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年齢および民族別の高血圧1次薬物治療と血圧低下 英国プライマリケアのコホート研究
First line drug treatment for hypertension and reductions in blood pressure according to age and ethnicity: cohort study in UK primary care
BMJ. 2020 Nov 18;371:m4080. doi: 10.1136/bmj.m4080.
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上記論文の日本語要約
【目的】英国(UK)高血圧臨床ガイドラインで年齢と民族性に基づき推奨される治療を現在日常診療で実施される降圧治療にそのまま置き換えることができるかを検討すること。
【デザイン】観察コホート研究。
【設定】2007年1月1日から2017年12月31日までの英国のプライマリケア。
【参加者】アンジオテンシン変換酵素阻害薬・アンジオテンシン受容体遮断薬(ACEI/ARB)、カルシウム拮抗薬(CCB)、チアジド系薬の新規使用者。
【主要評価項目】年齢(55歳未満と55歳以上)、民族性(黒人と非黒人)で層別化したACEI/ARBとCCBの新規使用者で、追跡12、26、52週時の拡張期血圧の変化量を比較。CCB新規使用者とチアジド系薬新規使用者の比較を副次的解析とした。負の転帰(帯状疱疹)を用いて残存交絡を検出し、一連の正の転帰(期待される薬剤の効果)を用いて、予想した関連がこの試験デザインで特定できるかを明らかにした。
【結果】追跡調査の最初の1年間で、ACEI/ARB新規使用者8万7440例、CCB新規使用者6万7274例、チアジド系薬新規使用者2万2040例を組み入れた(1例当たりの血圧測定回数中央値4回[四分位範囲2~6回])。糖尿病がない非黒人では、55歳未満で、CCB使用によって12週時の拡張期血圧がACEI/ARB使用よりも1.69mmHg低下し(99%信頼区間-2.52~-0.86)、55歳以上では0.40mmHg低下した(-0.98~0.18)。糖尿病がない非黒人の年齢をさらに細かく6つに分類した下位集団解析では、75歳以上でのみ、CCB使用による拡張期血圧低下度がACEI/ARB使用よりも大きかった。糖尿病がない患者のうち、黒人ではCCB使用による拡張期血圧低下度がACEI/ARB使用よりも大きく(低下量の差2.15mmHg[-6.17~1.87])、これに対応する非黒人の低下血圧値の差は0.98mmHg(-1.49~-0.47)だった。
【結論】糖尿病がない非黒人では55歳未満と55歳以上ともに、CCM新規使用とACEI/ARB新規使用で同等の血圧低下が得られた。糖尿病がない黒人では、CCB新規使用者の方がACEI/ARB新規使用者よりも数値的に血圧が大きく低下したが、両年齢群ともに信頼区間の重複が見られた。この結果から、現在英国で高血圧の1次治療に用いられているアルゴリズム法からは、十分な血圧低下が得られないと思われる。治療推奨に特定の適応を設けることを考慮できるであろう。
第一人者の医師による解説
生活習慣が血圧に大きく影響 降圧薬の選択に年齢や人種は重要視されなくなる
平和 伸仁 横浜市立大学附属市民総合医療センター腎臓・高血圧内科部長
MMJ. June 2021;17(3):82
高血圧は、脳心血管病死亡の最大の危険因子である。そこで、脳心血管病を予防するため高血圧治療ガイドラインが作成されているが、各国のエビデンスや重視するポイントにより、異なった推奨がなされる場合がある。英国のガイドラインでは、(2型)糖尿病でない高血圧患者の第1選択薬として、黒人では年齢に関係なくCa拮抗薬(CCB)を推奨している。一方、非黒人では55歳未満でアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬 (ACEI)またはアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)を、55歳以上ではCCBを推奨している。
本研究は、英国のプライマリケアにおける新規に降圧薬(CCB、ACEI、ARB、サイアザイド系利尿薬 )を開始する高血圧患者を対象として、降圧薬による治療前、治療12、26、52週間後の収縮期血圧を確認し、英国ガイドラインによる第1選択薬の推奨が適切かどうかについて同国の臨床データベースを用いたコホート研究である。
87,440人のACEI/ARB、67,274人のCCB、22,040人のサイアザイド新規使用者が抽出され1年間観察された。降圧効果の比較は、傾向スコアマッチング法を用いて検討された。まず、年齢基準が妥当かについての検討がなされた。非糖尿病で55歳未満の患者では、治療12週でACEI/ARBよりもCCBによる治療の方が降圧効果が高く、収縮期血圧の低下が大きかった(―1.69 mmHg;95% CI, ―2.52~―0.86)。しかし、26週および52週後には、両群間で差を認めていない。55歳以上においても、ACEI/ARBとCCBの間で降圧効果の差を認めていない。年齢をカテゴリー化して検討すると、75歳以上の後期高齢者でのみ、CCBがACEI/ARBよりも全経過を通じて降圧効果が高かった。次いで、人種に関する検討がなされ、CCBとACEI/ARBの降圧度は、黒人において12週でCCBの方が大きかったが、その後は消失している。なお、黒人において、12週および26週でCCBの降圧効果はサイアザイドよりも高かったが、52週後には同等となっている。
2004年から英国のガイドラインでは55歳を年齢の「しきい値」としていたが、世界のガイドラインではあまり採用されていない考え方である。今回の研究結果もこの「しきい値」を支持しない結果であった。また、人種による差もあまり大きな影響を与えていないことが示された。現代ではさまざまな人種が混じり合っていること、そして、生活習慣が血圧に大きく影響を与えることから、降圧薬を選択する際に、年齢や人種はあまり重要視されなくなる可能性がある。日本における積極的適応疾患のない高血圧患者への第1選択薬は、CCB、ARB、ACEIに加えて、少量のサイアザイド系利尿薬であることを再確認しておいていただきたい。