「MMJ - 五大医学誌の論文を著名医師が解説」の記事一覧

ハリケーン・マリア後のプエルトリコの青少年における災害への暴露と精神的健康。
ハリケーン・マリア後のプエルトリコの青少年における災害への暴露と精神的健康。
Disaster Exposure and Mental Health Among Puerto Rican Youths After Hurricane Maria JAMA Network Open 2019 ;2 (4):e192619 . 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【重要性】青少年の災害曝露とトラウマ関連症状の大きさを定量化することは,資金不足の環境における心理サービスの展開に不可欠である。2017年9月20日にプエルトリコに上陸したハリケーン・マリアは,大規模な破壊と前例のない死亡率をもたらした。 【目的】ハリケーン・マリア後のプエルトリコの若者の災害曝露の大きさとメンタルヘルスアウトカムを明らかにする。 【デザイン・設定・参加者】2018年2月1日から6月29日(ハリケーン・マリアの5~9ヶ月後)にプエルトリコのすべての学校の公立学校の生徒一人ひとりに学校を中心とした調査を実施した調査研究であった。参加資格のある生徒226 808名のうち,96 108名が調査を完了した。 【主要アウトカム・測定法】参加者は,スペイン語で実施された標準化自己報告尺度を用いて,ハリケーン関連ストレス因子への曝露,心的外傷後ストレス障害(PTSD),うつ症状について評価された。すべての結果変数について記述統計が作成され、PTSDまたはうつ病の臨床的に高い症状を報告する個人の頻度も作成された。これらの統計量の男女間の差もt検定で検討した。 【結果】プエルトリコの7つの教育地域すべてにおいて、3年生から12年生までの代表的な9618名の生徒が研究に参加した(回答率42.4%、女性50.3%)。ハリケーンの結果、83.9%の青少年が家屋の被害を受け、57.8%が友人や家族が島を離れ、45.7%が自分の家に被害を受け、32.3%が食料や水の不足を経験し、29.9%が生命の危険を感じ、16.7%がハリケーンの5~9ヶ月後も電気がない状態であることが分かりました。全体として,青少年(n = 6900)の 7.2%が臨床的に重大な PTSD の症状を報告した.臨床的に上昇した PTSD の症状を報告する頻度を性別に比較すると,有意差があり(t = 12.77; 差の 95% CI, 0.018-0.025; P < .001),女子(8.2%)が臨床カットオフスコアを超える頻度は,男子(6.1%)に比べて高かった.最後に,うつ病の男女間の差についても同様の解析を行ったところ,有意であった(t = 17.56;差の95%CI,0.31-0.39;P < 0.001)。女子では男子よりも高い平均(SD)スコア(2.72[3.14])を示し(2.37[2.93]),男子では女子よりも高い平均(SD)スコアを示していた。人口統計学的変数とリスク変数は,PTSDの症状の分散の約20%を占めた(r2 = 0.195; 95% CI, 0.190-0.200)。 【結論と関連性】調査結果は,ハリケーン・マリアがプエルトリコの若者を高いレベルの災害関連ストレス因子に曝し,若者が高いレベルのPTSDとうつ症状を報告したことを示すものである。結果は現在,プエルトリコ教育省によって,プエルトリコの青少年の精神衛生上の成果を改善することを目的とした,的を絞った持続可能なエビデンスに基づく実践に活用されている。 第一人者の医師による解説 日本での災害時の多国籍児童メンタルヘルス支援体制の構築検討に寄与 島津 恵子 国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所行動医学研究部 MMJ.April 2020;16(2) 2017年9月にプ エ ルトリコ 南東部に上陸したハリケーンマリアの被害は死者推定2,975 ~ 4,645人を数え、米国史上未曽有の規模となった。家族や学校など子どもにとって重要な社会的支援 システムの長期的な崩壊・混乱は、社会的弱者である子どもの一層の脆弱化を招く(1)。先行研究では自然災害から1年以内に集中的な介入なしに子どもの約半数は適応し回復する一方で、3分の1にのぼる子どもでは心的外傷後ストレス(PTSD)、うつ病、 不安、薬物使用、自殺念慮、攻撃的な行動などが認められ(2)、米国本土の青少年サンプルではこれらの 症状はマイノリティー間でより顕著であることが示された(3)。 プエルトリコ青少年の被災後のメンタルヘルス ニーズに対処するためのエビデンスに基づくシステムの開発・実装の促進を目的とし、本研究はプエルトリコ教育省が主導するスクリーニングの一環として実施された。ハリケーンカトリーナ後に作成されたNational Child Traumatic Stress Network Hurricane Assessment and Referral Tool(NCTSN-HART)をもとにスペイン語に翻訳された自記式質問票を用い、被災5~9カ月後にプエルトリコの全公立学校生徒のうち3~12年生を対象に1,086校(対象226,808人)で調査が実施された。 その結果、83.9%が家屋損壊の目撃、57.8%が友人や家族の離島、45.7%が自宅の被害を報告、32.3%が食料・水の不足を経験し、 29.9%が自らの生命の危険を認識し、16.7%は被災5~9カ月後も停電の継続を経験していた。全体の7.2%が臨床的に重要なPTSD症状を報告し、その頻度は女子の方が男子よりも有意に高かった (8.2% 対 6.1%)。うつ病スコアの平均も女子の方が男子よりも有意に高かった(2.72 対 2.37)。 人口統計およびリスク変数はPTSD症状の分散の約20%を占めた。 本研究の限界として、スペイン語版質問票の妥当性の欠如、PTSD・うつ症状のみへのフォーカス、 被災前データの欠如が挙げられているが、倫理的に災害時の研究実施は非常に困難であること、青少年、その中でもマイノリティーのメンタルヘルスの研究データは希少であること、また模索的政策研究としての性質から質問票の内容を参加者の言語・ 文化的・社会的背景に適切に配慮したうえで調整していること、災害時メンタルヘルス介入でエビデンスの豊富なトラウマ・うつに焦点をあてたことは妥当であり評価に値する。災害大国の日本で増加する外国語を話す多国籍・多文化児童を対象とした体系的災害時メンタルヘルス支援体制の構築の検討は必須であり、今後実施が予定されているさらなる解析結果の発表が期待される。 1. Bonanno GA et al. Psychol Sci Public Interest. 2010;11(1):1-49. 2. La Greca AM et al. Child Youth Care Forum. 2013;42(4):351-369. 他 3. Perilla JL et al. J Soc Clin Psychol. 2002; 21(1):20-45.
自然災害後の経済的弱者における社会サービスの改善と心的外傷後ストレス障害の負担:モデル化研究.
自然災害後の経済的弱者における社会サービスの改善と心的外傷後ストレス障害の負担:モデル化研究.
Improved social services and the burden of post-traumatic stress disorder among economically vulnerable people after a natural disaster: a modelling study Lancet Planet Health 2019 ;3: e93 –101 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】ハリケーンなどの自然災害は、公衆衛生や経済的な影響をもたらし、その直後よりもずっと長く続く。資源の喪失は、大規模な心的外傷イベント後の心的外傷後ストレス障害(PTSD)の中核的な推進力である。我々は、災害後の文脈における住宅および住宅関連財源の回復がPTSDからの回復に及ぼす効果を調べた。 【方法】我々は、有病率と持続性によって測定されるPTSD回復に対する異なる医療サービスアプローチの効果を検証するために、観察および実験データで経験化したエージェントベースモデルを構築した。心理的ファーストエイドに類似した社会サービスケースマネジメント(SSCM)アプローチを検証し、避難所ベースの社会サービス提供と、避難し所得を失った人々へのメンタルヘルス治療への連携を特徴とし、通常のケアのみ、SSCM付き通常のケア、ステップケアのみ、SSCM付きステップケアの治療効果を比較した。 【結果】大規模自然災害後に住居を失い、所得を失った人々に対して、住居を回復し、メンタルヘルスサービスへの連携を提供するSSCMアプローチは、1年目終了時に、SSCMを行わない状態に比べて1-56(95%CI 1-55-1-57)倍から5-73(5-04-6-91)倍の寛解PTSD症例をもたらし、2年目終了時には1-16(1-16-1-17)倍から2-28(2-25-2-32)倍の寛解症例をもたらすことが示された。 【解釈】自然災害の影響を受けた集団に経済的・住宅的資源を回復させることは、災害後の集団、特に資源喪失者の精神衛生負担を著しく減少させるであろう。 【資金】米国保健社会福祉省. 第一人者の医師による解説 災害後のPTSDの予防と回復 心理療法・精神療法だけでなく住居確保の支援が重要 岩井 圭司 兵庫教育大学大学院人間発達教育専攻教授 MMJ.April 2020;16(2) 人間は生きていくうえで常にさまざまな要求 (demanding)に対応しなければならない。資源維持(Conservation of Resources;COR)理論(1)によると、我々はふだん多様な資源を駆使してそれらに応じているが、そういった資源が減少ないし喪失すると要求に応えることができなくなり、ストレスが生じる。さしずめ自然災害の被災者における住居の喪失と収入の減少は、資源喪失の最たるものであろう。 本研究は、社会福祉的ケースマネジメント(social services care management;SSCM)が、米国のハリケーン災害被災者の精神健康に及ぼす効果を検討したものである。なお、ケースマネジメントとは、生活に困難さを抱える人々の支援にあたり、さまざまな資源を組み合わせ結びつけて提供することであり、ケアマネジメントやケースコーディネーションとほぼ同義である。ここでは、恒久的住居への帰住の援助と精神保健機関に直接接続することを目指して、SSCMが実施された。また、被災者の精神健康の指標としては、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の発生率と持続期間が用いられた。 まず、ハリケーン・サンディ(2012年)によって住居をなくし減収を余儀なくされた被災者は、「通常ケア群」と「段階的ケア群」に分けられた。前者にはサイコロジカル・リカバリースキル(skills for psychological recovery;SPR)(2)が適用され、 後者はスクリーニングによってさらに非 PTSDと PTSDに分けられ、それぞれSPRと認知行動療法が施行された。 そこにSSCMを適用したところ、「通常ケア群」においても「段階的ケア群」においてもPTSDの発生率は低くなり、PTSDを発症したケースでも罹病期間が短くなることが明らかになった。SSCMを適用した場合のPTSD の寛解率は、しなかった場合に比べて1年後では1.56 ~ 5.73倍、2年後では1.16 ~ 2.28倍であった。 以上から、住居資源ないし経済的資源の回復は、自然災害の被災者、特に災害によって資源を喪失した者の精神健康上の負担を有意に軽減すると考えられた。 災害後の被災者に対する心のケアは、狭義の心 理療法・精神療法に限ることなく、住居確保などの経済的支援を織り込んでいくことが必要であり有効であると、本研究は実証したといえる。 1. Hobfoll SE. Am Psychol. 1989;44(3):513-524. 2. 兵庫県こころのケアセンター.http://www.j-hits.org/spr/
入院中の成人のせん妄を予防するための抗精神病薬。系統的レビュー。
入院中の成人のせん妄を予防するための抗精神病薬。系統的レビュー。
Antipsychotics for Preventing Delirium in Hospitalized Adults: A Systematic Review Ann Intern Med 2019;171:474-484. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】せん妄は、基礎的な医学的問題によって引き起こされる、注意力と認知力の障害を特徴とする急性障害である。抗精神病薬はせん妄の予防に用いられるが,その有益性と有害性は不明である。 【目的】成人におけるせん妄予防のための抗精神病薬の有益性と有害性を評価する系統的レビューを行う。 【データソース】研究設定,発表言語,追跡期間による制限なしに,開始時から2019年7月までPubMed,Embase,CENTRAL,CINAHL,PsycINFOを使用。 【研究選択】抗精神病薬とプラセボまたは別の抗精神病薬を比較した無作為化対照試験(RCT),および比較群を有する前向き観察研究。 【データ抽出】1名の査読者がデータを抽出しエビデンスの強さを評定し,2名の査読者がデータを確認した。2名の査読者が独立してバイアスのリスクを評価した。 データの統合]合計14件のRCTが含まれた。せん妄予防に使用されるハロペリドールとプラセボの間には、せん妄の発生率または期間、入院期間(証拠の強さが高い[SOE])、死亡率に差はなかった。認知機能、せん妄の重症度(不十分なSOE)、不適切な継続、および鎮静(不十分なSOE)に対するハロペリドールの効果を判断するエビデンスはほとんど見いだせなかった。第二世代抗精神病薬が術後設定におけるせん妄発生率を低下させる可能性があるという証拠は限られている。抗精神病薬の短期使用が神経学的有害性と関連するというエビデンスはほとんどない。いくつかの試験では、有害となりうる心臓への影響が抗精神病薬の使用により頻繁に発生していた。 【Limitation】抗精神病薬の投与量、抗精神病薬の投与経路、転帰の評価、有害事象には大きな異質性があった。 【結論】現在のエビデンスは、せん妄の予防のためのハロペリドールや第2世代抗精神病薬のルーチン使用を支持しない。第二世代抗精神病薬が術後患者のせん妄の発生率を低下させる可能性があるという限られたエビデンスはあるが、さらなる研究が必要である。今後の試験では,標準化されたアウトカム指標を用いる必要がある.(プロスペロー:Crd42018109552). 第一人者の医師による解説 今後は第2世代抗精神病薬と非薬理学的介入との比較研究が必要 中村 暖(助教)/岩波 明(主任教授)昭和大学病院附属東病院精神神経科 MMJ.April 2020;16(2) せん妄は、短期間のうちに注意力と認知機能が障害される意識障害の一種で、症状に変動性がみられるのが特徴である。身体疾患や手術などが原因で発症することが多く、発症後に日常生活動作 (ADL)や認知機能の低下、死亡率の上昇を引き起こすことが報告されている。このため、せん妄による2次障害の発生率や死亡率を低下させるためには、 せん妄の治療に加えて発症の予防が非常に重要となる。 せん妄予防を目的とした薬物投与については、 抗精神病薬の使用が複数の研究で報告されているが(1)-(3)、有効性と有害性について統一的な見解は得られていない。そもそも臨床の現場では、症状のない段階での抗精神病薬の使用自体に対する抵抗感が根強いため、予防的投与の有効性に関しての検討は臨床的な観点からも非常に重要である。 本論文は、せん妄の発症予防を目的とした抗精神病薬の有用性と有害性に関する大規模な系統的レビューである。せん妄の発症予防効果に関して、ハ ロペリドールまたは第2世代抗精神病薬とプラセボ、あるいはハロペリドールと第2世代抗精神病薬を比較した14件のランダム化比較試験を解析した。各文献から得られたデータの解析に際しては、認知機能、入院期間、せん妄の重症度、鎮静作用、抗精神病薬の不適切な継続投与、せん妄の発症率、せん妄の持続期間、死亡率、心臓・神経系の障害について評価をした。 せん妄の発症率と持続期間、入院期間、死亡率について、ハロペリドールとプラセボの間で差はみられなかった。認知機能、せん妄の重症度、抗精神病薬の不適切な使用、鎮静作用に関しても、ハロペ リドールの有効性を示す結果は得られなかった。一方で術後の予防投与に限り、第2世代抗精神病薬(リスペリドン、オランザピン)はプラセボと比較してせん妄の発症率を有意に低下させていた。神経系 の障害に関して差が認められなかった一方、心臓 の障害は抗精神病薬の使用によってより高い頻度で生じることが明らかになった。 結論として、成人の入院患者におけるせん妄の発症抑制を目的としたハロペリドールの予防投与は有用ではないことがわかった。術後せん妄の発症予防に関して第2世代抗精神病薬の有効性を支持する結果が得られたが、先行研究では非薬理学 的介入が術後せん妄の発症予防に有効であるとの報告もあるため、今後はこうした非薬理学的介入との比較研究が必要である。 1.Wang W et al. Crit Care Med. 2012;40(3):731-739. 2.Al-Aama T et al. Int J Geriatr Psychiatry. 2011;26(7):687-694. 3.Larsen KA et al. Psychosomatics. 2010;51(5):409-418
中年期から晩年期の血圧パターンと認知症発症との関連性。
中年期から晩年期の血圧パターンと認知症発症との関連性。
Association of Midlife to Late-Life Blood Pressure Patterns With Incident Dementia JAMA 2019 ;322 (6):535 -545. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【重要】後期血圧と認知の関連は、過去の高血圧の有無と慢性度に依存する可能性がある。長期間の高血圧に続く後期の血圧低下は,認知機能の低下と関連する可能性がある。 【目的】中年期から後期の血圧パターンとその後の認知症,軽度認知障害,認知機能の低下との関連を検討する。 【デザイン、設定および参加者】Atherosclerosis Risk in Communities前向き集団ベースコホート研究では,中年期に4761人が登録され(訪問1,1987~1989),2016~2017年に6回の訪問でフォローアップした(訪問6,)。血圧は、訪問1~5回目(2011~2013年)の間に5回の対面訪問で24年間にわたり調査された。訪問5と6では、参加者は詳細な神経認知評価を受けた。舞台は米国の4つの地域である。メリーランド州ワシントン郡、ノースカロライナ州フォーサイス郡、ミシシッピ州ジャクソン、ミネソタ州ミネアポリス。フォローアップは2017年12月31日に終了。 【曝露】訪問1~5回目の正常血圧、高血圧(140/90mmHg以上)、低血圧(90/60mmHg未満)の縦断パターンに基づく5群。 主要アウトカムと 【測定】主要アウトカムは、Ascertain Dementia-8の情報提供者アンケート、6項目スクリーナーの電話評価、病院退院と死亡診断書コード、訪問6回の神経認知評価に基づいて、訪問5日後の認知症発症となった。副次的アウトカムは、神経認知評価に基づく訪問6日目の軽度認知障害であった。 【結果】参加者4761名(女性2821名[59%]、黒人979名[21%]、訪問5の平均[SD]年齢、75[5]歳、訪問1の平均年齢範囲、44~66歳、訪問5の平均年齢範囲、66~90歳)において、訪問5から6までの間に516(11%)が入認識症例であった。中年期の正常血圧(n=833)と晩年期の参加者の認知症発生率は、100人年当たり1.31(95%CI、1.00-1.72)、中年期の正常血圧と晩年期の高血圧(n=1559)は、100人年当たり1.99(95%CI、1.69-2.32)、中年期の晩年期の高血圧(n=1030)については、2.83(95%CI、2.69-2.72)であった。83(95%CI、100人年当たり2.40-3.35);中年正常血圧および後年低血圧(n = 927)、2.07(95%CI、100人年当たり1.68-2.54);および中年高血圧および後年低血圧(n = 389)、4.26(95%CI、100人年当たり3.40-5.32)であった。中年期および後期高血圧群(ハザード比[HR]、1.49[95%CI、1.06-2.08])および中年期高血圧および後期低血圧群(HR、1.62[95%CI、1.11-2.37])では正常血圧を維持した人々と比較してその後の認知症のリスクが有意に増加した。後期血圧に関係なく、中年期の持続性高血圧は認知症リスクと関連していた(HR、1.41[95%CI、1.17-1.71])。中年期と晩年期に正常血圧であった人と比較して,中年期の高血圧と晩年期の低血圧を有する参加者のみが,軽度認知障害(37人の罹患者)のリスクが高かった(オッズ比,1.65[95%CI,1.01-2.69])。BPパターンと晩年の認知機能変化との有意な関連は認められなかった。 【結論と関連性】長期追跡を行ったこの地域ベースのコホートでは,中年から晩年にかけての持続的高血圧と,中年および晩年の正常血圧と比較して中年高血圧および晩年低血圧のパターンは,その後の認知症のリスク上昇と関連していた。 第一人者の医師による解説 中年期から高齢期の血圧変動管理 認知症発症促進因子として重要 松村 美由起 東京女子医科大学附属成人医学センター脳神経内科講師 MMJ.April 2020;16(2) 認知症危険因子の1つとして高血圧が指摘されている。中年期における高血圧は、高齢期の認知症や認知機能低下の危険因子とされ、積極的治療が推進されているが、高齢期の血圧が認知機能に及ぼす影響および認知症発症との関連について十分な エビデンスは確立されていない。本論文は、中年期から高齢期にかけての血圧値の経年的変化と高齢期の認知機能低下および認知症発症との関連を検討した米国の地域住民対象コホート研究の報告で ある。 平均年齢44~66歳(平均54歳)の住民15,792 人に対して24年間にわたり血圧測定と認知機能検査を実施した。高血圧は140/90 mmHg超、低血圧は90/60 mmHg未満と定義し、認知機能は包括的心理バッテリーにより記憶、処理速度、実行機能、言語機能を加えて情報提供者へのインタビュー により評価した。1987~89年を初回調査とし、以降3年ごとに4回の血圧を中年期、その15年後とさらにその3年後の2回の調査を高齢期の血圧 とした。 中年期と高齢期の血圧を①中年期から高齢期まで正常血圧②中年期正常血圧、高齢期高血圧③ 中年期から高齢期まで高血圧④中年期正常血圧、高齢期低血圧⑤中年期高血圧、高齢期低血圧の5つのパターンに分類した。最終的に516人(11%)が 認知症を発症した。100人・年あたりの認知症発症率は、①は1.31、②は1.99、③は2.83、④は 2.07、⑤は4.26であった。③のハザード比は1.49、 ⑤は1.62であり、中年期から高齢期まで正常血圧を維持した群に比べ、中年期・高齢期とも高血圧の群と中年期高血圧・高齢期低血圧の群において認知症発症リスクが有意に高まっていた。 慢性的な血圧高値は脳循環自動調節能の異常や脳の小血管障害などを生じることが知られており、本研究の結果から中年期高血圧に伴うこうした脳の異常が認知症リスクを高めた可能性が推察される。一方、高齢期の血圧低下は、心循環機能障害や自律神経シグナル伝達の異常、動脈硬化によると推測されるが、高齢者は降圧薬を服用している割合も高く、晩年期低血圧は降圧薬の過剰投与によりもたらされた可能性も考えられる。脳循環自動調節能の障害がある場合、全身の血圧低下が脳血流低下を来しやすく、結果として認知機能低下に至った可能性もある。 本研究では、中年期高血圧で認知症発症例の脱落数が多く、病型診断との関連性が評価されていないなどの課題が残り、今後さらなる検証が必要である。
冠動脈バイパス術後の抗血栓療法:系統的レビューとネットワークメタ解析。
冠動脈バイパス術後の抗血栓療法:系統的レビューとネットワークメタ解析。
Antithrombotic treatment after coronary artery bypass graft surgery: systematic review and network meta-analysis BMJ 2019 ;367:l5476. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【目的】冠動脈バイパスグラフト手術を受ける患者における伏在静脈グラフト不全を予防する異なる経口抗血栓薬の効果を評価する。 デザイン]系統的レビューとネットワークメタ分析。 【データ入手元】インセプションから2019年1月25日までのMedline、エンベース、Web of Science、CINAHL、Cochrane Libraryのデータを用いた。の適格基準。研究選択について冠動脈バイパス移植術後の伏在静脈グラフト不全を予防するために経口抗血栓薬(抗血小板薬または抗凝固薬)を投与した参加者(18歳以上)の無作為化対照試験。 【MAIN OUTCOME MEASURES】主要評価項目は伏在静脈グラフト不全、主要安全評価項目は大出血であった。副次的評価項目は心筋梗塞と死亡であった。 【結果】このレビューで3266件の引用が確認され、20件の無作為化対照試験に関連する21件の論文がネットワークメタ解析に含まれた。これら20の試験は4803人の参加者からなり、9つの異なる介入(8つの活性と1つのプラセボ)を調査した。中程度の確度のエビデンスは、アスピリン単独療法と比較して、伏在静脈グラフト不全を減らすために、アスピリン+チカグレロル(オッズ比0.50、95%信頼区間0.31~0.79、治療必要数10)またはアスピリン+クロピドグレル(0.60、0.42~0.86、19)による抗血小板2重療法の使用を支持している。本試験では,抗血栓療法の違いによる大出血,心筋梗塞,死亡の違いを示す強力なエビデンスは得られなかった。感度解析の可能性は否定できないが,含まれるすべての解析で試験間の異質性と非干渉性は低かった.グラフトごとのデータを用いた感度分析では、効果推定値に変化はなかった。 【結論】このネットワークメタ分析の結果は、冠動脈バイパスグラフト術後の伏在静脈グラフト不全を予防するために、アスピリンにチカグレロルまたはクロピドグレルを追加することの重要な絶対的利益を示唆するものであった。手術後の二重抗血小板療法は、重要な患者アウトカムに対して薬物介入の安全性と有効性のプロファイルをバランスよく調整し、患者に合わせるべきである。[STUDY REGISTRATION]PROSPERO 登録番号 CRD42017065678. 第一人者の医師による解説 DAPTにおける心血管イベント予防と出血リスク上昇 長期的で大規模な検証を期待 北村 律 北里大学医学部心臓血管外科准教授 MMJ.April 2020;16(2) 冠動脈バイパス(CABG)術後の大伏在静脈グラフト閉塞は、術後1年以内に30~40%、10年以上では70%の確率で生じるという報告もある(1),(2)。 しかしながら、採取の容易さ、ハンドリングの良さなどの理由から、多くの患者で大伏在静脈グラフトが用いられる。術後の大伏在静脈グラフト閉塞予防のために、近年、アスピリンにクロピドグレル やチカグレロルなどのチエノピリジン系抗血小板薬を追加する抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)を 用いることも多い。この効果についてのネットワークメタアナリシスが本論文である。 検討の対象は、主要医学文献データベース上にある2019年1月までに発表された論文のうち、18 歳以上、大伏在静脈を用いたCABG、複数の経口抗血栓薬またはプラセボとの比較、大伏在静脈グラフト閉塞を検討した論文3,266編から選ばれた、 解析に適切な20件のランダム化対照試験(RCT)である。術後経口抗血栓薬として、単剤療法にはアスピリン、クロピドグレル、チカグレロル、ビタミン K拮抗薬(ワルファリンなど)、リバーロキサバン、 2剤併用療法にはアスピリン+クロピドグレル、アスピリン+チカグレロル、アスピリン+リバーロキサバン、合計8種類が含まれた。有効性のエンドポイントは静脈グラフト閉塞、安全性のエンドポ イントは大出血、全死亡と心筋梗塞に設定している。 合計4,803人の患者が解析の対象となっており、 年齢は44~83歳、83%が男性、83%が待機手術であった。術後観察期間は1カ月~8年で、大伏在静脈開存はカテーテル検査かCTで評価された。 検討された薬剤すべてがグラフト閉塞を予防することが示されたが、アスピリン単剤と比較して、 アスピリン+チカグレロル(オッズ比[OR], 0.50; 95% CI, 0.31~0.79)、アスピリン+クロピド グレル(OR, 0.60;95% CI, 0.42~0.86)が有意にグラフト閉塞を予防することが示された。出血リスクに関する検討では薬剤間で有意差を認めず、いずれもプラセボと比較して出血リスクを上昇させる傾向にあったが、有意差はなかった。全死亡に関する検討では10件のRCT(1,921人)、心筋梗塞に関しては12件のRCT(3,994人)が 対象となったが、薬剤間で有意差を認めなかった。 RCT20件のうち、ランダム化バイアスのリスクが低いと判断されたのは5件のみであった。 DAPTによるCABG術後の心血管イベント予防効果および出血リスクの上昇については、より長期的かつ大規模な研究による検証が期待される。 1. Cooper GJ et al. Eur J Cardiothorac Surg. 1996;10(2):129-140. 2. Windecker S et al. Eur Heart J. 2014;35(37):2541-2619
一次予防のためのアスピリンによる心血管系の利益と出血の害の個別化された予測。有益性-有害性分析。
一次予防のためのアスピリンによる心血管系の利益と出血の害の個別化された予測。有益性-有害性分析。
Personalized Prediction of Cardiovascular Benefits and Bleeding Harms From Aspirin for Primary Prevention: A Benefit-Harm Analysis Ann Intern Med 2019;171:529-539. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】一部の患者において、心血管疾患(CVD)の一次予防のためのアスピリンのベネフィットが出血の害を上回るかは不明である。 【目的】アスピリンが純ベネフィットをもたらすと考えられるCVDを持たない人を特定することである。 【デザイン】性別リスクスコアと2019年のメタアナリシスによるCVDと大出血に対するアスピリンの比例効果の推定値に基づく個別ベネフィット・ハーム分析 【設定】ニュージーランドのプライマリケア 【参加者】2012年から2016年にCVDリスク評価を受けた30~79歳のCVDが確立されていない245 028人(女性43.6%)。 【測定】各参加者について、5年間の大出血を引き起こしそうな数(大出血リスクスコア×大出血リスクに対するアスピリンの比例効果)から、予防できそうなCVDイベント数(CVDリスクスコア×CVDリスクに対するアスピリンの比例効果)を差し引き、アスピリンのネット効果を算出した。 【結果】1回のCVDイベントが1回の大出血と同等の重症度と仮定した場合、5年間のアスピリン治療による純益は女性の2.5%、男性の12.1%となり、1回のCVDイベントが2回の大出血と同等と仮定した場合は女性の21.4%、男性の40.7%に増加する可能性があることがわかった。純益サブグループは純害サブグループに比べ、ベースラインのCVDリスクが高く、ほとんどの確立したCVDリスク因子のレベルが高く、出血特異的リスク因子のレベルが低かった 【Limitation】リスクスコアと効果推定値は不確実であった。アスピリンのがん転帰への影響は検討されていない。 【結論】CVDを持たない一部の人にとって、アスピリンは正味の利益をもたらす可能性が高い。 【Primary funding source】ニュージーランド保健研究評議会。 第一人者の医師による解説 リスク予測モデル活用で 個別化した1次予防戦略立案の可能性 邑井 洸太 国立循環器病研究センター心臓血管内科冠疾患科/安田 聡 国立循環器病研究センター心臓血管内科部門長・副院長 MMJ.April 2020;16(2) アスピリンは心筋梗塞、脳梗塞、心不全入院といった心血管イベントを抑制する一方で、消化管や頭蓋内などにおける出血のリスクを上昇させる。すでに心血管疾患を有する患者に対する2次予防を目的とした場合、一般的にアスピリンのメリットは デメリットを上回るとされているが、1次予防での有用性は不明である(1)。近年、リスクモデルによる予測が実用化されている(2)。本研究では、心血管疾患の既往のない集団においてアスピリン服用によって享受できる利益(心血管イベント抑制)は害(出血)を上回るかどうかをリスク予測モデルで検証した。 本研究では、ニュージーランドのプライマリケア領域で広く使用されているウエブベースの意思決定支援プログラム「PREDICT」が用いられた。解析対象は2012 ~ 16年にPREDICTを利用して心血管イベントリスクが算出された患者245,028 人(女性106,902人、男性138,126人)。算出時 の入力データに加えて、ナショナルデータベースとも紐付けされて心血管リスクなどの患者情報が抽出された。各患者から得られた情報をリスク予測 モデルに落とし込み、5年間アスピリンを服用した場合に予測される心血管イベント(虚血性心疾患による緊急入院または死亡、脳梗塞、脳出血、末梢血管障害、うっ血性心不全)予防効果と大出血(出血による入院、出血による死亡)リスクを算出した。 その結果、1つの心血管イベントと1つの大出血イベントを対等とした場合、女性では2.5%、男性では12.1%においてアスピリンは大出血リスクを上回る心血管イベント抑制効果をもたらした。さらに1つの心血管イベントと2つの大出血イベントを対等とした場合、女性では21.4%、男性では40.7%の患者においてアスピリンの利益が勝る結果となった。なお、今回の対象集団では、高齢、ベースラインの動脈硬化危険因子が多い、降圧薬や脂質低下薬を服用している、がんや出血の既往が少ないなどの特徴がみられた。 本研究の結果から、1次予防目的のアスピリン服用によって利益を享受できる集団は一定数存在 しうることが示唆された。こういった解析対象は ニュージーランドの住民に限定されており、各イベントの重み付けが均一であるという制限はあるものの、将来的には予後予測ツールを用いて個別化した1次予防戦略を立案できる可能性が示された。 1. Hennekens CH et al. Nat Rev Cardiol. 2012;9(5):262-263. 2. Go DC Jr et al. Circulation. 2014;129(25 Suppl 2):S49-73.
化学療法誘発性心筋症患者における心臓再同期療法と左室駆出率の変化との関連性。
化学療法誘発性心筋症患者における心臓再同期療法と左室駆出率の変化との関連性。
Association of Cardiac Resynchronization Therapy With Change in Left Ventricular Ejection Fraction in Patients With Chemotherapy-Induced Cardiomyopathy JAMA 2019 ;322 (18):1799 -1805. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【重要】化学療法誘発性心筋症の発生率は増加しており、臨床転帰不良と関連している。 【目的】化学療法誘発性心筋症患者における心臓再同期療法(CRT)と心機能改善、および臨床改善との関連性を評価すること。 【デザイン、設定および参加者】Multicenter Automatic Defibrillator Implantation Trial-Chemotherapy-Induced Cardiomyopathyは、米国内の心臓腫瘍学プログラムを有する12の三次センターで2014年11月21日から2018年6月21日の間に実施した非対照・前向き・コホートスタディである。左室駆出率低下(LVEF≦35%)、New York Heart AssociationクラスII-IV心不全症状、広QRS複合体のため、化学療法による心筋症が確立した患者30名をCRT植え込み、CRT植え込み後6ヶ月間フォローアップを行った。最終フォローアップ日は2019年2月6日。 【曝露】標準治療によるCRT植え込み。 【主要アウトカムと測定】主要エンドポイントはCRT開始後のベースラインから6ヶ月後までのLVEFの変化とした。副次的評価項目は全死亡,左室収縮末期容積と拡張末期容積の変化とした。 【結果】登録された30例(平均[SD]年齢,64[11]歳,女性26例[87%],73%に乳癌歴,20%にリンパ腫または白血病歴)において,26例で一次エンドポイントのデータが,23例で二次エンドポイントのデータが利用可能であった。患者は左脚ブロックのある非虚血性心筋症で、LVEF中央値は29%、平均QRS時間は152msであった。CRTを行った患者では、6ヵ月後の平均LVEFが28%から39%に統計的に有意に改善した(差、10.6% [95% CI, 8.0%-13.3%]; P < .001)。これには,LV 収縮末期容積の 122.7 から 89.0 mL への減少(差 37.0 mL [95% CI,28.2-45.8]),LV 拡張末期容積の 171.0 から 143.2 mL への減少(差 31.9 mL [95% CI,22.1-41.6]) が伴った(いずれも P<.001 ).有害事象は、処置に関連した気胸(1例)、装置ポケットの感染(1例)、およびフォローアップ中に入院を必要とした心不全(1例)であった。 【結論と関連性】化学療法による心筋症の患者を対象としたこの予備的研究では、CRTは6ヵ月後のLVEFの改善と関連していた。この知見は、サンプルサイズが小さいこと、フォローアップ期間が短いこと、対照群を設定していないことにより制限される。 【臨床試験登録】ClinicalTrials. gov Identifier:NCT02164721 第一人者の医師による解説 がん患者へのCRT導入 有望だが原疾患の予後も勘案する必要 諏訪 惠信(助教)/塩島 一朗(教授) 関西医科大学第二内科学講座 MMJ.April 2020;16(2) 抗がん剤の進歩によって、がん患者の長期生存が可能となった。しかし、その中にはアントラサイクリン系薬剤に代表される心毒性を有する抗がん剤によって心不全に至った化学療法関連心筋症の患者が含まれる。アントラサイクリン系薬剤は用量依存的に心毒性を発現させることが知られているが、その有効性から現在も頻用されている。抗がん剤の影響で左脚ブロックを合併した化学療法関連心筋症患者に対する治療を検討した報告は少な い。特に心臓再同期療法(CRT)を用いた多施設前向きコホート研究の報告は本論文が初めてとなる。 組み入れ基準は、2014年11月~18年6月に 米国の腫瘍循環器内科を有する12施設で化学療法を受けた18~80歳の患者で、化学療法によって CRTの適応クラス 1または2に至った患者である。 患者は、化学療法前に心機能障害がないこと、かつがん治療終了後少なくとも6カ月間に収縮機能障 害を伴う臨床的心不全の発症がないことが確認されている。CRT導入から6カ月後に心臓超音波検査が行われ、心尖部2腔像と4腔像のSimpson法 で左室容積と左室駆出率が計測された。主要評価項目は6カ月後の左室駆出率の変化、副次評価項目は 全死亡および左室容積の変化とされた。NYHA心機能分類の変化や左房サイズの変化も検討された。 登録患者は30人( 平均年齢61歳、女性87 %) であった。原疾患は乳がん73%、リンパ腫または白血病20%、肉腫7%であった。83%の患者 にアントラサイクリン系薬剤が投与された(平 均投与量307 mg/m2)。心不全重症度は、NYHA II 57%、NYHA III 43%であった。登録時の薬物 療法は、β遮断薬93%、アンジオテンシン 変換酵素(ACE)阻害薬77%、ループ 利尿薬93%であった。CRT導入から6カ月後に左室駆出率の平均は28から39%に有意に改善した。左室収縮末期容積(122.7→89.0mL)および拡張末期容積 (171.0→143.2mL)も有意に改善した。死亡例はなく、6カ月後に左房容積は60.3から47.9ml に改善し、NYHA II 患者の19%、III患者の69%で改善が得られた。小規模な研究であるが、化学療法関連心筋症に対するCRTの有望性を示しており、さらなる研究が期待される。 日本循環器学会の「不整脈非薬物治療ガイドライ ン」(1)によると、1年以上の余命が期待できない患者へのCRTは推奨クラス 3の適応となっており、化学療法関連心筋症患者に導入する場合は心不全のみならず原疾患の予後も勘案して治療を提案する必要がある。 1. 日本循環器学会 / 日本不整脈心電学会合同ガイドライン:不整脈非薬物治 療ガイドライン (2018 年改訂版 ) URL:https://bit.ly/3bXESEE
症候性重症大動脈弁狭窄症患者に対する経カテーテル大動脈弁置換術における自己拡張型人工弁とバルーン拡張型人工弁の安全性と有効性:無作為化非劣性試験。
症候性重症大動脈弁狭窄症患者に対する経カテーテル大動脈弁置換術における自己拡張型人工弁とバルーン拡張型人工弁の安全性と有効性:無作為化非劣性試験。
Safety and efficacy of a self-expanding versus a balloon-expandable bioprosthesis for transcatheter aortic valve replacement in patients with symptomatic severe aortic stenosis: a randomised non-inferiority trial Lancet 2019 ;394 (10209):1619 -1628. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】経カテーテル大動脈弁置換術(TAVR)は、症候性重症大動脈弁狭窄症の高齢患者に対する好ましい治療選択肢である。利用可能なTAVRシステムの特性の違いは、臨床転帰に影響を与える可能性がある。TAVRを受ける患者において,自己拡張型ACURATE neo TAVRシステムとバルーン拡張型SAPIEN 3 TAVRシステムを,初期の安全性と有効性について比較した。 【方法】この無作為化非劣性試験において,症候性の高度大動脈狭窄症の治療で経大腿TAVRを受けており,手術リスクが高いと考えられる患者(75歳以上)をドイツ,オランダ,スイス,イギリスの20の三次心臓弁センターで募集した。参加者は、コンピュータベースの無作為並べ替えブロック方式により、ACURATE neoまたはSAPIEN 3による治療を受ける群に1対1で無作為に割り付けられ、試験施設と胸部外科学会予測死亡リスク(STS-PROM)カテゴリーにより層別化された。安全性と有効性の主要複合エンドポイントは、全死亡、あらゆる脳卒中、生命を脅かすまたは障害をもたらす出血、主要血管合併症、治療を必要とする冠動脈閉塞、急性腎障害(ステージ2または3)、弁関連症状または鬱血性心不全による再入院、再手術を必要とする弁関連機能不全、中程度または重度の人工弁逆流、手術後30日以内の人工弁狭窄で構成されました。エンドポイント評価者は治療割り付けに対してマスクされていた。ACURATE neo の SAPIEN 3 に対する非劣性は intention-to-treat 集団において、主要複合エンドポイントのリスク差マージンを 7-7% とし、片側 α を 0-05 とすることで評価されました。本試験はClinicalTrials. govに登録されており(番号NCT03011346)、継続中ですが募集はしていません。 【所見】2017年2月8日から2019年2月2日までに、最大5132人の患者をスクリーニングし、739人(平均年齢82-8歳[SD 4-1]、STS-PROMスコア中央値3-5%[IQR 2-6-5-0])が登録されました。ACURATE neo群に割り付けられた372例中367例(99%)、SAPIEN 3群に割り付けられた367例中364例(99%)で30日の追跡調査が可能であった。30日以内に主要評価項目はACURATE neo群87例(24%)、SAPIEN 3群60例(16%)で発生し、ACURATE neoの非劣性は満たされなかった(絶対リスク差7-1%[95%信頼限界上12-0%]、P=0-42)。主要評価項目の二次解析では、SAPIEN 3デバイスのACURATE neoデバイスに対する優越性が示唆された(リスク差の95%CI:-1-3~-12-9、p=0-0156)。ACURATE neo群とSAPIEN 3群では,全死亡(9例[2%] vs 3例[1%]),脳卒中(7例[2%] vs 11例[3%])の発生率は変わらなかったが,急性腎障害(11例[3%] vs 3例[1%]),中度または重度の人工大動脈逆流(34例[9%] vs 10例[3%])はACURATE neo群に多く見られた.【解説】自己拡張型ACURATE neoを用いたTAVRは、バルーン拡張型SAPIEN 3デバイスと比較して、初期の安全性と臨床効果のアウトカムにおいて非劣性を満たさないことが示された。早期の安全性と有効性の複合エンドポイントは、異なるTAVRシステムの性能を識別するのに有用であった。 【FUNDING】Boston Scientific(アメリカ)。 第一人者の医師による解説 SAPIEN 3の安定性とACURATE neoの課題が明確に 小山 裕 岐阜ハートセンター心臓血管外科部長 MMJ.April 2020;16(2) 経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVR)は、大動脈弁狭窄症に対する治療として、日本でも大きな役割を果たしている。バルーン拡張型弁である SAPIENは、外科手術不能・高リスク患者を無作為化したPARTNER Ⅰ試験から、その改良とともに手術低リスク患者に適応拡大したPARTNER III試験により外科手術に対する優位性が示されるまでになった。バルーン拡張型弁と自己拡張型弁の比較に関しては、バルーン拡張型弁の方が良好なデバ イス成功率を示したCHOICE試験、複合エンドポイントで同等な早期成績を示したSOLVE-TAVI試験がある。 本研究(SCOPE Ⅰ試験)は、欧州4カ国20施設 で75歳以上の手術リスクのある症候性大動脈弁狭 窄症患者739人( 平均年齢82.8歳、STS-PROM スコア中央値3.5%)を経大腿動脈アプローチによるTAVRにおいて、新しい自己拡張型弁である ACURATE neo(日本未承認)群とバルーン拡張型弁であるSAPIEN 3群に無作為化し、早期安全性と臨床的有効性の非劣性を検証した。 治療目標比較 (intention to treat)において、ACURATE neo群 はSAPIEN 3群と比較し、1次安全性・有効性複合 エンドポイント(全死亡、脳卒中、重篤な出血、血管 合併症、治療を要する冠動脈閉塞、急性腎障害など)で非劣性を示せなかった(エンドポイント発生率: 24% 対 16%;Pnoninferiority=0.42)。また2次解 析で、急性腎障害、弁機能不全においてSAPIEN 3 の優位性が示唆された(Psuperiority=0.0156)。心臓超音波評価 では、ACURATE neo群 はSAPIEN 3群と比較し、中等度以上の弁周囲逆流が多かったが(9.4% 対 2.8%;P<0.0001)、弁平均圧 較差は低く(中央値7 mmHg 対 11 mmHg;P< 0.0001)、有効弁口面積は大きかった(中央値1.73 cm2 対 1.47 cm2:P<0.0001)。両群ともに全死亡、脳卒中、新規ペースメーカー植え込みの頻度は低く、良好な成績であった。 本研究では、日本未導入のACURATE neoが SAPIEN 3に対する非劣性を示せず、SAPIEN 3の安定した成績が示された一方で、ACURATE neo の課題も明らかになった。急性腎障害の発生は造影剤使用量や手技時間の影響を受けると考えられることから、手技や症例選択による改善の余地があり、 弁周囲逆流もデバイスの改良で軽減されうる。今回の結果では自己拡張型弁の方がより大きい有効弁口面積を得られることが示されており、体格の小さい日本人や狭小弁輪には、さらに改良された ACURATE neoの導入が期待される
ヒトの便中における種々のマイクロプラスチックの検出。プロスペクティブ・ケースシリーズ。
ヒトの便中における種々のマイクロプラスチックの検出。プロスペクティブ・ケースシリーズ。
Detection of Various Microplastics in Human Stool: A Prospective Case Series Ann Intern Med 2019 Oct 1;171(7):453-457. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】マイクロプラスチックは自然環境中に遍在している。マイクロプラスチックの摂取は海洋生物で報告されており、粒子が食物連鎖に入る可能性がある。 【目的】ヒトの糞便にマイクロプラスチックがあるかどうかを調べ、ヒトがマイクロプラスチックを不本意に摂取しているかどうかを調べる。 【デザイン】段階的な指示に従って食事日記を書き、便を採取したプロスペクティブケースシリーズ。 【参加者】33歳から65歳の健康なボランティア8名 【測定方法】化学物質消化後、フーリエ変換赤外顕微鏡を用いて、便サンプル中の一般的な10種類のマイクロプラスチックの存在と形状を分析した。 【結果】8つの便サンプル全てがマイクロプラスチック陽性であった。ヒトの便10gあたり中央値で20個のマイクロプラスチック(大きさ50-500μm)が同定された。全体として9種類のプラスチックが検出され、ポリプロピレンとポリエチレンテレフタレートが最も多く検出された。 【結論】ヒトの便からは様々なマイクロプラスチックが検出され、異なる供給源から不用意に摂取されたことが示唆された。マイクロプラスチックの摂取の程度と人間の健康への潜在的影響についてさらなる研究が必要である。 第一人者の医師による解説 生体検体中のマイクロプラスチック 検出方法のさらなる研究必要 石橋 由基/岡村 智教(教授)  慶應義塾大学医学部衛生学公衆衛生学教室 MMJ.April 2020;16(2) プラスチックの生産量は年間3億5000万トンになり、指数関数的に増加している。マイクロプラスチックは5mm以下のプラスチック粒子と定義されることが多いが、それによる水中、地上、空気の汚染ならびに健康への影響が懸念されている。いくつかの先行研究では、動物において胃腸の組織や臓器への移行が確認されている。 しかし、人体への影響に関する疫学研究はいまだ不十分であり、世界保健機関(WHO)は「プラスチック粒子、特にナノレベルの粒子の物理的なハザードに関連する毒性の確かな結論を引き出す十分な情報はないが、 懸念であることを示唆する信頼できる情報はない」と述べている(1),(2)。 本研究では、日本(東京)を含む8カ国、8人のボランティアから便を採取し、便中のマイクロプラスチックを分析した。また曝露要因を調べるために、採取前6~7日間の食事内容や生活習慣を調査した。結果として8検体すべての便サンプルがマイクロプラスチック検査で陽性を示し、便10gあたり中 央値20個のマイクロプラスチックが確認された。 全体として、9種類のプラスチックが検出され、ポリプロピレンとポリエチレンテレフタレートが最も多かった。便中のマイクロプラスチックに関する報告は本研究が初であり、その点でこの研究は新しい知見を追加している。しかしながら、結果の解釈には注意が必要である。   まず著者らも研究の限界として言及しているように、サンプル数が少なく、サンプルの代表性に問題がある。さらにマイクロプラスチック測定上の問題として、(1)前処理に使用した固定剤(ブロノポール)がポリマー特性に与える影響に関する検討が論文中で示されていない(2)定量結果の精度を確認するためのポジティブコントロールについての記載がない(3)ネガティブコントロールの詳細が示されていない(標準誤差、サンプル数も含めた報告が必要である)(4)検査の際の実験室環境に関する情報が記載されていない──などの問題 が挙げられる。 上記は水中におけるマイクロプラスチック調査に用いられる測定品質の評価基準(3)であるが、便中の測定でも同様の基準が必要と考えられる。その意味で、今後は健康への影響のエビデンスだけでなく、生体検体中のマイクロプラスチック測定のバリデーションに関する研究の蓄積も求められている。 1. 国立医薬品食品衛生研究所:食品安全情報(化学物質) No.20 (2019) 別添     【WHO】情報シート:飲料水中マイクロプラスチック . URL: https://bit.ly/2PRcfA7 2. WHO (2019). Information sheet: Microplastics in drinking-water. URL:https://bit.ly/2QdT56n 3.Koelmans AA et al. Water Res. 2019;155:410-422.
人から人への感染を示す2019年新型コロナウイルスに関連した肺炎の家族性クラスター:研究報告。
人から人への感染を示す2019年新型コロナウイルスに関連した肺炎の家族性クラスター:研究報告。
A familial cluster of pneumonia associated with the 2019 novel coronavirus indicating person-to-person transmission: a study of a family cluster Lancet 2020 Feb 15;395(10223):514-523. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】中国湖北省武漢市で、新型コロナウイルスに関連した肺炎の集団発生が報告された。罹患した患者は、潜在的な感染源である地元のウェットマーケットと地理的に関連していた。本研究では,武漢訪問後に中国広東省深-市に帰国し,原因不明の肺炎を呈した家族集団の患者5名と,武漢に旅行していない追加家族1名の疫学,臨床,検査,放射線,微生物学的所見を報告する.これらの患者の遺伝子配列の系統解析を行った。 【FINDINGS】2020年1月10日から、2019年12月29日から2020年1月4日の間に深センから武漢に渡航した患者6人の家族を登録した。武漢に渡航した家族6人のうち、5人が新型コロナウイルスに感染していることが確認された。さらに、武漢に渡航していない家族1名が、家族4名と数日間接触した後、ウイルスに感染しました。武漢の市場や動物との接触はなかったが、2名は武漢の病院を受診したことがあった。家族5名(36-66歳)が感染後3-6日で発熱,上気道症状,下痢,あるいはこれらの複合症状を呈した.発症から6-10日後に当院(香港大学深-病院)を受診した。彼らと無症状の子供1人(10歳)には、放射線学的に地上の肺の混濁が見られた。高齢者(60歳以上)には,より多くの全身症状,広範なX線上の肺の地表面変化,リンパ球減少,血小板減少,CRPと乳酸脱水素酵素値の上昇がみられた.これら6人の患者の鼻咽頭または咽頭スワブは,ポイントオブケア多重RT-PCRによって既知の呼吸器系微生物に対して陰性であったが,5人の患者(成人4人と子供)はこの新規コロナウイルスの内部RNA依存RNAポリメラーゼおよび表面スパイク蛋白をコードする遺伝子に対してRT-PCR陽性であり,サンガー配列決定によって確認された.これら5名のRT-PCRアンプリコンと2名のフルゲノムの次世代シーケンサーによる系統解析の結果、このウイルスは中国のカブトコウモリに見られるコウモリ重症急性呼吸器症候群(SARS)関連コロナウイルスに最も近い新規コロナウイルスであることが判明した。 【解釈】我々の発見は、病院や家庭環境におけるこの新規コロナウイルスの人対人感染や、他の地域の旅行者の感染報告と一致するものである。 【資金提供】The Shaw Foundation Hong Kong, Michael Seak-Kan Tong, Respiratory Viral Research Foundation Limited, Hui Ming, Hui Hoy and Chow Sin Lan Charity Fund Limited, Marina Man-Wai Lee, the Hong Kong Hainan Commercial Association South China Microbiology Research Fund, Sanming Project of Medicine (Shenzhen) and High Level-Hospital Program (Guangdong Health Commission)を含む。) 第一人者の医師による解説 今でこそ常識だが 一家族のクラスター研究がもたらした大きな一歩 岩田 健太郎 神戸大学医学部附属病院感染症内科教授 /診療科長 MMJ.June 2020;16(3) 新しい感染症(新興感染症)が勃発したときは、 その感染症の正体を突き止めることが急務となる。それは漸近的に行われる。一足でカント的「物自体」を掴み取ることは不可能だ(もちろん、ずっと時間をかけても掴み取れないかもしれないのだが)。よって、研究者らは寄ってたかって、それも“急いで”真実に近づこうとする。感染症のアウトブレイク時は「研究しながら、対策する」という「急ぎの態度」が必要だ。ゆっくりと腰を落ち着けてやる研究とは性格を異にする。 本研究も、今からルックバックすると「なーんだ」という研究だ。しかし、本研究があったからこそ「なーんだ」なのである。すべての研究が先人の肩の上に乗っているとはよく言われるが、本研究のもたらした恩恵、すなわちSARS-CoV-2(論文発 表時は2019-nCoV)がヒト -ヒト感染を起こすという、現在では誰でも知っている「常識」を初めて看破した。その過程をここで追体験したい。 本研究は2019年12月29日から翌年1月4日 に広東省深圳市から湖北省武漢まで旅行した家族 6人を調査した。そのうち5人が新型コロナウイルスに感染し、香港大学深圳病院を受診。1月1日 に1人が熱と下痢を発症し、その後他の家族も発症した。4人は症状があったが、10歳の子は無症状だった。しかし、胸部 CTではすりガラス陰影が認められた。新型コロナウイルス感染はRT-PCR法で確定診断された。さらに武漢に行かなかった別の家族1人も同じ感染症に罹患し、RT-PCR法で診断が確定した。 聞き取り調査により、当初感染源と目された海鮮市場や動物との接触は否定された。武漢で接触した親戚にも発熱や咳が認められた。また、そうした親戚の中には肺炎として12月29日に武漢の病院を受診し、別の親戚が付き添っていた。武漢に行かなかった家族の感染が判明した事実も合わせ、 ヒト─ヒト感染があったことが示唆された。その後 ウイルスの全ゲノムシークエンシングが行われ、 遺伝子情報を用いた系統樹が作成された。リニエイジ Bのベータコロナウイルスに典型的な配列が RNAポリメラーゼ、スパイク蛋白、全ゲノムから見いだされた。患者2と患者5の全ゲノムはほぼ同じで、違いは塩基2つ分だけであった。 5月中旬でも 世界中で 猛威 を ふ る っ て い る COVID-19。私の周りでも院内外のアウトブレイクが起きている。アウトブレイクは巨大な対策を要し、それは担当者にとって苦痛以外の何物でもない。しかし、そこから得る新たな学びもある。まだ まだ分からないことの多いCOVID-19。学びを重ね、 理解を深め、少しでも近づき続けたいと考えながら本論文も読み直した。
2019年新型コロナウイルスのゲノム特性解析と疫学:ウイルスの起源と受容体結合の意味するところ
2019年新型コロナウイルスのゲノム特性解析と疫学:ウイルスの起源と受容体結合の意味するところ
Genomic characterisation and epidemiology of 2019 novel coronavirus: implications for virus origins and receptor binding Lancet 2020 Feb 22;395(10224):565-574. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】2019年12月下旬、中国・武漢で原因不明の微生物によるウイルス性肺炎を呈した患者が報告された。その後、原因病原体として新規コロナウイルスが同定され、2019 novel coronavirus(2019-nCoV)と仮称された。2020年1月26日現在、2019-nCoV感染症は2000例以上確認されており、そのほとんどが武漢在住者または訪問者であり、ヒトからヒトへの感染が確認されている。 【方法】武漢の華南水産市場を訪問した9名の入院患者から採取した気管支肺胞洗浄液と培養分離株のサンプルについて次世代シーケンサーで解析を行った。これらの個体から2019-nCoVの完全および部分ゲノム配列が得られた。ウイルスコンティグをサンガーシークエンスで連結して全長ゲノムを得、末端領域はcDNA末端の迅速増幅で決定した。これらの2019-nCoVゲノムと他のコロナウイルスのゲノムの系統解析は、ウイルスの進化の歴史を決定し、その起源と思われるものを推測するのに役立てられた。ホモロジーモデリングにより、ウイルスの受容体結合の可能性を探った。 【調査結果】9人の患者から得られた2019-nCoVの10個のゲノム配列は、99-98%以上の配列同一性を示し、極めて類似していた。注目すべきは、2019-nCoVは、2018年に中国東部の舟山で採取された2つのコウモリ由来の重症急性呼吸器症候群(SARS)様コロナウイルス、bat-SL-CoVZC45およびbat-SL-CoVZXC21と近縁(88%の同一性)でしたが、SARS-CoV(約79%)およびMERS-CoV(約50%)より遠かったということです。系統解析の結果、2019-nCoVはベタコロナウイルス属のサルベコフイルス亜属に属し、最も近縁のbat-SL-CoVZC45およびbat-SL-CoVZXC21との枝長が比較的長く、SARS-CoVとは遺伝的に異なることが判明しました。注目すべきは、相同性モデリングにより、2019-nCoVは、いくつかの重要な残基でアミノ酸が異なるにもかかわらず、SARS-CoVと同様の受容体結合ドメイン構造を持っていることが明らかになった。 【解釈】2019-nCoVはSARS-CoVから十分に分岐し、新しいヒト感染性ベータコロナウイルスと見なされる。我々の系統解析は、コウモリがこのウイルスの本来の宿主である可能性を示唆しているが、武漢の海産物市場で売られている動物が、ヒトへのウイルス出現を促進する中間宿主である可能性もある。重要なのは、構造解析により、2019-nCoVがヒトのアンジオテンシン変換酵素2受容体に結合する可能性があることが示唆されたことである。本ウイルスの今後の進化、適応、拡散について早急に調査する必要がある。 【資金提供】中国国家重点研究開発計画、中国感染症制御・予防国家重点プロジェクト、中国科学院、山東第一医科大学 第一人者の医師による解説 ヒトのアンジオテンシン変換酵素2受容体に結合する可能性を示唆 下畑 享良 岐阜大学大学院医学系研究科脳神経内科学分野教授 MMJ.June 2020;16(3) 新型 コ ロ ナ ウ イ ル ス 感染症(COVID-19)は、 2019年12月に中国武漢で報告されて以来、世界 的にパンデミックとなった。本論文は中国疾病管 理予防センター(Centers for Disease Control and Prevention;CDC)が 論文発表前に公開し、 直ちに世界で共有されたものである。COVID-19 の病原体であるSARS-CoV-2のゲノム配列を系統 解析し、その由来と構造を検討している。 まず武漢の海鮮市場を訪 れ た8人 を 含 む9人 の入院患者の気管支肺胞洗浄液と咽頭拭い液からウイルス株を培養分離し、次世代シークエンサーを用いて解析している。9人から分離したSARSCoV-2のゲノム配列は類似し、99.98%以上の同一性があった。このことからこのウイルスは、生じてからの時間経過は短いことが示唆される。 次に、取得した完全ないし部分的なゲノムシーケンスを用いてウイルスコンティグ(ゲノム断片)を接続、完全長ゲノムを取得し、さらにcDNA末端 の増幅により末端領域を決定した。このウイルス ゲノムと他のコロナウイルスの系統解析を行い、 ウイルスの進化の歴史を決定し、起源を推測した。 結果として、SARS-CoV-2は、2018年に中国東部で収集された重症急性呼吸器症候群(SARS)類似の2つのコウモリ由来のコロナウイルス(bat-SLCoVZC45およびbat-SL-CoVZXC21)と88% の同一性があったが、SARS および中東呼吸器症 候群(MERS)の 病原体 で あるSARS-CoVおよびMERS-CoVとは、同一性 が そ れ ぞ れ 約79%、 約50%と低いことが判明した。つまりSARSや MERSの病原体よりもコウモリ由来コロナウイルスに近縁であるが、同一ではなく、おそらく海鮮市場で売られていた動物がコウモリから感染し、中間宿主となり、ゲノム配列が変化したものと推測された。実際に、この時期のコウモリは冬眠中で、 コウモリからヒトへの直接の感染は考えにくかった。また、ウイルスが感染する際に使用する受容体としては、SARS-CoVと同じアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)受容体を用いることが分かった。 結論として、系統解析において、SARS-CoV-2は βコロナウイルス属サルベコウイルス亜属に分類 さ れ、最 も 近 い 近縁 のbat-SL-CoVZC45やbatSL-CoVZXC21のように比較的長い分枝長を持ち、 SARS-CoVやMERS-CoVとは異なっていた。また、 SARS-CoV-2がヒトのACE2受容体に結合できる可能性があることが示唆された。
片頭痛の急性期治療における痛みと最も煩わしい関連症状に対するウブロゲパントとプラセボの効果。ACHIEVE II Randomized Clinical Trial(無作為化臨床試験)。
片頭痛の急性期治療における痛みと最も煩わしい関連症状に対するウブロゲパントとプラセボの効果。ACHIEVE II Randomized Clinical Trial(無作為化臨床試験)。
Effect of Ubrogepant vs Placebo on Pain and the Most Bothersome Associated Symptom in the Acute Treatment of Migraine: The ACHIEVE II Randomized Clinical Trial JAMA 2019 Nov 19;322(19):1887-1898. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【重要性】Ubrogepantは、片頭痛の急性期治療薬として検討されている経口カルシトニン遺伝子関連ペプチド受容体拮抗薬である。 【目的】片頭痛発作1回の急性期治療におけるubrogepantの有効性と忍容性をプラセボと比較して評価することである。 【デザイン・設定・参加者】米国で実施した第3相多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照単発臨床試験(ACHIEVE II)(プライマリーケアおよび研究クリニック99施設、2016年8月26日~2018年2月26日)。参加者は、月に2~8回の片頭痛発作を経験している前兆のある片頭痛または前兆のない片頭痛の成人である。 【介入】中等度または重度の疼痛強度の片頭痛発作に対してウブロゲパント50mg(n=562)、ウブロゲパント25mg(n=561)またはプラセボ(n=563)である。【主要評価項目及び測定 【方法】有効性の主要評価項目は、服用後2時間における疼痛緩和及び参加者が指定した最も煩わしい片頭痛関連症状(羞明、幻覚、吐き気のうち)の消失とした。 【結果】無作為化参加者1686名のうち1465名が試験治療を受け(安全集団、平均年齢41.5歳、女性90%)、1465名のうち1355名が有効性として評価可能であった(92.5%)。2時間後の痛みの消失は、ウブロゲパント50mg群では464人中101人(21.8%)、ウブロゲパント25mg群では435人中90人(20.7%)、プラセボ群では456人中65人(14.3%)に認められました(50mg vs プラセボの絶対差、7.5%、95%CI, 2.6%-12.5%; P = .01; 25mg vs プラセボ, 6.4%; 95%CI、 1.5%-11.5%; P = .03)。2時間後に最も煩わしい関連症状がなかったと報告されたのは、ウブロゲパント50mg群463人中180人(38.9%)、ウブロゲパント25mg群434人中148人(34.1%)、そしてプラセボ群456人中125人(27.4%)であった。4%)であった(50mg対プラセボの絶対差、11.5%;95%CI、5.4-17.5%;P = .01;25mg対プラセボ、6.7%;95%CI、0.6-12.7%;P = .07)。いずれかの投与後48時間以内に最も多く見られた有害事象は、吐き気(50 mg、488人中10人[2.0%];25 mg、478人中12人[2.5%];およびプラセボ、499人中10人[2.0%])およびめまい(50 mg、488人中7人[1.4%];25 mg、478人中10人[2.1%];プラセボ、499人中8人[1.6%])であった。 【結論と妥当性】成人の片頭痛患者において、ウブロゲパントの急性期治療では、プラセボと比較して、50mgと25mgの用量で2時間後の痛みの解放率が有意に高く、50mgの用量でのみ2時間後の最も煩わしい片頭痛関連症状の欠如がみられた。ウブロゲパントの他の片頭痛急性期治療に対する有効性を評価し、非選択的患者集団におけるウブロゲパントの長期安全性を評価するために、さらなる研究が必要です。 【試験登録】ClinicalTrials. gov Identifier:NCT02867709。 第一人者の医師による解説 トリプタン無効例や禁忌例の第1選択候補 反復投与での安全性検証が必要 今井 昇 静岡赤十字病院脳神経内科部長 MMJ.June 2020;16(3) 片頭痛は急性期に頭痛だけではなく随伴症状により日常生活が著しく障害される神経疾患である。 片頭痛の急性期治療にトリプタン系薬剤や非ステ ロイド系抗炎症薬(NSAID)が使用されているが、効果が不十分である、あるいは副作用や禁忌項目のために使用できない患者は多い。 多くの研究によりカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)は片頭痛の病態に重要な役割を演じていることが示され、CGRPを標的とした治療薬が開発されている。すでに抗 CGRPモノクロー ナル抗体は2019年に欧米で片頭痛予防薬として上市されている。ユブロゲパントは小分子の経口 CGRP受容体拮抗薬で、片頭痛急性期治療薬として開発された。多施設ランダム化二重盲検プラセボ 対照第 IIb相試験において、ユブロゲパントの有効性が5用量(1、10、25、50、100mg)で検討され、 25、50、100mgはプラセボに比べ服薬2時間後 の頭痛消失率が有意に高かった。 本論文は、ユブロゲパント 25、50mgの有効性 と安全性を評価するために、米国99施設で実施された多施設ランダム化二重盲検プラセボ対照第 III 相(ACHIEVE II)試験の報告である。18 ~ 65歳(平 均41.5歳)の前兆のない片頭痛または前兆のある 片頭痛の病歴を1年以上有し、発作に中等度以上の光過敏、音過敏、悪心のいずれかの随伴症状が認められる1,686人(女性90%)を対象に、中等度・ 重度の発作に対してユブロゲパント 25、50mg、 またはプラセボが投与された。主要評価項目は投与2時間後の頭痛消失と最も負担となる随伴症状(最 大負担随伴症状)の消失。最大負担随伴症状の内訳 は光過敏57%、音過敏26%、悪心17%。 解析の 結果、2時間後 の 頭痛消失率 は50mg群21.8%、 25mg群20.7%、プラセボ群14.3%で、50mg群、 25mg群ともにプラセボ群と比較し有意な頭痛改 善効果が示された(それぞれP=0.01、P=0.03)。 最大負担随伴症状 の 消失率 は50mg群38.9 %、 25mg群34.1%、プラセボ群27.4%で、50mg 群のみプラセボ群に対し有意な効果が認められた(P =0.01)。投与48時間以内の重篤な有害事象はなく、主な事象は悪心、めまいで各群に有意差はなかった。 本試験におけるユブロゲパント 50mgの有効性と安全性は、トリプタン系薬剤で報告されているものとおおむね同程度であることが示唆される。現在他の経口 CGRP受容体拮抗薬の開発も進んでいる。経口 CGRP受容体拮抗薬はトリプタン系薬 剤やNSAIDでみられる心血管・消化器への影響が少ないと考えられており、新しい片頭痛急性期治 療薬として期待される。ただ、以前開発された経口 CGRP受容体拮抗薬は肝機能障害のため開発中止に至った経緯を考慮すると、今後反復投与での安全性の確認が必要と思われる。
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