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電子タバコやベイプに関連した肺損傷の臨床症状、治療、短期転帰:前向き観察コホート研究。
電子タバコやベイプに関連した肺損傷の臨床症状、治療、短期転帰:前向き観察コホート研究。
Clinical presentation, treatment, and short-term outcomes of lung injury associated with e-cigarettes or vaping: a prospective observational cohort study Lancet 2019 Dec 7;394(10214):2073-2083. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】電子タバコまたはベイプに関連した肺損傷(E-VALIまたはVALIとも呼ばれる)の進行中のアウトブレイクが、2019年3月に米国で開始された。この疾患の原因,診断,治療,経過は依然として不明である。 【方法】この多施設,前向き,観察,コホート研究では,2019年6月27日から10月4日の間に,米国ユタ州に拠点を置く統合医療システム,Intermountain Healthcareで受診した電子タバコまたはベイプに関連する肺損傷の全患者のデータを収集した。米国ユタ州ソルトレイクシティを拠点とするテレクリティカルケアは、症例検証、公開報告、およびシステム全体の専門知識の普及のための中央リポジトリとして使用され、電子タバコまたはベイプに関連する肺損傷の診断・治療ガイドラインの提案が含まれた。ユタ州保健局(米国ユタ州ソルトレイクシティ)が実施したカルテレビューと患者へのインタビューから、患者の提示、治療、短期フォローアップ(退院後2週間)に関するデータを抽出した。 【FINDINGS】統合医療システム内の13病院または外来診療所において、60人の患者が電子タバコまたはベイプに関連した肺損傷を呈した。60人中33人(55%)が集中治療室(ICU)に入院した。60人中53人(88%)が体質的症状、59人(98%)が呼吸器症状、54人(90%)が消化器症状を呈していた。60人中54人(90%)に抗生物質が投与され,57人(95%)にステロイドが投与された.60人中6人(10%)が2週間以内にICUまたは病院に再入院し、そのうち3人(50%)はベイプまたは電子タバコの使用で再発した。2週間以内にフォローアップを受けた患者26名のうち,臨床的・X線的な改善は全員に見られたものの,胸部X線写真(15名中10名[67%])および肺機能検査(9名中6名[67%])で異常が残存している者が多かった.2名の患者が死亡し,電子タバコまたはベイプに関連する肺損傷は,両者とも死因ではないが一因であると考えられた。認知度の向上により、抗生物質やステロイドで治療された患者の重症度が幅広く確認されるようになった。改善されたものの、短期間のフォローアップでは多くの患者に異常が残存していた。電子タバコやベイプに関連した肺損傷は、感染症や他の肺疾患と症状が重なるため、依然として臨床診断が困難である。この疾患に対する高い疑い指数を維持することは,これらの患者の原因,最適な治療,および長期転帰を理解するための作業が続く中で重要である. 第一人者の医師による解説 日本では改正健康増進法が完全施行 たばこ対策の強化を 欅田 尚樹 産業医科大学産業保健学部産業・地域看護学講座教授 MMJ.June 2020;16(3) 電子たばこはプロピレングリコール(PG)やグリセロール(GLY)を基剤としさまざまな香料を添加したリキッドを電気的に加熱してエアロゾルを発生・吸煙する。海外ではニコチンを含むものが大半で若人を中心に急速に普及しているが、国内では、薬機法でニコチン含有は規制されている。一方、たばこ葉を電気的に加熱しニコチンを吸引する加熱式たばこは、たばこ事業法の製造たばことして、世界に先駆けて販売拡大しているが、構造も法規制 も異なる。 米国 で は2019年3月 よ り 電子 た ば こ ま た は ベ イ ピ ン グ に 関連した 肺傷害(lung injury associated with e-cigarettes or vaping; E-VALI)が急増したが、原因、診断、治療、経過は 不明のままであり社会問題にもなった。 本論文は、2019年6月27日~ 10月4日に米国ユタ州で収集したE-VALI全症例を解析した多施設共同前向き観察コホート研究の結果とともに実用的な臨床ガイドラインを提示している。死亡2人を含む患者 60人の多くは全身症状、呼吸器症状のみならず消化器症状を呈し、33人は集中治療室(ICU)管理を要した。その多くはステロイド治療を受けたが、診断の不確実性から抗菌薬の投与例も多かった。重症度は多岐にわたり、症状が改善しても胸部 X線写真や肺機能検査に異常が残存していた。患者の多くは大麻成分のテトラヒドロカンナビノール(THC) を含むリキッドを使用していたが、それ以外にもさまざまなものが使用されていた。 その後の調査で、多くのE-VALI患者の気管支肺胞洗浄液では、THCあるいはその代謝物とともに、 ビタミン Eアセテートが検出され、原因物質と考えられている(1)。米国疾病対策予防センター(CDC)の報告では、THCを含む電子たばこ・リキッドのリスク認知の広がり、ビタミン Eアセテートの使用禁止などさまざまな規制が実施され患者は減少したが、2020年2月18日現在、全米で死亡68人を含む2,807人の患者が報告されている。    電子たばこのエアロゾルには、PGやGLYの熱分解により生成したホルムアルデヒドに代表される発がん物質が高濃度に発生するものがあり、中には紙巻きたばこ主流煙より高濃度を示すものもある(2)。 日本呼吸器学会からは、「加熱式たばこや電子たばこによる健康影響は不明」であり「リスクが低いという証拠はない」、さらに「使用の際には二次曝露対策が必要である」、と見解と提言が出されている。 また現在パンデミックとなり問題となっている新型コロナウイルス肺炎の危険因子として喫煙(3)がある。国内でも受動喫煙対策を義務化した改正健康増進法が完全施行される中、たばこ対策の強化が求められる。 1. Blount BC et al. N Engl J Med. 2020;382(8):697-705. 2. Uchiyama S et al. Chem Res Toxicol. 2020;33(2):576-583. 3. Guan WJ et al. N Engl J Med. 2020 Feb 28. doi: 10.1056/NEJMoa2002032.
三尖弁逆流の軽減のための経カテーテル的edge-to-edge修復術。TRILUMINATE単群試験の6ヵ月成績
三尖弁逆流の軽減のための経カテーテル的edge-to-edge修復術。TRILUMINATE単群試験の6ヵ月成績
Transcatheter edge-to-edge repair for reduction of tricuspid regurgitation: 6-month outcomes of the TRILUMINATE single-arm study Lancet 2019 Nov 30;394(10213):2002-2011. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】三尖弁閉鎖不全症は、高い罹患率と死亡率を伴う有病率疾患であり、治療選択肢はほとんどない。TRILUMINATE試験の目的は、低侵襲な経カテーテル三尖弁修復システムであるトライクリップの三尖弁逆流の軽減に対する安全性と有効性を評価することです。 【方法】TRILUMINATE試験は、ヨーロッパとアメリカの21施設で行われた前向き、多施設、シングルアーム試験です。NYHA(ニューヨーク心臓協会)クラスII以上の中等度以上の三尖弁逆流を有し、適用される基準に従って十分な治療を受けている患者を登録対象とした。収縮期肺動脈圧が60mmHg以上、三尖弁形成術の既往、TriClip装着を阻害する心血管植込み型電子機器を装着している患者は除外されました。参加者はTriClip三尖弁修復システムを用いてクリップベースのedge-to-edge修復技術を使用して治療を受けた。三尖弁逆流は、標準的な米国心エコー学会の等級分類を拡張した 5 クラスの等級分類(軽度、中等度、重度、巨大、奔流)を用いて評価された。有効性の主要評価項目は、大腿静脈穿刺時に三尖弁修復術を試みたすべての患者さんを対象に、術後30日目に三尖弁逆流の重症度が1グレード以上低下したこととし、35%をパフォーマンスゴールとしました。安全性の主要評価項目は、6ヵ月後の主要有害事象の複合であり、パフォーマンスゴールは39%でした。6ヵ月後のフォローアップに至らず、それまでのフォローアップで主要な有害事象が発生しなかった患者は、安全性の主要評価項目から除外された。本試験は登録を完了し、フォローアップが進行中であり、ClinicalTrials. gov(番号NCT03227757)に登録されている。 【FINDINGS】2017年8月1日から2018年11月29日までに85例(平均年齢77~8歳[SD 7~9]、女性56例[66%])を登録し、トライクリップ植込みを成功させた。心エコー図データおよび画像診断が可能な83例中71例(86%)において、三尖弁逆流の重症度が30日時点で少なくとも1グレード低下していた。片側下限 97-5% 信頼限界は 76% であり,事前に規定したパフォーマンス目標である 35% を上回った(p<0-0001).1名の患者が6ヵ月後のフォローアップまでに重大な有害事象を発症することなく退学したため、主要安全性エンドポイントの解析から除外された。6ヵ月後、84例中3例(4%)に主要な有害事象が発生し、事前に設定したパフォーマンスゴールである39%より低かった(p<0-0001)。72例中5例(7%)に単葉着床が発生した。周術期の死亡、手術への移行、デバイスの塞栓、心筋梗塞、脳卒中は発生しなかった。6ヵ月後、84例中4例(5%)に全死亡が発生した。 【解釈】TriClipシステムは安全で、三尖弁逆流を少なくとも1グレード減少させる効果があると思われる。この減少は、術後6ヶ月での有意な臨床的改善となる可能性がある。 第一人者の医師による解説 設定基準には合格 今後の長期成績および前向き試験結果が待たれる 清末 有宏 東京大学医学部附属病院循環器内科助教 MMJ.June 2020;16(3) 三尖弁閉鎖不全症(tricuspid regurgitation; TR)の所見は心臓超音波検査において日常的に遭遇する所見であり、近年は検査機器の発達にも伴い観察が容易となり、その流速を利用しての右室圧推定が行われることは医師国家試験レベルでも広く知られている。しかし逆にその病的意義あるいは治療介入効果の評価はしばしば困難である。 日本循環器学会「弁膜疾患の非薬物療法に関するガイドライン(2012年改訂版)」でも、外科的介入がクラス Iとなっているのは「高度 TRで、僧帽弁との同時初回手術としての三尖弁輪形成術」または「高度の1次性 TRで症状を伴う場合」のみとなっており、圧倒的に頻度が高い左心不全や心房細動などに続発する2次性(機能性)TRにおいては逆流が高度でも単独での三尖弁への外科的介入はクラス Iではない。 本論文で報告されたTRILUMINATE試験は、日本でも2017年に承認された経皮的僧帽弁接合不全修復システムのMitraClip®を三尖弁用に改良したTriClip®を用いて、中等度以上の三尖弁逆流を有 す る 患者85人 を 対象 に 経皮的三尖弁接合不全修復を行い、有効性と安全性を前向き多施設共同単群試験で検討している。 その結果、有効性に関して は、事前に規定した術後30日の心臓超音波検査上の三尖弁逆流重症度の1グレード以上改善達成率が 86%、片側97.5%信頼下限は76%であったため、 目標値(信頼下限35%以上)を達成したとの評価に至った。また安全性に関しては事前に規定した術後6カ月の主要有害事象の発現率が4%で、目標値(39%)を下回ったとの評価に至った。 今回の試験は単群試験であり、有効性・安全性の 目標値設定に関しては、同じ研究グループが2017 年に報告したMitraClip®を用いた高リスク患者に対する経皮的三尖弁接合不全修復の論文が引用されているが(1)、そちらを参照しても設定根拠ははっきりしなかった。手技詳細や超音波データの変化詳細などはむしろ2017年の論文に詳しく、自覚症状や予後の信頼できるサロゲートマーカーである 6分間歩行の改善も報告されている。技術的には、 当然ではあるが僧帽弁とは異なり三尖弁は三尖あるため、どの尖間のクリッピングを選択するかというのが1つ大きなポイントであるようだ。 いずれにせよ三尖弁への低侵襲単独介入が本技術により現実的になると思うが、その予後改善効果は上記 の積極的外科介入適応が現在までなかったため、真の有効性評価についてはランダム化対照試験によるハードエンドポイント改善効果判定を待たねばなるまい。 1. Nickenig G et al. Circulation. 2017;135(19):1802-1814.
術前のN末端プロB型ナトリウム利尿ペプチドと非心臓手術後の心血管系イベント。コホート研究。
術前のN末端プロB型ナトリウム利尿ペプチドと非心臓手術後の心血管系イベント。コホート研究。
Preoperative N-Terminal Pro-B-Type Natriuretic Peptide and Cardiovascular Events After Noncardiac Surgery: A Cohort Study Ann Intern Med 2020 Jan 21;172(2):96-104. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】予備データでは、術前のN末端プロB型ナトリウム利尿ペプチド(NT-proBNP)が非心臓手術を受ける患者におけるリスク予測を改善する可能性が示唆されている。 【目的】術前NT-proBNPが、術後30日以内の非心臓手術後の血管死と心筋損傷の複合に対して、臨床リスクスコア以上の予測価値を持つかどうかを明らかにする。 【デザイン】前向きコホート研究 【設定】9か国16病院【患者】入院で非心臓手術を受けた45歳以上の患者10402例。 【測定】すべての患者は術前にNT-proBNP値を測定し、術後3日まで毎日トロポニンT値を測定した。 【結果】多変量解析では、術前のNT-proBNP値が100 pg/mL未満(基準群)と比較して、100~200 pg/mL、200~1500 pg/mL、1500 pg/mL以上では調整ハザード比2.27(95%CI 1.0)と関連することが示された。27(95% CI, 1.90 to 2.70),3.63(CI, 3.13 to 4.21),5.82(CI, 4.81 to 7.05),主要転帰の発生率はそれぞれ 12.3%(1843 例中 226 例), 20.8%(2608 例中 542 例), 37.5%(595 例中 223 例)であった.臨床的層別化(すなわちRevised Cardiac Risk Index[RCRI])にNT-proBNPの閾値を追加したところ,1000人あたり258人の絶対的な再分類が正味で改善された。術前のNT-proBNP値も30日全死亡と統計的に有意に関連していた(100pg/mL未満[発生率、0.3%]、100~200pg/mL未満[発生率、0.7%]、200~1500pg/mL未満[発生率、1.4%]、1500pg/mL以上[発生率、4.0%])。 【結論】術前NT-proBNPは、非心臓手術後30日以内の血管死およびMINSと強く関連しており、RCRIに加えて心臓リスク予測を改善する。【Primary funding source】カナダ保健研究機構。 第一人者の医師による解説 バイオマーカーでの予測 実臨床への応用には課題 阿古 潤哉 北里大学医学部循環器内科学教授 MMJ.June 2020;16(3) 非心臓手術周術期に生じる心血管イベント、特に心筋梗塞の発症は周術期の合併症として非常に重要である。心血管イベントの発生率が高い欧米諸国において、非心臓手術の際の周術期リスク評価は、手術の適応を考えるうえでも重要な要素となる。今まで、周術期のリスク評価ツールとしては Revised Cardiac Risk Index(RCRI)が提唱されてきたが、RCRIの予後予測能力はそれほど高いものではないとされていた。 本研究は、非心臓手術 の 周術期 イ ベ ン ト を 評 価するために行われた前向きコホート研究であるVISION試験 の サ ブ 解析 と し て 実施 さ れ た。 VISION試験では2007年8月~13年10月に9カ国16施設から18,920人の患者が組み入れら れ た。 多変量解析 の 結果、術前 のNT-ProBNP値は主要評価項目である術後30日以内の血管死お よ びMINS(myocardial injury after noncardiac surgery;心臓手術後の心筋障害)からなる複合イ ベントの発生を予測した。さらに、RCRI単独のリスク評価より、RCRIにNT-ProBNPを加えた方が イベント予測に有用であった。論文中のイベント 累積発生曲線をみると、心不全評価にも用いられるこのマーカーは非常に高い予測能を有することが 一目瞭然である。 RCRIは、6つの要素(冠動脈疾患、心不全、脳血管 疾患、インスリンを必要とする糖尿病、腎不全、高リスク手術)の有無で手術のリスクを評価する方法である。比較的簡便であるがためにガイドラインでも推奨されているが、必ずしも予測能が良好ではないという問題点があった。今回、非常に大きい患者数のコホートを用いて、NT-proBNPの有用性に関して力強いデータを出したことが本研究の強みと言える。 しかし、いくつかの点は指摘しておく必要がある。 本研究では、血管死およびMINSが主要評価項目として採用されたが、ほとんどのイベントはMINS であった。MINSは具体的には心筋マーカーの上昇である。MINSが長期にどのようなイベントと関連してくるのかは、VISION試験の既報で述べられているが(1)、まだ他のコホートでは十分には検証されていない。 また、RCRIのc統計量は0.69で、NTproBNPを加えることにより0.75に改善する、すなわち予測能が改善すると著者らは報告しているが、この臨床的意義の大きさは不明である。また、 NT-proBNPの上昇が認められた時にどのような 介入が必要であるのかはまったく不明である。とはいえ、リスク評価にバイオマーカーが取り入れられる流れは間違いなさそうである。その意味で、今回の研究が最初の重要な一歩であることは評価できる。 1. Vascular Events In Noncardiac Surgery Patients Cohort Evaluation (VISION) Study Investigators. JAMA. 2012;307(21):2295-2304.
日本における院外心停止患者におけるパブリックアクセス除細動と神経学的転帰:集団ベースのコホート研究。
日本における院外心停止患者におけるパブリックアクセス除細動と神経学的転帰:集団ベースのコホート研究。
Public-access defibrillation and neurological outcomes in patients with out-of-hospital cardiac arrest in Japan: a population-based cohort study Lancet 2019 Dec 21;394(10216):2255-2262. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】緊急医療サービス(EMS)要員が到着する前に院外心停止(OHCA)を起こし、ショック状態の心拍動を起こしていた患者では、公衆アクセスによる除細動の80%以上が自然循環の持続的な回復をもたらさない。このような患者の神経学的転帰と生存率は評価されていない。我々は,このような患者の神経学的状態と生存成績を評価することを目的とした。 [METHODS]本研究は,2005年1月1日から2015年12月31日までの間に日本でOHCAを発症した1人の患者(1Zs_2008 ain ainakersZs_2008299 ainakersZs_2008 ainakers784)を対象とした,全国の人口ベースのプロスペクティブな登録簿から得られたコホート研究のレトロスペクティブ解析である。主要転帰はOHCA後30日目の良好な神経学的転帰(Cerebral Performance Category of 1または2)であり,副次的転帰はOHCA後30日目の生存率であった.本研究は、University Hospital Medical Information Network Clinical Trials Registry, UMIN000009918に登録されています。 【FINDINGS】我々は、傍観者から心肺蘇生法を受けた28人の傍観者立会型OHCAとショック性心拍数を持つ28人の患者を同定しました。このうち,2242人(8-0%)の患者はCPR+公衆アクセス除細動で自然循環の回復が得られず,25人(89-5%)の患者は救急隊到着前にCPRのみで自然循環の回復が得られなかった.好ましい神経学的転帰を示した患者の割合は、パブリックアクセス除細動を受けた患者の方が受けなかった患者よりも有意に高かった(845[37-7%]対5676[22-6%];傾向スコアマッチング後の調整オッズ比[OR]、1-45[95%CI 1-24-1-69]、p<0-0001)。OHCA後30日目に生存した患者の割合も、パブリックアクセス除細動を受けた患者の方が受けなかった患者よりも有意に高かった(987[44-0%] vs 7976[31-8%];傾向スコアマッチング後の調整済みオッズ比[OR]、1-31[95% CI 1-13-1-52]、p<0-0001)。 [INTERPRETATION]本知見は、パブリックアクセス除細動の利点、およびコミュニティにおける自動体外式除細動器のアクセス性と利用可能性の向上を支持するものである。 第一人者の医師による解説 AEDを用いた市民へのCPR教育活動推進の意義付けとなる成果 中島 啓裕/安田 聡(副院長・部門長) 国立循環器病センター心臓血管内科冠疾患科・心臓血管系集中治療科 MMJ.June 2020;16(3) 近年、市民による自動体外式除細動器(AED)使用が心室細動(VF)による院外心停止患者の蘇生率向上に有効である可能性が報告された(1)。日本では約60万台のAEDが設置されている。各団体のAED普及啓発活動にもかかわらず、市民によるAED除細動実施率は5%程度と低い。 市民によるAED除細動患者の約80%は救急隊現場到着時点では心停止が持続していることから、AEDを運び込むまでの心肺蘇生(CPR)中断や救急通報の遅れなどのデメリットが除細動不成功例の予後に与える影響を明らかにすれば、より適正なAED使用を推奨できると考えられる。しかしながら、ガイドラインによりAED使用が強く推奨されている現代において、AED使用群と未使用群で予後を比較する無作為化対照試験の実施は困難である。 そこで、本研究では日本の総務省消防庁によるウツタイン様式救急蘇生統計データを活用した。救急隊現場到着時点のVF持続患者を対象に、事前に市民がAEDを用いてCPRを実施した患者とAED なしのCPRを実施した患者の予後が比較された。 2005~15年に日本全国で発生した1,299,784 人の院外心停止患者から、市民による目撃があり CPRが実施されたVF心停止患者28,019人のうち、救急隊現場到着時点の心停止持続患者27,329 人(CPR+ AED併用群 2 ,242 人 、CPR単独群 25,087人)を解析した。 背景因子を傾向スコアで調整したところ、CPR+ AED併用群はCPR単独群 と比較して、発症から救急隊覚知までに中央値1分の遅れ(2分 対 1分:P<0.0001)を認めたものの、 主要評価項目である30日後の神経学的転帰良好な割合は有意に高値であった(38% 対 23%:調整 オッズ比 , 1.45; 95% CI, 1.24~1.69:P< 0.0001)。さらに、救急通報時から救急隊現着までにかかった時間(中央値8分[四分位範囲6~10 分])別の感度分析でも同様の結果が得られた。 本研究では、AEDによる除細動実施で心拍再開 (AEDの主要効果)を得られなかった患者においても、AEDが神経学的予後を改善させうることが示された。AEDの音声ガイダンスなどがCPRの質の改善に寄与していた可能性が示唆された。本結果は救急通報~救急隊現着までの時間に依存しないことから、日本全国において一般化されるものであり、市民に対するAEDを用いたCPR教育活動を推進していく意義付けとなるものと考える。 一般市民のAED使用は、たとえ救急隊の現場到着までに患者の自己心拍再開を得られなかったとしても、 その後の患者の良好な予後につながるという点が本研究からのメッセージである。 1. Kitamura T et al. N Engl J Med. 2016;375(17):1649-1659.
片頭痛の急性期治療における痛みと最も煩わしい関連症状に対するウブロゲパントとプラセボの効果。ACHIEVE II Randomized Clinical Trial(無作為化臨床試験)。
片頭痛の急性期治療における痛みと最も煩わしい関連症状に対するウブロゲパントとプラセボの効果。ACHIEVE II Randomized Clinical Trial(無作為化臨床試験)。
Effect of Ubrogepant vs Placebo on Pain and the Most Bothersome Associated Symptom in the Acute Treatment of Migraine: The ACHIEVE II Randomized Clinical Trial JAMA 2019 Nov 19;322(19):1887-1898. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【重要性】Ubrogepantは、片頭痛の急性期治療薬として検討されている経口カルシトニン遺伝子関連ペプチド受容体拮抗薬である。 【目的】片頭痛発作1回の急性期治療におけるubrogepantの有効性と忍容性をプラセボと比較して評価することである。 【デザイン・設定・参加者】米国で実施した第3相多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照単発臨床試験(ACHIEVE II)(プライマリーケアおよび研究クリニック99施設、2016年8月26日~2018年2月26日)。参加者は、月に2~8回の片頭痛発作を経験している前兆のある片頭痛または前兆のない片頭痛の成人である。 【介入】中等度または重度の疼痛強度の片頭痛発作に対してウブロゲパント50mg(n=562)、ウブロゲパント25mg(n=561)またはプラセボ(n=563)である。【主要評価項目及び測定 【方法】有効性の主要評価項目は、服用後2時間における疼痛緩和及び参加者が指定した最も煩わしい片頭痛関連症状(羞明、幻覚、吐き気のうち)の消失とした。 【結果】無作為化参加者1686名のうち1465名が試験治療を受け(安全集団、平均年齢41.5歳、女性90%)、1465名のうち1355名が有効性として評価可能であった(92.5%)。2時間後の痛みの消失は、ウブロゲパント50mg群では464人中101人(21.8%)、ウブロゲパント25mg群では435人中90人(20.7%)、プラセボ群では456人中65人(14.3%)に認められました(50mg vs プラセボの絶対差、7.5%、95%CI, 2.6%-12.5%; P = .01; 25mg vs プラセボ, 6.4%; 95%CI、 1.5%-11.5%; P = .03)。2時間後に最も煩わしい関連症状がなかったと報告されたのは、ウブロゲパント50mg群463人中180人(38.9%)、ウブロゲパント25mg群434人中148人(34.1%)、そしてプラセボ群456人中125人(27.4%)であった。4%)であった(50mg対プラセボの絶対差、11.5%;95%CI、5.4-17.5%;P = .01;25mg対プラセボ、6.7%;95%CI、0.6-12.7%;P = .07)。いずれかの投与後48時間以内に最も多く見られた有害事象は、吐き気(50 mg、488人中10人[2.0%];25 mg、478人中12人[2.5%];およびプラセボ、499人中10人[2.0%])およびめまい(50 mg、488人中7人[1.4%];25 mg、478人中10人[2.1%];プラセボ、499人中8人[1.6%])であった。 【結論と妥当性】成人の片頭痛患者において、ウブロゲパントの急性期治療では、プラセボと比較して、50mgと25mgの用量で2時間後の痛みの解放率が有意に高く、50mgの用量でのみ2時間後の最も煩わしい片頭痛関連症状の欠如がみられた。ウブロゲパントの他の片頭痛急性期治療に対する有効性を評価し、非選択的患者集団におけるウブロゲパントの長期安全性を評価するために、さらなる研究が必要です。 【試験登録】ClinicalTrials. gov Identifier:NCT02867709。 第一人者の医師による解説 トリプタン無効例や禁忌例の第1選択候補 反復投与での安全性検証が必要 今井 昇 静岡赤十字病院脳神経内科部長 MMJ.June 2020;16(3) 片頭痛は急性期に頭痛だけではなく随伴症状により日常生活が著しく障害される神経疾患である。 片頭痛の急性期治療にトリプタン系薬剤や非ステ ロイド系抗炎症薬(NSAID)が使用されているが、効果が不十分である、あるいは副作用や禁忌項目のために使用できない患者は多い。 多くの研究によりカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)は片頭痛の病態に重要な役割を演じていることが示され、CGRPを標的とした治療薬が開発されている。すでに抗 CGRPモノクロー ナル抗体は2019年に欧米で片頭痛予防薬として上市されている。ユブロゲパントは小分子の経口 CGRP受容体拮抗薬で、片頭痛急性期治療薬として開発された。多施設ランダム化二重盲検プラセボ 対照第 IIb相試験において、ユブロゲパントの有効性が5用量(1、10、25、50、100mg)で検討され、 25、50、100mgはプラセボに比べ服薬2時間後 の頭痛消失率が有意に高かった。 本論文は、ユブロゲパント 25、50mgの有効性 と安全性を評価するために、米国99施設で実施された多施設ランダム化二重盲検プラセボ対照第 III 相(ACHIEVE II)試験の報告である。18 ~ 65歳(平 均41.5歳)の前兆のない片頭痛または前兆のある 片頭痛の病歴を1年以上有し、発作に中等度以上の光過敏、音過敏、悪心のいずれかの随伴症状が認められる1,686人(女性90%)を対象に、中等度・ 重度の発作に対してユブロゲパント 25、50mg、 またはプラセボが投与された。主要評価項目は投与2時間後の頭痛消失と最も負担となる随伴症状(最 大負担随伴症状)の消失。最大負担随伴症状の内訳 は光過敏57%、音過敏26%、悪心17%。 解析の 結果、2時間後 の 頭痛消失率 は50mg群21.8%、 25mg群20.7%、プラセボ群14.3%で、50mg群、 25mg群ともにプラセボ群と比較し有意な頭痛改 善効果が示された(それぞれP=0.01、P=0.03)。 最大負担随伴症状 の 消失率 は50mg群38.9 %、 25mg群34.1%、プラセボ群27.4%で、50mg 群のみプラセボ群に対し有意な効果が認められた(P =0.01)。投与48時間以内の重篤な有害事象はなく、主な事象は悪心、めまいで各群に有意差はなかった。 本試験におけるユブロゲパント 50mgの有効性と安全性は、トリプタン系薬剤で報告されているものとおおむね同程度であることが示唆される。現在他の経口 CGRP受容体拮抗薬の開発も進んでいる。経口 CGRP受容体拮抗薬はトリプタン系薬 剤やNSAIDでみられる心血管・消化器への影響が少ないと考えられており、新しい片頭痛急性期治 療薬として期待される。ただ、以前開発された経口 CGRP受容体拮抗薬は肝機能障害のため開発中止に至った経緯を考慮すると、今後反復投与での安全性の確認が必要と思われる。
人から人への感染を示す2019年新型コロナウイルスに関連した肺炎の家族性クラスター:研究報告。
人から人への感染を示す2019年新型コロナウイルスに関連した肺炎の家族性クラスター:研究報告。
A familial cluster of pneumonia associated with the 2019 novel coronavirus indicating person-to-person transmission: a study of a family cluster Lancet 2020 Feb 15;395(10223):514-523. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】中国湖北省武漢市で、新型コロナウイルスに関連した肺炎の集団発生が報告された。罹患した患者は、潜在的な感染源である地元のウェットマーケットと地理的に関連していた。本研究では,武漢訪問後に中国広東省深-市に帰国し,原因不明の肺炎を呈した家族集団の患者5名と,武漢に旅行していない追加家族1名の疫学,臨床,検査,放射線,微生物学的所見を報告する.これらの患者の遺伝子配列の系統解析を行った。 【FINDINGS】2020年1月10日から、2019年12月29日から2020年1月4日の間に深センから武漢に渡航した患者6人の家族を登録した。武漢に渡航した家族6人のうち、5人が新型コロナウイルスに感染していることが確認された。さらに、武漢に渡航していない家族1名が、家族4名と数日間接触した後、ウイルスに感染しました。武漢の市場や動物との接触はなかったが、2名は武漢の病院を受診したことがあった。家族5名(36-66歳)が感染後3-6日で発熱,上気道症状,下痢,あるいはこれらの複合症状を呈した.発症から6-10日後に当院(香港大学深-病院)を受診した。彼らと無症状の子供1人(10歳)には、放射線学的に地上の肺の混濁が見られた。高齢者(60歳以上)には,より多くの全身症状,広範なX線上の肺の地表面変化,リンパ球減少,血小板減少,CRPと乳酸脱水素酵素値の上昇がみられた.これら6人の患者の鼻咽頭または咽頭スワブは,ポイントオブケア多重RT-PCRによって既知の呼吸器系微生物に対して陰性であったが,5人の患者(成人4人と子供)はこの新規コロナウイルスの内部RNA依存RNAポリメラーゼおよび表面スパイク蛋白をコードする遺伝子に対してRT-PCR陽性であり,サンガー配列決定によって確認された.これら5名のRT-PCRアンプリコンと2名のフルゲノムの次世代シーケンサーによる系統解析の結果、このウイルスは中国のカブトコウモリに見られるコウモリ重症急性呼吸器症候群(SARS)関連コロナウイルスに最も近い新規コロナウイルスであることが判明した。 【解釈】我々の発見は、病院や家庭環境におけるこの新規コロナウイルスの人対人感染や、他の地域の旅行者の感染報告と一致するものである。 【資金提供】The Shaw Foundation Hong Kong, Michael Seak-Kan Tong, Respiratory Viral Research Foundation Limited, Hui Ming, Hui Hoy and Chow Sin Lan Charity Fund Limited, Marina Man-Wai Lee, the Hong Kong Hainan Commercial Association South China Microbiology Research Fund, Sanming Project of Medicine (Shenzhen) and High Level-Hospital Program (Guangdong Health Commission)を含む。) 第一人者の医師による解説 今でこそ常識だが 一家族のクラスター研究がもたらした大きな一歩 岩田 健太郎 神戸大学医学部附属病院感染症内科教授 /診療科長 MMJ.June 2020;16(3) 新しい感染症(新興感染症)が勃発したときは、 その感染症の正体を突き止めることが急務となる。それは漸近的に行われる。一足でカント的「物自体」を掴み取ることは不可能だ(もちろん、ずっと時間をかけても掴み取れないかもしれないのだが)。よって、研究者らは寄ってたかって、それも“急いで”真実に近づこうとする。感染症のアウトブレイク時は「研究しながら、対策する」という「急ぎの態度」が必要だ。ゆっくりと腰を落ち着けてやる研究とは性格を異にする。 本研究も、今からルックバックすると「なーんだ」という研究だ。しかし、本研究があったからこそ「なーんだ」なのである。すべての研究が先人の肩の上に乗っているとはよく言われるが、本研究のもたらした恩恵、すなわちSARS-CoV-2(論文発 表時は2019-nCoV)がヒト -ヒト感染を起こすという、現在では誰でも知っている「常識」を初めて看破した。その過程をここで追体験したい。 本研究は2019年12月29日から翌年1月4日 に広東省深圳市から湖北省武漢まで旅行した家族 6人を調査した。そのうち5人が新型コロナウイルスに感染し、香港大学深圳病院を受診。1月1日 に1人が熱と下痢を発症し、その後他の家族も発症した。4人は症状があったが、10歳の子は無症状だった。しかし、胸部 CTではすりガラス陰影が認められた。新型コロナウイルス感染はRT-PCR法で確定診断された。さらに武漢に行かなかった別の家族1人も同じ感染症に罹患し、RT-PCR法で診断が確定した。 聞き取り調査により、当初感染源と目された海鮮市場や動物との接触は否定された。武漢で接触した親戚にも発熱や咳が認められた。また、そうした親戚の中には肺炎として12月29日に武漢の病院を受診し、別の親戚が付き添っていた。武漢に行かなかった家族の感染が判明した事実も合わせ、 ヒト─ヒト感染があったことが示唆された。その後 ウイルスの全ゲノムシークエンシングが行われ、 遺伝子情報を用いた系統樹が作成された。リニエイジ Bのベータコロナウイルスに典型的な配列が RNAポリメラーゼ、スパイク蛋白、全ゲノムから見いだされた。患者2と患者5の全ゲノムはほぼ同じで、違いは塩基2つ分だけであった。 5月中旬でも 世界中で 猛威 を ふ る っ て い る COVID-19。私の周りでも院内外のアウトブレイクが起きている。アウトブレイクは巨大な対策を要し、それは担当者にとって苦痛以外の何物でもない。しかし、そこから得る新たな学びもある。まだ まだ分からないことの多いCOVID-19。学びを重ね、 理解を深め、少しでも近づき続けたいと考えながら本論文も読み直した。
2019年新型コロナウイルスのゲノム特性解析と疫学:ウイルスの起源と受容体結合の意味するところ
2019年新型コロナウイルスのゲノム特性解析と疫学:ウイルスの起源と受容体結合の意味するところ
Genomic characterisation and epidemiology of 2019 novel coronavirus: implications for virus origins and receptor binding Lancet 2020 Feb 22;395(10224):565-574. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】2019年12月下旬、中国・武漢で原因不明の微生物によるウイルス性肺炎を呈した患者が報告された。その後、原因病原体として新規コロナウイルスが同定され、2019 novel coronavirus(2019-nCoV)と仮称された。2020年1月26日現在、2019-nCoV感染症は2000例以上確認されており、そのほとんどが武漢在住者または訪問者であり、ヒトからヒトへの感染が確認されている。 【方法】武漢の華南水産市場を訪問した9名の入院患者から採取した気管支肺胞洗浄液と培養分離株のサンプルについて次世代シーケンサーで解析を行った。これらの個体から2019-nCoVの完全および部分ゲノム配列が得られた。ウイルスコンティグをサンガーシークエンスで連結して全長ゲノムを得、末端領域はcDNA末端の迅速増幅で決定した。これらの2019-nCoVゲノムと他のコロナウイルスのゲノムの系統解析は、ウイルスの進化の歴史を決定し、その起源と思われるものを推測するのに役立てられた。ホモロジーモデリングにより、ウイルスの受容体結合の可能性を探った。 【調査結果】9人の患者から得られた2019-nCoVの10個のゲノム配列は、99-98%以上の配列同一性を示し、極めて類似していた。注目すべきは、2019-nCoVは、2018年に中国東部の舟山で採取された2つのコウモリ由来の重症急性呼吸器症候群(SARS)様コロナウイルス、bat-SL-CoVZC45およびbat-SL-CoVZXC21と近縁(88%の同一性)でしたが、SARS-CoV(約79%)およびMERS-CoV(約50%)より遠かったということです。系統解析の結果、2019-nCoVはベタコロナウイルス属のサルベコフイルス亜属に属し、最も近縁のbat-SL-CoVZC45およびbat-SL-CoVZXC21との枝長が比較的長く、SARS-CoVとは遺伝的に異なることが判明しました。注目すべきは、相同性モデリングにより、2019-nCoVは、いくつかの重要な残基でアミノ酸が異なるにもかかわらず、SARS-CoVと同様の受容体結合ドメイン構造を持っていることが明らかになった。 【解釈】2019-nCoVはSARS-CoVから十分に分岐し、新しいヒト感染性ベータコロナウイルスと見なされる。我々の系統解析は、コウモリがこのウイルスの本来の宿主である可能性を示唆しているが、武漢の海産物市場で売られている動物が、ヒトへのウイルス出現を促進する中間宿主である可能性もある。重要なのは、構造解析により、2019-nCoVがヒトのアンジオテンシン変換酵素2受容体に結合する可能性があることが示唆されたことである。本ウイルスの今後の進化、適応、拡散について早急に調査する必要がある。 【資金提供】中国国家重点研究開発計画、中国感染症制御・予防国家重点プロジェクト、中国科学院、山東第一医科大学 第一人者の医師による解説 ヒトのアンジオテンシン変換酵素2受容体に結合する可能性を示唆 下畑 享良 岐阜大学大学院医学系研究科脳神経内科学分野教授 MMJ.June 2020;16(3) 新型 コ ロ ナ ウ イ ル ス 感染症(COVID-19)は、 2019年12月に中国武漢で報告されて以来、世界 的にパンデミックとなった。本論文は中国疾病管 理予防センター(Centers for Disease Control and Prevention;CDC)が 論文発表前に公開し、 直ちに世界で共有されたものである。COVID-19 の病原体であるSARS-CoV-2のゲノム配列を系統 解析し、その由来と構造を検討している。 まず武漢の海鮮市場を訪 れ た8人 を 含 む9人 の入院患者の気管支肺胞洗浄液と咽頭拭い液からウイルス株を培養分離し、次世代シークエンサーを用いて解析している。9人から分離したSARSCoV-2のゲノム配列は類似し、99.98%以上の同一性があった。このことからこのウイルスは、生じてからの時間経過は短いことが示唆される。 次に、取得した完全ないし部分的なゲノムシーケンスを用いてウイルスコンティグ(ゲノム断片)を接続、完全長ゲノムを取得し、さらにcDNA末端 の増幅により末端領域を決定した。このウイルス ゲノムと他のコロナウイルスの系統解析を行い、 ウイルスの進化の歴史を決定し、起源を推測した。 結果として、SARS-CoV-2は、2018年に中国東部で収集された重症急性呼吸器症候群(SARS)類似の2つのコウモリ由来のコロナウイルス(bat-SLCoVZC45およびbat-SL-CoVZXC21)と88% の同一性があったが、SARS および中東呼吸器症 候群(MERS)の 病原体 で あるSARS-CoVおよびMERS-CoVとは、同一性 が そ れ ぞ れ 約79%、 約50%と低いことが判明した。つまりSARSや MERSの病原体よりもコウモリ由来コロナウイルスに近縁であるが、同一ではなく、おそらく海鮮市場で売られていた動物がコウモリから感染し、中間宿主となり、ゲノム配列が変化したものと推測された。実際に、この時期のコウモリは冬眠中で、 コウモリからヒトへの直接の感染は考えにくかった。また、ウイルスが感染する際に使用する受容体としては、SARS-CoVと同じアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)受容体を用いることが分かった。 結論として、系統解析において、SARS-CoV-2は βコロナウイルス属サルベコウイルス亜属に分類 さ れ、最 も 近 い 近縁 のbat-SL-CoVZC45やbatSL-CoVZXC21のように比較的長い分枝長を持ち、 SARS-CoVやMERS-CoVとは異なっていた。また、 SARS-CoV-2がヒトのACE2受容体に結合できる可能性があることが示唆された。
ヒトの便中における種々のマイクロプラスチックの検出。プロスペクティブ・ケースシリーズ。
ヒトの便中における種々のマイクロプラスチックの検出。プロスペクティブ・ケースシリーズ。
Detection of Various Microplastics in Human Stool: A Prospective Case Series Ann Intern Med 2019 Oct 1;171(7):453-457. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】マイクロプラスチックは自然環境中に遍在している。マイクロプラスチックの摂取は海洋生物で報告されており、粒子が食物連鎖に入る可能性がある。 【目的】ヒトの糞便にマイクロプラスチックがあるかどうかを調べ、ヒトがマイクロプラスチックを不本意に摂取しているかどうかを調べる。 【デザイン】段階的な指示に従って食事日記を書き、便を採取したプロスペクティブケースシリーズ。 【参加者】33歳から65歳の健康なボランティア8名 【測定方法】化学物質消化後、フーリエ変換赤外顕微鏡を用いて、便サンプル中の一般的な10種類のマイクロプラスチックの存在と形状を分析した。 【結果】8つの便サンプル全てがマイクロプラスチック陽性であった。ヒトの便10gあたり中央値で20個のマイクロプラスチック(大きさ50-500μm)が同定された。全体として9種類のプラスチックが検出され、ポリプロピレンとポリエチレンテレフタレートが最も多く検出された。 【結論】ヒトの便からは様々なマイクロプラスチックが検出され、異なる供給源から不用意に摂取されたことが示唆された。マイクロプラスチックの摂取の程度と人間の健康への潜在的影響についてさらなる研究が必要である。 第一人者の医師による解説 生体検体中のマイクロプラスチック 検出方法のさらなる研究必要 石橋 由基/岡村 智教(教授)  慶應義塾大学医学部衛生学公衆衛生学教室 MMJ.April 2020;16(2) プラスチックの生産量は年間3億5000万トンになり、指数関数的に増加している。マイクロプラスチックは5mm以下のプラスチック粒子と定義されることが多いが、それによる水中、地上、空気の汚染ならびに健康への影響が懸念されている。いくつかの先行研究では、動物において胃腸の組織や臓器への移行が確認されている。 しかし、人体への影響に関する疫学研究はいまだ不十分であり、世界保健機関(WHO)は「プラスチック粒子、特にナノレベルの粒子の物理的なハザードに関連する毒性の確かな結論を引き出す十分な情報はないが、 懸念であることを示唆する信頼できる情報はない」と述べている(1),(2)。 本研究では、日本(東京)を含む8カ国、8人のボランティアから便を採取し、便中のマイクロプラスチックを分析した。また曝露要因を調べるために、採取前6~7日間の食事内容や生活習慣を調査した。結果として8検体すべての便サンプルがマイクロプラスチック検査で陽性を示し、便10gあたり中 央値20個のマイクロプラスチックが確認された。 全体として、9種類のプラスチックが検出され、ポリプロピレンとポリエチレンテレフタレートが最も多かった。便中のマイクロプラスチックに関する報告は本研究が初であり、その点でこの研究は新しい知見を追加している。しかしながら、結果の解釈には注意が必要である。   まず著者らも研究の限界として言及しているように、サンプル数が少なく、サンプルの代表性に問題がある。さらにマイクロプラスチック測定上の問題として、(1)前処理に使用した固定剤(ブロノポール)がポリマー特性に与える影響に関する検討が論文中で示されていない(2)定量結果の精度を確認するためのポジティブコントロールについての記載がない(3)ネガティブコントロールの詳細が示されていない(標準誤差、サンプル数も含めた報告が必要である)(4)検査の際の実験室環境に関する情報が記載されていない──などの問題 が挙げられる。 上記は水中におけるマイクロプラスチック調査に用いられる測定品質の評価基準(3)であるが、便中の測定でも同様の基準が必要と考えられる。その意味で、今後は健康への影響のエビデンスだけでなく、生体検体中のマイクロプラスチック測定のバリデーションに関する研究の蓄積も求められている。 1. 国立医薬品食品衛生研究所:食品安全情報(化学物質) No.20 (2019) 別添     【WHO】情報シート:飲料水中マイクロプラスチック . URL: https://bit.ly/2PRcfA7 2. WHO (2019). Information sheet: Microplastics in drinking-water. URL:https://bit.ly/2QdT56n 3.Koelmans AA et al. Water Res. 2019;155:410-422.
英国の国民保健サービスのパフォーマンスと他の高所得国との比較:観察的研究。
英国の国民保健サービスのパフォーマンスと他の高所得国との比較:観察的研究。
Performance of UK National Health Service compared with other high income countries: observational study BMJ 2019 Nov 27 ;367:l6326 . 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【目的】英国国民保健サービス(NHS)は、持続的な財政圧迫、需要の増加、社会的ケアの削減に直面していることから、他の高所得国の医療制度と比較してどのように機能しているかを明らかにする。 【デザイン】ユーロスタットや経済協力開発機構などの主要国際機関の二次データを用いた観察研究 【設定】英国および高所得比較対象9か国の医療制度。 【主なアウトカム指標】人口と医療保障、医療と社会支出、構造的能力、利用、医療へのアクセス、医療の質、人口の健康という7つの領域にわたる79指標。 【結果】英国は2017年に調査した他のすべての国と比較して、一人当たりの医療費が最も少なく(英国3825ドル(2972円、3392ユーロ)、平均5700ドル)、支出の伸びはやや低かった(過去4年間の国内総生産比は平均0.07%に対し、0.02%)。英国は、利用率(入院数)が平均レベルであるにもかかわらず、アンメットニーズが最も低く、一人当たりの医師と看護師の数も最低レベルであった。英国は平均寿命(平均 81.7 歳に対し 81.3 歳)と乳がん、子宮頸がん、結腸がん、直腸がんなどのがんの生存率が平均をわずかに下回っていた。腹部手術後の術後敗血症(10万人退院あたり英国2454人、平均2058人)、急性心筋梗塞の30日死亡率(英国7.1%、平均5.5%)、虚血性脳炎(英国9.6%、平均6.6%)など、いくつかの医療サービスのアウトカムが悪かったが、英国は、平均を下回っていた。6%)、関節手術後の深部静脈血栓症は平均より低く、医療関連感染も少なかった。 【結論】NHSは、医療サービスの成果を含め、良好なパフォーマンスを示しているが、支出、患者の安全、国民の健康はすべて平均以下からせいぜい平均であった。これらの結果を総合すると、NHSが人口動態の圧力が高まっているときに同等の健康成果を達成したいのであれば、労働力と長期ケアの供給を増やすためにもっと支出し、社会支出の減少傾向を減らして比較対象国の水準に合わせる必要があるかもしれないことが示唆される。 第一人者の医師による解説 医療従事者確保や介護へさらに資金を投入しなければ 公共医療システム維持は困難 西岡 祐一(助教)/今村 知明(教授) 奈良県立医科大学公衆衛生学講座 MMJ.April 2020;16(2) 英国の英国保健サービス(UK National Health Service;NHS)は1948年に設立された世界で 最も包括的な公共医療システムの1つである(1)。近年 NHSは「患者の需要を満たす」「費用の負担を減 らす」という2つの相反する問題に直面している。 世界のあらゆるヘルスケアサービスが同じ問題に直面しており、患者の需要と医療・介護費用のバランスは難しい。実際、英国では2010年から17年までのヘルスケアの需要増大に比較し、費用の負 担は増えていないと言われている(2)。英国の現状と目指すべき方向性を提案するために、著者らは、NHSと高所得国、経済協力開発機構(OECD)加盟国35カ国、欧州連合(EU)加盟国28カ国のヘルス ケアデータを用いて医療費、アクセス、質、予後などさまざまな指標について記述疫学研究を実施した。 英国の1人当たりの医療費は高所得国で最も低く、 OECDやEUの平均程度であった。英国の平均寿命、さまざまな悪性腫瘍の5年生存率は、高所得国の平均よりやや低い傾向にあった。関節手術後の深部静脈血栓症や医療関連感染症の発生率は高所得国の平均より低かったが、健康指標水準は高所得国で最も悪く、さらに過去10年間で増悪傾向であった。 また、英国ではEU国籍の医療従事者が2015年以降急速に減少している。英国のEU離脱に関連していると考えられているが、特に人口当たりの看護師数は急速に減少している。このように社会情勢の変化も相まって、このままでは英国が他の高所 得国と同じレベルの公共医療システムを維持できなくなる可能性がある。 NHSが他の高所得国と同等の健康指標水準を達成するために、あるいは健康指標の悪化に歯止めをかけるためには、人口当たりの医師数、看護師数や介護費用など他の国と比べて低い水準にあるもの、健康指標が悪化しているものに積極的に資金を投入していく必要がある。 本研究は、他国との比較により英国の現状や指標の推移を明らかにしただけでなく、データに基づいた政策提言を行った。さらに、英国のEU離脱など予測困難な社会情勢の変化により、ヘルスケアサービスが影響を受けたことを示唆する有用な分析例である(3)。ただし、本研究では独立して設定・運営されている英国の4つの構成国(イングランド、 スコットランド、ウェールズ、北アイルランド)の全体を集計しており、構成国間で差がある可能性 もあり、解釈には注意が必要である。引き続き、ヘルスケア関連のデータベースを用いた疫学研究が増加し、医学のさらなる発展につながることを期待したい。 1. Klein R et al. N Engl J Med. 2004;350(9):937-942. 2. Mossialos E et al. Lancet. 2018;391(10125):1001-1003. 3. Goddard AF et al. JAMA. 2016;316(14):1445-1446.
医療従事者の燃え尽き症候群とケアの質との関連性を示す証拠。A Systematic Review and Meta-analysis.
医療従事者の燃え尽き症候群とケアの質との関連性を示す証拠。A Systematic Review and Meta-analysis.
Evidence Relating Health Care Provider Burnout and Quality of Care: A Systematic Review and Meta-analysis Ann Intern Med 2019 Oct 15;171(8):555-567. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】医療従事者の燃え尽きが患者ケアの質の低下に寄与しているかどうかは不明である。 【目的】燃え尽きとケアの質の全体的な関係を推定し、発表された研究がこの関係を誇張して推定しているかどうかを評価する。 【データソース】MEDLINE、PsycINFO、Health and Psychosocial Instruments (EBSCO)、Mental Measurements Yearbook (EBSCO)、EMBASE (Elsevier)、Web of Science (Clarivate Analytics)を対象に、言語制限なしで、創刊から2019年5月28日までの期間で検索した。研究の選択]言語を問わず、医療従事者のバーンアウトと患者ケアの質との関連を定量化した査読付き出版物。 【データの抽出】2人の査読者が独立して研究を選択し、バーンアウトとケアの質の関連の測定値を抽出し、Ioannidis(過剰有意性)およびEgger(小規模研究効果)検定を用いて潜在的なバイアスを評価した。 【データの統合】合計11703件の引用を同定し、そこから123件、142人の研究集団、241 553人の医療従事者を対象とした出版物を選択した。ケアの質に関するアウトカムは、ベストプラクティス(n=14)、コミュニケーション(n=5)、医療過誤(n=32)、患者アウトカム(n=17)、品質と安全(n=74)の5つのカテゴリーに分類された。燃え尽き症候群とケアの質との関係は非常に不均質であった(I2 = 93.4%~98.8%)。燃え尽き症候群とケアの質の組み合わせ114件のうち、58件は質の低いケアに関連する燃え尽き症候群であり、6件は質の高いケアに関連する燃え尽き症候群であり、50件は有意な効果を示さなかった。過剰な有意性が明らかになった(統計的に有意な結果が得られると予測された研究の62%に対して、観察された研究の73%、P = 0.011)。このバイアスの可能性を示す指標は、最も信頼性の低い品質指標であるベストプラクティスと品質と安全性で最も顕著であった。 【限界】研究は主に観察的であり、因果関係も方向性も決定できなかった。 【結論】医療従事者の燃え尽き症候群は、発表された文献において質の低いケアと頻繁に関連している。真の効果の大きさは、報告されているよりも小さいかもしれない。今後の研究では、誇張された効果量推定のリスクを減らすために、結果を事前に規定する必要がある。 【主な資金源】Stanford Maternal and Child Health Research Institute. 第一人者の医師による解説 対象とした論文の内容が不均一 さらなる厳密な研究必要 饗場郁子1)/玉腰暁子2) 1)独立行政法人国立病院機構東名古屋病院脳神経内科臨床研究部長、 2)北海道大学大学院医学研究院社会医学分野公衆衛生学教室教授 MMJ.April 2020;16(2) 近年、医療提供者の燃え尽き症候群(バーンアウト)が問題になっている。バーンアウトとは、 1974年にアメリカの心理学者 Freudenbergerが 提唱した概念で、対人的サービスを提供する職種において、元来活発に仕事をしていた人が「燃え尽 きたように」意欲を失う状態を指す(1)。バーンアウトは、情緒的消耗感(仕事を通じて情緒的に力を出し尽くし、消耗してしまった状態)、脱人格化(患者 に対する無情で非人間的な対応で、防衛反応の1つ)、 個人的達成感の低下の3要素から構成される。バーンアウト評価には上記3要素を評価するMaslach Burnout Inventory(MBI)を用いるのが一般的で、 日本語版も存在する(2)。 これまでに多数の研究で医療提供者のバーンアウトは患者に提供するケアの質の低下と関連すると報告されているが、その多くは後方視的な観察研究で、測定方法にばらつきがあり、バイアスのリスクが懸念されている(3)。 そこで本論文では、言語を問わず当該テーマを扱っている査読付き論文を対象としたメタアナリシスが行われた。論文レビューは2人が独立して行い、必要な情報を抽出し、潜在的なバイアスとして過度な有意性をIoannidis テストにより検討した。 結果として、バーンアウトとケアの質の関連は非常に異質性が大きく(I2 = 93.4~98.8% )、検討した研究114件のうち、58件ではケアの質の低さと、6件ではケアの質の高さと関連していたが、 50件では有意な効果が示されなかった。統計学的に有意な結果が得られると期待される論文数と実際に有意な報告をした論文数を比較した結果、過度に有意な報告がなされていると考えられた(62% 対 73%;P= 0.011)。この指標が示す潜在的なバイアスは、ケアの質を5分類した場合、日常収集される情報に基づいて後方視的な研究で用いられることが多い「ベストプラクティス」と「品質と安全性」で顕著に観察された。 結論として、医療提供者のバーンアウトはしばしばケアの質の低下と関連すると報告されてきたものの厳密な研究はほとんど存在せず、効果の大きさは報告されたものよりも小さい可能性があった。 バーンアウトを減らすことでケアの質が向上するか、ケアの質を向上させることでバーンアウトが軽減するかは不明であり、これらの答えを出すには、適切なpowerのあるデザインされたランダム化試 験が不可欠である。 1.Freudenberger HJ. J Social Issues.1974;30:159-165. 2. 久保真人.セレクション社会心理学(サイエンス社), 2004. 3. Dewa CS et al. BMJ Open. 2017;7(6):e015141.
成人期における体重の変化と全死因および特定原因による死亡率との関係:前向きコホート研究。
成人期における体重の変化と全死因および特定原因による死亡率との関係:前向きコホート研究。
Weight change across adulthood in relation to all cause and cause specific mortality: prospective cohort study BMJ 2019 Oct 16;367:l5584. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【目的】成人期における体重変化と死亡率の関連を検討する。 【デザイン】前向きコホート研究。 【設定】米国国民健康・栄養調査(NHANES)1988~94年および1999~2014年。 【参加者】ベースラインで体重と身長を測定し、若年成人期(25歳)と中年成人期(ベースラインの10年前)の体重を思い出した40歳以上の36051人。 【主要アウトカム指標】ベースラインから2015年12月31日までの全死因および原因別死亡率。 【結果】平均12.3年の追跡期間に10500人が死亡している。標準体重のままの参加者と比較して,若年期から中年期にかけて非肥満から肥満のカテゴリーに移行した参加者は,全死因死亡率および心疾患死亡率のリスクがそれぞれ22%(ハザード比1.22,95%信頼区間1.11~1.33)および49%(1.49,1.21~1.83)高くなることが示された。この期間に肥満から非肥満の体格指数に変化しても、死亡リスクとの有意な関連はなかった。成人期中期から後期にかけての肥満から非肥満への体重変化パターンは、全死因死亡率(1.30、1.16から1.45)および心疾患死亡率(1.48、1.14から1.92)のリスク上昇と関連していたが、この期間に非肥満カテゴリーから肥満に移行しても死亡リスクとは有意な関連はなかった。成人期を通じて肥満を維持することは、一貫して全死因死亡リスクの増加と関連していた;ハザード比は、若年から中年期にかけては1.72(1.52から1.95)、若年から晩年期にかけては1.61(1.41から1.84)、中期から晩年期にかけては1.20(1.09から1.32)であった。最大過体重は、成人期を通じて死亡率との関連が非常に緩やかであるか、あるいは無効であった。様々な体重変化のパターンとがん死亡率との間に有意な関連は認められなかった。 【結論】成人期を通じて安定した肥満、若年期から成人期中期までの体重増加、および成人期中期から後期までの体重減少は、死亡率のリスク増加と関連していた。この知見は、成人期を通じて正常な体重を維持すること、特に成人期初期の体重増加を防ぐことが、その後の人生における早すぎる死亡を防ぐために重要であることを示唆している。 第一人者の医師による解説 成人期を通した正常体重の維持と成人早期での体重増加予防が重要 中神 朋子 東京女子医科大学糖尿病・代謝内科教授 MMJ.April 2020;16(2) 肥満は世界的に重要な公衆衛生問題であり、日本でもライフスタイルの多様化と食文化の欧米化により問題視されている。日本の平成30年の国民栄養調査によると、肥満者(BMI 25 kg/m2以上)の割合は男性32.2%、女性 21.9%で、この10年間で大きな変化はないが、その割合は低くない。 本論文は、1988~94年および1999~2014 年の米国民健康栄養調査(NHANES)の40歳以 上36,051人を対象に死亡リスクと成人期の体 格指数(BMI)の変化を検討した前向きコホート研 究の報告である。平均12.3年の追跡で、10,500 件 の 死亡 が 確認 さ れ た。「 成人早期(25歳時)」、 「成人中期(NHANES登録の10年前)」、「成人後期 (NHANES登録時)」の3時点のBMIを調査し、2時点間のBMI変化と全死亡、原因別死亡のリスクと の関連を解析した。 その結果、正常体重(BMI 25 kg/m2未満)維持群に比べ、成人早期から中期に肥 満(BMI 30.0 kg/m2以上)に移行した群では全 死亡および心疾患死のリスクが上昇したのに対し(それぞれハザード比[HR], 1.22、1.49)、同時期の非肥満(BMI 30.0 kg/m2未満)への移行と死亡 リスクに有意な関連は認められなかった。一方、正常体重維持群に比べ、成人中期から後期に非肥満へ移行した群では、全死亡および心疾患死のリスク は有意に上昇したが(それぞれHR, 1.30、1.48)、 同時期の肥満への移行と死亡リスクに有意な関連はなかった。成人期を通じて肥満維持群では全死亡および心疾患死のリスクに一貫した上昇がみられた。なお、BMI変化とがん死のリスクに関連は認められなかった。 本研究において成人中期から後期に非肥満へ移行した群で全死亡および心疾患死のリスクが上昇したことは印象的である。成人早期から中期への体重増加は主に脂肪量の蓄積を反映すると考えられるが、中期から後期への体重減少は、通常、併存疾患と除脂肪体重の減少および脂肪量の増加を伴うと考えられる(1), (2)。 本研究には、意図的な体重変化、併存疾患などによる意図的ではない体重変化を区別できていない点、人種差など考慮すべき余地があり、この結果が日本人に当てはまるかどうかはまだわからない。しかし、成人期を通じて正常体重を維持すること、特に成人早期の体重増加の予防がその後の早期死亡リスクの抑制において重要であることを示唆しており意義深い。 第39回日本肥満学会で「神戸宣言2018」が採択され、肥満症*対策を領域横断的に推進することが示された。肥満症の撲滅を目指した肥満に対する意識と取り組みは大きく変わりつつあり、目が離せない。 *肥満に起因・関連する健康障害を有する、または健康障害が予想される内臓脂肪が過剰に蓄積し、減量治療を必要とする状態。 1. Fontana L et al. Aging Cell. 2014;13(3):391-400. 2. Ferrucci L et al. Arch Intern Med. 2007;167(8):750-751.
重症小児患者における多臓器不全症候群に対する新鮮赤血球輸血と標準発行赤血球輸血の効果。無作為化臨床試験
重症小児患者における多臓器不全症候群に対する新鮮赤血球輸血と標準発行赤血球輸血の効果。無作為化臨床試験
Effect of Fresh vs Standard-issue Red Blood Cell Transfusions on Multiple Organ Dysfunction Syndrome in Critically Ill Pediatric Patients: A Randomized Clinical Trial JAMA 2019 Dec 10;322(22):2179-2190 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【重要性】重症小児患者に対する赤血球保存年齢の臨床的影響は、大規模な無作為化臨床試験で検討されていない。 【目的】重症小児において、新鮮赤血球(7日以下保存)の輸血が、標準発行赤血球の使用と比較して新規または進行性の多臓器不全症候群を減らすかどうかを判断することである。 【デザイン・設定・参加者】The Age of Transfused Blood in Critically-Ill Children試験は、2014年2月から2018年11月にかけて50の三次医療施設で行われた国際多施設共同盲検化無作為化臨床試験であった。集中治療室入室後7日以内に最初の赤血球輸血が行われた、生後3日~16歳の小児患者を対象とした。合計15568人の患者をスクリーニングし、13308人を除外した。 【介入】患者を新鮮赤血球または標準発行赤血球のいずれかを投与するよう無作為に割り付けた。合計1538人の患者が無作為化され、新鮮赤血球群768人、標準発行群770人となった。 法]主要アウトカム指標は、新規または進行性の多臓器不全症候群で、28日間または退院または死亡まで測定された。 【結果】無作為化された1538名のうち、1461名(95%)が一次解析に含まれ(年齢中央値1.8歳、女子47.3%)、そのうち新鮮赤血球群に728名、標準発行群に733名が無作為に割り付けられた。保存期間の中央値は,新鮮群 5 日(四分位範囲 [IQR], 4~6 日)に対して標準発行群 18 日(IQR, 12~25 日)であった(P < 0.001).新規または進行性の多臓器不全症候群については,新鮮赤血球群(728 例中 147 例[20.2%])と標準発行赤血球群(732 例中 133 例[18.2%])に有意差はなく,未調整絶対リスク差は 2.0%(95% CI,-2.0%~6.1%;P = .33)であった.敗血症の有病率は,新鮮群では 25.8%(619 例中 160 例),標準発行群では 25.3%(608 例中 154 例)であった.急性呼吸窮迫症候群の有病率は,新鮮群では 6.6%(619 例中 41 例),標準発行群では 4.8%(608 例中 29 例)であった.集中治療室での死亡率は新鮮群4.5%(728例中33例)に対して標準発行群3.5%(732例中26例)だった(P = .34)。 【結論と関連性】重症小児患者において、新鮮赤血球の使用は標準発行赤血球と比較して新規または進行性の多臓器不全症候群(死亡率を含む)の発生率を低減しなかった。 【試験登録】 ClinicalTrials. gov Identifier:NCT01977547。 第一人者の医師による解説 血液製剤の保存期間 どの年齢でも予後悪化の因子でない可能性 寺田 類/岡崎 仁(教授) 東京大学医学部附属病院輸血部 MMJ.April 2020;16(2) 赤血球製剤の保存期間が長くなると、製剤中の赤血球のviabilityは低下し、赤血球の重要な役割である酸素運搬能が低下してくる。保存期間の長い赤血球製剤を重症患者に輸血すると臓器不全の発生率や死亡率が上昇するのではないかと危惧され、今までに多くの観察研究や無作為化試験が行われてきた。しかし、赤血球の保存期間と死亡率や多臓器 機能障害スコアの変化に有意な関係性は見いだされていない。 しかし、こうした研究のほとんどは成人を対象としたもので、新生児や心臓外科手術患者など重症小児患者では保存期間による違いが予後に影響するかどうかは不明である。また、重症小児患者に対してどの程度の保存期間の赤血球製剤を使用するかは、病院や血液製剤センターの方針などにより一律ではないのが現状である(1)。 そこで本論文で報告された多施設共同無作為化試験では、重症小児患者において、血液製剤の保存期間が死亡率や患者予後と強く相関する多臓器不全の新規発症・増悪に与える影響を調べている。対象は、米国、カナダ、フランスなど50施設の小児集中治療室(PICU)で輸血を受けた生後3日から16歳までの患者で、保存期間7日以内(中央値 , 5日)の赤血球を輸血した群728人と、標準的な 保存期間(中央値 , 18日)の赤血球を輸血した群 733人の転帰が比較された。 その結果、主要評価項目である多臓器不全の増悪に加え、副次評価項目の28、90日死亡率、敗血症や急性呼吸促迫症候群(ARDS)、院内感染の発生率に関して保存期間の違いによる有意差は認められなかった。また、年齢、施設、国、性別、合併症、疾患の重症度で調整した解析でも結果は変わらなかった。 日本における赤血球製剤の使用期限は採血後21 日で、世界的な使用期限42日の半分であり、元来保存期間の短い製剤が供給されている。しかし、献血者の減少や少子高齢化による血液製剤の不足が懸念されている昨今においては、いつでも重症小児患者に優先的に保存期間の短い新鮮な赤血球製剤を供給できるかは必ずしも定かではない。 今回の結果が日本人にも同様に当てはめられるのか、また死亡などの重要な因子以外に与える影響についての検討も今後必要ではあるが、血液製剤を運用する病院や血液センター、また治療を受ける側としても意味のある1つの結果と言えるだろう。 どの年齢においても、現状での保存期間による製剤の変化は臨床上、患者の予後に影響を与えるまでの変化ではないのかもしれない。 1. Spinella PC et al. Transfusion. 2010;50(11):2328-2335.
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