最新の記事すべて

重度 SGA児の陣痛発来前の介入的分娩 学業成績を悪化させる恐れ
重度 SGA児の陣痛発来前の介入的分娩 学業成績を悪化させる恐れ
Association Between Iatrogenic Delivery for Suspected Fetal Growth Restriction and Childhood School Outcomes JAMA. 2021 Jul 13;326(2):145-153. doi: 10.1001/jama.2021.8608. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【重要】胎児発育制限(FGR)が疑われる乳児の適時分娩は、死産防止と未熟児の最小化のバランスが重要であり、特にFGRが疑われる乳児の多くは正常に成長しているため。 【目的】FGRの疑いによる異所性出産と小児期の学校でのアウトカムとの関連について検討する。 【デザイン、設定および参加者】オーストラリア・ビクトリア州の2003年1月1日から2013年12月31日までの妊娠32週以上の出生の周産期データと、準備校、学校3・5・7年生での発達・教育テストのスコアを関連付けた後向き全人口コホート研究である。フォローアップは2019年に終了した。 【曝露】FGRの疑い有無、FGRの疑いに対する異所性分娩(分娩前の早期誘発または帝王切開と定義)の有無、妊娠年齢に対する小児の有無(SGA)であった。 【主要評および測定法】副次的アウトカムは,学校入学時に5つの発達領域のうち2つ以上が下位10パーセンタイルであること,3,5,7年生において5つの教育領域のうち2つ以上が国の最低基準以下であることとした。 【結果】出生集団705 937人の乳児において,出生時の平均妊娠期間は39.1週(SD,1.5),平均出生体重は3426(SD,517)gであった。出生集団は、発達の結果が181 902人、教育の結果が425 717人の子どもにつながった。FGRが疑われない重症SGA児(出生時体重3%未満)と比較して、FGRが疑われて出産した重症SGA児は早く生まれていた(平均妊娠週数37.9週 vs 39.4週)。また,就学時の発達不良のリスクも有意に高かった(16.2% vs 12.7%,絶対差 3.5%[95% CI,0.5%-6.5]); 調整オッズ比[aOR],1.5%[0.5%]).36 [95% CI, 1.07-1.74] )および3,5,7年生での教育的アウトカム不良(例えば,7年生では:13.4% vs 10.5%; 絶対差は2.9% [95% CI, 0.4%-5.5%]; aOR, 1.33 [95% CI, 1.04-1.70] )であった.)FGR の疑いで分娩された正常な成長(出生時体重≧10 パーセンタイル)の乳児と FGR の疑いがない乳児の間には,発達の結果において有意差はなかった(8.6% 対 8.1%; 絶対差 0.5% [95% CI, -1.1% ~ 2.0%] ); aOR, 1.17 [95% CI, 0.95 ~ 1.70])。45])または第3学年、第5学年、第7学年の教育的アウトカムが、早生まれ(平均妊娠週数、38.0週 vs 39.1週)であるにもかかわらず、低下した。 【結論と関連性】オーストラリアのビクトリア州で実施したこの探索的研究では、FGRの疑いがある重症SGA児の異所性出産は、FGRの疑いがない重症SGA児と比較してより悪い学校アウトカムと関連していた。FGRが疑われる正常な発育の乳児の異所性分娩は、FGRが疑われない正常な発育の乳児と比較して、より悪い学校での転帰とは関連しなかった。 第一人者の医師による解説 日本でも新生児集中治療後の児の中長期的なデータベースの構築が必要 飛彈 麻里子 慶應義塾大学医学部小児科准教授 MMJ. April 2022;18(2):52 子宮内胎児発育遅延(fetal growth restriction;FGR)と児の出生体重が10パーセンタイル未満(small for gestational age;SGA)は 混同されやすいが、出生時体重で明確に定義されるSGAと異なり、FGRは定義や診断基準、適正な管理方法が確立していない(1)。日本産科婦人科学会の診療ガイドライン(産科編)2020では、FGRを超音波検査で算出される胎児推定体重およびその経時的変化、羊水過少の有無や胎児腹囲計測値などから、総合的かつ臨床的に診断する、としている(2)。 FGRの原因は、胎児因子、母体因子、胎児付属物因子と多様だが、原因に関わらず、出生児がSGAだった場合は、周産期死亡や成長後の精神発達遅滞、生活習慣病罹患との関連が示唆されている。胎児の状態を慎重に評価し、臍帯血流や胎児頭囲成長の異常出現時には医療的介入による分娩とし、胎外での児の治療を適切な時期に始めることが、児の予後改善に寄与するとされている。一方で、在胎期間はすべての病態において、児の予後に最も強い影響を与える因子であり、臨床の場では産科と小児科との総合的な判断で分娩の時期を決定することになる(2)。 本論文は、FGRを指摘されていたSGAでは計画的分娩(陣痛発来前の分娩誘導による経腟分娩や帝王切開分娩)が学業成績不良と関連する可能性を報告した。この結果は、欧州の大規模無作為化比較試験(3)など既存の報告とは反対の結果である。著者らも認めているように、本研究には複数の重要な限界があり、この結果をそのまま臨床に応用することはできない。しかし、1つの州という医療や教育の条件が統一されている環境下での、10年間にわたる母集団70万人以上を背景とする42万人以上の学業評価の結果という膨大なコホート研究であり、今後さらに洗練された報告が期待される。 一方で、本論文は日本の新生児医療の課題を改めて浮き彫りにする。国際的に高く評価され、多くの重症 SGAを救命している我が国の新生児医療だが、新生児集中治療室退院後のフォローアップデータは限られている。特に学業成果については標準化された評価指標がなく、国内の施設間比較ですら困難である。本論文の結論に疑問を持つ日本の小児科医は多いと思うが、反論するための国内のデータは乏しい。すでに関係者間では認識されている課題だが、子どもたちによりよい医療を提供するためにも、日本の中長期的なフォローアップデータベースの構築が必要である。 1. Fetal Growth Restriction: ACOG Practice Bulletin, Number 227. Obstet Gynecol. 2021;137(2):e16-e28. 2. 産婦人科診療ガイドライン産科編(2020).「CQ307-1: 胎児発育不全(FGR)のスクリーニングは?」「CQ307-2:胎児発育不全(FGR)の取り扱いは?」https://www.jsog.or.jp/activity/pdf/gl_sanka_2020.pdf(2022 年 2 月閲覧) 3. Walker DM, et al. Am J Obstet Gynecol. 2011;204(1):34.e1-9.
『ヒポクラ×マイナビ』は、まるで総合病院。 あらゆる科の専門医が集っていて、フランクに情報交換できる!
『ヒポクラ×マイナビ』は、まるで総合病院。 あらゆる科の専門医が集っていて、フランクに情報交換できる!
私の「ヒポクラ × マイナビ」活用法 『ヒポクラ×マイナビ』は、まるで総合病院。 あらゆる科の専門医が集っていて、 フランクに情報交換できる! 医師のための臨床互助ツール『ヒポクラ×マイナビ』。新人からベテランまで、あらゆるキャリアの医師がご登録されていますが、どのように利用されているのでしょうか。今回は2名のユーザーを迎え、ヒポクラ事務局の後藤がインタビューを行いました。 A先生プロフィール放射線科の5年目。病院勤務のほか、非常勤で訪問診療も行う。 B先生プロフィール精神科の17年目。精神科指導医で、日本てんかん学会の正会員。 事務局ヒポクラ事務局 後藤里奈 趣味は豆柴とカフェ巡り。ヒポクラを通じて医療に貢献することが目標 専門外のことを 気軽に相談できて便利 事務局 『ヒポクラ×マイナビ』は、どのようなきっかけで始められたのですか? A先生 勤務先の先生から「役立つツールがある」と紹介いただいて使い始めました。非常に勉強になっています。 B先生 精神科の学会に参加したときにパンフレットをいただきました。それで登録したのが最初です。 事務局 どのように利用していらっしゃるのでしょうか? A先生 私は訪問診療もしているのですが、現場では教科書や助言を求める場がなかなかなくて。専門外の皮膚科や形成外科の疾患について、『ヒポクラ×マイナビ』の知見共有に画像をつけて相談させていただいています。 B先生 私も『ヒポクラ×マイナビ』の知見共有には、皮膚科を中心に質問させてもらっていて、専門の精神科についてはご質問に対して回答することもあります。認知症のBPSD(行動・心理症状)についてご質問が多いのですが、単に有効なお薬の名前を羅列するだけでなく、臨床現場での経験も含めて丁寧に回答するよう注意しています。 ※『知見共有』とは、多くの医師に意見を聞きたいとき、科をまたぐ疾患を相談したいときに適した「知恵袋」形式の相談所です。 サービスページ:https://hpcr.jp/app/lp/hpcr2202#point5 事務局 ありがとうございます。それでは、いつ・どんな時間帯に使われることが多いですか? A先生 夕方ですとか、診療の合間などですね。患者さんにすぐ判断を伝えなくてはいけない状況で使うわけにはいかないので。落ち着いた時間に「これを質問しようかな」という感じで使っています。 B先生 知見共有を見るのは、診療時間帯が多いです。ちょっとした疑問を感じたときに活用しています。 正確な回答を 得られる安心感がある 事務局 「こんな時に役立った」ということがあれば教えてください。 A先生 訪問診療先で、たとえば床ずれの治療を専門の先生がいない中で看護師さんに指示しなくちゃならないっていう場合があります。教科書には薬のこともいろいろ書かれていますが、治療法の選択に迷ったときに相談させていただきました。非常に助かりましたね。 あと、実はまだ使ったことがないのですが、緊急質問という形で登録している先生方にアラート通知が入るサービスもありますよね。緊急時でも意見を求めることができるのは心強いなと思います。 B先生 私も皮膚科について質問させていただきました。ピンボケしたような(笑)、解像度の悪い画像とともに質問してしまったにも関わらず、複数の先生方が同じ回答を返してくださいました。「この画像はこの症状です」「この薬が効きます」と。皆さん本当にレベルが高くて感謝しましたね。 事務局 診療の中でご利用いただいているのですね。ありがとうございます。 医者同士だからこそ 自由な意見が交換できる 事務局 医療従事者向けのサービスはほかにもありますが、それらと比べて『ヒポクラ×マイナビ』の印象はいかがでしょうか? A先生 あくまでも私の印象ですが、ほかのサービスは文章がメインの掲示板で、たとえば終末期の患者さんに対する内科的な薬の使い方などを相談されているケースが多いように感じます。私はプライマリの分野ですので、見ているだけで活用はしていません。 『ヒポクラ×マイナビ』は疾患などについて、パッと相談できて返答がもらえるから使いやすいですね。 B先生 『ヒポクラ×マイナビ』は、いろいろな科が集まっている「総合病院」のようだと感じています。医師同士が「この症状は薬を変更したら良さそう」「この検査も追加してはどうでしょうか」といったように、ざっくばらんに情報交換できる場は貴重ですね。 事務局 おっしゃる通り、いろんな病院のいろんな科の、いろんなキャリアの先生がご利用されていますものね。 『ヒポクラ×マイナビ』に 今後期待すること 事務局 『ヒポクラ×マイナビ』に対して、「もう少しこうなれば」というご希望はありますか? A先生 医師だけが集う場なので、専門医しかご存じない、たとえば臨床現場で活用された治療のコツなどを共有いただけて、ディスカッションできればいいですね。ただ、スマートフォンでディスカッションするのはなかなか難しいので、手軽に画像を投稿するところとディスカッションするところとで分かれていれば使いやすそうです。 B先生 ガイドラインについての項目があればいいなと思います。ガイドラインはどんどん進化していますが、専門外の科だと、初期臨床研修の頃の知識で止まってしまいがちです。だから、それぞれの科の先生から最新のガイドラインについて、どこが更新されたなどをご教示いただけると助かります。もちろん、精神科については積極的に情報をご提供したいです。 さらに、ガイドラインに載っていないコツなども共有し合えれば。医師同士で、ヒポクラ内でWin-Winの関係が築ければいいなと思います。 事務局 両先生にいただきましたご意見をしっかり受け止めて、今後のサービス改善のために最善を尽くしたいと思います。お忙しい中、ありがとうございました! A・B先生がご利用されている「知見共有」を閲覧したい、質問・相談をしたい『ヒポクラ×マイナビ』会員の方は下記URLをクリック! 知見共有の閲覧: https://hpcr.jp/hpcr-redirector?from=userkai_202203r&to=MedicineQuestion 知見共有の相談:https://hpcr.jp/hpcr-redirector?from=userkai_202203p&to=MedicineQuestionPost 会員登録・相談料無料『ヒポクラ×マイナビ』の新規会員登録のお申し込みはこちら 知見共有の閲覧はこちら » 知見共有の相談はこちら »
再発を繰り返す浮腫、その患者さん希少疾患かも
再発を繰り返す浮腫、その患者さん希少疾患かも
遺伝性血管性浮腫(HAE)コンサルトでは、むくみや腫れに関するご相談を通じて、希少疾患(HAE)の早期診断に貢献できればと考えています。 \まずは動画をご覧ください/ 原因不明の浮腫、浮腫発作などでお困りの際には、ぜひご利用ください 遺伝性血管性浮腫(HAE)コンサルトはこちら >> 遺伝性血管性浮腫(HAE)とは 遺伝性血管性浮腫(HAE)は世界中で5万人にひとりが罹患していると推定されています。(※1) 日本には2,000人から3,000人の患者さんが存在すると推定されていますが、この疾患に対する日本での認知度の低さから診断されている患者さんは約450名に留まっており、未診断の患者さんが多くおられます。(※2) また、初めての発作が起きてから確定診断までに日本では平均13.8年かかるといわれています。(※3)米国では平均10年(※4)、欧州では平均8.5年(※5)との報告があります。 ※1  Longhurst HJ, Bork K. Hereditary angioedema: causes, manifestations, and treatment. Br J Hosp Med.2006;67(12):654-657.※2  Hide M, Horiuchi T, et al. Management of hereditary angioedema in Japan: Focus on icatibant for the treatment of acute attacks. Allergology International 70 (2021) 45-54.※3 Ohsawa I et al: Ann Allergy Asthma Immunol 2015; 114: 492-498※4 Banerji et al., Allergy Asthma Proc. 2018 May-Jun; 39(3): 212–223※5 Zanichelli et al., Allergy, Asthma & Clinical Immunology 2013, 9 :29.
若年男性・不完全右脚ブロック・ST上昇をみたら?
若年男性・不完全右脚ブロック・ST上昇をみたら?
Point ①P派の向き ・Ⅱ誘導、V1・V2誘導で上向き = 洞調律 ②P-R間隔 ・200ms未満のため、Ⅰ度房室ブロックなし ③QRS幅 ・100~120ms未満のため、不完全脚ブロック ④M字型の有無 ・ⅠⅡ誘導でM字型であり、右脚ブロック ⇒「若い男性」×「不完全右脚ブロック」を見たら、「ST」を見る! Brugada型心電図:V1~V3に起こる不完全右脚ブロック+STの有意な上昇のある場合・STが平坦な場合=Saddle back型⇒V2,3において2mV以上の上昇がなく、リスク因子無ければ経過観察・STが下向き(down slope型)の場合=Coved型⇒不整脈のリスクが高く、精査をしたほうが良いBrugada型心電図では、Brugada症候群(若年男性がVT(心室頻拍)や心室細動を起こす突然死症候群で、「ぽっくり病」とも呼ばれる。)のリスクがある 微妙なケースの場合は、以下の順で心電図波形を確認する1. 肋間を上げる2. ピルジカイニド投与 or 運動負荷(安息時)3. EPS(心臓電気生理学的検査)⇒ST部分の変化や、Coved型になるか、容易に不整脈が誘発されるか、失神歴がある場合等、Brugada型症候群が考えやすい場合には、ICD(埋込み型除細動器)の埋め込みを検討する 結論 若年男性・不完全右脚ブロック・ST上昇をみたらBrugada症候群を疑う 参考 日本循環器学会発刊のガイドライン https://www.j-circ.or.jp/guideline/guideline-series/ ハトミル心不全、ハトミル心電図は2025年9月17日をもちまして、サービス提供を終了いたしました。 長らくのご利用ありがとうございました。なお、臨床に関する疑問や悩みを相談する場、ヒポクラ「全科横断カンファ」でも、心不全、心電図に関する、ご相談は可能でございますので、ぜひ、そちらにご相談をお寄せください。「ヒポクラ 全科横断カンファ」はこちら
DDIRペースメーカー挿入患者の心電図の読み方
DDIRペースメーカー挿入患者の心電図の読み方
Point ①レントゲンでは肺野と心臓の状況をチェックしましょう ・肺野は肺門中心性の肺血管陰影増強しており、うっ血の可能性あり ・心拡大 ・ペースメーカーリードは「心房」「心尖部」にあり ②心電図の肢誘導・胸部誘導を分けてチェックしましょう 【肢誘導】・心尖部ペーシングは下から上に電気が流れる=Ⅱ誘導・Ⅲ誘導が下向きの波形になる ・PQR=120ms以上は、心拍は「心室」から出ている 【胸部誘導】・V2誘導で「M字型」なら右脚ブロック型であり、左室起源のPVC(心室期外収縮)や補充調律を疑う。起源は僧帽弁弁論、または心外膜側と予想。 今回のケースは、ペースメーカー電位発生→ PVCを繰り返しているように見える二段脈とは断定できないが、補充調律にしては変なリズムを刻んでいる⇒PVCが日常的に出ているのか、一度ホルター心電図を用いて精査しましょうPVCと診断する場合は、βブロッカーを追加した上で、ペーシングレートを設定する 結論 波形が一心拍ごとに変わる場合は二段脈が疑わしいが、ペースメーカー埋め込み時の場合はセンス不良も鑑別になる ハトミル心不全、ハトミル心電図は2025年9月17日をもちまして、サービス提供を終了いたしました。 長らくのご利用ありがとうございました。なお、臨床に関する疑問や悩みを相談する場、ヒポクラ「全科横断カンファ」でも、心不全、心電図に関する、ご相談は可能でございますので、ぜひ、そちらにご相談をお寄せください。「ヒポクラ 全科横断カンファ」はこちら
心電図の読み方:これって心房細動?
心電図の読み方:これって心房細動?
Point ①レントゲンでは肺野と心臓の状況をチェックしましょう ・肺野:辺縁、CP angle、横隔膜の高さ、肺の過膨張、気管の変異、骨折の有無 ・心臓:縦隔の拡大、右の1・2弓、左の1・2・3・4弓の腫脹の有無 ⇒ 今回はどちらも異常は無いが、だからといって、心房細動を否定することにはならない ②心電図では肢誘導・胸部誘導に分けてチェックしましょう 【肢誘導】1) Ⅱ・Ⅲ誘導のP派 ⇒ P派が見えづらく、洞停止または心房細動が疑われる  さらにR-R間隔が不正の場合は、心房細動の可能性が高い 2) Ⅰ,Ⅱ誘導の電位の向き ⇒ どちらも上向きの電位の方が高いので、軸は正常 3) Ⅲ誘導・aVF誘導のT派 ⇒ 増高不良があり、心筋障害を疑う 【胸部誘導】1) V2誘導のP派(心房レート) ⇒ 心房レート300程度であり、心房細動(心房レート400-600程度)ではなさそう 2) 300を”R-R間隔の目盛り数”で割り、心拍数の算出 ⇒ 心拍数75~100であり、何らかの不整脈が起こっている 結論 高齢+心房レート200〜300回/分の不整脈をみたら心房頻拍を疑う。心房細動の合併があるかもしれず、ホルター心電図やエコーで評価をしよう ハトミル心不全、ハトミル心電図は2025年9月17日をもちまして、サービス提供を終了いたしました。 長らくのご利用ありがとうございました。なお、臨床に関する疑問や悩みを相談する場、ヒポクラ「全科横断カンファ」でも、心不全、心電図に関する、ご相談は可能でございますので、ぜひ、そちらにご相談をお寄せください。「ヒポクラ 全科横断カンファ」はこちら
Ⅰ度房室ブロック・右脚ブロック・左軸変異をみたら?
Ⅰ度房室ブロック・右脚ブロック・左軸変異をみたら?
Point ①レントゲンで肺野と心臓の状況をチェックしましょう ・肺尖部は問題なし ・肺過膨張気味 ・心拡大なし ・肺門中心性の肺血管陰影はやや増強気味 ・左の2・3弓が突出=左房拡大が疑われる ②心電図では肢誘導と胸部誘導を分けてチェックしましょう 【肢誘導】 ・Ⅰ誘導:上向き、Ⅱ誘導:下向き = 異常左軸 ⇒左脚のヘミブロックの可能性が高い 【胸部誘導】 ・P派~QRSの立ち上がりが200ms ⇒Ⅰ度房室ブロックだと考えられる ・小さなQ波が出てRSパターンが出現 ⇒ 右脚ブロック型だと考えられる ①右脚ブロック型、②左脚ヘミブロック、③Ⅰ度房室ブロック ⇒もう一本切れると、「3束ブロック(3肢ブロック)」の可能性がある ⇒全部切れてしまうと、「完全房室ブロック」・「高度房室ブロック」への進展リスクが非常に高い 結論 一度房室ブロック、右脚ブロック、左軸変異をみたら三枝ブロックを疑い、失神に注意する ハトミル心不全、ハトミル心電図は2025年9月17日をもちまして、サービス提供を終了いたしました。 長らくのご利用ありがとうございました。なお、臨床に関する疑問や悩みを相談する場、ヒポクラ「全科横断カンファ」でも、心不全、心電図に関する、ご相談は可能でございますので、ぜひ、そちらにご相談をお寄せください。「ヒポクラ 全科横断カンファ」はこちら
数ある医師向けサービスの中で、「ヒポクラ」を選んで活用する理由とは?
数ある医師向けサービスの中で、「ヒポクラ」を選んで活用する理由とは?
私の「ヒポクラ × マイナビ」活用法 数ある医師向けサービスの中で、 『ヒポクラ×マイナビ』を選んで活用する理由とは? 知見の共有や専門医への相談、論文の効率的な検索などができる医師のための臨床互助ツール『ヒポクラ×マイナビ』。サービスがスタートしておよそ8年が経ちましたが、医療の現場でどのように利用されているのでしょうか。 そこでユーザーである医師にご登場いただき、『ヒポクラ×マイナビ』の利用方法の他、今後の課題や期待することなどをヒポクラ事務局の後藤が伺いました。 A先生プロフィール大学病院勤務7年目の内科医。専門は糖尿病。 ヒポクラ事務局 後藤里奈趣味は豆柴とカフェ巡り。ヒポクラを通じて医療に貢献したい! 専門外のことを答えるときに 頼りになる存在 事務局 『ヒポクラ×マイナビ』に登録されたのはいつでしたか? A先生 2015年か2016年だったかと思います。確かFacebookの広告で「ヒフミルくん」※のことを知りまして。私は大学病院に勤務していますが、外勤として他の病院に行くことも多く、そこで専門外の皮膚について聞かれることがあるんです。 「ヒフミルくん」でいただいた答えをそのまま患者さんにお伝えするわけではないですが、皮膚科の先生に直接質問できない、けれども答えを聞きたいというときに、「ヒフミルくん」はすごくいいなと思っています。 ※『ヒポクラ×マイナビ』のサービスの一つ「コンサルト」では、匿名で各領域の専門医に相談できます。「ヒフミルくん」はその皮膚科領域のもので、皮膚科の専門医に基本的な内容から専門性の高いことまで相談することができます。 サービスページ: https://hpcr.jp/product/ 事務局 登録されて、使い方に戸惑うことはありませんでしたか? A先生 試してみたら、迷うことなく使えました。最初から使い勝手はすごく良いです。 事務局 ありがとうございます!今、アプリとウェブをご提供していますが、どちらをお使いになることが多いですか? A先生 アプリです。 事務局 どのくらいの頻度で、どのようなときに利用されていますか? A先生 月に1回くらい、皮膚疾患に関連する質問をしています。 すぐに答えを出したいわけじゃないけれど、患者さんに次の外来で質問されるかも知れないから確かめておこう、というときに使っていますね。私自身も、モヤモヤを払拭しておきたいですし。 質問を出したら わずか10分で回答がもらえた 事務局 ご質問への回答のスピードに関してはいかがですか? A先生 すごく早いです。質問する時間にもよると思いますが、10分ほどで回答いただいたこともあります。 夜、就寝前くらいの時間は回答が早いんです。あとお昼休みの時間も早くて助かります。 事務局 お待たせすることなく良かったです。 A先生 あと、「別の医師にも聞く」というボタンもありますよね。 事務局 はい。回答された専門医とは別の先生に再診を依頼することができます。 A先生 サードオピニオンとして、そのボタンを使ったことがあります。 事務局 そうでしたか。回答はいかがでしたか? A先生 満足しました。すぐに他の医師に診断していただけるのは安心できます。 事務局 良かったです。 ところで、「コンサルト」で受け取った診断・回答は、具体的にどのように役立てられそうでしょうか? A先生 そうですね…、検査には結果が出るまでに1週間ほどかかるものもあるんですが、結果を待つ間に質問しておくと「コンサルト」のアドバイスを踏まえて患者さんに説明するという使い方もできると思います。 回答の質が良いので 満足度が高いサービス 事務局 「コンサルト」には「ヒフミルくん」以外のサービスもあるのですが、ご存知でしたか? A先生 心不全の相談もできますよね。使ったことはありませんが、アプリで気軽に相談できるのはすごく良いサービスだなと思っています。 ※循環器専門医へのコンサルト「ハトミルさん」のこと。いつでも、どこにいても、気軽に循環器専門医へ心電図と心不全の相談をすることができます。 サービスページ: https://hpcr.jp/app/lp/hatomiru 事務局 ところで、『ヒポクラ×マイナビ』以外に医師向けサービスは利用していらっしゃいますか? A先生 はい、ニュースを見たりセミナーを視聴したりする程度ですが。 他所は雑談場になっているところもありますが、『ヒポクラ×マイナビ』は本当に答えを求めている方が利用していて回答の質も高い、という印象があります。 事務局 A先生にとって、『ヒポクラ×マイナビ』の満足度を教えてください。 A先生 満足度を5段階で言うと、4.5〜5です。医師向けサービスの中では圧倒的に上位です。 事務局 ありがとうございます! 匿名利用ならではの メリットと気になったこと 事務局 『ヒポクラ×マイナビ』は匿名でご登録いただくサービスですが、どう思われますか? A先生 こんな質問していいかなっていうことも気軽に聞けるので、匿名は良いですね。 ただ、先生によっては公開したい方もいらっしゃると思います。一度、「私は◯◯の専門病院に何年いました」と書かれていたのを拝見したので、選択制で公表するというのもありかも知れないです 事務局 質問される立場としては、回答される先生のキャリアが明確な方が良いですか? A先生 回答内容を読むと、エビデンスを提示される方や経験論で書かれている方などいらっしゃって、その先生のキャリアがある程度わかります。ご自身の専門分野と経験年数がわかると、詳細なプロフィールも読み解けるかと思います。 事務局 貴重なご意見、ありがとうございます。 さらに利用価値の高い 知見共有の場とするために 事務局 『ヒポクラ×マイナビ』に対して、今後期待されることがあればぜひ教えてください。 A先生 『ヒポクラ×マイナビ』は使いやすくて信頼性が高いと思っているので、この品質は保って欲しいです。そしてさらに使いやすく投稿しやすくなればユーザーも増えるでしょうし、そうなると回答もさらに早くなると思います。良い循環ができれば嬉しいです。 事務局 A先生にお話しいただいた理想に近づけるよう、私たちも頑張って参ります。貴重なご感想やご意見、ありがとうございました! A先生がご利用されている「ヒフミルくん」を利用したい! 『ヒポクラ×マイナビ』会員の方はこちら からご相談ください。 会員登録・相談料無料『ヒポクラ×マイナビ』の新規会員登録のお申し込みはこちら ヒフミルくんへの相談はこちら »
急性尿閉とがんのリスク:デンマークの住民を対象としたコホート試験
急性尿閉とがんのリスク:デンマークの住民を対象としたコホート試験
Acute urinary retention and risk of cancer: population based Danish cohort study BMJ. 2021 Oct 19;375:n2305. doi: 10.1136/bmj.n2305. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【目的】急性尿閉初回診断後の泌尿生殖器がん、大腸がんおよび神経系がんのリスクを評価すること。 【デザイン】全国民を対象としたコホート試験。 【設定】デンマークの全病院。 【参加者】1995年から2017年までに急性尿閉のため初めて入院した50歳以上の患者75,983例。 【主要評価項目】一般集団と比較した急性尿閉患者の泌尿生殖器がん、大腸がんおよび神経系がんの絶対リスクおよび超過リスク。 【結果】急性尿閉初回診断後の前立腺がんの絶対リスクは、3ヵ月時点で5.1%(3,198例)、1年時点で6.7%(4,233例)、5年時点で8.5%(5,217例)であった。追跡期間が3ヵ月以内の場合、1,000人年当たり218例の前立腺がん超過症例が検出された。3ヵ月から12ヵ月未満の追跡では、1,000人年当たり21例の超過症例数が増加したが、12ヵ月を超えるとこの超過リスクは無視できるものとなった。追跡3ヵ月以内の超過リスクは、尿路がんが1,000人年当たり56例、女性の生殖器がんが1,000人年当たり24例、大腸がんが1,000人年当たり12例、神経系がんが1,000人年当たり2例であった。検討したがん種の多くで、超過リスクは追跡3ヵ月以内に限られていたが、前立腺がんおよび尿路がんのリスクは、追跡期間が3ヵ月から12ヵ月未満でも依然として高かった。女性では、浸潤性膀胱がんの超過リスクが数年にわたって認められた。 【結論】急性尿閉は、泌尿生殖器がん、大腸がん、神経系不顕性がんの臨床マーカーであると考えられる。急性尿閉を発症し、原因がはっきりと分からない50歳以上の患者では、不顕性がんの可能性を検討すべきである。 第一人者の医師による解説 急性尿閉では潜伏がんを考慮すべき 見落とし減らすため画像検査の実施も考慮 宮﨑 淳 国際医療福祉大学医学部腎泌尿器外科主任教授 MMJ. February 2022;18(1):17 急性尿閉は、突然の痛みを伴う排尿不能を特徴とし、直ちに導尿などを行い、膀胱の減圧が必要である。男性における急性尿閉の発症率は年間1,000人当たり2.2 ~ 8.8人で、推定発症率は70代では10%、80代では30%と、年齢とともに著しく上昇する(1)。男女比は13:1と推定されている。急性尿閉の根本的な原因のほとんどは良性であるが、急性尿閉は前立腺がんの徴候でもあり、他の泌尿器がん、消化器がんおよび神経系がんの徴候である可能性を示唆する研究もある。 そこで本論文では、デンマーク全国規模コホートから得たデータを用いて、急性尿閉による初回入院患者約76,000人における泌尿生殖器がん、大腸がん、神経系がんのリスクを一般集団と比較・検討した。その結果、急性尿閉の初診後の前立腺がんの絶対リスクは、3カ月後で5.1%、1年後で6.7%、5年後で8.5%であった。追跡期間3カ月以内において、前立腺がんの過剰症例が1,000人・年当たり218人検出された。さらに追跡期間3カ月~12カ月未満において1,000人・年当たり21人の過剰症例が検出されたが、12カ月を超えると過剰リスクは無視できる程度になった。追跡期間3カ月以内において、尿路系がんの過剰リスクは1,000人・年当たり56人、女性の生殖器系がんは1,000人・年当たり24人、大腸がんは1,000人・年当たり12人、神経系がんは1,000人・年当たり2人であった。ほとんどのがんで、過剰リスクは追跡期間3カ月以内に限定されたが、前立腺がんと尿路系がんのリスクは追跡期間3カ月~12カ月未満でも高いままであった。結論として、急性尿閉は、潜伏性尿路性器がん、大腸がん、神経系がんの臨床マーカーとなる可能性があるため、急性尿閉を呈し、明らかな基礎疾患を持たない50歳以上の患者には、潜伏がんを考慮すべきであると考えられた。 本研究が使用したデンマーク全国患者登録(Danish National Patient Registry)には人口約580万人の同国内のあらゆる病院に入院したすべての患者のデータが含まれていることから、今回のような全国規模の研究が可能である。この人口ベースのコホート研究において、泌尿生殖器がん、大腸がん、神経系がんが急性尿閉の原因となることが示唆された。我々泌尿器科医は、急性尿閉の患者を診察した際に前立腺肥大症と前立腺がんは常に念頭においているが、なかなか大腸がんや神経系疾患まで考慮することは少ない。見落としを減らすためにも、CTなどの画像検査を行うように心がける必要があるかもしれない。 1. Oelke M, et al. Urology. 2015;86(4):654-665.
心血管疾患1次予防に用いるスタチンと有害事象の相関:系統的レビューとペアワイズネットワーク用量反応メタ解析
心血管疾患1次予防に用いるスタチンと有害事象の相関:系統的レビューとペアワイズネットワーク用量反応メタ解析
Associations between statins and adverse events in primary prevention of cardiovascular disease: systematic review with pairwise, network, and dose-response meta-analyses BMJ. 2021 Jul 14;374:n1537. doi: 10.1136/bmj.n1537. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【目的】心血管疾患の1次予防に用いるスタチンと有害事象の相関を評価し、その相関はスタチンの種類や投与量によってどのように変化するかを検討すること。 【デザイン】系統的レビューとメタ解析。 【データ入手元】既報の系統的レビューおよび2020年8月までのMedline、EmbaseおよびCochrane Central Register of Controlled Trialsを検索して試験を特定した。 【レビュー方法】心血管疾患歴のない成人を対象に、スタチンとスタチン以外の対照または他の種類のスタチンを比較した無作為化比較試験およびスタチンの投与量別に比較した無作為化比較試験を対象とした。 【主要評価項目】自己報告による筋症状、臨床的に確認した筋疾患、肝機能障害、腎機能不全、糖尿病、眼症状などのよくみられる有害事象を主要評価項目とした。心筋梗塞、脳卒中、心血管疾患による死亡などを有効性の副次評価項目とした。 【データ統合】ペアワイズメタ解析を実施し、スタチンとスタチン以外の対照の間で各転帰のオッズ比および95%信頼区間を算出し、1年間投与した患者1万人当たりの事象発生件数の絶対リスク差を推定した。ネットワークメタ解析を実施し、スタチンの種類別に副作用を比較した。Emaxモデルを用いたメタ解析により各スタチンによる副作用の用量反応関係を評価した。 【結果】計62の試験を対象とし、参加者が計120,456例、平均追跡期間が3.9年であった。スタチンにより自己報告による筋症状(21報、オッズ比1.06(95%CI 1.01~1.13);絶対リスク差15(95%CI 1~29)、肝機能障害(21報、オッズ比1.33(1.12~1.58);絶対リスク差8(3~14))、腎機能不全(8報、オッズ比1.14(1.01~1.28);絶対リスク差12(1~24))および眼症状(6報、オッズ比1.23(1.04~1.47);絶対リスク差14(2~29))のリスクが上昇したが、臨床的に確認した筋疾患および糖尿病のリスクの上昇はみられなかった。このリスクの上昇は、主要心血管事象のリスク低下の価値を上回ることはなかった。アトルバスタチン、lovastatin、ロスバスタチンにそれぞれ一部の有害事象との相関が認められたが、スタチンの種類に有意差がほとんど認められなかった。Emaxで用量反応関係によりアトルバスタチンが肝機能障害に及ぼす影響が認められたが、他のスタチンと副作用の用量反応関係については結論に至らなかった。 【結論】心血管疾患の1次予防に用いるスタチンに起因する有害事象のリスクは低く、心血管疾患予防の有効性を上回るものではなかった。この結果は、スタチンのリスクと便益の比が一般的に良好であることを示唆している。安全性に関する懸念事項を考慮に入れ、治療開始前にスタチンの種類や投与量を調整することを支持する科学的根拠は少なかった。 第一人者の医師による解説 1次予防におけるスタチンより長期での安全性は今後の課題 岡﨑 啓明 自治医科大学内分泌代謝学部門准教授 MMJ. February 2022;18(1):12 コレステロール管理に関する現在のガイドラインでは、心血管リスクが高い人ほど、低比重リポ蛋白コレステロール(LDL-C)をしっかりと下げることが基本理念となっている。心血管リスクが高く再発予防を目的とした場合、スタチン服用の意義は医者にも患者にも受け止めやすいであろう。しかし、1次予防では、心血管リスクが実感しづらいこともあり、スタチンの有益性(benefit)が本当に有害性(harm)を上回るのか、悩ましく感じる局面もある。2次予防目的のスタチン使用については、これまで多くの臨床試験から、有害性よりも有益性の方が大きいことが明らかとなっている。一方、1次予防では、もともと心血管リスクが低く、スタチンの有益性は2次予防に比べれば小さくなるため、有害性についてより慎重な検討が必要となる。例えば、スタチンを服用しているためになんとなく筋肉が痛いと思ってしまう“ノセボ効果”によって、有害性が過大評価される可能性もあり(1)、有害事象の定義を明確にしながら、正しい結論を得る必要がある。 そこで本論文では、1次予防でのスタチンと有益性・有害性の関連についてメタ解析を行った。筋障害については、定義を明確にし、自覚的筋症状と、他覚的筋疾患に分けて解析した。その結果、スタチンに関連して、自覚的筋症状、肝障害、腎障害、眼障害が有意に増加したが、リスク上昇はいずれもわずかであった。他覚的筋疾患については有意な増加を認めなかった。スタチンの種別検討では、有害事象の発現率に明らかな違いは認めず、またスタチンの用量別の検討では、有害事象の用量依存性は明らかではなかった(これについては異なる試験の結果の比較という方法論的問題もあるかもしれないが)。以上から、著者らは、心血管疾患の1次予防で、スタチンの有益性は有害性を上回る、と結論している。 コレステロールは、コレステロールの高さx年数の積算値的に心血管リスクとなる(cholesterol x years risk)(2)。心血管リスクの高い人ほどコレステロールを低くする、“the lower, the better”という基本理念に加えて、生まれつきのコレステロール値が高い人(例えば家族性高コレステロール血症)ほど若いころから治療した方がよいという理念、“the lower, the earlier, the better”が確立されてきている(3)。では、何歳から処方を開始すべきかとなると、有益性 /有害性のバランスに悩んでしまうこともあるが、そのような場合にも、今回のような研究は参考となるだろう。ただし、より長期間で安全かどうかは、今回の研究からは明確ではない。古くからの治療薬だが、臨床的に重要な課題が残されている。 1. Herrett E, et al. BMJ. 2021;372:n135.(MMJ 2021 年 8 月号 ) 2. Cohen JC, et al. N Engl J Med. 2006;354(12):1264-1272. 3. Khera AV, et al. J Am Coll Cardiol. 2016;67(22):2578-2589.
心不全にみられる2次性僧帽弁逆流症の負担、治療および転帰:観察コホート試験
心不全にみられる2次性僧帽弁逆流症の負担、治療および転帰:観察コホート試験
Burden, treatment use, and outcome of secondary mitral regurgitation across the spectrum of heart failure: observational cohort study BMJ. 2021 Jun 30;373:n1421. doi: 10.1136/bmj.n1421. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【目的】心不全にみられる2次性僧帽弁逆流症(sMR)の有病率、長期転帰および治療基準を定義すること。 【デザイン】大規模コホート試験。 【設定】2010年から2020年までのオーストリア・ウィーン地域病院ネットワークのデータを用いた観察的コホート試験。 【参加者】心不全のサブタイプを問わないsMR患者13,223例。 【主要評価項目】sMRと死亡率の相関。ガイドライン診断基準により、心不全を駆出率低下、中間範囲の駆出率、駆出率維持の3つのサブタイプに分類し、患者を評価した。 【結果】1,317例(10%)が重症sMRの診断を受け、年齢上昇との相関が認められた(P<0.001)。この相関は、心不全のさまざまの重症度に認められ、駆出率が低下した患者が2,619例中656例(25%)と最も多かった。同一地域の同年齢および同性の集団と比較した重症sMR患者の死亡率が予想よりも高かった(ハザード比7.53;95%信頼区間 6.83~8.30;P<0.001)。軽症sMRやsMRがない心不全と比較すると、中等症sMRや重症sMRの死亡率が段階的に増加し、ハザード比が中等症sMRで1.29(95%信頼区間 1.20~1.38;P<0.001)、重症sMRで1.82(同1.64~2.02;P<0.001)であった。重症sMRと超過死亡率の相関は多変量解析後も変わらず、心不全の全サブグループに認められた(中間範囲の駆出率:ハザード比2.53(同2.00~3.19;P<0.001)、駆出率低下:1.70(同1.43~2.03;P<0.001)、駆出率維持:1.52(同1.25~1.85;P<0.001))。最先端の医療が利用でき、心不全の症例数も多く、弁膜疾患プログラムがあったが、重度sMRに対して弁形成術(7%)も弁置換術(5%)もほとんど施行されていなかった。低リスクの経カテーテル弁形成術(4%)もほぼ同じで、ほとんど施行されていなかった。 【結論】2次性僧帽弁逆流は全体的に頻度が高く、年齢とともに増加し、超過死亡率との相関が認められた。有害転帰との相関は心不全全体に認められたが、駆出率が中間範囲の患者と駆出率が低下している患者に特に顕著であった。このように転帰が不良であるが、外科的な弁形成術や弁置換術がほとんど施行されていない。同じく低リスクの経皮的弁形成も、治療による最も大きな便益が期待できる心不全サブタイプにさえほとんど施行されていない。今回のデータは、特に高齢化社会で心不全の増加が予想されることを踏まえて、治療に対する需要が高まっていることを示唆するものである。 第一人者の医師による解説 患者利益に資するにはエビデンス不十分 質の高い無作為化試験が望まれる 児玉 隆秀 虎の門病院循環器センター内科部長 MMJ. February 2022;18(1):11 2次性僧帽弁閉鎖不全症(sMR)は心不全患者に多くみられ、生活の質(QOL)低下や予後悪化につながる。しかし、sMRは罹患頻度が低く、先行研究の主な対象は疾患特異性や疫学的特徴の違う原発性 MRであったため、転帰や標準的治療に関する知見は不十分であった。 本論文は、心不全に合併するsMRの疫学的特徴、心不全サブタイプと予後との関連、最先端施設での治療の現状を明らかにすべく、ウィーン医科大学の医療記録と超音波データベースを用いたコホート研究の報告である。心不全とsMRを合併する患者13,223人を対象とし、心不全はHFpEF(左室駆出率[LVEF]50%以上)、HFmrEF(LVEF 40~49%)、HFrEF(LVEF 40%未満)に分類された。全死亡を主要評価項目とし、sMR重症度別に解析した。中等度以上のsMRは心不全患者の40%を占め、LVEF低下や加齢とともに重症度が増加した。重度 sMRはsMRなし/軽度に比べ、すべての心不全サブタイプで死亡率上昇と関連し、特にHFmrEFで顕著であった。重度 sMRに対する弁形成術、弁置換術または経カテーテル弁形成術の実施率は15.2%にとどまっていた。 心不全患者の予後と直結するsMRに対する介入はもっと行われて然るべきであるが、実際には十分に行われていない理由として高齢患者の併存疾患数の多さが挙げられよう。手術リスク評価において年齢、併存疾患、心不全既往、収縮機能障害は重要な要素であり、ほとんどのsMR患者は手術適応外となる。また、外科的な弁の修復・置換がsMR患者の生存率改善につながるという確かなエビデンスはなく、ガイドラインでも内科的治療の重要性が強調されている。しかし、本研究は内科的治療の恩恵があまり明確でないHFmrEF患者においてsMRの死亡リスクが最も高いことを示し、低侵襲な経カテーテル僧帽弁形成術が可能となっている今日では、このような患者群に対して僧帽弁への介入がもっと行われるべきであることを指摘している。 sMRは心不全の原因ではなく、心不全の原因疾患に起因する心臓の構造的変化により2次的に生じてくるものである。また、体液量や内科的治療によりダイナミックに変化しうる。したがって、sMRへの介入のみでは不十分であり、「弁膜症治療のガイドライン 2020年改訂版」では第1に内科的治療の重要性が明記されている。一方、僧帽弁への介入は十分なエビデンスの蓄積がないことを理由に、虚血性 sMRを除いて推奨度は高くない。今回の結果からsMRに対する僧帽弁インターベンションの無作為化試験の必要性が認識され、最適な治療の方向性が見いだされれば、意義深い研究と思われる。
思春期児を対象としたBNT162b2 Covid-19ワクチンの安全性、免疫原性および有効性
思春期児を対象としたBNT162b2 Covid-19ワクチンの安全性、免疫原性および有効性
Safety, Immunogenicity, and Efficacy of the BNT162b2 Covid-19 Vaccine in Adolescents N Engl J Med. 2021 Jul 15;385(3):239-250. doi: 10.1056/NEJMoa2107456. Epub 2021 May 27. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)に対するワクチンは、ごく最近まで16歳未満の小児への緊急使用が許可されていなかった。この集団を保護し、対面学習や人の集まりを促進し、集団免疫に貢献するため、安全かつ有効なワクチンが必要である。 【方法】この進行中の国際共同プラセボ対照観察者盲検試験では、参加者を無作為によりBNT162b2ワクチン30μgを21日間隔で2回注射するグループとプラセボを注射するグループに1対1の割合で割り付けた。12~15歳にみられるBNT162b2に対する免疫応答の16~25歳の免疫応答に対する非劣性を免疫原性の目的とした。12~15歳のコホートで安全性(反応原性および有害事象)および確定した新型コロナウイルス感染症2019罹患(Covid-19;発症、2回目接種から7日以上経過後)に対する有効性を評価した。 【結果】全体で、12~15歳の思春期児2,260例に接種した。1,131例にBNT162b2、1,129例にプラセボを投与した。他の年齢群にみられたように、BNT162b2は安全性と副反応が良好で、反応原性事象も主に一過性で軽度から中等度であった(主に注射部位疼痛[79~86%]、疲労[60~66%]、頭痛[55~65%])。ワクチンに起因する重篤な有害事象はなく、重度の有害事象も全体的に少なかった。12~15歳の参加者にみられた2回目接種後SARS-CoV-2 50%中和抗体価の16~25歳に対する幾何平均比は、1.76(95%信頼区間[CI]、1.47~2.10)であり、両側95%信頼区間の下限が0.67を超える非劣性基準を満たし、12~15歳のほうが応答が大きいことが示された。SARS-CoV-2感染歴の根拠がない参加者では、BNT162b2接種群に2回目接種から7日以上経過後のCOVID-19発症例はいなかったが、プラセボ接種群に16例認められた。観察されたワクチンの有効性は100%(95%CI、75.3~100)であった。 【結論】12~15歳の小児に接種したBNT162b2ワクチンは、安全性が良好で、若年成人よりも免疫応答が大きく、COVID-19に対する高い有効性が示された。 第一人者の医師による解説 思春期児童は接種後の血管迷走神経反射の発生率が高く 対策を取ることが重要 新井 智 国立感染症研究所感染症疫学センター第11室室長 MMJ. February 2022;18(1):4 本論文は、ファイザー・ビオンテック社製のメッセンジャー RNAワクチン(BNT162b2)を評価している第1/2/3相試験(C4591001試験)の一部として、米国内の12 ~ 15歳の思春期児童約2,300人をBNT162b2 30μg群とプラセボ(生理食塩水)群に1:1の比で無作為に割り付け安全性、免疫原性、有効性を比較し、さらに米国以外の国からも登録した16 ~ 25歳の青年集団約1,100人と免疫応答での非劣性の検証等を行った結果の報告 である。1回目接種 受けたBNT162b2群1,131人とプラセボ群1,129人、2回目接種を受けたそれぞれ1,124人と1,117人の解析結果から、BNT162b2 30μ g接種における12 ~ 15歳の思春期児童の副反応は、全体的に一過性で軽度~中等度であった。最も頻度が高かった局所反応は注射部位の疼痛で79 ~ 86%、頻度の高かった全身性反応は倦怠感(60 ~ 66%)、頭痛(55 ~ 65%)、悪寒(28 ~ 42%)、筋肉痛(24 ~ 32%)であった。局所反応の頻度は1回目接種時の方が高かったが(1回目86%、2回目79%)、全身性反応の倦怠感、頭痛、悪寒、筋肉痛のいずれも2回目接種時の方が高頻度にみられた。 また、12 ~ 15歳の思春期児童と16 ~ 25歳の青年集団におけるBNT162b2 30μg接種の比較を行ったところ、12 ~ 15歳の思春期児童の1、2回目接種時の副反応発生率は、16 ~ 25歳の青年集団とほとんど違いがなく(16 ~ 25歳の青年:倦怠感60 ~ 66%、頭痛54 ~ 61%、悪寒25 ~40%、筋肉痛27 ~ 41%)、安全性に違いは認められなかった。有効性の指標である50%中和幾何平均抗体価(GMT)は、2回目接種1カ月後の12 ~15歳の思春期児童群では1,283.0、16 ~ 25歳の青年群では730.8、両集団間の幾何平均比は1.76(95%信頼区間 , 1.47 ~ 2.10)であり、免疫応答は12 ~ 15歳の思春期児童群の方が良好であった。 BNT162b2やモデルナ製スパイクバックのメッセンジャー RNAワクチンでは、初回よりも2回目接種の方が発熱、倦怠感、頭痛、悪寒などの全身性反応の発生割合が高い(1),(2)。これらの副反応への対応に関してはアセトアミノフェンの服用も選択肢として提案されており、事前に十分な情報提供を行い安心して接種を受けられる環境の提供が重要である。思春期児童では、ワクチン接種後の血管迷走神経反射の発生割合が他の年齢群に比べ高いため、横たわって接種を受ける、あるいは接種後30分程度様子を見るなど対策を取ることも重要である。 1. Polack FP, et al. N Engl J Med. 2020;383(27):2603-2615. 2. Baden LR, et al. N Engl J Med. 2021;384(5):403-416.
/ 86