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重症急性腎障害に用いる腎代替療法の遅延と早期開始 系統的レビューと無作為化試験の患者個人データのメタ解析
重症急性腎障害に用いる腎代替療法の遅延と早期開始 系統的レビューと無作為化試験の患者個人データのメタ解析
Delayed versus early initiation of renal replacement therapy for severe acute kidney injury: a systematic review and individual patient data meta-analysis of randomised clinical trials Lancet . 2020 May 9;395(10235):1506-1515. doi: 10.1016/S0140-6736(20)30531-6. Epub 2020 Apr 23. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】生命を脅かす合併症がない場合の重症急性腎障害に腎代替療法(RRT)を実施するタイミングは活発に議論されている。著者らは、早期RRT実施と比較した遅延RRTが重症急性腎障害の重症患者の28日時生存率に影響を及ぼすかを評価した。 【方法】この系統的レビューと患者個人データのメタ解析では、MEDLINE(PubMed経由)、Embase、Cochrane Central Register of Controlled Trialsで、2008年4月1日から2019年12月20日に出版され、重症急性腎障害に用いるRRT遅延と早期開始戦略を比較した無作為化試験を検索した。急性腎障害(Kidney Disease: Improving Global Outcomes[KDIGO]の急性腎障害分類2または3、KDIGOが使われていない場合、腎Sequential Organ Failure Assessment[SOFA]スコア3点以上と定義)がある18歳以上の重症患者を対象とした試験を適格とした。各試験の研究生責任者に連絡を取り、患者データの提供を依頼した。対象とした試験から、急性腎障害がない患者、無作為化しなかった患者を患者個人データのメタ解析から除外した。主要転帰は、無作為化28日後の総死亡率とした。この試験は、PROSPERO(CRD42019125025)として登録されている。 【結果】特定した試験1031件のうち、1件は適格基準を満たしたが組み入れ時期が古いため除外し、10件(対象2143例)を解析対象とした。9件(2083例)の患者個人データが入手でき、1879例に急性腎障害があり、946例(50%)を遅延RRT群、933例(50%)を早期RRT群に無作為に割り付けた。遅延RRT群に割り付けデータが入手できた929例中390例(42%)はRRTを受けなかった。28日時までに死亡した患者の割合は、遅延RRT群(837例中366例[44%])と早期RRT群(827例中355例[43%])で有意差がなく(リスク比1.01、95%CI 0.91-1.13、P=0.80)、全体のリスク差は0.01(95%CI -0.04-0.06)であった。試験間に異質性はなく(I2=0%、τ2=0)、ほとんどの試験でバイアスリスクが低かった。 【解釈】重症急性腎障害を呈した重症患者で、緊急RRTの適応がない場合のRRT導入のタイミングは、生存率に影響を及ぼすことがない。患者を緊密にモニタリングしながらRRT導入を遅らせることで、RRT実施率が低下し、ひいては医療資源を節約することになる。 第一人者の医師による解説 AKIでの腎代替療法は「伝家の宝刀」 むやみに使わず迷ったら使う 寺脇 博之 帝京大学ちば総合医療センター第三内科(腎臓内科)教授・腎センター長 MMJ. December 2020;16(6):172 『広辞苑』によると、「伝家の宝刀」とは「代々家宝として伝わっている名刀。転じて、いよいよという時以外にはみだりに使用しない、とっておきの物・手段など」…つまり、のっぴきならない窮地に立たされて初めて抜く刀、とされている。今回紹介する研究(メタアナリシス)は、重症の急性腎障害(acute kidney injury;AKI)を治療する上で、腎代替療法(renal replacement therapy;RRT)がまさにその「伝家の宝刀」であることを示唆する結論、すなわち「AKIに対してRRTを一律に早期導入しても予後への好影響は確認されなかった」を導き出している。  著者らは2008年4月1日~19年12月20日に発表された1,031件の研究から、早期導入戦略(early strategy:何らかの基準に従いAKIと診断された時点でRRTを導入)と晩期導入戦略(delayed strategy:高カリウム血症、肺水腫などのため生命の危険が迫った時点でRRTを導入)を比較した無作為化対照試験(RCT)を抽出。最終的に8件の研究から抽出された早期導入群827人、晩期導入群837人(年齢、性比、入院理由、Sequential Organ Failure Assessment[SOFA]スコア、併存疾患、敗血症合併率、割り付け時の利尿薬使用率に関する差なし)の2群を対象に、以下の項目について比較した:主要評価項目(割り付け後28日以内の全死亡)、副次評価項目(死亡までの期間[28日後まで])、60日全死亡、90日全死亡、院内死亡、入院期間、RRTを要しなかった日数[28日後まで])。  その結果、主要評価項目の28日全死亡について、晩期導入群におけるリスク比は早期導入群に対して1.01(95%信頼区間 , 0.91~1.13;P=0.80)と有意差はなく、さらに副次評価項目についても両群間に差は認められなかった。なお晩期導入群では42%の患者がRRTを1回も受けていなかった:このことは、早期導入群の42%においてRRTは不要であった可能性を示唆する。  今回の研究における「早期導入戦略」にとっての救いは、早期導入群では予後が優れていなかったものの、劣ってもいなかったことである。すなわち、早期導入群の42%にとってRRTは不要だったかもしれないが、不利益ももたらさなかったわけである。結局、今回の研究から得られた教訓は、「むやみには使わない(早期導入で予後は改善されないから)」「でも使うか使わないか迷ったら使う(不利益はもたらさないから)」という、AKIにおける伝家の宝刀たるRRTの“正しい振るい方”だと言うことができる。
人工知能と臨床医の比較 深層学習試験のデザイン、報告基準および主張の系統的レビュー
人工知能と臨床医の比較 深層学習試験のデザイン、報告基準および主張の系統的レビュー
Artificial intelligence versus clinicians: systematic review of design, reporting standards, and claims of deep learning studies BMJ. 2020 Mar 25;368:m689. doi: 10.1136/bmj.m689. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【目的】医用画像の深層学習アルゴリズムの精度を熟練の臨床医と比較した試験のデザイン、報告基準、リスクバイアスおよび主張を系統的に調べること。 【デザイン】系統的レビュー。 【データ入手元】2010年から2019年6月までのMedline、Embase、Cochrane Central Register of Controlled TrialsおよびWorld Health Organization試験レジストリ。 【選択試験の適格基準】医学画像の深層学習アルゴリズムの精度を1名以上の現役熟練臨床医と比較した無作為化試験登録および非無作為か試験。深層学習研究で、医用画像への関心が高まっている。畳み込みニューラルネットワーク(CNN)の際だった特徴は、未加工データで訓練するとパターン認識に必要な代表的な特徴を独自に生成することである。アルゴリズムは、人間が使用するよう指示した特徴よりもむしろ、分類に重要な画像の特徴を自動的に学習する。選択した試験は、医用画像を既存疾患または診断グループへの分類(疾患または非疾患など)の絶対リスク予測に用いることを目的としたものであった。例えば、気胸または非気胸などのラベルを付けた未加工の胸部レントゲン画像と、ピクセルパターンから気胸を示唆するCNN学習などである。 【レビューの方法】無作為化試験でCONSORT(臨床試験報告に関する統合基準)、非無作為化試験にTRIPOD(個別の予後や診断に関する多変量予測モデルの透明性ある報告)基準の遵守を評価した。無作為化試験でCochraneバイアスリスクツール、非無作為化試験にPROBAST(予測モデルのバイアスリスク評価ツール)を用いてバイアスリスクを評価した。 【結果】深層学習を検討した無作為化試験わずか10件を特定し、そのうち2件が出版されており(盲検化の欠如を除いたバイアスリスク:低度、報告基準の遵守:高度)、8件が進行中であった。特定した非無作為化試験81件のうちわずか9件が前向き試験で、6件が実臨床で検証を実施したものであった。比較対象の専門医数中央値はわずか4人(四分位範囲2-9人)であった。全データとコードへのアクセスが厳しく制限されていた(それぞれ95%、93%が閲覧不可能)。全体のバイアスリスクは、81件中58件が高度で、報告基準の遵守が準最適であった(TRIPODの29項目中12項目の遵守率50%未満)。81件中61件が、抄録に人工知能の性能が臨床医と同等以上であると記していた。詳細な前向き試験を要すると記載していたのは、81件中わずか31件(38%)であった。 【結論】医用画像を用いた前向きな深層学習を検討した研究や無作為化試験はほとんどない。ほとんどの非無作為化試験が前向きではなく、バイアスリスクが高く、既存の報告基準から逸脱している。ほとんどの試験でデータとコードが入手できず、人間の対照群も少数であることが多い。詳細な研究で、バイアスリスクを除外し、実臨床との関連例を高め、報告基準および透明性を改善し、ふさわしい表現の結論に加減する必要がある。 第一人者の医師による解説 適切な研究デザインによる医学的な検証には もう少し時間が必要 津本 周作 島根大学医学部医学科医療情報学講座教授 MMJ. December 2020;16(6):177 深層学習が画像認識のベンチマークで2012年、他の手法を遥かにしのぐ好成績を上げて以降、さまざまな領域で適用が進んでいる。医用画像診断は主たる領域の1つで、Googleなどから「医師が診断する1年前の画像で肺がんを検出」、「人工知能(AI)は皮膚がんの診断については専門医以上」という主張の根拠となる論文が出るようになった(1),(2)。しかし、実際の診断能力を専門家と比較した定量的な検証は十分なされているのだろうか? 本論文は、系統的レビューによりその評価を試みている。  本論文では、学術雑誌に掲載された英語論文で、画像診断への適用、臨床家の診断との比較がなされた236編を選択後、著者4人が最終的に91論文を選び、系統的レビューを行った結果、以下のことが明らかになった。  1. 無作為化試験は10件。小児白内障診断の研究(患者350人)では、AIと専門医の正答率はそれぞれ87%と99%、治療の推薦については71%と97%であった(非無作為化試験ではそれぞれ98%と93%、バイアスが顕著)。診断の速度はAIの方が早い(2.8分 対 8.5分)。大腸内視鏡による診断の研究(患者1,058人)では、AI実装、非実装のシステムを使った検出率が比較され、腺腫(29% 対 20%)、過形成ポリープの個数(114 対 52)と、AIによる支援が優れていた。  2. 非無作為化試験81件(放射線科36、眼科17、皮膚科9、消化器科5、病理5など)では、9件のみが前向きで、このうち実際の臨床現場で検証されていたのは6件。77件の論文要約で臨床家との比較が述べられ、AIの方が優れているという報告は23、同等/より良いは13、同等が25であった。追加の前向き研究の必要性を論じているのは9件のみ。  3. 論文内のデータおよびプログラムは公開されておらず、再現性が検証できない。  4. 検証する医師の数が少ない(中央値:4人)。  5. ほとんどの論文で、AIの性能が同等/より良いと書かれているが、研究デザイン、バイアスに関する議論が不十分。  深層学習が実領域で適用されはじめたのが2014年ごろであり、まだまだ歴史が浅い。既報の多くは工学的研究のスタイルで、研究デザイン的にも不十分な研究が多い。AIが医師を凌ぐというエビデンスは、今回の系統的レビューからは得られなかった。今後、適切な研究デザインのもとでの医学的な検証結果が報告されるまで、もう少し時間がかかるかもしれない。 1. Ardila D, et al. Nat Med. 2019;25(6):954-961. 2. Haenssle HA, et al. Ann Oncol. 2018;29(8):1836-1842.
MRSA菌血症に用いるバンコマイシンまたはダプトマイシンへの抗ブドウ球菌βラクタム系薬が死亡率、菌血症、効果および治療失敗にもたらす効果 無作為化比較試験
MRSA菌血症に用いるバンコマイシンまたはダプトマイシンへの抗ブドウ球菌βラクタム系薬が死亡率、菌血症、効果および治療失敗にもたらす効果 無作為化比較試験
Effect of Vancomycin or Daptomycin With vs Without an Antistaphylococcal β-Lactam on Mortality, Bacteremia, Relapse, or Treatment Failure in Patients With MRSA Bacteremia: A Randomized Clinical Trial JAMA. 2020 Feb 11;323(6):527-537. doi: 10.1001/jama.2020.0103. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【重要性】メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)菌血症は20%以上の死亡率と関連がある。標準治療にβラクタム系抗菌薬の併用によって死亡率が低下することが報告されているが、この介入を検討した十分な検出力がある無作為化臨床試験は実施されていない。 【目的】MRSA菌血症に用いる抗ブドウ球菌βラクタム系抗菌薬の標準治療との併用が標準治療単独よりも有効性が高いかどうかを明らかにすること。 【デザイン、設定および参加者】2015年8月から2018年7月にかけて、4カ国27施設で、MRSA菌血症成人患者352例を対象に非盲検無作為化臨床試験を実施した。2018年10月23日に経過観察を終了した。 【介入】被験者を標準治療(バンコマイシンまたはダプトマイシン静注)と抗ブドウ球菌βラクタム系抗菌薬(flucloxacillin、クロキサシリンまたはセファゾリン)の併用(174例)と標準治療単独(178例)に割り付けた。治療に当たる医師が総治療期間を決め、βラクタム系抗菌薬は7日間投与した。 【主要転帰および評価項目】主要評価項目は90日時の死亡、5日目の菌血症持続、微生物学的再発および微生物学的治療失敗の複合とした。14、42、90日時の死亡率、2、5日時の菌血症持続、急性腎障害(AKI)、微生物学的再発、微生物学的治療失敗および抗菌薬静注の期間を副次評価項目とした。 【結果】データ安全性評価委員会は、安全性の観点から、440例を登録する前に試験の早期中止を推奨した。無作為化した352例(平均年齢62.2歳、121例[34.4%]が女性)のうち345例(98%)が試験を完遂した。主要評価項目は、併用療法群の59例(35%)と標準治療群の68例(39%)に発生した(絶対差-4.2%、95%CI -14.3-6.0%)。事前に規定した副次評価項目9項目のうち7項目に有意差が認められなかった。併用療法群と標準治療群を比較すると、35例(21%)と28例(16%)に90日総死亡率が発生し(差4.5%、95%CI -3.7-12.7%)、166例中19例(11%)と172例中35例(20%)に5日目に菌血症の持続(同-8.9%、-16.6--1.2%)が見られ、ベースラインで透析を実施していた患者を除くと、145例中34例(23%)と145例中9例(6%)がAKIを来した(同17.2%、9.3-25.2%)。 【結論および意義】MRSA菌血症、バンコマイシンまたはダプトマイシンを用いた標準的抗菌薬療法に抗ブドウ球菌βラクタム系抗菌薬を追加しても、死亡率、菌血症持続、再発または治療失敗の主要複合評価項目の有意な改善にはつながらなかった。この結果を解釈する際は、安全性の懸念による試験の早期中止および臨床的に重要なさを検出する力が試験に不足していた可能性を考慮しなければならない。 第一人者の医師による解説 腎毒性の低いβラクタム薬の併用は 検討の余地あり 塩塚 美歌 国立がん研究センター中央病院感染症部/岩田 敏 国立がん研究センター中央病院感染症部部長 MMJ. December 2020;16(6):175 成人のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)菌血症に対する現在の標準治療薬は、バンコマイシン(VCM)とダプトマイシン(DAP)である。近年、MRSA菌血症の標準治療薬とβラクタム薬の併用による患者のアウトカム改善を示唆する研究報告が増えている中、本論文はオーストラリア、シンガポールなどの27病院で実施されたランダム化非盲検比較試験の結果を報告している。血液培養からMRSAが検出された18歳以上の入院患者を対象とし、血液培養採取から72時間以内に次の2群に無作為に割りつけた。標準治療群では、VCMまたはDAPを、臨床経過に従い14~42日間投与した。併用療法群では、標準治療に加えて抗黄色ブドウ球菌βラクタム薬(フルクロキサシリン、クロキサシリン、またはセファゾリン)を治療開始から7日間併用した。主要評価項目は、90日間の全死亡、5日後の持続的菌血症、血液培養陰性化後72時間以降の菌血症再燃、14日目以降における細菌学的な治療失敗を併せた複合エンドポイントとされた。副次評価項目として急性腎障害(AKI)や投薬治療期間なども解析した。当初440人の登録が予定されたが、中間解析で併用療法群のAKI発症率が有意に高いことが示され、以降の参加登録は中止された。  結果として、無作為化された患者352人の年齢中央値は64歳(47~79歳)、349人(99%)はVCM、13人(4%)は最低1回DAPを投与されていた。主要評価項目の発生率に関して併用療法群と標準治療群に有意差は認められなかった(35% 対 39%:差 , -4.2%;95%信頼区間[CI], -14.3~6.0%;P=0.42)。また、併用療法群は標準治療群と比較し、5日後の持続的菌血症の頻度が有意に低い(11% 対 20%:差 , -8.9%;95% CI, -16.6~ -1.2%;P=0.02)一方、AKIの頻度は有意に高かった(23% 対 6%:差 , 17.2%;95% CI, 9.3~25.2%;P<0.001)。  MRSA菌血症に対するβラクタム薬の併用療法は、本研究では腎毒性の弊害を上回る有効性は示されなかった。抗MRSA薬とβラクタム薬の併用療法は、日本感染症学会・日本化学療法学会による「JAID/JSC感染症治療ガイド2019」でも推奨されておらず、これに矛盾のない結果となった。過去にも、黄色ブドウ球菌による心内膜炎に対するアミノグリコシド併用療法(1)や、黄色ブドウ球菌菌血症に対するリファンピシン併用療法(2)の効果が期待されたが、死亡率の改善はなく、有害事象(前者では腎毒性)が多く認められた。今回、腎毒性がより低いセファゾリンを用いた患者数は併用療法群の約20%と少なく、今後改めて比較試験を実施してもよいかもしれない。 1. Korzeniowski O, et al. Ann Intern Med. 1982;97(4):496-503. 2. waites GE, et al. Lancet. 2018;391(10121):668-678.
医療者における新型ウイルス感染の心理的影響の発生、予防および管理:迅速レビューとメタ分析
医療者における新型ウイルス感染の心理的影響の発生、予防および管理:迅速レビューとメタ分析
Occurrence, prevention, and management of the psychological effects of emerging virus outbreaks on healthcare workers: rapid review and meta-analysis BMJ. 2020 May 5;369:m1642. doi: 10.1136/bmj.m1642. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 目的: 新型ウイルスの感染を管理して働く医療者の心理およびストレスと精神的苦痛への有効な対策を調査することを目的としました。 デザイン: 迅速レビューとメタ分析 データソース: Cochrane Central Register of Controlled Trials、PubMed / Medline、PsycInfo、Scopus、Web of Science、Embase、およびGoogle Scholarについて、2020年3月下旬まで検索しました。 研究選択の適格性基準: あらゆる臨床環境下で新型ウイルス感染が発生した際に、患者を診療している医療スタッフの心理的反応を調べた研究で、他の医師または一般集団との比較の有無は問わないこととしました。 結果: 59件の論文が選択基準を満たしました:37件は重症急性呼吸器症候群(SARS)、8件はコロナウイルス2019感染(covid-19)、7件は中東呼吸器症候群(MERS)、3件はエボラウイルス感染とインフルエンザA(H1N1/H7N9)でした。感染患者と直接接触した医療従事者の心理的結果を比較した38の研究のうち、25は、曝露のリスクが高い医療者と低い医療者を比較するペアワイズメタアナリシスが可能なデータを含んでいました。低リスクの医療者と比較して、感染患者と接触している医療者は、急性または心的外傷後ストレス(オッズ比1.71、95%信頼区間1.28-2.29)および心理的苦痛(1.74、1.50-2.03)の両方を受けているレベルが高く、継続調査においても同様の結果が得られました。これらの調査結果は、メタアナリシスに含まれていない他の研究と同様でした。心理的苦痛の危険因子には、若い、経験が浅い、扶養児童の親である、または感染した家族がいることが挙げられました。隔離期間の長期化、実際的なサポートの欠如、およびスティグマも影響していました。明確なコミュニケーション、適切な個人的保護、適切な休息、そして実践的および心理的サポートの両方が医療者のストレス/心理的苦痛状態の改善と関連していました。 結論: 新興感染症の発生時に患者を診る医療者が経験する心理的苦痛を軽減するのに役立つ効果的な介入があります。これらの介入は、本レビューでカバーしたアウトブレイクの設定やタイプを問わず、類似しており、現在のcovid-19アウトブレイクに適用できる可能性があります。 利益相反: すべての著者は、www.icmje.org / coi_disclosure.pdfにあるICMJE統一開示フォームに記入し、以下ように宣言しています。報告された研究に対していかなる組織からのサポートも受けていません。過去3年間に提出された研究に関心を持つ可能性のある組織との金銭的関係はありません。提出された研究に影響を与えたと思われる他の関連性や活動はありません。 第一人者の医師による解説 レビュー対象の59文献での負担軽減策はほぼ共通 COVID-19にも応用可能か 秋根 大(助教)/小川 真規(教授) 自治医科大学保健センター MMJ. October 2020; 16 (5):144 未知の感染症に遭遇する時、医療従事者はさまざまな葛藤に悩まされる。自分や身近な人への感染リスクが頭をよぎると、冷静な判断が難しくなる。社会からの過度な期待を受け、医学的には妥当でない判断を半ば強要されることさえある。資源は無限にあるわけではないのに。  本論文は、過去の感染症アウトブレイクと今回の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行期における医療従事者の心理的負担とその対応方法について、迅速にエビデンスを公表するために、フォーカスを絞り込んで系統的レビューの一部のステップを省略・簡略化したrapid review、およびメタ解析で検討している。対象は新興ウイルス感染症に対峙した医療従事者の心理的側面について記載した文献59件(8件はCOVID-19関連)。感染患者の治療に従事したスタッフは感染リスクの低い対照群に比べ、急性または心的外傷後ストレスおよび心理的苦痛のレベルが高かった。心理的負担(distress)の増悪因子として、スタッフの年齢が若い、経験が浅い、育児中である、隔離されている、家族が感染している、職場からの実務的サポートがない、医療従事者への社会的偏見などが挙げられている。一方、心理的負担の緩和因子として、明確なコミュニケーション、十分な個人防護具、十分な休養、実務的・精神的サポートなどが挙げられている。事業者が医療従事者の心理的負担を和らげるために、特に推奨される対処法として以下を提案している:①明確なコミュニケーションを行う、②感染症領域の研修や教育の機会を提供する、③感染防止対策を強化する、④十分に個人防護具を準備する、⑤心理面でのサポートを提供する。レビュー対象の59文献は背景や病原体がさまざまであったにも関わらず、これらの対策はおおむね共通していたことから、今回のCOVID-19流行にも応用可能ではないかと著者らは述べている。  最近、COVID-19に関連した医療従事者の燃え尽き症候群に関する研究が日本からも報告された(1)。職種別の燃え尽き症候群のリスクは医師が最も低く、その理由として、医師は看護師、薬剤師、放射線技師と比べて職業上の裁量が大きいことが考えられるとしている。その他のリスクとして、経験年数が短いこと、睡眠時間の減少、仕事量を減らしたいという欲求、感謝や尊敬を期待していることが挙げられている。今回紹介した論文と併せて国内の現状を示すものの1つとして提示した。 1. Matsuo T, et al. JAMA Netw Open. 2020;3(8):e2017271.
禁煙とその後の心血管疾患リスクの関連
禁煙とその後の心血管疾患リスクの関連
Association of Smoking Cessation With Subsequent Risk of Cardiovascular Disease JAMA. 2019 Aug 20;322(7):642-650. doi: 10.1001/jama.2019.10298. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【重要性】禁煙後の心血管疾患(CVD)の経時変化は明らかになっていない。リスク算出に喫煙経験者がわずか5年のみリスクがあることを考慮している。 【目的】禁煙後の年数とCVD発症の関連を明らかにすること。 【デザイン、設定および参加者】調査開始時にCVDがなく2015年12月まで追跡したフラミンガム心臓研究参加者から前向きに収集したデータの後ろ向き解析(第1世代コホート:1954~1958年の4回目の調査の参加者、第2世代コホート:1971~1975年の初回調査の参加者)。 【曝露】更新した自己申告の喫煙状況、禁煙後の年数、累積pack-years。 【主要評価項目】CVD(心筋梗塞、脳卒中、心不全、心血管死)の発症。両コホート(統合)を主要解析の対象とし、大量喫煙経験者(20pack-years以上)に限定した。 【結果】試験集団には8770例(第1世代コホート3805例、第2世代コホート4965例)を対象とし、平均年齢42.2歳、45%が男性だった。5308例が調査開始時に17.2pack-years(中央値)の喫煙経験者で、そのうち2371例が大量喫煙経験者[406例(17%)が元喫煙者、1965例が現喫煙者(83%)]であった。追跡期間中央値26.4年間で、初回CVDイベントが2435件発生した[第1世代コホート1612例(大量喫煙者665例)、第2世代コホート823例(同430例)]。統合コホートでは、現喫煙と比べると、5年以内に禁煙するとCVD発症率(1000人年当たりの発症率:現喫煙11.56(95%CI 10.30~12.98)、5年以内の禁煙6.94(5.61~8.59)、差-4.51(-5.90--2.77)およびCVD発症リスク(HR 0.61、95%CI 0.49~0.76)が有意に低下した。喫煙未経験者と比べると、統合コホートでは、禁煙10~15年後にCVDリスクの有意な上昇が止まった[1000人年当たりの発症率:喫煙未経験5.09(95%CI 4.52~5.74)、10~15年以内の禁煙6.31(4.93~8.09)、差1.27(-0.10-3.05)、HR 1.25(95%CI 0.98~1.60)]。 【結論および意義】大量喫煙者が禁煙すると、現喫煙者より5年以内のCVDリスクが有意に低下した。しかし、喫煙未経験者と比べた元喫煙者のCVDリスクは、禁煙後5年を超えると有意に高くなった。 第一人者の医師による解説 禁煙はすべての人に健康改善をもたらす 日常診療で禁煙を勧め希望者への禁煙治療提供が重要 中村 正和 地域医療振興協会 ヘルスプロモーション研究センター センター長 MMJ. October 2020; 16 (5):135 喫煙の健康影響は、循環器疾患にとどまらず、がん、呼吸器疾患、糖尿病など多岐にわたる。禁煙はこれらのリスクを改善するが、禁煙後の経時的なリスク低下については研究間で結果が異なる。例えば虚血性心疾患のリスクは禁煙10~15年で非喫煙者と同じレベルまで低下するという報告と、禁煙10~20年経過しても非喫煙者より10~20%高いという報告がある(1)。結果が異なる理由として、ベースライン喫煙量の把握が不十分、追跡後の喫煙状況の変化を把握せずにベースライン情報だけで解析しているなど、方法論上の問題が指摘されている。喫煙以外の危険因子の変化についても同様の問題がある場合、交絡要因の調整が不十分となり、結果に影響を与える可能性がある。  本研究では、フラミンガム心臓研究(FHS)の第1世代(original)、第2世代(offspring)コホートの2015年までの追跡データを後ろ向きに解析し、禁煙による循環器疾患リスクの低下を厳密に評価している。FHSは、上述した問題をクリアする質の高い追跡研究であり、循環器疾患発症の把握についても精度が高い。対象者は8,770人、追跡期間の中央値は26.4年に及ぶ。アウトカムの循環器疾患(心筋梗塞、脳卒中、心不全、心血管死)のリスクは、禁煙すると、喫煙を続けた場合に比べ5年以内に約40%低下し、禁煙による顕著なリスク改善がみられた。しかし、非喫煙者に比べ、禁煙後少なくとも10年以内はリスクが40%ほど高い状態が続くことが明らかになった。  本研究により、禁煙しても非喫煙者と同程度のリスクとなるには時間がかかることが確認された。リスク改善のスピードは喫煙本数や年数、禁煙の時期によって異なる。本研究の解析はヘビースモーカー(20パック年以上)に限定しており、その影響も考えられる。  しかし、本研究結果の中で一番重要な点は、喫煙を継続した場合に比べ、禁煙によってリスクが大きく低下することである。循環器疾患を有する場合でも同様の効果が確認されている(1)。糖尿病患者では禁煙によってHbA1cが一時的に上昇するものの、全死亡や循環器疾患のリスクは禁煙とともに確実に低下することが89のコホート研究のメタ解析で明らかになっている(2)。禁煙は性、年齢、疾患の有無を問わず、すべての人に健康改善をもたらす(3)。日常診療の場ですべての喫煙者に禁煙を勧め、禁煙希望者に禁煙治療を提供することが重要である。 1. IARC (2007). IARC Handbooks of Cancer Prevention, Tobacco Control. Volume 11: Reversal of Risk aer Quitting Smoking (p227-268). 2. Pan A, et al. Circulation. 2015;132(19):1795-1804. 3. U.S. Department of Health and Human Services. The Health Benefits of Smoking Cessation: A Report of the Surgeon General. 1990.
ダパグリフロジンが糖尿病がない心不全患者の心不全悪化と心血管死にもたらす効果
ダパグリフロジンが糖尿病がない心不全患者の心不全悪化と心血管死にもたらす効果
Effect of Dapagliflozin on Worsening Heart Failure and Cardiovascular Death in Patients With Heart Failure With and Without Diabetes JAMA. 2020 Mar 27;323(14):1353-1368. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【重要性】駆出率が低下した心不全(HFrEF)患者に追加治療が必要である。ナトリウム・グルコース輸送体2(SGLT2)阻害薬は、糖尿病がないHFrEF患者にも有効な治療であると考えられる。 【目的】糖尿病の有無を問わずHFrEF患者に用いるダパグリフロジンの効果を評価すること。 【デザイン、設定および参加者】20カ国410施設で実施された第III相無作為化試験の探索的解析。2017年2月15日から2018年8月17日にかけて、NYHA分類II~IV、左室駆出率が40%以下で、血漿NT-proBNP値が上昇した患者を組み入れ、2019年6月19日まで追跡した。 【介入】推奨治療に追加したダパグリフロジン1日1回10mgまたはプラセボ。 【主要転帰または評価項目】主要転帰は心不全の悪化または心血管死の複合とした。この転帰は、試験開始時の糖尿病の有無で、さらに糖尿病がない患者では糖化ヘモグロビン値5.7%以上と5.7%未満に分けて解析した。 【結果】無作為化した4744例(平均年齢66歳、23%が女性、55%が非糖尿病)のうち4742例が試験を完遂した。糖尿病がない患者で、主要転帰はダパグリフロジン群1298例中171例(13.2%)、プラセボ群1307例中231例(17.7%)に発生した(HR 0.73、95%CI 0.60~0.88)。糖尿病患者では、主要転帰はダパグリフロジン群1075例中215例(20.0%)、プラセボ群1064例中271例(25.5%)に発生した(同0.75、0.63~0.90、交互作用のP=0.80)。糖尿病がなく糖化ヘモグロビン値5.7%未満の患者で、主要転帰はダパグリフロジン群438例中53例(12.1%)、プラセボ群419例中71例(16.9%)に発生した(同0.67、0.47~0.96)。糖化ヘモグロビン値5.7%以上の患者で、主要転帰はダパグリフロジン群860例中118例(13.7%)、プラセボ群888例中160例(18.0%)に発生した(同0.74、0.59~0.94)、交互作用のP=0.72)。糖尿病がない患者でダパグリフロジン群の7.3%、プラセボ群の6.1%、糖尿病患者のそれぞれ7.8%、7.8%に有害事象として体液減少が報告された。糖尿病がない患者でダパグリフロジン群の4.8%、プラセボ群の6.0%、糖尿病患者でそれぞれ8.5%、8.7%に腎有害事象が報告された。 【結論および意義】このHFrEF患者を対象とした無作為化試験の探索的解析では、ダパグリフロジンを推奨治療に追加すると、プラセボと比べて、糖尿病の有無に関係なく心不全の悪化または心血管死を有意に抑制した。 第一人者の医師による解説 細胞外液量減少を介した心負荷減少が心不全改善に寄与の可能性 長田太助 自治医科大学医学部内科学講座腎臓内科学部門教授・附属病院副病院長 MMJ. October 2020; 16 (5):131 EMPA-REG outcome試験(1)を皮切りに、この数年でNa+ /グルコース共役輸送担体2(SGLT2)阻害薬による心血管予後の改善効果を示した大規模臨床試験が次々と発表された(2)。ジペプチジルペプチダーゼ(DPP)-4阻害薬を使ったSAVORTIMI53試験では心不全が増加したのに対し、同じ糖尿病薬でもSGLT2阻害薬は心不全の悪化を抑制することが強く印象づけられた。「心不全患者だけを集めてSGLT2阻害薬を投与した場合、心不全悪化は抑制されるのか?」と誰しも疑問に思うことだろう。DAPA-HF試験(3)がその答えを提示した。同試験ではNYHAクラス II ~ IVで駆出率(EF)40%未満の心不全患者4,744人をダパグリフロジン(DAPA)10mg/日群とプラセボ群に無作為に割り付け、約2年間観察した。主要評価項目(心不全悪化と心血管死亡の複合アウトカム)の発生率はDAPA群16.3%、プラセボ群21.2%、ハザード比(HR)は0.74で統計学的に有意であった。  本研究では、これと同じ母集団を使い、糖尿病群(2,139人)と非糖尿病群(2,605人)に分けたpost hoc解析が実施された。2019年の報告(3)では、複合アウトカム(心不全悪化と心血管死亡)発生率は糖尿病の有無で差がなかったと報告され、糖尿病薬が非糖尿病患者でも心不全を抑制した結果は衝撃だったが、今回はさらに詳しく糖尿病の有無で差が検証された。主要評価項目は本試験と同じで、その発生率は糖尿病群においてDAPA群20.0%、プラセボ群25.5%(HR, 0.75)、非糖尿病群ではDAPA群13.2%、プラセボ群17.7%(HR, 0.73)であり、それぞれの群内で有意差はあったが、糖尿病の有無間で有意な交互作用はなかった。腎機能悪化以外の2次評価項目を含めて結果はすべて同様で、DAPAの心不全悪化抑制効果は糖尿病の有無ならびにベースライン HbA1c値の高低によらずほぼ一定であることも示された。  血糖値改善作用によらないのであれば、DAPAによる心不全抑制機序は何であろうか。本論文でDAPAには糖尿病の有無によらずヘマトクリット値を上げる作用があることが示されており、細胞外液量減少を介した心負荷減少が心不全の改善に寄与している可能性がある。そのほかにもhypoxia-inducible factor (HIF)1活性化とエリスロポエチン産生増加、心筋の線維化抑制作用、ケトン体産生を介した心筋のエネルギー効率改善、交感神経抑制作用など諸説あるが、SGLT2阻害薬の心不全改善作用の正確な機序はまだ不明である。機序が明らかになれば、心不全の薬だが血糖降下作用もある薬とSGLT2阻害薬の立ち位置が変わるのかもしれない。 1. Zinman B et al. N Engl J Med. 2015;373:2117-2128. 2. Zelniker TA et al. Lancet. 2019;393:31-39. 3. McMurray et al. N Engl J Med. 2019;381:1995-2008.
急性心不全患者の死亡率と心不全による再入院に対する包括的な血管拡張戦略と通常ケアの比較:GALACTICランダム化臨床試験
急性心不全患者の死亡率と心不全による再入院に対する包括的な血管拡張戦略と通常ケアの比較:GALACTICランダム化臨床試験
Effect of a Strategy of Comprehensive Vasodilation vs Usual Care on Mortality and Heart Failure Rehospitalization Among Patients With Acute Heart Failure: The GALACTIC Randomized Clinical Trial JAMA. 2019 Dec 17;322(23):2292-2302. doi: 10.1001/jama.2019.18598. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 重要性: 単一の血管拡張薬の短期間投与は通常は固定用量が用いられますが、急性心不全(AHF)の患者の転帰を改善していません。 目的: AHF患者に対して、血管拡張薬を個別設定の漸増用量で使用する、早期の集中的かつ持続的な血管拡張戦略の効果を評価することを目的としました。 試験デザイン、設定、および対象: 呼吸困難、ナトリウム利尿ペプチドの血漿濃度の上昇、少なくとも100 mmHgの収縮期血圧があり、スイス、ブルガリア、ドイツ、ブラジル、スペインの10の三次および二次病院の一般病棟で治療を受ける計画のある、AHFで入院した788人の患者を登録したランダム化非盲検盲検エンドポイント試験。登録は2007年12月に開始され、フォローアップは2019年2月に完了しました。 介入: 患者は、入院期間を通して早期の集中的かつ持続的な血管拡張戦略を行う群(n=386)と通常ケア群(n=402)に1:1でランダムに割り付けられました。早期の集中的かつ持続的な血管拡張は、最大かつ持続的な血管拡張の包括的/実用的なアプローチで、個別設定の漸増用量の舌下/経皮硝酸塩、48時間の低用量経口ヒドララジン、および急速に漸増するアンジオテンシン変換酵素阻害薬、アンジオテンシン受容体遮断薬、またはサクビトリル-バルサルタンを組み合わせたものです。 主な結果: 主要エンドポイントは、180日におけるAHFのすべての原因による死亡または再入院の複合としました。 結果: ランダム化された788例の患者のうち、781例(99.1%;年齢中央値78歳; 36.9%女性)が試験を完了し、一次エンドポイント分析に適格でした。180日のフォローアップは779例の患者(99.7%)が完遂しました。 180日でのAHFの全ての死因での死亡率または再入院の複合である主要エンドポイントは、介入群で117例(30.6%)(55人の死亡[14.4%]を含む)、通常ケア群で111例(27.8%)(61人の死亡[15.3%]を含む)でした:(主要エンドポイントの絶対差、2.8%[95%CI、-3.7%-9.3%];調整済みハザード比、1.07 [95%CI、0.83-1.39 ]; P =0.59)。介入群、通常ケア群で最も多くみられた臨床的に意味のある有害事象は、低カリウム血症(23% vs. 25%)、腎機能の悪化(21% vs. 20%)、頭痛(26% vs. 10%)、めまい(15% vs. 10%)、および低血圧(8% vs. 2%)でした。 結論と関連性: AHF患者に対する早期の集中的かつ持続的な血管拡張戦略は、通常ケアと比較して、180日間の全ての原因による死亡とAHF再入院の複合結果を改善しませんでした。 臨床試験登録:ClinicalTrials.gov:NCT00512759 利益相反: Goudev博士は、ファイザー、ノバルティス、アストラゼネカ、アムジェンから個人的な謝金(アドバイザリーボードの謝金と講演料)を受け取っています。Walter博士は、スイス心臓財団とスイス医科学アカデミーから助成金を受け取っています。 Gualandro博士は、サービエ社から謝金を受け取っています。Wenzel博士は、ノバルティス、バイエル、ドイツ連邦教育研究省、アボットから謝金を受け取り、サービエ社から非財務支援を受けました。Pfister博士は、ノバルティス、ビフォー ファーマ、メルク シャープ&ドームから謝礼を受け取り、サノフィとベーリンガーインゲルハイムから助成金を受け取っています。Conen博士は、サービエ・カナダから謝金を受け取りました。Kobsa博士は、バイオセンス ウェブスター、バイオトロニック、メドトロニック、アボット、SI–S メディカル、およびBoston Scientificから助成金を受け取っっています。Munzel博士は、DZHK(ドイツ心臓血管研究センター)パートナーサイトラインマインの主任研究員であることを報告しています。Mueller博士は、スイス国立科学財団、スイス心臓財団、心臓血管研究バーゼル財団、およびスタンリージョンソン財団から助成金、シングレックス、およびブラームスからの助成金、謝金および非財務サポート、ノバルティス、カーディオレンティス、ベーリンガーインゲルハイムからの謝金、アボットからの助成金と非財政的支援を受けています。以上です。 第一人者の医師による解説 急性心不全への積極的・包括的血管拡張薬投与 180日後の予後を改善せず 小林 さゆき1), 石川 哲也2), 中原 志朗3), 田口 功4) 獨協医科大学埼玉医療センター循環器内科 1,2,3;准教授、4;主任教授 MMJ. October 2020; 16 (5):128 日本では超高齢化に伴い2035年をピークに医療体制が疲弊する「心不全パンデミック」が危惧され、米国でも“シルバーツナミ”と称して対策が講じられている。この30年間、急性心不全(AHF)に対する利尿薬と血管拡張薬の併用療法が評価されてきたが、いずれも初期治療における早期集中・継続的な血管拡張薬投与のみでは予後の改善は困難であるという結果であった。  本論文の無作為化GALACTIC試験では、欧州5カ国10施設にAHFで入院した収縮期血圧100mmHg以上の患者788人を対象に、血管拡張薬の早期集中・継続的な投与群(介入群;386人)もしくは通常治療(対照群;402人)に無作為に割り付け、180日時点の複合アウトカム(全死亡およびAHFによる再入院)が比較・評価された。介入群では収縮期血圧90~110mmHgを目標に個別化された用量の舌下・経皮硝酸塩、経口ヒドララジンを投与後、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)、サクビトリル-バルサルタンの迅速漸増投与を組み合わせた包括的な管理が行われた。対照群では低用量硝酸塩投与後、他の薬剤の漸増は緩徐に行われた。その結果、主要エンドポイント発生率は介入群30.6%、対照群27.8% (ハザード比[HR], 1.07;P=0.59)で有意差はなかった。  GALACTIC試験でも、先行研究と同様、早期集中・継続的な血管拡張薬の投与は、通常治療に比べ予後を改善しないことが示された。介入群の心不全改善速度をみると、より用量の高いループ利尿薬が使用された対照群と同程度であった。高用量ループ利尿薬は腎機能増悪により心不全予後を悪化させる可能性はあるものの、初期治療では適切なループ利尿薬の効果は高用量の血管拡張薬と同等といえる。しかし、本試験の患者では「急性慢性心不全診療ガイドライン(2017)」のクリニカルシナリオ(CS)分類1と2が混在していることから、同ガイドラインで血管拡張薬をクラス IとしているCS1に限定した解析が期待される。  心不全の長期予後改善を目指した治療は、基礎疾患、左室収縮能、合併症、血行動態などの評価に基づいた個別化治療の検討も必要である。そして、新規薬剤(SGLT2阻害薬(1)、ベルイシグアト(2)、イバブラジン、サクビトリル-バルサルタン、無機亜硝酸塩)も視野に入れ、ガイドラインに沿った適切な薬剤選択と管理に加え、生活習慣改善やリハビリテーションなども含めた包括的管理が慢性期までシームレスに行われることが重要である。 1. McMurray JJV, et al. N Engl J Med 2019; 381:1995-2008. 2. Armstrong PW et al. N Engl J Med 2020 Mar 28.DOI: 10.1056/NEJMoa1915928
ドラベ症候群の発作治療に用いる塩酸フェンフルラミン 無作為化二重盲検プラセボ対照試験
ドラベ症候群の発作治療に用いる塩酸フェンフルラミン 無作為化二重盲検プラセボ対照試験
Fenfluramine hydrochloride for the treatment of seizures in Dravet syndrome: a randomised, double-blind, placebo-controlled trial Lancet. 2019 Dec 21;394(10216):2243-2254. doi: 10.1016/S0140-6736(19)32500-0. Epub 2019 Dec 17. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】ドラベ症候群は、まれな治療抵抗性の発達性てんかん性脳症であり、さまざまな種類の発作が頻繁に起こるのが特徴である。フェンフルラミンは、光過敏性発作とドラベ症候群の観察研究で抗発作作用が報告されている。この試験の目的は、ドラベ症候群患者に用いるフェンフルラミンの有効性および安全性を評価することであった。 【方法】この無作為化二重盲検プラセボ対照試験は、若年成人および小児のドラベ症候群患者を対象とした。試験開始時の1カ月のけいれん発作頻度(MCSF;明らかな運動徴候がある半側間代発作、強直発作、間代発作、強直・脱力発作、全般性強直・間代発作、焦点発作をけいれん発作と定義)を確かめる6週間の観察期間の後、ウェブ自動応答システムを用いて、患者を抗てんかん薬に上乗せしてプラセボ、フェンフルラミン1日0.2mg/kg、同薬剤1日0.7mg/kgのいずれかを14週間投与するグループに1対1対1の割合で無作為に割り付けた。主要評価項目は、プラセボ群と比較した1日0.7mg/kg投与群の試験開始時と比較した治療期間中の1カ月の平均痙攣発作頻度とした。プラセボ群と比較した1日0.2mg/kg投与群の1カ月の平均けいれん発作頻度を副次評価項目とした。修正intention-to-treat集団で解析を実施した。被験薬を1回以上投与した全例を安全性解析の対象とした。この試験は、ClinicalTrials.govに2通りのプロトコールNCT02682927とNCT02826863に登録されている。 【結果】2016年1月15日から2017年8月14日の間に173例を評価し、そのうち119例(平均年齢9.0歳、54%が男児)をフェンフルラミン1日0.2mg/kg群(39例)、同薬剤1日0.7mg/kg群(40例)、プラセボ群(40例)に無作為に割り付けた。治療期間中、発作頻度の低下率中央値はフェンフルラミン0.7mg/kg群で74.9%(28日当たりの中央値20.7回から4.7回に低下)、同薬0.2mg/kg群で42.3%(同17.5回から12.6回に低下)、プラセボ群で19.2%(同27.3回から22.0回に低下)だった。試験は主要有効性評価を達成し、プラセボと比較すると、平均MCSFがフェンフルラミン1日0.7mg/kgで62.3%(95%CI 47.7-72.8、P<0.0001)、同薬0.2mg/kgで32.4%(同6.2-52.3、P=0.0209)低下した。最も頻度の高かった有害事象(被験者の10%以上に発現し、フェンフルラミン群で頻度が高かった)は食欲減退、下痢、疲労、無気力、傾眠および体重減少であった。試験期間中の心エコー検査で、全例に生理学的正常範囲内の弁機能を確認し、肺高血圧症の徴候は見られなかった。 【解釈】ドラベ症候群で、フェンフルラミンは、プラセボよりもけいれん発作頻度を有意に抑制し、忍容性も良好で、心臓弁膜症や肺高血圧症は認められなかった。フェンフルラミンはドラベ症候群の新たな治療選択肢になると思われる。 第一人者の医師による解説 ドラベ症候群治療薬として期待も 効果・有害事象とも長期評価が必要 今井 克美 国立病院機構静岡てんかん・神経医療センター副院長・小児科 MMJ. October 2020; 16 (5):137 ドラベ症候群は1歳未満で発症し、発熱や入浴で誘発されやすい全身・半身けいれんを反復し、5分以上持続するけいれん重積状態が起こりやすく、1歳以降に発達の伸びが鈍化する難治性てんかんで、約80%の患者はNaチャネル遺伝子 SCN1Aの変異を有し、約4万人に1人が罹患するとされる。バルプロ酸、臭化物、トピラマート、スチリペントール、クロバザムなどの抗てんかん薬がよく使われるが効果不十分な場合が多く、より有効な治療法の開発が喫緊の課題である(1)。  本論文は、ドラベ症候群のけいれん発作に対するフェンフルラミンの有効性と安全性を北米、欧州西部、オーストラリアで検討した無作為化二重盲検プラセボ対照試験の報告である。臨床的に診断された2~18歳のドラベ症候群患者を対象に、服用中の抗てんかん薬は継続し、119人(平均年齢9.0歳、男性54%)がフェンフルラミン低用量0.2mg/kg、高用量0.7mg/kg、プラセボの3群に割り付けられた。前観察期間6週間に対する、割り付け後14週間におけるけいれん頻度の低下率は、高用量群74.9%、低用量群42.3%、プラセボ群19.2%で、高・低用量群ともにプラセボ群に比べ有意にけいれんが減少した。有害事象は食欲低下、下痢、易疲労性、倦怠、眠気、体重減少が10%以上にみられ、有害事象による中止は9人(高用量群6人、プラセボ群3人)であった。心エコー検査では心臓弁膜症や肺高血圧などの重篤な合併症は認められなかった。  フェンフルラミンはセロトニン作動薬で、食欲抑制目的の健康食品で使用されていた時に用量や誘導体含有などの問題に関連する心臓弁膜症、肺高血圧、肝障害が報告され、それ以降使用されなくなったが、ドラベ症候群を含む難治性てんかんにおいて著効例がベルギーから複数報告されたことから、本試験が実施された。用量を減らし品質管理を徹底して実施された本試験において、けいれんの有意な減少が示され、最長8カ月の長期安全性試験でも重篤な有害事象はなく、日本でもドラベ症候群への適応承認が期待される。今回の試験ではドラベ症候群にのみ保険適応のあるスチリペントールは併用禁忌であったが、スチリペントールとの併用でも同等の有効性と安全性が報告されている(2)。今後の課題として、けいれん抑制効果が年余にわたって継続するか、けいれん重積の頻度も低下するのか、年単位の長期服用でも心臓弁膜症、肺高血圧、著明な体重減少、肝障害を生じないか、などの検討が必要である。 1. Takayama R, et al. Epilepsia. 2014;55(4):528-538. 2. Nabbout R, et al. JAMA Neurol. 2019;77(3):300-308.
活動性強直性脊椎炎に用いるupadacitinibの有効性および安全性(SELECT-AXIS 1) 多施設共同第II/III相二重盲検プラセボ対照無作為化試験
活動性強直性脊椎炎に用いるupadacitinibの有効性および安全性(SELECT-AXIS 1) 多施設共同第II/III相二重盲検プラセボ対照無作為化試験
Efficacy and safety of upadacitinib in patients with active ankylosing spondylitis (SELECT-AXIS 1): a multicentre, randomised, double-blind, placebo-controlled, phase 2/3 trial Lancet. 2019 Dec 7;394(10214):2108-2117. doi: 10.1016/S0140-6736(19)32534-6. Epub 2019 Nov 12. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】JAK経路は強直性脊椎炎の治療の標的となる可能性がある。この試験では、強直性脊椎炎に用いる選択的JAK1阻害薬upadacitinibの有効性および安全性を評価した。 【方法】この多施設共同第II/III相二重盲検プラセボ対照並行群間無作為化試験には20カ国62施設から成人患者を組み入れた。改訂ニューヨーク基準を満たし、生物学的疾患修飾性抗リウマチ薬による治療歴がなく、非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)が2種類以上で効果不十分、NSAID不耐または禁忌の活動性強直性脊椎炎患者を適格とした。被験者を自動応答技術を用いて、第1期の14週間に経口upadacitinib 15mg 1日1回服用するグループまたは経口プラセボを服用するグループに無作為に割り付けた。ここでは第1期のデータのみを報告する。主要評価項目は、14週時のAssessment of SpondyloArthritis international Society (ASAS) 40反応率で測定した複合転帰とした。無作為化し被験薬を1回以上投与した全例の完全解析を実施した。この試験は、ClinicalTrials.govのNCT03178487番に登録されている。 【結果】2017年11月30日から2018年10月15日にかけて、187例をupadacitinib 15mg(93例)とプラセボ(94例)に無作為に割り付け、178例(95%、upadacitinib群の89例とプラセボ群の89例)が被験薬の第1期を完遂した(2019年1月21日までに完了)。upadacitinib群のほうがプラセボ群よりも14週時のASAS40反応率が有意に高かった[92例中48例(52%) vs. 94例中24例(26%)、P= 0.0003、治療群間差26%(95%CI 13~40)]。upadacitinib群93例中58例(62%)とプラセボ群94例中52例(55%)に有害事象が報告された。upadacitinib群に最も多く発現した有害事象は、クレアチン・ホスホキナーゼ上昇(updacitinib群9% vs. プラセボ群2%)だった。重篤な感染、帯状疱疹、悪性腫瘍、静脈血栓塞栓イベントや死亡は報告されなかった。各群1例に重度の有害事象が発現した。 【解釈】upadacitinib 15mgは、NSAIDの効果不十分または禁忌の活動性強直性脊椎炎に有効で忍容性も良好であった。このデータは、強直性脊椎炎治療に用いるupadacitinibのさらに詳細な調査を支持するものである。 第一人者の医師による解説 ウパダシチニブは有効かつ耐容可能なAS治療薬になりうることを示唆 高相 晶士 北里大学医学部整形外科学主任教授 MMJ. October 2020; 16 (5):143 強直性脊椎炎(AS)の治療としては非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)が推奨され、従来の抗リウマチ薬や糖質コルチコイドは軸性症状の改善に乏しいと言われている。近年、関節リウマチ、乾癬性関節炎、潰瘍性大腸炎の適応でJAK阻害薬が承認されており、JAK経路はASの治療標的としても着目されている。ASに対するJAK阻害薬(トファシチニブおよびフィルゴチニブ)の有効性については、2つの第2相試験で示されたところである。  本論文で報告されたSELECT-AXIS 1試験は、生物学的疾患修飾性抗リウマチ薬(bDMARD)の使用歴がなく、NSAIDが効果不十分または不耐容である18歳以上の活動性 AS患者18人を対象に、ウパダシチニブ 15mg/日を14週間経口投与した際の有効性と安全性評価を目的とした多施設共同無作為化プラセボ対照二重盲検試験である。本試験には20カ国(北米、西欧、東欧、アジア、オセアニア)の62施設が参加。対象患者はASのNew York基準を満たし、仙腸関節 X線写真で診断され、従来の抗リウマチ薬、経口ステロイド薬、NSAID使用は組み入れ可とされた。主要評価項目は投与後14週目におけるAssessment of Spondylo Arthritis international Society(ASAS)40反応を達成した患者の割合とされた。割り付け結果はウパダシチニブ群93人、プラセボ群94人、全体の背景は平均年齢45.4歳、男性71%、HLA-B27陽性率76%であった。  有効性の評価において、投与後14週目のASAS40達成率は、ウパダシチニブ群で有意に改善した(ウパダシチニブ群52% 対 プラセボ群26%;P=0.0003)。疾患活動性を示すBath Ankylosing Spondylitis Disease Activity Index(BASDAI)50 改善率、ASAS 部 分 寛 解率、Ankylosing Spondylitis Disease Activity Score(ASDAS)変化量、機能評価としてのBath Ankylosing Spondylitis Functional Index(BASFI)変化量、MRI 変化(SPARCC MRI spine score)についても、ウパダシチ二ブ群で有意な改善が認められた。  有害事象はウパダシチニブ群62%、プラセボ群55%に発生し、ウパダシチニブ群における主な有害事象はクレアチニンキナーゼの上昇であった。重篤な感染症の発生はみられず、感染症発生率および有害事象による試験中止率は両群ともに同程度であった。ウパダシチニブの安全性情報については関節リウマチに対する過去の試験で報告されたものと一致した。  今回、ウパダシチニブ 15mg経口投与により活動性 AS患者の疾患活動性、機能、MRI所見で改善を認め、忍容性も良好であったことから、本剤は有効かつ耐容可能なAS治療薬となりうることが示唆された。
酸素投与不要の細気管支炎入院患児に対するパルスオキシメータによる持続的監視実施率
酸素投与不要の細気管支炎入院患児に対するパルスオキシメータによる持続的監視実施率
Prevalence of Continuous Pulse Oximetry Monitoring in Hospitalized Children With Bronchiolitis Not Requiring Supplemental Oxygen JAMA. 2020 Apr 21;323(15):1467-1477. doi: 10.1001/jama.2020.2998. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【重要性】酸素投与の必要がない入院中の細気管支炎患児へのパルスオキシメータ使用は、米国のガイドラインで推奨されていない。 【目的】細気管支炎患児へのパルスオキシメータ持続的使用率の評価。 【デザイン、設定および参加者】2018年12月1日から2019年3月31日にかけて、Pediatric Research in Inpatient Settings (PRIS) Networkに参加する米国およびカナダの56施設の小児病棟で多施設共同横断研究を実施した。酸素投与中でない生後8週~23カ月の細気管支炎患児の恣意的標本を対象とした。超早産、チアノーゼ性先天性心疾患、肺高血圧症、在宅呼吸サポート、神経筋疾患、免疫不全、癌がある患児を除外した。 【曝露】酸素投与中でない細気管支炎による入院。 【主要転帰および評価項目】主要転帰はパルスオキシメータの持続的使用とし、直接観察して測定した。パルスオキシメータの持続的使用の割合を以下の変数を用いてリスク標準化した――夜間(午後11時~午前7時)、早産と合わせた月齢、酸素補充療法または高流量酸素療法離脱後の時間、原疾患発症後の無呼吸またはチアノーゼの有無、神経学的障害および経管栄養の有無。 【結果】標本は、独立小児病院33施設、病院内小児病院14施設および地域病院9施設に入院した3612例を対象とした。標本内の59%が男児、56%が白人、15%が黒人で、48%が生後8週間~5カ月、28%が6~11カ月、16%が12~17カ月、9%が18~23カ月であった。全体のパルスオキシメータの持続的使用率は46%(95%CI 40~53%)で、酸素補充療法や高流量鼻カニューレ酸素療法を実施している患者がいなかった。病院別の調製前パルスオキシメータの持続的使用率は、2~92%と幅があった。リスクを標準化すると、資料率が6~82%になった。級内相関係数から観察された変数の27%(同19~36%)が評価対象外の病院別の因子によるものであった。 【結論および意義】酸素投与中でない入院中の細気管支炎患児の恣意的標本で、パルスオキシメータの持続的使用が頻繁に実施されており、病院によって大きな差があった。この患者集団ではガイドラインや科学的根拠に基づいた持続的監視の適応がないため、過度に使用されているものと思われる。 第一人者の医師による解説 酸素投与中止後はパルスオキシメータを外すべきなのか? 高瀬 真人 日本医科大学多摩永山病院小児科部長 MMJ. October 2020; 16 (5):139 急性細気管支炎は乳幼児期(2歳未満)にRSウイルス(RSV)に初感染した際などに多く経験される急性の閉塞性換気障害で、特に月齢の若い乳児では突然の呼吸停止で死亡する例もあり、恐れられている。喘息急性増悪とは異なり気管支拡張薬に対する反応性が乏しいことが特徴である。日本でも米国、欧州と同様に乳児期最大の入院原因である。エビデンスの確立した特異的治療は存在せず、入院例では経口摂取不良に対する点滴補液や低酸素血症に対する酸素投与などの支持療法が行われ、重症例では人工呼吸管理も行われる。米国小児科学会(AAP)のガイドラインでは、本症で入院中のパルスオキシメータによる持続的 SpO2モニタリングについて、予後に影響なく入院期間を長引かせる疑いからスポット測定での代替が推奨され、Society of Hospital Medicineは“Choosing Wisely Recommendations”において過剰な診療の例に挙げている(1)。  本論文では、米国とカナダの小児医療機関56施設に2018年12月~19年3月に急性期病棟(集中治療室以外)に入院した2歳未満の急性細気管支炎症例(合計3,612人)を対象に酸素投与中でない入院期間における持続的 SpO2モニタリングの実施率を調査した結果、病院によって2%から92%(平均46%)と大差を認め、過剰診療がいまだに多く行われているとの評価に至っている。  ところでAAPのガイドラインでは酸素投与中止後の持続的 SpO2モニタリングを行わない方向性を示してはいるが、これは低いエビデンスレベルに基づく弱い推奨である。その後発表されたランダム化対照試験でも、入院期間の短縮効果は示されていない(2)。今回の研究では持続的 SpO2モニタリング実施率に大差が認められたが、それと平均在院日数との相関が検討されていないのは残念である。  ちなみに、米国では5歳未満のRSV感染症死亡数が年間100~500人と推計されているが(3)、日本では5歳未満のRSV感染症死亡数は2018年には3人、急性細気管支炎による死亡数はゼロで、死亡率は極めて低い(厚生労働省:人口動態統計)。米国では医療費の高騰に対してエビデンスに基づかない治療をやめて費用対効果を最大化することが喫緊の課題となっており、“Choosing Wisely Campaign”の隆盛に結びついているが、わが国では安全第一の意識が強く、呼吸器疾患で入院中の乳幼児からパルスオキシメータを一刻も早く外そうという機運はあまり高まりそうにない。 1. Quinonez RA, et al. J Hosp Med. 2013;8:479-485. 2. McCulloh R, et al. JAMA Pediatr. 2015;169:898-904. 3. CDC ウエブサイト〈https://bit.ly/3kka9Wy〉
急性期脳梗塞治療に用いるnerinetideの有効性および安全性(ESCAPE-NA1試験) 多施設共同二重盲検無作為化対照試験
急性期脳梗塞治療に用いるnerinetideの有効性および安全性(ESCAPE-NA1試験) 多施設共同二重盲検無作為化対照試験
Efficacy and safety of nerinetide for the treatment of acute ischaemic stroke (ESCAPE-NA1): a multicentre, double-blind, randomised controlled trial Lancet. 2020 Mar 14;395(10227):878-887. doi: 10.1016/S0140-6736(20)30258-0. Epub 2020 Feb 20. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】nerinetideは、シナプス後肥厚タンパク質95を阻害するエイコサペプチドで、前臨床の脳梗塞モデルで有効性が確認されている神経保護薬である。この試験では、急性期脳梗塞患者の急速な血管内血栓除去に伴って起きるヒトの虚血・再灌流に用いるnerinetideの有効性および安全性を評価した。 【方法】8カ国の急性期病院48施設で実施された多施設共同二重盲検プラセボ対照無作為化試験では、大血管閉塞による急性期脳梗塞発症12時間以内の患者を組み入れた。無作為化時点で後遺症を伴う18歳以上の脳梗塞があり、発症前は地域で自立した生活を送っており、Alberta Stroke Program Early CTスコア(ASPECTS)5点以上で、側副血行路の充満度が中等度ないし良好な(多相CT血管造影で判定) 患者を適格とした。インターネットを用いたリアルタイムの動的、層別、最小化法を用いて、被験者をnerinetide 2.6mg/kg、推定または(分かれば)実際の体重を基に最大用量270mgを静脈内単回投与するグループと生理食塩水のプラセボを投与するグループに1体1の割合で無作為に割り付けた。アルテプラーゼ静脈内投与と申告された血管内デバイスの選択で被験者を層別化した。全試験担当者と被験者には順序と割り付けを伏せておいた。全例に血管内血栓除去を実施し、適応があれば標準治療としてアルテプラーゼを投与した。主要転帰は無作為化90日後の良好な機能的転帰とし、修正ランキン尺度(mRS)スコア0~2点と定義した。神経学的障害、日常生活行動の機能的自立、きわめて良好な機能的転帰(mRS 0~1点)および死亡を副次評価項目とした。解析は、intention-to-treat集団で実施し、年齢、性別、試験開始時のNational Institutes of Health Stroke Scaleスコア、ASPECTS、閉塞部位、施設、アルテプラーゼ投与の有無および申告された最初のデバイスで調整した。安全性評価集団は、被験薬を投与した全例を対象とした。この試験は、ClinicalTrials.govにNCT02930018番で登録されている。 【結果】2017年3月1日から2019年8月12日にかけて、1105例をnerinetide(549例)とプラセボ(556例)に無作為に割り付けた。nerinetide群549例中337例(61.4%)およびプラセボ群556例中329例(59.2%)が90日時にmRSスコア0~2点を達成した(調整後リスク比1.04、95%CI 0.96~1.14、P=0.35)。副次転帰は両群でほぼ同じだった。治療効果の修飾の根拠が認められ、アルテプラーゼを投与した患者で治療効果が阻害された。重度有害事象が両群でほぼ同じ割合で発現した。 【解釈】nerinetideによって、血管内血栓除去後に良好な臨床的転帰を得た患者の割合がプラセボと比較して、改善することがなかった。 第一人者の医師による解説 アルテプラーゼ非使用例で機能予後改善と脳梗塞容積減少 今後の研究に期待 上坂義和 虎の門病院脳卒中センターセンター長 MMJ. October 2020; 16 (5):136 再潅流療法が現在の脳梗塞急性期治療の大きな柱である。しかし、虚血や再潅流障害からの脳保護を目指した脳保護薬の開発も種々試みられてきた。ネリネチド(nerinetide)は興奮毒性をもたらすシグナル伝達を抑制することで神経保護作用を有することが動物実験で示されている。  今回報告されたESCAPE-NA1試験は、前方循環大血管閉塞に血栓回収療法を実施した患者におけるネリネチドの有効性を検討するために、欧米6カ国、オーストラリア、韓国で実施された多施設共同二重盲検ランダム化試験である。対象は、発症前に障害はなく、National Institutes of Health Stroke Scale(NIHSS)スコア6点以上、18歳以上、発症後12時間以内でCT血管造影法にて頭蓋内頸動脈か中大脳動脈水平部に閉塞が確認された脳梗塞急性期患者である。Alberta Stroke Program Early CT Score(ASPECTS)スコア5点以上で軟膜動脈経由の側副血行が中大脳動脈領域の50%以上にみられる比較的側副血行良好な1,105人が組み入れられた。全例で血管内治療による血栓回収療法(EVT)が行われた。アルテプラーゼ静注療法は臨床的判断に基づき実施された。患者はネリネチド群とプラセボ(生食)群にアルテプラーゼ投与有無も均等化されるようランダムに割り付けられた。主要評価項目は発症90日後の修正 Rankin Scale(mRS)0~2の 割合で、2次評価項目としてmRS 0~1の割合、死亡、3次評価項目として脳梗塞容積が解析された。その結果、mRS 0~2はネリネチド群で61.4%、プラセボ群で59.2%、mRS 0~1はそれぞれ40.4%、40.6%、死亡率は12.2%、14.4%、平均脳梗塞容積は71.1mL、73.1mLといずれも有意差を認めなかった。しかしながら、アルテプラーゼ非投与患者446人の解析では、mRS 0~2はネリネチド群で59.3%、プラセボ群で49.8%、死亡率はそれぞれ12.8%、20.3%、平均脳梗塞容積は67.8mL、87.2mLといずれも有意差を認めた。  ネリネチドはアルテプラーゼの作用に影響を与えないが、アルテプラーゼ投与で生じるプラスミンによって開裂されるアミノ酸配列を有する。本研究でもネリネチドの血中ピーク濃度はアルテプラーゼ投与患者で非投与患者の40%程度に低下しており結果に影響を与えた可能性がある。発症から割り付けまでの時間はアルテプラーゼの適応を反映して非投与群で平均270~275分、投与群で152~161分と非投与群では114~118分遅くなっている。発症からやや時間が経過した患者などのアルテプラーゼ非適応患者におけるネリネチドの脳保護作用を期待させるものであり、今後の研究が待たれる。
70歳以上の非ST上昇型急性冠症候群患者に用いるクロピドグレルのチカグレロルまたはプラスグレルとの比較 無作為化非盲検非劣性試験
70歳以上の非ST上昇型急性冠症候群患者に用いるクロピドグレルのチカグレロルまたはプラスグレルとの比較 無作為化非盲検非劣性試験
Clopidogrel versus ticagrelor or prasugrel in patients aged 70 years or older with non-ST-elevation acute coronary syndrome (POPular AGE): the randomised, open-label, non-inferiority trial Lancet. 2020 Apr 25;395(10233):1374-1381. doi: 10.1016/S0140-6736(20)30325-1. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】現行ガイドラインでは、急性冠症候群後の患者のチカグレロルまたはプラスグレルを用いた強力な抗血小板療法が推奨されている。しかし、高齢者の最適な抗血小板阻害に関するデータが不足している。著者らは、非ST上昇型急性冠症候群(NSTE-ACS)高齢患者に用いるクロピドグレルのチカグレロルまたはプラスグレルと比較した安全性および有効性を明らかにすることを試みた。 【方法】オランダの12施設(病院10施設および大学病院2施設)で非盲検無作為化試験POPular AGEを実施した。70歳以上のNSTE-ACS患者を組み入れ、ブロックサイズを6としたインターネットを用いた無作為化法で、クロピドグレル300mgまたは600mg、チカグレロル180mgまたはプラスグレル60mgの負荷投与の後、標準治療と併用した12カ月間の維持投与(クロピドグレル1日1回75mg、チカグレロル1日2回90mg、プラスグレル1日1回10mgのいずれか)に1対1の割合で無作為化に割り付けた。患者と治療担当医師に治療の割り付けを知らせておいたが、結果評価者には治療の割り付けを伏せた。主要出血転帰を血小板凝集阻害と患者転帰[PLATelet inhibition and patient Outcome(PLATO):大出血または小出血(優越性の仮説)]とした。全死因死亡、心筋梗塞、脳卒中、PLATO大出血および小出血(非劣性の仮説、マージン2%)を主要複合評価項目(ネットクリニカルベネフィット)とした。追跡期間は12カ月間であった。intention-to-treat集団を解析対象とした。この試験はNetherlands Trial Register(NL3804)、ClinicalTrials.gov(NCT02317198)およびEudraCT (2013-001403-37)に登録されている。 【結果】2013年7月10日から2018年10月17日の間に、1002例をクロピドグレル(500例)、チカグレロルまたはプラスグレル(502例)に無作為に割り付けた。チカグレロルまたはプラスグレル群の475例(95%)にチカグレロル投与したため、このグループをチカグレロル群とした。チカグレロルに割り付けたチカグレロル群502例中238例(47%)、クロピドグレルに割り付けた500例中112例(22%)が早期中止に至った。クロピドグレル群[500例中88例(18%)]の大出血がチカグレロル群[502例中118例(24%)]よりも低かった(ハザード比0.71、95%CI 0·54~0·94、優越性のP=0.01)。複合評価項目はクロピドグレル群のチカグレロルに対する非劣性が示された[139例(28%) vs. 161例(32%)、絶対リスク差-4%、95%CI -10.0~1.4、非劣性のP=0.03]。最も重要な中止の理由は、出血(38例)、呼吸困難(40例)および経口抗凝固薬を用いた治療の必要性(35例)であった。 【解釈】NSTE-ACSを呈した70歳以上の患者で、クロピドグレルは全死因死亡、心筋梗塞、脳卒中および出血の複合評価項目が増加することなく出血イベントを抑制するため、チカグレロルに取って代わる有効な選択肢である。クロピドグレルは、特に出血高リスクの高齢患者のP2Y12阻害薬の代替薬になると思われる。 第一人者の医師による解説 個人差の大きい高齢者 複合リスクの見極めが肝要 中村 正人 東邦大学医療センター大橋病院循環器内科教授 MMJ. October 2020; 16 (5):129 PLATO試験、TRITON-TIMI38試験の結果から急性冠症候群に対しては強力な抗血小板薬(チカグレルまたはプラスグレル)が欧米のガイドラインではクラス Iで推奨されている。出血リスクを上回る虚血イベント抑制効果がこれらの試験で示されたからである。しかし、出血リスクの高い患者にこの治療戦略が有効であるかどうかは明らかではない。そこで近年、出血リスクの高い患者を対象に出血リスクを軽減させるさまざまな戦略の妥当性が検証されている。70歳以上の高齢者に対する今回のPOPular AGE試験も同様である。非 ST上昇型心筋梗塞という血栓イベントリスクの高い病態に出血を考慮したDAPT(クロピドグレル)と血栓イベントを優先するDAPT(プラスグレルまたはチカグレル)の優劣が比較された。主要エンドポイントである出血の発生率は抗血小板作用の弱いクロピドグレルによるDAPTの方が低かった。この結果は想定範囲内である。ポイントは血栓イベントを加えた複合エンドポイントで非劣性が示された点にある。ランダム化前に98%の患者がローディングされており、その7割がチカグレルであった点、イベントの内訳としてステント血栓症はクロピドグレル群のみで認められた点は留意すべきであるが、総合的にみてクロピドグレルによるDAPTの妥当性が実証されたと結論されている。  しかし、他にも抗血小板療法をde-escalationさせる策としては、遺伝子多型や血小板凝集能をチェックする方法、短期 DAPT とP2Y12阻害薬単剤の組み合わせ、低用量のP2Y12阻害薬によるDAPTなどがある。このため、本研究で高齢者に対する戦略の結論が得られたとは言い難い。現在最もエビデンスが豊富な戦略は短期 DAPTとP2Y12阻害薬単剤の組み合わせである。実際、出血高リスク例に対しこの戦略が日本のガイドラインでは推奨されている(1)。また、日本ではプラスグレルの用量は海外の3分の1で、出血リスクが考慮されている。この点からも本研究の結果を日本の実臨床へ外挿する場合にはさらなる検証が必要である。近年、Academic Research Consortium(ARC)により出血高リスク(HBR)の定義が提唱され、これによると75歳以上 の 高齢者はminor criteriaに該当する。単独ではなく複合でHBRに分類される(2)。高齢者を一律 HBRと定めることはできない。高齢者は個人差が大きく、他の出血リスク因子の有無を見極めることが肝要である。わが国をはじめとした東アジア諸国は欧米諸国より出血リスクが高いとされる(3)。このため高齢化社会を迎えている日本における独自の検討が必要である。 1. Nakamura M, et al. Circ J. 2020;84(5):831-865. 2. Urban P, et al. Eur Heart J. 2019;40(31):2632-2653. 3. Levine GN, et al. Nat. Rev. Cardiol. 2014; 11: 597-606.
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