「MMJ - 五大医学誌の論文を著名医師が解説」の記事一覧

70歳以上の非ST上昇型急性冠症候群患者に用いるクロピドグレルのチカグレロルまたはプラスグレルとの比較 無作為化非盲検非劣性試験
70歳以上の非ST上昇型急性冠症候群患者に用いるクロピドグレルのチカグレロルまたはプラスグレルとの比較 無作為化非盲検非劣性試験
Clopidogrel versus ticagrelor or prasugrel in patients aged 70 years or older with non-ST-elevation acute coronary syndrome (POPular AGE): the randomised, open-label, non-inferiority trial Lancet. 2020 Apr 25;395(10233):1374-1381. doi: 10.1016/S0140-6736(20)30325-1. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】現行ガイドラインでは、急性冠症候群後の患者のチカグレロルまたはプラスグレルを用いた強力な抗血小板療法が推奨されている。しかし、高齢者の最適な抗血小板阻害に関するデータが不足している。著者らは、非ST上昇型急性冠症候群(NSTE-ACS)高齢患者に用いるクロピドグレルのチカグレロルまたはプラスグレルと比較した安全性および有効性を明らかにすることを試みた。 【方法】オランダの12施設(病院10施設および大学病院2施設)で非盲検無作為化試験POPular AGEを実施した。70歳以上のNSTE-ACS患者を組み入れ、ブロックサイズを6としたインターネットを用いた無作為化法で、クロピドグレル300mgまたは600mg、チカグレロル180mgまたはプラスグレル60mgの負荷投与の後、標準治療と併用した12カ月間の維持投与(クロピドグレル1日1回75mg、チカグレロル1日2回90mg、プラスグレル1日1回10mgのいずれか)に1対1の割合で無作為化に割り付けた。患者と治療担当医師に治療の割り付けを知らせておいたが、結果評価者には治療の割り付けを伏せた。主要出血転帰を血小板凝集阻害と患者転帰[PLATelet inhibition and patient Outcome(PLATO):大出血または小出血(優越性の仮説)]とした。全死因死亡、心筋梗塞、脳卒中、PLATO大出血および小出血(非劣性の仮説、マージン2%)を主要複合評価項目(ネットクリニカルベネフィット)とした。追跡期間は12カ月間であった。intention-to-treat集団を解析対象とした。この試験はNetherlands Trial Register(NL3804)、ClinicalTrials.gov(NCT02317198)およびEudraCT (2013-001403-37)に登録されている。 【結果】2013年7月10日から2018年10月17日の間に、1002例をクロピドグレル(500例)、チカグレロルまたはプラスグレル(502例)に無作為に割り付けた。チカグレロルまたはプラスグレル群の475例(95%)にチカグレロル投与したため、このグループをチカグレロル群とした。チカグレロルに割り付けたチカグレロル群502例中238例(47%)、クロピドグレルに割り付けた500例中112例(22%)が早期中止に至った。クロピドグレル群[500例中88例(18%)]の大出血がチカグレロル群[502例中118例(24%)]よりも低かった(ハザード比0.71、95%CI 0·54~0·94、優越性のP=0.01)。複合評価項目はクロピドグレル群のチカグレロルに対する非劣性が示された[139例(28%) vs. 161例(32%)、絶対リスク差-4%、95%CI -10.0~1.4、非劣性のP=0.03]。最も重要な中止の理由は、出血(38例)、呼吸困難(40例)および経口抗凝固薬を用いた治療の必要性(35例)であった。 【解釈】NSTE-ACSを呈した70歳以上の患者で、クロピドグレルは全死因死亡、心筋梗塞、脳卒中および出血の複合評価項目が増加することなく出血イベントを抑制するため、チカグレロルに取って代わる有効な選択肢である。クロピドグレルは、特に出血高リスクの高齢患者のP2Y12阻害薬の代替薬になると思われる。 第一人者の医師による解説 個人差の大きい高齢者 複合リスクの見極めが肝要 中村 正人 東邦大学医療センター大橋病院循環器内科教授 MMJ. October 2020; 16 (5):129 PLATO試験、TRITON-TIMI38試験の結果から急性冠症候群に対しては強力な抗血小板薬(チカグレルまたはプラスグレル)が欧米のガイドラインではクラス Iで推奨されている。出血リスクを上回る虚血イベント抑制効果がこれらの試験で示されたからである。しかし、出血リスクの高い患者にこの治療戦略が有効であるかどうかは明らかではない。そこで近年、出血リスクの高い患者を対象に出血リスクを軽減させるさまざまな戦略の妥当性が検証されている。70歳以上の高齢者に対する今回のPOPular AGE試験も同様である。非 ST上昇型心筋梗塞という血栓イベントリスクの高い病態に出血を考慮したDAPT(クロピドグレル)と血栓イベントを優先するDAPT(プラスグレルまたはチカグレル)の優劣が比較された。主要エンドポイントである出血の発生率は抗血小板作用の弱いクロピドグレルによるDAPTの方が低かった。この結果は想定範囲内である。ポイントは血栓イベントを加えた複合エンドポイントで非劣性が示された点にある。ランダム化前に98%の患者がローディングされており、その7割がチカグレルであった点、イベントの内訳としてステント血栓症はクロピドグレル群のみで認められた点は留意すべきであるが、総合的にみてクロピドグレルによるDAPTの妥当性が実証されたと結論されている。  しかし、他にも抗血小板療法をde-escalationさせる策としては、遺伝子多型や血小板凝集能をチェックする方法、短期 DAPT とP2Y12阻害薬単剤の組み合わせ、低用量のP2Y12阻害薬によるDAPTなどがある。このため、本研究で高齢者に対する戦略の結論が得られたとは言い難い。現在最もエビデンスが豊富な戦略は短期 DAPTとP2Y12阻害薬単剤の組み合わせである。実際、出血高リスク例に対しこの戦略が日本のガイドラインでは推奨されている(1)。また、日本ではプラスグレルの用量は海外の3分の1で、出血リスクが考慮されている。この点からも本研究の結果を日本の実臨床へ外挿する場合にはさらなる検証が必要である。近年、Academic Research Consortium(ARC)により出血高リスク(HBR)の定義が提唱され、これによると75歳以上 の 高齢者はminor criteriaに該当する。単独ではなく複合でHBRに分類される(2)。高齢者を一律 HBRと定めることはできない。高齢者は個人差が大きく、他の出血リスク因子の有無を見極めることが肝要である。わが国をはじめとした東アジア諸国は欧米諸国より出血リスクが高いとされる(3)。このため高齢化社会を迎えている日本における独自の検討が必要である。 1. Nakamura M, et al. Circ J. 2020;84(5):831-865. 2. Urban P, et al. Eur Heart J. 2019;40(31):2632-2653. 3. Levine GN, et al. Nat. Rev. Cardiol. 2014; 11: 597-606.
米国成人の1日の歩数および歩行強度の死亡率との関連
米国成人の1日の歩数および歩行強度の死亡率との関連
Association of Daily Step Count and Step Intensity With Mortality Among US Adults JAMA. 2020 Mar 24;323(12):1151-1160. doi: 10.1001/jama.2020.1382. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【重要性】1日当たりの歩数と歩行強度が死亡率低下と関連があるか明らかになっていない。 【目的】歩数および歩行強度と死亡率の用量依存関係を明らかにすること。 【デザイン、設定および参加者】全米健康栄養調査(National Health and Nutrition Examination Survey)に参加し最長7日間、加速度計を装着した40歳以上の米国成人の代表標本(2003~2006年)。2015年12月まで死亡を確認した。 【曝露】加速度計で測定した1日当たりの歩数および3段階の強度測定(歩調の平均速度、30分間最大値、1分間最大値)。加速度計のデータは、調査開始から7日間に取得した測定値を基にした。 【主要転帰および評価項目】主要転帰は、全死因死亡とした。心血管疾患(CVD)および癌による死亡を副次転帰とした。3次スプラインと四分位分類を用いて年齢、性別、人種・民族、教育、食習慣、喫煙状況、BMI、自己申告の健康状態、運動制限および糖尿病、脳卒中、心疾患、心不全、癌、慢性気管支炎、肺気腫の診断で調整し、ハザード比(HR)、死亡率および95%信頼区間を推算した。 【結果】計4840例(平均年齢56.8歳、54%が女性、36%が肥満)が加速度計を平均5.7日間、1日平均14.4時間装着した。1日当たりの平均歩数は9124歩であった。追跡期間平均10.1年間で1165例が死亡し、そのうち406例がCVD死、283例が癌死であった。調整前の全死因死亡発生密度は、1日4000歩未満の655例で1000人年当たり76.7(死亡419例)、1日4000~7999歩の1727例で1000人年当たり21.4(死亡488例)、1日8000~11999歩の1539例で1000人年当たり6.9(死亡176例)、1日12000歩以上の919例で1000人年当たり4.8(死亡82例)だった。1日当たりの歩数4000歩と比べると1日当たりの歩数8000歩(HR 0.49、95%CI ~0.55)、12000歩(HR 0.35、95%CI 0.28~0.45)で全死因死亡が有意に低下した。歩調の30分間最大値別の調整前の全死因死亡発生密度は、18.5~56.0歩/分の1080例で1000人年当たり32.9(死亡406例)、56.1~69.2歩/分の1153例で1000人年当たり12.6(死亡207例)、69.3~82.8歩/分の1074例で1000人年当たり6.8(死亡124例)、82.9~149.5歩/分の1037例で1000人年当たり5.3(死亡108例)だった。1日当たりの総歩数で調整すると、歩行強度が上がっても死亡率の有意な低下は認められなかった(例:歩調の30分最大値最低四分位に対する最高四分位のHR 0.90、95%CI 0.65~1.27、傾向のP=0.34)。 【結論】米国成人の代表標本を基にすると、1日当たりの歩数が多いほど全死因死亡が有意に低下した。1日の総歩数で調整すると、歩行強度と死亡率に有意な関連はなかった。 第一人者の医師による解説 複雑な歩行強度より単純な歩数が有用 患者の運動指導に有用なエビデンス 石橋 由基/岡村 智教(教授) 慶應義塾大学医学部衛生学公衆衛生学教室 MMJ. October 2020; 16 (5):147 身体活動がさまざまな疾患を予防することはよく知られており、中でも歩行は広く取り入れられている。また単なる歩数ではなく、歩行強度と呼ばれる歩行速度に焦点を当てた研究も近年注目されており、歩行速度が死亡リスクの低下と関連しているとの報告もある(1)。しかしながら、どのくらいの歩行速度が良いのか、また歩数と歩行速度のどちらがより健康に資するのかは明らかになっていない。  本研究は、全米健康栄養調査(National Health and Nutrition Examination Survey)に参加し、2003~06年に加速度計(ActiGraph model 7164)を着用した40歳以上の成人を対象とし、1日あたりの歩数と歩行強度(歩行強度の評価には以下の3つの指標を用いた:歩調の平均速度[60歩 /分で2分以上の歩行での速度]、30分間最大値[peak30]、1分間最大値[peak1])と死亡率との間の用量反応関係を記述するために実施された。主要アウトカムは全死亡、副次アウトカムは、心血管疾患死とがん死とされた。補正前全死亡率は、1日の歩数が4,000歩未満の群で76.7/1,000人年、同4,000~7,999歩群で21.4/1,000人年、同8,000~11,999歩群で6.9/1,000人年、同12,000歩以上群で4.8/1,000人年であり、調整後も4,000歩 /日と比べて、8,000歩 /日と12,000歩 /日は全死亡率の有意な低下と関連していた。一方、peak30別にみた補正前全死亡率は歩行強度に従って低下傾向にあったが、総歩数/日で調整すると、歩行強度が増大しても死亡率の低下はみられなかった。これは他の歩行強度の指標でも同様の傾向であった。  本研究は加速度計の測定を加味した歩行強度に比べて、より単純に計測できる1日の歩数がより低い死亡率と関連していることを明らかにした点で新規性がある。日本でも「健康日本21」で、男女別に歩数の目標値が設定されている(2)。本研究は歩行強度という複雑な指標よりも日々の歩数という単純な指標が予後予測に有用であったことを示唆した点で、患者の運動指導にも有用なエビデンスになりうるだろう。 1. Studenski S et al. JAMA. 2011;305(1):50-58. 2. 厚生労働省 健康日本 21 目標値一覧 (https://www.mhlw.go.jp/www1/topics/kenko21_11/t2a.html)
1990年から2017年における慢性腎疾患の世界的、地域的、および国家的負担:世界疾病負担研究2017のシスティマティック分析
1990年から2017年における慢性腎疾患の世界的、地域的、および国家的負担:世界疾病負担研究2017のシスティマティック分析
Global, regional, and national burden of chronic kidney disease, 1990-2017: a systematic analysis for the Global Burden of Disease Study 2017 Lancet. 2020 Feb 29;395(10225):709-733. doi: 10.1016/S0140-6736(20)30045-3. Epub 2020 Feb 13. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 背景: 医療制度を計画する上で、慢性腎疾患(CKD)の疫学を注意深く評価する必要がありますが、CKDの罹患率と死亡率に関するデータは、多くの国で不足しているか、存在していません。私たちは、2017年の世界疾病負担、負傷、および危険因子研究について、CKDの世界的、地域的、および全国的な負担、ならびに腎機能障害に起因する心血管疾患および痛風の負担を推定しました。全てのステージのCKDの罹患率と死亡率を調べるためにCKDという用語を使用し、心血管疾患と痛風によるCKDの追加リスクを調べるために腎機能障害という用語を使用しました。 方法: 私たちが使用した主なデータソースは、公開された文献、人口動態登録システム、末期腎疾患登録、および世帯調査でした。CKD負担の推定値は、死因アンサンブルモデル(Cause of Death Ensemble model)とベイズのメタ回帰分析ツールを使用して算出されました。ここでは、発生率、有病率、障害のあった年数、死亡率、死亡年、および障害調整生命年(DALY)を組み込みました。腎機能障害に起因する心血管疾患と痛風による負担の割合の推定には、比較リスク評価アプローチを適用しました。 結果: 世界的に、2017年に120万人(95%の不確実性区間[UI] 120万~130万)がCKDで死亡しました。CKDによる世界の全年齢死亡率は、1990年から2017年の間に41.5%(95%UI 35.2~46.5)増加しましたが、年齢標準化死亡率に有意な変化は認められませんでした(2.8%、 -1.5~6.3)。 2017年には、全ステージのCKDで6億9,750万症例(95%UI 6億4,920万~7億5,200万)が記録され、世界的な有病率は9.1%(8.5~9.8)でした。CKDの世界的な全年齢有病率は、1990年以降29.3%(95%UI 26.4~32.6)増加しましたが、年齢標準化された有病率は横ばいでした(1.2%、-1.1から3.5)。CKDのDALYは、2017年に3,580万(95%UI 3,370万~3,800万)となり、糖尿病性腎症がほぼ3分の1を占めました。CKDの負担のほとんどは、社会人口統計指数(SDI)の五分位の下位3つに集中していました。いくつかの地域、特にオセアニア、サハラ以南のアフリカ、ラテンアメリカでは、CKDの負担は経済発展レベルから予想されるよりもはるかに高かったのに対し、サハラ以南の西、東、中央アフリカ、東アジア、南アジア、中央および東ヨーロッパ、オーストラリア、西ヨーロッパでは、負担は予想を下回っていました。心血管疾患関連では140万例(95%UI 120万~160万)の死亡と2,530万(2,220万~2,890万)の心血管疾患DALYが、腎機能障害に起因していると考えられました。 解釈: 腎疾患は、世界的な病的状態と死亡の直接的な原因として、そして心血管疾患の重要な危険因子として、健康に大きな影響を及ぼします。殆どのCKDは予防と治療が可能であり、特にSDIが低/中程度の地域では、グローバルヘルスポリシーの意思決定において、より大きな注意を払う必要があります。 研究資金: Bill & Melinda Gates Foundation. 第一人者の医師による解説 一般の認知度は10%未満 世界的な認知度向上と早期発見体制の確立が必要 山縣 邦弘 筑波大学医学医療系腎臓内科学教授 MMJ. October 2020; 16 (5):140 慢性腎臓病(CKD)は末期慢性腎不全(ESKD)への進展だけでなく心血管死の重要な危険因子であることから、全世界的に疾病対策の重要性が唱えられてきた。本論文では、全世界で7億人以上が罹患し、年間120万人以上が死亡するCKDについて、障害調整生存年(DALYs)という指標から論じている。DALYsによる疾患の評価については、世界保健機関(WHO)のGlobal Burden of Disease (GBD)プロジェクトが指標として使用し、GBDでは現在133疾患について検討が進められている。CKDはGBD対象疾患における死因の12番目を占め、結核や後天性免疫不全症候群(AIDS)による死亡よりも多く、自動車事故死と同等とされている。近年世界的にESKD患者数が増加し、腎代替療法(透析や腎移植療法)を必要とする患者数が今後も増加すると予測されている。このことは先進国を中心に、国民所得が高い国々の集計結果をもとに検討されてきた。しかし近年では、発展途上国でも高血圧や糖尿病などによるCKD発症・進展リスクにさらされるようになり、ESKD患者数は全世界的に急速に増加している。毎年200万人以上の患者が新たに腎代替療法を開始しているものの、ほぼ同数の患者が腎代替療法を受けることができずに死亡してい るという事実も知られている(1)。  本論文では腎代替療法導入やCKD罹患に伴う負担と、腎代替療法非導入を含めたCKDのために死亡することによる負担を合わせた数値指標であるDALYsを地球規模、地域別、国別に算出することによって、今後のCKD対策の方向性を検討した。過去27年間で、CKD患者の罹病率、死亡率とも有意に上昇しており、この理由として人口の高齢化や、糖尿病、高血圧といったCKD発症の危険因子保有者の増加が挙げられた。一方、人口の高齢化の影響を考慮した年齢標準変動率では、全世界でCKDによる人口あたりのDALYsは過去27年間で8.6%低下していたが、CKDにおけるこの低下は他の非感染性疾患(NCD)に比べ少なく、CKD対策が不十分であることを示していた。特に発展途上国を中心に経済的に困窮した地域では先進国に比べ15倍以上 DALYsが高い。このような中で一般人におけるCKDの認知度は先進国、発展途上国とも同様に10%未満で認知度が極めて低い。また早期のCKDを発見し、進行を抑制することは医療経済的にも有用性が証明されているものの、各国のCKDスクリーニング体制が不十分であり、CKDの早期発見、腎機能が高度に悪化する前での治療体制の確立が世界的に求められている。また透析や腎移植といった腎代替療法をどの国でも同等に実施できる施設面での整備を急ぐことも重要な課題として挙げられた。 1. Liyanage T, et al. Lancet. 2015;385(9981):1975-1982.
食事摂取によるナトリウムの減量と減量期間が血圧レベルに及ぼす影響:システマティックレビューとランダム化試験のメタアナリシス
食事摂取によるナトリウムの減量と減量期間が血圧レベルに及ぼす影響:システマティックレビューとランダム化試験のメタアナリシス
Effect of dose and duration of reduction in dietary sodium on blood pressure levels: systematic review and meta-analysis of randomised trials BMJ. 2020 Feb 24;368:m315. doi: 10.1136/bmj.m315. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 目的: 食事で摂るナトリウムの減量と血圧変化の用量反応関係を調べ、介入期間の影響を調査することを目的としました。 デザイン: PRISMAガイドラインに基づいてシステマティックレビューとメタ分析を行うデザインとしました。 データソース: Ovid MEDLINE(R)、EMBASE、Cochrane Central Register of Controlled Trials(Wiley)、そして2019年1月21日までの関連記事の参照リストをデータソースとしました。 試験選択の適格基準: 24時間尿中ナトリウム排泄量で評価したナトリウム摂取量を成人集団間で比較したランダム化試験を組み入れました。 データの抽出と分析: 3人のレビューアのうち2人が、個々にデータの適格性に関するスクリーニングを行いました。1人のレビューアが全てのデータを抽出し、他の2人がデータの正確性をレビューしました。レビューアは、ランダム効果メタ分析、サブグループ分析、およびメタ回帰分析を実行しました。 結果: 12,197人の対象者を含む133の研究が組み入れられました。24時間尿中ナトリウム排泄量、収縮期血圧(SBP)、および拡張期血圧(DBP)の平均低下(ナトリウム低下群 vs. ナトリウム通常量群)は130mmol(95%CI:115〜145、P<0.001)、 4.26mmHg(3.62〜4.89、P<0.001)、および2.07mmHg(1.67〜2.48、P<0.001)でした。24時間尿中ナトリウム排泄量が50mmol低下するごとに、SBPは1.10mmHg(0.66〜1.54; P<0.001)低下し、DBPは0.33mmHg(0.04〜0.63; P=0.03)低下しました。 血圧の低下は、高血圧および非高血圧にかかわらず、調査対象となった多様な集団で観察されました。24時間尿中ナトリウム排泄量の低下が同一の集団間で比較したところ、高齢者、非白人、そしてベースラインSBPレベルが高い集団でより大きなSBP低下が認められました。15日未満の試験では、24時間尿中ナトリウム排泄量が50mmol低下するごとに、1.05mmHg(0.40〜1.70; P=0.002)のSBP低下が見られ、より長い期間の研究で観察された血圧低下の半分未満でした(2.13 mmHg; 0.85〜3.40; P=0.002)。それ以外については、試験期間とSBP低下の間に関連性は認められませんでした。 結論: ナトリウム減量によって達成された血圧低下の程度は、用量反応関係を示し、高齢者、非白人、ベースライン時に高い血圧を示した集団でより顕著でした。短期間の研究では、ナトリウム減量が血圧に及ぼす影響は過小評価されていました。 システマティックレビュー登録: PROSPEROCRD42019140812 出版はBMJ Publishing Group Limitedです。使用許可については(ライセンス未取得の場合)、http://group.bmj.com/group/rights-licensing/permissions へアクセスしてください。 利益相反: すべての著者は、www.icmje.org /coi_disclosure.pdfにあるICMJE統一開示フォームに記入し、以下を宣言します:提出された研究に対していかなる組織からの助成を受けていません。本研究以外では、BNは中国のSalt ManufacturingCompanyとNutekから試験の塩の補充を受けています。MWは、オーストラリア国立健康医学研究財団のグラント(1080206および1149987)によってサポートされており、アムジェン、キリンから謝金を受けています。NRCCは、World Action on Salt and Healthの無償メンバーであり、多くの政府/非政府組織におけるナトリウム接種と高血圧管理に関するコンサルタントを行っています。AALは、Hypertension Canada New InvestigatorAwardによって資金提供されています。FJHは、塩と健康に関するコンセンサスアクション(CASH)および塩と健康に関する世界アクション(WASH)のメンバーです。 CASHとWASHはどちらも非営利の慈善団体であり、FJHはCASHまたはWASHからの財政的支援を受けていません。GAMは、Blood Pressure UK (BPUK)の議長、Consensus Action on Salt and Health (CASH) の議長、およびWorld Action on Salt and Health (WASH)の議長を務めています。 BPUK、CASH、WASHは非営利の慈善団体であり、GAMはこれらの団体から財政的支援を受けていません。 第一人者の医師による解説 これまでの研究のメタ解析 降圧に国民的減塩政策の有用性を示唆 平田 恭信 東京逓信病院・名誉院長 MMJ. October 2020; 16 (5):132 食塩の過剰摂取が素因のある人では高血圧を招来することは周知である。同時に食塩摂取量の減少が血圧を低下させることも多くの研究で示されてきた。しかしこれをもってすべての人に減塩を勧めることに対してはいまだ異論も少なくない。それは減塩による降圧効果が高血圧者あるいは食塩の多量摂取者だけに認められるとの最近の報告に代表される(1)。  本研究ではこれまでの減塩と血圧変化との関係を調べた研究のメタ解析によって、減塩による降圧効果はどのような人に認められるのか、減塩の程度や期間と降圧効果の大きさについて検討している。いつも問題になるのは減塩の評価法である。主流は食事内容から算出する方法と尿中ナトリウム排泄量を測定する方法である。最近は簡便性のためスポット尿でクレアチニン補正をすることが多くなったが、それは誤差が多いとして今回は24時間尿中ナトリウム排泄量を測定した論文だけを解析している。その結果、減塩により老若男女、高血圧の有無を問わず一定の血圧低下が認められた。解析した133論文の平均値では、130mmol/日のナトリウム摂取量減少によって収縮期 /拡張期血圧は4.26/2.07mmHg低下したという。必ずしも大きな降圧値ではないが、拡張期血圧がわずか2mmHg下がると心血管イベントの発症は10~20%も減少することが知られている(2)。  また、その効果は血圧値が高いほど、減塩量が多いほど、高齢者、非白人で大きかった。ここまでの結果は予想の範囲内であったが、減塩期間が2週間以内では降圧効果が十分に発揮されず、さらなる期間の延長によって降圧値が倍加したというのは新知見であろう。DASH研究でも4週目の降圧がそれまでの週より大きかったという報告に合致する(3)。減塩効果を厳密に測定しようとすると入院下の観察あるいはそれに準じた監視が必要になる。それにはどうしても2週間くらいが限度と思われるからである。  我々日本人は食塩大好き国民であり、昔よりは改善したといっても依然11g/日以上の食塩を摂取していて世界保健機関(WHO)の勧めている5g/日未満とは隔たりがある。英国では減塩政策により遠大な計画のもと巧妙な食品メーカーの誘導が成功して食品中の減塩により、心血管病ならびに医療費が減少した。わが国でも国民をあげての減塩政策は高血圧の予防あるいは発症の遅延に有用であろう。 1. Mente A et al. Lancet. 2018;392:496-506. 2. Czernichow S et al. J Hypertens. 2011;29:4-16. 3. Juraschek SP et al. Hypertension. 2017;70:923-929.
2017 ACC/AHA血圧ガイドラインで定義した孤立性拡張期高血圧症と心血管転帰発症との関連
2017 ACC/AHA血圧ガイドラインで定義した孤立性拡張期高血圧症と心血管転帰発症との関連
Association of Isolated Diastolic Hypertension as Defined by the 2017 ACC/AHA Blood Pressure Guideline With Incident Cardiovascular Outcomes JAMA. 2020 Jan 28;323(4):329-338. doi: 10.1001/jama.2019.21402. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【重要性】2017年米国心臓病学会・米国心臓協会(ACC/AHA)ガイドラインでは、高血圧症の定義を血圧140/90mmHg以上から130/80mmHg以上に引き下げた。新たな拡張期血圧閾値80mmHgは、専門家の意見と孤立性拡張期高血圧症(IDH)の定義変更を基に推奨された。 【目的】米国のIDH有病率を2017 ACC/AHAと2003年米国合同委員会(JNC7)による定義で比較し、IDHと転帰の横断的および縦断的な関連を明らかにすること。 【デザイン、設定および参加者】米国国民健康栄養調査(NHANES 2013~2016年)の横断的解析および動脈硬化症リスク(ARIC)試験(1990~1992年に調査開始、2017年12月31日まで追跡)の縦断的解析。縦断的結果を2つの外部コホート――(1)NHANES III(1988~1994年)とNHANES 1999~2014、(2)Give Us a Clue to Cancer and Heart Disease(CLUE)IIコホート(1989年に調査開始)――を用いて検証した。 【曝露】2017 ACC/AHA(収縮期血圧130mmHg未満、拡張期血圧80mmHg以上)とJNC7(収縮期血圧140mmHg未満、拡張期血圧90mmHg以上)で定義したIDH。 【主要転帰および評価項目】米国成人のIDH有病率および2017 ACC/AHAガイドラインによりIDHに対する薬物治療を推奨された米国成人の割合。ARIC試験では、アテローム動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)、心不全、慢性腎臓病(CKD)の発症リスク。 【結果】被験者集団はNHANESから9590例(調査開始時の平均年齢49.6歳、52.3%が女性)とARIC試験から8703例(調査開始時の平均年齢56.0歳、57.2%が女性)を対象とした。NHANESのIDH推定有病率は2017 ACC/AHAガイドライン定義で6.5%、JNC7定義で1.3%だった(絶対差5.2%、95%CI 4.7~5.7%)。新たにIDHに分類された被験者のうち推定0.6%(95%CI 0.5-0.6%)がガイドラインの降圧治療の基準を満たした。正常血圧のARIC試験参加者と比べると、2017 ACC/AHA定義によるIDHにASCVD(1386件、追跡期間中央値25.2年、HR 1.06、95%CI 0.89~1.26)、心不全(1396件、HR 0.91、95%CI 0.76~1.09)、CKD(2433件、HR 0.98、95%CI 0.65~1.11)の発症リスクとの有意な関連が認められなかった。2件の外部コホートでもまた、心血管死との関連が否定的であった[例:2017 ACC/AHA定義によるIDHのHRがNHANES(1012件)で1.17、95%CI 0.87~1.56、CLUE II(1497件)で1.02、95%CI 0.92~1.14]。 【結論および意義】米国成人を対象とした本解析では、IDHの推定有病率は2017 ACC/AHA血圧ガイドラインの定義の方がJNC7ガイドラインよりも高かった。しかし、IDHによる心血管転帰のリスクの有意な上昇は見られなかった。 第一人者の医師による解説 拡張期血圧がIDH基準の80mmHg以上なら経過観察を 下澤 達雄 国際医療福祉大学医学部臨床検査医学主任教授 MMJ. October 2020; 16 (5):130 数年に1度、高血圧診療ガイドラインは改訂されており、日本でも2019年に新しい版が発行された(1)。日本と米国のガイドラインで大きく異なる点は高血圧の定義となる血圧の臨床判断値であろう。日本は従来どおりの140/90mmHgを高血圧の臨床判断値としているが、米国は2017年のACC/AHAガイドラインで130/80mmHgへと変更した。これに伴い、2003年 のJoint National Committee(JNC7)において拡張期血圧90mmHg以上かつ収縮期血圧140mmHg未満としていた孤立型拡張期高血圧症(isolated diastolic hypertension; IDH)の定義が拡張期血圧80mmHg以上かつ収縮期血圧130mmHg未満に変更された。その結果、米国のデータベースを用いた今回の横断的調査によると、IDHの頻度 は1.3%(2003 JNC7)から6.5%(2017ACC/AHA)へと上昇し、治療介入対象者が増える結果となった。しかし、Atherosclerosis Risk in Communities(ARIC)試験参加者のデータを再解析したところ、新しいIDHの定義は心血管イベントや慢性腎臓病(CKD)発症リスク、死亡リスクとの関連において従来の定義より優れていることは示されなかった。  疫学調査では拡張期血圧が75mmHgを超えると徐々に心血管イベントが増加することから、ACC/AHAガイドラインでは高血圧の臨床判断値を80mmHgに引き下げた。しかし、IDHの収縮期血圧は130mmHg未満であり、平均血圧にすると拡張期、収縮期とも130/80mmHgを超える例より低くなる。また、介入試験においてHOT試験(2)のように拡張期血圧を90mmHgまたは80mmHgまで下げても心血管イベント抑制効果に差は認められないといった報告もある。つまり、観察研究と介入研究で差異がある。  さらに、今回の検討ではIDHの定義を満たす成人の年齢構成は55歳未満が多くなっている。また従来の定義で診断されるIDHに比べ、低比重リポ蛋白(LDL)-コレステロール値、トリグリセリド値が低く、脂質異常症に対する介入割合が高く、推算糸球体濾過量(eGFR)も高くなっている。ウィンドケッセルモデルからもわかるように若年高血圧患者では血管の弾力性が保たれているため拡張期血圧は高くなりやすい。そのため心血管リスクとしてのIDHの意義が薄れていた可能性も考えられる。  この結果から拡張期血圧は放置してよいということにはならず、米国のIDHの基準であれば経過観察を行い、収縮期血圧が上がってくるようであれば生活習慣の改善から介入を進めるべきであろう。 1. 高血圧診療ガイドライン 2019 年版(日本高血圧学会編) 2. Hansson L et al. Lancet. 1998;351(9118):1755‐1762.
ランダム化臨床試験の治療効果推定に対する盲検化の影響:メタ疫学研究
ランダム化臨床試験の治療効果推定に対する盲検化の影響:メタ疫学研究
Impact of blinding on estimated treatment effects in randomised clinical trials: meta-epidemiological study BMJ. 2020 Jan 21;368:l6802. doi: 10.1136/bmj.l6802. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 目的: 治療効果推定に対する盲検化の影響、およびそれらの試験間の変動を調べることを目的としました。具体的には、患者、医療提供者、および観測者の盲検化を区別し、検出バイアスと実施上のバイアス、そして結果の種類について検討しました(MetaBLIND研究)。 デザイン: メタ疫学研究 データソース: Cochrane Database of Systematic Reviews (2013-2014年). 試験選択の適格基準: 任意のトピックに関する盲検試験と非盲検試験の両方によるメタアナリシス。 レビュー方法: 盲検状態は試験についての出版物と著者から取得され、結果はCochrane Database of Systematic Reviewsから自動的に取得されました。ベイズの階層モデルによって、オッズ比(ROR)の平均比を推定し、非盲検試験(またはステータスが不明)と盲検試験の試験間の不均一性を推定しました。二次分析では、割り当ての秘匿性、被験者の減少、および試験規模の妥当性を調整し、結果の主観性(高、中、低)と平均バイアスとの関連を調査しました。RORが1未満の場合は、盲検化なしの試験で効果の推定値が誇張されていることを示しています。 結果: 本研究では、142件のメタアナリシス(1,153件の試験)を対象としました。患者の盲検化を行っていない試験のRORは、結果が患者の報告に基づく18のメタアナリシスで0.91(95%信頼区間0.61から1.34)であり、盲検化された観測者によって報告された結果に基づく14のメタアナリシスで0.98(0.69から1.39)でした。医療提供者の盲検化を行っていない試験のRORは、医療提供者による決定(再入院など)に基づく29のメタアナリシスで1.01(0.84〜1.19)であり、盲検化された患者または観測者によって報告された結果に基づく13のメタアナリシスで0.97(0.64〜1.45)でした。観測者の盲検化を行っていない試験のRORは、観測者が報告した主観的な結果に基づく46のメタアナリシスで1.01(0.86から1.18)であり、主観性の程度に対する明確な関連は認められませんでした。盲検化していないことが試験間の不均一性の増加と関連していたかどうかを判断するには、情報が不十分でした。二重盲検として報告されていない試験と二重盲検である試験のRORは、74件のメタアナリシスで1.02(0.90〜1.13)でした。 結論: 患者、医療提供者、または観測者が盲検化されている場合とされていない場合で治療効果推定に平均差が生じることを示すエビデンスは見つかりませんでした。これらの結果から、盲検化は、従来信じられてきたのとは異なり、残余の交絡因子や不正確さといったメタ疫学研究におけるリミテーションと比較して、重要ではないという可能性が示唆されます。ただし、現段階においては、本研究の再現が提案されており、盲検化は臨床試験における方法論のセーフガードの位置づけを外れたわけではありません。 利益相反: すべての著者は、ICMJE統一開示フォームで下記について宣言しています:過去3年間に提出された研究に関心を持つ可能性のある組織との金銭的関係はありません。出版投稿された研究に影響を与えたと思われる他の関係や活動はありません。 第一人者の医師による解説 対象少なくさらなる研究必要 可能な限り盲検化の方針は変わらず 松山 裕 東京大学大学院医学系研究科生物統計学分野教授 MMJ. October 2020; 16 (5):149 ランダム化比較試験(RCT)は治療効果をバイアスなく評価するための最も信頼性の高い試験デザインであり、その結果は日常診療の実践や規制当局の判断において重要なエビデンスとなる。RCTの中でも最も質が高いとされる二重盲検試験は、患者だけでなく医師に対しても盲検化を行うことで、患者選択と対象者の管理・評価にわたって比較群の平等性(比較可能性:comparability)を高く保つ有効な手段とされている。また、医師に対する盲検化が困難な場合でも、アウトカム評価者には盲検化を行うなど盲検化のレベルを変えて、可能な限り盲検化を行うことが推奨されている。  本研究では、2013年2月から1年間にコクランレビューに公表された1,042件のメタアナリシス研究から、盲検化を行った研究と非盲検の研究を少なくともそれぞれ1つは含む研究を抽出し、盲検化研究に比べて非盲検研究の方が治療効果を過大評価しているかを調べた。盲検化のレベルは、患者・医療提供者・アウトカム評価者の3種類とし、以下の5項目を主要解析対象とした: (Ⅰa)患者立脚型アウトカムに対する患者の盲検化 (Ⅰb)盲検化された評価者によるアウトカムに対する患者の盲検化 (Ⅱa)医療提供者が評価したアウトカムに対する医療提供者の盲検化 (Ⅱb)盲検化された評価者あるいは患者によるアウトカムに対する医療提供者の盲検化 (Ⅲ)主観的アウトカムに対するアウトカム評価者の盲検化  解析対象は142件(1,153試験)のメタアナリシス研究であった(盲検化の有無・内容が不明な試験は67試験[6%])。すべてのアウトカムを二値化したうえで治療効果の大きさをオッズ比で表現し、盲検化試験でのオッズ比に対する非盲検試験でのオッズ比の比(ratios of odds ratios ;ROR)をベイズ的階層モデルによって併合した。その結果、上記5つのいずれの項目に関してもRORの値はほぼ1であり、盲検化試験と非盲検試験でのオッズ比に差は認められなかった。  著者らも述べているように、本研究では評価の信頼性が懸念されるアウトカムに関して盲検化を複数のレベルでとらえて検討している点が強みである。しかしながら、対象試験数の少なさ(ROR推定値の信用区間幅の広さ)、交絡バイアスの影響、統計学的に差がないことをもって同等であると評価している点など本研究にはいくつか問題点もみられるため、さらなる研究が必要であり、現段階では可能な限り盲検化を行うという方針に大きく変更はないと思われる。
微小粒子状物質への長期的曝露と脳卒中発症 China-PARプロジェクトの前向きコホート研究
微小粒子状物質への長期的曝露と脳卒中発症 China-PARプロジェクトの前向きコホート研究
Long term exposure to ambient fine particulate matter and incidence of stroke: prospective cohort study from the China-PAR project BMJ. 2019 Dec 30;367:l6720. doi: 10.1136/bmj.l6720. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【目的】中国人成人で、粒子径2.5 μm未満の微小粒子状物質(PM2.5)への長期的暴露が全体、虚血性および出血性脳卒中の発症率に及ぼす作用を調べること 【デザイン】住民対象前向きコホート研究。 【設定】中国の15省で遂行したPrediction for Atherosclerotic Cardiovascular Disease Risk in China(China-PAR)プロジェクト。 【参加者】China-PARプロジェクトで追跡開始時に脳卒中がなかった中国人男女11万7575例。 【主要評価項目】全体、虚血性および出血性脳卒中の発症。 【結果】参加者の居住地住所の2000~2015年の平均PM2.5濃度は64.9μg/m3(範囲31.2~ 97.0μg/m3)だった。90万214人年の追跡中、脳卒中3540件が発生し、そのうち63.0%が虚血性、27.5%が出血性だった。PM2.5曝露量の最低四分位群(54.5μg/m3未満)と比べると、最高四分位群(78.2μg/m3)は脳卒中(ハザード比1.53、95%CI 1.34~1.74)、虚血性脳卒中(同1.82、1.55~2.14)および出血性脳卒中(同1.50、1.16~1.93)発症のリスクが高かった。PM2.5濃度が10μg/m3高くなると、脳卒中、虚血性脳卒中および出血性脳卒中の発症リスクがそれぞれ13%(同1.13、1.09~1.17)、20%(1.20、1.15~1.25)、12%(1.12、1.05~1.20)上昇した。PM2.5への長期的曝露と脳卒中発症率(全体と種類別)の間にほとんど線形の曝露反応関係が認められた。 【結論】この試験は、濃度がいくぶん高いPM2.5への長期的暴露に脳卒中とその主要な種類の発症との正の関連を示した中国からの科学的根拠を提示するものである。この結果は、中国だけでなく、その他の低所得国および中所得国の大気汚染と脳卒中予防関連の環境および健康政策の立案に意義あるものである。 第一人者の医師による解説 中国より低濃度の日本でも 脳血管障害のリスクに関する知見が必要 道川 武紘(講師)/西脇 祐司(教授) 東邦大学医学部社会医学講座衛生学分野 MMJ. October 2020; 16 (5):146 以前は、微小粒子状物質、PM2.5(空気力学径が2.5μ m以下の粒子)、というと「午後2時半?」と聞き返されたと聞いているが、今では小学生でも聞いたことがある環境用語になっていて、その健康に与える影響が懸念されている。PM2.5の健康影響に関して米国環境保護庁は定期的に最新の科学的知見を整理した報告書を公表しており、最新2019年版では以前の2009年版と同様に「長期的(年単位)なPM2.5曝露と循環器疾患との関連性には因果関係がある」と発表した(1)。ただしこれは主に心血管疾患との関連性に関するもので、脳血管疾患については心血管疾患よりも疫学研究の知見は少なく、分類別(虚血性と出血性)の検討も十分とは言えない。  本研究は中国の4つのコホートからなるChinaPAR projectのデータを利用して、15省に住んでいた117,575人の男女(ベースライン時平均年齢50.9歳)について長期的なPM2.5曝露と脳血管疾患初回発症との関連性を、虚血性と出血性に分けて検討した。2000~15年にかけて、その間の引っ越しも考慮したうえでの各参加者自宅におけるPM2.5濃度の平均は64.9 μ g/m3(範囲 , 31.2~ 97.0 μ g/m3)であった。年齢、性別、地域、喫煙など交絡しうる因子を調整したうえで、PM2.5濃度が10 μ g/m3高くなると虚血性の脳血管障害発症は1.20(95%信頼区間[CI], 1.15 ~ 1.25)倍、出血性は1.12(1.05 ~ 1.20)倍増えるという関連性が観察された。今回の濃度範囲(31.2 ~97.0 μ g/m3)では、PM2.5濃度上昇に伴い直線的に脳血管障害のリスクが上昇していた。  2017年における東京区部年平均 PM2.5濃度は13.4 μ g/m3あったのに対して北京では58.5 μg/m3であった。これまでのところ日本のPM2.5濃度は中国よりも明らかに低いので、相対的に低濃度の日本でも同様の関連性が観察されるのか興味深い。最近、茨城県健康研究データを利用し、PM2.5とそれよりも径の大きい粒子を含む浮遊粒子状物質(SPM)への長期曝露と循環器疾患死亡との関連性を調べた結果が報告された(2)。この研究では、男性においてベースライン調査時点(1990年)のSPM濃度と虚血性脳血管障害リスクは正の関連性を示す傾向にあった(SPM 10 μ g/m3上昇に対して1.25[95% CI, 0.99~1.57]倍リスク上昇)。日本ではPM2.5の環境基準設定から10年経過しようやく観測データが蓄積されてきたので、わが国においても長期的なPM2.5曝露が脳血管障害の危険因子となりうるのか、知見が待たれる。 1. United States Environmental Protection Agency. Integrated Science Assessment (ISA) for Particulate Matter, 2019.(https://bit.ly/31BxuMI) 2. Takeuchi A, et al. J Atheroscler Thromb 2020 (in press).
未病の消化不良に対する管理戦略の有効性:系統的レビューとネットワークメタ解析。
未病の消化不良に対する管理戦略の有効性:系統的レビューとネットワークメタ解析。
Effectiveness of management strategies for uninvestigated dyspepsia: systematic review and network meta-analysis BMJ 2019 Dec 11;367:l6483. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【目的】uninvestigated dyspepsiaに対する管理戦略の有効性を明らかにすること。 【デザイン】系統的レビューとネットワークメタ分析。 【データソース】言語制限なしで、開始時から2019年9月までのMedline, Embase, Embase Classic, the Cochrane Central Register of Controlled Trials, clinicaltrials. gov 。2001年から2019年までのConference proceedings。 [ELIGIBILITY CRITITERIA FOR SELECTING STUDIES]成人参加者(年齢18歳以上)における未調査の消化不良に対する管理戦略の有効性を評価した無作為化対照試験。対象となる戦略は、迅速な内視鏡検査、Helicobacter pyloriの検査と陽性者への内視鏡検査、H pyloriの検査と陽性者への除菌治療(「検査と治療」)、経験的酸抑制、または症状に基づいた管理であった。試験は、最終フォローアップ(12ヶ月以上)における症状状態の二値的評価を報告した。 【結果】レビューでは、成人被験者6162人を含む15の適格無作為化対照試験が特定された。データは、ランダム効果モデルを用いてプールされた。戦略はPスコアに従って順位付けされた。Pスコアとは、ある管理戦略が他の管理戦略よりも優れているという確信の程度を平均したもので、競合するすべての戦略に対して平均されたものである。「検査と治療」は第1位(症状残存の相対リスク0.89、95%信頼区間0.78~1.02、Pスコア0.79)、「迅速内視鏡検査」は第2位で、同様の成績(同 0.90 0.80~1.02 、Pスコア0.71)であった。しかし、どの戦略も "test and treat "よりも有意に低い効果を示さなかった。"test and treat "に割り当てられた参加者は、症状に基づいた管理(相対リスクv 症状に基づいた管理 0.60, 0.30~1.18) を除く他のすべての戦略よりも内視鏡検査を受ける確率が有意に低かった(相対リスクv 内視鏡検査の促進 0.23, 95%信頼区間 0.17~0.31, P score 0.98).管理に対する不満は、「検査と治療」(相対リスクv0.67、0.46~0.98)、および経験的酸抑制(相対リスクv0.58、0.37~0.91)よりも、迅速内視鏡検査(Pスコア0.95)のほうが有意に低かった。上部消化管癌の発生率は、すべての試験で低値であった。感度分析でも結果は安定しており、直接結果と間接結果の間の矛盾は最小限であった。個々の試験のバイアスリスクは高かった;実用的な試験デザインのため、盲検化は不可能であった。 【結論】「Test and treat」は、迅速内視鏡検査と同様のパフォーマンスを示し、他のどの戦略よりも優れていなかったが、第1位であった。「検査と治療」は、症状に基づく管理を除く他のすべてのアプローチよりも内視鏡検査を少なくすることにつながった。しかし、参加者は症状の管理戦略として迅速な内視鏡検査を好む傾向が見られた。[SYSTEMATIC REVIEW REGISTRATION]PROSPERO登録番号CRD42019132528。] 第一人者の医師による解説 理にかなうピロリ菌検査 内視鏡検査なしの実施は医療保険適用外に留意 近藤 隆(講師)/三輪 洋人(主任教授) 兵庫医科大学消化器内科学 MMJ.August 2020;16(4) 内視鏡検査未施行のディスペプシア症状のある患者で、警告症状・徴候のない場合、どのような治療戦略を選ぶべきかについて、臨床現場では判断に迷うことが多い。実際の治療戦略としては以下が挙げられる:(1)直ちに内視鏡検査を実施する(2)ピロリ菌検査を行い、陽性者に内視鏡検査を実施する(3)ピロリ菌検査を行い、陽性者に除菌治療を実施する(4)全症例に酸分泌抑制薬を投与する(5)ガイドラインの推奨もしくは医師の通常診療として、症状に応じた治療を実施する。 これまでに、個々の治療戦略同士を比較したランダム化対照試験(RCT)はいくつか実施されているが、どの戦略も効果は同程度であり、初期管理のアプローチ選択については意見が分かれているのが現状である。 本論文の系統的レビューでは、内視鏡検査未施行のディスペプシア患者に対する長期マネージメントとして、プライマリーケアレベルでどの戦略を行うのが良いかについて、ネットワークメタアナリシスの手法を用いて15件のRCT(ディスペプシア患者計6,162人)を対象に解析している。その結果、プライマリーケアレベルにおいて、ピロリ菌検査を行い陽性者に除菌治療を実施する治療戦略(3)が症状残存の相対リスクが最も低く(相対リスク, 0 .89;95% CI, 0 .78~1.02;P=0 .79)、さらに内視鏡検査の施行を有意に減らすことが判明した。 一方で、患者の満足に関しては、直ちに内視鏡検査を実施する治療戦略(1)が有意に高く、ディスペプシア患者は内視鏡検査を好む傾向にあるといえる。ただ、今回のメタアナリシスでは、ディスペプシア患者におけるがん発見率に関しては、上部消化管がんの割合は0.40%と低く、この結果からは少なくとも警告症状・徴候のないディスペプシア患者に対して、急いで内視鏡検査を実施する必要はないことを意味しており、費用対効果の観点からも同様のことが言えよう。 また、日本の「機能性消化管疾患診療ガイドライン2014̶機能性ディスペプシア(FD)」では、ピロリ菌除菌から6~12カ月経過後に症状が消失または改善している場合はH. pylori関連ディスペプシアとし、FDと異なる疾患と定義されている。したがって、まずピロリ菌の有無を調べる方法は、H.pylori関連ディスペプシアを除外し、本当のFD患者を選定するには理にかなった戦略と言えるだけでなく、将来に生じうる胃がんの予防的観点からも有用であると考える。 ただ、日本におけるディスペプシア症状に対するピロリ菌除菌の有効性は欧米よりは高いとはいえ10%程度と限定的であること、さらに内視鏡検査なしにピロリ菌検査を行う場合、医療保険が適用されないことに留意する必要がある。
非アルコール性脂肪肝炎の治療薬としてのオベチコール酸:多施設共同無作為化プラセボ対照第3相試験の中間解析。
非アルコール性脂肪肝炎の治療薬としてのオベチコール酸:多施設共同無作為化プラセボ対照第3相試験の中間解析。
Obeticholic acid for the treatment of non-alcoholic steatohepatitis: interim analysis from a multicentre, randomised, placebo-controlled phase 3 trial Lancet 2019 Dec 14;394(10215):2184-2196. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】 非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)は、肝硬変に至ることもある一般的な慢性肝疾患の一種である。ファルネソイドX受容体アゴニストであるオベチコール酸は、NASHの組織学的特徴を改善することが示されている。ここでは、NASHに対するオベチコール酸の進行中の第3相試験の予定された中間解析の結果を報告する。 【方法】この多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照試験では、明確なNASH、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)活性スコアが4以上、線維化ステージF2-F3、または少なくとも1つの合併症を伴うF1の成人患者を、対話的ウェブ応答システムを用いて1:1:1で、プラセボ、オベチコール酸10mg、オベチコール酸25mgを毎日内服するようランダムに割り当てた。肝硬変、他の慢性肝疾患、高アルコール摂取、または交絡条件が存在する患者は除外された。18ヶ月目の中間解析における主要評価項目は、NASHの悪化を伴わない線維化の改善(1ステージ以上)、または線維化の悪化を伴わないNASHの消失とし、いずれかの主要評価項目を満たした場合に試験成功したと判断されました。主要解析は、線維化ステージF2-F3の患者様で、少なくとも1回の治療を受け、事前に指定された中間解析のカットオフ日までに18ヵ月目の診察に到達した、または到達する見込みの患者様を対象に、intention to treatで実施されました。また、本試験では、NASHおよび線維化の他の組織学的および生化学的マーカー、ならびに安全性についても評価しました。本試験は、ClinicalTrials. gov、NCT02548351、EudraCT、20150-025601-6に登録され、進行中である。 【所見】2015年12月9日から2018年10月26日の間に、線維化ステージF1~F3の患者1968名が登録され、少なくとも1回の試験治療を受け、線維化ステージF2~F3の患者931名が主要解析に含まれた(プラセボ群311名、オベチコール酸10mg群312名、オベチコール酸25mg群308名)。線維化改善エンドポイントは、プラセボ群37名(12%)、オベチコール酸10mg群55名(18%)、オベチコール酸25mg群71名(23%)が達成した(p=0-0002)。NASH消失のエンドポイントは達成されなかった(プラセボ群25例[8%]、オベチコール酸10mg群35例[11%][p=0-18]、オベチコール酸25mg群36例[12%][p=0-13])。安全性集団(線維化ステージF1~F3の患者1968名)において、最も多く見られた有害事象はそう痒症(プラセボ群123例[19%]、オベチコール酸10mg群183例[28%]、オベチコール酸25mg群336例[51%])で、発現頻度は概ね軽度から中等度であり、重症度は低かったです。全体的な安全性プロファイルはこれまでの試験と同様であり、重篤な有害事象の発生率は治療群間で同様でした(プラセボ群75例[11%]、オベチコール酸10mg群72例[11%]、オベチコール酸25mg群93例[14%])。 【解釈】オベチコール酸25mgはNASH患者の線維化およびNASH疾患活性の主要成分を著しく改善させました。この予定された中間解析の結果は、臨床的に有意な組織学的改善を示しており、臨床的有用性を予測する合理的な可能性を持っています。本試験は臨床転帰を評価するために継続中である。 第一人者の医師による解説 脂肪肝炎の組織学的治癒の改善は達成せず 搔痒による忍容性の懸念も 中島 淳 横浜市立大学大学院医学研究科肝胆膵消化器病学教室主任教授 MMJ.August 2020;16(4) 非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)は飲酒習慣のない脂肪肝で、日本でも食生活の欧米化に伴い2000 万人以上の患者がいる。NAFLDの約25%は慢性進行性の肝炎である非アルコール性脂肪肝炎(NASH)になり、その後肝硬変や肝がんに進展する。また、欧米の調査ではNAFLDの死因トップは心血管イベントである。NASHに適応のある薬剤は世界的にまだ1つもなく、多くの開発治験がなされてきたがそのハードルは高い。最近では線維化抑制薬セロンセルチブの第3 相国際臨床試験が日本も含めて行われたが主要評価項目の達成に至らなかった。 本論文は、肝臓の核内受容体FXRの作動薬であるオベチコール酸のNASHに対する有用性を評価するために、20カ国332施設で実施された無作為化プラセボ対照第3相試験(REGENERATE)の中間解析結果の報告である。REGENERATE試験では、線維化ステージ1 ~ 3のNASH患者1,968人をプラセボ群、オベチコール酸10 mg群、25 mg群に無作為化し、1年半の投与後に肝生検が行われ評価された。 その結果、2つの主要評価項目のうちの1つである脂肪肝炎の悪化なき線維化の1ステージの有意な組織学的改善を25mg群でのみ達成したが(プラセボ群12% 対 25mg群23%)、もう1つの主要評価項目である脂肪肝炎の組織学的治癒(NASH resolution)は達成しなかった。重篤な有害事象は認められなかった。 主要評価項目の1つを満たしたことから米国では本剤の承認申請が行われている。確かに米国では近々FDAがオベチコール酸の早期承認を行うと報道されているが、問題もある。まず一番の問題は対プラセボでの治療効果が非常に低いことである。線維化に対して10 mgは無効で、25mgでのみ有効であったが、そのレスポンダーは23%にとどまった。しかもNASHの病理学的治癒は達成されてない。このようなパワーでは果たして今後投与を継続して4年後にハードエンドポイントであるイベント低減を達成できるだろうか。 また、薬剤独自の有害事象として痒みとLDLコレステロールの上昇が懸念されている。前者は本試験の25mgにおいて軽症~重症の搔痒を51%に認めた(プラセボ群19%)ことから忍容性が心配であろう。LDLコレステロールの上昇は25mg 群で17%(プラセボ群7%)に認めたが、これは本疾患の欧米での死因トップが心血管イベントであることを考慮すると問題かもしれない。非常に残念なことは、日本においてオベチコール酸の開発は第2相試験までで中断され、今回のグローバル試験に日本は参加できなかった点であり、当分NASHの新薬は国内で承認されることはなさそうである。
Resmetirom(MGL-3196)の非アルコール性脂肪肝炎の治療:多施設、無作為、二重盲検、プラセボ対照、第2相試験。
Resmetirom(MGL-3196)の非アルコール性脂肪肝炎の治療:多施設、無作為、二重盲検、プラセボ対照、第2相試験。
Resmetirom (MGL-3196) for the treatment of non-alcoholic steatohepatitis: a multicentre, randomised, double-blind, placebo-controlled, phase 2 trial Lancet 2019 Nov 30;394(10213):2012-2024. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】 非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)は、肝脂肪沈着、炎症、肝細胞障害、進行性肝線維化を特徴とする。Resmetirom(MGL-3196)は、肝臓指向性、経口活性、選択的甲状腺ホルモン受容体βアゴニストで、肝脂肪代謝を増加させ、脂肪毒性を低下させることによりNASHを改善するよう設計されています。 【方法】MGL-3196-05は、米国内の25施設で36週間の無作為化二重盲検プラセボ対照試験が実施されました。生検でNASH(線維化ステージ1~3)が確認され、MRI-proton density fat fraction(MRI-PDFF)により評価したベースライン時の肝脂肪率が10%以上の成人が適格とされました。患者は、コンピュータベースのシステムにより、resmetirom 80 mgまたはマッチングプラセボを1日1回経口投与するよう2対1に無作為に割り付けられた。12週目と36週目に肝脂肪を連続測定し、36週目に2回目の肝生検を行った。主要評価項目は、ベースラインと12週目のMRI-PDFFを測定した患者において、12週目にプラセボと比較してMRI-PDFFで評価した肝脂肪の相対変化としました。本試験は ClinicalTrials. gov(NCT02912260) に登録されている。 【所見】米国内の18施設で348名の患者がスクリーニングされ、84名がレスメチロムに、41名がプラセボにランダムに割り付 けられた。12週目(レスメチロム:-32-9%、プラセボ:-10-4%、最小二乗平均差:-22-5%、95%CI:-32-9~-12-2、p<0-0001)および36週目(レスメチロム:-37-3%、プラセボ:-8-5、34:-8%、42-0~-15-7、p<0-0001)においてプラセボ:78名と比較して肝臓脂肪の相対低下が認められ、レスメトロム:74名およびプラセボ:38名では肝臓脂肪が低下していました。有害事象は、ほとんどが軽度または中等度であり、レスメチロムで一過性の軽い下痢と吐き気の発生率が高かったことを除いて、群間でバランスがとれていた。 【解釈】レスメチロム投与により、NASH患者において12週間および36週間の投与後に肝脂肪の有意な減少が認められた。レスメチロムのさらなる研究により、組織学的効果と非侵襲的マーカーや画像診断の変化との関連を記録する可能性があり、より多くのNASH患者におけるレスメチロムの安全性と有効性を評価することができます。 【資金提供】マドリガル・ファーマスーティカルズ 第一人者の医師による解説 開発進むNASH治療薬 線維化改善作用に関しては進行中の第3相試験で検証 中原 隆志(診療准教授)/茶山 一彰(教授) 広島大学大学院医系科学研究科消化器・代謝内科学 MMJ.August 2020;16(4) 現在、世界的に非アルコール性脂肪肝炎(nonalcoholicsteatohepatitis;NASH)が急増し、社会問題化している。NASHの多くはメタボリック症候群を背景に発症するが、さまざまなホルモン分泌異常も病態に関与する(1) 。健常人と比較し、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)では甲状腺機能低下症が有意に多く(21% 対 10%)(2) 、さらにNASHではNAFLDよりも甲状腺機能低下症が高頻度にみられる(3)。 本論文は、肝細胞に高発現する甲状腺ホルモン受容体β(THR-β)に対する特異的アゴニストであるレスメチロム(resmetirom)の有効性と安全性の評価を目的に、米国25施設で実施された無作為化プラセボ対照第2 相試験の報告である。対象はベースライン時の肝脂肪率が10%以上のNASH患者125 人で、生検でNASH( 線維化:stage 1~ 3)が確認され、MRIプロトン密度脂肪画分測定法(MRI-PDFF)により肝臓に10%以上の脂肪化が認められた患者であった。患者はレスメチロム(80mg)もしくはプラセボを1日1回経口投与する群に2対1の比で無作為に割り付けられた。12週時と36週時に肝臓の脂肪が測定され、36週時には2回目の肝生検が実施された。 その結果、12、36週時の肝脂肪率のベースラインからの低下度はレスメチロム群の方がプラセボ群よりも大きく、両群間の最小二乗平均差は12週時で- 25 .5 %(P< 0 .0001)、36 週時で-28 .8%(P<0 .0001)であった。また、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)の低下、低比重リポ蛋白(LDL)コレステロール、中性脂肪(TG)、リポ蛋白の低下や線維化マーカーや肝細胞の風船化(ballooning)と相関するサイトケラチン(CK)-18の低下を認め、36週時のNAFLD活動性スコアの改善を認めた。忍容性も良好であった。有害事象の多くは軽度~中等度で、一過性の軽度下痢および悪心の発現率がレスメチロム群で高かった以外は2群間にほとんど差はなかった。 一方、NASHの予後は、肝脂肪化ではなく、肝線維化によって規定されることが明らかとなっている。本研究では直接的な線維化の評価がされておらず、また肝細胞におけるTHR-βの発現量も評価されていない。線維化改善作用に関しては現在進行中のstage F2 ~ F3の線維症を有するNASH患者を対象とした第3相試験(MAESTRO-NASH試験)で検証されることとなる。 1. Takahashi H. Nihon Rinsho. 2019;77: 884-888. 2. Pagadala MR et al. Dig Dis Sci. 2012;57(2):528-534. 3. Carulli L et al. Intern Emerg Med. 2013;8(4):297-305.
非アルコール性脂肪性肝疾患と急性心筋梗塞および脳卒中の発症リスク:ヨーロッパの成人1800万人のマッチドコホート研究からの所見。
非アルコール性脂肪性肝疾患と急性心筋梗塞および脳卒中の発症リスク:ヨーロッパの成人1800万人のマッチドコホート研究からの所見。
Non-alcoholic fatty liver disease and risk of incident acute myocardial infarction and stroke: findings from matched cohort study of 18 million European adults BMJ 2019 Oct 8;367:l5367. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【目的】非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)または非アルコール性脂肪肝炎(NASH)を有する成人における急性心筋梗塞(AMI)または脳卒中のリスクを推定する。【デザイン】マッチドコホート研究。 【設定】欧州4カ国の2015年12月31日までの人口ベース、電子プライマリヘルスケアデータベース。イタリア(n=1 542 672)、オランダ(n=2 225 925)、スペイン(n=5 488 397)、英国(n=12 695 046) 【参加者】NAFLDまたはNASHの診断記録があり、他の肝臓疾患がない成人120 795名を、NAFLD診断時(指標日)に年齢、性別、診療施設、診断日の前後6カ月に記録した訪問先、同じデータベースでNAFLDまたはNASHを持たない最大100人の患者と照合した。 【MAIN OUTCOME MEASURES】主要アウトカムは、致死性または非致死性AMIおよび虚血性または特定不能の脳卒中の発症とした。ハザード比はCoxモデルを用いて推定し,ランダム効果メタ解析によりデータベース間でプールした。 【結果】NAFLDまたはNASHの診断が記録されている患者120 795人が同定され,平均追跡期間は2.1~5.5年であった。年齢と喫煙を調整した後のAMIのプールハザード比は1.17(95%信頼区間1.05~1.30,NAFLDまたはNASH患者1035イベント,マッチドコントロール患者67 823)であった。危険因子に関するデータがより完全なグループ(86 098人のNAFLDと4 664 988人のマッチドコントロール)では、収縮期血圧、2型糖尿病、総コレステロール値、スタチン使用、高血圧を調整後のAMIのハザード比は1.01(0.91から1.12;NAFLDまたはNASHの参加者で747イベント、マットコントロールで37 462)であった。年齢と喫煙の有無で調整した後の脳卒中のプールハザード比は1.18(1.11~1.24;NAFLDまたはNASH患者2187イベント、マッチドコントロール134001)であった。危険因子に関するデータがより完全なグループでは,2型糖尿病,収縮期血圧,総コレステロール値,スタチン使用,高血圧をさらに調整すると,脳卒中のハザード比は1.04(0.99~1.09;NAFLD患者1666イベント,マッチドコントロール83 882)だった。 【結論】1770万の患者の現在の日常診療におけるNAFLDとの診断は,既存の心血管危険因子を調整してもAMIや脳卒中のリスクと関連がないようである.NAFLDと診断された成人の心血管リスク評価は重要であるが、一般集団と同じ方法で行う必要がある。 第一人者の医師による解説 膨大なデータベースから得られた重要な結果 さらなる慎重な検証を 今 一義 順天堂大学医学部消化器内科准教授 MMJ.August 2020;16(4) 非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)は進行性の非アルコール性脂肪肝炎(NASH)に非進行性の脂肪肝も含めた、より幅広い疾患概念である。近年、NAFLD/NASHが肝関連死だけでなく動脈硬化進展の独立した危険因子であることが示され、さらにNASHの病期と動脈硬化の進展が相関すると報告され注目された(1)。 その後もNAFLD/NASHが冠動脈疾患の重症度、さらには脳梗塞の発症とも関連することを示した研究が報告されている。しかしながら、NAFLD/NASH自体が肥満および糖尿病・脂質異常症・高血圧といったメタボリックシンドローム関連疾患を背景に生じ、心血管イベントのリスクと多数の交絡因子があるため、肝病態が直接心血管イベントに関与していることを確実に示すことは困難であった。 本研究では欧州の4カ国(イタリア、オランダ、スペイン、英国)の医療管理データベースから12万795 人のNAFLD患者を抽出し、非NAFLDの対照群と観察期間中の致死的・非致死的急性心筋梗塞(AMI)および脳梗塞の発症の有無を比較してオッズ比を算出した。さらに多数の交絡因子で調整した上でハザード比がどのように変化するか検証した。 その結果、年齢、性別、喫煙を調整した場合、NAFLD患者のAMI発症のハザード比は1.17(95%CI, 1.05~1.30)で、収縮期血圧、2型糖尿病、総コレステロール値、スタチン使用および高血圧で調整すると1.01(0.91~1.12)とさらに低下した。脳梗塞に関しても年齢、性別、喫煙で調整するとハザード比1.18(95% CI, 1.11~1.24)で、2型糖尿病、収縮期血圧、総コレステロール値、スタチン使用および高血圧で調整すると1.04(0 .99~ 1.09)とさらに減衰した。よって、NAFLDの診断はAMIおよび脳梗塞の有意な危険因子とは言えないと結論付けた。 本研究の結果は膨大なデータベースから得られた重要なもので、多数の交絡因子を除外していることは本研究の強みである。しかし、年齢、性別、喫煙因子を調整した時点ですでにハザード比が従来の報告と比べて低値であったことを考えなくてはならない。本コホートのNAFLDの有病率は患者総数の2%未満と従来の報告からみても極めて低く、かつ飲酒の有無はアルコール関連疾患の鑑別に基づいており、対照群の妥当性に疑問が残る。また、NASHの病期については検証できていない。NAFLD/NASHと心血管イベントの関連は、今後さらに慎重に検証していくべき課題と考えられる。 1. Targher G et al. N Engl J Med. 2010;Sep 30,363(14):1341-1350.
乳製品摂取と女性および男性の死亡リスクとの関連:3つの前向きコホート研究。
乳製品摂取と女性および男性の死亡リスクとの関連:3つの前向きコホート研究。
Associations of dairy intake with risk of mortality in women and men: three prospective cohort studies BMJ 2019 Nov 27;367:l6204. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【目的】乳製品の消費と女性および男性の総死亡および原因別死亡のリスクとの関連を検討する。 【デザイン】食生活とライフスタイルの要因を繰り返し測定する3つの前向きコホート研究。 【主要評価項目】州のバイタルレコード、全国死亡インデックス、または家族や郵便システムから報告された死亡を確認した。最大32年間の追跡期間中に、51,438名の死亡が記録され、そのうち12,143名が心血管疾患による死亡、15,120名が癌による死亡であった。多変量解析では、心血管疾患およびがんの家族歴、身体活動、全体的な食事パターン(alternate healthy eating index 2010)、総エネルギー摂取量、喫煙状況、アルコール摂取量、更年期障害の有無(女性のみ)、閉経後のホルモン使用(女性のみ)をさらに調整した。乳製品の総摂取量が最も少ないカテゴリー(平均0.8皿/日)と比較して、総死亡率の多変量プールハザード比は、乳製品の摂取量が2番目のカテゴリー(平均1.5皿/日)で0.98(95%信頼区間0.96~1.01)、1.00(0.97~1.03)であった。1.00(0.97~1.03)、3位(平均2.0皿/日)、4位(平均2.8皿/日)では1.02(0.99~1.05)、最高カテゴリー(平均4.2皿/日)では1.07(1.04~1.10)であった(P for trend <0.001)。乳製品の総消費量が最も多いカテゴリーと最も少ないカテゴリーを比較すると、心血管死亡率のハザード比は1.02(0.95~1.08)、がん死亡率は1.05(0.99~1.11)であった。乳製品のサブタイプでは、全乳の摂取は、総死亡(0.5食/日追加あたりのハザード比1.11、1.09~1.14)、心血管死亡(1.09、1.03~1.15)、がん死亡(1.11、1.06~1.17)のリスクを有意に高めた。食品代替分析では、乳製品の代わりにナッツ類、豆類、全粒穀物を摂取すると死亡率が低くなり、乳製品の代わりに赤身肉や加工肉を摂取すると死亡率が高くなった。 【結論】大規模コホートから得られたこれらのデータは、乳製品の総摂取量の多さと死亡リスクとの間に逆相関があることを支持していない。乳製品の健康効果は、乳製品の代わりに使用される比較食品に依存する可能性がある。わずかに高いがん死亡率は、乳製品の消費と有意ではなかったが、さらなる調査が必要である。 第一人者の医師による解説 日本では牛乳摂取が多いと全死亡リスクは低下 欧米との相違は検討課題 於 タオ1)、小熊 祐子2)1)慶應義塾大学大学院健康マネジメント研究科、2)慶應義塾大学スポーツ医学研究センター・大学院健康マネジメント研究科准教授 MMJ.June 2020;16(3) 乳製品は蛋白質をはじめ、各種微量栄養素の摂取 源として重要である一方で、飽和脂肪酸やコレステロールの含有量が多く、健康への悪影響も懸念される。乳製品の摂取は高血圧、2型糖尿病、循環器 疾患などの発症と負の関連が報告されているが、 前立腺がん(男性)、卵巣がん(女性)とは正の関連が報告されている。また、死亡率については前向き観察研究が実施されているものの、結果は一貫しない。 本研究は乳製品摂取と全死亡率および原因別死 亡率との関連を明らかにするため、米国で白人医 療職を対象に行われた3つの大規模コホート研究 (Nurses’Health Study, Nurses’Health Study II, Health Professionals Follow-up Study)のうち、登録時の心血管疾患患者・がん患者を除外した 217,755人(男性:49,602人、女性:168,153 人)を対象とした。乳製品の摂取は食品頻度調査票 (FFQ)で推定し、死亡は戸籍、国民死亡記録で追跡し、家族または郵便制度による報告で補完した。 最長32年間の追跡期間中、心血管死12,143人、 がん死15,120人を含む51,438人の死亡が確認された。全死亡のハザード比は、乳製品総摂取量の五分位数で摂取量が最も少ない群 Q1(平均0.8 SV# /日)と比較し、Q2(平均1.5 SV/日)で0.98、 Q3(平均2.0 SV/日)で1.00、Q4(平均2.8 SV/日)で1.02、Q5(平均4.2 SV/日)で1.07であり、 非線形関係であるが、乳製品総摂取量が多くなると死亡リスクが有意に上昇した。がん死亡リスクでもほぼ同じ傾向が確認された。 乳製品の種類別にみると、全乳の摂取増加は全死亡リスク、心血管疾 患死、がん死のリスク上昇と有意に関連した。低脂 肪乳は全死亡リスクのみと有意に関連し(ハザード 比 , 1.01;P<0.001)チーズはいずれとも関連していなかった。さらに、乳製品の摂取をナッツ類、 豆類あるいは全粒穀類の摂取に置き換えた場合は 死亡リスクが低下し、一方、赤身肉・加工食肉に置き換えた場合は死亡リスクが上昇した。 本研究は対象者に起因する測定誤差や慢性疾患による生活習慣の変化に起因する因果の逆転の可能性を反復測定値を用いることなどで最小限に抑えている。また、サンプルサイズが大きく解析力は十分であり、研究の質は担保されている。日本では牛乳の摂取が多いと全死亡リスクが低くなることが大規模コホート研究から報告されている(1)。欧米人と摂取量自体も異なるため、この相違をどう捉えるか、引き続き、検討すべき重要な課題の1つである。 ※ SV(serving)は食品の摂取量を示す単位。本研究の定義では、無脂肪牛 乳、低脂肪牛乳あるいは全乳は 240mL、クリームは 6g、シャーベット、 フローズンヨーグルト、アイスクリーム、カッテージチーズ・リコッタチーズは 120mL、クリームチーズ・その他チーズについては 30mL を 1SV と している。 1. Wang C. et al. J Epidemiol. 2015;25(1):66-73
/ 36