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限局性前立腺癌のアンドロゲン抑制療法実施の有無別にみた積極的監視、手術、小線源療法、放射線外部照射療法の5年にわたる患者報告転帰
Patient-Reported Outcomes Through 5 Years for Active Surveillance, Surgery, Brachytherapy, or External Beam Radiation With or Without Androgen Deprivation Therapy for Localized Prostate Cancer
JAMA. 2020 Jan 14;323(2):149-163. doi: 10.1001/jama.2019.20675.
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上記論文の日本語要約
【重要性】低リスクおよび高リスク限局性前立腺癌に用いる現在の治療戦略の有害作用を理解することで、治療選択に有用な情報を得ることができると思われる。
【目的】前立腺がん治療後5年間の転帰を機能的転帰を比較すること。
【デザイン、設定および参加者】2011年から2012年の間に診断を受けた低リスク(臨床分類cT1~cT2bN0M0、PSA 20ng/mL以下、グレードグループ1~2を満たす)前立腺癌患者1385例と高リスク(臨床分類cT2cN0M0、PSA 20~50ng/mL、グレードグループ3-5のいずれかに該当)前立腺癌患者619例を対象とした前向き住民対象コホート研究。Surveillance, Epidemiology and End Results(SEER)プログラム5施設および米前立腺がん登録から開始し、2017年9月まで追跡した。
【曝露】低リスク患者への積極的監視(363例)、神経温存前立腺全摘除(765例)、放射線外部照射療法(EBRT、261例)または低線量率小線源療法(87例)による治療、高リスク患者への前立腺全摘除(402例)またはアンドロゲン抑制療法併用EBRT(217例)。
【主要転帰および評価項目】26項目からExpanded Prostate Index Composite(0~100点)を基に判定した治療5年後の患者報告機能。調査開始時の機能、患者背景および腫瘍の特徴を回帰モデルで調整した。性機能10~12点、尿失禁6~9点、排尿刺激症状5~7点、排便およびホルモン機能4~6点を臨床的に意義がある最重要差とした。
【結果】計2005例が適格基準を満たし、追跡開始時と開始後1回以上の調査を完了した(年齢中央値64歳、77%が非ヒスパニック系白人)。低リスク前立腺癌患者では、神経温存前立腺摘除が積極的監視療法と比べて5年時の尿失禁(調整平均差-10.9、95%CI -14.2~-7.6)および3年時の性機能(同-15.2、-18.8~-11.5)が不良だった。低線量率小源線療法は、積極的監視療法と比べると1年時の排尿刺激症状(同-7.0、-10.1~-3.9)、性機能(同-10.1 [95% CI, -14.6 to -5.7)および排便機能(同-5.0、-7.6~-2.4)が不良だった。EBRTは、5年間のいずれの時点でも、排尿機能、性機能および排便機能の変化に監視療法との臨床的に重要な差はなかった。高リスク患者では、前立腺全摘除と比べると、アンドロゲン抑制療法併用EBRTで6カ月時のホルモン機能(同-5.3、-8.2~-2.4)および1年時の排便機能(同-4.1、-6.3~-1.9)が低下したが、5年時の性機能(同12.5、6.2~18.7)および5年間の尿失禁(同23.2、17.7~28.7)が良好だった。
【結論および意義】限局性前立腺癌患者のコホートでは、現在の治療選択肢による機能的な差のほとんどが5年間で縮まった。しかし、前立腺全摘除を施行した患者はその他の選択肢と比べて5年間で臨床的に重要な差を認める尿失禁を報告し、前立腺全摘除を施行した高リスク患者はアンドロゲン抑制療法併用EBRTを実施した患者よりも5年時の性機能の悪化を報告した。
第一人者の医師による解説
各治療オプションにおける機能的アウトカム 患者説明において有用なデータ
神鳥 周也(講師)/西山 博之(教授) 筑波大学医学医療系腎泌尿器外科学
MMJ. October 2020; 16 (5):141
限局性前立腺がんの治療は、監視療法、手術や放射線治療など治療の選択肢が多く、10年がん特異的生存率はほぼ100%であり(1)、治療に伴う合併症による生活の質(QOL)低下が治療法を決定するうえで重要な因子の1つである。今回報告された前向きコホート研究では、米国のSurveillance,Epidemiology and End Results(SEER)プログラムおよび米国前立腺がん登録において2011~12年に限局性前立腺がんと診断された男性2,005人を対象とし、各治療から5年間の機能的アウトカム(排尿、排便、性、ホルモン機能)を限局性前立腺がん患者の健康関連 QOLの調査票であるExpanded Prostate Cancer Index Composite(EPIC)を用いて検証している。
低リスクの患者(cT1 ~ cT2bN0M0、前立腺特異抗原[PSA]20 ng/mL以下およびグレード分類1 ~ 2)では、監視療法(363人)、神経温存前立腺全摘術(675人)、外照射(261人)、低線量率小線源治療(87人)が行われていた。また、高リスクの患者(ステージ cT2cN0M0、PSA 20 ~50ng/mLまたはグレード分類3~5)では、前立腺全摘術(402人)、アンドロゲン除去療法(ADT)併用外照射(217人)が行われていた。
低リスクの患者では、神経温存前立腺全摘術は監視療法と比較して5年時の尿失禁(補正平均差 ,-10.9)、3年時の性機能(-15.2)の悪化を認めた。低線量率小線源治療は監視療法と比較して1年時の排尿刺激症状(-7.0)、性機能(-10.1)、排便機能(-5.0)の悪化を認めた。一方、外照射は監視療法と比較して5年間のいずれの時点でも排尿機能、性機能、排便機能に臨床的に重要な差は認められなかった。高リスクの患者では、ADT併用外照射は前立腺全摘術と比較して6カ月時点のホルモン機能(-5.3)や1年時の排便機能(-4.1)の悪化を認めたが、5年時の性機能(12.5)および5年
間の尿失禁(23.2)は良好であった。
本研究ではこれまでの報告(2),(3)とは異なり、多くの患者がロボット手術や強度変調放射線治療(IMRT)を受けており、新しい治療モダリティによる機能的アウトカムを示している。日本における限局性前立腺がん診療の現状に即したデータであり、臨床医が患者への治療オプションを説明する際に有用であると思われる。一方、これらの治療は期待余命が10年以上見込まれる患者に対して選択されるため、長期的なQOL調査の実施が期待される。
1. Hamdy FC, et al. N Engl J Med. 2016;375:1415-1424.
2. Sanda MG, et al. N Engl J Med. 2008;358:1250-1261.
3. Donovan JL, et al. N Engl J Med. 2016;375:1425-1437.