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心不全と危険因子の年齢依存的な関連:統合集団ベースコホート研究
心不全と危険因子の年齢依存的な関連:統合集団ベースコホート研究
Age dependent associations of risk factors with heart failure: pooled population based cohort study BMJ. 2021 Mar 23;372:n461. doi: 10.1136/bmj.n461. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【目的】一般集団には心不全発症の危険因子に年齢による差があるかを評価すること。 【デザイン】集団ベースの統合コホート研究。 【設定】Framingham Heart Study、Prevention of Renal and Vascular End-stage Disease StudyおよびMulti-Ethnic Study of Atherosclerosis。 【参加者】若年者(55歳未満、1万1,599例)、中年者(55~64歳、5,587例)、前期高齢者(65~74歳、5,190例)、後期高齢者(75歳以上、2,299例)で層別化した心不全既往歴のない参加者計2万4,675例。 【主要評価項目】心不全発症率。 【結果】追跡調査期間中央値12.7年間にわたり、若年者138例(1%)、中年者293例(5%)、前期高齢者538例(10%)、後期高齢者412例(18%)が心不全を発症した。若年者では、心不全発症例の32%(44例)が駆出率が保たれた心不全に分類されたのに対して、後期高齢者では43%(179例)であった。若年者では高齢者と比べて、高血圧、糖尿病、現在の喫煙、心筋梗塞の既往歴などの危険因子があると相対リスクが高かった(全体の交互作用のP<0.05)。例えば、高血圧があると、若年者では心不全リスクが3倍になり(ハザード比3.02、95%CI 2.10~4.34;P<0.001)、それに対して後期高齢者ではリスクが1.4倍になった(1.43、1.13~1.81、P=0.003)。心不全発症の絶対リスクは、危険因子の有無に関係なく、若年者の方が高齢者よりも低かった。若年者の方が高齢者よりも危険因子の人口寄与危険割合が高く(75% v 53%)、モデル適合度も良好であった(C index 0.79 v 0.64)。同様に、肥満(21% v 13%)、高血圧(35% v 23%)、糖尿病(14% v 7%)、現在の喫煙(32% v 1%)の集団寄与危険割合は高齢者よりも若年者の方が高かった。 【結論】若年者の方が高齢者よりも心不全の発症率と絶対リスクが低いが、修正可能な危険因子との関連が強く寄与危険度が大きいことから、成人期にわたる予防努力の重要性が浮き彫りになった。 第一人者の医師による解説 心不全予防には生涯にわたるリスク管理が重要 ハザード比は診療に有用 諸井 雅男 東邦大学医学部内科学講座循環器内科学分野(大橋)教授 MMJ. October 2021;17(5):142 若年者は高齢者に比べ心不全発症率が低いことは知られているが、年齢別に心不全発症と肥満、高血圧および糖尿病などの危険因子との関係は検討されていなかった。先行研究では、電子健康記録を用いた研究で、若年者では心不全を含む心血管疾患発症や血圧上昇の相対リスク低下が認められたことや、心不全患者を対象とした研究で、若年患者は肥満、男性、糖尿病既往者で多くみられることは報告されていた(1),(2)。 本論文は、一般集団における心不全の年齢別危険因子を評価するため、米国のFramingham Heart Study、オランダのPrevention of Renal and Vascular End-stage Disease(PREVEND)研究、米国のMulti-Ethnic Study of Atherosclerosis(MESA)のデータを統合解析したコホート研究の報告である。対象者は心不全歴のない24,675人で、若年者(55歳未満、11,599人)、中年者(55~64歳、5,587人)、前期高齢者(65~74歳、5,190人)、後期高齢者(75歳以上、2,299人)に層別化し、心不全の発症について追跡期間中央値12.7年において評価した。 その結果、高血圧、糖尿病、現在の喫煙、および心筋梗塞の既往といった危険因子は、高齢者と比較し、若年者でその相対的寄与が大きかった。例えば高血圧は、若年者の将来的心不全リスクを3倍上昇させたのに対し、後期高齢者では1.4倍の上昇であった。心不全発症の絶対リスクは、危険因子にかかわらず、高齢者より若年者のほうが低かった。 心不全患者が増加し続けている中で、その年齢に応じて具体的なリスクの数字を示したことは診療に有用である。50歳の男性が健診で高血圧を指摘されて受診した場合に、我々医療者は単に生活習慣の是正と降圧薬の服用を考慮するだけではなく、「高血圧者は正常血圧者に比べ12年後には3倍の心不全発症リスクがある」ことを患者に伝えることができる。一方、75歳ではそのリスクは1.4倍である。このことは、患者の価値観や希望と併せて、医療者はその介入の程度を考慮する際の1つの情報となり、その上での治療は生活の質(QOL)を高めることにつながる。人生100年時代を迎え、生命予後のみならず若年から年齢を重ねた時のQOLを考慮しそのリスク管理により心不全を予防することは、医療者には極めて重要と考える。 1. Rosengren A, et al. Eur Heart J. 2017;38(24):1926-1933. 2. Christiansen MN, et al. Circulation. 2017;135(13):1214-1223.
中国・武漢の抗SARS-CoV-2抗体血清陽性率と体液性免疫の持続性:住民対象長期横断研究
中国・武漢の抗SARS-CoV-2抗体血清陽性率と体液性免疫の持続性:住民対象長期横断研究
Seroprevalence and humoral immune durability of anti-SARS-CoV-2 antibodies in Wuhan, China: a longitudinal, population-level, cross-sectional study Lancet. 2021 Mar 20;397(10279):1075-1084. doi: 10.1016/S0140-6736(21)00238-5. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】武漢市は、中国で発生したCOVID-19大流行の中心地であった。著者らは、武漢市民の抗SARS-CoV-2抗体の血清陽性率と動態を明らかにし、ワクチン接種対策に役立てることを目的とした。 【方法】この長期横断研究では、多段階の人口層別型クラスター無作為標本抽出法を用いて、武漢市内13地区100地域を系統的に選択した。各地域から系統的に世帯を抽出し、全家族構成員に参加のため地域ヘルスケアセンターに来てもらった。2019年12月1日以降、武漢市に14日以上居住した住民を適格とした。参加に同意した全適格参加者が人口統計学および臨床的データに関するアンケートにオンラインで回答し、COVID-19に伴う症状やCOVID-19診断歴を自己申告した。2020年4月14~15日に免疫検査用に静脈血検体を採取した。血液検体でSARS-CoV-2ヌクレオカプシドタンパクに対する汎免疫グロブリン、IgM、IgA、IgG抗体の有無を検査し、中和抗体を評価した。2020年6月11日~13日、10月9日~12月5日に2回連続で追跡調査を実施し、その際に血液検体も採取した。 【結果】無作為に選択した4,600世帯のうち3,599世帯(78.2%)、計9,702例が初回評価のため来院した。3,556世帯9,542例から解析に十分な検体を得た。9,542例のうち532例(5.6%)がSARS-CoV-2に対する汎免疫グロブリン陽性で、この集団の調査開始時データで調整後の血清陽性率は6.92%(95%CI 6.41~7.43)であった。汎免疫グロブリンが陽性であった532例のうち437例(82.1%)が無症状であった。調査開始時、この532例のうち69例(13.0%)がIgM抗体陽性、84例(15.8%)がIgA抗体陽性、532例(100%)がIgG抗体陽性、212例(39.8%)が中和抗体陽性であった。汎免疫グロブリンが陽性で、4月に中和抗体が陽性を示した参加者の割合は、2回の経過観察の来院でも一定であった(2020年6月は363例中162例[44.6%]、2020年10~12月は454例中187例[41.2%])。全3回の調査に参加し汎免疫グロブリンが陽性であった335例のデータでは、調査期間中に中和抗体値の有意な減少は認められなかった(中央値:ベースライン1/5.6[IQR 1/2.0~1/14.0] vs 初回追跡調査1/5.6[1/4.0~1/11.2]、P=1.0、2回目追跡調査1/6.3[1/2.0~1/12.6]、P=0.29)。しかし、無症候性症例の方が確定症例や症候例症例よりも中和抗体価が低かった。時間の経過とともにIgG抗体価が低下したが、IgG抗体保有者の割合は大きく減少しなかった(確定症例でベースライン30例中30例[100%]から2回目追跡調査時29例中26例[89.7%]に減少、症候性症例で65例中65例[100%]から63例中58例[92.1%]に減少、無症候症例で437例中437例[100%]から362例中329例[90.9%]に減少)。 【解釈】武漢市の横断的標本の6.92%でSARS-CoV-2抗体が産生され、そのうち39.8%が中和抗体を獲得した。液性応答に関する耐久性データから、集団免疫を獲得し流行の再燃を防ぐには大規模ワクチン接種が必要であることが示唆される。 第一人者の医師による解説 流行収束後もワクチンによる集団免疫を付けることが 再流行を防ぐために必須 森内 浩幸 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科小児科学教授 MMJ. October 2021;17(5):138 本論文の著者らは、中国における流行の中心であった武漢において経時的横断的研究を行い、多段階人口層化集落ランダム抽出法によって系統的に選ばれた世帯の成員に対して、人口統計学的データ、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)関連症状の有無や診断歴を聴取するとともに、2020年4月、6月、および10~12月の間の3回にわたってSARS-CoV-2ヌクレオカプシド蛋白に対する抗体と中和抗体を測定した。 解析の対象となった3,556世帯の9,542人のうち532人(5.6%)が抗体陽性で、調整後の抗体保有率は6.92%(95%信頼区間 , 6.41~7.43)と推定された。陽性者の82.1%は無症状だった。また、抗体陽性者のうち4月の時点で39.8%、6月の時点で44.6%、最後の時点で41.2%が中和抗体も陽性で、その抗体価は期間中ほとんど減衰しなかった。無症状者は有症状者や診断確定者に比べ中和抗体価は低い傾向にあった。 この研究以前にも一般人口におけるSARSCoV-2抗体保有率の調査が行われている。例えばスイスの調査では、5歳以上の一般人口における診断確定例の11.6倍の抗体陽性者がいた(1)。米国の調査では1.0~6.9%の抗体保有率で、これは感染者の報告数の6~24倍に相当した(2)。アイスランドでは人口の0.9%が感染しており、抗体価は4カ月間で減衰しなかった(3)。武漢で以前行われた調査では成人の3.2%が抗体陽性だったが、統計解析のデザインは厳密なものではなかった。 どの地域のどのタイミングで調査が行われるかによって抗体保有率が異なるのは当然だが、一般人口における感染率を正しく捉えられる研究デザインだったか、無症状の感染者の割合がどれくらいだったか、そして抗体価の経時的推移がどうだったかについて、これまでの調査では十分に捉えられていなかった。今回の武漢における研究では、抽出法を工夫して一般人口を反映させ、かつ縦断的にフォローすることで武漢における流行が残した集団免疫の程度を明らかにすることができた。 この研究が意味することは、大きな流行が駆け抜けた地域においても住民の多くは感受性を持ったままであり、再び流行が起こるのを阻止するためにはワクチンによって集団免疫を構築すべきだということだ。また、不顕性感染の割合が非常に高かったことも、予防対策上重要な知見と思われる。 1. Stringhini S, et al. Lancet. 2020;396(10247):313-319. 2. Havers FP, et al. JAMA Intern Med. 2020.;180(12):1576-1586. 3. Gudbjartsson DF, et al. N Engl J Med. 2020;383(18):1724-1734.
重篤患者に用いる人工呼吸器のウィーニングおよび離脱の実践
重篤患者に用いる人工呼吸器のウィーニングおよび離脱の実践
Ventilator Weaning and Discontinuation Practices for Critically Ill Patients JAMA. 2021 Mar 23;325(12):1173-1184. doi: 10.1001/jama.2021.2384. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【重要性】重篤な患者のほとんどが侵襲的人工呼吸療法(invasive mechanical ventilation:IMV)を受けるが、実臨床でどのようにIMVから離脱しているかを明らかにした研究はほとんどない。 【目的】地域によるIMV離脱法のばらつき、初回離脱と予後の関連性、離脱方法の選定と初回自発呼吸トライアル(SBT)不成功の関連因子を明らかにすること。 【デザイン、設定および参加者】世界6地域19カ国の142の集中治療室(ICU)(カナダ27施設、インド23施設、英国22施設、欧州26施設、オーストラリア・ニュージーランド21施設、米国23施設)で、24時間以上IMVを受ける重篤患者を検討した国際共同前向き観察研究。 【曝露】IMV。 【主要評価項目】主解析で、初回IMV離脱方法(抜管、自発呼吸トライアル[SBT]または気管切開)と臨床転帰(人工呼吸期間、ICUおよび院内死亡率、ICU入室および入院日数)の関連性を明らかにした。副次解析で、SBTの結果とSBTのタイミングおよび臨床転帰の関連性を検討した。 【結果】1,868例(年齢中央値[四分位範囲]、61.8(48.9~73.1)歳;男性1,173例[62.8%])のうち、424例(22.7%)に直接抜管、930例(49.8%)に初回SBT実施(761例[81.8%]が成功)、150例(8.0%)に気管切開を実施し、364例(19.5%)が離脱前に死亡した。各地域で、治療、毎日のスクリーニング、SBTの手法、換気モードに関する指示書の使用および離脱に携わる臨床医が果たす役割に差があった。直接抜管と比べると、初回SBTの方がICU死亡率が高く(20例[4.7%] vs 96例[10.3%]、絶対差5.6%[95%CI、2.6~8.6])、人工呼吸器装着期間が長く(中央値2.9日 vs 4.1日;絶対差1.2日、[95%CI、0.7~1.6])、ICU在室期間が長かった(中央値6.7日 vs 8.1日;絶対差1.4日[95%CI、0.8~2.4])。初回SBTが不成功の患者は、成功した患者よりもICU死亡率が高く(29例[17.2%] vs 67例[8.8%]、絶対差8.4%[95%CI、2.0~14.7])、人工呼吸器装着期間(中央値6.1日 vs 3.5日;絶対差2.6日[95%CI、1.6~3.6])およびICU在室期間が長かった(中央値10.6日 vs 7.7日;絶対差2.8日[95%CI、1.1~5.2])。早期に初回SBTを実施した患者に比べると、後期(挿管から2.3日以降)に実施した患者の方が人工呼吸器装着期間(中央値2.1日 vs 6.1日;絶対差4.0日[95%CI、3.7~4.5])およびICU在室期間が長く(中央値5.9日 vs 10.8日;絶対差4.9日[95%CI、4.0~6.3])、入院期間が長かった(中央値14.3日 vs 22.8日;絶対差8.5日[95%CI、6.0~11.0])。 【結論および意義】2013~2016年にカナダ、インド、英国、欧州、オーストラリア・ニュージーランド、米国のICU 142施設で侵襲的人工呼吸療法の離脱を検討した観察研究では、地域間で離脱方法にばらつきがあることが示された。 第一人者の医師による解説 直接抜管群が転帰良好 しかし優位性を示すのではなく地域間でウィーニング手技実践にバラツキ 佐々木 勝教 医療法人 横浜未来ヘルスケアシステム 戸塚共立第2病院救急科部長 MMJ. October 2021;17(5):156 本研究は世界6地域19カ国にある142の集中治療室(ICU)で24時間以上人工呼吸管理を受けた患者を対象に人工呼吸器からの離脱法、転帰を前向き観察研究で以下の項目を検討した:主解析では①人工呼吸器からの離脱法(直接抜管[自発呼吸トライアルせずに抜管]、自発呼吸トライアル= SBT、気管切開)②臨床転帰(人工呼吸管理期間、ICUおよび院内死亡率、ICU滞在および入院日数)、副次解析ではSBTのアウトカム、施行のタイミングと臨床転帰の関連。 結果、対象患者1,868人中、22.7%に直接抜管、49.8%に初回 SBT、8.0%に気管切開が実施された。離脱前に死亡した患者は19.5%であった。ただし、地域間で、離脱に関する手順書の使用、毎日のスクリーニング、SBTの手法、換気モード、離脱において臨床医の果たす役割に関して差異がみられた。直接抜管群と比較し、初回SBT群の方が、ICU死亡率が高く(4.7 対 10.3%)、人工呼吸器装着期間(中央値2.9 対 4.1日)、ICU滞在日数(中央値6.7 対 8.1日)も長かった。また、初回 SBTが不成功だった群は、成功した群と比較し、ICU死亡率が高く(17.2 対 8.8%)、人工呼吸器装着期間(中央値6.1 対 3.5日)、ICU滞在日数もより長い傾向だった(中央値10.6 対 7.7日)。早期にSBTが成功した群と、挿管から3.3日以降の時期(後期)に成功した群との比較でも同様の傾向がみられ、人工呼吸器装着期間(中央値2.1 対 6.1日)、ICU滞在期間(中央値5.9 対 10.8日)、入院日数(中央値14.3 対 22.8日)は長かった。 結果を表層的に解釈すると、SBTより直接抜管(しかも8.5%が計画外抜管)を選択した方が、転帰が良好な印象を受ける。この点は併載された論説1でも指摘しており、背景としてSBT施行群の方が、より高齢で、悪性腫瘍、高血圧の合併率が高い可能性があることが問題とされている。同様に早期 vs 後期のSBTの比較でも、早期 SBTを実施できない理由が明確になっていない。また、各地域間でウィーニング手技のバラツキが結果に影響した可能性がある。例えば、直接抜管は米国で同国全体の約4%であったが、オーストラリア/ニュージーランドでは両国全体のおよそ6割であった。このように、本論文の結語においては、バラツキの補正が十分ではないため、直接抜管の優位性を示すのではなく、各地域、施設でのウィーニング手技はさまざまであったと結論づけている。
前十字靱帯断裂に対する早期再建術とリハビリテーション+待機遅延再建術の比較:COMPARE無作為化比較試験
前十字靱帯断裂に対する早期再建術とリハビリテーション+待機遅延再建術の比較:COMPARE無作為化比較試験
Early surgical reconstruction versus rehabilitation with elective delayed reconstruction for patients with anterior cruciate ligament rupture: COMPARE randomised controlled trial BMJ. 2021 Mar 9;372:n375. doi: 10.1136/bmj.n375. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【目的】前十字靭帯(ACL)断裂によく用いられる2通りの治療法に、2年間にわたる膝の症状および機能、スポーツへの復帰に対する患者の認識に対する臨床的に意義のある差があるかを評価すること。 【デザイン】多施設共同非盲検並行群間無作為化比較試験(COMPARE試験)。 【設定】2011年5月から2016年4月までのオランダの病院6施設。 【参加者】6施設から募集した18~65歳の急性期ACL断裂患者。3、6、9、12、24カ月時に患者を評価した。 【介入】85例を早期にACL再建術を施行するグループ、82例を3カ月間のリハビリ後に任意で遅延ACL再建術を施行するグループ(初期に非外科的治療実施)に無作為化により割り付けた。 【主要評価項目】24カ月間にわたる各評価時点で、International Knee Documentation Committee(最高スコア100点)スコアにより、膝の症状および機能、スポーツへの復帰に対する患者の認識を評価した。 【結果】2011年5月から2016年4月までの間に167例を組み入れ、2通りの治療法に無作為化により割り付けた(平均年齢31.3歳、女性67例[40%])。163例(98%)が試験を完遂した。リハビリ後任意遅延ACL再建術群では、追跡調査期間中に41例(50%)に再建術を施行した。24カ月後、早期ACL再建術群はInternational Knee Documentation Committeeスコアが有意に良好であった(P=0.026)が、臨床的な意義は認められなかった(84.7点 v 79.4点、群間差5.3点、95%CI 0.6~9.9)。追跡3カ月後、リハビリ後任意遅延ACL再建術群のIKDCスコアは有意に良好であった(P=0.002、群間差-9.3点、同-14.6~-4.0)。追跡9カ月後、IKDCスコア変化量は、早期ACL再建術群の方が良好であった。12カ月後、両群の差は小さくなった。追跡期間中、早期ACL再建術群では、4例に再断裂、3例に対側ACL断裂が発生したのに対して、リハビリ後の任意遅延ACL再建術群では2例に再断裂、1例に対側ACL断裂が発生した。 【結論】急性期ACL断裂患者で、早期再建術の方がリハビリ後待機再建術よりも、2年追跡時の膝の症状および機能、スポーツへの復帰に対する認識が改善した。この結果は有意(P=0.026)ではあったが、臨床的に意義があるかは明らかになっていない。試験結果の解釈には、リハビリ群に割り付けた患者の50%に再建術が不要であったことを考慮に入れる必要がある。 第一人者の医師による解説 膝前十字靱帯損傷には早期手術が成績良好もリハビリで半数は手術回避 久保田 光昭(准教授)/石島 旨章(主任教授) 順天堂大学医学部整形外科学講座 MMJ. October 2021;17(5):152 膝前十字靭帯(ACL)再建術を受傷後早期に行うべきか、あるいは術前リハビリを行ったのちに手術を行うべきかについて検討したランダム化対照試験(RCT)はない。本論文は、2011〜16年にオランダの6施設で行われた初回ACL単独損傷に対し、早期手術とリハビリ後選択的待機手術の術後成績を比較検討したRCTである。 対象は18〜65歳で、早期手術群は受傷後6週間以内にACL再建術を行い、リハビリ群は最低3カ月間のリハビリ後に手術を受けるかどうか患者本人が選択した。167人(早期手術群85人、リハビリ群82人)が対象となり、リハビリ群のうち50%(41人)は受傷後平均10.6ヵ月で手術を行った。主観的膝評価法であるIKDC(international knee documentation committee)スコアは3カ月経過時点ではリハビリ群が有意に良好だが、6カ月〜2年まで早期手術群が有意に良好な成績であった(P=0.026)。また2年経過時点でのKOOS(knee injury and osteoarthritis outcome score)スポーツとQOLサブカテゴリ、そしてLysholmスコアは、いずれも早期手術群が有意に良好な成績であった。 今回のRCTでは、2年経過の膝の症状および機能の改善、そしてスポーツ復帰に関し、早期手術群の方が良好な結果であった。しかし、リハビリ待機群のうち半数が手術を必要としなかったことを考慮すると、本研究の結果の臨床的な位置づけについては注意を要する。また、両群間の差は臨床的有意義 な 差(minimal clinically important difference;MCID)も認めなかった。過去の報告では、ACL受傷後リハビリ行った後に手術を必要としたのは、2年で39%、5年で51%であった(1),(2)。ACL再建術を選択する理由は、膝崩れを繰り返すことで高まる2次性の半月板や軟骨損傷のリスクを低下させることである。しかし、早期手術群にも多くの半月板損傷を認め、ACL再建術を行っても半月板損傷の発生を完全に防止することは困難であり、ACL損傷は変形性膝関節症(OA)のリスクを高める(2)。リハビリ群の半数が治療に満足していなかったために早期の手術を選択したのか否かを検証する必要がある。ACL損傷は半月板損傷そしてOA発生のリスクが高まるため、ACL再建術の実施時期についての本研究は挑戦的ではあるが、どちらの方法がOA予防に有効であるかという視点での長期の経過観察が必要である。 1. Frobell RB, et al. N Engl J Med. 2010;363(4):331-342. 2. Lie MM, et ak. Br J Sports Med. 2019;53(18):1162-1167.
急性冠症候群疑い患者の高流量酸素療法と死亡リスク:実用的クラスター無作為化クロスオーバー試験
急性冠症候群疑い患者の高流量酸素療法と死亡リスク:実用的クラスター無作為化クロスオーバー試験
High flow oxygen and risk of mortality in patients with a suspected acute coronary syndrome: pragmatic, cluster randomised, crossover trial BMJ. 2021 Mar 2;372:n355. doi: 10.1136/bmj.n355. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【目的】急性冠症候群(ACS)の疑いがある患者で、高流量酸素療法と30日死亡率の関連性を明らかにすること。 【デザイン】実用的クラスター無作為化クロスオーバー試験。 【設定】ニュージーランドの4地域。 【参加者】試験期間中、All New Zealand Acute Coronary Syndrome Quality Improvement(ANZACS-QI)レジストリまたはambulance ACS pathwayに組み入れられたACSが疑われる患者およびACSの診断が確定した患者4万872例。2万304例に高流量酸素療法、2万568例に低流量酸素療法を実施した。レジストリおよびICD-10退院コードから、ST上昇型心筋梗塞(STEMI)か非STEMIの最終診断を明らかにした。 【介入】2年間にわたり、4地域を2通りの酸素療法に6カ月単位で無作為に割り付けた。高流量酸素群では、経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)に関係なく、虚血症状や心電図の変化に応じて、酸素マスクによる酸素6~8L/分を供給した。低流量酸素群では、SpO2が90%を下回った場合のみ、SpO2 95%未満を目標に酸素を供給した。 【主要評価項目】登録データとの連携により明らかにした30日全死因死亡率。 【結果】両酸素療法によって管理した患者データおよび臨床データは一致していた。ACS疑い患者の30日死亡数は、高酸素群および低酸素群でそれぞれ613例(3.0%)、642例(3.1%)だった(オッズ比0.97、95%CI 0.86~1.08)。STEMI患者4159例(10%)の30日死亡率は、高酸素群および低酸素群でそれぞれ8.8%(178例)、10.6%(225例、同0.81、0.66~1.00)で、非STEMI患者1万218例(25%)では3.6%(187例)、3.5%(176例)だった(同1.05、0.85~1.29)。 【結論】ACSの疑いがある患者の大規模コホートで、高流量酸素療法に30日死亡率の上昇、低下いずれの関連も認められなかった。 第一人者の医師による解説 ST上昇型急性心筋梗塞患者では改善傾向 酸素投与の適否は担当医に委ねられべき 清末 有宏 森山記念病院循環器センター長 MMJ. October 2021;17(5):144 急性冠症候群(ACS)患者に対する酸素投与は、予後改善効果を示すエビデンスが少ないまま50年以上前から実施されてきた世界共通の治療習慣である。これはACS患者ではしばしば心不全合併などに伴い低酸素血症が合併することを考慮すれば理にかなっているが、過剰な動脈血酸素分圧上昇は冠動脈攣縮や酸化ストレスを誘発するため、近年酸素投与の有害性を指摘する報告が続いていた。 現行の各国ガイドラインはメタ解析(1)やDETO2X-AMI試験2の結果をもとに、低酸素血症の目立たない急性心筋梗塞患者への酸素投与を勧めていないが、ただ根拠となっている臨床試験にも(低酸素血症が発生しにくい)比較的低リスク患者のみが組み入れられていたり、組み入れ患者数(特に最も酸素投与の恩恵が期待できると思われるST上昇型急性心筋梗塞患者数)が十分ではないなどの研究限界が挙げられてきた。 本研究において著者らはそういった研究限界を払拭すべく、十分な患者数の確保が期待できるAll New Zealand Acute Coronary Syndrome Quality Improvementレジストリーを用い、酸素投与プロトコールをより厳密に設定し、さらにバイアスを排除すべくクラスター・クロスオーバー・デザインを採用した(4地域に分けて酸素投与プロトコールを時期により設定し、その設定を入れ替えた)。40,872人という十分な患者数が組み入れられた結果、30日全死亡に関して高用量酸素投与群では低用量酸素投与群に対するオッズ比が0.97と有益性は認められなかったが、有害性も認められなかった。さらに、ST上昇型急性心筋梗塞患者群に限れば1.8%の絶対リスク低下(8.8% 対 10.6%)が得られ、オッズ比は0.81であった。 本研究結果の解釈は論文中のディスカッションパートでも非常に慎重に議論されているが、ACS患者を日常的に診療している一臨床医として意見を述べさせていただけるのであれば、30日全死亡率1.8%の改善は臨床的に意味を持つ大きさであるし、しばしば画一的になりすぎてしまいがちなガイドラインに基づく診療方針において(つまりACS患者に対する酸素療法がどのような場合でも不適切といった認識)、対象患者を選べば酸素療法は決して有害性がないばかりか有益性も期待できる、といったポジティブな解釈もできるのではなかろうか。ACSという診断名の下には多種多様な患者が含まれるため、今回の結果を踏まえれば酸素投与の適否は各患者の担当医に委ねられてしかるべき、ということになろう。 1. Chu DK, et al. Lancet. 2018;391(10131):1693-1705. 2. Hofmann R, et al. N Engl J Med. 2017;377(13):1240-1249.
初回再発を認めた高リスクB細胞性急性リンパ性白血病患児の無事象生存期間にもたらすブリナツモマブと化学療法の作用の比較:無作為化臨床試験
初回再発を認めた高リスクB細胞性急性リンパ性白血病患児の無事象生存期間にもたらすブリナツモマブと化学療法の作用の比較:無作為化臨床試験
Effect of Blinatumomab vs Chemotherapy on Event-Free Survival Among Children With High-risk First-Relapse B-Cell Acute Lymphoblastic Leukemia: A Randomized Clinical Trial JAMA. 2021 Mar 2;325(9):843-854. doi: 10.1001/jama.2021.0987. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【重要性】ブリナツモマブは、CD3/CD19を標的とした二重特異性T細胞誘導作用を有する抗体製剤であり、再発または難治性B細胞性急性リンパ性白血病(B-ALL)患児に有効である。 【目的】初回再発を認めた高リスクB-ALL患児で、同種造血幹細胞移植前のブリナツモマブによる3回目地固め療法後の無事象生存期間を地固め化学療法と比較すること。 【デザイン、設定および参加者】この第III相無作為化試験では、2015年11月から2019年7月までの間に患者を登録した(データ打ち切り日、2019年7月17日)。13カ国47施設で、無作為化時に形態学的完全寛解(M1 marrow、骨髄中芽球細胞5%未満)またはM2 marrow(骨髄中芽球細胞5%以上25%未満)で、28日齢を超える18歳未満の初回再発高リスクB-ALL患児を登録した。 【介入】患者をブリナツモマブ1サイクル(54例、15μg/m2/日、4週間、持続点滴静注)と3コース目地固め化学療法(54例)に割り付けた。 【主要評価項目】主要評価項目は無事象生存率とした(事象:再発、死亡、二次がんまたは完全寛解未達成)。有効性に関する主な副次評価項目は全生存率とした。微小残存病変陰性化および有害事象発現率をその他の副次評価項目とした。 【結果】計108例を無作為化により割り付け(年齢中央値5.0歳[四分位範囲{IQR}4.0~10.5]、女児51.9%、M1 marrow 97.2%)、全例を解析対象とした。本試験への登録は、予め定めた中止基準に従って、早期有効中止となった。追跡期間中央値22.4カ月(IQR 8.1~34.2)での事象発生率は、ブリナツモマブ群31%、地固め化学療法群57%であった(log-rank検定のP<0.001、ハザード比0.33、95%CI 0.18~0.61)。ブリナツモマブ群の8例(14.8%)、地固め化学療法群の16例(29.6%)が死亡した。全生存のハザード比は0.43(95%CI 0.18~1.01)だった。ブリナツモマブ群の微小残存病変陰性化が地固め化学療法群よりも多かった(90%[49例中44例] vs. 54%[48例中26例]、差35.6%[95%CI 15.6~52.5])。致命的な有害事象は報告されなかった。ブリナツモマブ群と地固め化学療法群を比較すると、重篤な有害事象発現率はそれぞれ24.1% vs 43.1%、グレード3以上の有害事象発現率は57.4% vs 82.4%であった。ブリナツモマブ群の2例に治療中止に至る有害事象が報告された。 【結論および意義】初回再発を認めた高リスクB-ALL患児で、同種造血幹細胞移植前のブリナツモマブ1サイクルによる治療によって、多剤強化標準化学療法に比べ、追跡調査期間中央値22.4カ月で無事象生存率が改善した。 第一人者の医師による解説 安全に深い寛解を達成し 同種造血幹細胞移植の成績向上に寄与することを示唆 森 毅彦 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科血液内科学教授 MMJ. October 2021;17(5):150 小児急性リンパ性白血病(ALL)は成人のそれとは異なり、標準的な多剤併用化学療法により高い治癒率を得ることができる。しかし、再発した場合の予後は不良であり、その根治のためには同種造血幹細胞移植(HSCT)が実施される。同種HSCTは移植後の合併症による死亡と移植後のALL再発が、その成績に大きく影響する。移植後再発のリスクは残存腫瘍が少ないほど低いため、深い寛解を達成して移植に臨むのが理想的である。そのために毒性の強い化学療法を行ってきたが、近年、新規治療法が導入されてきている。その1つがブリナツモマブであり、bispecifi c T-cell engager(BiTE)抗体と呼ばれ、異なる抗原結合部位をもつ2重特異性抗体である。B細胞性腫瘍が発現するCD19と抗腫瘍効果を発揮するT細胞表面上のCD3を標的としている。小児再発・治療抵抗性 ALLを対象とした試験において39%の寛解率、そのうちの約半数が微少残存腫瘍の消失を達成した(1)。 本論文は再発後の治療で寛解を達成した小児高リスクALL患者を対象に、同種HSCT前の3回目地固め療法(1コース)をブリナツモマブ単剤と多剤併用化学療法に無作為に割り付けた臨床試験の結果を示したものである。この治療後に同種HSCTを実施する患者が対象であり、年齢中央値は5歳であった。本試験は中間評価にてブリナツモマブ群の成績が優れていたことから、早期に中止となった。24カ月無イベント生存率はブリナツモマブ群66.2%、化学療法群27.1%と有意差がみられた。24カ月再発率も24.9%と70.8%、微少残存腫瘍陰性化率も90%と54%と有意差がみられた。重篤な有害事象はブリナツモマブ群で少なかった。ブリナツモマブにより安全に深い寛解を達成し、同種HSCTの成績向上に寄与することが示唆された。 本研究の限界としては、小児を対象としていること、化学療法により寛解を達成した患者を対象としていること、1コースのブリナツモマブと化学療法を比較している点などが挙げられる。実診療では若年・成人のALL患者も多く、ブリナツモマブを非寛解例に使用することや複数コース使用するケースも多い。またブリナツモマブ以外にもCD19を標的としたchimeric antigen receptor T-cell (CAR-T)療法やCD22を標的とした抗体薬物複合体のイノツズマブ オゾガマイシンも実診療で使用可能となっており、これらの薬剤との比較や併用療法などの有効性・安全性を評価する試験が実施されることで、再発ALLの最適な治療法の発展につながっていくと考えられる。 1.von Stackelberg A, et al. J Clin Oncol. 2016;34(36):4381-4389.
米国の新型コロナウイルス感染症入院患者の死亡予防に用いる予防的抗凝固療法の早期開始:コホート研究
米国の新型コロナウイルス感染症入院患者の死亡予防に用いる予防的抗凝固療法の早期開始:コホート研究
Early initiation of prophylactic anticoagulation for prevention of coronavirus disease 2019 mortality in patients admitted to hospital in the United States: cohort study BMJ. 2021 Feb 11;372:n311. doi: 10.1136/bmj.n311. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【目的】予防的抗凝固療法の早期開始によって、米国で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のため入院した患者の死亡リスクが低下するかを評価すること。 【デザイン】観察コホート研究。 【設定】大規模な全国統合保健制度、退役軍人省の下で治療を受けている患者の全国コホート。 【参加者】2020年3月1日から7月31日までの間に検査で新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染が確定し、抗凝固薬服用歴がない全入院患者4,297例。 【主要評価項目】主要評価項目は30日死亡率とした。死亡率、抗凝固薬による治療開始(血栓塞栓事象などの臨床的悪化の代用)および輸血を要する出血を副次評価項目とした。 【結果】COVID-19で入院した患者4,297例のうち3,627例(84.4%)が入院から24時間以内に予防的抗凝固療法を受けた。治療した患者の99%以上(3,600例)にヘパリンまたはエノキサパリンを皮下投与していた。入院から30日以内に622例が死亡し、そのうち513例が予防的抗凝固療法を受けていた。死亡のほとんど(622例中510例、82%)が入院中に発生した。逆確率重み付け解析を用いると、30日時の累積死亡率は、予防的抗凝固療法を受けた患者で14.3%(95%CI 13.1~15.5%)、予防的抗凝固療法を受けなかった患者で18.7%(15.1~22.9%)であった。予防的抗凝固療法を受けなかった患者と比べると、予防的抗凝固療法を受けた患者は30日死亡リスクが27%低かった(ハザード比0.73、95%CI 0.66~0.81)。入院中の死亡および抗凝固薬による治療開始にも同じ関連が認められた。予防的抗凝固療法に輸血を要する出血リスク上昇との関連は見られなかった(ハザード比0.87、0.71~1.05)。定量的バイアス解析から、結果が未測定の交絡に対しても頑強であることが示された(30日死亡率の95%CI下限のe-value 1.77)。感度解析の結果も一致していた。 【結論】COVID-19入院患者に対して早期に予防的抗凝固療法を開始すると、抗凝固薬を投与しなかった患者と比べて30日死亡率が低下し、重篤な出血事象リスクの上昇も見られなかった。この結果は、COVID-19入院患者の初期治療に予防的抗凝固療法を推奨するガイドラインを支持する実臨床の強力な科学的根拠を示すものである。 第一人者の医師による解説 軽症入院例では血栓症の合併は少ない 使用される薬剤や人種差にも注意 射場 敏明 順天堂大学大学院医学研究科救急・災害医学教授 MMJ. October 2021;17(5):139 本論文で報告された新型コロナウイルス感染症(COVID-19)入院患者を集積した米国のコホート研究によれば、入院24時間以内に予防量ヘパリンによる抗凝固療法を開始した場合、抗凝固療法を実施しない場合に比べ、30日死亡率が絶対差で4.4%低かった(14.3%[実施群]対18.7%[非実施群];ハザード比、 0.73;95%信頼区間、 0.66?0.81)。一方、出血性有害事象に関しては有意差が認められなかった。今回の研究では患者全体の84.4%に入院24時間以内に抗凝固療法が開始され、使用された抗凝固薬の99.3%がヘパリン製剤(エノキサパリン 69.1%、ヘパリン 30.2%)*であった。死亡の大多数は院内死亡であった。 本研究は退役軍人を対象として実施された全国規模の後方視的コホート研究で、集積 COVID-19患者数は総計11万人を超え、この中からマッチングで選ばれた4,297人において比較が行われている。このような観点からは、実臨床に基づいた研究結果とすることができるが、やはり観察研究であるため治療による転帰の改善という因果関係を検証したものではない。しかし米国では予防的抗凝固療法が8割以上の患者に実施されていることを考えると、非治療群を設定した無作為化対照試験の実施はいまさら困難であることも理解できる。この背景としては、COVID-19では高率に血栓症の合併がみられること、また肺微小循環における血栓形成が呼吸機能の悪化に関わっていることが以前から指摘され(1)、国際血栓止血学会(ISTH)をはじめとして主要な国際機関が早々に予防的抗凝固療法の重要性を啓蒙してきたことなどが挙げられる(2)。よってCOVID-19入院患者に対するヘパリン療法は、基本的に実施が前提であり、研究に関してはすでに予防量と治療量の比較に視点が移っていることは否めない。ちなみに、治療量の有用性は複数の無作為化対照試験で評価されているが、今のところ予防量に比べ明らかな有用性はみられないとする結果が多いようである(3)。一方、今回の研究結果を本邦で解釈するにあたっては、使用される薬剤の種類や人種差などいくつかの点に注意する必要があるが、特に気をつける必要があるのは、海外においては入院の対象になるのは基本的に中等症以上であり、日本のように軽症例が入院することはないという点である。軽症入院例では血栓症の合併は少なく、抗凝固療法のメリットは少ないことは念頭に置いておく必要があるだろう。 * 予防量として、ヘパリン 5,000 ユニット、1 日 2 回または 3 回皮下投与、エノキサパリン 40mg1 日 1 回または 30mg1 日 2 回皮下投与 1. Iba T, et al. J Thromb Haemost. 2020;18(9):2103-2109. 2. achil J, et al. J Thromb Haemost. 2020;18(5):1023-1026. 3. Leentjens J, et al. Lancet Haematol. 2021;8(7):e524-e533.
思春期および若年成人期の1型糖尿病に用いるハイブリッド型クローズドループシステム2種の比較(FLAIR):多施設共同無作為化クロスオーバー試験
思春期および若年成人期の1型糖尿病に用いるハイブリッド型クローズドループシステム2種の比較(FLAIR):多施設共同無作為化クロスオーバー試験
A comparison of two hybrid closed-loop systems in adolescents and young adults with type 1 diabetes (FLAIR): a multicentre, randomised, crossover trial Lancet. 2021 Jan 16;397(10270):208-219. doi: 10.1016/S0140-6736(20)32514-9. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】1型糖尿病の管理は困難である。著者らは、思春期および若年成人期の1型糖尿病患者を対象に、市販のハイブリッド型クローズドループシステムと開発中の新たなシステムを用いた結果を比較した。 【方法】この多施設共同無作為化クロスオーバー試験(Fuzzy Logic Automated Insulin Regulation[FLAIR])では、米国4施設、ドイツ、イスラエルおよびスロベニア各1施設の大学病院内分泌科で、1年以上前に1型糖尿病の臨床診断を受け、インスリンポンプまたは多数の1日1回インスリン注射を用いており、HbA1cが7.0~11.0%(53~97mmol/mol)の14~39歳の患者を募集した。試験に用いるポンプと持続グルコースモニタの使い方を指導する導入期間ののち、参加者をコンピュータが生成した数列を用いて、置換ブロックデザイン(ブロックの長さ2または4)で、治療前のHbA1cおよび登録時のMiniMed 670G system(Medtronic社)使用の有無で層別化した上で、最初の12週間をMiniMed 670G hybrid closed-loop system(670G)と開発中の高機能ハイブリッド型クローズドループシステム(Medtronic社)に(1対1の割合で)割り付け、その後の12週間をウォッシュアウト期間を設けずにもう一方のグループに交差させた。使用するシステムの性質上、遮蔽化は不可能であった。主要評価項目は、6時00分から23時59分(日中など)までの間に血糖値が180mg/dL(>10.0mmol/L)を超えた時間の割合および24時間のうち血糖値が54mg/dL(<3.0mmol/L)を下回った時間の割合とし、持続グルコースモニタで測定し、非劣性を評価した(非劣性のマージン2%)。intention to treatで解析することとした。治療を割り付けた患者全例で安全性を評価した。この試験はClinicalTrials.govにNCT03040414で登録されており、現在は終了している。 【結果】2019年6月3日から8月22日の間に113例を試験に組み入れた。平均年齢が19歳(SD 4)、70例(62%)が女性であった。日中の血糖値が180mg/dL(>10.0mmol/L)を超えた時間の平均割合が ベースラインで42%(SD 13)、670Gシステム使用中で37%(9)、高機能ハイブリッド型クローズドループシステム使用中で34%(9)であった(平均差[高機能ハイブリッド型クローズドループシステム-670Gシステム]-3.00%[95%CI -3.97~-2.04];P<0.0001)。24時間のうち血糖値が54mg/dL(<3.0mmol/L)を下回った時間の平均割合が試験開始前で0.46%(SD 42)、670Gシステム使用中で0.50%(0.35)、高機能ハイブリッド型クローズドループシステム使用中で0.46%(同0.33)であった(平均差[高機能ハイブリッド型クローズドループシステム-670Gシステム]-0.06%[95%CI ~0.11~-0.02];非劣性のP<0.0001)。高機能ハイブリッド型クローズドループシステム群で重篤な低血糖発作が1件発生したが、試験治療と関連がないと考えられ、670G群では1件もなかった。 【解釈】市販のMiniMed 670Gと比べると、開発中の高機能ハイブリッド型クローズドループシステムを用いた思春期および若年成人期の1型糖尿病患者で、低血糖発作が増えることなく高血糖が減少した。社会経済的因子のため十分なサービスを受けられていない集団や、妊婦、低血糖症状を自覚できない患者で高機能ハイブリッド型クローズドループシステムを検証すれば、この技術をさらに有効に活用することができるであろう。 第一人者の医師による解説 糖尿病合併症やQOLの改善など より長期の研究で検討する必要あり 長澤 薫 虎の門病院内分泌代謝科糖尿病・代謝部門特任医長 MMJ. October 2021;17(5):146 思春期や若年成人期の1型糖尿病患者の血糖コントロールは難易度が高く、やりがいのある課題である。本論文は、従来より使用されているハイブリッド型クローズドループシステム(HCLS;患者のグルコース値のアルゴリズムに基づき、ベーサルインスリンの投与量を調整するシステム)MiniMed670G(Medtronic社)と、現在開発中の次世代型のアドバンストハイブリッド型クローズドループシステム(AHCLS;従来の機能に加え、5分おきの自動修正ボーラスなど人工膵臓のアルゴリズムを用い、より強化されたインスリン調整機能が搭載されたシステム)(Medtronic社)の多施設共同無作為化クロスオーバー比較試験(FLAIR試験)の報告である。 米国、ドイツ、イスラエル、スロベニアの4カ国、計7つの専門施設で、診断後1年以上の14~29歳の1型糖尿病患者113人を対象とした。参加者のHbA1c値は7.0~11.0%で、ポンプの使用方法を習得するrun-in期間の後、初めにHCLSを使用する群とAHCLSを使用する群の2群に無作為に割り付け、12週間それぞれの機器を使用後、washout期間を設けずにクロスオーバーし、もう一方のインスリンポンプを12週間使用した。 主要評価項目は日中(6~24時)のグルコース値180mg/dL超、1日におけるグルコース値54mg/dL未満の時間の割合とされた(非劣性を検証、マージン 2%)。その結果、グルコース値180mg/dL超の時間はベースライン 42%であったが、HCLS使用期間は37%、AHCLS使用期間は34%と、HCLSに比べAHCLS使用期間では-3.0%(95%信頼区間[CI], -3.97~-2.04;P<0.0001)と高グルコース値の割合は有意に低下した。グルコース値54mg/dL未満の割合はベースライン 0.46%、HCLS使用期間は0.5%、AHCLS使用期間は0.46%と、AHCLS使用期間では-0.06%(95% CI, -0.11 ~-0.02;非劣性 P<0.0001)と有意な上昇は認められなかった。 AHCLS使用期間で1例の重症低血糖を認めたが、機器との関連はなかった。本試験はHCLSとAHCLSを直接無作為化クロスオーバーで比較した最初の論文で、AHCLSは従来型に比べ、低血糖を増やすことなく、有意に高血糖を減少させた。AHCLSのような進化したインスリン自動注入システムが高血糖、低血糖、自己管理の負担を減少させ、さらには糖尿病合併症、患者の生活の質(QOL)を改善するか否か、より長期の研究で検討する必要がある。実用化にあたっては適切なターゲット血糖値、アクティブインスリン(インスリンの作用時間)の設定など、さらなる議論も要するであろう。
画像で見分ける!衝撃症例〜頭頚部編〜
画像で見分ける!衝撃症例〜頭頚部編〜
こちらは、過去に前期研修中の先生方にお送りした「症例供覧メール」の衝撃症例一覧になります。 気になる症例はありましたか!? 画像をクリックすると症例詳細ページに遷移し、症例詳細や先生方の見解を閲覧できます。 「症例供覧メール」のバックナンバーも閲覧可能です。
#12 「コスタ・アトランチカ」乗組員への緊急医療支援活動
#12 「コスタ・アトランチカ」乗組員への緊急医療支援活動
発展途上国、日本のへき地離島、大規模災害の被災地……。世の中には「医療の届かないところ」があります。NPOジャパンハートはそんなところに、無償で医療支援を行っています。ボランティアとして参加した医療従事者が、現地での活動内容などを報告します。 長期ボランティア医師(活動地:日本) 「長崎にて、コスタ・アトランチカ号の医療支援第二陣に参加しています」 4月末から始まったジャパンハートの医療支援活動も2週目に入りました。クルーズ船のそばの陸地に設置されたプレハブ小屋で、自衛隊・長崎医療センター・Peace Winds・国境なき医師団と一緒に医療活動を行っています。 日々の業務内容としては、下船患者の状態確認や誘導・濃厚接触者へのPCR検査・状態悪化した患者のCT撮影や救急搬送の対応を行ったり、現場のマニュアル作りや物品管理のフローチャート作成をしたりしています。また、各医療チームが入れ替わるごとに、PPE(個人用防護服)の着脱方法を教え合ったり、船内で状態が悪化した患者が発生した時のシミュレーションを行ったりすることで、コロナ診療の経験が豊富なチームが後から新しく参加したチームに「ここでのコロナ対策」を伝達しています。 僕が普段活動しているミャンマーでもコロナ対策はしていましたが、実際のコロナ診療の現場に立ち会ってみて感じたのは、感染症診療の原則を踏まえつつ、同時にその現場ごとの環境に合わせた「ここでのコロナ対策」を作り上げていく必要があるということです。 今回のコスタ・アトランチカ号は、ダイヤモンド・プリンセス号での経験を踏まえて極めて冷静に対応されており、現場は予想していた以上に落ち着いています。自分たちの安全を第一として、安心して患者対応できるシステムが整っています。 そして、コスタ・アトランチカ号の現場に関わってみて、2月時点でのダイヤモンド・プリンセス号での混乱した現場の対応の難しさを実感しています。まだコロナ肺炎の自然経過も、一部の患者が急速に重症化するコロナ特有の経過も、優先すべき搬送順も分からない状況で、クルーズ船オペレーションの大きな方針から細かいマニュアル作りまでを決定し、刻々と変化する状況や情報に合わせて適宜修正を加えていくのは、どれほど困難だったでしょうか。あの現場で働かれた方々に心から敬意を表します。 また、ここに来てよかったのは他の医療支援チームとの出逢いです。Peace Windsの坂田大三先生は、ミャンマーの隣国バングラデシュで途上国医療をされていたり、僕の地元福山で地域医療をされていたりと、僕にとっては今後にも繋りそうな良い出逢いになりました。 最終的に全ての乗員が下船できるまでは、もうしばらく時間がかかりそうです。チーム内外でコミュニケーションをしっかり取りながら、乗員の皆が安心して帰国できるようにお手伝いしようと思います。 ミャンマーでの医療支援活動の様子 (ジャパンハート 2020年5月12日掲載) ジャパンハートは、ミャンマー、カンボジア、ラオスで長期ボランティアとして活動してくれる医師を募集しています。 「医療の届かないところに医療を届ける」活動に関心のある方は、ちょっとのぞいてみてください。 〉ジャパンハート オンライン相談会ページ
#11 「ホワイトボードの前に立つ」ことの大切さについて
#11 「ホワイトボードの前に立つ」ことの大切さについて
発展途上国、日本のへき地離島、大規模災害の被災地……。世の中には「医療の届かないところ」があります。NPOジャパンハートはそんなところに、無償で医療支援を行っています。ボランティアとして参加した医療従事者が、現地での活動内容などを報告します。 長期ボランティア医師(活動地:ミャンマー) 3月末からミャンマーへの外国人の入国制限が始まったので、4月から日本に一時帰国しています。帰国後は、自分が大学生だった時に発展途上国医療の現場で働いている医師から直接話を聞ける機会がほとんど無かったので、できるだけ多くの若い人に発展途上国で総合診療医として働いている「手触り」を伝えようと思い、総勢40名ぐらいの知り合いの医療者ひとりひとりに『発展途上国医療の現場から~』という活動報告会を開催させて頂けないかお願いしました。 でも、コロナのせいで、最初はOKとおっしゃってくださっていた活動報告会も、最終的にはすべて中止になってしまいました。とても残念です。でも、最近ようやくコロナが落ち着いてきて、また活動報告会をできる場所が無いかと探しています。 なぜ、こんなに活動報告会をしたいのかと言えば、もっと多くの若い人たちに発展途上国医療の現場に飛び込んで来て、発展途上国の社会問題を解決するのに一緒に協力して欲しいからです。そして、この現場で働いていると、日々学びがあり、楽しいからです。 こんなことを熱心に語っていると「君もまだ若いんだから、今からそんな老成したこと言って~」と冷やかされることがあります。まだそんな何かを語れるような年齢では無いだろう、というわけです。 でも自分は、齢をとったから何かを語れるようになるのではないと思っています。 村上龍は24歳で『限りなく透明に近いブルー』を書き、村上春樹は29歳で『風の歌を聴け』を書き、ゲバラは30歳でキューバ革命を起こしました。そんな彼らに「君もまだ若いんだから~」なんていう人はいません。伝えるべきことがあれば、何歳であろうが伝えられる。 じゃあ、もし、伝えるべきことがなければどうすればいいのだろうか? ジャック・ラカンは、「人は知っている者の立場に立たされている間はつねに十分に知っている」と言います。例えば、教師は何か特別な知識や技術があるから教えられるわけではなく、この人は私たちが何を学ぶべきかを知っている、という確信を持つ生徒の前に立つ限り、すでに十分に教師としての役割を果たしています。 つまり、誰だって「ホワイトボードの前に立つ」ならば教える人になれるということです。 『十五少年漂流記』の少年たちは無人島に漂着したのちに、住居と食糧を確保すると、次に学校を作りました。教師となった少年と生徒となった少年たちの年齢差はわずか5才。14才の年長者が、9才の年少者に比べて優れた知識・技能を持っていたとは思えません。でも、年長者がホワイトボードの前に立ち、ワクワクしている年少者に語るだけで学びの場は成立しました。 そして、教育の現場ではとても不思議なことに、年少者が学んだことが年長者が教えたことをはるかに凌駕することがあります。 元生徒「あの時に先生に言われたあの言葉が、とても心に残って・・・、それを突き詰 めるためにこの分野を突き進んで行ったらこうなったんです!」 元先生「う~ん、そんな事教えたかな~(笑)」 こういうことはよく起こり得ます。自分が教えていないことを生徒が勝手に学び取っていく、こういう教育の可能性を信じていることは教育に関わる人たちにとってとても大切だと確信しています。 だから、語れることがあろうと無かろうと、「ホワイトボードの前に立って」活動報告会をしたいと思っています。Happy! (ジャパンハート 2020年5月21日掲載) ジャパンハートは、ミャンマー、カンボジア、ラオスで長期ボランティアとして活動してくれる医師を募集しています。 「医療の届かないところに医療を届ける」活動に関心のある方は、ちょっとのぞいてみてください。 〉ジャパンハート オンライン相談会ページ
早産予防に用いるプロゲステロンを評価する国際共同研究(EPPPIC) 無作為化試験から抽出した個別患者データのメタ解析
早産予防に用いるプロゲステロンを評価する国際共同研究(EPPPIC) 無作為化試験から抽出した個別患者データのメタ解析
Evaluating Progestogens for Preventing Preterm birth International Collaborative (EPPPIC): meta-analysis of individual participant data from randomised controlled trials Lancet. 2021 Mar 27;397(10280):1183-1194. doi: 10.1016/S0140-6736(21)00217-8. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】早産は、優先して検討すべき世界的な健康問題である。早産リスクの高い妊娠中のプロゲステロン使用によって早産および新生児の有害転帰を抑制できると思われる。 【方法】早産リスクが高い無症候性の女性でプロゲステロン膣内投与、17-ヒドロキシプロゲステロンカプロン酸(17-OHPC)筋肉注射、経口プロゲステロンを対照またはそれぞれと比較した無作為化試験の系統的レビューを実施した。MEDLINE、Embase、CINAHL、Maternity and Infant Care Databaseの検索およびデータベース開始から2019年7月30日までの関連試験登録から、公開の有無を問わず2016年6月30日までに主要データの収集が完了した試験(データ収集開始12カ月前)を特定した。早期流産または差し迫った早産の危険を予防するプロゲステロンの試験を除外した。適格試験の担当医師に個別患者データの提供を依頼した。早産、早期早産および妊娠中期の出産を転帰とした。重篤な新生児合併症の複合および個別で早産による新生児有害転帰を評価した。複合および個別に有害妊娠転帰を調査した。研究者2人が個別患者データを確認し、バイアスリスクを評価した。主要メタ解析に、ランダム効果を統合した1段階の一般化線形混合モデルを用いて、試験間の異質性を考慮に入れた。このメタ解析は、PROSPERO(CRD42017068299)に登録されている。 【結果】初回検索で適格試験47件を特定した。このうち30件の個別患者データが得られた。対象とした更新があり、後日追加試験1件を組み入れた。従って、計31試験のデータが得られた(女性1万1644例および児1万6185例)。単胎妊娠を検討した試験に組み入れたのは、ほとんどが自然早産歴がある女性および子宮頸管長が短い女性であった。プロゲステロン膣内投与(9試験、女性3769例、相対リスク[RR]0.78、95%CI 0.68~0.90)、17-OHPC(5試験、女性3053例、0.83、0.68~1.01)および経口プロゲステロン(2試験、女性181例、0.60、0.40~0.90)を投与した女性で、34週未満の早産が減少した。その他の出産および新生児転帰の結果は一貫して良好であったが、信頼性が低かった。妊娠合併症リスク上昇の可能性が示唆されたが、不確かであった。治療の相互作用と患者背景に一貫した根拠は認められなかったが、下位集団の解析から、子宮頸管長が短くない女性では有効性がないことが疑われた。多胎妊娠を検討した試験に組み入れたのは、他の危険因子がない女性であった。プロゲステロン膣内投与(8試験、2046試験、RR 1.01、95%CI 0.84~1.20)で双胎妊娠女性の34週未満での早産が減少せず、17-OHPC(8試験、女性2253例、1.04、0.92~1.18)でも双胎および三胎妊娠で34週未満での早産が減少しなかった。多胎妊娠では、17-OHPC曝露で前期破水が増加した(34週未満の破水のRR 1.59、95%CI 1.15~2.22)が、プロゲステロン膣内投与でも17-OHPCでもその他の転帰に見られる便益や有害性の一貫した根拠は認められなかった。 【解釈】高リスクの単胎妊娠で、プロゲステロン膣内投与および17-OHPCによって34週未満での出産が減少した。潜在的リスクの上昇を考慮に入れると、子宮頸管長の短い女性で絶対リスクの低下度が大きいことから、このような女性では治療が有益であると思われる。経口プロゲステロンの使用を支持する根拠は不十分であった。高リスクの単胎妊娠女性との共同意思決定で、個別のリスク、考えられる便益と有害性および介入の実用性を話し合うべきである。この根拠から、任意に抽出した多胎妊娠でプロゲステロンによる治療は支持されない。 第一人者の医師による解説 日本で使用できるプロゲステロン製剤が課題 求められる国内での臨床研究 細谷聡史、左合治彦(副院長・周産期・母性診療センター長) 国立成育医療研究センター周産期・母性診療センター MMJ. August 2021;17(4):123 早産(妊娠22週以降37週未満の分娩)は妊娠中の最も頻度が高い最も重要な合併症である。早産児は呼吸障害や長期的な神経発達障害などの合併症をきたしやすく、早産を予防することは周産期医療の重要な課題である。内因性プロゲステロンは妊娠維持に関与し、低下すると陣痛発来することにより、1960年代から早産予防薬としてプロゲステロン製剤が用いられてきた。プロゲステロン製剤には天然型プロゲステロンを用いた腟製剤(錠剤とゲル)(VP)と合成化合物であるヒドロキシプロゲステロンカプロン酸エステル(17-OHPC)の筋肉注射製剤がある。2003年にはランダム化比較試験(RCT)で17-OHPCとVPの 早産予防効果が報告された(1),(2)。しかし、最近のOPPTIMUM試験とPROLONG試験という大規模 RCTでは、VPと17-OHPCの早産予防効果や児の予後改善効果は認められないと報告され(3),(4)、プロゲステロン製剤の効果に疑問が投げかけられた。 本論文は、早産リスクの高い妊婦(早産既往・子宮頸管長短縮)に対して早産予防効果を検証したRCTを対象とし、個別被験者データ(IPD)を集積してメタ解析を行い、VPと17-OHPCの早産予防効果を検証したものである。主要評価項目である単胎の34週未満の早産に関して、対照群と比較してVPは22%(相対リスク , 0.78;95%信頼区間 ,0.68~0.90)、17-OHPCは17%(0.83;0.68~1.01)のリスク低下を認め、早産予防効果の有効性を示した。ただし、頸管長が短縮していない(30mm超)妊婦では早産予防効果は認めなかった。母体合併症は増加する可能性が示唆された。また多胎妊娠に関して早産予防効果は認められなかった。以上の結果より、早産リスクが高く子宮頸管長短縮を認める単胎妊婦では、プロゲステロン製剤による早産予防効果が期待できるが、正確な情報を提供して個別のリスクとベネフィットを勘案した上での患者の意思決定に基づいて使用すべきとしている。 日本では17-OHPCは250mg/週筋注投与しているが、125mg/週のみが黄体機能不全に伴う切迫流早産を適応として保険収載されているだけである。またVPは生殖補助医療における黄体補充の適応で承認されているが薬価未収載で、切迫流早産は保険適応外である。日本ではVPの保険収載が大きな課題であり、そのための日本における質の高い臨床研究が求められている。 1. Meis PJ, et al. N Engl J Med. 2003;348(24):2379-2385. 2. da Fonseca EB, et al. Am J Obstet Gynecol 2003;188(2):419-424. 3. Norman JE, et al. Lancet. 2016;387(10033):2106-2116. 4. Blackwell SC, et al. Am J Perinatol. 2020;37(2):127-136.
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