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心房細動の初期治療に用いる冷凍アブレーションと薬物療法
心房細動の初期治療に用いる冷凍アブレーションと薬物療法
Cryoablation or Drug Therapy for Initial Treatment of Atrial Fibrillation N Engl J Med. 2021 Jan 28;384(4):305-315. doi: 10.1056/NEJMoa2029980. Epub 2020 Nov 16. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】ガイドラインでは、心房細動患者にカテーテルアブレーションを検討する前に1種類以上の抗不整脈薬を試すことが推奨されている。しかし、1次治療にアブレーションを用いた方が洞調律の維持に有効であると思われる。 【方法】未治療の症候性発作性心房細動患者303例を、冷凍バルーンを用いたカテーテルアブレーション実施群と、初期の洞調律回復を目的とした抗不整脈薬投与群に無作為化した。心房頻脈性不整脈を検出するため、全例に植込み型心臓モニタリング機器を留置した。追跡調査期間は12カ月であった。主要評価項目は、カテーテルアブレーション実施後または抗不整脈薬投与開始91~365日後のあらゆる心房頻脈性不整脈(心房細動、心房粗動または心房頻拍)再発の初回記録とした。副次評価項目は、症候性不整脈がないこと、心房細動の負荷、QOLとした。 【結果】1年時、アブレーション群154例中66例(42.9%)、抗不整脈薬群149例中101例(67.8%)に心房頻脈性不整脈の再発が認められた(ハザード比0.48、95%CI 0.35~0.66、P<0.001)。アブレーション群の11.0%、抗不整脈薬群の26.2%に症候性の心房頻脈性不整脈の再発が認められた(ハザード比0.39、95%CI 0.22~0.68)。心房細動が発生していた時間の割合の中央値は、アブレーション群0%(四分位範囲0~0.08)、抗不整脈薬群0.13%(四分位範囲0~1.60)であった。アブレーション群の5例(3.2%)と抗不整脈薬群の6例(4.0%)に重篤な有害事象が発生した。 【結論】症候性発作性心房細動の初期治療を受けた患者を継続的な心調律モニタリングで評価した結果、カテーテルによる冷凍バルーンアブレーションの心房細動再発率が抗不整脈薬による薬物療法よりも有意に低かった。 第一人者の医師による解説 第1選択とするには安全性が非常に重要 侵襲的な手技のリスクは常に念頭に置く必要あり 五十嵐 都 筑波大学医学医療系循環器先進治療研究部門准教授/家田 真樹 筑波大学医学医療系循環器内科教授 MMJ. August 2021;17(4):114 発作性心房細動の初回治療として、ガイドラインでは抗不整脈薬をまず投与し無効な場合にカテーテルアブレーションを行うべきと記載されている(1)。しかしながら、薬物療法の心房細動抑制効果は十分とはいえず、副作用も懸念される。一方、カテーテルアブレーションを薬物療法の無効例に対して行った場合、洞調律維持に有効であったとの報告がある(2)。 今回報告されたEARLY-AF試験では、未治療の発作性心房細動患者を対象に初回治療として冷凍焼灼術(クライオバルーンアブレーション)による心房不整脈の再発抑制効果を抗不整脈薬と比較した。全患者に植込み型心電図記録計(ICM)を植え込み、不整脈を正確に検出できるようにした。その結果、1年の時点で主要評価項目である心房不整脈の再発率はアブレーション群の方が有意に低かった。副次評価項目である心房細動発症の累積時間率(burden)もアブレーション群の方が低かった。有害事象に関して両群間に有意差はなかった(アブレーション群5人:横隔神経麻痺3人、徐脈2人、抗不整脈薬群6人:wide QRS頻拍2人、失神1人、心不全1人、徐脈2人)。 先行研究では、薬物療法でコントロールが不良であった患者への後治療としてアブレーションを行っており、アブレーションの有効性が過大評価されていた可能性がある。本研究の特徴は初回治療としてアブレーションと薬物療法を比較している点と、ICMにより長期間の正確なモニターを行った点である。 最近の研究ではリズムコントロールを早期に行うことは、脳卒中を含む心血管イベントを抑制すると報告されている(3)。また心房細動は進行性の疾患であるため、早期にアブレーションを行うことで心房の線維化など組織的な変化を抑制し長期的な予後を改善させるかもしれない。しかしながら、アブレーションを第1選択とするには安全性が非常に重要な点である。本研究では有害事象発生率は2群間で差がなくアブレーションに関連した死亡、血栓塞栓イベントはなかったが、侵襲的な手技のリスクは常に念頭に置く必要がある。また、心房細動の累積時間率に関して2群間の差はそれほど大きくなくアブレーションを強く勧める根拠にはならないかもしれない。本研究は追跡期間が短いため、アブレーションの長期的な効果を含め、今後のさらなる検討が期待される。 1. Hindricks G, Eur Heart J. 2021;42(5):373-498. 2. Wilber DJ, et al. JAMA. 2010;303(4):333-340. 3. Kirchhof P, et al. N Engl J Med. 2020;383(14):1305-1316.
一過性脳虚血発作の発症と長期的な脳卒中リスクとの関連
一過性脳虚血発作の発症と長期的な脳卒中リスクとの関連
Incidence of Transient Ischemic Attack and Association With Long-term Risk of Stroke JAMA. 2021 Jan 26;325(4):373-381. doi: 10.1001/jama.2020.25071. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【重要性】一過性脳虚血発作(TIA)とその後の脳卒中リスクの関連を正確に推定することによって、TIAを発症した患者の予防策を向上させ、脳卒中の負担を抑制させることができる。 【目的】集団のTIA発症率、TIA後の脳卒中リスクの時期と長期的傾向を明らかにすること。 【デザイン、設定、参加者】ベースラインでTIA、脳卒中の既往のない参加者1万4059例から後ろ向きに収集したデータの後ろ向きコホート研究(Framingham Heart Study)。1948年から2017年12月31日まで追跡した。TIA未発症例の標本とTIA初発例を年齢と性別で(5対1の比率で)マッチさせた。 【曝露】時間(TIA発症率の算出、時間傾向分析)、TIA(マッチさせた縦断コホート)。 【主要評価項目】主要評価項目は、TIA発症率、短期(7日、30日、90日)と長期(1~10年)で比較したTIA後の脳卒中発症率、マッチさせたTIA未発症対照例と比較したTIA後の脳卒中、3分類の期間(1954~1985年、1986~1999年、2000~2017年)別に評価したTIA後90日時脳卒中リスクの経時的な傾向。 【結果】追跡調査期間66年の参加者1万4059例(36万6209人・年)のうち435例がTIAを発症し(女性;229例、平均年齢73.47[SD 11.48]歳、男性;206例、平均年齢70.10[SD 10.64]歳)、TIA未発症の対照例2175例とマッチさせた。TIAの推定発症率は1000人・年当たり1.19であった。TIA後の追跡調査期間中央値8.86年の間に、130例(29.5%)が脳卒中を発症した。そのうち28例(21.5%)が初回TIA発症後7日以内、40例(30.8%)が30日以内、51例(39.2%)が90日以内、63例(48.5%)が1年以上経過後に脳卒中を発症した。脳卒中発症までの期間中央値は1.64年(四分位範囲0.07~6.6年)であった。年齢と性別で調整した脳卒中発症の10年累積ハザードは、TIA発症例(435例中130例が脳卒中発症)が0.46(95%CI 0.39-0.55)、マッチさせた対照のTIA未発症例(2175例中165例が脳卒中発症)が0.09(95%CI 0.08-0.11)であり、完全調整後ハザード比(HR)は4.37(95%CI 3.30-5.71、P<0.001)であった。1948~1985年(16.7%、TIA発症155例中26例が脳卒中発症)と比較したTIA後90日脳卒中リスクは、1986~1999年では11.1%(162例中18例が脳卒中発症)、2000~2017年では5.9%(118例中7例が脳卒中発症)であった。第1期(1948~1985年)と比較すると、90日間脳卒中リスクのHRは、第2期(1986~1999年)で0.60(95%CI 0.33-1.12)、第3期(2000~2017年)で0.32(95%CI 0.14-0.75)であった(傾向のP=0.005)。 【結論および意義】今回の1948~2017年を対象とした集団コホート研究で、推定粗TIA発症率は1.19/1000人・年であり、脳卒中リスクは、TIA発症後の方がマッチさせたTIA未発症の対照よりも有意に高かった。TIA発症後の脳卒中リスクは、最も近い2000~2017年の方がそれ以前の1948~1985年よりも有意に低かった。 第一人者の医師による解説 TIAは脳卒中の強い危険因子 長期間にわたる血管リスク管理を徹底すべき 犬塚 諒子/藥師寺 祐介(主任教授) 関西医科大学神経内科学講座 MMJ. August 2021;17(4):109 一過性脳虚血発作(TIA)は切迫(脳)卒中の主要な先駆症状である。近年の2次予防的介入の進歩は、TIA発症後の短期的のみならず、長期的な脳卒中発症リスクの低下をもたらしていると思われるが、既報はない。そのことを明らかにするために、本研究ではFramingham Heart Study(FHS)のデータを用い、後ろ向き検証がなされた。対象として、1948年から2017年までのFHS参加者のうち、登録時にTIAや脳卒中の既往のない14,059人が抽出された(発症率コホート)。その中で、TIAを発症した症例(TIA群)と、それらに年齢・性別をマッチさせた対照(非 TIA群)を、1:5の比で抽出した縦断的解析用の集団も用意された(調整済み縦断的コホート:それぞれn=435、n=2,175)。これら2種のコホートを用いて、① TIA発症率② TIA後の脳卒中発症率(時代的変遷も含む)が検証された。 TIAの推定発症率は1.19/1000人・年であった。また、TIA後の脳卒中発症率は中央値8.9年の追跡期間中で29.5%であり、発症までの期間中央値は1.64年であった。TIA群の脳卒中発症リスクは、非 TIA群に比べ4.4倍と有意に高かった。TIA後90日間での脳卒中発症率の時代別変遷は、1948~85年で16.7%、1986~99年で11.1%、2000~17年で5.9%であり、1948~85年と比較し、2000年以降で有意に低かった。 本研究で示された時代ごとのTIA後の脳卒中発症率の低下は、薬物療法や外科的介入(頸動脈内膜剥離術、頸動脈ステント留置術)などのエビデンス構築、および普及を反映しているものであろう。しかし、TIA後の脳卒中発症率は非 TIA群の約4倍といまだ高い結果は見逃せない。さらに、TIA後の脳卒中発症率に関しては、従来、比較的短期的なイベントとして警鐘を鳴らされてきた感が強いが、本研究結果をみると、脳卒中の発症は短期間内にプラトーに達するわけではなく、追跡期間全体にわたって増加し、かつ半数(49%)は初回 TIAから1年後以降に発症することが示されたことは特筆すべきであろう。本研究は、後ろ向き研究であることなどから、結果解釈に制限はあるものの、TIAに限った均一な集団での、これまでにない長期間の追跡研究結果としての価値がある。事実、近年における5年を超える追跡期間を有した代表的研究であるTIAregistry.org projectはTIAに加え、軽症虚血性脳卒中も含んでいた側面を持つ(1)。本研究は、TIAは完成型脳卒中の強い危険因子であり、長期間にわたる血管リスク管理を徹底すべき疾患であることを示唆している。すなわち、TIA患者を診た場合は、「脳卒中になる一歩手前の崖っぷちにいる患者」と認識し、長期間にわたる生活習慣改善や内服調整を要することを説明しなければならない。 1. Amarenco P, et al. N Engl J Med. 2018;378(23):2182-2190.
持続する咽喉頭異常感の治療に対するプロトンポンプ阻害薬の使用 多施設共同二重盲検無作為化プラセボ対照試験
持続する咽喉頭異常感の治療に対するプロトンポンプ阻害薬の使用 多施設共同二重盲検無作為化プラセボ対照試験
Use of proton pump inhibitors to treat persistent throat symptoms: multicentre, double blind, randomised, placebo controlled trial BMJ. 2021 Jan 7;372:m4903. doi: 10.1136/bmj.m4903. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【目的】持続する咽喉頭異常感の治療に対するプロトンポンプ阻害薬(PPI)使用を評価すること。 【デザイン】実用的二重盲検プラセボ対照無作為化試験。 【設定】英国の耳鼻咽喉科外来クリニック8施設。 【参加者】持続する咽喉頭異常感がある18歳以上の患者346例。登録施設とベースラインの症状重症度(軽度または重度)によって、172例をランソプラゾール、174例をプラセボに割り付けた。 【介入】ランソプラゾール30mg 1日2回投与とマッチさせたプラセボ1日2回投与に二重盲検下で(1対1の割合で)割り付け、16週間投与。 【主要評価項目】16週時の症状に対する効果を主要評価項目とし、逆流症状指数(reflux symptom index:RSI)総スコアで測定することとした。12カ月時の症状に対する効果、生活の質および喉の外観を副次評価項目とした。 【結果】初めに適格基準を検討した患者1427例のうち346例を組み入れた。被験者の平均年齢は52.2(SD 13.7)歳、196例(57%)が女性であり、受診時、162例(74%)に重度の症状があった。この患者背景は両治療群で均衡がとれていた。主要解析は、14-20週間の期間内に主要評価項目の評価が完了した220例を対象とした。ベースラインの両治療群の平均RSIスコアがほぼ同じであり、ランソプラゾール群22.0点(95%CI 20.4~23.6)、プラセボ群21.7点(同20.5~23.0)であった。16週時、両群のスコアに改善(RSIスコアの低下)が見られ、ランソプラゾール群17.4点(95%CI 15.5~19.4)、プラセボ群15.6点(同13.8~17.3)であった。治療群間に統計的に有意な差は認められず、施設およびベースラインの症状重症度で調整した推定差が1.9点であった(同-0.3~4.2点、P=0.96)。いずれの副次評価項目でもランソプラゾールにプラセボを上回る便益は見られず、12カ月時のRSIスコアはランソプラゾール群16.0点(同13.6~18.4)、プラセボ群13.6点(同11.7~15.5)、推定差が2.4点(-0.6~5.4点)であった。 【結論】持続する咽喉頭異常感に対するPPIを用いた治療の便益に根拠は認められなかった。16週間の治療後および12カ月時の経過観察時のRSIスコアがランソプラゾール群とプラセボ群でほぼ同じであった。 第一人者の医師による解説 咽喉頭異常感の原因はさまざまであるため PPIの効果は限られる 川見 典之(講師)/岩切 勝彦(主任教授) 日本医科大学消化器内科学 MMJ. August 2021;17(4):113 咽喉頭異常感は耳鼻科や消化器内科、またプライマリケアでもしばしば遭遇する患者の訴えの1つである。咽喉頭異常感の原因はさまざまであり、喉頭内視鏡検査や上部消化管内視鏡検査で器質的な異常所見を認めない場合、咽喉頭逆流(LPR)を含めた胃食道逆流症(GERD)、喉頭アレルギー、甲状腺疾患、globusと呼ばれる咽喉頭の異常感などが鑑別として挙げられる(1)。この中で最も多い原因がGERDとの報告もあり、治療としてプロトンポンプ阻害薬(PPI)を使用することが多いが症状が改善する患者は一部で、咽喉頭異常感に対するPPIの効果に関して一定の見解は得られていない。 本論文は持続する咽喉頭症状(嗄声、咽頭痛、globus、後鼻漏、咳、閉塞感など)に対するPPIの症状改善効果を評価するために、英国8施設の耳鼻咽喉科外来で実施されたランダム化試験の報告である。持続する咽喉頭症状を有し、喉頭内視鏡検査にて声帯ポリープや腫瘍などを認めなかった患者346人に対しランソプラゾール 30mgまたはプラセボを1日2回16週間投与し症状を評価した。主要評価項目はreflux symptom index(RSI)質問票で測定した16週時点の総 RSIスコアのベースラインからの変化量とした。副次評価項目は12カ月時点の症状、生活の質(QOL)、咽喉頭所見とした。その結果、6週時点のRSIスコアはランソプラゾール群とプラセボ群ともにベースラインより低下したが、両群間に有意差はなかった。12カ月時点のRSIスコアに関しても、両群間で有意差はなかった。結論として、今回の試験では持続する咽喉頭症状に対するPPIの症状改善効果を示すことはできなかった。 日本の「胃食道逆流症(GERD)診療ガイドライン2021改訂第3版」では、胃食道逆流は咽喉頭炎、咽喉頭症状、咳嗽の原因となることがあるが、PPIや外科的逆流防止手術の効果は確定していないと記載されている。また、機能性消化管障害の国際分類であるRome IVの中で、機能性食道疾患の1つとしてglobusが挙げられており、薬物療法の有用性は低いと記載されている(2)。咽喉頭異常感を有する患者の中でPPIの効果が期待できるのは酸逆流が原因の場合であり、近年多チャンネルインピーダンス pH(MII-pH)検査を用いたLPRの評価が報告されているが、十分な検討は行われていない。今後は咽喉頭異常感の病態を明らかにするとともに、病態に則した治療法が求められる。 1. 折舘伸彦 他 . 耳鼻咽喉科・頭頸部外科 . 2020;92 (5) :213-217. 2. Aziz Q et al. Gastroenterology. 2016;150 (6):1368-1379.
中等症ないし重症の尋常性乾癬に用いるbimekizumabとウステキヌマブの比較(BE VIVID) 52週間の多施設共同二重盲検実薬対照プラセボ対照第3相試験
中等症ないし重症の尋常性乾癬に用いるbimekizumabとウステキヌマブの比較(BE VIVID) 52週間の多施設共同二重盲検実薬対照プラセボ対照第3相試験
Bimekizumab versus ustekinumab for the treatment of moderate to severe plaque psoriasis (BE VIVID): efficacy and safety from a 52-week, multicentre, double-blind, active comparator and placebo controlled phase 3 trial Lancet. 2021 Feb 6;397(10273):487-498. doi: 10.1016/S0140-6736(21)00125-2. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】乾癬の治療に、確実な即効性があり皮膚病変が完全に消失する結果をもたらすというアンメットニーズがある。bimekizumabは、IL-17Aに加えてIL-17Fを選択的に阻害するモノクローナルIgG1抗体である。中等症ないし重症の尋常性乾癬を対象に、bimekizumabの有効性および安全性を52週間にわたってプラセボおよびウステキヌマブと比較することを目的とした。 【方法】BE VIVIDは、アジア、オーストラリア、欧州および北米の11カ国で実施した多施設共同二重盲検実薬対照プラセボ対照第3相試験であった。18歳以上の中等症ないし重症の尋常性乾癬患者(乾癬の面積・重症度指数[PASI]スコア12点以下、体表面積に占める病変部位の割合10%以上および5点尺度の医師による全般的評価[IGA]スコア3点以上)を組み入れた。無作為化は、地理的地域、生物学的製剤投与歴で層別化し、患者、治験担当医師および資金提供者に治療の割り付けを伏せた。自動応答技術を用いて、患者をbimekizumab 320mgを4週に1回投与するグループ、ustekinumab 45mgまたは90mg(試験開始時の体重により決定)を0週時と4週時、その後12週に1回投与するグループ、プラセボを投与するグループに(4対2対1の割合で)割り付けた。16週時、プラセボを投与していた患者をbimekizumab 320mg 4週に1回投与に切り替えた。全試験薬を2回の皮下注射で投与した。主要評価項目は、16週時のPASIの90%改善(PASI 90)率およびIGAスコアで消失またはほぼ消失(スコア0または1点)が示されたIGA奏効率とした(データに欠損がある患者は非奏効例とした[non-responder imputation])。intention-to-treat集団を有効性解析の対象とし、試験薬を1回以上投与した患者を安全性解析の対象とした。この試験は、ClinicalTrials.govにNCT03370133で登録されている(終了)。 【結果】2017年12月6日から2019年12月13日の間に735例をふるいにかけ、567例を組み入れ、無作為に割り付けた(bimekizumab 320mg 4週に1回群321例、ustekinumab 45mgまたは90mg 12週に1回群163例、プラセボ群83例)。16週時、bimekizumab群321例中273例(85%)がPASI 90を達成したのに対して、ウステキヌマブ群は163例中81例(50%、リスク差35[95%CI 27~43]、P<0.0001)、プラセボ群は83例中4例(5%、同80[74~86]、P<0.0001)であった。16週時、bimekizumab群の270例(84%)がIGA奏効を達成したのに対して、ウステキヌマブ群は87例(53%、リスク差30[95%CI 22~39]、P<0.0001)、プラセボ群は4例(5%、同79[73~85]、P<0.0001)であった。52週間でbimekizumab群395例中24例(6%、16週時にプラセボから切り替えた患者を含む)、ウステキヌマブ群163例中13例(8%)から、治療下で発現した重篤な有害事象が報告された。 【解釈】中等症ないし重症の尋常性乾癬に用いるbimekizumabは、ウステキヌマブやプラセボより有効性が高い。bimekizumabの安全性に関するデータは、前回の試験で見られたものと同じであった。 第一人者の医師による解説 新たな作用機序を持つビメキズマブ 関節症状にも高い治療効果を期待 神谷 浩二(准教授)/大槻 マミ太郎(教授〈副学長〉) 自治医科大学医学部皮膚科学講座 MMJ. August 2021;17(4):126 日本での乾癬に対する生物学的製剤は、2010年に腫瘍壊死因子(TNF)阻害薬のインフリキシマブ、アダリムマブが承認され、11年にインターロイキン(IL)-12/23阻害薬のウステキヌマブが承認された。その後、IL-23阻害薬、IL-17阻害薬が開発、承認され、21年4月時点で10種類の治療選択肢がある。 ビメキズマブは、IL-17AとIL-17Fを選択的に阻害するヒト化モノクローナル IgG1抗体で、2021年2月26日に既存治療で効果不十分な尋常性乾癬、膿疱性乾癬、乾癬性紅皮症の効能または効果に係る製造販売承認申請が行われた。 本論文は、中等症~重症の18歳以上の乾癬患者におけるビメキズマブの有効性および安全性の評価を目的とし、ウステキヌマブ、プラセボを対照とした52週間の無作為化二重盲検試験(BEVIVID試験)の結果に関する報告である。主要評価項目は、16週時点での乾癬の皮疹面積・重症度指標(PASI)の90%以上の改善(PASI 90)の割合、医師による全般的評価(Investigators’ Global Assessment;IGA)で皮膚病変消失またはほぼ消失(IGA 0/1)の割合で、ビメキズマブはウステキヌマブよりも有意に優れた結果であった。また、臨床効果は52週時点まで維持され、安全性も確認された。速効性に関しては、4週時点でのPASI 75で評価され、ビメキズマブはウステキヌマブよりも有意に優れていた。乾癬に対するビメキズマブの有効性と安全性は、その他の第3相試験でも確認されている(1)。 乾癬に対するIL-17阻害薬では、IL-17Aを阻害するセクキヌマブ、イキセキズマブ、IL-17受容体Aを阻害するブロダルマブがすでに承認されているが、ビメキズマブはこれまでの薬剤とは異なった作用機序を有する薬剤であり、新たなIL-17阻害薬の治療選択肢として期待される。また、IL-17阻害薬は乾癬の皮膚症状だけでなく、関節症状に対しても高い治療効果が期待できる。今後は乾癬の関節症状に対するビメキズマブの有効性と安全性に関する試験結果が待たれる。 1. Gordon KB, et al. Lancet. 2021; 397(10273):475-486.
#10 貧しさの風景
#10 貧しさの風景
発展途上国、日本のへき地離島、大規模災害の被災地……。世の中には「医療の届かないところ」があります。NPOジャパンハートはそんなところに、無償で医療支援を行っています。ボランティアとして参加した医療従事者が、現地での活動内容などを報告します。 長期ボランティア医師(活動地:ミャンマー) 「木村さん、暗いところにおると、明るいところはよう見えるやろ。でもな。明るいところにおったら、暗いところは全然見えへん。 明るいところにおって、暗いところを見よう思うたら『見よう』と思わな、見えへんのや」 『「みんなの学校」が教えてくれたこと』 木村泰子 バブル崩壊後、日本はどんどん貧しくなり、その斜陽化には止まる気配がない。 一方、ミャンマーはどうだろうか? ILO(国際労働機関)の統計調査によれば、2018年のミャンマー人の平均月収は203,091 MMK(15,492 円)であった。同年の日本の平均月収306,200 円と比較すれば、ミャンマー人の月収は日本のおよそ1/20である。 https://ilostat.ilo.org/data/country-profiles/ そんな貧しい国で、最近出会ったふたりの貧しい患者の話をします。 Episode1 先日、Mogokというマンダレーから200km離れた町にドクターカーで診療に行きました。合計3日間で300名程度の外来患者が受診されましたが、中年の彼がやってきたのは2日目でした。 診察のカーテンを除けて入ってきた姿を見た瞬間に、Acromegaly!、と分かるほど典型的な下顎骨や眉弓部・四肢末端の肥大を認めました。問診では両耳側半盲も出てきているとのことでした。彼はすでに2017年にマンダレーの病院にかかっており、Acromegaly(先端巨大症)が疑われるので、その多くの原因である下垂体腺腫を検索するための頭部MRIを含む各種検査を受けるように勧められていました。 しかし、彼はそれ以来病院に行っていません。その理由は、検査や治療で200,000 MMK(15,000 円ぐらい)がかかるため、これ以上は自分には支払えない。膝が悪く仕事はできず、息子たちから毎月20,000〜30,000 MMK(1500〜2250円ぐらい)の仕送りで生活しているとのことでした。 もし、彼が日本に生まれていたら、、、 国民皆保険制度を利用して、頭部MRIをとって、Hardy手術して、まだまだ生きられるはずなのに・・・。(先端巨大症の放置例や経過観察例では予後は悪く、最大で89%の患者は60 歳までに死亡する。) 今度、彼はワチェ慈善病院で手術をします。といっても、腹部と大腿部にある大きな脂肪腫の手術です。そもそもこれらを取ってほしい、という主訴でMogokの外来にも来たのです。 自分はよく知っています。 ふたつの脂肪腫の手術をしても、彼の生命予後は伸びないことを。 彼が長生きするために必要なのは、頭部MRIと(おそらくは)下垂体腺腫摘出術であることを。 でも、一通りの問診と診察を終えて、脂肪腫の手術をワチェでします、と伝えると、彼は不揃いな歯をにっとして僅かに笑いました。 その瞬間、あーーーっ、と心の中で思いましたが、あーーーっ、の後にどういう言葉が続くのかはよくわかりませんでした。 Episode2 3日前、ミャンマー人研修医からの外来コンサルト。20歳代女性、2年前からの毎食後に繰り返す、1時間持続する右上腹部痛。嘔吐を伴うこともある。ここ数ヶ月の間に腹痛は増悪し、その頻度も増えてきたためワチェの外来を受診。 研修医の病歴を聞いた時点で、おそらくはGallbladder Attack(胆石発作)だと思うよ、と説明しながら、Murphy徴候が陽性であることを確かめて、腹部エコーで胆のう内にsludge(胆泥)が大量にたまっているのを見せました。 発熱や胆のう壁肥厚はないから、細菌感染による胆のう炎は来していないと思う、この人に必要なのは腹腔鏡による胆のう摘出術だよ、と説明しました。 そう説明しながら、患者が持参した過去のカルテを見ていると、どうやらそういう診断や治療の問題ではないということが分かってきました。患者はすでにマンダレーで腹部エコーをされ、胆泥による胆石発作と診断を受けていました。 通訳してもらって彼女から事情を伺うと、マンダレーで手術を行うには200,000 MMK(15,000 円)ぐらいかかる。でも自分にはお金を支払う余裕がない。夫は居なくなり、ふたりの子供と生活し、毎日ホウキを編んで生計を立てているというのです。 この時も、あーーーーーーっという思いがまた脳内を駆け巡りました。でも、それは何も生み出してくれませんでしたし、何も残していってくれませんでした。 もし、彼女が大阪で生まれ育っていれば、、、 堺市立総合医療センターで見た鮮やかなラパ胆で30分〜1時間で胆のうをきれいにとってもらえるはずなのに・・・。でも、残念ながら、現実は違い、彼女はミャンマーの田舎で生まれ育ちました。 次の5月に、イタリアの腹腔鏡のチームがワチェに来るので、彼女にはそれまで痛み止めで我慢してもらうしか方法はありません。今から3ヶ月、1日5回の1時間続く右上腹部痛や嘔吐に彼女は我慢しなければなりません。そして、子供に飯を食わすために、ホウキも編み続ける必要があります。 そういう説明を聞きながら、彼女は両目に涙を浮かべます。でも、決して声をあげて大泣きしたりはしません。泣いたってこの現実は厳然と彼女の前に立ちはだかっていることを彼女自身がよくわかっているからでしょう。 これが、ミャンマーの貧しさの風景です。 ミャンマーの市場で働く女性 (ジャパンハート 2020年3月9日掲載) ジャパンハートは、ミャンマー、カンボジア、ラオスで長期ボランティアとして活動してくれる医師を募集しています。 「医療の届かないところに医療を届ける」活動に関心のある方は、ちょっとのぞいてみてください。 〉ジャパンハート オンライン相談会ページ
#09 たとえささやかであれ、自分に「できる」小さな事を見くびらない。
#09 たとえささやかであれ、自分に「できる」小さな事を見くびらない。
発展途上国、日本のへき地離島、大規模災害の被災地……。世の中には「医療の届かないところ」があります。NPOジャパンハートはそんなところに、無償で医療支援を行っています。ボランティアとして参加した医療従事者が、現地での活動内容などを報告します。 長期ボランティア医師(活動地:ラオス) むやみにあせってはいけません。 ただ牛のように図々しく 進んでいくのが大事です。 『漱石書簡集』 ジャパンハートに入ってからは、現地のニーズに合わせて何を学んでいくのか変化させる必要があった。現地で生活を送る中で、現地の生活習慣・死生観・医療制度・救急医療体制・医療過疎などを知り、そこで一番何が求められているのかを把握し、そしてそのニーズに応えるために、自分が「やりたい」ことではなくて、自分が「できる」ことを模索してきた。 それは自分にとっては、例えば、小児麻酔・外科手術・腹部エコー・甲状腺診療・健康診断・BLS講義・内視鏡通訳などであった。 その中の1つがラオスでの甲状腺診療であった。ラオスでの甲状腺診療と日本のとは少し異なる。 例えば、日本とラオスの甲状腺診療の差は: 内陸国でヨード不足のため、甲状腺腫が多い地域である(endemic goiter) 100km以上離れた北部の患者は曲がりくねった山道を12時間〜1日バスに揺られて来るため、外来では車酔いになっている患者が多い 田舎の少数民族の患者は公用語のラオス語が話せないので、現地語➡ラオス語➡英語と2名の通訳を介して診療することがある 甲状腺機能検査(TSH,fT3,fT4)の結果は、次回数ヶ月後の外来にわかる(ただし、緊急の場合は、当日〜翌日に結果をもらえる) 甲状腺の自己抗体検査ができない(TSHレセプター抗体・TSH刺激性レセプター抗体など) 甲状腺穿刺吸引細胞診(FNA)や甲状腺シンチグラフィーの検査はできない 山岳北部の村で甲状腺ホルモンの薬が購入できないので、甲状腺全摘術が困難な場合がある 頻回受診は難しく、3ヶ月ごとにフォローアップをする このため、一般的な甲状腺ガイドラインに記載されているフローチャートに則った甲状腺診療ができないため、「ウドムサイ病院で実施可能な甲状腺診療」というオリジナルな甲状腺の診療体系を作り上げる必要がある。 ただし、その診療自体が恣意的なものであってはならないため、できるだけガイドラインや医学論文から情報を元に、ラオス医師にも納得して貰えるようなスライドを作成して、それを参照しながら甲状腺診療を行う。 「なぜ、抗甲状腺薬を処方するときに副作用の説明が必要か?」 「なぜ、甲状腺全摘をしたときに甲状腺ホルモンを内服し続ける必要があるか?」 「なぜ、甲状腺ホルモンの採血だけでなく、問診・身体診察が大事か?」 こうした疑問に対して繰り返し答えることで、ラオス医師たちの他の分野での日常診療の質も向上するはず、たぶん。日本で甲状腺疾患なんて数症例しかみたことがなかった自分が、こうしてラオスで甲状腺診療にどっぷり浸かっているなんて、昔は想像もできなかった。 ラオス甲状腺診療の目標は、最終的にジャパンハートが撤退するときに、現地のラオスチームが質の高い甲状腺診療・手術を行うことができるようになることだ。 今、ラオス医師が自信を持って甲状腺診療をしている姿を見ると、 「自分のしていることはささやかだけど、自分にできるちいさな事を見くびらずに、牛のように進む」ことが大事なんだと実感している。 (ジャパンハート 2020年2月12日掲載) ジャパンハートは、ミャンマー、カンボジア、ラオスで長期ボランティアとして活動してくれる医師を募集しています。 「医療の届かないところに医療を届ける」活動に関心のある方は、ちょっとのぞいてみてください。 〉ジャパンハート オンライン相談会ページ
#08 そもそものお話・・・甲状腺疾患ってどんな病気?
#08 そもそものお話・・・甲状腺疾患ってどんな病気?
発展途上国、日本のへき地離島、大規模災害の被災地……。世の中には「医療の届かないところ」があります。NPOジャパンハートはそんなところに、無償で医療支援を行っています。ボランティアとして参加した医療従事者が、現地での活動内容などを報告します。 長期ボランティア医師(活動地:ラオス) ラオスでは甲状腺疾患の診療活動を行っています。この事実は、多くの方にご存知頂いているかと思いますが、そもそも甲状腺疾患がどんな病気なのかについては、これまでにもあまり紹介していませんでした。 そこで今回は、甲状腺疾患や、ラオスで行っている診察の特徴についてご紹介したいと思います。 甲状腺は首にある臓器で、甲状腺ホルモンを作ります。このホルモンのおかげで私たちの体は成長したり、働きを保ったりすることができます。 たとえばこのホルモンが過剰に分泌されるようになれば、異常にあらゆる体の働きが活発になり、よく汗をかいたり、ドキドキしたり、体が震えたり、下痢をするようになります。このような状態を甲状腺機能亢進症といいます。逆にホルモンの分泌が不十分になれば、皮膚は乾燥し、脈は遅くなり、何をするにも意欲が湧かなくなり、便秘をするようになります。このような状態を甲状腺機能低下症といいます。 また、ホルモンの異常はないが、甲状腺に腫瘤ができることがあります。 私たちは主にこの3つの病気「甲状腺機能亢進症」・「甲状腺機能低下症」・「甲状腺腫瘤」を診療しています。 日本では各地域に病院があり、甲状腺の血液検査や腫瘤が癌かどうかを直接針で細胞をとって調べる検査ができます。しかし、ラオスではそうはいきません。いろいろな制限がある中で、日本で診る時と同じようにという訳にはいきませんが、工夫をしながら診療を行っています。 例えば甲状腺機能亢進症に対しては、過剰なホルモンの分泌を抑える飲み薬を使いますが、通常は血液検査を照らし合わせながら薬の調整を行います。ところが、ラオスでは頻回のフォローアップや血液検査は難しいため、患者さんの症状や身体所見とエコー検査の所見を見ながら薬の調整を行います。薬の飲み方や副作用に関しても、しっかり説明します。なぜなら、田舎の方に住んでいる患者さんは簡単には病院にはかかれないため、注意してほしいことを必ず理解しておいてもらわなければならないからです。 また、甲状腺腫瘤のある患者さんは、エコー所見から癌の可能性を判断します。もちろん、100%正しいとは限りませんから、再診を行って腫瘤が大きくなってくるか、また腫瘤による症状があるかどうかなど総合的に考えて手術を決定します。 このように日本とは違う環境だからこそ、臨機応変に検査や治療を考えます。発展途上国で医療を行う上で難しい点でもあり、醍醐味でもあります。 現在は、新型コロナウイルスの影響で私が実際に診療に行くことはできていませんが、現地の医師が甲状腺疾患を診療していて難しい症例や困った点があれば相談を受け、一緒に調べて考える。というような立ち位置でサポートを続けています。 現在の状況が良くなり、また現場に行って直接患者さんの様子や現地医師と交流する日が来ることを、心待ちにしています。 (ジャパンハート 2021年4月26日掲載) ジャパンハートは、ミャンマー、カンボジア、ラオスで長期ボランティアとして活動してくれる医師を募集しています。 オンライン相談会を実施中です。「医療の届かないところに医療を届ける」活動に関心のある方は、ちょっとのぞいてみてください。 〉ジャパンハート オンライン相談会ページ
#07 できることをやるしかない
#07 できることをやるしかない
発展途上国、日本のへき地離島、大規模災害の被災地……。世の中には「医療の届かないところ」があります。NPOジャパンハートはそんなところに、無償で医療支援を行っています。ボランティアとして参加した医療従事者が、現地での活動内容などを報告します。 長期ボランティア医師(活動地:カンボジア) 約2年間の活動を終えました。充実していましたがあっという間の2年間だったと思います。振り返ると楽しいことも辛いこともありましたが、いろいろなことを含めた全部の経験が、自分が医師として働いていく上で大切にしたいことを強く心に残してくれたと思います。 その中でも一番心に残っていることは「どんな患者さんにも自分のできることに全力を尽くし、患者さんと一緒に病に向き合うこと」です。 カンボジアは医療保険制度が十分ではないため、お金がなくて治療を受けられない患者さんは多いです。そういう人たちが無償で医療が受けられる病院があると聞いてジャパンハートにやってきます。たっくさんの患者さんたちを診てきましたが、覚えているのは救うことができなかった患者さんたちです。 ジャパンハートでは治療できないが大きな病院であれば治療できるかもしれないのに、お金がないために大きな病院へ行けない患者さんや、病気が進行して手遅れな状態の患者さんをジャパンハートで診ることはよくありました。そういう時、私は薬がないことや自分では治療ができないことをよく嘆いていました。 しかし、ジャパンハートのスタッフはどんな患者さんに対しても、一生懸命にケアします。ジャパンハートのスタッフは患者さんが辛い時も元気な時も、いつも味方となって頑張っています。 実際患者さんや家族からは、たとえ病気が治らなかったとしても感謝をされ、この病院で看てもらえてよかったと言う人ばかりでした。考えれば、一番悲しいのは患者やその家族であり、私が嘆いたって何も始まりません。できることをやるしかないのです。 そんな当たり前のことを何度もスタッフの姿勢から再認識し、今では自然と自分ができることに目を向けることができるようになったと思います。これから患者さんのことで何か困った時には、ジャパンハートでの経験が僕に大切なことを思い出させてくれるはずです。 一方で、自分の力不足を痛感した2年間でもありました。患者さんの中には、経験や技術のある医師ならば治療や手術ができるはずなのに、私にはその力がないために治療できず、大きな病院へ搬送した人もたくさんいました。そういう患者さんに出会った時には、悔しく申し訳ない気持ちになりました。私はこれから自分のできることを増やすために日本で修行したいと思っています。 最後になりますが、一緒に活動した素晴らしいスタッフの方々や、いつも手伝ってくれたカンボジア人スタッフ、また私を送り出してくれた家族に本当に感謝しています。いつかまた自分が成長し、途上国で医療支援ができる日を思い描きながら、また新しい場所で挑戦していきたいと思います。 (ジャパンハート 2021年3月22日掲載) ジャパンハートは、ミャンマー、カンボジア、ラオスで長期ボランティアとして活動してくれる医師を募集しています。 オンライン相談会を実施中です。「医療の届かないところに医療を届ける」活動に関心のある方は、ちょっとのぞいてみてください。 〉ジャパンハート オンライン相談会ページ
画像で見分ける!典型症例〜心電図編〜
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画像で見分ける!典型症例〜頭頚部編〜
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画像で見分ける!衝撃症例〜四肢編〜
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