「MMJ - 五大医学誌の論文を著名医師が解説」の記事一覧

年齢および民族別の高血圧1次薬物治療と血圧低下 英国プライマリケアのコホート研究
年齢および民族別の高血圧1次薬物治療と血圧低下 英国プライマリケアのコホート研究
First line drug treatment for hypertension and reductions in blood pressure according to age and ethnicity: cohort study in UK primary care BMJ. 2020 Nov 18;371:m4080. doi: 10.1136/bmj.m4080. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【目的】英国(UK)高血圧臨床ガイドラインで年齢と民族性に基づき推奨される治療を現在日常診療で実施される降圧治療にそのまま置き換えることができるかを検討すること。 【デザイン】観察コホート研究。 【設定】2007年1月1日から2017年12月31日までの英国のプライマリケア。 【参加者】アンジオテンシン変換酵素阻害薬・アンジオテンシン受容体遮断薬(ACEI/ARB)、カルシウム拮抗薬(CCB)、チアジド系薬の新規使用者。 【主要評価項目】年齢(55歳未満と55歳以上)、民族性(黒人と非黒人)で層別化したACEI/ARBとCCBの新規使用者で、追跡12、26、52週時の拡張期血圧の変化量を比較。CCB新規使用者とチアジド系薬新規使用者の比較を副次的解析とした。負の転帰(帯状疱疹)を用いて残存交絡を検出し、一連の正の転帰(期待される薬剤の効果)を用いて、予想した関連がこの試験デザインで特定できるかを明らかにした。 【結果】追跡調査の最初の1年間で、ACEI/ARB新規使用者8万7440例、CCB新規使用者6万7274例、チアジド系薬新規使用者2万2040例を組み入れた(1例当たりの血圧測定回数中央値4回[四分位範囲2~6回])。糖尿病がない非黒人では、55歳未満で、CCB使用によって12週時の拡張期血圧がACEI/ARB使用よりも1.69mmHg低下し(99%信頼区間-2.52~-0.86)、55歳以上では0.40mmHg低下した(-0.98~0.18)。糖尿病がない非黒人の年齢をさらに細かく6つに分類した下位集団解析では、75歳以上でのみ、CCB使用による拡張期血圧低下度がACEI/ARB使用よりも大きかった。糖尿病がない患者のうち、黒人ではCCB使用による拡張期血圧低下度がACEI/ARB使用よりも大きく(低下量の差2.15mmHg[-6.17~1.87])、これに対応する非黒人の低下血圧値の差は0.98mmHg(-1.49~-0.47)だった。 【結論】糖尿病がない非黒人では55歳未満と55歳以上ともに、CCM新規使用とACEI/ARB新規使用で同等の血圧低下が得られた。糖尿病がない黒人では、CCB新規使用者の方がACEI/ARB新規使用者よりも数値的に血圧が大きく低下したが、両年齢群ともに信頼区間の重複が見られた。この結果から、現在英国で高血圧の1次治療に用いられているアルゴリズム法からは、十分な血圧低下が得られないと思われる。治療推奨に特定の適応を設けることを考慮できるであろう。 第一人者の医師による解説 生活習慣が血圧に大きく影響 降圧薬の選択に年齢や人種は重要視されなくなる 平和 伸仁 横浜市立大学附属市民総合医療センター腎臓・高血圧内科部長 MMJ. June 2021;17(3):82 高血圧は、脳心血管病死亡の最大の危険因子である。そこで、脳心血管病を予防するため高血圧治療ガイドラインが作成されているが、各国のエビデンスや重視するポイントにより、異なった推奨がなされる場合がある。英国のガイドラインでは、(2型)糖尿病でない高血圧患者の第1選択薬として、黒人では年齢に関係なくCa拮抗薬(CCB)を推奨している。一方、非黒人では55歳未満でアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬 (ACEI)またはアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)を、55歳以上ではCCBを推奨している。 本研究は、英国のプライマリケアにおける新規に降圧薬(CCB、ACEI、ARB、サイアザイド系利尿薬 )を開始する高血圧患者を対象として、降圧薬による治療前、治療12、26、52週間後の収縮期血圧を確認し、英国ガイドラインによる第1選択薬の推奨が適切かどうかについて同国の臨床データベースを用いたコホート研究である。 87,440人のACEI/ARB、67,274人のCCB、22,040人のサイアザイド新規使用者が抽出され1年間観察された。降圧効果の比較は、傾向スコアマッチング法を用いて検討された。まず、年齢基準が妥当かについての検討がなされた。非糖尿病で55歳未満の患者では、治療12週でACEI/ARBよりもCCBによる治療の方が降圧効果が高く、収縮期血圧の低下が大きかった(―1.69 mmHg;95% CI, ―2.52~―0.86)。しかし、26週および52週後には、両群間で差を認めていない。55歳以上においても、ACEI/ARBとCCBの間で降圧効果の差を認めていない。年齢をカテゴリー化して検討すると、75歳以上の後期高齢者でのみ、CCBがACEI/ARBよりも全経過を通じて降圧効果が高かった。次いで、人種に関する検討がなされ、CCBとACEI/ARBの降圧度は、黒人において12週でCCBの方が大きかったが、その後は消失している。なお、黒人において、12週および26週でCCBの降圧効果はサイアザイドよりも高かったが、52週後には同等となっている。 2004年から英国のガイドラインでは55歳を年齢の「しきい値」としていたが、世界のガイドラインではあまり採用されていない考え方である。今回の研究結果もこの「しきい値」を支持しない結果であった。また、人種による差もあまり大きな影響を与えていないことが示された。現代ではさまざまな人種が混じり合っていること、そして、生活習慣が血圧に大きく影響を与えることから、降圧薬を選択する際に、年齢や人種はあまり重要視されなくなる可能性がある。日本における積極的適応疾患のない高血圧患者への第1選択薬は、CCB、ARB、ACEIに加えて、少量のサイアザイド系利尿薬であることを再確認しておいていただきたい。
深層学習と標準法を用いた生殖細胞系列遺伝子検査による前立腺がんと悪性黒色腫患者の病原性変異検出の比較
深層学習と標準法を用いた生殖細胞系列遺伝子検査による前立腺がんと悪性黒色腫患者の病原性変異検出の比較
Detection of Pathogenic Variants With Germline Genetic Testing Using Deep Learning vs Standard Methods in Patients With Prostate Cancer and Melanoma JAMA. 2020 Nov 17;324(19):1957-1969. doi: 10.1001/jama.2020.20457. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【重要性】検出可能な生殖細胞系列変異があるがん患者が10%に満たず、これは病原性変異の検出が不完全であることが原因の一つになっていると思われる。 【目的】深層学習によってがん患者の病原性生殖細胞系列変異がさらに多く特定できるかを評価すること。 【デザイン、設定および参加者】2010年から2017年の間に米国と欧州で組み入れた前立腺がんと悪性黒色腫の2つのコホートの便宜的標本で、標準生殖細胞検出法と深層学習法を検討する横断的研究。 【曝露】標準法または深層学習法を用いた生殖細胞系列変異の検出。 【主要評価項目】主要評価項目は、がん素因遺伝子118個の病原性変異の検出能とし、感度、特異度、陽性適中率(PPV)および陰性適中率(NPV)で推定した。副次評価項目は、米国臨床遺伝・ゲノム学会(ACMG)が指定している治療可能な遺伝子59個および臨床的に重要なメンデル遺伝子5197個の検出能とした。感度および真の特異度は、標準基準がないため算出できなかったが、真陽性変異と真陰性変異の割合を推定することとし、いずれかの方法で有効と判断した全変異で構成された参照変異一式の中から各方法を用いて特定した。 【結果】前立腺がんコホートは1072例(診断時の平均[SD]年齢63.7[7.9]歳、欧州系857例[79.9%])、悪性黒色腫コホートは1295例(診断時の平均[SD]年齢59.8[15.6]歳、女性488例[37.7%]、欧州系1060例[81.9%])を組み入れた。深層学習法の法が標準法よりも、がん素因遺伝子の病原性変異が多く検出された(前立腺がん:198個 vs. 182個、悪性黒色腫:93個 vs. 74個)。感度は、前立腺がん94.7% vs. 87.1%(差7.6%、95%CI 2.2~13.1%)、悪性黒色腫74.4% vs. 59.2%(同15.2%、3.7~26.7%)、特異度は、前立腺がん64.0% vs. 36.0%(同28.0%、1.4~54.6%)、悪性黒色腫63.4% vs. 36.6%(同26.8%、95%CI 17.6~35.9%)、PPVは前立腺がん95.7% vs. 91.9%(同3.8%、-1.0~8.4%)、悪性黒色腫54.4% vs. 35.4%(同19.0%、9.1~28.9%)、NPVは前立腺がん59.3% vs. 25.0%(差34.3%、10.9~57.6%)、悪性黒色腫80.8% vs. 60.5%(同20.3%、10.0~30.7%)であった。ACMG遺伝子をみると、前立腺がんコホートでは両方法の感度に有意差がなかったが(94.9 vs. 90.6%[差4.3%、95%CI -2.3~10.9%])、悪性黒色腫コホートでは、深層学習法の方が感度が高かった(71.6% vs. 53.7%[同17.9%、1.82~34.0%])。深層学習法はメンデリアン遺伝子でも感度が高かった(前立腺がん99.7% vs. 95.1%[同4.6%、3.0~6.3%]、悪性黒色腫91.7% vs. 86.2%[同5.5%、2.2~8.8%])。 【結論および意義】前立腺がん患者と悪性黒色腫患者を組み入れた2つの独立のコホートから成る便宜的標本で、深層学習を用いた生殖細胞系列遺伝子検査による病原性変異検出の感度および特異度が、現行の標準遺伝子検査法よりも高かった。臨床転帰の観点からこの結果の意義を理解するには、さらに詳細な研究が必要である。 第一人者の医師による解説 バリアントの検出手法は 新たな手法によって改善する余地あり 水上 圭二郎(研究員)/桃沢 幸秀(チームリーダー) 理化学研究所生命医科学研究センター基盤技術開発研究チーム MMJ. June 2021;17(3):92 現在行われている遺伝学的検査の多くは、患者のDNAを次世代シークエンサーと呼ばれる機械を用いて解読し、そのデータをコンピュータを用いて解析することによって、患者の遺伝子における塩 基配列の違い(バリアント)を検出する。このようにして検出されたバリアント情報は、疾患との関連性などの臨床的な解釈を付与された後、検査結 果として報告される。医師はこの検査結果に基づき疾患の発症予測や予後判定、治療方針の決定などを行う。遺伝学的検査の過程をバリアント検出と臨床的な解釈付けの2つに分けた場合、一般的に前者は高い正確性があると認識されているため、多くの研究は後者に焦点を当てたものになっているのが現状である。 しかしながら、前者についても重要な研究が行われており、2018年にGoogle Brainチームという人工知能の研究チームより、DeepVariantというバリアント検出に深層学習を用いたソフトウエア が報告された1 。このソフトウエアは、次世代シークエンサーの生データからバリアントを検出するまでの途中過程で生じる画像を大量に学習し、未知のバリアント検出に利用するという、とてもユニークな手法を用いている。本研究では、前立腺がんとメラノーマ患者由来の大規模データを用いて、このソフトウエアとヒトゲノム解析において世界の中心的な役割を果たしてきているBroad Instituteが開発したGenome Analysis Toolkit(GATK)のHaplotypeCallerという現在最も汎用されているソフトウエアを、臨床的に重要な遺伝子のバリアントに着目し、バリアント保有者数 、感度 、特異度 、陽性・陰性的中率について比較した。 これら2つの手法を比較した結果、特にBRCA1/2などの遺伝性腫瘍関連遺伝子群において、DeepVariantは全評価項目において従来法のHaplotypeCallerに比べ性能が良いことが示された。例えば、前立腺がん患者データにおいて検出されたバリアント保有者は、DeepVariantで198人、従来法で182人だった。この要因の1つとして、DeepVariantでは集団において保有者が1人しかいないような極めて頻度が低いバリアントも高感度に検出できたことが挙げられる。一方、 DeepVariantだけ検出できないバリアントも存在したことから、検出感度を最大にするためには両者の併用も考慮する必要があるとしている。 以上のように、バリアントの検出手法はすでに確立されたものと一般的には考えられているが、深層学習など新たな手法を用いることによってま だまだ改善する余地が残されていることが、本論文では示されていた。 1. Poplin R, et al. Nat Biotechnol. 2018;36(10):983-987.
関節リウマチに用いる低用量グルココルチコイドの重篤な感染症リスク コホート研究
関節リウマチに用いる低用量グルココルチコイドの重篤な感染症リスク コホート研究
Risk for Serious Infection With Low-Dose Glucocorticoids in Patients With Rheumatoid Arthritis : A Cohort Study Ann Intern Med. 2020 Dec 1;173(11):870-878. doi: 10.7326/M20-1594. Epub 2020 Sep 22. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】関節リウマチ(RA)やその他の慢性疾患の管理に低用量グルココルチコイドが頻繁に用いられているが、長期投与の安全性は明らかになっていないままである。 【目的】安定した疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARD)療法を実施しているRAに用いる低用量グルココルチコイド長期投与による入院を要する感染症リスクを定量化すること。 【デザイン】後ろ向きコホート研究。 【設定】2006年から2015年のメディケア請求データおよびOptumの匿名化したClinformatics Data Martデータベース。 【患者】6カ月以上にわたって安定したDMARDレジメンを受けている成人RA患者。 【評価項目】逆確率重み付け(IPTW)法を用いてグルココルチコイド用量(非投与、5mg/日以下、5-10mg/日、10mg/日超)と入院を要する感染症との関連を評価し、重み付けモデルで1年累積発症率を推定した。 【結果】メディケアから17万2041例で24万7297件、Optumから4万4118例で5万8279件のデータを特定した。6カ月間の安定したDMARD療法後、メディケア患者の47.1%とOptum患者の39.5%がグルココルチコイドの投与を受けていた。メディケア患者の入院を要する感染症の1年累積発症率は、グルココルチコイド非投与で8.6%であったのに対して、5mg/日以下11.0%(95%CI 10.6~11.5%)、5~10mg/日14.4%(同13.8~15.1%)、10mg/日超17.7%(同16.5~19.1%)だった(いずれも非投与との比較のP<0.001)。Optum患者の入院を要する感染症の1年累積発症率は、グルココルチコイド非投与で4.0%であったのに対して、5mg/日以下5.2%(同4.7~5.8%)、5~10mg/日8.1%(同7.0~9.3%)、10mg/日超10.6%(同8.5~13.2%)であった(いずれも非投与との比較のP<0.001)。 【欠点】残存交絡およびグルココルチコイド容量の誤分類の可能性がある点。 【結論】安定したDMARD療法を受けている患者で、グルココルチコイドによって重篤な感染症リスクが用量依存的に上昇し、5mg/日の用量でさえ、わずかではあるが有意なリスクが認められた。臨床医は、低用量グルココルチコイドの便益とこのリスクの可能性のバランスをとるべきである。 第一人者の医師による解説 欧米に比べて小さい日本人 ステロイドを中止可能とする治療を模索すべき 山岡 邦宏 北里大学医学部膠原病・感染内科学主任教授 MMJ. June 2021;17(3):73 低用量ステロイドは関節リウマチ(RA)を含めた慢性疾患の治療において多く用いられている。しかし、その長期使用における安全性は明確となっていない。そこで、著者らは一定量の抗リウマチ薬で治療中のRA患者で長期間の低用量ステロイド使用と入院を要する重篤感染症の危険因子について後方視的研究を行った。解析には米国で65歳以上の高齢者と障害者を対象とした公的医療保険であるメディケア(平均年齢68.7歳)と米国大規模医療請求および統合実験室データベース(平均年齢57.6歳)であるOptum Clinformaticsの2つの異なるデータが用いられた。ステロイド用量を0mg/日(非使用)、5mg/日以下、5超~10mg/日、10mg/日超に分けてそれぞれのデータベース別に解析が行われた。6カ月間の一定量の抗リウマチ薬の使用が確認された患者でステロイド投与が行われていた割合はメディケア47.1%、Optum39.5%であった。1年後における入院を要した感染症の割合は、メディケアの場合、ステロイド0mg/日群の8.6%に対して5mg/日以下群で11.0%、5超~10mg/日群で14.4%、10mg/日超群で17.7%であった。一方、Optumでは、ステロイド0mg/日群の4.0%に対して、5mg/日以下群で5.2%、5超~10 mg/日群で8.1%、10mg/日群で10.6%であった。これらの結果より、米国の異なる2つの大規模データベースにおいてステロイドは用量依存的に入院を要する重篤感染症のリスクとなることが明らかとなり、たとえステロイドの用量が5mg/日以下でも0mg/日と比較すると有意にリスクが高いことが示された。 日本でもRA治療の実臨床ではいまだ多くの患者でステロイド投与が行われている。特に、疼痛・腫脹の制御目的に少量投与が年余にわたり行われていることがある。欧米では5mg/日以下であればRA患者では安全性が担保されているとされることが多いが、本論文からは一概にそうとは言えない。また、体重、体格指数(BMI)が欧米に比べて小さい日本人における低用量ステロイドの危険性は本論文以上である可能性を考慮して、他剤を用いてステロイドを中止可能とする治療を模索すべきであることを示唆している。
利益相反と臨床ガイドライン、諮問委員会報告、意見記事、記述レビューに見られる好意的な推奨との関連 系統的レビュー
利益相反と臨床ガイドライン、諮問委員会報告、意見記事、記述レビューに見られる好意的な推奨との関連 系統的レビュー
Association between conflicts of interest and favourable recommendations in clinical guidelines, advisory committee reports, opinion pieces, and narrative reviews: systematic review BMJ. 2020 Dec 9;371:m4234. doi: 10.1136/bmj.m4234. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【目的】利益相反と臨床ガイドライン、諮問委員会報告、意見記事、記述レビューに見られる好意的な推奨との関連を明らかにすること。 【デザイン】系統的レビュー。 【適格基準】利益相反と臨床ガイドラインや諮問委員会報告、意見記事(論説など)、記述レビューに見られる薬剤や医療機器の好意的な推奨(薬剤の推奨など)との関連を比較した研究。 【データ入手元】PubMed、Embase、Cochrane Methodology Register(開始から2020年2月まで)、参考文献一覧、Web of Scienceおよび灰色文献。 【データ抽出および解析】著者2人が個別にデータを抽出し、研究の方法論的な質を評価した。変量効果モデルを用いて統合相対リスクと95%信頼区間(CI)を推定した(相対リスク1超が、利益相反がある文書に好意的な推奨内容が見られる頻度が、利益相反がない文書よりも高いことを示す)。経済的および非経済的な利益相反を分けて解析し、4分類の文書を分けた解析(事前に予定)と合わせた解析(事後)を実施した。 【結果】臨床ガイドライン106報、諮問委員会報告1809報、意見記事340報および記述レビュー497報を解析した研究21件を対象とした。研究11件から非公開データを受領した(完全データ8件、要約データ3件)。研究15件から、比較した文書は利益相反以外の因子が異なるため、交絡のリスクが示された(異なる集団で異なる薬剤を使用するなど)。経済的利益相反と好意的な推奨の関連の相対リスクは、臨床ガイドラインで1.26(95%CI 0.93~1.69、86件を検討した研究4件)、諮問委員会報告で1.20(同0.99~1.45、629報を検討した研究4件)、意見記事で2.62(同0.91~7.55、284報を検討した研究4件)、記述レビューで1.20(同0.97~1.49、457報を検討した研究4件)だった。4種類の文書を合わせた解析から、この結果が裏付けられた(1.26、1.09~1.44)。専門分野ごとの利益を調査した研究1件で、ガイドラインの著者に放射線科医を含む場合とルーチンの乳がんの定期検診を推奨する場合との関連に関しては、相対リスク2.10(同0.92~4.77、臨床ガイドライン12件)だった。 【結論】著者らは、この結果は、経済的な利益相反に臨床ガイドラインや諮問委員会報告、意見記事(論説など)、記述レビューでの薬剤や医療機器の好意的な推奨との関連があることを示唆するものであると解釈する。このレビューの欠点に、解析対象とした研究に交絡因子があるリスクや文書の種類別の解析に統計誤差がある点がある。非経済的な利益相反が推奨に影響を及ぼすかは明らかになっていない。 第一人者の医師による解説 利益相反の徹底的排除は困難 適切な管理と関係者による自主的情報開示が重要 三浦 公嗣 慶應義塾大学病院臨床研究推進センター教授 MMJ. June 2021;17(3):93 医薬品や医療機器の使用などについて好意的な内容の診療ガイドライン、学会の委員会報告、意見などがあればその製品の販売促進に資することが期待できるし、実際、製薬会社などの営業活動ではそのような資料は頻繁に活用されてきた。学会や研究者としての社会的責任と、企業活動との連携に伴って生じる学会や研究者個人の利益が相反する状態である利益相反の結果として、真実が歪められることはあってはならない。そのため、例えば、携わる専門家の考え方がその内容に大きく関わることになる診療ガイドラインの策定においては、日本医学会が利益相反についての方針を示し、各学会が関係者の利益相反状況を管理するとともに、使用が推奨されている医薬品の製造販売企業が自ら開示している資料をつぶさに見ればそれらの専門家との経済的関係がわかる。一方、診療ガイドライン側から見てその企業と個別の専門家との経済的関係が明示的になることはほとんどないし、ましてや専門家による医薬品などに関する個人的意見について利益相反が管理されることはまずない。 純粋に医学的見地から医師が医薬品を処方するとして、その判断の基礎になる診療ガイドラインが経済的な影響を受けずに、医学的エビデンスに基づいて策定されることは極めて重要なことであり、関係者は襟を正して策定に臨むことが強く求められるが、本論文の著者らは診療ガイドラインなどと策定関係者の利益相反に関係があることが示されたとしている。 さらに、診療ガイドラインなどの基礎となる医学的エビデンスを紡ぐ過程においても利益相反の管理が進められてきた。従来、臨床研究の実施に際しては関与する研究者の利益相反の状況が掌握されてきたが、臨床研究と利益相反に関する不正事案が指摘されたこともあり、2018年に施行された「臨床研究法」では、医薬品や医療機器などの有効性・安全性を明らかにすることを目的とする臨床研究においてはより厳密な利益相反の管理が行われるようになった。 経済活動が高度に進む現代社会において利益相反は必然的に発生しており、それを徹底的に排除することは困難であることから、むしろ適切に管理していることが重要である。その基盤は関係者による自主的な情報開示にあり、それを承知した上で適切な医学的判断などが求められる傾向は一層強まっていくことが予想される。
小児および成人B細胞急性リンパ性白血病に用いるゲノム編集したドナー由来同種CD-19標的キメラ抗原受容体発現T細胞 第1相試験の結果
小児および成人B細胞急性リンパ性白血病に用いるゲノム編集したドナー由来同種CD-19標的キメラ抗原受容体発現T細胞 第1相試験の結果
Genome-edited, donor-derived allogeneic anti-CD19 chimeric antigen receptor T cells in paediatric and adult B-cell acute lymphoblastic leukaemia: results of two phase 1 studies Lancet. 2020 Dec 12;396(10266):1885-1894. doi: 10.1016/S0140-6736(20)32334-5. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【結果】ゲノム編集したドナー由来同種CD-19標的キメラ抗原受容体発現(CAR)T細胞によって、臨床現場での即時使用が可能なCAR-T細胞製品の新たな形態がもたらされ、利用のしやすさや適応性が広がることになる。UCART19はそのような製品の一つで、小児と成人の再発または治療抵抗性B細胞急性リンパ性白血病で検討されている。多施設共同第1相試験2件で、小児と成人の再発または治療抵抗性B細胞急性リンパ性白血病に用いるUCART19の実行可能性、安全性および抗白血病活性を調べることを目的とした。 【方法】UCART19の安全性および抗白血病活性を評価する進行中の多施設共同第1相試験2件に小児および成人患者を組み入れた。全例にフルダラビンとcyclophosphamideを投与して(一部にアレツムマブ併用)リンパ球を枯渇させてから、小児にUCART19を1.1~2.3×10^6個/kg、成人に6×10^6個/kg、または用量漸増試験で1.8~2.4×10^8個投与した。主要評価項目は、初回投与とデータカットオフ時点の間に認められる有害事象とした。この試験は、ClinicalTrials.govにNCT02808442とNCT02746952で登録されている。 【結果】2016年6月3日から2018年10月23日の間に、2試験に小児7例および成人14例を組み入れ、UCART19を投与した。サイトカイン放出症候群が最も発言頻度の高い有害事象で、19例(91%)に認められ、そのうち3例(14%)がグレード3~4のサイトカイン放出症候群を来した。他の有害事象として、8例(38%)にグレード1または2の神経毒性、2例(10%)にグレード1の急性移植片対宿主病、6例(32%)にグレード4の遷延する血球減少が発現した。2例が治療のため死亡し、1例はサイトカイン放出症候群と併発した好中球減少性敗血症によるもので、もう1例は血球減少が持続する症例で肺出血が原因であった。21例中14例(67%)が完全寛解または投与28日後の造血機能回復が不十分な完全寛解を得た。アレツムマブを投与しなかった患者(4例)では、UCART19の増殖または抗白血病活性が認められなかった。奏効期間中央値は、同種幹細胞移植前に奏効が認められた14例中10例(71%)で4.1カ月であった。6カ月無増悪生存率が27%、全生存率が55%であった。 【解釈】この2件の試験は、悪性度の高い白血病の治療に用いる同種のゲノム編集したCAR-T細胞の実行可能性を初めて示したものである。UCART19は、複数の治療歴がある小児および成人の再発または治療抵抗性B細胞急性リンパ球性白血病の生体内で増殖および抗白血病活性を示し、安全性も管理可能であった。本試験の結果によって同種CAR-T細胞の分野が一歩前進し、UCART19は、急速に進行する疾患や自家CAR-T細胞療法が利用できない場合にも治療の機会をもたらすものである。 第一人者の医師による解説 ドナーのTリンパ球を用いる同種 CAR-T細胞の開発で より多くの患者にCAR-T細胞療法の機会の増加を期待 金 裕花/森 鉄也 聖マリアンナ医科大学病院小児科 MMJ. June 2021;17(3):85 キメラ抗原受容体(chimeric antigen receptor; CAR)は、がん細胞が発現する抗原などを標的として作製された人工的受容体であり、CARを患者のTリンパ球に遺伝子導入したCAR-T細胞の輸注により、がん細胞に対する特異的な免疫応答による治療効果が期待される(自家CAR-T細胞療法)。 ほとんどのB細胞性急性リンパ芽球性白血病(acute lymphoblastic leukemia;ALL)患者のALL細胞に発現するCD19を標的とした自家CAR-T細胞は、再発・治療抵抗性のCD19陽性ALLに対し高い奏効割合(70〜90%)を示し、日本においても2019年5月に薬事承認された。一方で、自家CAR-T細胞の製造は複雑であり、時間を要し(少なくとも5〜6週)、1回の投与あたりの薬価は3,349万円(保険収載当時)と高額である。 本論文は、健常ドナーのTリンパ球を用いて製造されたCD19標的同種CAR-T細胞(UCART19)の再発・治療抵抗性のCD19陽性ALLに対する第1相試験の報告である。対象患者(小児7人、成人14人)には、リンパ球除去療法後にUCART19が輸注され、主要評価項目である有害事象などが評価された。最も頻度の高い有害事象はサイトカイン放出症候群であり、21人中19人(91%)に生じ、3人(14%)はグレード3以上であった。また、6人(32%)にグレード4の遷延する血球減少、2人(10%)にグレード1の急性移植片対宿主病を認めた。敗血症、肺出血により2人に治療関連死亡が生じた。輸注28日後に、14人(67%)に完全奏効、あるいは造血機能回復が不十分な完全奏効を認めた。6カ月無増悪生存率は27%、6カ月生存率は55%であった。リンパ球除去療法にアレムツズマブ*を使用しなかった4人では、UCART19の増殖および治療効果を認めなかった。UCART19は対応可能な安全性プロファイルのもとで、患者体内で増殖しALLに対する効果を発揮したことから、再発・治療抵抗性のCD19陽性ALL患者に対する同種CAR-T細胞療法の開発に有望な一歩を踏み出したと結論している。 患者ではなくドナーのTリンパ球を用いる同種CAR-T細胞の開発により、必要時に速やかに使用可能な既製(off-the-shelf)製剤として、より多くの患者にCAR-T細胞療法の機会が増加すると期待される。さらなる経験、評価の蓄積が待たれる。 *アレムツズマブ;リンパ球などが発現するCD52に対する抗体製剤であり、日本では同種造血幹細胞移植の前治療などに対する適応が薬事承認されている。
デンマークの低比重リポ蛋白と全死因および死因別死亡との関連 前向きコホート研究
デンマークの低比重リポ蛋白と全死因および死因別死亡との関連 前向きコホート研究
Association between low density lipoprotein and all cause and cause specific mortality in Denmark: prospective cohort study BMJ. 2020 Dec 8;371:m4266. doi: 10.1136/bmj.m4266. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【目的】一般集団で、低比重リポ蛋白コレステロール(LDL-C)値と全死因死亡との関連、全死因死亡リスクが最も低くなるLDL-C濃度を明らかにすること。 【デザイン】前向きコホート研究。 【設定】デンマークで2003年から2015年の間に組み入れた追跡期間中央値9.4年のコペンハーゲン一般集団研究(Copenhagen General Population Study)。 【参加者】全国デンマーク国民登録システムから無作為に抽出した国民。 【主要評価項目】死亡リスクに関連を示すベースラインのLDL-C値を連続尺度(制限付き3次スプライン)およびCox比例ハザード回帰モデルを用いて先験的に定義した百分位分類で評価した。全死因死亡を主要評価項目とした。死因別死亡(心血管、がん、その他死因による死亡)を副次評価項目とした。 【結果】20-100歳の国民10万8243例のうち1万1376例(10.5%)が対象期間中に死亡した(年齢中央値81歳)。LDL-C値と全死因死亡リスクとの関連はU字形であり、低値および高値で全死因死亡リスクが高かった。LDL-C濃度3.4~3.9mmol/L(132~154mg/dL、第61-80百分位数)と比較すると、全死因死亡率の多変量補正ハザード比は、LDL-C濃度1.8mmol/L未満(70mg/dL未満、第1~5百分位数)で1.25(95%CI 1.15~1.36)、LDL-C濃度4.8mmol/L超(189mg/dL超、第96~100百分位数)で1.15(同1.05~1.27)だった。全死因死亡リスクが最も低いLDL-C値は、全体および脂質低下療法非実施下で3.6mmol/L(140mg/dL)であったのに対して、脂質低下療法実施下では2.3mmol/L(89mg/dL)であった。男女、全年齢層、がんとその他の死因による死亡でほぼ同じ結果が見られたが、心血管死ではこの結果は見られなかった。程度を問わないLDL-C値の上昇で心筋梗塞リスクが上昇した。 【結論】一般集団で、LDL-C低値または高値で全死因死亡リスクが上昇し、全死因死亡リスクが最も低くなるLDL-C値は3.6mmol/L(140mg/dL)であることが明らかになった。 第一人者の医師による解説 軽度上昇で治療開始ではなく アテローム性動脈硬化症の絶対リスクの評価が重要 平田 健一 神戸大学大学院医学研究科循環器内科学分野教授 MMJ. June 2021;17(3):83 LDLコレステロール(LDL-C)は動脈硬化性心血管疾患の危険因子であり、血中LDL-Cの高値は将来の心血管イベント発症のリスクとなることが知られている。また、脂質低下薬によるLDL-Cの低下が将来の動脈硬化性心血管イベントのリスクを低下させることが多くのランダム化比較試験により明らかとなっている。しかし、LDL-Cの値と全死亡率の関係について検討した研究では、結論が一致していない。 本研究では、コペンハーゲン市在住のデンマーク国民を対象とした前向きコホート研究「Copenhagen General Population Study」のデータが用いられた。20〜100歳の市民をランダムに選び、2003〜15年に参加の協力が得られ た108,243人(参加率43%)を登録し、追跡調査を行い、LDL-C値と全死亡率や疾患別死亡率との関連性について検討した。 本研究の結果、アテローム性動脈硬化症のリスクが低いと思われる一般集団において、全死亡のリスクが最も低いLDL-C値は3.6mmol/L(140mg/dL)であり、その値より、LDL-Cが高値や低値となると、全死亡のリスクが上昇し、LDL-C値と死亡率の間にU字型の関係が認められた。これは、動脈硬化症のリスクが低い人においては、LDL-C値は約140mg/dLが至適であることを示すものであり、一般的に考えられているLDL-Cの至適値をかなり上回っていた。がんやその他の死亡率についても同様の結果であった。一方、今までの報告のとおり、LDL-C値の上昇は、心筋梗塞および心筋梗塞による死亡のリスク上昇と強い正の相関を示しており、本研究の妥当性を裏付けていると考えられた。今回は、デンマークの白人の一般集団における結果であるが、脂質低下薬を服用していない若い韓国人を対象とした最近の研究でも本研究と同様の結果が示されている(1) 。 本研究は、「正常で健康な」レベルのLDL-C値を明らかにする重要な研究であり、LDL-C値の軽度な上昇のみで治療を開始するのではなく、脂質低下治療を開始するLDL-C値や時期を決定する際に、アテローム性動脈硬化症の絶対リスクを評価することが重要である。今後、多くの研究で同様の結果が確認された場合、臨床および公衆衛生に重要な影響を及ぼすと思われる。 1. Sung KC, et al. J Clin Med. 2019;8(10):1571.
高心血管リスク患者の主要有害心血管イベントに対する高用量オメガ3脂肪酸とコーン油の比較 STRENGTH無作為化臨床試験
高心血管リスク患者の主要有害心血管イベントに対する高用量オメガ3脂肪酸とコーン油の比較 STRENGTH無作為化臨床試験
Effect of High-Dose Omega-3 Fatty Acids vs Corn Oil on Major Adverse Cardiovascular Events in Patients at High Cardiovascular Risk: The STRENGTH Randomized Clinical Trial JAMA. 2020 Dec 8;324(22):2268-2280. doi: 10.1001/jama.2020.22258. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【重要性】オメガ3脂肪酸エイコサペンタエン酸(EPA)およびドコサヘキサエン酸(DHA)によって心血管リスクが低下するかはいまだに明らかになっていない。 【目的】EPAとDHA(オメガ3 CA)のカルボン酸製剤が心血管転帰にもたらす効果、および心血管リスクが高いアテローム性異常脂質血症患者の脂質および炎症マーカーにもたらす文書化された良好な作用を明らかにすること。 【デザイン、設定および参加者】心血管リスクが高く、高トリグリセリド血症があり、高比重リポ蛋白コレステロール(HDL-C)が低いスタチン治療中の患者でオメガ3 CAとコーン油を比較した多施設共同二重盲検無作為化試験(2014年10月30日から2017年6月14日の間に登録、2020年1月8日に試験終了、最終患者診療日2020年5月14日)。北米、欧州、南米、アジア、オーストラリア、ニュージーランドおよび南アフリカの22カ国の大学病院および市中病院675施設で計1万3078例を無作為化した。 【介入】スタチンを含む通常治療に加えてオメガ3 CA 4g/日(6539例)と不活性対照のコーン油(6539例)を投与するグループに患者を無作為に割り付けた。 【主要評価項目】主要有効性評価項目は、心血管死、非致命的心筋梗塞、非致命的脳卒中、冠動脈血行再建、入院を要する不安定狭心症の複合とした。 【結果】(予定していたイベント1600件のうち)1384例に主要評価項目のイベントが発生した時点で、オメガ3 CAの臨床的便益の可能性が対照のコーン油よりも低いことが示唆された中間解析に基づき、試験は早期に中止された。1万3078例(平均年齢[SD]62.5[9.0]歳、女性35%、糖尿病70%、低比重リポタンパク質[LDL]コレステロール中央値75.0mg/dL、トリグリセリド中央値240mg/dL、HDL-C中央値36mg/dL、高感度CRP中央値2.1mg/L)のうち1万2633例(96.6%)が試験を完了し、主要評価項目の発生状況を確認した。主要評価項目は、オメガ3 CAで治療した患者の785例(12.0%)、コーン油で治療した患者の795例(12.2%)に発生した(ハザード比0.99[95%CI 0.90~1.09]、P =0.84)。オメガ3 CA群(24.7%)の方がコーン油群(14.7%)よりも、消化器系有害事象の発現率が高かった。 【結論および意義】スタチンで治療している心血管リスクが高い患者で、通常治療へのオメガ3 CA追加は、コーン油と比較した主要有害心血管イベントの複合転帰の有意差がなかった。この結果は、高リスク患者の主要有害心血管イベント減少を目的としたこのオメガ3脂肪酸製剤の使用を支持するものではない。 第一人者の医師による解説 評価が分かれるω -3脂肪酸製剤 さらなる検証と代理エンドポイントの再検討が必要 原 眞純 帝京大学医学部附属溝口病院・病院長、第四内科学講座主任教授 MMJ. June 2021;17(3):79 大規模介入試験の結果から、高用量のスタチンで低比重リポ蛋白コレステロール(LDL-C)を十分に低下させても、心血管疾患(CVD)発症は30%程度しか減少せず、LDL-C低下だけでは解決しない残余リスクが指摘されてきた。高トリグリセライド(TG)血症は残余リスクの1つとされフィブラートやω-3脂肪酸製剤などを用いてTGを低下させる介入が試みられてきた。 本研究では、CVD既往のある2次予防患者を50%以上、糖尿病患者も約70%含む高リスク群に、最大限のスタチン投与に加えてエイコサペンタエン酸(EPA)とドコサヘキサエン酸(DHA)の両方を含むω-3脂肪酸のカルボン酸製剤を追加投与し、心血管イベント抑制効果を検証している。その結果、心血管複合エンドポイント減少効果を示すことができない見通しとなり、研究は早期終了となった。 ω-3脂肪酸製剤に関する先行大規模試験の結果には相違がある。効果を示した研究としては、EPAのみを投与した日本のJELIS研究(1)と海外のREDUCE-IT研究(2)があるが、その他多くの研究では心血管イベント抑制効果は証明されなかった。本研究では、従来のエステル化製剤と異なり膵リパーゼによる加水分解を経ずに吸収されるカルボン酸製剤が用いられたが、この製剤が効果に影響を及ぼしたかどうかについては明らかでない。また、DHAが動脈硬化を促進するという知見は報告されていないが、DHAを含むω-3脂肪酸製剤では心血管イベント減少は証明されていない。なお、REDUCE-IT研究では、対照群においてC反応性蛋白(CRP)の上昇がみられることから、対照薬として用いた鉱物油の投与により心血管イベントが増加した結果、EPA群との有意差が得られたとの見方もある。このため、本研究では対照薬としてコーン油が選択されている。 本研究では、脂質改善効果やC反応性蛋白の低下など、ω-3脂肪酸製剤に期待される代理エンドポイントの改善は得られている。にもかかわらず心血管イベントが減少しなかったことは、これらが代理エンドポイントとして妥当でない可能性が示唆される。メンデルランダム化研究の結果などから、TGを低下させる介入がCVD発症を抑制することが示唆されているものの、TG上昇がどのような機序で動脈硬化に関わっているかには諸説あり、TG上昇に伴って増加するレムナントやsmall dense LDLなどが真の動脈硬化促進因子であることも示唆されている。評価が分かれるω-3脂肪酸製剤については、今後さらなる検証が必要であると同時に、ペマフィブラートなど、残余リスクに対する他の介入でも作用機序や有効性の指標とすべき代理エンドポイントの再検討が必要であろう。 1. Saito Y, et al. Atherosclerosis. 2008;200(1):135-140. 2. Bhatt DL, et al. N Engl J Med. 2019;380(1):11-22.
収縮期心不全に用いるomecamtiv mecarbilによる心筋ミオシン活性化
収縮期心不全に用いるomecamtiv mecarbilによる心筋ミオシン活性化
Cardiac Myosin Activation with Omecamtiv Mecarbil in Systolic Heart Failure N Engl J Med. 2021 Jan 14;384(2):105-116. doi: 10.1056/NEJMoa2025797. Epub 2020 Nov 13. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】選択的心筋ミオシン活性化薬omecamtiv mecarbilは、左室駆出率が低下した心不全の心機能を改善することが示されている。心血管転帰にもたらす効果は明らかになっていない。 【方法】左室駆出率が35%未満の収縮期心不全(入院および外来)患者8256例を標準心不全治療に加えてomecamtiv mecarbil群(薬物動態学を基に決定した用量25mg、37.5mg、50mgのいずれかを1日2回)またはプラセボ群に無作為に割り付けた。主要評価項目は、心不全イベント(入院または心不全による救急受診)の初回発生または心血管死の複合とした。 【結果】中央値21.8カ月の間に、omecamtiv mecarbil群4120例中1523例(37.0%)とプラセボ群4112例中1607例(39.1%)に主要評価項目が発生した(ハザード比0.92、95%CI 0.86~0.99、P=0.03)。それぞれ808例(19.6%)、798例(19.4%)が心血管の原因で死亡した(同1.01、0.92~1.11)。カンザスシティ心筋症質問票の総合症状スコア変化量に群間差はなかった。24週時、N末端プロB型ナトリウム利尿ペプチド(NT-proBNP)中央値の試験開始時からの変化量は、omecamtiv mecarbil群の方がプラセボ群よりも10%低く、心臓トロポニンI値中央値は4ng/L高かった。心虚血と心室性不整脈イベントの発現頻度は両群同等だった。 【結論】左室駆出率が低下した心不全にomecamtiv mecarbilを投与すると、心不全イベントと心血管死の複合転帰の発生率がプラセボ投与よりも低かった。 第一人者の医師による解説 作用機序を踏まえると従来の強心薬に比べ安全性は高い さらなる臨床試験の結果に注視 佐野 元昭 慶應義塾大学医学部循環器内科准教授 MMJ. June 2021;17(3):80 左室収縮機能が低下した心不全の治療には、利尿薬、強心薬、神経内分泌因子修飾薬(レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系抑制薬、β遮断薬、ネプリライシン阻害薬)、心拍数を低下させるイバブラジン、SGLT2阻害薬などが用いられている。心臓のポンプ機能の低下による心拍出量の減少は、うっ血、浮腫や呼吸困難の原因となるだけでなく、神経内分泌因子を活性化させて心不全の病態を悪化させるため、強心薬を用いて、安全にポンプ機能を立ち上げることができれば、それに越したことはない。現在、日本でよく用いられている強心薬ピモベンダンは、心筋のCa2+感受性を増強する作用やプロテインキナーゼ A(PKA)活性化作用を介して、心筋の収縮力を高めるとともに、心筋拡張機能を改善する。ピモベンダンを心不全患者に投与すると確かに運動耐用能は改善するが、死亡率が上昇する傾向が示されたため、他の薬剤で症状が改善しない場合、不整脈の増悪に注意しながら一時的に使用する薬剤として位置づけられている。カテコラミン類似薬の強心薬デノパミンに関しても同様である。 オメカムチブメカルビルは、ミオシンに結合して心筋収縮力を増強させる新規作用機序による強心薬である(1)。β遮断薬を使用していても強心作用を発揮する。細胞内Ca2+動態に影響を与えないため不整脈による突然死を増加させるリスクは低いと考えられる。また、酸素需要を増加させずに心筋 収縮力を増強できる点も魅力的である。 今回のGALACTIC-HF試験では、症候性慢性心不全で駆出率が35%以下の患者を対象に、標準的な心不全治療に加えてオメカムチブメカルビルを投与することの安全性と有効性が評価された。その結果、プラセボ群と比較し、心血管死および全死亡を増やすことなく、初回の心不全イベント(心不全による入院または緊急受診)または心血管死の複合エンドポイントをわずかではあるが有意に低下させた(ハザード比,0.92;P=0.03)。しかし、最も期待された心不全に伴う症状、身体的制限、生活の質(QOL)の改善は認められなかった。患者の3分の1に植込み型除細動器(ICD)が装着されており、ICDで不整脈死がある程度抑制されていた集団が対象であった点も考慮する必要がある。 作用機序を踏まえると、従来の強心薬に比べ安全性がより高いと考えられるオメカムチブメカルビルに関しては、2020年末、開発・商業化権がアムジェン社からサイトキネティクス社へ移管されることが発表された。今後、国内外での承認申請の動向やさらなる臨床試験の結果を注視したい。 1. Malik FI, et al. Science. 2011;331(6023):1439-1443.
制御不良の高血圧にデジタル介入を用いた家庭でのオンラインの血圧管理と評価(HOME BP) 無作為化対照試験
制御不良の高血圧にデジタル介入を用いた家庭でのオンラインの血圧管理と評価(HOME BP) 無作為化対照試験
Home and Online Management and Evaluation of Blood Pressure (HOME BP) using a digital intervention in poorly controlled hypertension: randomised controlled trial BMJ. 2021 Jan 19;372:m4858. doi: 10.1136/bmj.m4858. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【目的】HOME BP(Home and Online Management and Evaluation of Blood Pressure)試験は、プライマリケアでの高血圧管理に用いる血圧の自己監視と自己管理指導を組み合わせたデジタル介入を検証することを目的とした。 【デザイン】主要評価項目の自動確認による非盲検無作為化対照試験 【設定】英国の一般診療所76施設。 【参加者】治療しても高血圧制御が不良(140/90mmHg超)でインターネットが利用できる患者622例。 【介入】最小化アルゴリズムを用いて、参加者をデジタル介入を併用した血圧の自己監視(305例)と標準治療(ルーチンの高血圧治療+受診と診療医の裁量による薬剤変更、317例)に割り付けた。デジタル介入によって、患者と医療従事者に血圧結果のフィードバックが送られ、任意で生活様式の助言と動機付けの支援が利用できるようにした。高血圧患者、糖尿病患者、80歳以上の患者の目標血圧値は英国ガイドラインに従った。 【主要評価項目】主要評価項目は、試験開始時の血圧、目標血圧値、年齢および診療所で調整した1年後の収縮期血圧の差(2回目と3回目の測定値の平均)とし、欠損値に多重代入法を用いた。 【結果】1年後、552例(88.6%)からデータが入手でき、残りの70例(11.4%)は補完した。介入群では平均血圧値が151.7/86.4mmHgから138.4/80.2mmHgに、標準治療群では151.7/86.4mmHgから138.4/80.2mmHgに低下し、収縮期血圧の平均差が-3.4mmHg(95%CI -6.1~-0.8mmHg)、拡張期血圧の平均差が-0.5mmHg(同-1.9~0.9mmHg)であった。完全ケース分析では結果が同等であり、両群間の有害事象がほぼ同じであった。試験期間中にかかった費用から、1mmHg低下当たり増分費用効果比が11ポンド(15ドル、12ユーロ、95%CI 6~29ポンド)となった。 【結論】血圧の自己監視を用いた高血圧管理のHOME BPデジタル介入は、標準治療よりも1年後の収縮期血圧制御が良好で、増分費用もわずかであった。プライマリケアで導入するには、臨床現場のワークフローへの統合およびインターネットを利用しない人々がいることを考慮する必要がある。 第一人者の医師による解説 リモート自己血圧モニタに基づく降圧薬治療の呈示で クリニカルイナーシャを改善 石光 俊彦 獨協医科大学腎臓・高血圧内科教授 MMJ. June 2021;17(3):81 高血圧治療において近年のガイドラインでは疾患や病態などに応じた厳格な降圧目標が推奨されているが、英国の成人の30%近く、65歳以上では50%以上が140/90mmHg以上である。一方、さまざまな分野で医療のデジタル化が進められており、高血圧診療においても、インターネットを利用した血圧モニター、生活習慣指導や服薬管理を普 及させることにより、治療成績の向上が期待される。 英国で行われた本論文の研究(HOME BP)では、一般の実地診療医師と血圧コントロール不良(140/90mmHg超)の高血圧患者を対象として、 通常診療とオンラインによるデジタル介入を行った診療による治療効果が比較された。介入群では、オンラインで収集した患者の家庭血圧のデータを アルゴリズムにより評価し、その情報を患者と担当医師にフィードバックするとともに、それに基づいた降圧薬治療の提案や食事、運動、適正体重などの生活指導や服薬指導がインターネットを介して行われた。 12カ月後、通常治療群では平均血圧が151.6/85.3から141.8/79.8mmHgに低下したのに対し、介入群では151.7/86.4から138.3/80.2mmHgと通常治療群に比べ、−3.4/−0.5mmHg降圧が大きかった。サブグループ解析では、デジタル介入による降圧は、67歳未満の群および糖尿病、慢性腎臓病(CKD)、心血管病などの合併症がない群において大きかった。質問票によると副作用の発現、服薬アドヒアランス、生活の質(QOL)は両群で有意差がなかった。介入に要した費用は患者1人あたり平均38ポンドで、収縮期血圧1mmHgの降圧増加につき11ポンドになった。 日本でも高血圧患者の73%が血圧140/90mmHg以上であり、患者および医療スタッフにおけるクリニカルイナーシャを改善する必要性が認識されている。本研究で試みられた家庭血圧モニターを中心とするオンラインの介入は、特に世界的に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が流行している状況において医療サービスの提供を改善する方策として有用である可能性がある。本研究でも12カ月後の継続率は89%と高く、降圧効果の増強により脳卒中が10〜15%、冠動脈疾患は5〜10%の減少が期待されるとしているが、対象者の大多数が白人であったことや67歳以上の高齢者では有意な降圧効果の増強が認められなかったことなどが、介入の適応を拡大する際に課題となると思われる。今後は、公的データベースを利用した医療費の評価やより長期の検討を行い、ガイドラインや診療報酬の算定に取り入れる方向で進められることが期待される。
1997~2018年に米食品医薬品局が承認した処方オピオイドを支持する主要な根拠
1997~2018年に米食品医薬品局が承認した処方オピオイドを支持する主要な根拠
Key Evidence Supporting Prescription Opioids Approved by the U.S. Food and Drug Administration, 1997 to 2018 Ann Intern Med. 2020 Dec 15;173(12):956-963. doi: 10.7326/M20-0274. Epub 2020 Sep 29. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】オピオイド鎮痛薬新規承認のために米食品医薬品局(FDA)が求めた根拠についてはほとんど知られていない。 【目的】1997年から2018年の間にFDAが承認したオピオイド鎮痛薬の新薬承認申請(NDA)の安全性および有効性データの質を明らかにすること。 【デザイン】横断的解析。 【設定】ClinicalTrials.gov、FDA審査および査読付き出版物のデータ。 【参加者】第3相主試験に参加した疼痛患者。 【介入】FDAが承認したオピオイド鎮痛薬。 【評価項目】主試験の数、規模および期間、試験の対照群、強化デザイン採用の有無および系統的に評価した安全性転帰などの各NDAの主な特徴。 【結果】評価したNDA 48件のほとんどが新投与形態(25件、52.1%)や新剤形(9件、18.8%)の申請で、わずか1件が新規化合物の申請であった。慢性疼痛の治療を適応に承認を受けたNDA 39件のうち、1件以上の主試験で裏付けられたものはわずか21製品(試験件数28件、試験期間中央値84日、対象症例数中央値299例)しかなかった。このうち17品(81%)は、不耐症例や早期に有害事象が認められた症例、直接的便益がほとんど認められなかった患者を除外する試験デザインを基に承認を受けていた。慢性疼痛のNDAのうち、8件(20.5%)が転用の系統的評価結果を報告した統合的な安全性レビューを提出し、7件(17.9%)が非医療目的での使用を系統的に評価し、15件(38.5%)が耐性発現を評価していた。急性疼痛治療薬9製品中8製品で、1件以上の主試験によって効果が裏付けられており、この主試験(19件)の期間中央値は1日(IQR 1~2日)で、329例(中央値、IQR 199~456例)を組み入れていた。承認を受けたNDA 48件のうち1例を除く全申請は既に承認されている成分に関するものであったが、関連製品のNDAの解析から同等の結果が得られた。 【欠点】解析は承認を受けたオピオイドに限られる点。動物試験や非主試験を除外した点。NDAの安全性の根拠が慢性疼痛のみを目的として示されている点。 【結論】1997年から2018年の間に、FDAは、薬剤に忍容性があった患者という狭義に定義した患者集団が頻繁に用いられた短期間または中期間の主試験を基にオピオイドを承認した。特定の重要な安全性転帰の体系的を収集することはまれであった。 第一人者の医師による解説 オピオイド鎮痛薬の有効性と安全性 十分な検証に基づく新薬承認が望まれる 伊原 奈帆(助教)/橋口 さおり(准教授) 慶應義塾大学医学部麻酔学教室 MMJ. June 2021;17(3):91 米国ではオピオイド鎮痛薬の過剰摂取による死者が2018年には46,000人を超え、誤用や乱用なども含め社会的問題となっている。 本論文は1997〜2018年に米食品医薬品局(FDA)が承認した48のオピオイド鎮痛薬の新薬承認申請(NDA)を対象に、有効性および安全性の評価に関して検討した横断的研究である。 新規有効成分のNDAは1件のみで、それ以外の47件中30件はFDA既承認薬の有効性や安全性に関する審査結果に新剤形や新配合など変更・改良の情報を合わせたデータによる申請であった。慢性疼痛に対するオピオイド鎮痛薬のNDA39件のうち、1つ以上のピボタル試験が行われていたのは21件であった。これら21件のNDAで行われた計28試験について検討したところ、試験期間中央値は84日、被験者 数中央値は299人であった。NDA21件中17件(81%)では、効果が乏しい被験者や副作用に耐えられない被験者をランダム化前に除外する慣らし期間を含むEERWデザインの試験が、最低1つは行われていた。EERWデザインの22試験において最初に登録された人数の37.2%(中央値)がランダム化前に除外されていた。 慢性疼痛のNDA39件中、29件では耐性、転用、乱用、異常使用、過剰摂取などの項目による安全性を評価していたが、10件のNDAでは評価していなかった。39件のNDAにおいて副作用を体系的に評価したものはなかったが、耐え難い副作用による脱落者などの報告は一般的に行われていた。 この結果より、FDAにより承認された慢性疼痛に対するオピオイド鎮痛薬は、12週以内の数回の試 験に基づき、耐性や転用の評価に乏しいプールされた解析が含まれたエビデンスで承認されていたことがわかった。多くの試験で、有効性を過大評価する可能性があるEERWデザインが使用されていた。 著者らはFDAに対して有効性と安全性の評価の向上のために、1 オピオイド鎮痛薬に関する規制 ガイダンスの強化、2 副作用の体系的な評価、3 EERWデザインの試験による評価の中止、4 長期安全性に関する証拠集め、5 乱用、依存や転用などの安全性情報の市販後調査を提言している。 日本では2020年10月にオキシコンチン ®TR 錠が慢性疼痛における鎮痛の適応追加の承認を受けたが、厚生労働省は厳しい流通管理体制をとることを承認条件としている。日本でも慢性疼痛のオピオイド鎮痛薬の処方は増えてくる可能性があるため、効果的かつ安全に使用するためのデータを十分に検証していく必要がある。
SARS-CoV-2ワクチン接種の可能性に対する態度 米国成人を対象とした調査
SARS-CoV-2ワクチン接種の可能性に対する態度 米国成人を対象とした調査
Attitudes Toward a Potential SARS-CoV-2 Vaccine : A Survey of U.S. Adults Ann Intern Med. 2020 Dec 15;173(12):964-973. doi: 10.7326/M20-3569. Epub 2020 Sep 4. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、またたく間に世界的大流行を引き起こした。ワクチン開発が異例の早さで進んでいる。利用できるようになれば、ワクチン接種と接種対象者を最大限に拡大することが重要になるであろう。 【目的】米国成人の代表的標本でCOVID-19に対するワクチン接種を受ける意志を評価し、ワクチン接種躊躇の予測因子や理由を明らかにすること。 【デザイン】2020年4月16~20日の間に実施した横断的調査。 【設定】米国の成人居住者の代表的標本。 【参加者】米国世帯人口の約97%に当たるAmeriSpeakの確率パネルから抽出した成人約1000例。 【評価項目】COVID-19ワクチン接種の意志を「コロナウイルスのワクチンができたら接種したいですか」という質問で測定した。回答選択肢を「はい」「いいえ」「分からない」とした。「いいえ」または「分からない」と回答した回答者に理由を聞いた。 【結果】AmeriSpeakパネル会員計991例が回答した。全体の57.6%(571例)がワクチン接種の意向を示し、31.6%(313例)が「分からない」と回答、10.8%(107例)にワクチンを接種する意志がなかった。ワクチン接種躊躇(「いいえ」または「分からない」の回答)と関連を示す独立の因子に、若年齢、黒人、低学歴および前年のインフルエンザワクチン非接種があった。ワクチン接種躊躇の理由に、ワクチンに対する懸念、詳しい情報の必要性、反ワクチンの姿勢や信念、および信頼感の欠如があった。 【欠点】ワクチンが販売される前および大流行が米国に大きな影響を及ぼす前にワクチン接種の意志を調査した。ワクチンの受容性を高める特定の情報や因子に関する質問がなかった。調査の回答率は16.1%であった。 【結論】コロナウイルス大流行中に実施したこの全国調査から、成人の約10人に3人がCOVID-19のワクチンを接種したいか分からず、10人に1人がワクチンを接種する意志がなかった。ワクチンが完成したときにCOVID-19ワクチンに対する受容性を増やすため、目標を定めた多方面からの努力が必要とされる。 第一人者の医師による解説 新型コロナワクチンのさまざまな情報提供の必要性を示唆 山岸 由佳 愛知医科大学大学院医学研究科臨床感染症学教授(特任) MMJ. June 2021;17(3):75 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、世界的に大規模な影響をもたらし、現在パンデミック を抑制する最も有望な手段として世界の複数の研究者が効果的なCOVID-19ワクチン(以下ワクチン)の開発に取り組んでいる。現在これまでにないスケジュールで複数のワクチンが開発され大規模な第3相試験が行われているが、一部で懐疑的な見方もされており、ワクチンが利用可能となったときにワクチンの普及に課題が生じる可能性がある。そこで事前に接種の意向調査を行ったのが本研究である。 本研究は、2020年4月16〜20日に実施された横断調査で、米国の世帯人口のおよそ97%をカバーするAmeriSpeakの確率的調査パネルから抽出されたおよそ1,000人の成人を対象とした。参加者全体の57.6%がワクチンの接種を「受けるつもりである」、31.6%が「わからない」、10.8%が「受けるつもりはない」と回答した。接種に積極的ではない参加者の特徴として、年齢が低い,女性、黒人またはヒスパニック系、教育水準が低い、世帯収入が低い、世帯規模が大きい、インフルエンザワクチンを接種したことがあると答えた確率が低いなどが挙げられた。またワクチン接種をためらう理由としては、ワクチン特有の不安、より多くの情報が必要、反ワクチン的な態度や信念、信頼感の欠如などが挙げられた。 COVID-19大流行時に実施された今回の全国調査から、成人の約10人に3人がワクチン接種を受け入れるかどうか確信が持てていないことが明らかになった。ワクチンが利用可能になった場合、その受容性を高めるためには、ターゲットを絞った多角的な取り組みが必要となることが明らかとなった。本研究の限界として、参加者のワクチン接種の意思は、ワクチンが入手可能になる前で、かつパンデミックの影響が米国の狭い範囲に及んでいるときに調査され、さらにアンケートの回答率は16.1%であったことである。 日本国内ではワクチン接種が可能となるまでの期間、何度も流行の波が押し寄せたが、主要な海外 に比べ接種開始が遅れたことは否めない。また3種類のワクチンが契約となったものの(執筆時点で) 開始されたのは1種類のみであること、医療従事者を先行としたものの十分行きわたらないまま高齢者への接種が開始され準備に十分な時間がとれたとはいえない状況であった。しかし、この流行の波を抑えるにはワクチンしかないという機運が高まっていたこと、接種までの準備期間に諸外国を中心に有効性および安全性などのさまざまな情報がもたらされたことから、少なくとも医療従事者においては接種の意向がはっきりしてきていると思われる。
変形性膝関節症の症状および滑膜炎による関節水腫の治療に用いるCurcuma longa抽出物の有効性:無作為化比較試験
変形性膝関節症の症状および滑膜炎による関節水腫の治療に用いるCurcuma longa抽出物の有効性:無作為化比較試験
Effectiveness of Curcuma longa Extract for the Treatment of Symptoms and Effusion-Synovitis of Knee Osteoarthritis : A Randomized Trial Ann Intern Med. 2020 Dec 1;173(11):861-869. doi: 10.7326/M20-0990. Epub 2020 Sep 15. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】変形性関節症の現行の薬物療法は最適なものではない。 【目的】症候性変形性膝関節症および滑膜炎による関節水腫がある患者で、膝の症状と関節水腫の軽減に対するウコン(Curcuma longa:CL)抽出物の有効性を明らかにすること。 【デザイン】無作為化二重盲検プラセボ対照試験(オーストラリアニュージーランド臨床試験レジストリ:ACTRN12618000080224)。 【設定】オーストラリア・南タスマニアの患者を対象とした単施設試験。 【参加者】超音波検査で滑膜炎による関節水腫が認められた症候性変形性膝関節症患者70例 【介入】1日当たり2錠を12週間にわたって投与するCL(36例)とマッチさせたプラセボ(34例)。 【評価項目】主要評価項目は、視覚的アナログ尺度(VAS)を用いた膝疼痛スコアおよび磁気共鳴画像法(MRI)で描出された関節液量の変化とした。主な副次評価項目は、Western Ontario and McMaster Universities Osteoarthritis Index(WOMAC)の疼痛スコアおよび軟骨の質の変化とした。各項目を12週間にわたって評価した。 【結果】CL群のVAS疼痛スコアがプラセボと比べて-9.1mm(95%CI -17.8、-0.4、P=0.039)改善したが、関節液量には変化がなかった(3.2mL、CI -0.3~6.8mL)。このほか、CL群ではWOMAC疼痛スコアが改善した(-47.2mm、CI -81.2~-13.2、P=0.006)が、外側大腿骨軟骨のT2緩和時間には改善が見られなかった(-0.4ms、CI -1.1~0.3ms)。有害事象発現率はCL群(14例、39%とプラセボ群(18例、53%)で同等であり(P=0.16)、CL群の2件、プラセボ群の5件が治療関連と考えられた。 【欠点】規模が中程度で、短期間であった点。 【結論】CLは、膝の疼痛に対してプラセボよりも有効であったが、滑膜炎による関節水腫や軟骨の質には影響がなかった。一連の結果の臨床的意義を評価すべく、さらに大規模な多施設共同試験が必要である。 第一人者の医師による解説 生薬(Curcuma longa)による変形性膝関節症治療のエビデンス 大規模で長期の臨床試験を期待 沢田 哲治 東京医科大学病院リウマチ・膠原病内科教授 MMJ. June 2021;17(3):74 変形性関節症(osteoarthritis;OA)は加齢を素因として緩徐に進行する軟骨の変性疾患であり、遠位指節間関節や手根中手関節、脊椎、下肢荷重関節などに疼痛や運動障害をきたす疾患である。X線像では骨棘形成や軟骨下骨硬化像、骨囊胞などの骨変化や関節裂隙狭小化(軟骨菲薄化)がみられる。非炎症性疾患と見なされているが、MRIでは滑膜病変やT2強調像の高信号領域として検出される骨髄 病変(bone marrow lesion)を認め、その病態形成に局所的な炎症機転の関与が示唆されている。 OAの進行を停止または逆転させる治療法はなく、対症療法として非薬物療法(運動療法、減量指導、装具使用、温熱療法など)、薬物療法、関節内注射(副腎皮質ステロイドやヒアルロン酸)、外科的療法などが行われる。疼痛緩和の薬物療法としてアセトアミノフェン内服、非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)内服、外用NSAID貼付などが行われるが、効果不十分なことも少なくない。また、NSAID内服では消化管障害や心血管系障害のリスクも懸念される。ウコン(turmeric)はアジアの熱帯地方で自生または栽培されるショウガ科の生薬である。カレー粉として料理に使われるが、主成分のクルクミンは利胆作用などのほかに抗炎症作用も有することが示されている(1)。 本論文の著者らは、ウコン抽出物の疼痛緩和効果を検証するため、関節水腫-滑膜炎を伴う膝OA患者70人を対象にランダム化二重盲検プラセボ対照試験を実施した。その結果、12週後のMRI画像上の関節液-滑膜炎量の改善は認められなかったが、ウコン抽出物の経口投与により疼痛と機能障害は有意に改善することが示された。日本の中川らの報告(2)を含むランダム化比較試験(試験期間は16週以下)のメタ解析でも、その有用性が示されている(3)。一方、臨床試験では重篤な副作用は報告されていないが、健康食品としてのウコン摂取では肝障害の発生がまれながら報告されている(https://www.med.or.jp/people/knkshoku/ukon.html)。今後ウコンの長期的有用性と安全性を確認するため、より大規模で長期にわたる臨床試験の実施が 期待される。 なお、日本では、関節水腫を伴う膝OAの漢方製剤として、防已黄耆湯が用いられることが多く、患者の臨床症状に合わせて越婢加朮湯や薏苡仁湯なども用いられている。ウコンは生薬であるが、これ らの漢方製剤には含まれていない。 1. Hoppstädter J, et al. J Biol Chem. 2016;291(44):22949-22960. 2. Nakagawa Y, et al. J Orthop Sci. 2014;19(6):933-939. 3. Wang Z, et al. Curr Rheumatol Rep. 2021;23(2):11.
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