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カリフォルニア州の病院の質改善介入、州の政策イニシアティブおよび初産正期産単胎頭位分娩の帝王切開率
カリフォルニア州の病院の質改善介入、州の政策イニシアティブおよび初産正期産単胎頭位分娩の帝王切開率
Hospital Quality Improvement Interventions, Statewide Policy Initiatives, and Rates of Cesarean Delivery for Nulliparous, Term, Singleton, Vertex Births in California JAMA. 2021 Apr 27;325(16):1631-1639. doi: 10.1001/jama.2021.3816. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【重要性】帝王切開率の安全な低下が国家の優先事項である。 【目的】帝王切開率低下を目的とした多角的介入策を実施するカリフォルニア州の初産正期産単胎頭位(NTSV)分娩の帝王切開率 【デザイン、設定および参加者】2014~2019年の米国およびカリフォルニア州産院施設238箇所のNTSV分娩757万4,889件の帝王切開率を検討した観察研究。2016~2019年にかけて、California Maternal Quality Care CollaborativeがSmart Care Californiaと協同して、帝王切開率を下げるため多数の対策を導入した。NTSV分娩の帝王切開率が23.9%を超える病院に対して、2016年7月から2019年6月までの18カ月間にわたる質改善プログラムへの参加を呼びかけ、3つのコホートに振り分けた。 【曝露】この共同研究では、集学的チームがメンター制度、知識の共有および迅速なデータのフィードバックなどで支援する多数の戦略を導入した。非営利団体、州政府機関、購買者および医療制度間の協力関係によって、透明性、報奨プログラムおよび報酬を通じて外部環境に対処した。 【主要評価項目】主要評価項目は、カリフォルニア州のNTSV分娩の帝王切開率に見られる変化とし、差の差分析でカリフォルニア州の帝王切開率を米国のその他の州と比較した。このほか、患者別、病院別の交絡因子で調節したmixed multivariable logistic regression modelを用いて、共同研究および外部の州全体の取り組みを評価した。共同研究参加病院のNTSV分娩の帝王切開率は、非参加病院の帝王切開率および参加病院の共同研究参加前の帝王切開率と比較した。 【結果】2014年から2019年までの間に、米国でNTSV分娩757万4,889件が発生し、そのうち91万4,283件がカリフォルニア州の病院238施設で発生したものであった。カリフォルニア州の全病院は、NTSV分娩の帝王切開率が23.9%を超える149施設を含め、帝王切開率低下を目標とする州の取り組みの影響下にあり、そのうち91施設(61%)が質改善共同研究に参加した。カリフォルニア州のNTSV分娩の帝王切開率は、2014年の26.0%(95%CI、25.8%~26.2%)から2019には22.8%(95%CI、22.6%~23.1%)に低下した(相対リスク、0.88;95%CI、0.87~0.89)。(カリフォルニア州を除く)米国のNTSV分娩の帝王切開率は、2014年、2019年ともに26.0%であった(相対リスク、1.00、95%CI、0.996~1.005)。差の差分析からは、カリフォルニア州のNTSV分娩の帝王切開率低下度は(カリフォルニア州を除く)米国より3.2%(95%CI、1.7~3.5%)高いことが明らかになった。病院間や共同研究参加前の期間と比較すると、modified stepped-wedg解析を用いて患者データや期間で補正後、共同研究活動への曝露にNTSV分娩の帝王切開率オッズ低下との関連が認められた(24.4% vs 24.6%;調整オッズ比、0.87[95%CI、0.85~0.89])。 【結論および意義】2014~2019年のカリフォルニア州のNTSV分娩を検討したこの観察研究では、病院全体で取り組む共同研究の導入および経腟分娩を支援する州のイニシアティブによって、時間の経過と共に帝王切開率が低下した。 第一人者の医師による解説 初産低リスクの帝王切開率データのない日本 同様の取り組みの是非は不明 板橋 家頭夫 愛正会記念茨城福祉医療センターセンター長・昭和大学名誉教授 MMJ. October 2021;17(5):154 帝王切開(CS)は、リスクの高い分娩において母子の救命に寄与してきた。一方で、安易なCSの導入が母子にリスクを負わせていることも事実である。CSは経腟分娩に比べ母体の死亡率や合併症発症率が高く、さらに回数に応じて以後の分娩で子宮破裂、胎盤異常、子宮外妊娠、死産、早産などのリスクを高める(1)。CSによって娩出された児は、ホルモン環境や細菌学的環境、物理的環境などが経腟分娩の児とは異なっており、これが新生児の生理機能を変化させる可能性が高いと考えられている(1)。短期的な影響として、免疫系の発達の変化によるアレルギー疾患(アトピー、気管支喘息、食物アレルギーなど)、肥満のリスク、腸内細菌叢の多様性の低下などが挙げられている(1)。加えてエピゲノムの変化による将来的な健康への影響も懸念されている(1)。したがって、いかに不必要なCSを回避するかが世界的な課題となっており、世界保健機関(WHO)はCS率の目標を10~15%としている。 本論文は、米国カリフォルニア州においてステークホルダー組織 California Maternal Quality Care Collaborative(CMQCC)主導による介入がCS率に与えた影響に関する観察研究の報告である。本研究では、2016~19年に、初産、正期産、単胎、頭位(nulliparous、term、singleton、vertex;NTSV)の4条件を満たす分娩(NTSV分娩)のCS率が23.9%以上の施設に対しコホート研究の参加を呼びかけ、メンターシップや学習の共有、迅速なデータフィードバックなど複数の戦略を州政府の政策のもとで実施し、NTSV分娩におけるCS率低下の有無を評価した。その結果、同州におけるNTSV分娩のCS率は、2014年の26.0%から19年には22.8%に低下した(相対リスク,0.88;95%信頼区間[CI], 0.87~0.89)。一方、カリフォルニア州を除いた米国におけるNTSV分娩のCS率は、2014年、19年ともに26.0%で、同州よりも絶対差で3.2%(95% CI, 1.7~3.5%)高かった。また、CMQCCの取り組みに参加した施設は、参加しなかった施設に比べCS率が有意に低下した。以上より、著者らは、カリフォルニア州の政策の下に実施されたこのような取り組みがNTSV分娩のCS率低下に寄与したと結論付けている。日本では2013年の特定健診や保険レセプトのデータからは、国内全体のCS率が18.5%と推測されており(2)、経済協力開発機構(OECD)加盟国の平均28%に比べ明らかに低い。しかしながら、NTSV分娩のCS率のデータはなく、カリフォルニア州のような取り組みの是非については明らかでない。 1. Sandall J, et al. Lancet. 2018 ;392(10155):1349-1357. 2. Maeda E, et al. J Obstet Gynaecol Res. 2018;44(2):208-216.
栄養不良の小児への細菌叢を標的とした食事介入
栄養不良の小児への細菌叢を標的とした食事介入
A Microbiota-Directed Food Intervention for Undernourished Children N Engl J Med. 2021 Apr 22;384(16):1517-1528. doi: 10.1056/NEJMoa2023294. Epub 2021 Apr 7. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】世界で3,000万人以上の小児が中等度急性栄養不良の状態にある。現在の治療は効果に乏しく、この病態の原因について明らかになっていない点も多い。中等度急性栄養不良の小児では、腸内細菌叢の発達が阻害されている。 【方法】この試験では、スラムに居住し中等度急性栄養不良がある12~18カ月齢のバングラデシュ人小児123例に、細菌を標的とした補完食のプロトタイプ(microbiota-directed complementary food prototype:MDCF-2)またはすぐに食べられる栄養補助食(ready-to-use supplementary food:RUSF)を提供した。補充は3カ月間にわたり1日2回実施し、その後1カ月間モニタリングした。介入開始前、介入期間中の2週に1回および4カ月時、身長に対する体重、年齢に対する体重、年齢に対する身長のzスコアを求め、上腕中央部周囲長を計測した。介入開始前と3カ月時、介入開始前と4カ月時で、この関連表現型の変化率を比較した。このほか、タンパク質4,977種の血漿濃度と糞便中の細菌群209種の量を測定した。 【結果】小児118例(各試験群59例)が介入を完遂した。身長に対する体重と年齢に対する体重のzスコアの変化率は、1カ月間の追跡調査を含む試験期間中、MDCF-2が成長にもたらす便益と一致していた。MDCF-2の摂取に、血漿タンパク質70種の濃度と関連細菌群21種の量に見られた変化の度合いとの関連が認められ、この変化の度合いには身長に対する体重のzスコアと正の相関が認められた(タンパク質と細菌群、いずれの比較でもP<0.001)。このタンパク質には、骨成長や神経発達の媒介因子が含まれていた。 【結論】この結果は、中等度急性栄養不良の小児に用いる栄養補助食としてMDCF-2を支持し、細菌叢の構成要素を標的とした操作が小児の成長につながる機序を知る上での手掛かりをもたらすものである。 第一人者の医師による解説 危険性がなくコスト面でも有利 適応年齢や継続的な投与の必要性が今後の検討課題 金森 豊 国立成育医療研究センター小児外科系専門診療部外科診療部長 MMJ. October 2021;17(5):157 本論文の臨床試験には先行研究(1)があり、腸内細菌叢の成熟が遅れた低栄養児に対して、腸内細菌叢を正常栄養児の年齢相応の状態に誘導する補助栄養剤MDCF(microbiota-directed complementary food)の開発が報告されている。今回はそのうちの1製剤(MDCF-2)の有効性が従来の補助栄養剤(ready-to-use supplementary food;RUSF)と無作為化対照試験で比較された。バングラデシュ・ダッカのミルプール地域在住の中等度の低栄養児(身長体重比がコホート中央値の−2〜−3SD未満)118人がMDCF-2またはRUSFを3カ月間投与され、投与終了後1カ月間追跡された。その結果、MDSF-2群では、RUSFと比較し、身長体重比と年齢体重比のz-スコアが増加傾向を示した。また、身長体重比の上昇と変化量が有意な正の相関を示す蛋白として、骨成長および中枢神経系の成長に関連する蛋白が特定された。これらの蛋白群はMDCF-2群で増加が顕著であった。また、腸内細菌叢の変化から、身長体重比のz-スコアと正の相関を示す21種の細菌が特定された。これらはMDCF-2群で有意に増加しており、正常発達している児の腸内細菌叢に近づいていることが示唆された。一方、RUSF群では有意な変化がみられなかった。 腸内細菌叢の異常がさまざまな疾患と関連していることは最近多くの研究が示しており、低栄養の改善に腸内細菌叢が関与していることは想像に難くない。実際、低栄養の改善を目的に腸内細菌叢をコントロールしようという研究は活発である。1つの方法論は、プロバイオティクスという概念に包含される、宿主に有用な細菌の腸管内投与である。古くはビフィズス菌や乳酸菌などの単独投与が行われたが、最近では糞便移植や有用と考えられるいくつかの細菌を選別して投与する方法などが脚光を浴びている。しかし、有用菌の選別や有害菌の除去などに問題があり、コストの面からも難しい側面を持つ。そこで今回の報告のような、腸内細菌叢を宿主にとって有利な方向に誘導する栄養補助食品(プレバイオティクスと呼んでもいい方法論)の開発が注目される。この方法は大量に菌を投与するような危険性がなく、コストの面でも有利で、発展途上国などに多い低栄養児に応用するには有利である。本研究もそのような利点を十分に考慮に入れた研究で、今後のさらなる発展が期待される報告である。一方、この方法論が世界的にどの地域でも通用するかどうか、また適応年齢の制限がないかどうか、継続的な投与が必要かどうか、など今後検討するべき点も多い。 1. Gehrig JL, et al. Science. 2019;365(6449):eaau4732.
虚血性脳卒中後の上肢機能障害に用いるリハビリと迷走神経刺激(VNS-REHAB):無作為化盲検ピボタルデバイス試験
虚血性脳卒中後の上肢機能障害に用いるリハビリと迷走神経刺激(VNS-REHAB):無作為化盲検ピボタルデバイス試験
Vagus nerve stimulation paired with rehabilitation for upper limb motor function after ischaemic stroke (VNS-REHAB): a randomised, blinded, pivotal, device trial Lancet. 2021 Apr 24;397(10284):1545-1553. doi: 10.1016/S0140-6736(21)00475-X. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】虚血性脳卒中後に長期的な上肢機能障害がよく起こるが、リハビリテーションと迷走神経刺激の組み合わせによって改善すると思われる。著者らは、この方法が脳卒中後の上肢障害改善に安全で有効な治療であることを明らかにすることを目的とした。 【方法】英国および米国の脳卒中リハビリテーション施設19箇所で実施されたこのピボタル無作為化三十盲検シャム対象試験は、虚血性脳卒中から9カ月以上経過し、中等度ないし重度の上肢機能障害が残る患者をリハビリテーション+迷走神経刺激(VNS群)とリハビリテーション+シャム刺激(対照群)に(1対1の割合で)割り付けた。ResearchPoint Global社(米テキサス州オースティン)がSAS PROC PLAN(米SAS Institute Software社)を用いて無作為化を実施し、地域(米国 vs 英国)、年齢(30歳以下 vs 30歳超)、治療開始前のFugl-Meyer Assessment-Upper Extremity(FMA-UE)スコア(20~35点 vs 36~50点)で層別化した。参加者、評価者および治療実施者に割り付けを伏せた。全参加者に迷走神経刺激装置を留置した。VNS群は、0.8mA、100μs、30Hzの刺激を0.5秒間受けた。対照群は、0mAの刺激を受けた。参加者は、6週間にわたり施設内で治療を受けた後(1週間に3回、計18回)、自宅で運動プログラムを継続した。主要評価項目は、施設内での治療完了初日の障害の変化とし、FMA-UEスコアで測定した。施設内治療完了から90日後にもFMA-UEの奏効率を評価した(副次評価項目)。全解析はintention-to-treatで実施した。この試験は、ClinicalTrials.govにNCT03131960として登録されている。 【結果】2017年10月2日から2019年9月12日までの間に、108例を無作為化により割り付けた(VNS群53例、対照群55例)。106例が試験を完遂した(各群1例が脱落)。施設内治療完了初日、平均FMA-UEスコアはVNS群では5.0点(SD 4.4)、対照群では2.4点(3.8)上昇した(群間差2.6点、95%CI 1.0~4.2、P=0.0014)。施設内での治療から90日後、VNS群53例中23例(47%)、対照群55例中13例(24%)がFDA-UEスコアの臨床的に意義のある効果を達成した(群間差24%、6~41、P=0.0098)。対照群に手術関連の重篤な有害事象が1件発生した(声帯麻痺)。 【解釈】リハビリテーションと組み合わせた迷走神経刺激は、虚血性脳卒中後の中等度ないし重度上肢機能障害の新たな治療選択肢となる可能性がある。 第一人者の医師による解説 対象患者の障害程度の見極めと 治療の侵襲性と介入時期等についての議論が必要 赤倉 奈穂実/早乙女 貴子(医長) 東京都立神経病院リハビリテーション科/髙橋 一司 東京都立神経病院院長 MMJ. October 2021;17(5):141 虚血性脳卒中後に多くの患者で上肢機能障害が残存することは知られているが、これまでに上肢機能障害に対する効果が報告された治療法はわずかである。 脳卒中後の脳神経細胞には可塑性があることが指摘されている。迷走神経刺激(VNS)は皮質全体でアセチルコリンやノルエピネフリンなどの可塑性を促進する神経調節物質の放出を引き起こす。VNSを運動と同期的に行うことでシナプス再編成と残存神経の動員を促し、上肢の運動機能を回復させることが、動物実験で示されている(1),(2)。 本論文は、脳卒中後遺症のある患者を対象にVNS治療を英国と米国の19の脳卒中リハビリテーション施設で実施した無作為化三重盲検比較試験の報告である。年齢22~80歳、発症後9カ月~10年、中等度~重度(Fugl-Meyer Assessment-Upper Extremity[FMA-UE]スコア,20〜50点[最高得点は66点])の上肢機能障害を有する片側テント上虚血性脳卒中患者108人にVNS装置の植込み術を行った後、VNS刺激+リハビリテーション(VNS群53人)または偽刺激+リハビリテーション(対照群55人)のいずれかを週3回・6週間施設内で実施、その後自宅での運動プログラムを継続した。リハビリテーションプログラムは、リーチと把握、物体の裏返し、食事動作などの患者ごとに個別化した難易度の課題を反復して行った。 プログラム終了時の評価では、FMA-UEスコアの平均値は、ベースラインに比べ、VNS群で5.0点、対照群2.4点改善し、2群間に有意差が認められた。プログラム終了後90日目にFMA-UEスコアで臨床的に意義がある6ポイント以上の改善が得られたのは、VNS群では23/53人(47%)、対照群では13/55人(24%)であり、2群間の差は有意であった。手術に関連した重篤な有害事象は、対照群で1件(声帯麻痺)であり、これはてんかんやうつ病に対するVNS治療でみられる頻度と相違なかった。著者らはVNSが脳卒中後遺症としての上肢機能障害を改善させる新しい戦略になりうると結論付けている。 この治療法の課題として、運動神経回路の回復には上肢の運動が必要であり、対象となる患者の障害の程度を見極める必要があることや、介入時期、治療の侵襲性についても、さらなる議論が必要である。脳卒中後の中等度〜重度の上肢機能障害に対するリハビリテーションとVNSの組み合わせは新規治療として可能性を秘めている。 1. Engineer ND, et al. Front Neurosci. 2019;13:280. 2. Meyers EC, et al. Stroke. 2018;49(3):710-717.
男性パートナーの総精子数および精子運動率が正常な不妊カップルに用いる卵細胞質内精子注入法と標準体外受精の比較:非盲検無作為化比較試験
男性パートナーの総精子数および精子運動率が正常な不妊カップルに用いる卵細胞質内精子注入法と標準体外受精の比較:非盲検無作為化比較試験
Intracytoplasmic sperm injection versus conventional in-vitro fertilisation in couples with infertility in whom the male partner has normal total sperm count and motility: an open-label, randomised controlled trial Lancet. 2021 Apr 24;397(10284):1554-1563. doi: 10.1016/S0140-6736(21)00535-3. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】卵細胞質内精子注入法の使用は世界で大幅に増加している。しかし、このアプローチを標準体外受精(IVF)と比較した無作為化比較試験のデータが不足している。そこで、卵細胞質内精子注入法が標準IVFと比較して生産率が高いかを明らかにすることを目的とした。 【方法】この非盲検多施設共同無作為化試験は、ベトナム・ホーチミン市のIVFセンター2施設(IVFMD、My Duc HospitalおよびIVFAS、An Sinh Hospital)で実施された。男性パートナーの精子数および精子運動率(直進運動)が2010年のWHO基準から見て正常な18歳以上のカップルを適格とした。標準IVFまたは卵細胞質内精子注入法による治療歴が2回以下であり、卵巣刺激にアンタゴニスト法を用いており、胚移植数が2個以下であることとした。ブロックサイズが2、4または8のブロック置換法および電話による中央無作為化法を用いて、カップルを卵細胞質内精子注入法と標準IVFに(1対1の割合で)割り付けた。コンピュータ生成無作為化リストは、試験に関与していない独立の統計家が用意した。介入法および病院での支払いに差があるため、胚培養士およびカップルに試験群を伏せなかったが、胚移植を実施する臨床医には試験群の割り付けを伏せた。主要評価項目は、初回採卵周期で得た初回胚移植後の生産率とした。intention-to-treat集団で解析した。この試験はClinicalTrials.gov,にNCT03428919として登録されている。 【結果】2018年3月16日から2019年8月12日までの間に、1,064組を卵細胞質内精子注入法(532組)と標準IVF(532組)に割り付けた。卵細胞質内精子注入法に割り付けたカップル532組中284組(35%)および標準IVFに割り付けたカップル532組中166組(31%)が初回採卵周期で得た初回胚移植後に生児を出生した(絶対差3.4%、95%CI -2.4~9.2、リスク比[RR]1.11、95%CI 0.93~1.32;P=0.27)。卵細胞質内精子注入法群の29組(5%)と標準IVF群の34組(6%)で受精が失敗した(絶対差-0.9%、RR 0.85、95%CI 0.53~1.28;P=0.60)。 【解釈】男性パートナーの総精子数および運動率が正常な不妊カップルで、卵細胞質内精子注入法の生産率に標準IVFと比べて改善が見られなかった。この結果は、この集団に用いる生殖補助技術として卵細胞質内精子注入法のルーチンの使用を再考する必要性を示すものである。 第一人者の医師による解説 男性不妊因子のないカップルへの顕微授精は再考が必要 通常の体外受精で対応可 丸山 哲夫 慶應義塾大学医学部産婦人科学教室准教授 MMJ. October 2021;17(5):155 健常と思われる単一の精子を卵子に注入して受精卵を作成する顕微授精(ICSI)は、精液所見が不良のために通常の体外受精(cIVF)では妊娠が困難な不妊カップルを治療する目的で1990年代に開発された。本技術はこの約20年間世界中で広く用いられ、精液所見による男性不妊因子の割合はほぼ一定であるにもかかわらず、ICSI実施件数は増加の一途をたどっている(1)。この増加は、男性不妊因子のない不妊カップルに実施される割合が大幅に高まっていることに起因し、米国では1996年の15.4%から2012年には66.9%へと上昇した(2)。このような本来の目的以外でICSIが用いられる背景には、確実に受精させることで受精卵を効率的に増やし、生児が得られる確率を高めるという考えがある。しかし、その考えを裏付ける確かなエビデンスはこれまで得られていない。男性不妊因子のない不妊カップルを対象にICSIとcIVFを比較したランダム化試験(3)は報告されている。主要評価項目である着床率はcIVFの方が高かったが(30%対22%)、統計学的検出力が不十分であり、不妊カップルにとって最も重要な関心事である生児獲得率(生産率)のデータがないことから、これらの諸問題を解決する新たなランダム化試験が望まれていた。 今回のランダム化非盲検対照試験は、2018〜19年にベトナムのIVFセンター2施設で行われた。世界保健機関(WHO)2010基準で総精子数および精子運動率が正常、過去のcIVFまたはICSIの治療歴は2回以下などを組み入れ条件とし、卵巣刺激はアンタゴニスト法で移植胚数は2個以下と設定した。cIVFとICSIの介入方法と治療コストは両者で明らかに異なるので、胚培養士および対象カップルへの盲検化は不可のため非盲検となった。主要評価項目は、初回採卵周期で得られた最初の胚の移植での生産率とされた。6,440組の不妊カップルを絞り込んでいった結果、最終的にICSI群に532組、cIVF群に532組が割り当てられた。その結果、生産率は、ICSI群で35%、cIVF群で31%で、両群間に有意差は認められなかった。受精失敗率についても両群間で有意差はなかった(5%対6%)。 本研究の結果から、男性不妊因子のない不妊カップルにICSIを行っても生産率が向上することはなく、昨今の男性不妊因子を考慮しないICSIのルーチン的な使用については再考する必要性が示された。 1. Zagadailov P, et al. Obstet Gynecol. 2018;132(2):310-320. 2. Boulet SL, et al. JAMA. 2015;313(3):255-263. 3. Bhattacharya S, et al. Lancet. 2001;357(9274):2075-2079.
グリセミック指数、グリセミック負荷および心血管疾患と死亡
グリセミック指数、グリセミック負荷および心血管疾患と死亡
Glycemic Index, Glycemic Load, and Cardiovascular Disease and Mortality N Engl J Med. 2021 Apr 8;384(14):1312-1322. doi: 10.1056/NEJMoa2007123. Epub 2021 Feb 24. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】グリセミック指数と心血管疾患の関連性に関するデータのほとんどが高所得の欧米諸国の集団から得られたものであり、低所得または中所得の非欧米諸国から得られた情報はほとんどない。この隔たりを埋めるため、地理的に多様な大規模集団からデータを得る必要がある。 【方法】この解析は5大陸に住む35~70歳の参加者13万7,851例を対象とし、中央値9.5年にわたり追跡した。国別の食物摂取頻度調査票を用いて栄養摂取量を求め、炭水化物食品7分類の摂取量に基づきグリセミック指数とグリセミック負荷を推定した。多変量Cox frailty modelを用いてハザード比を算出した。主要評価項目は、主要心血管事象(心血管死、非致命的心筋梗塞、脳卒中、心不全)または全死因死亡の複合とした。 【結果】対象集団では、追跡期間中に死亡8,780件、主要心血管事象8,252件が発生した。グリセミック指数の最低五分位群と最高五分位群を比較する広範な調整を実施した後、心血管疾患の既往がある参加者(ハザード比1.51;95%CI、1.25~1.82)とない参加者(ハザード比1.21;95%CI、1.11~1.34)ともにグリセミック指数の高い食事で主要心血管事象または死亡のリスクが上昇することが明らかになった。主要評価項目の構成要素のうち、グリセミック指数高値には心血管死のリスク上昇との関連も認められた。グリセミック負荷に関する結果は、ベースラインで心血管疾患がある参加者ではグリセミック指数の結果とほぼ同じであったが、この関連は心血管疾患がない参加者では有意ではなかった。 【結論】本試験では、グリセミック指数の高い食事に心血管疾患および死亡のリスク上昇との関連が認められた。 第一人者の医師による解説 食事が健康に与える影響の解析において GIとGLは有用な指標 宮下 和季 慶應義塾大学医学部腎臓内分泌代謝内科特任准教授 MMJ. October 2021;17(5):159 グリセミックインデックス(GI)は、ある食品を摂取した後の血糖上昇を示す指標である。ブドウ糖50gを摂取した後の血糖値 -時間曲線下面積(AUC)を100として、一定量の炭水化物(50g)を含む食品を摂取した際のAUCがGIと定義される。食後血糖が上昇しやすく長時間高血糖が持続する食品はGI値が高くなり、一般には炭水化物の中でブドウ糖を多く含む食品が高 GIとなる。糖尿病の食事管理におけるGIの有用性が1998年に報告され、食品の質を表す指標としてGIが注目されるようになった。グリセミックロード(GL)は実際に食べる量を考慮した糖負荷の指標で、GI値に各食品の炭水化物量をかけ合わせて算出する。食事が血糖値に与える影響の予測指標として、摂取カロリーを勘案するGLは、GIよりも有用と考えられている。 血糖に影響を与えにくい低 GI食により糖尿病の発症リスクが低下するとの報告があるものの、心血管病の発症や全死亡に与える影響についてはエビデンスに乏しい。GI値と心血管病の関連に関するデータは、欧米諸国から得られたものであり(1),(2)、発展途上国のデータはほとんどない。そこで本研究では、5大陸20カ国に住む35~70歳の14万人弱を対象に、中央値9.5年の追跡期間で、GI値、GL値と、主要心血管イベントの発症(心血管死、非致死的心筋梗塞、脳卒中、心不全)、全死亡との関連を検討した。質問票を用いて食事摂取量を決定し、炭水化物を7つのカテゴリーに分類してGI値とGL値を推定した。多変量 Cox解析により、GI値とGL値が心血管病および全死亡に与える影響を算出した。 GI値、GL値により参加者を5段階に分けて、広範な調整を行い検討したところ、高 GI食は、心血管病の既往や体格指数(BMI)にかかわらず、世界のどの地域においても、心血管病と全死亡のリスクを高めた。心血管病の既往のある母集団では、高GI食に伴う心血管病発症または死亡のハザード比は1.51(95%信頼区間[CI], 1.25~1.82)であった。GL値も心血管病および全死亡のリスクと同程度に関連していたが、心血管病の既往のない参加者では関連性が有意ではなかった。 以上の結果より、これまでほとんど検討されていなかった発展途上国においても、高 GI食が心血管病および全死亡のリスクとなることが明らかとなった。このことからGIとGLは、食事が健康に与える影響の解析において、有用な指標と判断された。高 GI / GL食を摂取すると、低 GI / GL食よりも、心血管病と全死亡のリスクが高まることが示された。 1. Levitan EB, et al. Am J Clin Nutr. 2007;85(6):1521-1526. 2. Nagata C, et al. Br J Nutr. 2014;112(12):2010-2017.
PCI実施患者に用いる個別化抗血小板療法と標準抗血小板療法の比較:システマティック・レビューとメタ解析
PCI実施患者に用いる個別化抗血小板療法と標準抗血小板療法の比較:システマティック・レビューとメタ解析
Guided versus standard antiplatelet therapy in patients undergoing percutaneous coronary intervention: a systematic review and meta-analysis Lancet. 2021 Apr 17;397(10283):1470-1483. doi: 10.1016/S0140-6736(21)00533-X. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】経皮的冠インターベンション(PCI)を受ける患者に用いる個別化抗血小板療法は標準療法と比べて転帰が良好であるかは議論の余地がある。そこで、PCI実施患者で、個別化抗血小板療法と標準的抗血小板療法の安全性および有効性を評価した。 【方法】このシステマティック・レビューおよびメタ解析では、2020年8月20日から10月25日にかけて、MEDLINE(PubMed)、Cochrane、EmbaseおよびWeb of Scienceの各データベースで、PCIを受ける患者を対象に、血小板機能検査または遺伝子検査を用いる個別化抗血小板療法と標準的抗血小板療法を比較した無作為化比較試験および観察研究を言語を問わず検索した。レビューアー2名が個別に試験の適格性を評価し、データを抽出し、バイアスリスクを評価した。I2指標で評価した試験間の推定異質性によって、リスク比(RR)と95%CIにランダム効果または固定効果モデルを用いた。試験で定義した主要な主要有害心血管系事象および全出血を主要評価項目とした。全死因死亡、心血管系死、心筋梗塞、脳卒中、ステント血栓症(確定または疑い)、大出血および軽度出血を主な副次評価項目とした。この試験は、PROSPERO(CRD42021215901)で登録されている。 【結果】関連の可能性がある3,656報をスクリーニングした。患者2万743例のデータを含む無作為化比較試験11報および観察研究3報を解析の対象とした。標準療法と比べると、抗血小板療法の個別化選択で、統計的有意ではないものの(RR 0.88、0.77~1.01、P=0.069)、主要有害心血管事象(RR 0.78、95%CI 0.63~0.95、P=0.015)および出血が減少した。標準療法と比べると、個別化抗血小板療法では心血管死(RR 0.77、95%CI 0.59~1.00、P=0.049)、心筋梗塞(RR 0.76、0.60~0.96、P=0.021)、ステント血栓症(RR 0.64、0.46~0.89、P=0.011)、脳卒中(RR 0.66、0.48~0.91、P=0.010)、軽度出血(RR 0.78、0.67~0.92、P=0.0030)が少なかった。個別化抗血小板療法と標準的抗血小板療法で、全死因死亡と大出血のリスクに差はなかった。戦略によって転帰にばらつきが見られ、escalation法では安全性を損なうことなく虚血性事象が有意に減少し、de-escalation法では有効性を損なうことなく出血が有意に減少した。 【解釈】個別化抗血小板療法によって良好な安全性が保たれたまま複合評価項目および各有効性評価項目が改善し、軽度出血の出血も減少した。PCIを受ける患者の薬剤選択を最適化するため、血小板機検査または遺伝子検査を用いることが支持される。 第一人者の医師による解説 抗血小板療法のオーダーメード化には 日本でもRCTによる費用対効果分析が必要 河村 朗夫 国際医療福祉大学医学部循環器内科主任教授 MMJ. October 2021;17(5):143 冠動脈インターベンション(ステント留置など)における抗血小板療法は、死亡、心筋梗塞などの血栓性合併症を予防する優れた効果を示す一方、ときに重篤な出血性合併症を伴う。血栓性合併症と出血性合併症の双方を予防することはしばしば二律背反となる。これらの合併症の頻度は、抗血小板療法の内容のみならず、患者の体格、人種、性別などさまざまな要素により規定されるため、個々の患者における最適な抗血小板療法を決定することは重要な課題である。 本論文は、11件の無作為対照試験(RCT)と3件の観察研究から得た20,743人のデータを用いた、これまでで最大規模となるメタアナリシスの報告である。患者の血小板機能検査、あるいはクロピドグレルの代謝に影響を及ぼすことが知られているCYP2C19の遺伝子多型検査のいずれかを用いて、抗血小板療法を患者ごとに強化あるいは減弱することで、主要心血管イベントと出血を予防することができるかどうかが検証された。抗血小板療法の強化が行われた10件の研究では以下のいずれかが行われた。すなわち、クロピドグレルをプラスグレルかチカグレロルへ変更、クロピドグレルの倍量投与、あるいはシロスタゾールの追加である。一方、抗血小板療法を減弱した4件の研究では、プラスグレルやチカグレロルがクロピドグレルへ変更された。その結果、少なくとも6カ月以上の追跡期間において、個別化抗血小板療法は主要心血管イベント(相対リスク[RR],0.78;P=0.015)と、統計学的有意差には至らないものの出血も減少させた(RR, 0.88;P=0.069)。 今回のメタアナリシスには、アジア(中国、韓国)から発表されたRCTが4件、観察研究が2件含まれている。これらの報告ではいずれも抗血小板療法の強化が行われているのが興味深い。アジア人ではCYP2C19の活性が欠損する遺伝子多型の頻度が高く、クロピドグレルが活性体にならず効果が低下する可能性があることと関連していると思われるが、日本でも同様の結果が得られるのかどうかはいまだ議論の余地がある。本論文の対象研究で用いられた血小板機能測定や遺伝子多型検査は、日常診療では行われていない。最新の日米欧のガイドラインでもこれらの検査をルーチンに行うことは推奨されていない。今後さらなる知見が得られると見込まれるが、検査に要する時間や費用を考慮すると、費用対効果分析が欠かせない。
重症急性腎障害に用いる2通りの腎代替療法開始遅延戦略の比較(AKIKI 2試験):多施設共同非盲検無作為化対照試験
重症急性腎障害に用いる2通りの腎代替療法開始遅延戦略の比較(AKIKI 2試験):多施設共同非盲検無作為化対照試験
Comparison of two delayed strategies for renal replacement therapy initiation for severe acute kidney injury (AKIKI 2): a multicentre, open-label, randomised, controlled trial Lancet. 2021 Apr 3;397(10281):1293-1300. doi: 10.1016/S0140-6736(21)00350-0. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】重度の合併症がない重症急性腎障害で腎代替療法(RRT)開始をある程度遅らせることは安全であり、医療機器の使用が最適化できる。リスクがなくRRTを延期できる期間についてはいまだに明らかになっていない。本試験の目的は、開始をさらに遅らせることでRRTを受けない日数が長くなるという仮説を検証することであった。 【方法】本試験は、フランスの39の集中治療室で実施された多施設共同非遮蔽前向き非盲検無作為化対照試験であった。重症急性腎障害(Kidney Disease: Improving Global Outcomesステージ3と定義)の重篤患者を乏尿が72時間を超えるまで、または血中尿素窒素濃度が112mg/dLを超えるまでモニタリングした。その後、患者を直後にRRTを開始する戦略(遅延戦略)と長期遅延戦略に(1対1の割合で)割り付けた。長期遅延戦略では、必須の適応症(顕著な高カリウム血症、代謝性アシドーシスまたは肺水腫)が生じるか血中尿素窒素濃度が140mg/dLに達するまでRRTの開始を延期した。主要評価項目は、無作為化から第28日まで生存しRRTを受けなかった日数とし、intention-to-treat集団で評価した。本試験はClinicalTrial.govに登録され(NCT03396757)、終了している。 【結果】2018年5月7日から2019年10月11日までの間に、評価した5,336例のうち278例を無作為化し、137例を遅延群、141例を長期遅延群に割り付けれた。急性腎障害またはRRT関連の可能性がある合併症数は、両群同等であった。RRTを受けなかった日数中央値は、遅延群では12日(IQR 0~25)、長期遅延群では10日(IQR 0~24)であった(P=0.93)。多変量解析で、遅延群に対する長期遅延群の60日時の死亡のハザード比は1.65(95% CI 1.09~2.50、P=0.018)であった。急性腎障害またはRRTに関連する可能性のある合併症の数には両群間で差がなかった。 【解釈】乏尿が72時間を超えるか血中尿素窒素濃度が112mg/dLを超える重症急性腎障害患者で、即時RRTを要する重度合併症がない場合、RRT開始を長く延期しても便益は得られず、有害となる可能性がある。 第一人者の医師による解説 エビデンスの蓄積で透析開始基準のより明確化を期待 根本佳和(助教)/寺脇博之(教授) 帝京大学ちば総合医療センター第三内科(腎臓内科) MMJ. October 2021;17(5):147 急性腎障害(AKI)における緊急透析の適応基準は存在するものの、それに該当しない重症患者に対する腎代替療法(RRT)開始タイミングについては議論が分かれる。「透析はまだ待てる」、逆に「もう少し早くに連絡して欲しかった」とコンサルテーションを依頼した専門医に言われ、一体どのタイミングが正解だったのかと思い悩んだ医師も多いのではないだろうか。本論文はこの、「透析はどこまで待つか」というシンプルだがいまだ答えが曖昧な疑問に対する重要なエビデンスである。 著者らはフランスの39施設の集中治療室(ICU)において多施設共同ランダム化対照試験を実施した。重症 AKI(Kidney Disease: Improving Global Outcomes[KDIGO]分類のstage3)患者を、72時間以上の乏尿または尿素窒素(BUN)112 mg/dL超になるまでモニターした後、遅延群(delayed strategy:ランダム化直後にRRTを開始)と長期遅延群(more-delayed strategy:いわゆる緊急導入徴候[高カリウム血症・代謝性アシドーシス・肺水腫]の出現、またはBUN140mg/dL超でRRTを開始)の2群にランダムに割り付けた。評価対象となった患者は5,336人であり、そのうち278人がランダム化を受け、137人が遅延群、141人が長期遅延群に割り付けられた。主要評価項目のRRT-free daysは生存とRRTの期間の複合アウトカムであり、ランダム化から28日目までの期間において生存患者でRRTを実施しなかった日数がカウントされた。結果、RRT-free days中央値に関して遅延群と長期遅延群で有意差はなかった(12日対10日;P=0.93)。また、副次評価項目の1つである60日後の死亡率は、遅延群44%、長期遅延群55%と有意差はなかったが(P=0.071)、長期遅延群は60日後の死亡に関する有意な危険因子であることが多変量解析で示された(ハザード比,1.65;95%信頼区間,1.09〜2.50;P=0.018)。すなわち、透析開始を必要以上に遅延させることの有益性はなく、むしろ有害性と関連している、と著者らは結論づけている。 日本の臨床では、本試験の長期遅延群に該当するまでRRT開始を延期することは少ないと思われる。遅延群もしくはそれ以前の段階において緊急導入徴候が出現した際にRRTを開始することが多いのではないだろうか。著者のGaudryらは、AKIにおけるRRTの早期導入と晩期導入に関するメタ解析で、28日全死亡率に有意差がなかったとも報告している(1)。RRT開始は『早すぎず遅すぎず』のスタンスで良いことはわかってきたが、本論文のようなエビデンスがさらに蓄積されることで開始基準がより明確化されることに期待したい。 1. Gaudry S, et al. Lancet. 2020;395(10235):1506-1515. (MMJ 2020年12月号で紹介)
心不全と危険因子の年齢依存的な関連:統合集団ベースコホート研究
心不全と危険因子の年齢依存的な関連:統合集団ベースコホート研究
Age dependent associations of risk factors with heart failure: pooled population based cohort study BMJ. 2021 Mar 23;372:n461. doi: 10.1136/bmj.n461. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【目的】一般集団には心不全発症の危険因子に年齢による差があるかを評価すること。 【デザイン】集団ベースの統合コホート研究。 【設定】Framingham Heart Study、Prevention of Renal and Vascular End-stage Disease StudyおよびMulti-Ethnic Study of Atherosclerosis。 【参加者】若年者(55歳未満、1万1,599例)、中年者(55~64歳、5,587例)、前期高齢者(65~74歳、5,190例)、後期高齢者(75歳以上、2,299例)で層別化した心不全既往歴のない参加者計2万4,675例。 【主要評価項目】心不全発症率。 【結果】追跡調査期間中央値12.7年間にわたり、若年者138例(1%)、中年者293例(5%)、前期高齢者538例(10%)、後期高齢者412例(18%)が心不全を発症した。若年者では、心不全発症例の32%(44例)が駆出率が保たれた心不全に分類されたのに対して、後期高齢者では43%(179例)であった。若年者では高齢者と比べて、高血圧、糖尿病、現在の喫煙、心筋梗塞の既往歴などの危険因子があると相対リスクが高かった(全体の交互作用のP<0.05)。例えば、高血圧があると、若年者では心不全リスクが3倍になり(ハザード比3.02、95%CI 2.10~4.34;P<0.001)、それに対して後期高齢者ではリスクが1.4倍になった(1.43、1.13~1.81、P=0.003)。心不全発症の絶対リスクは、危険因子の有無に関係なく、若年者の方が高齢者よりも低かった。若年者の方が高齢者よりも危険因子の人口寄与危険割合が高く(75% v 53%)、モデル適合度も良好であった(C index 0.79 v 0.64)。同様に、肥満(21% v 13%)、高血圧(35% v 23%)、糖尿病(14% v 7%)、現在の喫煙(32% v 1%)の集団寄与危険割合は高齢者よりも若年者の方が高かった。 【結論】若年者の方が高齢者よりも心不全の発症率と絶対リスクが低いが、修正可能な危険因子との関連が強く寄与危険度が大きいことから、成人期にわたる予防努力の重要性が浮き彫りになった。 第一人者の医師による解説 心不全予防には生涯にわたるリスク管理が重要 ハザード比は診療に有用 諸井 雅男 東邦大学医学部内科学講座循環器内科学分野(大橋)教授 MMJ. October 2021;17(5):142 若年者は高齢者に比べ心不全発症率が低いことは知られているが、年齢別に心不全発症と肥満、高血圧および糖尿病などの危険因子との関係は検討されていなかった。先行研究では、電子健康記録を用いた研究で、若年者では心不全を含む心血管疾患発症や血圧上昇の相対リスク低下が認められたことや、心不全患者を対象とした研究で、若年患者は肥満、男性、糖尿病既往者で多くみられることは報告されていた(1),(2)。 本論文は、一般集団における心不全の年齢別危険因子を評価するため、米国のFramingham Heart Study、オランダのPrevention of Renal and Vascular End-stage Disease(PREVEND)研究、米国のMulti-Ethnic Study of Atherosclerosis(MESA)のデータを統合解析したコホート研究の報告である。対象者は心不全歴のない24,675人で、若年者(55歳未満、11,599人)、中年者(55~64歳、5,587人)、前期高齢者(65~74歳、5,190人)、後期高齢者(75歳以上、2,299人)に層別化し、心不全の発症について追跡期間中央値12.7年において評価した。 その結果、高血圧、糖尿病、現在の喫煙、および心筋梗塞の既往といった危険因子は、高齢者と比較し、若年者でその相対的寄与が大きかった。例えば高血圧は、若年者の将来的心不全リスクを3倍上昇させたのに対し、後期高齢者では1.4倍の上昇であった。心不全発症の絶対リスクは、危険因子にかかわらず、高齢者より若年者のほうが低かった。 心不全患者が増加し続けている中で、その年齢に応じて具体的なリスクの数字を示したことは診療に有用である。50歳の男性が健診で高血圧を指摘されて受診した場合に、我々医療者は単に生活習慣の是正と降圧薬の服用を考慮するだけではなく、「高血圧者は正常血圧者に比べ12年後には3倍の心不全発症リスクがある」ことを患者に伝えることができる。一方、75歳ではそのリスクは1.4倍である。このことは、患者の価値観や希望と併せて、医療者はその介入の程度を考慮する際の1つの情報となり、その上での治療は生活の質(QOL)を高めることにつながる。人生100年時代を迎え、生命予後のみならず若年から年齢を重ねた時のQOLを考慮しそのリスク管理により心不全を予防することは、医療者には極めて重要と考える。 1. Rosengren A, et al. Eur Heart J. 2017;38(24):1926-1933. 2. Christiansen MN, et al. Circulation. 2017;135(13):1214-1223.
中国・武漢の抗SARS-CoV-2抗体血清陽性率と体液性免疫の持続性:住民対象長期横断研究
中国・武漢の抗SARS-CoV-2抗体血清陽性率と体液性免疫の持続性:住民対象長期横断研究
Seroprevalence and humoral immune durability of anti-SARS-CoV-2 antibodies in Wuhan, China: a longitudinal, population-level, cross-sectional study Lancet. 2021 Mar 20;397(10279):1075-1084. doi: 10.1016/S0140-6736(21)00238-5. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】武漢市は、中国で発生したCOVID-19大流行の中心地であった。著者らは、武漢市民の抗SARS-CoV-2抗体の血清陽性率と動態を明らかにし、ワクチン接種対策に役立てることを目的とした。 【方法】この長期横断研究では、多段階の人口層別型クラスター無作為標本抽出法を用いて、武漢市内13地区100地域を系統的に選択した。各地域から系統的に世帯を抽出し、全家族構成員に参加のため地域ヘルスケアセンターに来てもらった。2019年12月1日以降、武漢市に14日以上居住した住民を適格とした。参加に同意した全適格参加者が人口統計学および臨床的データに関するアンケートにオンラインで回答し、COVID-19に伴う症状やCOVID-19診断歴を自己申告した。2020年4月14~15日に免疫検査用に静脈血検体を採取した。血液検体でSARS-CoV-2ヌクレオカプシドタンパクに対する汎免疫グロブリン、IgM、IgA、IgG抗体の有無を検査し、中和抗体を評価した。2020年6月11日~13日、10月9日~12月5日に2回連続で追跡調査を実施し、その際に血液検体も採取した。 【結果】無作為に選択した4,600世帯のうち3,599世帯(78.2%)、計9,702例が初回評価のため来院した。3,556世帯9,542例から解析に十分な検体を得た。9,542例のうち532例(5.6%)がSARS-CoV-2に対する汎免疫グロブリン陽性で、この集団の調査開始時データで調整後の血清陽性率は6.92%(95%CI 6.41~7.43)であった。汎免疫グロブリンが陽性であった532例のうち437例(82.1%)が無症状であった。調査開始時、この532例のうち69例(13.0%)がIgM抗体陽性、84例(15.8%)がIgA抗体陽性、532例(100%)がIgG抗体陽性、212例(39.8%)が中和抗体陽性であった。汎免疫グロブリンが陽性で、4月に中和抗体が陽性を示した参加者の割合は、2回の経過観察の来院でも一定であった(2020年6月は363例中162例[44.6%]、2020年10~12月は454例中187例[41.2%])。全3回の調査に参加し汎免疫グロブリンが陽性であった335例のデータでは、調査期間中に中和抗体値の有意な減少は認められなかった(中央値:ベースライン1/5.6[IQR 1/2.0~1/14.0] vs 初回追跡調査1/5.6[1/4.0~1/11.2]、P=1.0、2回目追跡調査1/6.3[1/2.0~1/12.6]、P=0.29)。しかし、無症候性症例の方が確定症例や症候例症例よりも中和抗体価が低かった。時間の経過とともにIgG抗体価が低下したが、IgG抗体保有者の割合は大きく減少しなかった(確定症例でベースライン30例中30例[100%]から2回目追跡調査時29例中26例[89.7%]に減少、症候性症例で65例中65例[100%]から63例中58例[92.1%]に減少、無症候症例で437例中437例[100%]から362例中329例[90.9%]に減少)。 【解釈】武漢市の横断的標本の6.92%でSARS-CoV-2抗体が産生され、そのうち39.8%が中和抗体を獲得した。液性応答に関する耐久性データから、集団免疫を獲得し流行の再燃を防ぐには大規模ワクチン接種が必要であることが示唆される。 第一人者の医師による解説 流行収束後もワクチンによる集団免疫を付けることが 再流行を防ぐために必須 森内 浩幸 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科小児科学教授 MMJ. October 2021;17(5):138 本論文の著者らは、中国における流行の中心であった武漢において経時的横断的研究を行い、多段階人口層化集落ランダム抽出法によって系統的に選ばれた世帯の成員に対して、人口統計学的データ、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)関連症状の有無や診断歴を聴取するとともに、2020年4月、6月、および10~12月の間の3回にわたってSARS-CoV-2ヌクレオカプシド蛋白に対する抗体と中和抗体を測定した。 解析の対象となった3,556世帯の9,542人のうち532人(5.6%)が抗体陽性で、調整後の抗体保有率は6.92%(95%信頼区間 , 6.41~7.43)と推定された。陽性者の82.1%は無症状だった。また、抗体陽性者のうち4月の時点で39.8%、6月の時点で44.6%、最後の時点で41.2%が中和抗体も陽性で、その抗体価は期間中ほとんど減衰しなかった。無症状者は有症状者や診断確定者に比べ中和抗体価は低い傾向にあった。 この研究以前にも一般人口におけるSARSCoV-2抗体保有率の調査が行われている。例えばスイスの調査では、5歳以上の一般人口における診断確定例の11.6倍の抗体陽性者がいた(1)。米国の調査では1.0~6.9%の抗体保有率で、これは感染者の報告数の6~24倍に相当した(2)。アイスランドでは人口の0.9%が感染しており、抗体価は4カ月間で減衰しなかった(3)。武漢で以前行われた調査では成人の3.2%が抗体陽性だったが、統計解析のデザインは厳密なものではなかった。 どの地域のどのタイミングで調査が行われるかによって抗体保有率が異なるのは当然だが、一般人口における感染率を正しく捉えられる研究デザインだったか、無症状の感染者の割合がどれくらいだったか、そして抗体価の経時的推移がどうだったかについて、これまでの調査では十分に捉えられていなかった。今回の武漢における研究では、抽出法を工夫して一般人口を反映させ、かつ縦断的にフォローすることで武漢における流行が残した集団免疫の程度を明らかにすることができた。 この研究が意味することは、大きな流行が駆け抜けた地域においても住民の多くは感受性を持ったままであり、再び流行が起こるのを阻止するためにはワクチンによって集団免疫を構築すべきだということだ。また、不顕性感染の割合が非常に高かったことも、予防対策上重要な知見と思われる。 1. Stringhini S, et al. Lancet. 2020;396(10247):313-319. 2. Havers FP, et al. JAMA Intern Med. 2020.;180(12):1576-1586. 3. Gudbjartsson DF, et al. N Engl J Med. 2020;383(18):1724-1734.
重篤患者に用いる人工呼吸器のウィーニングおよび離脱の実践
重篤患者に用いる人工呼吸器のウィーニングおよび離脱の実践
Ventilator Weaning and Discontinuation Practices for Critically Ill Patients JAMA. 2021 Mar 23;325(12):1173-1184. doi: 10.1001/jama.2021.2384. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【重要性】重篤な患者のほとんどが侵襲的人工呼吸療法(invasive mechanical ventilation:IMV)を受けるが、実臨床でどのようにIMVから離脱しているかを明らかにした研究はほとんどない。 【目的】地域によるIMV離脱法のばらつき、初回離脱と予後の関連性、離脱方法の選定と初回自発呼吸トライアル(SBT)不成功の関連因子を明らかにすること。 【デザイン、設定および参加者】世界6地域19カ国の142の集中治療室(ICU)(カナダ27施設、インド23施設、英国22施設、欧州26施設、オーストラリア・ニュージーランド21施設、米国23施設)で、24時間以上IMVを受ける重篤患者を検討した国際共同前向き観察研究。 【曝露】IMV。 【主要評価項目】主解析で、初回IMV離脱方法(抜管、自発呼吸トライアル[SBT]または気管切開)と臨床転帰(人工呼吸期間、ICUおよび院内死亡率、ICU入室および入院日数)の関連性を明らかにした。副次解析で、SBTの結果とSBTのタイミングおよび臨床転帰の関連性を検討した。 【結果】1,868例(年齢中央値[四分位範囲]、61.8(48.9~73.1)歳;男性1,173例[62.8%])のうち、424例(22.7%)に直接抜管、930例(49.8%)に初回SBT実施(761例[81.8%]が成功)、150例(8.0%)に気管切開を実施し、364例(19.5%)が離脱前に死亡した。各地域で、治療、毎日のスクリーニング、SBTの手法、換気モードに関する指示書の使用および離脱に携わる臨床医が果たす役割に差があった。直接抜管と比べると、初回SBTの方がICU死亡率が高く(20例[4.7%] vs 96例[10.3%]、絶対差5.6%[95%CI、2.6~8.6])、人工呼吸器装着期間が長く(中央値2.9日 vs 4.1日;絶対差1.2日、[95%CI、0.7~1.6])、ICU在室期間が長かった(中央値6.7日 vs 8.1日;絶対差1.4日[95%CI、0.8~2.4])。初回SBTが不成功の患者は、成功した患者よりもICU死亡率が高く(29例[17.2%] vs 67例[8.8%]、絶対差8.4%[95%CI、2.0~14.7])、人工呼吸器装着期間(中央値6.1日 vs 3.5日;絶対差2.6日[95%CI、1.6~3.6])およびICU在室期間が長かった(中央値10.6日 vs 7.7日;絶対差2.8日[95%CI、1.1~5.2])。早期に初回SBTを実施した患者に比べると、後期(挿管から2.3日以降)に実施した患者の方が人工呼吸器装着期間(中央値2.1日 vs 6.1日;絶対差4.0日[95%CI、3.7~4.5])およびICU在室期間が長く(中央値5.9日 vs 10.8日;絶対差4.9日[95%CI、4.0~6.3])、入院期間が長かった(中央値14.3日 vs 22.8日;絶対差8.5日[95%CI、6.0~11.0])。 【結論および意義】2013~2016年にカナダ、インド、英国、欧州、オーストラリア・ニュージーランド、米国のICU 142施設で侵襲的人工呼吸療法の離脱を検討した観察研究では、地域間で離脱方法にばらつきがあることが示された。 第一人者の医師による解説 直接抜管群が転帰良好 しかし優位性を示すのではなく地域間でウィーニング手技実践にバラツキ 佐々木 勝教 医療法人 横浜未来ヘルスケアシステム 戸塚共立第2病院救急科部長 MMJ. October 2021;17(5):156 本研究は世界6地域19カ国にある142の集中治療室(ICU)で24時間以上人工呼吸管理を受けた患者を対象に人工呼吸器からの離脱法、転帰を前向き観察研究で以下の項目を検討した:主解析では①人工呼吸器からの離脱法(直接抜管[自発呼吸トライアルせずに抜管]、自発呼吸トライアル= SBT、気管切開)②臨床転帰(人工呼吸管理期間、ICUおよび院内死亡率、ICU滞在および入院日数)、副次解析ではSBTのアウトカム、施行のタイミングと臨床転帰の関連。 結果、対象患者1,868人中、22.7%に直接抜管、49.8%に初回 SBT、8.0%に気管切開が実施された。離脱前に死亡した患者は19.5%であった。ただし、地域間で、離脱に関する手順書の使用、毎日のスクリーニング、SBTの手法、換気モード、離脱において臨床医の果たす役割に関して差異がみられた。直接抜管群と比較し、初回SBT群の方が、ICU死亡率が高く(4.7 対 10.3%)、人工呼吸器装着期間(中央値2.9 対 4.1日)、ICU滞在日数(中央値6.7 対 8.1日)も長かった。また、初回 SBTが不成功だった群は、成功した群と比較し、ICU死亡率が高く(17.2 対 8.8%)、人工呼吸器装着期間(中央値6.1 対 3.5日)、ICU滞在日数もより長い傾向だった(中央値10.6 対 7.7日)。早期にSBTが成功した群と、挿管から3.3日以降の時期(後期)に成功した群との比較でも同様の傾向がみられ、人工呼吸器装着期間(中央値2.1 対 6.1日)、ICU滞在期間(中央値5.9 対 10.8日)、入院日数(中央値14.3 対 22.8日)は長かった。 結果を表層的に解釈すると、SBTより直接抜管(しかも8.5%が計画外抜管)を選択した方が、転帰が良好な印象を受ける。この点は併載された論説1でも指摘しており、背景としてSBT施行群の方が、より高齢で、悪性腫瘍、高血圧の合併率が高い可能性があることが問題とされている。同様に早期 vs 後期のSBTの比較でも、早期 SBTを実施できない理由が明確になっていない。また、各地域間でウィーニング手技のバラツキが結果に影響した可能性がある。例えば、直接抜管は米国で同国全体の約4%であったが、オーストラリア/ニュージーランドでは両国全体のおよそ6割であった。このように、本論文の結語においては、バラツキの補正が十分ではないため、直接抜管の優位性を示すのではなく、各地域、施設でのウィーニング手技はさまざまであったと結論づけている。
前十字靱帯断裂に対する早期再建術とリハビリテーション+待機遅延再建術の比較:COMPARE無作為化比較試験
前十字靱帯断裂に対する早期再建術とリハビリテーション+待機遅延再建術の比較:COMPARE無作為化比較試験
Early surgical reconstruction versus rehabilitation with elective delayed reconstruction for patients with anterior cruciate ligament rupture: COMPARE randomised controlled trial BMJ. 2021 Mar 9;372:n375. doi: 10.1136/bmj.n375. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【目的】前十字靭帯(ACL)断裂によく用いられる2通りの治療法に、2年間にわたる膝の症状および機能、スポーツへの復帰に対する患者の認識に対する臨床的に意義のある差があるかを評価すること。 【デザイン】多施設共同非盲検並行群間無作為化比較試験(COMPARE試験)。 【設定】2011年5月から2016年4月までのオランダの病院6施設。 【参加者】6施設から募集した18~65歳の急性期ACL断裂患者。3、6、9、12、24カ月時に患者を評価した。 【介入】85例を早期にACL再建術を施行するグループ、82例を3カ月間のリハビリ後に任意で遅延ACL再建術を施行するグループ(初期に非外科的治療実施)に無作為化により割り付けた。 【主要評価項目】24カ月間にわたる各評価時点で、International Knee Documentation Committee(最高スコア100点)スコアにより、膝の症状および機能、スポーツへの復帰に対する患者の認識を評価した。 【結果】2011年5月から2016年4月までの間に167例を組み入れ、2通りの治療法に無作為化により割り付けた(平均年齢31.3歳、女性67例[40%])。163例(98%)が試験を完遂した。リハビリ後任意遅延ACL再建術群では、追跡調査期間中に41例(50%)に再建術を施行した。24カ月後、早期ACL再建術群はInternational Knee Documentation Committeeスコアが有意に良好であった(P=0.026)が、臨床的な意義は認められなかった(84.7点 v 79.4点、群間差5.3点、95%CI 0.6~9.9)。追跡3カ月後、リハビリ後任意遅延ACL再建術群のIKDCスコアは有意に良好であった(P=0.002、群間差-9.3点、同-14.6~-4.0)。追跡9カ月後、IKDCスコア変化量は、早期ACL再建術群の方が良好であった。12カ月後、両群の差は小さくなった。追跡期間中、早期ACL再建術群では、4例に再断裂、3例に対側ACL断裂が発生したのに対して、リハビリ後の任意遅延ACL再建術群では2例に再断裂、1例に対側ACL断裂が発生した。 【結論】急性期ACL断裂患者で、早期再建術の方がリハビリ後待機再建術よりも、2年追跡時の膝の症状および機能、スポーツへの復帰に対する認識が改善した。この結果は有意(P=0.026)ではあったが、臨床的に意義があるかは明らかになっていない。試験結果の解釈には、リハビリ群に割り付けた患者の50%に再建術が不要であったことを考慮に入れる必要がある。 第一人者の医師による解説 膝前十字靱帯損傷には早期手術が成績良好もリハビリで半数は手術回避 久保田 光昭(准教授)/石島 旨章(主任教授) 順天堂大学医学部整形外科学講座 MMJ. October 2021;17(5):152 膝前十字靭帯(ACL)再建術を受傷後早期に行うべきか、あるいは術前リハビリを行ったのちに手術を行うべきかについて検討したランダム化対照試験(RCT)はない。本論文は、2011〜16年にオランダの6施設で行われた初回ACL単独損傷に対し、早期手術とリハビリ後選択的待機手術の術後成績を比較検討したRCTである。 対象は18〜65歳で、早期手術群は受傷後6週間以内にACL再建術を行い、リハビリ群は最低3カ月間のリハビリ後に手術を受けるかどうか患者本人が選択した。167人(早期手術群85人、リハビリ群82人)が対象となり、リハビリ群のうち50%(41人)は受傷後平均10.6ヵ月で手術を行った。主観的膝評価法であるIKDC(international knee documentation committee)スコアは3カ月経過時点ではリハビリ群が有意に良好だが、6カ月〜2年まで早期手術群が有意に良好な成績であった(P=0.026)。また2年経過時点でのKOOS(knee injury and osteoarthritis outcome score)スポーツとQOLサブカテゴリ、そしてLysholmスコアは、いずれも早期手術群が有意に良好な成績であった。 今回のRCTでは、2年経過の膝の症状および機能の改善、そしてスポーツ復帰に関し、早期手術群の方が良好な結果であった。しかし、リハビリ待機群のうち半数が手術を必要としなかったことを考慮すると、本研究の結果の臨床的な位置づけについては注意を要する。また、両群間の差は臨床的有意義 な 差(minimal clinically important difference;MCID)も認めなかった。過去の報告では、ACL受傷後リハビリ行った後に手術を必要としたのは、2年で39%、5年で51%であった(1),(2)。ACL再建術を選択する理由は、膝崩れを繰り返すことで高まる2次性の半月板や軟骨損傷のリスクを低下させることである。しかし、早期手術群にも多くの半月板損傷を認め、ACL再建術を行っても半月板損傷の発生を完全に防止することは困難であり、ACL損傷は変形性膝関節症(OA)のリスクを高める(2)。リハビリ群の半数が治療に満足していなかったために早期の手術を選択したのか否かを検証する必要がある。ACL損傷は半月板損傷そしてOA発生のリスクが高まるため、ACL再建術の実施時期についての本研究は挑戦的ではあるが、どちらの方法がOA予防に有効であるかという視点での長期の経過観察が必要である。 1. Frobell RB, et al. N Engl J Med. 2010;363(4):331-342. 2. Lie MM, et ak. Br J Sports Med. 2019;53(18):1162-1167.
急性冠症候群疑い患者の高流量酸素療法と死亡リスク:実用的クラスター無作為化クロスオーバー試験
急性冠症候群疑い患者の高流量酸素療法と死亡リスク:実用的クラスター無作為化クロスオーバー試験
High flow oxygen and risk of mortality in patients with a suspected acute coronary syndrome: pragmatic, cluster randomised, crossover trial BMJ. 2021 Mar 2;372:n355. doi: 10.1136/bmj.n355. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【目的】急性冠症候群(ACS)の疑いがある患者で、高流量酸素療法と30日死亡率の関連性を明らかにすること。 【デザイン】実用的クラスター無作為化クロスオーバー試験。 【設定】ニュージーランドの4地域。 【参加者】試験期間中、All New Zealand Acute Coronary Syndrome Quality Improvement(ANZACS-QI)レジストリまたはambulance ACS pathwayに組み入れられたACSが疑われる患者およびACSの診断が確定した患者4万872例。2万304例に高流量酸素療法、2万568例に低流量酸素療法を実施した。レジストリおよびICD-10退院コードから、ST上昇型心筋梗塞(STEMI)か非STEMIの最終診断を明らかにした。 【介入】2年間にわたり、4地域を2通りの酸素療法に6カ月単位で無作為に割り付けた。高流量酸素群では、経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)に関係なく、虚血症状や心電図の変化に応じて、酸素マスクによる酸素6~8L/分を供給した。低流量酸素群では、SpO2が90%を下回った場合のみ、SpO2 95%未満を目標に酸素を供給した。 【主要評価項目】登録データとの連携により明らかにした30日全死因死亡率。 【結果】両酸素療法によって管理した患者データおよび臨床データは一致していた。ACS疑い患者の30日死亡数は、高酸素群および低酸素群でそれぞれ613例(3.0%)、642例(3.1%)だった(オッズ比0.97、95%CI 0.86~1.08)。STEMI患者4159例(10%)の30日死亡率は、高酸素群および低酸素群でそれぞれ8.8%(178例)、10.6%(225例、同0.81、0.66~1.00)で、非STEMI患者1万218例(25%)では3.6%(187例)、3.5%(176例)だった(同1.05、0.85~1.29)。 【結論】ACSの疑いがある患者の大規模コホートで、高流量酸素療法に30日死亡率の上昇、低下いずれの関連も認められなかった。 第一人者の医師による解説 ST上昇型急性心筋梗塞患者では改善傾向 酸素投与の適否は担当医に委ねられべき 清末 有宏 森山記念病院循環器センター長 MMJ. October 2021;17(5):144 急性冠症候群(ACS)患者に対する酸素投与は、予後改善効果を示すエビデンスが少ないまま50年以上前から実施されてきた世界共通の治療習慣である。これはACS患者ではしばしば心不全合併などに伴い低酸素血症が合併することを考慮すれば理にかなっているが、過剰な動脈血酸素分圧上昇は冠動脈攣縮や酸化ストレスを誘発するため、近年酸素投与の有害性を指摘する報告が続いていた。 現行の各国ガイドラインはメタ解析(1)やDETO2X-AMI試験2の結果をもとに、低酸素血症の目立たない急性心筋梗塞患者への酸素投与を勧めていないが、ただ根拠となっている臨床試験にも(低酸素血症が発生しにくい)比較的低リスク患者のみが組み入れられていたり、組み入れ患者数(特に最も酸素投与の恩恵が期待できると思われるST上昇型急性心筋梗塞患者数)が十分ではないなどの研究限界が挙げられてきた。 本研究において著者らはそういった研究限界を払拭すべく、十分な患者数の確保が期待できるAll New Zealand Acute Coronary Syndrome Quality Improvementレジストリーを用い、酸素投与プロトコールをより厳密に設定し、さらにバイアスを排除すべくクラスター・クロスオーバー・デザインを採用した(4地域に分けて酸素投与プロトコールを時期により設定し、その設定を入れ替えた)。40,872人という十分な患者数が組み入れられた結果、30日全死亡に関して高用量酸素投与群では低用量酸素投与群に対するオッズ比が0.97と有益性は認められなかったが、有害性も認められなかった。さらに、ST上昇型急性心筋梗塞患者群に限れば1.8%の絶対リスク低下(8.8% 対 10.6%)が得られ、オッズ比は0.81であった。 本研究結果の解釈は論文中のディスカッションパートでも非常に慎重に議論されているが、ACS患者を日常的に診療している一臨床医として意見を述べさせていただけるのであれば、30日全死亡率1.8%の改善は臨床的に意味を持つ大きさであるし、しばしば画一的になりすぎてしまいがちなガイドラインに基づく診療方針において(つまりACS患者に対する酸素療法がどのような場合でも不適切といった認識)、対象患者を選べば酸素療法は決して有害性がないばかりか有益性も期待できる、といったポジティブな解釈もできるのではなかろうか。ACSという診断名の下には多種多様な患者が含まれるため、今回の結果を踏まえれば酸素投与の適否は各患者の担当医に委ねられてしかるべき、ということになろう。 1. Chu DK, et al. Lancet. 2018;391(10131):1693-1705. 2. Hofmann R, et al. N Engl J Med. 2017;377(13):1240-1249.
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