ライブラリー テストステロン補充療法はプラセボに対して心血管系有害事象の発生率で非劣性
Cardiovascular Safety of Testosterone-Replacement Therapy
N Engl J Med. 2023 Jul 13;389(2):107-117. doi: 10.1056/NEJMoa2215025. Epub 2023 Jun 16.
上記論文のアブストラクト日本語訳
※ヒポクラ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。
【背景】性腺機能低下症の中高年男性におけるテストステロン補充療法の心臓血管への安全性はまだ確認されていない。
【方法】多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照非劣性試験において、心血管疾患の既往またはリスクが高く、性腺機能低下症の症状を報告し、空腹時テストステロンが2つある45~80歳の男性5,246人を登録した。 1デシリットルあたり300ng未満のレベル。患者は、1.62%テストステロンゲル(テストステロンレベルを1デシリットルあたり350~750ngに維持するように用量を調整した)を毎日経皮投与するか、プラセボゲルを投与するかに無作為に割り当てられた。心血管安全性の主要評価項目は、発生までの時間分析で評価された、心血管死、非致死性心筋梗塞、または非致死性脳卒中による死亡の複合要素の最初の発生であった。二次心血管エンドポイントは、イベント発生までの時間分析で評価された、心血管死、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中、または冠動脈血行再建術の複合要素の最初の発生であった。非劣性には、テストステロンまたはプラセボを少なくとも 1 回投与された患者のハザード比の 95% 信頼区間の上限が 1.5 未満である必要がありました。
【結果】平均(±SD)治療期間は21.7±14.1ヶ月、平均追跡期間は33.0±12.1ヶ月でした。主要な心血管エンドポイントイベントは、テストステロン群の患者 182 人(7.0%)、プラセボ群の患者 190 人(7.3%)で発生しました(ハザード比、0.96、95% 信頼区間、0.78 ~ 1.17、p<0.001)。非劣性)。同様の所見は、テストステロンまたはプラセボの中止後のさまざまな時点でイベントに関するデータが打ち切られた感度分析でも観察されました。二次エンドポイント事象の発生率、または複合一次心血管エンドポイントの各事象の発生率は、2 つのグループで同様であるように見えました。テストステロン群では、心房細動、急性腎障害、肺塞栓症の発生率が高いことが観察されました。
【結論】性腺機能低下症を患い、心血管疾患の既往またはリスクが高い男性において、テストステロン補充療法は、重大な心臓有害事象の発生率に関してプラセボよりも劣りませんでした。 (AbbVie およびその他によって資金提供されています。TRAVERSE ClinicalTrials.gov 番号、NCT03518034。)。
第一人者の医師による解説
非致死的不整脈、心房細動、急性腎障害、肺塞栓症の既往がある場合は注意
佐々木 春明 昭和大学藤が丘病院泌尿器科教授
MMJ.April 2024;20(1):20
性腺機能低下症の中高年男性におけるテストステロン補充療法の心血管系への影響は確定されていない(1)。これまでの報告では、心血管リスクの上昇を示す研究もあれば、リスクの低下を示す研究もあり、相反する結果が示されている(1)。
本論文 は、米国 の316施設で実施された第4相、無作為化、二重盲検、プラセボ対照、非劣性試験(TRAVERSE試験)の報告である。45~80歳、性腺機能低下症状を有し、心血管疾患の既往があるか心血管リスクが高く、かつ午前11時までの採血による空腹時血清テストステロン値が300 ng/dL(10.4 nmol/L)未満が対象とされた。患者は、1.62%のテストステロンゲルを連日経皮投与する群(T群)またはプラセボ群(P群)に1:1で割り付けられた。安全性の主要評価項目は主要心血管イベント、あるいは心血管疾患・非致死的心筋梗塞・非致死的脳卒中による死亡までの期間とした。最大の解析対象集団(FAS)は5,204人(T群2,601人、P群2,603人)で、安全性解析対象は5,198人(T群2,596人、P群2,602人)であった。
12カ月時点の血清テストステロン値のベースラインからの上昇中央値はT群148 ng/dL、P群14ng/dLであった。平均(± SD)治療期間は21.7±14.1カ月、平均追跡期間は33.0±12.1カ月であった。主要心血管イベントは、T群で182人(7.0%)、P群で190人(7.3%)に発生した(ハザード比 ,0.96;95%信頼区間[CI];0.78 ~ 1.17;非劣性に関してP<0.001)。前立腺特異抗原(PSA)値はT群で有意に上昇したが(P<0.001)、前立腺がんの発生率は同程度であった(0.5% 対 0.4%;P=0.87)。T群では治療介入が必要な非致死的不整脈(5.2% 対 3.3%;P=0.001)、心房細動(3.5%対 2.4%;P=0.02)、急性腎障害(2.3% 対 1.5%;P=0.04)、肺塞栓症(0.9% 対 0.5%)が多かった。
本論文では、心血管疾患の既往があるか心血管リスクが高い男性性腺機能低下症において、テストステロン補充療法はプラセボに対して心血管系の有害事象の発生率に関して非劣性であったと結論している。また、前立腺がんの発生率も有意に上昇しなかったことが確認された。ただし、治療介入が必要な非致死的不整脈、心房細動、急性腎障害、肺塞栓症の既往がある場合は注意を要する。
日本でも男性性腺機能低下症が広く認知されるようになり、対象となる患者が増加しているので、安全に投与できることを再確認できた。
1. Bhasin S, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2018;103(5):1715-1744.