最新の記事すべて

初回再発を認めた高リスクB細胞性急性リンパ性白血病患児の無事象生存期間にもたらすブリナツモマブと化学療法の作用の比較:無作為化臨床試験
初回再発を認めた高リスクB細胞性急性リンパ性白血病患児の無事象生存期間にもたらすブリナツモマブと化学療法の作用の比較:無作為化臨床試験
Effect of Blinatumomab vs Chemotherapy on Event-Free Survival Among Children With High-risk First-Relapse B-Cell Acute Lymphoblastic Leukemia: A Randomized Clinical Trial JAMA. 2021 Mar 2;325(9):843-854. doi: 10.1001/jama.2021.0987. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【重要性】ブリナツモマブは、CD3/CD19を標的とした二重特異性T細胞誘導作用を有する抗体製剤であり、再発または難治性B細胞性急性リンパ性白血病(B-ALL)患児に有効である。 【目的】初回再発を認めた高リスクB-ALL患児で、同種造血幹細胞移植前のブリナツモマブによる3回目地固め療法後の無事象生存期間を地固め化学療法と比較すること。 【デザイン、設定および参加者】この第III相無作為化試験では、2015年11月から2019年7月までの間に患者を登録した(データ打ち切り日、2019年7月17日)。13カ国47施設で、無作為化時に形態学的完全寛解(M1 marrow、骨髄中芽球細胞5%未満)またはM2 marrow(骨髄中芽球細胞5%以上25%未満)で、28日齢を超える18歳未満の初回再発高リスクB-ALL患児を登録した。 【介入】患者をブリナツモマブ1サイクル(54例、15μg/m2/日、4週間、持続点滴静注)と3コース目地固め化学療法(54例)に割り付けた。 【主要評価項目】主要評価項目は無事象生存率とした(事象:再発、死亡、二次がんまたは完全寛解未達成)。有効性に関する主な副次評価項目は全生存率とした。微小残存病変陰性化および有害事象発現率をその他の副次評価項目とした。 【結果】計108例を無作為化により割り付け(年齢中央値5.0歳[四分位範囲{IQR}4.0~10.5]、女児51.9%、M1 marrow 97.2%)、全例を解析対象とした。本試験への登録は、予め定めた中止基準に従って、早期有効中止となった。追跡期間中央値22.4カ月(IQR 8.1~34.2)での事象発生率は、ブリナツモマブ群31%、地固め化学療法群57%であった(log-rank検定のP<0.001、ハザード比0.33、95%CI 0.18~0.61)。ブリナツモマブ群の8例(14.8%)、地固め化学療法群の16例(29.6%)が死亡した。全生存のハザード比は0.43(95%CI 0.18~1.01)だった。ブリナツモマブ群の微小残存病変陰性化が地固め化学療法群よりも多かった(90%[49例中44例] vs. 54%[48例中26例]、差35.6%[95%CI 15.6~52.5])。致命的な有害事象は報告されなかった。ブリナツモマブ群と地固め化学療法群を比較すると、重篤な有害事象発現率はそれぞれ24.1% vs 43.1%、グレード3以上の有害事象発現率は57.4% vs 82.4%であった。ブリナツモマブ群の2例に治療中止に至る有害事象が報告された。 【結論および意義】初回再発を認めた高リスクB-ALL患児で、同種造血幹細胞移植前のブリナツモマブ1サイクルによる治療によって、多剤強化標準化学療法に比べ、追跡調査期間中央値22.4カ月で無事象生存率が改善した。 第一人者の医師による解説 安全に深い寛解を達成し 同種造血幹細胞移植の成績向上に寄与することを示唆 森 毅彦 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科血液内科学教授 MMJ. October 2021;17(5):150 小児急性リンパ性白血病(ALL)は成人のそれとは異なり、標準的な多剤併用化学療法により高い治癒率を得ることができる。しかし、再発した場合の予後は不良であり、その根治のためには同種造血幹細胞移植(HSCT)が実施される。同種HSCTは移植後の合併症による死亡と移植後のALL再発が、その成績に大きく影響する。移植後再発のリスクは残存腫瘍が少ないほど低いため、深い寛解を達成して移植に臨むのが理想的である。そのために毒性の強い化学療法を行ってきたが、近年、新規治療法が導入されてきている。その1つがブリナツモマブであり、bispecifi c T-cell engager(BiTE)抗体と呼ばれ、異なる抗原結合部位をもつ2重特異性抗体である。B細胞性腫瘍が発現するCD19と抗腫瘍効果を発揮するT細胞表面上のCD3を標的としている。小児再発・治療抵抗性 ALLを対象とした試験において39%の寛解率、そのうちの約半数が微少残存腫瘍の消失を達成した(1)。 本論文は再発後の治療で寛解を達成した小児高リスクALL患者を対象に、同種HSCT前の3回目地固め療法(1コース)をブリナツモマブ単剤と多剤併用化学療法に無作為に割り付けた臨床試験の結果を示したものである。この治療後に同種HSCTを実施する患者が対象であり、年齢中央値は5歳であった。本試験は中間評価にてブリナツモマブ群の成績が優れていたことから、早期に中止となった。24カ月無イベント生存率はブリナツモマブ群66.2%、化学療法群27.1%と有意差がみられた。24カ月再発率も24.9%と70.8%、微少残存腫瘍陰性化率も90%と54%と有意差がみられた。重篤な有害事象はブリナツモマブ群で少なかった。ブリナツモマブにより安全に深い寛解を達成し、同種HSCTの成績向上に寄与することが示唆された。 本研究の限界としては、小児を対象としていること、化学療法により寛解を達成した患者を対象としていること、1コースのブリナツモマブと化学療法を比較している点などが挙げられる。実診療では若年・成人のALL患者も多く、ブリナツモマブを非寛解例に使用することや複数コース使用するケースも多い。またブリナツモマブ以外にもCD19を標的としたchimeric antigen receptor T-cell (CAR-T)療法やCD22を標的とした抗体薬物複合体のイノツズマブ オゾガマイシンも実診療で使用可能となっており、これらの薬剤との比較や併用療法などの有効性・安全性を評価する試験が実施されることで、再発ALLの最適な治療法の発展につながっていくと考えられる。 1.von Stackelberg A, et al. J Clin Oncol. 2016;34(36):4381-4389.
米国の新型コロナウイルス感染症入院患者の死亡予防に用いる予防的抗凝固療法の早期開始:コホート研究
米国の新型コロナウイルス感染症入院患者の死亡予防に用いる予防的抗凝固療法の早期開始:コホート研究
Early initiation of prophylactic anticoagulation for prevention of coronavirus disease 2019 mortality in patients admitted to hospital in the United States: cohort study BMJ. 2021 Feb 11;372:n311. doi: 10.1136/bmj.n311. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【目的】予防的抗凝固療法の早期開始によって、米国で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のため入院した患者の死亡リスクが低下するかを評価すること。 【デザイン】観察コホート研究。 【設定】大規模な全国統合保健制度、退役軍人省の下で治療を受けている患者の全国コホート。 【参加者】2020年3月1日から7月31日までの間に検査で新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染が確定し、抗凝固薬服用歴がない全入院患者4,297例。 【主要評価項目】主要評価項目は30日死亡率とした。死亡率、抗凝固薬による治療開始(血栓塞栓事象などの臨床的悪化の代用)および輸血を要する出血を副次評価項目とした。 【結果】COVID-19で入院した患者4,297例のうち3,627例(84.4%)が入院から24時間以内に予防的抗凝固療法を受けた。治療した患者の99%以上(3,600例)にヘパリンまたはエノキサパリンを皮下投与していた。入院から30日以内に622例が死亡し、そのうち513例が予防的抗凝固療法を受けていた。死亡のほとんど(622例中510例、82%)が入院中に発生した。逆確率重み付け解析を用いると、30日時の累積死亡率は、予防的抗凝固療法を受けた患者で14.3%(95%CI 13.1~15.5%)、予防的抗凝固療法を受けなかった患者で18.7%(15.1~22.9%)であった。予防的抗凝固療法を受けなかった患者と比べると、予防的抗凝固療法を受けた患者は30日死亡リスクが27%低かった(ハザード比0.73、95%CI 0.66~0.81)。入院中の死亡および抗凝固薬による治療開始にも同じ関連が認められた。予防的抗凝固療法に輸血を要する出血リスク上昇との関連は見られなかった(ハザード比0.87、0.71~1.05)。定量的バイアス解析から、結果が未測定の交絡に対しても頑強であることが示された(30日死亡率の95%CI下限のe-value 1.77)。感度解析の結果も一致していた。 【結論】COVID-19入院患者に対して早期に予防的抗凝固療法を開始すると、抗凝固薬を投与しなかった患者と比べて30日死亡率が低下し、重篤な出血事象リスクの上昇も見られなかった。この結果は、COVID-19入院患者の初期治療に予防的抗凝固療法を推奨するガイドラインを支持する実臨床の強力な科学的根拠を示すものである。 第一人者の医師による解説 軽症入院例では血栓症の合併は少ない 使用される薬剤や人種差にも注意 射場 敏明 順天堂大学大学院医学研究科救急・災害医学教授 MMJ. October 2021;17(5):139 本論文で報告された新型コロナウイルス感染症(COVID-19)入院患者を集積した米国のコホート研究によれば、入院24時間以内に予防量ヘパリンによる抗凝固療法を開始した場合、抗凝固療法を実施しない場合に比べ、30日死亡率が絶対差で4.4%低かった(14.3%[実施群]対18.7%[非実施群];ハザード比、 0.73;95%信頼区間、 0.66?0.81)。一方、出血性有害事象に関しては有意差が認められなかった。今回の研究では患者全体の84.4%に入院24時間以内に抗凝固療法が開始され、使用された抗凝固薬の99.3%がヘパリン製剤(エノキサパリン 69.1%、ヘパリン 30.2%)*であった。死亡の大多数は院内死亡であった。 本研究は退役軍人を対象として実施された全国規模の後方視的コホート研究で、集積 COVID-19患者数は総計11万人を超え、この中からマッチングで選ばれた4,297人において比較が行われている。このような観点からは、実臨床に基づいた研究結果とすることができるが、やはり観察研究であるため治療による転帰の改善という因果関係を検証したものではない。しかし米国では予防的抗凝固療法が8割以上の患者に実施されていることを考えると、非治療群を設定した無作為化対照試験の実施はいまさら困難であることも理解できる。この背景としては、COVID-19では高率に血栓症の合併がみられること、また肺微小循環における血栓形成が呼吸機能の悪化に関わっていることが以前から指摘され(1)、国際血栓止血学会(ISTH)をはじめとして主要な国際機関が早々に予防的抗凝固療法の重要性を啓蒙してきたことなどが挙げられる(2)。よってCOVID-19入院患者に対するヘパリン療法は、基本的に実施が前提であり、研究に関してはすでに予防量と治療量の比較に視点が移っていることは否めない。ちなみに、治療量の有用性は複数の無作為化対照試験で評価されているが、今のところ予防量に比べ明らかな有用性はみられないとする結果が多いようである(3)。一方、今回の研究結果を本邦で解釈するにあたっては、使用される薬剤の種類や人種差などいくつかの点に注意する必要があるが、特に気をつける必要があるのは、海外においては入院の対象になるのは基本的に中等症以上であり、日本のように軽症例が入院することはないという点である。軽症入院例では血栓症の合併は少なく、抗凝固療法のメリットは少ないことは念頭に置いておく必要があるだろう。 * 予防量として、ヘパリン 5,000 ユニット、1 日 2 回または 3 回皮下投与、エノキサパリン 40mg1 日 1 回または 30mg1 日 2 回皮下投与 1. Iba T, et al. J Thromb Haemost. 2020;18(9):2103-2109. 2. achil J, et al. J Thromb Haemost. 2020;18(5):1023-1026. 3. Leentjens J, et al. Lancet Haematol. 2021;8(7):e524-e533.
思春期および若年成人期の1型糖尿病に用いるハイブリッド型クローズドループシステム2種の比較(FLAIR):多施設共同無作為化クロスオーバー試験
思春期および若年成人期の1型糖尿病に用いるハイブリッド型クローズドループシステム2種の比較(FLAIR):多施設共同無作為化クロスオーバー試験
A comparison of two hybrid closed-loop systems in adolescents and young adults with type 1 diabetes (FLAIR): a multicentre, randomised, crossover trial Lancet. 2021 Jan 16;397(10270):208-219. doi: 10.1016/S0140-6736(20)32514-9. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】1型糖尿病の管理は困難である。著者らは、思春期および若年成人期の1型糖尿病患者を対象に、市販のハイブリッド型クローズドループシステムと開発中の新たなシステムを用いた結果を比較した。 【方法】この多施設共同無作為化クロスオーバー試験(Fuzzy Logic Automated Insulin Regulation[FLAIR])では、米国4施設、ドイツ、イスラエルおよびスロベニア各1施設の大学病院内分泌科で、1年以上前に1型糖尿病の臨床診断を受け、インスリンポンプまたは多数の1日1回インスリン注射を用いており、HbA1cが7.0~11.0%(53~97mmol/mol)の14~39歳の患者を募集した。試験に用いるポンプと持続グルコースモニタの使い方を指導する導入期間ののち、参加者をコンピュータが生成した数列を用いて、置換ブロックデザイン(ブロックの長さ2または4)で、治療前のHbA1cおよび登録時のMiniMed 670G system(Medtronic社)使用の有無で層別化した上で、最初の12週間をMiniMed 670G hybrid closed-loop system(670G)と開発中の高機能ハイブリッド型クローズドループシステム(Medtronic社)に(1対1の割合で)割り付け、その後の12週間をウォッシュアウト期間を設けずにもう一方のグループに交差させた。使用するシステムの性質上、遮蔽化は不可能であった。主要評価項目は、6時00分から23時59分(日中など)までの間に血糖値が180mg/dL(>10.0mmol/L)を超えた時間の割合および24時間のうち血糖値が54mg/dL(<3.0mmol/L)を下回った時間の割合とし、持続グルコースモニタで測定し、非劣性を評価した(非劣性のマージン2%)。intention to treatで解析することとした。治療を割り付けた患者全例で安全性を評価した。この試験はClinicalTrials.govにNCT03040414で登録されており、現在は終了している。 【結果】2019年6月3日から8月22日の間に113例を試験に組み入れた。平均年齢が19歳(SD 4)、70例(62%)が女性であった。日中の血糖値が180mg/dL(>10.0mmol/L)を超えた時間の平均割合が ベースラインで42%(SD 13)、670Gシステム使用中で37%(9)、高機能ハイブリッド型クローズドループシステム使用中で34%(9)であった(平均差[高機能ハイブリッド型クローズドループシステム-670Gシステム]-3.00%[95%CI -3.97~-2.04];P<0.0001)。24時間のうち血糖値が54mg/dL(<3.0mmol/L)を下回った時間の平均割合が試験開始前で0.46%(SD 42)、670Gシステム使用中で0.50%(0.35)、高機能ハイブリッド型クローズドループシステム使用中で0.46%(同0.33)であった(平均差[高機能ハイブリッド型クローズドループシステム-670Gシステム]-0.06%[95%CI ~0.11~-0.02];非劣性のP<0.0001)。高機能ハイブリッド型クローズドループシステム群で重篤な低血糖発作が1件発生したが、試験治療と関連がないと考えられ、670G群では1件もなかった。 【解釈】市販のMiniMed 670Gと比べると、開発中の高機能ハイブリッド型クローズドループシステムを用いた思春期および若年成人期の1型糖尿病患者で、低血糖発作が増えることなく高血糖が減少した。社会経済的因子のため十分なサービスを受けられていない集団や、妊婦、低血糖症状を自覚できない患者で高機能ハイブリッド型クローズドループシステムを検証すれば、この技術をさらに有効に活用することができるであろう。 第一人者の医師による解説 糖尿病合併症やQOLの改善など より長期の研究で検討する必要あり 長澤 薫 虎の門病院内分泌代謝科糖尿病・代謝部門特任医長 MMJ. October 2021;17(5):146 思春期や若年成人期の1型糖尿病患者の血糖コントロールは難易度が高く、やりがいのある課題である。本論文は、従来より使用されているハイブリッド型クローズドループシステム(HCLS;患者のグルコース値のアルゴリズムに基づき、ベーサルインスリンの投与量を調整するシステム)MiniMed670G(Medtronic社)と、現在開発中の次世代型のアドバンストハイブリッド型クローズドループシステム(AHCLS;従来の機能に加え、5分おきの自動修正ボーラスなど人工膵臓のアルゴリズムを用い、より強化されたインスリン調整機能が搭載されたシステム)(Medtronic社)の多施設共同無作為化クロスオーバー比較試験(FLAIR試験)の報告である。 米国、ドイツ、イスラエル、スロベニアの4カ国、計7つの専門施設で、診断後1年以上の14~29歳の1型糖尿病患者113人を対象とした。参加者のHbA1c値は7.0~11.0%で、ポンプの使用方法を習得するrun-in期間の後、初めにHCLSを使用する群とAHCLSを使用する群の2群に無作為に割り付け、12週間それぞれの機器を使用後、washout期間を設けずにクロスオーバーし、もう一方のインスリンポンプを12週間使用した。 主要評価項目は日中(6~24時)のグルコース値180mg/dL超、1日におけるグルコース値54mg/dL未満の時間の割合とされた(非劣性を検証、マージン 2%)。その結果、グルコース値180mg/dL超の時間はベースライン 42%であったが、HCLS使用期間は37%、AHCLS使用期間は34%と、HCLSに比べAHCLS使用期間では-3.0%(95%信頼区間[CI], -3.97~-2.04;P<0.0001)と高グルコース値の割合は有意に低下した。グルコース値54mg/dL未満の割合はベースライン 0.46%、HCLS使用期間は0.5%、AHCLS使用期間は0.46%と、AHCLS使用期間では-0.06%(95% CI, -0.11 ~-0.02;非劣性 P<0.0001)と有意な上昇は認められなかった。 AHCLS使用期間で1例の重症低血糖を認めたが、機器との関連はなかった。本試験はHCLSとAHCLSを直接無作為化クロスオーバーで比較した最初の論文で、AHCLSは従来型に比べ、低血糖を増やすことなく、有意に高血糖を減少させた。AHCLSのような進化したインスリン自動注入システムが高血糖、低血糖、自己管理の負担を減少させ、さらには糖尿病合併症、患者の生活の質(QOL)を改善するか否か、より長期の研究で検討する必要がある。実用化にあたっては適切なターゲット血糖値、アクティブインスリン(インスリンの作用時間)の設定など、さらなる議論も要するであろう。
画像で見分ける!衝撃症例〜頭頚部編〜
画像で見分ける!衝撃症例〜頭頚部編〜
こちらは、過去に前期研修中の先生方にお送りした「症例供覧メール」の衝撃症例一覧になります。 気になる症例はありましたか!? 画像をクリックすると症例詳細ページに遷移し、症例詳細や先生方の見解を閲覧できます。 「症例供覧メール」のバックナンバーも閲覧可能です。
#12 「コスタ・アトランチカ」乗組員への緊急医療支援活動
#12 「コスタ・アトランチカ」乗組員への緊急医療支援活動
発展途上国、日本のへき地離島、大規模災害の被災地……。世の中には「医療の届かないところ」があります。NPOジャパンハートはそんなところに、無償で医療支援を行っています。ボランティアとして参加した医療従事者が、現地での活動内容などを報告します。 長期ボランティア医師(活動地:日本) 「長崎にて、コスタ・アトランチカ号の医療支援第二陣に参加しています」 4月末から始まったジャパンハートの医療支援活動も2週目に入りました。クルーズ船のそばの陸地に設置されたプレハブ小屋で、自衛隊・長崎医療センター・Peace Winds・国境なき医師団と一緒に医療活動を行っています。 日々の業務内容としては、下船患者の状態確認や誘導・濃厚接触者へのPCR検査・状態悪化した患者のCT撮影や救急搬送の対応を行ったり、現場のマニュアル作りや物品管理のフローチャート作成をしたりしています。また、各医療チームが入れ替わるごとに、PPE(個人用防護服)の着脱方法を教え合ったり、船内で状態が悪化した患者が発生した時のシミュレーションを行ったりすることで、コロナ診療の経験が豊富なチームが後から新しく参加したチームに「ここでのコロナ対策」を伝達しています。 僕が普段活動しているミャンマーでもコロナ対策はしていましたが、実際のコロナ診療の現場に立ち会ってみて感じたのは、感染症診療の原則を踏まえつつ、同時にその現場ごとの環境に合わせた「ここでのコロナ対策」を作り上げていく必要があるということです。 今回のコスタ・アトランチカ号は、ダイヤモンド・プリンセス号での経験を踏まえて極めて冷静に対応されており、現場は予想していた以上に落ち着いています。自分たちの安全を第一として、安心して患者対応できるシステムが整っています。 そして、コスタ・アトランチカ号の現場に関わってみて、2月時点でのダイヤモンド・プリンセス号での混乱した現場の対応の難しさを実感しています。まだコロナ肺炎の自然経過も、一部の患者が急速に重症化するコロナ特有の経過も、優先すべき搬送順も分からない状況で、クルーズ船オペレーションの大きな方針から細かいマニュアル作りまでを決定し、刻々と変化する状況や情報に合わせて適宜修正を加えていくのは、どれほど困難だったでしょうか。あの現場で働かれた方々に心から敬意を表します。 また、ここに来てよかったのは他の医療支援チームとの出逢いです。Peace Windsの坂田大三先生は、ミャンマーの隣国バングラデシュで途上国医療をされていたり、僕の地元福山で地域医療をされていたりと、僕にとっては今後にも繋りそうな良い出逢いになりました。 最終的に全ての乗員が下船できるまでは、もうしばらく時間がかかりそうです。チーム内外でコミュニケーションをしっかり取りながら、乗員の皆が安心して帰国できるようにお手伝いしようと思います。 ミャンマーでの医療支援活動の様子 (ジャパンハート 2020年5月12日掲載) ジャパンハートは、ミャンマー、カンボジア、ラオスで長期ボランティアとして活動してくれる医師を募集しています。 「医療の届かないところに医療を届ける」活動に関心のある方は、ちょっとのぞいてみてください。 〉ジャパンハート オンライン相談会ページ
#11 「ホワイトボードの前に立つ」ことの大切さについて
#11 「ホワイトボードの前に立つ」ことの大切さについて
発展途上国、日本のへき地離島、大規模災害の被災地……。世の中には「医療の届かないところ」があります。NPOジャパンハートはそんなところに、無償で医療支援を行っています。ボランティアとして参加した医療従事者が、現地での活動内容などを報告します。 長期ボランティア医師(活動地:ミャンマー) 3月末からミャンマーへの外国人の入国制限が始まったので、4月から日本に一時帰国しています。帰国後は、自分が大学生だった時に発展途上国医療の現場で働いている医師から直接話を聞ける機会がほとんど無かったので、できるだけ多くの若い人に発展途上国で総合診療医として働いている「手触り」を伝えようと思い、総勢40名ぐらいの知り合いの医療者ひとりひとりに『発展途上国医療の現場から~』という活動報告会を開催させて頂けないかお願いしました。 でも、コロナのせいで、最初はOKとおっしゃってくださっていた活動報告会も、最終的にはすべて中止になってしまいました。とても残念です。でも、最近ようやくコロナが落ち着いてきて、また活動報告会をできる場所が無いかと探しています。 なぜ、こんなに活動報告会をしたいのかと言えば、もっと多くの若い人たちに発展途上国医療の現場に飛び込んで来て、発展途上国の社会問題を解決するのに一緒に協力して欲しいからです。そして、この現場で働いていると、日々学びがあり、楽しいからです。 こんなことを熱心に語っていると「君もまだ若いんだから、今からそんな老成したこと言って~」と冷やかされることがあります。まだそんな何かを語れるような年齢では無いだろう、というわけです。 でも自分は、齢をとったから何かを語れるようになるのではないと思っています。 村上龍は24歳で『限りなく透明に近いブルー』を書き、村上春樹は29歳で『風の歌を聴け』を書き、ゲバラは30歳でキューバ革命を起こしました。そんな彼らに「君もまだ若いんだから~」なんていう人はいません。伝えるべきことがあれば、何歳であろうが伝えられる。 じゃあ、もし、伝えるべきことがなければどうすればいいのだろうか? ジャック・ラカンは、「人は知っている者の立場に立たされている間はつねに十分に知っている」と言います。例えば、教師は何か特別な知識や技術があるから教えられるわけではなく、この人は私たちが何を学ぶべきかを知っている、という確信を持つ生徒の前に立つ限り、すでに十分に教師としての役割を果たしています。 つまり、誰だって「ホワイトボードの前に立つ」ならば教える人になれるということです。 『十五少年漂流記』の少年たちは無人島に漂着したのちに、住居と食糧を確保すると、次に学校を作りました。教師となった少年と生徒となった少年たちの年齢差はわずか5才。14才の年長者が、9才の年少者に比べて優れた知識・技能を持っていたとは思えません。でも、年長者がホワイトボードの前に立ち、ワクワクしている年少者に語るだけで学びの場は成立しました。 そして、教育の現場ではとても不思議なことに、年少者が学んだことが年長者が教えたことをはるかに凌駕することがあります。 元生徒「あの時に先生に言われたあの言葉が、とても心に残って・・・、それを突き詰 めるためにこの分野を突き進んで行ったらこうなったんです!」 元先生「う~ん、そんな事教えたかな~(笑)」 こういうことはよく起こり得ます。自分が教えていないことを生徒が勝手に学び取っていく、こういう教育の可能性を信じていることは教育に関わる人たちにとってとても大切だと確信しています。 だから、語れることがあろうと無かろうと、「ホワイトボードの前に立って」活動報告会をしたいと思っています。Happy! (ジャパンハート 2020年5月21日掲載) ジャパンハートは、ミャンマー、カンボジア、ラオスで長期ボランティアとして活動してくれる医師を募集しています。 「医療の届かないところに医療を届ける」活動に関心のある方は、ちょっとのぞいてみてください。 〉ジャパンハート オンライン相談会ページ
早産予防に用いるプロゲステロンを評価する国際共同研究(EPPPIC) 無作為化試験から抽出した個別患者データのメタ解析
早産予防に用いるプロゲステロンを評価する国際共同研究(EPPPIC) 無作為化試験から抽出した個別患者データのメタ解析
Evaluating Progestogens for Preventing Preterm birth International Collaborative (EPPPIC): meta-analysis of individual participant data from randomised controlled trials Lancet. 2021 Mar 27;397(10280):1183-1194. doi: 10.1016/S0140-6736(21)00217-8. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】早産は、優先して検討すべき世界的な健康問題である。早産リスクの高い妊娠中のプロゲステロン使用によって早産および新生児の有害転帰を抑制できると思われる。 【方法】早産リスクが高い無症候性の女性でプロゲステロン膣内投与、17-ヒドロキシプロゲステロンカプロン酸(17-OHPC)筋肉注射、経口プロゲステロンを対照またはそれぞれと比較した無作為化試験の系統的レビューを実施した。MEDLINE、Embase、CINAHL、Maternity and Infant Care Databaseの検索およびデータベース開始から2019年7月30日までの関連試験登録から、公開の有無を問わず2016年6月30日までに主要データの収集が完了した試験(データ収集開始12カ月前)を特定した。早期流産または差し迫った早産の危険を予防するプロゲステロンの試験を除外した。適格試験の担当医師に個別患者データの提供を依頼した。早産、早期早産および妊娠中期の出産を転帰とした。重篤な新生児合併症の複合および個別で早産による新生児有害転帰を評価した。複合および個別に有害妊娠転帰を調査した。研究者2人が個別患者データを確認し、バイアスリスクを評価した。主要メタ解析に、ランダム効果を統合した1段階の一般化線形混合モデルを用いて、試験間の異質性を考慮に入れた。このメタ解析は、PROSPERO(CRD42017068299)に登録されている。 【結果】初回検索で適格試験47件を特定した。このうち30件の個別患者データが得られた。対象とした更新があり、後日追加試験1件を組み入れた。従って、計31試験のデータが得られた(女性1万1644例および児1万6185例)。単胎妊娠を検討した試験に組み入れたのは、ほとんどが自然早産歴がある女性および子宮頸管長が短い女性であった。プロゲステロン膣内投与(9試験、女性3769例、相対リスク[RR]0.78、95%CI 0.68~0.90)、17-OHPC(5試験、女性3053例、0.83、0.68~1.01)および経口プロゲステロン(2試験、女性181例、0.60、0.40~0.90)を投与した女性で、34週未満の早産が減少した。その他の出産および新生児転帰の結果は一貫して良好であったが、信頼性が低かった。妊娠合併症リスク上昇の可能性が示唆されたが、不確かであった。治療の相互作用と患者背景に一貫した根拠は認められなかったが、下位集団の解析から、子宮頸管長が短くない女性では有効性がないことが疑われた。多胎妊娠を検討した試験に組み入れたのは、他の危険因子がない女性であった。プロゲステロン膣内投与(8試験、2046試験、RR 1.01、95%CI 0.84~1.20)で双胎妊娠女性の34週未満での早産が減少せず、17-OHPC(8試験、女性2253例、1.04、0.92~1.18)でも双胎および三胎妊娠で34週未満での早産が減少しなかった。多胎妊娠では、17-OHPC曝露で前期破水が増加した(34週未満の破水のRR 1.59、95%CI 1.15~2.22)が、プロゲステロン膣内投与でも17-OHPCでもその他の転帰に見られる便益や有害性の一貫した根拠は認められなかった。 【解釈】高リスクの単胎妊娠で、プロゲステロン膣内投与および17-OHPCによって34週未満での出産が減少した。潜在的リスクの上昇を考慮に入れると、子宮頸管長の短い女性で絶対リスクの低下度が大きいことから、このような女性では治療が有益であると思われる。経口プロゲステロンの使用を支持する根拠は不十分であった。高リスクの単胎妊娠女性との共同意思決定で、個別のリスク、考えられる便益と有害性および介入の実用性を話し合うべきである。この根拠から、任意に抽出した多胎妊娠でプロゲステロンによる治療は支持されない。 第一人者の医師による解説 日本で使用できるプロゲステロン製剤が課題 求められる国内での臨床研究 細谷聡史、左合治彦(副院長・周産期・母性診療センター長) 国立成育医療研究センター周産期・母性診療センター MMJ. August 2021;17(4):123 早産(妊娠22週以降37週未満の分娩)は妊娠中の最も頻度が高い最も重要な合併症である。早産児は呼吸障害や長期的な神経発達障害などの合併症をきたしやすく、早産を予防することは周産期医療の重要な課題である。内因性プロゲステロンは妊娠維持に関与し、低下すると陣痛発来することにより、1960年代から早産予防薬としてプロゲステロン製剤が用いられてきた。プロゲステロン製剤には天然型プロゲステロンを用いた腟製剤(錠剤とゲル)(VP)と合成化合物であるヒドロキシプロゲステロンカプロン酸エステル(17-OHPC)の筋肉注射製剤がある。2003年にはランダム化比較試験(RCT)で17-OHPCとVPの 早産予防効果が報告された(1),(2)。しかし、最近のOPPTIMUM試験とPROLONG試験という大規模 RCTでは、VPと17-OHPCの早産予防効果や児の予後改善効果は認められないと報告され(3),(4)、プロゲステロン製剤の効果に疑問が投げかけられた。 本論文は、早産リスクの高い妊婦(早産既往・子宮頸管長短縮)に対して早産予防効果を検証したRCTを対象とし、個別被験者データ(IPD)を集積してメタ解析を行い、VPと17-OHPCの早産予防効果を検証したものである。主要評価項目である単胎の34週未満の早産に関して、対照群と比較してVPは22%(相対リスク , 0.78;95%信頼区間 ,0.68~0.90)、17-OHPCは17%(0.83;0.68~1.01)のリスク低下を認め、早産予防効果の有効性を示した。ただし、頸管長が短縮していない(30mm超)妊婦では早産予防効果は認めなかった。母体合併症は増加する可能性が示唆された。また多胎妊娠に関して早産予防効果は認められなかった。以上の結果より、早産リスクが高く子宮頸管長短縮を認める単胎妊婦では、プロゲステロン製剤による早産予防効果が期待できるが、正確な情報を提供して個別のリスクとベネフィットを勘案した上での患者の意思決定に基づいて使用すべきとしている。 日本では17-OHPCは250mg/週筋注投与しているが、125mg/週のみが黄体機能不全に伴う切迫流早産を適応として保険収載されているだけである。またVPは生殖補助医療における黄体補充の適応で承認されているが薬価未収載で、切迫流早産は保険適応外である。日本ではVPの保険収載が大きな課題であり、そのための日本における質の高い臨床研究が求められている。 1. Meis PJ, et al. N Engl J Med. 2003;348(24):2379-2385. 2. da Fonseca EB, et al. Am J Obstet Gynecol 2003;188(2):419-424. 3. Norman JE, et al. Lancet. 2016;387(10033):2106-2116. 4. Blackwell SC, et al. Am J Perinatol. 2020;37(2):127-136.
肝硬変の入院患者に用いるアルブミン点滴の無作為化試験
肝硬変の入院患者に用いるアルブミン点滴の無作為化試験
A Randomized Trial of Albumin Infusions in Hospitalized Patients with Cirrhosis N Engl J Med. 2021 Mar 4;384(9):808-817. doi: 10.1056/NEJMoa2022166. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】非代償性肝硬変患者では、感染や全身性炎症の亢進が臓器障害や死亡の原因となる。前臨床試験の結果から、アルブミンの抗炎症作用が期待されているが、それを検証する大規模臨床試験がない。このような患者で、血清アルブミン値30g/L以上を目標とした20%ヒトアルブミン溶液の連日点滴によって、標準治療と比較して感染症、腎障害および死亡の発生率が低下するかは明らかになっていない。 【方法】組み入れ時の血清アルブミン値が30g/L未満の非代償性肝硬変入院患者を対象に、多施設共同無作為化非盲検並行群間比較試験を実施した。患者を目標値を設定した20%ヒトアルブミン溶液の最長14日間または退院のいずれかまで投与するグループと標準治療を実施するグループに割り付けた。入院後3日以内に治療を開始することとした。複合主要評価項目は、治療開始後3~15日目に発生した新たな感染症、腎機能障害または死亡とした。 【結果】777例を無作為化し、患者の大部分でアルコールが肝硬変の原因であることが報告された。患者1例当たりのアルブミン総投与量中央値は、目標値設定アルブミン群(アルブミン値を30g/Lまで上昇させる)では200g(四分位範囲140~280)、標準治療群では20g(四分位範囲0~120)であった(調整後の平均差143g、95%CI 127~158.2)。主要評価項目が発生した患者の割合は、目標値設定アルブミン群(380例中113例、29.7%)と標準治療群(397例中120例、30.2%)の間で有意差が認められなかった(調整オッズ比0.98、95%CI 0.71~1.33、P=0.87)。データを退院時または15日目で打ち切りとした生存時間解析でも、群間差は認められなかった(ハザード比1.04、95%CI 0.81-1.35)。アルブミン群の方が標準治療群よりも、重度または生命を脅かす重篤な有害事象の発生率が多かった。 【結論】非代償性肝硬変入院患者で、アルブミン値30mg/L以上を目標とするアルブミン点滴に、英国の現行標準治療を上回る有益性は認められなかった。 第一人者の医師による解説 数値目標に固執したアルブミン投与は推奨されず 必要に応じ適切な投与を 岡田 啓 東京大学糖尿病・生活習慣病予防講座特任助教 MMJ. August 2021;17(4):117 アルブミンは、70年以上前から肝硬変患者に対して投与されてきたが、その投与の是非については意見が分かれていた。基礎研究では、アルブミン投与が全身炎症抑制や腎障害リスク低下に寄与することで予後を改善することが示唆されていたが、臨床試験においてはアルブミン投与が一貫して有効だというエビデンスは存在しなかった。 今回報告されたATTIRE試験は、非代償性肝硬変患者における急性合併症で入院した18歳以上の患者を対象とした、多施設共同ランダム化非盲検並行群間比較試験である。入院後72時間以内の血清アルブミン値が3.0g/dL未満、ランダム化時点で5日以上の入院を見込む患者を組み入れた。主な除外基準は、進行肝細胞がんを有し予後8週未満と予測され緩和治療を受けている患者とした。介入群では、非介入群で行う通常治療に加えて、血清アルブミン値3.5g/dLを目標として設定したアルブミン補充を行った。ただし、腹水穿刺で大量排液の施行や突発性細菌性腹膜炎や肝腎症候群を発症した場合、ガイドラインでアルブミン投与が推奨されているため1,2、非介入群でもアルブミン投与を医師の判断で行うこととした。主要エンドポイントは試験開始から3〜15日での感染症・腎機能障害・死亡の複合エンドポイントとし、副次エンドポイントは28日、3カ月、6カ月時点の死亡や合併症発症であった。 結果は、患者777人がランダム化され、intention-to-treat(ITT)解析において、主要エンドポイント発生割合は介入群29.7%、非介入群30.2%であった(調整済みオッズ比,0.98;95%信頼区間 ,0.71〜1.33;P=0.87)。発生したイベントの内訳は、新規感染症、腎機能障害、死亡の順に多く、個々の発症割合に関しても、両群で有意差を認めなかった。副次エンドポイントにおいても、有意なリスク差を認めず、むしろ介入群において肺水腫や細胞外液過剰状態が多く発現した(23人対8人[非介入群])。 本論文の結論は、血清アルブミン値目標を定めたアルブミン投与は推奨されないというものである。しかしその対象は、あくまで、数値目標に固執したアルブミン投与であって、既存の方法でのアルブミン投与を否定するものではないことに注意したい。海外ガイドライン 1,2と同様、日本の「肝硬変診療ガイドライン2020改訂第3版」でも、特発性細菌性腹膜炎や1型肝腎症候群合併例に対して同様にアルブミン製剤投与が推奨されている。なお、本研究はアルブミン数値目標や体液管理困難な患者が対象であるため二重盲検化は難しく、非盲検が正当化される状況であった。 1. European Association for the Study of the Liver. J Hepatol. 2018;69 (2) :406-460. 2. Runyon BA; Hepatology. 2013;57 (4) :1651-1653.
COVID-19患者の退院6カ月後の転帰 コホート研究
COVID-19患者の退院6カ月後の転帰 コホート研究
6-month consequences of COVID-19 in patients discharged from hospital: a cohort study Lancet. 2021 Jan 16;397(10270):220-232. doi: 10.1016/S0140-6736(20)32656-8. Epub 2021 Jan 8. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】COVID-19の長期的な健康上の影響は、大部分が明らかになっていない。この研究の目的は、COVID-19患者の退院後の長期的な健康転帰を評価し、危険因子、特に疾患重症度関連のものを検討することであった。 【方法】2020年1月7日から5月29日の間に金銀潭病院(中国・武漢市)を退院したCOVID-19患者を対象に、前後両方向コホート研究を実施した。追跡調査前に死亡した患者、精神病性障害、認知症、再入院のため追跡調査ができなかった患者、骨関節症を合併し自由に動けない患者、脳卒中や肺塞栓症などの疾患により退院前後に動けなかった患者、試験への参加を拒否した患者、連絡が取れなかった患者、武漢市以外の地域に居住している患者や介護施設または福祉施設に居住している患者を除外した。全例に一連の質問票を用いた問診で症状および健康関連QOLを評価し、身体診察、6分間歩行テスト、血液検査を実施した。入院中に評価した7段階重症度尺度の最高点3点、4点、5~6点で層別化した手順を用いて、患者から検体を採取し、肺機能検査、胸部の高解像度CT、超音波検査を実施した。Lopinavir Trial for Suppression of SARS-CoV-2 in Chinaに参加した患者には、SARS-CoV-2抗体検査を実施した。多変量調整線形回帰モデルまたはロジスティック回帰モデルを用いて、重症度と長期的な健康転帰の関連を評価した。 【結果】退院したCOVID-19患者2469例から736例を除外し、計1733例を組み入れた。参加者の年齢中央値は57.0歳(IQR 47.0~65.0)であり、897例(52%)が男性であった。追跡調査は2020年6月16日から9月3日の間に実施し、発症後の追跡期間中央値は186.0日(175.0~199.0)日であった。よく見られた症状に、疲労または筋力低下(63%、1655例中1038例)、睡眠障害(26%、1655例中437例)があった。患者の23%(1617例中367例)から不安または抑うつが報告された。6分間歩行距離の中央値が正常範囲下限以下であった患者の割合は、重症度尺度3点の患者24%、4点の患者22%、5~6点の患者29%であった。これに対応する肺拡散障害の割合はそれぞれ22%、29%、56%であり、CTスコア中央値はそれぞれ3.0(IQR 2.0~5.0)、4.0(3.0~5.0)、5.0(4.0~6.0)であった。多変量調整後の重症度尺度3点と比較したオッズ比(OR)は、肺拡散障害で4点1.61(95%CI 0.80~3.25)、5~6点4.60(1.85~11.48)、不安または抑うつで4点0.88(0.66~1.17)、5~6点1.77(1.05~2.97)、筋力低下で4点0.74(0.58~0.96)、5~6点2.69(1.46~4.96)であった。追跡調査時に血中抗体検査を実施した94例の血清陽性率(96.2% vs. 58.5%)および中和抗体の力価中央値(19.0 vs. 10.0)は、急性期(入院時)に比べると著しく低かった。急性期に急性腎障害がなく推定糸球体濾過量(eGFR)が90mL/分/1.73m^2以上であった822例のうち、107例で追跡調査時のeGFRが90mL/分/1.73m^2未満であった。 【解釈】COVID-19生存者に、急性感染後6カ月時、主に疲労または筋力低下、睡眠障害、不安または抑うつ傾向が認められた。入院中の重症度が高かった患者は、肺拡散障害や胸部画像所見異常の重症度が高く、長期回復のための介入の主な対象者となる。 第一人者の医師による解説 6カ月後にも疲労・筋力低下、睡眠障害、不安・抑うつが残存 重症患者は回復後も介入が必要 葉 季久雄 平塚市民病院救急科・救急外科部長 MMJ. August 2021;17(4):105 2021年7月9日時点で、日本での新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染者数は累計でおよそ81万人、回復者数は78万人、死亡者数は1万5,000人である(厚生労働省統計)。COVID-19回復後に続く後遺症はLong COVIDと称され、臨床家の注目を集めている。 本論文は、中国武漢市金銀潭病院を退院したCOVID-19患者1,733人を対象とした、発表時点で対象者数が最大かつ追跡期間が最長の前後両方向コホート研究の報告である。目的は退院患者の経過から残存症状を記述し危険因子を探ること、抗SARS-CoV-2抗体価の推移など肺外臓器機能の評価である。すべての対象患者に面接、診察、6分間徒歩テスト、血液検査、さらに7段階の重症度分類(#)で抽出した一部の患者に肺機能検査、高解像度胸部 CT、超音波検査が実施された。なお、抗体検査はロピナビルの臨床試験(LOTUS)参加者94人のみに行われた。 患者背景は、年齢中央値57歳、男性52%、観察期間中央値は発症後186日であった。患者のうち68%が入院中に酸素投与を必要とし、7%は高流量酸素療法(HFNC)、非侵襲的陽圧換気(NIV)または侵襲的機械換気(IMV)を必要とした。4%が集中治療室での治療を受けた。入院期間の中央値は14日であった。 発症6カ月後の主な残存症状は、疲労・筋力低下(63%)、睡眠障害(26%)、不安・抑うつ(23%)であった。1つ以上の症状を有した患者は76%で、女性の割合が高かった。重症度スケール 3の患者と比較し、重症度スケール 5~6の患者が発症6カ月後に何らかの症状を有するオッズ比は2.42(P<0.05)であった。肺拡散障害、不安・抑うつ、疲労・筋力低下のオッズ比は、スケール 5~6の患者はスケール 3の患者に比べ、それぞれ4.60(P=0.0011)、1.77(P=0.031)、2.69(P=0.0015)であった。女性は男性と比較し、それぞれ2.22(P=0.0071)、1.80(P<0.0001)、1.33(P=0.016)のオッズ比を示した。発症6カ月後、急性期と比較し、血清抗体陽性率は96.2%から58.5%へと低下し、中和抗体抗体価の中央値は19.0から10.0に低下していた。 本研究は、重症患者、女性患者は回復後も多彩な症状が残存し、治療介入を要することを示していた。退院が治療の終了ではなく、退院後も適切なフォローアップが必要である。中和抗体は発症6カ月後には減少しており、回復後の患者にも再感染のリスクがあることを念頭におく必要がある。COVID-19回復後の長期経過の全容解明には、より大規模で、より長期間に及ぶ追跡調査が求められる。 #脚注)重症度スケールの定義:スケール 6= 入院して ECMO、IMV もしくはその両方を要した。スケール 5= 入院して HFNC、NIV もしくはその両方を要した。スケール 3= 入院したが酸素投与は要さなかった。
うつ病に用いるpsilocybinとエスシタロプラムを比較した試験
うつ病に用いるpsilocybinとエスシタロプラムを比較した試験
Trial of Psilocybin versus Escitalopram for Depression N Engl J Med. 2021 Apr 15;384(15):1402-1411. doi: 10.1056/NEJMoa2032994. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】psilocybinは抗うつ作用を有する可能性があるが、psilocybinと実証済みのうつ病治療との直接比較はない。 【方法】罹病歴の長い中等症ないし重症の大うつ病性障害患者を対象とした第II相二重盲検無作為化比較試験で、psilocybinと選択的セロトニン再取り込み阻害薬エスシタロプラムを6週間にわたって比較した。患者をpsilocybin 25mgの3週間隔2回投与かつプラセボ6週間連日投与群(psilocybin群)とpsilocybin 1mgの3週間隔2回投与かつエスシタロプラム6週間連日経口投与群(エスシタロプラム群)に1対1の割合で割り付けた。全例に心理的サポートを実施した。主要評価項目は、自己報告による簡易抑うつ症状尺度16項目スコア(QIDS-SR-16、スコア範囲0~27点、スコアが高いほど抑うつが重症)のベースラインから6週時までの変化量とした。6週時のQIDS-SR-16の改善(スコア50%以上低下と定義)およびQIDS-SR-16の寛解(スコア5点以下と定義)など16項目を副次評価項目とした。 【結果】59例を組み入れ、30例をpsilocybin群、29例をエスシタロプラム群に割り付けた。ベースラインの平均QIDS-SR-16スコアは、psilocybin群14.5点、エスシタロプラム群16.4点であった。ベースラインから6週時までの平均スコア変化量(±SE)は、psilocybin群-8.0±1.0点、エスシタロプラム群-6.0±1.0点で、群間差は2.0点(95%CI -5.0~0.9、P=0.17)であった。psilocybin群の70%とエスシタロプラム群の48%にQIDS-SR-16の改善が認められ、群間差は22%ポイント(95%CI -3~48)であった。それぞれ57%と28%にQIDS-SR-16の寛解が認められ、群間差は28%ポイント(95%CI 2~54)であった。その他の副次評価項目は概ねpsilocybin群の方がエスシタロプラム群よりも良好であったが、解析では多重比較を補正しなかった。有害事象の発現率は両群で同等であった。 【解釈】6週時のQIDS-SR-16うつ病スコアの変化量を基にすると、この試験では選択した患者群でpsilocybinとエスシタロプラムの抗うつ作用に有意差は認められなかった。副次評価項目は概ねpsilocybinの方がエスシタロプラムよりも良好であったが、この評価項目の解析では多重比較を補正しなかった。psilocybinと検証済みの抗うつ薬を比較するには、大規模で長期的な試験が必要である。 第一人者の医師による解説 シロシビンの効果検証 より大規模で長期の試験が必要 高橋 英彦 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科精神行動医科学主任教授 MMJ. August 2021;17(4):108 シロシビン(psilocybin)はヒカゲシビレタケなどのマジックマッシュルームに含まれる幻覚成分で、セロトニンと類似した化学構造を有し、セロトニン 5-HT2A受容体にアゴニストとして主として作用する(1)。シロシビンには抗うつ作用があると考えられるが、シロシビンと既存のうつ病治療法との直接的な比較は行われていない。そこで、著者らは第2相二重盲検無作為化対照試験で、中等度〜重度の大うつ病性障害の患者を対象に、シロシビンまたは選択的セロトニン再取り込み阻害薬であるエスシタロプラムを6週間経口投与し、有効性と安全性を比較した。患者は、シロシビン25mgの2回投与(1、4週目)に加えプラセボを6週間連日投与する群(シロシビン群)と、薬理作用が無視できるシロシビン1mgの2回投与(1、4週目)に加えエスシタロプラムを6週間連日投与する群(エスシタロプラム群)に割り付けられた。主要評価項目は、6週目の16項目のQuick Inventory of Depressive Symptomatology-Self-Report(QIDS-SR-16)の得点のベースラインからの変化量であった。副次評価項目として、6週目にQIDS-SR-16の奏効(スコアがベースラインよりも50%以上減少)、QIDS-SR-16の寛解(スコアが5以下になった場合)など16項目を設定した。30人がシロシビン群に、29人がエスシタロプラム群に割り付けられた。ベースライン時のQIDS-SR-16の平均スコアは、シロシビン群で14.5点、エスシタロプラム群で16.4点であった。ベースラインから6週目までのスコアの変化量の平均(± SE)は、シロシビン群で−8.0±1.0ポイント、エスシタロプラム群で−6.0±1.0ポイントとなったが有意差はなかった。QIDS-SR-16上の奏効はシロシビン群で70%、エスシタロプラム群で48%で得られ、QIDS-SR-16上の寛解はそれぞれ57%と28%に認められたが、いずれも有意差はなかった。有害事象の発生率は両群間で同程度であった。本試験の限界として、エスシタロプラムは効果発現にもっと時間がかかる場合もあり、6週間は短い可能性が挙げられる。シロシビン25mgは1mgに比べて高揚感や解放感を感じる人が多く盲検化に影響を与えたかもしれない。結論として、シロシビンを既存の抗うつ薬と比較するには、より大規模で長期の試験が必要である。 1. Madsen MK, et al. Neuropsychopharmacology. 2019;44(7):1328-1334.
過体重または肥満の2型糖尿病成人患者に用いるセマグルチド週1回2.4mg投与(STEP 2試験) 無作為化二重盲検ダブルダミープラセボ対照第III相試験
過体重または肥満の2型糖尿病成人患者に用いるセマグルチド週1回2.4mg投与(STEP 2試験) 無作為化二重盲検ダブルダミープラセボ対照第III相試験
Semaglutide 2·4 mg once a week in adults with overweight or obesity, and type 2 diabetes (STEP 2): a randomised, double-blind, double-dummy, placebo-controlled, phase 3 trial Lancet. 2021 Mar 13;397(10278):971-984. doi: 10.1016/S0140-6736(21)00213-0. Epub 2021 Mar 2. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】この試験では、過体重または肥満の2型糖尿病成人患者の体重管理を目的としたGLP-1アナログ製剤セマグルチド2.4mg、同1.0mg(糖尿病治療に承認された用量)またはプラセボの週1回皮下投与の有効性と安全性を評価した。 【方法】この第III相二重盲検ダブルダミー優越性試験では、スクリーニング180日以上前に2型糖尿病の診断を受けたBMI 27以上、糖化ヘモグロビン7~10%(53~86mmol/mol)の成人を登録した。欧州、北米、南米、中東、南アフリカおよびアジア12カ国の外来診療所149施設で患者を募集した。患者を自動ウェブ応答システム(IWRS)で無作為化し、基礎治療の血糖降下薬および糖化ヘモグロビンで層別化。セマグルチド2.4mg、同1.0mg、外見上見わけのつかないプラセボに(1対1対1の割合で)割り付け、週1回、68週間皮下投与し、生活習慣介入を実施した。患者、治験責任医師、結果の評価者に治療の割り付けを伏せた。主要評価項目は、治療意図に基づく評価で、プラセボと比較したセマグルチド2.4mg群の68週時の体重変化率と5%以上の減量達成の複合とした。試験薬を1回以上投与した患者全例で安全性を評価した。この試験は、ClinicalTrials.gov(NCT03552757)に登録されており、参加者の登録が終了している。 【結果】2018年6月4日から11月14日の間に1595例をスクリーニングし、そのうち1210例をセマグルチド2.4mg群(404例)、同1.0mg群(403例)、プラセボ群(403例)に割り付け、intention-to-treat解析の対象とした。ベースラインから68週時までの推定平均体重変化率は、セマグルチド2.4mg群-9.6%(SE 0.4)、プラセボ群-3.4%(同0.4)であった。プラセボ群と比較したセマグルチド2.4mg群の推定投与群間差は-6.2%ポイントだった(95%CI -7.3~-5.2、P<0.0001)。68週時、セマグルチド2.4mg群の方がプラセボ群よりも5%以上の減量を達成した患者が多かった(388例中267例[68.8%] vs. 376例中107例[28.5%]、オッズ比4.88、95%CI 3.58~6.64、P<0.0001)。セマグルチド2.4mg群(403例中353[87.6%])および1.0mg群(402例中329[81.8%])の方が、プラセボ群(402例中309[76.9%])よりも有害事象発生率が高かった。セマグルチド2.4mg群403例中256例(63.5%)、セマグルチド1.0mg群402例中231例(57.5%)、プラセボ群402例中138例(34.3%)に消化管系の有害事象が発現したが、ほとんどが軽度ないし中等度であった。 【解釈】過体重または肥満の2型糖尿病成人患者で、セマグルチド2.4mgを週1回投与によってプラセボと比較して効果的で臨床的に意義のある減量を達成した。 第一人者の医師による解説 セマグルチド 2.4mg/週投与は体重減少率および5%体重減の達成に有効 林 高則 医薬基盤・健康・栄養研究所 国立健康・栄養研究所臨床栄養研究部 栄養療法研究室室長/窪田 直人 東京大学医学部附属病院病態栄養治療部准教授 MMJ. August 2021;17(4):119 いくつかの糖尿病治療薬では体重増加をきたしやすいこともあり、血糖コントロールとともにいかに減量を達成していくかは、2型糖尿病治療において大きな課題である。 グルカゴン様ペプチド -1(GLP-1)受容体作動薬は血糖降下作用に加えて、減量効果も期待できる薬剤である。本論文は、肥満を有する2型糖尿病患者に対してGLP-1受容体作動薬であるセマグルチドを2.4mg週1回投与した際のプラセボまたはセマグルチド1.0mg投与(糖尿病治療として承認されている量)に対する有効性および安全性を検討したSTEP2試験の報告である。 対象は18歳以上、BMI 27kg/m2以上、HbA1c 7~10%の2型糖尿病患者1,210人で、上記3群に割り付けられ68週間の追跡が行われた。その結果、ベースラインからの体重減少率は2.4mg群で9.6%、1.0mg群で7.0%、プラセボ群で3.4%であり、また5%以上の減量を達成した割合は2.4mg群で68.8%、1.0mg群で57.1%、プラセボ群で28.5%と、いずれも2.4mg群で有意に大きかった。2.4mg群では、心血管危険因子(腹囲、収縮期血圧、脂質、尿中アルブミンなど)や身体機能評価スコア、QOL評価スコアの改善も認められた。有害事象の発現頻度は実薬群で多かったが(胃腸障害が最多)、そのほとんどは一過性かつ軽度~中等度であり、2.4mg群と1.0mg群で副作用による中止に差を認めなかった。 本試験ではセマグルチド 2.4mg投与により心血管危険因子の改善が認められたが、実際に心血管イベント発症を抑制するかは今後さらなる検証が必要である。この点に関しては、非糖尿病肥満者においてセマグルチド 2.4mgが心血管イベント発症を抑制するかどうかを検証するSELECT試験(1)が進行中であり、その結果も待たれる。 HbA1cに関しては、68週時点のベースラインからの変化量が2.4mg群で−1.6%、1.0mg群で−1.5%と差はわずかであったが、2.4mg群は1.0mg群と比べ併用薬が減った割合が高かったことも考慮して解釈する必要がある。 このSTPE2試験には日本を含む12カ国の施設が参加しており、研究参加者の26.2%がアジア人である。GLP-1受容体作動薬は非アジア人と比較してアジア人で血糖低下効果が高いこと(2)や、白人と比べアジア人でより主要心血管イベント発症抑制のベネフィットが大きいこと(3)が報告されており、日本人を含めたアジア人におけるセマグルチド 2.4mgの有効性が期待される。 1. Ryan Dh, et al. Am Heart J. 2020; 229: 61-69. 2. Kim YG, et al. Diabetes Obes Metab. 2014;16(10):900-909. 3. Matthew M Y Lee, et al. Diabetes Care. 2021; 44 (5) :1236-1241.
全年齢層に適用可能な血清クレアチニン値に基づく新たな糸球体濾過量推定式の開発および検証 統合データの横断解析
全年齢層に適用可能な血清クレアチニン値に基づく新たな糸球体濾過量推定式の開発および検証 統合データの横断解析
Development and Validation of a Modified Full Age Spectrum Creatinine-Based Equation to Estimate Glomerular Filtration Rate : A Cross-sectional Analysis of Pooled Data Ann Intern Med. 2021 Feb;174(2):183-191. doi: 10.7326/M20-4366. Epub 2020 Nov 10. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】小児用Chronic Kidney Disease in Children Study(CKiD)推定式および成人用Chronic Kidney Disease Epidemiology Collaboration(CKD-EPI)推定式は、糸球体濾過量(GFR)推定に推奨される血清クレアチニン(SCr)を基にした計算式である。しかし、いずれの式も、両者を組み合わせたとしても、欠点があり、特に思春期から成人期への移行中にGFRが大幅に変動し、若年成人のGFRが過剰に推定される問題がある。全年齢層対象(FAS)式はこの問題を解決するものであるが、SCr値が低いとGFRを過剰に推定する。 【目的】FASとCKD-EPI式の特徴を組み合わせたSCrに基づく改定FAS式を開発し、検証すること。 【デザイン】開発および検証に別々の統合データを用いた横断解析。 【設定】GFRを測定した研究および臨床試験(13件)。 【参加者】7試験の参加者計1万1251例(開発および内部検証データ)および6試験の参加者計8378例(外部検証データ)。 【評価項目】新たなGFR推定式の開発に、外因性マーカー(参照方式)、SCr値、年齢、性別および身長を用いた。 【結果】新たな推定式、European Kidney Function Consortium(EKFC)式は、全年齢(2~90歳、小児で-1.2 mL/min/1.73m^2[95%CI -2.7~0.0 mL/min/1.73m^2]、成人で-0.9 mL/min/1.73m^2[CI, -1.2~-0.5mL/min/1.73m^2])およびSCr全範囲(40~490µmol/L[0.45~5.54 mg/dL])でバイアスが小さく、CKiD式、CKD-EPI式と比べて30%を超える推定誤差もほとんどなかった(小児で6.5%[CI 3.8~9.1%]、成人で3.1%[CI 2.5~3.6%]。 【欠点】黒人が対象に含まれていない点。 【結論】新たなEKFC式は、広く用いられているSCR値からGFRを推定する式と比べて、正確性および精度が改善した。 第一人者の医師による解説 全年齢層に適用できる推算式 長期にわたる腎機能の経過観察を可能に 後藤 淳郎 医療法人社団永康会 中目黒クリニック院長 MMJ. August 2021;17(4):120 腎機能障害は将来の末期腎不全だけでなく心血管イベントさらには死亡とも関連することから、腎機能は臨床における重要な指標である。主要な腎機能を代表する糸球体濾過量(GFR)の正確な測定は、手技やコストの面から容易ではなく、濾過の指標となるイヌリンなどの外因性物質を体内に投与し複数回採血・採尿を行う必要がある。クレアチニン(Cr)やシスタチン Cなど内因性物質のクリアランスを利用すればGFRを算出できるが、やはり採血・採尿は必要である。そこで、血清クレアチニン値と年齢、性、人種などを組み合わせたGFR推算式が各種考案されて日常臨床で使用されている。わが国では日本人でのイヌリン・クリアランスを基準に作成された式が広く普及し、慢性腎臓病(CKD)の病期分類に利用されている。 一方、世界的には1〜16歳のCKDを有する小児で作成されたChronic disease in Children Study(CKiD)式と健常人なら びにCKDを有する成人で作成されたChronic Kidney Disease Epidemiology Collaboration(CKD-EPI)式がKidney Disease Improving Global Outcome(KDIGO)のガイドラインで推奨されて広く用いられている。両式ともGFRが過剰に評価される年齢層や対象があり、小児から成人に移行する年齢ではCrはほぼ不変なのにGFRが大きく変動するなどの限界が指摘され、この点を解決すべくfull age spectrum (FAS)式が提案されたが、解決には至っていなかった。 今回 FAS式とCKD-EPI式を組み合わせて、血清Cr値に基づく推算GFR式として発表されたEuropean Kidney Function Consortium(EKFC)式は、CKiD式、CKD-EPI式に比べて、より正確にGFRを推算できることが本論文で示されている。EKFC式は、まず7研究11,251人の個々の成績から導かれ、その妥当性が内部検証された。次に異なる6研究8,378人での成績を用いてさらに検証が加えられた。EKFC式では2〜90歳の年齢を通じて、また0.45〜5.54mg/dLの広範な血清Cr値を通じ標準法による基準値とのバイアスが小さく、30%超の推算誤差がCKiD式、CKD-EPI式に比べて少なく正確度が高まること、さらにEKFC式では小児と成人の境界年齢でもGFR値がスムーズに変化することが確認された。ただし、白人のみの成績であり、黒人など他人種へ適用できるかは問題点として残る。 1つの推算式で小児から青年期さらに壮年期への移行に伴ってeGFR推算がスムーズにできれば確かに長期にわたる腎機能の経過観察が可能となり、全年齢層での疫学調査や腎疾患の長期追跡研究などに役立つことが期待される。
/ 86