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回復した拡張型心筋症患者における心不全の薬物療法の中止(TRED-HF):非盲検試験、パイロット試験、無作為化試験。
回復した拡張型心筋症患者における心不全の薬物療法の中止(TRED-HF):非盲検試験、パイロット試験、無作為化試験。
Withdrawal of pharmacological treatment for heart failure in patients with recovered dilated cardiomyopathy (TRED-HF): an open-label, pilot, randomised trial Lancet 2019 Jan 5 ;393 (10166 ):61 -73 . 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】 症状と心機能が回復した拡張型心筋症患者は、しばしば薬剤を中止してよいかどうかを尋ねる。このような状況での治療中止の安全性は不明である。 【方法】拡張型心筋症の既往があり、現在は無症状で、左室駆出率(LVEF)が40%未満から50%以上に改善し、左室拡張末期容積(LVEDV)が正常化し、N末端プロB型ナトリウム利尿ペプチド(NTプロBNP)濃度が250ng/L未満である患者において、心不全薬の段階的中止の影響を調べるためにオープンラベル、パイロット、ランダム化試験を実施した。英国内の病院のネットワークから患者を募集し、1つのセンター(ロイヤルブロンプトン・アンド・ハレフィールドNHS財団トラスト、英国ロンドン)で評価を行い、段階的な治療中止または治療継続に1対1の割合で無作為に割り付けた。6ヵ月後、治療継続群の患者さんは、同じ方法で治療が中止されました。主要評価項目は、6ヶ月以内の拡張型心筋症の再発とし、LVEFが10%以上低下し50%未満となる、LVEDVが10%以上上昇し正常範囲より高くなる、NT-pro-BNP濃度が2倍上昇し400ng/L以上、または心不全の臨床症状で定義し、その時点で治療を再確立させた。主要解析はintention to treat。本試験はClinicalTrials. govに登録されており、番号はNCT02859311。 【FINDINGS】2016年4月21日から2017年8月22日の間に、51人の患者が登録された。25名が治療中止群に、26名が治療継続群に無作為に割り付けられた。最初の6カ月間で、治療中止群に無作為に割り付けられた11人(44%)が主要評価項目である再発を示したのに対し、治療継続群に割り付けられた患者は1人もいなかった(カプラン・マイヤー推定イベント率45-7%[95%CI 28-5-67-2];p=0-0001 )。6ヵ月後、最初に治療継続と割り付けられた患者26人のうち25人(96%)が治療中止を試みた。その後の6ヵ月間に、9人の患者が主要評価項目である再発を示した(Kaplan-Meier推定イベント発生率36-0%[95%CI 20-6-57-8])。死亡はいずれの群でも報告されず,治療中止群では3つの重篤な有害事象が報告された:非心臓性胸痛による入院,敗血症,待機的手術。 【解釈】拡張型心筋症から回復したとみなされた患者の多くは,治療中止後に再発する。再発の確実な予測因子が明らかになるまでは、治療を無期限に継続すべきである。 資金提供】英国心臓財団、Alexander Jansons財団、ロイヤルブロンプトン病院とインペリアルカレッジ・ロンドン、インペリアルカレッジ生物医学研究センター、Wellcome Trust、およびRosetrees Trust。 第一人者の医師による解説 心機能の改善 回復か軽快かを鑑別する臨床指標の抽出を期待 猪又 孝元 北里大学北里研究所病院循環器内科教授 MMJ.June 2019;15(3) 今から遡ること30年ほど前、私が医学生だったころ、心筋細胞は再生能力がないから、心不全を起こす悪くなった心臓は決して良くならない、そう教わった。しかし、医師になり、循環器診療へと専門の道を進めたころ、その教えは必ずしも正しくないことを知った。致死の病とみなされていた拡張型心筋症による重症心不全患者に、当時禁忌として扱われていたβ遮断薬を導入することで、心機能が劇的に改善する経験をするようになったからである。現在、左室逆リモデリングと呼ばれるこの現象は、後に加わった心臓再同期療法とともに、なかでも拡張型心筋症で容易に観察できる。当施設からの報告でも、β遮断薬を含む至適薬物療法のみで、約半数の拡張型心筋症に左室逆リモデリングがもたらされる(1)。今や若い医師たちにとって拡張型心筋症は、安全パイとすら思われている節すらある。 喉元過ぎれば熱さを忘れる。治療が奏効し、症状も消え失せ、心機能の劇的改善のデータに歓喜し、その状態が何年も持続すると、「こんなに元気なのに、いったいいつまでこのクスリを飲み続ける必要があるのか」と思うのが患者心理である。一方、服薬の自己中断により、改善した心機能が再度悪化をきたす拡張型心筋症を経験した医師は少なくなく、原則として「一生飲み続ける」ことを患者に勧めている。しかし、系統立ててこれを証明した報告 は皆無であった。 本研究では、51人の拡張型心筋症患者を登録し、 β遮断薬などの心不全治療を継続する群または漸減後に中止する群にランダム化し、服薬中止群の4 割に及ぶ患者において半年間で心機能が有意に悪化する現象を見いだした。より長期に観察すれば、死亡や心不全入院などのイベント発生も観察されたであろう。これまで多くの医師が経験則で患者指導していた内容は、パイロット研究とはいえ正しいことがはじめて実証された。 拡張型心筋症において心筋生検や心臓 MRIで心筋の障害や線維化が高度と評価されても、β遮断薬の導入によってときに心機能データは正常値すらたたき出す(2)。ただし、心筋が傷んでいることは事実である。recovery(回復)とremission(軽快)とはときに混同されがちだが、左室逆リモデリングはあくまでremissionに過ぎないと解釈すべきである(3)。一方、自然回復のような臨床経過を辿る拡張型心筋症も経験され、このような症例では薬物療法の終了が期待できる。同じく心機能が改善した症例間で、recoveryとremissionを鑑別する臨床指標の抽出が望まれる。 1. Ikeda Y, et al. Heart Vessels. 2016;31(4):545-554. 2. Ishii S, et al. Heart Vessels. 2016;31(12):1960-1968. 3. Nabeta T, et al. Heart Vessels. 2019;34(1):95-103.
頭部CTスキャンにおける重要な所見の検出のためのディープラーニングアルゴリズム:レトロスペクティブスタディ。
頭部CTスキャンにおける重要な所見の検出のためのディープラーニングアルゴリズム:レトロスペクティブスタディ。
Deep learning algorithms for detection of critical findings in head CT scans: a retrospective study Lancet 2018 Dec 1 ;392 (10162):2388 -2396. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】非造影頭部CTスキャンは、頭部外傷や脳卒中の症状を持つ患者の初期画像診断の現在の標準である。我々は,これらのスキャンから以下の重要な所見を自動検出するための一連の深層学習アルゴリズムの開発と検証を目的とした:頭蓋内出血とその種類(すなわち,胸膜内,脳室内,硬膜下,硬膜外,くも膜下),頭蓋底骨折,正中線移動,および腫瘤効果。 【方法】2011年1月1日から2017年6月1日の間に,インドの約20の施設から,頭部CTスキャン313件とその臨床報告書を含むデータセットをレトロスペクティブに収集した。このデータセットのランダムに選択された部分(Qure25kデータセット)を検証に使用し、残りはアルゴリズムを開発するために使用された。追加の検証用データセット(CQ500データセット)は、開発およびQure25kデータセットに使用した施設とは異なる施設から2つのバッチで収集した。術後スキャンと7歳未満の患者のスキャンは除外した。Qure25k と CQ500 のデータセットでは,それぞれオリジナルの臨床放射線報告書と 3 人の独立した放射線科医のコンセンサスをゴールドスタンダードとみなした.アルゴリズムの評価には,主に受信者動作特性曲線下面積(AUC)が用いられた。Qure25kデータセットにおいて,アルゴリズムは頭蓋内出血の検出で0-92(95%CI 0-91-0-93)のAUCを達成した(胸膜内は0-90 [0-89-0-91], 脳室内は0-96 [0-94-0-97], 硬膜下は0-92 [0-90-0-93], 硬膜外は0-93 [0-91-0-95] そして くも膜下は0-90 [0-89-0-92]).CQ500データセットでは,頭蓋内出血のAUCは0-94(0-92-0-97)であった(それぞれ,0-95 [0-93-0-98], 0-93 [0-87-1-00], 0-95 [0-91-0-99], 0-97 [0-91-1-00], 0-96 [0-92-0-99]).Qure25kデータセットにおけるAUCは、頭蓋底骨折が0-92(0-91-0-94)、正中線移動が0-93(0-91-0-94)、mass effectが0-86(0-85-0-87)、CQ500データセットにおけるAUCはそれぞれ0-96(0-92-1-00), 0-97 (0-94-1-00) および 0-92(0-89-0-95)であった。 【解釈】我々の結果は、深層学習アルゴリズムが緊急の注意を要する頭部CTスキャンの異常を正確に特定できることを示しており、これらのアルゴリズムを使用してトリアージプロセスを自動化する可能性を開いている。 【FUNDING】Qure .ai . 第一人者の医師による解説 頭部外傷や脳卒中の自動トリアージに道を開く研究成果 井上 優介 北里大学医学部放射線科学画像診断学主任教授 MMJ.June 2019;15(3) 人工知能(AI)が社会のさまざまな分野で注目を集めており、画像診断を含めた医療分野も例外でない。近年のAIブームを牽引しているのは深層学習であり、本研究では、頭部単純 CTから危機的所見を検出する深層学習アルゴリズムの開発と評価を後ろ向きに行っている。このアルゴリズムは頭蓋内出血、頭蓋冠骨折、中心構造偏位、占拠性効果 (mass effect)の有無を判定し、頭蓋内出血についてはそのタイプを脳実質内、脳室内、硬膜下、硬 膜外、くも膜下に分類するものである。インドの約 20施設から313,318件の頭部 CTとその画像診断報告書を収集し、この中から290,055件をア ルゴリズム開発に、21,095件を性能評価に使用した。さらに、別の6施設から集めた491検査で も性能評価を行った。検討の結果、いずれの判定項 目についても良好な診断能が示され、本アルゴリズムが頭部 CTにおける急性所見検出の補助技術として期待されると述べられている。 深層学習アルゴリズムの開発では質の高い大量の教師データの集積が鍵になる。本研究では多数の頭部 CTとその診断結果を教師データとしてアルゴリズムを開発し、有効性も多数例で示している。 CT画像は装置や使用施設によって異なり、さまざまな施設からデータを集めていることも本研究の長所である。 診断結果については、6施設の491検査では3人の放射線科医が合議で判定した結果を ゴールドスタンダードとしているが、その他の検査では日常臨床で作成された画像診断報告書を用い、報告書の記載から注目所見の有無を自動判定してスタンダードとしている。効率的なスタンダード決定によって大量のデータの使用を実現しており、 今後の深層学習アルゴリズム研究にも参考になると思われる。 しかし、忙しい臨床の中で1人が作成した報告書からスタンダードを決定することには、 見落としや過剰診断の可能性、主所見だけを記載して副所見が十分記載されない可能性による限界がある。また、画像診断報告書は臨床情報や過去の画像検査結果なども踏まえて作成されていることも考慮する必要がある。報告書は必ずしも画像情報 を忠実に反映したものではない。 AI技術を実用化するには、臨床状況の中での位置付けを具体化することが望まれる。この論文では、開発したアルゴリズムを頭部外傷や脳卒中患者の自動トリアージに使用して放射線科医の業務効率を改善することを提案しており、現実的で有益な役割と考えられる。一方、トリアージ結果が過剰に信頼されて誤診につながる危険性も指摘しており、 自動診断技術全般に適用される戒めとして尊重したい。
再発寛解型多発性硬化症患者における非血小板造血幹細胞移植と疾患修飾療法継続の疾患進行への影響。無作為化臨床試験。
再発寛解型多発性硬化症患者における非血小板造血幹細胞移植と疾患修飾療法継続の疾患進行への影響。無作為化臨床試験。
Effect of Nonmyeloablative Hematopoietic Stem Cell Transplantation vs Continued Disease-Modifying Therapy on Disease Progression in Patients With Relapsing-Remitting Multiple Sclerosis: A Randomized Clinical Trial JAMA 2019 Jan 15 ;321 (2):165 -174. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【重要性】造血幹細胞移植(HSCT)は、再発型多発性硬化症(MS)における進行性障害を遅らせる、あるいは予防するために有用なアプローチとなりうる。 【目的】非ミエロ切除型HSCTと疾患修飾療法(DMT)の疾患進行への影響を比較する。 【デザイン、設定および参加者】2005年9月20日から2016年7月7日の間に、米国、欧州、南米の4施設で、再発寛解型MSで、前年度にDMTを受けている間に2回以上再発し、拡張障害状態スケール(EDSS:スコア範囲、0~10[10=最悪の神経学的障害])のスコアが2.0~6.0の患者計110名を無作為に割り付けた。最終フォローアップは2018年1月、データベースロックは2018年2月に行われた。 【介入】患者は、シクロホスファミド(200mg/kg)および抗胸腺細胞グロブリン(6mg/kg)と共に造血幹細胞移植を受けるか(n=55)、より有効性の高いDMTまたは前年中に服用したDMTと異なるクラスのDMTを受けるかに無作為に分けられた(n=55) 【主なアウトカムと測定】主要エンドポイントは疾患進行(少なくとも1年後にEDSSスコア上昇が1.0と定義)とし、EDSSスコア上昇は、1.0とした。 【結果】無作為化された110例(女性73例[66%],平均年齢36[SD,8.6]歳)のうち,103例が試験に残り,98例が1年後,23例が5年間毎年評価された(追跡期間中央値2年,平均値2.8年)。疾患の進行は造血幹細胞移植群で3例、DMT群で34例に認められた。進行までの期間の中央値は、HSCT群ではイベントが少なすぎたため算出できなかった。DMT群では24ヵ月(四分位範囲、18~48ヵ月)だった(ハザード比、0.07;95%CI、0.02~0.24;P < 0.001)。最初の1年間で、平均EDSSスコアは、造血幹細胞移植群で3.38から2.36に減少(改善)し、DMT群で3.31から3.98に増加(悪化)した(群間平均差、-1.7;95%CI、-2.03から-1.29;P < 0.001)。死亡例はなく、造血幹細胞移植を受けた患者には非造血グレード4の毒性(心筋梗塞、敗血症、その他の生命を脅かす障害または可能性のある事象など)は認められなかった。 【結論と関連性】再発型MS患者のこの予備研究では、DMTと比較して非血小板造血幹細胞移植は疾患進行までの時間を延長する結果となった。これらの知見を再現し、長期的な転帰と安全性を評価するためにさらなる研究が必要である。 【臨床試験登録】ClinicalTrials. gov Identifier:NCT00273364。 第一人者の医師による解説 長期での疾患活動性の再燃 今後の検証課題 吉良 潤一 九州大学大学院医学研究院神経内科学教授 MMJ.June 2019;15(3) 多発性硬化症(MS)の約90%は、再発寛解型で発症し、その後再発と関係なく徐々に障害が進行する2次進行型に移行する。残りの10%程度は、 最初から再発がなく緩徐に障害が増悪する1次進行型を呈する。再発寛解型 MSに対しては、疾患修飾薬の進歩がめざましい。これらは、再発寛解型の再発を減らし障害の進行を遅らせるが、課題としてnon-responderが一定の割合でどの薬剤でも存在すること、進行型にはほとんど効果がないことが挙げられる。最近、2次進行型にシポニモド、1次進行型にオクレリズマブ(抗 CD20抗体)が部分的に有効であることが報告され注目を集めた。しかし、既存の疾患修飾薬では疾患活動性の高いMSや進 行型 MSの治療効果が限定的である状況は続いている。そこで、骨髄非破壊的造血幹細胞移植(HSCT) が非対照試験で試みられ、MSに対する有用性が報告されている(1)。 本研究は、HSCTの治療効果を、既存の疾患修飾薬と無作為化臨床試験で比較した点が大きな特徴である。先行する1年間に2回以上の臨床再発または1回の臨床再発とそれとは異なる時期に造影病巣を認めた再発寛解型 MS患者110人を、 55人ずつHSCTまたは各種疾患修飾薬の継続に無作為に割り付けた。主要評価項目は、Expanded Disability Status Scale(EDSS)でみた1段階以上(EDSSが6を超える患者では0.5以上)の障害進行を示すまでの期間である。中央値2年(平均2.8 年)の観察期間で障害が進行した患者は、HSCT群で3人、疾患修飾薬群では34人だった。障害進行までの期間は、HSCT群が疾患修飾薬群に比べて有 意に長かった(P<0.001)。1年後の平均 EDSS はHSCT群では3.38から2.36に改善したが、疾患修飾薬群では3.31から3.98に悪化し、この差は有意だった(P<0.001)。副次的評価項目である1年間で再発を起こした患者の割合も、HSCT群 2%に対して疾患修飾薬群69%と有意に低かった (P<0.001)。死亡や有害事象(4度)の重大な副作用は両群ともみられなかった。 本研究はエントリーした患者数が少ないにもかかわらず、疾患活動性の高いMSに対してHSCTが 既存の疾患修飾薬に勝る治療効果を示すことを、無作為化試験により初めて明らかにした点で意義が大きい。しかし、1年後には疾患修飾薬からHSCT への変更が認められていたため長期の比較ができていない点、疾患修飾薬にアレムツズマブやオクレリズマブなどの強力な治療薬が含まれていない点、障害進行の評価では盲検性が保たれていたものの再発の評価は盲検でなかった点などが課題である。特に長期でみた場合に疾患活動性が再燃しないかという点の検証は今後に残されている。 1. Burt RK, et al. JAMA. 2015;313(3):275-284.
英国大都市圏における急性期脳卒中サービスの集中化の影響と持続可能性:病院エピソード統計と脳卒中全国監査データのレトロスペクティブ分析。
英国大都市圏における急性期脳卒中サービスの集中化の影響と持続可能性:病院エピソード統計と脳卒中全国監査データのレトロスペクティブ分析。
Impact and sustainability of centralising acute stroke services in English metropolitan areas: retrospective analysis of hospital episode statistics and stroke national audit data BMJ 2019 Jan 23 ;364 :l1 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【目的】2015年のグレーターマンチェスターにおける急性期脳卒中サービスのさらなる集中化がアウトカムの変化と関連しているか、また2010年のロンドンにおける急性期脳卒中サービスの集中化の効果が持続しているかを調査する。 【デザイン】国家統計局による死亡率データとリンクしたHospital Episode Statistics(HES)データベースからの患者レベルのデータ、およびSentinel Stroke National Audit Programme(SSNAP)によるレトロスペクティブ解析。 【設定】英国グレーターマンチェスターとロンドンの急性期脳卒中サービス 【参加者】2008年1月から2016年3月に入院した都市部在住のHESの509 182人の脳卒中患者,2013年4月から2016年3月のSSNAPの218 120人の脳卒中患者。 【INTERVENTIONS】急性期脳卒中ケアのハブ&スポークモデル。 【MAIN OUTCOME MEASURES】入院後90日の死亡率、急性期入院期間、超急性期脳卒中ユニットでの治療、エビデンスに基づく臨床介入19例。 【結果】グレーターマンチェスターでは、90日時点のリスク調整死亡率が全体的に低下していることが境界線上のエビデンスによって示唆された;死亡率の有意な低下は、超急性期脳卒中ユニットで治療を受けた患者で見られ(差分-1.8%(95%信頼区間-3.4~-0.2))、年間死亡数が69件少ないことが示唆された。リスク調整後の急性期入院日数も有意に減少し(-1.5(-2.5~-0.4)日,P<0.01),年間入院日数が6750日減少した.超急性期脳卒中病棟で治療を受けている患者数は、2010-12年の39%から2015/16年には86%に増加しました。ロンドンでは、90日死亡率は維持され(P>0.05)、在院日数は減少し(P<0.01)、90%以上の患者が超急性期脳卒中ユニットで治療された。 【結論】脳卒中急性期医療の集中型モデルは、すべての脳卒中患者が超急性期医療を受けることで、死亡率と急性期入院期間を減少させ、エビデンスに基づく臨床的介入の提供を改善することが可能である。効果は長期にわたって持続することができる。 第一人者の医師による解説 英国は診療体制全体の改革を検討 日本では脳卒中・循環器病対策基本法が成立 鈴木 亨尚 /木村 和美(教授) 日本医科大学大学院医学研究科神経内科学部門 MMJ.June 2019;15(3) 急性期脳卒中診療体制の整備は死亡率と入院期間を改善し、その効果は長期にわたって持続することが英国の研究で示された。 脳卒中は高い死亡率や機能障害を起こす疾患で ある。急性期脳卒中診療体制を整備することは迅速な診断や治療、再発予防、リハビリテーションを充実させ、死亡率や臨床転帰を改善することが知られている(1)。しかし、その効果が長期的に持続するかを評価した研究はなかった。 本研究では、英国のグレーター・マンチェスターとロンドンでの急性期脳卒中診療体制の運用成績が改めて調査された。対象は、2008年1月1日~ 16年3月31日に英国の病院統計であるHospital Episode Statisticsに脳梗塞、脳出血、病型不明の脳卒中と病名が登録された509,182人である。 グレーター・マンチェスターでは2015年に対象が発症4時間以内の脳卒中患者から全脳卒中患者に拡大した。以前から全脳卒中患者が対象であったロンドンと合わせて入院後90日の死亡率や入院期間、治療内容(画像検査、リハビリテーション)、 他地域との差が検討された。 グレーター・マンチェスターでは対象患者の拡大により集中治療室で治療される患者の割合は 2010~12年には39%であったが、2015~16 年には86%まで上昇した。集中治療室で治療された患者において、90日死亡率が1.8%低下し、年間 69人の死亡が回避されたことがわかった。また、入院期間は-1.5日と有意に短縮しており、治療内容も2015年以後ではより多くの症例で早期の介入が行われた。これらの変化は他地域よりも顕著であった。ロンドンでは以前と同様に90%以上の患者が集中治療室で治療されており、90日死亡率は前回と同様であったが、入院期間はさらに短縮した。本研究から急性期脳卒中診療体制の整備は、脳卒中患者の死亡率を低下させ、入院期間を短縮し、患者は質の高い治療を受けることができ、その効果は長期にわたって持続することが示された。また、急性期脳卒中診療体制の対象は全脳卒中患者であることが望ましいこともわかった。 本研究の結果は全患者を対象とした急性期脳卒中診療体制の整備を支持するものである。英国では本研究の結果を踏まえて、地方を含めた複数の地域で急性期脳卒中診療体制全体の改革が検討されている。日本では2018年に「健康寿命の延伸等を図るための脳卒中、心臓病その他の循環器病に係る対策に関する基本法(脳卒中・循環器病対策基本法)」が成立した。今後、日本でも急性期脳卒中診療体制の整備が進むことを期待したい。 1. Bray BD, et al. BMJ. 2013;346:f2827.
急性期脳卒中後の機能的転帰に対するfluoxetineの効果(FOCUS):実用的な二重盲検無作為化対照試験。
急性期脳卒中後の機能的転帰に対するfluoxetineの効果(FOCUS):実用的な二重盲検無作為化対照試験。
Effects of fluoxetine on functional outcomes after acute stroke (FOCUS): a pragmatic, double-blind, randomised, controlled trial Lancet 2019 Jan 19 ;393 (10168):265 -274 . 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】小規模試験の結果から、フルオキセチンが脳卒中後の機能的転帰を改善する可能性があることが示された。FOCUS試験は、これらの効果を正確に推定することを目的とした試験である。対象は、18歳以上で、臨床的に脳卒中と診断され、発症後2日から15日の間に登録され無作為に割り付けられた、局所神経障害がある患者であった。患者はfluoxetine 20mgまたはマッチングプラセボを1日1回6ヵ月間、Webベースのシステムで最小化アルゴリズムを用いて無作為に割り付けられた。主要評価項目は,6 ヵ月後の修正 Rankin スケール(mRS)で測定された機能状態であった.患者,介護者,医療スタッフ,および試験チームは治療割り付けをマスクされた.機能状態は,無作為化後 6 ヵ月および 12 ヵ月で評価された.患者さんは、治療割り付けに従って分析されました。本試験はISRCTN登録番号ISRCTN83290762に登録されている。 【所見】2012年9月10日から2017年3月31日の間に、3127人の患者が募集された。1564人の患者にフルオキセチンが、1563人の患者にプラセボが割り当てられた。 各治療群の1553人(99-3%)の患者について、6ヶ月後のmRSデータが入手可能であった。6ヵ月後のmRSカテゴリー間の分布は、fluoxetine群とプラセボ群で類似していた(最小化変数で調整した共通オッズ比0-951[95%CI 0-839-1-079];p=0-439 )。fluoxetineを投与された患者は、プラセボを投与された患者よりも6ヵ月までに新たにうつ病を発症する可能性が低かったが(210人[13-43%]対269人[17-21%];差3-78%[95%CI 1-26-6-30];p=0-0033)、骨折がより多かった(45人[2-88%]対23人[1-47%];差1-41%[95%CI 0-38-2-43];p=0-0070 )。その他のイベントについては,6か月,12か月とも有意差はなかった。 【解釈】フルオキセチン20mgを急性脳梗塞後6か月間毎日投与しても,機能的転帰は改善しないようである。この治療はうつ病の発生を減少させるが,骨折の頻度を増加させた。これらの結果は、脳卒中後のうつ病の予防や機能回復の促進のためにfluoxetineをルーチンに使用することを支持しない。 第一人者の医師による解説 他の集団やサブ集団で、副作用を含めた有用性の検証がさらに必要 山口 修平 島根県立中央病院 島根県病院事業管理者 MMJ.June 2019;15(3) 選択的セロトニン再取り込み阻害薬のフルオキセチンは、脳卒中後のうつ病発症を抑制するとともに、90日後の運動機能を有意に改善し、自立生活の割合を有意に上昇させたとの報告がある(FLAME 試験)(1)。コクランレビューでも脳卒中後の運動障害 を改善する可能性が示唆されているが、副作用を含めて大規模研究による検証が必要とされていた。 本論文で報告されたFOCUS試験の主要アウトカムはフルオキセチンによる脳卒中発症6カ月後の 機能予後変化(Modifi ed Rankin Scale[mRS]に よる評価)であり、副次アウトカムは他の評価スケールによる運動機能、情動機能、QOLに関する6カ月後 と12カ月後の機能予後および有害事象などである。 本試験では18歳以上の急性期脳卒中患者を対象として、発症2~15日後よりフルオキセチン 20mg/日またはプラセボを開始し、6カ月間投 与した。試験デザインは多施設共同ランダム化プラセボ対照二重盲検試験である。患者数は実薬群 1,564人、プラセボ群1,563人で、英国の103 病院で実施された。 その結果、主要アウトカムである6カ月後の mRSによる機能評価では、実薬群とプラセボ群で差を認めなかった(オッズ比 , 0.951;95% CI, 0.839~1.079)。病型、臨床症状、年齢、発症~ 服薬開始間隔などによるサブグループ解析でも差は認めなかった。副次アウトカムに関しては、6カ 月後のうつ病の発症が実薬群で有意に抑制され た(13.4% 対 17.2%;P=0.0033)。一方、実薬群で骨折の頻度が有意に上昇した(2.88% 対 1.47%;P=0.0070)。また12カ月後には、うつ病の発症頻度に群間差はなくなり、6カ月評価で差が認められたMental Health Inventory-5の結果も両群間に差は認めなかった。12カ月後の生存 率にも差はなかった。以上の結果から、脳卒中後早期からの機能予後の改善目的あるいはうつ病発症予防のためのフルオキセチンのルーチン投与は支持されないと結論づけている。 今回のFOCUS試験の結果はFLAME試験の結果を否定するものであった。本試験は、患者割り付けのバイアスがないこと、組み入れ患者数が多いこと、 脱落患者が少ないこと、intention-to-treat解析が行えたことなど、従来の試験に比べて優れた点があり信頼性は高い。一方、6カ月後のうつ病発症を抑制したことは、FLAME試験の結果と一致しており、他のSSRIを含むメタアナリシスでもうつ病の発症を63%減少させることが示されている。しかし、今回の試験で認められた骨折頻度の上昇を考慮すると、その有用性は低くなる。同様のデザインの研究が独立して現在進行中であり、他の患者集団での検討や本剤が有効なサブ集団の有無に関する検討が待たれる。 1. Chollet F, et al. Lancet Neurol. 2011;10(2):123-130.
はしか、おたふくかぜ、風疹のワクチン接種と自閉症。全国規模のコホート研究。
はしか、おたふくかぜ、風疹のワクチン接種と自閉症。全国規模のコホート研究。
Measles, Mumps, Rubella Vaccination and Autism: A Nationwide Cohort Study Ann Intern Med. 2019 Apr 16;170(8):513-520. doi: 10.7326/M18-2101. Epub 2019 Mar 5. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】麻疹・おたふくかぜ・風疹(MMR)ワクチンと自閉症との関連性の仮説は、引き続き懸念を引き起こし、ワクチン接種を困難にしている。 【目的】MMRワクチンが、子ども、子どものサブグループ、接種後の時間帯で自閉症のリスクを高めるかどうかを評価する。 【デザイン】全国規模のコホート研究。 【設定】デンマーク。 【参加者】1999年から2010年12月31日までにデンマークで生まれた657 461人の小児を対象とし、1歳以降2013年8月31日まで追跡調査を行った。 測定 【方法】デンマークの人口登録を用い、MMRワクチン接種、自閉症診断、他の小児ワクチン、自閉症の兄弟歴、自閉症危険因子に関する情報をコホート内の小児と関連づけた。Cox比例ハザード回帰を用いた自閉症診断までの期間の生存分析により,年齢,出生年,性別,他の小児用ワクチン,兄弟の自閉症歴,自閉症リスク因子(疾患リスクスコアに基づく)を調整し,MMRワクチン接種状況に応じた自閉症のハザード比を推定した。 【結果】5025 754人年の追跡期間に,6517名が自閉症と診断された(発生率,10万人年当たり129.7名分)。MMRワクチン接種児とMMRワクチン非接種児を比較すると、完全調整済み自閉症ハザード比は0.93(95%CI、0.85~1.02)であった。同様に、自閉症の兄弟歴、自閉症リスク因子(疾患リスクスコアに基づく)、他の小児予防接種、または接種後の特定の期間によって定義された小児のサブグループにおいても、MMR接種後の自閉症リスクの増加は一貫して認められなかった。 【限定】個々の医療カルテのレビューは行わなかった。 【結論】本研究は、MMR接種が自閉症リスクを増加させず、感受性児の自閉症を誘発せず、接種後の自閉症例の集積と関連がないことを強く支持するものであった。統計的検出力を高め、感受性の高いサブグループと症例の集積の仮説に取り組むことで、これまでの研究に新たな一歩を踏み出すことができた。 第一人者の医師による解説 大規模コホートで示された 臨床的に非常に重要な知見 宇野 洋太 国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所精神疾患病態研究部室長 MMJ.June 2019;15(3) 本研究の目的は、麻疹・ムンプス・風疹(MMR) ワクチンと自閉症発症の関係を調べることである。 MMRと 自閉症発症 の 関係 は、1998年 にLancet 誌に掲載され、後に取り下げとなった論文に端を発した仮説である。その後、2014年にはワクチン 接種と自閉症発症の関係を調べたメタアナリシス が発表された。解析に採用されたMMRと自閉症の 関係を調査した研究(2編のコホート研究および4 編の症例対照研究)はすべて両者が無関係であることを報告しており、当然メタアナリシスの結果 も同様であった。さらにその後、2編の研究(1),(2)が報告されているが、そのいずれも同様の結果を述べている。つまり最初の仮説が提唱された後、今日に至るまでの20年以上の間、主要な観察研究のいずれにおいてもMMR接種後、自閉症発症リスクの上昇がみられることを示したものはない。それにもかかわらず、この仮説への懸念やワクチン接種への抵抗感は十分払拭されたとはいえないため本研究が実施されるに至った。 本研究ではデンマークの全国コホートを用い、 1999~2010年に生まれた子ども657,461人 を1歳から2013年8月31日まで、自閉症の診断、 MMRを含むワクチンの接種歴、自閉症の同胞(兄 弟姉妹)歴などに関して調べた。 観察されたのは5,025,754人・年で、6,517 人が自閉症と診断された。MMR非接種児と比較し、 MMR接種児における自閉症の補正ハザード比は 0.93(95%信頼区間[CI], 0.85~1.02)であった。 その他、同胞歴、自閉症の危険因子、他のワクチン 接種歴、ワクチン接種から診断に至るまでの期間などを考慮したサブグループでも同様の結果であった。つまり本研究もMMRの接種が自閉症発症のリスクを上昇させないというこれまでの先行研究の結果を強く支持するものであった。 本論文の仮説となっているLancet誌に掲載された論文は、方法論的、また倫理的な問題から取り下げとなり、その筆者は医師免許剥奪となっている。 さらに日本を含む世界各国で広く観察研究、また動物を使っての介入研究も実施されたが、いずれにおいてもネガティブな結果が示されている。つまり科学的に仮説としてすら成立していないわけであるが、それが発展し、MMRのみならずチメロサール含有ワクチン、混合ワクチン、生後早期のワクチン接種などと自閉症発症リスクの問題が都市 伝説的に不安視され、それに基づく除去療法なども行われている現状がある。著者の述べる通り、これらの不安に対し引き続き科学的根拠を示すことが必要で、臨床的に非常に重要な知見が本論文によってさらに重ねられた。 1. Jain A, et al.JAMA. 2015;313(15):1534-1540.(MMJ, February 2016;12, 1: 40-41) 2. Uno Y, et al.Vaccine. 2015;33(21):2511-2516.
英国の中等学校におけるいじめと攻撃性に対するLearning Together介入の効果(INCLUSIVE):クラスター無作為化対照試験。
英国の中等学校におけるいじめと攻撃性に対するLearning Together介入の効果(INCLUSIVE):クラスター無作為化対照試験。
Effects of the Learning Together intervention on bullying and aggression in English secondary schools (INCLUSIVE): a cluster randomised controlled trial Lancet 2018 Dec 8 ;392 (10163 ):2452 -2464 . 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】子どもや若者のいじめ、攻撃性、暴力は、公共のメンタルヘルス問題の中で最も大きな影響を及ぼしている。我々は,修復的実践を用い,社会的・感情的スキルを開発することによって学校環境を修正する取り組みに生徒を参加させるLearning Together介入を検証した。 【方法】イングランド南東部の中学校で3年間,経済的評価とプロセス評価を行い,標準的実践(コントロール)と比較したLearning Together介入のクラスター無作為化試験を行った。Learning Togetherは、修復的実践に関する職員研修、学校活動グループの招集と進行、および生徒の社会的・感情的スキルのカリキュラムで構成されていた。主要アウトカムは,36カ月目に測定された自己申告によるいじめ被害経験(Gatehouse Bullying Scale; GBS)と攻撃行為(Edinburgh Study of Youth Transitions and Crime; ESYTC)の学校不品行副尺度であった。意図的治療縦断混合効果モデルを用いてデータを分析した。本試験はISRCTN登録(10751359)された。 【調査結果】40校(各群20校)を対象とし、脱落校はなかった。ベースライン時には7121人中6667人(93-6%)、36か月時には7154人中5960人(83-3%)の生徒が参加した。36か月時点のGBSいじめスコアの平均は、対照群0-34(SE 0-02)に対して介入群0-29(SE 0-02)であり、有意な調整平均差(-0-03、95%CI -0-06~-0-001; 調整効果サイズ -0-08)であった。36ヶ月時点のESYTCスコアの平均は、対照群4-33(SE 0-20)に対して介入群4-04(0-21)であり、群間差は認められなかった(調整済み差-0-13、95%CI -0-43~0-18; 調整済み効果量 -0-03)。費用は介入校では対照校よりも生徒一人当たり58ポンド追加された。 【解釈】Learning Togetherは公衆衛生上重要な可能性のあるいじめに対して小さいが有意な効果を示したが,攻撃性に対しては効果がなかった。学校全体の環境を修正することによって生徒の健康を促進する介入は、子どもや若者の密接に関連したリスクや健康上の結果に対処する最も実行可能かつ効率的な方法の一つであると考えられる。 第一人者の医師による解説 低コストで効果的なポピュレーションアプローチ 日本での導入に期待 矢澤 亜季(ハーバード大学公衆衛生大学院リサーチフェロー)/友田 明美(福井大学子どものこころの発達研究センター教授) MMJ.June 2019;15(3) いじめや暴力は、青少年における主要な精神保 健上の問題であり、その対策として学校レベルでの介入が期待されている。本論文の著者らは、英国においてLearning Togetherという、学校の社会環境改善によるいじめ防止を目的としたプログラムを開発し、その効果検証を行った。具体的には、 ①学校のポリシーやシステムの見直しによる、特に社会経済的に恵まれない子どものエンゲージメントの向上②修復的実践(いじめの当事者が一堂に会し、集団的に問題を解決するプロセス)によって 生徒や教員の間にある問題を予防・解決するシス テムづくり③各個人の社会性や情動のスキルの向上を図るためのカリキュラムの導入̶̶の3つで構成される。特徴として、学校レベルでの介入、すなわちポピュレーションアプローチでありながら、 低コスト(生徒1人あたり58ポンド[約8,500円]) であることが挙げられる。 本研究では、40の中等学校に在籍する6,667 人の生徒を対象とし、介入群(20校)に対して11 ~12歳時に介入を行い、3年間にわたっていじめや攻撃性の低減につながったかどうかクラターランダム化比較試験により効果が検証された。いじめはGatehouse Bullying Scale、攻撃性はEdinburgh Study of Youth Transitions and Crimeを用いて、それぞれ自己評価の経験をアウトカムとした。 結果、3年後のいじめスコアは対照群の0.34に 対して介入群で0.29と有意に低かった。攻撃性に関しては、全体としては有意な差はみられなかったものの、もともと攻撃性が高かった集団ではその低下がみられた。また、介入群では3年後の生活の質(QOL)や心理的健康度が対照群より高く、飲酒や喫煙を含む問題行動も総じて少なかった。興味深いのは、こうした効果は介入から2年後ではみられなかったことである。学校環境の変化にはそれなりに時間がかかることを示唆する結果だと著者らは考察している。 こうしたプログラムの効果検証にランダム化比較試験が用いられるのは初の試みであり、効果検証において現状最も理想的な手法であると言える。 認められた効果は決して大きなものではなかったが、低コストのポピュレーションアプローチとして その有用性が示唆されたことは意義深い。 日本でもいじめは増加の一途を辿っており、2017年度には過去最多の41万件を記録している。 学校および教師への負担が増加する中、各世帯や子どもに個別の対応を十分に提供するのは難しいのが現状であり、このようなプログラムを学校教育全体に組み込むことで、いじめが予防できるのであれば理想的だろう。こうしたエビデンスを踏まえて、日本のコンテクストに合ったプログラムを作成し、取り入れていく機運が高まることを期待する。
195カ国・地域の282の死因に対する世界・地域・国の年齢性別死亡率、1980-2017年:世界疾病負担調査2017のための系統的分析。
195カ国・地域の282の死因に対する世界・地域・国の年齢性別死亡率、1980-2017年:世界疾病負担調査2017のための系統的分析。
Global, regional, and national age-sex-specific mortality for 282 causes of death in 195 countries and territories, 1980-2017: a systematic analysis for the Global Burden of Disease Study 2017 Lancet 2018 Nov 10 ;392 (10159):1736 -1788. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】世界的な開発目標では、国の進捗をベンチマークするために、国別の推定値に頼ることが多くなっています。この必要性を満たすために、Global Burden of Diseases, Injuries, and Risk Factors Study (GBD) 2016は、1980年から世界、地域、国、そして特定の場所については、国未満の原因別死亡率を推定している。ここでは、新たに入手可能となったデータと改善された手法を活用し、その研究の更新を報告する。GBD 2017は,1980年から2017年までの195の国と地域における282の原因別死亡率の包括的な評価を提供する。 【方法】死因データベースは,生命登録(VR),口頭検死(VA),登録,調査,警察,監視データから構成されている。GBD 2017では,10件のVA調査,127国年のVRデータ,502国年のがん登録,1国年のサーベイランスが追加された。GBDの死因階層の拡張により、GBD 2017では18の死因が追加推定された。新たに入手可能となったデータにより、エチオピア、イラン、ニュージーランド、ノルウェー、ロシアの5カ国が追加され、国別推定値が算出された。国際疾病分類(ICD)コードが非特異的、ありえない、または中間的な死因に割り当てられた死亡は、不確実性推定に組み込まれた再分配アルゴリズムによって基礎的な死因に再割り当てされた。死因アンサンブルモデル(CODEm)を含むGBDのために開発された統計モデリングツールを用いて、地域、年、年齢、性別ごとに死因割合と死因別死亡率を算出した。GBD 2017は、旧版のように国連の推定値を使用する代わりに、すべての場所の人口サイズと出生率を独自に推定しました。そして、各死亡の合計に各年齢の標準余命を乗じることで損失年数(YLL)を算出した。ここで報告されたすべての率は年齢標準化されている。 発見]死因の最も広いグループ分け(レベル1)では、非伝染性疾患(NCD)が死因の最も大きな割合を占め、2017年の総死因の73-4%(95%不確実性区間[UI] 72-5-74-1 )に寄与し、伝染病、母親、新生児、栄養(CMNN)原因は18-6%(17-9~19-6)、負傷8-0%(7-7~8-2)であった。NCDの原因による総死亡者数は2007年から2017年にかけて22-7%(21-5-23-9)増加し、2007年と比較して2017年には7-6100万(7-20-8-01)の追加死亡者数が推定されたことになる。NCDによる死亡率は、世界的に7-9%(7-0-8-8)減少した。CMNNの原因による死亡者数は22-2%(20-0-24-0)、死亡率は31-8%(30-1-33-3)減少した。傷害による総死亡者数は2007年から2017年にかけて2-3%(0-5-4-0)増加し、傷害による死亡率は13-7%(12-2-15-1)減少して2017年には10万人あたり57-9人(55-9-59-2)であった。物質使用障害による死亡も増加し、2007年に世界で284 000人(268 000-289000)だったのが、2017年には352 000人(334 000-363000)に増加しました。2007年から2017年の間に、紛争とテロによる死亡者総数は118-0%(88-8-148-6)増加した。5歳未満の子どもの下気道感染症による死亡が36-4%(32-2-40-6)減少したのに対し、70歳以上の成人では33-6%(31-2-36-1)増加するなど、一部のCMNN原因では高齢者よりも死亡総数および死亡率の減少が大きく見受けられた。世界的に、2017年の死亡者数は、85歳以上の高齢者を除くほとんどの年齢で、女性より男性の方が多かった。世界のYLLの動向は疫学的な変遷を反映しており、1990年から2017年にかけて腸管感染症、呼吸器感染症および結核、母体および新生児障害によるYLL総数が減少し、これらは社会人口統計指数(SDI)の最低レベルにおいて概して大きさが増している。同時に、新生物および心血管疾患によるYLLが大きく増加した。すべてのSDI五分位において、レベル2の主要な5つの死因でYLL率が減少した。1990年にYLLの主要原因であった新生児障害、下気道感染症、下痢性疾患は、2017年には2位、4位、5位となった。一方、虚血性心疾患(2017年1位)と脳卒中(3位)では、YLL率は低下したものの、推定YLLは増加した。人口増加は、2007年から2017年にかけて、レベル2の主要な20の死因における総死亡者数の増加に寄与した。原因別死亡率の減少は、3つの原因(物質使用障害、神経疾患、皮膚・皮下疾患)を除くすべての原因について、人口増加の影響を軽減した。 【解釈】グローバルヘルスの改善は、集団間で不均一に分布している。傷害、物質使用障害、武力紛争とテロ、新生物、心血管系疾患による死亡は、世界の健康に対する脅威を拡大している。下気道感染症や腸管感染症などの死因については、高齢の成人よりも子どもの方が急速に進歩しており、年齢層による性差で死亡率に格差がある状態が続いている。一般的な疾患の死亡率の減少は、NCDを中心に減速または停止しており、特定の原因による死亡率は過去10年間で増加している 【FUNDING】ビル&メリンダ・ゲイツ財団 第一人者の医師による解説 死因の半数が10種の疾病 これらへの対処で健康改善が進展 野村 周平 東京大学大学院医学系研究科国際保健政策学教室助教 MMJ.June 2019;15(3) 世界の疾病負荷研究(Global Burden of Disease:GBD)は米国ワシントン大学のInstitute of Health Metrics and Evaluation(IHME)を主軸として、多くの研究機関が連携して行っている。本論文は、これまでにない量・種類のデータを収集、包括的で多面的な新手法で解析した最新のGBD 2017プロジェクトの研究成果からの1編であり(1)、 世界195の国・地域における死亡の原因を性・年 齢階級別に詳細に分析したものである。 本研究により、非感染症が2017年における世界の死因の4分の3(73.4%)を占めていたことがわかった(感染症・母体および新生児の病気・栄養障害が18.6%、傷害が8.0%)。近年においては、 非感染症は死亡数・率ともに増加を続け、一方で感染症や傷害は数・率ともにそれぞれ減少、停滞傾向にある。 本研究の重要な発見の1つは、282種類の疾病・ 傷害を調べたところ、世界の死亡の半数以上がそのうちわずか10種類の疾病が原因となっていたことだ。これらの少数の疾病に対処すれば、健康改善において進展を遂げることができる。本研究は死亡の原因となる疾病・傷害のタイプも大きく変わりつつあることを示した。2000~17年の 約20年間で、10大死因のうち、虚血性心疾患と卒中は2大主要死因にとどまったが、他の8死因は 入れ替わった。アルツハイマー病、糖尿病、肺がん、慢性閉塞性肺疾患および肝硬変は上位に上がり、下 痢性疾患や下気道感染症、新生児障害、HIV/AIDS、 結核は順位を下げた。がん全体でみると死亡数・率ともに増加し続けている。 上述の傾向が当てはまらない地域が、サハラ以南のアフリカである。HIV/AIDS、マラリア、結核といった三大感染症や下痢性疾患、新生児障害が南アジアやオセアニア地域で死因の5分の1、その他の地域で2~10%以下を占める一方、サハラ以南のアフリカでは、これらの疾病が死因の約半数の48%を占める。これらの疾病による死亡率はこの20年で大きく低下し(50%減)、重要な前進を遂げたが、依然として死亡率はとても高く、このような状況はこの地域特有である。加えて、虚血性心疾患や脳卒中といった心血管疾患も今ではアフリカにおいても脅威となっている。 世界的に健康増進が進む中、地域や年齢によって その進展は大きく異なる。本研究成果は、世界の死亡における課題を、国や地方別、年齢別、性別レベルで評価し、それらに対応する最善の方法を見つけるための新たなデータを提示するものだ。 1. The Lancet. Lancet. 2018;392(10159):1683.
アメリカ人のための身体活動ガイドライン。
アメリカ人のための身体活動ガイドライン。
The Physical Activity Guidelines for Americans JAMA 2018 Nov 20 ;320 (19 ):2020 -2028 . 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【重要】米国の成人および青年の約80%は、十分な活動をしていない。身体活動は正常な成長と発達を促進し、人々の気分、機能、睡眠を良くし、多くの慢性疾患のリスクを減らすことができる。 【目的】アメリカ人のための身体活動ガイドライン第2版(PAG)の主要ガイドラインを要約する。 プロセスと証拠の統合】2018年身体活動ガイドライン諮問委員会は、身体活動と健康を支える科学について系統的レビューを実施した。委員会は38の質問と104のサブ質問に取り組み、研究の一貫性と質に基づいてエビデンスを評定した。強いまたは中程度と評価されたエビデンスが、主要なガイドラインの基礎となった。保健福祉省(HHS)は、2018年の身体活動ガイドライン諮問委員会科学報告書に基づき、PAGを作成しました。 【推奨事項】PAGは、複数の人口集団のさまざまな健康上の成果を改善するための身体活動の種類と量に関する情報とガイダンスを提供します。就学前の子ども(3歳から5歳)は、成長と発達を高めるために、一日を通して身体活動を行うべきである。6歳から17歳の子供と青年は、毎日60分以上の中等度から強度の身体活動を行う必要があります。成人は、少なくとも週に150分から300分の中強度の有酸素運動、または週に75分から150分の強度の有酸素運動、あるいは中強度と強度の有酸素運動の同等の組み合わせを行う必要があります。また、週に2日以上、筋肉を強化する活動を行う必要があります。高齢者は、有酸素運動や筋力強化の活動だけでなく、バランストレーニングを含む多成分の身体活動を行う必要があります。妊娠中および出産後の女性は、週に少なくとも150分、中強度の有酸素運動を行うべきです。慢性疾患や障害を持つ成人は、可能であれば、成人の主要なガイドラインに従い、有酸素運動と筋力強化の両方の活動を行う必要があります。勧告では、より多く動き、より少なく座ることが、ほぼすべての人に利益をもたらすことを強調しています。身体活動が最も少ない人は、中等度から高度の身体活動を適度に増やすことで最も恩恵を受ける。さらに、身体活動を増やすと、さらなる効果が得られます。 【結論と関連性】『アメリカ人のための身体活動ガイドライン第2版』は、実質的な健康上の利益をもたらす身体活動の種類と量に関する情報とガイダンスを提供している。医療専門家や政策立案者は、ガイドラインの認知を促進し、身体活動の健康上の利点を宣伝し、身体活動の増加を促進し、米国人口の健康を向上させるためのプログラム、実践、政策を実施する努力を支援する必要がある。 第一人者の医師による解説 日本人に対しても推奨される内容 岩田 慎平/野村 政壽(主任教授) 久留米大学医学部内科学講座内分泌代謝内科部門 MMJ.April 2019;15(2) 身体活動は正常な成長と発達を促進し、精神・身体機能、睡眠を改善し、多くの慢性疾患を予防する(1)。 その効果は男女問わず、小児から高齢者まで認められ、さらに周産期の女性や慢性疾患患者にも認められる。多くの米国人が十分な身体活動をしていない現状を踏まえ、今回、米国人に対してエビデンスに基づく推奨度の高い身体活動のガイドライ ン(第2版)がまとめられた。本ガイドラインでは、 以下に示す各人口集団に対して、種々の健康アウト カムを改善するための身体活動の種類と量に関する情報と指針を提示している。 ・未就学児(3~5歳)では、成長発達を促進するため1日を通して身体的に活発であるべきであり、 保護者が支援していくことが必要である。 ・ 6~17歳の就学児・青少年では、運動能力の向上や運動習慣の形成、そして生涯にわたる健康の基盤づくりとして身体活動が重要である。未就学児と同様に保護者の支援が必要であり、骨強 化や筋力増強のために週3日以上の運動が推奨 される。就学児・青少年では慢性疾患の基盤となる肥満やインスリン抵抗性、脂質や血圧の異常が進行する可能性があり、運動習慣はそれらの 危険因子を減らし、将来の慢性疾患の発症抑制につながる。 ・ 成人 では、中等度 の身体活動であれば150~ 300分 /週、高強度であれば75~150分 /週 の有酸素運動が推奨され、さらに週2日以上の筋力トレーニングを加えるべきである。 ・ 高齢者では身体機能の維持を目的に、有酸素運動や筋力トレーニングに加えて転倒予防のための バランストレーニングを含む複数の身体活動を行う。また、身体活動の種類は個々の状態に合わせて設定する必要がある。 ・ 妊娠中および産後の女性は、周産期合併症の予防を目的に少なくとも150分 /週の中等度の有酸素運動を行うべきである。 ・ 慢性疾患や障害のある患者も可能な限り成人の ガイドラインに沿って身体活動を行うことが望ましく、有酸素運動と筋力トレーニングの両方を行うことが推奨される。ただし、個々の病状や身体能力を踏まえ、専門家の指導の下に運動の質や量を設定する。 ガイドラインでは、移動を多くし座位を少なくすることがすべての人に有益であること、身体活 動が少ない人ほど身体活動によるベネフィットが 多く得られることも強調している。このことは我々日本人に対しても推奨されるものと言える。また、 医療専門家や行政に対してこのガイドラインを活用して身体活動による健康改善の取り組みを支援することを訴えている。 1. Lee IM, et al. Lancet. 2012;380(9838):219-229.
ローテーションによる夜勤勤務と不健康な生活習慣の遵守が2型糖尿病のリスクを予測する:米国の女性看護師を対象とした2つの大規模コホートからの結果
ローテーションによる夜勤勤務と不健康な生活習慣の遵守が2型糖尿病のリスクを予測する:米国の女性看護師を対象とした2つの大規模コホートからの結果
Rotating night shift work and adherence to unhealthy lifestyle in predicting risk of type 2 diabetes: results from two large US cohorts of female nurses BMJ 2018 Nov 21 ;363 :k4641 . 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【目的】2型糖尿病リスクに対する交代制夜勤勤務期間と生活習慣因子の関連を前向きに評価し,交代制夜勤勤務のみ,生活習慣のみ,およびそれらの相互作用に対するこの関連を定量的に分解する。 【デザイン】前向きコホート研究。看護師健康調査(1988~2012年)および看護師健康調査II(1991~2013年)。 【参加者】ベースライン時に2型糖尿病、心血管疾患、がんのない女性143 410名。 【曝露】回転夜勤勤務は、その月の日勤および夜勤に加えて、月に3回以上の夜勤を行うことと定義した。不健康な生活習慣とは、現在の喫煙、1日30分以下の中・高強度の身体活動、Alternate Healthy Eating Indexスコアの下位3/5の食事、25以上の肥満度などであった。 【主なアウトカム評価】2型糖尿病の発症例は、自己申告により確認され、補足的な質問票により検証された。 【 結果】22~24年の追跡期間中に、10,915例の2型糖尿病が発症した。2型糖尿病の多変量調整ハザード比は、交代制夜勤勤務期間の5年刻みで1.31(95%信頼区間1.19~1.44)、不健康な生活習慣因子(喫煙歴、食事の質の低さ、身体活動の低さ、過体重または肥満)で2.30(1.88~2.83)であった。2型糖尿病と回転夜勤の5年ごとの増分と不健康な生活習慣因子ごとの共同関連については、ハザード比は2.83(2.15~3.73)で、有意な相加的相互作用が認められた(相互作用のP<0.001)。共同研究の割合は,交代制夜勤勤務のみで17.1%(14.0%~20.8%),不健康な生活習慣のみで71.2%(66.9%~75.8%),それらの相加的な相互作用で11.3%(7.3%~17.3%)であった。 【結論】女性看護師では,交代制夜勤勤務と不健康な生活習慣の両方が2型糖尿病の高いリスクと関連していた。回転夜勤勤務と不健康な生活習慣の組み合わせによる過剰リスクは,それぞれの要因に関連するリスクの加算よりも高かった。これらの知見は、2型糖尿病のほとんどの症例は健康的なライフスタイルを守ることで予防できることを示唆しており、その効果は交代制夜勤者においてより大きい可能性がある。 第一人者の医師による解説 昼夜交代勤務者 健康管理と生活習慣の改善が特に重要 山口 聡子(特任助教)/門脇 孝(特任教授) 東京大学大学院医学系研究科糖尿病・生活習慣病予防講座 MMJ.April 2019;15(2) 不健康な生活習慣が2型糖尿病発症のリスクで あることは広く知られているが、近年、昼夜交代勤務の労働者で、2型糖尿病発症リスクが高いことが 報告されてきた(1)。一方、昼夜交代勤務の労働者では喫煙頻度が高く、食生活も異なるとの報告もあり、 生活習慣と昼夜交代勤務が独立した危険因子であるかは明らかでなかった。 今回、米国の看護師を対象とした大規模な前向きコホート研究により、昼夜交代勤務と不健康な生活習慣は2型糖尿病発症の独立した危険因子であり、さらに、交互作用があることが示された。Nurses’ Health Study(NHS)、Nurses’ Health Study II に参加した女性看護師143,410人(ベースライン: NHS 1988年に平均50歳代、NHS II 1991年に平均30歳代)を22~24年間追跡し、10,915人 に2型糖尿病の発症を認めた。 生活習慣の調査は2~4年ごとに実施され、喫煙、運動不足( 中等度以上 の 身体活動30分 /日未 満)、不健康な食生活(Alternate Healthy Eating Indexスコアが下位5分の3)、肥満(BMI 25以上) の4因子を不健康な生活習慣と定義した。昼夜交代 勤務歴のない対照群と比較して、昼夜交代勤務(日 勤・準夜勤に加えて月3回以上の夜勤)の累積期間 5年ごとの2型糖尿病発症の補正後ハザード比(HR) は1.31(95 % CI, 1.19~1.44)、生活習慣4因 子の1因子ごとのHRが2.30(1.88~2.83)であった。昼夜交代勤務と生活習慣因子を合わせたHRは 2.83(2.15~3.73)で、有意 な 交互作用(P< 0.001)を認めた。交互作用に起因する相対超過 リ ス ク(RERI)は0.20(0.09~0.48)で、交互 作用の寄与割合は、昼夜交代勤務単独17.1%(14.0 ~20.8%)、生活習慣因子単独71.2%(66.9~ 75.8%)に対して、11.3%(7.3~17.3%)であった。 昼夜交代勤務が単独でも2型糖尿病発症の危険因子となることに加えて、生活習慣との間に交互作用があることを初めて明らかにした意義は大きい。昼夜交代勤務の労働者では、心血管疾患や乳がんなどのリスクが高いことも報告されており(2)、(3)、 健康管理が特に重要である。また、交互作用があることから、昼夜交代勤務の労働者では生活習慣の改善が特に重要であると言える。今後、昼夜交代勤務による発症リスク上昇のメカニズムの解明が待たれる。また、医療現場でも労務管理や産業医による介入など予防のための取り組みが一層重要になるであろう。 1. Pan A, et al. PLoS Med. 2011;8(12):e1001141. 2. Vetter C, et al. JAMA. 2016;315(16):1726-1734. 3. Wegrzyn LR, et al. Am J Epidemiol. 2017;186(5):532-540.
プライマリーケアにおける高齢者の潜在的に不適切な処方の有病率と入院との関連:縦断的研究。
プライマリーケアにおける高齢者の潜在的に不適切な処方の有病率と入院との関連:縦断的研究。
Prevalence of potentially inappropriate prescribing in older people in primary care and its association with hospital admission: longitudinal study BMJ 2018 Nov 14 ;363 :k4524 . 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【目的】高齢のプライマリケア患者(65歳以上)における入院が不適切な処方の可能性と関連するかどうか、またそのような処方が入院前よりも入院後に多く見られるかどうかを明らかにする。 【デザイン】一般診療記録からレトロスペクティブに抽出したデータの縦断研究 【設定】2012-15年にアイルランドで行われた一般診療44件 【参加者】参加診療所の65歳以上の成人。 【主要評価項目】高齢者処方スクリーニングツール(STOPP)バージョン2の45の基準を用いて評価した潜在的不適切処方の有病率、潜在的不適切処方の基準を満たす割合(層別Cox回帰)および潜在的不適切処方のバイナリ存在(ロジスティック回帰)の両方で分析し、患者の特性で調整した。感度分析では、患者の特徴と診断に基づいた傾向スコアによるマッチングを行った。 【結果】全体で38 229名の患者が含まれ、2012年の平均年齢は76.8歳(SD 8.2)、43%(13 212名)が男性であった。毎年、10.4~15.0%(2015年3015/29 077~2014年4537/30 231)の患者が少なくとも1回の入院を経験していた。潜在的に不適切な処方の全体の有病率は、2012年の患者の45.3%(13 940/30 789)から2015年の51.0%(14 823/29 077)までの範囲であった。年齢、性別、処方品目数、併存疾患、健康保険とは無関係に、入院は潜在的不適切処方の基準を明確に満たす高い割合と関連していた;入院の調整ハザード比は1.24(95%信頼区間1.20~1.28)であった。入院した参加者では、患者の特性とは無関係に、入院後に不適切な処方をする可能性が入院前よりも高かった;入院後の調整オッズ比は1.72(1.63〜1.84)であった。傾向スコアをマッチさせたペアの解析では,入院後のハザード比は1.22(1.18~1.25)とわずかに減少した。 【結論】入院は潜在的に不適切な処方と独立して関連していた。入院が高齢者に対する処方の適切性にどのような影響を及ぼすか、また入院による潜在的な悪影響をどのように最小化できるかを明らかにすることが重要である。 第一人者の医師による解説 不適切処方に対する教育・啓発と多職種協働による包括的取り組みが必要 小川 純人 東京大学大学院医学系研究科加齢医学准教授 MMJ.April 2019;15(2) 高齢者は加齢に伴う生理機能や身体機能の変化を認めやすく、自立生活障害や多臓器にわたる病 態、多彩な症候を呈しやすいことが特徴として挙げられる。また、概して高齢者では若年者に比べて薬物有害事象が認められやすいとされ、老年症候群の原因となりうる薬剤が比較的多く注意を要することが少なくない。また、高齢者は多疾患を有するためpolypharmacyの状態になりやすく、薬物 有害事象も起こりやすい。高齢者に対してはベネ フィットよりもリスクが高いなどの理由から、治療方針にかかわらず使用中止を検討する必要がある薬剤があり、それらはpotentially inappropriate medication(PIM)と呼ばれている。 PIMの薬物リストとして世界的には、米国のBeers 基準2015(1) や欧州のSTOPP/START ver 2(2)の2つが知られており、日本においても「高齢者の安全な薬物療法 ガイドライン 2015」として10年ぶりに内容が 改訂された(3)。「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン 2015」は、系統的レビューによる科学的根拠に基づいており、STOPP/STARTと同様に「特に慎重な投与を要する薬物リスト」や「開始を考慮するべき薬物リスト」から構成されている。同ガイドラインは75歳以上高齢者やフレイル・要介護高齢 者に対する慢性期の薬物療法を適用対象とし、医師、 薬剤師、看護師など多職種による利用・活用が想定、 期待されている。 本研究では、65歳以上の高齢患者を対象に、高齢者の処方スクリーニングツール(STOPP criteria version 2)を用いてPIMと入院の関連を縦断研究 で検討したもので、PIMの割合は、患者全体の半数 前後に及んでいた。また、PIMの発生率上昇は入院 と関連し、患者特性によらず入院前より入院後の方がPIMが高い結果となった。入院が高齢患者への処 方の妥当性やPIMに及ぼす影響、ならびに入院によるこうした影響をどのように軽減、回避させるかといった多職種協働による連携、取り組みが重要である。日本においては、適切なpolypharmacy介 入の推進に向けて、平成28年度診療報酬改定において薬剤総合評価調整加算(入院患者向け)と薬剤 総合評価調整管理料(外来患者向け)が新設された。 そこでは、基本的に6種類以上使っていた薬を2種 類以上削減できた際に算定が認められており、今 入院や外来におけるpolypharmacy介入や減薬評価が一層進むものと期待される。 1. The American Geriatrics Society 2015 Beers Criteria Update Expert Panel. J Am Geriatr Soc. 2015;63(11):2227-2246. 2. O'Mahony D, et al. Age Ageing. 2015;44(2):213-218. 3. 日本老年医学会、日本医療研究開発機構研究費・高齢者の薬物治療の安全 性に関する研究研究班:高齢者の安全な薬物療法ガイドライン 2015、メジ カルビュー社、東京、2015.
血清尿酸値に対する食事の幅広い寄与の評価:人口ベースコホートのメタアナリシス
血清尿酸値に対する食事の幅広い寄与の評価:人口ベースコホートのメタアナリシス
Evaluation of the diet wide contribution to serum urate levels: meta-analysis of population based cohorts BMJ 2018 Oct 10 ;363 :k3951 . 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【目的】食事の構成要素と血清尿酸値との関連を系統的に検証し、血清尿酸値の集団分散に対する食事パターンの推定値と遺伝的変異の相対的寄与を評価する。 【デザイン】米国の断面データのメタ解析。 【データソース】5件のコホート研究。 【レビュー方法】米国のヨーロッパ系祖先16 760人(男性8414人、女性8346人)を解析に含めた。対象者は、18歳以上で、腎臓病や痛風がなく、尿酸降下薬や利尿薬を服用していない人であった。すべての参加者は、血清尿酸値の測定、食事調査データ、潜在的交絡因子に関する情報(性別、年齢、肥満度、1日の平均カロリー摂取量、教育年数、運動レベル、喫煙状況、閉経状況)、ゲノムワイド遺伝子型を持っていた。主なアウトカム指標は、血清尿酸値の平均値と血清尿酸値の分散であった。多変量線形回帰分析のβ値(95%信頼区間)およびボンフェローニ補正P値、回帰部分R2値を用いて関連を定量的に評価した。 【結果】男性、女性、または完全コホートにおいて、7つの食品が血清尿酸値上昇と関連し(ビール、酒、ワイン、ジャガイモ、鶏肉、ソフトドリンク、肉(牛、豚、ラム))、8つの食品が血清尿酸値低下と関連していた(卵、ピーナッツ、冷たいシリアル、脱脂乳、チーズ、ブラウンパン、マーガリン、非シトラス果実)。健康的な食事ガイドラインに基づいて構築された3つの食事スコアは血清尿酸値と逆相関し、4番目のデータ駆動型の食事パターンは血清尿酸値上昇と正相関したが、それぞれ血清尿酸値の分散の0.3%以下を説明することができた。これに対し、血清尿酸値の分散の23.9%は、一般的な、ゲノム幅の広い一塩基の変異によって説明された。 【結論】遺伝的寄与とは対照的に、食事は一般集団における血清尿酸値の変動をほとんど説明しない。 第一人者の医師による解説 塩基変異影響も踏まえ、アジア・日本でも各世代別 /性別での検討が必要 大内 基司(獨協医科大学医学部薬理学講座准教授)/安西 尚彦(千葉大学大学院医学研究院薬理学教授) MMJ.April 2019;15(2) 高尿酸血症は痛風の主要危険因子であり、さまざまな疾患と関連付けられている。尿酸は肝臓で生成され排出は腎臓からを主とし、腸管からも排出され体内の尿酸値が決定されている。体内尿酸のバランスは遺伝要因と環境要因で修飾される。今日まで、血清尿酸値に対する食事の寄与の系統的 解析は、大きなデータセットでは行われていない。 本研究は、血清尿酸値への食事全体の関連付け研究において個々の食事成分を系統的に解析し、また 血清尿酸値に食事全体とゲノムワイド一塩基変異 の相対的寄与を定量化することを目的とし、米国の 5つのコホート研究(ARIC、CARDIA、CHS、FHS、 NHANES III)を使用した。 食事質問票の記載が10%未満、摂取予想カロリー が600キロカロリー未満や4,200キロカロリー 超などの除外基準が定められ、5つのコホートの男女比はほぼ 同率(44.8~56.7%)で、平均血清 尿酸値 5.18~5.84mg/dL、平均年齢26~72 歳(CHS[参加者1,954人]が72±5歳)と幅があった。15の食品が尿酸値との関連で挙がり、まだ確立していない9食品で尿酸値上昇に鶏肉、ジャガイモ、低下にはチーズ、非柑橘類フルーツ、黒 パン、ピーナッツ、マーガリン、シリアル、卵が挙がった。しかし、それぞれは血清尿酸値分散の1% 未満を説明するのに過ぎなかったとし、同様に食事スコア(DASH diet(1) 0.28%、Healthy Eating diet 0.15%、Mediterranean diet 0.06%)も影響が非常に小さかったとしている。一方、一般的 な遺伝的変異体によって説明される遺伝率推定値 は23.9%(NHANES IIIを除く)(男性23.8%、 女性40.3%)で、ゲノムワイド関連研究でのトラ ンスポーター関連の一塩基多型含め30の変異体(2) からなる遺伝的リスクスコアは血清尿酸値分散の 7.9%を説明するとした。また、遺伝的リスクスコアと交互作用を示したのは、DASH dietスコアの 女性コホートのみであった(P=0.04)。したがって今回のデータセットでは、受け継がれた遺伝的変異と比較すると、食事全体による血清尿酸値分散への影響ははるかに少ないと報告している。 一方で、本研究では腎臓病、痛風、尿酸降下薬や 利尿薬服用を除外している。除外項目や平均尿酸値 から高尿酸血症の低含有率も予想される。また耐糖 能異常や糖尿病と尿酸値は複雑な関連性があり、本研究における5つのコホート研究の糖尿病有病率(低い順に0.53、1.01、3.92、5.39、6.22%)は米国の推測される糖尿病有病率(20歳以上の9.8% [1988~1994年]、12.4%[2011~2012年])(3) より低い中での検討であることに注意して解釈す べきである。糖尿病有無別の詳細な検討や、アジア・ 日本でも世代別・性別での検討を含め、今後さらなるデータ解析が待たれる。 1. Fung TT, et al. Arch Intern Med. 2008;168(7):713-720. 2. Köttgen A, et al. Nat Genet. 2013;45(2):145-154. 3. Menke A, et al. JAMA. 2015;314(10):1021-1029.
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