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米国成人の1日の歩数および歩行強度の死亡率との関連
米国成人の1日の歩数および歩行強度の死亡率との関連
Association of Daily Step Count and Step Intensity With Mortality Among US Adults JAMA. 2020 Mar 24;323(12):1151-1160. doi: 10.1001/jama.2020.1382. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【重要性】1日当たりの歩数と歩行強度が死亡率低下と関連があるか明らかになっていない。 【目的】歩数および歩行強度と死亡率の用量依存関係を明らかにすること。 【デザイン、設定および参加者】全米健康栄養調査(National Health and Nutrition Examination Survey)に参加し最長7日間、加速度計を装着した40歳以上の米国成人の代表標本(2003~2006年)。2015年12月まで死亡を確認した。 【曝露】加速度計で測定した1日当たりの歩数および3段階の強度測定(歩調の平均速度、30分間最大値、1分間最大値)。加速度計のデータは、調査開始から7日間に取得した測定値を基にした。 【主要転帰および評価項目】主要転帰は、全死因死亡とした。心血管疾患(CVD)および癌による死亡を副次転帰とした。3次スプラインと四分位分類を用いて年齢、性別、人種・民族、教育、食習慣、喫煙状況、BMI、自己申告の健康状態、運動制限および糖尿病、脳卒中、心疾患、心不全、癌、慢性気管支炎、肺気腫の診断で調整し、ハザード比(HR)、死亡率および95%信頼区間を推算した。 【結果】計4840例(平均年齢56.8歳、54%が女性、36%が肥満)が加速度計を平均5.7日間、1日平均14.4時間装着した。1日当たりの平均歩数は9124歩であった。追跡期間平均10.1年間で1165例が死亡し、そのうち406例がCVD死、283例が癌死であった。調整前の全死因死亡発生密度は、1日4000歩未満の655例で1000人年当たり76.7(死亡419例)、1日4000~7999歩の1727例で1000人年当たり21.4(死亡488例)、1日8000~11999歩の1539例で1000人年当たり6.9(死亡176例)、1日12000歩以上の919例で1000人年当たり4.8(死亡82例)だった。1日当たりの歩数4000歩と比べると1日当たりの歩数8000歩(HR 0.49、95%CI ~0.55)、12000歩(HR 0.35、95%CI 0.28~0.45)で全死因死亡が有意に低下した。歩調の30分間最大値別の調整前の全死因死亡発生密度は、18.5~56.0歩/分の1080例で1000人年当たり32.9(死亡406例)、56.1~69.2歩/分の1153例で1000人年当たり12.6(死亡207例)、69.3~82.8歩/分の1074例で1000人年当たり6.8(死亡124例)、82.9~149.5歩/分の1037例で1000人年当たり5.3(死亡108例)だった。1日当たりの総歩数で調整すると、歩行強度が上がっても死亡率の有意な低下は認められなかった(例:歩調の30分最大値最低四分位に対する最高四分位のHR 0.90、95%CI 0.65~1.27、傾向のP=0.34)。 【結論】米国成人の代表標本を基にすると、1日当たりの歩数が多いほど全死因死亡が有意に低下した。1日の総歩数で調整すると、歩行強度と死亡率に有意な関連はなかった。 第一人者の医師による解説 複雑な歩行強度より単純な歩数が有用 患者の運動指導に有用なエビデンス 石橋 由基/岡村 智教(教授) 慶應義塾大学医学部衛生学公衆衛生学教室 MMJ. October 2020; 16 (5):147 身体活動がさまざまな疾患を予防することはよく知られており、中でも歩行は広く取り入れられている。また単なる歩数ではなく、歩行強度と呼ばれる歩行速度に焦点を当てた研究も近年注目されており、歩行速度が死亡リスクの低下と関連しているとの報告もある(1)。しかしながら、どのくらいの歩行速度が良いのか、また歩数と歩行速度のどちらがより健康に資するのかは明らかになっていない。  本研究は、全米健康栄養調査(National Health and Nutrition Examination Survey)に参加し、2003~06年に加速度計(ActiGraph model 7164)を着用した40歳以上の成人を対象とし、1日あたりの歩数と歩行強度(歩行強度の評価には以下の3つの指標を用いた:歩調の平均速度[60歩 /分で2分以上の歩行での速度]、30分間最大値[peak30]、1分間最大値[peak1])と死亡率との間の用量反応関係を記述するために実施された。主要アウトカムは全死亡、副次アウトカムは、心血管疾患死とがん死とされた。補正前全死亡率は、1日の歩数が4,000歩未満の群で76.7/1,000人年、同4,000~7,999歩群で21.4/1,000人年、同8,000~11,999歩群で6.9/1,000人年、同12,000歩以上群で4.8/1,000人年であり、調整後も4,000歩 /日と比べて、8,000歩 /日と12,000歩 /日は全死亡率の有意な低下と関連していた。一方、peak30別にみた補正前全死亡率は歩行強度に従って低下傾向にあったが、総歩数/日で調整すると、歩行強度が増大しても死亡率の低下はみられなかった。これは他の歩行強度の指標でも同様の傾向であった。  本研究は加速度計の測定を加味した歩行強度に比べて、より単純に計測できる1日の歩数がより低い死亡率と関連していることを明らかにした点で新規性がある。日本でも「健康日本21」で、男女別に歩数の目標値が設定されている(2)。本研究は歩行強度という複雑な指標よりも日々の歩数という単純な指標が予後予測に有用であったことを示唆した点で、患者の運動指導にも有用なエビデンスになりうるだろう。 1. Studenski S et al. JAMA. 2011;305(1):50-58. 2. 厚生労働省 健康日本 21 目標値一覧 (https://www.mhlw.go.jp/www1/topics/kenko21_11/t2a.html)
1990年から2017年における慢性腎疾患の世界的、地域的、および国家的負担:世界疾病負担研究2017のシスティマティック分析
1990年から2017年における慢性腎疾患の世界的、地域的、および国家的負担:世界疾病負担研究2017のシスティマティック分析
Global, regional, and national burden of chronic kidney disease, 1990-2017: a systematic analysis for the Global Burden of Disease Study 2017 Lancet. 2020 Feb 29;395(10225):709-733. doi: 10.1016/S0140-6736(20)30045-3. Epub 2020 Feb 13. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 背景: 医療制度を計画する上で、慢性腎疾患(CKD)の疫学を注意深く評価する必要がありますが、CKDの罹患率と死亡率に関するデータは、多くの国で不足しているか、存在していません。私たちは、2017年の世界疾病負担、負傷、および危険因子研究について、CKDの世界的、地域的、および全国的な負担、ならびに腎機能障害に起因する心血管疾患および痛風の負担を推定しました。全てのステージのCKDの罹患率と死亡率を調べるためにCKDという用語を使用し、心血管疾患と痛風によるCKDの追加リスクを調べるために腎機能障害という用語を使用しました。 方法: 私たちが使用した主なデータソースは、公開された文献、人口動態登録システム、末期腎疾患登録、および世帯調査でした。CKD負担の推定値は、死因アンサンブルモデル(Cause of Death Ensemble model)とベイズのメタ回帰分析ツールを使用して算出されました。ここでは、発生率、有病率、障害のあった年数、死亡率、死亡年、および障害調整生命年(DALY)を組み込みました。腎機能障害に起因する心血管疾患と痛風による負担の割合の推定には、比較リスク評価アプローチを適用しました。 結果: 世界的に、2017年に120万人(95%の不確実性区間[UI] 120万~130万)がCKDで死亡しました。CKDによる世界の全年齢死亡率は、1990年から2017年の間に41.5%(95%UI 35.2~46.5)増加しましたが、年齢標準化死亡率に有意な変化は認められませんでした(2.8%、 -1.5~6.3)。 2017年には、全ステージのCKDで6億9,750万症例(95%UI 6億4,920万~7億5,200万)が記録され、世界的な有病率は9.1%(8.5~9.8)でした。CKDの世界的な全年齢有病率は、1990年以降29.3%(95%UI 26.4~32.6)増加しましたが、年齢標準化された有病率は横ばいでした(1.2%、-1.1から3.5)。CKDのDALYは、2017年に3,580万(95%UI 3,370万~3,800万)となり、糖尿病性腎症がほぼ3分の1を占めました。CKDの負担のほとんどは、社会人口統計指数(SDI)の五分位の下位3つに集中していました。いくつかの地域、特にオセアニア、サハラ以南のアフリカ、ラテンアメリカでは、CKDの負担は経済発展レベルから予想されるよりもはるかに高かったのに対し、サハラ以南の西、東、中央アフリカ、東アジア、南アジア、中央および東ヨーロッパ、オーストラリア、西ヨーロッパでは、負担は予想を下回っていました。心血管疾患関連では140万例(95%UI 120万~160万)の死亡と2,530万(2,220万~2,890万)の心血管疾患DALYが、腎機能障害に起因していると考えられました。 解釈: 腎疾患は、世界的な病的状態と死亡の直接的な原因として、そして心血管疾患の重要な危険因子として、健康に大きな影響を及ぼします。殆どのCKDは予防と治療が可能であり、特にSDIが低/中程度の地域では、グローバルヘルスポリシーの意思決定において、より大きな注意を払う必要があります。 研究資金: Bill & Melinda Gates Foundation. 第一人者の医師による解説 一般の認知度は10%未満 世界的な認知度向上と早期発見体制の確立が必要 山縣 邦弘 筑波大学医学医療系腎臓内科学教授 MMJ. October 2020; 16 (5):140 慢性腎臓病(CKD)は末期慢性腎不全(ESKD)への進展だけでなく心血管死の重要な危険因子であることから、全世界的に疾病対策の重要性が唱えられてきた。本論文では、全世界で7億人以上が罹患し、年間120万人以上が死亡するCKDについて、障害調整生存年(DALYs)という指標から論じている。DALYsによる疾患の評価については、世界保健機関(WHO)のGlobal Burden of Disease (GBD)プロジェクトが指標として使用し、GBDでは現在133疾患について検討が進められている。CKDはGBD対象疾患における死因の12番目を占め、結核や後天性免疫不全症候群(AIDS)による死亡よりも多く、自動車事故死と同等とされている。近年世界的にESKD患者数が増加し、腎代替療法(透析や腎移植療法)を必要とする患者数が今後も増加すると予測されている。このことは先進国を中心に、国民所得が高い国々の集計結果をもとに検討されてきた。しかし近年では、発展途上国でも高血圧や糖尿病などによるCKD発症・進展リスクにさらされるようになり、ESKD患者数は全世界的に急速に増加している。毎年200万人以上の患者が新たに腎代替療法を開始しているものの、ほぼ同数の患者が腎代替療法を受けることができずに死亡してい るという事実も知られている(1)。  本論文では腎代替療法導入やCKD罹患に伴う負担と、腎代替療法非導入を含めたCKDのために死亡することによる負担を合わせた数値指標であるDALYsを地球規模、地域別、国別に算出することによって、今後のCKD対策の方向性を検討した。過去27年間で、CKD患者の罹病率、死亡率とも有意に上昇しており、この理由として人口の高齢化や、糖尿病、高血圧といったCKD発症の危険因子保有者の増加が挙げられた。一方、人口の高齢化の影響を考慮した年齢標準変動率では、全世界でCKDによる人口あたりのDALYsは過去27年間で8.6%低下していたが、CKDにおけるこの低下は他の非感染性疾患(NCD)に比べ少なく、CKD対策が不十分であることを示していた。特に発展途上国を中心に経済的に困窮した地域では先進国に比べ15倍以上 DALYsが高い。このような中で一般人におけるCKDの認知度は先進国、発展途上国とも同様に10%未満で認知度が極めて低い。また早期のCKDを発見し、進行を抑制することは医療経済的にも有用性が証明されているものの、各国のCKDスクリーニング体制が不十分であり、CKDの早期発見、腎機能が高度に悪化する前での治療体制の確立が世界的に求められている。また透析や腎移植といった腎代替療法をどの国でも同等に実施できる施設面での整備を急ぐことも重要な課題として挙げられた。 1. Liyanage T, et al. Lancet. 2015;385(9981):1975-1982.
食事摂取によるナトリウムの減量と減量期間が血圧レベルに及ぼす影響:システマティックレビューとランダム化試験のメタアナリシス
食事摂取によるナトリウムの減量と減量期間が血圧レベルに及ぼす影響:システマティックレビューとランダム化試験のメタアナリシス
Effect of dose and duration of reduction in dietary sodium on blood pressure levels: systematic review and meta-analysis of randomised trials BMJ. 2020 Feb 24;368:m315. doi: 10.1136/bmj.m315. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 目的: 食事で摂るナトリウムの減量と血圧変化の用量反応関係を調べ、介入期間の影響を調査することを目的としました。 デザイン: PRISMAガイドラインに基づいてシステマティックレビューとメタ分析を行うデザインとしました。 データソース: Ovid MEDLINE(R)、EMBASE、Cochrane Central Register of Controlled Trials(Wiley)、そして2019年1月21日までの関連記事の参照リストをデータソースとしました。 試験選択の適格基準: 24時間尿中ナトリウム排泄量で評価したナトリウム摂取量を成人集団間で比較したランダム化試験を組み入れました。 データの抽出と分析: 3人のレビューアのうち2人が、個々にデータの適格性に関するスクリーニングを行いました。1人のレビューアが全てのデータを抽出し、他の2人がデータの正確性をレビューしました。レビューアは、ランダム効果メタ分析、サブグループ分析、およびメタ回帰分析を実行しました。 結果: 12,197人の対象者を含む133の研究が組み入れられました。24時間尿中ナトリウム排泄量、収縮期血圧(SBP)、および拡張期血圧(DBP)の平均低下(ナトリウム低下群 vs. ナトリウム通常量群)は130mmol(95%CI:115〜145、P<0.001)、 4.26mmHg(3.62〜4.89、P<0.001)、および2.07mmHg(1.67〜2.48、P<0.001)でした。24時間尿中ナトリウム排泄量が50mmol低下するごとに、SBPは1.10mmHg(0.66〜1.54; P<0.001)低下し、DBPは0.33mmHg(0.04〜0.63; P=0.03)低下しました。 血圧の低下は、高血圧および非高血圧にかかわらず、調査対象となった多様な集団で観察されました。24時間尿中ナトリウム排泄量の低下が同一の集団間で比較したところ、高齢者、非白人、そしてベースラインSBPレベルが高い集団でより大きなSBP低下が認められました。15日未満の試験では、24時間尿中ナトリウム排泄量が50mmol低下するごとに、1.05mmHg(0.40〜1.70; P=0.002)のSBP低下が見られ、より長い期間の研究で観察された血圧低下の半分未満でした(2.13 mmHg; 0.85〜3.40; P=0.002)。それ以外については、試験期間とSBP低下の間に関連性は認められませんでした。 結論: ナトリウム減量によって達成された血圧低下の程度は、用量反応関係を示し、高齢者、非白人、ベースライン時に高い血圧を示した集団でより顕著でした。短期間の研究では、ナトリウム減量が血圧に及ぼす影響は過小評価されていました。 システマティックレビュー登録: PROSPEROCRD42019140812 出版はBMJ Publishing Group Limitedです。使用許可については(ライセンス未取得の場合)、http://group.bmj.com/group/rights-licensing/permissions へアクセスしてください。 利益相反: すべての著者は、www.icmje.org /coi_disclosure.pdfにあるICMJE統一開示フォームに記入し、以下を宣言します:提出された研究に対していかなる組織からの助成を受けていません。本研究以外では、BNは中国のSalt ManufacturingCompanyとNutekから試験の塩の補充を受けています。MWは、オーストラリア国立健康医学研究財団のグラント(1080206および1149987)によってサポートされており、アムジェン、キリンから謝金を受けています。NRCCは、World Action on Salt and Healthの無償メンバーであり、多くの政府/非政府組織におけるナトリウム接種と高血圧管理に関するコンサルタントを行っています。AALは、Hypertension Canada New InvestigatorAwardによって資金提供されています。FJHは、塩と健康に関するコンセンサスアクション(CASH)および塩と健康に関する世界アクション(WASH)のメンバーです。 CASHとWASHはどちらも非営利の慈善団体であり、FJHはCASHまたはWASHからの財政的支援を受けていません。GAMは、Blood Pressure UK (BPUK)の議長、Consensus Action on Salt and Health (CASH) の議長、およびWorld Action on Salt and Health (WASH)の議長を務めています。 BPUK、CASH、WASHは非営利の慈善団体であり、GAMはこれらの団体から財政的支援を受けていません。 第一人者の医師による解説 これまでの研究のメタ解析 降圧に国民的減塩政策の有用性を示唆 平田 恭信 東京逓信病院・名誉院長 MMJ. October 2020; 16 (5):132 食塩の過剰摂取が素因のある人では高血圧を招来することは周知である。同時に食塩摂取量の減少が血圧を低下させることも多くの研究で示されてきた。しかしこれをもってすべての人に減塩を勧めることに対してはいまだ異論も少なくない。それは減塩による降圧効果が高血圧者あるいは食塩の多量摂取者だけに認められるとの最近の報告に代表される(1)。  本研究ではこれまでの減塩と血圧変化との関係を調べた研究のメタ解析によって、減塩による降圧効果はどのような人に認められるのか、減塩の程度や期間と降圧効果の大きさについて検討している。いつも問題になるのは減塩の評価法である。主流は食事内容から算出する方法と尿中ナトリウム排泄量を測定する方法である。最近は簡便性のためスポット尿でクレアチニン補正をすることが多くなったが、それは誤差が多いとして今回は24時間尿中ナトリウム排泄量を測定した論文だけを解析している。その結果、減塩により老若男女、高血圧の有無を問わず一定の血圧低下が認められた。解析した133論文の平均値では、130mmol/日のナトリウム摂取量減少によって収縮期 /拡張期血圧は4.26/2.07mmHg低下したという。必ずしも大きな降圧値ではないが、拡張期血圧がわずか2mmHg下がると心血管イベントの発症は10~20%も減少することが知られている(2)。  また、その効果は血圧値が高いほど、減塩量が多いほど、高齢者、非白人で大きかった。ここまでの結果は予想の範囲内であったが、減塩期間が2週間以内では降圧効果が十分に発揮されず、さらなる期間の延長によって降圧値が倍加したというのは新知見であろう。DASH研究でも4週目の降圧がそれまでの週より大きかったという報告に合致する(3)。減塩効果を厳密に測定しようとすると入院下の観察あるいはそれに準じた監視が必要になる。それにはどうしても2週間くらいが限度と思われるからである。  我々日本人は食塩大好き国民であり、昔よりは改善したといっても依然11g/日以上の食塩を摂取していて世界保健機関(WHO)の勧めている5g/日未満とは隔たりがある。英国では減塩政策により遠大な計画のもと巧妙な食品メーカーの誘導が成功して食品中の減塩により、心血管病ならびに医療費が減少した。わが国でも国民をあげての減塩政策は高血圧の予防あるいは発症の遅延に有用であろう。 1. Mente A et al. Lancet. 2018;392:496-506. 2. Czernichow S et al. J Hypertens. 2011;29:4-16. 3. Juraschek SP et al. Hypertension. 2017;70:923-929.
2017 ACC/AHA血圧ガイドラインで定義した孤立性拡張期高血圧症と心血管転帰発症との関連
2017 ACC/AHA血圧ガイドラインで定義した孤立性拡張期高血圧症と心血管転帰発症との関連
Association of Isolated Diastolic Hypertension as Defined by the 2017 ACC/AHA Blood Pressure Guideline With Incident Cardiovascular Outcomes JAMA. 2020 Jan 28;323(4):329-338. doi: 10.1001/jama.2019.21402. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【重要性】2017年米国心臓病学会・米国心臓協会(ACC/AHA)ガイドラインでは、高血圧症の定義を血圧140/90mmHg以上から130/80mmHg以上に引き下げた。新たな拡張期血圧閾値80mmHgは、専門家の意見と孤立性拡張期高血圧症(IDH)の定義変更を基に推奨された。 【目的】米国のIDH有病率を2017 ACC/AHAと2003年米国合同委員会(JNC7)による定義で比較し、IDHと転帰の横断的および縦断的な関連を明らかにすること。 【デザイン、設定および参加者】米国国民健康栄養調査(NHANES 2013~2016年)の横断的解析および動脈硬化症リスク(ARIC)試験(1990~1992年に調査開始、2017年12月31日まで追跡)の縦断的解析。縦断的結果を2つの外部コホート――(1)NHANES III(1988~1994年)とNHANES 1999~2014、(2)Give Us a Clue to Cancer and Heart Disease(CLUE)IIコホート(1989年に調査開始)――を用いて検証した。 【曝露】2017 ACC/AHA(収縮期血圧130mmHg未満、拡張期血圧80mmHg以上)とJNC7(収縮期血圧140mmHg未満、拡張期血圧90mmHg以上)で定義したIDH。 【主要転帰および評価項目】米国成人のIDH有病率および2017 ACC/AHAガイドラインによりIDHに対する薬物治療を推奨された米国成人の割合。ARIC試験では、アテローム動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)、心不全、慢性腎臓病(CKD)の発症リスク。 【結果】被験者集団はNHANESから9590例(調査開始時の平均年齢49.6歳、52.3%が女性)とARIC試験から8703例(調査開始時の平均年齢56.0歳、57.2%が女性)を対象とした。NHANESのIDH推定有病率は2017 ACC/AHAガイドライン定義で6.5%、JNC7定義で1.3%だった(絶対差5.2%、95%CI 4.7~5.7%)。新たにIDHに分類された被験者のうち推定0.6%(95%CI 0.5-0.6%)がガイドラインの降圧治療の基準を満たした。正常血圧のARIC試験参加者と比べると、2017 ACC/AHA定義によるIDHにASCVD(1386件、追跡期間中央値25.2年、HR 1.06、95%CI 0.89~1.26)、心不全(1396件、HR 0.91、95%CI 0.76~1.09)、CKD(2433件、HR 0.98、95%CI 0.65~1.11)の発症リスクとの有意な関連が認められなかった。2件の外部コホートでもまた、心血管死との関連が否定的であった[例:2017 ACC/AHA定義によるIDHのHRがNHANES(1012件)で1.17、95%CI 0.87~1.56、CLUE II(1497件)で1.02、95%CI 0.92~1.14]。 【結論および意義】米国成人を対象とした本解析では、IDHの推定有病率は2017 ACC/AHA血圧ガイドラインの定義の方がJNC7ガイドラインよりも高かった。しかし、IDHによる心血管転帰のリスクの有意な上昇は見られなかった。 第一人者の医師による解説 拡張期血圧がIDH基準の80mmHg以上なら経過観察を 下澤 達雄 国際医療福祉大学医学部臨床検査医学主任教授 MMJ. October 2020; 16 (5):130 数年に1度、高血圧診療ガイドラインは改訂されており、日本でも2019年に新しい版が発行された(1)。日本と米国のガイドラインで大きく異なる点は高血圧の定義となる血圧の臨床判断値であろう。日本は従来どおりの140/90mmHgを高血圧の臨床判断値としているが、米国は2017年のACC/AHAガイドラインで130/80mmHgへと変更した。これに伴い、2003年 のJoint National Committee(JNC7)において拡張期血圧90mmHg以上かつ収縮期血圧140mmHg未満としていた孤立型拡張期高血圧症(isolated diastolic hypertension; IDH)の定義が拡張期血圧80mmHg以上かつ収縮期血圧130mmHg未満に変更された。その結果、米国のデータベースを用いた今回の横断的調査によると、IDHの頻度 は1.3%(2003 JNC7)から6.5%(2017ACC/AHA)へと上昇し、治療介入対象者が増える結果となった。しかし、Atherosclerosis Risk in Communities(ARIC)試験参加者のデータを再解析したところ、新しいIDHの定義は心血管イベントや慢性腎臓病(CKD)発症リスク、死亡リスクとの関連において従来の定義より優れていることは示されなかった。  疫学調査では拡張期血圧が75mmHgを超えると徐々に心血管イベントが増加することから、ACC/AHAガイドラインでは高血圧の臨床判断値を80mmHgに引き下げた。しかし、IDHの収縮期血圧は130mmHg未満であり、平均血圧にすると拡張期、収縮期とも130/80mmHgを超える例より低くなる。また、介入試験においてHOT試験(2)のように拡張期血圧を90mmHgまたは80mmHgまで下げても心血管イベント抑制効果に差は認められないといった報告もある。つまり、観察研究と介入研究で差異がある。  さらに、今回の検討ではIDHの定義を満たす成人の年齢構成は55歳未満が多くなっている。また従来の定義で診断されるIDHに比べ、低比重リポ蛋白(LDL)-コレステロール値、トリグリセリド値が低く、脂質異常症に対する介入割合が高く、推算糸球体濾過量(eGFR)も高くなっている。ウィンドケッセルモデルからもわかるように若年高血圧患者では血管の弾力性が保たれているため拡張期血圧は高くなりやすい。そのため心血管リスクとしてのIDHの意義が薄れていた可能性も考えられる。  この結果から拡張期血圧は放置してよいということにはならず、米国のIDHの基準であれば経過観察を行い、収縮期血圧が上がってくるようであれば生活習慣の改善から介入を進めるべきであろう。 1. 高血圧診療ガイドライン 2019 年版(日本高血圧学会編) 2. Hansson L et al. Lancet. 1998;351(9118):1755‐1762.
ランダム化臨床試験の治療効果推定に対する盲検化の影響:メタ疫学研究
ランダム化臨床試験の治療効果推定に対する盲検化の影響:メタ疫学研究
Impact of blinding on estimated treatment effects in randomised clinical trials: meta-epidemiological study BMJ. 2020 Jan 21;368:l6802. doi: 10.1136/bmj.l6802. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 目的: 治療効果推定に対する盲検化の影響、およびそれらの試験間の変動を調べることを目的としました。具体的には、患者、医療提供者、および観測者の盲検化を区別し、検出バイアスと実施上のバイアス、そして結果の種類について検討しました(MetaBLIND研究)。 デザイン: メタ疫学研究 データソース: Cochrane Database of Systematic Reviews (2013-2014年). 試験選択の適格基準: 任意のトピックに関する盲検試験と非盲検試験の両方によるメタアナリシス。 レビュー方法: 盲検状態は試験についての出版物と著者から取得され、結果はCochrane Database of Systematic Reviewsから自動的に取得されました。ベイズの階層モデルによって、オッズ比(ROR)の平均比を推定し、非盲検試験(またはステータスが不明)と盲検試験の試験間の不均一性を推定しました。二次分析では、割り当ての秘匿性、被験者の減少、および試験規模の妥当性を調整し、結果の主観性(高、中、低)と平均バイアスとの関連を調査しました。RORが1未満の場合は、盲検化なしの試験で効果の推定値が誇張されていることを示しています。 結果: 本研究では、142件のメタアナリシス(1,153件の試験)を対象としました。患者の盲検化を行っていない試験のRORは、結果が患者の報告に基づく18のメタアナリシスで0.91(95%信頼区間0.61から1.34)であり、盲検化された観測者によって報告された結果に基づく14のメタアナリシスで0.98(0.69から1.39)でした。医療提供者の盲検化を行っていない試験のRORは、医療提供者による決定(再入院など)に基づく29のメタアナリシスで1.01(0.84〜1.19)であり、盲検化された患者または観測者によって報告された結果に基づく13のメタアナリシスで0.97(0.64〜1.45)でした。観測者の盲検化を行っていない試験のRORは、観測者が報告した主観的な結果に基づく46のメタアナリシスで1.01(0.86から1.18)であり、主観性の程度に対する明確な関連は認められませんでした。盲検化していないことが試験間の不均一性の増加と関連していたかどうかを判断するには、情報が不十分でした。二重盲検として報告されていない試験と二重盲検である試験のRORは、74件のメタアナリシスで1.02(0.90〜1.13)でした。 結論: 患者、医療提供者、または観測者が盲検化されている場合とされていない場合で治療効果推定に平均差が生じることを示すエビデンスは見つかりませんでした。これらの結果から、盲検化は、従来信じられてきたのとは異なり、残余の交絡因子や不正確さといったメタ疫学研究におけるリミテーションと比較して、重要ではないという可能性が示唆されます。ただし、現段階においては、本研究の再現が提案されており、盲検化は臨床試験における方法論のセーフガードの位置づけを外れたわけではありません。 利益相反: すべての著者は、ICMJE統一開示フォームで下記について宣言しています:過去3年間に提出された研究に関心を持つ可能性のある組織との金銭的関係はありません。出版投稿された研究に影響を与えたと思われる他の関係や活動はありません。 第一人者の医師による解説 対象少なくさらなる研究必要 可能な限り盲検化の方針は変わらず 松山 裕 東京大学大学院医学系研究科生物統計学分野教授 MMJ. October 2020; 16 (5):149 ランダム化比較試験(RCT)は治療効果をバイアスなく評価するための最も信頼性の高い試験デザインであり、その結果は日常診療の実践や規制当局の判断において重要なエビデンスとなる。RCTの中でも最も質が高いとされる二重盲検試験は、患者だけでなく医師に対しても盲検化を行うことで、患者選択と対象者の管理・評価にわたって比較群の平等性(比較可能性:comparability)を高く保つ有効な手段とされている。また、医師に対する盲検化が困難な場合でも、アウトカム評価者には盲検化を行うなど盲検化のレベルを変えて、可能な限り盲検化を行うことが推奨されている。  本研究では、2013年2月から1年間にコクランレビューに公表された1,042件のメタアナリシス研究から、盲検化を行った研究と非盲検の研究を少なくともそれぞれ1つは含む研究を抽出し、盲検化研究に比べて非盲検研究の方が治療効果を過大評価しているかを調べた。盲検化のレベルは、患者・医療提供者・アウトカム評価者の3種類とし、以下の5項目を主要解析対象とした: (Ⅰa)患者立脚型アウトカムに対する患者の盲検化 (Ⅰb)盲検化された評価者によるアウトカムに対する患者の盲検化 (Ⅱa)医療提供者が評価したアウトカムに対する医療提供者の盲検化 (Ⅱb)盲検化された評価者あるいは患者によるアウトカムに対する医療提供者の盲検化 (Ⅲ)主観的アウトカムに対するアウトカム評価者の盲検化  解析対象は142件(1,153試験)のメタアナリシス研究であった(盲検化の有無・内容が不明な試験は67試験[6%])。すべてのアウトカムを二値化したうえで治療効果の大きさをオッズ比で表現し、盲検化試験でのオッズ比に対する非盲検試験でのオッズ比の比(ratios of odds ratios ;ROR)をベイズ的階層モデルによって併合した。その結果、上記5つのいずれの項目に関してもRORの値はほぼ1であり、盲検化試験と非盲検試験でのオッズ比に差は認められなかった。  著者らも述べているように、本研究では評価の信頼性が懸念されるアウトカムに関して盲検化を複数のレベルでとらえて検討している点が強みである。しかしながら、対象試験数の少なさ(ROR推定値の信用区間幅の広さ)、交絡バイアスの影響、統計学的に差がないことをもって同等であると評価している点など本研究にはいくつか問題点もみられるため、さらなる研究が必要であり、現段階では可能な限り盲検化を行うという方針に大きく変更はないと思われる。
微小粒子状物質への長期的曝露と脳卒中発症 China-PARプロジェクトの前向きコホート研究
微小粒子状物質への長期的曝露と脳卒中発症 China-PARプロジェクトの前向きコホート研究
Long term exposure to ambient fine particulate matter and incidence of stroke: prospective cohort study from the China-PAR project BMJ. 2019 Dec 30;367:l6720. doi: 10.1136/bmj.l6720. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【目的】中国人成人で、粒子径2.5 μm未満の微小粒子状物質(PM2.5)への長期的暴露が全体、虚血性および出血性脳卒中の発症率に及ぼす作用を調べること 【デザイン】住民対象前向きコホート研究。 【設定】中国の15省で遂行したPrediction for Atherosclerotic Cardiovascular Disease Risk in China(China-PAR)プロジェクト。 【参加者】China-PARプロジェクトで追跡開始時に脳卒中がなかった中国人男女11万7575例。 【主要評価項目】全体、虚血性および出血性脳卒中の発症。 【結果】参加者の居住地住所の2000~2015年の平均PM2.5濃度は64.9μg/m3(範囲31.2~ 97.0μg/m3)だった。90万214人年の追跡中、脳卒中3540件が発生し、そのうち63.0%が虚血性、27.5%が出血性だった。PM2.5曝露量の最低四分位群(54.5μg/m3未満)と比べると、最高四分位群(78.2μg/m3)は脳卒中(ハザード比1.53、95%CI 1.34~1.74)、虚血性脳卒中(同1.82、1.55~2.14)および出血性脳卒中(同1.50、1.16~1.93)発症のリスクが高かった。PM2.5濃度が10μg/m3高くなると、脳卒中、虚血性脳卒中および出血性脳卒中の発症リスクがそれぞれ13%(同1.13、1.09~1.17)、20%(1.20、1.15~1.25)、12%(1.12、1.05~1.20)上昇した。PM2.5への長期的曝露と脳卒中発症率(全体と種類別)の間にほとんど線形の曝露反応関係が認められた。 【結論】この試験は、濃度がいくぶん高いPM2.5への長期的暴露に脳卒中とその主要な種類の発症との正の関連を示した中国からの科学的根拠を提示するものである。この結果は、中国だけでなく、その他の低所得国および中所得国の大気汚染と脳卒中予防関連の環境および健康政策の立案に意義あるものである。 第一人者の医師による解説 中国より低濃度の日本でも 脳血管障害のリスクに関する知見が必要 道川 武紘(講師)/西脇 祐司(教授) 東邦大学医学部社会医学講座衛生学分野 MMJ. October 2020; 16 (5):146 以前は、微小粒子状物質、PM2.5(空気力学径が2.5μ m以下の粒子)、というと「午後2時半?」と聞き返されたと聞いているが、今では小学生でも聞いたことがある環境用語になっていて、その健康に与える影響が懸念されている。PM2.5の健康影響に関して米国環境保護庁は定期的に最新の科学的知見を整理した報告書を公表しており、最新2019年版では以前の2009年版と同様に「長期的(年単位)なPM2.5曝露と循環器疾患との関連性には因果関係がある」と発表した(1)。ただしこれは主に心血管疾患との関連性に関するもので、脳血管疾患については心血管疾患よりも疫学研究の知見は少なく、分類別(虚血性と出血性)の検討も十分とは言えない。  本研究は中国の4つのコホートからなるChinaPAR projectのデータを利用して、15省に住んでいた117,575人の男女(ベースライン時平均年齢50.9歳)について長期的なPM2.5曝露と脳血管疾患初回発症との関連性を、虚血性と出血性に分けて検討した。2000~15年にかけて、その間の引っ越しも考慮したうえでの各参加者自宅におけるPM2.5濃度の平均は64.9 μ g/m3(範囲 , 31.2~ 97.0 μ g/m3)であった。年齢、性別、地域、喫煙など交絡しうる因子を調整したうえで、PM2.5濃度が10 μ g/m3高くなると虚血性の脳血管障害発症は1.20(95%信頼区間[CI], 1.15 ~ 1.25)倍、出血性は1.12(1.05 ~ 1.20)倍増えるという関連性が観察された。今回の濃度範囲(31.2 ~97.0 μ g/m3)では、PM2.5濃度上昇に伴い直線的に脳血管障害のリスクが上昇していた。  2017年における東京区部年平均 PM2.5濃度は13.4 μ g/m3あったのに対して北京では58.5 μg/m3であった。これまでのところ日本のPM2.5濃度は中国よりも明らかに低いので、相対的に低濃度の日本でも同様の関連性が観察されるのか興味深い。最近、茨城県健康研究データを利用し、PM2.5とそれよりも径の大きい粒子を含む浮遊粒子状物質(SPM)への長期曝露と循環器疾患死亡との関連性を調べた結果が報告された(2)。この研究では、男性においてベースライン調査時点(1990年)のSPM濃度と虚血性脳血管障害リスクは正の関連性を示す傾向にあった(SPM 10 μ g/m3上昇に対して1.25[95% CI, 0.99~1.57]倍リスク上昇)。日本ではPM2.5の環境基準設定から10年経過しようやく観測データが蓄積されてきたので、わが国においても長期的なPM2.5曝露が脳血管障害の危険因子となりうるのか、知見が待たれる。 1. United States Environmental Protection Agency. Integrated Science Assessment (ISA) for Particulate Matter, 2019.(https://bit.ly/31BxuMI) 2. Takeuchi A, et al. J Atheroscler Thromb 2020 (in press).
限局性前立腺癌のアンドロゲン抑制療法実施の有無別にみた積極的監視、手術、小線源療法、放射線外部照射療法の5年にわたる患者報告転帰
限局性前立腺癌のアンドロゲン抑制療法実施の有無別にみた積極的監視、手術、小線源療法、放射線外部照射療法の5年にわたる患者報告転帰
Patient-Reported Outcomes Through 5 Years for Active Surveillance, Surgery, Brachytherapy, or External Beam Radiation With or Without Androgen Deprivation Therapy for Localized Prostate Cancer JAMA. 2020 Jan 14;323(2):149-163. doi: 10.1001/jama.2019.20675. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【重要性】低リスクおよび高リスク限局性前立腺癌に用いる現在の治療戦略の有害作用を理解することで、治療選択に有用な情報を得ることができると思われる。 【目的】前立腺がん治療後5年間の転帰を機能的転帰を比較すること。 【デザイン、設定および参加者】2011年から2012年の間に診断を受けた低リスク(臨床分類cT1~cT2bN0M0、PSA 20ng/mL以下、グレードグループ1~2を満たす)前立腺癌患者1385例と高リスク(臨床分類cT2cN0M0、PSA 20~50ng/mL、グレードグループ3-5のいずれかに該当)前立腺癌患者619例を対象とした前向き住民対象コホート研究。Surveillance, Epidemiology and End Results(SEER)プログラム5施設および米前立腺がん登録から開始し、2017年9月まで追跡した。 【曝露】低リスク患者への積極的監視(363例)、神経温存前立腺全摘除(765例)、放射線外部照射療法(EBRT、261例)または低線量率小線源療法(87例)による治療、高リスク患者への前立腺全摘除(402例)またはアンドロゲン抑制療法併用EBRT(217例)。 【主要転帰および評価項目】26項目からExpanded Prostate Index Composite(0~100点)を基に判定した治療5年後の患者報告機能。調査開始時の機能、患者背景および腫瘍の特徴を回帰モデルで調整した。性機能10~12点、尿失禁6~9点、排尿刺激症状5~7点、排便およびホルモン機能4~6点を臨床的に意義がある最重要差とした。 【結果】計2005例が適格基準を満たし、追跡開始時と開始後1回以上の調査を完了した(年齢中央値64歳、77%が非ヒスパニック系白人)。低リスク前立腺癌患者では、神経温存前立腺摘除が積極的監視療法と比べて5年時の尿失禁(調整平均差-10.9、95%CI -14.2~-7.6)および3年時の性機能(同-15.2、-18.8~-11.5)が不良だった。低線量率小源線療法は、積極的監視療法と比べると1年時の排尿刺激症状(同-7.0、-10.1~-3.9)、性機能(同-10.1 [95% CI, -14.6 to -5.7)および排便機能(同-5.0、-7.6~-2.4)が不良だった。EBRTは、5年間のいずれの時点でも、排尿機能、性機能および排便機能の変化に監視療法との臨床的に重要な差はなかった。高リスク患者では、前立腺全摘除と比べると、アンドロゲン抑制療法併用EBRTで6カ月時のホルモン機能(同-5.3、-8.2~-2.4)および1年時の排便機能(同-4.1、-6.3~-1.9)が低下したが、5年時の性機能(同12.5、6.2~18.7)および5年間の尿失禁(同23.2、17.7~28.7)が良好だった。 【結論および意義】限局性前立腺癌患者のコホートでは、現在の治療選択肢による機能的な差のほとんどが5年間で縮まった。しかし、前立腺全摘除を施行した患者はその他の選択肢と比べて5年間で臨床的に重要な差を認める尿失禁を報告し、前立腺全摘除を施行した高リスク患者はアンドロゲン抑制療法併用EBRTを実施した患者よりも5年時の性機能の悪化を報告した。 第一人者の医師による解説 各治療オプションにおける機能的アウトカム 患者説明において有用なデータ 神鳥 周也(講師)/西山 博之(教授) 筑波大学医学医療系腎泌尿器外科学 MMJ. October 2020; 16 (5):141 限局性前立腺がんの治療は、監視療法、手術や放射線治療など治療の選択肢が多く、10年がん特異的生存率はほぼ100%であり(1)、治療に伴う合併症による生活の質(QOL)低下が治療法を決定するうえで重要な因子の1つである。今回報告された前向きコホート研究では、米国のSurveillance,Epidemiology and End Results(SEER)プログラムおよび米国前立腺がん登録において2011~12年に限局性前立腺がんと診断された男性2,005人を対象とし、各治療から5年間の機能的アウトカム(排尿、排便、性、ホルモン機能)を限局性前立腺がん患者の健康関連 QOLの調査票であるExpanded Prostate Cancer Index Composite(EPIC)を用いて検証している。  低リスクの患者(cT1 ~ cT2bN0M0、前立腺特異抗原[PSA]20 ng/mL以下およびグレード分類1 ~ 2)では、監視療法(363人)、神経温存前立腺全摘術(675人)、外照射(261人)、低線量率小線源治療(87人)が行われていた。また、高リスクの患者(ステージ cT2cN0M0、PSA 20 ~50ng/mLまたはグレード分類3~5)では、前立腺全摘術(402人)、アンドロゲン除去療法(ADT)併用外照射(217人)が行われていた。  低リスクの患者では、神経温存前立腺全摘術は監視療法と比較して5年時の尿失禁(補正平均差 ,-10.9)、3年時の性機能(-15.2)の悪化を認めた。低線量率小線源治療は監視療法と比較して1年時の排尿刺激症状(-7.0)、性機能(-10.1)、排便機能(-5.0)の悪化を認めた。一方、外照射は監視療法と比較して5年間のいずれの時点でも排尿機能、性機能、排便機能に臨床的に重要な差は認められなかった。高リスクの患者では、ADT併用外照射は前立腺全摘術と比較して6カ月時点のホルモン機能(-5.3)や1年時の排便機能(-4.1)の悪化を認めたが、5年時の性機能(12.5)および5年 間の尿失禁(23.2)は良好であった。  本研究ではこれまでの報告(2),(3)とは異なり、多くの患者がロボット手術や強度変調放射線治療(IMRT)を受けており、新しい治療モダリティによる機能的アウトカムを示している。日本における限局性前立腺がん診療の現状に即したデータであり、臨床医が患者への治療オプションを説明する際に有用であると思われる。一方、これらの治療は期待余命が10年以上見込まれる患者に対して選択されるため、長期的なQOL調査の実施が期待される。 1. Hamdy FC, et al. N Engl J Med. 2016;375:1415-1424. 2. Sanda MG, et al. N Engl J Med. 2008;358:1250-1261. 3. Donovan JL, et al. N Engl J Med. 2016;375:1425-1437.
高感度心筋トロポニンを用いた症候性患者からの誘発性心筋虚血の除外 コホート研究
高感度心筋トロポニンを用いた症候性患者からの誘発性心筋虚血の除外 コホート研究
Using High-Sensitivity Cardiac Troponin for the Exclusion of Inducible Myocardial Ischemia in Symptomatic Patients: A Cohort Study Ann Intern Med. 2020 Feb 4;172(3):175-185. doi: 10.7326/M19-0080. Epub 2020 Jan 7. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】症候性安定冠動脈疾患(CAD)患者の監視に最適な非侵襲的方法は明らかになっていない。 【目的】症候性CAD患者の誘発性心筋虚血の除外に超低濃度の高感度心筋トロポニンI(hs-cTnI)を用いた新たなアプローチを応用すること。 【デザイン】前向き診断コホート研究(ClinicalTrials.gov:NCT01838148)。 【設定】大学病院。 【参加者】誘発性心筋虚血の疑いで紹介されたCADの連続症例1896例。 【評価項目】単一光子放射断層撮影(SPECT)による心筋血流シンチグラフィ、可能であれば冠動脈造影および冠血流予備量比を用いて、誘発性心筋虚血の有無を判定した。判定を伏せておいたスタッフがhs-cTn濃度を測定した。ほぼ無症状のCAD患者から事前に得たhs-cTnIカットオフ値2.5ng/Lを評価した。事前に規定した誘発性心筋虚血の除外の目標診断精度の基準を陰性適中率(NPV)90%以上かつ感度90%以上とした。hs-cTnTアッセイの測定値、さらに分析感度の高い代替hs-cTnI検査(検出限界0.1 ng/L)を基に感度解析を実施した。 【結果】全体で865例(46%)から誘発性心筋虚血が検出された。誘発性心筋虚血除外のカットオフ値2.5ng/LのMPVは70(95%CI 64-75%)、感度90%(CI 88-92%)だった。いずれの値も事前に定義した目標診断能の基準に達したhs-cTnIのカットオフ値は得られなかった。別のhs-cTnIまたは高感度心筋トロポニンT(hs-cTnT)検査でも、目標診断能の基準に達したカットオフ値はなく。hs-cTnT濃度5ng未満がNPV 66%(CI 59-72%)、hs-cTnI濃度2ng/L未満がNPV 68%(CI 62-74%)だった。 【欠点】中央判定を用いた大規模単施設診断研究でデータを生成した点。 【結論】症候性CADで、hs-cTnIカットオフ値2.5ng/Lの超低濃度hs-cTnでは、安全に誘発性心筋虚血を除外することができない。 第一人者の医師による解説 採血だけの高感度心筋トロポニン 低侵襲による心筋虚血リスク評価は多くの福音 島田 俊夫 静岡県立総合病院臨床研究部統括部長 MMJ. October 2020; 16 (5):134 高感度心筋トロポニン(hsCTn)は急性心筋梗塞、急性心筋炎、慢性心筋炎、心筋症、抗がん剤による心筋障害、心不全などで上昇することが報告されている。急性心筋梗塞の診断に関してはガイドラインも存在し適用がほぼ確立されている(1)。hsCTn検査のメリットとして、採血のみで心筋障害の有無を短時間で低侵襲的に診断できる、入院が不要、無駄な侵襲性の高い検査を回避できる、医療費の削減につながることなどが挙げられ、導入への期待は大きい。心筋トロポニンは3種類(トロポニンI、T、C)あり、臓器特異性のあるIとTが使用されている。 本論文は、hsCTnを使って安定な冠動脈疾患患者で誘発心筋虚血を評価できるか検証したチャレンジングなコホート研究の報告である。結果の詳細は原著に委ねるとして、筆者が作成した2×2分割表を詳細に分析すれば論文の内容を正確に理解できよう。そのためにはBayes乗法の定理の理解が必要であるが詳細は省略する(2)。 研究対象は安定冠動脈疾患患者1,896人で、表から有病率46%(865/1,896)が検査前確率になる。SPECT虚血陽性面積10%未満を陽性とした場合を例に示す。hsCTnIのカットオフ値は2.5ng/Lである3。本研究の関心対象は陰性結果であり、検査後オッズ =検査前オッズ×陰性尤度比=0.84×0.5=0.42であった。以上から検査後確率 =0.42/(1+0.42)=0.3で、検査前確率0.46から0.3に低下した。陽性の場合は陰性尤度比を陽性尤度比に替えると検査後確率は0.485になる。検査前確率0.46から検査後確率0.485とわずかに上がった。SPECT誘発心筋虚血面積10%以上を陽性と判定した場合、陰性において検査前確率0.14から検査後確率0.07に低下、陽性の場合は検査後確率0.15で変わらなかった。比較対照に用いたhsCTnT(エレクシス)、超 hsCTnI(エレナ)の結果もやや劣るか、同等であった。現段階では、採血によるhsCTnによる誘発心筋虚血の診断/除外は難しいが、低侵襲による心筋虚血リスク評価は多くの福音をもたらすため研究達成を期待したい。 筆者らも“健康集団(約1,000人)”を対象に血清 hsCTnI/Tを測定し、四分位数群の下位群と上位群でFraminghamリスクスコアを比較すると上位群のスコアが有意に高く、本論文の内容は意味深長だと受け止めている。 1. ygesen K, et al. J Am Coll Cardiol. 2018;72(18):2231-2264. 2. 島田俊夫 , et al. 臨床病理 2016;64:133-141. 3. Hammadah M, et al. Ann Intern Med. 2018;169(11):751-760.
ツベルクリン皮膚反応検査またはインターフェロンγ遊離試験結果が陽性を示した未治療集団の結核絶対リスク システマティック・レビューとメタ解析
ツベルクリン皮膚反応検査またはインターフェロンγ遊離試験結果が陽性を示した未治療集団の結核絶対リスク システマティック・レビューとメタ解析
Absolute risk of tuberculosis among untreated populations with a positive tuberculin skin test or interferon-gamma release assay result: systematic review and meta-analysis BMJ. 2020 Mar 10;368:m549. doi: 10.1136/bmj.m549. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【目的】結核リスクが上昇すると考えられる特徴がある未治療集団(リスクのある集団)で、ツベルクリン皮膚反応検査(TST)およびインターフェロンγ遊離試験(IGRA)、またはそのいずれかで陽性を示した後の結核年間発症率を明らかにすること。 【デザイン】システマティック・レビューとメタ解析。 【データ入手元】1990年1月1日から2019年5月17日までのEmbase、MedlineおよびCochrane Controlled Register of Trialsで、英語またはフランス後で出版されたヒト対象試験。参考文献一覧を参照した。 【選択基準とデータ解析】結核抗原検査陽性(TSTまたはIGRA)で12カ月以上追跡した未治療者10例以上を対象とした後ろ向きまたは前向きコホートおよび無作為化試験。システマティック・レビューおよびメタ解析のための優先的報告項目(PRISMA)および疫学研究に求められる観察試験のメタ解析(MOOSE)ガイドラインに従って、2名の査読者が独立して試験データを抽出し、改変版診断精度を検討した試験の質評価(QUADAS-2)ツールを用いて質を評価した。ランダム効果一般化線形混合モデルを用いてデータを統合した。 【主要評価項目】主要転帰は、リスク小集団別の検査(TSTまたはIGRA)陽性未治療集団の1000人年当たりの結核発症率とした。リスク小集団で検査陰性者と比較した不顕性結核検査陽性参加者の結核の累積発症率および発症率比を副次評価項目とした。 【結果】特定した試験5166件のうち122件を解析対象とした。一般住民を対象とした試験3件で、TSTの硬結径が10mm以上だった参加者3万3811例の結核発症率は、1000人年当たり0.3(95%CI 0.1-1.1)だった。19のリスク集団で不顕性結核感染検査が陽性だった11万6197例の発症率が一般集団よりも一貫して高かった。あらゆる種類の結核患者の接触者で、IGRA検査陽性例の結核発症率は1000人年当たり17.0(同12.9-22.4)、TST検査陽性例(硬結径5mm以上)で1000人年当たり8.4(同5.6-12.6)だった。HIV陽性者で、結核発症率はIGRA陽性例で16.9(同10.5-27.3)、TST陽性例(硬結径5mm以上)で27.1 (15.0-49.0)。このほか、移民、珪肺または透析患者、移植レシピエント、囚人の間で発症率が高かった。検査陰性例に対する検査陽性例の発症率比がいずれの検査でも、ほぼ全リスク集団で1.0以上有意に高かった。 【結論】結核発症率は、TSTまたはIGRA検査陽性後にリスクのある集団で大幅に高かった。このレビューで得られた情報は、不顕性結核感染の検査および治療に対する臨床的判断の伝達に有用となるものである。 第一人者の医師による解説 潜在性結核感染症の検査と治療の決定に必要な情報 加藤 誠也 公益財団法人結核予防会結核研究所所長 MMJ. October 2020; 16 (5):138 潜在性結核感染症(latent tuberculosis infection;LTBI)の治療の推進は、国内では低蔓延化さらに根絶を目指すため、また、国際的には世界保健機関(WHO)が進めている結核終息戦略(End TB Strategy)の目標達成のために重要である。日本結核病学会のLTBI治療指針の根拠となる論文の1つは本論文の著者 Menzies D.が関与したものであり、対象となる疾患・病態における発病リスク比が示されている(1)。本論文は,ツベルクリン反応(ツ反)またはインターフェロンγ遊離試験(interferon gamma release assay;IGRA)の結果が陽性で未治療のLTBIの発病率の絶対値を広範な系統的レビューとメタ解析によって算出したことに意義がある。さらに副次成果として感染検査で陽性者および陰性者の発病率および発病率の比を求めた。  例えば、一般の人でツ反の硬結10mm以上の陽性であった場合の1,000人年あたりの発病率は0.3であったのに対して、結核患者との接触者の発病率は、ツ反の硬結が5mm以上の場合を陽性とすると8.4、IGRA陽性では17.0と、一般の人よりもそれぞれ28倍、56倍と極めて高かった。接触者における感染検査結果による発病率の違いは、ツ反の硬結5mm以上を陽性とすると6.0倍、IGRAでは10.8倍であった。  WHOは資源が限られた国においてはHIV感染者にツ反を実施せずにLTBI治療を勧めているが、本研究の結果から感染検査の陽性者と陰性者の発病率の比は大きいので、検査は便益があることが示された。ただし、検査結果が陰性であっても一般の人よりは発病率が高いのでLTBI治療の意義はあるかもしれない。  接触者、HIV感染者、囚人、塵肺患者では発病率が極めて高かったのに対して、最近の移民・亡命者、透析が必要な人、臓器移植を受けた人、免疫抑制薬を投与されている人は、一般の人よりは高かったが、前述の群ほどではなかった。これらの情報は、臨床医が、それぞれの地域における対策の優先度、治療の可能性、受け入れ易さ、費用対効果を踏まえたうえで、LTBIの検査と治療を決定するのに有用な情報となる。なお、糖尿病、免疫抑制薬投与、低体重についてはさらにデータの蓄積が求められる。  今後、LTBI治療をさらに広く推進するために必要なのは、発病をより正確に予測可能なバイオマーカーである。WHOは専門家による合意文書を刊行し、その求められる性能として検査実施2年以内に活動性結核を発病する人を予測できることを想定している(2)。 1. Landry J et al. Int J Tuberc Lung Dis. 2008;12:1352-1364. 2. World Health Organization. (2017). Consensus meeting report: development of a target product prole (TPP) and a framework for evaluation for a test for predicting progression from tuberculosis infection to active disease.World Health Organization. https://bit.ly/2ZSeo2c. License: CC BY-NC-SA 3.0 IGO
移植患者のサイトメガロウイルス血症予防に用いるポックスウイルスベクターサイトメガロウイルスワクチン 第II相無作為化臨床試験
移植患者のサイトメガロウイルス血症予防に用いるポックスウイルスベクターサイトメガロウイルスワクチン 第II相無作為化臨床試験
Poxvirus Vectored Cytomegalovirus Vaccine to Prevent Cytomegalovirus Viremia in Transplant Recipients: A Phase 2, Randomized Clinical Trial Ann Intern Med. 2020 Mar 3;172(5):306-316. doi: 10.7326/M19-2511. Epub 2020 Feb 11. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】Triplexワクチンは、造血幹細胞移植(HCT)後間もないサイトメガロウイルス(CMV)特異的T細胞の増強およびCMV再活性化の予防を目的に開発された。 【目的】Triplexの安全性および有効性を明らかにすること。 【デザイン】初めて患者を対象とする第II相試験(ClinicalTrials.gov:NCT02506933)。 【設定】米国のHCTセンター3施設。 【参加者】CMV再活性化のリスクが高いCMV血清反応陽性のHCTレシピエント102例。 【介入】HCT後28日時および56日時にTriplexまたはプラセボの筋肉内注射。Triplexは、免疫優性CMV抗原を発現する組み換え弱毒ポックスウイルス(改変ワクシニアアンカラ) 【評価項目】主要転帰は、CMVイベント(CMV DNA値≧1250IU/mL、抗ウイルス治療を要するCMV血症、末端臓器障害のいずれか)、非再発死亡、重度(グレード3または4)の移植片対宿主病(GVHD)とし、いずれもHCT後100日間にわたって評価し、注射に起因するかその疑いがあるグレード3または4の有害事象(AE)はワクチン投与後2週間以内に評価した。 【結果】計102例(各群51例)が初回ワクチン接種、91例(89.2%)が2回目のワクチン接種を完了した(Triplex 46例、プラセボ51例)。Triplex群5例(9.8%)、プラセボ群10例(19.6%)にCMVの再活性化が確認された(ハザード比0.46、95%CI 0.16-1.4、P=0.075)。Triplex群に初回ワクチン接種から100日以内の非再発死亡や重度AE、ワクチン接種2週間以内のワクチン接種によるグレード3または4のAEはなかった。注射後の重度急性GVHD発生率は両群で同等だった(ハザード比1.1、CI 0.53-2.4、P=0.23)。Triplex群の長期持続pp65特異的エフェクターメモリー表現型T細胞レベルがプラセボ群より高かった。 【欠点】プラセボ群のCMVイベント発生率が予想以上に低かったことで試験の検出力が低下した点。 【結論】ワクチンによる安全性の懸念は特定されなかった。TriplexはCMV特異的免疫反応を誘発増強し、Triplexワクチンを接種した患者にCMV血症はほとんど見られなかった。 第一人者の医師による解説 安全性を有しより効果が確実な サイトメガロウイルスワクチンに期待 新庄 正宜 慶應義塾大学医学部小児科専任講師 MMJ. October 2020; 16 (5):145 サイトメガロウイルス(CMV)ワクチン(1)には、弱毒性のキメラワクチン(全ウイルスを抗原)、体内では増殖が不可能 なdisabled infectious single cycle(DISC)ワクチンであるV160(全ウイルスを抗原)、MF59アジュバントを含むgB/MF59(gBを抗原)、DNAワクチンのVCL-CT02(pp65、IE1、gBを抗原)やASP0113(gB、pp65を抗原)、そしてウイルスベクターワクチンとして、AVX601(gB、pp65、IE1を抗原)と今回のMVATriplex(pp65、IE1、IE2を抗原)などがある。これらは、その効果、免疫原性、持続性などの問題や臨床試験中である事情を有することから、実用化に至っていない。  本論文とは別の報告ではあるが、移植患者へのCMVワクチンの応用については、DNAワクチンのASP0113(上述)の研究(第 III相試験)が知られている。しかし、CMV抗体陽性の造血幹細胞移植患者に対して、移植後1年間の全死亡数やCMV感染症の発生率などの主要評価項目で、有意な効果は認められなかった。また、腎移植患者においても有効性は示されなかった(第 II相試験)(アステラス製薬 ニュース https://www.astellas.com/jp/ja/news より)。いずれも局所部位反応以外の問題はなかった。  さて、本論文で報告された第 II相ランダム化試験は、CMVの再活性を予防するために、ポックスウイルスをベクターとした筋注ワクチン(Triplex)もしくはプラセボを、CMV抗体陽性の造血幹細胞移植患者(合計102人)に2回(移植後28日目と56日目)接種し、CMVの再活性化や安全性を評価したものである。非再発死亡やグレード 3~4の有害事象はいずれもわずかであった。移植後100日以内のCMV感染症(ウイルス DNA 1,250 IU/ml以上、治療を要するウイルス血症、またはCMV末期臓器疾患[EOD])はワクチン接種群で少ない傾向(9.8% 対 19.6%)にあったが、重症の急性移植片対宿主病(GVHD)はワクチン接種群で多い傾向(15.7% 対 7.8%)にあった。いずれも差があると言い切ることはできなかった(P>0.05)。今回は、プラセボ群で30%程度の発症があると見込んだために、効果に有意差が出なかったことが考えられた。メモリーフェノタイプ T細胞はワクチン接種群で有意に多く、移植後365日目までは高い傾向を示した。  移植患者に対するCMVワクチンは、いずれも高い安全性を有しているようであるが、現時点で有効とはいえない。より効果が確実なCMVワクチンの登場に期待したい。 1. 南修司郎. サイトメガロウイルスワクチン.耳喉頭頸.2020 ;92 (4):326-329.
HMG-CoA還元酵素の遺伝的代替阻害と上皮性卵巣がんの関連
HMG-CoA還元酵素の遺伝的代替阻害と上皮性卵巣がんの関連
Association Between Genetically Proxied Inhibition of HMG-CoA Reductase and Epithelial Ovarian Cancer JAMA. 2020 Feb 18;323(7):646-655. doi: 10.1001/jama.2020.0150. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【重要性】前臨床および疫学的試験から、スタチンによる上皮性卵巣がんリスクの化学的予防作用の可能性が示唆されている。 【目的】一般住民とBRCA1/2遺伝子変異保持者の間で、3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル補酵素A(HMG-CoA)還元酵素(スタチンの標的となるHMG-CoA還元酵素の機能低下による遺伝子変異など)と上皮性卵巣がんの関連を評価すること。 【デザイン、設定および参加者】ゲノムワイド関連研究(GWAS)のメタ解析(19万6475例)でLDLコレステロールとの関連が示されているHMGCR、Niemann-Pick C1-Like 1(NPC1L1)およびプロタンパク転換酵素サブチリシン/ケキシン9型(PCSK9)の一塩基多型(SNP)を用いて、HMG-CoA還元酵素、NPC1L1およびPCSK9それぞれの治療による代替阻害を実施した。Ovarian Cancer Association Consortium(OCAC、6万3347例)に登録された浸潤性上皮性卵巣がんの症例対象解析のGWASメタ解析およびConsortium of Investigators of Modifiers of BRCA1/2(CIMBA、3万1448例)に登録されたBRCA1/2変異陽性上皮性卵巣がんの後ろ向きコホート解析のGWASメタ解析から要約統計量を取得。2つのコンソーシウムで、1973年から2014年にかけて参加者を登録し、2015年まで追跡した。OCACは14カ国、CIMBAは25カ国から参加者を登録した。SNPを複数対立遺伝子モデル(multi-allelic model)に統合し、逆分散法ランダム効果モデルを用いて標的の終生阻害(lifelong inhibition)を表すメンデル無作為化推定値を求めた。 【曝露】HMG-CoAの遺伝的代替阻害を主要曝露、NPC1L1およびPCSK9の遺伝的代替阻害および遺伝的代替循環LDLコレステロール値を副次曝露とした。 【主要転帰および評価項目】全体および組織型別の浸潤性上皮性卵巣がん(一般集団)および上皮性卵巣がん(BRCA1/2遺伝子変異保持者)とし、卵巣がんオッズ(一般集団)とハザード比(BRCA1/2遺伝子変異保持者)で測定した。 【結果】OCAC標本には浸潤性上皮性卵巣がん女性2万2406例および対照4万941例、CIMBA標本には上皮性卵巣がん女性3887例および対照2万7561例を対象とした。2件のコホートの年齢中央値は41.5歳から59.0歳までと幅があり、全参加者が欧州系であった。主要解析では、LDLコレステロール値1mmol/L(38.7mg/dL)に相当するHMG-CoA還元酵素の遺伝的代替阻害で上皮性卵巣がんリスクが低下した(オッズ比[OR]0.60、95%CI 0.43-0.83、P=0.002)。BRCA1/2遺伝子変異保持者では、HMG-CoA還元酵素の遺伝的代替阻害で卵巣がんリスクが低下した(ハザード比0.69、95%CI 0.51-0.93、P=0.91)。副次解析で、NPC1L1(OR 0.97、95%CI 0.53-1.75、P=0.91)、PCSK9(OR 0.98、95%CI 0.85-1.13、P=0.80)および循環LDLコレステロール(OR 0.98、95%CI 0.91-1.05、P=0.55)の遺伝的代替阻害と上皮性卵巣がんに有意な関連はなかった。 【結論および意義】HMG-CoA還元酵素の遺伝的代替阻害があると上皮性卵巣がんのオッズが低下した。しかし、この結果は、HMG-CoA還元酵素を阻害する薬剤によってリスクが低下することを示唆するものではなかった。このような薬剤に同等の関連があるかを理解するために、詳細な研究が必要である。 第一人者の医師による解説 スタチンの卵巣がん治療への応用につながる可能性 青木大輔 慶應義塾大学医学部産婦人科教授 MMJ. October 2020; 16 (5):142 スタチンはメバロン酸合成経路の上流に位置するヒドロキシメチルグルタリル補酵素 A(HMG-CoA)還元酵素を阻害することによって、血液中のコレステロール値を低下させるため、脂質異常症治療薬として世界中で汎用されている薬物である。加えて、抗炎症作用や血管拡張、凝固・線溶などの血管リモデリング抑制作用など多面的作用を発揮し、冠動脈疾患や心不全、不整脈などへの予防効果も明らかとなりつつある。さらに、デンマークの疫学研究により、がんと診断される前にスタチンを使用したがん患者は、がんによる死亡のリスクが15%低いという解析結果が報告されたことにより(1)、スタチンの抗腫瘍効果に注目が集まることとなった。この報告を皮切りに、大腸がん、前立腺がん、乳がんなどにおいて同様の疫学研究や基礎実験で抗腫瘍効果が報告されてきている。卵巣がんに対しても、その有用性が基礎的実験レベルで明らかとなりつつあり(2)、臨床への応用も期待されてきている。一方で、スタチンとがん発症率・死亡率との間に因果関係を認めないとの報告もあり議論が続いていた。  本研究は、上皮性卵巣がん患者22,406人と対照者 40,941人、BRCA1/2 変異陽性上皮性卵巣がん患者3,887人と対照者27,561人を対象に、HMG-CoA還元酵素の機能低下に関連する遺伝子の一塩基多型(SNP)により同酵素が遺伝的代替阻害を受けている人の上皮性卵巣がん発症リスクについて検討した。その結果、LDLコレステロール1mmol/L(38.7mg/dL)低下に相当するHMG-CoA還元酵素の遺伝的代替阻害により上皮性卵巣がん発症リスクが40%低くなること(オッズ比 ,0 .60;95 % CI, 0 .43 ~ 0 .83;P= 0 .002)、BRCA1/2変異保持者でも上皮性卵巣がん発症リスクが31%低くなること(ハザード比 , 0.69;95% CI, 0.51~0.93;P=0.01)が示された。  本研究はこれまで議論の続いていたスタチンと卵巣がん抑制の関連性について遺伝子レベルから検討している点が非常に興味深く、その研究成果からHMG-CoA還元酵素を薬理的に阻害しているスタチンでも同様の効果が得られる可能性が想起される。一方で、スタチン投与により卵巣がん発症リスクを抑制したとの臨床試験データは依然として得られていない。今後はスタチンが奏効する卵巣がんの臨床病理・分子生物学的因子の探索が必要である。 1. Nielsen SF, et al. N Engl J Med. 2012;367(19):1792-1802. 2. Kobayashi Y, et al. Clin Cancer Res. 2015;21(20):4652-4662.
救急外来を受診した急性心房細動患者に用いる電気的除細動と薬物的除細動の比較(RAFF2) 部分要因無作為化試験
救急外来を受診した急性心房細動患者に用いる電気的除細動と薬物的除細動の比較(RAFF2) 部分要因無作為化試験
Electrical versus pharmacological cardioversion for emergency department patients with acute atrial fibrillation (RAFF2): a partial factorial randomised trial Lancet. 2020 Feb 1;395(10221):339-349. doi: 10.1016/S0140-6736(19)32994-0. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】急性心房細動は、救急部で治療する最も頻度の高い不整脈である。著者らの主要目的は、電気駅除細動前の薬物による除細動(薬物ショック)と電気的除細動単独(ショック単独)の洞調律復帰を比較することであった。第二の目的は、電気的除細動時の2つのパッド位置の有効性を比較することであった。 【方法】カナダの大学病院11施設の救急部で、急性心房細動患者を対象とした2通りのプロトコールを用いた部分要因試験を実施した。成人急性心房細動患者を組み入れた。プロトコール1では、プロカインアミド静注(15mg/kgを30分かけて投与)による薬物的除細動後の必要に応じた電気的除細動実施(3回まで、いずれも200J以上)とプラセボ投与後の電気的除細動実施を無作為化プラセボ対照盲検下で比較した。電気的除細動を実施する際、前後と前外側のパッド位置を無作為化非盲検コホート内で比較するプロトコール2を用いた。プロトコール1では、オンライン電子データ収集システムを用いて現場の研究員が患者を無作為に(1対1の割合、試験施設で層別化)割り付けた。薬物投与30分後に洞調律に復帰しない患者をプロトコール2で無作為化し、試験施設とプロトコール1の割り付けで層別化した。患者を全研究員と救急部職員にプロトコール1の治療割り付けを伏せた。主要転帰は、無作為化後30分以降および3回のショック直後の正常洞調律復帰とした。プロトコール1はintention-to-treatで解析し、プロトコール2は電気的除細動を実施しなかった患者を除外した。この試験はClinicalTrials.govにNCT01891058番で登録されている。 【結果】2013年7月18日から2018年10月17日にかけて、396例を組み入れ、追跡脱落例はなかった。薬剤ショック群(204例)では196例(96%)、ショック単独群(192例)では176例(92%)が洞調律に復帰した(絶対差4%、95%CI 0-9、P=0.07)。退院した患者の割合は、97%(198例)と95%(183例)だった(P=0.60)。薬物ショック群の106例(52%)が、薬物注入単独で洞調律に復帰した。追跡中、重度の有害事象が発現した患者はいなかった。プロトコール2(244例)の2通りのパッド位置の洞調律復帰率は同等であった[前後群127例中119例(94%)と前外側群117例中108例(92%)]。 【解釈】救急部を受診した急性心房細動患者で、薬物ショックとショック単独戦略ともに洞調律復帰の有効性が高く、迅速で安全で、再受診を回避できた。薬物注入は、約半数に有効であり、電気的除細動を要する資源集約的な処置時の鎮静が回避できた。このほか、電気的除細動時の前後と前外側のパッド位置による有意な差は見られなかった。救急部を受診する急性心房細動の即時洞調律維持が良好な転帰をもたらすことになる。 第一人者の医師による解説 Ic群抗不整脈薬の効果はより高いと推測 日本の救急現場での治療方針は妥当 井上 博 富山県済生会富山病院顧問 MMJ. October 2020; 16 (5):127 心房細動発作で救急受診した患者では、血圧低下や心不全悪化など特別な事情がなければ、まず抗不整脈薬を静注し30分ほど様子をみて、洞調律化しない場合は電気的除細動を試みることが通例である。この2段階のアプローチは臨床現場では特に疑問視されることなく行われているが、最初から電気的除細動を試みるアプローチと厳密に比較した成績は乏しい。  本試験は、カナダの大学病院救急外来11施設で、2013年7月~18年10月に行われた無作為対照試験(RAFF2)である。心房細動が3時間以上持続し、除細動を必要とする、状態の安定した成人患者396人(平均年齢60歳)を対象とした。プロトコール1では、プロカインアミド 15mg/kg(最大1,500mg)を30分で静注し無効な場合に電気的除細動(二相性波形、200J以上で3回まで)を行うdrug-shock群(204人)と最初から電気的除細動を行うshock群(192人)に無作為化した。プロトコール2では、プロトコール1で電気的除細動を行う患者を電極配置が前-後(右鎖骨下と左肩甲骨下)と前-外側(右鎖骨下と左前腋窩)の2群に無作為化した。その結果、除細動され洞調律が30分以上持続した患者は、drug-shock群で196人(96%)、shock群で176人(92%)と両群間で有意差はなかった(P=0.07)。Drug-shock群の52%では、プロカインアミド静注のみで静注開始から中央値で23分後に洞調律化した。14日間の追跡期間終了時点で306人(77%)が洞調律であり、重篤な有害事象や脳卒中の発生はみられなかった。2種類の電極配置の間で洞調律化率に差はなかった(前-後群92% 対 前-外側群94%;P=0.68)。  発症後間もない心房細動発作を救急外来で除細動する場合、薬理学的除細動+電気的除細動あるいは電気的除細動のみを行う方法のいずれも、高い有効性と安全性を示した。薬理学的除細動のみで約半数の患者で洞調律化が可能であったことから、臨床現場ではまず薬理学的除細動を試み、無効な場合に電気的除細動を行う方針が効果的と考えられる。電極の配置は洞調律化率には影響しない。  以上の結果は、日本の救急現場で経験的に行われる治療方針が妥当であることを無作為化対照試験で改めて示したものである。注意すべき点は、わが国では心房細動の洞調律化にはプロカインアミドが使用されることはまれで、Ic群抗不整脈薬などが選択されることが多く、薬理学的除細動率は本試験の成績より高いと推測される。また、除細動とは別の治療方針として、発症後間もない心房細動発作は薬物による心拍数コントロールのみで48時間以内に69%が洞調律化するという報告(1)もあり、救急現場ではこれらの成績も考慮に入れて治療方針を選択することが望ましい。 1. Pluymaekers NAHA et al. N Engl J Med 2019;380(16):1499-1508.
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