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非アルコール性脂肪性肝疾患と急性心筋梗塞および脳卒中の発症リスク:ヨーロッパの成人1800万人のマッチドコホート研究からの所見。
非アルコール性脂肪性肝疾患と急性心筋梗塞および脳卒中の発症リスク:ヨーロッパの成人1800万人のマッチドコホート研究からの所見。
Non-alcoholic fatty liver disease and risk of incident acute myocardial infarction and stroke: findings from matched cohort study of 18 million European adults BMJ 2019 Oct 8;367:l5367. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【目的】非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)または非アルコール性脂肪肝炎(NASH)を有する成人における急性心筋梗塞(AMI)または脳卒中のリスクを推定する。【デザイン】マッチドコホート研究。 【設定】欧州4カ国の2015年12月31日までの人口ベース、電子プライマリヘルスケアデータベース。イタリア(n=1 542 672)、オランダ(n=2 225 925)、スペイン(n=5 488 397)、英国(n=12 695 046) 【参加者】NAFLDまたはNASHの診断記録があり、他の肝臓疾患がない成人120 795名を、NAFLD診断時(指標日)に年齢、性別、診療施設、診断日の前後6カ月に記録した訪問先、同じデータベースでNAFLDまたはNASHを持たない最大100人の患者と照合した。 【MAIN OUTCOME MEASURES】主要アウトカムは、致死性または非致死性AMIおよび虚血性または特定不能の脳卒中の発症とした。ハザード比はCoxモデルを用いて推定し,ランダム効果メタ解析によりデータベース間でプールした。 【結果】NAFLDまたはNASHの診断が記録されている患者120 795人が同定され,平均追跡期間は2.1~5.5年であった。年齢と喫煙を調整した後のAMIのプールハザード比は1.17(95%信頼区間1.05~1.30,NAFLDまたはNASH患者1035イベント,マッチドコントロール患者67 823)であった。危険因子に関するデータがより完全なグループ(86 098人のNAFLDと4 664 988人のマッチドコントロール)では、収縮期血圧、2型糖尿病、総コレステロール値、スタチン使用、高血圧を調整後のAMIのハザード比は1.01(0.91から1.12;NAFLDまたはNASHの参加者で747イベント、マットコントロールで37 462)であった。年齢と喫煙の有無で調整した後の脳卒中のプールハザード比は1.18(1.11~1.24;NAFLDまたはNASH患者2187イベント、マッチドコントロール134001)であった。危険因子に関するデータがより完全なグループでは,2型糖尿病,収縮期血圧,総コレステロール値,スタチン使用,高血圧をさらに調整すると,脳卒中のハザード比は1.04(0.99~1.09;NAFLD患者1666イベント,マッチドコントロール83 882)だった。 【結論】1770万の患者の現在の日常診療におけるNAFLDとの診断は,既存の心血管危険因子を調整してもAMIや脳卒中のリスクと関連がないようである.NAFLDと診断された成人の心血管リスク評価は重要であるが、一般集団と同じ方法で行う必要がある。 第一人者の医師による解説 膨大なデータベースから得られた重要な結果 さらなる慎重な検証を 今 一義 順天堂大学医学部消化器内科准教授 MMJ.August 2020;16(4) 非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)は進行性の非アルコール性脂肪肝炎(NASH)に非進行性の脂肪肝も含めた、より幅広い疾患概念である。近年、NAFLD/NASHが肝関連死だけでなく動脈硬化進展の独立した危険因子であることが示され、さらにNASHの病期と動脈硬化の進展が相関すると報告され注目された(1)。 その後もNAFLD/NASHが冠動脈疾患の重症度、さらには脳梗塞の発症とも関連することを示した研究が報告されている。しかしながら、NAFLD/NASH自体が肥満および糖尿病・脂質異常症・高血圧といったメタボリックシンドローム関連疾患を背景に生じ、心血管イベントのリスクと多数の交絡因子があるため、肝病態が直接心血管イベントに関与していることを確実に示すことは困難であった。 本研究では欧州の4カ国(イタリア、オランダ、スペイン、英国)の医療管理データベースから12万795 人のNAFLD患者を抽出し、非NAFLDの対照群と観察期間中の致死的・非致死的急性心筋梗塞(AMI)および脳梗塞の発症の有無を比較してオッズ比を算出した。さらに多数の交絡因子で調整した上でハザード比がどのように変化するか検証した。 その結果、年齢、性別、喫煙を調整した場合、NAFLD患者のAMI発症のハザード比は1.17(95%CI, 1.05~1.30)で、収縮期血圧、2型糖尿病、総コレステロール値、スタチン使用および高血圧で調整すると1.01(0.91~1.12)とさらに低下した。脳梗塞に関しても年齢、性別、喫煙で調整するとハザード比1.18(95% CI, 1.11~1.24)で、2型糖尿病、収縮期血圧、総コレステロール値、スタチン使用および高血圧で調整すると1.04(0 .99~ 1.09)とさらに減衰した。よって、NAFLDの診断はAMIおよび脳梗塞の有意な危険因子とは言えないと結論付けた。 本研究の結果は膨大なデータベースから得られた重要なもので、多数の交絡因子を除外していることは本研究の強みである。しかし、年齢、性別、喫煙因子を調整した時点ですでにハザード比が従来の報告と比べて低値であったことを考えなくてはならない。本コホートのNAFLDの有病率は患者総数の2%未満と従来の報告からみても極めて低く、かつ飲酒の有無はアルコール関連疾患の鑑別に基づいており、対照群の妥当性に疑問が残る。また、NASHの病期については検証できていない。NAFLD/NASHと心血管イベントの関連は、今後さらに慎重に検証していくべき課題と考えられる。 1. Targher G et al. N Engl J Med. 2010;Sep 30,363(14):1341-1350.
非アルコール性脂肪肝炎の治療薬としてのオベチコール酸:多施設共同無作為化プラセボ対照第3相試験の中間解析。
非アルコール性脂肪肝炎の治療薬としてのオベチコール酸:多施設共同無作為化プラセボ対照第3相試験の中間解析。
Obeticholic acid for the treatment of non-alcoholic steatohepatitis: interim analysis from a multicentre, randomised, placebo-controlled phase 3 trial Lancet 2019 Dec 14;394(10215):2184-2196. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】 非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)は、肝硬変に至ることもある一般的な慢性肝疾患の一種である。ファルネソイドX受容体アゴニストであるオベチコール酸は、NASHの組織学的特徴を改善することが示されている。ここでは、NASHに対するオベチコール酸の進行中の第3相試験の予定された中間解析の結果を報告する。 【方法】この多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照試験では、明確なNASH、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)活性スコアが4以上、線維化ステージF2-F3、または少なくとも1つの合併症を伴うF1の成人患者を、対話的ウェブ応答システムを用いて1:1:1で、プラセボ、オベチコール酸10mg、オベチコール酸25mgを毎日内服するようランダムに割り当てた。肝硬変、他の慢性肝疾患、高アルコール摂取、または交絡条件が存在する患者は除外された。18ヶ月目の中間解析における主要評価項目は、NASHの悪化を伴わない線維化の改善(1ステージ以上)、または線維化の悪化を伴わないNASHの消失とし、いずれかの主要評価項目を満たした場合に試験成功したと判断されました。主要解析は、線維化ステージF2-F3の患者様で、少なくとも1回の治療を受け、事前に指定された中間解析のカットオフ日までに18ヵ月目の診察に到達した、または到達する見込みの患者様を対象に、intention to treatで実施されました。また、本試験では、NASHおよび線維化の他の組織学的および生化学的マーカー、ならびに安全性についても評価しました。本試験は、ClinicalTrials. gov、NCT02548351、EudraCT、20150-025601-6に登録され、進行中である。 【所見】2015年12月9日から2018年10月26日の間に、線維化ステージF1~F3の患者1968名が登録され、少なくとも1回の試験治療を受け、線維化ステージF2~F3の患者931名が主要解析に含まれた(プラセボ群311名、オベチコール酸10mg群312名、オベチコール酸25mg群308名)。線維化改善エンドポイントは、プラセボ群37名(12%)、オベチコール酸10mg群55名(18%)、オベチコール酸25mg群71名(23%)が達成した(p=0-0002)。NASH消失のエンドポイントは達成されなかった(プラセボ群25例[8%]、オベチコール酸10mg群35例[11%][p=0-18]、オベチコール酸25mg群36例[12%][p=0-13])。安全性集団(線維化ステージF1~F3の患者1968名)において、最も多く見られた有害事象はそう痒症(プラセボ群123例[19%]、オベチコール酸10mg群183例[28%]、オベチコール酸25mg群336例[51%])で、発現頻度は概ね軽度から中等度であり、重症度は低かったです。全体的な安全性プロファイルはこれまでの試験と同様であり、重篤な有害事象の発生率は治療群間で同様でした(プラセボ群75例[11%]、オベチコール酸10mg群72例[11%]、オベチコール酸25mg群93例[14%])。 【解釈】オベチコール酸25mgはNASH患者の線維化およびNASH疾患活性の主要成分を著しく改善させました。この予定された中間解析の結果は、臨床的に有意な組織学的改善を示しており、臨床的有用性を予測する合理的な可能性を持っています。本試験は臨床転帰を評価するために継続中である。 第一人者の医師による解説 脂肪肝炎の組織学的治癒の改善は達成せず 搔痒による忍容性の懸念も 中島 淳 横浜市立大学大学院医学研究科肝胆膵消化器病学教室主任教授 MMJ.August 2020;16(4) 非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)は飲酒習慣のない脂肪肝で、日本でも食生活の欧米化に伴い2000 万人以上の患者がいる。NAFLDの約25%は慢性進行性の肝炎である非アルコール性脂肪肝炎(NASH)になり、その後肝硬変や肝がんに進展する。また、欧米の調査ではNAFLDの死因トップは心血管イベントである。NASHに適応のある薬剤は世界的にまだ1つもなく、多くの開発治験がなされてきたがそのハードルは高い。最近では線維化抑制薬セロンセルチブの第3 相国際臨床試験が日本も含めて行われたが主要評価項目の達成に至らなかった。 本論文は、肝臓の核内受容体FXRの作動薬であるオベチコール酸のNASHに対する有用性を評価するために、20カ国332施設で実施された無作為化プラセボ対照第3相試験(REGENERATE)の中間解析結果の報告である。REGENERATE試験では、線維化ステージ1 ~ 3のNASH患者1,968人をプラセボ群、オベチコール酸10 mg群、25 mg群に無作為化し、1年半の投与後に肝生検が行われ評価された。 その結果、2つの主要評価項目のうちの1つである脂肪肝炎の悪化なき線維化の1ステージの有意な組織学的改善を25mg群でのみ達成したが(プラセボ群12% 対 25mg群23%)、もう1つの主要評価項目である脂肪肝炎の組織学的治癒(NASH resolution)は達成しなかった。重篤な有害事象は認められなかった。 主要評価項目の1つを満たしたことから米国では本剤の承認申請が行われている。確かに米国では近々FDAがオベチコール酸の早期承認を行うと報道されているが、問題もある。まず一番の問題は対プラセボでの治療効果が非常に低いことである。線維化に対して10 mgは無効で、25mgでのみ有効であったが、そのレスポンダーは23%にとどまった。しかもNASHの病理学的治癒は達成されてない。このようなパワーでは果たして今後投与を継続して4年後にハードエンドポイントであるイベント低減を達成できるだろうか。 また、薬剤独自の有害事象として痒みとLDLコレステロールの上昇が懸念されている。前者は本試験の25mgにおいて軽症~重症の搔痒を51%に認めた(プラセボ群19%)ことから忍容性が心配であろう。LDLコレステロールの上昇は25mg 群で17%(プラセボ群7%)に認めたが、これは本疾患の欧米での死因トップが心血管イベントであることを考慮すると問題かもしれない。非常に残念なことは、日本においてオベチコール酸の開発は第2相試験までで中断され、今回のグローバル試験に日本は参加できなかった点であり、当分NASHの新薬は国内で承認されることはなさそうである。
Resmetirom(MGL-3196)の非アルコール性脂肪肝炎の治療:多施設、無作為、二重盲検、プラセボ対照、第2相試験。
Resmetirom(MGL-3196)の非アルコール性脂肪肝炎の治療:多施設、無作為、二重盲検、プラセボ対照、第2相試験。
Resmetirom (MGL-3196) for the treatment of non-alcoholic steatohepatitis: a multicentre, randomised, double-blind, placebo-controlled, phase 2 trial Lancet 2019 Nov 30;394(10213):2012-2024. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】 非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)は、肝脂肪沈着、炎症、肝細胞障害、進行性肝線維化を特徴とする。Resmetirom(MGL-3196)は、肝臓指向性、経口活性、選択的甲状腺ホルモン受容体βアゴニストで、肝脂肪代謝を増加させ、脂肪毒性を低下させることによりNASHを改善するよう設計されています。 【方法】MGL-3196-05は、米国内の25施設で36週間の無作為化二重盲検プラセボ対照試験が実施されました。生検でNASH(線維化ステージ1~3)が確認され、MRI-proton density fat fraction(MRI-PDFF)により評価したベースライン時の肝脂肪率が10%以上の成人が適格とされました。患者は、コンピュータベースのシステムにより、resmetirom 80 mgまたはマッチングプラセボを1日1回経口投与するよう2対1に無作為に割り付けられた。12週目と36週目に肝脂肪を連続測定し、36週目に2回目の肝生検を行った。主要評価項目は、ベースラインと12週目のMRI-PDFFを測定した患者において、12週目にプラセボと比較してMRI-PDFFで評価した肝脂肪の相対変化としました。本試験は ClinicalTrials. gov(NCT02912260) に登録されている。 【所見】米国内の18施設で348名の患者がスクリーニングされ、84名がレスメチロムに、41名がプラセボにランダムに割り付 けられた。12週目(レスメチロム:-32-9%、プラセボ:-10-4%、最小二乗平均差:-22-5%、95%CI:-32-9~-12-2、p<0-0001)および36週目(レスメチロム:-37-3%、プラセボ:-8-5、34:-8%、42-0~-15-7、p<0-0001)においてプラセボ:78名と比較して肝臓脂肪の相対低下が認められ、レスメトロム:74名およびプラセボ:38名では肝臓脂肪が低下していました。有害事象は、ほとんどが軽度または中等度であり、レスメチロムで一過性の軽い下痢と吐き気の発生率が高かったことを除いて、群間でバランスがとれていた。 【解釈】レスメチロム投与により、NASH患者において12週間および36週間の投与後に肝脂肪の有意な減少が認められた。レスメチロムのさらなる研究により、組織学的効果と非侵襲的マーカーや画像診断の変化との関連を記録する可能性があり、より多くのNASH患者におけるレスメチロムの安全性と有効性を評価することができます。 【資金提供】マドリガル・ファーマスーティカルズ 第一人者の医師による解説 開発進むNASH治療薬 線維化改善作用に関しては進行中の第3相試験で検証 中原 隆志(診療准教授)/茶山 一彰(教授) 広島大学大学院医系科学研究科消化器・代謝内科学 MMJ.August 2020;16(4) 現在、世界的に非アルコール性脂肪肝炎(nonalcoholicsteatohepatitis;NASH)が急増し、社会問題化している。NASHの多くはメタボリック症候群を背景に発症するが、さまざまなホルモン分泌異常も病態に関与する(1) 。健常人と比較し、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)では甲状腺機能低下症が有意に多く(21% 対 10%)(2) 、さらにNASHではNAFLDよりも甲状腺機能低下症が高頻度にみられる(3)。 本論文は、肝細胞に高発現する甲状腺ホルモン受容体β(THR-β)に対する特異的アゴニストであるレスメチロム(resmetirom)の有効性と安全性の評価を目的に、米国25施設で実施された無作為化プラセボ対照第2 相試験の報告である。対象はベースライン時の肝脂肪率が10%以上のNASH患者125 人で、生検でNASH( 線維化:stage 1~ 3)が確認され、MRIプロトン密度脂肪画分測定法(MRI-PDFF)により肝臓に10%以上の脂肪化が認められた患者であった。患者はレスメチロム(80mg)もしくはプラセボを1日1回経口投与する群に2対1の比で無作為に割り付けられた。12週時と36週時に肝臓の脂肪が測定され、36週時には2回目の肝生検が実施された。 その結果、12、36週時の肝脂肪率のベースラインからの低下度はレスメチロム群の方がプラセボ群よりも大きく、両群間の最小二乗平均差は12週時で- 25 .5 %(P< 0 .0001)、36 週時で-28 .8%(P<0 .0001)であった。また、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)の低下、低比重リポ蛋白(LDL)コレステロール、中性脂肪(TG)、リポ蛋白の低下や線維化マーカーや肝細胞の風船化(ballooning)と相関するサイトケラチン(CK)-18の低下を認め、36週時のNAFLD活動性スコアの改善を認めた。忍容性も良好であった。有害事象の多くは軽度~中等度で、一過性の軽度下痢および悪心の発現率がレスメチロム群で高かった以外は2群間にほとんど差はなかった。 一方、NASHの予後は、肝脂肪化ではなく、肝線維化によって規定されることが明らかとなっている。本研究では直接的な線維化の評価がされておらず、また肝細胞におけるTHR-βの発現量も評価されていない。線維化改善作用に関しては現在進行中のstage F2 ~ F3の線維症を有するNASH患者を対象とした第3相試験(MAESTRO-NASH試験)で検証されることとなる。 1. Takahashi H. Nihon Rinsho. 2019;77: 884-888. 2. Pagadala MR et al. Dig Dis Sci. 2012;57(2):528-534. 3. Carulli L et al. Intern Emerg Med. 2013;8(4):297-305.
未病の消化不良に対する管理戦略の有効性:系統的レビューとネットワークメタ解析。
未病の消化不良に対する管理戦略の有効性:系統的レビューとネットワークメタ解析。
Effectiveness of management strategies for uninvestigated dyspepsia: systematic review and network meta-analysis BMJ 2019 Dec 11;367:l6483. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【目的】uninvestigated dyspepsiaに対する管理戦略の有効性を明らかにすること。 【デザイン】系統的レビューとネットワークメタ分析。 【データソース】言語制限なしで、開始時から2019年9月までのMedline, Embase, Embase Classic, the Cochrane Central Register of Controlled Trials, clinicaltrials. gov 。2001年から2019年までのConference proceedings。 [ELIGIBILITY CRITITERIA FOR SELECTING STUDIES]成人参加者(年齢18歳以上)における未調査の消化不良に対する管理戦略の有効性を評価した無作為化対照試験。対象となる戦略は、迅速な内視鏡検査、Helicobacter pyloriの検査と陽性者への内視鏡検査、H pyloriの検査と陽性者への除菌治療(「検査と治療」)、経験的酸抑制、または症状に基づいた管理であった。試験は、最終フォローアップ(12ヶ月以上)における症状状態の二値的評価を報告した。 【結果】レビューでは、成人被験者6162人を含む15の適格無作為化対照試験が特定された。データは、ランダム効果モデルを用いてプールされた。戦略はPスコアに従って順位付けされた。Pスコアとは、ある管理戦略が他の管理戦略よりも優れているという確信の程度を平均したもので、競合するすべての戦略に対して平均されたものである。「検査と治療」は第1位(症状残存の相対リスク0.89、95%信頼区間0.78~1.02、Pスコア0.79)、「迅速内視鏡検査」は第2位で、同様の成績(同 0.90 0.80~1.02 、Pスコア0.71)であった。しかし、どの戦略も "test and treat "よりも有意に低い効果を示さなかった。"test and treat "に割り当てられた参加者は、症状に基づいた管理(相対リスクv 症状に基づいた管理 0.60, 0.30~1.18) を除く他のすべての戦略よりも内視鏡検査を受ける確率が有意に低かった(相対リスクv 内視鏡検査の促進 0.23, 95%信頼区間 0.17~0.31, P score 0.98).管理に対する不満は、「検査と治療」(相対リスクv0.67、0.46~0.98)、および経験的酸抑制(相対リスクv0.58、0.37~0.91)よりも、迅速内視鏡検査(Pスコア0.95)のほうが有意に低かった。上部消化管癌の発生率は、すべての試験で低値であった。感度分析でも結果は安定しており、直接結果と間接結果の間の矛盾は最小限であった。個々の試験のバイアスリスクは高かった;実用的な試験デザインのため、盲検化は不可能であった。 【結論】「Test and treat」は、迅速内視鏡検査と同様のパフォーマンスを示し、他のどの戦略よりも優れていなかったが、第1位であった。「検査と治療」は、症状に基づく管理を除く他のすべてのアプローチよりも内視鏡検査を少なくすることにつながった。しかし、参加者は症状の管理戦略として迅速な内視鏡検査を好む傾向が見られた。[SYSTEMATIC REVIEW REGISTRATION]PROSPERO登録番号CRD42019132528。] 第一人者の医師による解説 理にかなうピロリ菌検査 内視鏡検査なしの実施は医療保険適用外に留意 近藤 隆(講師)/三輪 洋人(主任教授) 兵庫医科大学消化器内科学 MMJ.August 2020;16(4) 内視鏡検査未施行のディスペプシア症状のある患者で、警告症状・徴候のない場合、どのような治療戦略を選ぶべきかについて、臨床現場では判断に迷うことが多い。実際の治療戦略としては以下が挙げられる:(1)直ちに内視鏡検査を実施する(2)ピロリ菌検査を行い、陽性者に内視鏡検査を実施する(3)ピロリ菌検査を行い、陽性者に除菌治療を実施する(4)全症例に酸分泌抑制薬を投与する(5)ガイドラインの推奨もしくは医師の通常診療として、症状に応じた治療を実施する。 これまでに、個々の治療戦略同士を比較したランダム化対照試験(RCT)はいくつか実施されているが、どの戦略も効果は同程度であり、初期管理のアプローチ選択については意見が分かれているのが現状である。 本論文の系統的レビューでは、内視鏡検査未施行のディスペプシア患者に対する長期マネージメントとして、プライマリーケアレベルでどの戦略を行うのが良いかについて、ネットワークメタアナリシスの手法を用いて15件のRCT(ディスペプシア患者計6,162人)を対象に解析している。その結果、プライマリーケアレベルにおいて、ピロリ菌検査を行い陽性者に除菌治療を実施する治療戦略(3)が症状残存の相対リスクが最も低く(相対リスク, 0 .89;95% CI, 0 .78~1.02;P=0 .79)、さらに内視鏡検査の施行を有意に減らすことが判明した。 一方で、患者の満足に関しては、直ちに内視鏡検査を実施する治療戦略(1)が有意に高く、ディスペプシア患者は内視鏡検査を好む傾向にあるといえる。ただ、今回のメタアナリシスでは、ディスペプシア患者におけるがん発見率に関しては、上部消化管がんの割合は0.40%と低く、この結果からは少なくとも警告症状・徴候のないディスペプシア患者に対して、急いで内視鏡検査を実施する必要はないことを意味しており、費用対効果の観点からも同様のことが言えよう。 また、日本の「機能性消化管疾患診療ガイドライン2014̶機能性ディスペプシア(FD)」では、ピロリ菌除菌から6~12カ月経過後に症状が消失または改善している場合はH. pylori関連ディスペプシアとし、FDと異なる疾患と定義されている。したがって、まずピロリ菌の有無を調べる方法は、H.pylori関連ディスペプシアを除外し、本当のFD患者を選定するには理にかなった戦略と言えるだけでなく、将来に生じうる胃がんの予防的観点からも有用であると考える。 ただ、日本におけるディスペプシア症状に対するピロリ菌除菌の有効性は欧米よりは高いとはいえ10%程度と限定的であること、さらに内視鏡検査なしにピロリ菌検査を行う場合、医療保険が適用されないことに留意する必要がある。
乳製品摂取と女性および男性の死亡リスクとの関連:3つの前向きコホート研究。
乳製品摂取と女性および男性の死亡リスクとの関連:3つの前向きコホート研究。
Associations of dairy intake with risk of mortality in women and men: three prospective cohort studies BMJ 2019 Nov 27;367:l6204. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【目的】乳製品の消費と女性および男性の総死亡および原因別死亡のリスクとの関連を検討する。 【デザイン】食生活とライフスタイルの要因を繰り返し測定する3つの前向きコホート研究。 【主要評価項目】州のバイタルレコード、全国死亡インデックス、または家族や郵便システムから報告された死亡を確認した。最大32年間の追跡期間中に、51,438名の死亡が記録され、そのうち12,143名が心血管疾患による死亡、15,120名が癌による死亡であった。多変量解析では、心血管疾患およびがんの家族歴、身体活動、全体的な食事パターン(alternate healthy eating index 2010)、総エネルギー摂取量、喫煙状況、アルコール摂取量、更年期障害の有無(女性のみ)、閉経後のホルモン使用(女性のみ)をさらに調整した。乳製品の総摂取量が最も少ないカテゴリー(平均0.8皿/日)と比較して、総死亡率の多変量プールハザード比は、乳製品の摂取量が2番目のカテゴリー(平均1.5皿/日)で0.98(95%信頼区間0.96~1.01)、1.00(0.97~1.03)であった。1.00(0.97~1.03)、3位(平均2.0皿/日)、4位(平均2.8皿/日)では1.02(0.99~1.05)、最高カテゴリー(平均4.2皿/日)では1.07(1.04~1.10)であった(P for trend <0.001)。乳製品の総消費量が最も多いカテゴリーと最も少ないカテゴリーを比較すると、心血管死亡率のハザード比は1.02(0.95~1.08)、がん死亡率は1.05(0.99~1.11)であった。乳製品のサブタイプでは、全乳の摂取は、総死亡(0.5食/日追加あたりのハザード比1.11、1.09~1.14)、心血管死亡(1.09、1.03~1.15)、がん死亡(1.11、1.06~1.17)のリスクを有意に高めた。食品代替分析では、乳製品の代わりにナッツ類、豆類、全粒穀物を摂取すると死亡率が低くなり、乳製品の代わりに赤身肉や加工肉を摂取すると死亡率が高くなった。 【結論】大規模コホートから得られたこれらのデータは、乳製品の総摂取量の多さと死亡リスクとの間に逆相関があることを支持していない。乳製品の健康効果は、乳製品の代わりに使用される比較食品に依存する可能性がある。わずかに高いがん死亡率は、乳製品の消費と有意ではなかったが、さらなる調査が必要である。 第一人者の医師による解説 日本では牛乳摂取が多いと全死亡リスクは低下 欧米との相違は検討課題 於 タオ1)、小熊 祐子2)1)慶應義塾大学大学院健康マネジメント研究科、2)慶應義塾大学スポーツ医学研究センター・大学院健康マネジメント研究科准教授 MMJ.June 2020;16(3) 乳製品は蛋白質をはじめ、各種微量栄養素の摂取 源として重要である一方で、飽和脂肪酸やコレステロールの含有量が多く、健康への悪影響も懸念される。乳製品の摂取は高血圧、2型糖尿病、循環器 疾患などの発症と負の関連が報告されているが、 前立腺がん(男性)、卵巣がん(女性)とは正の関連が報告されている。また、死亡率については前向き観察研究が実施されているものの、結果は一貫しない。 本研究は乳製品摂取と全死亡率および原因別死 亡率との関連を明らかにするため、米国で白人医 療職を対象に行われた3つの大規模コホート研究 (Nurses’Health Study, Nurses’Health Study II, Health Professionals Follow-up Study)のうち、登録時の心血管疾患患者・がん患者を除外した 217,755人(男性:49,602人、女性:168,153 人)を対象とした。乳製品の摂取は食品頻度調査票 (FFQ)で推定し、死亡は戸籍、国民死亡記録で追跡し、家族または郵便制度による報告で補完した。 最長32年間の追跡期間中、心血管死12,143人、 がん死15,120人を含む51,438人の死亡が確認された。全死亡のハザード比は、乳製品総摂取量の五分位数で摂取量が最も少ない群 Q1(平均0.8 SV# /日)と比較し、Q2(平均1.5 SV/日)で0.98、 Q3(平均2.0 SV/日)で1.00、Q4(平均2.8 SV/日)で1.02、Q5(平均4.2 SV/日)で1.07であり、 非線形関係であるが、乳製品総摂取量が多くなると死亡リスクが有意に上昇した。がん死亡リスクでもほぼ同じ傾向が確認された。 乳製品の種類別にみると、全乳の摂取増加は全死亡リスク、心血管疾 患死、がん死のリスク上昇と有意に関連した。低脂 肪乳は全死亡リスクのみと有意に関連し(ハザード 比 , 1.01;P<0.001)チーズはいずれとも関連していなかった。さらに、乳製品の摂取をナッツ類、 豆類あるいは全粒穀類の摂取に置き換えた場合は 死亡リスクが低下し、一方、赤身肉・加工食肉に置き換えた場合は死亡リスクが上昇した。 本研究は対象者に起因する測定誤差や慢性疾患による生活習慣の変化に起因する因果の逆転の可能性を反復測定値を用いることなどで最小限に抑えている。また、サンプルサイズが大きく解析力は十分であり、研究の質は担保されている。日本では牛乳の摂取が多いと全死亡リスクが低くなることが大規模コホート研究から報告されている(1)。欧米人と摂取量自体も異なるため、この相違をどう捉えるか、引き続き、検討すべき重要な課題の1つである。 ※ SV(serving)は食品の摂取量を示す単位。本研究の定義では、無脂肪牛 乳、低脂肪牛乳あるいは全乳は 240mL、クリームは 6g、シャーベット、 フローズンヨーグルト、アイスクリーム、カッテージチーズ・リコッタチーズは 120mL、クリームチーズ・その他チーズについては 30mL を 1SV と している。 1. Wang C. et al. J Epidemiol. 2015;25(1):66-73
極早産児の死亡率および重度の脳障害と出生後の早期転院および三次病院外での出生との関連:傾向スコアマッチングを用いた観察的コホート研究。
極早産児の死亡率および重度の脳障害と出生後の早期転院および三次病院外での出生との関連:傾向スコアマッチングを用いた観察的コホート研究。
Association of early postnatal transfer and birth outside a tertiary hospital with mortality and severe brain injury in extremely preterm infants: observational cohort study with propensity score matching BMJ 2019 Oct 16;367:l5678. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【目的】産後の転院や非三次病院での出産が有害転帰と関連するかどうかを明らかにすること 【デザイン】傾向スコアマッチングによる観察コホート研究 【設定】イングランドの国民保健サービスの新生児医療;National Neonatal Research Databaseに保有される集団データ。 【参加者】2008年から2015年の間に妊娠週数28週未満で生まれた極早産児(n=17 577)を、出生病院と出生後48時間以内の転院に基づいて、上方転院(非三次病院から三次病院、n=2158)、非三次医療(非三次病院で出生、転院せず、n=2668)、対照(三次病院で出生、転院せず、n=10 866)グループに分類する。傾向スコアと事前に定義された背景変数で乳児をマッチングさせ、交絡因子の分布がほぼ同じサブグループを形成した。 【主要アウトカム評価項目】死亡、重度の脳損傷、および重度の脳損傷を伴わない生存率 【結果】2181人の乳児、各群(上方転院、非三次医療、および対照)から727人がよくマッチングされた。対照群と比較して,上方転院群の乳児は退院前の死亡のオッズに有意差はなかったが(オッズ比1.22,95%信頼区間0.92~1.61),重度の脳損傷のオッズが有意に高く(2.32, 1.78~3.06;Number needed to treat(NNT)8),重度の脳損傷がなく生存できるオッズは有意に低かかった(0.60, 0.47~0.76;NNT 9)。対照群と比較して,非三次医療群の乳児は死亡のオッズが有意に高かったが(1.34, 1.02~1.77; NNT 20),重度の脳損傷のオッズ(0.95, 0.70~1.30),重度の脳損傷なしの生存(0.82, 0.64~1.05) に有意差はなかった.上方転院群の乳児と比較して,非三次医療群の乳児は,退院前の死亡(1.10,0.84~1.44)に有意差はなかったが,重度の脳損傷のオッズ(0.41, 0.31~0.53,NNT 8)は有意に低く,重度の脳損傷を伴わない生存(1.37, 1.09~1.73, NNT 14)は有意に高いオッズであった.水平搬送群(n=305)と対照群(n=1525)の転帰に有意差は認められなかった。 【結論】極早産児において、三次病院以外での出産と48時間以内の搬送は、三次病院での出産と比較して、転帰不良と関連することが示された。周産期医療サービスでは、産後の転院よりも三次病院での極早産児の出産を促進する経路を推進することを推奨する。 第一人者の医師による解説 極早産児の予後改善 3次施設での出生が2次施設での出生より有利 海野 信也 北里大学医学部産科学教授 MMJ.June 2020;16(3) 英国の新生児医療を提供する施設は、妊娠28週未満で出生した児に対応可能な3次施設、28~32 週の児を担当する2次施設および32週以降の児を担当するspecial care unitに階層化されている。 一方、日本では周産期医療の基本コンセプトを「新生児搬送中心から母体搬送中心の体制への移行」の推進とし、高次産科医療と新生児医療を同一施設で 提供できる総合・地域周産期母子医療センターのネットワークを各地域に整備し、重症母体および新生児への医療提供を最適化することが中心になっている。英国のように明確な役割分担はなく、基本的に重症例は総合またはそれに準じた体制の施設で対応している。 本論文は、イングランドで2008~2015年に 出生した妊娠28週未満のすべての極早産児を対象とし、3次施設で出生しそのまま治療された群(3 次群)、2次施設で出生しそのまま治療された群(2 次群)、2次施設で出生し、その後48時間以内に3 次施設に搬送された群(新生児搬送群)の間で生命予後と神経学的予後を傾向スコアマッチング法で後ろ向きに比較した研究の報告である。その結果、極早産児において新生児搬送群の予後は3次群よりも不良であるため、母体搬送を推奨する、と結論している。この結論自体は日本の取り組みとも一致する。 しかし、結果の解釈にあたり若干の留保が必要である。まず、退院前死亡率は2次群の方が3次群より高いが、新生児搬送群と3次群に差はない。また重度脳障害の発生率は、新生児搬送群の方が3次群だけでなく2次群よりも高く、2次群と3次群に差はない。これらの結果は、2次施設で出生した極早産児において、その状態による臨床的対応の選択が行われている可能性を示唆している。2次施設で出生した児の状態がきわめて不良であれば搬 送は選択されず、その結果として2次群の死亡率が高くなるかもしれない。 一方、2次施設で出生直後の処置実施中に脳室内出血などの合併症が生じれば、2次施設での管理が困難となり3次施設に搬送されやすくなるであろう。新生児搬送群の予後が悪いのは搬送行為の結果というよりは原因であるのかもしれない。 しかし、2次施設出生群(2次群+新生児搬送群) に比べ、3次群の方が予後良好であると推察される こ と か ら(退院前死亡率:2次施設出生群25.3% 対 3次群21.0 %; 重度脳障害:2次施設出生群 20.5% 対 3次群14.0%;重度脳障害を伴わない 生存:2次施設出生群60.7% 対 3次群68.8%)、 本研究の結果は、3次施設で出生する方が2次施設 で出生するより極早産児の予後改善に有利だというエビデンスとなりうるものと考えられる。
発作性心房細動と高血圧を有する患者の心房細動の再発に対する腎除神経とカテーテルアブレーションの併用とカテーテルアブレーションのみの併用の効果。The ERADICATE-AF Randomized Clinical Trial.
発作性心房細動と高血圧を有する患者の心房細動の再発に対する腎除神経とカテーテルアブレーションの併用とカテーテルアブレーションのみの併用の効果。The ERADICATE-AF Randomized Clinical Trial.
Effect of Renal Denervation and Catheter Ablation vs Catheter Ablation Alone on Atrial Fibrillation Recurrence Among Patients With Paroxysmal Atrial Fibrillation and Hypertension: The ERADICATE-AF Randomized Clinical Trial JAMA 2020 Jan 21;323(3):248-255. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【重要】腎除神経は心臓の交感神経活動を低下させ、心房細動に対する抗不整脈効果をもたらす可能性がある。 【目的】肺静脈隔離術に腎除神経を追加することで、長期的な抗不整脈効果が高まるかどうかを検討する。 【デザイン、設定、参加者】Evaluate Renal Denervation in Addition to Catheter Ablation to Eliminate Atrial Fibrillation(ERADICATE-AF)試験は、ロシア連邦、ポーランド、ドイツの心房細動のカテーテルアブレーションを行う5つの紹介センターで行われた、研究者主導の多施設、単盲検、無作為化臨床試験である。2013年4月から2018年3月までに、少なくとも1種類の降圧薬を服用しているにもかかわらず高血圧で、発作性心房細動があり、アブレーションの予定がある患者302人が登録された。フォローアップは2019年3月に終了した。 【介入】患者を肺静脈隔離単独(n=148)または肺静脈隔離+腎除神経(n=154)に無作為に割り付けた。肺静脈の電位をすべて除去することをエンドポイントとした完全な肺静脈隔離と、灌流チップ付きアブレーションカテーテルを用いて、両腎動脈の遠位から近位までスパイラルパターンで個別の部位に高周波エネルギーを供給する腎除神経。 【主なアウトカムと評価】主要エンドポイントは、12ヵ月後の心房細動、心房粗動、または心房頻拍からの解放であった。 【結果】無作為化された302名の患者(年齢中央値60歳[四分位範囲55~65歳]、男性182名[60.3%])のうち、283名(93.7%)が試験を完了した。全員が指定された手術を無事に受けた。12ヵ月後の心房細動,粗動,頻脈の消失は,肺静脈隔離術のみを受けた148例中84例(56.5%)と,肺静脈隔離術と腎除神経術を受けた154例中111例(72.1%)に認められた(ハザード比,0.57;95%CI,0.38~0.85;P=0.006).事前に規定された5つの副次的エンドポイントのうち、4つが報告され、3つはグループ間で差がありました。ベースラインから12ヵ月後の平均収縮期血圧は,隔離のみの群では151 mm Hgから147 mm Hgに,腎除神経群では150 mm Hgから135 mm Hgに低下した(群間差:-13 mm Hg,95% CI,-15~-11 mm Hg,P < 0.001).手続き上の合併症は、隔離のみのグループで7人(4.7%)、腎除神経グループで7人(4.5%)に発生した。 【結論と関連性】発作性心房細動と高血圧を有する患者において、カテーテルアブレーションに腎除神経を追加した場合、カテーテルアブレーションのみの場合と比較して、12ヵ月後に心房細動が起こらない可能性が有意に増加した。本試験の結果を解釈する際には、正式なシャムコントロールの腎除神経術が行われていないことを考慮する必要がある。 【臨床試験登録】ClinicalTrials. gov Identifier:NCT01873352。 第一人者の医師による解説 交感神経活性の抑制 降圧とともに臨床的に有用と示した点に意義 藤田英雄 自治医科大学附属さいたま医療センター副センター長・総合医学第1講座主任教授 MMJ.June 2020;16(3) 発作性心房細動に対するカテーテルアブレーションによる肺静脈隔離の有効性は確立されているが、 10~30%の再発率があり改善の余地がある。交感神経活性を抑制する腎デナベーション治療(腎交 感神経除神経術)を加えることで有効性が向上するか否かを検証するため、多施設単盲検無作為化試験 「ERADICATE-AF」が研究者主導で実施され、その 成績が本論文に報告された。 本試験では、高血圧合併発作性心房細動患者302人をカテーテルアブレーション単独群(148人)と 併用群(154人)に無作為に割り付け、12カ月後の心房細動+心房粗動+心房頻拍 の 無再発 を 主要評価項目とした。 主要エンドポイントは単独群84人 (56.5%)、併用群111人(72.1%)で得られ(ハザー ド 比[HR], 0.57;95 % 信頼区間[CI], 0.38~ 0.85;P=0.006)、併用群で有意に無再発例が多く、さらに副次評価項目の1つである治療後の平 均収縮期血圧値の低下は、単独群では151mmHg (ベースライン)から147mmHgであったのに対し、 併用群 で は150mmHgか ら135mmHgへ と より大幅な低下が示された(群間差:-13mmHg; 95% CI,-15 ~-11mmHg;P<0.001)。手技関連合併症は、単独群7人(4.7%)、併用群7人 (4.5%)ですべてがアブレーションによるものであった。 これらの結果から著者らは、単独群にシャム手術を施行していない限界を考慮しつつも高血圧合併発作性心房細動患者に対し、カテーテルアブレーションは腎デナベーションの併用によって心房性不整脈の再発を有意に抑制できたと結論づけた。 今回の結果は、腎デナベーション併用治療の有効性を示唆し、その機序として交感神経活性の抑制 が降圧とともに臨床的に有用であることを示した点に意義がある。腎デナベーション治療はかつて 薬物治療抵抗性高血圧への非薬物療法としての期待を集めたが、2014年のSIMPLICITY-HTN3試験において有効性を示すことができなかった。 しかしながら、その後カテーテル開発競争の中で改良が進み、SPYRAL HTN-OFF MED Pivotal試験(1) では薬物投与なく有意な降圧効果が確認されるなど新たな治療法として復活しつつあり、現状ではその広い適応は医療経済的に困難であるとしても、 心房細動治療の今後の方向性を示す貴重な試験結 果といえよう。 1.Böhm M et al. Lancet. 2020 May 2;395(10234):1444-1451.
2型糖尿病患者の腎機能に対するビタミンDおよびオメガ3脂肪酸の補給の効果。無作為化臨床試験。
2型糖尿病患者の腎機能に対するビタミンDおよびオメガ3脂肪酸の補給の効果。無作為化臨床試験。
Effect of Vitamin D and Omega-3 Fatty Acid Supplementation on Kidney Function in Patients With Type 2 Diabetes: A Randomized Clinical Trial JAMA 2019 Nov 19;322(19):1899-1909. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【重要】慢性腎臓病は2型糖尿病の一般的な合併症であり、末期腎不全に至る可能性があり、高い心血管リスクと関連している。 【目的】ビタミンD3またはオメガ3脂肪酸の補給が2型糖尿病のCKDの発症または進行を予防するかどうかを検証する。 【デザイン・設定・参加者】マサチューセッツ州の単一施設がコーディネートしたVitamin D and Omega-3 Trial (VITAL)の補助研究として、2011年11月から2014年3月に米国全50州から募集した2型糖尿病の成人1312名を対象に、2×2階調デザインの無作為化臨床試験を実施した。フォローアップは2017年12月に終了した。 【介入】参加者は、ビタミンD3(2000 IU/d)とオメガ3脂肪酸(エイコサペンタエン酸とドコサヘキサエン酸;1 g/d)(n = 370)、ビタミンD3とプラセボ(n = 333)、プラセボとオメガ3脂肪酸(n = 289)、またはプラセボ2種(n = 320)を5年間投与する群に無作為に割り付けられた。 【結果】無作為化された1312名(平均年齢67.6歳、女性46%、人種的または民族的少数派31%)のうち、934名(71%)が試験を完了した。ベースラインの平均eGFRは85.8(SD、22.1)mL/min/1.73 m2だった。ベースラインから5年目までのeGFRの平均変化量は、ビタミンD3投与群で-12.3(95%CI、-13.4~-11.2)mL/min/1.73m2、プラセボ投与群で-13.1(95%CI、-14.2~-11.9)mL/min/1.73m2(差、0.9[95%CI、-0.7~2.5]mL/min/1.73m2)であった。eGFRの平均変化量は、オメガ3脂肪酸群で-12.2(95%CI,-13.3~-11.1)mL/min/1.73m2、プラセボ群で-13.1(95%CI,-14.2~-12.0)mL/min/1.73m2(差,0.9[95%CI,-0.7~2.6]mL/min/1.73m2)。2つの治療法の間に有意な相互作用はなかった。腎結石は58名(ビタミンD3投与群32名,プラセボ投与群26名),消化管出血は45名(オメガ3脂肪酸投与群28名,プラセボ投与群17名)に発生した。 【結論と関連性】成人の2型糖尿病患者において,ビタミンD3またはオメガ3脂肪酸を補給しても,プラセボと比較して,5年後のeGFRの変化に有意な差はなかった。今回の結果は、2型糖尿病患者の腎機能維持のためのビタミンDまたはオメガ3脂肪酸の補給の使用を支持するものではない。 【臨床試験登録】ClinicalTrials. gov Identifier:NCT01684722。 第一人者の医師による解説 ビタミン D、オメガ -3脂肪酸補充は2型糖尿病患者の腎機能改善効果なし 寺内 康夫 横浜市立大学医学群長(大学院医学研究科分子内分泌・糖尿病内科学教授) MMJ.June 2020;16(3) 日本では糖尿病の発症予防、合併症の発症・進展・重症化予防のためにさまざまな対策が講じられており、中でも糖尿病腎症による透析導入を減らす対策は国家的プロジェクトとして位置づけられている。糖尿病腎症に対する基本方針としては、生活 習慣改善、血糖・血圧・脂質・貧血の管理などとともに、腎不全を悪化させる脱水、薬剤、感染症を避けることが重要である。 腎機能が低下すると、血中のCa濃度およびP濃度が変化する。腎臓は徐々に血中のPを除去する能力を失い、Ca濃度を正常に保つのに十分な量のビタミン Dを活性化できなくなる。副甲状腺はこれらの変化を感知して副甲状腺ホルモン(PTH)の産生・放出を増大させ、Ca濃度を上昇させる。これらの代謝変化は骨代謝を変化させ、骨形成異常などが 認められる。こうした骨ミネラル代謝異常は血管 合併症を含む生命予後に影響する。 Kidney Disease /Impr o ving Global Outcomes(KDIGO)ガイド 2009(1)では、慢性腎臓病(CKD)G3~5期では、ビタミンD欠乏の有無チェックのため血中25(OH)D測定が望ましいとされ、25(OH)Dが20 ng/mL以下ではビタミンD欠乏症と判定し、天然型ビタミン D製剤や活性型ビタミン D製剤の投与が推奨された。しかし、「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018」(2) では、保存期 CKD患者において、活性型ビタミン D製剤はPTH値を低下させ、尿蛋白を抑える効果が期待されるため、投与を考慮してもよいが、腎機能予後、骨折、心血管イベント、生命予後への効果は明らかでなく、高 Ca血症の原因となることから、 適応は患者ごとに検討し、少量から慎重に開始することが望ましいと基本姿勢が変わってきた。 このように、糖尿病患者における2次性副甲状腺機能 亢進症に対し、活性型ビタミンD製剤の使用は生命予後を改善する可能性があるが、エビデンスは 十分とは言えない。 また、オメガ -3脂肪酸は心血管イベントのリスク軽減には重要かもしれないが、アルブミン尿増加、 糸球体濾過量(GFR)低下のリスクが報告されている。 こうした状況を踏まえ、本論文の著者らは、ビタミン D製剤かつまたはオメガ -3脂肪酸を2型糖尿病患者1,312人に5年間投与した際の腎機能への影響を検討するVITAL試験を実施した。結論としては、ビタミン D製剤、オメガ -3脂肪酸のいずれも腎機能を改善しなかった。ビタミンD欠乏状態にある患者は15%程度と少数であったことが本研究の結論に影響している可能性があり、骨折、心血管イベント、生命予後を検証するランダム化対照試験も待たれる。 1. KDIGO CKD-MBD Work Group. Kidney Int Suppl. 2009 Aug;(113):S1-130. 2. 「エビデンスに基づく CKD 診療ガイドライン 2018」(日本腎臓学会)
男性における血友病の有病率および出生時有病率の確立。全国登録によるメタ分析的アプローチ。
男性における血友病の有病率および出生時有病率の確立。全国登録によるメタ分析的アプローチ。
Establishing the Prevalence and Prevalence at Birth of Hemophilia in Males: A Meta-analytic Approach Using National Registries Ann Intern Med 2019 Oct 15;171(8):540-546. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】血友病の有病率には大きなばらつきが観察され、疾病負担の確実な推定を妨げている。 【目的】血友病の有病率と出生時の有病率、および関連する寿命の不利益を推定する。 【デザイン】登録データのランダム効果メタ分析。 【設定】オーストラリア、カナダ、フランス、イタリア、ニュージーランド、イギリス。【参加】男性血友病AまたはB患者。 【測定】男性人口に対する症例の割合としての血友病有病率、出生年別の男性出生児に対する症例の割合としての出生時血友病有病率、有病率と出生時有病率の1-比率としての余命の不利益、高所得国での有病率と出生時有病率に基づく世界の予想患者数。 【結果】有病率は(男性10万対)17.1であった。出生時有病率(男性10万人当たり)は、全重症度血友病A24.6例、重症度血友病A9.5例、全重症度血友病B5.0例、重症度血友病B1.5例であり、血友病A・重症度血友病A・重症度血友病B・重症度血友病Bは、それぞれ1例、1例で、血友病Aは1例である。高所得国の平均寿命の不利は、血友病Aで30%、重症血友病Aで37%、血友病Bで24%、重症血友病Bで27%。世界の血友病患者の予想数は1 125 000、そのうち重症血友病は418 000と考えられる。 【限定】併存疾患や民族の調整には詳細は不十分だった。 【結論】血友病の流行はこれまでの推定より高い。血友病患者は依然として余命のハンディがある。出生時の有病率を確立することは、失われた生命年数、障害のある生命年数、疾病負担を評価するためのマイルストーンとなる。【Primary funding source】なし。 第一人者の医師による解説 発展途上国には未診断患者が多数 公平なリソース普及の基盤となる成果 森 美佳1)、瀧 正志2) 1)聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院小児科助教、2)聖マリアンナ医科大学小児科学特任教授 MMJ.June 2020;16(3) 血友病は、凝固第 VIII因子または第 IX因子の遺伝子変異により先天的に凝固因子が欠乏し、止血困難をきたす疾患である。治療の進歩により、凝固因子製剤や新規治療薬を用いて出血を制御できるようになったが、発展途上国では、治療のみならず血友病の診断でさえも国家の医療制度の限界を超えている。世界的な血友病の疾病負担の推定には、正確な有病率の情報が必要だが、従来の報告は均一性に乏しい。 本研究では、世界血友病連盟(WFH)のデータおよび口統計委員会が、先進6カ国(オーストラリア、カナダ、フランス、イタリア、ニュージーランド、英国)の全国患者レジストリを用いて、男性の血友病 AおよびBの有病率を、3カ国(カナダ、フランス、英国)のレジストリより出生時有病率および余命損失率(1-有病率 /出生時有病率 )をランダム効果メタ解析で推算している。 その結果、男性10万人あたりの有病率は、血友病 Aの全重症度で17.1、重症で6.0、血友病 Bの全重症度で3.8、重症で1.1であった。出生時の有病率は、それぞれ24.6、9.5、5.0、1.5であった。全重症度の有病率は各国間で不均一性を認めたが、 重症の血友病 AまたはBに限ると各国間で有意な不均一性は認めなかった。得られた有病率を世界の男性人口38億人に適用すると、血友病患者数は 112.5万人、そのうち重度患者数は41.8万人と 推定された。また余命損失率は血友病 Aの全重症度で30%、重症で37%、血友病 Bの全重症度で 24%、重症で27%であった。 有病率は、疾病負担の推定に必要な基本情報であるとともに、各国の診断能力、患者登録の報告効率や有効性、経済能力が反映されうる。WFHの既報では世界の血友病患者は推定47.5万人であったが(1)、本研究の先進国の有病率をもとに推定された世界の血友病患者数は、この報告よりも大幅に多く、 発展途上国では未診断の患者や適切な治療を受けられていない患者が多数いると推測される。また余命損失率の結果より、先進国でも依然として血友病患者の平均余命が悪いことが明らかとなった。 本研究には、B型肝炎ウイルス(HBV)、C型肝炎ウイルス(HCV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症などの合併症や民族性を考慮した調整が不十分という限界はあるが、長期間にわたる全国患者登録データを使用した信頼性の高い有病率および出生時有病率の報告である。今回の結果は、世界的な血友病の疾病負担の推測に向けた非常に重要なマイルストーンであり、治療の適切さの指標および公平なリソースの普及のための基盤となりうるだろう。 1.Pierce GF et al. Haemophilia. 2018;24(2):229-235.
Irbesartan in Marfan syndrome(AIMS):二重盲検プラセボ対照無作為化試験。
Irbesartan in Marfan syndrome(AIMS):二重盲検プラセボ対照無作為化試験。
Irbesartan in Marfan syndrome (AIMS): a double-blind, placebo-controlled randomised trial Lancet 2019 Dec 21;394(10216):2263-2270. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】マルファン症候群において、長時間作用型の選択的アンジオテンシン-1受容体阻害薬であるイルベサルタンが、解離や破裂と関連する大動脈の拡張を抑制する可能性がある。我々は、マルファン症候群の小児および成人における大動脈拡張率に対するイルベサルタンの効果を明らかにすることを目的とした。 【方法】英国の22施設で、プラセボ対照二重盲検無作為化試験を行った。臨床的にマルファン症候群と確認された6~40歳の個人を含めることができた。試験参加者は全員、イルベサルタン75mgを1日1回オープンラベルで投与され、その後、イルベサルタン150mg(忍容性により300mgまで増量)またはマッチングプラセボに無作為に割り付けられた。大動脈径は、ベースラインとその後1年ごとに心エコーで測定された。すべての画像は治療割り付けを盲検化したコアラボで解析された。主要エンドポイントは大動脈基部拡張の割合であった。本試験はISRCTNに登録されており、番号はISRCTN90011794である。 【所見】2012年3月14日から2015年5月1日の間に、192名の参加者を募集し、イルベサルタン(n=104)またはプラセボ(n=88)にランダムに割り当て、全員が最長5年間追跡調査された。募集時の年齢中央値は18歳(IQR12~28)、99人(52%)が女性、平均血圧は110/65mmHg(SD16、12)、108人(56%)がβブロッカーを服用中であった。ベースラインの平均大動脈基部径はイルベサルタン群(SD 5-8)、プラセボ群(5-5)で34-4mmであった。大動脈基部拡張率の平均はイルベサルタン群0-53mm/年(95%CI 0-39~0-67)、プラセボ群0-74mm/年(0-60~0-89)、平均値の差は-0-22mm/年(-0-41~-0-02、p=0-030)であった。大動脈Zスコアの変化率もイルベサルタンによって減少した(平均値の差-0-10/年、95%CI -0-19 to -0-01、p=0-035)。イルベサルタンは、重篤な有害事象の発生率に差は認められず、良好な忍容性を示した。 【解釈】イルベサルタンは、マルファン症候群の小児および若年成人における大動脈拡張率の低下と関連しており、大動脈合併症の発生を抑制できる。 【助成】英国心臓財団、英国マルファン協会、英国マルファン・トラスト。 第一人者の医師による解説 β遮断薬との併用も可能 広がる内科的治療の選択肢 森崎 裕子 榊原記念病院臨床遺伝科医長 MMJ.June 2020;16(3) マルファン症候群(MFS)は、全身の結合組織の脆弱化をきたす遺伝性の疾患で、頻度は0.5 ~ 1 万人に1人という稀少疾患である。主な合併症は大動脈の脆弱性による大動脈瘤で、無治療では高率に大動脈解離に至る。解離リスクは大動脈基部径と相関があることから、現行治療の中心は、基部径が拡大した 患者に 予防的大動脈基部人工血管置換術を行う外科的治療であるが、手術による生活の質 (QOL)の低下は否めない。内科的治療としてβ遮断薬が使われてきたが、喘息症状の悪化やふらつきなどの副作用から十分な量が使えず拡張抑制効 果が得られない患者も多かった。 近年、MFS大動脈病変の背景にTGFβシグナル系の過剰応答が判明し、TGFβ抑制効果のあるアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)が治療薬として浮上し、モデルマウス実験でロサルタンはβ遮断薬を凌駕する治療効果を示した。β遮断薬は、心筋の収縮を抑制し血圧変化を抑えることで大動脈壁のストレスを軽減するという対症療法である。一方、ARBは発症機序を抑制する根本的治療薬として期待されたが、その後の大規模臨床試験においてβ遮断薬に対するロサルタンの優越性は証明されず、「両者の効果はほぼ同等(非劣性)」という結 論に至っている(1)。 今回報告された無作為化プラセボ対照二重盲検試験のAortic Irbesartan Marfan Study(AIMS) では、ルーチン治療(β遮断薬の使用は任意)に長時間作用型 ARBイ ル ベ サ ル タン(開始150mg、 最大300mg)を追加し、プラセボを対照として、 大動脈拡張抑制効果を比較した。英国22施設で登録した6 ~ 40歳のMFS患者192人を対象とし、 最長5年間追跡した。主要評価項目として大動脈基 部径の年間変化量、副次評価項目としてZ スコア変 化量、解離や手術などのイベント発生も解析した。 その結果、心臓超音波検査での大動脈基部径の拡大はイルベサルタン群で0.53mm/年、プラセボ群 で0.74mm/年と有意差を認め、Zスコア評価でも 有意な抑制効果が示された。抑制効果は開始1年目 から認められ、両群とも約半数の患者がβ遮断薬を服用していたにもかかわらず、イルベサルタン 群の80%の患者が300mg/日まで増量可であったと示されている。 β遮断薬には、喘息患者やふらつきなどの副作用を認める患者では使いにくい、といった難点がある。一方、ロサルタンでは血圧抑制効果が不十分という問題があった。今回、降圧効果がより強い長時 間作用型のイルベサルタンで治療効果が認められ、 β遮断薬との併用も可能なことが示されたことで、 今後、内科的治療の選択肢が拡がり、個々の患者の 病態に合わせた治療を選べる方向性がみえてきたといえる。 1. Lacro RV et al. N Engl J Med. 2014;371(22):2061-2071.
男性への葉酸と亜鉛の補給が不妊治療を受けているカップルの精液の質と生児に及ぼす影響。A Randomized Clinical Trial.
男性への葉酸と亜鉛の補給が不妊治療を受けているカップルの精液の質と生児に及ぼす影響。A Randomized Clinical Trial.
Effect of Folic Acid and Zinc Supplementation in Men on Semen Quality and Live Birth Among Couples Undergoing Infertility Treatment: A Randomized Clinical Trial JAMA 2020 Jan 7;323(1):35-48. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【重要】男性不妊治療のために販売されている栄養補助食品は、精液の質を改善するという限られた先行エビデンスに基づいて、葉酸と亜鉛を含むのが一般的である。 【目的】毎日の葉酸と亜鉛の補給が、精液の質と出生に及ぼす影響を明らかにする。不妊治療を計画しているカップル(n=2370,男性は18歳以上,女性は18~45歳)を,2013年6月~2017年12月に米国の生殖内分泌学・不妊治療研究センター4施設に登録した。精液採取のための最後の6カ月間の研究訪問は2018年8月中に行われ、ライブバースおよび妊娠情報のチャート抽出は2019年4月中に完了した。 【介入】男性は、研究センターと計画している不妊治療(体外受精、研究サイトでのその他の治療、外部クリニックでのその他の治療)によってブロック無作為化され、葉酸5mgおよび元素亜鉛30mg(n=1185)またはプラセボ(n=1185)のいずれかを6カ月間毎日投与された。 【結果】無作為化された2370人の男性(平均年齢33歳)のうち、1773人(75%)が6カ月後の最終診察に参加した。すべてのカップルの出生成績が得られ、1629人(69%)の男性が無作為化後6カ月の時点で分析用の精液を入手していた。生児出生数は治療群間で有意な差はなかった(葉酸・亜鉛群404[34%],プラセボ群416[35%],リスク差-0.9%[95%CI,-4.7%~2.8%])。無作為化後6カ月の時点で,ほとんどの精液品質パラメータ(精子濃度,運動性,形態,体積,総運動精子数)は治療群間で有意な差はなかった。葉酸と亜鉛の補給により,統計的に有意なDNA断片化の増加が認められた(DNA断片化の割合の平均は,葉酸と亜鉛群で29.7%,プラセボ群で27.2%,平均差は2.4%[95%CI,0.5~4.4%])。消化器症状は、葉酸および亜鉛の補給により、プラセボと比較してより多く見られた(腹部の不快感または痛み:それぞれ66[6%]対40[3%]、吐き気:50[4%]対24[2%]。50[4%]対24[2%]、および嘔吐。 【結論と関連性】不妊治療を受けようとしている一般的なカップルにおいて、男性パートナーが葉酸と亜鉛のサプリメントを使用しても、プラセボと比較して、精液の質やカップルの生児率を有意に改善することはできませんでした。これらの知見は、不妊治療における男性パートナーによる葉酸と亜鉛の補給の使用を支持するものではありません。 【臨床試験登録】ClinicalTrials. gov Identifier:NCT01857310。 第一人者の医師による解説 結果の解釈は慎重に 適応を絞れば効果がある可能性も 岩月 正一郎(助教)/安井 孝周(教授) 名古屋市立大学大学院医学研究科腎・泌尿器科学分野 MMJ.June 2020;16(3) 近年、不妊症に対するサプリメントへの関心が高まっており、男性不妊を対象としたサプリメントの多くは葉酸と亜鉛が含まれている。最近のメタアナリシスにおいて、亜鉛と葉酸は男性不妊症患者の精子濃度や精子正常形態率を改善することが示された(1)。しかしこの報告で参照された論文は、結果のばらつきが大きく、大規模な研究が望まれてきた。 本論文では、米国内の不妊治療中カップル 2,370 組を対象とし、男性に1日に葉酸 5 mgと亜鉛 30 mgもしくはプラセボを6カ月間服用する群に無作為に割り付け、6カ月後の精液所見の変化およびその間の不妊治療の成績を比較した。 その結果、精液検査所見に変化はないばかりか、葉酸と亜鉛を投与すると、精子のDNA断片化率がプラセボ群 の27.2%に対して29.7%に上昇していた(精子 DNA断片化は精子への障害を表す指標で、30%以 下が正常範囲内である)。さらに、出産率にも変化はなく、むしろ葉酸と亜鉛を投与すると、プラセボ群に比べ、早産率が1.49倍に上昇していたという。 副作用についても、葉酸・亜鉛群で主に悪心・嘔吐 といった消化器症状が増加していた。 しかし本論文にはいくつかの制限がある。特に今回の知見が男性不妊症患者一般に当てはまるか どうかは慎重に吟味する必要があり、その理由として大きな問題点が3つ挙げられる。1つ目は対象の偏りである。確かに本研究は多数の男性を対象としたランダム化比較試験である。しかし参加した夫婦には男性不妊、女性不妊が混在しており、対象集団の8割近くの男性の精液検査所見は正常であった。2つ目は葉酸・亜鉛群でDNA断片化率と早期産の割合が有意に上昇したとあるが、プラセボ 群との差はわずかで、いずれも正常範囲内であることから臨床的意義は不明である。3つ目は、対象男性の投薬開始前(ベースライン)の葉酸と亜鉛の 血中濃度に関する情報がないことである。 2019 年の1年間に筆者らの施設を受診した男性不妊症 患者114人の血中亜鉛濃度を測定したところ、潜在性亜鉛欠乏(60μg/dL以上80μg/dL未満)は 36人(31.6%)、亜鉛欠乏(60μg/dL未満)は4 人(3.5%)であり、予想していた以上に亜鉛欠乏の患者の存在が明らかになった。亜鉛に限って言えば、対象を限定した亜鉛補充の有効性はさらに検証されるべきで、葉酸についても同様のことが予想される。 本研究は、エビデンスの乏しい不妊症に対する補助療法についての大規模なランダム比較試験として意義のある報告である。しかし、その結果の解釈は慎重に行うべきであると考えられる。 1.Irani M et al. Urol J. 2017;14(5):4069-4078.
股関節骨折における加速手術と標準治療の比較(HIP ATTACK):国際無作為化比較試験。
股関節骨折における加速手術と標準治療の比較(HIP ATTACK):国際無作為化比較試験。
Accelerated surgery versus standard care in hip fracture (HIP ATTACK): an international, randomised, controlled trial Lancet 2020 Feb 29;395(10225):698-708. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】観察研究では、股関節骨折患者において、手術の迅速化は転帰の改善と関連することが示唆されている。HIP ATTACK試験では、手術の迅速化が死亡率や重大な合併症を減らすかどうかを評価した。 【方法】HIP ATTACK試験は、17か国69病院で行われた国際無作為化対照試験である。手術が必要な45歳以上の股関節骨折の患者を対象とした。研究担当者は、中央コンピューター無作為化システムにより、無作為にブロックサイズを変えながら、患者を加速手術(診断後6時間以内に手術の目標)または標準治療のいずれかに無作為に割り付けた(1対1)。主要アウトカムは、無作為化後90日目における死亡率と主要合併症(死亡率、非致死的心筋梗塞、脳卒中、静脈血栓塞栓症、敗血症、肺炎、生命を脅かす出血、大出血)の複合であった。患者、医療従事者、および試験スタッフは治療割り付けを認識していたが、転帰判定者は治療割り付けをマスクされた状態で行われた。患者は intention-to-treat の原則に従って分析された。本研究はClinicalTrials. gov(NCT02027896)に登録されている。 【所見】2014年3月14日から2019年5月24日までに、27701人の患者がスクリーニングされ、そのうち7780人が適格であった。このうち2970人が登録され、加速手術(n=1487)または標準治療(n=1483)を受けるよう無作為に割り付けられた。股関節骨折の診断から手術までの時間の中央値は、加速手術群で6時間(IQR4-9)、標準治療群で24時間(10-42)であった(p<0-0001)。加速手術に割り付けられた140人(9%)と標準ケアに割り付けられた154人(10%)が死亡し,ハザード比(HR)は0~91(95%CI 0~72~1~14),絶対リスク減少(ARR)は1%(-1~3,p=0~40)であった.主要合併症は、加速手術に割り付けられた321人(22%)と標準治療に割り付けられた331人(22%)に発生し、HRは0-97(0-83~1-13)、ARRは1%(-2~4、p=0-71)であった。 【解釈】股関節骨折の患者では、加速手術は標準治療に比べて死亡率や主要合併症を複合したリスクを有意には下げなかった【財源】カナダ保健研究機構(Canadian Institutes of Health Research. 第一人者の医師による解説 6時間以内の手術は有用だが 24時間以内の手術なら問題ないという解釈も可能 田島 康介 藤田医科大学病院救急科教授 MMJ.June 2020;16(3) 大腿骨近位部骨折は全世界で年間150万人以上の高齢者が受傷し、早期手術、早期離床を目指すことで合併症や日常生活動作(ADL)および生命予後を改善することが数多く報告されており(1),(2)、欧米では入院後24~48時間以内に手術を提供することが標準的治療となっている。日本では日本整形外科学会の2013年度調査によると手術までの平均待機日数は4.4日であるが、早期に手術を行う施設が昨今増加している。 このような背景から、著者らは、超早期手術により患者の疼痛や安静をより早期に解除することが 合併症や死亡率の改善につながるかどうかを検討するため、欧米・アジア(日本を含まない)など17 カ国69施設で無作為化対照試験(HIP ATTACK)を実施した。45歳以上で転倒などの低エネルギーによる外傷で受傷した患者を対象とし、登録患者 2,970人が超早期群(診断後6時間以内に手術)と 標準治療群に無作為に割り付けられた。患者背景、 既往歴、内服歴、社会歴などに差はなかった。 手術 90日後の超早期群と標準治療群の比較において、主要評価項目である死亡率(9% 対 10%[標準]) および複数の重大合併症発生率(22% 対 22%) に関して有意差はなく、副次評価項目である心筋梗塞(6% 対 5%)、心不全(2% 対 2%)、静脈血栓塞栓症(肺塞栓症、深部静脈血栓症)(1% 対 1%)、 大出血(6% 対 5%)、敗血症(5% 対 5%)のいずれも有意差はなかった。しかし、敗血症以外の感染症(11% 対 14%;P=0.032)、脳卒中(<1% 対 1%;P=0.047)、せん妄(9% 対 12%;P= 0.0089)は超早期群で有意に発生率が低かった。 既報では72、48、24時間と手術待機時間が短いほどさまざまな合併症が減少するとされ、生命予後にも医療経済的にも有利とされている1。超早期手術は術前検査が不十分であるとの指摘もあるが、今回の試験では各パラメータに差はなかった。骨折を受傷した患者は手術まで床上安静を強いられ疼痛からも解除されないことを考えると、むしろせん妄の発生率が低下するなど超早期手術は安全かつ有用であるとも言える。 日本の現状として、予定手術でうまった手術室の予定を調整して超早期手術を提供することは困難な施設が多いであろう。また、死亡率と合併症発生率に有意差がなかったことは、逆に超早期手術を行わず24時間以内に手術が行えれば問題ないという解釈も成り立つ。最後に、本試験の術後90日 死亡率(9~10%)は日本の標準的な報告よりも高いことを言及しておきたい。 1. Simunovic N et al. CMAJ. 2010;182(15):1609-1616. 2. Nyholm AM et al. J Bone Joint Surg Am. 2015;97(16):1333-1339.
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