師による解説 新型コロナワクチンのさまざまな情報提供の必要性を示唆 山岸 由佳 愛知医科大学大学院医学研究科臨床感染症学教授(特任) MMJ. June 2021;17(3):75 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、世界的に大規模な影響をもたらし、現在パンデミック を抑制する最も有望な手段として世界の複数の研究者が効果的なCOVID-19ワクチン(以下ワクチン)の開発に取り組んでいる。現在これまでにないスケジュールで複数のワクチンが開発され大規模な第3相試験が行われているが、一部で懐疑的な見方もされており、ワクチンが利用可能となったときにワクチンの普及に課題が生じる可能性がある。そこで事前に接種の意向調査を行ったのが本研究である。 本研究は、2020年4月16〜20日に実施された横断調査で、米国の世帯人口のおよそ97%をカバーするAmeriSpeakの確率的調査パネルから抽出されたおよそ1,000人の成人を対象とした。参加者全体の57.6%がワクチンの接種を「受けるつもりである」、31.6%が「わからない」、10.8%が「受けるつもりはない」と回答した。接種に積極的ではない参加者の特徴として、年齢が低い,女性、黒人またはヒスパニック系、教育水準が低い、世帯収入が低い、世帯規模が大きい、インフルエンザワクチンを接種したことがあると答えた確率が低いなどが挙げられた。またワクチン接種をためらう理由としては、ワクチン特有の不安、より多くの情報が必要、反ワクチン的な態度や信念、信頼感の欠如などが挙げられた。 COVID-19大流行時に実施された今回の全国調査から、成人の約10人に3人がワクチン接種を受け入れるかどうか確信が持てていないことが明らかになった。ワクチンが利用可能になった場合、その受容性を高めるためには、ターゲットを絞った多角的な取り組みが必要となることが明らかとなった。本研究の限界として、参加者のワクチン接種の意思は、ワクチンが入手可能になる前で、かつパンデミックの影響が米国の狭い範囲に及んでいるときに調査され、さらにアンケートの回答率は16.1%であったことである。 日本国内ではワクチン接種が可能となるまでの期間、何度も流行の波が押し寄せたが、主要な海外 に比べ接種開始が遅れたことは否めない。また3種類のワクチンが契約となったものの(執筆時点で) 開始されたのは1種類のみであること、医療従事者を先行としたものの十分行きわたらないまま高齢者への接種が開始され準備に十分な時間がとれたとはいえない状況であった。しかし、この流行の波を抑えるにはワクチンしかないという機運が高まっていたこと、接種までの準備期間に諸外国を中心に有効性および安全性などのさまざまな情報がもたらされたことから、少なくとも医療従事者においては接種の意向がはっきりしてきていると思われる。
1997~2018年に米食品医薬品局が承認した処方オピオイドを支持する主要な根拠
1997~2018年に米食品医薬品局が承認した処方オピオイドを支持する主要な根拠
Key Evidence Supporting Prescription Opioids Approved by the U.S. Food and Drug Administration, 1997 to 2018 Ann Intern Med. 2020 Dec 15;173(12):956-963. doi: 10.7326/M20-0274. Epub 2020 Sep 29. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】オピオイド鎮痛薬新規承認のために米食品医薬品局(FDA)が求めた根拠についてはほとんど知られていない。 【目的】1997年から2018年の間にFDAが承認したオピオイド鎮痛薬の新薬承認申請(NDA)の安全性および有効性データの質を明らかにすること。 【デザイン】横断的解析。 【設定】ClinicalTrials.gov、FDA審査および査読付き出版物のデータ。 【参加者】第3相主試験に参加した疼痛患者。 【介入】FDAが承認したオピオイド鎮痛薬。 【評価項目】主試験の数、規模および期間、試験の対照群、強化デザイン採用の有無および系統的に評価した安全性転帰などの各NDAの主な特徴。 【結果】評価したNDA 48件のほとんどが新投与形態(25件、52.1%)や新剤形(9件、18.8%)の申請で、わずか1件が新規化合物の申請であった。慢性疼痛の治療を適応に承認を受けたNDA 39件のうち、1件以上の主試験で裏付けられたものはわずか21製品(試験件数28件、試験期間中央値84日、対象症例数中央値299例)しかなかった。このうち17品(81%)は、不耐症例や早期に有害事象が認められた症例、直接的便益がほとんど認められなかった患者を除外する試験デザインを基に承認を受けていた。慢性疼痛のNDAのうち、8件(20.5%)が転用の系統的評価結果を報告した統合的な安全性レビューを提出し、7件(17.9%)が非医療目的での使用を系統的に評価し、15件(38.5%)が耐性発現を評価していた。急性疼痛治療薬9製品中8製品で、1件以上の主試験によって効果が裏付けられており、この主試験(19件)の期間中央値は1日(IQR 1~2日)で、329例(中央値、IQR 199~456例)を組み入れていた。承認を受けたNDA 48件のうち1例を除く全申請は既に承認されている成分に関するものであったが、関連製品のNDAの解析から同等の結果が得られた。 【欠点】解析は承認を受けたオピオイドに限られる点。動物試験や非主試験を除外した点。NDAの安全性の根拠が慢性疼痛のみを目的として示されている点。 【結論】1997年から2018年の間に、FDAは、薬剤に忍容性があった患者という狭義に定義した患者集団が頻繁に用いられた短期間または中期間の主試験を基にオピオイドを承認した。特定の重要な安全性転帰の体系的を収集することはまれであった。 第一人者の医師による解説 オピオイド鎮痛薬の有効性と安全性 十分な検証に基づく新薬承認が望まれる 伊原 奈帆(助教)/橋口 さおり(准教授) 慶應義塾大学医学部麻酔学教室 MMJ. June 2021;17(3):91 米国ではオピオイド鎮痛薬の過剰摂取による死者が2018年には46,000人を超え、誤用や乱用なども含め社会的問題となっている。 本論文は1997〜2018年に米食品医薬品局(FDA)が承認した48のオピオイド鎮痛薬の新薬承認申請(NDA)を対象に、有効性および安全性の評価に関して検討した横断的研究である。 新規有効成分のNDAは1件のみで、それ以外の47件中30件はFDA既承認薬の有効性や安全性に関する審査結果に新剤形や新配合など変更・改良の情報を合わせたデータによる申請であった。慢性疼痛に対するオピオイド鎮痛薬のNDA39件のうち、1つ以上のピボタル試験が行われていたのは21件であった。これら21件のNDAで行われた計28試験について検討したところ、試験期間中央値は84日、被験者 数中央値は299人であった。NDA21件中17件(81%)では、効果が乏しい被験者や副作用に耐えられない被験者をランダム化前に除外する慣らし期間を含むEERWデザインの試験が、最低1つは行われていた。EERWデザインの22試験において最初に登録された人数の37.2%(中央値)がランダム化前に除外されていた。 慢性疼痛のNDA39件中、29件では耐性、転用、乱用、異常使用、過剰摂取などの項目による安全性を評価していたが、10件のNDAでは評価していなかった。39件のNDAにおいて副作用を体系的に評価したものはなかったが、耐え難い副作用による脱落者などの報告は一般的に行われていた。 この結果より、FDAにより承認された慢性疼痛に対するオピオイド鎮痛薬は、12週以内の数回の試 験に基づき、耐性や転用の評価に乏しいプールされた解析が含まれたエビデンスで承認されていたことがわかった。多くの試験で、有効性を過大評価する可能性があるEERWデザインが使用されていた。 著者らはFDAに対して有効性と安全性の評価の向上のために、1 オピオイド鎮痛薬に関する規制 ガイダンスの強化、2 副作用の体系的な評価、3 EERWデザインの試験による評価の中止、4 長期安全性に関する証拠集め、5 乱用、依存や転用などの安全性情報の市販後調査を提言している。 日本では2020年10月にオキシコンチン ®TR 錠が慢性疼痛における鎮痛の適応追加の承認を受けたが、厚生労働省は厳しい流通管理体制をとることを承認条件としている。日本でも慢性疼痛のオピオイド鎮痛薬の処方は増えてくる可能性があるため、効果的かつ安全に使用するためのデータを十分に検証していく必要がある。
制御不良の高血圧にデジタル介入を用いた家庭でのオンラインの血圧管理と評価(HOME BP) 無作為化対照試験
制御不良の高血圧にデジタル介入を用いた家庭でのオンラインの血圧管理と評価(HOME BP) 無作為化対照試験
Home and Online Management and Evaluation of Blood Pressure (HOME BP) using a digital intervention in poorly controlled hypertension: randomised controlled trial BMJ. 2021 Jan 19;372:m4858. doi: 10.1136/bmj.m4858. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【目的】HOME BP(Home and Online Management and Evaluation of Blood Pressure)試験は、プライマリケアでの高血圧管理に用いる血圧の自己監視と自己管理指導を組み合わせたデジタル介入を検証することを目的とした。 【デザイン】主要評価項目の自動確認による非盲検無作為化対照試験 【設定】英国の一般診療所76施設。 【参加者】治療しても高血圧制御が不良(140/90mmHg超)でインターネットが利用できる患者622例。 【介入】最小化アルゴリズムを用いて、参加者をデジタル介入を併用した血圧の自己監視(305例)と標準治療(ルーチンの高血圧治療+受診と診療医の裁量による薬剤変更、317例)に割り付けた。デジタル介入によって、患者と医療従事者に血圧結果のフィードバックが送られ、任意で生活様式の助言と動機付けの支援が利用できるようにした。高血圧患者、糖尿病患者、80歳以上の患者の目標血圧値は英国ガイドラインに従った。 【主要評価項目】主要評価項目は、試験開始時の血圧、目標血圧値、年齢および診療所で調整した1年後の収縮期血圧の差(2回目と3回目の測定値の平均)とし、欠損値に多重代入法を用いた。 【結果】1年後、552例(88.6%)からデータが入手でき、残りの70例(11.4%)は補完した。介入群では平均血圧値が151.7/86.4mmHgから138.4/80.2mmHgに、標準治療群では151.7/86.4mmHgから138.4/80.2mmHgに低下し、収縮期血圧の平均差が-3.4mmHg(95%CI -6.1~-0.8mmHg)、拡張期血圧の平均差が-0.5mmHg(同-1.9~0.9mmHg)であった。完全ケース分析では結果が同等であり、両群間の有害事象がほぼ同じであった。試験期間中にかかった費用から、1mmHg低下当たり増分費用効果比が11ポンド(15ドル、12ユーロ、95%CI 6~29ポンド)となった。 【結論】血圧の自己監視を用いた高血圧管理のHOME BPデジタル介入は、標準治療よりも1年後の収縮期血圧制御が良好で、増分費用もわずかであった。プライマリケアで導入するには、臨床現場のワークフローへの統合およびインターネットを利用しない人々がいることを考慮する必要がある。 第一人者の医師による解説 リモート自己血圧モニタに基づく降圧薬治療の呈示で クリニカルイナーシャを改善 石光 俊彦 獨協医科大学腎臓・高血圧内科教授 MMJ. June 2021;17(3):81 高血圧治療において近年のガイドラインでは疾患や病態などに応じた厳格な降圧目標が推奨されているが、英国の成人の30%近く、65歳以上では50%以上が140/90mmHg以上である。一方、さまざまな分野で医療のデジタル化が進められており、高血圧診療においても、インターネットを利用した血圧モニター、生活習慣指導や服薬管理を普 及させることにより、治療成績の向上が期待される。 英国で行われた本論文の研究(HOME BP)では、一般の実地診療医師と血圧コントロール不良(140/90mmHg超)の高血圧患者を対象として、 通常診療とオンラインによるデジタル介入を行った診療による治療効果が比較された。介入群では、オンラインで収集した患者の家庭血圧のデータを アルゴリズムにより評価し、その情報を患者と担当医師にフィードバックするとともに、それに基づいた降圧薬治療の提案や食事、運動、適正体重などの生活指導や服薬指導がインターネットを介して行われた。 12カ月後、通常治療群では平均血圧が151.6/85.3から141.8/79.8mmHgに低下したのに対し、介入群では151.7/86.4から138.3/80.2mmHgと通常治療群に比べ、−3.4/−0.5mmHg降圧が大きかった。サブグループ解析では、デジタル介入による降圧は、67歳未満の群および糖尿病、慢性腎臓病(CKD)、心血管病などの合併症がない群において大きかった。質問票によると副作用の発現、服薬アドヒアランス、生活の質(QOL)は両群で有意差がなかった。介入に要した費用は患者1人あたり平均38ポンドで、収縮期血圧1mmHgの降圧増加につき11ポンドになった。 日本でも高血圧患者の73%が血圧140/90mmHg以上であり、患者および医療スタッフにおけるクリニカルイナーシャを改善する必要性が認識されている。本研究で試みられた家庭血圧モニターを中心とするオンラインの介入は、特に世界的に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が流行している状況において医療サービスの提供を改善する方策として有用である可能性がある。本研究でも12カ月後の継続率は89%と高く、降圧効果の増強により脳卒中が10〜15%、冠動脈疾患は5〜10%の減少が期待されるとしているが、対象者の大多数が白人であったことや67歳以上の高齢者では有意な降圧効果の増強が認められなかったことなどが、介入の適応を拡大する際に課題となると思われる。今後は、公的データベースを利用した医療費の評価やより長期の検討を行い、ガイドラインや診療報酬の算定に取り入れる方向で進められることが期待される。
収縮期心不全に用いるomecamtiv mecarbilによる心筋ミオシン活性化
収縮期心不全に用いるomecamtiv mecarbilによる心筋ミオシン活性化
Cardiac Myosin Activation with Omecamtiv Mecarbil in Systolic Heart Failure N Engl J Med. 2021 Jan 14;384(2):105-116. doi: 10.1056/NEJMoa2025797. Epub 2020 Nov 13. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】選択的心筋ミオシン活性化薬omecamtiv mecarbilは、左室駆出率が低下した心不全の心機能を改善することが示されている。心血管転帰にもたらす効果は明らかになっていない。 【方法】左室駆出率が35%未満の収縮期心不全(入院および外来)患者8256例を標準心不全治療に加えてomecamtiv mecarbil群(薬物動態学を基に決定した用量25mg、37.5mg、50mgのいずれかを1日2回)またはプラセボ群に無作為に割り付けた。主要評価項目は、心不全イベント(入院または心不全による救急受診)の初回発生または心血管死の複合とした。 【結果】中央値21.8カ月の間に、omecamtiv mecarbil群4120例中1523例(37.0%)とプラセボ群4112例中1607例(39.1%)に主要評価項目が発生した(ハザード比0.92、95%CI 0.86~0.99、P=0.03)。それぞれ808例(19.6%)、798例(19.4%)が心血管の原因で死亡した(同1.01、0.92~1.11)。カンザスシティ心筋症質問票の総合症状スコア変化量に群間差はなかった。24週時、N末端プロB型ナトリウム利尿ペプチド(NT-proBNP)中央値の試験開始時からの変化量は、omecamtiv mecarbil群の方がプラセボ群よりも10%低く、心臓トロポニンI値中央値は4ng/L高かった。心虚血と心室性不整脈イベントの発現頻度は両群同等だった。 【結論】左室駆出率が低下した心不全にomecamtiv mecarbilを投与すると、心不全イベントと心血管死の複合転帰の発生率がプラセボ投与よりも低かった。 第一人者の医師による解説 作用機序を踏まえると従来の強心薬に比べ安全性は高い さらなる臨床試験の結果に注視 佐野 元昭 慶應義塾大学医学部循環器内科准教授 MMJ. June 2021;17(3):80 左室収縮機能が低下した心不全の治療には、利尿薬、強心薬、神経内分泌因子修飾薬(レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系抑制薬、β遮断薬、ネプリライシン阻害薬)、心拍数を低下させるイバブラジン、SGLT2阻害薬などが用いられている。心臓のポンプ機能の低下による心拍出量の減少は、うっ血、浮腫や呼吸困難の原因となるだけでなく、神経内分泌因子を活性化させて心不全の病態を悪化させるため、強心薬を用いて、安全にポンプ機能を立ち上げることができれば、それに越したことはない。現在、日本でよく用いられている強心薬ピモベンダンは、心筋のCa2+感受性を増強する作用やプロテインキナーゼ A(PKA)活性化作用を介して、心筋の収縮力を高めるとともに、心筋拡張機能を改善する。ピモベンダンを心不全患者に投与すると確かに運動耐用能は改善するが、死亡率が上昇する傾向が示されたため、他の薬剤で症状が改善しない場合、不整脈の増悪に注意しながら一時的に使用する薬剤として位置づけられている。カテコラミン類似薬の強心薬デノパミンに関しても同様である。 オメカムチブメカルビルは、ミオシンに結合して心筋収縮力を増強させる新規作用機序による強心薬である(1)。β遮断薬を使用していても強心作用を発揮する。細胞内Ca2+動態に影響を与えないため不整脈による突然死を増加させるリスクは低いと考えられる。また、酸素需要を増加させずに心筋 収縮力を増強できる点も魅力的である。 今回のGALACTIC-HF試験では、症候性慢性心不全で駆出率が35%以下の患者を対象に、標準的な心不全治療に加えてオメカムチブメカルビルを投与することの安全性と有効性が評価された。その結果、プラセボ群と比較し、心血管死および全死亡を増やすことなく、初回の心不全イベント(心不全による入院または緊急受診)または心血管死の複合エンドポイントをわずかではあるが有意に低下させた(ハザード比,0.92;P=0.03)。しかし、最も期待された心不全に伴う症状、身体的制限、生活の質(QOL)の改善は認められなかった。患者の3分の1に植込み型除細動器(ICD)が装着されており、ICDで不整脈死がある程度抑制されていた集団が対象であった点も考慮する必要がある。 作用機序を踏まえると、従来の強心薬に比べ安全性がより高いと考えられるオメカムチブメカルビルに関しては、2020年末、開発・商業化権がアムジェン社からサイトキネティクス社へ移管されることが発表された。今後、国内外での承認申請の動向やさらなる臨床試験の結果を注視したい。 1. Malik FI, et al. Science. 2011;331(6023):1439-1443.
高心血管リスク患者の主要有害心血管イベントに対する高用量オメガ3脂肪酸とコーン油の比較 STRENGTH無作為化臨床試験
高心血管リスク患者の主要有害心血管イベントに対する高用量オメガ3脂肪酸とコーン油の比較 STRENGTH無作為化臨床試験
Effect of High-Dose Omega-3 Fatty Acids vs Corn Oil on Major Adverse Cardiovascular Events in Patients at High Cardiovascular Risk: The STRENGTH Randomized Clinical Trial JAMA. 2020 Dec 8;324(22):2268-2280. doi: 10.1001/jama.2020.22258. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【重要性】オメガ3脂肪酸エイコサペンタエン酸(EPA)およびドコサヘキサエン酸(DHA)によって心血管リスクが低下するかはいまだに明らかになっていない。 【目的】EPAとDHA(オメガ3 CA)のカルボン酸製剤が心血管転帰にもたらす効果、および心血管リスクが高いアテローム性異常脂質血症患者の脂質および炎症マーカーにもたらす文書化された良好な作用を明らかにすること。 【デザイン、設定および参加者】心血管リスクが高く、高トリグリセリド血症があり、高比重リポ蛋白コレステロール(HDL-C)が低いスタチン治療中の患者でオメガ3 CAとコーン油を比較した多施設共同二重盲検無作為化試験(2014年10月30日から2017年6月14日の間に登録、2020年1月8日に試験終了、最終患者診療日2020年5月14日)。北米、欧州、南米、アジア、オーストラリア、ニュージーランドおよび南アフリカの22カ国の大学病院および市中病院675施設で計1万3078例を無作為化した。 【介入】スタチンを含む通常治療に加えてオメガ3 CA 4g/日(6539例)と不活性対照のコーン油(6539例)を投与するグループに患者を無作為に割り付けた。 【主要評価項目】主要有効性評価項目は、心血管死、非致命的心筋梗塞、非致命的脳卒中、冠動脈血行再建、入院を要する不安定狭心症の複合とした。 【結果】(予定していたイベント1600件のうち)1384例に主要評価項目のイベントが発生した時点で、オメガ3 CAの臨床的便益の可能性が対照のコーン油よりも低いことが示唆された中間解析に基づき、試験は早期に中止された。1万3078例(平均年齢[SD]62.5[9.0]歳、女性35%、糖尿病70%、低比重リポタンパク質[LDL]コレステロール中央値75.0mg/dL、トリグリセリド中央値240mg/dL、HDL-C中央値36mg/dL、高感度CRP中央値2.1mg/L)のうち1万2633例(96.6%)が試験を完了し、主要評価項目の発生状況を確認した。主要評価項目は、オメガ3 CAで治療した患者の785例(12.0%)、コーン油で治療した患者の795例(12.2%)に発生した(ハザード比0.99[95%CI 0.90~1.09]、P =0.84)。オメガ3 CA群(24.7%)の方がコーン油群(14.7%)よりも、消化器系有害事象の発現率が高かった。 【結論および意義】スタチンで治療している心血管リスクが高い患者で、通常治療へのオメガ3 CA追加は、コーン油と比較した主要有害心血管イベントの複合転帰の有意差がなかった。この結果は、高リスク患者の主要有害心血管イベント減少を目的としたこのオメガ3脂肪酸製剤の使用を支持するものではない。 第一人者の医師による解説 評価が分かれるω -3脂肪酸製剤 さらなる検証と代理エンドポイントの再検討が必要 原 眞純 帝京大学医学部附属溝口病院・病院長、第四内科学講座主任教授 MMJ. June 2021;17(3):79 大規模介入試験の結果から、高用量のスタチンで低比重リポ蛋白コレステロール(LDL-C)を十分に低下させても、心血管疾患(CVD)発症は30%程度しか減少せず、LDL-C低下だけでは解決しない残余リスクが指摘されてきた。高トリグリセライド(TG)血症は残余リスクの1つとされフィブラートやω-3脂肪酸製剤などを用いてTGを低下させる介入が試みられてきた。 本研究では、CVD既往のある2次予防患者を50%以上、糖尿病患者も約70%含む高リスク群に、最大限のスタチン投与に加えてエイコサペンタエン酸(EPA)とドコサヘキサエン酸(DHA)の両方を含むω-3脂肪酸のカルボン酸製剤を追加投与し、心血管イベント抑制効果を検証している。その結果、心血管複合エンドポイント減少効果を示すことができない見通しとなり、研究は早期終了となった。 ω-3脂肪酸製剤に関する先行大規模試験の結果には相違がある。効果を示した研究としては、EPAのみを投与した日本のJELIS研究(1)と海外のREDUCE-IT研究(2)があるが、その他多くの研究では心血管イベント抑制効果は証明されなかった。本研究では、従来のエステル化製剤と異なり膵リパーゼによる加水分解を経ずに吸収されるカルボン酸製剤が用いられたが、この製剤が効果に影響を及ぼしたかどうかについては明らかでない。また、DHAが動脈硬化を促進するという知見は報告されていないが、DHAを含むω-3脂肪酸製剤では心血管イベント減少は証明されていない。なお、REDUCE-IT研究では、対照群においてC反応性蛋白(CRP)の上昇がみられることから、対照薬として用いた鉱物油の投与により心血管イベントが増加した結果、EPA群との有意差が得られたとの見方もある。このため、本研究では対照薬としてコーン油が選択されている。 本研究では、脂質改善効果やC反応性蛋白の低下など、ω-3脂肪酸製剤に期待される代理エンドポイントの改善は得られている。にもかかわらず心血管イベントが減少しなかったことは、これらが代理エンドポイントとして妥当でない可能性が示唆される。メンデルランダム化研究の結果などから、TGを低下させる介入がCVD発症を抑制することが示唆されているものの、TG上昇がどのような機序で動脈硬化に関わっているかには諸説あり、TG上昇に伴って増加するレムナントやsmall dense LDLなどが真の動脈硬化促進因子であることも示唆されている。評価が分かれるω-3脂肪酸製剤については、今後さらなる検証が必要であると同時に、ペマフィブラートなど、残余リスクに対する他の介入でも作用機序や有効性の指標とすべき代理エンドポイントの再検討が必要であろう。 1. Saito Y, et al. Atherosclerosis. 2008;200(1):135-140. 2. Bhatt DL, et al. N Engl J Med. 2019;380(1):11-22.
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