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スタチン治療と筋症状 連続無作為化プラセボ対照N-of-1試験
スタチン治療と筋症状 連続無作為化プラセボ対照N-of-1試験
Statin treatment and muscle symptoms: series of randomised, placebo controlled n-of-1 trials BMJ. 2021 Feb 24;372:n135. doi: 10.1136/bmj.n135. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【目的】スタチン服用時に筋症状を経験した患者で、筋肉症状に対するスタチンの影響を明らかにすること。 【デザイン】連続した無作為化プラセボ対照N-of-1試験。 【設定】2016年12月から2018年4月の英国プライマリケア50施設。 【参加者】筋症状を理由にスタチン服用を中止して間もない患者およびスタチン服用中止を検討している患者計200例。 【介入】患者をアトルバスタチン1日1回20mg投与とプラセボに二重盲検化した連続する6つの治療期間(各2カ月)に割り付けた。 【主要評価項目】各治療期間終了時に被験者が視覚的アナログ尺度(0-10)で筋症状を評価した。主要解析では、スタチン投与期間中とプラセボ投与期間中の症状スコアを比較した。 【結果】スタチンとプラセボそれぞれ1期間以上の症状スコアを提出した患者151例を主要解析の対象とした。全体で、スタチン期間とプラセボ期間の筋症状スコアに差はなかった(スタチン-プラセボの平均差-0.11点、95%CI -0.36-0.14、P=0.40)。忍容できない筋症状による脱落は、スタチン期間で18例(9%)、プラセボ期間で13例(7%)だった。試験を完遂した患者の3分の2がスタチンによる長期治療の再開を報告した。 【結論】スタチン服用時の重度筋症状の経験を報告したことがある参加者で、アトルバスタチン20mg投与によるプラセボと比較した筋症状への全体的な影響は認められなかった。試験を完遂した参加者のほとんどが、スタチンによる治療の再開を希望した。N-of-1試験は集団単位で薬物の作用を評価でき、個人の治療の指針となる。 第一人者の医師による解説 ノセボ効果の見える化により、研究参加者の多くがスタチン再開 岡㟢 啓明 東京大学医学部附属病院糖尿病・代謝内科助教 MMJ. August 2021;17(4):116 クレアチンキナーゼ(CK)上昇を伴う筋炎や横紋筋融解症はスタチン投与に伴い一定の頻度で起きるものの、CK上昇を伴わない軽度な筋症状はスタチンで増えるのか? ノセボ効果(スタチンによって筋症状が増えるかもしれないとの懸念から、偶然の筋症状の原因をスタチンだと思ってしまう)のために、スタチン中止に至ることもあり、特に心血管リスクが高い場合などで、治療上のデメリットになる。 本論文は、スタチンによる筋症状の真偽に答えるべく実施されたN-of-1試験(StatinWISE)の報告である。N-of-1試験は患者内比較試験で、投与期間、プラセボ投与期間をランダムに複数回設定し、1人の患者内で実薬とプラセボの効果を比較、その結果をすべての患者(n)で集計する。本研究では、研究期間12カ月を2カ月 X6回に分け、アトルバスタチン20mgまたはプラセボをそれぞれ3回ずつランダムに割り付けた。対象者は、筋症状が理由でスタチンを中止したか、中止を検討している患者である(CK高値を伴う患者は除外)。なお、70%は心血管疾患既往を有し、スタチン投与が望ましい患者であった。 結果、スタチン vs.プラセボ投与期間の比較では患者評価の筋症状スコアに有意差はなかった。筋症状による投与中止の割合は、スタチン投与期間とプラセボ投与期間で有意差はみられなかった。また、試験終了後、患者に筋症状がスタチン、プラセボどちらの投与期間で起きたのかを知らせた結果、患者の3分の2は今後長期間にわたりスタチンを服用したいと答えた。 今回、CK上昇を伴う筋炎や横紋筋融解症以外の筋症状はスタチンにより有意に増加しているとは言えなかったが、この結果は、最近の他の試験でも裏付けられている(1ー3)。また、本試験では患者の多くがスタチン再開を希望したことから、筋症状が必ずしも薬によるものではないことをこのような方法で理解するのは有用と考えられる。スタチン不耐でスタチン再開を検討したい場合、N-of-1試験の方法は日常臨床にも応用できるのではないかと筆者らは推察している。 他のスタチンや別の用量でも同様な結果が得られるかは不明だが、スタチンによる筋症状が多くの場合ノセボ効果に由来することが示唆された。N-of-1試験デザインが日常臨床でも有用である可能性が示された点でも意義深い。しかし一方で、臨床的には、スタチンとの因果関係がやはり疑われるような、CK上昇を伴わない筋症状にも実際に遭遇する。そのようなケースにも十分注意しながら、本試験の結果を活用することが大切と思われる。 1. Wood FA, et al. N Engl J Med. 2020;383(22):2182-2184. 2. Moriarty PM, et al. J Clin Lipidol. 2014;8(6):554-561. 3. Nissen SE, et al. JAMA. 2016;315(15):1580-1590.
ISARIC WHOプロトコールを用いたCOVID-19入院患者のリスク層別化 4C死亡スコアの開発と検証
ISARIC WHOプロトコールを用いたCOVID-19入院患者のリスク層別化 4C死亡スコアの開発と検証
Risk stratification of patients admitted to hospital with covid-19 using the ISARIC WHO Clinical Characterisation Protocol: development and validation of the 4C Mortality Score BMJ. 2020 Sep 9;370:m3339. doi: 10.1136/bmj.m3339. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【目的】新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のため入院した患者の死亡率を予測する実用的なリスクスコアを開発し、検証すること。 【デザイン】前向き観察コホート研究。 【設定】英イングランド、スコットランドおよびウェールズの病院260施設で実施された国際重症急性呼吸器・新興感染症コンソーシアム(ISARIC)世界保健機関(WHO)臨床的特徴プロトコールUK(CCP-UK)試験(ISARICコロナウイルス臨床的特徴評価コンソーシアム[ISARIC-4C]が実施)。2020年2月6日から同年5月20日の間に登録した患者コホートでモデルを訓練し、2020年5月21日から同年6月29日の間に登録した2つ目のコホートで検証した。 【参加者】最終データ抽出の4週間以上前にCOVID-19のため入院した18歳以上の患者。 【主要評価項目】院内死亡。 【結果】3万5463例(死亡率32.2%)を派生データ、2万2361例(死亡率30.1%)を検証データとした。最終的な4C死亡スコアには、病院での初期評価で容易に得られる8項目(年齢、性別、併存疾患数、呼吸数、末梢酸素飽和度、意識レベル、尿素値およびC反応性タンパク)を用いた(スコア0~21点)。4Cスコアは、死亡の識別能が高く(派生コホート:ROC曲線下面積0.79、95%CI 0.78~0.79;検証コホート:同0.77、0.76~0.77)、較正も良好であった(検証コホートのcalibration-in-the-large:0、calibration-slope:1.0)。スコア15点以上の患者(4158例、19%)の死亡率が62%(陽性的中率62%)であったのに対して、スコア3点以下の患者(1650例、7%)の死亡率は1%(陰性的中率99%)であった。識別能は、既存の15種類のリスク層別化スコア(ROC曲線下面積0.61~0.76)よりも高く、COVID-19コホートで開発した他のスコアも識別能が低いものが多かった(範囲0.63~0.73)。 【結論】簡便なリスク層別化スコアを開発し、通常の病院受診時に得られる変数に基づいて検証した。4C死亡スコアは既存のスコアより優れており、臨床上の意思決定に直ちに応用できる有用性が示され、COVID-19入院患者を各管理グループに層別化するのに用いることができる。このスコアをさらに詳細に検証し、他の集団にも応用できるか明らかにする必要がある。 第一人者の医師による解説 一定の外的妥当性はあるが 異なる医療環境での適用は慎重に 加藤 康幸 国際医療福祉大学成田病院感染症科部長 MMJ. August 2021;17(4):106 2019年末以来、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は世界中の国や地域が直面している公衆衛生上の緊急事態である。患者に対する医療はパンデミックにおける社会安定の基盤であり、限られた医療資源を多数の患者に有効に配分するため、臨床判断に役立つ予後予測ツールが求められてきた。 英国(北アイルランドを除く)の260病院が参加した本研究では、2020年2月6日~5月20日に入院したCOVID-19の成人患者35,463人(院内死亡率32.2%)について、事前に設計されたプロトコール(ISARIC-4C)に従って収集された41項目の情報が調査された。機械学習の手法を取り入れた解析により、入院時の8変数(年齢、性別、併存症 の 数、呼吸数、末梢血酸素飽和度、意識状態[Glasgow Coma Scaleスコア]、尿素窒素値、C反応性蛋白値)が死亡リスク関連因子として抽出された。連続変数にはカットオフ値を設けて、実用的な予後予測スコアが開発された(The 4C Mortality Score:0~21点)。 これを2020年5月21日~6月29日に入院し た 成人患者22,361人(院内死亡率30.1 %)を対象に検証したところ、ROC(受信者動作特性曲線)下面積は0.79(95 % 信頼区間 , 0.78~0.79)と良好な値を示した。スコア15点以上の院内死亡率は62%であったが、3点以下では1%であった。予測パフォーマンスは、市中肺炎や敗血症、COVID-19に関する既存の予後予測スコア(SOFA(*)、CURB65、A-DROPなど15種類)より優れていた。 COVID-19に対する有効な薬物療法は現時点で限られるため、医療環境や変異株の出現により、入院患者の予後が大きく左右される可能性がある。このため、本スコアを異なる国や地域、流行時期に単純に当てはめることには慎重であるべきであろう。しかし、すでにフランスやイタリアなどにおいて、本スコアの有用性が報告されていることから、一定の外的妥当性があると考えられる。 研究を主導したInternational Severe Acute Respiratory Infection Consortium(ISARIC)は2009パンデミックインフルエンザの経験を踏まえて、新興感染症の臨床的課題に取り組むことを目的に英国で設立された団体である。大規模な症例数を迅速に解析した本研究には、優れたビジョンと長年の準備があったことに学ぶべきことは多い。 *sequential organ failure assessment
原発性高シュウ酸尿症1型に用いるRNAi治療薬lumasiran
原発性高シュウ酸尿症1型に用いるRNAi治療薬lumasiran
Lumasiran, an RNAi Therapeutic for Primary Hyperoxaluria Type 1 N Engl J Med. 2021 Apr 1;384(13):1216-1226. doi: 10.1056/NEJMoa2021712. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】原発性高シュウ酸尿症1型(PH1)は、肝臓でシュウ酸が過剰に産生されることによって生じるまれな遺伝性疾患であり、腎結石や腎石灰化症、腎不全、全身性シュウ酸症を引き起こす。開発中のRNA干渉(RNAi)治療薬、lumasiranは、グリコール酸オキシダーゼを標的として肝臓でのシュウ酸の産生を抑制する。 【方法】この第III相二重盲検試験では、6歳以上のPH1患者をlumasiran群とプラセボ群に(2対1の割合で)割り付け、6カ月間皮下投与した(ベースラインと1、2、3、6カ月時に投与)。主要評価項目は、ベースラインから6カ月時までの24時間尿中シュウ酸排泄量の変化率(3~6カ月時までの平均変化率)とした。ベースラインから6カ月時までの血漿中シュウ酸値の変化率(3~6カ月時までの平均変化率)と6カ月時に24時間尿中シュウ酸排泄量が正常範囲上限の1.5倍以下であった患者の割合を副次評価項目とした。 【結果】計39例を無作為化し、26例をlumasiran群、13例をプラセボ群に割り付けた。24時間尿中シュウ酸排泄量の変化率の最小二乗平均差(lumasiran-プラセボ)は-53.5%ポイントであり(P<0.001)、lumasiran群では65.4%低下し、1カ月時に効果が認められた。階層的に検討した全副次評価項目の群間差は有意であった。血漿中シュウ酸値の変化率の差(lumasiran-プラセボ)は-39.5%ポイントであった(P<0.001)。6カ月時の24時間尿中シュウ酸排泄量が正常範囲上限の1.5倍以下であった患者の割合は、lumasiran群84%、プラセボ群0%であった(P<0.001)。lumasiran群の38%に軽度かつ一過性の注射部位反応が報告された。 【結論】lumasiranは、PH1の進行性腎不全の原因となる尿中シュウ酸排泄を抑制した。lumasiranを投与した患者の大多数は、6カ月間の治療後に正常値または正常値に近い値を示した。 第一人者の医師による解説 臓器移植に代わるPH1患者の革新的根治治療薬 他の希少疾患でのRNAi治療薬の開発を期待 笠原 群生 国立成育医療研究センター臓器移植センター長・副院長 MMJ. August 2021;17(4):125 高シュウ酸尿症1型(PH1)は常染色体劣性遺伝疾患で、肝臓のペルオキシソームに局在するアラニン・グリオキシル酸アミノトランスフェラーゼ(AGT)の欠損により、シュウ酸が過剰に産生される疾患である。過剰なシュウ酸はシュウ酸カルシウムとなり、腎結石・腎不全・全身のシュウ酸カルシウム沈着(皮膚、骨、網膜、心血管など)をきたす予後不良の疾患である。発症頻度は10万人に1人~100万人に1人の希少疾患である。小児期に腎結石で発症する患者が多いが、診断が困難で43%の患者が腎不全となってから診断され、14%が15.5歳(中央値)で死亡すると報告されている(1)。根治手術には肝移植が有効であるが、併存する進行性の腎不全により肝腎同時移植が必要な患者もある。 ルマシランはRNA干渉治療薬でAGT上流にあるグリコール酸オキシダーゼをエンコードするmRNAを阻害することで、肝臓でのシュウ酸産生を抑制する。今回の研究は、6歳以上で慢性腎臓病(CKD)ステージ 3以下の遺伝子診断されたPH1患者にルマシランを6カ月間使用し、皮下(3mg/kgを最初の1 ~ 3カ月は月1回、その後3カ月ごとに1回)投与群(26人)とプラセボ群(13人)に割り付け比較検討する、無作為化二重盲検第3相試験として実施された。ルマシラン投与群で推定糸球体濾過量(eGFR)に変化を認めなかったが、24時間尿中シュウ酸排泄量および血漿シュウ酸濃度で有意な低下を認めた。腎結石症状もルマシラン投与群で減少した。ルマシラン投与による主な有害事象は皮下注射部位の発赤・痛み・掻痒感であったが、一過性であった。ルマシランはPH1患者に安全に投与可能で、尿中シュウ酸排泄量を正常値近くまで減少することが可能であった。 PH1患者にはビタミン B6内服や水分摂取などの治療法が試みられてきたが、進行性の腎障害、腎不全、骨病変、眼病変、心機能不全を認めることがあり、肝移植や肝腎移植が適用されてきた。ルマシランは臓器移植に代わるPH1患者の革新的な根治治療薬になりえ、希少疾患患者のアンメット・メディカル・ニーズに応える薬剤である。今後他の希少疾患でRNAi治療薬の基礎的研究・臨床応用が期待される。 1. Mandrile G, et al. Kidney Int. 2014;86(6):1197-1204.
非アルコール性脂肪肝炎に用いるセマグルチド皮下投与のプラセボ対照試験
非アルコール性脂肪肝炎に用いるセマグルチド皮下投与のプラセボ対照試験
A Placebo-Controlled Trial of Subcutaneous Semaglutide in Nonalcoholic Steatohepatitis N Engl J Med. 2021 Mar 25;384(12):1113-1124. doi: 10.1056/NEJMoa2028395. Epub 2020 Nov 13. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】非アルコール性脂肪肝炎(NASH)はよく見られる疾患であり、合併症率と死亡率が上昇するが、治療選択肢が少ない。NASHに用いるグルカゴン様ペプチド1(GLP-1)受容体作動薬セマグルチドの有効性と安全性は不明である。 【方法】生検でNASHが確定した肝線維化分類F1、F2またはF3の患者を対象に、72週間の第II相二重盲検試験を実施した。患者をセマグルチド0.1mg、0.2mg、0.4mgを1日1回皮下投与するグループと対応するプラセボを投与するグループに3対3対3対1対1対1の割合で割り付けた。主要評価項目は、肝線維化の増悪がないNASHの消失とした。検証的副次的評価項目は、NASHの増悪がない1段階以上の肝線維化分類改善とした。この評価項目の解析は肝線維化分類がF2またはF3の患者のみを対象とし、その他の解析は全例を対象に実施した。 【結果】計320例(このうち230例が肝線維化分類F2またはF3)をセマグルチド0.1 mg群(80例)、同0.2mg群(78例)、同0.4mg群(82例)、プラセボ群(80例)に割り付けた。肝線維化の増悪を伴わずNASHが消失した患者の割合は、0.1mg群40%、0.2mg群36%、0.4mg群59%、プラセボ群17%であった(プラセボと比較したセマグルチド0.4mgのP<0.001)。0.4mg群の43%とプラセボ群の33%に肝線維化分類の改善が認められた(P=0.48)。平均体重減少率は、0.4mg群で13%、プラセボ群1%であった。悪心、便秘、嘔吐の発現率は、0.4mg群の方がプラセボ群よりも高かった(悪心42% vs. 11%、便秘22% vs. 12%、嘔吐15% vs. 2%)。セマグルチドを投与した患者3例(1%)に悪性新生物が報告されたが、プラセボを投与した患者では1例も報告されなかった。全体で、セマグルチド群の15%とプラセボ群の8%に新生物(良性、悪性または不明)が報告されたが、特定の臓器に発現するパターンは認められなかった。 【結論】NASH患者を対象とした第II相試験では、セマグルチド群で、プラセボ群と比較してNASHが消失した患者の割合が有意に高かった。しかし、線維化分類が改善した患者の割合に群間差は認められなかった。 第一人者の医師による解説 全身疾患を踏まえたNAFLD治療 ─木も見て森も見る─ 芥田 憲夫 虎の門病院肝臓内科医長 MMJ. August 2021;17(4):118 非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)はメタボリックシンドローム関連因子とともに脂肪肝を認めた病態である。その中でも進行性で肝硬変や肝がんの発症母地ともなる非アルコール性脂肪肝炎(NASH)の日本における患者数は400万人前後とされる。3大死因は、心血管疾患(CVD)、肝がん以外の悪性新生物、次いで肝不全や肝がんを含む肝関連事象であり、これらは肝臓の線維化進行に伴いリスクが上昇するとされる(1)。これまでNASHの肝線維化改善を目指した臨床試験が多数行われてきたが、現時点で既承認薬はない。 本論文は、病理所見に基くNASHの消失を指標としてグルカゴン様ペプチド(GLP)-1受容体作動薬のセマグルチド1日1回皮下投与の効果をプラセボと比較した第2相試験の報告である。糖尿病のない患者も30%台で含まれ、セマグルチドは0.1、0.2、0.4mg/日の3群とし72週時点の肝組織改善を評価している。主要評価項目は線維化ステージ2か3の進行例における肝線維化の悪化を伴わないNASHの消失(炎症改善)、副次評価項目はNASH悪化を伴わない肝線維化の改善としている。その結果、主要評価項目はセマグルチド 0.4mg群が59%で、プラセボ群の17%と比較して有意に高かった。一方、副次評価項目はセマグルチド0.4mg群が43%で、プラセボ群の33%と比較し有意差はなかった。有害事象はセマグルチド群において胃腸障害が多かった。今回の結果に基づき、第3相試験に進んでいる。ここで留意すべき点は、NASHは肝臓だけの疾患ではなく、主な死因はCVDということである。さらに、NASHの肝線維化は生命予後に影響する重要な要因であるが、線維化の改善を主要評価項目に据えてきた多数の臨床試験が成功しなかった経緯を考えると、主要評価項目を肝線維化を惹起する炎症の改善へとシフトするような柔軟な対応も必要となる。以上の問題点を解決することが期待されるのがセマグルチドであろう。実際、今回の試験の主要評価項目は炎症改善に焦点を当てている。また、GLP-1受容体作動薬はすでに大規模臨床試験でCVDを抑制する高いエビデンスが示されているため肝関連事象のみならずCVD抑制も期待される(2)。さらに、糖尿病に限定せず開発が行われていることも重要である。最後に、NAFLDは「木(肝臓)を見て森(全身)を見ず」の診療を行っていては本質的な生命予後改善にはつながらない。これからは「木も見て森も見る」、まさに全身臓器をターゲットとすべき疾患であることを踏まえた新薬開発を行う必要がある。 1. Angulo P, et al. Gastroenterology. 2015;149(2):389-97.e10. 2. Marso SP, et al. N Engl J Med. 2016;375(4):311-322.
COVID-19入院患者のCOVID後遺症 後ろ向きコホート研究
COVID-19入院患者のCOVID後遺症 後ろ向きコホート研究
Post-covid syndrome in individuals admitted to hospital with covid-19: retrospective cohort study BMJ. 2021 Mar 31;372:n693. doi: 10.1136/bmj.n693. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【目的】COVID-19患者の退院後に見られる臓器別障害の割合を、マッチさせた一般集団対照群と比較して定量化すること。 【デザイン】後ろ向きコホート研究。 【設定】英国のNHS病院。 【参加者】COVID-19のため入院し、2020年8月31日までに生存退院した患者4万7780例(平均年齢65歳、男性55%)と、英国内約5000万人の10年間の電子健康記録を元に患者背景と臨床像を正確にマッチさせて抽出した対照群。 【主要評価項目】2020年9月30日までの再入院率(対照群はあらゆる原因による入院)、全死因死亡率、呼吸器疾患、心血管疾患、代謝疾患、腎疾患および肝疾患の診断率。年齢、性別、民族別の率比のばらつき。 【結果】平均追跡期間140日間の間に、急性COVID-19を発症し退院した患者の約3分の1(4万7780例中1万4060例)が再入院し、1割以上(5875例)が退院後に死亡し、マッチさせた対照群と比べると再入院比率が4倍、退院後死亡比率は8倍であった。COVID-19退院患者ではこのほか、呼吸器疾患(P<0.001)、糖尿病(P<0.001)、心血管疾患(P<0.001)の割合が有意に高く、1000人・年当たりでそれぞれ770(95%CI 758~783)、127(同122~132)、126(同121~131)であった。70歳未満の方が70歳以上より、少数民族の方が白人集団よりも率比が高く、呼吸器疾患で最も大きな差が見られた(70歳未満10.5[同9.7~11.4] vs. 70歳以上4.6[同4.3~4.8]、非白人11.4[同9.8~13.3] vs. 白人5.2[5.0~5.5])。 【結論】COVID-19退院患者は、一般集団で予想されるリスクよりも多臓器不全の発生率が高かった。リスクの上昇は高齢者に限らず、民族間でもばらつきがあった。COVID-19後遺症の診断、治療および予防には、臓器や疾患に特化したものよりも統合的なアプローチを要し、危険因子を明らかにするため早急な研究が必要とされる。 第一人者の医師による解説 心臓では高感度トロポニン、MRIなどによる評価と経過観察が望まれる 廣井 透雄 国立国際医療研究センター病院循環器内科 循環器内科診療科長 MMJ. August 2021;17(4):107 英国では新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に6月14日時点でおよそ460万人が感染、およそ47万人が入院し、約12.8万人が死亡した。院内死亡率は30%と高率であった。ワクチン接種の普及(1回接種率78.9%、2回接種率56.6%)により、新規感染者、死亡者は大きく減少した一方で、“long covid”、“post-covid syndrome”として知られる後遺症が問題となってきた。 今回の英国における後ろ向きコホート研究の報告によると、COVID-19で2020年8月末までに入院し生存退院した平均年齢64.5歳、男性54.9%の47,780人は、一般人口と比較し、男性、50歳以上、貧困地域在住、喫煙歴、肥満または過体重が多く、併存疾患が多い傾向にあった。過去10年の医療記録の50万人から条件(年齢、性別、人種、貧困指数、喫煙、体格指数[BMI]、併存疾患)をマッチさせた対照群との間で、2020年9月末までの再入院率(対照群では全入院)、全死亡率、呼吸器、主要循環器疾患(MACE:心不全、心筋梗塞、脳卒中、不整脈)、糖尿病、慢性腎臓病(ステージ 3~5、透析、腎移植)、慢性肝疾患の診断数を比較検討した。 平均観察期間140日(標準偏差 50日)で、5,875人(12.3%、320.0/1,000人・年)が退院後に死亡、14,060人(29.4%、766.0 /1,000 人・年)が再入院した。対照群ではそれぞれ830人(1.7%、41.3/1,000人・年)、4,385人(9.2%、218.9/1,000人・年)で、COVID-19患者のリスクは7.7、3.5倍であった。退院後に呼吸器疾患を診断された14,140人(29.6%、770.5/1,000人・年)のうち、新規診断 は6,085人(12.7%、538.9/1,000人・年)で、COVID-19患者のリスクはそれぞれ6.0、27.3倍であった。退院後に糖尿病 2,330人(4.9%、126.9/1,000人・年)、MACE 2,315人(4.8%、126.1/1,000人・年)、慢性腎臓病710人(1.5%、38.7/1,000人・年)、慢性肝疾患135人(0.3%、7.2/1,000人・年)と診断され、対照群と比較したリスクはそれぞれ1.5、3.0、1.9、2.8倍であった。すべてのアウトカムは70歳以上が70歳未満より多く、死亡は14.1倍、呼吸器疾患は10.5倍であった。糖尿病以外のアウトカムは非白人より白人で多く、呼吸器疾患は11.4倍であった。 COVIDで入院した米国退役軍人1,775人は、退院60日以内に20%が再入院し、9%が死亡し、本研究でも23%、9%と同様であった(1)。英国のリスクが低い201人でも、肺(33%)、心臓(32%)、腎臓(12%)、肝臓(10%)と障害が多臓器に及ぶ(2)。心臓では、高感度トロポニン、MRI、心エコーの長軸方向ストレイン(GLS)などによる評価と経過観察が望まれる(3)。 1. Donnelly JP, et al. JAMA. 2021;325(3):304-306. 2. Dennis A, et al. BMJ Open. 2021;11(3):e048391. 3. Puntmann VO, et al. JAMA Cardiol. 2020;5(11):1265-1273.
脊髄性筋萎縮症I型に用いるrisdiplam
脊髄性筋萎縮症I型に用いるrisdiplam
Risdiplam in Type 1 Spinal Muscular Atrophy N Engl J Med. 2021 Mar 11;384(10):915-923. doi: 10.1056/NEJMoa2009965. Epub 2021 Feb 24. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】脊髄性筋萎縮症I型は、機能性生存運動ニューロン(SMN)タンパク低値によって生じるまれな進行性神経筋疾患である。risdiplamは、SMN2のRNA前駆体スプライシングを修飾し、機能性SMNタンパク値を上昇させる経口投与可能な小分子である。 【方法】支えなしで座位が保持できない1-7カ月齢の脊髄性筋萎縮症I型乳児を対象にrisdiplamを検討した、2段階から成る第II/III相非盲検試験のパート1の結果を報告する。主要評価項目は、安全性、薬物動態、薬力学(血中SMNをタンパク濃度など)およびパート2で用いるrisdiplamの用量決定とした。5秒間以上の支えなしでの座位保持能を探索的評価項目とした。 【結果】乳児計21例を組み入れた。4例を低用量群とし、12カ月時の最終用量を1日当たり0.08mg/kgとした。17例を高用量群とし、12カ月時の最終用量を1日当たり0.2mg/kgとした。ベースラインの血中SMNタンパク濃度中央値は低用量群1.31ng/mL、高用量群2.54ng/mLであり、12カ月時に中央値はそれぞれ3.05ng/mL、5.66ng/mLまで増加し、ベースラインの中央値のそれぞれ3.0倍、1.9倍となった。重篤な有害事象に肺炎、気道感染、急性呼吸不全があった。本稿発表時点では、4例が呼吸器合併症のため死亡している。高用量群の7例が支えなしで5秒間以上座位が保持できたが、低用量群では1例も認められなかった。試験のパート2に用いる用量には高用量(1日当たり0.2mg/kg)を用いることが決定した。 【結論】脊髄性筋萎縮症I型乳児で、経口risdiplamを用いた治療によって血中機能性SMNタンパク発現量が増加した。 第一人者の医師による解説 リスジプラムは全身に作用 有効性と安全性の追加検証を期待 佐橋 健太郎 名古屋大学医学部附属病院脳神経内科講師/勝野 雅央 名古屋大学大学院医学研究科神経内科学教授 MMJ. August 2021;17(4):111 脊髄性筋萎縮症(SMA)は主にSMN1遺伝子欠失変異によるSMN蛋白欠乏により、脳幹や脊髄の下位運動ニューロン変性に伴う、進行性筋力低下、筋萎縮をきたす予後不良の遺伝性疾患である。SMA最多の重症の1型は6カ月齢までに発症し、座位保持能を獲得できず、呼吸筋麻痺により寿命は中央値10.5カ月(1)とされる。ヒトはSMN1重複遺伝子であるSMN2を有するが、mRNA前駆体のエクソン 7の選択的スプライシングによりSMN2からは機能性 SMN蛋白が十分に産生されない。治療薬としては、核酸医薬ヌシネルセンや低分子化合物リスジプラムによるSMN2スプライシング制御治療や、組換えアデノウイルスベクター製剤オナセムノゲン アベパルボベクによるSMN遺伝子補充療法が開発されており、リスジプラムは全身に作用する特色がある。 本論文は、リスジプラム開発元 F. Hoffmann-La Roche社による研究支援のもと、1型 SMN乳児21人(中央値6.7カ月齢:他試験より経過が長い例(2),(3))を対象に実施されたリスジプラム第2/3相非盲検単一群試験(FIREFISH試験)のパート 1の報告である。主要評価項目は安全性、薬物動態、薬力学と、パート 2のための投与量選択とし、また事後分析による探索的評価項目として、永続的な呼吸補助の必要のない無イベント生存、支持なしで5秒以上の座位保持能 (BSID-Ⅲの第22項)、CHOPINTENDとHINE-2運動機能スコアなどが設定された。その結果、12カ月の観察期間で低用量、高用量コホートともに血漿 SMN蛋白上昇が示されたが(それぞれベースライン値の3.0、1.9倍)、個人内の測定値のばらつきが問題として挙げられた。全体21人中19人で無イベント生存、高用量コホート 7人で座位保持能獲得が確認され、また自然歴ではほぼ観察されない運動機能スコアの改善が特に高用量コホートでみられている。一方、重篤な有害事象として肺炎、気道感染がみられた。死亡例の原因は呼吸器合併症であり、SMAに伴う呼吸不全と分類されているが、多くが高用量コホートであり、薬剤関連性の可能性除外も必要と考えられる。最終的にパート 2では高用量のリスジプラム使用が支持されており、さらにリアルワールド設定に近い2?25歳の、重症度の下がる2/3型対象のプラセ ボ 対照二重盲検第2/3相試験(SUNFISH試験:NCT02908685)も進行中であり、リスジプラムの有効性と安全性についての追加検証が待たれる。 略 号:BSID- Ⅲ(Bayley Scales of Infant and Toddler Development, third edition)、CHOP-INTEND (Children's Hospital of Philadelphia Infant Test of Neuromuscular Disorders)、HINE-2(Hammersmith Infant Neuromuscular Examination) Finkel RS, et al. Neurology. 2014;83(9):810-817. Finkel RS, et al. N Engl J Med. 2017;377(18):1723-1732. Mendell JR, et al. N Engl J Med. 2017;377(18):1713-1722.
変形性膝関節症に用いる段階的運動プログラム 無作為化比較試験
変形性膝関節症に用いる段階的運動プログラム 無作為化比較試験
Stepped Exercise Program for Patients With Knee Osteoarthritis : A Randomized Controlled Trial Ann Intern Med. 2021 Mar;174(3):298-307. doi: 10.7326/M20-4447. Epub 2020 Dec 29. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】変形性膝関節症の運動療法を患者のニーズに応じて効率良く提供するため、科学的根拠に基づいた枠組みが必要である。 【目的】変形性膝関節症患者に用いる段階的運動プログラム(STEP-KOA)を検討すること。 【デザイン】無作為化比較試験(ClinicalTrials.gov、NCT02653768)。 【設定】米国退役軍人省の2施設。 【参加者】症候性変形性膝関節症患者345例(平均年齢60歳、女性15%、有色人種67%)。 【介入】参加者をSTEP-KOA群または対照の関節炎に関する教育(AE)群に2対1の割合で無作為化した。STEP-KOA群では、3カ月間のオンラインの運動プログラム(第1段階)を開始した。第1段階終了時に疼痛および機能改善に関する治療成績の判定基準を満たさなかった参加者が第2段階へと移行し、2週間に1回、3カ月間にわたって電話で運動に関するコーチングを受けた。第2段階終了時に治療成績の判定基準を満たさなかった患者は、来院して対面理学療法を受ける第3段階へと移行した。AE群には2週間に1回、教材を郵送した。 【評価項目】Western Ontario and McMaster Universities Osteoarthritis Index(WOMAC)スコアで主要評価項目を評価した。線形混合モデルを用いて、9カ月時のSTEP-KOA群およびAE群のスコアを比較した。 【結果】STEP-KOA群では、65%(230例中150例)が第2段階へ、35%(230例中81例)が第3段階へ進んだ。全対象者の試験開始時の推定WOMACスコアは47.5点(95%CI 45.7-49.2)であった。9カ月の追跡調査時、推定WOMAC平均スコアは、STEP-KOA群の方がAE群より6.8点(同-10.5--3.2点)低く、改善度が大きいことが示された。 【欠点】参加者のほとんどが男性退役軍人であった点、追跡調査が短かった点。 【結論】STEP-KOAを実施した退役軍人に、対照群と比べて変形性膝関節症の症状が中等度の改善が見られた。変形性膝関節症の運動療法を実施する際、STEP-KOAは有効であると思われる。 第一人者の医師による解説 膝運動療法への関心向上のため 効果的戦略の開発にさらなる研究必要 佐々木 正 医療法人社団慶洋会ケイアイクリニック整形外科 MMJ. August 2021;17(4):122 変形性膝関節症(膝 OA)患者の大部分は運動不足であり、理学療法の使用率は大幅に低い。膝 OAに対する運動関連サービスを、患者のニーズに応じて効率的に提供するためにはエビデンスに基づいたモデルの作成が求められる。 本研究は、そのような背景の下、モデルとして、膝 OA患者に対する段階的運動プログラム(STEPKOA)についての調査を目的として行われた。参加者は米国退役軍人の母集団から選出された症候性膝 OA患者345人(平均年齢60歳、女性15%、有色67%)である。参加者は、STEP-KOAまたは膝関節教育(AE)対照群に割り付けられた。STEPKOAの介入は、インターネットベースの3カ月間の運動プログラムから開始(ステップ 1)。ステップ 1後の疼痛および機能の改善に関する応答基準を満たさなかった参加者は、2段階目の3カ月間の運動活動に進んだ(ステップ 2)。ステップ 2以降に応答基準を満たさなかった参加者は、対人理学療法の訪問に進んだ(ステップ 3)。AE群は2週間ごとにメールで教材を受け取った。STEP-KOA群の65%がステップ 2に、35%がステップ 3に進んだ。主要評価項目はWestern Ontario and McMaster Universities Osteoarthritis index(WOMAC)スコアで評価した。3、6カ月目の応答基準は、WOMACスコアで評価し、OMERACT-OARSIレスポンダー基準のセットを用いた( Outcome Measures in Rheumatology?Osteoarthritis Research Society International)。WOMACは世界的に用いられる膝 OAのQOL indexであるが、日本ではなじみが少ない。WOMACは、下肢の痛み(5項目)、こわばり(2項目)、機能(17項目)をリッカート尺度で評価する。 全サンプルのベースライン WOMACスコアは47.5であった。9カ月後の追跡調査では、STEPKOA群の推定平均 WOMACは、AE群に比べて6.8ポイント低く、緩やかな改善がみられた。結論として、STEP-KOA戦略は膝 OAの運動療法を提供するのに効率的である可能性がある。 本研究の対象集団には、参加者が退役軍人に限られる、男女比が膝 OAの一般的な男女比1:4と大差がある、平均年齢が低いという特徴があり、今回の結果から導かれる結論には限界がある。さらに、参加者のX線写真の評価が含まれていないため、重症度の判定は難しい。ネットベースの運動プログラムの内容の詳述がなく、ウエブのアクセスでは個人差が大きいことも問題である。 参加者の脱落率が25%と高く、参加者が介入に関心がなかった可能性があり、集計の信頼度が下がる。一般に、運動療法に対するモチベーションは高いとはいいがたい。効果的な戦略の開発にはさらなる研究が必要である。
ANCA関連血管炎治療に用いるavacopan
ANCA関連血管炎治療に用いるavacopan
Avacopan for the Treatment of ANCA-Associated Vasculitis N Engl J Med. 2021 Feb 18;384(7):599-609. doi: 10.1056/NEJMoa2023386. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】C5a受容体阻害薬avacopanは、抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎の治療薬として研究中である。 【方法】この無作為化比較試験では、ANCA関連血管炎患者をavacopan 30mg 1日2回投与とprednisoneの用量漸減法による経口投与群に1対1の割合で割り付けた。全例にシクロホスファミド(その後アザチオプリン)またはリツキシマブを併用した。1つ目の主要評価項目は寛解とし、26週時のバーミンガム血管炎活動性スコア(BVAS)が0点(範囲0-63点、スコアが高いほど疾患活動性が高い)および直前4週間のグルココルチコイド不使用と定義した。2つ目の主要評価項目は寛解維持とし、26週時および52週時の寛解と定義した。両評価項目で非劣性(マージン20%ポイント)および優越性を評価した。 【結果】計331例を無作為化し、166例をavacopan群、165例をprednisone群に割り付けた。試験開始時のBVAS平均スコアは両群とも16点であった。avacopan群166例中120例(72.3%)、prednisone群164例中115例(70.1%)が26週時に寛解(1つ目の主要評価項目)を得た(推定公差3.4%ポイント、95%CI -6.0-12.8、非劣性のP<0.001、優越性のP=0.24)。avacopan群166例中109例(65.7%)、prednisone群164例中90例(54.9%)が52週時に寛解を維持していた(2つ目の主要評価項目、推定公差12.5%ポイント、95%CI 2.6-22.3、非劣性のP<0.001、優越性のP=0.007)。avacopan群の37.3%、prednisone群の39.0%に重篤な有害事象(血管炎悪化を除く)が発生した。 【結論】ANCA関連血管炎患者を対象とした本試験で、avacopanは26週時の寛解でprednisone漸減投与に対して非劣性が示されたが優越性は示されず、52週時の寛解維持では優越性が示された。全例がシクロホスファミドまたはリツキシマブを併用していた。52週以降のavacopanの安全性および臨床効果は、本試験では評価しなかった。 第一人者の医師による解説 グルココルチコイドの副作用を低減 ANCA関連血管炎の新治療法に期待 三森 経世 医療法人医仁会武田総合病院院長 MMJ. August 2021;17(4):121 ANCA関連血管炎(AAV)は小動脈が侵され抗好中球細胞質抗体(ANCA)が陽性となる自己免疫疾患で、多発血管炎性肉芽腫症(GPA)、顕微鏡的多発血管炎(MPA)および好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)が含まれ、急速に進行する糸球体腎炎、間質性肺炎、末梢神経炎などの多彩な臓器病変を呈する重篤な疾患である。従来、AAVの治療は大量グルココルチコイド(GC)とシクロホスファミドまたはリツキシマブなどの免疫抑制薬の併用が主体であった。しかし、再燃が多く、長期にわたるGCの副作用が問題となっている。 AAVの病態にはANCAと補体が関与し、ANCAが好中球表面に発現した自己抗原に結合するとともに、C5aがC5a受容体に結合して好中球のケモタキシスと活性化を引き起こすと考えられている。アバコパンは低分子経口 C5a受容体アンタゴニストであり、C5a受容体に選択的に結合して、C5aとANCAによる好中球の活性化を抑制すると考えられる。 本論文は、世界の143施設が参加し、AAVに対するアバコパンの有効性と安全性を検討した第3相試験の報告である。アバコパン 30mgの1日2回経口投与(A群)166人とプレドニゾン漸減療法(P群:1日60mgで 開始し21週までに中止)164人が二重プラセボ二重盲検試験で比較された。GPA181人とMPA149人がエントリーされ、PR3-ANCAが43%、MPO-ANCAが57%を占めたが、解析では両者は区別されていない。全例で免疫抑制薬(シクロホスファミドまたはリツキシマブ)が併用され、途中増悪時のGC救済療法は許容されている。 26週目の寛解達成率(Birmingham Vasculitis Activity Score[BVAS]=0および4週間前までのGC中止)はA群72.3%、P群70.1%であり、A群のP群に対する非劣性が証明された。52週目の寛解維持率はA群65.7%、P群54.9%で、A群の非劣性のみならず優越性も認められた。また、A群はP群より52週目までの再燃率が有意に低く、推算糸球体濾過量(eGFR)、蛋白尿、生活の質(QOL)の改善でも上回っていた。GCによる副作用の発現率は当然ながら、P群でA群よりも高かった。死亡例はA群2例、P群4例で、肝機能障害がA群で9例にみられたが、安全性に関して両群間で有意差はみられなかった。 本試験で、AAVにおいて補体阻害薬であるアバコパンのプレドニゾン漸減療法に対する非劣性と、52週での優越性が証明されたことは、将来の治療戦略に大きな変革をもたらす可能性があり、GCの使用を減らし副作用を低減できることにも大きな利点がある。長期成績と長期安全性、寛解導入後の薬剤減量・中止の可能性などが今後の課題である。
一過性脳虚血性発作後の脳卒中リスクを評価するカナダTIAスコアの前向き検証とABCD2およびABCD2iとの比較 多施設共同前向きコホート研究
一過性脳虚血性発作後の脳卒中リスクを評価するカナダTIAスコアの前向き検証とABCD2およびABCD2iとの比較 多施設共同前向きコホート研究
Prospective validation of Canadian TIA Score and comparison with ABCD2 and ABCD2i for subsequent stroke risk after transient ischaemic attack: multicentre prospective cohort study BMJ. 2021 Feb 4;372:n49. doi: 10.1136/bmj.n49. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【目的】前回作成したカナダTIAスコアを検証し、救急科を受診した一過性脳虚血性発作患者の新たなコホートでその後の脳卒中リスクを層別化すること。 【デザイン】前向きコホート研究。 【設定】5年以上追跡したカナダの13の救急科。 【参加者】一過性脳虚血発作または軽微な脳梗塞で救急科を受診した連続成人患者7607例。 【主要評価項目】主要評価項目は、7日以内の脳梗塞または頸動脈内膜剥離術や頸動脈ステント留置術の施行とした。副次評価項目は、7日以内の(頸動脈内膜剥離術および頸動脈ステント留置術の有無別の)脳梗塞とした。7日後および90日後の電話による追跡調査でQuestionnaire for Verifying Stroke Free Status(脳卒中症状の有無を検証する質問票)を用いた。初回の救急科受診を知らせずにおいた3人の脳卒中専門医が全評価項目を判定した。 【結果】7607例のうち108例(1.4%)が7日以内に脳梗塞を発症し、83例(1.1%)に7日以内に頚動脈内膜剥離術や頸動脈ステント留置術を施行し、そのうち9例には頸動脈内膜剥離術と頸動脈ステント留置術いずれも施行した。カナダTIAスコアは7日以内の脳梗塞、頸動脈内膜剥離術や頸動脈ステント留置術のリスクを低リスク(0.5%以下、区間尤度比0.20、95%CI 0.09~0.44)、中リスク(リスク2.3%、区間尤度比0.94、0.85~104)、高リスク(リスク5.9%、区間尤度比2.56、2.02~3.25)に層別化し、ABCD2(0.60、0.55~0.64)やABCD2i(0.64、0.59~0.68)よりも正確であった(AUC 0.70、95%CI 0.66~0.73)。7日以内の頸動脈内膜剥離術や頸動脈ステント留置術に関係なく、その後の脳梗塞リスクの結果がほぼ同じであった。 【結論】カナダTIAスコアは、患者の7日以内の脳梗塞リスクを頸動脈内膜剥離術や頸動脈ステント留置術に関係なく層別化し、今や臨床現場での使用の準備が整ったと言える。この検証した推定リスクを管理計画に組み込めば、初回救急外来受診時の入院や調査の時期、専門医への紹介の優先順位付けに関する早期意思決定が改善するであろう。 第一人者の医師による解説 項目多くやや煩雑だが 実臨床への適応はさほど困難ではない 上坂 義和 虎の門病院脳神経内科部長・脳卒中センター長 MMJ. August 2021;17(4):110 一過性脳虚血発作(TIA)は完成型脳梗塞の危険信号として重要である。内科的治療の進歩により以前は4~10%といわれていたTIA後7日以内の脳梗塞発症リスクは現在低下している(1)。TIAで救急外来を受診する患者全員に包括的な検査や入院加療を行うことは、各国の事情にもよるが医療システム上困難なこともある。ABCD2スコアはTIA患者に対する最もよく知られたトリアージツールであるが、前向き検証の結果では低リスクと高リスクの識別能が低いことが指摘されている(2)。 本論文の著者らは、9項目の臨床情報の有無(初回か否か2点、持続時間10分以上2点、頸動脈狭窄の既往2点、抗血小板薬治療3点、歩行障害1点、片側の筋力低下1点、回転性めまい-3点、拡張期血圧110 mmHg以上3点、構語障害ないし失語1点)と4項目の検査所見の有無(心電図での心房細動2点、CT上の脳梗塞[新旧問わない]1点血小板数40万 /μ L以上2点、血糖270 mg/dL以上3点)からなるCanadian TIAスコア(-3~23点)を報告した(3)。 本研究は2012年10月31日~17年5月30日にカナダの13の救急施設に来院した18歳以上 のTIAや軽症の脳梗塞患者7,607人を対象とした前向き研究である。Canadian TIAスコアとABCD2スコアおよび画像情報を加えたABCD2iスコアを算出し、TIA発症後7日以内の脳梗塞および頸動脈内膜剥離術や頸動脈ステント留置術などの血行再建を合わせたものを主要評価項目、TIA発症後7日以内の脳梗塞のみを副次評価項目に設定した。主要評価項目の発生率が1%未満の場合を低リスク、1~5%の場合を中リスク、5%超を高リスクとした。Canadian TIAスコアは低リスク(-3~3点)が全体の16.3%を占め、中リスク(4~8点)は全体の72.1%、高リスク(9点以上)は11.6%を占めた。ABCD2スコア、ABCD2iスコアではいずれも低リスクに分類された患者は皆無であり、3~7%が高リスクで大半が中リスクに分類された。 Canadian TIAスコア自体に頸動脈狭窄に関する項目が含まれており、血行再建に関する層別化能がよいのは当然と考えられるが、脳梗塞だけに限定した副次評価項目においてもCanadian TIAスコアによるリスク層別化能は優れていた。ABCD2スコアに比べ項目が多くやや煩雑ではあるが、救急診療で通常確認している項目からなっており実臨床への適応もさほど困難ではないだろう。 1. Amarenco P, et al. N Engl J Med. 2016;374(16):1533-1542. 2. Perry JJ, et al. CMAJ. 2011;183(10):1137-1145. 3. Perry JJ, et al. Stroke. 2014;45(1):92-100.
米国成人で検討した末梢神経障害と全死因および心血管死亡率 前向きコホート研究
米国成人で検討した末梢神経障害と全死因および心血管死亡率 前向きコホート研究
Peripheral Neuropathy and All-Cause and Cardiovascular Mortality in U.S. Adults : A Prospective Cohort Study Ann Intern Med. 2021 Feb;174(2):167-174. doi: 10.7326/M20-1340. Epub 2020 Dec 8. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】糖尿病がない患者でも末梢性神経障害(PN)が多く見られることを示す根拠が増えている。しかし、PNの後遺症は一般集団では定量化されていない。 【目的】米国一般成人のPNと全死因および心血管死亡率の関連を評価すること。 【デザイン】前向きコホート研究。 【設定】1999~2004年のNHANES(全国健康栄養調査)。 【参加者】PNの標準モノフィラメント検査を受けた40歳以上の成人7116例。 【評価項目】Cox回帰分析を用いて、人口統計学的因子および心血管危険因子で調整後のPNと全死因および心血管死亡率の関連を、参加者全体に加えて糖尿病の有無で層別化して評価した。 【結果】全体のPN有病率(±SE)は、13.5%±0.5%(糖尿病患者27.0%±1.4%、非糖尿病患者11.6%±0.5%)であった。追跡期間中央値13年間の間に2128例が死亡し、そのうち488例が心血管系の原因によるものであった。1000人年当たりの全死因死亡率は、糖尿病+PN患者で57.6(95%CI 48.4~68.7)、PN+糖尿病患者で34.3(同30.3~38.8)、糖尿病+非PN患者で27.1(同23.4~31.5)、非糖尿病+非PN患者で13.0(同12.1~14.0)であった。調整後モデルで、糖尿病患者で、PNに全死因死亡(ハザード比1.49、CI 1.15~1.94)および心血管死亡(同1.66、1.07~2.57)との有意な関連が認められた。非糖尿病患者では、PNに全死因死亡との有意な関連が認められたが(同1.31、1.15~1.50)、調整後のPNと心血管死亡の関連は統計学的に有意ではなかった(同1.27、0.98~1.66)。 【欠点】心血管疾患の有無が自己報告であった点、PNをモノフィラメント検査のみで定義した点。 【結論】末梢神経障害は、米国成人の間でよく見られ、糖尿病がなくても死亡との独立の関連が認められた。この結果からは、足底感覚の鈍化が、これまで認識されていなかった一般集団の死亡の危険因子であることが示唆される。 第一人者の医師による解説 末梢神経障害の有病率は高く 温痛覚試験など足病変リスク評価を積極的に 伊藤 努 慶應義塾大学医学部外科学(心臓血管)准教授 MMJ. August 2021;17(4):115 末梢神経障害(peripheral neuropathy;PN)は末梢神経に起こる疾患の総称でさまざまな原因や病態による。糖尿病性 PNは原因として最も多く、一方で糖尿病の3大合併症(神経障害、網膜症、腎症)の中でも最も早期に発症し頻度も高いとされる。最近の欧米の横断的研究によると、成人糖尿病患者のPN有病率は6~51%と報告され(1)、1、2型の病型以外にも年齢、糖尿病罹病期間、血糖コントロールの状態などが発症に影響する。日本の糖尿病患者のPN有病率は2008年のデータでは47.1%と報告された。 糖尿病性 PNは多彩で全身性、局所性とあるが、多くは全身性の遠位性対称性多発神経障害と呼ばれる感覚運動神経障害と自律神経障害である。温痛覚や自律神経は小径神経線維であり、触圧覚・運動神経である大径神経線維よりも神経線維脱落障害が優位に先行する。したがって、しびれや痛み、起立性低血圧・神経因性膀胱など自律神経障害も糖尿病初期より出現してくる。糖尿病性 PNの病期が進行すると感覚低下により外傷、炎症に気付かず足病変の発生は著明に上昇する。米国の報告では足潰瘍の推定有病率は6%、糖尿病患者の25%は生涯の中で足潰瘍を発症し、そのうち14~28%が下肢切断を要すと報告され、糖尿病患者においてPNの予防、早期診断、早期治療は重要である。 本研究では、糖尿病が原因ではないPNに着目し、1999~2004年のNational Health and Nutrition Examination Survey(NHANES)に基づき40歳以上の一般成人7,116人を対象とし、心血管死亡率との関連が評価された。PN有病率は全体で13.5%、糖尿病患者では27.0%、非糖尿病患者では11.6%であった。糖尿病(DM)の有無とPNの有無の組み合わせによる4群で全死亡率(1,000人・年)を比較すると、DM(+)/PN(+)で57.6、DM(-)/PN(+)で34.3、DM(+)/PN(-)で27.1、DM(-)/PN(-)で13.0、同様に心血管死亡率を比較するとそれぞれ、19.7、7.3、7.6、2.4であった。糖尿病患者におけるPNの存在は死亡の危険因子であることはよく知られているが、糖尿病の有無にかかわらず全死亡、心大血管死亡いずれにもPNは関連していると報告した。その理由は明確ではないが、PNは心臓自律神経障害のリスク上昇、あるいは全身性の無症候性微小血管病変の存在を反映している可能性を指摘している。 今回の検討ではPNをモノフィラメントを用いた感覚低下のみで評価していること、原因を例えば中毒性、免疫介在性、ビタミン欠乏など特定できていないこと、PN罹病期間などが明確でないなど今後も検討の余地はあるものの、非糖尿病性患者であってもPNの存在が死亡の独立した危険因子であることを示したという点で興味深い。 1. Hicks CW, et al. Curr Diab Rep. 2019;19(10):86.
韓国の思春期女子で検討したヒトパピローマウイルスワクチン接種と重篤な有害事象の関連
韓国の思春期女子で検討したヒトパピローマウイルスワクチン接種と重篤な有害事象の関連
Association between human papillomavirus vaccination and serious adverse events in South Korean adolescent girls: nationwide cohort study BMJ. 2021 Jan 29;372:m4931. doi: 10.1136/bmj.m4931. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【目的】韓国の思春期女子のヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン接種と重篤な有害事象の関連を明らかにすること。 【デザイン】コホート研究。 【設定】2017年1月から2019年12月までの全国予防接種登録情報システムと全国保健情報データベースをひも付けた大規模データベース。 【参加者】2017年に予防接種を受けた11~14歳の女子44万1399例。38万2020例がHPVワクチンを接種し、5万9379例がHPVワクチンを接種していなかった。 【主要評価項目】内分泌疾患、消化器疾患、心血管疾患、筋骨格系疾患、血液疾患、皮膚疾患および神経疾患など重篤な有害事象33項目を評価項目とした。主解析にコホートデザイン、2次解析に自己対照リスク期間デザインを用いた。両解析ともにHPVワクチン接種後1年間を各転帰のリスク期間とした。主解析では、ポワソン回帰分析を用いてHPVワクチン接種群とHPV未接種群を比較した発生率および調整率比を推定し、2次解析では条件付きロジスティック回帰分析を用いて調整相対リスクを推定した。 【結果】事前に規定した33項目の有害事象は、コホート解析では、橋本甲状腺炎(10万人年当たりの発生率:ワクチン接種群52.7 vs. 36.3、調整率比1.24、95%CI 0.78~1.94)、関節リウマチ(同168.1 vs. 145.4、0.99、0.79~1.25)などにはHPVとの関連は認められなかったが、例外として片頭痛リスクの上昇が認められた(10万人年当たりの発生率:ワクチン接種群1235.0 vs ワクチン未接種群920.9、調整率比1.11、95%CI 1.02~1.22)。自己対照リスク期間を用いた2次解析から、HPVワクチン接種に片頭痛(調整率比0.67、95%CI 0.58~0.78)も含めた重篤な有害事象との関連がないことが示された。追跡調査期間にばらつきがあったり、ワクチンの種類が異なったりしても、結果に頑健性があった。 【結論】HPVワクチン接種50万回以上の全国規模のコホート研究では、コホート研究および自己対照リスク期間解析いずれを用いても、HPVワクチン接種と重篤な有害事象の間の関連性を裏付ける科学的根拠が認められなかった。病態生理学および対象母集団を考慮に入れ、片頭痛に関する一貫性のない結果を慎重に解釈すべきである。 第一人者の医師による解説 思春期女子へのHPVワクチン接種と 重篤な有害事象の関連を示すエビデンスはない 中野 貴司 川崎医科大学小児科学教授 MMJ. August 2021;17(4):124 著者らは、韓国の大規模データベースを用いて11~14歳の思春期女子におけるヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン接種と重篤な有害事象との関連を評価した。重篤な有害事象として以下の33種類の疾病・病態を選択した:(1)内分泌疾患(グレーブス病、橋本甲状腺炎、甲状腺機能亢進症、甲状腺機能低下症、1型糖尿病)、(2)消化器疾患(クローン病、潰瘍性大腸炎、消化性潰瘍、膵炎)、(3)心血管疾患(レイノー病、静脈血栓塞栓症、血管炎、低血圧)、(4)筋骨格疾患と全身性疾患(強直性脊椎炎、ベーチェット症候群、若年性特発性関節炎、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス)、(5)血液疾患(血小板減少性紫斑病、IgA血管炎)、(6)皮膚疾患(結節性紅斑、乾癬)、(7)神経疾患(ベル麻痺、てんかん、ナルコレプシー、麻痺、片頭痛、ギラン・バレー症候群、視神経炎、神経痛と神経炎、脳内出血、錐体外路・運動障害)、(8)結核。接種ワクチンの種類は、接種者382,020人中、4価ワクチン295,365人、2価ワクチン86,655人であった。HPVワクチン非接種群59,379人は日本脳炎ワクチンまたはTdapワクチンの接種を受けた。平均観察期間は、HPVワクチン接種群とHPVワクチン非接種群でそれぞれ407,400人・年と60,500人・年であった。 1次解析ではコホート解析、2次解析では自己対照リスク間隔解析を用いた。両解析とも接種後1年のリスク期間を設定し、HPVワクチン接種群と非接種群について、1次解析では有害事象ごとに発生率と調整比率をポアソン回帰を用いて推定した。2次解析では条件付きロジスティック回帰分析を用いて、調整相対リスクを推定した。 33種類の重篤な有害事象について、1次解析の結果では片頭痛を除いてHPVワクチンとの関連を認めなかった。片頭痛についてはHPVワクチン接種群で有意なリスク上昇が観察されたが、95%信頼区間(CI)は1に近かった(1.11/100,000人・年;95% CI, 1.02 ~ 1.22)。2次解析の結果は、片頭痛(調整相対リスク, 0.67;95%CI, 0.58~0.78)を含めて、すべての有害事象についてHPVワクチン接種群における有意なリスク上昇は観察されなかった。感度解析やサブグループ解析の結果もおおむね合致していた。 以上より、HPVワクチン接種と重篤な有害事象の関連を示すエビデンスはないと考えられた。ただし片頭痛については一部の解析でリスク上昇が認められ、その病態生理と関心のある集団を考慮して、注意して解釈する必要がある。
PD-L1発現率50%以上の進行非小細胞肺がんの1次治療に用いるcemiplimab単独療法 国際共同多施設非盲検第III相無作為化比較試験
PD-L1発現率50%以上の進行非小細胞肺がんの1次治療に用いるcemiplimab単独療法 国際共同多施設非盲検第III相無作為化比較試験
Cemiplimab monotherapy for first-line treatment of advanced non-small-cell lung cancer with PD-L1 of at least 50%: a multicentre, open-label, global, phase 3, randomised, controlled trial Lancet. 2021 Feb 13;397(10274):592-604. doi: 10.1016/S0140-6736(21)00228-2. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】プログラム細胞死リガンド1(PD-L1)が50%以上発現している進行非小細胞肺がんの1次治療に用いるPD-L1阻害薬cemiplimabを検討することを目的とした。 【方法】国際共同多施設非盲検第III相試験、EMPOWER-Lung 1では、24カ国138試験で組み入れた適格患者(18歳以上で組織学的および細胞学的に確認した進行非小細胞肺がんがあり、ECOG全身状態0~1点、喫煙未経験者を適格とした)をcemiplimab 3週に1回350mg投与と白金製剤含む2剤併用化学療法に1対1の割合で無作為化した。病勢進行後に化学療法からcemiplimabへと交差(クロスオーバー)してもよいこととした。主要評価項目は、治療の割付を伏せられた独立審査委員会が評価する全生存期間および無増悪生存期間とした。intention-to-treat集団および使用説明書に従った22C3アッセイでPD-L1が50%以上発現した患者から成る事前に規定したPD-L1発現率50%以上の集団(FDAが試験依頼者に要請)を対象に、主要評価項目を評価した。割り付けた治療を1回以上実施した患者全例で有害事象を評価した。この試験は、ClinicalTrials.govに登録されており(NCT03088540)、進行中である。 【結果】2017年6月27日から2020年2月27日の間に、710例を無作為化した(intention-to-treat集団)。563例から成るPD-L1発現率50%以上の集団では、全生存期間中央値がcemiplimab群(283例)で未到達(95%CI 17.9~評価不能)、化学療法群(280例)で14.2カ月(11.2~17.5)であった(ハザード比[HR]0.57[0.42-0.77]、P=0.0002)。無増悪生存期間中央値はcemiplimab群8.2カ月(6.1~8.8)、化学療法群5.7カ月(4.5~6.2)であった(HR 0.54[0.43~0.68]、P<0.0001)。intention-to-treat集団でも、クロスオーバー率が高かった(74%)にも関わらず、cemiplimabで全生存期間および無増悪生存期間の有意な改善が認められた。cemiplimabで治療した355例中98例(28%)および化学療法で治療した342例中135例(39%)にグレード3~4の治療下発生有害事象が発生した。 【解釈】PD-L1発現率50%以上の進行非小細胞肺がんで検討した結果、化学療法と比べるとcemiplimab単独療法で全生存期間および無増悪生存期間が有意に改善した。この結果から、この患者集団に用いる新たな治療選択肢の可能性が示された。 第一人者の医師による解説 PD-L1 50%以上ではペムブロリズマブ、アテゾリズマブに続く選択肢 鹿毛 秀宣 東京大学大学院医学系研究科 次世代プリシジョンメディシン開発講座 特任准教授 MMJ. August 2021;17(4):112 免疫チェックポイント阻害薬は非小細胞肺がんの治療薬として重要な位置を占める。現在日本では抗 PD-1抗体であるニボルマブとペムブロリズマブ、抗 PD-L1抗体であるアテゾリズマブとデュルバルマブ、抗 CTLA-4抗体であるイピリムマブの5種類の免疫チェックポイント阻害薬が承認されている。そのうちペムブロリズマブとアテゾリズマブはPD-L1の免疫染色で高発現を示す非小細胞肺がんにおいて単剤で良好な成績を示している(1),(2)。 本研究は、根治治療の対象とならない局所進行あるいは転移を伴う非小細胞肺がん患者に、新たな抗 PD-1抗体であるセミプリマブを1次治療として単剤投与し、標準的な細胞障害性抗がん剤と比較した第3相試験である。ペムブロリズマブと同じ22C3アッセイにてPD-L1 50%以上の高発現を認めた非小細胞肺がん患者を対象とし、EGFR、ALK、ROS1遺伝子異常を認める患者および非喫煙者は除外された。喫煙者は非喫煙者よりも免疫チェックポイント阻害薬が効きやすいことはよく知られているが、治験から非喫煙者を除外する基準は新しい。 本試験でセミプリマブは主要評価項目である全生存期間(OS)、無増悪生存期間(PFS)ともに細胞障害性抗がん剤と比較して有意に延長した。奏効率は39%であり、健康関連 QOLの改善もみられた。PD-L1の発現率を50%以上~60%以下、60%超~90%未満、90%以上に分けたところ、PD-L1の発現が高い方がOS、PFS、奏効率すべてにおいて優れた結果であった。免疫関連有害事象は17%と過去の報告よりも少なく、治療関連死は3%と過去の報告と同等であった。 この結果をもって2021年2月に米食品医薬品局(FDA)はPD-L1 50%以上でEGFR・ALK・ROS1陰性の非小細胞肺がん患者を対象としてセミプリマブを承認した。日本における承認は未定であるが、ペムブロリズマブ、アテゾリズマブとの使い分けは難しい。PD-L1 50%以上で効果が高いのは新規性に乏しいものの、PD-L1発現と免疫チェックポイント阻害薬の効果の関係はアッセイや薬剤により多少の差異があるため、22C3アッセイでPD-L1の発現を評価し、高発現群に抗 PD-1抗体を使用すれば効果が高いことが再現されたことは意義がある。また、PD-L1 90%以上の群で有効性がさらに高いことが第3相試験の試験開始前から規定されていたサブグループ解析で示されたのは初めてであり、同じPD-L1 50%以上でも50%に近い群にはKEYNOTE-189試験(3)に準じてペムブロリズマブ+細胞障害性抗がん剤、100%に近い群にはセミプリマブを投与するという選択肢になるかもしれない。 1. Reck M, et al. New Engl J Med. 2016;375(19):1823-1833. 2. Herbst RS, et al. New Engl J Med. 2020;383(14):1328-1339. 3. Gandhi L, et al. N Engl J Med. 2018;378(22):2078-2092.
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