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標準治療を受けた早期トリプルネガティブ乳がんで検討した低用量かつ高頻度のカペシタビン維持療法と経過観察が無病生存率にもたらす効果の比較 SYSUCC-001無作為化臨床試験
Effect of Capecitabine Maintenance Therapy Using Lower Dosage and Higher Frequency vs Observation on Disease-Free Survival Among Patients With Early-Stage Triple-Negative Breast Cancer Who Had Received Standard Treatment: The SYSUCC-001 Randomized Clinical Trial
JAMA. 2021 Jan 5;325(1):50-58. doi: 10.1001/jama.2020.23370.
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上記論文の日本語要約
【重要性】乳がんのサブタイプのうち、トリプルネガティブ乳がんは標準治療後の再発率がいくぶん高く、予後が不良である。再発と死亡リスクを下げる効果的な戦略が求められている。
【目的】早期トリプルネガティブ乳がんで、標準的な術後化学療法後に用いる低用量カペシタビン維持療法の有効性と有害事象を評価すること。
【デザイン、設定および参加者】2010年4月から2016年12月の間に、中国の大学病院と臨床施設計13施設で実施した無作為化臨床試験。最終追跡調査日は2020年4月30日であった。参加者(443例)は早期のトリプルネガティブ乳がん患者であり、標準的な術後化学療法を終了していた。
【介入】標準的な術後化学療法終了後、適格患者をカペシタビン650mg/m^2を1年間にわたって1日2回投与するグループ(222例)と経過観察するグループ(221例)に1対1の割合で無作為に割り付けた。
【主要評価項目】主要評価項目は無病生存率であった。無遠隔転移生存率、全生存率、局所無再発生存率、有害事象を副次評価項目とした。
【結果】無作為化した443例のうち、34例を最大の解析対象集団[平均年齢(SD)46(9.9)歳、T1/T2期93.1%、リンパ節転移陰性61.8%]とした(98.0%が試験を完遂)。追跡調査期間中央値61カ月(四分位範囲44~82)の後、イベント94件が発生し、内訳はカペシタビン群38件(再発37例、死亡32例)、経過観察群56件(再発56例、死亡40例)であった。推定5年無病生存率は、カペシタビン群82.8%、観察群73.0%であった(再発または死亡リスクのハザード比[HR]0.64[95%CI 0.42~0.95]、P=0.03)。追跡調査期間中央値61カ月(四分位範囲44-82)の後、イベントが94件発生し、内訳はカペシタビン群38件(再発37件、死亡32件)、観察群56件(再発56件、死亡40件)であった(再発または死亡リスクのHR 0.64、95%CI 0.42~0.95、P=0.03)。カペシタビン群と観察群を比較すると、推定5年無遠隔転移生存率は85.8% vs 75.8%(遠隔転移または死亡リスクのHR 0.60、95%CI 0.38~0.92、P=0.02)、推定5年全生存率は85.5% vs 81.3%(死亡リスクのHR 0.75、95%CI 0.47~1.19、P=0.22)、推定5年局所無再発生存率は85.0% vs 80.8%(局所再発または死亡リスクのHR 0.72、95%CI 0.46~1.13、P =0.15)であった。最も発現頻度が高かったカペシタビン関連の有害事象は手足症候群(45.2%)であり、7.7%からグレード3の有害事象が報告された。
【結論および意義】標準的な術後治療を受けた早期トリプルネガティブ乳がんで、1年間の低用量カペシタビン維持療法によって、経過観察と比べて5年無病生存率が有意に改善した。
第一人者の医師による解説
忍容性高く5年無病生存率を10%上昇 患者選択と至適投与法のさらなる検討必要
三階 貴史 北里大学医学部乳腺・甲状腺外科学主任教授
MMJ. June 2021;17(3):88
近年、乳がん薬物療法の進歩は著しく、ホルモン受容体陽性、またはHER2陽性タイプの転移性乳 がんの予後は年単位で改善した。一方、トリプルネガティブ乳がん(TNBC)に関しては最近、PARP阻害薬や免疫チェックポイント阻害薬が日本でも保険診療で使用されているが、いまだ予後不良である。
転移性乳がんに対する新たな分子標的治療の開発が進む一方で、経口5-FU製剤はその効果と副作用の少なさから、こと日本では術後療法への応用が1980年代から進められていた。その有効性を示す日本発のエビデンスは2000年代に入って示されたが、高リスク患者に対してはアントラサイクリン系、タキサン系薬剤が国際的な標準治療となるにつれ、高齢者など一部の患者に対する選択肢としての位置づけに留まっていた。しかし、2017年に術前化学療法後に病理学的に腫瘍の残存を認めた患者に対するカペシタビン投与が、特にTNBCで有効であることが日韓国際共同試験の結果で示され(1)、現在NCCNガイドラインでは標準治療として推奨されている(2)。
本論文はTNBC患者に標準的な手術、術前/術後化学療法、放射線療法を行った後、1,300mg/m2/日という低用量(通常2,500mg/m2/日)でカペシタビンを2週内服、1週休薬で1年間投与することの有効性と副作用を明らかにすることを目的として中国で行われた多施設共同試験の結果である。解析対象はカペシタビン群221人、経過観察 群213人、観察期間中央値は61カ月であった。その結果、主要評価項目である5年無病生存率はカペシタビン群で経過観察群よりも有意に高いことが示された(82.8%対73.0%;ハザード比[HR],0.64)。また、副次評価項目である5年無遠隔転移生存率もカペシタビン群の方が有意に高かったが (85.5%対75.8%;HR,0.60)、5年全生存率、5年無局所再発生存率の統計学的有意差は認められなかった。アジア人の経口5-FU製剤に対する忍容性は高いと考えられているが、低用量で行われた本試験でもカペシタビンの相対用量強度(予定投与量に対する実際の投与量の割合)の中央値は85%であり、主な副作用である手足症候群は全グレードで45%、グレード3で8%の発現率であった。
これまでにも乳がん術後カペシタビン投与の有効性を検討する臨床試験はいくつか行われているものの、結果はcontroversialである。いまだ日本では術後療法としての投与は保険適用外であるが、TNBCの予後を改善するためにもカペシタビン投与が必要な患者選択と至適投与法の確立が待たれる。
1. Masuda N, et al. N Engl J Med. 2017;376(22):2147-2159.
2. NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology Breast Cancer (Version 4.2021) (https://www.nccn.org/professionals/physician_gls/pdf/breast.pdf)