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肥満減量手術と全死因死亡の関連 国民皆保険制度下の一般住民を対象としたマッチドコホート研究
Association Between Bariatric Surgery and All-Cause Mortality: A Population-Based Matched Cohort Study in a Universal Health Care System
Ann Intern Med. 2020 Nov 3;173(9):694-703. doi: 10.7326/M19-3925. Epub 2020 Aug 18.
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上記論文の日本語要約
【背景】肥満減量手術後の死亡率は過去に調査されているが、コホート選択のバイアス、追跡調査の網羅性および交絡因子の収集によって結果の推定が制限されている。
【目的】肥満減量手術と全死因死亡の間の関連を明らかにすること。
【デザイン】一般住民を対象としたマッチドコホート研究。
【設定】カナダ・オンタリオ州。
【参加者】2010年10月から2016年12月の間に肥満減量手術を受けた患者1万3679例およびマッチさせた非手術患者1万3679例。
【介入】肥満減量手術。
【評価項目】主要評価項目は全死因死亡とし、原因別の死亡率を副次評価項目とした。患者を年齢、性別、BMIおよび糖尿病罹患期間でマッチさせた。
【結果】肥満減量手術を受けた患者1万3679例を非手術患者1万3679例とマッチさせた。追跡期間中央値4.9年後の全死因死亡率は、手術群1.4%(197例)、非手術群2.5%(340例)であり、手術群の方が全死因死亡の調整ハザード比(HR)が低かった(HR 0.68[95%CI 0.57~0.81])。55歳以上の患者の絶対リスクが3.3%(CI 2.3~4.3%)低く、手術群の方が死亡ハザード比が低かった(HR 0.53[CI 0.41~0.69])。男女でほぼ同じ相対的効果が認められたが、この関連は絶対的に男性の方が大きかった。このほか、肥満手術に心血管死亡率(HR 0.53[0.34~0.84])とがん死亡率(HR 0.54[0.36~0.80])の低下との関連が認められた。
【欠点】観察的デザインでは因果推論に限界がある点。
【結論】肥満減量手術によって全死因死亡率、心血管死亡率およびがん死亡率が大幅に低下した。手術群に見られた死亡率の低下は、ほとんどの下位集団でも有意であった。最も大きな絶対効果は、男性および55歳以上の患者に認められた。
第一人者の医師による解説
日本で保険適用のある腹腔鏡下スリーブ状胃切除術 長期的効果が明らかになることを期待
山内 敏正(教授)/庄嶋 伸浩(特任准教授) 東京大学医学部附属病院糖尿病・代謝内科
MMJ. June 2021;17(3):84
全死亡は重要なアウトカムであり、代謝指標や、がんなど肥満に関連する健康障害を反映する。減量・代謝改善手術は、数百~数千人規模の30以上の研究において、全死亡リスクを2~8割低下させることが報告されている。例えば、Swedish Obese Subjects(SOS)研究によると、肥満症の外科的治療群では内科的治療群に比べ全死亡(ハザード比[HR], 0.77)、心血管死(0.70)、がん死(0.77)のリスクが低下し、補正後余命中央値が3年長かった(1)。
本論文は、カナダ・オンタリオ州保健データベースを活用し、減量・代謝改善手術と全死亡の関連を検討したコホート研究の報告である。手術群と非手術(対照)群は年齢、性別、BMI、糖尿病の病歴でマッチングされ、さらに社会的経済的状況などでバイアスが補正された。減量・代謝改善手術としてルーワイ胃バイパス術(RYGB)が87.3%に、スリーブ状胃切除術が12.7%に実施され、手術群では全死亡(HR,0.68)、心血管死(0.53)、がん死(0.54)のリスクが低く、特に55歳以上において全死亡のリスクが低かった(HR,0.53)。これらの結果から、胃バイパス術による肥満症の改善は死亡リスクを低下させる可能性が示された。今後、軽度な肥満症、若年成人や高齢者の肥満症において、さらに日本で保険適用のある腹腔鏡下スリーブ状胃切除術に関して、肥満症手術の死亡に対する長期的な効果が明らかとなることが望まれる。
日本では、6カ月以上の内科的治療によっても十分な効果が得られないBMI 35kg/m2以上で、糖尿病、高血圧、脂質異常症、または睡眠時無呼吸症候群のうち1つ以上を合併した高度肥満症に対して、腹腔鏡下スリーブ状胃切除術が2014年に保険収載され、20年に適応拡大された。
日本肥満症治療学会(龍野一郎 理事長)、日本糖尿病学会(植木浩二郎 理事長)、日本肥満学会(門脇 孝理事長)の監修による「日本人の肥満2型糖尿病患者に対する減量・代謝改善手術に関するコンセンサスステートメント」で、2型糖尿病に対する減量・代謝改善手術 の 適応基準 とし て、受診時BMI 35kg/m2以上の2型糖尿病で、糖尿病専門医や肥満症専門医による6カ月以上の治療でもBMI 35kg/m2以上が継続する場合、血糖コントロールの状態に関わらず減量・代謝改善手術が治療選択肢として推奨されている。また受診時BMI32 kg/m2以上の2型糖尿病では、糖尿病専門医や肥満症専門医による治療で、6カ月以内に5%以上の体重減少が得られないか得られても血糖コントロールが不良な場合(HbA1c 8.0%以上)には、減量・代謝改善手術を治療選択肢として検討すべきとされている。本ステートメントにより、減量・代謝改善手術がさらに安全で効果的に推進されている。
1. Carlsson LMS, et al. N Engl J Med. 2020;383(16):1535-1543.