ライブラリー 
糖尿病診断時の年齢とその後の認知症リスクの関連
Association Between Age at Diabetes Onset and Subsequent Risk of Dementia
JAMA. 2021 Apr 27;325(16):1640-1649. doi: 10.1001/jama.2021.4001.
原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む
上記論文の日本語要約
【重要性】2型糖尿病は、若年齢での発症に伴い有病率が上昇している。早期発症2型糖尿病の血管合併症は知られているが、認知症との関連については明らかになっていない。
【目的】糖尿病発症年齢が低いほど認知症発症との関連が強くなるかを明らかにすること。
【デザイン、設定および参加者】英国の住民対象試験、Whitehall II前向きコホート試験。1985~1988年に設置し、1991~1993年、1997~1999年、2002~2004年、2007~2009年、2012~2013年および2015~2016年に診察を実施、2019年3月までの電子診療録と紐づけた。最終追跡調査日は2019年3月31日であった。
【曝露】2型糖尿病(診察時の空腹時血糖値126mg/dL以上、医師による2型糖尿病の診断、糖尿病薬の使用、1985年から2019年までに病院に糖尿病の記録、のいずれかを満たす場合と定義)
【主要評価項目】電子診療録との紐づけによって確認した認知症の発症。
【結果】参加者10,095例(男性67.3%;1985~1988年に35~55歳)のうち、中央値で31.7年の追跡期間中、糖尿病1,710例、認知症639例が記録された。1,000人年当たりの認知症発症率は、70歳時点で糖尿病がなかった参加者が8.9、5年以内に糖尿病を発症した参加者が10.0、6~10年前に糖尿病を発症した参加者が13.0、10年より前に糖尿病を発症した参加者が18.3であった。多変量補正解析で、70歳時点で糖尿病ではなかった参加者と比べた認知症のハザード比は、10年より前の糖尿病発症が2.12(95%CI、1.50~3.00)、6~10年前の発症が1.49(95%CI、0.95~2.32)、5年以内の発症が1.11(95%CI、0.70~1.76)であった。線形傾向検定(P<0.001)から、2型糖尿病の発症年齢と認知症に段階的な関連が示された。社会人口統計学的因子、健康行動、健康関連測定値で補正した解析で、2型糖尿病発症時の年齢が5歳低下するごとに70歳時点の認知症ハザード比1.24(同1.06~1.46)との有意な関連が認められた。
【結論および意義】中央値で31.7年追跡したこの縦断コホート試験では、糖尿病の発症年齢が低いほど以後の認知症発症リスクが高くなった。
第一人者の医師による解説
認知症予防には中年期からの積極的な介入が望ましい
古和 久朋 神戸大学大学院保健学研究科教授
MMJ. February 2022;18(1):6
糖尿病がアルツハイマー病(AD)をはじめとする認知症の危険因子であることは、すでにさまざまな証拠から支持されている。例えば日本の久山町研究では耐糖能異常を有する人では有さない人よりもADの特徴的病理構造物である老人斑の蓄積量が約2倍多いことが示されている(1)。一方、2型糖尿病の発症年齢が若くなると死亡率や心血管イベント発生率を上昇させることは以前より示されていたものの、発症年齢と認知症発症の関連は検証されてこなかった。
本論文は、英国 Whitehall II前向きコホート研究の参加者を対象に中年期から高齢期にかけてこの関連について検討した研究の報告である。研究参加者10,095人(男性67.3%、ベースライン時点[1985 ~ 88年]年齢 35 ~ 55歳)のうち、中央値31.7年の追跡期間において、合計1,710人に糖尿病、639人に認知症の発症がみられた。解析の結果、35歳から75歳までの糖尿病発症年齢のデータでは、5年ごとに糖尿病の発症が早くなるほど、認知症の発症リスクが高くなることが示された(70歳時点で糖尿病を有する参加者と比較し、糖尿病発症が10年超早い参加者の認知症のハザード比[HR]は2.12[95% CI, 1.50~3.00]、糖尿病発症が6~10年早い参加者では1.49[95% CI, 0.95~2.32])。一方、遅発性の糖尿病はその後の認知症とは有意に関連しなかった。また、糖尿病のある人では、脳卒中の併存が認知症のリスクをさらに高めることが明らかになった。
本論文の結果は、認知症全体の発症リスクを評価したものであるが、その脳内病理学的変化がアミロイド PETなどにより長期の観察が可能となり、発症の20年以上前から老人斑の蓄積が開始されるなど、その病態生理に多くの知見が得られているAD(2)に限定して考えても極めてリーズナブルといえる。遅発性の糖尿病が発症リスクに影響しないことを考慮すると、糖尿病はAD初期からの病理学的変化である老人斑の蓄積に影響を与えうる可能性が高く、久山町研究の観察と合致するものである。
次の疑問は、糖尿病発症後のどの時期までに介入すれば認知症の発症を防げるのか、その際の介入は血糖コントロールのみでよいのか、J-MINDDiabetes研究(3)のように運動や認知機能訓練などの多因子介入を実施すべきか、という点であり、前向き研究の結果が待たれるところである。
1. Ohara T, et al. Neurology. 2011;77(12):1126-1134.
2. Jack CR Jr, et al. Lancet Neurol. 2010;9(1):119-128.
3. Sugimoto T, et al. Front Aging Neurosci. 2021;13:680341.