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Ⅰ度房室ブロック・右脚ブロック・左軸変異をみたら?
Ⅰ度房室ブロック・右脚ブロック・左軸変異をみたら?
Point ①レントゲンで肺野と心臓の状況をチェックしましょう ・肺尖部は問題なし ・肺過膨張気味 ・心拡大なし ・肺門中心性の肺血管陰影はやや増強気味 ・左の2・3弓が突出=左房拡大が疑われる ②心電図では肢誘導と胸部誘導を分けてチェックしましょう 【肢誘導】 ・Ⅰ誘導:上向き、Ⅱ誘導:下向き = 異常左軸 ⇒左脚のヘミブロックの可能性が高い 【胸部誘導】 ・P派~QRSの立ち上がりが200ms ⇒Ⅰ度房室ブロックだと考えられる ・小さなQ波が出てRSパターンが出現 ⇒ 右脚ブロック型だと考えられる ①右脚ブロック型、②左脚ヘミブロック、③Ⅰ度房室ブロック ⇒もう一本切れると、「3束ブロック(3肢ブロック)」の可能性がある ⇒全部切れてしまうと、「完全房室ブロック」・「高度房室ブロック」への進展リスクが非常に高い 結論 一度房室ブロック、右脚ブロック、左軸変異をみたら三枝ブロックを疑い、失神に注意する ハトミル心不全、ハトミル心電図は2025年9月17日をもちまして、サービス提供を終了いたしました。 長らくのご利用ありがとうございました。なお、臨床に関する疑問や悩みを相談する場、ヒポクラ「全科横断カンファ」でも、心不全、心電図に関する、ご相談は可能でございますので、ぜひ、そちらにご相談をお寄せください。「ヒポクラ 全科横断カンファ」はこちら
急性尿閉とがんのリスク:デンマークの住民を対象としたコホート試験
急性尿閉とがんのリスク:デンマークの住民を対象としたコホート試験
Acute urinary retention and risk of cancer: population based Danish cohort study BMJ. 2021 Oct 19;375:n2305. doi: 10.1136/bmj.n2305. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【目的】急性尿閉初回診断後の泌尿生殖器がん、大腸がんおよび神経系がんのリスクを評価すること。 【デザイン】全国民を対象としたコホート試験。 【設定】デンマークの全病院。 【参加者】1995年から2017年までに急性尿閉のため初めて入院した50歳以上の患者75,983例。 【主要評価項目】一般集団と比較した急性尿閉患者の泌尿生殖器がん、大腸がんおよび神経系がんの絶対リスクおよび超過リスク。 【結果】急性尿閉初回診断後の前立腺がんの絶対リスクは、3ヵ月時点で5.1%(3,198例)、1年時点で6.7%(4,233例)、5年時点で8.5%(5,217例)であった。追跡期間が3ヵ月以内の場合、1,000人年当たり218例の前立腺がん超過症例が検出された。3ヵ月から12ヵ月未満の追跡では、1,000人年当たり21例の超過症例数が増加したが、12ヵ月を超えるとこの超過リスクは無視できるものとなった。追跡3ヵ月以内の超過リスクは、尿路がんが1,000人年当たり56例、女性の生殖器がんが1,000人年当たり24例、大腸がんが1,000人年当たり12例、神経系がんが1,000人年当たり2例であった。検討したがん種の多くで、超過リスクは追跡3ヵ月以内に限られていたが、前立腺がんおよび尿路がんのリスクは、追跡期間が3ヵ月から12ヵ月未満でも依然として高かった。女性では、浸潤性膀胱がんの超過リスクが数年にわたって認められた。 【結論】急性尿閉は、泌尿生殖器がん、大腸がん、神経系不顕性がんの臨床マーカーであると考えられる。急性尿閉を発症し、原因がはっきりと分からない50歳以上の患者では、不顕性がんの可能性を検討すべきである。 第一人者の医師による解説 急性尿閉では潜伏がんを考慮すべき 見落とし減らすため画像検査の実施も考慮 宮﨑 淳 国際医療福祉大学医学部腎泌尿器外科主任教授 MMJ. February 2022;18(1):17 急性尿閉は、突然の痛みを伴う排尿不能を特徴とし、直ちに導尿などを行い、膀胱の減圧が必要である。男性における急性尿閉の発症率は年間1,000人当たり2.2 ~ 8.8人で、推定発症率は70代では10%、80代では30%と、年齢とともに著しく上昇する(1)。男女比は13:1と推定されている。急性尿閉の根本的な原因のほとんどは良性であるが、急性尿閉は前立腺がんの徴候でもあり、他の泌尿器がん、消化器がんおよび神経系がんの徴候である可能性を示唆する研究もある。 そこで本論文では、デンマーク全国規模コホートから得たデータを用いて、急性尿閉による初回入院患者約76,000人における泌尿生殖器がん、大腸がん、神経系がんのリスクを一般集団と比較・検討した。その結果、急性尿閉の初診後の前立腺がんの絶対リスクは、3カ月後で5.1%、1年後で6.7%、5年後で8.5%であった。追跡期間3カ月以内において、前立腺がんの過剰症例が1,000人・年当たり218人検出された。さらに追跡期間3カ月~12カ月未満において1,000人・年当たり21人の過剰症例が検出されたが、12カ月を超えると過剰リスクは無視できる程度になった。追跡期間3カ月以内において、尿路系がんの過剰リスクは1,000人・年当たり56人、女性の生殖器系がんは1,000人・年当たり24人、大腸がんは1,000人・年当たり12人、神経系がんは1,000人・年当たり2人であった。ほとんどのがんで、過剰リスクは追跡期間3カ月以内に限定されたが、前立腺がんと尿路系がんのリスクは追跡期間3カ月~12カ月未満でも高いままであった。結論として、急性尿閉は、潜伏性尿路性器がん、大腸がん、神経系がんの臨床マーカーとなる可能性があるため、急性尿閉を呈し、明らかな基礎疾患を持たない50歳以上の患者には、潜伏がんを考慮すべきであると考えられた。 本研究が使用したデンマーク全国患者登録(Danish National Patient Registry)には人口約580万人の同国内のあらゆる病院に入院したすべての患者のデータが含まれていることから、今回のような全国規模の研究が可能である。この人口ベースのコホート研究において、泌尿生殖器がん、大腸がん、神経系がんが急性尿閉の原因となることが示唆された。我々泌尿器科医は、急性尿閉の患者を診察した際に前立腺肥大症と前立腺がんは常に念頭においているが、なかなか大腸がんや神経系疾患まで考慮することは少ない。見落としを減らすためにも、CTなどの画像検査を行うように心がける必要があるかもしれない。 1. Oelke M, et al. Urology. 2015;86(4):654-665.
心血管疾患1次予防に用いるスタチンと有害事象の相関:系統的レビューとペアワイズネットワーク用量反応メタ解析
心血管疾患1次予防に用いるスタチンと有害事象の相関:系統的レビューとペアワイズネットワーク用量反応メタ解析
Associations between statins and adverse events in primary prevention of cardiovascular disease: systematic review with pairwise, network, and dose-response meta-analyses BMJ. 2021 Jul 14;374:n1537. doi: 10.1136/bmj.n1537. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【目的】心血管疾患の1次予防に用いるスタチンと有害事象の相関を評価し、その相関はスタチンの種類や投与量によってどのように変化するかを検討すること。 【デザイン】系統的レビューとメタ解析。 【データ入手元】既報の系統的レビューおよび2020年8月までのMedline、EmbaseおよびCochrane Central Register of Controlled Trialsを検索して試験を特定した。 【レビュー方法】心血管疾患歴のない成人を対象に、スタチンとスタチン以外の対照または他の種類のスタチンを比較した無作為化比較試験およびスタチンの投与量別に比較した無作為化比較試験を対象とした。 【主要評価項目】自己報告による筋症状、臨床的に確認した筋疾患、肝機能障害、腎機能不全、糖尿病、眼症状などのよくみられる有害事象を主要評価項目とした。心筋梗塞、脳卒中、心血管疾患による死亡などを有効性の副次評価項目とした。 【データ統合】ペアワイズメタ解析を実施し、スタチンとスタチン以外の対照の間で各転帰のオッズ比および95%信頼区間を算出し、1年間投与した患者1万人当たりの事象発生件数の絶対リスク差を推定した。ネットワークメタ解析を実施し、スタチンの種類別に副作用を比較した。Emaxモデルを用いたメタ解析により各スタチンによる副作用の用量反応関係を評価した。 【結果】計62の試験を対象とし、参加者が計120,456例、平均追跡期間が3.9年であった。スタチンにより自己報告による筋症状(21報、オッズ比1.06(95%CI 1.01~1.13);絶対リスク差15(95%CI 1~29)、肝機能障害(21報、オッズ比1.33(1.12~1.58);絶対リスク差8(3~14))、腎機能不全(8報、オッズ比1.14(1.01~1.28);絶対リスク差12(1~24))および眼症状(6報、オッズ比1.23(1.04~1.47);絶対リスク差14(2~29))のリスクが上昇したが、臨床的に確認した筋疾患および糖尿病のリスクの上昇はみられなかった。このリスクの上昇は、主要心血管事象のリスク低下の価値を上回ることはなかった。アトルバスタチン、lovastatin、ロスバスタチンにそれぞれ一部の有害事象との相関が認められたが、スタチンの種類に有意差がほとんど認められなかった。Emaxで用量反応関係によりアトルバスタチンが肝機能障害に及ぼす影響が認められたが、他のスタチンと副作用の用量反応関係については結論に至らなかった。 【結論】心血管疾患の1次予防に用いるスタチンに起因する有害事象のリスクは低く、心血管疾患予防の有効性を上回るものではなかった。この結果は、スタチンのリスクと便益の比が一般的に良好であることを示唆している。安全性に関する懸念事項を考慮に入れ、治療開始前にスタチンの種類や投与量を調整することを支持する科学的根拠は少なかった。 第一人者の医師による解説 1次予防におけるスタチンより長期での安全性は今後の課題 岡﨑 啓明 自治医科大学内分泌代謝学部門准教授 MMJ. February 2022;18(1):12 コレステロール管理に関する現在のガイドラインでは、心血管リスクが高い人ほど、低比重リポ蛋白コレステロール(LDL-C)をしっかりと下げることが基本理念となっている。心血管リスクが高く再発予防を目的とした場合、スタチン服用の意義は医者にも患者にも受け止めやすいであろう。しかし、1次予防では、心血管リスクが実感しづらいこともあり、スタチンの有益性(benefit)が本当に有害性(harm)を上回るのか、悩ましく感じる局面もある。2次予防目的のスタチン使用については、これまで多くの臨床試験から、有害性よりも有益性の方が大きいことが明らかとなっている。一方、1次予防では、もともと心血管リスクが低く、スタチンの有益性は2次予防に比べれば小さくなるため、有害性についてより慎重な検討が必要となる。例えば、スタチンを服用しているためになんとなく筋肉が痛いと思ってしまう“ノセボ効果”によって、有害性が過大評価される可能性もあり(1)、有害事象の定義を明確にしながら、正しい結論を得る必要がある。 そこで本論文では、1次予防でのスタチンと有益性・有害性の関連についてメタ解析を行った。筋障害については、定義を明確にし、自覚的筋症状と、他覚的筋疾患に分けて解析した。その結果、スタチンに関連して、自覚的筋症状、肝障害、腎障害、眼障害が有意に増加したが、リスク上昇はいずれもわずかであった。他覚的筋疾患については有意な増加を認めなかった。スタチンの種別検討では、有害事象の発現率に明らかな違いは認めず、またスタチンの用量別の検討では、有害事象の用量依存性は明らかではなかった(これについては異なる試験の結果の比較という方法論的問題もあるかもしれないが)。以上から、著者らは、心血管疾患の1次予防で、スタチンの有益性は有害性を上回る、と結論している。 コレステロールは、コレステロールの高さx年数の積算値的に心血管リスクとなる(cholesterol x years risk)(2)。心血管リスクの高い人ほどコレステロールを低くする、“the lower, the better”という基本理念に加えて、生まれつきのコレステロール値が高い人(例えば家族性高コレステロール血症)ほど若いころから治療した方がよいという理念、“the lower, the earlier, the better”が確立されてきている(3)。では、何歳から処方を開始すべきかとなると、有益性 /有害性のバランスに悩んでしまうこともあるが、そのような場合にも、今回のような研究は参考となるだろう。ただし、より長期間で安全かどうかは、今回の研究からは明確ではない。古くからの治療薬だが、臨床的に重要な課題が残されている。 1. Herrett E, et al. BMJ. 2021;372:n135.(MMJ 2021 年 8 月号 ) 2. Cohen JC, et al. N Engl J Med. 2006;354(12):1264-1272. 3. Khera AV, et al. J Am Coll Cardiol. 2016;67(22):2578-2589.
心不全にみられる2次性僧帽弁逆流症の負担、治療および転帰:観察コホート試験
心不全にみられる2次性僧帽弁逆流症の負担、治療および転帰:観察コホート試験
Burden, treatment use, and outcome of secondary mitral regurgitation across the spectrum of heart failure: observational cohort study BMJ. 2021 Jun 30;373:n1421. doi: 10.1136/bmj.n1421. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【目的】心不全にみられる2次性僧帽弁逆流症(sMR)の有病率、長期転帰および治療基準を定義すること。 【デザイン】大規模コホート試験。 【設定】2010年から2020年までのオーストリア・ウィーン地域病院ネットワークのデータを用いた観察的コホート試験。 【参加者】心不全のサブタイプを問わないsMR患者13,223例。 【主要評価項目】sMRと死亡率の相関。ガイドライン診断基準により、心不全を駆出率低下、中間範囲の駆出率、駆出率維持の3つのサブタイプに分類し、患者を評価した。 【結果】1,317例(10%)が重症sMRの診断を受け、年齢上昇との相関が認められた(P<0.001)。この相関は、心不全のさまざまの重症度に認められ、駆出率が低下した患者が2,619例中656例(25%)と最も多かった。同一地域の同年齢および同性の集団と比較した重症sMR患者の死亡率が予想よりも高かった(ハザード比7.53;95%信頼区間 6.83~8.30;P<0.001)。軽症sMRやsMRがない心不全と比較すると、中等症sMRや重症sMRの死亡率が段階的に増加し、ハザード比が中等症sMRで1.29(95%信頼区間 1.20~1.38;P<0.001)、重症sMRで1.82(同1.64~2.02;P<0.001)であった。重症sMRと超過死亡率の相関は多変量解析後も変わらず、心不全の全サブグループに認められた(中間範囲の駆出率:ハザード比2.53(同2.00~3.19;P<0.001)、駆出率低下:1.70(同1.43~2.03;P<0.001)、駆出率維持:1.52(同1.25~1.85;P<0.001))。最先端の医療が利用でき、心不全の症例数も多く、弁膜疾患プログラムがあったが、重度sMRに対して弁形成術(7%)も弁置換術(5%)もほとんど施行されていなかった。低リスクの経カテーテル弁形成術(4%)もほぼ同じで、ほとんど施行されていなかった。 【結論】2次性僧帽弁逆流は全体的に頻度が高く、年齢とともに増加し、超過死亡率との相関が認められた。有害転帰との相関は心不全全体に認められたが、駆出率が中間範囲の患者と駆出率が低下している患者に特に顕著であった。このように転帰が不良であるが、外科的な弁形成術や弁置換術がほとんど施行されていない。同じく低リスクの経皮的弁形成も、治療による最も大きな便益が期待できる心不全サブタイプにさえほとんど施行されていない。今回のデータは、特に高齢化社会で心不全の増加が予想されることを踏まえて、治療に対する需要が高まっていることを示唆するものである。 第一人者の医師による解説 患者利益に資するにはエビデンス不十分 質の高い無作為化試験が望まれる 児玉 隆秀 虎の門病院循環器センター内科部長 MMJ. February 2022;18(1):11 2次性僧帽弁閉鎖不全症(sMR)は心不全患者に多くみられ、生活の質(QOL)低下や予後悪化につながる。しかし、sMRは罹患頻度が低く、先行研究の主な対象は疾患特異性や疫学的特徴の違う原発性 MRであったため、転帰や標準的治療に関する知見は不十分であった。 本論文は、心不全に合併するsMRの疫学的特徴、心不全サブタイプと予後との関連、最先端施設での治療の現状を明らかにすべく、ウィーン医科大学の医療記録と超音波データベースを用いたコホート研究の報告である。心不全とsMRを合併する患者13,223人を対象とし、心不全はHFpEF(左室駆出率[LVEF]50%以上)、HFmrEF(LVEF 40~49%)、HFrEF(LVEF 40%未満)に分類された。全死亡を主要評価項目とし、sMR重症度別に解析した。中等度以上のsMRは心不全患者の40%を占め、LVEF低下や加齢とともに重症度が増加した。重度 sMRはsMRなし/軽度に比べ、すべての心不全サブタイプで死亡率上昇と関連し、特にHFmrEFで顕著であった。重度 sMRに対する弁形成術、弁置換術または経カテーテル弁形成術の実施率は15.2%にとどまっていた。 心不全患者の予後と直結するsMRに対する介入はもっと行われて然るべきであるが、実際には十分に行われていない理由として高齢患者の併存疾患数の多さが挙げられよう。手術リスク評価において年齢、併存疾患、心不全既往、収縮機能障害は重要な要素であり、ほとんどのsMR患者は手術適応外となる。また、外科的な弁の修復・置換がsMR患者の生存率改善につながるという確かなエビデンスはなく、ガイドラインでも内科的治療の重要性が強調されている。しかし、本研究は内科的治療の恩恵があまり明確でないHFmrEF患者においてsMRの死亡リスクが最も高いことを示し、低侵襲な経カテーテル僧帽弁形成術が可能となっている今日では、このような患者群に対して僧帽弁への介入がもっと行われるべきであることを指摘している。 sMRは心不全の原因ではなく、心不全の原因疾患に起因する心臓の構造的変化により2次的に生じてくるものである。また、体液量や内科的治療によりダイナミックに変化しうる。したがって、sMRへの介入のみでは不十分であり、「弁膜症治療のガイドライン 2020年改訂版」では第1に内科的治療の重要性が明記されている。一方、僧帽弁への介入は十分なエビデンスの蓄積がないことを理由に、虚血性 sMRを除いて推奨度は高くない。今回の結果からsMRに対する僧帽弁インターベンションの無作為化試験の必要性が認識され、最適な治療の方向性が見いだされれば、意義深い研究と思われる。
思春期児を対象としたBNT162b2 Covid-19ワクチンの安全性、免疫原性および有効性
思春期児を対象としたBNT162b2 Covid-19ワクチンの安全性、免疫原性および有効性
Safety, Immunogenicity, and Efficacy of the BNT162b2 Covid-19 Vaccine in Adolescents N Engl J Med. 2021 Jul 15;385(3):239-250. doi: 10.1056/NEJMoa2107456. Epub 2021 May 27. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)に対するワクチンは、ごく最近まで16歳未満の小児への緊急使用が許可されていなかった。この集団を保護し、対面学習や人の集まりを促進し、集団免疫に貢献するため、安全かつ有効なワクチンが必要である。 【方法】この進行中の国際共同プラセボ対照観察者盲検試験では、参加者を無作為によりBNT162b2ワクチン30μgを21日間隔で2回注射するグループとプラセボを注射するグループに1対1の割合で割り付けた。12~15歳にみられるBNT162b2に対する免疫応答の16~25歳の免疫応答に対する非劣性を免疫原性の目的とした。12~15歳のコホートで安全性(反応原性および有害事象)および確定した新型コロナウイルス感染症2019罹患(Covid-19;発症、2回目接種から7日以上経過後)に対する有効性を評価した。 【結果】全体で、12~15歳の思春期児2,260例に接種した。1,131例にBNT162b2、1,129例にプラセボを投与した。他の年齢群にみられたように、BNT162b2は安全性と副反応が良好で、反応原性事象も主に一過性で軽度から中等度であった(主に注射部位疼痛[79~86%]、疲労[60~66%]、頭痛[55~65%])。ワクチンに起因する重篤な有害事象はなく、重度の有害事象も全体的に少なかった。12~15歳の参加者にみられた2回目接種後SARS-CoV-2 50%中和抗体価の16~25歳に対する幾何平均比は、1.76(95%信頼区間[CI]、1.47~2.10)であり、両側95%信頼区間の下限が0.67を超える非劣性基準を満たし、12~15歳のほうが応答が大きいことが示された。SARS-CoV-2感染歴の根拠がない参加者では、BNT162b2接種群に2回目接種から7日以上経過後のCOVID-19発症例はいなかったが、プラセボ接種群に16例認められた。観察されたワクチンの有効性は100%(95%CI、75.3~100)であった。 【結論】12~15歳の小児に接種したBNT162b2ワクチンは、安全性が良好で、若年成人よりも免疫応答が大きく、COVID-19に対する高い有効性が示された。 第一人者の医師による解説 思春期児童は接種後の血管迷走神経反射の発生率が高く 対策を取ることが重要 新井 智 国立感染症研究所感染症疫学センター第11室室長 MMJ. February 2022;18(1):4 本論文は、ファイザー・ビオンテック社製のメッセンジャー RNAワクチン(BNT162b2)を評価している第1/2/3相試験(C4591001試験)の一部として、米国内の12 ~ 15歳の思春期児童約2,300人をBNT162b2 30μg群とプラセボ(生理食塩水)群に1:1の比で無作為に割り付け安全性、免疫原性、有効性を比較し、さらに米国以外の国からも登録した16 ~ 25歳の青年集団約1,100人と免疫応答での非劣性の検証等を行った結果の報告 である。1回目接種 受けたBNT162b2群1,131人とプラセボ群1,129人、2回目接種を受けたそれぞれ1,124人と1,117人の解析結果から、BNT162b2 30μ g接種における12 ~ 15歳の思春期児童の副反応は、全体的に一過性で軽度~中等度であった。最も頻度が高かった局所反応は注射部位の疼痛で79 ~ 86%、頻度の高かった全身性反応は倦怠感(60 ~ 66%)、頭痛(55 ~ 65%)、悪寒(28 ~ 42%)、筋肉痛(24 ~ 32%)であった。局所反応の頻度は1回目接種時の方が高かったが(1回目86%、2回目79%)、全身性反応の倦怠感、頭痛、悪寒、筋肉痛のいずれも2回目接種時の方が高頻度にみられた。 また、12 ~ 15歳の思春期児童と16 ~ 25歳の青年集団におけるBNT162b2 30μg接種の比較を行ったところ、12 ~ 15歳の思春期児童の1、2回目接種時の副反応発生率は、16 ~ 25歳の青年集団とほとんど違いがなく(16 ~ 25歳の青年:倦怠感60 ~ 66%、頭痛54 ~ 61%、悪寒25 ~40%、筋肉痛27 ~ 41%)、安全性に違いは認められなかった。有効性の指標である50%中和幾何平均抗体価(GMT)は、2回目接種1カ月後の12 ~15歳の思春期児童群では1,283.0、16 ~ 25歳の青年群では730.8、両集団間の幾何平均比は1.76(95%信頼区間 , 1.47 ~ 2.10)であり、免疫応答は12 ~ 15歳の思春期児童群の方が良好であった。 BNT162b2やモデルナ製スパイクバックのメッセンジャー RNAワクチンでは、初回よりも2回目接種の方が発熱、倦怠感、頭痛、悪寒などの全身性反応の発生割合が高い(1),(2)。これらの副反応への対応に関してはアセトアミノフェンの服用も選択肢として提案されており、事前に十分な情報提供を行い安心して接種を受けられる環境の提供が重要である。思春期児童では、ワクチン接種後の血管迷走神経反射の発生割合が他の年齢群に比べ高いため、横たわって接種を受ける、あるいは接種後30分程度様子を見るなど対策を取ることも重要である。 1. Polack FP, et al. N Engl J Med. 2020;383(27):2603-2615. 2. Baden LR, et al. N Engl J Med. 2021;384(5):403-416.
発熱がない尿路感染症男性に用いる7日間と14日間の抗菌薬治療の症状消失に対する効果の比較:無作為化臨床試験
発熱がない尿路感染症男性に用いる7日間と14日間の抗菌薬治療の症状消失に対する効果の比較:無作為化臨床試験
Effect of 7 vs 14 Days of Antibiotic Therapy on Resolution of Symptoms Among Afebrile Men With Urinary Tract Infection: A Randomized Clinical Trial JAMA. 2021 Jul 27;326(4):324-331. doi: 10.1001/jama.2021.9899. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【重要性】一般的な感染症の最適な治療期間を明らかにすることが、抗菌薬の効果を維持するための重要な戦略である。 【目的】発熱がない男性の尿路感染症(UTI)の治療にシプロフロキサシンまたはトリメトプリム/スルファメトキサゾールを使用する場合、7日間の治療が14日間の治療に対し非劣性であるかを明らかにする。 【デザイン、設定および参加者】米国退役軍人省の2つの医療センターで、症候性UTIと推定された発熱のない男性にシプロフロキサシンまたはトリメトプリム/スルファメトキサゾールを投与した無作為化二重盲検プラセボ対照非劣性試験(2014年4月から2019年12月にかけて登録;最終追跡日2020年1月28日)。適格男性1058例中272例を無作為化した。 【介入】担当医が処方した抗菌薬を7日間継続したのち、参加者を無作為化により8~14日目に抗菌薬治療を継続するグループ(136例)とプラセボを投与するグループ(136例)に割り付けた。 【主要評価項目】主要評価項目は、実際の抗菌薬治療終了から14日後までのUTI症状消失とした。非劣性マージンを10%とした。主解析にはas-treated集団(28回中26回以上服薬し、連続未服薬が2回以下の参加者)を用いた。治療のアドヒアランスに関係なく無作為化した全患者を副次解析の対象とした。試験薬投与中止後28日以内のUTI症状再発または有害事象を副次評価項目とした。 【結果】無作為化した272例(年齢中央値[四分位範囲]69[62~73]歳)のうち、100%が試験を完了し、254例(93.4%)をas-treated集団として主解析の対象とした。7日群の131例中122例(93.1%)および14日群の123例中111例(90.2%)に症状の消失が認められ(差2.9%[片側97.5%CI -5.2%~∞])、非劣性の基準を満たした。無作為化した患者を対象とした副次解析では、7日群の136例中125例(91.9%)および14日群の136例中123例(90.4%)に症状の消失が認められた(差、1.5%[片側97.5%CI -5.8%~∞])。7日群の131例中13例(9.9%)および14日群の123例中15例(12.9%)にUTI症状再発が認められた(差、-3.0%[95%CI -10.8~6.2%];P=0.70)。7日群の136例中28例(20.6%)および14日群136例中33例(24.3%)に有害事象が発現した。 【結論および意義】発熱はないがUTIが疑われる男性に対するシプロフロキサシンまたはトリメトプリム/スルファメトキサゾールの7日間投与が、抗菌薬治療後14日目までのUTI症状消失で14日間投与に対し非劣性であった。この結果は、発熱がない男性のUTI治療に用いるシプロフロキサシンまたはトリメトプリム/スルファメトキサゾールの14日間投与の代案として7日間投与を支持するものである。 第一人者の医師による解説 短期間でも効果は劣らないが白人の高齢者が多いなどさまざまな前提条件に留意 石倉 健司 北里大学医学部小児科学主任教授 MMJ. February 2022;18(1):21 さまざまな感染症で、抗菌薬投与は従来から行われているより短期間でも有効であることが示されている。しかし男性の無熱性尿路感染症に対する同様の検討は行われておらず、短期間投与の有効性が示されれば、特にグラム陰性菌に対する抗菌薬使用量の減少に寄与することが期待される。そこで本論文の著者らは、これらの患者を対象に米国の2つの退役軍人病院で、抗菌薬の7日間と14日間投与の非劣性検証デザインによる無作為化プラセボ対照試験を計画した。 試験方法はpragmaticであり、対象者は無熱性尿路感染症に対してすでに臨床的診断のもとにシプロフロキサシンまたはトリメトプリル /スルファメトキサゾールによる治療が開始されている男性患者の中から登録された。尿路感染症は症状により診断され、尿培養は推奨されているが必須でなかった。対象者は8日以降の治療に関して、すでに使用されている抗菌薬の継続群もしくはプラセボ投与群に無作為に割り付けられた。主要評価項目は治療遵守群における抗菌薬投与終了14日後の症状改善率とされ、非劣性マージンは効果の差10%以内と設定された。 計画では290人の登録が必要であったが、実際には272人が無作為化された(各群136人)。年齢中央値は各群とも70歳、白人は79%(7日治療群)と78%(14日治療群)、間歇的カテーテル使用は18%と17%、糖尿病の合併率は34%と44%、最も頻度の高い症状はともにdysuriaで68%と65%であった。主要評価項目である抗菌薬終了14日後の症状消失(治療遵守例254人で評価)は、7日治療群で93.1%、14日治療群で90.2%(群間差 ,2.9%;95% CI, -5.2%~∞)であり、事前に定めた非劣性の定義を満たしていた。272人全体での評価、試験終了後14日後での評価などでも結果は変わらなかった。有害事象でも大きな差はなかった。以上から、男性無熱性尿路感染症の症状改善効果に関して、抗菌薬の7日間投与は14日間投与に対して非劣性であることが示された。 本試験の結果に関しては、さまざま前提条件に留意することが必要である。すなわち、米国における白人の男性退役軍人を主な対象にしていること、糖尿病合併が多いこと、抗菌薬が2剤に限られていることなどである。一方、試験の実施には学ぶ点が多い。Pragmaticなことに加え、study personnelの協力の下、データベースから患者候補をリストアップして積極的に患者にアプローチして登録している。さらに電話、メールに加え、状況によっては実際に患者宅に訪問するなど、その後の進捗管理も整備されている。日本での臨床試験の実施においても、大いに参考にしたい。
2型糖尿病に用いる新規デュアルGIP/GLP受容体作動薬tirzepatideの有効性および安全性(SURPASS-1):二重盲検無作為化第III相試験
2型糖尿病に用いる新規デュアルGIP/GLP受容体作動薬tirzepatideの有効性および安全性(SURPASS-1):二重盲検無作為化第III相試験
Efficacy and safety of a novel dual GIP and GLP-1 receptor agonist tirzepatide in patients with type 2 diabetes (SURPASS-1): a double-blind, randomised, phase 3 trial Lancet. 2021 Jul 10;398(10295):143-155. doi: 10.1016/S0140-6736(21)01324-6. Epub 2021 Jun 27. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】医療が進歩したが、2型糖尿病患者の多くが治療目標を達成していない。そのため、新たな治療法の開発が求められている。食事療法および運動療法のみではコントロール不十分な2型糖尿病患者を対象に、新たなグルコース依存性インスリン刺激性ポリペプチド(GIP)受容体およびGLP-1受容体作動薬、tirzepatide単剤療法のプラセボと比較した有効性、安全性および忍容性を評価することを目的とした。 【方法】インド、日本、メキシコおよび米国の医療研究センターおよび病院計52施設で40週間にわたる二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験を実施した(SURPASS-1試験)。食事療法と運動療法のみではコントロール不十分な2型糖尿病があり、糖尿病の注射薬治療歴がない成人患者(18歳以上)を対象とした。コンピュータで生成したランダム配列を用いて、患者をtirzepatide(5mg、10mgまたは15mg)週1回投与とプラセボに1対1対1対1の割合で割り付けた。患者、治験担当医師、治験依頼者に治療の割り付けを伏せた。主要評価項目は、40週時点の糖化ヘモグロビン(HbA1c)の治療前からの平均変化量とした。この試験はClinicalTrials.govにNCT03954834として登録されている。 【結果】2019年6月3日から2020年10月28日までに適格性を評価した705例のうち、478例(治療前の平均HbA1c値7.9%[63mmol/mol]、年齢54.1[SD 11.9]歳、女性231例[48%]、糖尿病罹病期間4.7年、BMI 31.9kg/m2)を無作為化によりtirzepatide 5 mg(121例[25%])、tirzepatide 10 mg(121例[25%])、tirzepatide 15 mg(121例[25%])、プラセボ(115例[24%])に割り付けた。66例(14%)が試験薬を中止し、50例(10%)が早期に試験を中止した。40週時点で、HbA1cの治療前からの変化量、空腹時血糖、体重、HbA1cの目標値7.0%未満(<53mmol/mol)達成および5.7%未満(<39mmol/mol)達成について、tirzepatide全用量のプラセボに対する優越性が示された。tirzepatide 5mg群に1.87%(20 mmol/mol)、10mg群に1.89%(21mmol/mol)、15mg群に2.07%(23mmol/mol)の治療前からの平均HbA1c値低下がみられたが、それに対してプラセボ群に0.04%の増加(+0.4mmol/mol)がみられた。その結果、プラセボと比較した治療差の推定値は、tirzepatide 5mg群が-1.91%(-21mmol/mol)、10mg群が-1.93%(-21mmol/mol)、15mgが-2.11%(-23 mmol/mol)であった(いずれもP<0.0001)。tirzepatide群の方がプラセボ群よりもHbA1c目標値7.0%未満(<53 mmol/mol;87~92% vs 20%)および6.5%未満(<48mmol/mol;81~86% vs 10%)を達成した患者の割合が多く、tirzepatide群の31–52%およびプラセボ群の1%が目標値5.7%未満(<39mmol/mol)達成した。tirzepatideにより、用量依存性に7.0~9.5kgの体重減少がみられた。tirzepatide群に最も多くみられた有害事象は、軽度ないし中等度で一過性の消化管事象であり、悪心(12~18% vs 6%)、下痢(12~14% vs 8%)、嘔吐(2~6% vs 2%)などがあった。tirzepatide群には、臨床的に重要ではない低血糖(54mg/dL[3mmol/L]未満)または重度の低血糖は報告されなかった。プラセボ群に死亡が1件発生した。 【解釈】tirzepatideにより、低血糖リスクが上昇することなく、血糖コントロールおよび体重に強固な改善が認められた。安全性はGLP-1受容体作動薬のものと一致しており、2型糖尿病の治療にtirzepatide単剤療法を用いうる可能性を示唆するものである。 第一人者の医師による解説 低血糖を伴わずに血糖を正常化させることで心血管イベント低減を期待 篁 俊成 金沢大学大学院医学系研究科内分泌・代謝内科学教授 MMJ. February 2022;18(1):13 現在臨床応用されているグルカゴン様ペプチド-1受容体作動薬(GLP-1RA)は血糖降下作用と体重減少作用を有する。同じインクレチンであるグルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド(GIP)もインスリン分泌を促進し、視床下部の受容体を介して体重を減少させるが、2型糖尿病におけるインスリン分泌促進作用は明確でない。食事誘発性肥満モデルマウスでは、GLP-1とGIPの併用により、満腹感が増大し、甘みへの嗜好が減少した。 チルゼパチドはGIPおよびGLP-1の両受容体を刺激する合成ペプチドで、第2B相試験ではチルゼパチド(15 mg週1回皮下投与)はプラセボやGLP-1RAのデュラグルチドに比べ血糖と体重のコントロールで優位だったが、悪心など消化器系副作用の頻度も高かった。本論文は、消化器症状の忍容性を高める目的で、より低用量のチルゼパチドを2型糖尿病患者に投与し、血糖コントロール効果と安全性を検討した第3相 SURPASS-1試験の報告である。対象患者は5、10、15 mgのチルゼパチド群またはプラセボ群に割り付けられた。 その結果、40週の時点においてチルゼパチドの全群で、プラセボ群に比べ、HbA1c、空腹時血糖、体重、HbA1c 7.0%未満 お よ び5.7%未満達成率が有意に改善した。主要評価項目である40週でのベースラインからのHbA1c平均変化量は、チルゼパチド 5mg群-1.87%、10mg群-1.89%、15mg群-2.07%に対し、プラセボ群は+0.04%であった。チルゼパチドの全群で、プラセボ群に比べ、体重もより減少した。チルゼパチド群におけるHbA1c降下は20週でプラトーに達したが、体重減少は40週まで続いた。すべてのチルゼパチド用量群で、プラセボ群と比較し、総コレステロール、中性脂肪、HOMA-Rが有意に低下し、高比重リポ蛋白コレステロールが有意に上昇した。一方、有害事象に起因する試験薬中止率、有害事象が1件以上発現した患者の割合、総有害事象数に有意な群間差はなかった。チルゼパチドの主な有害事象は軽度~中等症の嘔気・下痢・嘔吐などの消化器症状であり、経過中に軽快した。消化器症状による試験薬中止率はチルゼパチド群で2~7%、プラセボ群で1%だった。両群ともに重度低血糖と膵炎の報告はなかった。 チルゼパチド群のHbA1c 7.0%未満達成率は87~92%で、他のGLP-1RA単独療法の既報値(週1回エキセナチド 63%、デュラグルチド 61~63%、セマグルチド 72~74%)を上回る。今回チルゼパチドの用量依存性がみられなかったのは、ほぼ正常レベルまで血糖降下が得られたためと思われる。GIP受容体作動薬の心血管への作用は検討段階であるが、チルゼパチドにより低血糖を伴わずに血糖を正常化させることで、心血管イベント低減が期待される。
動脈血栓塞栓症のリスクが高い患者に用いる低分子ヘパリンによる術後橋渡し療法(PERIOP2試験):二重盲検無作為化比較試験
動脈血栓塞栓症のリスクが高い患者に用いる低分子ヘパリンによる術後橋渡し療法(PERIOP2試験):二重盲検無作為化比較試験
Postoperative low molecular weight heparin bridging treatment for patients at high risk of arterial thromboembolism (PERIOP2): double blind randomised controlled trial BMJ. 2021 Jun 9;373:n1205. doi: 10.1136/bmj.n1205. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【目的】心房細動患者および機械弁を留置した患者を対象に、待期手術のためにワルファリン投与を一時的に中止した場合のダルテパリンによる術後橋渡し療法について、プラセボと比較した有効性および安全性を明らかにすること。 【デザイン】前向き二重盲検無作為化比較試験。 【設定】2007年2月から2016年3月までのカナダおよびインドの血栓症研究機関10施設。 【参加者】手術前にワルファリンを一時中止する必要がある18歳以上の心房細動患者および機械弁を留置した患者計1,471例。 【介入】手術後、無作為化によりダルテパリン群(821例;1例が無作為化直後に同意撤回)またはプラセボ群(650例)に割り付けた。 【主要評価項目】術後90日以内の主要な血栓塞栓症(脳卒中、一過性脳虚血発作、近位深部静脈血栓症、肺塞栓症、心筋梗塞、末梢血管塞栓症または血管死)およびInternational Society on Thrombosis and Haemostasis基準に基づく大出血。 【結果】術後90日以内の主要な血栓塞栓症発生率は、プラセボが1.2%(650例中8件)、ダルテパリン群が1.0%(820例中8件)であった(P=0.64、リスク差-0.3%、95%CI -1.3~0.8)。大出血発生率は、プラセボ群が2.0%(650例中13件)、ダルテパリン群が1.3%(820例中11件)であった(P=0.32、同-0.7%、-2.0~0.7)。結果は、心房細動群および機械弁群で一致したものであった。 【結論】手術のためワルファリンを一時的に中止した心房細動患者および機械弁留置患者に術後のダルテパリンによる橋渡し療法を実施しても主要な血栓塞栓症予防に対して有意な便益は認められなかった。 第一人者の医師による解説 術前にヘパリン置換を行った場合機械弁患者群でも術後ヘパリン置換は血栓塞栓症予防に必要ないことを示唆 松下 正 名古屋大学医学部附属病院輸血部教授 MMJ. February 2022;18(1):20 心房細動や機械式心臓弁を有し、観血的手技のためにワルファリンの中断が必要な場合、ヘパリンによるブリッジング(いわゆるヘパリン置換)が有益であるかどうかは議論が続いている。2015年発表のBRIDGE試験では、低分子ヘパリン(LMWH)によるブリッジングは必要ないとの結論に至ったが(1)、同試験の対象者として機械弁や最近の血栓症、大出血既往や高出血リスク手技、腎機能障害など複雑なケアを受ける患者は除外されていた。本論文の著者らは、今回報告されたPERIOP2試験に先立つ単群多施設共同パイロット試験(2)において、LMWH(ダルテパリン;日本ではフラグミン®として発売。ただし保険適用は体外循環時血液凝固防止[透析]と播種性血管内凝固症[DIC]のみ)によるブリッジングを検討し、手技後の血栓症発生(発生率3.1%)の75%は手技後の出血事象により抗凝固療法を中止した患者に発生しており、一方で術前の投与は安全であると考えられたことから、今回術前にLMWHを投与し、術後のLMWHもしくはプラセボ投与による、出血イベントおよび血栓塞栓症の発生率を比較する無作為化対照試験を実施した。なおこの試験の対象者には、BRIDGE試験で除外された機械弁患者は含まれていたが、複数の機械弁、機械弁ありで脳卒中または一過性虚血発作歴のある患者は除外された。そのほか、活動性出血、血小板数10万未満、脊椎や脳外科手術、腎機能障害患者は本試験でも除外された。 対象は心房細動または機械式心臓弁を有する18歳以上の患者1,471人で、CHADS2スコアの平均は2.42、患者の41.2%が3.0以上であった。アスピリンは24.5%の患者が服用していた。手術後90日以内の国際血栓止血学会(ISTH)基準による重大な血栓塞栓症の発生率はプラセボ群1.2%(8/650)、ダルテパリン群1.0%(8/820)で有意差はなく(リスク差-0.3%;95%信頼区間[CI],-1.3 ~ 0.8;P=0.64)、大出血の発生率もプラセボ群2.0%(13/650)、ダルテパリン群1.3%(11/820)と有意差がなかった(リスク差-.7;95% CI,-2.0~0.7;P=0.32)。この結果は心房細動群と機械式心臓弁群でも一貫していた。機械弁患者には依然としてビタミン K拮抗薬が抗凝固薬として選択されており、この患者群でも重大な血栓塞栓症の予防に術後ブリッジングが必要ないことが示された。 1. Douketis JD, et al. N Engl J Med. 2015;373(9):823-833. 2. Kovacs MJ, et al. Circulation. 2004;110(12):1658-1663.
大血管または小血管の病変に起因する脳卒中患者の心房細動検出に用いる長期心臓モニタリングと通常治療の効果の比較:STROKE-AF無作為化試験
大血管または小血管の病変に起因する脳卒中患者の心房細動検出に用いる長期心臓モニタリングと通常治療の効果の比較:STROKE-AF無作為化試験
Effect of Long-term Continuous Cardiac Monitoring vs Usual Care on Detection of Atrial Fibrillation in Patients With Stroke Attributed to Large- or Small-Vessel Disease: The STROKE-AF Randomized Clinical Trial JAMA. 2021 Jun 1;325(21):2169-2177. doi: 10.1001/jama.2021.6470. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【重要性】大血管または小血管の病変に起因する虚血性脳卒中患者では、心房細動(AF)のリスクが高いと考えられておらず、この集団でのAF発症率は明らかになっていない。 【目的】12ヵ月間の追跡で検討した大血管または小血管の病変に起因する虚血性脳卒中患者のAF検出で、長期心臓モニタリングが通常治療より有効性が高いかどうかを明らかにすること。 【デザイン、設定および参加者】STROKE-AF試験は無作為化(1対1)多施設共同(米国の33施設)臨床試験であり、2016年4月から2019年7月までに患者496例を登録し、2020年8月まで主要評価項目を追跡した。60歳以上の患者または脳卒中の危険因子が1つ以上ある50~59歳の患者で、植込み型心臓モニタ(ICM)植込み前10日以内に大血管または小血管の病変に起因する指標となる脳卒中を発症した患者を適格とした。 【介入】患者を無作為化により、指標となる脳卒中から10日以内にICMを植え込む介入群(242例)、12誘導心電図やホルター心電図によるモニタリング、遠隔モニタリング、発作時心電図記録計などの施設ごとの標準治療を実施する対照群(250例)に割り付けた。 【主要評価項目】12ヵ月間での30秒以上持続したAFの発症。 【結果】無作為化した492例(平均[SD]年齢、67.1[9.4]歳;女性185例[37.6%])のうち、417例[84.8%]が12ヵ月間の追跡を終了した。CHA2DS2-VASc(うっ血性心不全、75歳以上、糖尿病、脳卒中または一過性脳虚血発作、血管疾患、65~74歳、性別)スコア中央値(四分位範囲)は5(4~6)であった。12ヵ月時点のAFの検出率は、ICM群の方が対照群よりも有意に高かった(27例[12.1%] vs 4例[1.8%];ハザード比、7.4[95%CI、2.6~21.3];P<0.001)。ICMを植え込んだICM群の221のうち、4例(1.8%)にICM処置に起因する有害事象が発現した(植込み部位感染1例、切開部出血2例、挿入部痛1例)。 【結論および意義】大血管または小血管の病変に起因する虚血性脳卒中患者にICMモニタリングを植え込んだ方が通常治療よりも12ヵ月間でAFを多く検出した。 第一人者の医師による解説 臨床的に将来の心原性脳塞栓症の発症予防に寄与するか否かはさらなる研究が必要 秋山 久尚 聖マリアンナ医科大学内科学(脳神経内科)病院教授 MMJ. February 2022;18(1):8 潜因性脳卒中・脳梗塞(cryptogenic stroke)、塞栓源不明脳塞栓症(ESUS)患者における心房細動(AF)の検出に長時間植込み型心臓モニター(ICM)が有用であることはCRYSTAL-AF試験で報告され、現在の治療ガイドラインでも継続的な心臓モニターが推奨されるに至っている。一方、大血管アテローム硬化(以下、アテローム血栓性脳梗塞)または小血管閉塞(以下、ラクナ梗塞)での発症機序は一般に動脈硬化、リポヒアリノーシスとされ、AFの寄与が高くないという考えから、長時間心臓モニターを含めたAFの検索は通常行われず、AFの検出(率)とその臨床的意義は不明である。 今回報告されたSTROKE-AF試験では、米国の包括的脳卒中センター 33施設において、2016年4月~ 2019年7月にかけてTOAST分類により心原性脳塞栓症、cryptogenic stroke、ESUSではなく、アテローム血栓性脳梗塞またはラクナ梗塞と診断された60歳以上、または50 ~ 59歳で、1つ以上の脳卒中危険因子(うっ血性心不全、高血圧、糖尿病、90日以上前の脳梗塞、その他の虚血性血管疾患など)を有する患者496人のうち4人を除外した492人(平均67.1歳、女性37.6%)を対象として登録している。これらを介入群と対照群1:1に無作為化し、介入群(242人)ではアテローム血栓性脳梗塞またはラクナ梗塞の発症後10日以内に長時間 ICM(Reveal LINQ™[Medtronic社])を植込み、対照群(250人)では短時間心電波形モニター(12誘導心電図、ホルタ心電図、テレメトリーまたはイベントレコーダー)を行い、2020年8月まで(平均331.4±90.9日)の観察期間中、どちらがAF(30秒以上持続)を検出する上で有用かを検討した。 その結果、12カ月間の追跡期間中、ICM群では27人(12.1%)、対照群では4人(1.8%)にAFが検出され(ハザード比 , 7.4)、検出時期の中央値はそれぞれ99日目と181日目、AF最長持続時間の中央値はICM群で88分であった。アテローム血栓性脳梗塞、ラクナ梗塞の2病型群でのサブグループ解析では、AF検出率もICM群(それぞれ11.7%、12.6%)、対照群(2.3%、1.0%)と病型にかかわらずICM群の方が有意に高値であったが、ICM群の両病型間では有意差はなかった。また事後解析で、12カ月間における脳梗塞再発率は介入群と対照群との間で有意差はなかった。 本試験では、アテローム血栓性脳梗塞またはラクナ梗塞でのAF検出においても長時間 ICMが有用なことが明らかとなった。長時間心臓モニタリングの汎用はAF検出の重要性に新しい視点を示したが、アテローム血栓性脳梗塞、ラクナ梗塞におけるAF検出が、臨床的に将来の心原性脳塞栓症の発症予防に寄与するか否かはさらなる研究が必要である。
うつ病スクリーニングに用いるHospital Anxiety and Depression Scale抑うつサブスケール(HADS-D)の精度:系統的レビューと個別参加者データのメタ解析
うつ病スクリーニングに用いるHospital Anxiety and Depression Scale抑うつサブスケール(HADS-D)の精度:系統的レビューと個別参加者データのメタ解析
Accuracy of the Hospital Anxiety and Depression Scale Depression subscale (HADS-D) to screen for major depression: systematic review and individual participant data meta-analysis BMJ. 2021 May 10;373:n972. doi: 10.1136/bmj.n972. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【目的】身体的な健康問題がある人のうつ病スクリーニングに用いるHospital Anxiety and Depression Scale抑うつサブスケール(HADS-D)の精度を評価すること。 【デザイン】系統的レビューおよび個別患者データのメタ解析。 【データ入手元】Medline、Medline In-Process and Other Non-Indexed Citations、PsycInfoおよびWeb of Science(開始から2018年10月25日まで)。 【レビュー方法】HADS-Dスコアおよび妥当性が裏付けられている診断面接に基づくうつ病の状態を適格なデータセットの対象とした。一次試験データおよび一次報告から抽出した試験レベルのデータを組み合わせた。HADS-Dのカットオフ閾値を5-15とし、半構造化面接(例、Structured Clinical Interview for Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)、構造化面接(例、Composite International Diagnostic Interview)およびMini International Neuropsychiatric Interviewを用いた試験を対象に、二変量ランダム効果メタ解析を用いて、統合した感度および特異度を別々に推定した。一段階メタ回帰を用いて、精度に参照基準分類および参加者データとの関連が認められるかを検討した。生データを提供していない試験が公表した結果を含めることにより結果に影響があるかを評価するため、感度分析を実施した。 【結果】適格試験168報のうち101報から個別参加者データを得た(60%;25,574例(適格参加者の72%)、うつ病患者2,549例)。半構造化面接、構造化面接およびMini International Neuropsychiatric Interviewのカットオフ値7以上で感度と特異度の合計が最大となった。半構造化面接を用いた試験(57件、10,664例、うつ病患者1,048例)で、カットオフ値7以上の感度および特異度が0.82(95%信頼区間0.76~0.87)および0.78(0.74~0.81)、カットオフ値8以上では0.74(0.68~0.79)および0.84(0.81~0.87)、カットオフ値11以上が0.44(0.38~0.51)および0.95(0.93~0.96)であった。参照基準でもサブグループ全体でも精度がほぼ同じであり、データを提供しなかった試験が公表した結果を含めた場合も同様であった。 【結論】うつ病をスクリーニングする際、HADS-Dカットオフ値7以上で感度と特異度の合計が最大となった。カットオフ値8以上でも感度と特異度の組み合わせはほぼ同じであったが、7以上を用いた場合よりも感度が低く、特異度が高かった。HADS-Dにより内科疾患のあるうつ病患者を特定するには、偽陰性を避けるために低いカットオフ値を用いて、偽陽性を減らし重症度が高い患者を特定するために高いカットオフ値を用いることができるであろう。 第一人者の医師による解説 より症状の強い患者の特定には高めのカットオフ値が適す 岸本 泰士郎 慶應義塾大学医学部ヒルズ未来予防医療・ウェルネス共同研究講座特任教授 MMJ. February 2022;18(1):7 身体疾患を有する患者のうつ病診断は、倦怠感、食欲低下、睡眠障害など双方の疾患に共通してみられる症状が多いこともあって、困難である。Hospital Anxiety and Depression Scale(HADS)は、身体疾患を有する人の不安障害とうつ病を同定するために開発された尺度で、身体疾患との重複を避けるため不眠、食欲不振、疲労などの身体的症状が含まれていない。医療現場で簡便に行えることから、十分に活用することが望まれる。 本論文は、HADSのうつ病サブスケールであるHADS-Dを用いた大うつ病のスクリーニング精度について系統的レビューとメタ解析を行い、大うつ病のスクリーニングのための最適なカットオフ値を検討した研究の報告である。 解析には、有効なインタビューで大うつ病が診断され、それにHADS-Dスコアを紐付けた研究データが用いられた。1次研究データと研究レベルのデータが抽出され、統合された。HADS-Dのカットオフ値の5 ~ 15について、二変量ランダム効果メタ解析を用い、感度と特異性を診断方法ごとに推定した。診断方法として、半構造化診断面接(例:Structured Clinical Interview for Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)、完全構造化面接( 例:Composite International Diagnostic Interview)、Mini International Neuropsychiatric Interview(MINI)を用いた研究が選択された。 選択基準を満たした研究168件のうち101件から個人データが得られた。半構造化診断面接、完全構造化面接、MINIそれぞれにおいて、カットオフ値を7以上とすることで、感度と特異度の合計が最大となった。半構造化面接を用いた研究では、カットオフ値を7以上としたところ、感度0.82(95%信頼区間[CI], 0.76 ~ 0.87)、特異度0.78(0.74 ~ 0.81)であった。同様に、カットオフ値を8以上とした場合、感度0.74(95% CI, 0.68 ~ 0.79)、特異度0.84(0.81 ~ 0.87)、カットオフ値を11以上とした場合、感度0.44(0.38 ~ 0.51)、特異度0.95(0.93 ~ 0.96)であった。精度は診断方法の違いにかかわらず同様であった。 このように、HADS-Dのカットオフ値を7以上とすることで、感度と特異度が最大となった。カットオフ値を8以上としても、感度と特異度の合計は同程度であったが、感度は低く、特異度は高くなった。偽陰性を避けるためには低いカットオフ値が、また偽陽性を減らし、より症状の強い患者を特定するには高めのカットオフ値が適しているだろう。
2017年の米国の老人介護施設にみられる抗菌薬の使用
2017年の米国の老人介護施設にみられる抗菌薬の使用
Antimicrobial Use in a Cohort of US Nursing Homes, 2017 JAMA. 2021 Apr 6;325(13):1286-1295. doi: 10.1001/jama.2021.2900. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【重要性】抗菌薬耐性の制御が公衆衛生の優先事項であるが、米国の老人介護施設での抗菌薬使用に関するデータが少ない。 【目的】老人介護施設入居者の抗菌薬使用割合を評価し、抗菌薬の種類と頻度の高い適応症を記載すること。 【デザイン、設定および参加者】2017年4月から2017年10月までに実施した抗菌薬使用に関する横断的な1日点有病率調査。最終調査日が2017年10月31日であった。新興感染症プログラム(EIP)に参加する10州から選定した161の老人介護施設に調査日時点で入居していた入居者15,276例を対象とした。EIPのスタッフが施設の記録を確認し、入居者のデータおよび調査時に投与されていた抗菌薬に関するデータを収集した。施設のスタッフやNursing Home Compareウェブサイトから施設に関するデータを入手した。 【曝露】調査時点で参加施設に居住。 【主要評価項目】調査対象を入居者総数で除した、調査時に抗菌薬を投与していた入居者数と定義した入居者100人当たりの抗菌薬使用割合。抗菌薬使用の多変量ロジスティック回帰モデルおよび各分類内の薬剤の割合。 【結果】対象とした老人介護施設の入居者15,276例(平均[SD]年齢77.6歳[13.7]、女性9,475例[62%])のうち、96.8%から完全なデータを入手した。全体の抗菌薬使用割合は、入居者100人当たり8.2(95%CI、7.8~8.8)であった。調査前30日以内に施設へ入居した入居者の抗菌薬使用率が高く(入居者100人当たり18.8;95%CI、17.4~20.3)、この入居者は中心静脈カテーテル(62.8;95%CI、56.9~68.3)または尿道カテーテル(19.1;95%CI、16.4~22.0)を留置している割合が高かった。抗菌薬は活動性感染症(77%[95%CI、74.8-79.2])に用いられることが最も多く、主に尿路感染症(28.1%[95%CI、15.5-30.7])の治療が理由であった。一方、18.2%(95%CI、16.1~20.1)が予防的投与であり、尿路感染症に対する投与が最も多かった(40.8%[95%CI、34.8~47.1])。フルオロキノロン系抗菌薬(12.9%;95%CI、11.3~14.8)が最も多く使用され、使用された抗菌薬の33.1%(95%CI、30.7~35.6)が広域スペクトラム抗菌薬であった。 【結論および意義】2017年に米国の老人介護施設で実施した横断的調査では、抗菌薬使用割合が入居者100人当たり8.2であった。この試験から、老人介護施設の入居者にみられる抗菌薬の使用パターンに関する情報が得られる。 第一人者の医師による解説 抗菌薬適正使用の指針や評価の検討のため介入前後の調査を繰り返し実施すべき 塩塚 美歌(医員)/岩田 敏(部長) 国立がん研究センター中央病院感染症部 MMJ. February 2022;18(1):22 近年、薬剤耐性菌対策は公衆衛生における重大な優先事項となり、抗菌薬適正使用の必要性が認識されている。一方で米国の療養施設(nursing home)は、長期療養目的だけでなく、リハビリテーション、創傷ケア、デバイス管理などを要する患者が急性期後治療を目的に入所しており、耐性菌の保菌や感染症発症のリスクが高く、耐性菌の温床となりうることが懸念されている。 本論文では、米国内161カ所の療養施設の入所者を対象に、2017年4月~10月のある1日における各施設での抗菌薬使用状況について調査した横断研究(点有病率調査)の結果を報告している。対象施設はカリフォルニア、ニューヨークなど10州で各々選択された地域にある公的医療保険認定施設の中から無作為に選ばれた。主要評価項目は入所者100人ごとの抗菌薬使用率である。対象者15,276人(平均年齢77.6歳、女性62%)のうち、1,258人(プール平均8.2%)に1,454剤の抗菌薬全身投与(経口、経消化管、筋肉内、静脈内、吸入のいずれかの経路)が行われており、そのうち1,082人(86%)で1種類、158人(12.6%)で2種類、18人(1.5%)で3または4種類の抗菌薬が投与されていた。使用率が最も高かったのは、急性期後治療目的の短期入所者、入所から間もない者やデバイス留置者であった。中でも、調査日前2日以内の入所者での使用率は21.0%と高かった。デバイスの中では、中心静脈カテーテル留置中の使用率が最も高く、調整オッズ比は11.1(95% CI, 8.5~14.5)であった。抗菌薬の80.4%は経口または経消化管投与、77.0%は感染症治療の目的で投与され(内科的予防投与18.0%)、適応症は29.0%が 尿路感染症、21.4 %が 皮膚軟部組織感染症、14.9%が呼吸器感染症であった。抗菌薬のクラスはニューキノロンが12.9%と最も多く、33.1%が広域抗菌薬であった。 同様の調査は各国で行われており、最近の欧州の長期療養施設における抗菌薬使用率は4.9%と報告されている1。また日本の介護老人保健施設における2019年の調査2では、調査票に回答した126施設(有効回収率8.4%)における入所者総数10,148人中、抗菌薬使用者は172人(1.7%)であり、肺炎、尿路感染症、蜂窩織炎の治療で第3世代セファロスポリン、キノロンが選択される傾向が認められた。施設の特徴の差や調査条件の違いなどを考慮すると、国際間での単純な比較は難しいが、これらの調査は抗菌薬適正使用推進活動で優先すべき介入事項の検討や、介入後の効果測定に不可欠な情報が得られるものであり、繰り返し実施されるべきである。 1. Ricchizzi E, et al. Euro Surveill. 2018;23(46):1800394. 2. 薬剤耐性(AMR)アクションプランの実行に関する研究班 . http://amr.ncgm.go.jp/pdf/20191125_report.pdf(2021 年 12 月アクセス)
重症左横隔膜ヘルニアに対する胎児手術の無作為化試験
重症左横隔膜ヘルニアに対する胎児手術の無作為化試験
Randomized Trial of Fetal Surgery for Severe Left Diaphragmatic Hernia N Engl J Med. 2021 Jul 8;385(2):107-118. doi: 10.1056/NEJMoa2027030. Epub 2021 Jun 8. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】観察研究から、胎児鏡下気管閉塞術(FETO)により、孤発性先天性横隔膜ヘルニアのため重度の肺低形成を来した胎児の生存率が向上することが示されているが、無作為化試験によるデータがない。 【方法】FETOなどの出生前手術の経験がある施設で非盲検試験を実施し、左側の重症孤発性先天性横隔膜ヘルニアの単生児を妊娠した女性を無作為化により、妊娠27~29週にFETOを施行するグループと待期的治療を実施するグループに1対1の割合で割り付けた。両群ともに、出生後に標準的な治療を実施した。主要評価項目は、新生児集中治療室の生存退室とした。優越性に関する中間解析を5回実施することを事前に定め、群逐次デザインを用いた。最大症例数を116例とした。 【結果】3回目の中間解析ののち、有効性が認められたため試験は早期に中止された。80例を対象としたintention-to-treat解析で、FETO群の出生児の40%(40例中16例)および待期的治療群の出生児の15%(40例中6例)が新生児集中治療室退室まで生存した(相対リスク2.67、95%CI 1.22-6.11、両側のP=0.009)。生後6ヵ月までの生存率は、生存退室率とほぼ同じであった(相対リスク、2.67;95%CI、1.22~6.11)。早期前期破水の発生率は、FETO群の女性の方が待期的治療群の女性よりも高く(47% vs. 11%;相対リスク、4.51;95%CI、1.83~11.9)、早産の発生率も同様であった(75% vs. 29%;相対リスク、2.59;95%CI、1.59~4.52)。胎児鏡下バルーン抜去に伴う胎盤裂傷のため緊急分娩後に1例が死亡し、バルーン抜去失敗のため1例が死亡した。試験中止後にデータが得られた11例を追加した解析で、FETO群の生存退室率が36%、待機的治療群では14%であった(相対リスク、2.65;95%CI、1.21~6.09)。 【結論】左側の重症孤発性先天性横隔膜ヘルニア胎児で、在胎27~29週時点でのFETO施行により、待期的治療群より生存退室率の有意な便益が得られ、この便益は生後6ヵ月まで持続した。FETOにより早期前期破水と早産のリスクが上昇した。 第一人者の医師による解説 出生前治療の有効性を示唆する注目すべき前向き研究 黒田 達夫 慶應義塾大学医学部小児外科教授 MMJ. February 2022;18(1):18 先天性横隔膜ヘルニアは横隔膜に形成不全による欠損孔があり、そこを通して腹部臓器が胸腔内に脱出する疾患である。胎生期の肺は脱出臓器により圧排され、欠損側のみならず対側の肺までもが低形成となり、生後に重篤な呼吸障害を呈する。死亡率は日本小児外科学会の2020年の集計でも4.7%に上り、特に重症例では世界的にも3割近い。この疾患は胎生期からの病態により肺低形成を来すため、古くから出生前治療の適応と考えられてきた。歴史的には1990年にHarrisonらが母体を開腹して妊娠子宮を開き、胎児手術を行った成功例を報告しているが、侵襲が大きい治療で成績は悪かった。その後、ボストンのグループが、胎生期の気道に閉塞機転のある場合に胎児肺発育が助長される現象を発見し、以後、本疾患に対する出生前治療として気管の閉塞が試みられてきた。 本論文で述べられているfetoscopic endoluminal tracheal occlusion(FETO)はその最終到達点といえる手技で、母体の経腹的に挿入された胎児鏡を胎児気管まで進め、胎児気管内でバルーンを膨らませてこれを分娩直前まで気管内に留置することにより胎児の肺発育を促進しようとするものである。この手技の有用性について今世紀はじめに欧米でそれぞれ臨床試験が行われた。先天性横隔膜ヘルニアの危険因子に健側肺容積を頭囲で除して標準化したlung-to-head ratio (LHR)があるが、米国ではLHR 1.4未満の重症例を対象に生後治療例とFETO施行例の生存率を比較した。その結果、生後治療例の生存率77%に対してFETO施行例の生存率は73%で出生前治療による有意の成績改善が得られず、以後、米国におけるFETO施行は限定的になっている。一方、その2年後に出された欧州の臨床試験の報告では、対象をLHR 0.9未満の超重症例にしたところ、生後治療例の生存率9%に対してFETO施行例では63.3%が生存したとしており、欧州ではその後も世界中に呼び掛けてFETOの臨床試験を継続していた。 本論文はその最新の成績として日本を含む世界12カ 国 のFETO施行群40例 と 通常治療群40例の成績を比較した報告で、FETO施行群の生存率が40%と先行報告よりも低いものの、通常治療群の生存率15%を大きく上まわったとする。これより従来の主張と変わらず、FETOは超重症例に対しては生後治療よりも有意に有効であると結論している。一方で米国の研究者の間では、医療レベルや臨床試験体制の異なる多くの国が参加している臨床試験でのデータの質の担保や、適応基準などを疑問視する向きもある。ともあれ出生前治療の有効性を示唆する前向き研究の報告として、注目すべきものと思われる。
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