「MMJ - 五大医学誌の論文を著名医師が解説」の記事一覧

膵臓癌のスクリーニング。US Preventive Services Task Force Reaffirmation Recommendation Statement(米国予防医療専門委員会の再確認勧告)。
膵臓癌のスクリーニング。US Preventive Services Task Force Reaffirmation Recommendation Statement(米国予防医療専門委員会の再確認勧告)。
Screening for Pancreatic Cancer: US Preventive Services Task Force Reaffirmation Recommendation Statement JAMA 2019 Aug 6 ;322 (5):438 -444. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【重要】膵臓がんは、年齢調整した年間発症率が10万人年あたり12.9人という珍しいがんである。しかし、膵臓癌の予後は不良であるため、死亡率は10万人年当たり11.0人である。発症率は低いものの、膵臓がんは米国で3番目に多いがん死亡原因となっています。膵臓癌の発生率は増加しており、他の種類の癌の早期発見と治療の改善とともに、膵臓癌はまもなく米国における癌死亡原因の第2位になると推定される。 【目的】膵臓癌のスクリーニングに関する2004年の米国予防医療作業部会(USPSTF)の勧告を更新することである。 【エビデンスレビュー】USPSTFは、膵癌スクリーニングの有益性と有害性、膵癌スクリーニング検査の診断精度、スクリーニングで発見された膵癌または無症状の膵癌の治療の有益性と有害性に関するエビデンスをレビューした。 【調査結果】USPSTFは、膵癌スクリーニングまたはスクリーニングで発見された膵癌の治療により、疾患特異的な罹病率と死亡率、全死因死亡率が改善するというエビデンスを見いだせなかった。USPSTFは、無症状の成人における膵がんスクリーニングの有益性の大きさは、小さいより大きくないという境界線が引けるという十分な証拠を見いだした。USPSTFは、膵がんスクリーニングおよびスクリーニングで検出された膵がんの治療の有害性の大きさは、少なくとも中程度に抑えることができるという十分な証拠を見いだした。USPSTFは、無症候性成人における膵癌スクリーニングの潜在的利益は潜在的有害性を上回らないという前回の結論を再確認する。 【結論と勧告】USPSTFは、無症候性成人における膵癌のスクリーニングを行わないよう勧告する。(D勧告)。 第一人者の医師による解説 早期膵がん患者の同定へ 新たな検診手段の開発が重要 岡崎 和一 関西医科大学内科学第三講座(消化器肝臓内科)主任教授 MMJ.February 2020;16(1) 米国における膵がんの罹患率は人口10万人あたり年間12.9人で比較的低いものの、年間死亡率 は11.0人、その部位別順位は3位と予後不良である(1)。5年生存率は膵がん全体で9.3%であるが、 局所進行膵がん37.4%、周辺臓器浸潤例12.4%、 遠隔転移例2.9%と診断時の病期に依存し、病初期での手術のみが生存率改善を期待できるため、早期診断が重要である。膵がん患者の85~90%は 遺伝的背景がなく、5~10%が家族性危険因子を有 し、3~5%がPeutz-Jeghers症候群などの遺伝的がん症候群とされている。 今回、米国予防医学特別作業部会(USPSTF)は 2004年の勧告と同じく、検診による不利益(harm)が利益(benefit)を上回るとの理由から、「無症状の一般成人を対象とする膵がん検診は推奨しない」 と結論した。しかしながら、家族性膵がん(第1度 近親者に2人以上の膵がん患者がいる場合)を含み、膵がんの家族性危険因子を考慮することが重要であり、本論文でも、今回の推奨はこれらの高リスク者には適用されないとしている。 実際、CAPS Consortiumは、膵がん患者の第1度近親者、第1 度近親者に罹患者を有するp16 /BRCA2 変異保 有者、Peutz-Jeghers症候群の患者、第1度近親者に膵がん患者を有するリンチ症候群患者を高リスク者と定義し、高リスク者に対して超音波内視鏡検査(EUS)またはMRI/MRCP によるスクリー ニングを推奨している(2)。系統的レビューでは、膵がん家族歴を有する無症状者を対象とした検診のみ、根治的切除および生存期間中央値の延長との 関連が示されている(2)。 Cancer of the Pancreas Screening 2(CAPS2)プロジェクトでは、無症状の膵がん患者の第1度近親者に対するEUSで 10%に浸潤前膵がんが発見され、高リスク者の検 診手段として有望である可能性が示唆されている(2)。 CAPS3 では膵がんリスクの高い無症状者に対して二重盲検下のCT、MRI およびEUS によるスクリーニングにより42%で異常がみられ、その検出率はEUS 42%、MRI 33%、CT 11%であった。さ らに高リスク者を平均4.2 年間追跡した前向きコ ホート研究では、32%の患者で膵臓に異常が認められ、MRI/磁気共鳴膵胆管造影(MRCP)もEUS の 補助的検査法または代替検査法になりうることが 示唆された。 将来的には、早期膵がん患者を同定できる新たな検診手段の開発が重要であると考えられる。現状では、全血中のマイクロ RNA、cell-free DNA、 血清代謝プロファイリングなどが新規バイオマー カー候補とされている。 1.National Cancer Institute (NCI). Cancer Stat Facts: pancreatic cancer. URL:https://bit.ly/2ZNfv2I 2.NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology:Pancreatic Adenocarcinoma(Version 3.2019).
食事脂肪の質と2型糖尿病の遺伝的リスク:個人参加者データのメタアナリシス。
食事脂肪の質と2型糖尿病の遺伝的リスク:個人参加者データのメタアナリシス。
Quality of dietary fat and genetic risk of type 2 diabetes: individual participant data meta-analysis BMJ 2019 ;366:l4292 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【目的】2型糖尿病の遺伝的負担が、食事脂肪の質と2型糖尿病発症率との関連を修飾するかどうかを調査する。 【デザイン】個々の参加者データのメタ解析。 【データ入手元】適格な前向きコホート研究は、主要医学データベース(Medline、Embase、Scopus)の電子検索及び研究者との議論を通じて1970年1月から2017年2月に発表された研究中から系統的に調達された。[レビュー 【方法】ゲノムワイド遺伝子データが利用可能なコホート研究またはマルチコホートコンソーシアムから、ヨーロッパ系の参加者における食事脂肪の質と2型糖尿病の発生率に関するデータを探した。5年以上経過した前向きコホート研究が対象となった。2型糖尿病の遺伝的リスクプロファイルは、公表されている効果量によって重み付けされた68変量の多遺伝子リスクスコアによって特徴づけられた。食事は、有効なコホート特異的食事評価ツールを用いて記録された。 【結果】15の前向きコホート研究からの102 305人の参加者のうち、中央値12年(四分位範囲9.4~14.2)のフォローアップ後に2型糖尿病2例が記録された。多遺伝子リスクスコアのリスクアレルが10増加するごとの2型糖尿病のハザード比は1.64(95%信頼区間1.54~1.75,I2=7.1%,τ2=0.003)であった。炭水化物の代わりに多価不飽和脂肪と総オメガ6多価不飽和脂肪の摂取量を増やすことは、2型糖尿病のリスク低下と関連し、ハザード比は0.90(0.82~0.98、I2=18.0%、τ2=0.006;エネルギー5%当たり)、0.99(0.97~1.00、I2=58.8%、τ2=0.001:1g/日の増加あたり)であった。炭水化物の代わりに一価不飽和脂肪を増やすと、2型糖尿病のリスクが高くなった(ハザード比1.10、95%信頼区間1.01~1.19、I2=25.9、τ2=0.006、エネルギー5%当たり)。多価不飽和脂肪と2型糖尿病リスクとの全体的な関連については、研究効果が小さいという証拠が検出されたが、オメガ6多価不飽和脂肪および一価不飽和脂肪との関連については検出されなかった。2型糖尿病リスクに関する食事脂肪と多遺伝子リスクスコアとの有意な相互作用(相互作用についてはP>0.05)は認められなかった。 【結論】これらのデータは、遺伝的負担と食事脂肪の質がそれぞれ2型糖尿病の発症と関連していることを示すものである。この知見は、2型糖尿病の一次予防のために、食事脂肪の質に関する推奨を個々の2型糖尿病遺伝子リスクプロファイルに合わせることを支持せず、食事脂肪は2型糖尿病遺伝子リスクの範囲にわたって2型糖尿病リスクと関連することを示唆している。 第一人者の医師による解説 牛脂、豚脂にも多い単価不飽和脂肪酸 どの食材から摂取したかが重要 柳川 達生 練馬総合病院内科・副院長、医療の質向上研究所・主任研究員 MMJ.February 2020;16(1) 本論文は、2型糖尿病発症と既知のリスク遺伝子および脂肪酸量・質との関連を検討したメタ解析の報告である。主要医療データベース検索(1970 ~2017年)により、北米・欧州系102,350人のデータが収集された。68の2型糖尿病リスク遺伝子を選定、それぞれの相対的効果で重み付けし遺伝要因をスコア化している。 食事は半定量的食品頻度調査などから、脂肪酸別の摂取量をベースラインと累積平均で算出。交絡因子で補正後、以下の項目で糖尿病発症リスクが評価された:(1)遺伝要因 のリスクスコア値との関連(2)炭水化物を減らして等カロリーの総脂肪または各種脂肪酸に置換(3) 脂肪酸の種類と遺伝子リスクスコアの相互作用。 追跡期間中央値12年 で20,015人 が2型糖尿病を発症し、主な結果は以下のとおりであった:(1) 遺伝子リスクスコア 10ポイント増加あたりの発症ハザード比(HR)は1.64、(2)炭水化物を総多価不飽和脂肪酸(ほぼω3[エイコサペンタエン酸、 ドコサヘキサエン酸など]とω6[リノール酸など]) あるいはω6多価不飽和脂肪酸で等カロリー置換 した場合のHRはそれぞれ0.90と0.99、(3)炭水化物を総単価不飽和脂肪酸で等カロリー置換した場合のHRは1.10、(4)脂肪酸と遺伝子リスクスコアに相互作用はなかった。 これらの結果を解釈すると、炭水化物を総多価不飽和脂肪酸(ほぼω3とω6)に置換するとリスクが低下するが、ω6脂肪酸の影響はニュートラルであったことから、ω3脂肪酸のリスク低減寄与が大きいことが示唆される。 一方、炭水化物を単価不飽和脂肪酸(主にω9[オレイン酸など])に置換すると発症リスクは上昇するが、ω9の由来する食材の影響が重要であると考える。牛脂、豚脂は50%弱 がω9脂肪酸で、飽和脂肪酸は30 ~ 40%である。 オリーブ油は80%弱がω9である。地中海地域であれば、オリーブ油などからのω9摂取割合が高い[1]。 今回のメタ解析に含まれた研究は非地中海諸国によるもので、肉類などがω9の主な供給源と考えられる。肉過剰摂取は発症リスクである[2]。どの食材からω9を摂取しているかが重要である。 脂肪酸の種類と遺伝要因の相互作用は認められなかったが、アルコール脱水素酵素の遺伝子型は代謝に影響するのと同様に、脂肪酸代謝に影響する遺伝子型が糖尿病発症に影響する可能性はありえる。また、食事調査では加工食品などの主要油脂であるパーム油(脂肪酸組成はほぼ牛脂)のデータが 反映されているか疑問である。世界で最も消費されている植物油であり影響は大きい。 1. 柳川達生 . 月刊糖尿病「地中海食の応用と糖尿病の管理」. 2019; 11(5): 74-79. 2.Feskens EJ et al. Curr Diab Rep. 2013 Apr. 13(2):298-306
ナトリウム-グルコースコトランスポーター-2阻害薬と重症尿路感染症のリスク。人口ベースのコホート研究。
ナトリウム-グルコースコトランスポーター-2阻害薬と重症尿路感染症のリスク。人口ベースのコホート研究。
Sodium-Glucose Cotransporter-2 Inhibitors and the Risk for Severe Urinary Tract Infections: A Population-Based Cohort Study Ann Intern Med 2019;171:248-256. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】ナトリウム-グルコースコトランスポーター2(SGLT-2)阻害薬による重症尿路感染症(UTI)のリスクを評価した先行研究では、相反する知見が報告されている。 【目的】SGLT-2阻害薬の使用を開始した患者が、ジペプチジルペプチダーゼ-4(DPP-4)阻害薬やグルカゴン様ペプチド-1受容体(GLP-1)アゴニストの使用を開始した患者と比較して、重篤な尿路感染症(UTI)のリスクが高いかどうかを評価すること。 【デザイン】人口ベースのコホート研究 【設定】米国の大規模コホート研究2件(2013年3月)。症例数は1,000例を超えているが、そのうちの1,000例を超えているのは、1,000例以上である。対象者は18歳以上、2型糖尿病、SGLT-2阻害薬とDPP-4阻害薬(コホート1)またはGLP-1アゴニスト(コホート2)の使用を開始した患者であった。 測定 【方法】一次アウトカムは重篤なUTIイベントであり、一次UTI、UTIを伴う敗血症、腎盂腎炎の入院と定義した。 【結果】2つのデータベースの中から、傾向スコアを1:1でマッチングさせた後、コホート1では123,752人、コホート2では111,978人の患者が同定された。コホート1では、新たにSGLT-2阻害薬を投与された人の重篤なUTIイベントは61件(1000人年あたりの発生率[IR]1.76)であったのに対し、DPP-4阻害薬投与群では57件(IR、1.77)であった(HR、0.98[95%CI、0.68~1.41])。コホート2では、SGLT-2阻害薬投与群では73件(IR、2.15)のイベントが発生したのに対し、GLP-1アゴニスト群では87件(IR、2.96)(HR、0.72 [CI、0.53~0.99])であった。結果は、感度解析において、年齢、性別、虚弱性のいくつかのサブグループ内で、カナグリフロジンとダパグリフロジンを個別に投与した場合でも、ロバストなものでした。さらに、SGLT-2阻害薬は外来UTIリスクの増加とは関連していなかった(コホート1:HR、0.96 [CI、0.89~1.04]、コホート2:HR、0.91 [CI、0.84~0.99])。 【限界】本試験所見の一般化可能性は、商用保険加入患者に限定されている可能性がある。 【結論】日常臨床でみられる大規模コホートにおいて、SGLT-2阻害薬治療を開始した患者における重度および非重度の尿路イベントのリスクは、他の第2選択抗糖尿病薬による治療を開始した患者におけるリスクと同程度であった。 第一人者の医師による解説 高齢者などの高リスク患者 引き続き注意が必要 稲垣 暢也 京都大学大学院医学研究科糖尿病・内分泌・栄養内科学教授 MMJ.February 2020;16(1) SGLT2阻害薬は性器感染症を増加させることは 広く認められているが、尿路感染症との関連については不明な点が多い。また、米食品医薬品局(FDA) は2015年、SGLT2阻害薬の添付書類に重症尿路 感染症に関する警告を加えたが、服用時にみられる尿路感染症の多くは軽度~中等度であり、重症尿路感染症との関係は不明である。 本論文は、2013年3月~ 15年9月に、米国の 2つの民間保険請求データベースを用いて、18歳 以上の2型糖尿病患者を対象に実施されたコホート研究の報告である。コホート 1(123,752人) では、SGLT2阻害薬 またはDPP-4阻害薬 を開始 した患者の間で、コホート 2(111,978人)では、 SGLT2阻害薬またはGLP-1受容体作動薬を開始 した患者の間で比較検討が行われた。それぞれのコホートにおいて、1:1の傾向スコアマッチングを 行っている。主要評価項目は重症尿路感染症(初回 尿路感染症、尿路感染症による敗血症、または腎盂腎炎による入院の複合)とし、副次評価項目は抗菌薬で外来治療を行った尿路感染症(非重症尿路感染 症)とした。 そ の 結果、主要評価項目 で あ る 重症尿路感染 症 の 発生率 は、コ ホ ー ト 1でSGLT2阻害薬群 1.76/1,000人・年、DPP-4阻害薬群1.77/1,000 人・年と有意差はなく(相対リスク[RR], 0.98; 95%信頼区間[CI], 0.68 ~ 1.41)、コホート 2で は、SGLT2阻害薬群2.15 /1,000人・年、GLP-1 受容体作動薬群2.96 /1,000人・ 年 で、SGLT2 阻害薬群においてやや低かった(RR, 0.72;95% CI, 0.53 ~ 0.99)。副次評価項目の非重症尿路感 染症についても、両コホートにおいて、SGLT2阻害薬群で有意に多いという結果は得られなかった。 SGLT2阻害薬を新たに開始した患者をそれぞれ5万人以上含むリアルワールドの本コホート研 究では、SGLT2阻害薬による重症・非重症の尿路感染症の増加は認められなかった。しかし、本研究では、尿路感染症の既往やリスク(水腎症、膀胱尿 管逆流、脊髄損傷、カテーテル使用など)がある患者、 腎機能障害や妊娠糖尿病、がんなどの患者、老人ホー ムやホスピス入所患者などが除外されている点や、 糖尿病の罹病期間、体格指数(BMI)、HbA1cなどに関する情報が不足している点に注意すべきである。 今後、重症尿路感染症のリスクが特に高い高齢者など、高リスク患者については、さらなるエビデンス が必要であるとともに、引き続き尿路感染症に注意する必要があると思われる。
フィンランドにおける閉経後ホルモン療法の使用とアルツハイマー病のリスク:全国規模の症例対照研究。
フィンランドにおける閉経後ホルモン療法の使用とアルツハイマー病のリスク:全国規模の症例対照研究。
Use of postmenopausal hormone therapy and risk of Alzheimer's disease in Finland: nationwide case-control study BMJ 2019 Mar 6 ;364:l665 . 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【目的】フィンランドの閉経後女性で、アルツハイマー病の診断を受けた人と受けていない人のホルモン療法の使用を比較する。 【デザイン】全国規模のケースコントロール研究 【設定】1999年から2013年のフィンランド全国人口および薬剤登録 【参加者】1999年から2013年の間に、神経科医または老年医からアルツハイマー病の診断を受け、全国薬剤登録から特定できたフィンランドのすべての閉経後女性(n=84 739)。年齢と病院地区をマッチさせた診断のない対照女性(n=84 739)は、フィンランド全国人口登録から追跡した。 【介入】ホルモン療法の使用に関するデータは、フィンランド全国医薬品償還登録から入手した。 【結果】女性83 688人(98.8%)において、アルツハイマー病の診断は60歳以上で行われ、47 239人(55.7%)の女性は診断時に80歳以上であった。全身性ホルモン療法の使用は、アルツハイマー病のリスクを9-17%増加させることと関連していた。エストラジオールのみの使用者(オッズ比1.09、95%信頼区間1.05〜1.14)とエストロゲン・プロゲストーゲン併用者(1.17、1.13〜1.21)では、本症のリスクに有意差はなかった。エストロゲン・プロゲストーゲン療法使用者のリスク増加は、プロゲストーゲンの違い(ノルエチステロン酢酸塩、メドロキシプロゲステロン酢酸塩、その他のプロゲストーゲン)とは関係がなかった。しかし、ホルモン療法開始時に60歳未満の女性では、これらのリスク増加は10年以上のホルモン療法曝露と関係があった。さらに、全身的なホルモン療法を開始した年齢は、アルツハイマー病のリスク増加の決定的な決定要因とはならなかった。膣エストラジオールの独占的使用は、本疾患のリスクに影響しなかった(0.99、0.96~1.01)。 【結論】全身性ホルモン療法の長期使用は、アルツハイマー病全体のリスク増加を伴うかもしれないが、それは黄体ホルモンの種類や全身性ホルモン療法の開始年齢とは関係がない。一方、エストラジオールの経膣投与では、そのようなリスクは認められない。アルツハイマー病の絶対的なリスク増加は小さいが、我々のデータは、現在および将来のホルモン療法使用者に対する情報に反映させる必要がある。 第一人者の医師による解説 治療開始年齢ではなく 投与方法と期間が発症に影響 松川 則之 名古屋市立大学医学研究科神経内科学分野教授 MMJ.August 2019;15(4) これまでのいくつかの観察研究では、閉経後女 性ホルモン療法はアルツハイマー病(AD)発症を抑制する可能性が示されてきた。しかしながら、プラセボ対照試験(The Women’s Health Initiative Memory Study;WHIMS)では認知機能低下に対する抑制効果は確認されず、むしろ悪化させる傾向が示された(1),(2)。一方、心血管疾患対象の先行研 究では、治療開始年齢が発症リスク抑制に影響することが示された(3)。 今回の論文は、ホルモン療法のAD発症への影 響、治療開始年齢や治療期間の関与を明らかにするために実施されたフィンランド全国症例対照研究の報告である。1999~2013年にADと診断された閉経後の女性84,739人と住居地・年齢構成・ ホルモン療法内容(薬剤・投与法)・治療開始年齢・ 治療期間をマッチさせた非AD群84,739人が対照とされた。 ホルモン未使用者はAD群58,186人(68.7%) と非 AD群59,175人(69.8%)であった。ホルモン全身投与群の治療内訳は、エストロゲン単独 (AD群35.6%、非 AD群36.9%)、エストロゲン +黄体 ホ ル モ ン 併用療法(AD群63.0%、非 AD 群61.9%)、チボロン 療法(AD群1.4%、非 AD 群1.3%)、その他エストロゲン経腟的投与(AD群 12.7%、非 AD群13.2%)であった。併用療法の黄体ホルモンはメドロキシプロゲステロン(MPA)、 酢酸メドロキシプロゲステロン(NETA)、その他(複合など)であった。 投与開始時期や投与期間解析も含め最終的に以下の結果が確認された:①全身投与によるエストロゲン単独および併用はAD発症リスクになる(特にエストロゲン単独よりも併用でその傾向は強い) ②黄体ホルモンの種類による有意差はない③経腟的エストロゲン投与はリスクにならない④開始年齢によるリスク差はない⑤治療期間は60歳以前開始群では10年以上投与により発症リスクになる。 WHIMSの結果は原因疾患を特定しない認知機能悪化であったのに対して、今回の報告ではADに限定した認知機能悪化が明らかにされた。一方、エストロゲン単独より黄体ホルモンとの併用が、より認知機能悪化リスクになる結果は、WHIMSと同様の結果であった。チボロンもリスクを高める可能性が示唆されたが、症例数が少ないために慎重に解釈する必要がある。今回の結果から、経腟的エストロゲン投与はリスクにならないことは興味深い。 以上から、WHIMS同様に全身投与による閉経後 ホルモン療法は認知機能を悪化させることが支持されたと言える。特に、長期間(10年以上)にわたる全身投与はAD発症リスクになることが改めて示された。 1:Shumaker SA, et al. JAMA. 2003;289(20):2651-62. 2:Shumaker SA, et al. JAMA. 2004;291(24):2947-58. 3:Harman SM, et al. Am J Med. 2011;124(3):199-205.
大腿部脂肪分布と腹部脂肪分布に関連する遺伝子変異と2型糖尿病、冠動脈疾患および心血管危険因子との関連性。
大腿部脂肪分布と腹部脂肪分布に関連する遺伝子変異と2型糖尿病、冠動脈疾患および心血管危険因子との関連性。
Association of Genetic Variants Related to Gluteofemoral vs Abdominal Fat Distribution With Type 2 Diabetes, Coronary Disease, and Cardiovascular Risk Factors JAMA 2018 Dec 25 ;320 (24):2553 -2563. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【重要性】体脂肪分布は、通常、ウエスト・ヒップ比(WHR)を用いて測定され、肥満度(BMI)とは無関係に、心代謝性疾患に重要な寄与をするものである。)低い臀部(股関節)を介して,あるいは高い腹部(腰部)脂肪分布を介してWHRを増加させるメカニズムが,心代謝リスクに影響するかどうかは不明である。 【目的】低い臀部または高い腹部脂肪分布を介して特に高いWHRと関連する遺伝子変異を特定し,心代謝リスクとの関連を推定する。 デザイン,設定,参加者]WHRに関するゲノム幅関連研究(GWAS)は,英国バイオバンクコホートのデータと過去のGWASからの要約統計(データ収集:2006~2018)を組み合わせたものである。股関節またはウエスト周囲径との特異的な関連を示すWHR関連遺伝子変異を用いて,低臀部大腿部経由または高腹部脂肪分布経由の高WHRに対する特異的な多遺伝子スコアを導出した。3つの人口ベースコホート、ケースコホート研究、6つのGWASの要約統計で、多遺伝子スコアとアウトカムとの関連を推定した(データ収集:1991~2018)。 【曝露】240万以上の共通遺伝バリアント(GWAS)、高いWHRに対する多因子スコア(フォローアップ解析)。 【主要評および測定法】BMI調整WHRと未調整WHR(GWAS);二重エネルギーX線吸収法で測定したコンパートメント脂肪量、収縮期・拡張期血圧、低密度リポタンパク質コレステロール、トリグリセリド、空腹時グルコース、空腹時インスリン、2型糖尿病、冠疾患リスク(フォローアップ分析)。 【結果】ヨーロッパ系祖先を持つUK Biobank参加者452名302名の平均(SD)年齢は57(8)歳、平均(SD)WHRは0.87(0.09)であった。)ゲノムワイド解析では、202の独立した遺伝子変異が、より高いBMI調整WHR(n = 660 648)および未調整WHR(n = 663 598)と関連していた。二重エネルギーX線吸収測定法解析(n = 18 330)では、高いWHRに対する股関節および腰部特異的多因子スコアは、それぞれ低い臀部脂肪および高い腹部脂肪と特異的に関連していた。追跡解析(n = 636 607)では、両方の多遺伝子スコアが、より高い血圧およびトリグリセリド値、ならびにより高い糖尿病リスクと関連していた(ウエスト特異的スコア:オッズ比[OR]、1.57[95%CI、1.34-1.83]、参加1000年当たりの絶対リスク増加[ARI]、4.4[95%CI、2.7-6.5]、P < .001;hip-specific score;ウエスト特異的スコア:オッズ比[OR]、1.57[95%CI]、3.5[95%CI、3.5]、P < 0.001)。OR, 2.54 [95% CI, 2.17-2.96], ARI, 12.0 [95% CI, 9.1-15.3], P < .001) および冠動脈疾患(腰部特異的スコア:OR, 1.60 [95% CI, 1.39-1.84], ARI, 2.3 [95% CI, 1.5-3.3], P < .001; hip-specific score: 【結論と関連性】WHRの算出の基礎となる臀部および腹部脂肪の分布には、異なる遺伝的機序が関連している可能性がある。これらの知見は、糖尿病や冠動脈疾患のリスク評価や治療を改善する可能性がある。 第一人者の医師による解説 ウエスト・ヒップ比の計測に臨床的意義 細江 隼(特任研究員)1)/門脇 孝(特任教授)1,2) 1) 東京大学大学院医学系研究科糖尿病・代謝内科, 2) 東京大学大学院医学系研究科糖尿病・生活習慣病予防講座 MMJ.August 2019;15(4) 体脂肪分布は、通常ウエスト・ヒップ比(WHR)を用いて評価され、WHRの構成要素は腹部と臀大腿部の脂肪分布である。近年、体格指数(BMI)補正 WHRと関連する遺伝子領域に注目して重み付けしたリスクアレルの総和を用いて算出される多因子遺伝リスクスコア(polygenic risk score;PRS) について、2型糖尿病および冠動脈疾患と関連する ことが報告された(1)。このような研究から、WHRは BMIとは無関係に心血管代謝疾患と関連し、腹部脂肪蓄積が同疾患のリスクであることが示唆されていた。 本論文では、腹部脂肪増加を介してWHR上昇と関連する遺伝因子から構成されるPRSに加えて、 臀大腿部脂肪の減少を介してWHR上昇と関連する遺伝因子から構成されるPRSも構築し、合計63万 人以上の参加者について各 PRSと心血管代謝疾患 のリスクの関連を検討した。 ゲノムワイド関連解析のサマリーデータセットとUK Biobankの個別横断データを対象に解析を行ったところ、各 PRS について、血圧高値および中性脂肪高値、2型糖尿 病および冠動脈疾患のリスク上昇との関連を認めた。臀大腿部脂肪の減少を介したWHR上昇に関するPRSがこれらの心血管代謝疾患と関連したことについては、臀大腿部脂肪・皮下脂肪の蓄積能が低いと、肝臓や骨格筋などの異所性脂肪蓄積をきたし、心血管代謝疾患と関連する可能性は考えられる。 このような病態は、より重症の臨床像を示す脂肪 萎縮症の疾患メカニズムとも共通点を有することが示唆される。 これらの結果は、本論文の著者らのグループが以前ゲノム関連解析の統合解析を行い、 末梢脂肪組織における脂肪蓄積能の低下とインスリン抵抗性に伴う心血管代謝疾患との関連性が示唆されていたこととも矛盾しない(2)。 本研究の限界(limitation)として、観察研究のため因果関係を証明することはできないことが 挙げられる。また、本研究は 欧州系(European ancestry)の人種を対象としているが、今後欧州系以外の人種を対象とした解析を行うことも重要と考えられる。本研究で得られた知見から、心血管代謝疾患のリスクを正確に評価するために、腹部脂肪に加えて臀大腿部脂肪の蓄積についても測定することの重要性が考えられた。臨床現場においては、ウエスト・ヒップの計測を行うことの臨床的意義が示唆される。 1. Emdin CA, et al. JAMA. 2017;317(6):626-634. 2. Lotta LA et al. Nat. Genet. 2017;49(1):17-26.
二次性副甲状腺機能亢進症がなく維持血液透析を受けている患者におけるアルファカルシドール経口投与の臨床転帰への影響。J-DAVID Randomized Clinical Trial(J-ダビッド無作為化臨床試験)
二次性副甲状腺機能亢進症がなく維持血液透析を受けている患者におけるアルファカルシドール経口投与の臨床転帰への影響。J-DAVID Randomized Clinical Trial(J-ダビッド無作為化臨床試験)
Effect of Oral Alfacalcidol on Clinical Outcomes in Patients Without Secondary Hyperparathyroidism Receiving Maintenance Hemodialysis: The J-DAVID Randomized Clinical Trial JAMA 2018 Dec 11 ;320 (22):2325 -2334. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【重要】慢性腎臓病患者では、ビタミンDの活性化が損なわれており、心血管リスクが上昇している。血液透析を受けている患者を対象とした観察研究では、活性型ビタミンDステロールの使用は、副甲状腺ホルモン値にかかわらず、全死亡のリスク低下と関連していた。 【目的】ビタミンD受容体活性化剤が、血液透析を受けている二次性副甲状腺機能亢進症のない患者の心血管イベントおよび死亡率を低下させるかどうかを明らかにする。 【デザイン、設定および参加者】日本の透析施設207施設で患者1289人の無作為化、オープンラベル、エンドポイント盲検多施設試験とした。血清インタクト副甲状腺ホルモン値が180 pg/mL以下で維持血液透析を受けている患者976名が対象となった。最初の参加者は2008年8月18日に、最後の参加者は2011年1月26日に登録された。最終追跡日は2015年4月4日であった。 【介入】アルファカルシドール1日0.5μg経口投与(介入群;n=495) vs ビタミンD受容体活性化剤を用いない治療(対照群;n=481)。 【主要評価項目】主要評価項目は、心筋梗塞、うっ血性心不全による入院、脳卒中、大動脈解離・破裂、虚血による下肢切断、心臓突然死などの致死性および非致死性の心血管イベント、冠動脈再灌流、およびフォローアップ48ヶ月間の下肢動脈再灌流の複合指標であった。副次的アウトカムは全死亡であった。 【結果】108の透析施設から無作為化された976例のうち,intention-to-treat解析に含まれたのは964例(年齢中央値65歳,女性386例[40.0%))で,944例(97.9%)が試験を完遂した。追跡期間中(中央値,4.0年),主要複合転帰である心血管イベントは,介入群では488例中103例(21.1%),対照群では476例中85例(17.9%)で発生した(絶対差,3.25%[95% CI,-1.75% ~ 8.24%]; ハザード比,1.25[95% CI,0.94-1.67]; P = 0.13 ).副次的アウトカムである全死因死亡率には、両群間で有意差は認められなかった(それぞれ18.2% vs 16.8%;ハザード比、1.12[95%CI、0.83-1.52];P = 0.46)。介入群の参加者488人のうち,199人(40.8%)が心血管系に分類される重篤な有害事象を経験し,64人(13.1%)が感染症に分類される有害事象を経験し,22人(4.5%)が悪性腫瘍関連の重篤な有害事象を経験した.対照群476名のうち、191名(40.1%)が心血管関連の重篤な有害事象を、63名(13.2%)が感染症関連の有害事象を、21名(4.4%)が悪性腫瘍関連の有害事象を経験しました。 【結論と関連性】維持血液透析を受けている二次性副甲状腺機能亢進症の患者において、通常ケアと比較してアルファカルシドールを内服しても選択心血管イベントの複合指標のリスクは低下しませんでした。これらの知見は、これらのような患者に対するビタミンD受容体活性化剤の使用を支持しない。 【臨床試験登録】UMIN-CTR Identifier:UMIN000001194. 第一人者の医師による解説 日本の診療ガイドラインの妥当性を支持する有力な根拠 竹内 靖博 虎の門病院内分泌センターセンター長 MMJ.August 2019;15(4) 日本では維持透析患者に対して、活性型ビタミン D(VD)のアルファカルシドールが広く投与されている。腎不全では内因性のVD作用が低下しており、これまで多くの観察研究で、維持透析患者への活性型 VD投与は心血管障害や死亡の減少と関連することが報告されている(1),(2)。 しかし、ランダム化比較試験では有効性が実証されておらず、本研究では、アルファカルシドールにより4年間の心血管イベント発症リスクが20%低下する、という仮説が検証された。活性型 VDを投与しない対照群を設定する倫理的な根拠として、組み入れ基準に血中 intact PTH(iPTH)180pg/mL以下という条件が設定された。結果、仮説は実証されず、フルセット解析でも、プロトコール遵守群に限定した解析でも、アルファカルシドールによる心血管イベント発症抑制は認められなかった。 腎機能低下に伴うリンの排泄不全やVDの活性化 障害による2次性副甲状腺機能亢進症は、骨病変や心血管障害の原因として重要視されている。慢性腎 臓病に伴う骨・ミネラル代謝異常(CKD-MBD)という包括的な概念が提唱されており、日本透析医学会から診療ガイドラインが公表されている。CKDMBDでは2次性副甲状腺機能亢進症の管理は重要な課題であり、日本ではiPTHの血中濃度で60以 上240pg/mL以下に調節することが推奨されている。また、生命予後の点からは180pg/mL未満 が望ましいとされている。 本研究はiPTH 180pg/mL以下の維持透析患者で実施されており、その結果は、維持透析患者に対 する活性型 VDの効果は、PTH分泌亢進を認める患者に限定されることを示唆している。これまで の観察研究からiPTHと生命予後にはゆるやかなJ カーブ現象が指摘されており、iPTHを大きく低下させることは必ずしも望ましくないことも知られている。本研究のアルファカルシドール群におけるiPTH低下効果は一過性ではあるが、開始3カ月 後の平均値は50pg/mLをわずかに下回っている。一方、血清リン値には両群間でほぼ差はない。統計学的な有意差はないが、アルファカルシドール群 でイベント発生率が高い傾向にあることとPTH低 下との関連が懸念される。 本研究の結果は、日本のCKD-MBD診療ガイド ラインにおけるiPTHを60~240pg/mLに管理するという指針の妥当性を支持する有力な根拠となると考えられる。一方、維持透析患者における、 PTH分泌抑制以外の活性型 VDの効果を明らかにするには至らなかった。今後は、どのような維持透 析患者に対して活性型 VDを推奨するべきか、PTH 以外の指標を含めて明らかにしていくことが望まれる。 1. Kovesdy CP, et al. Kidney Int. 2008;73(12):1355-1363. 2. Shoji T, et al. ¬ Ther Apher Dial. 2015;19(3):235-244.
成人の大うつ病エピソードの急性治療における非外科的脳刺激の有効性と受容性の比較:システマティックレビューとネットワークメタアナリシス。
成人の大うつ病エピソードの急性治療における非外科的脳刺激の有効性と受容性の比較:システマティックレビューとネットワークメタアナリシス。
Comparative efficacy and acceptability of non-surgical brain stimulation for the acute treatment of major depressive episodes in adults: systematic review and network meta-analysis BMJ 2019 Mar 27 ;364:l1079 . 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【目的】成人の大うつ病エピソードの急性治療における非外科的脳刺激の比較臨床効果と受容性を推定すること 【デザイン】ペアワイズメタアナリシスとネットワークメタアナリシスを含むシステマティックレビュー 【データ入手元】2018年5月8日までのEmbase、PubMed/Medline、PsycINFOの電子検索、いくつかのレビュー(2009年から2018年の間に発表された)の書誌検索と含まれる試験の手動検索で補足。ELIGIBILITY CRITERIA FOR SELECTING STUDIES]電気けいれん療法(ECT)、経頭蓋磁気刺激(反復型(rTMS)、加速型、プライミング型、深層型、同期型)、シータバースト刺激、磁気発作療法、経頭蓋直流刺激(tDCS)、または偽薬療法に無作為に割り付けられた臨床試験。 【主要アウトカム評価項目】主要アウトカムは、反応(有効性)と全原因による中止(何らかの理由での治療中止)(受容性)であり、95%信頼区間のオッズ比で示されています。 【結果】大うつ病性障害または双極性うつ病の患者6750人(平均年齢47.9歳、女性59%)を無作為化した113試験(262の治療群)が包含基準を満たしていた。最も研究された治療法の比較は、高頻度左rTMSとtDCS対偽薬療法であったが、最近の治療法はまだ十分に研究されていない。エビデンスの質は一般的にバイアスのリスクが低いか不明瞭であり(113試験中94試験、83%)、治療効果の要約推定の精度にはかなりのばらつきがあった。ネットワークメタアナリシスでは、18の治療戦略のうち10の治療戦略が偽薬治療と比較して高い奏効率と関連していた:ビテンポラールECT(要約オッズ比8.91、95%信頼区間2.57~30.91)、高用量右片側ECT(7.27、1.90~27.78)、プライミング経頭蓋磁気刺激(6.02、2.21~16.38)、磁気発作療法(6.02、2.21~16.38)。38)、磁気発作療法(5.55、1.06~28.99)、両側rTMS(4.92、2.93~8.25)、両側シータバースト刺激(4.44、1.47~13.41)、低周波右rTMS(3.65、2.13~6.78)、プライミング経頭蓋磁気刺激(6.02、2.21~16.38)、磁気発作療法(5.55、1.06~28.99)、両側rTMS(4.92、2.93~8.25)、両側シータバースト刺激(4.44、1.47~13.41)、低周波右rTMS(3.65、2.13~2.13)。65、2.13~6.24)、間欠的シータバースト刺激(3.20、1.45~7.08)、高周波数左rTMS(3.17、2.29~4.37)、tDCS(2.65、1.55~4.55)。別の能動的治療と対比された能動的介入のネットワークメタ解析的推定から、ビテンポラールECTと高用量右片側ECTが応答の増加と関連していることが示された。結論]これらの知見は、大うつ病エピソードを持つ成人の代替治療または追加治療として、非外科的な脳刺激法を検討するための証拠を提供する。また、これらの知見は、新しい治療法を比較するために、さらによく設計された無作為化比較試験や、磁気発作療法を調査する偽薬比較試験の必要性など、脳刺激の専門分野における重要な研究の優先順位を浮き彫りにした。 第一人者の医師による解説 連続・維持療法としての長期効果 今後の検討必要 鬼頭 伸輔 東京慈恵会医科大学精神医学講座准教授 MMJ.August 2019;15(4) うつ病はありふれた疾患であり自殺や休職の誘因となるため、その社会的損失は大きい。また、うつ病は再燃・再発率が高く慢性化しやすい。うつ病の治療では、薬物療法と精神療法が中心となる。しかし、約3分の1の患者は薬物療法に反応しないことが知られる。電気けいれん療法(ECT)や反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)などの非外科的脳刺激は第3 の治療法に位置づけられる。日本でも、2019年6 月からrTMSが保険診療として新たに導入された。 本論文では成人の大うつ病エピソードへの非外 科的脳刺激の急性期の有効性と安全性を比較するため に、Embase、PubMed/Medline、PsycINFO を用いて、2018年5月までのランダム化試験を 抽出しネットワークメタアナリシスを行った。非 外科的脳刺激には、ECT、rTMS、accelerated TMS (aTMS)、priming TMS(pTMS)、深部経頭蓋磁気刺激(dTMS)、synchronized TMS(sTMS)、シー タバースト刺激(TBS)、磁気けいれん療法(MST)、 経頭蓋直流刺激(tDCS)が含まれた。さらに、ECT は電極の位置と電気量、rTMSとTBSはコイルの 位置 と 刺激頻度に基づき、各治療 プ ロト コール は区別された。主要評価項目である有効性は反応 (response)とし、忍容性はあらゆる原因による中 止とした。 113試験、6,750人の大うつ病エピソードの患者が対象となり、18種類の治療プロトコールの相対的な有効性および忍容性がネットワークメタア ナリシスにより推定された。ネットワークメタアナリシスでは、10種類の治療プロトコールの有効性(反応)が偽(sham)療法と比較し優れていた。 そのオッズ比と95%信頼区間はそれぞれ、両側側頭 ECT(8.91, 2.57 ~30.91)、高用量右片側 ECT(7.27, 1.90~27.78)、pTMS(6.02, 2.21 ~16.38)、MST(5.55, 1.06~28.99)、両側 rTMS(4.92, 2.93~8.25)、両側 TBS(4.44, 1.47~13.41)、低頻度右側 rTMS(3.65, 2.13 ~6.24)、間欠的 TBS(3.20, 1.45~7.08)、 高頻度左側 rTMS(3.17, 2.29~4.37)、tDCS (2.65, 1.55~4.55)であった。あらゆる原因による中止(忍容性)は、すべての治療プロトコール で偽療法と同程度であった。 本研究の限界として、治療プロトコールに応じて対象となる患者が異なること(例、ECTとrTMS)、 一部の脳刺激では対象となる試験が少ないことにも留意すべきである。また、連続・維持療法としての長期効果については、今後さらなる検討が必要である。
急性虚血性脳卒中に対する静脈内血栓溶解療法と血圧の集中的な低下(ENCHANTED):国際無作為化、非盲検、盲検エンドポイント、第3相試験。
急性虚血性脳卒中に対する静脈内血栓溶解療法と血圧の集中的な低下(ENCHANTED):国際無作為化、非盲検、盲検エンドポイント、第3相試験。
Intensive blood pressure reduction with intravenous thrombolysis therapy for acute ischaemic stroke (ENCHANTED): an international, randomised, open-label, blinded-endpoint, phase 3 trial Lancet 2019 Mar 2 ;393 (10174):877 -888. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】急性虚血性脳卒中患者において、収縮期血圧185mmHg以上はアルテプラーゼ静注による血栓溶解療法の禁忌であるが、最適な転帰のための収縮期血圧の目標値は不明である。我々は,急性虚血性脳卒中に対してアルテプラーゼを投与した患者において,ガイドラインで推奨されている血圧低下と比較して,集中的な血圧低下を評価した。 【方法】15か国110施設でスクリーニングされた,急性虚血性脳卒中で収縮期血圧150mmHg以上の血栓溶解療法の適用患者(年齢18歳以上)を対象に,国際部分要因・オープンラベル・ブラインドエンドポイント試験を行った。脳卒中発症後6時間以内に,対象患者を72時間かけて血圧を下げる集中治療(目標収縮期血圧130~140mmHg,1時間以内)またはガイドライン治療(目標収縮期血圧180mmHg未満)に1対1でランダムに割り付けた.主要アウトカムは,90日後の機能状態を修正ランキン尺度得点で測定し,無調整順序ロジスティック回帰で分析した.安全性の主要評価項目は,頭蓋内出血の有無とした.主要評価項目と安全性評価項目は,盲検下で実施された.解析は intention-to-treat ベースで行われた。本試験はClinicalTrials. gov(番号NCT01422616)に登録されている。 【所見】2012年3月3日から2018年4月30日の間に、2227例が治療群にランダムに割付られた。同意の欠如、無作為化の誤りまたは重複により31名の患者を除外した後、急性虚血性脳卒中のアルテプラーゼ適用患者2196名を対象とした。集中治療群1081例,ガイドライン治療群1115例で,実際にalteplaseを静脈内投与した2175例のうち1466例(67~4%)に標準用量が投与された。脳卒中発症から無作為化までの時間の中央値は3〜3時間(IQR 2-6-4-1)であった。24時間の平均収縮期血圧は,集中治療群で144-3 mm Hg(SD 10-2),ガイドライン群で149-8 mm Hg(12-0) であった(p<0-0001).集中治療群1072例、ガイドライン群1108例で主要評価項目データを得ることができた。90 日後の機能状態(mRS スコア分布)に群間差はなかった(未調整オッズ比 [OR] 1-01、95% CI 0-87-1-17、p=0-8702)。頭蓋内出血は,集中治療群(1081 例中 160 例[14-8%])の方がガイドライン群(1115 例中 209 例[18-7%])より少なかった(OR 0-75,0-60-0-94,p=0-0137 ).重篤な有害事象が発生した患者数は、集中治療群(1081例中210例[19-4%])とガイドライン群(1115例中245例[22-0%]、OR 0-86, 0-70-1-05, p=0-1412)で有意差はなかった。主要アウトカムに関して、集中的な血圧低下とアルテプラーゼの用量(低用量と標準用量)の相互作用のエビデンスはなかった。この結果は、軽度から中等度の急性虚血性脳卒中にアルテプラーゼを投与された患者に対して、この治療法を適用することに大きくシフトすることを支持しないかもしれない。この患者群における早期の集中的な血圧低下による有益性と有害性の基礎的なメカニズムを明らかにするために、さらなる研究が必要である。 【出典】National Health and Medical Research Council of Australia; UK Stroke Association; Ministry of Health and the National Council for Scientific and Technological Development of Brazil; Ministry for Health, Welfare, and Family Affairs of South Korea; Takeda.など。 第一人者の医師による解説 両群間の血圧差がわずかで 有意差の証明に至らず 内山 真一郎 国際医療福祉大学教授/山王病院・山王メディカルセンター脳血管センター長 MMJ.August 2019;15(4) 急性虚血性脳卒中(脳梗塞)患者において収縮期 血圧185mmHg以上はアルテプラーゼによる血 栓溶解療法の禁忌とされているが、転帰改善をもたらす至適血圧目標値は不明である。 今回報告されたENCHANTED試験は、アルテプラーゼを投与された 発症後6時間以内 の 急性虚血性脳卒中患者において、72時間以上の、ガイドラインが推奨する降圧療法と、収縮期血圧のアルテプラーゼ投与後1 時間以内の降圧目標が130~140mmHgの積極的降圧療法を比較したprospective randomized open blinded end-point(PROBE)デザインによる国際共同試験であった。 有効性の1次評価項目は 90日後の改変ランキンスコアの分布、安全性の1 次評価項目は全頭蓋内出血であった。患者1,081 人が積極降圧療法群、1,115人がガイドライン降 圧療法群に無作為に割り付けられた。90日後の転帰は両群間で差がなかったが、頭蓋内出血は積極的 降圧療法群で有意に少なかった。 積極的降圧療法は 安全であることは証明されたが、頭蓋内出血の減少が転帰の改善に結びつかなかったので、現行のガイドラインの降圧目標値を下げる変更を支持するものではなかった。ただし、積極的降圧療法群が 達成した 平均収縮期血圧 は144.3mmHgと目標に達しておらず、ガイドライン降圧療法群の平均 収縮期血圧も149.8mmHgと予想以上に低く、目標としていた両群間の血圧差15mmHgには遠く及ばず、両群間の血圧差がわずか5.5mmHgと少なすぎたため有意差を証明する検出力が弱くなり、 このような結果がもたらされたとも考えられ、この試験結果から至適血圧レベルに結論を下すことはできない。 これまでの観察研究では、脳梗塞急性期の収縮期血圧は140~150mmHgが最も良好な転帰をもたらすことが報告されており、両群ともに平均収縮期血圧はこの範囲に入っているので 両群間で転帰に差がなかったのは当然かもしれな い。脳梗塞急性期患者では、血圧の自動調節能が低下するため過度の降圧は梗塞巣の拡大をもたらす懸念があり、過度の血圧上昇を放置することも頭蓋内出血のリスクを高めることが危惧されるので、 試験参加医師が両方のリスクを考慮したことが両群間の血圧差を少なくさせた心理的要因であったように思われる。
心臓血管疾患の一次予防のためのアスピリン使用の指針となる出血リスクの予測。コホート研究
心臓血管疾患の一次予防のためのアスピリン使用の指針となる出血リスクの予測。コホート研究
Predicting Bleeding Risk to Guide Aspirin Use for the Primary Prevention of Cardiovascular Disease: A Cohort Study Ann Intern Med 2019 Mar 19 ;170 (6):357 -368. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】アスピリンの絶対的ベネフィットを推定するために多くの心血管リスクの予後モデルを用いることができるが、その可能性が高いハームを推定するための出血リスクモデルはほとんどない。 【目的】心血管疾患(CVD)の一次予防のためにアスピリンを考慮する可能性がある人たちの予後出血リスクモデルを開発する。 【デザイン】前向きコホート研究 【設定】ニュージーランドのプライマリケア 【対象】2007年から2016年までにCVDリスクを評価した30歳から79歳の385 191名で、研究コホートとした。アスピリンの適応または禁忌のある者、および既に抗血小板療法または抗凝固療法を受けている者は除外した。 測定】各性について、大出血リスクを予測するためにCox比例ハザードモデルを開発し、参加者は初めて除外基準を満たした日、死亡日、研究終了日のうち最も早い時点で打ち切られた(2017年6月30日)。主なモデルには、以下の予測因子が含まれていた。人口統計学的特性(年齢,民族,社会経済的剥奪),臨床測定値(収縮期血圧,総高密度リポ蛋白コレステロール比),早期CVDの家族歴,病歴(喫煙,糖尿病,出血,消化性潰瘍疾患,癌,慢性肝疾患,慢性膵炎,アルコール関連),薬剤使用(非ステロイド抗炎症薬,コルチコステロイド,選択性セロトニン再取込阻害薬)である。 【結果】1 619 846人年の追跡期間中に,4442人が大出血イベントを起こした(うち313人[7%]が致死的であった)。主要モデルは,5年出血リスクの中央値を女性で1.0%(四分位範囲,0.8%~1.5%),男性で1.1%(四分位範囲,0.7%~1.6%)と予言した。限界】ヘモグロビン値、血小板数、肥満度は、欠損値が多いため主要モデルから除外され、ニュージーランド以外の集団でのモデルの外部検証は行われていない。 【結論】CVDの一次予防のためにアスピリンを検討している人において、アスピリンの絶対的な出血の害を推定するために使用できる予後出血リスクモデルを開発した【Primary funding source】The Health Research Council of New Zealand. 第一人者の医師による解説 アスピリンによる心血管疾患1次予防の最適化を支援する重要な報告 高下 純平/豊田 一則(副院長) 国立循環器病研究センター脳血管内科 MMJ.August 2019;15(4) 2016年、米国予防医学特別作業部会(USPSTF) は、今後10年間の心血管疾患発症リスクが10% 以上で、高い出血リスクを持たない50~59歳の 成人に対し、心血管疾患と大腸がんの両疾患への1次予防として、アスピリンの低用量使用を推奨した(1)。しかし、心血管疾患に対するアスピリン投与のベネフィットやリスクは、年齢、性別、併存する血管疾患の危険因子によって大きく異なるため、利益と危険性を勘案して慎重に判断する必要があり、 予測モデルを使用したネットクリニカルベネフィッ トの推定が有用である。 心血管疾患の予防におけるアスピリン投与の有益性についての予測モデルは、数多く報告されているものの、出血性合併症の 予測モデルはあまり報告されていなかった。そこで、 著者らは 心血管疾患がなく、抗凝固・抗血小板療法を受けていない集団における出血性合併症の予 測モデルを作成し検証を行った。 2007~16年に心血管疾患の危険因子を評価された30~79歳の 385,191人を対象とした前向きコホート研究である。性別ごとに年齢、人種、社会経済的特性などの背景因子や、収縮期血圧、コレステロール値、心 血管疾患の家族歴、喫煙、糖尿病、出血の既往、潰瘍 性病変、悪性腫瘍の有無や服用薬(非ステロイド系 抗炎症薬、ステロイド、選択的セロトニン再取り込み阻害薬)をもとにCox比例ハザードモデルを作成した。 結果は、1,619,846人・年の追跡期間中に、 4,442人が大出血イベントを発症し、作成したモ デルでは、5年間の出血率の中央値は、女性で1.0% (四分位範囲[IQR], 0.8~1.5%)、男性で1.1% (0.7~1.6%)と算出された。また、過去の報告と同様、高齢、喫煙、糖尿病などの既知の危険因子が出血性合併症のリスクともなることが明らかにされた。 このモデルを使用して算出された出血性合併症 のリスクを、Antithrombotic Trialists’ Collaborationのメタ解析で報告された心血管疾患 イベントの発症率(2)と比較することで、心血管疾患 の1次予防としてのアスピリン導入を最適化することができるのではないかと結んでいる。心血管疾患の既往がなく、また抗凝固・抗血小板療法を受けていない集団が、アスピリン服用を始めることで起こりうる出血性合併症の推定発症率は低い。これは大変貴重な知見であるとともに、心血管疾患の1次予防におけるアスピリン投与の意思決定を 支援する重要な報告と考える。 1. Bibbins-Domingo K, et al. Ann Intern Med. 2016;164(12):836-845. 2. Baigent C, et al. Lancet. 2009;373(9678):1849-1860.
進行性心不全患者における間葉系前駆細胞の心筋内注入と左室アシスト装置サポートからの一時的な離脱の成功。無作為化臨床試験。
進行性心不全患者における間葉系前駆細胞の心筋内注入と左室アシスト装置サポートからの一時的な離脱の成功。無作為化臨床試験。
Intramyocardial Injection of Mesenchymal Precursor Cells and Successful Temporary Weaning From Left Ventricular Assist Device Support in Patients With Advanced Heart Failure: A Randomized Clinical Trial JAMA 2019 Mar 26 ;321 (12):1176 -1186. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【重要】左室補助循環装置(LVAD)療法は心筋機能を改善するが、摘出できるほど回復する患者は少なく、心臓の回復を増強する幹細胞に注目が集まっている。 【目的】LVAD移植中の間葉系前駆細胞(MPC)の心筋内注射の有効性と副作用を評価する。 デザイン、設定、参加者]北米19施設でLVAD移植中の進行心不全の患者を含む無作為化第2相臨床試験(2015年7月から2017年8月)。1年間のフォローアップは2018年8月に終了。 【介入】同種MPC1億5000万個または偽治療としての凍結保護培地を2:1の割合で心筋内注射(n=106 vs n=53)。 【主要アウトカムおよび評価】主要有効性エンドポイントは、ランダム化後6カ月以内にLVAD支持からの一時的ウィーン(3回の評価予定分)に成功する割合であった。このエンドポイントは、成功を示す事後確率80%という事前に定義された閾値を用いたベイズ分析で評価された。1年間の安全性の主要エンドポイントは、介入関連の有害事象(心筋炎、心筋破裂、新生物、過敏性反応、免疫感作)の発生率であった。副次的評価項目は6ヶ月後の再入院と有害事象、1年生存率とした。 【結果】159例(平均年齢56歳、女性11.3%)のうち155例(97.5%)が1年間のフォローアップを完了した。MPCが離脱成功の可能性を高める事後確率は69%であり、事前に定義された成功の閾値以下であった。6 ヵ月にわたる LVAD 支援からの一時的な離脱が成功した平均割合は,MPC 群で 61%,対照群で 58%であった(rate ratio [RR], 1.08; 95% CI, 0.83-1.41; P = 0.55).安全性の主要エンドポイントを経験した患者はいなかった。事前に指定された10個の副次的エンドポイントが報告されたが、9個は統計的有意差に達しなかった。1年死亡率は、MPC群と対照群の間で有意差は認められなかった(14.2% vs 15.1%;ハザード比[HR]、0.89;95%、CI、0.38-2.11;P = 0.80)。重篤な有害事象の発生率は群間で有意差はなく(100患者月当たり70.9 vs 78.7、差:-7.89、95%CI、-39.95~24.17、P = .63)、再入院率(100患者月当たり0.68 vs 0.75、差:-0.07、95%CI、-0.41~0.27、P = 0.68 )も同様であった。 【結論と関連性】進行した心不全患者において、間葉系前駆細胞の心筋内注射は、偽治療としての凍結保護培地の注射と比較して、6ヵ月後の左室補助装置サポートからの一時離脱の成功率を向上させることはなかった。この結果は、デバイスサポートからの一時的な離脱によって測定される心臓の回復を促進するための心筋内間葉系幹細胞の使用を支持しない。 【臨床試験登録】clinicaltrials. gov Identifier.NCT02362646:NCT02362646. 第一人者の医師による解説 再生医療での可能性持つ間葉系幹細胞 臨床試験の成果を期待 池田 宇一 地方独立行政法人 長野市民病院・病院長 MMJ.August 2019;15(4) 心筋細胞はほとんど増殖能を持たないため、急性心筋梗塞や拡張型心筋症で心筋細胞が壊死をきたすと心臓のポンプ機能は低下し、心不全に至ると生命予後は不良となる。近年、心筋細胞を再生して心不全を治療する細胞療法の研究が注目されている。間葉系幹細胞(mesenchymal stem cells: MSC)や心筋幹細胞などの体性幹細胞を用いた臨床試験はすでに数多く進められており、胚性幹細胞(ES細胞)や人工多能性幹細胞(iPS細胞)を用い た再生医療への期待も高まっている。 体性幹細胞の中で、再生医療の細胞ソースとして最も注目されている細胞はMSCである。MSC は1979年に見いだされ、1999年にヒト骨髄中にその存在が発見されてから、現在では多くの結合組織中に存在することが明らかにされている。 MSCは心筋細胞、内皮細胞、骨芽細胞、軟骨細胞、脂肪細胞、神経細胞や肝細胞などへ分化可能である。 心不全の再生医療の臨床試験において広く使用されている細胞は骨髄由来のMSCである。MSC は冠動脈内、あるいは心筋内に注入される。MSC 治療の作用機序については不明な点も多い。投与部位におけるMSCの心筋細胞への分化はわずかであり、心機能改善にはMSCから分泌される種々の液性因子による血管新生作用、抗アポトーシス作用、 抗炎症作用、免疫制御作用などの関与が大きいと推測されている。 本研究では、北米19施設で左室補助人工心臓 (LVAD)植え込みを実施する重症心不全患者159 例を対象に、植え込み時にMSCを心筋内に注入し、 有効性および安全性を第 II相無作為化試験で評価している。6カ月時点でLVADからの一時的離脱成功率は、MSC群61%、対照群58%で有意差は示されなかった。1年死亡率、再入院率、重篤な有害事 象の発現率も2群間で有意差はなかった。LVAD植え込み時のMSC心筋内注入は支持されない結果となった。 これまでに、虚血性心筋症患者の冠動脈内や心筋内にMSCを注入することにより、左室の収縮能やリモデリング、運動耐容能が改善するという臨床試験の結果がいくつか報告されている。一方、否定的な報告も多く、欧州心臓病学会(ESC)のワーキンググループも、細胞療法への期待はまだ実現していないと結論付けている。 MSCは再生医療における大きな潜在的可能性を有する多能性幹細胞である。今後、さらなる臨床試験によるevidence-based medicine(EBM)の確立が望まれる。
米国心臓病学会/米国心臓協会および欧州心臓病学会のガイドラインを支持するエビデンスレベル、2008-2018年。
米国心臓病学会/米国心臓協会および欧州心臓病学会のガイドラインを支持するエビデンスレベル、2008-2018年。
Levels of Evidence Supporting American College of Cardiology/American Heart Association and European Society of Cardiology Guidelines, 2008-2018 JAMA 2019 Mar 19 ;321 (11):1069 -1080. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【重要性】臨床上の意思決定は,臨床転帰を評価する複数の無作為化対照試験(RCT)から得られたエビデンスに基づくことが理想的であるが,歴史的に,この種のエビデンスに完全に基づく臨床ガイドラインの推奨はほとんどない。 【目的】現在の主要循環器学会ガイドラインの推奨を支えるクラスと証拠レベル(LOE),およびLOEの経時変化を明らかにすることである。 【データ入手元】心臓血管学会のウェブサイトで確認された現在の米国心臓病学会/米国心臓協会(ACC/AHA)および欧州心臓病学会(ESC)の臨床ガイドライン文書(2008~2018)、および現在のガイドライン文書で参照されたこれらのガイドライン文書の直前の文書(1999~2014)。 研究選択]クラスおよびLOEによって整理された勧告を含む包括的なガイドライン文書。[データの抽出と統合]各ガイドライン文書について、推奨の数とLOEの分布(A[複数のRCTまたは単一の大規模RCTからのデータによって支持されている]、B[観察研究または単一のRCTからのデータによって支持されている]、C[専門家の意見のみによって支持されている])を決定した。 主要な成果と 【測定】複数のRCTからの証拠(LOE A)により支持されたガイドラインの推奨の比率を決定した。 【結果】現行のACC/AHAガイドライン26件(2930の勧告、中央値、ガイドラインあたり121の勧告[25~75%値、76~155])において、248の勧告(8.5%)がLOE A、1465(50.0%)がLOE B、1217(41.5%)がLOE Cとして分類されており、中央値はLOE A勧告の割合が7.9%となった(25-75%値、0.9%~15.2%)。現行のESCガイドライン25文書(3399の勧告,中央値,ガイドラインあたり130の勧告[25th-75thパーセンタイル,111-154])全体では,484の勧告(14.2%)がLOE A,1053(31.0%)がLOE B,1862(54.8%)がLOE Cと分類された. 【結論と関連性】主要な心臓血管学会のガイドラインにおける推奨事項のうち、複数のRCTまたは単一の大規模RCTからのエビデンスによって支持されているものはごくわずかであった。このパターンは、2008年から2018年にかけて有意義に改善されていないようである。 第一人者の医師による解説 RCTと相補的な実臨床データの知見 EBM発展に重要 山下 侑吾/木村 剛(教授) 京都大学大学院医学研究科循環器内科学 MMJ.August 2019;15(4) 医学・医療の進歩は、医学研究により推進されてきた。臨床医学の世界では、従来の経験に基づく医療から、科学的根拠に基づく医療(EBM)が、1980年代後半より提唱され、現在広く普及している。 EBMの目指すところは、最良の定量的データを基に、個々の患者での状況を考慮したうえで、客観的かつ効率的な診療を行うことと言える。これまでに循環器領域では、多数の臨床研究が実施されエビデンスが蓄積されてきた。異なる治療方法を比較 する際には、ランダム化比較試験(RCT)がゴールドスタンダードであった。 本論文では、2008~18年に、米国と欧州の循環器領域の主要学会(ACC/AHA、ESC)より発刊されたガイドラインの推奨事項の中で、そのエビデンスレベルの割合と経年的な推移が調査された。 同ガイドラインでは、個々の推奨事項を高い順にエビデンスレベル AからCに分類し、複数のRCT もしくは大規模な単一のRCTによる結果に基づいた推奨事項を、一番高いエビデンスレベル Aとし ている。 結果として、エビデンスレベル Aの推奨事項の割合は、8.5%(ACC/AHA)および14.2% (ESC)に過ぎず、その割合は経年的に大きな変化を認めなかったと報告している。循環器領域では、毎年数多くのRCTを含めた臨床研究が継続的に報告されている状況を考えると、本結果はやや意外な結果であったが、推奨事項のエビデンスレベル Cが減少し、Bが増加している傾向を見る限りは、 エビデンスが蓄積していることも示唆している。一方、より高いエビデンスレベルに裏打ちされた 推奨事項を増やすためには、RCTを含めた臨床研究がこれからも継続的に必要であることを示唆する報告であると考えられる。 今後も、異なる治療方法の比較においては、RCT がゴールドスタンダードであることに変わりはないと考えられるが、近年はRCTの限界も認識されつつある。EBMの目指すところである「個々の患者での状況を考慮したうえでの最良の診療」を日常臨床で実践するためには、RCTのみならず、実臨床での実態や問題点を明らかにするための「観察研究」 (リアルワールドデータ)からの知見も重要である。 これらの研究は、互いに相補的なものであると考えられ、EBMの発展のために今後もRCTを含めたさまざまな臨床研究が継続されることが期待される。 さらに、ガイドラインの推奨の多くが十分なエビデンスに基づかないことを考えると、ガイドラインは妄信すべきマニュアルではなく、推奨のエビデンスレベルと個々の患者の状況を考慮して患者にとってその時点で最良と考えられる治療法を決定するための重要な参考資料と捉えるべきであろう。
2型糖尿病における心血管および腎疾患の一次および二次予防のためのSGLT2阻害剤:心血管アウトカム試験のシステマティックレビューとメタアナリシス。
2型糖尿病における心血管および腎疾患の一次および二次予防のためのSGLT2阻害剤:心血管アウトカム試験のシステマティックレビューとメタアナリシス。
SGLT2 inhibitors for primary and secondary prevention of cardiovascular and renal outcomes in type 2 diabetes: a systematic review and meta-analysis of cardiovascular outcome trials Lancet 2019 Jan 5 ;393 (10166):31 -39. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】ナトリウム-グルコースコトランスポーター-2阻害剤(SGLT2i)の特定の心血管および腎アウトカムに対する効果の大きさ、および主要なベースライン特性に基づく異質性の有無については、依然として未定義である。 【METHODS】2型糖尿病患者を対象としたSGLT2iの無作為化プラセボ対照心血管アウトカム試験のシステマティックレビューおよびメタアナリシスを行った。2018年9月24日までに発表された試験をPubMedおよびEmbaseで検索した。データ検索と抽出は、標準化されたデータフォームを用いて行い、不一致はコンセンサスで解決した。有効性のアウトカムは、主要な心血管有害事象(心筋梗塞、脳卒中、心血管死亡)、心血管死亡または心不全による入院の複合、および腎疾患の進行であった。ハザード比(HR)と95%CIは試験間でプールされ、有効性の結果はベースラインでの動脈硬化性心血管系疾患の存在、心不全、および腎機能の程度によって層別化された。 【結果】同定された3つの試験から得られたデータ、34322人の患者(60-2%が動脈硬化性心血管系疾患を有する)、3342件の主要な心血管系有害事象、2028件の心血管系死亡または心不全による入院、766件の腎複合事象が含まれていた。SGLT2iは、主要な心血管イベントを11%減少させたが(HR 0-89 [95% CI 0-83-0-96]、p=0-0014)、動脈硬化性心血管系疾患のある患者でのみ有効性が認められ(0-86 [0-80-0-93])、動脈硬化性心血管系疾患のない患者では有効性が認められなかった(1-00 [0-87-1-16]、p for interaction=0-0501)。SGLT2iは、心血管死または心不全による入院のリスクを23%減少させ(0-77 [0-71-0-84]、p<0-0001)、動脈硬化性心血管疾患の有無や心不全の既往歴の有無にかかわらず同様の効果を示した。SGLT2iは腎疾患の進行リスクを45%減少させ(0-55 [0-48-0-64]、p<0-0001)、動脈硬化性心血管系疾患の有無にかかわらず同様の効果を示した。SGLT2iのベネフィットの大きさは、ベースラインの腎機能によって異なり、ベースラインの腎疾患が重度の患者では、心不全による入院の減少が大きく(p for interaction=0-0073)、腎疾患の進行の減少が小さかった(p for interaction=0-0258)。 【解釈】SGLT2iは、動脈硬化性の主要な有害心血管系イベントに対するベネフィットは中程度で、動脈硬化性の心血管系疾患が確立している患者に限られていると思われる。しかし、SGLT2iは、既存の動脈硬化性心血管系疾患や心不全の病歴にかかわらず、心不全による入院や腎疾患の進行を抑制するという点では、しっかりとした効果を発揮します。 第一人者の医師による解説 心血管病既往の有無にかかわらず 2型糖尿病治療の目標達成に寄与 辰巳 文則 川崎医科大学糖尿病・代謝・内分泌内科/加来 浩平 川崎医科大学・川崎医療福祉大学 MMJ.August 2019;15(4) 近年のSGLT2阻害薬に関する一連の心血管疾患アウトカム検証試験(CVOT)は、本クラス薬剤が主要心血管イベント(MACE)だけでなく、心不全や腎機能悪化のリスク抑制効果を発揮する可能性 を強く示唆している。本研究は背景が異なる2型 糖尿病患者を対象とした3つのCVOT(EMPA-REG OUTCOME、CANVAS Program、DECLARE-TIMI 58)のデータを統合し、試験開始時のアテローム 性心血管疾患(ASCVD)、心不全の既往や腎機能の程度により層別化して、MACE、心不全入院、全死亡、腎アウトカムの評価項目ごとに交互作用の有無を検討したメタアナリシスである。 対象 は 合計34,322人(60.2 % にASCVD、 11.3 % に 心不全 の 既往 )で、平均年齢 は63.5 歳(35.1%が 女性)であった。SGLT2阻害薬は MACEを11%有意に減少(ハザード比[HR], 0.89; 95% CI, 0.83~0.96;P=0.0014)させたが、 ASCVD既往なしの患者では有意ではなかった(P =0.0501)。ただし、心血管死・心不全入院については、ASCVDや心不全の既往の有無にかかわらずリスクを23%低下(HR, 0.77;95% CI, 0.71 ~0.84;P<0.0001)させた。脳卒中リスクには影響しなかった。 腎アウトカムについては、SGLT2阻害薬が腎機 能悪化、末期腎不全、腎死のリスクを45%低下(HR, 0.55;95% CI, 0.48~0.64;P<0.0001)させ、 その腎保護効果はASCVDの存在には左右されず、 開始時の腎機能が保たれているほど強い効果を示す傾向があっ た(eGFR 60mL/分 /1.73m2未満で33%、60以上~90未満で44%、90以上で 56%の減少)。逆に、心不全による入院リスクは開始時のeGFRが低いほど減少した(それぞれ40%、 31%、12%の減少)。 下肢切断と骨折のリスク上昇が1つの研究でのみ示された(1)が、異質性が高く、後に同薬で行われたCREDENCE試験では明らかな上昇がなかった(2)。 また、糖尿病ケトアシドーシスのリスクはSGLT2 阻害薬で約2倍であったが、発生そのものがまれであった。 今回の結果は、SGLT2阻害薬がMACEに対する 2次予防として有用である一方、心不全入院および腎機能悪化のリスク低下は心血管疾患既往の有無にかかわらず高い有益性が期待できるが、開始時の腎機能によって効果が影響される可能性を示唆するものである。 本メタアナリシスによってSGLT2阻害薬は心 血管疾患や心不全の既往の有無にかかわらず2型 糖尿病治療の目標達成に寄与しうる薬剤であることがより明確になったといえよう。 1. Neal B, et al. N Engl J Med. 2017;377(7):644-657. 2. Perkovic V, et al. N Engl J Med. 2019 Apr 14. doi:10.1056/NEJMoa1811744.
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