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2型糖尿病患者におけるSodium-Glucose Cotransporter-2阻害剤による痛風リスクの評価。人口ベースのコホート研究。
2型糖尿病患者におけるSodium-Glucose Cotransporter-2阻害剤による痛風リスクの評価。人口ベースのコホート研究。
Assessing the Risk for Gout With Sodium-Glucose Cotransporter-2 Inhibitors in Patients With Type 2 Diabetes: A Population-Based Cohort Study Ann Intern Med 2020 Feb 4;172(3):186-194. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】高尿酸血症は2型糖尿病患者に多く、痛風の原因となることが知られています。ナトリウム・グルコース共輸送体-2(SGLT2)阻害剤は、グルコースの再吸収を防ぎ、血清尿酸値を下げる。 【目的】SGLT2阻害剤を処方された成人とグルカゴン様ペプチド-1(GLP1)受容体作動薬を処方された成人の痛風の発生率を比較することである。 【デザイン】人口ベースの新規使用者コホート研究 【設定】2013年3月から2017年12月の米国全国規模の商業保険データベース [患者]SGLT2阻害剤を新たに処方された2型糖尿病患者とGLP1アゴニストを新たに処方された患者と1対1の傾向スコアマッチングを実施した。痛風の既往がある、または以前に痛風特異的な治療を受けていた人は除外した。 【測定】主要アウトカムは、痛風の新規診断であった。Cox比例ハザード回帰を用いて主要アウトカムのハザード比(HR)と95%CIを推定した。 【結果】本研究では、SGLT2阻害薬またはGLP1作動薬を新たに処方された2型糖尿病の成人295907人が同定された。痛風発症率は、SGLT2阻害薬を処方された患者(1000人年あたり4.9件)がGLP1作動薬を処方された患者(1000人年あたり7.8件)よりも低く、HRは0.64(95%CI、0.57~0.72)、率の差は-2.9(CI、-3.6~-2.1)となっていた。限界】未測定の交絡、データの欠損(すなわち検査データの不完全さ)、痛風のベースラインリスクが低い。 【結論】SGLT2阻害剤を処方された2型糖尿病成人は、GLP1アゴニストを処方された成人と比較して痛風の割合が低いことが示された。ナトリウム・グルコース共輸送体-2阻害剤は、成人の2型糖尿病患者の痛風リスクを低減する可能性があるが、この観察を確認するためには今後の研究が必要である。 【Primary funding source】Brigham and Women’s Hospital. 第一人者の医師による解説 糖尿病患者の痛風リスク低下 臨床的意味の議論必要 山中 寿 山王メディカルセンター院長 MMJ.August 2020;16(4) 本論文は、糖尿病治療薬であるナトリウム・グルコース共輸送体2(SGLT2)阻害薬が痛風関節炎を減らすかどうかを検討したコホート研究の報告である。全米民間保険データベースを用い、18 歳以上の痛風の既往のない2型糖尿病患者で、新たにSGLT2阻害薬とグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)受容体作動薬を処方された295,907人を対象とした。 平均年齢は54歳、52%が女性、3分の2に高血圧合併、約4分の1がインスリン治療を受けていた。ベースラインの調整には傾向スコアマッチングが用いられた。1年間の痛風関節炎の頻度は、SGLT2阻害薬を処方された患者で4.9 / 1,000人・年、GLP-1受容体作動薬を処方された患者で7.8 /1,000人・年、この差はハザード比で0.64(95% CI, 0.57~0.72)に相当し、SGLT2 阻害薬の方が痛風発症が少なかった。 SGLT2阻害薬に血清尿酸値を低下する作用があることは以前から知られている。機序としては、SGLT2阻害薬が、同じく尿細管にあって尿酸を再吸収する尿酸輸送体URAT1を阻害して尿酸排泄を促すためと考えられる(1)。しかし、血清尿酸値を低下させることが痛風を減少させるかどうかはわからないために、今回の研究が行われた。骨密度を上昇させることが骨折の頻度を低下させるかどうか、と同じ種類のClinical Questionである。 本研究では、仮説どおりの結果が証明された。ただし、本研究は保険データベースを用いた検討であるので、臨床検査値のデータはなく、血清尿酸値が低下した結果として痛風が減ったかどうかはわからない。また、一般に糖尿病患者の血清尿酸値は低いことが知られており、痛風発症のリスクも低い。糖尿病患者の尿酸値を低下させることが、どのような臨床的意味があるかは議論されなければならない問題である。 なお、本論文中に高尿酸血症治療薬のフェブキソスタットはアロプリノールよりも心血管死のリスクが高いというCARES試験(2)の結果が紹介されているが、この臨床試験の評価に関しては意見が分かれており、否定的な意見の方が説得力がある(3)。読者に認識していただければ幸いである。 1. Nespoux J et al. Curr Opin Nephrol Hypertens. 2020;29(2):190-198. 2. Becker MA et al. N Engl J Med. 2005;353(23):2450-2461. 3. Choi H et al. Arthritis Rheumatol. 2018;70(11):1702-1709.
米国における人種・民族別の糖尿病有病率(2011年~2016年)。
米国における人種・民族別の糖尿病有病率(2011年~2016年)。
Prevalence of Diabetes by Race and Ethnicity in the United States, 2011-2016 JAMA 2019 Dec 24;322(24):2389-2398. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【重要】米国におけるヒスパニック系及びアジア系アメリカ人亜集団の糖尿病有病率は不明である。 【目的】米国の20歳以上の成人における糖尿病有病率の人種・民族差を主要な人種・民族グループ別及び選択したヒスパニック及び非ヒスパニック系アジア人亜集団別に推定する。 【デザイン・設定・参加者】National Health and Nutrition Examination Surveys,2011~2016年、非施設化民間、米国人集団を代表する横断的サンプルである。サンプルは、面接時に自己申告で糖尿病と診断された者、またはヘモグロビンA1c(HbA1c)、空腹時血糖値(FPG)、2時間血糖値(2hPG)を測定した20歳以上の成人であった。 【曝露】人種/民族群:非ヒスパニック系白人、非ヒスパニック系黒人、ヒスパニック系およびヒスパニック系サブグループ(メキシコ、プエルトリコ、キューバ/ドミニカ、中央アメリカ、南アメリカ)、非ヒスパニック系アジア人および非ヒスパニック系アジア人サブグループ(東、南、東南アジア)、非ヒスパニック系その他、診断済み糖尿病は自己報告の事前診断によるものであった。未診断の糖尿病は、糖尿病と診断されていない参加者のHbA1c 6.5%以上、FPG 126mg/dL以上、または2hPG 200mg/dL以上と定義された。 【結果】調査対象は米国の成人7575人(平均年齢47.5歳,女性52%,非ヒスパニック系白人2866人[65%],非ヒスパニック系黒人1636人[11%],ヒスパニック1952人[15%],非ヒスパニック系アジア人909人[6%],非ヒスパニック系その他212人[3%])であった。合計2266人が糖尿病と診断され、377人が糖尿病と診断されていなかった。年齢と性別で調整した糖尿病有病率は,非ヒスパニック系白人で 12.1%(95% CI,11.0%-13.4%), 非ヒスパニック系黒人で 20.4%(95% CI,18.8%-22.1%), ヒスパニック系で 22.1%(95% CI,19.6%-24.7%), 非ヒスパニック系アジア人で 19.1%(95% CI,16.0%-22.1%) となった(全体 P < 0.001) .ヒスパニック系成人では,糖尿病全体の有病率は,メキシコ人で 24.6%(95% CI,21.6%-27.6%), プエルトリコ人で 21.7%(95% CI,14.6%-28.8%), キューバ/ドミニカ人で 20.5%(95% CI,13.7%-27.3%), 中米人で 19.3%(95% CI,12.4%-26.1%), 南米人で 12.3%(95% CI, 8.5%-16.2%) となっていた(全体での P < .001).非ヒスパニック系アジア人の成人では,糖尿病全体の有病率は,東アジア人で 14.0%(95% CI,9.5%-18.4%), 南アジア人で 23.3%(95% CI,15.6%-30.9%), 東南アジアのサブグループで 22.4%(95% CI,15.9%-28.9%) であった(全体の P = .02).診断されていない糖尿病の有病率は、非ヒスパニック系白人で3.9%(95%CI、3.0%-4.8%)、非ヒスパニック系黒人で5.2%(95%CI、3.9%-6.4%)、ヒスパニックで7.5%(95%CI、5.9%-9.1%)、非ヒスパニック系アジアの成人で7.5%(95%CI、4.9%-10.0%)だった(全体でのP < .001). 【結論と関連性】2011年から2016年の米国の成人を対象としたこの全国代表的な調査において,糖尿病および診断されていない糖尿病の有病率は,人種/民族によって,またヒスパニックおよび非ヒスパニック・アジア人集団内で特定されるサブグループによって異なっていた。 第一人者の医師による解説 至近データでの推算 糖尿病予防対策に有意義 原井 望、森 保道(部長)虎の門病院内分泌代謝科 MMJ.August 2020;16(4) 米国における成人の糖尿病患者数は2018年時点で約3400万人(成人の13%)にのぼる(1) 。現在、米国ではヒスパニック(H)系とアジア(A)系の人口が23%を占め、増加傾向にある。世界的にH系、A系の糖尿病有病率はヨーロッパ系・アフリカ系よりも高いとされ、同有病率の違いが生じる要因として、遺伝的・後成的因子、生活因子、環境因子などが指摘されている。 本論文は、米国における人種間での糖尿病有病率を比較するために、H系とA系の調査が重点化された2011~16年の米国民健康栄養調査(NHANES)をもとに、20歳以上の米国成人7 ,575人(平均年齢47 .5 歳、女性51.9%)を対象に実施された横断的研究の報告である。 人種構成は、①非H系白人2 ,866人、②非H系黒人1,636人、③ H系(メキシコ、プエルトリコ、キューバ/ドミニカ、中央アメリカ、南アメリカ)1.952人、④ A系(東アジア、南アジア、東南アジア)909人、⑤その他212人であった。NHANES統計解析ガイドライン(2)に基づき母集団を推算した米国成人の糖尿病有病率は14 .6%であった。さらに年齢と性別で調整した人種別の糖尿病有病率はそれぞれ①12.1%、②20.4%、③22.1%、④19.1%、⑤18.5%であり、米国成人の糖尿病有病率は人種間で有意差が認められた。各人種内でも出身由来地による差があり、H系の中ではメキシコ系の有病率が24 .6%と最も高率で、一方A系では中国、日本、韓国の東アジア由来が14.0%と最も低率という結果になった。 既報では、糖尿病有病率上昇の関連因子として肥満や低~中所得者が挙げられている(3) 。本論文では、人種間における教育や体格指数(BMI)の違いについても比較検討している。高校以上の教育を受けた割合は、A系が73 .9%で最も高く、H系は40 .3%で最も低かった。一方BMIに関しては、A系はBMI 24 .4と他の人種(BMI, 29.1 ~ 30.6)と比較し低値であった。BMIによる調整を追加した人種別の糖尿病有病率はそれぞれ①11.9%、②18.4%、③20.3%、④27.0%、⑤17.7%となり、A系が最も高かった。アジア人は欧米人と比較し、インスリン分泌能が低く、軽度のBMI上昇でも糖尿病になりやすいといわれており、本論文でもそれを裏付ける結果となった。 今後の米国での糖尿病予防対策を考慮するうえで、至近のデータをもとに人種ごとの糖尿病有病率が推算されたことは意義深い。なお、本研究の限界として、横断的研究であり因果関係の推測が困難であること、糖尿病の病型が不明であること、人種区分が自己申告に基づくことなどが挙げられる。 1. National Diabetes Statistics Report 2020 (https://bit.ly/2WImXwq) 2. NHANES Survey Methods and Analytic Guidelines, 2011-2014 and 2015- 2016. CDC website. (https://bit.ly/2LyLWMe) 3. World Health Organization: Global report on diabetes 2016 (https://bit. ly/2TcQnQP)
ロシグリタゾンと心血管リスクに関する知見の共有による更新:個人患者および要約レベルのメタアナリシス。
ロシグリタゾンと心血管リスクに関する知見の共有による更新:個人患者および要約レベルのメタアナリシス。
Updating insights into rosiglitazone and cardiovascular risk through shared data: individual patient and summary level meta-analyses BMJ 2020 Feb 5;368:l7078. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【目的】3つの目的を念頭に置いて、複数のデータソースとさまざまな分析アプローチを使用して、ロシグリタゾン治療が心血管リスクと死亡率に及ぼす影響の系統的レビューとメタアナリシスを実施する。ロシグリタゾンの心血管リスクに関する不確実性を明らかにする。異なる分析アプローチが有害事象メタアナリシスの結論を変える可能性があるかどうかを判断するため。臨床試験の透明性とデータ共有を促進するための取り組みを通知します。 【デザイン】ランダム化比較試験の体系的なレビューとメタアナリシス。 【データソース】GlaxoSmithKline(GSK)のClinicalStudyDataRequest .com(個々の患者レベルのデータ(IPD)およびGSKの研究登録)プラットフォーム、MEDLINE、PubMed、Embase、Web of Science、Cochrane Central Registry of Controlled Trials、Scopus、ClinicalTrials. govの開始から2019年1月までの要約レベルのデータ。 【研究を選択するための適格性基準】ランダム化、管理、フェーズII-IV成人を対象に、ロシグリタゾンと任意の対照を少なくとも24週間比較した臨床試験。 【データ抽出と合成】IPDが利用可能な試験の分析では、急性心筋梗塞、心不全、心血管関連死、および非心血管関連の死亡を調べた。これらの4つのイベントは、二次分析として個別に調査されました。 IPDが利用できなかった試験を含む分析では、要約レベルのデータから決定された心筋梗塞と心血管関連の死亡が調査されました。 2つの異なる連続性補正(0.5定数および治療群)を使用して片方または両方のアームでイベントがゼロの試験を考慮した複数のメタアナリシスを実施し、95%信頼区間でオッズ比とリスク比を計算しました。 【結果】33件の適格な試験はIPDが利用可能であったClinicalStudyDataRequest.comから特定されました(21,156人の患者)。さらに、IPDが利用できなかった103件の試験が心筋梗塞のメタアナリシスに含まれ(23 683人の患者)、IPDが利用できなかった103件の試験が心血管関連死のメタアナリシスに貢献しました(22,772人の患者) 。 IPDが利用可能でGSKの要約レベルデータを使用した以前のメタアナリシスに含まれていた29の試験のうち、26の試験の要約レベルデータの代わりにIPDを使用することで、より多くの心筋梗塞イベントが特定され、5つの試験で心血管関連の死亡が減少しました。分析がIPDが利用可能な試験に限定され、0.5の一定の連続性補正とランダム効果モデルを使用して、片方の腕のみでイベントがゼロの試験を説明した場合、ロシグリタゾンで治療された患者のリスクは33%増加しました。コントロールと比較した複合イベント(オッズ比1.33、95%信頼区間1.09-1.61;ロシグリタゾン母集団:11 837人の患者で274イベント、コントロール母集団:9319人の患者で219イベント)。心筋梗塞、心不全、心血管関連死、および非心血管関連死のオッズ比は、1.17(0.92-1.51)、1.54(1.14-2.09)、1.15(0.55-2.41)、および1.18(0.60-2.30)でした。それぞれ。 IPDが利用できなかった試験を含む分析では、心筋梗塞と心血管関連死のオッズ比が減衰しました(それぞれ、1.09、0.88から1.35、および1.12、0.72から1.74)。両腕でイベントがゼロの試験を使用して分析を繰り返し、2つの連続性補正のいずれかを使用した場合、結果はほぼ一貫していました。 【結論】結果は、ロシグリタゾンが特に心不全イベントの心血管リスクの増加と関連していることを示唆しています。分析全体で心筋梗塞のリスクの増加が観察されましたが、IPDに加えて要約レベルのデータを使用した場合、エビデンスの強さはさまざまであり、効果の推定値は減衰しました。 IPDでは、要約レベルのデータよりも心筋梗塞が多く、心血管関連の死亡が少ないことが報告されているため、安全性に焦点を当てたメタアナリシスを実施する場合は、IPDの共有が必要になる可能性があります。[システマティックレビュー登録]OSFホームhttps://osf.io/ 4yvp2/。 第一人者の医師による解説 メタアナリシスでも結果は一定せず 安全性に関する議論は続く 笹子 敬洋 東京大学大学院医学系研究科糖尿病・代謝内科助教 MMJ.August 2020;16(4) チアゾリジン誘導体の一種であるロシグリタゾンは、1999年に糖尿病治療薬として米食品医薬品局(FDA)による承認を受けた。しかし2007年に、心筋梗塞や心血管死を増加させるとのメタアナリシスが発表され(1)、これはFDAが糖尿病治療薬に対して、ランダム化比較試験(RCT)による心血管リスクの評価を義務づける契機ともなった。このメタアナリシスは42件の臨床試験に登録された患者計27,847人を対象としており、ロシグリタゾン投与によって心筋梗塞のリスクが有意に上昇し、心血管死のリスクも上昇傾向にあった。 今回BMJ誌に発表されたメタアナリシスは、当時と異なり個々の患者のデータ(individualpatient-level data;IPD)が参照可能な臨床試験33件の患者21,156人を対象とした。 その結果、ロシグリタゾン投与によって複合エンドポイント(急性心筋梗塞、心不全、心血管死、非心血管死)の有意なリスク上昇を認めたものの、内訳としては心不全のみが有意で、心筋梗塞、心血管死、非心血管死は有意でなかった。またIPDが参照できない試験103件の23,683人の解析などもなされたが、結果は同様であった。 本研究における観察期間の中央値は24 週で、2007年のメタアナリシスの26週とほぼ同等であり、より長期的な安全性を示すには至らなかった。また脳卒中は、特にアジア人における心血管イベントとして重要であるが、2007年のメタアナリシスと同様、その評価はなされていない。 本論文とほぼ同時期に、さまざまな糖尿病治療薬に関して複数のメタアナリシスをまとめた包括的レビュー(umbrella review)の結果が報告されている(2)。このレビューではロシグリタゾン投与により、心筋梗塞と心不全のリスクは有意に上昇したが、脳卒中と心血管死のリスクはいずれも明らかな上昇を示さなかった。このように薬剤が心血管イベントに及ぼす影響は、メタアナリシスといえども結果は一定せず、その評価の難しさを物語っているとも言えよう。 なお先述の包括的レビューにおいては、日本で処方可能なチアゾリジン誘導体であるピオグリタゾンが、心不全を増やす一方、心筋梗塞や脳卒中を減らすことが報告されている2。またFDAは2020年に入り、糖尿病治療薬に対してRCTを一律には求めないとするガイダンスの改訂案を発表していることも留意されたい。 1. Nissen SE et al. N Engl J Med. 2007;356(24):2457-2471. 2. Zhu J et al. Lancet Diabetes Endocrinol. 2020;8(3):192-205.
慢性不眠症障害と閉塞性睡眠時無呼吸症候群の管理について。2019年米国退役軍人省および米国国防総省の臨床実践ガイドラインのあらすじ。
慢性不眠症障害と閉塞性睡眠時無呼吸症候群の管理について。2019年米国退役軍人省および米国国防総省の臨床実践ガイドラインのあらすじ。
The Management of Chronic Insomnia Disorder and Obstructive Sleep Apnea: Synopsis of the 2019 U.S. Department of Veterans Affairs and U.S. Department of Defense Clinical Practice Guidelines Ann Intern Med 2020 Mar 3;172(5):325-336. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【説明】2019年9月、米国退役軍人省(VA)と米国国防総省(DoD)は、慢性不眠症障害と閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)の患者を評価・管理するための新しい共同臨床診療ガイドラインを承認した。このガイドラインは、医療チームに、これらの疾患のいずれかを有するVAおよびDoD患者の個々のニーズや嗜好をスクリーニング、評価、治療、管理するための枠組みを与えることを目的としている。 【方法】2017年10月、VA/DoD Evidence-Based Practice Work Groupは、臨床関係者を含み、信頼できる臨床実践ガイドラインのためのInstitute of Medicineの10etsに準拠したVA/DoD合同ガイドライン作成作業を開始した。ガイドラインパネルは、キー・クエスチョンを設定し、体系的に文献を検索・評価し、1ページのアルゴリズムを3つ作成し、GRADE(Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation)システムを用いて41の推奨事項を進めた。 [推奨事項]本シノプシスは、OSAと慢性不眠症の診断と評価、OSAの治療と管理、慢性不眠症の治療と管理の3つの分野におけるガイドラインの主要な推奨事項をまとめたものである。また、3つの臨床実践アルゴリズムも掲載しています。 第一人者の医師による解説 長期的な心血管系合併症抑制について 患者の納得を得る必要 巽 浩一郎 千葉大学真菌医学研究センター 呼吸器生体制御学研究部門特任教授 MMJ.August 2020;16(4) 睡眠呼吸障害(SDB)を内科的視点から評価・治療してきた医師向けの解説になることを最初にお断りしておく。今回発表された米国の診療ガイドラインは診療担当医のみでなく医療チーム構成員のために作成されたものだ。日本では、「眠れない」は心療内科専門医、「眠くて日常生活に支障がある」は睡眠時無呼吸疑いで呼吸器内科医・耳鼻科医の中で睡眠医療に従事している医師への受診が一般的である。しかし、不眠・傾眠を含めたSDBに関係する症状は混在していることもあり、これらを全体としてどのように捉えるべきかの基本的考え方が本ガイドラインでは以下のように解説されている。 不眠などの精神症状を主に訴える患者に対して、ベンゾジアゼピン系薬剤による薬物療法は簡便であるが推奨されていない。心の健康を害している患者は、現実の世界での心の悩みを適切に認知できなくなっている。つらいと感じていることからの逃避が起きている。認知行動療法は、心の悩みを自分自身で適切に認知できるような手助けをする、そしてどのような思考をするとより心が楽になれるかの手助けをする治療法である。 筆者は、閉塞型睡眠時無呼吸により眠気を感じている、無呼吸を放置したために脳血管障害などの心血管系合併症を比較的若年で起こした患者に遭遇することがある。本ガイドラインでは、閉塞性無呼吸に対する持続陽圧呼吸療法(CPAP)の有用性は確立されており、適応例にはまず試みるべき治療であると述べている。 しかし、CPAPはマスク装着が困難、鼻閉が生じる、口が渇く、睡眠中に覚醒してしまうなどさまざまの有害事象が生じうる。CPAPアドヒアランスを向上させるために、教育的指導が必要になる場合もある。CPAPは無呼吸低呼吸指数(AHI)を低下させる効果がある。しかし眠気の改善が得られない、血圧の値が下がらない(筆者は脳血管障害イベント抑制に役立てば問題なしと考える)、生活の質(QOL)が改善しない場合もある。それでもCPAP治療を継続すべきが基本的な考え方である。長期的に心血管系合併症を抑制する可能性が高いという利点を患者に納得していただく必要がある。 AHI≧15の中等症以上の無呼吸患者で、明らかな眠気がない場合、CPAPを開始して初めて自覚症状の改善に気づく場合もある。CPAP継続が困難な場合、マウスピース作成という手がある。AHI低下効果はCPAPほどではないが、自覚症状など十分な効果が期待できる。筆者の経験から、マウスピースの最大の問題点は自歯がないと作成が困難なことであり、高齢者では作成できない場合もある。
2017年の集中治療室患者における感染症の有病率および転帰。
2017年の集中治療室患者における感染症の有病率および転帰。
Prevalence and Outcomes of Infection Among Patients in Intensive Care Units in 2017 JAMA 2020 Apr 21;323(15):1478-1487. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【重要性】集中治療室(ICU)の患者では、感染が頻繁に発生している。)感染の種類、原因病原体、転帰に関する最新の情報は、予防、診断、治療、資源配分の政策立案に役立ち、介入研究のデザインに役立つ可能性がある。 【目的】世界のICUにおける感染の流行と転帰、利用可能な資源に関する情報を提供する。 【デザイン、設定、参加者】88か国1150施設での縦断追跡調査付き24時間点有病率調査。2017年9月13日08:00から始まる24時間の間に参加ICUで治療を受けたすべての成人患者(18歳以上)を対象とした。最終フォローアップ日は2017年11月13日。 【曝露】感染症診断および抗生物質の受領。 【主要アウトカムおよび測定】感染症と抗生物質曝露の有病率(横断的デザイン)および全原因院内死亡(経時的デザイン)。 【結果】対象患者15202例(平均年齢61.1歳[SD、17.3歳]、男性9181例[60.4%])において、感染症データが得られたのは15165例(99.8%)で、8135例(54%)が感染症の疑いまたは証明、そのうちICU感染症の1760例(22%)であった。合計10 640人(70%)の患者が少なくとも1種類の抗生物質を投与された。感染が疑われるまたは証明された患者の割合は,オーストラレーシアの43%(141/328)からアジアおよび中東の60%(1892/3150)であった.感染が疑われたまたは証明された8135人の患者のうち,5259人(65%)が少なくとも1つの微生物学的培養が陽性であった。これらの患者の67%(n=3540)でグラム陰性微生物が,37%(n=1946)でグラム陽性微生物が,16%(n=864)で真菌性微生物が同定された。感染が疑われる,あるいは感染が証明された患者の院内死亡率は30%(2404/7936)であった.マルチレベル解析では,ICU 内感染は市中感染と比較して高い死亡リスクと独立して関連していた(オッズ比 [OR], 1.32 [95% CI, 1.10-1.60]; P = 0.003).抗生物質耐性微生物のうち,バンコマイシン耐性腸球菌(OR,2.41 [95% CI,1.43-4.06]; P = .001),第3世代セファロスポリンおよびカルバペネム系抗生物質を含むβラクタム系抗生物質に耐性を示すクレブシエラ(OR,1.29 [95% CI,1.02-1.63]; P = .03)またはカルバペネム耐性アシネトバクター種への感染(OR,1.40 [95% CI, 1.08-1.81]; P = .01)は、他の微生物による感染と比較して、死亡リスクの高さと独立して関連していた。 【結論と関連性】2017年9月にICUに入院した世界中の患者のサンプルにおいて、感染の疑いまたは証明がある割合は高く、院内死亡のかなりのリスクを伴うものであった。 第一人者の医師による解説 88カ国、1 ,150施設での自発調査 患者背景などに差 解釈には考慮必要 萬 知子 杏林大学医学部麻酔科学教室主任教授 MMJ.August 2020;16(4) 本論文は、世界の集中治療室(ICU)における感染率観察調査研究の報告である。2017年9月13日午前8時から24時間の調査を、88カ国、1,150施設で行った。総患者数15,202人の感染率は54%であった。地域別では、最も低いオーストラリアの43%から、最も高いアジア・中東の60%までと幅があった。国民総所得別のICU患者感染率は、低~下位中所得国58%、上位中所得国59%、高所得国50%であった。 感染のうち市中感染は44 %、病院関連感染は35%、ICU関連感染は22%であった。感染部位は気道60%、腹腔18%、血液(血流感染)15%であった。抗菌薬投与の実施率は70%(予防的28%、治療目的51%)であった。 検体培養陽性率は65%で、検出菌はグラム陰性菌67%、グラム陽性菌37%、真菌16%であった。市中感染の57 %、病院関連感染の71%、ICU関連感染の78%からグラム陰性菌が分離され、その内訳はクレブジエラ属27 %、大腸菌 25 %、緑膿菌属24%、アシネトバクター属17%であった。グラム陽性菌陽性患者の割合は、市中感染42%、病院関連感染37%、ICU関連感染31%であった。感染の危険因子は、男性、合併症(慢性閉塞性肺疾患、がん、糖尿病、慢性腎不全、HIV、免疫抑制)、調査日前のICU長期滞在であった。感染率は各国内の病院間でバラツキが有意に大きかった。 感染者の院内死亡率は30 %であった。院内死亡の危険因子は、ICU関連感染(対市中)、高齢、Simplified Acute Physiological Score II高値、転移がん、心不全(NYHA III ~ IV)、HIV感染、肝硬変、人工呼吸、腎代替療法、院内急変(対術後)であった。薬剤耐性菌のみに限ると、バンコマイシン耐性腸球菌、広域(第3世代セフェム、カルバペネムを含む)βラクタマーゼ産生クレブジエラ属、カルバペネム耐性アシネトバクター属が独立した院内死亡の危険因子であった。したがって、抗菌薬の適正使用監視が重要である。 本研究の限界は、自発参加のため世界のICUを網羅していないことである。大多数の参加施設は欧州、中国、南米であり、低~下位中所得国の施設は全体の6%のみである。地域により、患者背景、疾患、医療体制、ICU入室基準、医療資源、看護師数、感染防御対策、抗菌薬適正使用監視体制などに差があった。感染に対するこれらの影響は本研究では明らかでないが、調査結果の解釈にはこれらの要素を考慮する必要はあろう。
重度のCovid-19患者に対するレムデシビルの慈悲深い使用。
重度のCovid-19患者に対するレムデシビルの慈悲深い使用。
Compassionate Use of Remdesivir for Patients with Severe Covid-19 N Engl J Med 2020 Jun 11;382(24):2327-2336. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】SARS-CoV-2の感染によって引き起こされる病気であるCovid-19で入院している患者に、レムデシビルを同情的に使用した。患者は,SARS-CoV-2感染が確認された者で,常用空気を吸っているときの酸素飽和度が94%以下であるか,酸素のサポートを受けている者であった。患者はレムデシビルを10日間投与され、その内訳は、1日目に200mgを静脈内投与し、その後残りの9日間は1日100mgを投与するというものでした。本報告書は、2020年1月25日から2020年3月7日までの期間にレムデシビルの投与を受け、その後の少なくとも1日分の臨床データを有する患者のデータに基づいています。 【結果】レムデシビルの投与を少なくとも1回受けた61名の患者のうち、8名のデータが解析できませんでした(治療後のデータがない7名と投与ミスの1名を含む)。データが解析された53名の患者のうち、22名は米国、22名は欧州またはカナダ、9名は日本に在住していました。ベースラインでは、30名(57%)の患者が人工呼吸を受けており、4名(8%)の患者が体外式膜酸素療法を受けていました。中央値18日の追跡期間中、36人(68%)の患者で酸素サポートクラスが改善し、そのうち機械的換気を受けていた30人(57%)の患者のうち17人が抜管された。死亡率は、人工呼吸を受けている患者では18%(34人中6人)、人工呼吸を受けていない患者では5%(19人中1人)であった。 【結論】重症のCovid-19で入院し、思いやりのある使い方をしたレムデシビルで治療を受けたこのコホートでは、53人中36人(68%)に臨床的改善が認められた。有効性の測定には、レムデシビル療法に関する継続的な無作為化プラセボ対照試験が必要である。(Gilead Sciences社より資金提供を受けています。) 第一人者の医師による解説 速報として捉える必要あるが 重症COVID-19にレムデシビルは光明となりうる 葉 季久雄 平塚市民病院救急科・救急外科部長 MMJ.August 2020;16(4) 2019年12月に中国・武漢で報告されて以来、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は今や世界的な脅威となっている。2020年2月ごろの日本のCOVID-19 治療最前線では、日日に呼吸状態が増悪していく重症COVID-19患者を我々は目の当たりにしていた。確立された治療薬がない中、数少ない論文を拠り所に、他疾患で承認済みの薬剤を臨床試用していた。そのような状況で、重症治療にあたっていた医師が求めていたものは、今、目の前で苦しんでいる患者を治すための治療薬、すなわち抗ウイルス薬であった。 レムデシビル(remdesivir)はエボラ出血熱の治療薬として開発されたウイルスRNAポリメラーゼ阻害薬である。エボラ出血熱に対してはより有効な薬剤が開発されたため、レムデシビルは全世界で未承認の薬剤であった。レムデシビルはin vitroにおいてコロナウイルスを含む1本鎖RNAウイルスに活性を示すことが知られている。中国からの報告では、in vitroにおいてSARS-CoV-2に対しても強い活性を示していたため、このパンデミック下における治療薬として再び注目された。 本論文は、人道的見地から治療目的に提供されたレムデシビルの重症COVID-19患者に対するコホート研究の報告である。対象となったのは、SARSCoV-2への感染が確認され、室内気で酸素飽和度が94%以下であるか酸素療法中の入院患者で、レムデシビルは10日間連日投与(1日目200 mg、2~10日目100mg)された。評価項目は、酸素療法必要度、転帰であった。本研究では対照群がないため、レムデシビルがCOVID-19に有効であるか否かを明らかにすることは不可能であり、本論文を解釈する際は、速報として結果を捉える必要がある。 データが解析された患者53 人のうち、中央値18日間のフォローアップ中に、68 %(36 /53) で酸素療法の状況が改善した。その一方で、15%(8 /53)は増悪した。改善の具体例としては、57%(17 /30)の患者で抜管することができ、体外式膜型人工肺(ECMO)が導入された患者4人のうち3人において離脱することができた。転帰は47 %(25 /53)が退院、13 %(7 /53)が死亡した。死亡率は人工呼吸器で管理された患者で18%(6 /34)、人工呼吸器で管理がされなかった患者で5%(1/19)であった。 本研究は、この後に続くランダム化比較試験(RCT)へのイントロダクションである。そのRCTの結果ならびに米食品医薬品局(FDA)の緊急時使用許可を踏まえて、レムデシビルは日本において重症COVID-19に対する治療薬(ベクルリー®)として特例承認された。本研究は、重症COVID-19患者に対するレムデシビルの有効性に、最初に光を当てた研究である。
大腸がんの転帰予測のためのディープラーニング:発見と検証の研究。
大腸がんの転帰予測のためのディープラーニング:発見と検証の研究。
Deep learning for prediction of colorectal cancer outcome: a discovery and validation study Lancet 2020 Feb 1;395(10221):350-360. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】早期大腸がん患者を層別化し、アジュバント療法の選択を洗練するために、予後のマーカーを改善することが必要である。本研究の目的は、深層学習を使用してスキャンした従来のヘマトキシリン・エオジン染色切片を直接分析することにより、原発性大腸がん切除後の患者の転帰のバイオマーカーを開発することである。 【方法】4コホートから明らかに良好または不良の病期を有する患者からの12 000 000以上の画像タイルを使用して、超大型異種画像の分類のために専用に構築された合計10の畳み込みニューラルネットワークを訓練するために、使用された。10 個のネットワークを統合した予後バイオマーカーを、転帰が明確でない患者を使用して決定した。このマーカーは、英国で作成されたスライドを用いて920人の患者でテストされ、次にノルウェーで作成されたスライドを用いて、カペシタビンの単剤投与を受けた1122人の患者で、あらかじめ定められたプロトコルに従って独立に検証された。すべてのコホートには、切除可能な腫瘍を有し、解析に利用できるホルマリン固定パラフィン包埋腫瘍組織ブロックを有する患者のみが含まれていた。主要アウトカムは癌特異的生存率であった。 【所見】4つのコホートから828人の患者が明確なアウトカムを有し、明確なグランドトゥルースを得るためのトレーニングコホートとして使用された。1645人の患者は明確な転帰を示さず、チューニングに使用された。バイオマーカーは、検証コホートの一次解析では、予後不良と予後良好のハザード比を3-84(95%CI 2-72-5-43; p<0-0001)、同じコホートの一変量解析で有意だった予後マーカー(pN期、pT期、リンパ管侵襲、静脈血管侵襲)を調整すると3-04(同 2-07-4-17; p<0-0001)であった。 【解釈】臨床的に有用な予後マーカーが、従来のヘマトキシリン・エオジン染色した腫瘍組織切片のデジタルスキャンと連携したディープラーニングを使用して開発された。このアッセイは独立した大規模な患者集団で広範囲に評価され,確立された分子的・形態的予後マーカーと相関し,それを上回り,腫瘍や結節の病期を越えて一貫した結果を与えることができた。このバイオマーカーは、II期とIII期の患者を十分に異なる予後グループに層別化し、非常にリスクの低いグループでの治療を避け、より強力な治療レジームから恩恵を受ける患者を特定することによって、補助治療の選択の指針として使用できる可能性がある。 第一人者の医師による解説 汎用性高い新規バイオマーカー 前向き比較試験での検討必要 小澤 毅士 帝京大学医学部附属病院外科助教/多田 智裕 武蔵浦和メディカルセンターただともひろ胃腸科肛門科理事長 MMJ.August 2020;16(4) 遺伝子検査の進歩などに伴い、さまざまな疾患において各個人に合わせた治療法の選択(プレシジョン・メディシン)が可能になってきた。進行再発大腸がんでは、RAS、BRAFなどの遺伝子変異、マイクロサテライト不安定性(MSI)、がん発生部位に応じた抗がん剤効果予測が一般的に行われている。一方、大腸がん治癒切除後の補助化学療法については、依然として深達度、リンパ節・遠隔転移を考慮したステージングを超える明確な導入判断基準はなく、新たなバイオマーカーが期待されている。 近年、深層学習(deep learning)技術の登場により人工知能(AI)の能力が飛躍的に向上した。医療現場では特にAIを用いた画像診断支援の研究が盛んで、専門医と同等の診断能を示すAIの開発が進んでおり、すでに医療現場に導入されているAI診断支援システムもある。 このような背景において、本研究では大規模な大腸がんの原発巣の病理切除標本スライドをもとに、予後予測AIを開発した。まず予後との関連付けを行ったステージI~ III大腸がんの病理切除標本スライドを用いてAIの教育を行い、別のコホートでその予後予測能を検証した。本研究でとられた手法の特徴は、腫瘍内不均一性を考慮して、標本スライド全体をそのまま予後と関連付けて学習させるのでなく、がん病変部位をタイルと呼ばれる小区域に区切り、それぞれのタイルを解析の上、最終的にがん病変をタイルのヒートマップとして学習させた点である。 結果として、ステージII~ III大腸がんにおいて、AIによる分類は有意な独立した予後因子となりうることが示唆され(ハザード比[HR],3.04;P<0 .0001)、またステージII、ステージIIIそれぞれにおいても同様の結果であった(それぞれHR, 2.71[P=0.011]、2.95[P<0.0001])。1人当たりの解析にかかった時間(中央値)は2.8分であった。 AIを用いた病理標本スライド分類は、新しいバイオマーカーとして役立つのみならず、ヒューマンエラーや観察者間相違をなくし、バイオマーカーとして高い再現性が期待できる。欧米で導入されている遺伝子発現検査などは、コスト、検査時間、検体の保管方法などに伴う再現性の問題から、なかなか広まらないのに対して、本研究で用いられるのは3μ m厚のヘマトキシリンエオジン染色スライドのみであり、汎用性が高いと考えられる。 本研究で開発されたAI分類の最終目標は、ステージII~ III大腸がんに対する術後補助化学療法の導入選択のバイオマーカーとして役立つことであり、これについては今後前向きな比較試験を行い、検討していく必要がある。
重症患者における消化管出血予防の有効性と安全性:システマティックレビューとネットワークメタアナリシス
重症患者における消化管出血予防の有効性と安全性:システマティックレビューとネットワークメタアナリシス
Efficacy and safety of gastrointestinal bleeding prophylaxis in critically ill patients: systematic review and network meta-analysis BMJ 2020 Jan 6;368:l6744. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【目的】重症患者において、プロトンポンプ阻害薬(PPI)、ヒスタミン2受容体拮抗薬(H2RA)、スクラルファート、または消化管出血予防薬(またはストレス性潰瘍予防薬)なしの、患者にとって重要なアウトカムへの相対影響を明らかにする。 【デザイン】系統的レビューとネットワークメタ解析。 【データソース】2019年3月までのMedline、PubMed、Embase、Cochrane Central Register of Controlled Trials、試験登録、グレー文献。 【ELIGIBILITY CRITERIA FOR SELECTING STUDIES AND METHODS]】成人の重症患者においてPPI、H2RA、スクラルファートの消化管出血予防と他、プラシーボ、予防薬なしを比較したランダム化対照臨床試験を対象とした。2名の査読者が独立して研究の適格性を審査し、データを抽出し、バイアスのリスクを評価した。並行して行われたガイドライン委員会(BMJ Rapid Recommendation)が,患者にとって重要なアウトカムの特定など,システマティックレビューの重要な監視を行った。ランダム効果ペアワイズメタ解析とネットワークメタ解析を行い,GRADEを用いて各アウトカムのエビデンスの確からしさを評価した.低リスクの研究と高バイアスリスクの研究で結果が異なる場合は、前者を最良推定値とした。出血のリスクが最も高い(8%以上)または高い(4~8%)患者では、PPIとH2RAの両方が、プラセボまたは予防薬なしに比べて、臨床的に重要な消化管出血をおそらく減らす(PPIのオッズ比 0.61(95% 信頼区間 0.42~0.89)、3.42 to 0.89)、最高リスク患者で3.3%少なく、高リスク患者で2.3%少なく、中程度の確実性;H2RAに関するオッズ比0.46(0.27 to 0.79)、最高リスク患者で4.6%少なく、高リスク患者で3.1%少なく、中程度の確実性).両者とも無予防に比べ肺炎のリスクを高める可能性がある(PPIのオッズ比 1.39 (0.98 to 2.10), 5.0% 増、確実性低、H2RAのオッズ比 1.26 (0.89 to 1.85), 3.4% 増、確実性低)。どちらも死亡率には影響しないと思われる(PPI 1.06 (0.90 to 1.28), 1.3% 増, 中程度; H2RA 0.96 (0.79 to 1.19), 0.9% 減, 中程度)。それ以外では、死亡率、Clostridium difficile感染、集中治療室滞在期間、入院期間、人工呼吸期間への影響を裏付ける結果は得られなかった(証拠の確実性は様々)。 【結論】リスクの高い重症患者では、PPIとH2RAは予防薬なしと比較して消化管出血の重要な減少につながると考えられる;リスクの低い患者では、出血の減少は重要でない可能性がある。PPIとH2RAの両方が肺炎の重要な増加をもたらす可能性がある。死亡率やその他の院内罹患アウトカムに対する介入の重要な効果はないことが、質の低いエビデンスによって示唆された。 第一人者の医師による解説 肺炎のリスクを高める可能性について さらなるRCTが必要 川邊 隆夫 かわべ内科クリニック院長 MMJ.August 2020;16(4) 集中治療室(ICU)に入院を要するような重篤な患者では、消化管出血(ストレス潰瘍)が大きな問題となり、プロトンポンプ阻害薬(PPI)やH2受容体拮抗薬(H2RA)を投与することが推奨されている。 しかし、PPIやH2 RAを投与しても死亡率は改善しないという報告が多く、肺炎やClostridium difficile 感染症(CDI)のリスクが高まる可能性なども指摘されており、ストレス潰瘍予防(SUP)の是非について明確な結論は得られていない。 2018年に、国際的な大規模多施設ランダム化比較試験(SUP-ICU)の結果(1)が発表された。この最もエビデンスレベルの高いとされる研究では、PPIは出血を減少させたが、死亡率には影響しなかった。近年、SUP-ICUのほかにも、いくつかの大規模ランダム化比較試験(RCT)が行われており、これらの研究を加えて、ネットワークメタアナリシス(NMA)を行ったのが本論文である。 著者らは2017年1月~19年3月の研究から、12,660人の患者を含む72件(7件はICU外の重症患者)を選択し、PPI、H2RA、スクラルファートについて、死亡、消化管出血、肺炎、CDIなどへの影響を検討している。 その結果、死亡率については、プラセボまたは予防薬なし(無SUP)と比較し、PPI、H2RA、スクラルファートのいずれも改善あるいは増悪の影響は認められなかった。重篤な出血については、出血リスクを最高、高、中、低の4段階に分けた検討において、最高リスク群、高リスク群ではPPIおよびH2RAはともに、プラセボ(無SUPを含む)に比べ、重篤な出血の減少効果が示されたが、中リスク群、低リスク群では効果がみられなかった。スクラルファートの効果ははっきりしなかった。 肺炎については、無SUP と比較し、PP(I オッズ比[OR], 1.39;95% CI, 0.98~2.10)、H2RA(1.26;0.89~1.85)に有意差を認められなかった。しかし、スクラルファートとの比較で、PPI (1.63;1.12~2.46)とH2RA(1.47;1.11~2.03)のほうがリスクは高く、これらの肺炎に対するリスクは否定できないとしている。CDIについては検討している研究は5件のみで、CDI発生率も低く、有意なデータは得られていない。 以上から著者らは、PPIやH2RAは死亡率には影響しない、消化管出血のリスクの高い患者(慢性肝障害、人工呼吸器使用で経腸栄養なし、凝固障害)においてPPI、H2RAは出血を減少させるが、低~中リスクの患者では効果が期待できず有益ではないかもしれない、PPIやH2RAは肺炎のリスクを高める可能性については、さらなるRCTが必要である、と結論している。 1. Krag M et al. N Engl J Med. 2018;379(23):2199-2208.
潰瘍性大腸炎における大腸がん:スカンジナビアの人口ベースコホート研究。
潰瘍性大腸炎における大腸がん:スカンジナビアの人口ベースコホート研究。
Colorectal cancer in ulcerative colitis: a Scandinavian population-based cohort study Lancet 2020 Jan 11;395(10218):123-131. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】潰瘍性大腸炎(UC)は大腸癌(CRC)の危険因子である。)しかし、利用可能な研究は、古い治療とサーベイランスパラダイムを反映しており、腫瘍ステージ別のCRC発生率やCRCによるステージ調整死亡率を評価するなど、サーベイランスとリードタイムのバイアスを考慮せずにCRC発生リスクを評価したものがほとんどである。我々は、UC患者におけるCRC死亡率及びCRC発症の全体的及び国別のリスクの両方を比較することを目的とした。 【方法】デンマーク(n=32 919)及びスウェーデン(n=63 528)のUC患者96 447人の人口ベースのコホート研究において、患者は、CRC発症及びCRC死亡率について1969年1月1日から2017年12月31日の間に追跡され、一般集団のマッチした参照人(n=949 207)と比較された。UC患者を国の登録から選び、(当該国の)患者登録に関連する国際疾病分類の記録が2つ以上ある場合、またはそのような記録1つと炎症性腸疾患を示唆する形態コードを持つ大腸生検報告書がある場合に解析に含めました。UC患者全員について、デンマークとスウェーデンの総人口登録から、性、年齢、出生年、居住地が一致した参照人物を選んだ。Cox回帰を用いて、腫瘍の病期を考慮したCRC発症およびCRC死亡のハザード比(HR)を算出した。 【所見】追跡期間中に、UCコホートでは1336例のCRC発症(1000人年当たり1-29例)、参照個人では9544例のCRC発症(1000人年当たり0-82例、HR1-66、95%CI1-57-1-76)が観察された。UCコホートでは、同期間に639人の患者がCRCで死亡した(1000人年当たり0-55人)のに対し、参照群では4451人(1000人年当たり0-38人、HR 1-59、95%CI 1-46-1-72)であった。UC患者のCRC病期分布は、マッチさせた参照群よりも進行していなかったが(p<0-0001)、腫瘍病期を考慮すると、UCおよびCRC患者はCRC死亡のリスクが依然として高かった(HR 1~54、95%CI 1~33~1~78)。過剰リスクは暦年間で減少した:追跡の最後の5年間(2013~17年,スウェーデンのみ),UC患者のCRC発症のHRは1~38(95%CI 1-20~1-60,または5年ごとにUC患者1058人に1例の追加),CRCによる死亡のHRは1~25(95%CI 1-03~1-51,または5年ごとにUC患者3041人に1例の追加)であった。 【解釈】UCのない人に比べて、UCのある人はCRCを発症するリスクが高く、CRCと診断されてもあまり進行しておらず、CRCによる死亡のリスクも高いが、これらの過剰リスクは時間とともに大幅に減少している。国際的なサーベイランスガイドラインにはまだ改善の余地があるようだ。 【財源】スウェーデン医学協会、カロリンスカ研究所、ストックホルム県議会、スウェーデン研究会議、スウェーデン戦略研究財団、デンマーク独立研究基金、フォルテ財団、スウェーデンがん財団 第一人者の医師による解説 長期の追跡による成果 潰瘍性大腸炎の診療ガイドライン改訂に役立つ 中山 富雄 国立がん研究センター社会と健康研究センター検診研究部部長 MMJ.August 2020;16(4) 潰瘍性大腸炎など炎症性腸疾患の大腸がんリスクについては、これまで4件のメタアナリシスが報告されているが、うち3件は2004年までの古いデータに基づいていた。今回の研究はスウェーデンとデンマークで1969~2017年に診断された95 ,000 人強の潰瘍性大腸炎患者と性・年齢・居住地をマッチさせた一般集団95万人強を最長約50年追跡して、リスクを評価した。潰瘍性大腸炎診断後の大腸がん罹患のみに限定して解析した。 その結果、潰瘍性大腸炎の患者が一般集団に比べて罹患リスクが1.66倍、死亡リスクが1.59倍高いことが示されたが、この成績は先行研究と同等であった。個別の因子として、18歳未満の潰瘍性大腸炎発症、全大腸型大腸炎、原発性硬化性胆管炎の合併、1親等の大腸がん家族歴が一般集団に比べて特にリスクが高いことが確認された。また潰瘍性大腸炎診断後の1年以内に大腸がんの診断および死亡のリスクが特に高かった。 罹患のみが高いのであれば、潰瘍性大腸炎に対する内視鏡検査で偶発的に大腸がんが見つかったというサーベイランスバイアスの可能性が高いが、死亡が増加していることは、必ずしもバイアスで説明できるものではなく、大腸炎の発病自体が発がんに影響しているのだろう。若年発症は確かにリスクが高いが、40歳以上で潰瘍性大腸炎と診断された場合は、診断後5年以降の大腸がん死亡リスクは一般集団とあまり変わらず、60歳以上での診断例は、診断直後から一般集団と差がなかった。 この長い追跡期間の間に、大腸がん罹患・死亡リスク自体は大幅に低下していた。これは前がん病変の検出やサーベイランスの変遷によるものかもしれないが、食習慣や運動などの予防の影響かもしれない。 今回の研究結果は、住民を対象とし50年近い長期の追跡期間によるもので、結果を一般化しやすい。潰瘍性大腸炎早期発症や病変範囲の広い大腸炎などが際立ってリスクが高いこと、追跡が長期化した場合は罹患も死亡もリスクが一般集団と同レベルに低下することなど、個別のリスクに応じた詳細なサーベイランス方法の設定が可能となる非常に有用なデータである。これまで高リスク者に1~2年に1回の内視鏡検査が推奨されてきたが、いつまで続けるのかは示されていなかった。今回の成績が、潰瘍性大腸炎患者の診療ガイドラインの改訂に役立つこととなるだろう。
慢性膵炎患者の疼痛に対する早期手術と内視鏡ファーストアプローチの効果。The ESCAPE Randomized Clinical Trial.
慢性膵炎患者の疼痛に対する早期手術と内視鏡ファーストアプローチの効果。The ESCAPE Randomized Clinical Trial.
Effect of Early Surgery vs Endoscopy-First Approach on Pain in Patients With Chronic Pancreatitis: The ESCAPE Randomized Clinical Trial JAMA 2020 Jan 21;323(3):237-247. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【重要】疼痛を伴う慢性膵炎の患者に対しては、内科的治療や内視鏡的治療が奏功しない限り、外科的治療は延期される。観察研究では、早期の手術が疾患の進行を緩和し、より良い疼痛コントロールを提供し、膵臓の機能を維持する可能性が示唆されている。 【目的】早期の手術が内視鏡優先のアプローチよりも臨床転帰の点で有効であるかどうかを明らかにする。 【デザイン・設定・参加者】ESCAPE試験は、Dutch Pancreatitis Study Groupに参加しているオランダの30の病院が参加した非盲検の多施設無作為化臨床優越試験である。2011年4月から2016年9月まで、慢性膵炎で主膵管が拡張しており、激しい痛みのために処方されたオピオイドを最近になって使用し始めた患者(強オピオイドを2カ月以下、弱オピオイドを6カ月以下)計88人を対象とした。18カ月の追跡期間は2018年3月に終了した。 【介入】無作為化後6週間以内に膵臓ドレナージ手術を受けた早期手術群に無作為化された44人と、内科的治療、必要に応じて砕石を含む内視鏡検査、必要に応じて手術を受けた内視鏡検査優先アプローチ群に無作為化された44人がいた。[法]主要アウトカムは痛みで、Izbicki疼痛スコアで測定し、18カ月間で積分した(範囲、0~100[スコアが上がると痛みの重症度が増す])。副次的評価項目は、追跡調査終了時の疼痛緩和、介入回数、合併症、入院回数、膵臓機能、QOL(36項目からなるショートフォーム健康調査[SF-36]で測定)、死亡率であった。 【結果】無作為に割り付けられた88名の患者(平均年齢52歳、女性21名(24%))のうち、85名(97%)が試験を完了した。18ヵ月間の追跡調査では、早期手術群の患者は、内視鏡による初回アプローチ群に無作為に割り付けられた群の患者よりもIzbicki疼痛スコアが低かった(37対49、群間差:-12ポイント[95%CI, -22~-2]、P =0.02)。フォローアップ終了時に完全または部分的な疼痛緩和が得られたのは、早期手術群では40例中23例(58%)であったのに対し、内視鏡的アプローチ優先群では41例中16例(39%)であった(P = 0.10)。介入の総数は早期手術群で少なかった(中央値、1対3、P < 0.001)。治療の合併症(27%対25%)、死亡率(0%対0%)、入院、膵臓の機能、およびQOLは、早期手術と内視鏡検査優先アプローチとの間に有意な差はなかった。 【結論と関連性】慢性膵炎患者において、早期手術と内視鏡検査優先アプローチとを比較した場合、18カ月間の統合では、痛みのスコアが低くなった。しかし、経時的な差の持続性を評価し、研究結果を再現するにはさらなる研究が必要である。 【臨床試験登録】ISRCTN Identifier:ISRCTN識別子:STRECTN45877994。 第一人者の医師による解説 内視鏡的治療が選択される患者群も想定 引き続き長期の検討評価を 宅間 健介(助教)/五十嵐 良典(主任教授) 東邦大学医療センター大森病院消化器内科 MMJ.August 2020;16(4) 慢性膵炎は持続する炎症と線維化が進行し、最終的に膵が荒廃する疾患であり、主要徴候の約80%は疼痛である。主膵管狭窄や膵石症を伴うことが多く、膵液うっ滞による膵管内や膵間質内圧の上昇などにより持続疼痛や急性膵炎をきたし、それがさらなる病態進行の原因となる。 疼痛は生活の質(QOL)を低下させ、特に欧米では多用される麻薬鎮痛薬の長期使用による依存などの副作用が懸念されており、疼痛コントロールは極めて重要である。膵切除術・膵管ドレナージ術などの手術療法や膵管ステントを用いた内視鏡的ドレナージ術は膵管内の減圧が得られ、疼痛緩和や外分泌機能改善などに有用な治療とされる。 本研究では主膵管拡張および疼痛を伴う慢性膵炎患者88人を対象に、薬物療法から内視鏡的治療を第1選択として行う群(44 人)と早期手術療法を第1選択とした群(44人)の疼痛コントロールが比較された。主要評価項目である疼痛はIzbicki pain scoreで評価された。 観察期間18カ月における疼痛スコアは早期手術療法群が内視鏡的治療群よりも低く、疼痛コントロールに優れていることを示した。観察終了時での完全・部分的疼痛緩和について統計学的有意差はなく、観察中の合併症発生率、死亡率、入院回数、膵機能変化、QOLも群間差はなかった。内視鏡的治療群では膵石や膵管狭窄の程度により体外式衝撃波結石破砕療法(ESWL= Extracorporeal Shock Wave Lithotripsy)、膵管ステントが用いられ治療介入回数が多かった。また疼痛の持続する治療困難例が24例(62%)に認められ、19人は手術療法に移行・待機となった。 一方、早期手術療法群は単一の介入で明瞭な結果となり、鎮痛に対する早期手術療法の優位性を示した。過去の報告(1),(2)でも外科手術は、より早期の介入ほど鎮痛効果を示し、治療初期のオピオイド使用と内視鏡的治療は早期手術療法に比べ疼痛の軽減が低いことが示されており、今回の結果に一致している。 日本ではESWLによる膵石破砕術や膵管ステント留置術が保険診療として認可されたことにより、広く認知・普及している。患者も心情的に内科的治療を第1選択とする傾向にある。本研究において主膵管内膵石の完全除去例に関しては早期手術療法に近い鎮静効果を示しており、内視鏡的治療を第1と考慮する患者群も想定される。臨床症状や病態を含めた的確な選択と今後の膵管鏡やレーザー、ESWLなどの技術革新に期待しつつ、機能温存や悪性疾患合併などの長期にわたる治療効果評価が必要であろう。 1. Cahen DL et al. N Engl J Med. 2007;356(7):676-684. 2. Díte P et al. Endoscopy. 2003;35(7):553-558.
非アルコール性脂肪性肝疾患と急性心筋梗塞および脳卒中の発症リスク:ヨーロッパの成人1800万人のマッチドコホート研究からの所見。
非アルコール性脂肪性肝疾患と急性心筋梗塞および脳卒中の発症リスク:ヨーロッパの成人1800万人のマッチドコホート研究からの所見。
Non-alcoholic fatty liver disease and risk of incident acute myocardial infarction and stroke: findings from matched cohort study of 18 million European adults BMJ 2019 Oct 8;367:l5367. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【目的】非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)または非アルコール性脂肪肝炎(NASH)を有する成人における急性心筋梗塞(AMI)または脳卒中のリスクを推定する。【デザイン】マッチドコホート研究。 【設定】欧州4カ国の2015年12月31日までの人口ベース、電子プライマリヘルスケアデータベース。イタリア(n=1 542 672)、オランダ(n=2 225 925)、スペイン(n=5 488 397)、英国(n=12 695 046) 【参加者】NAFLDまたはNASHの診断記録があり、他の肝臓疾患がない成人120 795名を、NAFLD診断時(指標日)に年齢、性別、診療施設、診断日の前後6カ月に記録した訪問先、同じデータベースでNAFLDまたはNASHを持たない最大100人の患者と照合した。 【MAIN OUTCOME MEASURES】主要アウトカムは、致死性または非致死性AMIおよび虚血性または特定不能の脳卒中の発症とした。ハザード比はCoxモデルを用いて推定し,ランダム効果メタ解析によりデータベース間でプールした。 【結果】NAFLDまたはNASHの診断が記録されている患者120 795人が同定され,平均追跡期間は2.1~5.5年であった。年齢と喫煙を調整した後のAMIのプールハザード比は1.17(95%信頼区間1.05~1.30,NAFLDまたはNASH患者1035イベント,マッチドコントロール患者67 823)であった。危険因子に関するデータがより完全なグループ(86 098人のNAFLDと4 664 988人のマッチドコントロール)では、収縮期血圧、2型糖尿病、総コレステロール値、スタチン使用、高血圧を調整後のAMIのハザード比は1.01(0.91から1.12;NAFLDまたはNASHの参加者で747イベント、マットコントロールで37 462)であった。年齢と喫煙の有無で調整した後の脳卒中のプールハザード比は1.18(1.11~1.24;NAFLDまたはNASH患者2187イベント、マッチドコントロール134001)であった。危険因子に関するデータがより完全なグループでは,2型糖尿病,収縮期血圧,総コレステロール値,スタチン使用,高血圧をさらに調整すると,脳卒中のハザード比は1.04(0.99~1.09;NAFLD患者1666イベント,マッチドコントロール83 882)だった。 【結論】1770万の患者の現在の日常診療におけるNAFLDとの診断は,既存の心血管危険因子を調整してもAMIや脳卒中のリスクと関連がないようである.NAFLDと診断された成人の心血管リスク評価は重要であるが、一般集団と同じ方法で行う必要がある。 第一人者の医師による解説 膨大なデータベースから得られた重要な結果 さらなる慎重な検証を 今 一義 順天堂大学医学部消化器内科准教授 MMJ.August 2020;16(4) 非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)は進行性の非アルコール性脂肪肝炎(NASH)に非進行性の脂肪肝も含めた、より幅広い疾患概念である。近年、NAFLD/NASHが肝関連死だけでなく動脈硬化進展の独立した危険因子であることが示され、さらにNASHの病期と動脈硬化の進展が相関すると報告され注目された(1)。 その後もNAFLD/NASHが冠動脈疾患の重症度、さらには脳梗塞の発症とも関連することを示した研究が報告されている。しかしながら、NAFLD/NASH自体が肥満および糖尿病・脂質異常症・高血圧といったメタボリックシンドローム関連疾患を背景に生じ、心血管イベントのリスクと多数の交絡因子があるため、肝病態が直接心血管イベントに関与していることを確実に示すことは困難であった。 本研究では欧州の4カ国(イタリア、オランダ、スペイン、英国)の医療管理データベースから12万795 人のNAFLD患者を抽出し、非NAFLDの対照群と観察期間中の致死的・非致死的急性心筋梗塞(AMI)および脳梗塞の発症の有無を比較してオッズ比を算出した。さらに多数の交絡因子で調整した上でハザード比がどのように変化するか検証した。 その結果、年齢、性別、喫煙を調整した場合、NAFLD患者のAMI発症のハザード比は1.17(95%CI, 1.05~1.30)で、収縮期血圧、2型糖尿病、総コレステロール値、スタチン使用および高血圧で調整すると1.01(0.91~1.12)とさらに低下した。脳梗塞に関しても年齢、性別、喫煙で調整するとハザード比1.18(95% CI, 1.11~1.24)で、2型糖尿病、収縮期血圧、総コレステロール値、スタチン使用および高血圧で調整すると1.04(0 .99~ 1.09)とさらに減衰した。よって、NAFLDの診断はAMIおよび脳梗塞の有意な危険因子とは言えないと結論付けた。 本研究の結果は膨大なデータベースから得られた重要なもので、多数の交絡因子を除外していることは本研究の強みである。しかし、年齢、性別、喫煙因子を調整した時点ですでにハザード比が従来の報告と比べて低値であったことを考えなくてはならない。本コホートのNAFLDの有病率は患者総数の2%未満と従来の報告からみても極めて低く、かつ飲酒の有無はアルコール関連疾患の鑑別に基づいており、対照群の妥当性に疑問が残る。また、NASHの病期については検証できていない。NAFLD/NASHと心血管イベントの関連は、今後さらに慎重に検証していくべき課題と考えられる。 1. Targher G et al. N Engl J Med. 2010;Sep 30,363(14):1341-1350.
非アルコール性脂肪肝炎の治療薬としてのオベチコール酸:多施設共同無作為化プラセボ対照第3相試験の中間解析。
非アルコール性脂肪肝炎の治療薬としてのオベチコール酸:多施設共同無作為化プラセボ対照第3相試験の中間解析。
Obeticholic acid for the treatment of non-alcoholic steatohepatitis: interim analysis from a multicentre, randomised, placebo-controlled phase 3 trial Lancet 2019 Dec 14;394(10215):2184-2196. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】 非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)は、肝硬変に至ることもある一般的な慢性肝疾患の一種である。ファルネソイドX受容体アゴニストであるオベチコール酸は、NASHの組織学的特徴を改善することが示されている。ここでは、NASHに対するオベチコール酸の進行中の第3相試験の予定された中間解析の結果を報告する。 【方法】この多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照試験では、明確なNASH、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)活性スコアが4以上、線維化ステージF2-F3、または少なくとも1つの合併症を伴うF1の成人患者を、対話的ウェブ応答システムを用いて1:1:1で、プラセボ、オベチコール酸10mg、オベチコール酸25mgを毎日内服するようランダムに割り当てた。肝硬変、他の慢性肝疾患、高アルコール摂取、または交絡条件が存在する患者は除外された。18ヶ月目の中間解析における主要評価項目は、NASHの悪化を伴わない線維化の改善(1ステージ以上)、または線維化の悪化を伴わないNASHの消失とし、いずれかの主要評価項目を満たした場合に試験成功したと判断されました。主要解析は、線維化ステージF2-F3の患者様で、少なくとも1回の治療を受け、事前に指定された中間解析のカットオフ日までに18ヵ月目の診察に到達した、または到達する見込みの患者様を対象に、intention to treatで実施されました。また、本試験では、NASHおよび線維化の他の組織学的および生化学的マーカー、ならびに安全性についても評価しました。本試験は、ClinicalTrials. gov、NCT02548351、EudraCT、20150-025601-6に登録され、進行中である。 【所見】2015年12月9日から2018年10月26日の間に、線維化ステージF1~F3の患者1968名が登録され、少なくとも1回の試験治療を受け、線維化ステージF2~F3の患者931名が主要解析に含まれた(プラセボ群311名、オベチコール酸10mg群312名、オベチコール酸25mg群308名)。線維化改善エンドポイントは、プラセボ群37名(12%)、オベチコール酸10mg群55名(18%)、オベチコール酸25mg群71名(23%)が達成した(p=0-0002)。NASH消失のエンドポイントは達成されなかった(プラセボ群25例[8%]、オベチコール酸10mg群35例[11%][p=0-18]、オベチコール酸25mg群36例[12%][p=0-13])。安全性集団(線維化ステージF1~F3の患者1968名)において、最も多く見られた有害事象はそう痒症(プラセボ群123例[19%]、オベチコール酸10mg群183例[28%]、オベチコール酸25mg群336例[51%])で、発現頻度は概ね軽度から中等度であり、重症度は低かったです。全体的な安全性プロファイルはこれまでの試験と同様であり、重篤な有害事象の発生率は治療群間で同様でした(プラセボ群75例[11%]、オベチコール酸10mg群72例[11%]、オベチコール酸25mg群93例[14%])。 【解釈】オベチコール酸25mgはNASH患者の線維化およびNASH疾患活性の主要成分を著しく改善させました。この予定された中間解析の結果は、臨床的に有意な組織学的改善を示しており、臨床的有用性を予測する合理的な可能性を持っています。本試験は臨床転帰を評価するために継続中である。 第一人者の医師による解説 脂肪肝炎の組織学的治癒の改善は達成せず 搔痒による忍容性の懸念も 中島 淳 横浜市立大学大学院医学研究科肝胆膵消化器病学教室主任教授 MMJ.August 2020;16(4) 非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)は飲酒習慣のない脂肪肝で、日本でも食生活の欧米化に伴い2000 万人以上の患者がいる。NAFLDの約25%は慢性進行性の肝炎である非アルコール性脂肪肝炎(NASH)になり、その後肝硬変や肝がんに進展する。また、欧米の調査ではNAFLDの死因トップは心血管イベントである。NASHに適応のある薬剤は世界的にまだ1つもなく、多くの開発治験がなされてきたがそのハードルは高い。最近では線維化抑制薬セロンセルチブの第3 相国際臨床試験が日本も含めて行われたが主要評価項目の達成に至らなかった。 本論文は、肝臓の核内受容体FXRの作動薬であるオベチコール酸のNASHに対する有用性を評価するために、20カ国332施設で実施された無作為化プラセボ対照第3相試験(REGENERATE)の中間解析結果の報告である。REGENERATE試験では、線維化ステージ1 ~ 3のNASH患者1,968人をプラセボ群、オベチコール酸10 mg群、25 mg群に無作為化し、1年半の投与後に肝生検が行われ評価された。 その結果、2つの主要評価項目のうちの1つである脂肪肝炎の悪化なき線維化の1ステージの有意な組織学的改善を25mg群でのみ達成したが(プラセボ群12% 対 25mg群23%)、もう1つの主要評価項目である脂肪肝炎の組織学的治癒(NASH resolution)は達成しなかった。重篤な有害事象は認められなかった。 主要評価項目の1つを満たしたことから米国では本剤の承認申請が行われている。確かに米国では近々FDAがオベチコール酸の早期承認を行うと報道されているが、問題もある。まず一番の問題は対プラセボでの治療効果が非常に低いことである。線維化に対して10 mgは無効で、25mgでのみ有効であったが、そのレスポンダーは23%にとどまった。しかもNASHの病理学的治癒は達成されてない。このようなパワーでは果たして今後投与を継続して4年後にハードエンドポイントであるイベント低減を達成できるだろうか。 また、薬剤独自の有害事象として痒みとLDLコレステロールの上昇が懸念されている。前者は本試験の25mgにおいて軽症~重症の搔痒を51%に認めた(プラセボ群19%)ことから忍容性が心配であろう。LDLコレステロールの上昇は25mg 群で17%(プラセボ群7%)に認めたが、これは本疾患の欧米での死因トップが心血管イベントであることを考慮すると問題かもしれない。非常に残念なことは、日本においてオベチコール酸の開発は第2相試験までで中断され、今回のグローバル試験に日本は参加できなかった点であり、当分NASHの新薬は国内で承認されることはなさそうである。
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