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人から人への感染を示す2019年新型コロナウイルスに関連した肺炎の家族性クラスター:研究報告。
人から人への感染を示す2019年新型コロナウイルスに関連した肺炎の家族性クラスター:研究報告。
A familial cluster of pneumonia associated with the 2019 novel coronavirus indicating person-to-person transmission: a study of a family cluster Lancet 2020 Feb 15;395(10223):514-523. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】中国湖北省武漢市で、新型コロナウイルスに関連した肺炎の集団発生が報告された。罹患した患者は、潜在的な感染源である地元のウェットマーケットと地理的に関連していた。本研究では,武漢訪問後に中国広東省深-市に帰国し,原因不明の肺炎を呈した家族集団の患者5名と,武漢に旅行していない追加家族1名の疫学,臨床,検査,放射線,微生物学的所見を報告する.これらの患者の遺伝子配列の系統解析を行った。 【FINDINGS】2020年1月10日から、2019年12月29日から2020年1月4日の間に深センから武漢に渡航した患者6人の家族を登録した。武漢に渡航した家族6人のうち、5人が新型コロナウイルスに感染していることが確認された。さらに、武漢に渡航していない家族1名が、家族4名と数日間接触した後、ウイルスに感染しました。武漢の市場や動物との接触はなかったが、2名は武漢の病院を受診したことがあった。家族5名(36-66歳)が感染後3-6日で発熱,上気道症状,下痢,あるいはこれらの複合症状を呈した.発症から6-10日後に当院(香港大学深-病院)を受診した。彼らと無症状の子供1人(10歳)には、放射線学的に地上の肺の混濁が見られた。高齢者(60歳以上)には,より多くの全身症状,広範なX線上の肺の地表面変化,リンパ球減少,血小板減少,CRPと乳酸脱水素酵素値の上昇がみられた.これら6人の患者の鼻咽頭または咽頭スワブは,ポイントオブケア多重RT-PCRによって既知の呼吸器系微生物に対して陰性であったが,5人の患者(成人4人と子供)はこの新規コロナウイルスの内部RNA依存RNAポリメラーゼおよび表面スパイク蛋白をコードする遺伝子に対してRT-PCR陽性であり,サンガー配列決定によって確認された.これら5名のRT-PCRアンプリコンと2名のフルゲノムの次世代シーケンサーによる系統解析の結果、このウイルスは中国のカブトコウモリに見られるコウモリ重症急性呼吸器症候群(SARS)関連コロナウイルスに最も近い新規コロナウイルスであることが判明した。 【解釈】我々の発見は、病院や家庭環境におけるこの新規コロナウイルスの人対人感染や、他の地域の旅行者の感染報告と一致するものである。 【資金提供】The Shaw Foundation Hong Kong, Michael Seak-Kan Tong, Respiratory Viral Research Foundation Limited, Hui Ming, Hui Hoy and Chow Sin Lan Charity Fund Limited, Marina Man-Wai Lee, the Hong Kong Hainan Commercial Association South China Microbiology Research Fund, Sanming Project of Medicine (Shenzhen) and High Level-Hospital Program (Guangdong Health Commission)を含む。) 第一人者の医師による解説 今でこそ常識だが 一家族のクラスター研究がもたらした大きな一歩 岩田 健太郎 神戸大学医学部附属病院感染症内科教授 /診療科長 MMJ.June 2020;16(3) 新しい感染症(新興感染症)が勃発したときは、 その感染症の正体を突き止めることが急務となる。それは漸近的に行われる。一足でカント的「物自体」を掴み取ることは不可能だ(もちろん、ずっと時間をかけても掴み取れないかもしれないのだが)。よって、研究者らは寄ってたかって、それも“急いで”真実に近づこうとする。感染症のアウトブレイク時は「研究しながら、対策する」という「急ぎの態度」が必要だ。ゆっくりと腰を落ち着けてやる研究とは性格を異にする。 本研究も、今からルックバックすると「なーんだ」という研究だ。しかし、本研究があったからこそ「なーんだ」なのである。すべての研究が先人の肩の上に乗っているとはよく言われるが、本研究のもたらした恩恵、すなわちSARS-CoV-2(論文発 表時は2019-nCoV)がヒト -ヒト感染を起こすという、現在では誰でも知っている「常識」を初めて看破した。その過程をここで追体験したい。 本研究は2019年12月29日から翌年1月4日 に広東省深圳市から湖北省武漢まで旅行した家族 6人を調査した。そのうち5人が新型コロナウイルスに感染し、香港大学深圳病院を受診。1月1日 に1人が熱と下痢を発症し、その後他の家族も発症した。4人は症状があったが、10歳の子は無症状だった。しかし、胸部 CTではすりガラス陰影が認められた。新型コロナウイルス感染はRT-PCR法で確定診断された。さらに武漢に行かなかった別の家族1人も同じ感染症に罹患し、RT-PCR法で診断が確定した。 聞き取り調査により、当初感染源と目された海鮮市場や動物との接触は否定された。武漢で接触した親戚にも発熱や咳が認められた。また、そうした親戚の中には肺炎として12月29日に武漢の病院を受診し、別の親戚が付き添っていた。武漢に行かなかった家族の感染が判明した事実も合わせ、 ヒト─ヒト感染があったことが示唆された。その後 ウイルスの全ゲノムシークエンシングが行われ、 遺伝子情報を用いた系統樹が作成された。リニエイジ Bのベータコロナウイルスに典型的な配列が RNAポリメラーゼ、スパイク蛋白、全ゲノムから見いだされた。患者2と患者5の全ゲノムはほぼ同じで、違いは塩基2つ分だけであった。 5月中旬でも 世界中で 猛威 を ふ る っ て い る COVID-19。私の周りでも院内外のアウトブレイクが起きている。アウトブレイクは巨大な対策を要し、それは担当者にとって苦痛以外の何物でもない。しかし、そこから得る新たな学びもある。まだ まだ分からないことの多いCOVID-19。学びを重ね、 理解を深め、少しでも近づき続けたいと考えながら本論文も読み直した。
片頭痛の急性期治療における痛みと最も煩わしい関連症状に対するウブロゲパントとプラセボの効果。ACHIEVE II Randomized Clinical Trial(無作為化臨床試験)。
片頭痛の急性期治療における痛みと最も煩わしい関連症状に対するウブロゲパントとプラセボの効果。ACHIEVE II Randomized Clinical Trial(無作為化臨床試験)。
Effect of Ubrogepant vs Placebo on Pain and the Most Bothersome Associated Symptom in the Acute Treatment of Migraine: The ACHIEVE II Randomized Clinical Trial JAMA 2019 Nov 19;322(19):1887-1898. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【重要性】Ubrogepantは、片頭痛の急性期治療薬として検討されている経口カルシトニン遺伝子関連ペプチド受容体拮抗薬である。 【目的】片頭痛発作1回の急性期治療におけるubrogepantの有効性と忍容性をプラセボと比較して評価することである。 【デザイン・設定・参加者】米国で実施した第3相多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照単発臨床試験(ACHIEVE II)(プライマリーケアおよび研究クリニック99施設、2016年8月26日~2018年2月26日)。参加者は、月に2~8回の片頭痛発作を経験している前兆のある片頭痛または前兆のない片頭痛の成人である。 【介入】中等度または重度の疼痛強度の片頭痛発作に対してウブロゲパント50mg(n=562)、ウブロゲパント25mg(n=561)またはプラセボ(n=563)である。【主要評価項目及び測定 【方法】有効性の主要評価項目は、服用後2時間における疼痛緩和及び参加者が指定した最も煩わしい片頭痛関連症状(羞明、幻覚、吐き気のうち)の消失とした。 【結果】無作為化参加者1686名のうち1465名が試験治療を受け(安全集団、平均年齢41.5歳、女性90%)、1465名のうち1355名が有効性として評価可能であった(92.5%)。2時間後の痛みの消失は、ウブロゲパント50mg群では464人中101人(21.8%)、ウブロゲパント25mg群では435人中90人(20.7%)、プラセボ群では456人中65人(14.3%)に認められました(50mg vs プラセボの絶対差、7.5%、95%CI, 2.6%-12.5%; P = .01; 25mg vs プラセボ, 6.4%; 95%CI、 1.5%-11.5%; P = .03)。2時間後に最も煩わしい関連症状がなかったと報告されたのは、ウブロゲパント50mg群463人中180人(38.9%)、ウブロゲパント25mg群434人中148人(34.1%)、そしてプラセボ群456人中125人(27.4%)であった。4%)であった(50mg対プラセボの絶対差、11.5%;95%CI、5.4-17.5%;P = .01;25mg対プラセボ、6.7%;95%CI、0.6-12.7%;P = .07)。いずれかの投与後48時間以内に最も多く見られた有害事象は、吐き気(50 mg、488人中10人[2.0%];25 mg、478人中12人[2.5%];およびプラセボ、499人中10人[2.0%])およびめまい(50 mg、488人中7人[1.4%];25 mg、478人中10人[2.1%];プラセボ、499人中8人[1.6%])であった。 【結論と妥当性】成人の片頭痛患者において、ウブロゲパントの急性期治療では、プラセボと比較して、50mgと25mgの用量で2時間後の痛みの解放率が有意に高く、50mgの用量でのみ2時間後の最も煩わしい片頭痛関連症状の欠如がみられた。ウブロゲパントの他の片頭痛急性期治療に対する有効性を評価し、非選択的患者集団におけるウブロゲパントの長期安全性を評価するために、さらなる研究が必要です。 【試験登録】ClinicalTrials. gov Identifier:NCT02867709。 第一人者の医師による解説 トリプタン無効例や禁忌例の第1選択候補 反復投与での安全性検証が必要 今井 昇 静岡赤十字病院脳神経内科部長 MMJ.June 2020;16(3) 片頭痛は急性期に頭痛だけではなく随伴症状により日常生活が著しく障害される神経疾患である。 片頭痛の急性期治療にトリプタン系薬剤や非ステ ロイド系抗炎症薬(NSAID)が使用されているが、効果が不十分である、あるいは副作用や禁忌項目のために使用できない患者は多い。 多くの研究によりカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)は片頭痛の病態に重要な役割を演じていることが示され、CGRPを標的とした治療薬が開発されている。すでに抗 CGRPモノクロー ナル抗体は2019年に欧米で片頭痛予防薬として上市されている。ユブロゲパントは小分子の経口 CGRP受容体拮抗薬で、片頭痛急性期治療薬として開発された。多施設ランダム化二重盲検プラセボ 対照第 IIb相試験において、ユブロゲパントの有効性が5用量(1、10、25、50、100mg)で検討され、 25、50、100mgはプラセボに比べ服薬2時間後 の頭痛消失率が有意に高かった。 本論文は、ユブロゲパント 25、50mgの有効性 と安全性を評価するために、米国99施設で実施された多施設ランダム化二重盲検プラセボ対照第 III 相(ACHIEVE II)試験の報告である。18 ~ 65歳(平 均41.5歳)の前兆のない片頭痛または前兆のある 片頭痛の病歴を1年以上有し、発作に中等度以上の光過敏、音過敏、悪心のいずれかの随伴症状が認められる1,686人(女性90%)を対象に、中等度・ 重度の発作に対してユブロゲパント 25、50mg、 またはプラセボが投与された。主要評価項目は投与2時間後の頭痛消失と最も負担となる随伴症状(最 大負担随伴症状)の消失。最大負担随伴症状の内訳 は光過敏57%、音過敏26%、悪心17%。 解析の 結果、2時間後 の 頭痛消失率 は50mg群21.8%、 25mg群20.7%、プラセボ群14.3%で、50mg群、 25mg群ともにプラセボ群と比較し有意な頭痛改 善効果が示された(それぞれP=0.01、P=0.03)。 最大負担随伴症状 の 消失率 は50mg群38.9 %、 25mg群34.1%、プラセボ群27.4%で、50mg 群のみプラセボ群に対し有意な効果が認められた(P =0.01)。投与48時間以内の重篤な有害事象はなく、主な事象は悪心、めまいで各群に有意差はなかった。 本試験におけるユブロゲパント 50mgの有効性と安全性は、トリプタン系薬剤で報告されているものとおおむね同程度であることが示唆される。現在他の経口 CGRP受容体拮抗薬の開発も進んでいる。経口 CGRP受容体拮抗薬はトリプタン系薬 剤やNSAIDでみられる心血管・消化器への影響が少ないと考えられており、新しい片頭痛急性期治 療薬として期待される。ただ、以前開発された経口 CGRP受容体拮抗薬は肝機能障害のため開発中止に至った経緯を考慮すると、今後反復投与での安全性の確認が必要と思われる。
日本における院外心停止患者におけるパブリックアクセス除細動と神経学的転帰:集団ベースのコホート研究。
日本における院外心停止患者におけるパブリックアクセス除細動と神経学的転帰:集団ベースのコホート研究。
Public-access defibrillation and neurological outcomes in patients with out-of-hospital cardiac arrest in Japan: a population-based cohort study Lancet 2019 Dec 21;394(10216):2255-2262. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】緊急医療サービス(EMS)要員が到着する前に院外心停止(OHCA)を起こし、ショック状態の心拍動を起こしていた患者では、公衆アクセスによる除細動の80%以上が自然循環の持続的な回復をもたらさない。このような患者の神経学的転帰と生存率は評価されていない。我々は,このような患者の神経学的状態と生存成績を評価することを目的とした。 [METHODS]本研究は,2005年1月1日から2015年12月31日までの間に日本でOHCAを発症した1人の患者(1Zs_2008 ain ainakersZs_2008299 ainakersZs_2008 ainakers784)を対象とした,全国の人口ベースのプロスペクティブな登録簿から得られたコホート研究のレトロスペクティブ解析である。主要転帰はOHCA後30日目の良好な神経学的転帰(Cerebral Performance Category of 1または2)であり,副次的転帰はOHCA後30日目の生存率であった.本研究は、University Hospital Medical Information Network Clinical Trials Registry, UMIN000009918に登録されています。 【FINDINGS】我々は、傍観者から心肺蘇生法を受けた28人の傍観者立会型OHCAとショック性心拍数を持つ28人の患者を同定しました。このうち,2242人(8-0%)の患者はCPR+公衆アクセス除細動で自然循環の回復が得られず,25人(89-5%)の患者は救急隊到着前にCPRのみで自然循環の回復が得られなかった.好ましい神経学的転帰を示した患者の割合は、パブリックアクセス除細動を受けた患者の方が受けなかった患者よりも有意に高かった(845[37-7%]対5676[22-6%];傾向スコアマッチング後の調整オッズ比[OR]、1-45[95%CI 1-24-1-69]、p<0-0001)。OHCA後30日目に生存した患者の割合も、パブリックアクセス除細動を受けた患者の方が受けなかった患者よりも有意に高かった(987[44-0%] vs 7976[31-8%];傾向スコアマッチング後の調整済みオッズ比[OR]、1-31[95% CI 1-13-1-52]、p<0-0001)。 [INTERPRETATION]本知見は、パブリックアクセス除細動の利点、およびコミュニティにおける自動体外式除細動器のアクセス性と利用可能性の向上を支持するものである。 第一人者の医師による解説 AEDを用いた市民へのCPR教育活動推進の意義付けとなる成果 中島 啓裕/安田 聡(副院長・部門長) 国立循環器病センター心臓血管内科冠疾患科・心臓血管系集中治療科 MMJ.June 2020;16(3) 近年、市民による自動体外式除細動器(AED)使用が心室細動(VF)による院外心停止患者の蘇生率向上に有効である可能性が報告された(1)。日本では約60万台のAEDが設置されている。各団体のAED普及啓発活動にもかかわらず、市民によるAED除細動実施率は5%程度と低い。 市民によるAED除細動患者の約80%は救急隊現場到着時点では心停止が持続していることから、AEDを運び込むまでの心肺蘇生(CPR)中断や救急通報の遅れなどのデメリットが除細動不成功例の予後に与える影響を明らかにすれば、より適正なAED使用を推奨できると考えられる。しかしながら、ガイドラインによりAED使用が強く推奨されている現代において、AED使用群と未使用群で予後を比較する無作為化対照試験の実施は困難である。 そこで、本研究では日本の総務省消防庁によるウツタイン様式救急蘇生統計データを活用した。救急隊現場到着時点のVF持続患者を対象に、事前に市民がAEDを用いてCPRを実施した患者とAED なしのCPRを実施した患者の予後が比較された。 2005~15年に日本全国で発生した1,299,784 人の院外心停止患者から、市民による目撃があり CPRが実施されたVF心停止患者28,019人のうち、救急隊現場到着時点の心停止持続患者27,329 人(CPR+ AED併用群 2 ,242 人 、CPR単独群 25,087人)を解析した。 背景因子を傾向スコアで調整したところ、CPR+ AED併用群はCPR単独群 と比較して、発症から救急隊覚知までに中央値1分の遅れ(2分 対 1分:P<0.0001)を認めたものの、 主要評価項目である30日後の神経学的転帰良好な割合は有意に高値であった(38% 対 23%:調整 オッズ比 , 1.45; 95% CI, 1.24~1.69:P< 0.0001)。さらに、救急通報時から救急隊現着までにかかった時間(中央値8分[四分位範囲6~10 分])別の感度分析でも同様の結果が得られた。 本研究では、AEDによる除細動実施で心拍再開 (AEDの主要効果)を得られなかった患者においても、AEDが神経学的予後を改善させうることが示された。AEDの音声ガイダンスなどがCPRの質の改善に寄与していた可能性が示唆された。本結果は救急通報~救急隊現着までの時間に依存しないことから、日本全国において一般化されるものであり、市民に対するAEDを用いたCPR教育活動を推進していく意義付けとなるものと考える。 一般市民のAED使用は、たとえ救急隊の現場到着までに患者の自己心拍再開を得られなかったとしても、 その後の患者の良好な予後につながるという点が本研究からのメッセージである。 1. Kitamura T et al. N Engl J Med. 2016;375(17):1649-1659.
術前のN末端プロB型ナトリウム利尿ペプチドと非心臓手術後の心血管系イベント。コホート研究。
術前のN末端プロB型ナトリウム利尿ペプチドと非心臓手術後の心血管系イベント。コホート研究。
Preoperative N-Terminal Pro-B-Type Natriuretic Peptide and Cardiovascular Events After Noncardiac Surgery: A Cohort Study Ann Intern Med 2020 Jan 21;172(2):96-104. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】予備データでは、術前のN末端プロB型ナトリウム利尿ペプチド(NT-proBNP)が非心臓手術を受ける患者におけるリスク予測を改善する可能性が示唆されている。 【目的】術前NT-proBNPが、術後30日以内の非心臓手術後の血管死と心筋損傷の複合に対して、臨床リスクスコア以上の予測価値を持つかどうかを明らかにする。 【デザイン】前向きコホート研究 【設定】9か国16病院【患者】入院で非心臓手術を受けた45歳以上の患者10402例。 【測定】すべての患者は術前にNT-proBNP値を測定し、術後3日まで毎日トロポニンT値を測定した。 【結果】多変量解析では、術前のNT-proBNP値が100 pg/mL未満(基準群)と比較して、100~200 pg/mL、200~1500 pg/mL、1500 pg/mL以上では調整ハザード比2.27(95%CI 1.0)と関連することが示された。27(95% CI, 1.90 to 2.70),3.63(CI, 3.13 to 4.21),5.82(CI, 4.81 to 7.05),主要転帰の発生率はそれぞれ 12.3%(1843 例中 226 例), 20.8%(2608 例中 542 例), 37.5%(595 例中 223 例)であった.臨床的層別化(すなわちRevised Cardiac Risk Index[RCRI])にNT-proBNPの閾値を追加したところ,1000人あたり258人の絶対的な再分類が正味で改善された。術前のNT-proBNP値も30日全死亡と統計的に有意に関連していた(100pg/mL未満[発生率、0.3%]、100~200pg/mL未満[発生率、0.7%]、200~1500pg/mL未満[発生率、1.4%]、1500pg/mL以上[発生率、4.0%])。 【結論】術前NT-proBNPは、非心臓手術後30日以内の血管死およびMINSと強く関連しており、RCRIに加えて心臓リスク予測を改善する。【Primary funding source】カナダ保健研究機構。 第一人者の医師による解説 バイオマーカーでの予測 実臨床への応用には課題 阿古 潤哉 北里大学医学部循環器内科学教授 MMJ.June 2020;16(3) 非心臓手術周術期に生じる心血管イベント、特に心筋梗塞の発症は周術期の合併症として非常に重要である。心血管イベントの発生率が高い欧米諸国において、非心臓手術の際の周術期リスク評価は、手術の適応を考えるうえでも重要な要素となる。今まで、周術期のリスク評価ツールとしては Revised Cardiac Risk Index(RCRI)が提唱されてきたが、RCRIの予後予測能力はそれほど高いものではないとされていた。 本研究は、非心臓手術 の 周術期 イ ベ ン ト を 評 価するために行われた前向きコホート研究であるVISION試験 の サ ブ 解析 と し て 実施 さ れ た。 VISION試験では2007年8月~13年10月に9カ国16施設から18,920人の患者が組み入れら れ た。 多変量解析 の 結果、術前 のNT-ProBNP値は主要評価項目である術後30日以内の血管死お よ びMINS(myocardial injury after noncardiac surgery;心臓手術後の心筋障害)からなる複合イ ベントの発生を予測した。さらに、RCRI単独のリスク評価より、RCRIにNT-ProBNPを加えた方が イベント予測に有用であった。論文中のイベント 累積発生曲線をみると、心不全評価にも用いられるこのマーカーは非常に高い予測能を有することが 一目瞭然である。 RCRIは、6つの要素(冠動脈疾患、心不全、脳血管 疾患、インスリンを必要とする糖尿病、腎不全、高リスク手術)の有無で手術のリスクを評価する方法である。比較的簡便であるがためにガイドラインでも推奨されているが、必ずしも予測能が良好ではないという問題点があった。今回、非常に大きい患者数のコホートを用いて、NT-proBNPの有用性に関して力強いデータを出したことが本研究の強みと言える。 しかし、いくつかの点は指摘しておく必要がある。 本研究では、血管死およびMINSが主要評価項目として採用されたが、ほとんどのイベントはMINS であった。MINSは具体的には心筋マーカーの上昇である。MINSが長期にどのようなイベントと関連してくるのかは、VISION試験の既報で述べられているが(1)、まだ他のコホートでは十分には検証されていない。 また、RCRIのc統計量は0.69で、NTproBNPを加えることにより0.75に改善する、すなわち予測能が改善すると著者らは報告しているが、この臨床的意義の大きさは不明である。また、 NT-proBNPの上昇が認められた時にどのような 介入が必要であるのかはまったく不明である。とはいえ、リスク評価にバイオマーカーが取り入れられる流れは間違いなさそうである。その意味で、今回の研究が最初の重要な一歩であることは評価できる。 1. Vascular Events In Noncardiac Surgery Patients Cohort Evaluation (VISION) Study Investigators. JAMA. 2012;307(21):2295-2304.
三尖弁逆流の軽減のための経カテーテル的edge-to-edge修復術。TRILUMINATE単群試験の6ヵ月成績
三尖弁逆流の軽減のための経カテーテル的edge-to-edge修復術。TRILUMINATE単群試験の6ヵ月成績
Transcatheter edge-to-edge repair for reduction of tricuspid regurgitation: 6-month outcomes of the TRILUMINATE single-arm study Lancet 2019 Nov 30;394(10213):2002-2011. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】三尖弁閉鎖不全症は、高い罹患率と死亡率を伴う有病率疾患であり、治療選択肢はほとんどない。TRILUMINATE試験の目的は、低侵襲な経カテーテル三尖弁修復システムであるトライクリップの三尖弁逆流の軽減に対する安全性と有効性を評価することです。 【方法】TRILUMINATE試験は、ヨーロッパとアメリカの21施設で行われた前向き、多施設、シングルアーム試験です。NYHA(ニューヨーク心臓協会)クラスII以上の中等度以上の三尖弁逆流を有し、適用される基準に従って十分な治療を受けている患者を登録対象とした。収縮期肺動脈圧が60mmHg以上、三尖弁形成術の既往、TriClip装着を阻害する心血管植込み型電子機器を装着している患者は除外されました。参加者はTriClip三尖弁修復システムを用いてクリップベースのedge-to-edge修復技術を使用して治療を受けた。三尖弁逆流は、標準的な米国心エコー学会の等級分類を拡張した 5 クラスの等級分類(軽度、中等度、重度、巨大、奔流)を用いて評価された。有効性の主要評価項目は、大腿静脈穿刺時に三尖弁修復術を試みたすべての患者さんを対象に、術後30日目に三尖弁逆流の重症度が1グレード以上低下したこととし、35%をパフォーマンスゴールとしました。安全性の主要評価項目は、6ヵ月後の主要有害事象の複合であり、パフォーマンスゴールは39%でした。6ヵ月後のフォローアップに至らず、それまでのフォローアップで主要な有害事象が発生しなかった患者は、安全性の主要評価項目から除外された。本試験は登録を完了し、フォローアップが進行中であり、ClinicalTrials. gov(番号NCT03227757)に登録されている。 【FINDINGS】2017年8月1日から2018年11月29日までに85例(平均年齢77~8歳[SD 7~9]、女性56例[66%])を登録し、トライクリップ植込みを成功させた。心エコー図データおよび画像診断が可能な83例中71例(86%)において、三尖弁逆流の重症度が30日時点で少なくとも1グレード低下していた。片側下限 97-5% 信頼限界は 76% であり,事前に規定したパフォーマンス目標である 35% を上回った(p<0-0001).1名の患者が6ヵ月後のフォローアップまでに重大な有害事象を発症することなく退学したため、主要安全性エンドポイントの解析から除外された。6ヵ月後、84例中3例(4%)に主要な有害事象が発生し、事前に設定したパフォーマンスゴールである39%より低かった(p<0-0001)。72例中5例(7%)に単葉着床が発生した。周術期の死亡、手術への移行、デバイスの塞栓、心筋梗塞、脳卒中は発生しなかった。6ヵ月後、84例中4例(5%)に全死亡が発生した。 【解釈】TriClipシステムは安全で、三尖弁逆流を少なくとも1グレード減少させる効果があると思われる。この減少は、術後6ヶ月での有意な臨床的改善となる可能性がある。 第一人者の医師による解説 設定基準には合格 今後の長期成績および前向き試験結果が待たれる 清末 有宏 東京大学医学部附属病院循環器内科助教 MMJ.June 2020;16(3) 三尖弁閉鎖不全症(tricuspid regurgitation; TR)の所見は心臓超音波検査において日常的に遭遇する所見であり、近年は検査機器の発達にも伴い観察が容易となり、その流速を利用しての右室圧推定が行われることは医師国家試験レベルでも広く知られている。しかし逆にその病的意義あるいは治療介入効果の評価はしばしば困難である。 日本循環器学会「弁膜疾患の非薬物療法に関するガイドライン(2012年改訂版)」でも、外科的介入がクラス Iとなっているのは「高度 TRで、僧帽弁との同時初回手術としての三尖弁輪形成術」または「高度の1次性 TRで症状を伴う場合」のみとなっており、圧倒的に頻度が高い左心不全や心房細動などに続発する2次性(機能性)TRにおいては逆流が高度でも単独での三尖弁への外科的介入はクラス Iではない。 本論文で報告されたTRILUMINATE試験は、日本でも2017年に承認された経皮的僧帽弁接合不全修復システムのMitraClip®を三尖弁用に改良したTriClip®を用いて、中等度以上の三尖弁逆流を有 す る 患者85人 を 対象 に 経皮的三尖弁接合不全修復を行い、有効性と安全性を前向き多施設共同単群試験で検討している。 その結果、有効性に関して は、事前に規定した術後30日の心臓超音波検査上の三尖弁逆流重症度の1グレード以上改善達成率が 86%、片側97.5%信頼下限は76%であったため、 目標値(信頼下限35%以上)を達成したとの評価に至った。また安全性に関しては事前に規定した術後6カ月の主要有害事象の発現率が4%で、目標値(39%)を下回ったとの評価に至った。 今回の試験は単群試験であり、有効性・安全性の 目標値設定に関しては、同じ研究グループが2017 年に報告したMitraClip®を用いた高リスク患者に対する経皮的三尖弁接合不全修復の論文が引用されているが(1)、そちらを参照しても設定根拠ははっきりしなかった。手技詳細や超音波データの変化詳細などはむしろ2017年の論文に詳しく、自覚症状や予後の信頼できるサロゲートマーカーである 6分間歩行の改善も報告されている。技術的には、 当然ではあるが僧帽弁とは異なり三尖弁は三尖あるため、どの尖間のクリッピングを選択するかというのが1つ大きなポイントであるようだ。 いずれにせよ三尖弁への低侵襲単独介入が本技術により現実的になると思うが、その予後改善効果は上記 の積極的外科介入適応が現在までなかったため、真の有効性評価についてはランダム化対照試験によるハードエンドポイント改善効果判定を待たねばなるまい。 1. Nickenig G et al. Circulation. 2017;135(19):1802-1814.
禁煙とその後の心血管疾患リスクの関連
禁煙とその後の心血管疾患リスクの関連
Association of Smoking Cessation With Subsequent Risk of Cardiovascular Disease JAMA. 2019 Aug 20;322(7):642-650. doi: 10.1001/jama.2019.10298. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【重要性】禁煙後の心血管疾患(CVD)の経時変化は明らかになっていない。リスク算出に喫煙経験者がわずか5年のみリスクがあることを考慮している。 【目的】禁煙後の年数とCVD発症の関連を明らかにすること。 【デザイン、設定および参加者】調査開始時にCVDがなく2015年12月まで追跡したフラミンガム心臓研究参加者から前向きに収集したデータの後ろ向き解析(第1世代コホート:1954~1958年の4回目の調査の参加者、第2世代コホート:1971~1975年の初回調査の参加者)。 【曝露】更新した自己申告の喫煙状況、禁煙後の年数、累積pack-years。 【主要評価項目】CVD(心筋梗塞、脳卒中、心不全、心血管死)の発症。両コホート(統合)を主要解析の対象とし、大量喫煙経験者(20pack-years以上)に限定した。 【結果】試験集団には8770例(第1世代コホート3805例、第2世代コホート4965例)を対象とし、平均年齢42.2歳、45%が男性だった。5308例が調査開始時に17.2pack-years(中央値)の喫煙経験者で、そのうち2371例が大量喫煙経験者[406例(17%)が元喫煙者、1965例が現喫煙者(83%)]であった。追跡期間中央値26.4年間で、初回CVDイベントが2435件発生した[第1世代コホート1612例(大量喫煙者665例)、第2世代コホート823例(同430例)]。統合コホートでは、現喫煙と比べると、5年以内に禁煙するとCVD発症率(1000人年当たりの発症率:現喫煙11.56(95%CI 10.30~12.98)、5年以内の禁煙6.94(5.61~8.59)、差-4.51(-5.90--2.77)およびCVD発症リスク(HR 0.61、95%CI 0.49~0.76)が有意に低下した。喫煙未経験者と比べると、統合コホートでは、禁煙10~15年後にCVDリスクの有意な上昇が止まった[1000人年当たりの発症率:喫煙未経験5.09(95%CI 4.52~5.74)、10~15年以内の禁煙6.31(4.93~8.09)、差1.27(-0.10-3.05)、HR 1.25(95%CI 0.98~1.60)]。 【結論および意義】大量喫煙者が禁煙すると、現喫煙者より5年以内のCVDリスクが有意に低下した。しかし、喫煙未経験者と比べた元喫煙者のCVDリスクは、禁煙後5年を超えると有意に高くなった。 第一人者の医師による解説 禁煙はすべての人に健康改善をもたらす 日常診療で禁煙を勧め希望者への禁煙治療提供が重要 中村 正和 地域医療振興協会 ヘルスプロモーション研究センター センター長 MMJ. October 2020; 16 (5):135 喫煙の健康影響は、循環器疾患にとどまらず、がん、呼吸器疾患、糖尿病など多岐にわたる。禁煙はこれらのリスクを改善するが、禁煙後の経時的なリスク低下については研究間で結果が異なる。例えば虚血性心疾患のリスクは禁煙10~15年で非喫煙者と同じレベルまで低下するという報告と、禁煙10~20年経過しても非喫煙者より10~20%高いという報告がある(1)。結果が異なる理由として、ベースライン喫煙量の把握が不十分、追跡後の喫煙状況の変化を把握せずにベースライン情報だけで解析しているなど、方法論上の問題が指摘されている。喫煙以外の危険因子の変化についても同様の問題がある場合、交絡要因の調整が不十分となり、結果に影響を与える可能性がある。  本研究では、フラミンガム心臓研究(FHS)の第1世代(original)、第2世代(offspring)コホートの2015年までの追跡データを後ろ向きに解析し、禁煙による循環器疾患リスクの低下を厳密に評価している。FHSは、上述した問題をクリアする質の高い追跡研究であり、循環器疾患発症の把握についても精度が高い。対象者は8,770人、追跡期間の中央値は26.4年に及ぶ。アウトカムの循環器疾患(心筋梗塞、脳卒中、心不全、心血管死)のリスクは、禁煙すると、喫煙を続けた場合に比べ5年以内に約40%低下し、禁煙による顕著なリスク改善がみられた。しかし、非喫煙者に比べ、禁煙後少なくとも10年以内はリスクが40%ほど高い状態が続くことが明らかになった。  本研究により、禁煙しても非喫煙者と同程度のリスクとなるには時間がかかることが確認された。リスク改善のスピードは喫煙本数や年数、禁煙の時期によって異なる。本研究の解析はヘビースモーカー(20パック年以上)に限定しており、その影響も考えられる。  しかし、本研究結果の中で一番重要な点は、喫煙を継続した場合に比べ、禁煙によってリスクが大きく低下することである。循環器疾患を有する場合でも同様の効果が確認されている(1)。糖尿病患者では禁煙によってHbA1cが一時的に上昇するものの、全死亡や循環器疾患のリスクは禁煙とともに確実に低下することが89のコホート研究のメタ解析で明らかになっている(2)。禁煙は性、年齢、疾患の有無を問わず、すべての人に健康改善をもたらす(3)。日常診療の場ですべての喫煙者に禁煙を勧め、禁煙希望者に禁煙治療を提供することが重要である。 1. IARC (2007). IARC Handbooks of Cancer Prevention, Tobacco Control. Volume 11: Reversal of Risk aer Quitting Smoking (p227-268). 2. Pan A, et al. Circulation. 2015;132(19):1795-1804. 3. U.S. Department of Health and Human Services. The Health Benefits of Smoking Cessation: A Report of the Surgeon General. 1990.
活動性強直性脊椎炎に用いるupadacitinibの有効性および安全性(SELECT-AXIS 1) 多施設共同第II/III相二重盲検プラセボ対照無作為化試験
活動性強直性脊椎炎に用いるupadacitinibの有効性および安全性(SELECT-AXIS 1) 多施設共同第II/III相二重盲検プラセボ対照無作為化試験
Efficacy and safety of upadacitinib in patients with active ankylosing spondylitis (SELECT-AXIS 1): a multicentre, randomised, double-blind, placebo-controlled, phase 2/3 trial Lancet. 2019 Dec 7;394(10214):2108-2117. doi: 10.1016/S0140-6736(19)32534-6. Epub 2019 Nov 12. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】JAK経路は強直性脊椎炎の治療の標的となる可能性がある。この試験では、強直性脊椎炎に用いる選択的JAK1阻害薬upadacitinibの有効性および安全性を評価した。 【方法】この多施設共同第II/III相二重盲検プラセボ対照並行群間無作為化試験には20カ国62施設から成人患者を組み入れた。改訂ニューヨーク基準を満たし、生物学的疾患修飾性抗リウマチ薬による治療歴がなく、非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)が2種類以上で効果不十分、NSAID不耐または禁忌の活動性強直性脊椎炎患者を適格とした。被験者を自動応答技術を用いて、第1期の14週間に経口upadacitinib 15mg 1日1回服用するグループまたは経口プラセボを服用するグループに無作為に割り付けた。ここでは第1期のデータのみを報告する。主要評価項目は、14週時のAssessment of SpondyloArthritis international Society (ASAS) 40反応率で測定した複合転帰とした。無作為化し被験薬を1回以上投与した全例の完全解析を実施した。この試験は、ClinicalTrials.govのNCT03178487番に登録されている。 【結果】2017年11月30日から2018年10月15日にかけて、187例をupadacitinib 15mg(93例)とプラセボ(94例)に無作為に割り付け、178例(95%、upadacitinib群の89例とプラセボ群の89例)が被験薬の第1期を完遂した(2019年1月21日までに完了)。upadacitinib群のほうがプラセボ群よりも14週時のASAS40反応率が有意に高かった[92例中48例(52%) vs. 94例中24例(26%)、P= 0.0003、治療群間差26%(95%CI 13~40)]。upadacitinib群93例中58例(62%)とプラセボ群94例中52例(55%)に有害事象が報告された。upadacitinib群に最も多く発現した有害事象は、クレアチン・ホスホキナーゼ上昇(updacitinib群9% vs. プラセボ群2%)だった。重篤な感染、帯状疱疹、悪性腫瘍、静脈血栓塞栓イベントや死亡は報告されなかった。各群1例に重度の有害事象が発現した。 【解釈】upadacitinib 15mgは、NSAIDの効果不十分または禁忌の活動性強直性脊椎炎に有効で忍容性も良好であった。このデータは、強直性脊椎炎治療に用いるupadacitinibのさらに詳細な調査を支持するものである。 第一人者の医師による解説 ウパダシチニブは有効かつ耐容可能なAS治療薬になりうることを示唆 高相 晶士 北里大学医学部整形外科学主任教授 MMJ. October 2020; 16 (5):143 強直性脊椎炎(AS)の治療としては非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)が推奨され、従来の抗リウマチ薬や糖質コルチコイドは軸性症状の改善に乏しいと言われている。近年、関節リウマチ、乾癬性関節炎、潰瘍性大腸炎の適応でJAK阻害薬が承認されており、JAK経路はASの治療標的としても着目されている。ASに対するJAK阻害薬(トファシチニブおよびフィルゴチニブ)の有効性については、2つの第2相試験で示されたところである。  本論文で報告されたSELECT-AXIS 1試験は、生物学的疾患修飾性抗リウマチ薬(bDMARD)の使用歴がなく、NSAIDが効果不十分または不耐容である18歳以上の活動性 AS患者18人を対象に、ウパダシチニブ 15mg/日を14週間経口投与した際の有効性と安全性評価を目的とした多施設共同無作為化プラセボ対照二重盲検試験である。本試験には20カ国(北米、西欧、東欧、アジア、オセアニア)の62施設が参加。対象患者はASのNew York基準を満たし、仙腸関節 X線写真で診断され、従来の抗リウマチ薬、経口ステロイド薬、NSAID使用は組み入れ可とされた。主要評価項目は投与後14週目におけるAssessment of Spondylo Arthritis international Society(ASAS)40反応を達成した患者の割合とされた。割り付け結果はウパダシチニブ群93人、プラセボ群94人、全体の背景は平均年齢45.4歳、男性71%、HLA-B27陽性率76%であった。  有効性の評価において、投与後14週目のASAS40達成率は、ウパダシチニブ群で有意に改善した(ウパダシチニブ群52% 対 プラセボ群26%;P=0.0003)。疾患活動性を示すBath Ankylosing Spondylitis Disease Activity Index(BASDAI)50 改善率、ASAS 部 分 寛 解率、Ankylosing Spondylitis Disease Activity Score(ASDAS)変化量、機能評価としてのBath Ankylosing Spondylitis Functional Index(BASFI)変化量、MRI 変化(SPARCC MRI spine score)についても、ウパダシチ二ブ群で有意な改善が認められた。  有害事象はウパダシチニブ群62%、プラセボ群55%に発生し、ウパダシチニブ群における主な有害事象はクレアチニンキナーゼの上昇であった。重篤な感染症の発生はみられず、感染症発生率および有害事象による試験中止率は両群ともに同程度であった。ウパダシチニブの安全性情報については関節リウマチに対する過去の試験で報告されたものと一致した。  今回、ウパダシチニブ 15mg経口投与により活動性 AS患者の疾患活動性、機能、MRI所見で改善を認め、忍容性も良好であったことから、本剤は有効かつ耐容可能なAS治療薬となりうることが示唆された。
ドラベ症候群の発作治療に用いる塩酸フェンフルラミン 無作為化二重盲検プラセボ対照試験
ドラベ症候群の発作治療に用いる塩酸フェンフルラミン 無作為化二重盲検プラセボ対照試験
Fenfluramine hydrochloride for the treatment of seizures in Dravet syndrome: a randomised, double-blind, placebo-controlled trial Lancet. 2019 Dec 21;394(10216):2243-2254. doi: 10.1016/S0140-6736(19)32500-0. Epub 2019 Dec 17. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】ドラベ症候群は、まれな治療抵抗性の発達性てんかん性脳症であり、さまざまな種類の発作が頻繁に起こるのが特徴である。フェンフルラミンは、光過敏性発作とドラベ症候群の観察研究で抗発作作用が報告されている。この試験の目的は、ドラベ症候群患者に用いるフェンフルラミンの有効性および安全性を評価することであった。 【方法】この無作為化二重盲検プラセボ対照試験は、若年成人および小児のドラベ症候群患者を対象とした。試験開始時の1カ月のけいれん発作頻度(MCSF;明らかな運動徴候がある半側間代発作、強直発作、間代発作、強直・脱力発作、全般性強直・間代発作、焦点発作をけいれん発作と定義)を確かめる6週間の観察期間の後、ウェブ自動応答システムを用いて、患者を抗てんかん薬に上乗せしてプラセボ、フェンフルラミン1日0.2mg/kg、同薬剤1日0.7mg/kgのいずれかを14週間投与するグループに1対1対1の割合で無作為に割り付けた。主要評価項目は、プラセボ群と比較した1日0.7mg/kg投与群の試験開始時と比較した治療期間中の1カ月の平均痙攣発作頻度とした。プラセボ群と比較した1日0.2mg/kg投与群の1カ月の平均けいれん発作頻度を副次評価項目とした。修正intention-to-treat集団で解析を実施した。被験薬を1回以上投与した全例を安全性解析の対象とした。この試験は、ClinicalTrials.govに2通りのプロトコールNCT02682927とNCT02826863に登録されている。 【結果】2016年1月15日から2017年8月14日の間に173例を評価し、そのうち119例(平均年齢9.0歳、54%が男児)をフェンフルラミン1日0.2mg/kg群(39例)、同薬剤1日0.7mg/kg群(40例)、プラセボ群(40例)に無作為に割り付けた。治療期間中、発作頻度の低下率中央値はフェンフルラミン0.7mg/kg群で74.9%(28日当たりの中央値20.7回から4.7回に低下)、同薬0.2mg/kg群で42.3%(同17.5回から12.6回に低下)、プラセボ群で19.2%(同27.3回から22.0回に低下)だった。試験は主要有効性評価を達成し、プラセボと比較すると、平均MCSFがフェンフルラミン1日0.7mg/kgで62.3%(95%CI 47.7-72.8、P<0.0001)、同薬0.2mg/kgで32.4%(同6.2-52.3、P=0.0209)低下した。最も頻度の高かった有害事象(被験者の10%以上に発現し、フェンフルラミン群で頻度が高かった)は食欲減退、下痢、疲労、無気力、傾眠および体重減少であった。試験期間中の心エコー検査で、全例に生理学的正常範囲内の弁機能を確認し、肺高血圧症の徴候は見られなかった。 【解釈】ドラベ症候群で、フェンフルラミンは、プラセボよりもけいれん発作頻度を有意に抑制し、忍容性も良好で、心臓弁膜症や肺高血圧症は認められなかった。フェンフルラミンはドラベ症候群の新たな治療選択肢になると思われる。 第一人者の医師による解説 ドラベ症候群治療薬として期待も 効果・有害事象とも長期評価が必要 今井 克美 国立病院機構静岡てんかん・神経医療センター副院長・小児科 MMJ. October 2020; 16 (5):137 ドラベ症候群は1歳未満で発症し、発熱や入浴で誘発されやすい全身・半身けいれんを反復し、5分以上持続するけいれん重積状態が起こりやすく、1歳以降に発達の伸びが鈍化する難治性てんかんで、約80%の患者はNaチャネル遺伝子 SCN1Aの変異を有し、約4万人に1人が罹患するとされる。バルプロ酸、臭化物、トピラマート、スチリペントール、クロバザムなどの抗てんかん薬がよく使われるが効果不十分な場合が多く、より有効な治療法の開発が喫緊の課題である(1)。  本論文は、ドラベ症候群のけいれん発作に対するフェンフルラミンの有効性と安全性を北米、欧州西部、オーストラリアで検討した無作為化二重盲検プラセボ対照試験の報告である。臨床的に診断された2~18歳のドラベ症候群患者を対象に、服用中の抗てんかん薬は継続し、119人(平均年齢9.0歳、男性54%)がフェンフルラミン低用量0.2mg/kg、高用量0.7mg/kg、プラセボの3群に割り付けられた。前観察期間6週間に対する、割り付け後14週間におけるけいれん頻度の低下率は、高用量群74.9%、低用量群42.3%、プラセボ群19.2%で、高・低用量群ともにプラセボ群に比べ有意にけいれんが減少した。有害事象は食欲低下、下痢、易疲労性、倦怠、眠気、体重減少が10%以上にみられ、有害事象による中止は9人(高用量群6人、プラセボ群3人)であった。心エコー検査では心臓弁膜症や肺高血圧などの重篤な合併症は認められなかった。  フェンフルラミンはセロトニン作動薬で、食欲抑制目的の健康食品で使用されていた時に用量や誘導体含有などの問題に関連する心臓弁膜症、肺高血圧、肝障害が報告され、それ以降使用されなくなったが、ドラベ症候群を含む難治性てんかんにおいて著効例がベルギーから複数報告されたことから、本試験が実施された。用量を減らし品質管理を徹底して実施された本試験において、けいれんの有意な減少が示され、最長8カ月の長期安全性試験でも重篤な有害事象はなく、日本でもドラベ症候群への適応承認が期待される。今回の試験ではドラベ症候群にのみ保険適応のあるスチリペントールは併用禁忌であったが、スチリペントールとの併用でも同等の有効性と安全性が報告されている(2)。今後の課題として、けいれん抑制効果が年余にわたって継続するか、けいれん重積の頻度も低下するのか、年単位の長期服用でも心臓弁膜症、肺高血圧、著明な体重減少、肝障害を生じないか、などの検討が必要である。 1. Takayama R, et al. Epilepsia. 2014;55(4):528-538. 2. Nabbout R, et al. JAMA Neurol. 2019;77(3):300-308.
急性心不全患者の死亡率と心不全による再入院に対する包括的な血管拡張戦略と通常ケアの比較:GALACTICランダム化臨床試験
急性心不全患者の死亡率と心不全による再入院に対する包括的な血管拡張戦略と通常ケアの比較:GALACTICランダム化臨床試験
Effect of a Strategy of Comprehensive Vasodilation vs Usual Care on Mortality and Heart Failure Rehospitalization Among Patients With Acute Heart Failure: The GALACTIC Randomized Clinical Trial JAMA. 2019 Dec 17;322(23):2292-2302. doi: 10.1001/jama.2019.18598. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 重要性: 単一の血管拡張薬の短期間投与は通常は固定用量が用いられますが、急性心不全(AHF)の患者の転帰を改善していません。 目的: AHF患者に対して、血管拡張薬を個別設定の漸増用量で使用する、早期の集中的かつ持続的な血管拡張戦略の効果を評価することを目的としました。 試験デザイン、設定、および対象: 呼吸困難、ナトリウム利尿ペプチドの血漿濃度の上昇、少なくとも100 mmHgの収縮期血圧があり、スイス、ブルガリア、ドイツ、ブラジル、スペインの10の三次および二次病院の一般病棟で治療を受ける計画のある、AHFで入院した788人の患者を登録したランダム化非盲検盲検エンドポイント試験。登録は2007年12月に開始され、フォローアップは2019年2月に完了しました。 介入: 患者は、入院期間を通して早期の集中的かつ持続的な血管拡張戦略を行う群(n=386)と通常ケア群(n=402)に1:1でランダムに割り付けられました。早期の集中的かつ持続的な血管拡張は、最大かつ持続的な血管拡張の包括的/実用的なアプローチで、個別設定の漸増用量の舌下/経皮硝酸塩、48時間の低用量経口ヒドララジン、および急速に漸増するアンジオテンシン変換酵素阻害薬、アンジオテンシン受容体遮断薬、またはサクビトリル-バルサルタンを組み合わせたものです。 主な結果: 主要エンドポイントは、180日におけるAHFのすべての原因による死亡または再入院の複合としました。 結果: ランダム化された788例の患者のうち、781例(99.1%;年齢中央値78歳; 36.9%女性)が試験を完了し、一次エンドポイント分析に適格でした。180日のフォローアップは779例の患者(99.7%)が完遂しました。 180日でのAHFの全ての死因での死亡率または再入院の複合である主要エンドポイントは、介入群で117例(30.6%)(55人の死亡[14.4%]を含む)、通常ケア群で111例(27.8%)(61人の死亡[15.3%]を含む)でした:(主要エンドポイントの絶対差、2.8%[95%CI、-3.7%-9.3%];調整済みハザード比、1.07 [95%CI、0.83-1.39 ]; P =0.59)。介入群、通常ケア群で最も多くみられた臨床的に意味のある有害事象は、低カリウム血症(23% vs. 25%)、腎機能の悪化(21% vs. 20%)、頭痛(26% vs. 10%)、めまい(15% vs. 10%)、および低血圧(8% vs. 2%)でした。 結論と関連性: AHF患者に対する早期の集中的かつ持続的な血管拡張戦略は、通常ケアと比較して、180日間の全ての原因による死亡とAHF再入院の複合結果を改善しませんでした。 臨床試験登録:ClinicalTrials.gov:NCT00512759 利益相反: Goudev博士は、ファイザー、ノバルティス、アストラゼネカ、アムジェンから個人的な謝金(アドバイザリーボードの謝金と講演料)を受け取っています。Walter博士は、スイス心臓財団とスイス医科学アカデミーから助成金を受け取っています。 Gualandro博士は、サービエ社から謝金を受け取っています。Wenzel博士は、ノバルティス、バイエル、ドイツ連邦教育研究省、アボットから謝金を受け取り、サービエ社から非財務支援を受けました。Pfister博士は、ノバルティス、ビフォー ファーマ、メルク シャープ&ドームから謝礼を受け取り、サノフィとベーリンガーインゲルハイムから助成金を受け取っています。Conen博士は、サービエ・カナダから謝金を受け取りました。Kobsa博士は、バイオセンス ウェブスター、バイオトロニック、メドトロニック、アボット、SI–S メディカル、およびBoston Scientificから助成金を受け取っっています。Munzel博士は、DZHK(ドイツ心臓血管研究センター)パートナーサイトラインマインの主任研究員であることを報告しています。Mueller博士は、スイス国立科学財団、スイス心臓財団、心臓血管研究バーゼル財団、およびスタンリージョンソン財団から助成金、シングレックス、およびブラームスからの助成金、謝金および非財務サポート、ノバルティス、カーディオレンティス、ベーリンガーインゲルハイムからの謝金、アボットからの助成金と非財政的支援を受けています。以上です。 第一人者の医師による解説 急性心不全への積極的・包括的血管拡張薬投与 180日後の予後を改善せず 小林 さゆき1), 石川 哲也2), 中原 志朗3), 田口 功4) 獨協医科大学埼玉医療センター循環器内科 1,2,3;准教授、4;主任教授 MMJ. October 2020; 16 (5):128 日本では超高齢化に伴い2035年をピークに医療体制が疲弊する「心不全パンデミック」が危惧され、米国でも“シルバーツナミ”と称して対策が講じられている。この30年間、急性心不全(AHF)に対する利尿薬と血管拡張薬の併用療法が評価されてきたが、いずれも初期治療における早期集中・継続的な血管拡張薬投与のみでは予後の改善は困難であるという結果であった。  本論文の無作為化GALACTIC試験では、欧州5カ国10施設にAHFで入院した収縮期血圧100mmHg以上の患者788人を対象に、血管拡張薬の早期集中・継続的な投与群(介入群;386人)もしくは通常治療(対照群;402人)に無作為に割り付け、180日時点の複合アウトカム(全死亡およびAHFによる再入院)が比較・評価された。介入群では収縮期血圧90~110mmHgを目標に個別化された用量の舌下・経皮硝酸塩、経口ヒドララジンを投与後、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)、サクビトリル-バルサルタンの迅速漸増投与を組み合わせた包括的な管理が行われた。対照群では低用量硝酸塩投与後、他の薬剤の漸増は緩徐に行われた。その結果、主要エンドポイント発生率は介入群30.6%、対照群27.8% (ハザード比[HR], 1.07;P=0.59)で有意差はなかった。  GALACTIC試験でも、先行研究と同様、早期集中・継続的な血管拡張薬の投与は、通常治療に比べ予後を改善しないことが示された。介入群の心不全改善速度をみると、より用量の高いループ利尿薬が使用された対照群と同程度であった。高用量ループ利尿薬は腎機能増悪により心不全予後を悪化させる可能性はあるものの、初期治療では適切なループ利尿薬の効果は高用量の血管拡張薬と同等といえる。しかし、本試験の患者では「急性慢性心不全診療ガイドライン(2017)」のクリニカルシナリオ(CS)分類1と2が混在していることから、同ガイドラインで血管拡張薬をクラス IとしているCS1に限定した解析が期待される。  心不全の長期予後改善を目指した治療は、基礎疾患、左室収縮能、合併症、血行動態などの評価に基づいた個別化治療の検討も必要である。そして、新規薬剤(SGLT2阻害薬(1)、ベルイシグアト(2)、イバブラジン、サクビトリル-バルサルタン、無機亜硝酸塩)も視野に入れ、ガイドラインに沿った適切な薬剤選択と管理に加え、生活習慣改善やリハビリテーションなども含めた包括的管理が慢性期までシームレスに行われることが重要である。 1. McMurray JJV, et al. N Engl J Med 2019; 381:1995-2008. 2. Armstrong PW et al. N Engl J Med 2020 Mar 28.DOI: 10.1056/NEJMoa1915928
ダパグリフロジンが糖尿病がない心不全患者の心不全悪化と心血管死にもたらす効果
ダパグリフロジンが糖尿病がない心不全患者の心不全悪化と心血管死にもたらす効果
Effect of Dapagliflozin on Worsening Heart Failure and Cardiovascular Death in Patients With Heart Failure With and Without Diabetes JAMA. 2020 Mar 27;323(14):1353-1368. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【重要性】駆出率が低下した心不全(HFrEF)患者に追加治療が必要である。ナトリウム・グルコース輸送体2(SGLT2)阻害薬は、糖尿病がないHFrEF患者にも有効な治療であると考えられる。 【目的】糖尿病の有無を問わずHFrEF患者に用いるダパグリフロジンの効果を評価すること。 【デザイン、設定および参加者】20カ国410施設で実施された第III相無作為化試験の探索的解析。2017年2月15日から2018年8月17日にかけて、NYHA分類II~IV、左室駆出率が40%以下で、血漿NT-proBNP値が上昇した患者を組み入れ、2019年6月19日まで追跡した。 【介入】推奨治療に追加したダパグリフロジン1日1回10mgまたはプラセボ。 【主要転帰または評価項目】主要転帰は心不全の悪化または心血管死の複合とした。この転帰は、試験開始時の糖尿病の有無で、さらに糖尿病がない患者では糖化ヘモグロビン値5.7%以上と5.7%未満に分けて解析した。 【結果】無作為化した4744例(平均年齢66歳、23%が女性、55%が非糖尿病)のうち4742例が試験を完遂した。糖尿病がない患者で、主要転帰はダパグリフロジン群1298例中171例(13.2%)、プラセボ群1307例中231例(17.7%)に発生した(HR 0.73、95%CI 0.60~0.88)。糖尿病患者では、主要転帰はダパグリフロジン群1075例中215例(20.0%)、プラセボ群1064例中271例(25.5%)に発生した(同0.75、0.63~0.90、交互作用のP=0.80)。糖尿病がなく糖化ヘモグロビン値5.7%未満の患者で、主要転帰はダパグリフロジン群438例中53例(12.1%)、プラセボ群419例中71例(16.9%)に発生した(同0.67、0.47~0.96)。糖化ヘモグロビン値5.7%以上の患者で、主要転帰はダパグリフロジン群860例中118例(13.7%)、プラセボ群888例中160例(18.0%)に発生した(同0.74、0.59~0.94)、交互作用のP=0.72)。糖尿病がない患者でダパグリフロジン群の7.3%、プラセボ群の6.1%、糖尿病患者のそれぞれ7.8%、7.8%に有害事象として体液減少が報告された。糖尿病がない患者でダパグリフロジン群の4.8%、プラセボ群の6.0%、糖尿病患者でそれぞれ8.5%、8.7%に腎有害事象が報告された。 【結論および意義】このHFrEF患者を対象とした無作為化試験の探索的解析では、ダパグリフロジンを推奨治療に追加すると、プラセボと比べて、糖尿病の有無に関係なく心不全の悪化または心血管死を有意に抑制した。 第一人者の医師による解説 細胞外液量減少を介した心負荷減少が心不全改善に寄与の可能性 長田太助 自治医科大学医学部内科学講座腎臓内科学部門教授・附属病院副病院長 MMJ. October 2020; 16 (5):131 EMPA-REG outcome試験(1)を皮切りに、この数年でNa+ /グルコース共役輸送担体2(SGLT2)阻害薬による心血管予後の改善効果を示した大規模臨床試験が次々と発表された(2)。ジペプチジルペプチダーゼ(DPP)-4阻害薬を使ったSAVORTIMI53試験では心不全が増加したのに対し、同じ糖尿病薬でもSGLT2阻害薬は心不全の悪化を抑制することが強く印象づけられた。「心不全患者だけを集めてSGLT2阻害薬を投与した場合、心不全悪化は抑制されるのか?」と誰しも疑問に思うことだろう。DAPA-HF試験(3)がその答えを提示した。同試験ではNYHAクラス II ~ IVで駆出率(EF)40%未満の心不全患者4,744人をダパグリフロジン(DAPA)10mg/日群とプラセボ群に無作為に割り付け、約2年間観察した。主要評価項目(心不全悪化と心血管死亡の複合アウトカム)の発生率はDAPA群16.3%、プラセボ群21.2%、ハザード比(HR)は0.74で統計学的に有意であった。  本研究では、これと同じ母集団を使い、糖尿病群(2,139人)と非糖尿病群(2,605人)に分けたpost hoc解析が実施された。2019年の報告(3)では、複合アウトカム(心不全悪化と心血管死亡)発生率は糖尿病の有無で差がなかったと報告され、糖尿病薬が非糖尿病患者でも心不全を抑制した結果は衝撃だったが、今回はさらに詳しく糖尿病の有無で差が検証された。主要評価項目は本試験と同じで、その発生率は糖尿病群においてDAPA群20.0%、プラセボ群25.5%(HR, 0.75)、非糖尿病群ではDAPA群13.2%、プラセボ群17.7%(HR, 0.73)であり、それぞれの群内で有意差はあったが、糖尿病の有無間で有意な交互作用はなかった。腎機能悪化以外の2次評価項目を含めて結果はすべて同様で、DAPAの心不全悪化抑制効果は糖尿病の有無ならびにベースライン HbA1c値の高低によらずほぼ一定であることも示された。  血糖値改善作用によらないのであれば、DAPAによる心不全抑制機序は何であろうか。本論文でDAPAには糖尿病の有無によらずヘマトクリット値を上げる作用があることが示されており、細胞外液量減少を介した心負荷減少が心不全の改善に寄与している可能性がある。そのほかにもhypoxia-inducible factor (HIF)1活性化とエリスロポエチン産生増加、心筋の線維化抑制作用、ケトン体産生を介した心筋のエネルギー効率改善、交感神経抑制作用など諸説あるが、SGLT2阻害薬の心不全改善作用の正確な機序はまだ不明である。機序が明らかになれば、心不全の薬だが血糖降下作用もある薬とSGLT2阻害薬の立ち位置が変わるのかもしれない。 1. Zinman B et al. N Engl J Med. 2015;373:2117-2128. 2. Zelniker TA et al. Lancet. 2019;393:31-39. 3. McMurray et al. N Engl J Med. 2019;381:1995-2008.
MRSA菌血症に用いるバンコマイシンまたはダプトマイシンへの抗ブドウ球菌βラクタム系薬が死亡率、菌血症、効果および治療失敗にもたらす効果 無作為化比較試験
MRSA菌血症に用いるバンコマイシンまたはダプトマイシンへの抗ブドウ球菌βラクタム系薬が死亡率、菌血症、効果および治療失敗にもたらす効果 無作為化比較試験
Effect of Vancomycin or Daptomycin With vs Without an Antistaphylococcal β-Lactam on Mortality, Bacteremia, Relapse, or Treatment Failure in Patients With MRSA Bacteremia: A Randomized Clinical Trial JAMA. 2020 Feb 11;323(6):527-537. doi: 10.1001/jama.2020.0103. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【重要性】メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)菌血症は20%以上の死亡率と関連がある。標準治療にβラクタム系抗菌薬の併用によって死亡率が低下することが報告されているが、この介入を検討した十分な検出力がある無作為化臨床試験は実施されていない。 【目的】MRSA菌血症に用いる抗ブドウ球菌βラクタム系抗菌薬の標準治療との併用が標準治療単独よりも有効性が高いかどうかを明らかにすること。 【デザイン、設定および参加者】2015年8月から2018年7月にかけて、4カ国27施設で、MRSA菌血症成人患者352例を対象に非盲検無作為化臨床試験を実施した。2018年10月23日に経過観察を終了した。 【介入】被験者を標準治療(バンコマイシンまたはダプトマイシン静注)と抗ブドウ球菌βラクタム系抗菌薬(flucloxacillin、クロキサシリンまたはセファゾリン)の併用(174例)と標準治療単独(178例)に割り付けた。治療に当たる医師が総治療期間を決め、βラクタム系抗菌薬は7日間投与した。 【主要転帰および評価項目】主要評価項目は90日時の死亡、5日目の菌血症持続、微生物学的再発および微生物学的治療失敗の複合とした。14、42、90日時の死亡率、2、5日時の菌血症持続、急性腎障害(AKI)、微生物学的再発、微生物学的治療失敗および抗菌薬静注の期間を副次評価項目とした。 【結果】データ安全性評価委員会は、安全性の観点から、440例を登録する前に試験の早期中止を推奨した。無作為化した352例(平均年齢62.2歳、121例[34.4%]が女性)のうち345例(98%)が試験を完遂した。主要評価項目は、併用療法群の59例(35%)と標準治療群の68例(39%)に発生した(絶対差-4.2%、95%CI -14.3-6.0%)。事前に規定した副次評価項目9項目のうち7項目に有意差が認められなかった。併用療法群と標準治療群を比較すると、35例(21%)と28例(16%)に90日総死亡率が発生し(差4.5%、95%CI -3.7-12.7%)、166例中19例(11%)と172例中35例(20%)に5日目に菌血症の持続(同-8.9%、-16.6--1.2%)が見られ、ベースラインで透析を実施していた患者を除くと、145例中34例(23%)と145例中9例(6%)がAKIを来した(同17.2%、9.3-25.2%)。 【結論および意義】MRSA菌血症、バンコマイシンまたはダプトマイシンを用いた標準的抗菌薬療法に抗ブドウ球菌βラクタム系抗菌薬を追加しても、死亡率、菌血症持続、再発または治療失敗の主要複合評価項目の有意な改善にはつながらなかった。この結果を解釈する際は、安全性の懸念による試験の早期中止および臨床的に重要なさを検出する力が試験に不足していた可能性を考慮しなければならない。 第一人者の医師による解説 腎毒性の低いβラクタム薬の併用は 検討の余地あり 塩塚 美歌 国立がん研究センター中央病院感染症部/岩田 敏 国立がん研究センター中央病院感染症部部長 MMJ. December 2020;16(6):175 成人のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)菌血症に対する現在の標準治療薬は、バンコマイシン(VCM)とダプトマイシン(DAP)である。近年、MRSA菌血症の標準治療薬とβラクタム薬の併用による患者のアウトカム改善を示唆する研究報告が増えている中、本論文はオーストラリア、シンガポールなどの27病院で実施されたランダム化非盲検比較試験の結果を報告している。血液培養からMRSAが検出された18歳以上の入院患者を対象とし、血液培養採取から72時間以内に次の2群に無作為に割りつけた。標準治療群では、VCMまたはDAPを、臨床経過に従い14~42日間投与した。併用療法群では、標準治療に加えて抗黄色ブドウ球菌βラクタム薬(フルクロキサシリン、クロキサシリン、またはセファゾリン)を治療開始から7日間併用した。主要評価項目は、90日間の全死亡、5日後の持続的菌血症、血液培養陰性化後72時間以降の菌血症再燃、14日目以降における細菌学的な治療失敗を併せた複合エンドポイントとされた。副次評価項目として急性腎障害(AKI)や投薬治療期間なども解析した。当初440人の登録が予定されたが、中間解析で併用療法群のAKI発症率が有意に高いことが示され、以降の参加登録は中止された。  結果として、無作為化された患者352人の年齢中央値は64歳(47~79歳)、349人(99%)はVCM、13人(4%)は最低1回DAPを投与されていた。主要評価項目の発生率に関して併用療法群と標準治療群に有意差は認められなかった(35% 対 39%:差 , -4.2%;95%信頼区間[CI], -14.3~6.0%;P=0.42)。また、併用療法群は標準治療群と比較し、5日後の持続的菌血症の頻度が有意に低い(11% 対 20%:差 , -8.9%;95% CI, -16.6~ -1.2%;P=0.02)一方、AKIの頻度は有意に高かった(23% 対 6%:差 , 17.2%;95% CI, 9.3~25.2%;P<0.001)。  MRSA菌血症に対するβラクタム薬の併用療法は、本研究では腎毒性の弊害を上回る有効性は示されなかった。抗MRSA薬とβラクタム薬の併用療法は、日本感染症学会・日本化学療法学会による「JAID/JSC感染症治療ガイド2019」でも推奨されておらず、これに矛盾のない結果となった。過去にも、黄色ブドウ球菌による心内膜炎に対するアミノグリコシド併用療法(1)や、黄色ブドウ球菌菌血症に対するリファンピシン併用療法(2)の効果が期待されたが、死亡率の改善はなく、有害事象(前者では腎毒性)が多く認められた。今回、腎毒性がより低いセファゾリンを用いた患者数は併用療法群の約20%と少なく、今後改めて比較試験を実施してもよいかもしれない。 1. Korzeniowski O, et al. Ann Intern Med. 1982;97(4):496-503. 2. waites GE, et al. Lancet. 2018;391(10121):668-678.
重症急性腎障害に用いる腎代替療法の遅延と早期開始 系統的レビューと無作為化試験の患者個人データのメタ解析
重症急性腎障害に用いる腎代替療法の遅延と早期開始 系統的レビューと無作為化試験の患者個人データのメタ解析
Delayed versus early initiation of renal replacement therapy for severe acute kidney injury: a systematic review and individual patient data meta-analysis of randomised clinical trials Lancet . 2020 May 9;395(10235):1506-1515. doi: 10.1016/S0140-6736(20)30531-6. Epub 2020 Apr 23. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】生命を脅かす合併症がない場合の重症急性腎障害に腎代替療法(RRT)を実施するタイミングは活発に議論されている。著者らは、早期RRT実施と比較した遅延RRTが重症急性腎障害の重症患者の28日時生存率に影響を及ぼすかを評価した。 【方法】この系統的レビューと患者個人データのメタ解析では、MEDLINE(PubMed経由)、Embase、Cochrane Central Register of Controlled Trialsで、2008年4月1日から2019年12月20日に出版され、重症急性腎障害に用いるRRT遅延と早期開始戦略を比較した無作為化試験を検索した。急性腎障害(Kidney Disease: Improving Global Outcomes[KDIGO]の急性腎障害分類2または3、KDIGOが使われていない場合、腎Sequential Organ Failure Assessment[SOFA]スコア3点以上と定義)がある18歳以上の重症患者を対象とした試験を適格とした。各試験の研究生責任者に連絡を取り、患者データの提供を依頼した。対象とした試験から、急性腎障害がない患者、無作為化しなかった患者を患者個人データのメタ解析から除外した。主要転帰は、無作為化28日後の総死亡率とした。この試験は、PROSPERO(CRD42019125025)として登録されている。 【結果】特定した試験1031件のうち、1件は適格基準を満たしたが組み入れ時期が古いため除外し、10件(対象2143例)を解析対象とした。9件(2083例)の患者個人データが入手でき、1879例に急性腎障害があり、946例(50%)を遅延RRT群、933例(50%)を早期RRT群に無作為に割り付けた。遅延RRT群に割り付けデータが入手できた929例中390例(42%)はRRTを受けなかった。28日時までに死亡した患者の割合は、遅延RRT群(837例中366例[44%])と早期RRT群(827例中355例[43%])で有意差がなく(リスク比1.01、95%CI 0.91-1.13、P=0.80)、全体のリスク差は0.01(95%CI -0.04-0.06)であった。試験間に異質性はなく(I2=0%、τ2=0)、ほとんどの試験でバイアスリスクが低かった。 【解釈】重症急性腎障害を呈した重症患者で、緊急RRTの適応がない場合のRRT導入のタイミングは、生存率に影響を及ぼすことがない。患者を緊密にモニタリングしながらRRT導入を遅らせることで、RRT実施率が低下し、ひいては医療資源を節約することになる。 第一人者の医師による解説 AKIでの腎代替療法は「伝家の宝刀」 むやみに使わず迷ったら使う 寺脇 博之 帝京大学ちば総合医療センター第三内科(腎臓内科)教授・腎センター長 MMJ. December 2020;16(6):172 『広辞苑』によると、「伝家の宝刀」とは「代々家宝として伝わっている名刀。転じて、いよいよという時以外にはみだりに使用しない、とっておきの物・手段など」…つまり、のっぴきならない窮地に立たされて初めて抜く刀、とされている。今回紹介する研究(メタアナリシス)は、重症の急性腎障害(acute kidney injury;AKI)を治療する上で、腎代替療法(renal replacement therapy;RRT)がまさにその「伝家の宝刀」であることを示唆する結論、すなわち「AKIに対してRRTを一律に早期導入しても予後への好影響は確認されなかった」を導き出している。  著者らは2008年4月1日~19年12月20日に発表された1,031件の研究から、早期導入戦略(early strategy:何らかの基準に従いAKIと診断された時点でRRTを導入)と晩期導入戦略(delayed strategy:高カリウム血症、肺水腫などのため生命の危険が迫った時点でRRTを導入)を比較した無作為化対照試験(RCT)を抽出。最終的に8件の研究から抽出された早期導入群827人、晩期導入群837人(年齢、性比、入院理由、Sequential Organ Failure Assessment[SOFA]スコア、併存疾患、敗血症合併率、割り付け時の利尿薬使用率に関する差なし)の2群を対象に、以下の項目について比較した:主要評価項目(割り付け後28日以内の全死亡)、副次評価項目(死亡までの期間[28日後まで])、60日全死亡、90日全死亡、院内死亡、入院期間、RRTを要しなかった日数[28日後まで])。  その結果、主要評価項目の28日全死亡について、晩期導入群におけるリスク比は早期導入群に対して1.01(95%信頼区間 , 0.91~1.13;P=0.80)と有意差はなく、さらに副次評価項目についても両群間に差は認められなかった。なお晩期導入群では42%の患者がRRTを1回も受けていなかった:このことは、早期導入群の42%においてRRTは不要であった可能性を示唆する。  今回の研究における「早期導入戦略」にとっての救いは、早期導入群では予後が優れていなかったものの、劣ってもいなかったことである。すなわち、早期導入群の42%にとってRRTは不要だったかもしれないが、不利益ももたらさなかったわけである。結局、今回の研究から得られた教訓は、「むやみには使わない(早期導入で予後は改善されないから)」「でも使うか使わないか迷ったら使う(不利益はもたらさないから)」という、AKIにおける伝家の宝刀たるRRTの“正しい振るい方”だと言うことができる。
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