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肝硬変の入院患者に用いるアルブミン点滴の無作為化試験
肝硬変の入院患者に用いるアルブミン点滴の無作為化試験
A Randomized Trial of Albumin Infusions in Hospitalized Patients with Cirrhosis N Engl J Med. 2021 Mar 4;384(9):808-817. doi: 10.1056/NEJMoa2022166. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】非代償性肝硬変患者では、感染や全身性炎症の亢進が臓器障害や死亡の原因となる。前臨床試験の結果から、アルブミンの抗炎症作用が期待されているが、それを検証する大規模臨床試験がない。このような患者で、血清アルブミン値30g/L以上を目標とした20%ヒトアルブミン溶液の連日点滴によって、標準治療と比較して感染症、腎障害および死亡の発生率が低下するかは明らかになっていない。 【方法】組み入れ時の血清アルブミン値が30g/L未満の非代償性肝硬変入院患者を対象に、多施設共同無作為化非盲検並行群間比較試験を実施した。患者を目標値を設定した20%ヒトアルブミン溶液の最長14日間または退院のいずれかまで投与するグループと標準治療を実施するグループに割り付けた。入院後3日以内に治療を開始することとした。複合主要評価項目は、治療開始後3~15日目に発生した新たな感染症、腎機能障害または死亡とした。 【結果】777例を無作為化し、患者の大部分でアルコールが肝硬変の原因であることが報告された。患者1例当たりのアルブミン総投与量中央値は、目標値設定アルブミン群(アルブミン値を30g/Lまで上昇させる)では200g(四分位範囲140~280)、標準治療群では20g(四分位範囲0~120)であった(調整後の平均差143g、95%CI 127~158.2)。主要評価項目が発生した患者の割合は、目標値設定アルブミン群(380例中113例、29.7%)と標準治療群(397例中120例、30.2%)の間で有意差が認められなかった(調整オッズ比0.98、95%CI 0.71~1.33、P=0.87)。データを退院時または15日目で打ち切りとした生存時間解析でも、群間差は認められなかった(ハザード比1.04、95%CI 0.81-1.35)。アルブミン群の方が標準治療群よりも、重度または生命を脅かす重篤な有害事象の発生率が多かった。 【結論】非代償性肝硬変入院患者で、アルブミン値30mg/L以上を目標とするアルブミン点滴に、英国の現行標準治療を上回る有益性は認められなかった。 第一人者の医師による解説 数値目標に固執したアルブミン投与は推奨されず 必要に応じ適切な投与を 岡田 啓 東京大学糖尿病・生活習慣病予防講座特任助教 MMJ. August 2021;17(4):117 アルブミンは、70年以上前から肝硬変患者に対して投与されてきたが、その投与の是非については意見が分かれていた。基礎研究では、アルブミン投与が全身炎症抑制や腎障害リスク低下に寄与することで予後を改善することが示唆されていたが、臨床試験においてはアルブミン投与が一貫して有効だというエビデンスは存在しなかった。 今回報告されたATTIRE試験は、非代償性肝硬変患者における急性合併症で入院した18歳以上の患者を対象とした、多施設共同ランダム化非盲検並行群間比較試験である。入院後72時間以内の血清アルブミン値が3.0g/dL未満、ランダム化時点で5日以上の入院を見込む患者を組み入れた。主な除外基準は、進行肝細胞がんを有し予後8週未満と予測され緩和治療を受けている患者とした。介入群では、非介入群で行う通常治療に加えて、血清アルブミン値3.5g/dLを目標として設定したアルブミン補充を行った。ただし、腹水穿刺で大量排液の施行や突発性細菌性腹膜炎や肝腎症候群を発症した場合、ガイドラインでアルブミン投与が推奨されているため1,2、非介入群でもアルブミン投与を医師の判断で行うこととした。主要エンドポイントは試験開始から3〜15日での感染症・腎機能障害・死亡の複合エンドポイントとし、副次エンドポイントは28日、3カ月、6カ月時点の死亡や合併症発症であった。 結果は、患者777人がランダム化され、intention-to-treat(ITT)解析において、主要エンドポイント発生割合は介入群29.7%、非介入群30.2%であった(調整済みオッズ比,0.98;95%信頼区間 ,0.71〜1.33;P=0.87)。発生したイベントの内訳は、新規感染症、腎機能障害、死亡の順に多く、個々の発症割合に関しても、両群で有意差を認めなかった。副次エンドポイントにおいても、有意なリスク差を認めず、むしろ介入群において肺水腫や細胞外液過剰状態が多く発現した(23人対8人[非介入群])。 本論文の結論は、血清アルブミン値目標を定めたアルブミン投与は推奨されないというものである。しかしその対象は、あくまで、数値目標に固執したアルブミン投与であって、既存の方法でのアルブミン投与を否定するものではないことに注意したい。海外ガイドライン 1,2と同様、日本の「肝硬変診療ガイドライン2020改訂第3版」でも、特発性細菌性腹膜炎や1型肝腎症候群合併例に対して同様にアルブミン製剤投与が推奨されている。なお、本研究はアルブミン数値目標や体液管理困難な患者が対象であるため二重盲検化は難しく、非盲検が正当化される状況であった。 1. European Association for the Study of the Liver. J Hepatol. 2018;69 (2) :406-460. 2. Runyon BA; Hepatology. 2013;57 (4) :1651-1653.
COVID-19患者の退院6カ月後の転帰 コホート研究
COVID-19患者の退院6カ月後の転帰 コホート研究
6-month consequences of COVID-19 in patients discharged from hospital: a cohort study Lancet. 2021 Jan 16;397(10270):220-232. doi: 10.1016/S0140-6736(20)32656-8. Epub 2021 Jan 8. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】COVID-19の長期的な健康上の影響は、大部分が明らかになっていない。この研究の目的は、COVID-19患者の退院後の長期的な健康転帰を評価し、危険因子、特に疾患重症度関連のものを検討することであった。 【方法】2020年1月7日から5月29日の間に金銀潭病院(中国・武漢市)を退院したCOVID-19患者を対象に、前後両方向コホート研究を実施した。追跡調査前に死亡した患者、精神病性障害、認知症、再入院のため追跡調査ができなかった患者、骨関節症を合併し自由に動けない患者、脳卒中や肺塞栓症などの疾患により退院前後に動けなかった患者、試験への参加を拒否した患者、連絡が取れなかった患者、武漢市以外の地域に居住している患者や介護施設または福祉施設に居住している患者を除外した。全例に一連の質問票を用いた問診で症状および健康関連QOLを評価し、身体診察、6分間歩行テスト、血液検査を実施した。入院中に評価した7段階重症度尺度の最高点3点、4点、5~6点で層別化した手順を用いて、患者から検体を採取し、肺機能検査、胸部の高解像度CT、超音波検査を実施した。Lopinavir Trial for Suppression of SARS-CoV-2 in Chinaに参加した患者には、SARS-CoV-2抗体検査を実施した。多変量調整線形回帰モデルまたはロジスティック回帰モデルを用いて、重症度と長期的な健康転帰の関連を評価した。 【結果】退院したCOVID-19患者2469例から736例を除外し、計1733例を組み入れた。参加者の年齢中央値は57.0歳(IQR 47.0~65.0)であり、897例(52%)が男性であった。追跡調査は2020年6月16日から9月3日の間に実施し、発症後の追跡期間中央値は186.0日(175.0~199.0)日であった。よく見られた症状に、疲労または筋力低下(63%、1655例中1038例)、睡眠障害(26%、1655例中437例)があった。患者の23%(1617例中367例)から不安または抑うつが報告された。6分間歩行距離の中央値が正常範囲下限以下であった患者の割合は、重症度尺度3点の患者24%、4点の患者22%、5~6点の患者29%であった。これに対応する肺拡散障害の割合はそれぞれ22%、29%、56%であり、CTスコア中央値はそれぞれ3.0(IQR 2.0~5.0)、4.0(3.0~5.0)、5.0(4.0~6.0)であった。多変量調整後の重症度尺度3点と比較したオッズ比(OR)は、肺拡散障害で4点1.61(95%CI 0.80~3.25)、5~6点4.60(1.85~11.48)、不安または抑うつで4点0.88(0.66~1.17)、5~6点1.77(1.05~2.97)、筋力低下で4点0.74(0.58~0.96)、5~6点2.69(1.46~4.96)であった。追跡調査時に血中抗体検査を実施した94例の血清陽性率(96.2% vs. 58.5%)および中和抗体の力価中央値(19.0 vs. 10.0)は、急性期(入院時)に比べると著しく低かった。急性期に急性腎障害がなく推定糸球体濾過量(eGFR)が90mL/分/1.73m^2以上であった822例のうち、107例で追跡調査時のeGFRが90mL/分/1.73m^2未満であった。 【解釈】COVID-19生存者に、急性感染後6カ月時、主に疲労または筋力低下、睡眠障害、不安または抑うつ傾向が認められた。入院中の重症度が高かった患者は、肺拡散障害や胸部画像所見異常の重症度が高く、長期回復のための介入の主な対象者となる。 第一人者の医師による解説 6カ月後にも疲労・筋力低下、睡眠障害、不安・抑うつが残存 重症患者は回復後も介入が必要 葉 季久雄 平塚市民病院救急科・救急外科部長 MMJ. August 2021;17(4):105 2021年7月9日時点で、日本での新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染者数は累計でおよそ81万人、回復者数は78万人、死亡者数は1万5,000人である(厚生労働省統計)。COVID-19回復後に続く後遺症はLong COVIDと称され、臨床家の注目を集めている。 本論文は、中国武漢市金銀潭病院を退院したCOVID-19患者1,733人を対象とした、発表時点で対象者数が最大かつ追跡期間が最長の前後両方向コホート研究の報告である。目的は退院患者の経過から残存症状を記述し危険因子を探ること、抗SARS-CoV-2抗体価の推移など肺外臓器機能の評価である。すべての対象患者に面接、診察、6分間徒歩テスト、血液検査、さらに7段階の重症度分類(#)で抽出した一部の患者に肺機能検査、高解像度胸部 CT、超音波検査が実施された。なお、抗体検査はロピナビルの臨床試験(LOTUS)参加者94人のみに行われた。 患者背景は、年齢中央値57歳、男性52%、観察期間中央値は発症後186日であった。患者のうち68%が入院中に酸素投与を必要とし、7%は高流量酸素療法(HFNC)、非侵襲的陽圧換気(NIV)または侵襲的機械換気(IMV)を必要とした。4%が集中治療室での治療を受けた。入院期間の中央値は14日であった。 発症6カ月後の主な残存症状は、疲労・筋力低下(63%)、睡眠障害(26%)、不安・抑うつ(23%)であった。1つ以上の症状を有した患者は76%で、女性の割合が高かった。重症度スケール 3の患者と比較し、重症度スケール 5~6の患者が発症6カ月後に何らかの症状を有するオッズ比は2.42(P<0.05)であった。肺拡散障害、不安・抑うつ、疲労・筋力低下のオッズ比は、スケール 5~6の患者はスケール 3の患者に比べ、それぞれ4.60(P=0.0011)、1.77(P=0.031)、2.69(P=0.0015)であった。女性は男性と比較し、それぞれ2.22(P=0.0071)、1.80(P<0.0001)、1.33(P=0.016)のオッズ比を示した。発症6カ月後、急性期と比較し、血清抗体陽性率は96.2%から58.5%へと低下し、中和抗体抗体価の中央値は19.0から10.0に低下していた。 本研究は、重症患者、女性患者は回復後も多彩な症状が残存し、治療介入を要することを示していた。退院が治療の終了ではなく、退院後も適切なフォローアップが必要である。中和抗体は発症6カ月後には減少しており、回復後の患者にも再感染のリスクがあることを念頭におく必要がある。COVID-19回復後の長期経過の全容解明には、より大規模で、より長期間に及ぶ追跡調査が求められる。 #脚注)重症度スケールの定義:スケール 6= 入院して ECMO、IMV もしくはその両方を要した。スケール 5= 入院して HFNC、NIV もしくはその両方を要した。スケール 3= 入院したが酸素投与は要さなかった。
うつ病に用いるpsilocybinとエスシタロプラムを比較した試験
うつ病に用いるpsilocybinとエスシタロプラムを比較した試験
Trial of Psilocybin versus Escitalopram for Depression N Engl J Med. 2021 Apr 15;384(15):1402-1411. doi: 10.1056/NEJMoa2032994. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】psilocybinは抗うつ作用を有する可能性があるが、psilocybinと実証済みのうつ病治療との直接比較はない。 【方法】罹病歴の長い中等症ないし重症の大うつ病性障害患者を対象とした第II相二重盲検無作為化比較試験で、psilocybinと選択的セロトニン再取り込み阻害薬エスシタロプラムを6週間にわたって比較した。患者をpsilocybin 25mgの3週間隔2回投与かつプラセボ6週間連日投与群(psilocybin群)とpsilocybin 1mgの3週間隔2回投与かつエスシタロプラム6週間連日経口投与群(エスシタロプラム群)に1対1の割合で割り付けた。全例に心理的サポートを実施した。主要評価項目は、自己報告による簡易抑うつ症状尺度16項目スコア(QIDS-SR-16、スコア範囲0~27点、スコアが高いほど抑うつが重症)のベースラインから6週時までの変化量とした。6週時のQIDS-SR-16の改善(スコア50%以上低下と定義)およびQIDS-SR-16の寛解(スコア5点以下と定義)など16項目を副次評価項目とした。 【結果】59例を組み入れ、30例をpsilocybin群、29例をエスシタロプラム群に割り付けた。ベースラインの平均QIDS-SR-16スコアは、psilocybin群14.5点、エスシタロプラム群16.4点であった。ベースラインから6週時までの平均スコア変化量(±SE)は、psilocybin群-8.0±1.0点、エスシタロプラム群-6.0±1.0点で、群間差は2.0点(95%CI -5.0~0.9、P=0.17)であった。psilocybin群の70%とエスシタロプラム群の48%にQIDS-SR-16の改善が認められ、群間差は22%ポイント(95%CI -3~48)であった。それぞれ57%と28%にQIDS-SR-16の寛解が認められ、群間差は28%ポイント(95%CI 2~54)であった。その他の副次評価項目は概ねpsilocybin群の方がエスシタロプラム群よりも良好であったが、解析では多重比較を補正しなかった。有害事象の発現率は両群で同等であった。 【解釈】6週時のQIDS-SR-16うつ病スコアの変化量を基にすると、この試験では選択した患者群でpsilocybinとエスシタロプラムの抗うつ作用に有意差は認められなかった。副次評価項目は概ねpsilocybinの方がエスシタロプラムよりも良好であったが、この評価項目の解析では多重比較を補正しなかった。psilocybinと検証済みの抗うつ薬を比較するには、大規模で長期的な試験が必要である。 第一人者の医師による解説 シロシビンの効果検証 より大規模で長期の試験が必要 高橋 英彦 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科精神行動医科学主任教授 MMJ. August 2021;17(4):108 シロシビン(psilocybin)はヒカゲシビレタケなどのマジックマッシュルームに含まれる幻覚成分で、セロトニンと類似した化学構造を有し、セロトニン 5-HT2A受容体にアゴニストとして主として作用する(1)。シロシビンには抗うつ作用があると考えられるが、シロシビンと既存のうつ病治療法との直接的な比較は行われていない。そこで、著者らは第2相二重盲検無作為化対照試験で、中等度〜重度の大うつ病性障害の患者を対象に、シロシビンまたは選択的セロトニン再取り込み阻害薬であるエスシタロプラムを6週間経口投与し、有効性と安全性を比較した。患者は、シロシビン25mgの2回投与(1、4週目)に加えプラセボを6週間連日投与する群(シロシビン群)と、薬理作用が無視できるシロシビン1mgの2回投与(1、4週目)に加えエスシタロプラムを6週間連日投与する群(エスシタロプラム群)に割り付けられた。主要評価項目は、6週目の16項目のQuick Inventory of Depressive Symptomatology-Self-Report(QIDS-SR-16)の得点のベースラインからの変化量であった。副次評価項目として、6週目にQIDS-SR-16の奏効(スコアがベースラインよりも50%以上減少)、QIDS-SR-16の寛解(スコアが5以下になった場合)など16項目を設定した。30人がシロシビン群に、29人がエスシタロプラム群に割り付けられた。ベースライン時のQIDS-SR-16の平均スコアは、シロシビン群で14.5点、エスシタロプラム群で16.4点であった。ベースラインから6週目までのスコアの変化量の平均(± SE)は、シロシビン群で−8.0±1.0ポイント、エスシタロプラム群で−6.0±1.0ポイントとなったが有意差はなかった。QIDS-SR-16上の奏効はシロシビン群で70%、エスシタロプラム群で48%で得られ、QIDS-SR-16上の寛解はそれぞれ57%と28%に認められたが、いずれも有意差はなかった。有害事象の発生率は両群間で同程度であった。本試験の限界として、エスシタロプラムは効果発現にもっと時間がかかる場合もあり、6週間は短い可能性が挙げられる。シロシビン25mgは1mgに比べて高揚感や解放感を感じる人が多く盲検化に影響を与えたかもしれない。結論として、シロシビンを既存の抗うつ薬と比較するには、より大規模で長期の試験が必要である。 1. Madsen MK, et al. Neuropsychopharmacology. 2019;44(7):1328-1334.
過体重または肥満の2型糖尿病成人患者に用いるセマグルチド週1回2.4mg投与(STEP 2試験) 無作為化二重盲検ダブルダミープラセボ対照第III相試験
過体重または肥満の2型糖尿病成人患者に用いるセマグルチド週1回2.4mg投与(STEP 2試験) 無作為化二重盲検ダブルダミープラセボ対照第III相試験
Semaglutide 2·4 mg once a week in adults with overweight or obesity, and type 2 diabetes (STEP 2): a randomised, double-blind, double-dummy, placebo-controlled, phase 3 trial Lancet. 2021 Mar 13;397(10278):971-984. doi: 10.1016/S0140-6736(21)00213-0. Epub 2021 Mar 2. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】この試験では、過体重または肥満の2型糖尿病成人患者の体重管理を目的としたGLP-1アナログ製剤セマグルチド2.4mg、同1.0mg(糖尿病治療に承認された用量)またはプラセボの週1回皮下投与の有効性と安全性を評価した。 【方法】この第III相二重盲検ダブルダミー優越性試験では、スクリーニング180日以上前に2型糖尿病の診断を受けたBMI 27以上、糖化ヘモグロビン7~10%(53~86mmol/mol)の成人を登録した。欧州、北米、南米、中東、南アフリカおよびアジア12カ国の外来診療所149施設で患者を募集した。患者を自動ウェブ応答システム(IWRS)で無作為化し、基礎治療の血糖降下薬および糖化ヘモグロビンで層別化。セマグルチド2.4mg、同1.0mg、外見上見わけのつかないプラセボに(1対1対1の割合で)割り付け、週1回、68週間皮下投与し、生活習慣介入を実施した。患者、治験責任医師、結果の評価者に治療の割り付けを伏せた。主要評価項目は、治療意図に基づく評価で、プラセボと比較したセマグルチド2.4mg群の68週時の体重変化率と5%以上の減量達成の複合とした。試験薬を1回以上投与した患者全例で安全性を評価した。この試験は、ClinicalTrials.gov(NCT03552757)に登録されており、参加者の登録が終了している。 【結果】2018年6月4日から11月14日の間に1595例をスクリーニングし、そのうち1210例をセマグルチド2.4mg群(404例)、同1.0mg群(403例)、プラセボ群(403例)に割り付け、intention-to-treat解析の対象とした。ベースラインから68週時までの推定平均体重変化率は、セマグルチド2.4mg群-9.6%(SE 0.4)、プラセボ群-3.4%(同0.4)であった。プラセボ群と比較したセマグルチド2.4mg群の推定投与群間差は-6.2%ポイントだった(95%CI -7.3~-5.2、P<0.0001)。68週時、セマグルチド2.4mg群の方がプラセボ群よりも5%以上の減量を達成した患者が多かった(388例中267例[68.8%] vs. 376例中107例[28.5%]、オッズ比4.88、95%CI 3.58~6.64、P<0.0001)。セマグルチド2.4mg群(403例中353[87.6%])および1.0mg群(402例中329[81.8%])の方が、プラセボ群(402例中309[76.9%])よりも有害事象発生率が高かった。セマグルチド2.4mg群403例中256例(63.5%)、セマグルチド1.0mg群402例中231例(57.5%)、プラセボ群402例中138例(34.3%)に消化管系の有害事象が発現したが、ほとんどが軽度ないし中等度であった。 【解釈】過体重または肥満の2型糖尿病成人患者で、セマグルチド2.4mgを週1回投与によってプラセボと比較して効果的で臨床的に意義のある減量を達成した。 第一人者の医師による解説 セマグルチド 2.4mg/週投与は体重減少率および5%体重減の達成に有効 林 高則 医薬基盤・健康・栄養研究所 国立健康・栄養研究所臨床栄養研究部 栄養療法研究室室長/窪田 直人 東京大学医学部附属病院病態栄養治療部准教授 MMJ. August 2021;17(4):119 いくつかの糖尿病治療薬では体重増加をきたしやすいこともあり、血糖コントロールとともにいかに減量を達成していくかは、2型糖尿病治療において大きな課題である。 グルカゴン様ペプチド -1(GLP-1)受容体作動薬は血糖降下作用に加えて、減量効果も期待できる薬剤である。本論文は、肥満を有する2型糖尿病患者に対してGLP-1受容体作動薬であるセマグルチドを2.4mg週1回投与した際のプラセボまたはセマグルチド1.0mg投与(糖尿病治療として承認されている量)に対する有効性および安全性を検討したSTEP2試験の報告である。 対象は18歳以上、BMI 27kg/m2以上、HbA1c 7~10%の2型糖尿病患者1,210人で、上記3群に割り付けられ68週間の追跡が行われた。その結果、ベースラインからの体重減少率は2.4mg群で9.6%、1.0mg群で7.0%、プラセボ群で3.4%であり、また5%以上の減量を達成した割合は2.4mg群で68.8%、1.0mg群で57.1%、プラセボ群で28.5%と、いずれも2.4mg群で有意に大きかった。2.4mg群では、心血管危険因子(腹囲、収縮期血圧、脂質、尿中アルブミンなど)や身体機能評価スコア、QOL評価スコアの改善も認められた。有害事象の発現頻度は実薬群で多かったが(胃腸障害が最多)、そのほとんどは一過性かつ軽度~中等度であり、2.4mg群と1.0mg群で副作用による中止に差を認めなかった。 本試験ではセマグルチド 2.4mg投与により心血管危険因子の改善が認められたが、実際に心血管イベント発症を抑制するかは今後さらなる検証が必要である。この点に関しては、非糖尿病肥満者においてセマグルチド 2.4mgが心血管イベント発症を抑制するかどうかを検証するSELECT試験(1)が進行中であり、その結果も待たれる。 HbA1cに関しては、68週時点のベースラインからの変化量が2.4mg群で−1.6%、1.0mg群で−1.5%と差はわずかであったが、2.4mg群は1.0mg群と比べ併用薬が減った割合が高かったことも考慮して解釈する必要がある。 このSTPE2試験には日本を含む12カ国の施設が参加しており、研究参加者の26.2%がアジア人である。GLP-1受容体作動薬は非アジア人と比較してアジア人で血糖低下効果が高いこと(2)や、白人と比べアジア人でより主要心血管イベント発症抑制のベネフィットが大きいこと(3)が報告されており、日本人を含めたアジア人におけるセマグルチド 2.4mgの有効性が期待される。 1. Ryan Dh, et al. Am Heart J. 2020; 229: 61-69. 2. Kim YG, et al. Diabetes Obes Metab. 2014;16(10):900-909. 3. Matthew M Y Lee, et al. Diabetes Care. 2021; 44 (5) :1236-1241.
全年齢層に適用可能な血清クレアチニン値に基づく新たな糸球体濾過量推定式の開発および検証 統合データの横断解析
全年齢層に適用可能な血清クレアチニン値に基づく新たな糸球体濾過量推定式の開発および検証 統合データの横断解析
Development and Validation of a Modified Full Age Spectrum Creatinine-Based Equation to Estimate Glomerular Filtration Rate : A Cross-sectional Analysis of Pooled Data Ann Intern Med. 2021 Feb;174(2):183-191. doi: 10.7326/M20-4366. Epub 2020 Nov 10. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】小児用Chronic Kidney Disease in Children Study(CKiD)推定式および成人用Chronic Kidney Disease Epidemiology Collaboration(CKD-EPI)推定式は、糸球体濾過量(GFR)推定に推奨される血清クレアチニン(SCr)を基にした計算式である。しかし、いずれの式も、両者を組み合わせたとしても、欠点があり、特に思春期から成人期への移行中にGFRが大幅に変動し、若年成人のGFRが過剰に推定される問題がある。全年齢層対象(FAS)式はこの問題を解決するものであるが、SCr値が低いとGFRを過剰に推定する。 【目的】FASとCKD-EPI式の特徴を組み合わせたSCrに基づく改定FAS式を開発し、検証すること。 【デザイン】開発および検証に別々の統合データを用いた横断解析。 【設定】GFRを測定した研究および臨床試験(13件)。 【参加者】7試験の参加者計1万1251例(開発および内部検証データ)および6試験の参加者計8378例(外部検証データ)。 【評価項目】新たなGFR推定式の開発に、外因性マーカー(参照方式)、SCr値、年齢、性別および身長を用いた。 【結果】新たな推定式、European Kidney Function Consortium(EKFC)式は、全年齢(2~90歳、小児で-1.2 mL/min/1.73m^2[95%CI -2.7~0.0 mL/min/1.73m^2]、成人で-0.9 mL/min/1.73m^2[CI, -1.2~-0.5mL/min/1.73m^2])およびSCr全範囲(40~490µmol/L[0.45~5.54 mg/dL])でバイアスが小さく、CKiD式、CKD-EPI式と比べて30%を超える推定誤差もほとんどなかった(小児で6.5%[CI 3.8~9.1%]、成人で3.1%[CI 2.5~3.6%]。 【欠点】黒人が対象に含まれていない点。 【結論】新たなEKFC式は、広く用いられているSCR値からGFRを推定する式と比べて、正確性および精度が改善した。 第一人者の医師による解説 全年齢層に適用できる推算式 長期にわたる腎機能の経過観察を可能に 後藤 淳郎 医療法人社団永康会 中目黒クリニック院長 MMJ. August 2021;17(4):120 腎機能障害は将来の末期腎不全だけでなく心血管イベントさらには死亡とも関連することから、腎機能は臨床における重要な指標である。主要な腎機能を代表する糸球体濾過量(GFR)の正確な測定は、手技やコストの面から容易ではなく、濾過の指標となるイヌリンなどの外因性物質を体内に投与し複数回採血・採尿を行う必要がある。クレアチニン(Cr)やシスタチン Cなど内因性物質のクリアランスを利用すればGFRを算出できるが、やはり採血・採尿は必要である。そこで、血清クレアチニン値と年齢、性、人種などを組み合わせたGFR推算式が各種考案されて日常臨床で使用されている。わが国では日本人でのイヌリン・クリアランスを基準に作成された式が広く普及し、慢性腎臓病(CKD)の病期分類に利用されている。 一方、世界的には1〜16歳のCKDを有する小児で作成されたChronic disease in Children Study(CKiD)式と健常人なら びにCKDを有する成人で作成されたChronic Kidney Disease Epidemiology Collaboration(CKD-EPI)式がKidney Disease Improving Global Outcome(KDIGO)のガイドラインで推奨されて広く用いられている。両式ともGFRが過剰に評価される年齢層や対象があり、小児から成人に移行する年齢ではCrはほぼ不変なのにGFRが大きく変動するなどの限界が指摘され、この点を解決すべくfull age spectrum (FAS)式が提案されたが、解決には至っていなかった。 今回 FAS式とCKD-EPI式を組み合わせて、血清Cr値に基づく推算GFR式として発表されたEuropean Kidney Function Consortium(EKFC)式は、CKiD式、CKD-EPI式に比べて、より正確にGFRを推算できることが本論文で示されている。EKFC式は、まず7研究11,251人の個々の成績から導かれ、その妥当性が内部検証された。次に異なる6研究8,378人での成績を用いてさらに検証が加えられた。EKFC式では2〜90歳の年齢を通じて、また0.45〜5.54mg/dLの広範な血清Cr値を通じ標準法による基準値とのバイアスが小さく、30%超の推算誤差がCKiD式、CKD-EPI式に比べて少なく正確度が高まること、さらにEKFC式では小児と成人の境界年齢でもGFR値がスムーズに変化することが確認された。ただし、白人のみの成績であり、黒人など他人種へ適用できるかは問題点として残る。 1つの推算式で小児から青年期さらに壮年期への移行に伴ってeGFR推算がスムーズにできれば確かに長期にわたる腎機能の経過観察が可能となり、全年齢層での疫学調査や腎疾患の長期追跡研究などに役立つことが期待される。
スタチン治療と筋症状 連続無作為化プラセボ対照N-of-1試験
スタチン治療と筋症状 連続無作為化プラセボ対照N-of-1試験
Statin treatment and muscle symptoms: series of randomised, placebo controlled n-of-1 trials BMJ. 2021 Feb 24;372:n135. doi: 10.1136/bmj.n135. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【目的】スタチン服用時に筋症状を経験した患者で、筋肉症状に対するスタチンの影響を明らかにすること。 【デザイン】連続した無作為化プラセボ対照N-of-1試験。 【設定】2016年12月から2018年4月の英国プライマリケア50施設。 【参加者】筋症状を理由にスタチン服用を中止して間もない患者およびスタチン服用中止を検討している患者計200例。 【介入】患者をアトルバスタチン1日1回20mg投与とプラセボに二重盲検化した連続する6つの治療期間(各2カ月)に割り付けた。 【主要評価項目】各治療期間終了時に被験者が視覚的アナログ尺度(0-10)で筋症状を評価した。主要解析では、スタチン投与期間中とプラセボ投与期間中の症状スコアを比較した。 【結果】スタチンとプラセボそれぞれ1期間以上の症状スコアを提出した患者151例を主要解析の対象とした。全体で、スタチン期間とプラセボ期間の筋症状スコアに差はなかった(スタチン-プラセボの平均差-0.11点、95%CI -0.36-0.14、P=0.40)。忍容できない筋症状による脱落は、スタチン期間で18例(9%)、プラセボ期間で13例(7%)だった。試験を完遂した患者の3分の2がスタチンによる長期治療の再開を報告した。 【結論】スタチン服用時の重度筋症状の経験を報告したことがある参加者で、アトルバスタチン20mg投与によるプラセボと比較した筋症状への全体的な影響は認められなかった。試験を完遂した参加者のほとんどが、スタチンによる治療の再開を希望した。N-of-1試験は集団単位で薬物の作用を評価でき、個人の治療の指針となる。 第一人者の医師による解説 ノセボ効果の見える化により、研究参加者の多くがスタチン再開 岡㟢 啓明 東京大学医学部附属病院糖尿病・代謝内科助教 MMJ. August 2021;17(4):116 クレアチンキナーゼ(CK)上昇を伴う筋炎や横紋筋融解症はスタチン投与に伴い一定の頻度で起きるものの、CK上昇を伴わない軽度な筋症状はスタチンで増えるのか? ノセボ効果(スタチンによって筋症状が増えるかもしれないとの懸念から、偶然の筋症状の原因をスタチンだと思ってしまう)のために、スタチン中止に至ることもあり、特に心血管リスクが高い場合などで、治療上のデメリットになる。 本論文は、スタチンによる筋症状の真偽に答えるべく実施されたN-of-1試験(StatinWISE)の報告である。N-of-1試験は患者内比較試験で、投与期間、プラセボ投与期間をランダムに複数回設定し、1人の患者内で実薬とプラセボの効果を比較、その結果をすべての患者(n)で集計する。本研究では、研究期間12カ月を2カ月 X6回に分け、アトルバスタチン20mgまたはプラセボをそれぞれ3回ずつランダムに割り付けた。対象者は、筋症状が理由でスタチンを中止したか、中止を検討している患者である(CK高値を伴う患者は除外)。なお、70%は心血管疾患既往を有し、スタチン投与が望ましい患者であった。 結果、スタチン vs.プラセボ投与期間の比較では患者評価の筋症状スコアに有意差はなかった。筋症状による投与中止の割合は、スタチン投与期間とプラセボ投与期間で有意差はみられなかった。また、試験終了後、患者に筋症状がスタチン、プラセボどちらの投与期間で起きたのかを知らせた結果、患者の3分の2は今後長期間にわたりスタチンを服用したいと答えた。 今回、CK上昇を伴う筋炎や横紋筋融解症以外の筋症状はスタチンにより有意に増加しているとは言えなかったが、この結果は、最近の他の試験でも裏付けられている(1ー3)。また、本試験では患者の多くがスタチン再開を希望したことから、筋症状が必ずしも薬によるものではないことをこのような方法で理解するのは有用と考えられる。スタチン不耐でスタチン再開を検討したい場合、N-of-1試験の方法は日常臨床にも応用できるのではないかと筆者らは推察している。 他のスタチンや別の用量でも同様な結果が得られるかは不明だが、スタチンによる筋症状が多くの場合ノセボ効果に由来することが示唆された。N-of-1試験デザインが日常臨床でも有用である可能性が示された点でも意義深い。しかし一方で、臨床的には、スタチンとの因果関係がやはり疑われるような、CK上昇を伴わない筋症状にも実際に遭遇する。そのようなケースにも十分注意しながら、本試験の結果を活用することが大切と思われる。 1. Wood FA, et al. N Engl J Med. 2020;383(22):2182-2184. 2. Moriarty PM, et al. J Clin Lipidol. 2014;8(6):554-561. 3. Nissen SE, et al. JAMA. 2016;315(15):1580-1590.
ISARIC WHOプロトコールを用いたCOVID-19入院患者のリスク層別化 4C死亡スコアの開発と検証
ISARIC WHOプロトコールを用いたCOVID-19入院患者のリスク層別化 4C死亡スコアの開発と検証
Risk stratification of patients admitted to hospital with covid-19 using the ISARIC WHO Clinical Characterisation Protocol: development and validation of the 4C Mortality Score BMJ. 2020 Sep 9;370:m3339. doi: 10.1136/bmj.m3339. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【目的】新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のため入院した患者の死亡率を予測する実用的なリスクスコアを開発し、検証すること。 【デザイン】前向き観察コホート研究。 【設定】英イングランド、スコットランドおよびウェールズの病院260施設で実施された国際重症急性呼吸器・新興感染症コンソーシアム(ISARIC)世界保健機関(WHO)臨床的特徴プロトコールUK(CCP-UK)試験(ISARICコロナウイルス臨床的特徴評価コンソーシアム[ISARIC-4C]が実施)。2020年2月6日から同年5月20日の間に登録した患者コホートでモデルを訓練し、2020年5月21日から同年6月29日の間に登録した2つ目のコホートで検証した。 【参加者】最終データ抽出の4週間以上前にCOVID-19のため入院した18歳以上の患者。 【主要評価項目】院内死亡。 【結果】3万5463例(死亡率32.2%)を派生データ、2万2361例(死亡率30.1%)を検証データとした。最終的な4C死亡スコアには、病院での初期評価で容易に得られる8項目(年齢、性別、併存疾患数、呼吸数、末梢酸素飽和度、意識レベル、尿素値およびC反応性タンパク)を用いた(スコア0~21点)。4Cスコアは、死亡の識別能が高く(派生コホート:ROC曲線下面積0.79、95%CI 0.78~0.79;検証コホート:同0.77、0.76~0.77)、較正も良好であった(検証コホートのcalibration-in-the-large:0、calibration-slope:1.0)。スコア15点以上の患者(4158例、19%)の死亡率が62%(陽性的中率62%)であったのに対して、スコア3点以下の患者(1650例、7%)の死亡率は1%(陰性的中率99%)であった。識別能は、既存の15種類のリスク層別化スコア(ROC曲線下面積0.61~0.76)よりも高く、COVID-19コホートで開発した他のスコアも識別能が低いものが多かった(範囲0.63~0.73)。 【結論】簡便なリスク層別化スコアを開発し、通常の病院受診時に得られる変数に基づいて検証した。4C死亡スコアは既存のスコアより優れており、臨床上の意思決定に直ちに応用できる有用性が示され、COVID-19入院患者を各管理グループに層別化するのに用いることができる。このスコアをさらに詳細に検証し、他の集団にも応用できるか明らかにする必要がある。 第一人者の医師による解説 一定の外的妥当性はあるが 異なる医療環境での適用は慎重に 加藤 康幸 国際医療福祉大学成田病院感染症科部長 MMJ. August 2021;17(4):106 2019年末以来、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は世界中の国や地域が直面している公衆衛生上の緊急事態である。患者に対する医療はパンデミックにおける社会安定の基盤であり、限られた医療資源を多数の患者に有効に配分するため、臨床判断に役立つ予後予測ツールが求められてきた。 英国(北アイルランドを除く)の260病院が参加した本研究では、2020年2月6日~5月20日に入院したCOVID-19の成人患者35,463人(院内死亡率32.2%)について、事前に設計されたプロトコール(ISARIC-4C)に従って収集された41項目の情報が調査された。機械学習の手法を取り入れた解析により、入院時の8変数(年齢、性別、併存症 の 数、呼吸数、末梢血酸素飽和度、意識状態[Glasgow Coma Scaleスコア]、尿素窒素値、C反応性蛋白値)が死亡リスク関連因子として抽出された。連続変数にはカットオフ値を設けて、実用的な予後予測スコアが開発された(The 4C Mortality Score:0~21点)。 これを2020年5月21日~6月29日に入院し た 成人患者22,361人(院内死亡率30.1 %)を対象に検証したところ、ROC(受信者動作特性曲線)下面積は0.79(95 % 信頼区間 , 0.78~0.79)と良好な値を示した。スコア15点以上の院内死亡率は62%であったが、3点以下では1%であった。予測パフォーマンスは、市中肺炎や敗血症、COVID-19に関する既存の予後予測スコア(SOFA(*)、CURB65、A-DROPなど15種類)より優れていた。 COVID-19に対する有効な薬物療法は現時点で限られるため、医療環境や変異株の出現により、入院患者の予後が大きく左右される可能性がある。このため、本スコアを異なる国や地域、流行時期に単純に当てはめることには慎重であるべきであろう。しかし、すでにフランスやイタリアなどにおいて、本スコアの有用性が報告されていることから、一定の外的妥当性があると考えられる。 研究を主導したInternational Severe Acute Respiratory Infection Consortium(ISARIC)は2009パンデミックインフルエンザの経験を踏まえて、新興感染症の臨床的課題に取り組むことを目的に英国で設立された団体である。大規模な症例数を迅速に解析した本研究には、優れたビジョンと長年の準備があったことに学ぶべきことは多い。 *sequential organ failure assessment
原発性高シュウ酸尿症1型に用いるRNAi治療薬lumasiran
原発性高シュウ酸尿症1型に用いるRNAi治療薬lumasiran
Lumasiran, an RNAi Therapeutic for Primary Hyperoxaluria Type 1 N Engl J Med. 2021 Apr 1;384(13):1216-1226. doi: 10.1056/NEJMoa2021712. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】原発性高シュウ酸尿症1型(PH1)は、肝臓でシュウ酸が過剰に産生されることによって生じるまれな遺伝性疾患であり、腎結石や腎石灰化症、腎不全、全身性シュウ酸症を引き起こす。開発中のRNA干渉(RNAi)治療薬、lumasiranは、グリコール酸オキシダーゼを標的として肝臓でのシュウ酸の産生を抑制する。 【方法】この第III相二重盲検試験では、6歳以上のPH1患者をlumasiran群とプラセボ群に(2対1の割合で)割り付け、6カ月間皮下投与した(ベースラインと1、2、3、6カ月時に投与)。主要評価項目は、ベースラインから6カ月時までの24時間尿中シュウ酸排泄量の変化率(3~6カ月時までの平均変化率)とした。ベースラインから6カ月時までの血漿中シュウ酸値の変化率(3~6カ月時までの平均変化率)と6カ月時に24時間尿中シュウ酸排泄量が正常範囲上限の1.5倍以下であった患者の割合を副次評価項目とした。 【結果】計39例を無作為化し、26例をlumasiran群、13例をプラセボ群に割り付けた。24時間尿中シュウ酸排泄量の変化率の最小二乗平均差(lumasiran-プラセボ)は-53.5%ポイントであり(P<0.001)、lumasiran群では65.4%低下し、1カ月時に効果が認められた。階層的に検討した全副次評価項目の群間差は有意であった。血漿中シュウ酸値の変化率の差(lumasiran-プラセボ)は-39.5%ポイントであった(P<0.001)。6カ月時の24時間尿中シュウ酸排泄量が正常範囲上限の1.5倍以下であった患者の割合は、lumasiran群84%、プラセボ群0%であった(P<0.001)。lumasiran群の38%に軽度かつ一過性の注射部位反応が報告された。 【結論】lumasiranは、PH1の進行性腎不全の原因となる尿中シュウ酸排泄を抑制した。lumasiranを投与した患者の大多数は、6カ月間の治療後に正常値または正常値に近い値を示した。 第一人者の医師による解説 臓器移植に代わるPH1患者の革新的根治治療薬 他の希少疾患でのRNAi治療薬の開発を期待 笠原 群生 国立成育医療研究センター臓器移植センター長・副院長 MMJ. August 2021;17(4):125 高シュウ酸尿症1型(PH1)は常染色体劣性遺伝疾患で、肝臓のペルオキシソームに局在するアラニン・グリオキシル酸アミノトランスフェラーゼ(AGT)の欠損により、シュウ酸が過剰に産生される疾患である。過剰なシュウ酸はシュウ酸カルシウムとなり、腎結石・腎不全・全身のシュウ酸カルシウム沈着(皮膚、骨、網膜、心血管など)をきたす予後不良の疾患である。発症頻度は10万人に1人~100万人に1人の希少疾患である。小児期に腎結石で発症する患者が多いが、診断が困難で43%の患者が腎不全となってから診断され、14%が15.5歳(中央値)で死亡すると報告されている(1)。根治手術には肝移植が有効であるが、併存する進行性の腎不全により肝腎同時移植が必要な患者もある。 ルマシランはRNA干渉治療薬でAGT上流にあるグリコール酸オキシダーゼをエンコードするmRNAを阻害することで、肝臓でのシュウ酸産生を抑制する。今回の研究は、6歳以上で慢性腎臓病(CKD)ステージ 3以下の遺伝子診断されたPH1患者にルマシランを6カ月間使用し、皮下(3mg/kgを最初の1 ~ 3カ月は月1回、その後3カ月ごとに1回)投与群(26人)とプラセボ群(13人)に割り付け比較検討する、無作為化二重盲検第3相試験として実施された。ルマシラン投与群で推定糸球体濾過量(eGFR)に変化を認めなかったが、24時間尿中シュウ酸排泄量および血漿シュウ酸濃度で有意な低下を認めた。腎結石症状もルマシラン投与群で減少した。ルマシラン投与による主な有害事象は皮下注射部位の発赤・痛み・掻痒感であったが、一過性であった。ルマシランはPH1患者に安全に投与可能で、尿中シュウ酸排泄量を正常値近くまで減少することが可能であった。 PH1患者にはビタミン B6内服や水分摂取などの治療法が試みられてきたが、進行性の腎障害、腎不全、骨病変、眼病変、心機能不全を認めることがあり、肝移植や肝腎移植が適用されてきた。ルマシランは臓器移植に代わるPH1患者の革新的な根治治療薬になりえ、希少疾患患者のアンメット・メディカル・ニーズに応える薬剤である。今後他の希少疾患でRNAi治療薬の基礎的研究・臨床応用が期待される。 1. Mandrile G, et al. Kidney Int. 2014;86(6):1197-1204.
非アルコール性脂肪肝炎に用いるセマグルチド皮下投与のプラセボ対照試験
非アルコール性脂肪肝炎に用いるセマグルチド皮下投与のプラセボ対照試験
A Placebo-Controlled Trial of Subcutaneous Semaglutide in Nonalcoholic Steatohepatitis N Engl J Med. 2021 Mar 25;384(12):1113-1124. doi: 10.1056/NEJMoa2028395. Epub 2020 Nov 13. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】非アルコール性脂肪肝炎(NASH)はよく見られる疾患であり、合併症率と死亡率が上昇するが、治療選択肢が少ない。NASHに用いるグルカゴン様ペプチド1(GLP-1)受容体作動薬セマグルチドの有効性と安全性は不明である。 【方法】生検でNASHが確定した肝線維化分類F1、F2またはF3の患者を対象に、72週間の第II相二重盲検試験を実施した。患者をセマグルチド0.1mg、0.2mg、0.4mgを1日1回皮下投与するグループと対応するプラセボを投与するグループに3対3対3対1対1対1の割合で割り付けた。主要評価項目は、肝線維化の増悪がないNASHの消失とした。検証的副次的評価項目は、NASHの増悪がない1段階以上の肝線維化分類改善とした。この評価項目の解析は肝線維化分類がF2またはF3の患者のみを対象とし、その他の解析は全例を対象に実施した。 【結果】計320例(このうち230例が肝線維化分類F2またはF3)をセマグルチド0.1 mg群(80例)、同0.2mg群(78例)、同0.4mg群(82例)、プラセボ群(80例)に割り付けた。肝線維化の増悪を伴わずNASHが消失した患者の割合は、0.1mg群40%、0.2mg群36%、0.4mg群59%、プラセボ群17%であった(プラセボと比較したセマグルチド0.4mgのP<0.001)。0.4mg群の43%とプラセボ群の33%に肝線維化分類の改善が認められた(P=0.48)。平均体重減少率は、0.4mg群で13%、プラセボ群1%であった。悪心、便秘、嘔吐の発現率は、0.4mg群の方がプラセボ群よりも高かった(悪心42% vs. 11%、便秘22% vs. 12%、嘔吐15% vs. 2%)。セマグルチドを投与した患者3例(1%)に悪性新生物が報告されたが、プラセボを投与した患者では1例も報告されなかった。全体で、セマグルチド群の15%とプラセボ群の8%に新生物(良性、悪性または不明)が報告されたが、特定の臓器に発現するパターンは認められなかった。 【結論】NASH患者を対象とした第II相試験では、セマグルチド群で、プラセボ群と比較してNASHが消失した患者の割合が有意に高かった。しかし、線維化分類が改善した患者の割合に群間差は認められなかった。 第一人者の医師による解説 全身疾患を踏まえたNAFLD治療 ─木も見て森も見る─ 芥田 憲夫 虎の門病院肝臓内科医長 MMJ. August 2021;17(4):118 非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)はメタボリックシンドローム関連因子とともに脂肪肝を認めた病態である。その中でも進行性で肝硬変や肝がんの発症母地ともなる非アルコール性脂肪肝炎(NASH)の日本における患者数は400万人前後とされる。3大死因は、心血管疾患(CVD)、肝がん以外の悪性新生物、次いで肝不全や肝がんを含む肝関連事象であり、これらは肝臓の線維化進行に伴いリスクが上昇するとされる(1)。これまでNASHの肝線維化改善を目指した臨床試験が多数行われてきたが、現時点で既承認薬はない。 本論文は、病理所見に基くNASHの消失を指標としてグルカゴン様ペプチド(GLP)-1受容体作動薬のセマグルチド1日1回皮下投与の効果をプラセボと比較した第2相試験の報告である。糖尿病のない患者も30%台で含まれ、セマグルチドは0.1、0.2、0.4mg/日の3群とし72週時点の肝組織改善を評価している。主要評価項目は線維化ステージ2か3の進行例における肝線維化の悪化を伴わないNASHの消失(炎症改善)、副次評価項目はNASH悪化を伴わない肝線維化の改善としている。その結果、主要評価項目はセマグルチド 0.4mg群が59%で、プラセボ群の17%と比較して有意に高かった。一方、副次評価項目はセマグルチド0.4mg群が43%で、プラセボ群の33%と比較し有意差はなかった。有害事象はセマグルチド群において胃腸障害が多かった。今回の結果に基づき、第3相試験に進んでいる。ここで留意すべき点は、NASHは肝臓だけの疾患ではなく、主な死因はCVDということである。さらに、NASHの肝線維化は生命予後に影響する重要な要因であるが、線維化の改善を主要評価項目に据えてきた多数の臨床試験が成功しなかった経緯を考えると、主要評価項目を肝線維化を惹起する炎症の改善へとシフトするような柔軟な対応も必要となる。以上の問題点を解決することが期待されるのがセマグルチドであろう。実際、今回の試験の主要評価項目は炎症改善に焦点を当てている。また、GLP-1受容体作動薬はすでに大規模臨床試験でCVDを抑制する高いエビデンスが示されているため肝関連事象のみならずCVD抑制も期待される(2)。さらに、糖尿病に限定せず開発が行われていることも重要である。最後に、NAFLDは「木(肝臓)を見て森(全身)を見ず」の診療を行っていては本質的な生命予後改善にはつながらない。これからは「木も見て森も見る」、まさに全身臓器をターゲットとすべき疾患であることを踏まえた新薬開発を行う必要がある。 1. Angulo P, et al. Gastroenterology. 2015;149(2):389-97.e10. 2. Marso SP, et al. N Engl J Med. 2016;375(4):311-322.
COVID-19入院患者のCOVID後遺症 後ろ向きコホート研究
COVID-19入院患者のCOVID後遺症 後ろ向きコホート研究
Post-covid syndrome in individuals admitted to hospital with covid-19: retrospective cohort study BMJ. 2021 Mar 31;372:n693. doi: 10.1136/bmj.n693. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【目的】COVID-19患者の退院後に見られる臓器別障害の割合を、マッチさせた一般集団対照群と比較して定量化すること。 【デザイン】後ろ向きコホート研究。 【設定】英国のNHS病院。 【参加者】COVID-19のため入院し、2020年8月31日までに生存退院した患者4万7780例(平均年齢65歳、男性55%)と、英国内約5000万人の10年間の電子健康記録を元に患者背景と臨床像を正確にマッチさせて抽出した対照群。 【主要評価項目】2020年9月30日までの再入院率(対照群はあらゆる原因による入院)、全死因死亡率、呼吸器疾患、心血管疾患、代謝疾患、腎疾患および肝疾患の診断率。年齢、性別、民族別の率比のばらつき。 【結果】平均追跡期間140日間の間に、急性COVID-19を発症し退院した患者の約3分の1(4万7780例中1万4060例)が再入院し、1割以上(5875例)が退院後に死亡し、マッチさせた対照群と比べると再入院比率が4倍、退院後死亡比率は8倍であった。COVID-19退院患者ではこのほか、呼吸器疾患(P<0.001)、糖尿病(P<0.001)、心血管疾患(P<0.001)の割合が有意に高く、1000人・年当たりでそれぞれ770(95%CI 758~783)、127(同122~132)、126(同121~131)であった。70歳未満の方が70歳以上より、少数民族の方が白人集団よりも率比が高く、呼吸器疾患で最も大きな差が見られた(70歳未満10.5[同9.7~11.4] vs. 70歳以上4.6[同4.3~4.8]、非白人11.4[同9.8~13.3] vs. 白人5.2[5.0~5.5])。 【結論】COVID-19退院患者は、一般集団で予想されるリスクよりも多臓器不全の発生率が高かった。リスクの上昇は高齢者に限らず、民族間でもばらつきがあった。COVID-19後遺症の診断、治療および予防には、臓器や疾患に特化したものよりも統合的なアプローチを要し、危険因子を明らかにするため早急な研究が必要とされる。 第一人者の医師による解説 心臓では高感度トロポニン、MRIなどによる評価と経過観察が望まれる 廣井 透雄 国立国際医療研究センター病院循環器内科 循環器内科診療科長 MMJ. August 2021;17(4):107 英国では新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に6月14日時点でおよそ460万人が感染、およそ47万人が入院し、約12.8万人が死亡した。院内死亡率は30%と高率であった。ワクチン接種の普及(1回接種率78.9%、2回接種率56.6%)により、新規感染者、死亡者は大きく減少した一方で、“long covid”、“post-covid syndrome”として知られる後遺症が問題となってきた。 今回の英国における後ろ向きコホート研究の報告によると、COVID-19で2020年8月末までに入院し生存退院した平均年齢64.5歳、男性54.9%の47,780人は、一般人口と比較し、男性、50歳以上、貧困地域在住、喫煙歴、肥満または過体重が多く、併存疾患が多い傾向にあった。過去10年の医療記録の50万人から条件(年齢、性別、人種、貧困指数、喫煙、体格指数[BMI]、併存疾患)をマッチさせた対照群との間で、2020年9月末までの再入院率(対照群では全入院)、全死亡率、呼吸器、主要循環器疾患(MACE:心不全、心筋梗塞、脳卒中、不整脈)、糖尿病、慢性腎臓病(ステージ 3~5、透析、腎移植)、慢性肝疾患の診断数を比較検討した。 平均観察期間140日(標準偏差 50日)で、5,875人(12.3%、320.0/1,000人・年)が退院後に死亡、14,060人(29.4%、766.0 /1,000 人・年)が再入院した。対照群ではそれぞれ830人(1.7%、41.3/1,000人・年)、4,385人(9.2%、218.9/1,000人・年)で、COVID-19患者のリスクは7.7、3.5倍であった。退院後に呼吸器疾患を診断された14,140人(29.6%、770.5/1,000人・年)のうち、新規診断 は6,085人(12.7%、538.9/1,000人・年)で、COVID-19患者のリスクはそれぞれ6.0、27.3倍であった。退院後に糖尿病 2,330人(4.9%、126.9/1,000人・年)、MACE 2,315人(4.8%、126.1/1,000人・年)、慢性腎臓病710人(1.5%、38.7/1,000人・年)、慢性肝疾患135人(0.3%、7.2/1,000人・年)と診断され、対照群と比較したリスクはそれぞれ1.5、3.0、1.9、2.8倍であった。すべてのアウトカムは70歳以上が70歳未満より多く、死亡は14.1倍、呼吸器疾患は10.5倍であった。糖尿病以外のアウトカムは非白人より白人で多く、呼吸器疾患は11.4倍であった。 COVIDで入院した米国退役軍人1,775人は、退院60日以内に20%が再入院し、9%が死亡し、本研究でも23%、9%と同様であった(1)。英国のリスクが低い201人でも、肺(33%)、心臓(32%)、腎臓(12%)、肝臓(10%)と障害が多臓器に及ぶ(2)。心臓では、高感度トロポニン、MRI、心エコーの長軸方向ストレイン(GLS)などによる評価と経過観察が望まれる(3)。 1. Donnelly JP, et al. JAMA. 2021;325(3):304-306. 2. Dennis A, et al. BMJ Open. 2021;11(3):e048391. 3. Puntmann VO, et al. JAMA Cardiol. 2020;5(11):1265-1273.
脊髄性筋萎縮症I型に用いるrisdiplam
脊髄性筋萎縮症I型に用いるrisdiplam
Risdiplam in Type 1 Spinal Muscular Atrophy N Engl J Med. 2021 Mar 11;384(10):915-923. doi: 10.1056/NEJMoa2009965. Epub 2021 Feb 24. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】脊髄性筋萎縮症I型は、機能性生存運動ニューロン(SMN)タンパク低値によって生じるまれな進行性神経筋疾患である。risdiplamは、SMN2のRNA前駆体スプライシングを修飾し、機能性SMNタンパク値を上昇させる経口投与可能な小分子である。 【方法】支えなしで座位が保持できない1-7カ月齢の脊髄性筋萎縮症I型乳児を対象にrisdiplamを検討した、2段階から成る第II/III相非盲検試験のパート1の結果を報告する。主要評価項目は、安全性、薬物動態、薬力学(血中SMNをタンパク濃度など)およびパート2で用いるrisdiplamの用量決定とした。5秒間以上の支えなしでの座位保持能を探索的評価項目とした。 【結果】乳児計21例を組み入れた。4例を低用量群とし、12カ月時の最終用量を1日当たり0.08mg/kgとした。17例を高用量群とし、12カ月時の最終用量を1日当たり0.2mg/kgとした。ベースラインの血中SMNタンパク濃度中央値は低用量群1.31ng/mL、高用量群2.54ng/mLであり、12カ月時に中央値はそれぞれ3.05ng/mL、5.66ng/mLまで増加し、ベースラインの中央値のそれぞれ3.0倍、1.9倍となった。重篤な有害事象に肺炎、気道感染、急性呼吸不全があった。本稿発表時点では、4例が呼吸器合併症のため死亡している。高用量群の7例が支えなしで5秒間以上座位が保持できたが、低用量群では1例も認められなかった。試験のパート2に用いる用量には高用量(1日当たり0.2mg/kg)を用いることが決定した。 【結論】脊髄性筋萎縮症I型乳児で、経口risdiplamを用いた治療によって血中機能性SMNタンパク発現量が増加した。 第一人者の医師による解説 リスジプラムは全身に作用 有効性と安全性の追加検証を期待 佐橋 健太郎 名古屋大学医学部附属病院脳神経内科講師/勝野 雅央 名古屋大学大学院医学研究科神経内科学教授 MMJ. August 2021;17(4):111 脊髄性筋萎縮症(SMA)は主にSMN1遺伝子欠失変異によるSMN蛋白欠乏により、脳幹や脊髄の下位運動ニューロン変性に伴う、進行性筋力低下、筋萎縮をきたす予後不良の遺伝性疾患である。SMA最多の重症の1型は6カ月齢までに発症し、座位保持能を獲得できず、呼吸筋麻痺により寿命は中央値10.5カ月(1)とされる。ヒトはSMN1重複遺伝子であるSMN2を有するが、mRNA前駆体のエクソン 7の選択的スプライシングによりSMN2からは機能性 SMN蛋白が十分に産生されない。治療薬としては、核酸医薬ヌシネルセンや低分子化合物リスジプラムによるSMN2スプライシング制御治療や、組換えアデノウイルスベクター製剤オナセムノゲン アベパルボベクによるSMN遺伝子補充療法が開発されており、リスジプラムは全身に作用する特色がある。 本論文は、リスジプラム開発元 F. Hoffmann-La Roche社による研究支援のもと、1型 SMN乳児21人(中央値6.7カ月齢:他試験より経過が長い例(2),(3))を対象に実施されたリスジプラム第2/3相非盲検単一群試験(FIREFISH試験)のパート 1の報告である。主要評価項目は安全性、薬物動態、薬力学と、パート 2のための投与量選択とし、また事後分析による探索的評価項目として、永続的な呼吸補助の必要のない無イベント生存、支持なしで5秒以上の座位保持能 (BSID-Ⅲの第22項)、CHOPINTENDとHINE-2運動機能スコアなどが設定された。その結果、12カ月の観察期間で低用量、高用量コホートともに血漿 SMN蛋白上昇が示されたが(それぞれベースライン値の3.0、1.9倍)、個人内の測定値のばらつきが問題として挙げられた。全体21人中19人で無イベント生存、高用量コホート 7人で座位保持能獲得が確認され、また自然歴ではほぼ観察されない運動機能スコアの改善が特に高用量コホートでみられている。一方、重篤な有害事象として肺炎、気道感染がみられた。死亡例の原因は呼吸器合併症であり、SMAに伴う呼吸不全と分類されているが、多くが高用量コホートであり、薬剤関連性の可能性除外も必要と考えられる。最終的にパート 2では高用量のリスジプラム使用が支持されており、さらにリアルワールド設定に近い2?25歳の、重症度の下がる2/3型対象のプラセ ボ 対照二重盲検第2/3相試験(SUNFISH試験:NCT02908685)も進行中であり、リスジプラムの有効性と安全性についての追加検証が待たれる。 略 号:BSID- Ⅲ(Bayley Scales of Infant and Toddler Development, third edition)、CHOP-INTEND (Children's Hospital of Philadelphia Infant Test of Neuromuscular Disorders)、HINE-2(Hammersmith Infant Neuromuscular Examination) Finkel RS, et al. Neurology. 2014;83(9):810-817. Finkel RS, et al. N Engl J Med. 2017;377(18):1723-1732. Mendell JR, et al. N Engl J Med. 2017;377(18):1713-1722.
変形性膝関節症に用いる段階的運動プログラム 無作為化比較試験
変形性膝関節症に用いる段階的運動プログラム 無作為化比較試験
Stepped Exercise Program for Patients With Knee Osteoarthritis : A Randomized Controlled Trial Ann Intern Med. 2021 Mar;174(3):298-307. doi: 10.7326/M20-4447. Epub 2020 Dec 29. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】変形性膝関節症の運動療法を患者のニーズに応じて効率良く提供するため、科学的根拠に基づいた枠組みが必要である。 【目的】変形性膝関節症患者に用いる段階的運動プログラム(STEP-KOA)を検討すること。 【デザイン】無作為化比較試験(ClinicalTrials.gov、NCT02653768)。 【設定】米国退役軍人省の2施設。 【参加者】症候性変形性膝関節症患者345例(平均年齢60歳、女性15%、有色人種67%)。 【介入】参加者をSTEP-KOA群または対照の関節炎に関する教育(AE)群に2対1の割合で無作為化した。STEP-KOA群では、3カ月間のオンラインの運動プログラム(第1段階)を開始した。第1段階終了時に疼痛および機能改善に関する治療成績の判定基準を満たさなかった参加者が第2段階へと移行し、2週間に1回、3カ月間にわたって電話で運動に関するコーチングを受けた。第2段階終了時に治療成績の判定基準を満たさなかった患者は、来院して対面理学療法を受ける第3段階へと移行した。AE群には2週間に1回、教材を郵送した。 【評価項目】Western Ontario and McMaster Universities Osteoarthritis Index(WOMAC)スコアで主要評価項目を評価した。線形混合モデルを用いて、9カ月時のSTEP-KOA群およびAE群のスコアを比較した。 【結果】STEP-KOA群では、65%(230例中150例)が第2段階へ、35%(230例中81例)が第3段階へ進んだ。全対象者の試験開始時の推定WOMACスコアは47.5点(95%CI 45.7-49.2)であった。9カ月の追跡調査時、推定WOMAC平均スコアは、STEP-KOA群の方がAE群より6.8点(同-10.5--3.2点)低く、改善度が大きいことが示された。 【欠点】参加者のほとんどが男性退役軍人であった点、追跡調査が短かった点。 【結論】STEP-KOAを実施した退役軍人に、対照群と比べて変形性膝関節症の症状が中等度の改善が見られた。変形性膝関節症の運動療法を実施する際、STEP-KOAは有効であると思われる。 第一人者の医師による解説 膝運動療法への関心向上のため 効果的戦略の開発にさらなる研究必要 佐々木 正 医療法人社団慶洋会ケイアイクリニック整形外科 MMJ. August 2021;17(4):122 変形性膝関節症(膝 OA)患者の大部分は運動不足であり、理学療法の使用率は大幅に低い。膝 OAに対する運動関連サービスを、患者のニーズに応じて効率的に提供するためにはエビデンスに基づいたモデルの作成が求められる。 本研究は、そのような背景の下、モデルとして、膝 OA患者に対する段階的運動プログラム(STEPKOA)についての調査を目的として行われた。参加者は米国退役軍人の母集団から選出された症候性膝 OA患者345人(平均年齢60歳、女性15%、有色67%)である。参加者は、STEP-KOAまたは膝関節教育(AE)対照群に割り付けられた。STEPKOAの介入は、インターネットベースの3カ月間の運動プログラムから開始(ステップ 1)。ステップ 1後の疼痛および機能の改善に関する応答基準を満たさなかった参加者は、2段階目の3カ月間の運動活動に進んだ(ステップ 2)。ステップ 2以降に応答基準を満たさなかった参加者は、対人理学療法の訪問に進んだ(ステップ 3)。AE群は2週間ごとにメールで教材を受け取った。STEP-KOA群の65%がステップ 2に、35%がステップ 3に進んだ。主要評価項目はWestern Ontario and McMaster Universities Osteoarthritis index(WOMAC)スコアで評価した。3、6カ月目の応答基準は、WOMACスコアで評価し、OMERACT-OARSIレスポンダー基準のセットを用いた( Outcome Measures in Rheumatology?Osteoarthritis Research Society International)。WOMACは世界的に用いられる膝 OAのQOL indexであるが、日本ではなじみが少ない。WOMACは、下肢の痛み(5項目)、こわばり(2項目)、機能(17項目)をリッカート尺度で評価する。 全サンプルのベースライン WOMACスコアは47.5であった。9カ月後の追跡調査では、STEPKOA群の推定平均 WOMACは、AE群に比べて6.8ポイント低く、緩やかな改善がみられた。結論として、STEP-KOA戦略は膝 OAの運動療法を提供するのに効率的である可能性がある。 本研究の対象集団には、参加者が退役軍人に限られる、男女比が膝 OAの一般的な男女比1:4と大差がある、平均年齢が低いという特徴があり、今回の結果から導かれる結論には限界がある。さらに、参加者のX線写真の評価が含まれていないため、重症度の判定は難しい。ネットベースの運動プログラムの内容の詳述がなく、ウエブのアクセスでは個人差が大きいことも問題である。 参加者の脱落率が25%と高く、参加者が介入に関心がなかった可能性があり、集計の信頼度が下がる。一般に、運動療法に対するモチベーションは高いとはいいがたい。効果的な戦略の開発にはさらなる研究が必要である。
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