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70歳以上の女性を対象とした年1回のマンモグラフィ検診と乳がん死亡率
70歳以上の女性を対象とした年1回のマンモグラフィ検診と乳がん死亡率
Continuation of Annual Screening Mammography and Breast Cancer Mortality in Women Older Than 70 Years Ann Intern Med . 2020 Mar 17;172(6):381-389. doi: 10.7326/M18-1199. Epub 2020 Feb 25. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】無作為化試験から、50-69歳の間に乳がん検診を開始し、10年間継続することによって乳がん死亡率が低下することが明らかになっている。しかし、マンモグラフィ検診を中止しても安全かどうか、いつ中止したら安全かを検討した試験はない。米国では、75歳以上の女性の推定52%がマンモグラフィ検診を受検している。 【目的】乳がん検診が70-84歳のメディケア受給者の乳がん死亡率にもたらす効果を推定すること。 【デザイン】年1回のマンモグラフィ検診継続と検診中止の2通りの検診法を検討した大規模住民対象観察試験 【設定】2000-08年の米国のメディケアプログラム。 【参加者】平均余命10年以上で、乳がん診断歴がなく、マンモグラフィ検診を受診した70-84歳のメディケア受益者105万8013例。 【評価項目】8年間の乳がんによる死亡、発症率、治療および年齢層別のマンモグラフィ検診の陽性的中率。 【結果】70-84歳の女性で、検診継続と検診中止の間の8年間の乳がんによる死亡リスクの差は1000人当たり-1.0件(95%CI -2.3-0.1)と推定された(ハザード比0.78、95%CI 0.63-0.95、マイナスのリスク差から継続が支持される)。75-84歳では、対応するリスク差は1000人当たり0.07(CI -0.93-1.3)だった(ハザード比1.00、CI 0.83-1.19)。 【欠点】入手できたメディケアデータからは、検診後8年間しか追跡できなかった。観察データを用いた試験と同じように、推定は残存交絡の影響を受けている可能性がある。 【結論】75歳を過ぎてからの年1回の乳がん検診継続によって、継続中止よりも8年間の乳がん死亡率が大幅に低下することは示されなかった。 第一人者の医師による解説 高齢化社会に向け いつ、安全にマンモグラフィ検診を終了できるかを示唆 菊池 真理 がん研有明病院画像診断部 乳腺領域担当部長/大野 真司 がん研有明病院副院長・乳腺センター長 MMJ. December 2020;16(6):170 マンモグラフィ検診の上限の年齢設定に関しては、最新のメタアナリシスで「50~69歳での乳がん検診の開始とその後10年間の継続で10,000人当たり21.3人の乳がん死を防げる」としているが(1)、75歳以上を対象としたランダム化比較試験は存在せず、75歳以上では死亡率低減効果は不明で、いつ安全に検診マンモグラフィを終了できるかどうかを検討した試験はない。米国では75歳以上の女性の52%がマンモグラフィ検診を受診している。また、日本の対策型検診では年齢の上限は規定されていない。女性はどのくらいの期間乳がん検診を継続するべきかという、臨床上重要な問いに対応する研究のエビデンスは限定的であり、今後の研究の展望もはっきりしていない。  本論文は、70~84歳のメディケア加入者(米国の65歳以上の老人や身体障害者を対象とする公的医療保険制度)の乳がん死における乳がん検診の効果の推定を目的とした人口ベースの大規模観察研究の報告である。今後10年以上生存する可能性が高く、マンモグラフィ検診の受診歴があり、乳がんと診断されたことのない70歳以上のメディケア加入女性1,058,013人が参加し、年1回の乳がん検診継続と乳がん検診中止の2つの検診方策群で比較している。その結果、70~74歳で検診を継続する場合、乳がんによる8年死亡率は1,000人当たり1人低減することを示唆した。一方、75歳以上で検診を継続した場合、同リスクの差は1,000人当たり0.07人となり、検診は死亡率に影響しないとみられた。これは、より高齢の女性では、循環器疾患や神経疾患などの競合する原因による死亡率が加齢とともに乳がん死亡率を追い抜くというランダム化臨床試験(1)における仮説と一致していた。研究の限界として、観察データを用いるどの研究とも同様に、残留交絡の影響を受ける点が挙げられる。  日本乳癌学会の「乳癌診療ガイドライン」では、日本の簡易生命表から算出される年齢ごとの10年後の生存率(60歳95.6%、65歳93.2%、70歳88.5%、75歳78.8%、80歳61.4%)を踏まえて、75歳超では「検診外発見乳がんでの生存率を年齢の因子だけで下回る可能性が高い」との考察より、日本における「乳がんマンモグラフィ検診の至適年齢は40~75歳と考えられる」としており(2)、本論文はこれを裏付ける結果となっている。  高齢化に伴う受給者増加、給付費増大による医療財政の逼迫は米国だけでなく、日本も同様に抱えている問題である。本研究の知見は今後、限られた財源の中で高齢者の対策型検診の扱いを考慮する上で一助になると考える。 1. Nelson HD, et al. Ann Intern Med. 2016;164(4):244-255. 2. 乳癌診療ガイドライン 2 疫学・診断編 2018 年版(第 4 版): 200-202.
駆出率が低下した心不全に用いる包括的疾患修飾薬物療法の生涯にわたる便益の推測 無作為化比較試験3件の比較分析
駆出率が低下した心不全に用いる包括的疾患修飾薬物療法の生涯にわたる便益の推測 無作為化比較試験3件の比較分析
Estimating lifetime benefits of comprehensive disease-modifying pharmacological therapies in patients with heart failure with reduced ejection fraction: a comparative analysis of three randomised controlled trials Lancet . 2020 Jul 11;396(10244):121-128. doi: 10.1016/S0140-6736(20)30748-0. Epub 2020 May 21. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】駆出率が低下した心不全(HFrEF)に3つの薬剤クラス(ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬[MRA]またはアンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬[ARNI]、ナトリウム・グルコース共益輸送担体2[SGLT2]阻害薬)を用いると、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬またはアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)とβ遮断薬を用いた従来療法よりも死亡率が低下する。各クラスはこれまで別々の基礎療法で検討されていたが、併用療法として予想される便益は知られていない。ここに、これまで報告された無作為化比較試験3件のデータを用いて、慢性HFrEFに用いる包括的治療と従来治療によって獲得される無イベント生存および全生存を推定した。 【方法】このcross-trial解析では、3件のきわめて重要な試験、EMPHASIS-HF(2737例)、PARADIGM-HF(8399例)およびDAPA-HF(4744例)を間接的に比較することによって、慢性HFrEFに用いる総括的疾患修飾薬物療法(ARNI、β遮断薬、MRAおよびSGLT2阻害薬)の従来の薬物療法と比較した治療効果を推定した。主要評価項目は、心血管死または心不全による初回の入院の複合とした。このほか、3つの評価項目を個別に評価し、総死亡率を評価した。この関連のある治療効果は長い期間をかけて一貫して見られると仮定して、EMPHASIS-HF試験の対照群(ACE阻害薬またはARBとβ遮断薬)で、包括的疾患修飾療法によって長期的に得られる無イベント生存および全生存の増加分を見積もった。 【結果】従来療法と比較して包括的疾患修飾療法が主要評価項目(心血管死または心不全による入院)にもたらす帰属集計効果のハザード比(HR)は0.38(95%CI 0.30-0.47)だった。このほか、心血管死単独(HR 0.50、95%CI 0.37-0.67)、心不全による入院単独(同0.32、0.24-0.43)、全死因死亡(0.53、0.40-0.70)のハザード比も有利であった。従来療法に比べると、包括的疾患修飾薬物療法によって心血管死または心不全による初回入院が2.7年(80歳時)から8.3年(55歳時)、生存が1.4年(80歳時)から6.3年(55歳時)長くなると推定された。 【解釈】HFrEFで、早期包括的疾患修飾薬物療法で得られると推定される治療効果はきわめて大きく、新たな標準的治療としてARNI、β遮断薬、MRAおよびSGLT2阻害薬の併用を支持するものである。 第一人者の医師による解説 ARNI、SGLT2阻害薬、MRAの導入 生命予後改善に有用 鈴木 秀明(助教)/安田 聡(教授) 東北大学大学院医学系研究科循環器内科学分野 MMJ. December 2020;16(6):169 日本における死亡総数は、心疾患による死亡が悪性新生物に次ぎ2番目に多い。心疾患の内訳では心不全死が最多を占め、心不全入院患者数は依然増加し続けている。駆出率が低下した心不全(HFrEF)では、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬/アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)とβ遮断薬のエビデンスは確立しており、この2剤に加えミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)、アンジオテンシン受容体・ネプリライシン阻害薬(ARNI)、Na+/グルコース共役輸送担体(SGLT)2阻害薬の導入は生命予後をさらに改善することが報告されている。しかし心不全治療の現場において、HFrEF患者に対するARNI、SGLT2阻害薬、MRAの導入は必ずしも進んでいない。  本研究では、HFrEFに対するARNI、SGLT2阻害薬、MRAの有用性を示した3件の臨床試験(それぞれPARADIGM-HF[n=8,399]、DAPA-HF[n=4,744]、EMPHASIS-HF[n=2,737])を比較することで、ACE阻害薬/ARB+β遮断薬の2剤が導入されたHFrEF患者に対し、ARNI・SGLT2阻害薬・MRAの3剤導入が与える効果について検証が行われた。結果として、これら3剤の導入は、1次エンドポイントである心血管死・心不全入院を62%減少させ(ハザード比[HR], 0.38)、心血管死(HR, 0.50)、心不全入院(HR, 0.32)、全死亡(HR, 0.53)も減少させた。こうした予後改善効果は、55歳、80歳時点の導入において心血管死・心不全入院をそれぞれ8.3年、2.7年間遅らせ、全死亡を6.3年、1.4年間遅らせることに相当すると推定された。  本研究の限界として、①新しいランダム化比較試験を行ったわけではなく、過去の臨床試験を比較検討した内容、②薬物の中止やアドヒアランスを考慮していない、③有害事象や費用面の検討を行っていない、④イバブラジン(HCNチャネル遮断薬)やベルイシグアト(可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激薬)といったHFrEFにエビデンスのある他の薬剤や、デバイスなどの非薬物治療の効果を検討していない、などが挙げられる。しかし、こうした点を考慮しても、ACE阻害薬/ ARB+β遮断薬の2剤による従来治療に加え、ARNI・SGLT2阻害薬・MRAの3剤を導入することはHFrEF患者の生命予後を改善する上で有用であることが本研究で改めて明らかになったと言えよう。
PCI後の心房細動に用いる2剤併用療法と3剤併用療法の比較 系統的レビューとメタ解析
PCI後の心房細動に用いる2剤併用療法と3剤併用療法の比較 系統的レビューとメタ解析
Dual Versus Triple Therapy for Atrial Fibrillation After Percutaneous Coronary Intervention: A Systematic Review and Meta-analysis Ann Intern Med . 2020 Apr 7;172(7):474-483. doi: 10.7326/M19-3763. Epub 2020 Mar 17. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】経皮的冠動脈インターベンション(PCI)後の非弁膜症性心房細動(AF)に用いる3剤併用療法(ビタミンK拮抗薬+アスピリン+P2Y12阻害薬)と比較した2剤併用療法(直接経口抗凝固薬[DOAC]+P2Y12阻害薬)の安全性と有効性は明らかになっていない。 【目的】PCI後のAFで、3剤併用療法と比較した2剤療法が出血と虚血性転帰にもたらす効果を明らかにすること。 【データ入手元】PubMed、EMBASE、Cochrane Library(開始から2019年12月31日まで)およびClinicalTrials.govの言語の制約なしの検索、医学雑誌のウェブサイト、文献一覧。 【試験の選択】PCI後のAF成人患者を対照に、2剤併用療法と3剤併用療法が出血、死亡率および虚血性事象にもたらす効果を比較した無作為化比較試験。 【データ抽出】独立した調査員2人がデータを要約し、根拠の質を評価し、根拠の質を等級付けした。 【データ合成】7953例を検討した試験4件を選択した。追跡期間中央値は1年、高度の根拠の質で、3剤併用療法と比べると、2剤併用療法で大出血のリスクが低下した(リスク差-0.013、95%CI -0.025--0.002)。低度の根拠の質で、3剤併用療法と比べると、2剤併用療法によって全死亡(同0.004、-0.010-0.017)、心血管死(同0.001、-0.011-0.013)、心筋梗塞(同0.003、同-0.010-0.017)、ステント血栓症(同0.003、-0.005-0.010)および脳卒中(同-0.003、-0.010-0.005)のリスクが低下した。この効果の信頼区間の上限値は2剤併用療法でのリスク上昇の可能性対応する。 【欠点】試験デザイン、DOAC用量およびP2Y12阻害薬の種類の異質性。 【結論】PCI後の成人AFで、2剤併用療法で3剤併用療法に比べて出血リスクが低下するが、死亡と虚血性事象のリスクにもたらす効果はいまだに明らかになっていない。 第一人者の医師による解説 血栓事象や死亡は不変だが 2剤併用療法選択のエビデンスは強固に 清末 有宏 東京大学医学部附属病院循環器内科助教 MMJ. December 2020;16(6):168 冠動脈ステント留置後のステント血栓症予防療法については、冠動脈ステントが実用化された1990年ごろから現在まで実に30年来の議論が続いており、いまだ最終結論にたどり着いていない。その主な理由としては、次々と新しい冠動脈ステント(金属ステント→第1~3世代薬剤溶出性ステント)および抗血栓薬が登場していることが推察される。また日本では経皮的冠動脈形成術(PCI)施行患者の高齢化が進み、心房細動(AF)合併率が上昇していることも抗血栓療法を取り巻く状況をさらに複雑化している。PCI施行患者レジストリーのCREDO-Kyotoで は8.3%にAFの合併が(1)、心房細動患者レジストリーのJ-RHYTHMでは10.1%に冠動脈疾患の合併が報告されており(2)、合併率は年々上昇していると考えられる。AF合併患者においてはPCI後に標準的な抗血小板療法に、AFに標準的な抗凝固療法を加えた適切な抗血栓療法を考える必要があり、一部効果がオーバーラップするため、その併用はそれぞれの単独療法とは別途検討が必要になる。  本論文はこのような背景の下、AF合併のPCI施行患者について、近年非弁膜症性AFに標準的に用いられるようになった直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)にP2Y12阻害薬のみを併用する2剤併用療法と、古典的にワルファリンに抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)、つまりアスピリンとP2Y12阻害薬を併用する3剤併用療法を比較して、出血事象、血栓事象、死亡のそれぞれをメタアナリシスで検討している。最終的に選定された解析対象は、現在日本で発売されている4種のDOACのそれぞれの主要大規模ランダム化対照試験であるPIONEER AF-PCI、RE-DUAL PCI、AUGUSTUS、ENTRUST-AF PCIの4試験であった。結果として、2剤併用療法の選択により統計学的有意な出血事象の減少を認め、血栓事象および死亡は有意差を認めなかった。これはRE-DUAL PCIとAUGUSTUSのそれぞれの単独試験と全く同じ結果であり、残りのPIONEER AF-PCIとENTRUST-AF PCIでも同様の傾向であった。研究の限界として各試験のDOAC投与量や投与方法の不均一性が指摘されており、それに対する統計解析方法における既報との細かい差異などが述べられているが、実臨床家の治療方針選択行動に大きく影響する内容ではないと考える。  以上の結果を踏まえ、DOAC各単独試験の結果を踏まえ、すでに各国ガイドラインで採用されている2剤併用療法の優越性が本論文によって強化されたと言え、筆者は実臨床家が2剤併用療法を選択する際のエビデンスがより強固なものとなったと考える。 1. Goto K, et al. Am J Cardiol. 2014;114(1):70-78. 2. Atarashi H, et al. Circ J. 2011;75(6):1328-1333.
日常診療で心房細動患者に用いるリバーロキサバンと比較したアピキサバンの有効性と安全性 コホート研究
日常診療で心房細動患者に用いるリバーロキサバンと比較したアピキサバンの有効性と安全性 コホート研究
Effectiveness and Safety of Apixaban Compared With Rivaroxaban for Patients With Atrial Fibrillation in Routine Practice: A Cohort Study Ann Intern Med . 2020 Apr 7;172(7):463-473. doi: 10.7326/M19-2522. Epub 2020 Mar 10. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】アピキサバンとリバーロキサバンは成人心房細動患者に最もよく処方される直接経口抗凝固薬であるが、安全性と有効性を直接比較したデータはない。 【目的】非弁膜症性心房細動の成人患者でアピキサバンとリバーロキサバンの安全性と有効性を比較すること。 【デザイン】新規使用者、実薬対照、後ろ向きコホート研究。 【設定】2012年12月28日から2019年1月1日までの米国の全国民間健康保険請求データベース 【参加者】新たにアピキサバン(5万9172例)またはリバーロキサバン(4万706例)を処方された成人。 【評価項目】主要有効性評価項目は、虚血性脳卒中または体塞栓の複合とした。主要安全性評価項目は、頭蓋内出血または症渇感出血の複合とした。 【結果】アピキサバンを新たに処方された3万9351例をリバーロキサバンを新たに処方された3万9351例と傾向スコアでマッチさせた。平均年齢が69歳、40%が女性で、平均追跡期間が新規アピキサバン使用者288日、新規リバーロキサバン使用者291日であった。虚血性脳卒中または体塞栓の発生率は、リバーロキサバンを処方された成人で1000人年当たり8.0であったのに比較すると、アピキサバンを処方された成人で1000人年当たり6.6であった(HR 0.82、95%CI 0.68-0.98、1000人年当たりの率比-1.4、CI 0.0-2.7)。このほか、アピキサバンを処方された成人で、消化管出血または頭蓋内出血の発生率(1000人年当たり12.9)がリバーロキサバンを処方された成人(1000人年当たり21.9)よりも低く、ハザード比0.58(CI, 0.52 to 0.66)と1000人年当たりの率比-9.0(同6.9-11.1)に相当した。 【欠点】未測定の交絡因子、検査データが不完全な点。 【結論】日常診療で、アピキサバンを処方した心房細動の成人患者がリバーロキサバンを処方した患者と比べると、虚血性脳卒中や体塞栓、出血の発生率が低かった。 第一人者の医師による解説 用量の違いに注意必要だが NVAF患者へのDOAC選択はアピキサバンが最適か 児玉 隆秀 虎の門病院循環器センター内科部長 MMJ. December 2020;16(6):167 経口抗凝固薬は心房細動に関連する虚血性脳卒中のリスクをおよそ70%低下させることができる。日本では現在4種類の直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)が使用可能で、世界的に最も処方数が多いのはアピキサバンとリバーロキサバンである。今までこの2剤の安全性と有効性を直接比較した大規模データは発表されていなかった。  本研究では米国の保険データベースを用いて、アピキサバンまたはリバーロキサバンを新規に処方された非弁膜症性心房細動(NVAF)患者を対象に、傾向スコア解析法を用いて有効性と安全性を検証した。有効性の主要評価項目は虚血性脳卒中またはその他塞栓症の複合イベント、安全性のそれは頭蓋内出血または消化管出血の複合イベント。アピキサバン群59,172人、リバーロキサバン群40,706人の中から傾向スコアマッチング(1:1)を行った結果、各群の患者数は39,351人で傾向性は良好に調整された。有効性評価項目のイベント発生率はアピキサバン群6.6/1,000人・年,リバーロキサバン群8.0/1,000人・年(ハザード比[HR], 0.82)、安全性評価項目のイベント発生率はアピキサバン群12.9/1,000人・年,リバーロキサバン群21.9/1,000人・年(HR, 0.58)とアピキサバン群の方が有効性・安全性ともに優れていた。70歳以上に対象を絞り込んだサブグループ解析でも同様の結果であった。  本研究は傾向スコア解析法を用いたコホート研究であり、収集不可能なパラメータがある以上、すべての交絡因子を完全に排除することはできない。しかしながら、それぞれ4万人近い患者を可能な限りのパラメータを用いて厳密に交絡因子を調整した解析結果と考えれば、リアルワールドデータとして実臨床に応用可能である。注意すべき点としては、日本におけるリバーロキサバンの用量は15mg1日1回で海外の用量(20mg 1日1回)と異なるため、海外のデータをそのまま適応しづらい点にある。ただし、本研究から有効性のみでなく安全性においてもリバーロキサバンに対しアピキサバンが優位であることを考えると、用量の少ない日本の臨床に適応できるデータと考える。日本循環器学会/日本不整脈心電学会合同の「不整脈薬物療法ガイドライン2020年改訂版」でも大出血リスクの低いDOACとしてリバーロキサバンは選択肢から除外されており(クラス IIa)、1日2回投与という服薬コンプライアンスに影響を与える因子を排除できれば、NVAF患者にリバーロキサバンではなくアピキサバンを選択することは妥当であるといえよう。
認知機能障害が疑われる高齢者でアルツハイマー型認知症と軽度認知障害や認知機能正常者を見分ける簡易認知機能検査
認知機能障害が疑われる高齢者でアルツハイマー型認知症と軽度認知障害や認知機能正常者を見分ける簡易認知機能検査
Brief Cognitive Tests for Distinguishing Clinical Alzheimer-Type Dementia From Mild Cognitive Impairment or Normal Cognition in Older Adults With Suspected Cognitive Impairment: A Systematic Review Ann Intern Med . 2020 May 19;172(10):678-687. doi: 10.7326/M19-3889. Epub 2020 Apr 28. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】簡易アルツハイマー型認知症(CATD)を検出する認知機能検査の精度と有害性は明らかになっていない。 【目的】認知機能障害が疑われる高齢者でCATDを検出する簡易認知機能検査の精度と有害性に関する科学的根拠をまとめること。 【データ入手元】電子文献データベース(開始から2019年11月まで)と系統的レビューの文献。 【試験選択】高齢者を対象に、既存の診断基準で定義したCATDを軽度認知障害(MCI)または認知機能正常を区別する簡易認知機能検査(個別検査;記憶検査、実行機能検査および言語検査;簡易総合検査)の精度を評価した英語の対照観察試験。リスクバイアス(ROB)が低度または中等度を示した試験を解析対象とした。 【データ抽出】レビュアー2人がROBを等級付けした。レビュアー1人がデータを抽出した、もう1人が抽出精度を検証した。 【データ合成】57試験が解析基準を満たした。多くの簡易個別認知機能検査で、正常認知機能とCATDを見分ける感度および特異度が良好で、個別検査(時計描画検査:感度中央値0.79、特異度中央値0.88[8試験]、Mini-Mental State Examination[MMSE]:0.88と0.94[7試験]、Montreal Cognitive Assessment:0.94と0.94[2試験]、Brief Alzheimer Screen:0.92と0.97[1試験])、記憶検査(記憶遅延再生:0.89と0.94[5試験])および言語検査(意味流暢性課題:0.92と0.89[9試験])が検討されていた。軽度CATDと正常認知機能、CATDとMCIを見分ける精度が低かった。検査の有害性を報告した試験はなかった。 【欠点】試験の規模が小さかった点、複数の試験で評価した測定基準がほとんどなかった点、別の検査やスコア、カットオフ値、検査の組み合わせを直接比較した試験がほとんどなかった点。 【結論】多くの簡易個別認知機能検査で、高齢者のCATDと正常認知機能を正確に見分けることができるが、軽度CATDと正常認知機能、CATDとMCIを見分ける場合は精度が低下した。検査が有害であることを報告した試験はなかった。 第一人者の医師による解説 簡易認知機能検査によりさらに詳細な検査を行うべき「候補」を決めるとよい 福井 俊哉 花咲会かわさき記念病院病院長 MMJ. December 2020;16(6):166 臨床的にアルツハイマー病が示唆される認知症(clinical Alzheimer-type dementia;CATD)の診断は認知症を専門としないプライマリケア医にとっては結構難しい。CATDの診断は、詳細な病歴、問診、身体的診察、形態的・機能的画像所見、脳脊髄液バイオマーカーに加えて、記憶・判断・視空間認知・実行機能などを質的・量的に評価する詳細な認知検査の結果に基づいて総合的に下されるが、この過程は認知機能低下を有する患者と非専門医にとって負担が大きい。残念ながらいまだに簡易認知機能検査がCATDを軽度認知障害(MCI)や認知機能正常者(以下、正常者)から区別できるというエビデンスはない。本論文ではこの点に焦点を当て、簡易認知機能検査の認知症診断能力に関する英語論文を網羅し、どの検査がこの目的に対して有用かについてレビューを行った。論文の引用基準として、CATD/MCIが既存の診断基準(NINCDSADRDA/Petersen criteriaなど)に基づいていること(正常者の定義はさまざま)、各認知機能レベル群25人以上であること、関連因子がもたらすバイアスのリスクが中等度以下であること、検査をすることのデメリット(社会的偏見や不要な治療)について考察されていることなどが設定されている。これらの条件を満たした横断的対照観察研究は57/5,007編あった。  個別的認知機能検査(時計描画検査、記憶検査、言語検査)および総合的認知機能検査(Mini-Mental State Examination[MMSE]、Montreal Cognitive Assessment[MoCA]、Brief Alzheimer Screen)が検討された。CATDと正常者の鑑別において、MMSE、MoCA、BriefAlzheimer Screen、記憶遅延再生、意味性語想起の感度・特異度は高く90%を超えていた。さらにCATDが重度になると、感度・特異度は上がる傾向にあった。一方、CATDとMCI、また軽度CATDと正常者の鑑別においては各検査とも感度・特異度が80%程度に低下した。検査施行が有害であったとの報告はなかった。  結論は、「簡易認知機能検査 は 中等度以上のCATDを正常者から区別する感度・特異度は高いが、CATDとMCI、軽度CATDと正常者を区別する能力は低い」である。将来、CATD/MCI/正常者を正確に診断する簡易認知機能検査を開発する必要があると締めくくられている。実臨床では簡易認知機能検査を用いてCATDを「推定」し、詳しい診断過程を必要とする「候補」を決定するとよい。
アルツハイマー型認知症治療に用いる処方薬と栄養補助食品の便益と有害性
アルツハイマー型認知症治療に用いる処方薬と栄養補助食品の便益と有害性
Benefits and Harms of Prescription Drugs and Supplements for Treatment of Clinical Alzheimer-Type Dementia Ann Intern Med . 2020 May 19;172(10):656-668. doi: 10.7326/M19-3887. Epub 2020 Apr 28. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】アルツハイマー型認知症(CATD)の薬物治療の効果が明らかになっていない。 【目的】CATD治療に用いる処方薬と栄養補助食品の効果に関する根拠をまとめえること。 【データ入手元】電子文献データベース(開始から2019年11月)、ClinicalTrials.gov(2019年10月)および文献の系統的レビュー。 【試験選択】処方薬と栄養補助食品を用いた高齢CATDの治療を検討し、認知機能や生活機能、全般的評価、認知症の行動と心理症状(BPSD)、有害性を報告した英語の試験。最短治療期間を24週間とした(一部のBPSDは2週間以上)。 【データ抽出】バイアスリスク(ROB)が低度または中等度を示す試験を解析した。レビュアー2人がROBを等級付けした。レビュアー1人がデータを抽出し、別の1人が抽出の精度を検証した。 【データ合成】非BPSD転帰(ほとんどが26週間以下)を報告した試験55件とBPSD(ほとんどが観察期間12週間以下)を報告した12件を解析した。CATDの重症度全般にわたって、主に低強度の根拠から、プラセボと比較したコリンエステラーゼ阻害薬で認知機能が平均してわずかに改善し(標準化平均差[SMD]中央値0.30[範囲0.24-0.52])、生活機能は差がないか、わずかな改善を示し(SMD中央値0.19[範囲-0.10-0.22])、臨床全般印象度に中等度以上の改善の尤度に差がなく(絶対リスク差中央値4%[範囲2-4])、有害事象による治療中止が多かった。コリンエステラーゼ阻害薬を投与する中等症ないし重症CATDで、低強度ないし不十分な根拠から、プラセボと比較してメマンチン追加で一貫性はないが認知機能が改善し、臨床全般印象度も改善を示したが、機能は改善が見られなかった。BPSDに用いる処方薬やあらゆる転帰に及ぼす栄養補助食品の効果に関する根拠が不十分であった。 【欠点】ほとんどの薬剤で高強度のROBを示す試験がほとんどなく、特に栄養補助食品、有効成分の比較、BPSD、長期間の試験に関するものが顕著であった。 【結論】コリンエステラーゼ阻害薬とメマンチンで短期間の認知機能低下が抑制され、コリンエステラーゼ阻害薬でわずかな機能低下抑制が報告されたが、プラセボとの差に臨床的な重要性があるか明らかではなかった。BPSDの薬物治療、あらゆる転帰にもたらす栄養補助食品の効果に関する根拠がほとんど不十分であった。 第一人者の医師による解説 BPSDへの効果やサプリメント類の効果は エビデンス不十分で判断できず 佐藤 謙一郎 東京大学大学院医学系研究科脳神経医学/岩坪 威 東京大学大学院医学研究科神経病理学教授 MMJ. December 2020;16(6):165 アルツハイマー型認知症(AD)に対する治療として2008年にまとめられた系統的レビュー(1)、また米国家庭医療学会(AAFP)および米国内科医学会(ACP)より発表されたガイドライン(2)においては、コリンエステラーゼ阻害薬(ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン)およびN-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)受容体拮抗薬(メマンチン)は、プラセボと比較し、認知機能を統計学的に有意に改善するとされたものの、これらの薬剤使用により臨床的に重要な認知機能・生活機能の改善がどの程度得られるかは不明であった。また日常臨床においては周辺症状(BPSD)に対しても、これらの薬剤はしばしば用いられるが、BPSDに対する効果も不明であった。さらには、ビタミン Dやその他のサプリメント類の効果などについても不明であった。そこで本論文では、AAFPの新ガイドライン出版を見据えて、2008年のエビデンスからさらにアップデートし、上記治療薬・サプリメントの認知機能・生活機能、BPSDなどに対する効果および有害事象について、バイアスリスクが低~中等度の臨床試験を対象に系統的レビューを行った。  解析対象とした試験66件のうち55件がBPSD以外のアウトカムを報告しており、ほとんどの試験で観察期間は26週以下と短期間であった。また12件の試験がBPSDをアウトカムとして報告しており、そのほとんどの観察期間は12週以下とさらに短期間であった。コリンエステラーゼ阻害薬は、プラセボと比較し、認知機能を小幅に改善し、生活機能についてはほとんど改善せず、また有害事象による中止率が高かった。特に中等度以上のADにおいては、(エビデンスは不十分ながらも)メマンチンをコリンエステラーゼ阻害薬に加えた場合、プラセボと比較し、認知機能は改善するが生活機能は改善しなかった。BPSDに対する処方薬のエビデンス、また全アウトカムに対するサプリメント類のエビデンスは不十分であった。  結論としては、既存のコリンエステラーゼ阻害薬およびメマンチンの認知機能・生活機能に対する効果の位置付けに大きな変化はない。また、今回追加的に検討したBPSDに対する効果やサプリメント類による治療効果についてはエビデンスが不十分で判断できない、という結論になる。 1. Raina P, et al. Ann Intern Med. 2008;148(5):379-397. 2. Qaseem A, et al. Ann Intern Med. 2008;148(5):370-378.
フランス・パリのCOVID-19大流行下に見られる小児の川崎病様多臓器系炎症性疾患 前向き観察研究
フランス・パリのCOVID-19大流行下に見られる小児の川崎病様多臓器系炎症性疾患 前向き観察研究
Kawasaki-like multisystem inflammatory syndrome in children during the covid-19 pandemic in Paris, France: prospective observational study BMJ . 2020 Jun 3;369:m2094. doi: 10.1136/bmj.m2094. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【目的】川崎病様多臓器系炎症性疾患の集団発生に見舞われた小児および青少年の特徴を明らかにし、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)との一時的な関連の可能性を評価すること。 【デザイン】前向き観察研究。 【設定】フランス・パリの大学病院一般小児病棟。 【参加者】2020年4月27日から5月11日の間に入院し、同年5月15日までに退院するまで経過観察した川崎病の特徴を有する小児および青少年21例(18歳以下)。 【主要評価項目】主要評価項目は、臨床的・生物学的データ、画像および心エコーの所見、治療および転帰とした。RT-PCRを用いて鼻咽頭ぬぐい液のSARS-CoV-2の有無を調べる検査を前向きに実施し、血液検体でウイルスに対するIgG抗体を調べた。 【結果】15日間の間に、小児および青少年21例(年齢中央値7.9[範囲3.7-16.6]歳)が川崎病の症状を呈し、入院した。12例(57%)がアフリカ系であった。12例(57%)が川崎病ショック症候群、16例(76%)が心筋炎を来した。17例(81%)が集中治療を要した。全21例に疾患早期の顕著な消化器症状と炎症マーカー高値が見られた。19例(90%)に、SARS-CoV-2に感染して間もない根拠があった(21例のうち8例がRT-PCR検査陽性、19例からIgG抗体検出)。全21例に免疫グロブリン製剤を静注し、10例(48%)にはステロイド薬も投与した。臨床転帰は全例が良好だった。入院中、5例(24%)に中等度の冠動脈拡張が見られた。5月15日までに、8(5-17)日間の入院後、全例が退院した。 【結論】パリの小児および青少年の間で現在も続く川崎病様多臓器系炎症性疾患の集団発生には、SARS-CoV-2との関連があると思われる。この研究では、この症状が見られる小児および青少年の間で消化器症状、川崎病ショック症候群の割合が非常に高く、その多くがアフリカ系であった。 第一人者の医師による解説 小児ではCOVID-19感染後1 ~ 2カ月間は 川崎病の症状に注意すべき 三浦 大 東京都立小児総合医療センター副院長 MMJ. December 2020;16(6):164 本論文は、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染症(COVID-19)流行時に、川崎病類似の多臓器系炎症症候群の小児が多数発生したというフランスからの報告である。COVID-19に伴う多臓器系炎症症候群は、日本では皆無だが欧米で報告が相次ぎ、欧州ではPIMS-TS、米国ではMIS-Cと略され、一部は川崎病ショック症候群(KDSS)とオーバーラップする。  著者らは、パリの 大学病院小児科に2020年4~5月に中央値8日間入院し、川崎病の診断基準を満たした小児21人を調査した。年齢は中央値7.9歳、12人は女児で、12人(57%)はアフリカ系であった。12人(57%)はKDSS、16人(76%)は心筋炎を伴い、17人(81%)が集中治療を要した。21人全例が顕著な胃腸症状と高度の炎症反応を示し、免疫グロブリン静脈療法(IVIG)を受け、10人(48%)はステロイドも投与された。全例が良好に回復したが、中等度冠動脈瘤が5人(24%)に検出された。  SARS-CoV-2に関して、PCR陽性8人、IgG抗体陽性19人と計19人(90%)で最近の感染が証明された。川崎病発症と咳・鼻汁・発熱などウイルス感染症状との間隔は中央値で45日間(9人)、SARS-CoV-2疑い症状のあった家族との接触との間隔は36日間であった(5人)。SARS-CoV-2感染の1~2カ月後に発症するという時間的経過はPIMS-TSの報告と一致し、ウイルス感染後の免疫反応が川崎病様の症状を引き起こしたと推測される。  本報告例では、アフリカ系、年長児、女児に好発し、胃腸症状、ショック、心機能低下、炎症反応異常高値を多く認め、IVIG不応率、冠動脈瘤合併率、集中治療を要した割合が高かった。このような特徴はPIMS-TSやKDSSと同様で、アジア人、乳幼児、男児に多い典型的な川崎病と異なる。その理由は不明であるが、人種による遺伝的免疫応答の相違である可能性があり、今後の研究テーマである。  当院で調査した日本の小児のデータを紹介する(1)。2020年3 ~ 5月に入院した川崎病患児14人における抗SARS-CoV-2抗体検査でIgG陽性は1人のみであった。この陽性例は1歳の男児で(2)、母親からのCOVID-19に感染後60日目に再入院し、川崎病の診断でIVIG+ステロイド併用療法を受け、冠動脈瘤なく軽快した。KDSSの症状はなかったが、SARS-CoV-2と川崎病との関連が示唆され、調べ得た範囲では日本初の症例である。  世界的にはCOVID-19流行は収まっておらず、アフリカ系の住民が多い地域では、胃腸症状や血行動態が不安定な川崎病様の症状を呈する小児に注意が必要である、と著者らは述べている。日本ではまれであるが、COVID-19感染後、1~2カ月間は発熱など川崎病の症状に気をつけるべきと考える。 1. Iio K, et al. Acta Paediatr. 2020 Aug 16:10.1111/apa.15535. 2. Uda K, et al. Pediatr Intern. 2020 (in press). # #編集部対応:最新状況を反映する
高齢者のdysanapsisと慢性閉塞性呼吸器疾患の関連
高齢者のdysanapsisと慢性閉塞性呼吸器疾患の関連
Association of Dysanapsis With Chronic Obstructive Pulmonary Disease Among Older Adults JAMA . 2020 Jun 9;323(22):2268-2280. doi: 10.1001/jama.2020.6918. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【重要性】喫煙が慢性閉塞性呼吸器疾患(COPD)の大きな危険因子であるが、COPDのリスクの多くはいまだに説明できていない。 【目的】CT画像で評価したdysanapsis(気道内径と肺の大きさが不釣り合いな状態)が、高齢者のCOPD発症およびCOPDの肺機能低下と関連があるかを明らかにすること。 【デザイン、設定および参加者】2531例を検討したMulti-Ethnic Study of Atherosclerosis(MESA)Lung Study(米6都市、2010-2018年)と1272例を検討したCanadian Cohort of Obstructive Lung Disease(CanCOLD、カナダ9都市、2010-2018年)の地域住民標本2件の後向きコホート研究およびCOPDの症例対照研究Subpopulations and Intermediate Outcome Measures in COPD研究(SPIROMICS、米12都市、2011-2016年)。 【曝露】肺気量の立方根で分割した標準的な解剖学的部位19箇所で測定した気道内径の幾何平均として、CT画像上でdysanapsisを定量化した(気道の肺に対する比率)。 【主要評価項目】主要評価項目は、気管支拡張薬吸入後の1秒率(FEV1:FVC)0.70未満と定義したCOPDとした。長期肺機能を副次評価項目とした。全解析を患者背景とCOPD危険因子(喫煙および受動喫煙、職業的および環境的汚染、喘息)。 【結果】MESA Lung標本(平均[SD]年齢69[9]歳、1334例[52.7%]が女性)では、参加者2531例中237例(9.4%)にCOPDがあり、気道の肺に対する比率の平均(SD)は0.033(0.004)、平均(SD)FEV1低下量は-33mL/y(31 mL/y)であった。COPDがないMESA Lungの参加者2294例のうち、98例(4.3%)が中央値6.2年時にCOPDを発症した。気道の肺に対する比率の最高四分位範囲の参加者と比べると、最低四分位範囲の参加者はCOPD発症率が有意に高かった(1000人年当たり9.8 vs 1.2例、率比[RR]8.121、95%CI 3.81-17.27、1000人年当たりの率差8.6例、95%CI 7.1-9.2、P<0.001)が、FEV1低下量に有意差はなかった(-31 vs. -33mL/y、差2mL/y、95%CI -2-5、P=0.30)。CanCOLD参加者(平均[SD]年齢67[10]歳、564例[44.3%]が女性)、752例中113例(15.0%)が中央値3.1年時にCOPDを発症し、平均(SD)FEV1低下量は-36mL/y(75 mL/y)であった。気道の肺に対する比率最低四分位範囲の参加者のCOPD発症率は、最低四分位範囲の参加者よりも有意に高かった(1000人年当たり80.6 vs. 24.2例、RR 3.33、95%CI 1.89-5.85、1000人年当たりの率差 56.4例、95%CI 38.0-66.8、P<0.001)が、FEV1低下量に有意差はなかった(-34 vs. -36mL/y、差 1 mL/y、95%CI -15-16、P=0.97)。COPDがあり、中央値2.1年追跡したSPIROMICS参加者1206例(平均[SD]年齢65[8]歳、542例[44.9%]が女性)のうち気道の肺に対する比率が最低四分位範囲の参加者は平均FEV1低下量が-37 mL/y(15mL/y)で、MESA Lung参加者の低下量を有意差がなかった(P=0.98)が、最高四分位範囲の参加者ではMESA Lung参加者よりも有意に速く低下した(-55mL/y[16 mL/y]、差-17mL/y、95%CI -32--3、P=0.004)。 【結論および意義】高齢者で、dysanapsisにCOPDと有意な関連があり、気道内径が肺の大きさよりも狭いとCOPDリスクが高くなった。DysanapsisはCOPDの危険因子であると思われる。 第一人者の医師による解説 気道の発育障害は 喫煙とは独立したCOPD発症要因 永井 厚志 新百合ヶ丘総合病院呼吸器疾患研究所所長 MMJ. December 2020;16(6):162 慢性閉塞性肺疾患(COPD)の発症要因としては喫煙が主因とみなされているが、非喫煙者でもCOPDの病態となる高齢者が少なくなく、今日なおCOPD発症リスクの多くは未解決である。本研究では、2つの前向きコホート研究(MESA、CanCOPD)および症例対照研究(SPIROMICS)の参加者を対象に、CT画像(19画像/肺)により計測された気道径と肺胞容積の比率を算出することにより、肺胞に対する気道発育の不均衡(dysanapsis)を評価し、COPD病態の発症との関連性について後ろ向きの検討が行われた。なお、これらの検討では喫煙や環境汚染への曝露、喘息など既知のCOPD発症要因について補正がなされた。結果は、肺胞に比べ気道径の発育が低値を示す群では、COPD(気管支拡張薬吸入後の1秒率70%未満と定義)の発症頻度がいずれのコホート研究でも高値を示した。呼吸機能(FEV1)の経年的低下に関して、それぞれの研究観察期間内では気道肺胞容積の不均衡とは関連性がみられなかった。以上の結果から、高齢者においては、肺胞に比べ気道の発育が低下を示すdysanapsisはCOPDの重要な危険因子であることが示唆される、と結論づけられている。また、重喫煙者でありながらCOPDとしての気流閉塞がみられない一因として、気道の発育がより高度である可能性にも触れている。  従来から、成人期の気流閉塞には幼小児期における肺の発育過程で生じた気道と肺の発達の不均衡が関与しており、20~30歳代に成熟する呼気流量が健常者に比べ低値にとどまることで、その後、加齢とともに低下する高齢者においてCOPD病態に至る可能性が指摘されていた(1),(2)。事実、これまでの研究では、中等度以上の気流閉塞を示すCOPD患者の約半数に肺の発育障害がみられると報告されている(3)。本研究では、COPD患者の30%近くが非喫煙者であることへの疑問に対して肺の発育障害が関与している可能性を示している。しかしながら、対象者は肺の発育期ではない成人であり、CTでの気道計測がCOPD病態の主病変である末梢気道ではなく比較的中枢気道であること、COPDは多因子により形成されるが本研究では質の異なった3研究が統合解析されていることなど、多くの指摘されるべき点がみられる。本研究に限界はあるにせよ、肺の発育と高齢に至り発症するCOPDに密接な関連があるという指摘は注目すべきであり、今後の課題として気道と肺の不均衡な発育(dysanaptic lung growth)の詳細な原因を解明することが求められる。 1. Stern DA, et al. Lancet. 2007;370(9589):758-764. 2. Svanes C, et al. Thorax. 2010;65(1):14-20. 3. Lange P, et al. N Engl J Med. 2015;373(2):111-122.
アトピー性皮膚炎予防のための1日1回の保湿剤塗布 BEEP無作為化比較試験
アトピー性皮膚炎予防のための1日1回の保湿剤塗布 BEEP無作為化比較試験
Daily emollient during infancy for prevention of eczema: the BEEP randomised controlled trial Lancet . 2020 Mar 21;395(10228):962-972. doi: 10.1016/S0140-6736(19)32984-8. Epub 2020 Feb 19. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】アトピー性皮膚炎発症の前に皮膚バリア機能障害が起きる。著者らは、生後1年間の日常的な保湿剤使用によって高リスク乳児のアトピー性皮膚炎が予防できるかを検証した。 【方法】英国の病院12施設とプライマリ・ケア4施設で、多施設共同実用的並行群間無作為化比較試験を実施した。アトピー性皮膚炎発症高リスク(医師が診断したアトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎または喘息があると両親が報告した一等親近縁者が1人以上いるなど)の正期産新生児(在胎37週以上)を登録するため、出生前または出生後の診察を利用して家族に打診した。アトピー性疾患の家族歴がある正期産新生児を1年間の1日1回保湿剤塗布(DiprobaseクリームとDoubleBaseゲルのいずれか)+標準的なスキンケアの助言(保湿群)と標準的なスキンケアの助言単独(対照群)に(1体1の割合で)無作為に割り付けた。無作為化のスケジュールは、コンピュータが生成したコード(組み入れ施設とアトピー性疾患がある一等親近縁者数で層別化)を用いて作成し、インターネットによる無作為化システムを用いて参加者を割り付けた。主要評価項目は2歳時のアトピー性皮膚炎(UK Working Party診断基準で判定)とし、評価項目のデータが得られた参加者を割り付け遵守に関係なく無作為化したグループとして解析し、層別化変数で調整した。この試験は、ISRCTNにISRCTN21528841番で登録されている。長期追跡のためのデータ収集が進行中だが、試験の登録は終了している。 【結果】2014年11月19日から2016年11月18日にかけて、新生児1394例のうち693例を保湿群、701例を対照群に割り付けた。保湿群で質問票の回答を完遂した参加者の遵守率は、3カ月時88%(532例中466例)、6カ月時82%(519例中427例)、12カ月時74%(506例中375例)だった。2歳時、評価項目のデータが得られた保湿群598例中139例(23%)、対照群612例中150例(25%)にアトピー性皮膚炎があった(調整相対リスク0.95[95%CI 0.78-1.16]、P=0.61、調整リスク差-1.2%[-5.9-3.6])。評価項目の結果は、その他のアトピー性皮膚炎の定義から裏付けられた。1年目の乳児1例当たりの平均皮膚感染数が対照群0.15(SD 0.46)に対して保湿群0.23(SD 0.68)で、調整発生率比1.55(95%CI 1.15-2.09)であった。 【解釈】高リスク乳児で1日1回保湿剤塗布による生後1年間のアトピー性皮膚炎予防に何ら根拠がないことが明らかになり、根拠から皮膚感染のリスクが上昇することが示唆された。試験から、アトピー性皮膚炎、喘息、アレルギー性鼻炎の家族が新生児のアトピー性皮膚炎予防のために1日1回の保湿剤を塗布してはならないことが明らかになった。 第一人者の医師による解説 アドヒアランスが低い大規模研究の問題点を露呈 中途半端なスキンケアでは予防につながらない 大矢 幸弘 国立成育医療研究センターアレルギーセンター センター長 MMJ. December 2020;16(6):161 新生児期から全身に保湿剤を塗布することで、アトピー性皮膚炎の発症率が低下することを示したランダム化対照試験(RCT)が2014年に2件報告され(1),(2)、そのうちの1つ(2)は、今回報告されたBEEP試験のパイロット研究の位置づけであった。  BEEP試験はアレルギー家系の乳児1,394人を対象に行われた多施設共同研究である。主要評価項目は1歳から2歳になるまでの1年間のアトピー性皮膚炎(UK Working Partyの 疫学的診断基準)の発症率で、結果は、保湿群23%(139/598)、対照群25%(150/612)と両群間に有意差はなかった。保湿剤塗布期間は生後1年までであったが、1歳時のアトピー性皮膚炎有病率は両群とも20%で差はなかった。スキンケアという面倒な介入の効果はアドヒアランスに依存すると思われるが、筆者らは良好だったと記載している(生後3カ月時は88%、6カ月時は82%、生後12カ月時は74%)。  では、なぜ、パイロット研究(2)と乖離した結果が出たのであろうか。本研究におけるアドヒアランス良好の定義は、週3~4日以上、頭頸部、四肢、体幹の2カ所以上に保湿剤を塗布していればよいことになっている(パイロット研究では全身)。アドヒアランスの詳細を論文補遺から調べて、パイロット研究と比較したところ、以下のように大きな違いがあった。今回、介入群693人のうち生後12カ月目のアンケートに507人(73%)が回答し、そのうち週7日間保湿剤を塗布していたのは248人(49%)であった。一方、パイロット研究では生後6カ月の主要評価項目の評価時点でのアドヒアランスは54人中44人(81.5%)が週7日保湿剤を塗布していた。介入群では保湿剤塗布が週0日のノンアドヒアランスは0%だったのに対してBEEP試験では12カ月時点で58人(11%)もいた。パイロット研究と同じ生後6カ月時点のアドヒアランスを比べてもBEEP試験では週0日塗布が6%、週7日塗布が56%と著しく低い。しかも、対照群で週3日以上保湿剤を塗布していた人は生後6カ月と12カ月で28%もいたのである。Pragmatic trialというと聞こえは良いが、プロトコールの遵守率が低下する大規模研究の問題点が露呈したとも言える。アトピー性皮膚炎の治療効果はアドヒアランスに依存するが予防効果も同様であったことを本研究は示した。中途半端なスキンケアでは予防はできない、ということである。 1. Horimukai K, et al. J Allergy Clin Immunol. 2014;134(4):824-830.e6. 2. Simpson EL, et al. J Allergy Clin Immunol. 2014;134(4):818-823.
乳児のアトピー性皮膚炎予防のための皮膚保湿剤と早期補完食(PreventADALL) 多施設共同多因子クラスター無作為化試験
乳児のアトピー性皮膚炎予防のための皮膚保湿剤と早期補完食(PreventADALL) 多施設共同多因子クラスター無作為化試験
Skin emollient and early complementary feeding to prevent infant atopic dermatitis (PreventADALL): a factorial, multicentre, cluster-randomised trial Lancet . 2020 Mar 21;395(10228):951-961. doi: 10.1016/S0140-6736(19)32983-6. Epub 2020 Feb 19. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】乳児期早期の皮膚保湿剤によってアトピー性皮膚炎が予防でき、早期補完食導入によって高リスク乳児の食物アレルギーが減少すると思われる。この試験は、一般の乳児で、生後2週間の定期的な皮膚保湿剤使用や生後12-16週齢の間の早期補完食導入によって生後12カ月時までのアトピー性皮膚炎発症を抑制できるかを明らかにすることを目的とした。 【方法】この住民対象の2×2要因無作為化臨床試験は、ノルウェー・オスロ市のオスロ大学病院およびエーストフォール病院トラスト、スウェーデン・ストックホルム市のカロリンスカ大学病院で実施された。妊娠18週時のルーチンの超音波検査実施時に出生前の乳児を登録し、2015年から2017年の間に出生した新生児を以下のクラスターごとに無作為に割り付けた――(1)スキンケアに関して特別な助言はしないが、乳児の栄養に関して国の指針に従うよう助言した対照群(非介入群)、(2)皮膚保湿剤使用(入浴剤やクリーム;皮膚介入群)、(3)ピーナツ、牛乳、小麦、卵の補完食早期導入(食物介入群)、(4)皮膚および食物介入(複合介入群)。コンピュータ生成クラスター無作為化法を用いて、参加者を92の地理的居住地域と3カ月ごと8期間を基に(1対1対1対1の割合で)割り付けた。1週間当たり4日以上、保護者に介入方法を指導した。主要転帰は生後12カ月までのアトピー性皮膚炎とし、介入の割り付けをふせておいた試験担当医師による3、6、12カ月時の診察を基に判定した。12カ月間の追跡期間を完遂後、アトピー性皮膚炎を評価し、UK Working PartyとHanifin and Rajka(12カ月時のみ)の診断基準を満たしているかを診断した。主要有効性解析は、無作為化した全例を対象としたintention-to-treat解析で実施した。2020年に全例の3歳時の診察が終了するとき、食物アレルギーの結果を報告することとした。これは、ORAACLE(the Oslo Research Group of Asthma and Allergy in Childhood; the Lung and Environment)が実施した試験である。この試験は、clinicaltrials.govにNCT02449850番で登録されている。 【結果】2014年12月9日から2016年10月31日の間に、女性2697例を登録し、2015年4月14日から2017年4月17日の間に出生した新生児2397例を組み入れた。非介入群の乳児596例中48例(8%)、皮膚介入群575例中64例(11%)、食物介入群642例中58例(9%)、複合介入群583例中31例(5%)にアトピー性皮膚炎が見られた。皮膚保湿剤、補完食早期導入ともにアトピー性皮膚炎の発症を抑制できず、皮膚介入のリスク差3.1%(95%CI -0.3-6.5)、食物介入で1.0%(-2.1-4.1)となり、対照を支持するものであった。介入による安全性の懸念はなかった。皮膚介入群、食物介入群および複合介入群で報告された皮膚症状や徴候(掻痒、浮腫、皮膚乾燥、蕁麻疹)は、非介入群と比べて頻度は高くなかった。 【解釈】早期皮膚保湿剤や早期補完食導入では、生後12カ月までのアトピー性皮膚炎発症を抑制することができなかった。試験は、生後12カ月までのアトピー性皮膚炎を予防するために、乳児にこの介入法を用いることを支持するものではない。 第一人者の医師による解説 スキンケア方法や離乳食の開始法、その頻度の影響を検討する必要あり 大矢 幸弘 国立成育医療研究センターアレルギーセンター センター長 MMJ. December 2020;16(6):160 アレルギー家系の乳児に新生児期から保湿剤を塗布するスキンケアを行うことでアトピー性皮膚炎の発症予防効果を示した100人規模の2つのランダム化比較試験(RCT)が2014年に発表された(1),(2)。その後、離乳食を3カ月という早期から開始した場合と生後6カ月から開始する場合を比較したEAT試験が2016年に発表され、卵とピーナツに関してはそれぞれのアレルギーの予防効果が示されている(3)。また、コホート研究の中には、離乳食の開始が早い方が食物アレルギーだけでなくアトピー性皮膚炎の発症も少ないという報告もある。  本研究は、生後2週間からバスオイルによる保湿スキンケアと生後12~16週で離乳食を早期開始するという2つの介入の単独または併用を対照群と比較する4群比較 RCTである。主要評価項目は生後12カ月時点でのアトピー性皮膚炎(UK Working PartyまたはHanifinとRajkaの診断基準)と3歳時での食物アレルギーであるが、今回の論文では前者のみ報告されている。対象は、今回解説を併載したBEEP試験のような高リスク家系ではなく一般人口の乳児である。スキンケア介入は、水8Lあたり0.5dLのバスオイルを入れて5~10分入浴し顔全体にクリームを塗布し、石鹸は使用しない。早期離乳食介入は、生後12~16週にピーナツバター、1週遅れて牛乳、翌週小麦のおかゆ、4週目にスクランブルエッグを開始する。スキンケア、離乳食とも週4日以上の実行が指示された。  主要評価項目アトピー性皮膚炎の発症率は、非介入群8%(48/596)、スキンケア群11%(64/575)、早期離乳食群9%(58/642)、併用介入群5%(31/583)であり、介入によるアトピー性皮膚炎の発症予防は実証できなかった。ちなみに、バスオイルを週平均4.5日以上実行した割合はスキンケア群32%、併用介入群33%、週平均5.5日以上はそれぞれ13%と14%であった。早期離乳食のアドヒアランス(4種類のうち3種類以上を生後18週までに開始し、週3~5日以上、5週間以上実施)率は食事介入単独群35%、併用介入群27%であった。  このようにスキンケアを週7日実施した参加者がほとんどいないRCTでスキンケアによるアトピー性皮膚炎の予防効果を実証することは困難と思われるが、研究が行われた北欧では、毎日入浴する習慣がなく実行可能性を考慮して週4日以上というプロトコールとなった。バスオイルでの入浴と入浴後に保湿剤を塗布する効果が同じかどうかは不明であるが、BEEP試験と同じく、中途半端なスキンケアではアトピー性皮膚炎は予防できないという結果を示している。 1. Horimukai K, et al. J Allergy Clin Immunol. 2014;134(4):824-830.e6. 2. Simpson EL, et al. J Allergy Clin Immunol. 2014;134(4):818-823. 3. Perkin MR, et al. N Engl J Med. 2016 May 5;374(18):1733-1743.
中等症ないし重症アトピー性皮膚炎の青少年・成人患者に用いるabrocitinibの有効性および安全性 第III相多施設共同二重盲検プラセボ対照無作為化試験
中等症ないし重症アトピー性皮膚炎の青少年・成人患者に用いるabrocitinibの有効性および安全性 第III相多施設共同二重盲検プラセボ対照無作為化試験
Efficacy and safety of abrocitinib in adults and adolescents with moderate-to-severe atopic dermatitis (JADE MONO-1): a multicentre, double-blind, randomised, placebo-controlled, phase 3 trial Lancet . 2020 Jul 25;396(10246):255-266. doi: 10.1016/S0140-6736(20)30732-7. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】経口選択的JAK1阻害薬abrocitinibは、第IIb相試験で、中等症ないし重症アトピー性皮膚炎成人患者に有効で忍容性も良好であった。著者らは、中等症ないし重症アトピー性皮膚炎の青少年および成人患者に用いるabrocitinib単独療法の有効性および安全性を評価した。 【方法】この第III相多施設共同二重盲検プラセボ対照無作為化試験(JADE MONO-1)では、オーストライラ、カナダ、欧州および米国69施設で、12歳以上で体重40kg以上の中等症ないし重症アトピー性皮膚炎(IGAスコア3点以上、EASIスコア16点以上、罹患面積の体表面積に対する割合10%以上かつ最大掻痒の順序尺度[NRS]スコア4点以上)患者を組み入れた。患者を経口abrocitinib 100mg、同200mg、プラセボを12週間にわたって経口投与するグループに(2対2対1の割合で)無作為に割り付けた。双方向自動応答システムを用いて無作為化し、ベースラインの疾患および年齢で層別化した。多重主要評価項目は、IGAスコアが改善した(0点[皮疹消失]または1点[皮疹ほぼ消失]を達成した患者の割合で、試験開始時から2段階以上改善)患者の割合および試験開始時からEASIスコアが75%以上改善した患者の割合(EASI-75達成率)とし、いずれも12週時に評価した。無作為化し治験薬を1回以上投与した全例の完全解析集団を対象に、有効性を評価した。無作為化した全例を対象に安全性を評価した。この試験は、ClinicalTrials.govにNCT03349060番で登録されている。 【結果】2017年12月7日から2019年3月26日にかけて、387例を組み入れ、156例をabrocitinib 100mg群、154例を同200mg群、77例をプラセボ群に割り付けた。組み入れた全例に治験薬を1回以上投与したため、12週間の有効性の評価対象となった。I12週時の主要評価項目のデータが入手できた患者で見ると、GAスコア改善達成率は、aborcitinib 100mg群(156例中37例[24%] vs. 76例中6例[8%]、P=0.0037)、同200mg群(153例中67例[44%]vs. 76例中6例[8%]、P<0.0001)の方がプラセボ群より有意に高かった。12週時の主要評価項目のデータが入手できた患者で、プラセボ群と比較すると、EASI-75を達成した患者の割合は、abrocitinib 100mg群(156例中62例[40%]vs. 76例中9例[12%]、P<0.0001)および同200mg群(153例中96例[63%] vs.76例中9例[12%]、P<0.0001)の方が高かった。abrocitinib 100mg群156例中108例(69%)と同200mg群154例中120例(78%)、プラセボ群77例中44例(57%)に有害事象が報告された。abrocitinib 100mg群156例中5例(3%)、同200mg群154例中5例(3%)、プラセボ群77例中3例(4%)に重度有害事象が報告された。治療関連の死亡は報告されなかった。 【解釈】中等症ないし重症アトピー性皮膚炎の青少年・成人患者に、経口abrocitinibの1日1回単独投与が有効で忍容性も良好であった。 第一人者の医師による解説 アブロシチニブは1日1回の単剤投与で 有用な新規経口全身療法薬となりうる 伊藤 友章(准教授)/大久保 ゆかり(教授) 東京医科大学皮膚科学分野 MMJ. December 2020;16(6):159 アトピー性皮膚炎の基本的な治療は、ステロイド外用薬となるが、重症患者では改善が乏しい。ステロイド内服療法は有効だが、副作用が多い。シクロスポリン内服療法は継続治療ができず治療効果に乏しい。近年、IL-4/13受容体阻害薬デュピルマブが、重症アトピー性皮膚炎治療に用いられ、その有効性は高い。しかし、皮下注射製剤であること、ときに結膜炎の合併が生じ、眼科医のケアを必要とする。アトピー性皮膚炎ではIL-4、IL-13、IL-22、IL-31、thymic stromal lymphopoietin(TSLP)などの炎症サイトカインによるJAK1経路の活性化が病態に関与しており、JAK1が治療標的として注目されている。  本論文は、経口JAK1阻害薬アブロシチニブのアトピー性皮膚炎に対する有効性と安全性を検討した多施設共同、無作為化、プラセボ対照、第3相試験(JADE MONO-1)の報告である。対象は12歳以上、EASIスコア(湿疹面積・重症度指数)16点以上、IGA(皮膚症状重症度の全般評価)3点以上、BSA(アトピー性皮膚炎に罹患した体表面積)10%以上、PP-NRSスコア(最高痒み数値評価尺度)4点以上の患者とした。患者387人が登録され、アブロシチニブ100mg、200mgまたはプラセボを1日1回投与する群に2対2対1の比で割り付けられ、12週間の治療を受けた:100mg群156人(18歳未満22%、EASI31.3*、BSA50.8*)、200mg群154人(18歳未満21%、EASI30.6*、BSA49.9*)、プラセボ群77人(18歳未満22%、EASI28.7*、BSA47.4*;*平均値)。評価項目は、12週の時点におけるIGAスコアが1点以下かつベースラインから2点以上低下した患者の割合(IGA≦1達成割合)、およびEASIスコアがベースラインから75%以上改善した患者の割合(EASI-75達成割合)とされた。  結果は、12週時のIGA≦1達成率は100mg群24%、200mg群44%、プラセボ群8%であり、EASI-75達成割合は100mg群40%、200mg群63%、プラセボ群12%であり、いずれもプラセボ群に比べ有意に高値であった(P<0.0001)。PPNRSは12週時で、100mg群および200mg群とも、ベースラインと比較して、有意に痒みを抑えた。治療に関連のある有害事象として、単純ヘルペスウイルス感染症の発現は100mg群1人、200mg群3人で、帯状疱疹はそれぞれ1人と2人、口腔ヘルペスはそれぞれ3人と1人に発現した。治療関連死の報告はなかった。  結論として、アブロシチニブは、外用薬でコントロールできない、12歳以上の中等症~重症アトピー性皮膚炎患者の治療において、1日1回の単剤投与で有用な新規の経口全身療法薬となりうる。
急性低酸素血症性呼吸不全成人患者に用いる非侵襲的換気療法と全死亡率の関連 系統的レビューとメタ解析
急性低酸素血症性呼吸不全成人患者に用いる非侵襲的換気療法と全死亡率の関連 系統的レビューとメタ解析
Association of Noninvasive Oxygenation Strategies With All-Cause Mortality in Adults With Acute Hypoxemic Respiratory Failure: A Systematic Review and Meta-analysis JAMA . 2020 Jul 7;324(1):57-67. doi: 10.1001/jama.2020.9524. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【重要性】急性低酸素血症性呼吸不全成人患者に用いる非侵襲的換気や高流量経鼻酸素などの非侵襲的酸素療法が、標準酸素療法より有効性が高いと思われる。 【目的】急性低酸素血症性呼吸不全成人患者で、各種非侵襲的換気療法の死亡率と気管内切開との関連を比較すること。 【データ入手元】以下の文献データベースの開始から2020年4月までを検索した――MEDLINE、Embase、PubMed、Cochrane Central Register of Controlled Trials、CINAHL、Web of ScienceおよびLILACS。言語、出版年、性別、人種に制限は設けないこととした。 【試験選択】急性低酸素血症性呼吸不全成人患者を組み入れ、高流量経鼻酸素、フェイスマスク型非侵襲換気、ヘルメット型非侵襲的換気および標準的酸素療法を比較した無作為化臨床試験。 【データ抽出および合成】レビュアー2人が別々に個別試験データを抽出し、コクランバイアスリスクツールを用いてバイアスリスクを評価した。リスク比(RR)およびリスク差を95%信用区間(CrI)と共に得るため、ベイジアンフレームワークを用いたネットワークメタ解析を実施した。根拠の確実性の等級付けには、GRADEの方法論を用いた。 【主要転帰および評価項目】主要転帰は、最大90日間の全死因死亡率に規定した。最大30日間の気管挿管を副次評価項目とした。 【結果】無作為化試験25件(参加者3804例)を対象とした。標準酸素療法と比べると、ヘルメット型非侵襲的換気(RR 0.40、95%CrI 0.24-0.63、絶対リスク差-0.19、95%CrI -0.37--0.09、低度の確実性)とフェイスマスク型非侵襲的換気(RR 0.83、95%CrI 0.68-0.99、絶対リスク差-0.06、95%CrI -0.15--0.01、中等度の確実性)の死亡リスクが低かった(21試験、3370例)。ヘルメット型非侵襲的換気(RR 0.26、95%CrI 0.14-0.46、絶対リスク差-0.32、95%CrI -0.60--0.16、低度の確実性)、フェイスマスク型非侵襲的換気(RR 0.76、95%CrI 0.62-0.90、絶対リスク差-0.12、95%CrI -0.25--0.05、中等度の確実性)および高流量経鼻酸素(RR 0.76、95%CrI 0.55-0.99、絶対リスク差-0.11、95%CrI -0.27--0.01、中等度の確実性)の気管切開率が低かった(25試験、3804例)。挿管時の盲検下の欠如によるバイアスリスクは、高いと考えられた。 【結論および意義】この急性低酸素血症性呼吸不全成人患者を検討した試験のネットワークメタ解析では、非侵襲的換気による治療が標準酸素療法よりも死亡リスクが低かった。各戦略の相対的便益に対する理解を深めるために、さらに詳細な研究を要する。 第一人者の医師による解説 重症度と病態に合わせたデバイスの選択が重要 出井 真史 東京女子医科大学病院 集中治療科 助教 MMJ. December 2020;16(6):163 集中治療室に入室する急性低酸素性呼吸不全(AHRF)患者の管理では、原疾患の治療と同時に呼吸療法の良否が予後に大きく影響する。呼吸療法は標準酸素療法、非侵襲的酸素療法、侵襲的酸素療法(気管挿管を伴う人工呼吸)の3段階が存在し、重症ほど侵襲性の高い手段が必要となるが、合併症のリスクや求められる医療資源も増大する。本論文では、成人AHRF患者において3種類の非侵襲的酸素療法(フェイスマスク非侵襲的換気[NIV]、ヘルメットNIV、経鼻高流量酸素療法[HFNC])と従来の酸素療法を比較した無作為化対照試験(RCT)のネットワークメタアナリシスを行い、死亡率・気管挿管率を評価した。  すでにNIVの有用性が示されている(1)慢性閉塞性肺疾患(COPD)急性増悪、心不全、心臓外科周術期、抜管直後の患者を主な対象とした研究は除外した。2020年4月までの25のRCT(患者数3,804人)が収集され、原因疾患は64%のRCTで市中肺炎が最多であった。標準酸素療法と比較し、ヘルメットNIV(相対リスク[RR], 0.40)、フェイスマスクNIV(RR, 0.83)は死亡リスク低値と関連していた。気管挿管率もヘルメット NIV(RR, 0.26)、フェイスマスク NIV(RR, 0.76)、HFNC(RR, 0.76)でいずれも低値であった。  標準酸素療法と比べて、3つの非侵襲的酸素療法とも有用性が示された結果である。ヘルメットNIVはフェイスマスク NIVほど一般的ではないが、リークが少なく安定した呼気終末陽圧(PEEP)をかけることができ、肺胞のリクルートメントに寄与する可能性がある(2)。患者の忍容性も良く、顔面の皮膚損傷もないため比較的長期に使用できるという利点もある。フェイスマスクNIVはすでに多くのAHRFの病態で予後改善のエビデンスが蓄積されている(1)。HFNCは挿管率の低下のみ示されたが、これはNIVに比べ圧のサポートが不十分なことが影響していると思われる。  一方、非侵襲的酸素療法で粘りすぎ、いたずらに気管挿管のタイミングを遅らせることは危険である。一般的にデバイスを装着して30分から1時間で酸素化の改善、呼吸数の減少、呼吸苦の軽減などがみられなければ次の段階(HFNCならNIV、NIVなら気管挿管)を考慮すべきである。また呼吸努力の強い患者では、非侵襲的酸素療法に頼り自発呼吸で管理すると肺障害を増悪させる可能性があるので慎重な選択が求められる。PEEPを要さずPaCO2の貯留がない軽症のAHRFはHFNC、PEEPや吸気圧のサポートを要する中等症以上のAHRFはNIVを検討し、ヘルメット NIVが使用できる施設では積極的に選択する。そして反応が乏しい場合は機を逸せず気管挿管に移行する、というのが現段階での最良の介入であろう。 1. Rochwerg B, et al. Eur Respir J. 2017 Aug 31;50(2):1602426. 2. Patel BK, et al. JAMA. 2016 Jun 14;315(22):2435-2441.
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