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非閉塞性半月板損傷患者における早期手術と理学療法の膝関節機能への影響。ESCAPE Randomized Clinical Trial(無作為化臨床試験)。
非閉塞性半月板損傷患者における早期手術と理学療法の膝関節機能への影響。ESCAPE Randomized Clinical Trial(無作為化臨床試験)。
Effect of Early Surgery vs Physical Therapy on Knee Function Among Patients With Nonobstructive Meniscal Tears: The ESCAPE Randomized Clinical Trial JAMA 2018 Oct 2 ;320 (13 ):1328 -1337 . 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【重要】関節鏡下半月板切除術(APM)は理学療法(PT)よりも有効ではないことを示唆する最近の研究にもかかわらず、この手術は半月板損傷患者に依然として頻繁に行われている。 【目的】半月板損傷患者における患者報告膝機能の改善について、PTがAPMよりも非劣性かどうかを評価する。 【デザイン、設定および参加者】非劣性、多施設、無作為臨床試験をオランダの9病院で実施した。参加者は45~70歳の非閉塞性半月板断裂患者(膝関節のロッキングがない)。膝関節不安定症、重度の変形性関節症、肥満度が35以上の患者さんは除外した。募集は、2013年7月17日から2015年11月4日の間に行われた。参加者は24ヶ月間フォローアップされた(最終参加者フォローアップ、2017年10月11日) 【介入】321名の参加者は、APM(n=159)または事前に定義されたPTプロトコル(n=162)にランダムに割り当てられた。PTプロトコルは、協調運動と閉鎖運動連鎖の強化運動に焦点を当てた8週間16セッションの運動療法で構成された。 主要アウトカムと測定法]主要アウトカムは、国際膝関節文書委員会主観的膝フォーム(範囲、0~100;悪い方から良い方)の患者報告膝機能の24ヶ月フォローアップ期間のベースラインからの変化とした。非劣性マージンは、治療群間の差が8ポイントであると定義され、0.025の片側αで評価された。主要解析はintention-to-treatの原則に従った。 【結果】無作為化された321例(平均[SD]年齢58[6.6]歳,女性161例[50%])中,289例(90%)が試験を完了した(女性161例,男性158例)。PT群では、47人(29%)が24か月の追跡期間中にAPMを発症し、APMに無作為に割り付けられた8人(5%)がAPMを発症しなかった。24ヶ月の追跡期間中、APM群では26.2ポイント(44.8から71.5)、PT群では20.4ポイント(46.5から67.7)膝機能が改善された。全体の群間差は 3.6 ポイント(97.5% CI、-∞~6.5、非劣性の P 値 = 0.001)であった。有害事象は,APM 群で 18 例,PT 群で 12 例に発生した.再手術(APM群3例、PT群1例)および膝痛のための追加外来受診(APM群6例、PT群2例)が最も頻度の高い有害事象だった。 【結論と関連性】非閉塞性半月板断裂の患者において、24か月のフォローアップ期間における患者報告による膝機能の改善に関してPTはAPMに対して非劣位であった。これらの結果から、PTは非閉塞性半月板断裂患者に対する手術の代替療法と考えられる。 【臨床試験登録】ClinicalTrials. gov Identifier:NCT01850719。 第一人者の医師による解説 ロッキング症状を伴わない膝関節半月断裂にはまず理学療法を 芳賀 信彦 東京大学大学院医学系研究科外科学専攻感覚・運動機能医学講座リハビリテーション医学分野教授 MMJ.April 2019;15(2) ロッキング症状を伴わない膝関節半月断裂に対する理学療法の長期成績は、関節鏡視下半月部分切除に劣らないことが、オランダのESCAPE研究で示された。 膝関節半月は、関節の変性プロセスの一部として断裂することがあり、50歳以上では膝関節痛がなくても60%以上に半月断裂を認める。痛みを伴う場合の治療として関節鏡視下半月部分切除術が広く行われるが、一方で理学療法にも短期的な疼痛軽減効果がある。メタ解析では、半月切除術は術後 6カ月までは関節機能と疼痛の面で保存的治療よりも優れる一方、1~2年後までは効果が持続しないと報告されている。2年を超える長期的な効果は不明である。 本研究はオランダの9施設で行われたランダム化比較試験であり、2013~15年に45~70歳の、 ロッキング症状を伴わない膝関節痛を有し、MRIで半月断裂を確認した321人が登録された。約半数が理学療法群に割り付けられ、1回30分の理学療法が8週間にわたり計16回行われた。プログラムは、心肺機能の調整、協調運動・バランス訓練、閉鎖運動連鎖を用いた筋力増強からなる均一なものである。残りは半月切除群に割り付けられた。周術期には自宅で運動療法を行い、回復が不十分な場合は理学療法を受けた。 両群合わせて289人で24カ月間の追跡が可能であった。この間に理学療法群では47人が症状残存のために半月切除術を受けた。半月切除群のうち 8人は手術を受ける選択をせず、また半月切除後 2年以内に2人が人工膝関節置換術を受けた。主要評価項目である膝関節機能(IKDC自己申告スコア) に関するintention-to-treat(ITT)解析において、3 カ月、6カ月および24カ月目までの全体では、理学療法群が半月切除群に劣っていなかった(非劣性が 示された)が、12カ月と24カ月の時点では非劣性が示されなかった。実際に受けた治療による解析 でも同様の結果であった。副次的評価項目である荷 重時の疼痛に関するITT解析では、24カ月までの 全体で半月切除群が理学療法群より優れていたが、 実際に受けた治療による解析では差がなかった。 日本でも過去には変形性膝関節症に対する鏡視 下デブリドマンとして、変性断裂した半月の切除がよく行われていたが、今回の結果のように、短期的には疼痛が軽減し患者は満足するが、数年でむしろ関節症が進むこともあり、近年はあまり積極的には行われていない。膝関節痛の診療にかかわる医師は、本研究の結果も参考にし、ロッキング症状がない状態ではまず理学療法を行い、症状が残存、悪化した場合のみ半月部分切除術を行うスタンスが望ましい。
ハイリスク患者における急性胆嚢炎に対する腹腔鏡下胆嚢摘出術と経皮的カテーテルドレナージ(CHOCOLATE):多施設無作為化臨床試験。
ハイリスク患者における急性胆嚢炎に対する腹腔鏡下胆嚢摘出術と経皮的カテーテルドレナージ(CHOCOLATE):多施設無作為化臨床試験。
Laparoscopic cholecystectomy versus percutaneous catheter drainage for acute cholecystitis in high risk patients (CHOCOLATE): multicentre randomised clinical trial BMJ 2018 Oct 8 ;363 :k3965 . 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【目的】急性結石性胆嚢炎のハイリスク患者において、腹腔鏡下胆嚢摘出術が経皮的カテーテルドレナージよりも優れているかどうかを評価すること 【デザイン】多施設共同無作為化比較優位性試験。 【設定】オランダの11病院、2011年2月~2016年1月。 【参加者】急性結石性胆嚢炎のハイリスク患者142例を腹腔鏡下胆嚢摘出術(n=66)または経皮的カテーテルドレナージ(n=68)に無作為に割り付けた。高リスクとは、急性生理学的評価および慢性健康評価II(APACHE II)スコアが7以上と定義された。主要評価項目は、1年以内の死亡、1ヶ月以内の感染症および心肺合併症、1年以内の再治療の必要性(急性胆嚢炎に関連した手術、放射線治療、内視鏡治療)、1年以内の胆道疾患の再発と定義しました。 【結果】本試験は、予定されていた中間解析を経て早期に終了しました。死亡率は腹腔鏡下胆嚢摘出術群と経皮カテーテルドレナージ群で差はなかったが(3%v 9%、P=0.27)、重篤な合併症は66例中8例(12%)で胆嚢摘出術群に、68例中44例(65%)で経皮ドレナージ群に発現した(リスク比0.19、95%信頼区間0.10~0.37、P<0.001)。経皮的ドレナージ群では45例(66%)で再手術が必要であったのに対し、胆嚢摘出術群では8例(12%)であった(P<0.001)。経皮的ドレナージ群では胆道疾患の再発率が高く(53% v 5%、P<0.001)、入院期間中央値は長かった(9日 v 5日、P<0.001)。 【結論】腹腔鏡下胆嚢摘出術は経皮カテーテルドレナージと比較して、急性胆嚢炎のハイリスク患者における主要な合併症の発生率を減少させた. 【TRIAL REGISTRATION】Dutch Trial Register NTR2666. 第一人者の医師による解説 日本の経皮的胆囊ドレナージは安全に施行 グレードⅢでは第1選択 石崎 陽一 順天堂大学医学部附属浦安病院消化器・一般外科教授 MMJ.April 2019;15(2) これまで手術リスクの低い急性胆嚢炎に対しては早期の腹腔鏡下胆嚢摘出術(Lap-C)が治療の第 1選択であることに異論はなかったが、手術リスクの高い患者に対する治療に関しては一定の結論は出ていなかった。今回のオランダのCHOCOLATE 研究により手術リスクの高い患者でも経皮的胆嚢 ドレナージ(PGBD)は術後合併症が多く、Lap-Cが 推奨されることが示された。 APACHE IIスコア 7以上15未満の手術リスクを有する 急性胆嚢炎 の 患者 をLap-C群(n=66) とPGBD群(n=68)に盲検的ランダム化して治 療成績を比較検討した。主要評価項目 は1年以内 の死亡、1カ月以内の重篤な合併症(腹腔内膿瘍、肺炎、心筋梗塞、肺塞栓症)、1年以内の再治療の必要 性、および1年以内の胆道疾患の再燃である。死亡 例はLap-C群2人(3%)、PGBD群6人(9%)で発 生頻度に差がなかった。しかしながら、Lap-C群の 死亡例はいずれも治療と無関係(1例は食道がん、 1例は大腸がん)であったが、PGBD群の死亡6人 中3人は急性胆嚢炎または再発胆嚢炎による敗血 症であった。手技に関連した重篤な合併症はLap-C 群8人(12 %)、PGBD群44人(65 %)とPGBD 群で高率に発症した。1年以内に再治療を要したの はLap-C群8人(12%)、PGBD群45人(66%)と PGBD群で有意に多かった。また胆道疾患の再燃 はLap-C群3人(5 %)、PGBD群36人(53 %)と Lap-C群で有意に少なかった。またPGBD群では 経過観察中に11人(16%)で緊急胆嚢摘出術、20 人(29%)で待機的胆嚢摘出術が必要であった。1 人あたりの医療経費はLap-C群4,993ポンドに 対してPGBD群では7,427ポンドと高価であっ た。以上より手術リスクの高い急性胆嚢炎に対するPGBDは術後重篤な合併症が多く、Lap-Cを施行 すべきであるとしている。 日本 か ら は 急性胆嚢炎 に 対 す る 治療指針 としてTokyo Guidelines 2018が 提唱 さ れ て い る。 CHOCOLATE研究 では 急性胆嚢炎 の 重症度 が 記載されていないが、Tokyo Guidelinesでは急性胆 嚢炎の重症度に応じた治療アルゴリズムが示されている(1)。Grade I、IIでは早期のLap-Cが推奨されているが、Grade IIIでは経験豊富な内視鏡外科医に よるLap-Cが可能でない場合は治療の第1選択は PGBDであり、その後の待機的 Lap-Cが推奨されている(2)。日本ではPGBDは合併症も少なく安全に施行されており、最近では内視鏡的経乳頭的な胆嚢 ドレナージも治療選択肢の1つとされている(3)。 1. Yokoe M, et al. J Hepatobiliary Pancreat Sci. 2018;25(1):41-54. 2. Mukai S, et al. J Hepatobiliary Pancreat Sci. 2017;24(10):537-549. 3. Mori Y, et al. J Hepatobiliary Pancreat Sci. 2018;25(1):87-95.
減量維持中のエネルギー消費に対する低炭水化物食の効果:無作為化試験。
減量維持中のエネルギー消費に対する低炭水化物食の効果:無作為化試験。
Effects of a low carbohydrate diet on energy expenditure during weight loss maintenance: randomized trial BMJ 2018 Nov 14 ;363 :k4583 . 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【目的】炭水化物と脂肪の比率を変えた食事が総エネルギー消費量に及ぼす影響を明らかにすること 【デザイン】無作為化試験 【設定】米国2施設での多施設共同、2014年8月から2017年5月 【参加者】肥満度25以上の18~65歳の成人164名。 【介入】ランインダイエットで12%(2%以内)の体重減少後、炭水化物含有量に応じて3つの試験食(高、60%、n=54、中、40%、n=53、低、20%、n=57)のいずれかに20週間ランダムに割り付けました。試験食はタンパク質がコントロールされ、体重減少が2kg以内に維持されるようにエネルギーが調整されていた。炭水化物-インスリンモデルで予測される効果修飾を調べるため、サンプルを減量前のインスリン分泌量(経口ブドウ糖後30分のインスリン濃度)の3分の1に分割した。 【主要評および測定法】主要アウトカムは、二重標識水を用いて測定した総エネルギー消費量で、intention-to-treat解析により求めた。プロトコールごとの解析では、目標体重の減少を維持した参加者を含むため、より正確な効果推定ができる可能性がある。 【結果】intention-to-treat解析において、総エネルギー消費量は食事によって異なり(n=162、P=0.002)、総エネルギー摂取量に対する炭水化物の寄与が10%減少するごとに52kcal/d(95%信頼区間23~82)の線形傾向が見られた(1kcal=4.18kJ=0.00418MJ)。総エネルギー消費量の変化は、高炭水化物食と比較して、中炭水化物食に割り当てられた参加者で91 kcal/d(95%信頼区間-29〜210)、低炭水化物食に割り当てられた参加者で209 kcal/d(91〜326)大きかった。プロトコルごとの解析(n=120、P<0.001)では、それぞれの差は131 kcal/d(-6~267)および278 kcal/d(144~411)であった。体重減少前のインスリン分泌量が最も多い3分の1の参加者では、低炭水化物食と高炭水化物食の差はintention-to-treat解析で308kcal/d、per protocol解析で478kcal/dだった(P<0.004)。グレリンは、低炭水化物ダイエットに割り当てられた参加者において、高炭水化物ダイエットに割り当てられた参加者と比較して有意に低かった(両分析)。レプチンも低炭水化物食に割り当てられた参加者で有意に低かった(プロトコルごと)。 【結論】炭水化物-インスリンモデルと一致して、食事性炭水化物の低下は減量維持中のエネルギー消費量を増加させた。この代謝効果は、特にインスリン分泌が多い人の肥満治療の成功を向上させる可能性がある。 【TRIAL REGISTRATION】ClinicalTrials. gov NCT02068885。 第一人者の医師による解説 エネルギー消費と炭水化物比率の関連 さらなる検討必要 的場 圭一郎(講師)/宇都宮 一典(教授) 東京慈恵会医科大学内科学講座 糖尿病・代謝・内分泌内科 MMJ.April 2019;15(2) 著者らの提唱する炭水化物̶インスリンモデル によると、高炭水化物食摂取後のインスリン/グルカゴン比上昇がエネルギー消費を抑制し、脂肪組織への脂肪蓄積を促進する。この状態が飢餓を進させて食欲が増加し、特に高インスリン血症を呈する肥満者で体重を増加させる。一方でこの炭水化物̶インスリンモデルに基づいた低炭水化物食の有効性には反論もあり、その根拠はこれまでの検証で対照群が存在しないこと、メタ解析では低炭水化物食と低脂肪食の間でエネルギー消費に差が認められなかったことである。しかし、効果が認められなかった研究のほとんどが2週間以内の短期間であり、低炭水化物食への適応化には少なくとも2~3週間が必要とする報告もある。そこで、本研究では減量維持期における低炭水化物食のエネルギー消費に対する効果を20週間にわたって観察した。 対象はBMI 25kg/m2以上の成人164人とし、 12%の体重減少後、炭水化物の割合が異なる3つの群(総エネルギー摂取量に占める炭水化物の比率: 高60%、中40%、低20%)に割り付けられた。主要評価項目は、二重標識水法によって測定した総エネルギー消費量とされた。結果、総エネルギー摂取量に占める炭水化物比率によって総エネルギー消費量には有意な差があり、炭水化物比率が10%低下するごとに52kcal/日増加した。高炭水化物群 に比べて中炭水化物群では91kcal/日、低炭水化 物群では209kcal/日増加した。低炭水化物群では、 食欲を増進させるホルモンであるグレリンの血中濃度が低下していた。 本研究から得られた結果は、炭水化物̶インスリンモデルに矛盾しないものであり、高インスリン血症を呈する肥満者の食事療法を検討する上で重要な意義を有する、と著者らは結論付けている。しかし、本研究は栄養素の組成がエネルギー消費に影響を与えることを示した点では新規性があるものの、その測定方法の精度には限界があり、実臨床で本研究のような厳格なプロトコールを実施することは困難である。また、炭水化物の総量と比率のどちらを重視すべきか、糖尿病のような代謝異常を合併した肥満者での効果、栄養素の組成がエネ ルギー消費を変化させる詳細な機序は不明であり、さらなる検討が必要である。
ナトリウムグルコースコトランスポーター2阻害剤と重篤な有害事象のリスク:全国規模の登録に基づくコホート研究。
ナトリウムグルコースコトランスポーター2阻害剤と重篤な有害事象のリスク:全国規模の登録に基づくコホート研究。
Sodium glucose cotransporter 2 inhibitors and risk of serious adverse events: nationwide register based cohort study BMJ 2018 Nov 14 ;363 :k4365 . 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【目的】ナトリウムグルコースコトランスポーター2(SGLT2)阻害剤の使用と現在懸念されている7つの重篤な有害事象との関連を評価する。 【デザイン】登録ベースのコホート研究。 【設定】2013年7月から2016年12月までスウェーデンおよびデンマークの調査。 【参加者】SGLT2阻害薬(ダパグリフロジン61%、エンパグリフロジン38%、カナグリフロジン1%)の新規ユーザー17 213人とアクティブコンパレータであるグルカゴン様ペプチド1(GLP1)受容体作動薬の新規ユーザー17 213人の傾向スコアマッチコホートを作成した。 【主要評および測定法】主要アウトカムは、病院記録から特定した下肢切断、骨折、糖尿病性ケトアシドーシス、急性腎障害、重症尿路感染症、静脈血栓塞栓症、急性膵炎であった。ハザード比および95%信頼区間はCox比例ハザードモデルを用いて推定した。 【結果】SGLT2阻害薬の使用は、GLP1受容体作動薬と比較して、下肢切断のリスク上昇と関連していた(発生率2.7<i>v1.1イベント/1000人年、ハザード比2.32、95%信頼区間1.37~3.91)、糖尿病性ケトアシドーシス(1.3<i>v0.6, 2.14, 1.01~4.52 )があったが、骨折(15.4<i>v13.9、 1.11, 0.93~1.33 )、急性腎臓障害(2.1<i>v3)には関係しなかった。3 v 3.2, 0.69, 0.45~1.05), 重篤な尿路感染症 (5.4 v 6.0, 0.89, 0.67~1.05) 。19),静脈血栓塞栓症(4.2v 4.1, 0.99, 0.71~1.38) または急性膵炎(1.3v 1.2, 1.16, 0.64~2.12 )であった。 【結論】2カ国の全国規模の登録の分析では,GLP1受容体作動薬と比較してSGLT2阻害薬の使用は,下肢切断と糖尿病性ケトアシドーシスのリスク上昇と関連していたが,現在懸念されている他の重篤な有害事象とは関連がなかった。 第一人者の医師による解説 リスクの評価を行ったうえでSGLT2阻害薬を開始することが必要 木下 智絵 川崎医科大学糖尿病・代謝・内分泌内科学/加来 浩平 川崎医科大学学長付特任教授 MMJ.April 2019;15(2) 本論文は、SGLT2阻害薬で懸念される7項目の有害事象を評価するため、GLP-1受容体作動薬を対照にスウェーデンとデンマークの日常診療データを用いた大規模コホート研究の報告である。両群の患者背景は傾向スコアマッチさせている。その結果、SGLT2阻害薬はGLP-1受容体作動薬に比べ、 下肢切断と糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)のリスクが高く、他の有害事象に差はなかった。サブグループ解析としてインスリン治療の有無でのDKA リスク、末梢動脈疾患や下肢切断歴の有無による下肢切断リスクも同様の結果であった。 ダパグリフロジン 61%、エンパグリフロジン 38%、カナグリフロジン 1%と使用率に差が大きく、薬剤別の評価はできていない。CANVAS Programでカナグリフロジンによる下肢切断リスク上昇が注目されたが、機序は不明である。仮説として体液量減少との関連が示唆されているが、他の大規模 RCTではリスク上昇は認めず、SGLT2阻 害薬に共通のものかも含めて議論がある(1)。また、 本研究で両群の下肢切断発生率は1,000人 /年あたり2.7対1.1と非常に低く、既報の1.5~5.0 の 範囲内であった(2)。日本での年間下肢切断率 は 0.05%で海外報告の10分の1程度とされ、既往例を除けば、SGLT2阻害薬のメリットが相殺されるとは考えにくい。 一方、本研究におけるDKA発現率は対照群に比べ有意差はあるが低い(1,000人 /年あたり1.3 対0.6)。デンマークにおける2型糖尿病のDKA 発現率 は1,000人 /年 あたり1~2例 である。 SGLT2阻害薬に関連したDKAでは、多くが代謝的ストレス状態(手術、高強度の運動、心筋梗塞、脳卒中、重症感染症、長時間の空腹状態など)の高リスク患者であった。また、EMPA-REG OUTCOME やCANVAS ProgramではDKA発現率にプラセボ群との有意差はなかったことから、『SGLT2阻害薬の適正使用に関する Recommendation』(3)に留意して適切に治療を行うことで、SGLT2阻害薬に 関連したDKAの多くは回避できると考える。 最後に、1型糖尿病患者 へ のSGLT2阻害薬処方も可能となり、高リスク患者が含まれる可能性がある。SGLT2阻害薬のメリットを享受するためにも、より安全性に配慮し、DKA、足潰瘍、下肢切断の既往の確認、末梢動脈疾患などリスクを評価したうえで使用を開始することが望まれる。 1. Scheen AJ. Nat Rev Endocrinol. 2018;14(6):326-328. 2. Yuan Z, et al. Diabetes Obes Metab. 2018;20(3):582-589. 3. 日本糖尿病学会「SGLT2阻害薬の適正使用に関する Recommen-dation」http://www.jds.or.jp/modules/important/index.php?page= article&storyid=48
原発性皮膚基底細胞癌の治療法。システマティックレビューとネットワークメタ分析。
原発性皮膚基底細胞癌の治療法。システマティックレビューとネットワークメタ分析。
Treatments of Primary Basal Cell Carcinoma of the Skin: A Systematic Review and Network Meta-analysis Ann Intern Med 2018 Oct 2;169(7):456-466. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】基底細胞癌(BCC)に対するほとんどの介入は、ヘッドツーヘッド無作為化試験で比較されていない。 【目的】成人における原発性BCCの治療法の有効性と安全性を比較評価する。 【データ入手元】開始時から2018年5月までMEDLINE、Cochrane Central Register of Controlled Trials、Cochrane Database of Systematic Reviews、Embaseの英語検索、ガイドラインやシステマティックレビューの文献リスト、ClinicalTrialsの検索を実施した。govを2016年8月に実施。 【研究選択】成人の原発性BCCに現在使用されている治療法の比較試験。 【データ抽出】1名の治験責任者が再発、組織学的クリアランス、臨床的クリアランス、美容的アウトカム、QOL、死亡率のデータを抽出し、2名のレビューアが抽出結果を検証した。複数の研究者が各研究のバイアスリスクを評価した。 【データ統合】無作為化試験40件と非無作為化試験5件で、9カテゴリー18件の介入を比較した。相対的な介入効果および平均アウトカム頻度は、Frequentist Network Meta-Analysesを用いて推定された。推定再発率は、切除(3.8% [95% CI, 1.5% ~ 9.5%])、モース手術(3.8% [CI, 0.7% ~ 18.2%])、掻爬およびジアテルミー(6.9% [CI, 0.9% ~ 36.6%])、外部ビーム照射(3.5% [CI, 0.7% ~ 16.8%])とほぼ同じであった。再発率は、凍結療法(22.3%[CI、10.2%~42.0%])、掻爬および凍結療法(19.9%[CI、4.6%~56.1%])、5-フルオロウラシル(18.8%[CI、10.1%~32.5%])、イミキモド(14.1%[CI、5.4%~32.4%])、およびメチル-アミノレブリン酸(18.8%[CI、10.1%~32.5%])またはアミノレブリン酸を用いた光力学療法(16.6%[CI、7.5%~32.8%])であった。美容上の良好な転帰を報告する患者の割合は、切除術(77.8%[CI, 44.8%~93.8%]) または凍結療法(51.1%[CI, 15.8%~85.4%]) に比べて、メチルアミノレブリン酸を用いた光力学的療法(93.8%[CI, 79.2%~98.3%] )またはアミノレブリン酸(95.8%[ CI, 84.2%~99.0%] )が良好であった。QOLおよび死亡率に関するデータは、定量的な統合には不十分であった。 【Limitation】データは不十分であり、効果の推定は不正確で、間接的な比較に基づく。 【結論】外科的治療および外部照射は、低リスクのBCCの治療において低い再発率を有するが、他の治療に対する比較効果についてはかなりの不確実性が存在する。高リスクのBCC亜型および費用などの重要なアウトカムに関してはギャップが残っている。 【Primary funding source】Agency for Healthcare Research and Quality.(プロスペロー:Crd42016043353)。 第一人者の医師による解説 基底細胞がんの標準治療は切除 日本ではさらなる切除範囲縮小が可能か 中村 泰大 埼玉医科大学国際医療センター皮膚腫瘍科・皮膚科教授 MMJ.April 2019;15(2) 基底細胞がんは多種ある皮膚がんの中でも世界中で最も発生数の多い皮膚がんである。基底細胞 がんの大半は小型で、局所のみで増殖し転移することはまれであるため、局所での腫瘍根絶ができれば生命予後良好である。しかし顔面を中心とした頭頸部に多く発生するため、腫瘍を根絶する治療介入の手段によっては、整容・機能面を損ねる場合がある。 現在基底細胞がんの治療は手術による切除が世界的にも標準治療と考えられている。しかし、切除以外にも凍結療法、掻爬、焼灼、光線力学的療法、レー ザー、放射線療法、5-フルオロウラシル軟膏など複数の治療があり、ランダム化比較試験などにより これら複数の治療介入の効果をすべて直接比較で きているわけではない。 本論文では基底細胞がんの個々の治療介入の効果を比較するために、これまでの臨床試験に関する文献をMEDLINE、Cochrane Central Register of Controlled Trials、Cochrane Database of Systematic ReviewsおよびEMBASEを用いて抽出し、18種類の治療介入を取り扱った40件のランダム化比較試験と5件の非ランダム化試験を対象に、相対的介入効果と効果の中央値をネットワークメタアナリシスにより推定した。推定局所再発率中央値は切除(3.8%)、Mohs手術(3.8%)、 外科的掻爬+焼灼(6.9%)、放射線療法(3.5%)が低 く、凍結療法(22.3%)、外科的掻爬+凍結療法 (19.9%)、5-フルオロウラシル軟膏(18.8%)、 イミキモドクリーム(14.1%)、光線力学的療法 (16.6%)で高かった。一方、本解析の限界として、 いくつかの患者条件や治療条件では母集団が少ない、あるいは解析されていないなどでエビデンスが乏しいこと、今回抽出された文献の効果推定値には不精確さがあり、直接比較ではないことにも留意する必要がある。また、高リスク基底細胞がんに対する治療介入については検討されていない。 今回の結果は米国における低リスク基底細胞がんに対する切除と放射線療法のエビデンスを再認識したものと言える。現在、日本における低リスク基底細胞がんの標準治療も切除であり、米国、日本ともに現行のガイドラインにおける側方切除範囲は4mmとされている。一方、日本人は白人と異なり色素性基底細胞がんが多く、病変境界が白人に比べ明瞭であるため切除範囲をさらに縮小できる可能性が高い。今後日本人を対象にした切除範囲縮小に関する臨床試験の施行が望まれる。
子癇前症と後年認知症になるリスク:全国規模のコホート研究
子癇前症と後年認知症になるリスク:全国規模のコホート研究
Pre-eclampsia and risk of dementia later in life: nationwide cohort study BMJ 2018 Oct 17 ;363 :k4109 . 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【目的】子癇前症とその後の認知症との関連を、全体および認知症のサブタイプや発症時期別に検討する。 【デザイン】全国規模の登録に基づくコホート研究 【対象】デンマーク、1978年から2015年の間に少なくとも1回の生児または死産をした全女性。 【主要評価項目】Cox回帰を用いて推定した、子癇前症の既往がある女性とない女性の認知症発症率を比較したハザード比。 【結果】コホートは1,178人の女性からなり、追跡期間は20 352 695人年であった。子癇前症の既往のある女性は、子癇前症の既往のない女性と比較して、後年、血管性認知症のリスクが3倍以上(ハザード比3.46、95%信頼区間1.97~6.10)であった。血管性痴呆との関連は、早期発症(2.32、1.06〜5.06)よりも晩期発症(ハザード比6.53、2.82〜15.1)の方が強いようだ(P=0.08)。糖尿病、高血圧、心血管疾患の調整により、ハザード比は中程度にしか減少しなかった。感度分析により、肥満度が血管性痴呆との関連を説明することはないことが示唆された。一方、アルツハイマー病(ハザード比1.45、1.05~1.99)およびその他/特定不能の認知症(1.40、1.08~1.83)については、緩やかな関連しか認められなかった。心血管疾患、高血圧、および糖尿病は、関連性を実質的に媒介する可能性は低く、子癇前症および血管性認知症は、根本的なメカニズムまたは感受性経路を共有している可能性が示唆された。子癇前症の既往を問うことは、医師が疾患の初期徴候をスクリーニングすることで有益な女性を特定し、早期の臨床介入を可能にするのに役立つ可能性がある。 第一人者の医師による解説 認知症予防の観点で大きな意義 妊娠高血圧腎症の既往に留意必要 宮川 統爾 Department of Neurology, Mayo Clinic /岩坪 威  東京大学大学院医学系研究科神経病理学分野教授 MMJ.April 2019;15(2) 妊娠高血圧腎症(π)の既往は、将来の認知症、特に65歳以上の血管性認知症の強いリスクとなることが、デンマークの全国データベースを活用した 今回のコホート研究によって示された。 妊娠高血圧腎症は全妊娠の3~5%に生じる血管内皮障害を機序とする病態で、既往歴のある女性では将来の心血管合併症リスクが高いことが知られてきた。一方、妊娠高血圧腎症と将来の認知症との関連については、数十年に及ぶ発症時期のギャップから、疫学研究データは限定的である(1),(2)。 本研究は、デンマーク全国民を登録したデータベースをもとに、1978~2015年に出産または 死産を経験した117万8,005人の女性を母集団 として中央値21.1年、2035万2,695人・年の追跡を行い、妊娠高血圧腎症既往の有無と将来の認知症との関連を解析した。妊娠高血圧腎症既往を有する女性は既往のない女性と比較し、血管性認知症発症リスクが3倍以上高かった(ハザード比[HR], 3.46;95%信頼区間[CI], 1.97~6.10)。さら に、発症年齢を65歳以上の老年期発症と65歳未満の若年期発症に分類すると、HRが前者では6.53 (95% CI, 2.82~15.1)、後者では2.32(1.06 ~5.06)と老年期発症例でリスク上昇が大きかった。高血圧や冠動脈疾患、脳梗塞、慢性腎臓病、糖尿病などの心血管合併症因子による補正後もリスクの減弱はわずかで、両病態間の強い関連性は残存した。血管性認知症以外の認知症との関連は相対的に小さく、アルツハイマー病で45%、その他 /未特定の認知症で40%のリスク上昇を認めたものの、 アルツハイマー病ではデータが不十分で補正できない交絡因子として肥満の影響が示唆された。 妊娠高血圧腎症罹患から認知症発症には数十年のギャップが存在することが大半で、本研究でも約90%の女性は解析時に65歳未満であり、追跡期間中に認知症と診断された者は0.1%にすぎない。しかしながら、母集団の大きさや追跡期間の長さから、本研究が明らかにした妊娠高血圧腎症既往と将来の認知症、特に老年期の血管性認知症リスクの強い関連性は、認知症予防の観点で大きな意義がある。疾患修飾薬による認知症予防は未だ道半 ばであり、妊娠高血圧腎症既往のある女性に対しての早期からの血圧・脂質・糖などの心血管危険因子 への介入は、血管性認知症予防に有用かもしれない。 また、両病態での共通メカニズムの探索が、血管性認知症の疾患修飾薬開発につながる可能性がある。本研究からの知見の再現性が他研究によって得られることが望まれる 1. Nelander M, et al. BMJ Open 2016 Jan 21;6(1):e009880. doi: 10.1136/ bmjopen-2015-009880. 2. Andolf EG, et al. Acta Obstet Gynecol Scand. 2017;96(4):464-471. doi: 10.1111/aogs.13096.
2型糖尿病および心血管疾患患者におけるアルビグルチドおよび心血管アウトカム(Harmony Outcomes):二重盲検無作為化プラセボ対照試験
2型糖尿病および心血管疾患患者におけるアルビグルチドおよび心血管アウトカム(Harmony Outcomes):二重盲検無作為化プラセボ対照試験
Albiglutide and cardiovascular outcomes in patients with type 2 diabetes and cardiovascular disease (Harmony Outcomes): a double-blind, randomised placebo-controlled trial Lancet 2018 Oct 27 ;392 (10157 ):1519 -1529 . 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】 グルカゴン様ペプチド1受容体作動薬は、化学構造、作用時間、臨床転帰への影響に違いがある。2型糖尿病における週1回投与のアルビグルチドの心血管効果については不明である。アルビグルチドの心血管死、心筋梗塞、脳卒中の予防に関する安全性と有効性を明らかにすることを目的とした。 【方法】28か国610施設で二重盲検無作為化プラセボ対照試験を実施した。40歳以上の2型糖尿病と心血管疾患を有する患者(1:1の割合)を、標準治療に加え、アルビグルチドの皮下注射(30~50mg、血糖反応と忍容性に基づく)または同量のプラセボを週1回受ける群に無作為に割り付けました。治験責任医師は、対話型音声応答システムまたはウェブ応答システムを用いて治療割り付けを行い、患者およびすべての治験責任医師は治療割り付けをマスキングされました。主要評価項目である心血管死、心筋梗塞、脳卒中の初発について、アルビグルチドはプラセボに対して非劣性であると仮定し、intention to treatの集団で評価した。ハザード比の95%信頼区間の上限が1-30未満で非劣性が確認された場合、優越性に関するクローズドテストが事前に指定された。本試験はClinicalTrials. govに登録されており、番号はNCT02465515である。 【FINDINGS】2015年7月1日から2016年11月24日の間に患者をスクリーニングした。10 793名がスクリーニングされ、9463名が登録され、4731名がアルビグルチド投与群、4732名がプラセボ投与群に無作為に割り付けられた。2017年11月8日、611の主要評価項目と少なくとも1~5年のフォローアップ中央値が発生したと判断され、参加者は最終診察と試験治療の中止のために戻り、最後の患者の診察は2018年3月12日に行われた。これらintention-to-treat集団である9463人の患者は、中央値1~6年の期間、主要評価項目を評価された。主要複合転帰は、アルビグルチド群では4731例中338例(7%)に100人年当たり4~6件の発生率で、プラセボ群では4732例中428例(9%)に100人年当たり5~9件の発生率(ハザード比0-78、95%CI 0-68~0-90)で、アルビグルチドがプラセボに対して優位であるとした(非劣性のp<0-0001;優位のp=0-0006)。急性膵炎(アルビグルチド群10例、プラセボ群7例)、膵臓がん(アルビグルチド群6例、プラセボ群5例)、甲状腺髄様がん(両群0例)、その他の重篤な有害事象発生率は両群間に差はなかった。また、試験薬の割り付けをマスキングした治験責任医師が治療に関連すると評価した死亡例はプラセボ群で3例(1%未満)、アルビグルチド群で2例(1%未満)であった。 【解釈】2型糖尿病と心血管疾患を有する患者において、アルビグルチドはプラセボに比べ主要有害心疾患に関して優れていることが示された。したがって、エビデンスに基づくグルカゴン様ペプチド1受容体作動薬は、2型糖尿病患者における心血管イベントのリスクを低減するための包括的戦略の一部として考慮されるべきである。 資金提供】グラクソ・スミスクライン社。 第一人者の医師による解説 GLP-1受容体作動薬の間でも抑制効果には差 要因ははっきりせず 山田 祐一郎 秋田大学大学院医学系研究科内分泌・代謝・老年内科学教授 MMJ.April 2019;15(2) 米食品医薬品局(FDA)が新規糖尿病治療薬の承認要件として心血管イベント(MACE)を増やさないエビデンスも要求しているため、シタグリプチンなどのDPP-4阻害薬、エンパグリフロジンなど のSGLT2阻害薬、リキシセナチドなどのGLP-1 受容体作動薬など新しい糖尿病治療薬では、MACE を増やさないことを明らかにするため、大規模臨床試験が実施されてきた。その結果、DPP-4阻害薬 がMACEを増やさないこと(非劣性)やSGLT2阻害薬がMACEを減らすこと(優越性)をクラスエフェクトと考えていいような結果が出ている。 GLP-1受容体作動薬については、リキシセナチ ドやエキセナチドはMACEを増やさないが、減らすこともないのに対し、リラグルチド (1)やセマグ ルチド (2)はMACEを有意に減らすことが発表され、 GLP-1受容体作動薬がクラスエフェクトとして MACEを減らすかどうかはっきりしていない。新たなGLP-1受容体作動薬アルビグルチドを用いた 大規模臨床試験(Harmony Outcomes)の結果が昨年の欧州糖尿病学会(EASD)で発表され、本論文で報告された。 アルビグルチドは、ヒト GLP-1をベースにし、 アルブミンとの遺伝子融合によって、1週間1回の 投与で、持続的な効果が期待される薬剤である。 40歳以上、虚血性心疾患・脳血管疾患・末梢動脈疾 患を有する2型糖尿病患者に、アルビグルチドあるいはプラセボを投与した上で、各国ガイドラインに設定された血糖コントロール目標値に達しない場合、適宜他の糖尿病治療薬の追加や調整を可としている。中央値1.6年の研究期間で、主要評価項 目である最初のMACE(心血管死、心筋梗塞、脳卒中) 発生率は、アルビグルチド群で100人・年あたり4.6 件とプラセボ群の5.9件と比較して有意に低下していることが示された。特に、心筋梗塞への効果があったことは、リラグルチドなどの結果に合致する。 これらの結果から、ある種のGLP-1受容体作動薬を心血管イベントを有する2型糖尿病患者に投与すると、新たな心血管イベント発症を抑制する効果のあることがあらためて示されたのである。薬剤間で抑制効果に差がある要因として、対象集団の 特性の違い、GLP-1受容体作動薬の基本骨格(GLP-1 対 exendin-4)、作用時間(短時間 対 長時間)などが想定されるが、いまだはっきりしていない。 最後に、アルビグルチドは、一部の国ではすでに上市されていたが、2018年までに経営上の理由で 販売を中止すると報じられた。日本では未販売であり、血糖コントロールや心血管イベントの抑制 にエビデンスがあるアルビグルチドが使えないのは残念である。 1. Marso, SP, et al. N Engl J Med. 2016;375(4):311-322. 2. Marso, SP, et al. N Engl J Med. 2016;375(19):1834-1844.
遺伝的リスク、脳卒中の発症、健康的な生活習慣を守ることの利点:英国バイオバンク参加者306 473人のコホート研究。
遺伝的リスク、脳卒中の発症、健康的な生活習慣を守ることの利点:英国バイオバンク参加者306 473人のコホート研究。
Genetic risk, incident stroke, and the benefits of adhering to a healthy lifestyle: cohort study of 306 473 UK Biobank participants BMJ 2018 Oct 24 ;363 :k4168 . 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【目的】多遺伝子リスクスコアと健康的なライフスタイルの脳卒中発症との関連を評価する。 【デザイン】前向き人口ベースコホート研究。脳卒中と過去に関連した90の一塩基多型からなる多因子リスクスコアをP<1×10-5で構築し、脳卒中発症との関連性を検証した。健康的なライフスタイルの遵守は,非喫煙者,健康的な食事,肥満度30kg/m2,定期的な運動の4つの要素に基づいて決定した。 【結果】中央値7.1年(2 138 443人年)の追跡期間に,2077件の脳卒中(虚血性脳卒中1541件,脳内出血287件,くも膜下出血249件)発生の確認がなされた。脳卒中発症リスクは,遺伝的リスクの高い人(多因子スコアの上位3分の1)では,遺伝的リスクの低い人(下位3分の1)に比べて35%高かった:ハザード比1.35(95%信頼区間1.21~1.50),P=3.9×10-8.好ましくないライフスタイル(健康的なライフスタイルの要素が0または1つ)は,好ましいライフスタイル(健康的なライフスタイルの要素が3または4つ)と比較して,脳卒中のリスクが66%増加した:1.66(1.45~1.89),P=1.19×10-13。ライフスタイルとの関連は遺伝的リスク層とは無関係であった。 【結論】本コホート研究において,遺伝的因子とライフスタイル因子は脳卒中発症と独立して関連していた。これらの結果は、遺伝的リスクとは無関係に、集団全体が健康的なライフスタイルを遵守することの有益性を強調するものである。 第一人者の医師による解説 遺伝的リスク高くても 生活習慣改善で脳卒中を予防する可能性示唆 松尾 龍(助教)/鴨打 正浩(教授)九州大学大学院医学研究院医療経営・管理学講座 MMJ.April 2019;15(2) 脳卒中は、遺伝要因と環境要因が組み合わさることにより発症する多因子疾患である。全世界52 万人規模のゲノムワイド関連解析であるMEGA-STROKEでは、32の遺伝子座が脳卒中リスクと関連することが明らかにされた(1)。一方、生活習慣などの環境要因は修正可能な危険因子であり、非喫煙、 糖尿病リスクの低下、運動習慣、健康的な食事は脳卒中の発症リスクを低下させることが明らかになっている。しかしながら、遺伝要因の影響下でも、健康的な生活習慣を遵守することで脳卒中発症リスクの低下がみられるかどうかは明らかではない。 本研究は、英国在住の50万人から生物学的な試料を収集した「英国バイオバンク」に、2006~10 年に登録された男女30万6,473人(年齢40~ 73歳)を対象とした前向き住民コホート研究である。遺伝要因は、遺伝子多型のリスクスコアから、「高遺伝的リスク群」、「中遺伝的リスク群」、「低遺伝的リスク群」の3群に分類した。生活習慣要因として、 非喫煙、健康的な食生活、BMI<30kg/m2、定期的 な運動習慣の4つを健康的な生活習慣と定義し、「好ましい生活習慣(健康的習慣3~4個)」、「普通の生活習慣(健康的習慣2個)」、「好ましくない生活習慣 (健康的習慣0~1個)」の3群に分類した。 追跡期間中央値は7.1年で、この期間中に2,077 人が脳卒中を発症した(脳梗塞1,541人、脳内出血 287人、くも膜下出血249人)。「低遺伝的リスク群」に比べ、「中遺伝的リスク群」、「高遺伝的リスク群」では、脳卒中発症のハザード比(95%信頼区間 [CI])が、それぞれ1.20(1.08~1.34)、1.35(1.21 ~1.50)と上昇した。また、生活習慣との関連についても、「好ましい生活習慣」を有する人と比較 すると、「普通の生活習慣」、「好ましくない生活習慣」 を有する人においては、脳卒中発症のハザード比 (95% CI)は、それぞれ1.27(1.16~1.40)、1.66 (1.45~1.89)と有意に上昇した。さらに、遺伝要因と生活習慣を組み合わせたモデルでは、遺伝 的リスクが高い人、生活習慣が好ましくない人ともに脳卒中発症リスクは上昇し、両者の間に相加効果が認められた。生活習慣要因の中では、喫煙と肥満(BMI≧30kg/m2)が脳卒中発症リスクの上昇に寄与していた。 本研究の結果は、遺伝的リスクが高くても、生活習慣の改善が脳卒中の予防に有効である可能性を示唆しており、すべての人に対して健康的な生活習慣を遵守するよう促すことを支持するものである。 1.Malik R, et al. Nat Genet. 2018;50(4):524-537
妊娠中のβ-ブロッカー使用と先天性奇形のリスク。国際コホート研究
妊娠中のβ-ブロッカー使用と先天性奇形のリスク。国際コホート研究
β-Blocker Use in Pregnancy and the Risk for Congenital Malformations: An International Cohort Study Ann Intern Med 2018 Nov 20 ;169 (10 ):665 -673 . 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】β-ブロッカーは、妊娠中によく使用される降圧薬の一種である。 【目的】β-ブロッカーへの第1期曝露に関連する主要な先天奇形のリスクを推定する。 【デザイン】コホート研究 【設定】北欧5か国の健康登録および米国のメディケイドデータベース 【患者】高血圧の診断を受けた妊婦およびその子孫。 【測定】ベータブロッカーの第1期への曝露が評価された。アウトカムは、主要な先天性奇形、心奇形、唇裂または口蓋裂、中枢神経系(CNS)奇形とした。 【結果】北欧コホートでは高血圧性妊娠の女性3577人,米国コホートでは14900人のうち,それぞれ682人(19.1%),1668人(11.2%)が第1期にβブロッカーに曝露されていた。β遮断薬に関連するプールされた調整相対リスク(RR)および1000人曝露あたりのリスク差(RD1000)は、1.07(95%CI、0.89から1.30)および3.0(CI、-6.6から12.6)であった。6)、心奇形では1.12(CI, 0.83~1.51) と2.1(CI, -4.3~8.4) 、唇裂または口蓋裂では1.97(CI, 0.74~5.25) と1.0(CI, -0.9~3.0) であった。中枢神経系奇形については,調整済みRRは1.37(CI,0.58~3.25),RD1000は1.0(CI,-2.0~4.0)であった(米国のコホートデータのみによる) 【Limitation】解析対象が生児に限られており,曝露が調剤に基づいており,唇または口蓋裂と中枢神経系奇形はアウトカム数が少ないことが示された。 【結論】母親の妊娠第1期におけるβ遮断薬の使用は、測定された交絡因子とは無関係に、奇形全体や心奇形のリスクの大きな上昇と関連しないことが示唆された。 【Primary funding source】Eunice Kennedy Shriver National Institute of Child Health and Human DevelopmentおよびSöderström König Foundation。 第一人者の医師による解説 大規模データによる国際コホート研究ならではの重要な知見 犬塚 亮 東京大学医学部附属病院小児科講師(外来医長) MMJ.April 2019;15(2) 高血圧合併妊娠の頻度は全妊婦の0.5~5%とされるが(1)、加重型妊娠高血圧腎症・常位胎盤早期 剥離・早産・胎児発育不全の増加などのさまざまな周産期リスクと関連することが知られているため、 適切な降圧薬治療により高血圧の重症化を防止することが重要である。β遮断薬は、Ca拮抗薬やメチルドパと並び妊娠中に使用される頻度が高い降圧薬であるが、妊婦への投与に関する安全性のデータはまだ十分でない。 妊娠中のβ遮断薬投与の影響に関して、現在得られているヒトのデータの多くは観察研究によるもので、β遮断薬への曝露の有無でリスクを比較すると、高血圧などの背景疾患の有病率が異なるため、 β遮断薬の投与による影響と背景疾患の違いによる影響を区別することができない。特に著者らの先行研究において、高血圧の合併自体が先天奇形のリスク上昇に関係することが示されており、β遮断薬への曝露の影響を知るためには、「高血圧」と いう交絡因子を除く必要がある。 本研究は、高血圧合併妊婦 を対象にした 北欧・ 米国6カ国の国際コホート研究である。北欧では 3,577人中682人(19.1%)、米国では14,900 人中1,668人(11.2%)で妊娠第1期にβ遮断薬 が使用されていた。β遮断薬投与群と降圧薬無投与 群で傾向スコアを用いてマッチングして比較したところ、先天奇形全般、先天性心疾患、口唇口蓋裂、 中枢神経異常のいずれの発生率においても、有意差を認めなかった。 本研究では、大規模データを用いることで、高血圧合併妊娠のみを解析対象とすることができ、重 要な交絡因子である「高血圧」の有無に関して、2群 の背景をそろえることができている。また、傾向スコアを用いることで、β遮断薬を実際に使用された群と、使用されてもおかしくなかった(が実際に は投与されなかった)群を比較することで、その他の背景因子についても補正している。医療習慣の 異なる北欧と米国で同様の結果が得られたことも 研究結果の正しさを支持している。一方で、研究の限界として、収集されていない背景因子については補正ができていないこと、妊娠中のβ遮断薬の使用に関して臨床的により問題になる胎児発育不全に関する解析が行われていないこと、などが挙げられる。しかし、本研究の結果は倫理的にランダム化比較試験を行うことが困難である妊娠という状況において、β遮断薬の安全性を支持する非常に重要な知見である。 1. 妊娠高血圧症候群の診療指針 2015̶Best Practice Guide̶日本妊娠高血圧学会
血圧低下時の腎臓障害バイオマーカーと慢性腎臓病の発症。ケースコントロール研究
血圧低下時の腎臓障害バイオマーカーと慢性腎臓病の発症。ケースコントロール研究
Kidney Damage Biomarkers and Incident Chronic Kidney Disease During Blood Pressure Reduction: A Case-Control Study Ann Intern Med 2018 Nov 6 ;169 (9 ):610 -618 . 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】収縮期血圧(SBP)の集中的な低下における慢性腎臓病(CKD)の発症率の上昇が、内在性の腎障害を伴うかどうかは不明である。 【目的】SPRINT(Systolic Blood Pressure Intervention Trial)のSBP管理集中(120mmHg未満)群と標準(140mmHg未満)群のCKD発症例とマッチドコントロール例、および発症例間での腎障害バイオマーカーの変化を比較することである。 【デザイン】SPRINT内のネステッド症例対照研究 【設定】ベースラインで腎臓病のない成人高血圧患者 【参加者】試験のフォローアップ中にCKDを発症した症例参加者(n=162)(集中群128人、標準群34人)と、CKD発症のない対照者(n=162)で、年齢、性、人種、ベースラインの推定糸球体ろ過率、ランダム化群でマッチさせた 【測定法】腎障害の尿中バイオマーカー9項目をベースラインと1年後に測定した。線形混合効果モデルを用いて1年間のバイオマーカーの変化を推定した。 【結果】ベースライン時の尿中アルブミン、腎障害分子-1、単球性化学誘引蛋白-1の濃度が高いほど、CKD発症のオッズが高いことと有意に関連した(2倍当たりの調整オッズ比。それぞれ、1.50 [95% CI, 1.14 to 1.98], 1.51 [CI, 1.05 to 2.17], および 1.70 [CI, 1.13 to 2.56]).血圧介入1年後、集中治療群のCKD症例参加者は、マッチさせた対照参加者に比べ、アルブミン-クレアチニン比(ACR)、インターロイキン18、抗キチナーゼ3様タンパク質1(YKL-40)、ウロモジュリンが有意に減少していた。標準群の症例に比べ、集中治療群ではACR、β2-マイクログロブリン、α1-マイクログロブリン、YKL-40、ウロモジュリンの減少が有意に大きかった 【Limitation】バイオマーカーの測定はベースラインと1年のみであった。 【結論】SBPを集中的に低下させる設定におけるCKDの発症は、腎障害バイオマーカーのレベルの上昇よりもむしろ低下を伴っており、したがって本質的な障害よりも腎血流の良性変化を反映している可能性がある。 【Primary funding source】National Institute for Diabetes and Digestive and Kidney Diseases(国立糖尿病・消化器・腎疾患研究所)、Philippines, Inc. 第一人者の医師による解説 厳格降圧による心血管イベント予防の方向性の正しさを支持 後藤 淳郎 日本赤十字社医療センター腎臓内科/中目黒クリニック院長 MMJ.April 2019;15(2) 最近の高血圧ガイドラインに大きな影響を及ぼしているSPRINT研究の主な成果は標準降圧(収縮 期血圧 SBP<140mmHg)に比べ厳格降圧(SBP <120)により心血管イベント・死亡とも約25% 減少することを示したことである。一方、厳格降圧は慢性腎臓病(CKD)リスクを3倍ほど高めることが示唆されていた。その論文については筆者がすでにコメントしている(1)。 今回の論文は開始時のCKD非該当症例で厳格降圧によって観察されたeGFR減少が実際の腎障害 を反映しているのかどうかを開始時と1年後で腎障害マーカー 9種類の尿中濃度を測定することで検討した。開始後にCKDを発症した162人(厳格 降圧群128人、標準降圧群34人)と年齢、性、人種、 開始時 eGFR、降圧群をマッチさせたCKD非発症 例162人を対象とした症例対照研究である。腎障害マーカーは主に糸球体障害を示す尿アルブミン /クレアチニン(ACR)、尿細管障害を示すインター ロイキン -18・kidney injury molecule 1(KIM-1)・ 好中球ゼラチナーゼ結合性リポカリン(NGAL)・ monocyte chemoattractant protein-1(MCP1)、尿細管障害・修復を示す抗キチナーゼ 3様蛋 白(YKL-40)、近位尿細管機能異常を示す β2 -ミ クログロブリン(β2M)・α1 -ミクログロブリン (α1M)およびヘンレループ蛋白産生を示すウロモジュリンである。 結果、開始時のACR、KIM-1、MCP-1が高値なほどCKD発症リスクが高く、厳格降圧群のCKD発症例ではCKD非発症例に比べて開始後にACR、YKL40、ウロモジュリンの低下が著明であり、標準降圧群 のCKD発症例 に比べてACR、β2M、α1M、 YKL-40、ウロモジュリンの低下が明らかであった。 以上の結果は厳格降圧で腎障害マーカーは上昇せず、むしろ低下していることを明瞭に示しており、厳格降圧で実際に腎障害が生じたとは考え難い。 厳格降圧でのeGFR減少は主に全身血圧低下に伴って腎血流量が減少したためであると考えるのが妥当である。通常、腎循環自己調節能の範囲内の降圧であれば腎血流量も維持されるが、高血圧患者では自己調節能が上方にシフトしているので、血圧低下に伴う腎血流量減少も目立ちやすい。   CKD発症例では降圧群を問わず開始時 SBPが高く、厳格降圧群のCKD発症例では開始後の必要 な降圧薬数が多かった。また厳格降圧群では降圧度 が大きいほどCKD発症率が高かった(2)。これらも 降圧に伴う血行動態の変化がeGFR減少に大きく関与していることを支持する。 以上から高血圧治療では厳格降圧によって心血管イベント・全死亡を予防・阻止する方向性が正しいことが支持されたと言える。 1. MMJ 2018;14(2):54-55. 2. Magriço R, et al. Clin J Am Soc Nephrol. 2018;13(1):73-80.
心房細動に対する抗凝固療法の臨床的純益に及ぼす脳卒中発症率のばらつきの影響
心房細動に対する抗凝固療法の臨床的純益に及ぼす脳卒中発症率のばらつきの影響
Effect of Variation in Published Stroke Rates on the Net Clinical Benefit of Anticoagulation for Atrial Fibrillation Ann Intern Med. 2018 Oct 16 ;169 (8 ):517 -527 . 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】抗凝固療法を受けていない非弁膜症性心房細動(AF)患者の脳卒中発症率は、発表された研究によって大きく異なり、その結果、AFにおける抗凝固療法の正味の臨床的利益に与える影響は不明である。 【目的】発表されたAFの脳卒中発症率のばらつきが、抗凝固療法の正味の臨床的利益に与える影響を明らかにする。ワルファリンをベースケースとし,非ビタミンK拮抗薬の経口抗凝固薬(NOAC)を二次解析でモデル化した。 【設定】地域在住の成人。【対象】心房細動を発症した成人33 434人。 【測定】質調整生命年(QALYs)。 【結果】33 434人のうち,CHA2DS2-VASc(うっ血性心不全,高血圧,年齢,糖尿病,脳卒中,血管疾患)のスコアが2以上であったのは27 179人であった。これらの患者に対するワルファリンによる抗凝固療法の人口利益は,ATRIA(AnTicoagulation and Risk Factors In Atrial Fibrillation)試験の脳卒中発生率を用いた場合に最も少なく,Danish National Patient Registryの脳卒中発生率を用いた場合に最も多かった(6290QALYs[95%CI,±2.3%] vs. 24 110QALYs[CI,±1.9%],P<0.001)。抗凝固療法の最適なCHA2DS2-VAScスコアの閾値は、ATRIAの脳卒中率を用いて3以上、スウェーデンのAFコホート研究の脳卒中率を用いて2以上、SPORTIF(Stroke Prevention using ORal Thrombin Inhibitor in atrial Fibrillation)研究の脳卒中率を用いて1以上、デンマークのNational Patient Registryの脳卒中率を用いて0以上であった。NOACによる頭蓋内出血の割合が低いことを考慮すると、CHA2DS2-VAScスコアの最適な閾値は減少したが、これらの閾値はまだ大きく異なっていた。 【Limitation】測定された利益は他の集団に一般化しない可能性がある。 【結論】抗凝固療法を受けていない患者の心房細動による脳卒中発生率の公表値のばらつきは、抗凝固療法の正味の臨床的利益に何倍ものばらつきをもたらしている。ガイドラインは、抗凝固療法を推奨するための現在の脳卒中リスクスコアの閾値の不確実性をよりよく反映すべきである。[主要な資金源]なし。 第一人者の医師による解説 抗凝固療法のNCBを勘案したスコアの日本版推奨閾値の検討必要 矢坂 正弘 国立病院機構九州医療センター脳血管センター部長 MMJ.April 2019;15(2) 抗凝固療法未施行の非弁膜症性心房細動(AF)患者における公表されている脳卒中発症率は研究ごとに大きく異なるが、その変動が抗凝固療法のnet clinical benefit(NCB)に及ぼす影響は明らかにされていない。そこで、著者らは代表的な4つの研究(ATRIA、SPORTIF、Swedish AFコホート研究、 Danish National Patient Registry)から抗凝固療法未施行の非弁膜症性 AF患者における公表されているCHA2DS2 -VAScスコアごとの脳梗塞発症率を調べ、既報の脳梗塞、頭蓋内出血、頭蓋外大出血の発症率などを用い、マルコフモデルを作成し、 質調整生存年(QALY)を指標としたNCBをAF患者33,434人で算出した。4研究間でQALYが異なるか否かを明らかにするとともに、抗凝固療法で最大の益が得られるCHA2DS2 -VAScスコア閾値を求めた(1)。 その結果、CHA2 DS2 -VAScスコア 2以上に 27,179人が該当し、ワルファリンを用いた抗凝固療法のQALYは、ATRIAデータを用いた場合が最も小さく(6,290 QALY;95% CI, ±2.3%)、 Danish National Patient Registryデータを用いた場合が最も大きく(24,110 QALY;95% CI, ±1.9%)、両者で約4倍の差があった(P< 0.001)。ワルファリンによる抗凝固療法のため最適 CHA2DS2 -VAScスコア閾値は、ATRIAを用いると3以上、Swedish AFコホートでは2以上、 SPORTIFで は1以上、Danish National Patient Registryで は0以上であった。直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)を 用いた抗凝固療法 のQALYは ATRIAデータを用いた場合が最も小さく(7,080 QALY;95 % CI, ±1.5 %)、Danish National Patient Registryデータを用いた場合が最も大きく(24,770 QALY;95% CI, ±2.0%)、両者 で約4倍の差があった。抗凝固療法のための最適 CHA2DS2 -VAScスコア閾値は、ATRIAを用いる と2以上、Swedish AFコホートやSPORTIFでは 1以上、Danish National Patient Registryでは0 以上となった。著者らは、抗凝固療法未施行の非弁膜症性 AF患者における脳卒中発症率の変動は、抗凝固療法のNCBに影響を及ぼすので、ガイドラインではこの脳梗塞発症率の不確実性をリスク閾値の設定に反映させるべきであると結んでいる。 日本ではAF有病率が米国 の3分の2程度(2)で、 同等のリスクスコアでも脳梗塞発症率は低いと報告されている(3)ことから、日本でもワルファリンやDOACのNCBを勘案したCHADS2スコアや CHA2DS2 -VAScスコアの至適推奨閾値の検討が望まれる。 1. Shah SJ, et al. Ann Intern Med. 2018;169(8):517-527. 2. 日本循環器学会「心房細動治療(薬物)ガイドライン(2013 年改訂版)」 委員会:http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2013_inoue_h.pdf(2019 年 3 月 4 日閲覧) 3. Suzuki S, et al. Circ J. 2015;79(2):432-438.
2017年米国心臓病学会/米国心臓協会血圧ガイドラインを用いた若年成人における血圧分類とその後の心血管イベントとの関連性
2017年米国心臓病学会/米国心臓協会血圧ガイドラインを用いた若年成人における血圧分類とその後の心血管イベントとの関連性
Association of Blood Pressure Classification in Young Adults Using the 2017 American College of Cardiology/American Heart Association Blood Pressure Guideline With Cardiovascular Events Later in Life JAMA 2018 Nov 6 ;320 (17 ):1774 -1782. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【重要】若年成人期の血圧(BP)レベルと中年期までの心血管疾患(CVD)イベントとの関連についてはほとんど知られていない。 【目的】2017年米国心臓病学会(ACC)/米国心臓協会(AHA)BPガイドラインで定義された高血圧を40歳前に発症した若年成人は、正常血圧維持者と比較してCVDイベントリスクが高くなるかどうかを評価することである。 【デザイン、設定および参加者】1985年3月に開始された前向きコホート研究Coronary Artery Risk Development in Young Adults(CARDIA)研究において解析を実施した。CARDIAでは,米国の4つのフィールドセンター(アラバマ州バーミンガム,イリノイ州シカゴ,ミネソタ州ミネアポリス,カリフォルニア州オークランド)から18~30歳のアフリカ系米国人と白人5115人が登録された。アウトカムは2015年8月まで入手可能であった。 【曝露】初診から40歳以降に最も近い検査までに測定された最高血圧を用いて,各参加者を正常血圧(未治療収縮期血圧[SBP]<120mmHg,拡張期血圧[DBP]<80mmHg:n=2574)に分類した。)BP上昇(未治療のSBP 120-129 mm HgおよびDBP <80 mm Hg;n = 445)、ステージ1高血圧(未治療のSBP 130-139 mm HgまたはDBP 80-89 mm Hg;n = 1194)、またはステージ2高血圧(SBP ≥140 mm Hg, DBP≥90 mm Hg, または降圧剤を服用;n = 638)であった。 【主要評および測定法】CVDイベント:致死性および非致死性の冠動脈性心疾患(CHD),心不全,脳卒中,一過性脳虚血発作,末梢動脈疾患(PAD)への介入。 【結果】最終コホートには成人4851人(アウトカム追跡開始時の平均年齢,35.7歳[SD,3.6];女性2657人[55%];アフリカ系アメリカ人2441人[50%];降圧剤服用206人[4%])を含める。中央値18.8年の追跡期間中に,228件のCVDイベントが発生した(CHD,109件,脳卒中,63件,心不全,48件,PAD,8件)。正常血圧,血圧上昇,ステージ1高血圧,ステージ2高血圧のCVD発生率は,それぞれ1000人年当たり1.37(95%CI,1.07-1.75),2.74(95%CI,1.78-4.20),3.15(95%CI, 2.47-4.02),8.04(95% CI,6.45-10.03 )であった。多変量調整後,BP上昇,ステージ1高血圧,ステージ2高血圧のCVDイベントのハザード比は,正常BPに対してそれぞれ1.67(95%CI,1.01-2.77),1.75(95%CI,1.22-2.53)および3.49(95%CI,2.42-5.05)であった。 【結論と関連性】若年成人において,2017年米国心臓病学会/米国心臓協会(ACC/AHA)ガイドラインの血圧分類で定義された40歳前の血圧上昇,ステージ1高血圧,ステージ2高血圧の者は,40歳前の血圧が正常の者と比較してその後の心血管疾患イベントリスクが有意に高かった。ACC/AHA血圧分類システムは、心血管疾患イベントのリスクが高い若年成人を特定するのに役立つ可能性があります。 第一人者の医師による解説 若年成人の血圧異常への介入と、さらに若い年齢層での研究が必要 粟津 緑 慶應義塾大学医学部小児科非常勤講師 MMJ.April 2019;15(2) 2017年に発表された米国高血圧ガイドラインは、従来の高血圧前症(prehypertension、収縮期血圧 120 ~ 139 /拡張期血圧 80 ~ 89 mmHg) という分類を廃止し、120~129/80mmHg未満を 血圧上昇(elevated blood pressure)、130 ~ 139 /80 ~ 89 mmHgをstage 1 高血圧、 140/90mmHg以上をstage 2高血圧とした。 高血圧の基準が下がったため若年成人の患者数は 2~3倍に増加した。しかしすぐ薬物療法を行うのではなく、まず生活習慣の改善を指導し、その後も改善しなければ、心血管疾患の既往があるか、10 年間の動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)リスクスコアが10%以上である場合に薬物療法を行うよう推奨されている。これにより降圧薬が必要な患者数はわずかな増加にとどまる。一方、ASCVDリスクスコアは40~79歳を対象に設定されたものであるため、若年成人(40歳未満)の多くはリスクが低く薬物療法の適応にならないという問題がある。 本研究は登録時18~30歳の米国人を対象としたCARDIA研究データに2017年基準を適用し検討した。血圧上昇群およびstage 1高血圧群の心 血管疾患発症リスクは 正常血圧群(120mmHg未 満 /80mmHg未満)に比べて有意にそれぞれ1.67、 1.75倍高かった。 本研究と同様の研究が韓国でも行われ、血圧異常者(血圧上昇と高血圧)の正常血圧者に対するハザード比は米国と同様に有意に上昇していた(1)。中年・老年層における同様の研究は多いがこの2研究は若年成人を対象とした初めての研究である。 両研究に共通した点がいくつかある。まず対象の半数以上が血圧異常に分類された。この理由として血圧測定法が適切でなかった可能性が考えられる。信頼性のある24時間血圧測定は行われていない。若年者では高血圧のレッテルを貼る前に真の高血圧であるか否かを確認することがより望ましい。また血圧上昇群とstage 1高血圧群は正常血圧群に比べBMIが大きく、糖・脂質代謝異常合併も多かった。したがってこれらが心血管疾患発症へ関与した可能性もある。若年血圧異常者には生活習慣の改善指導、糖・脂質代謝異常の是正も重要である。 今後、以上の点を考慮した介入研究が必要である。 また本研究の対象は18~30歳であるが、結果を外挿すると小児・思春期の軽度血圧上昇が将来の心血管リスクになる可能性もある。血圧はトラッキングするからである。小児の血圧基準はパーセ ンタイル値で定義されている。心血管疾患との関係が不明であるため便宜的に定義しているのであるが、本研究を発展させ、臓器障害マーカー(左室 肥大など)を盛り込みつつ成人のように心血管リスクとなる血圧値を設定することが望まれる。 1. Son JS1, et al. JAMA. 2018 Nov 6;320(17):1783-1792.
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