「MMJ - 五大医学誌の論文を著名医師が解説」の記事一覧

2型糖尿病に用いる新規デュアルGIP/GLP受容体作動薬tirzepatideの有効性および安全性(SURPASS-1):二重盲検無作為化第III相試験
2型糖尿病に用いる新規デュアルGIP/GLP受容体作動薬tirzepatideの有効性および安全性(SURPASS-1):二重盲検無作為化第III相試験
Efficacy and safety of a novel dual GIP and GLP-1 receptor agonist tirzepatide in patients with type 2 diabetes (SURPASS-1): a double-blind, randomised, phase 3 trial Lancet. 2021 Jul 10;398(10295):143-155. doi: 10.1016/S0140-6736(21)01324-6. Epub 2021 Jun 27. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】医療が進歩したが、2型糖尿病患者の多くが治療目標を達成していない。そのため、新たな治療法の開発が求められている。食事療法および運動療法のみではコントロール不十分な2型糖尿病患者を対象に、新たなグルコース依存性インスリン刺激性ポリペプチド(GIP)受容体およびGLP-1受容体作動薬、tirzepatide単剤療法のプラセボと比較した有効性、安全性および忍容性を評価することを目的とした。 【方法】インド、日本、メキシコおよび米国の医療研究センターおよび病院計52施設で40週間にわたる二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験を実施した(SURPASS-1試験)。食事療法と運動療法のみではコントロール不十分な2型糖尿病があり、糖尿病の注射薬治療歴がない成人患者(18歳以上)を対象とした。コンピュータで生成したランダム配列を用いて、患者をtirzepatide(5mg、10mgまたは15mg)週1回投与とプラセボに1対1対1対1の割合で割り付けた。患者、治験担当医師、治験依頼者に治療の割り付けを伏せた。主要評価項目は、40週時点の糖化ヘモグロビン(HbA1c)の治療前からの平均変化量とした。この試験はClinicalTrials.govにNCT03954834として登録されている。 【結果】2019年6月3日から2020年10月28日までに適格性を評価した705例のうち、478例(治療前の平均HbA1c値7.9%[63mmol/mol]、年齢54.1[SD 11.9]歳、女性231例[48%]、糖尿病罹病期間4.7年、BMI 31.9kg/m2)を無作為化によりtirzepatide 5 mg(121例[25%])、tirzepatide 10 mg(121例[25%])、tirzepatide 15 mg(121例[25%])、プラセボ(115例[24%])に割り付けた。66例(14%)が試験薬を中止し、50例(10%)が早期に試験を中止した。40週時点で、HbA1cの治療前からの変化量、空腹時血糖、体重、HbA1cの目標値7.0%未満(<53mmol/mol)達成および5.7%未満(<39mmol/mol)達成について、tirzepatide全用量のプラセボに対する優越性が示された。tirzepatide 5mg群に1.87%(20 mmol/mol)、10mg群に1.89%(21mmol/mol)、15mg群に2.07%(23mmol/mol)の治療前からの平均HbA1c値低下がみられたが、それに対してプラセボ群に0.04%の増加(+0.4mmol/mol)がみられた。その結果、プラセボと比較した治療差の推定値は、tirzepatide 5mg群が-1.91%(-21mmol/mol)、10mg群が-1.93%(-21mmol/mol)、15mgが-2.11%(-23 mmol/mol)であった(いずれもP<0.0001)。tirzepatide群の方がプラセボ群よりもHbA1c目標値7.0%未満(<53 mmol/mol;87~92% vs 20%)および6.5%未満(<48mmol/mol;81~86% vs 10%)を達成した患者の割合が多く、tirzepatide群の31–52%およびプラセボ群の1%が目標値5.7%未満(<39mmol/mol)達成した。tirzepatideにより、用量依存性に7.0~9.5kgの体重減少がみられた。tirzepatide群に最も多くみられた有害事象は、軽度ないし中等度で一過性の消化管事象であり、悪心(12~18% vs 6%)、下痢(12~14% vs 8%)、嘔吐(2~6% vs 2%)などがあった。tirzepatide群には、臨床的に重要ではない低血糖(54mg/dL[3mmol/L]未満)または重度の低血糖は報告されなかった。プラセボ群に死亡が1件発生した。 【解釈】tirzepatideにより、低血糖リスクが上昇することなく、血糖コントロールおよび体重に強固な改善が認められた。安全性はGLP-1受容体作動薬のものと一致しており、2型糖尿病の治療にtirzepatide単剤療法を用いうる可能性を示唆するものである。 第一人者の医師による解説 低血糖を伴わずに血糖を正常化させることで心血管イベント低減を期待 篁 俊成 金沢大学大学院医学系研究科内分泌・代謝内科学教授 MMJ. February 2022;18(1):13 現在臨床応用されているグルカゴン様ペプチド-1受容体作動薬(GLP-1RA)は血糖降下作用と体重減少作用を有する。同じインクレチンであるグルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド(GIP)もインスリン分泌を促進し、視床下部の受容体を介して体重を減少させるが、2型糖尿病におけるインスリン分泌促進作用は明確でない。食事誘発性肥満モデルマウスでは、GLP-1とGIPの併用により、満腹感が増大し、甘みへの嗜好が減少した。 チルゼパチドはGIPおよびGLP-1の両受容体を刺激する合成ペプチドで、第2B相試験ではチルゼパチド(15 mg週1回皮下投与)はプラセボやGLP-1RAのデュラグルチドに比べ血糖と体重のコントロールで優位だったが、悪心など消化器系副作用の頻度も高かった。本論文は、消化器症状の忍容性を高める目的で、より低用量のチルゼパチドを2型糖尿病患者に投与し、血糖コントロール効果と安全性を検討した第3相 SURPASS-1試験の報告である。対象患者は5、10、15 mgのチルゼパチド群またはプラセボ群に割り付けられた。 その結果、40週の時点においてチルゼパチドの全群で、プラセボ群に比べ、HbA1c、空腹時血糖、体重、HbA1c 7.0%未満 お よ び5.7%未満達成率が有意に改善した。主要評価項目である40週でのベースラインからのHbA1c平均変化量は、チルゼパチド 5mg群-1.87%、10mg群-1.89%、15mg群-2.07%に対し、プラセボ群は+0.04%であった。チルゼパチドの全群で、プラセボ群に比べ、体重もより減少した。チルゼパチド群におけるHbA1c降下は20週でプラトーに達したが、体重減少は40週まで続いた。すべてのチルゼパチド用量群で、プラセボ群と比較し、総コレステロール、中性脂肪、HOMA-Rが有意に低下し、高比重リポ蛋白コレステロールが有意に上昇した。一方、有害事象に起因する試験薬中止率、有害事象が1件以上発現した患者の割合、総有害事象数に有意な群間差はなかった。チルゼパチドの主な有害事象は軽度~中等症の嘔気・下痢・嘔吐などの消化器症状であり、経過中に軽快した。消化器症状による試験薬中止率はチルゼパチド群で2~7%、プラセボ群で1%だった。両群ともに重度低血糖と膵炎の報告はなかった。 チルゼパチド群のHbA1c 7.0%未満達成率は87~92%で、他のGLP-1RA単独療法の既報値(週1回エキセナチド 63%、デュラグルチド 61~63%、セマグルチド 72~74%)を上回る。今回チルゼパチドの用量依存性がみられなかったのは、ほぼ正常レベルまで血糖降下が得られたためと思われる。GIP受容体作動薬の心血管への作用は検討段階であるが、チルゼパチドにより低血糖を伴わずに血糖を正常化させることで、心血管イベント低減が期待される。
発熱がない尿路感染症男性に用いる7日間と14日間の抗菌薬治療の症状消失に対する効果の比較:無作為化臨床試験
発熱がない尿路感染症男性に用いる7日間と14日間の抗菌薬治療の症状消失に対する効果の比較:無作為化臨床試験
Effect of 7 vs 14 Days of Antibiotic Therapy on Resolution of Symptoms Among Afebrile Men With Urinary Tract Infection: A Randomized Clinical Trial JAMA. 2021 Jul 27;326(4):324-331. doi: 10.1001/jama.2021.9899. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【重要性】一般的な感染症の最適な治療期間を明らかにすることが、抗菌薬の効果を維持するための重要な戦略である。 【目的】発熱がない男性の尿路感染症(UTI)の治療にシプロフロキサシンまたはトリメトプリム/スルファメトキサゾールを使用する場合、7日間の治療が14日間の治療に対し非劣性であるかを明らかにする。 【デザイン、設定および参加者】米国退役軍人省の2つの医療センターで、症候性UTIと推定された発熱のない男性にシプロフロキサシンまたはトリメトプリム/スルファメトキサゾールを投与した無作為化二重盲検プラセボ対照非劣性試験(2014年4月から2019年12月にかけて登録;最終追跡日2020年1月28日)。適格男性1058例中272例を無作為化した。 【介入】担当医が処方した抗菌薬を7日間継続したのち、参加者を無作為化により8~14日目に抗菌薬治療を継続するグループ(136例)とプラセボを投与するグループ(136例)に割り付けた。 【主要評価項目】主要評価項目は、実際の抗菌薬治療終了から14日後までのUTI症状消失とした。非劣性マージンを10%とした。主解析にはas-treated集団(28回中26回以上服薬し、連続未服薬が2回以下の参加者)を用いた。治療のアドヒアランスに関係なく無作為化した全患者を副次解析の対象とした。試験薬投与中止後28日以内のUTI症状再発または有害事象を副次評価項目とした。 【結果】無作為化した272例(年齢中央値[四分位範囲]69[62~73]歳)のうち、100%が試験を完了し、254例(93.4%)をas-treated集団として主解析の対象とした。7日群の131例中122例(93.1%)および14日群の123例中111例(90.2%)に症状の消失が認められ(差2.9%[片側97.5%CI -5.2%~∞])、非劣性の基準を満たした。無作為化した患者を対象とした副次解析では、7日群の136例中125例(91.9%)および14日群の136例中123例(90.4%)に症状の消失が認められた(差、1.5%[片側97.5%CI -5.8%~∞])。7日群の131例中13例(9.9%)および14日群の123例中15例(12.9%)にUTI症状再発が認められた(差、-3.0%[95%CI -10.8~6.2%];P=0.70)。7日群の136例中28例(20.6%)および14日群136例中33例(24.3%)に有害事象が発現した。 【結論および意義】発熱はないがUTIが疑われる男性に対するシプロフロキサシンまたはトリメトプリム/スルファメトキサゾールの7日間投与が、抗菌薬治療後14日目までのUTI症状消失で14日間投与に対し非劣性であった。この結果は、発熱がない男性のUTI治療に用いるシプロフロキサシンまたはトリメトプリム/スルファメトキサゾールの14日間投与の代案として7日間投与を支持するものである。 第一人者の医師による解説 短期間でも効果は劣らないが白人の高齢者が多いなどさまざまな前提条件に留意 石倉 健司 北里大学医学部小児科学主任教授 MMJ. February 2022;18(1):21 さまざまな感染症で、抗菌薬投与は従来から行われているより短期間でも有効であることが示されている。しかし男性の無熱性尿路感染症に対する同様の検討は行われておらず、短期間投与の有効性が示されれば、特にグラム陰性菌に対する抗菌薬使用量の減少に寄与することが期待される。そこで本論文の著者らは、これらの患者を対象に米国の2つの退役軍人病院で、抗菌薬の7日間と14日間投与の非劣性検証デザインによる無作為化プラセボ対照試験を計画した。 試験方法はpragmaticであり、対象者は無熱性尿路感染症に対してすでに臨床的診断のもとにシプロフロキサシンまたはトリメトプリル /スルファメトキサゾールによる治療が開始されている男性患者の中から登録された。尿路感染症は症状により診断され、尿培養は推奨されているが必須でなかった。対象者は8日以降の治療に関して、すでに使用されている抗菌薬の継続群もしくはプラセボ投与群に無作為に割り付けられた。主要評価項目は治療遵守群における抗菌薬投与終了14日後の症状改善率とされ、非劣性マージンは効果の差10%以内と設定された。 計画では290人の登録が必要であったが、実際には272人が無作為化された(各群136人)。年齢中央値は各群とも70歳、白人は79%(7日治療群)と78%(14日治療群)、間歇的カテーテル使用は18%と17%、糖尿病の合併率は34%と44%、最も頻度の高い症状はともにdysuriaで68%と65%であった。主要評価項目である抗菌薬終了14日後の症状消失(治療遵守例254人で評価)は、7日治療群で93.1%、14日治療群で90.2%(群間差 ,2.9%;95% CI, -5.2%~∞)であり、事前に定めた非劣性の定義を満たしていた。272人全体での評価、試験終了後14日後での評価などでも結果は変わらなかった。有害事象でも大きな差はなかった。以上から、男性無熱性尿路感染症の症状改善効果に関して、抗菌薬の7日間投与は14日間投与に対して非劣性であることが示された。 本試験の結果に関しては、さまざま前提条件に留意することが必要である。すなわち、米国における白人の男性退役軍人を主な対象にしていること、糖尿病合併が多いこと、抗菌薬が2剤に限られていることなどである。一方、試験の実施には学ぶ点が多い。Pragmaticなことに加え、study personnelの協力の下、データベースから患者候補をリストアップして積極的に患者にアプローチして登録している。さらに電話、メールに加え、状況によっては実際に患者宅に訪問するなど、その後の進捗管理も整備されている。日本での臨床試験の実施においても、大いに参考にしたい。
思春期児を対象としたBNT162b2 Covid-19ワクチンの安全性、免疫原性および有効性
思春期児を対象としたBNT162b2 Covid-19ワクチンの安全性、免疫原性および有効性
Safety, Immunogenicity, and Efficacy of the BNT162b2 Covid-19 Vaccine in Adolescents N Engl J Med. 2021 Jul 15;385(3):239-250. doi: 10.1056/NEJMoa2107456. Epub 2021 May 27. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)に対するワクチンは、ごく最近まで16歳未満の小児への緊急使用が許可されていなかった。この集団を保護し、対面学習や人の集まりを促進し、集団免疫に貢献するため、安全かつ有効なワクチンが必要である。 【方法】この進行中の国際共同プラセボ対照観察者盲検試験では、参加者を無作為によりBNT162b2ワクチン30μgを21日間隔で2回注射するグループとプラセボを注射するグループに1対1の割合で割り付けた。12~15歳にみられるBNT162b2に対する免疫応答の16~25歳の免疫応答に対する非劣性を免疫原性の目的とした。12~15歳のコホートで安全性(反応原性および有害事象)および確定した新型コロナウイルス感染症2019罹患(Covid-19;発症、2回目接種から7日以上経過後)に対する有効性を評価した。 【結果】全体で、12~15歳の思春期児2,260例に接種した。1,131例にBNT162b2、1,129例にプラセボを投与した。他の年齢群にみられたように、BNT162b2は安全性と副反応が良好で、反応原性事象も主に一過性で軽度から中等度であった(主に注射部位疼痛[79~86%]、疲労[60~66%]、頭痛[55~65%])。ワクチンに起因する重篤な有害事象はなく、重度の有害事象も全体的に少なかった。12~15歳の参加者にみられた2回目接種後SARS-CoV-2 50%中和抗体価の16~25歳に対する幾何平均比は、1.76(95%信頼区間[CI]、1.47~2.10)であり、両側95%信頼区間の下限が0.67を超える非劣性基準を満たし、12~15歳のほうが応答が大きいことが示された。SARS-CoV-2感染歴の根拠がない参加者では、BNT162b2接種群に2回目接種から7日以上経過後のCOVID-19発症例はいなかったが、プラセボ接種群に16例認められた。観察されたワクチンの有効性は100%(95%CI、75.3~100)であった。 【結論】12~15歳の小児に接種したBNT162b2ワクチンは、安全性が良好で、若年成人よりも免疫応答が大きく、COVID-19に対する高い有効性が示された。 第一人者の医師による解説 思春期児童は接種後の血管迷走神経反射の発生率が高く 対策を取ることが重要 新井 智 国立感染症研究所感染症疫学センター第11室室長 MMJ. February 2022;18(1):4 本論文は、ファイザー・ビオンテック社製のメッセンジャー RNAワクチン(BNT162b2)を評価している第1/2/3相試験(C4591001試験)の一部として、米国内の12 ~ 15歳の思春期児童約2,300人をBNT162b2 30μg群とプラセボ(生理食塩水)群に1:1の比で無作為に割り付け安全性、免疫原性、有効性を比較し、さらに米国以外の国からも登録した16 ~ 25歳の青年集団約1,100人と免疫応答での非劣性の検証等を行った結果の報告 である。1回目接種 受けたBNT162b2群1,131人とプラセボ群1,129人、2回目接種を受けたそれぞれ1,124人と1,117人の解析結果から、BNT162b2 30μ g接種における12 ~ 15歳の思春期児童の副反応は、全体的に一過性で軽度~中等度であった。最も頻度が高かった局所反応は注射部位の疼痛で79 ~ 86%、頻度の高かった全身性反応は倦怠感(60 ~ 66%)、頭痛(55 ~ 65%)、悪寒(28 ~ 42%)、筋肉痛(24 ~ 32%)であった。局所反応の頻度は1回目接種時の方が高かったが(1回目86%、2回目79%)、全身性反応の倦怠感、頭痛、悪寒、筋肉痛のいずれも2回目接種時の方が高頻度にみられた。 また、12 ~ 15歳の思春期児童と16 ~ 25歳の青年集団におけるBNT162b2 30μg接種の比較を行ったところ、12 ~ 15歳の思春期児童の1、2回目接種時の副反応発生率は、16 ~ 25歳の青年集団とほとんど違いがなく(16 ~ 25歳の青年:倦怠感60 ~ 66%、頭痛54 ~ 61%、悪寒25 ~40%、筋肉痛27 ~ 41%)、安全性に違いは認められなかった。有効性の指標である50%中和幾何平均抗体価(GMT)は、2回目接種1カ月後の12 ~15歳の思春期児童群では1,283.0、16 ~ 25歳の青年群では730.8、両集団間の幾何平均比は1.76(95%信頼区間 , 1.47 ~ 2.10)であり、免疫応答は12 ~ 15歳の思春期児童群の方が良好であった。 BNT162b2やモデルナ製スパイクバックのメッセンジャー RNAワクチンでは、初回よりも2回目接種の方が発熱、倦怠感、頭痛、悪寒などの全身性反応の発生割合が高い(1),(2)。これらの副反応への対応に関してはアセトアミノフェンの服用も選択肢として提案されており、事前に十分な情報提供を行い安心して接種を受けられる環境の提供が重要である。思春期児童では、ワクチン接種後の血管迷走神経反射の発生割合が他の年齢群に比べ高いため、横たわって接種を受ける、あるいは接種後30分程度様子を見るなど対策を取ることも重要である。 1. Polack FP, et al. N Engl J Med. 2020;383(27):2603-2615. 2. Baden LR, et al. N Engl J Med. 2021;384(5):403-416.
心不全にみられる2次性僧帽弁逆流症の負担、治療および転帰:観察コホート試験
心不全にみられる2次性僧帽弁逆流症の負担、治療および転帰:観察コホート試験
Burden, treatment use, and outcome of secondary mitral regurgitation across the spectrum of heart failure: observational cohort study BMJ. 2021 Jun 30;373:n1421. doi: 10.1136/bmj.n1421. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【目的】心不全にみられる2次性僧帽弁逆流症(sMR)の有病率、長期転帰および治療基準を定義すること。 【デザイン】大規模コホート試験。 【設定】2010年から2020年までのオーストリア・ウィーン地域病院ネットワークのデータを用いた観察的コホート試験。 【参加者】心不全のサブタイプを問わないsMR患者13,223例。 【主要評価項目】sMRと死亡率の相関。ガイドライン診断基準により、心不全を駆出率低下、中間範囲の駆出率、駆出率維持の3つのサブタイプに分類し、患者を評価した。 【結果】1,317例(10%)が重症sMRの診断を受け、年齢上昇との相関が認められた(P<0.001)。この相関は、心不全のさまざまの重症度に認められ、駆出率が低下した患者が2,619例中656例(25%)と最も多かった。同一地域の同年齢および同性の集団と比較した重症sMR患者の死亡率が予想よりも高かった(ハザード比7.53;95%信頼区間 6.83~8.30;P<0.001)。軽症sMRやsMRがない心不全と比較すると、中等症sMRや重症sMRの死亡率が段階的に増加し、ハザード比が中等症sMRで1.29(95%信頼区間 1.20~1.38;P<0.001)、重症sMRで1.82(同1.64~2.02;P<0.001)であった。重症sMRと超過死亡率の相関は多変量解析後も変わらず、心不全の全サブグループに認められた(中間範囲の駆出率:ハザード比2.53(同2.00~3.19;P<0.001)、駆出率低下:1.70(同1.43~2.03;P<0.001)、駆出率維持:1.52(同1.25~1.85;P<0.001))。最先端の医療が利用でき、心不全の症例数も多く、弁膜疾患プログラムがあったが、重度sMRに対して弁形成術(7%)も弁置換術(5%)もほとんど施行されていなかった。低リスクの経カテーテル弁形成術(4%)もほぼ同じで、ほとんど施行されていなかった。 【結論】2次性僧帽弁逆流は全体的に頻度が高く、年齢とともに増加し、超過死亡率との相関が認められた。有害転帰との相関は心不全全体に認められたが、駆出率が中間範囲の患者と駆出率が低下している患者に特に顕著であった。このように転帰が不良であるが、外科的な弁形成術や弁置換術がほとんど施行されていない。同じく低リスクの経皮的弁形成も、治療による最も大きな便益が期待できる心不全サブタイプにさえほとんど施行されていない。今回のデータは、特に高齢化社会で心不全の増加が予想されることを踏まえて、治療に対する需要が高まっていることを示唆するものである。 第一人者の医師による解説 患者利益に資するにはエビデンス不十分 質の高い無作為化試験が望まれる 児玉 隆秀 虎の門病院循環器センター内科部長 MMJ. February 2022;18(1):11 2次性僧帽弁閉鎖不全症(sMR)は心不全患者に多くみられ、生活の質(QOL)低下や予後悪化につながる。しかし、sMRは罹患頻度が低く、先行研究の主な対象は疾患特異性や疫学的特徴の違う原発性 MRであったため、転帰や標準的治療に関する知見は不十分であった。 本論文は、心不全に合併するsMRの疫学的特徴、心不全サブタイプと予後との関連、最先端施設での治療の現状を明らかにすべく、ウィーン医科大学の医療記録と超音波データベースを用いたコホート研究の報告である。心不全とsMRを合併する患者13,223人を対象とし、心不全はHFpEF(左室駆出率[LVEF]50%以上)、HFmrEF(LVEF 40~49%)、HFrEF(LVEF 40%未満)に分類された。全死亡を主要評価項目とし、sMR重症度別に解析した。中等度以上のsMRは心不全患者の40%を占め、LVEF低下や加齢とともに重症度が増加した。重度 sMRはsMRなし/軽度に比べ、すべての心不全サブタイプで死亡率上昇と関連し、特にHFmrEFで顕著であった。重度 sMRに対する弁形成術、弁置換術または経カテーテル弁形成術の実施率は15.2%にとどまっていた。 心不全患者の予後と直結するsMRに対する介入はもっと行われて然るべきであるが、実際には十分に行われていない理由として高齢患者の併存疾患数の多さが挙げられよう。手術リスク評価において年齢、併存疾患、心不全既往、収縮機能障害は重要な要素であり、ほとんどのsMR患者は手術適応外となる。また、外科的な弁の修復・置換がsMR患者の生存率改善につながるという確かなエビデンスはなく、ガイドラインでも内科的治療の重要性が強調されている。しかし、本研究は内科的治療の恩恵があまり明確でないHFmrEF患者においてsMRの死亡リスクが最も高いことを示し、低侵襲な経カテーテル僧帽弁形成術が可能となっている今日では、このような患者群に対して僧帽弁への介入がもっと行われるべきであることを指摘している。 sMRは心不全の原因ではなく、心不全の原因疾患に起因する心臓の構造的変化により2次的に生じてくるものである。また、体液量や内科的治療によりダイナミックに変化しうる。したがって、sMRへの介入のみでは不十分であり、「弁膜症治療のガイドライン 2020年改訂版」では第1に内科的治療の重要性が明記されている。一方、僧帽弁への介入は十分なエビデンスの蓄積がないことを理由に、虚血性 sMRを除いて推奨度は高くない。今回の結果からsMRに対する僧帽弁インターベンションの無作為化試験の必要性が認識され、最適な治療の方向性が見いだされれば、意義深い研究と思われる。
心血管疾患1次予防に用いるスタチンと有害事象の相関:系統的レビューとペアワイズネットワーク用量反応メタ解析
心血管疾患1次予防に用いるスタチンと有害事象の相関:系統的レビューとペアワイズネットワーク用量反応メタ解析
Associations between statins and adverse events in primary prevention of cardiovascular disease: systematic review with pairwise, network, and dose-response meta-analyses BMJ. 2021 Jul 14;374:n1537. doi: 10.1136/bmj.n1537. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【目的】心血管疾患の1次予防に用いるスタチンと有害事象の相関を評価し、その相関はスタチンの種類や投与量によってどのように変化するかを検討すること。 【デザイン】系統的レビューとメタ解析。 【データ入手元】既報の系統的レビューおよび2020年8月までのMedline、EmbaseおよびCochrane Central Register of Controlled Trialsを検索して試験を特定した。 【レビュー方法】心血管疾患歴のない成人を対象に、スタチンとスタチン以外の対照または他の種類のスタチンを比較した無作為化比較試験およびスタチンの投与量別に比較した無作為化比較試験を対象とした。 【主要評価項目】自己報告による筋症状、臨床的に確認した筋疾患、肝機能障害、腎機能不全、糖尿病、眼症状などのよくみられる有害事象を主要評価項目とした。心筋梗塞、脳卒中、心血管疾患による死亡などを有効性の副次評価項目とした。 【データ統合】ペアワイズメタ解析を実施し、スタチンとスタチン以外の対照の間で各転帰のオッズ比および95%信頼区間を算出し、1年間投与した患者1万人当たりの事象発生件数の絶対リスク差を推定した。ネットワークメタ解析を実施し、スタチンの種類別に副作用を比較した。Emaxモデルを用いたメタ解析により各スタチンによる副作用の用量反応関係を評価した。 【結果】計62の試験を対象とし、参加者が計120,456例、平均追跡期間が3.9年であった。スタチンにより自己報告による筋症状(21報、オッズ比1.06(95%CI 1.01~1.13);絶対リスク差15(95%CI 1~29)、肝機能障害(21報、オッズ比1.33(1.12~1.58);絶対リスク差8(3~14))、腎機能不全(8報、オッズ比1.14(1.01~1.28);絶対リスク差12(1~24))および眼症状(6報、オッズ比1.23(1.04~1.47);絶対リスク差14(2~29))のリスクが上昇したが、臨床的に確認した筋疾患および糖尿病のリスクの上昇はみられなかった。このリスクの上昇は、主要心血管事象のリスク低下の価値を上回ることはなかった。アトルバスタチン、lovastatin、ロスバスタチンにそれぞれ一部の有害事象との相関が認められたが、スタチンの種類に有意差がほとんど認められなかった。Emaxで用量反応関係によりアトルバスタチンが肝機能障害に及ぼす影響が認められたが、他のスタチンと副作用の用量反応関係については結論に至らなかった。 【結論】心血管疾患の1次予防に用いるスタチンに起因する有害事象のリスクは低く、心血管疾患予防の有効性を上回るものではなかった。この結果は、スタチンのリスクと便益の比が一般的に良好であることを示唆している。安全性に関する懸念事項を考慮に入れ、治療開始前にスタチンの種類や投与量を調整することを支持する科学的根拠は少なかった。 第一人者の医師による解説 1次予防におけるスタチンより長期での安全性は今後の課題 岡﨑 啓明 自治医科大学内分泌代謝学部門准教授 MMJ. February 2022;18(1):12 コレステロール管理に関する現在のガイドラインでは、心血管リスクが高い人ほど、低比重リポ蛋白コレステロール(LDL-C)をしっかりと下げることが基本理念となっている。心血管リスクが高く再発予防を目的とした場合、スタチン服用の意義は医者にも患者にも受け止めやすいであろう。しかし、1次予防では、心血管リスクが実感しづらいこともあり、スタチンの有益性(benefit)が本当に有害性(harm)を上回るのか、悩ましく感じる局面もある。2次予防目的のスタチン使用については、これまで多くの臨床試験から、有害性よりも有益性の方が大きいことが明らかとなっている。一方、1次予防では、もともと心血管リスクが低く、スタチンの有益性は2次予防に比べれば小さくなるため、有害性についてより慎重な検討が必要となる。例えば、スタチンを服用しているためになんとなく筋肉が痛いと思ってしまう“ノセボ効果”によって、有害性が過大評価される可能性もあり(1)、有害事象の定義を明確にしながら、正しい結論を得る必要がある。 そこで本論文では、1次予防でのスタチンと有益性・有害性の関連についてメタ解析を行った。筋障害については、定義を明確にし、自覚的筋症状と、他覚的筋疾患に分けて解析した。その結果、スタチンに関連して、自覚的筋症状、肝障害、腎障害、眼障害が有意に増加したが、リスク上昇はいずれもわずかであった。他覚的筋疾患については有意な増加を認めなかった。スタチンの種別検討では、有害事象の発現率に明らかな違いは認めず、またスタチンの用量別の検討では、有害事象の用量依存性は明らかではなかった(これについては異なる試験の結果の比較という方法論的問題もあるかもしれないが)。以上から、著者らは、心血管疾患の1次予防で、スタチンの有益性は有害性を上回る、と結論している。 コレステロールは、コレステロールの高さx年数の積算値的に心血管リスクとなる(cholesterol x years risk)(2)。心血管リスクの高い人ほどコレステロールを低くする、“the lower, the better”という基本理念に加えて、生まれつきのコレステロール値が高い人(例えば家族性高コレステロール血症)ほど若いころから治療した方がよいという理念、“the lower, the earlier, the better”が確立されてきている(3)。では、何歳から処方を開始すべきかとなると、有益性 /有害性のバランスに悩んでしまうこともあるが、そのような場合にも、今回のような研究は参考となるだろう。ただし、より長期間で安全かどうかは、今回の研究からは明確ではない。古くからの治療薬だが、臨床的に重要な課題が残されている。 1. Herrett E, et al. BMJ. 2021;372:n135.(MMJ 2021 年 8 月号 ) 2. Cohen JC, et al. N Engl J Med. 2006;354(12):1264-1272. 3. Khera AV, et al. J Am Coll Cardiol. 2016;67(22):2578-2589.
急性尿閉とがんのリスク:デンマークの住民を対象としたコホート試験
急性尿閉とがんのリスク:デンマークの住民を対象としたコホート試験
Acute urinary retention and risk of cancer: population based Danish cohort study BMJ. 2021 Oct 19;375:n2305. doi: 10.1136/bmj.n2305. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【目的】急性尿閉初回診断後の泌尿生殖器がん、大腸がんおよび神経系がんのリスクを評価すること。 【デザイン】全国民を対象としたコホート試験。 【設定】デンマークの全病院。 【参加者】1995年から2017年までに急性尿閉のため初めて入院した50歳以上の患者75,983例。 【主要評価項目】一般集団と比較した急性尿閉患者の泌尿生殖器がん、大腸がんおよび神経系がんの絶対リスクおよび超過リスク。 【結果】急性尿閉初回診断後の前立腺がんの絶対リスクは、3ヵ月時点で5.1%(3,198例)、1年時点で6.7%(4,233例)、5年時点で8.5%(5,217例)であった。追跡期間が3ヵ月以内の場合、1,000人年当たり218例の前立腺がん超過症例が検出された。3ヵ月から12ヵ月未満の追跡では、1,000人年当たり21例の超過症例数が増加したが、12ヵ月を超えるとこの超過リスクは無視できるものとなった。追跡3ヵ月以内の超過リスクは、尿路がんが1,000人年当たり56例、女性の生殖器がんが1,000人年当たり24例、大腸がんが1,000人年当たり12例、神経系がんが1,000人年当たり2例であった。検討したがん種の多くで、超過リスクは追跡3ヵ月以内に限られていたが、前立腺がんおよび尿路がんのリスクは、追跡期間が3ヵ月から12ヵ月未満でも依然として高かった。女性では、浸潤性膀胱がんの超過リスクが数年にわたって認められた。 【結論】急性尿閉は、泌尿生殖器がん、大腸がん、神経系不顕性がんの臨床マーカーであると考えられる。急性尿閉を発症し、原因がはっきりと分からない50歳以上の患者では、不顕性がんの可能性を検討すべきである。 第一人者の医師による解説 急性尿閉では潜伏がんを考慮すべき 見落とし減らすため画像検査の実施も考慮 宮﨑 淳 国際医療福祉大学医学部腎泌尿器外科主任教授 MMJ. February 2022;18(1):17 急性尿閉は、突然の痛みを伴う排尿不能を特徴とし、直ちに導尿などを行い、膀胱の減圧が必要である。男性における急性尿閉の発症率は年間1,000人当たり2.2 ~ 8.8人で、推定発症率は70代では10%、80代では30%と、年齢とともに著しく上昇する(1)。男女比は13:1と推定されている。急性尿閉の根本的な原因のほとんどは良性であるが、急性尿閉は前立腺がんの徴候でもあり、他の泌尿器がん、消化器がんおよび神経系がんの徴候である可能性を示唆する研究もある。 そこで本論文では、デンマーク全国規模コホートから得たデータを用いて、急性尿閉による初回入院患者約76,000人における泌尿生殖器がん、大腸がん、神経系がんのリスクを一般集団と比較・検討した。その結果、急性尿閉の初診後の前立腺がんの絶対リスクは、3カ月後で5.1%、1年後で6.7%、5年後で8.5%であった。追跡期間3カ月以内において、前立腺がんの過剰症例が1,000人・年当たり218人検出された。さらに追跡期間3カ月~12カ月未満において1,000人・年当たり21人の過剰症例が検出されたが、12カ月を超えると過剰リスクは無視できる程度になった。追跡期間3カ月以内において、尿路系がんの過剰リスクは1,000人・年当たり56人、女性の生殖器系がんは1,000人・年当たり24人、大腸がんは1,000人・年当たり12人、神経系がんは1,000人・年当たり2人であった。ほとんどのがんで、過剰リスクは追跡期間3カ月以内に限定されたが、前立腺がんと尿路系がんのリスクは追跡期間3カ月~12カ月未満でも高いままであった。結論として、急性尿閉は、潜伏性尿路性器がん、大腸がん、神経系がんの臨床マーカーとなる可能性があるため、急性尿閉を呈し、明らかな基礎疾患を持たない50歳以上の患者には、潜伏がんを考慮すべきであると考えられた。 本研究が使用したデンマーク全国患者登録(Danish National Patient Registry)には人口約580万人の同国内のあらゆる病院に入院したすべての患者のデータが含まれていることから、今回のような全国規模の研究が可能である。この人口ベースのコホート研究において、泌尿生殖器がん、大腸がん、神経系がんが急性尿閉の原因となることが示唆された。我々泌尿器科医は、急性尿閉の患者を診察した際に前立腺肥大症と前立腺がんは常に念頭においているが、なかなか大腸がんや神経系疾患まで考慮することは少ない。見落としを減らすためにも、CTなどの画像検査を行うように心がける必要があるかもしれない。 1. Oelke M, et al. Urology. 2015;86(4):654-665.
ポルトガルの小児で検討したB群髄膜炎菌ワクチン接種とB群侵襲性髄膜炎菌感染症の関連
ポルトガルの小児で検討したB群髄膜炎菌ワクチン接種とB群侵襲性髄膜炎菌感染症の関連
Association of Use of a Meningococcus Group B Vaccine With Group B Invasive Meningococcal Disease Among Children in Portugal JAMA. 2020 Dec 1;324(21):2187-2194. doi: 10.1001/jama.2020.20449. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約【重要性】小児のB群侵襲性髄膜炎菌感染症を予防するワクチンには多成分B群髄膜炎菌ワクチン(4CMenB)以外にないが、マッチさせた対照とワクチンの効果を比較した試験はない。 【目的】4CMenB接種とB群侵襲性髄膜炎菌感染症の関連を明らかにすること。 【デザイン、設定および参加者】発生密度対症例対照研究。2014年10月から2019年3月までの間にポルトガルの小児病院31施設を受診した患者を特定し、死亡または退院まで追跡した(最終追跡2019年6月)。検査で侵襲性髄膜炎菌感染症が確定したポルトガルに居住する小児および思春期小児を対象とした。同時期に同じ病院に無関係の病態で入院した対照(通常1例につき2例)を性別、年齢および居住地でマッチさせた。 【曝露】全国データベースから取得した4CMenBによる予防接種(年齢により2~4用量を推奨)。 【主要評価項目】主要評価項目は、対照と比較した予防接種完了者のB群侵襲性髄膜炎菌感染症とした。副次評価項目は、対照と比較した予防接種完了者の全血清型侵襲性髄膜炎菌感染症および1回以上接種した対照と比較した症例の侵襲性髄膜炎菌感染症とした。 【結果】侵襲性髄膜炎菌感染症患児117例のうち、98例が組み入れ基準を満たし、82例がB型侵襲性髄膜炎菌感染症であった。69例がワクチン接種を完了する年齢に達しており、保護されていたとみなした。この69例の月齢中央値は24(四分位範囲4.5~196)カ月、42例が男児であり、入院期間中央値は8(四分位範囲0~86)日間であった。症例69例中5例(7.2%)と対照142例中33例(23.1%)がワクチン接種を完了していた(差-16.0%[95%CI -26.3%~-5.7%]、オッズ比[OR]0.21[95%CI 0.08~0.55])。全血清型の侵襲性髄膜炎菌感染症でみると、症例85例中6例(7.1%)と対照175例中39例(22.3%)がワクチン接種を完了していた(差-15.2%[95%CI -24.3%~-6.1%]、OR 0.22[95%CI 0.09~0.53])。B群感染症では、症例82例中8例(9.8%)と対照168例中50例(29.8%)が1回以上ワクチンを接種していた(差-20.0%[95%CI -30.3%~-9.7%]、OR 0.18[95%CI 0.08~0.44])。全血清型の侵襲性髄膜炎菌感染症では、症例98例中11例(11.2%)と対照201例中61例(30.3%)が1回以上ワクチンを接種して受けていた(差-19.1%[95%CI -28.8%~-9.5%]、OR 0.23[95%CI 0.11~0.49])。 【結論および意義】ポルトガルでのワクチン接種開始から最初の5年間で、侵襲性髄膜炎菌感染症を発症した小児の方が発症しなかった対照の小児よりも4CMenBワクチンを接種した割合が低かった。この結果は、臨床現場での4CMenBワクチン使用を周知するのに有用である。 第一人者の医師による解説 国内未承認のB群髄膜炎菌ワクチン 今後の承認を期待 神谷 元 国立感染症研究所実地疫学研究センター主任研究官 MMJ. December 2021;17(6):185 本論文は、ポルトガルの小児科医療機関31施設が参加し、B群髄膜炎菌(MenB)ワクチンの有効性を年齢、性別、居住地区、受診医療機関についてマッチングした症例対照研究により検討した結果の報告である。調査期間(2014年10月~19年3月)、ポルトガルではMenBワクチンは定期接種化されておらず、国内の1歳児のMenBワクチン接種率(2回)は56.7%(2018年)であった。299人の小児が参加し、MenBによる侵襲性髄膜炎菌感染症(IMD)の予防効果をエンドポイントとした解析では、オッズ比が0.21(95%信頼区間[CI], 0.08?0.55)、他の血清群を含めたIMDの予防効果はオッズ比が0.22(95% CI, 0.09?0.53)となり、ワクチン効果(VE)は78~79%と一定の効果を認めた。また、調査期間におけるIMDの原因菌の内訳はB群が84%を占めていたが、MenBワクチン接種者でIMDを発症した11人のうち、8人はMenB、3人はそれ以外の血清群の菌による感染であった。11人の転帰は良好で合併症も認められなかった(未接種者では26%に合併症が認められた)。髄膜炎菌ワクチンは4つの血清群(A、C、W、Y)の莢膜多糖体を用いた4価ワクチン(MCV4ワクチン)が実用化されているが、B群がこのワクチンに含まれていない理由は、B群の莢膜多糖体がヒトの脳の糖鎖と構造が似ているため、ほかの血清群のようにワクチン成分として莢膜多糖体を利用できないことにある。しかし、近年の技術と研究の進歩により、外膜の表層蛋白を用いたMenBワクチンが開発され、米国、カナダ、オーストラリア、欧州では承認されている。このワクチンは、MenBに対する予防効果はもちろんのこと、髄膜炎菌に共通する外膜の表層蛋白を用いているため、ほかの血清群による髄膜炎菌感染症への予防効果も期待されている。日本では2021年7月時点でMenBワクチンは未承認であるが、国内のIMDサーベイランスの結果によると、一定の割合でMenBによるIMDが報告されている(1)。また、東京2020大会のような国際的なマスギャザリングが開催されると国内でそれまで検出されることが少ない髄膜炎菌が認められ、IMD発症事例も起こるため(2)、MenBワクチンの国内での承認が今後期待される。なお、ポルトガルではその後2020年に2カ月、4カ月、12カ月齢児にMenBワクチンを定期接種化している(3)。 1. 国立感染症研究所. IASR.2018;39:1-2. https://bit.ly/2W5FwwO 2. Kanai M, et al. Western Pac Surveill Response J. 2017;8(2):25-30. 3. ECD C. Vaccine S cheduler Pneumo co ccal Dis eas e:Recommended vaccinations https://bit.ly/39xLERD
イングランドの住民5,400万人以上を対象とした全国規模のコホート研究に用いる電子医療記録の連結 データ資源
イングランドの住民5,400万人以上を対象とした全国規模のコホート研究に用いる電子医療記録の連結 データ資源
Linked electronic health records for research on a nationwide cohort of more than 54 million people in England: data resource BMJ. 2021 Apr 7;373:n826. doi: 10.1136/bmj.n826. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約【目的】データの安全性およびプライバシーを確保し、国民の信頼を維持しながら、COVID-19および心血管疾患に関する全人口を対象とした研究を可能にする新たなイングランドの電子医療記録(EHR)資源について説明すること。 【デザイン】国民保健サービス(NHS)の個別記録を連結したデータ資源であり、NHS Digitalの新たなTrusted Research Environment内でのみアクセス可能である。 【設定】EHRに登録されているプライマリケア受診記録、病院受診記録、死亡登録、COVID-19臨床検査結果および地域の調剤データ。今後、専門医による集中治療、心血管系データおよびCOVID-19ワクチンデータも連結する計画がある。 【参加者】2020年1月1日時点で生存しており、イングランドのNHS総合診療医に登録されている患者5,440万例。 【measures of interest】2020年1月1日から10月31日までのCOVID-19確定例または疑い例の診断、心血管系疾患(脳卒中または一過性脳虚血発作の発症および心筋梗塞の発症)および全死因死亡。 【結果】連結したコホートはイングランドの人口の96%以上を対象としている。国民の個別データを連結することにより、全人口の約95%に当たる国民の年齢、性別および民族に関するデータが揃っている。脳卒中や一過性脳虚血発作の既往歴がなかった約5,330万例のうち、98,721例が2020年1月1日から10月31日の間に脳卒中または一過性脳虚血発作を発症した。このうち30%がプライマリケアのみ、4%が死亡登録のみに記録されていた。心筋梗塞の既往歴がなかった約5,320万例のうち、6万2,966例が追跡中に心筋梗塞を発症した。このうち8%がプライマリケアのみ、12%が死亡登録のみに記録されていた。約95万9,470例がCOVID-19確定または疑いと診断された(プライマリケアデータ714,182例、病院診療記録126,349例、COVID-19臨床検査データ50,504例)。58%がプライマリケアおよびCOVID-19臨床検査データに記録されていたが、15%がプライマリケアのみ、18%がCOVID-19臨床検査データのみに記録されていた。 【結論】この全人口規模の資源は、主要なデータの網羅性を最大限に活用し、心血管系事象およびCOVID-19診断を確認するために個別データを連結する重要性を示している。この資源は当初、COVID-19および心血管系疾患に関する研究の支援と臨床診療および公衆衛生のために構築されたが、さまざまな研究に広げることができる。 第一人者の医師による解説 EHRで遅れる日本 普及にはデータ共有・活用の重要性について国民の理解が必須 島田 直樹 国際医療福祉大学基礎医学研究センター教授 MMJ. December 2021;17(6):189 EHR(electronichealthrecord)は、患者の診断、治療、検査結果、生活習慣などが電子化された電子健康記録である。EHRの普及を国家政策として推進する国は今世紀になって増えており、特に英国では英国国民保健サービス(NHS)のもとで医療が一元的に管理されていることもあり、2017年時点でEHRの普及率は97%に達している。EHRの利点は、これらのデータを医療機関が共有・活用できることだが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行が始まった当初の英国では、研究者はEHRにアクセスすることはできず、解析できなかった。この課題を解決するために、NHSDigitalとBritishHeartFoundationDataScienceCentreが協力して、新しい研究環境(NHSDigitalTrustedResearchEnvironment[TRE]forEngland)を構築した。この研究環境を介して研究者は、プライマリケア、病院エピソード、死亡登録、COVID-19検査結果、地域の薬局の調剤データなどが連結されたEHRにアクセスすることが可能になった。NHSの一般診療施設(GP)によって登録された、2020年1月1日時点で生存している5440万人、英国人口の96%以上のデータが集約されている。本論文では、このデータの利用例として、COVID-19の診断記録、脳卒中・TIA・心筋梗塞の発生、全死因死亡について、プライマリケア、死亡登録などの各データベースからの報告割合を評価している。日本におけるEHR政策は諸外国に比べて遅れている。その理由として、導入・運用・維持にコストがかかること、EHRサービスを提供するベンダー間で仕様の違いが大きく、データを連結するためのコストがかかること、が挙げられている。さらに、日本では個人情報保護の意識が強く、データの不正利用に対する警戒心が強い点も重要である。筆者は、指定難病患者が医療費助成を申請する際に提出する臨床調査個人票のデータを利用した疫学研究を実施している。以前は、厚生労働科学研究費を取得していれば、目的外使用申請によって、比較的容易にデータを使用することができた。しかし、2015年に難病法が施行されてからは、きわめて面倒な手続きが必要となった。運用フロー図、リスク分析・対応表、運用管理規定、自己点検規定、さらには本人確認・本人所属確認の写しまで提出しなくてはならず、非常に時間と手間がかかっている。日本においてEHRが普及するためには、データの共有・活用の重要性を国民が正しく理解することが必須である。
さまざまな血圧値の患者に用いる心血管疾患の1次予防および2次予防を目的とした薬剤による降圧治療 個別患者データのメタ解析
さまざまな血圧値の患者に用いる心血管疾患の1次予防および2次予防を目的とした薬剤による降圧治療 個別患者データのメタ解析
Pharmacological blood pressure lowering for primary and secondary prevention of cardiovascular disease across different levels of blood pressure: an individual participant-level data meta-analysis Lancet. 2021 May 1;397(10285):1625-1636. doi: 10.1016/S0140-6736(21)00590-0. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約【背景】心血管疾患の併存を問わない正常血圧または正常高値血圧の患者に用いる薬剤による血圧降下作用は明らかになっていない。著者らは、治療前の収縮期血圧値別に、降圧治療が主要心血管事象リスクにもたらす作用を明らかにすべく、無作為化試験の個別患者データを解析した。【方法】薬剤による降圧治療をプラセボまたは他のクラスの降圧薬と比較した無作為化試験または治療の強度別に比較した無作為化試験計48件(各群の追跡期間1,000人年以上)の個別患者データのメタ解析を実施した。心不全患者、急性心筋梗塞などの急性期疾患の短期治療を対象とした試験を除外した。Blood Pressure Lowering Treatment Trialists' Collaboration(英オックスフォード大学)から1972年から2013年までに発表された51試験のデータを取得した。データを統合し、心血管疾患併存(無作為化割り付け前の脳卒中、心筋梗塞、虚血性心疾患などの報告)の有無、収縮期血圧全体および7段階の収縮期血圧値分類(120 mmHg未満から170mmHg以上まで)別に降圧治療効果を層別化した。主要評価項目は、主要心血管事象(脳卒中、心筋梗塞または虚血性心疾患、致命的または入院を要する心不全の複合と定義)とし、intention-to-treatで解析した。【結果】この解析では、48試験の参加者計344,716例のデータを対象とした。無作為化前の平均収縮期血圧および拡張期血圧は、心血管疾患既往歴がある参加者(157,728例)が146/84 mm Hg、心血管疾患既往例がない参加者(186,988例)が157/89 mmHgであった。試験前の参加者の血圧に大きなばらつきを認め、心血管疾患既往歴がある参加者31,239例(19.8%)および心血管疾患既往例がない参加者14,928例(8.0%)の収縮期血圧が130mmHg未満であった。降圧治療の相対的効果は、収縮期血圧低下の程度と比例していた。中央値で4.15年の追跡後(Q1~Q3 2.97~4.96)、42,324例(12.3%)に主要心血管事象が発生した。試験前に心血管疾患既往歴がなかった参加者の1000人年当たりの主要心血管事象発症率は、比較対照群が31.9(95%CI 31.3~32.5)、介入群が25.9(25.4~26.4)であった。試験前に心血管疾患既往歴があった参加者の発症率は、比較対照群39.7(95%CI 39.0~40.5)および介入群36.0(95%CI 35.3~36.7)であった。収縮期血圧5mmHgの低下による主要心血管事象のハザード比(HR)は、心血管疾患既往がない参加者が0.91(95%CI 0.89~0.94)、心血管疾患既往がある参加者が0.89(0.86~0.92)であった。層別解析で、試験前の心血管疾患既往歴の有無や収縮期血圧分類別による主要心血管事象に対する治療効果の異質性について、信頼性の高い科学的根拠はなかった。【解釈】この無作為化試験の大規模解析では、収縮期血圧5mmHg低下により、心血管疾患既往歴の有無とは関係なく、正常血圧や正常高値血圧でさえ主要心血管事象リスクが約10%低下した。この結果は、現在治療の対象外となる血圧値でも、薬剤による一定の血圧降下が心血管疾患の1次予防および2次予防に等しく有効であることを示唆している。降圧治療の適応について患者と話し合う医師は、血圧を下げることよりも心血管リスク低下の重要性を重視すべきである。 第一人者の医師による解説 降圧療法は心血管病が存在し 血圧が低くても有用なことを確認 平田 恭信 東京逓信病院名誉院長 MMJ. December 2021;17(6):170 世界的に高血圧者の数はこの30年間で倍増しており、降圧療法の重要性が高まっている。高血圧の治療法については降圧薬の使用方法などにまだ改善の余地があるが、その恩恵については議論の余地は少ない。しかし未解決の重要な問題も残っており、そのうち(1)すでに心血管病を有する高血圧者と有さない高血圧者の間で降圧療法の効果は異なるのか否か(2)その効果は投与前の血圧値によって差があるのか、特に正常~正常高値の血圧レベルでどうか──という2つの疑問を本研究では解明しようとしている。それに答えるには相当数の対象者が必要である。というのは血圧レベルが正常に近いほど、降圧治療によるリスク低減効果は小さくなることが知られているからである。臨床上のエビデンスレベルとしては関連研究のメタアナリシスが最上位に置かれているのは周知のことであるが、メタアナリシスにも弱点はあり、どの論文を解析対象とするかの選択バイアスがありうること、対象者数が他より圧倒的に多い論文が含まれると結論がそれに引っ張られてしまうことである。その点、著者であるBloodPressureLoweringTrialists’Collaborationグループはあらかじめ質の保証された降圧療法に関する臨床研究を結果の出る前から組み入れることを表明しておき、それを徐々に積み上げてきた。このことによって少なくとも論文の選択バイアスは避けられる。さらに研究対象者の個々のデータ(individualparticipant-leveldata)も解析可能なシステムを構築した。これまでも同グループにより降圧療法による合併症の抑制効果は到達した血圧値に依存し、降圧薬の種類によらないことが示されてきた。本研究でも約34万人の解析により、収縮期血圧が5mmHg低下すると心血管合併症(イベント)の発生リスクが約10%低下し、この効果は投与前に心血管病のある場合(2次予防)、未罹患の場合(1次予防)のいずれでも同様に認められた。また心血管合併症の発症リスクも脳卒中で13%、心不全で13%ならびに虚血性心疾患で8%抑制された。さらにこの効果は投与前の血圧値を7段階に分けて解析しても各レベル間の差は明らかでなく、収縮期血圧が120mmHg未満や120~129mmHgであっても認められた。このことはいわゆる治療効果のJカーブ現象は一般的には心配はないことを示している。降圧療法の目的は心血管合併症の予防にあることより、心血管病が存在して、血圧が低めであっても治療が有用なことが確認された。
糖尿病の有無を問わない成人の代謝減量手術と長期生存の関連 計174,772例を検討したマッチドコホート研究および前向き比較対照研究の1段階法メタ解析
糖尿病の有無を問わない成人の代謝減量手術と長期生存の関連 計174,772例を検討したマッチドコホート研究および前向き比較対照研究の1段階法メタ解析
Association of metabolic-bariatric surgery with long-term survival in adults with and without diabetes: a one-stage meta-analysis of matched cohort and prospective controlled studies with 174 772 participants Lancet. 2021 May 15;397(10287):1830-1841. doi: 10.1016/S0140-6736(21)00591-2. Epub 2021 May 6. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約【背景】代謝減量手術によって体重が大幅に減少し、肥満関連のリスクや合併症の寛解や改善につながる。しかし、政策の指針や患者カウンセリングに利用するために、術前の糖尿病併存状態で層別化した長期死亡率や平均余命にもたらす効果の推定を強固なものにする必要がある。著者らは、重度肥満患者で代謝減量手術と標準治療の長期生存転帰を比較した。【方法】前向き比較対照研究および高品質のマッチドコホート研究から再構成した患者個別の生存データを用いて、事前に定めた1段階法によるメタ解析を実施した。PubMed、ScopusおよびMEDLINE(Ovid経由)で、2021年2月3日までに非外科的肥満管理と代謝減量手術後の全死因死亡を比較した無作為化試験、前向き比較対照研究およびマッチドコホート研究を検索した。総説とともに、組み入れた研究の参考文献一覧から灰色文献も検索した。共有異質性(ランダム効果など)および層別Coxモデルを用いて、試験レベルでの参加者のクラスタリングを考慮に入れた上で、代謝減量手術を施行した肥満成人の全死因死亡率をマッチさせた標準治療を実施した対照と比較した。このほか、治療必要数を算出し、Gompertz比例ハザードモデルを用いて平均余命を推定した。試験のプロトコールは、PROSPEROにCRD42020218472番で予め登録されている。【結果】特定した論文1,470編のうち、マッチドコホート研究16編および前向き比較対照試験1編を解析対象とした。1,200万人の間に7,712例が死亡した。全174,772例では、代謝減量手術で死亡のハザード率が49.2%(95%CI 46.3~51.9、P<0.0001)低下し、平均余命中央値が通常治療より6.1年(95%CI 5.2~6.9)長かった。部分集団解析で、代謝減量手術を施行した患者は、ベースラインで糖尿病があった患者(ハザード比0.409、95%CI 0.370~0.453、p<0.0001)、なかった患者(0.704、0.588~0.843、P<0.0001)ともに全死因死亡率が低かったが、治療効果は糖尿病があった患者の方が高かった(部分集団間のI^2 95.7%、P<0.0001)。手術群の方が非手術群よりも平均余命の中央値が9.3年(95%CI 7.1~11.8)長く、糖尿病がなかった患者の平均獲得余命は5.1年(2.0~9.3)であった。10年間で死亡1例を予防するための必要治療数は、糖尿病がある患者が8.4(95%CI 7.8~9.1)、糖尿病がない患者が29.8(21.2~56.8)であった。胃バイパス、バンディングおよび袖状胃切除の間に治療効果の差が見られなかった(I^2 3.4%、P=0.36)。このメタ解析の結果や他のデータを利用することにより、今回の解析で統合した世界の代謝減量手術適応患者間で手術率が1.0%上昇するごとに、糖尿病がある患者とない患者でそれぞれで5,100万人年と6,600万人年の平均余命が獲得できることが推定された。【解釈】代謝減量手術によって、通常の肥満管理よりも肥満成人患者の全死因死亡率および平均余命が大きく改善する。糖尿病がない患者よりも糖尿病を併存する患者の方が生存に関する便益が顕著に見られる。 第一人者の医師による解説 国内でも3学会合同のコンセンサスステートメント発刊 本手術の普及を期待 岡住 慎一 東邦大学医療センター佐倉病院外科教授 MMJ. December 2021;17(6):176 1950年代に欧米で減量を目的として開始された高度肥満症に対する外科治療は、減量効果とともに糖尿病をはじめとする肥満関連合併症の改善も得られることが判明し、metabolicsurgery(代謝改善手術)として新たに位置づけられ、現在、全世界で年間約80万人に行われるほどに拡大している(1)。高度肥満症では、関連疾患による高死亡率対策が課題である。本論文は、外科治療における生存期間延長効果について計174,772人が参加した17試験でメタ解析し、さらに2型糖尿病合併の有無において検討した大規模研究である。結果は、内科治療に比べ外科治療による生存期間延長効果は6.1年(95%信頼区間[CI],5.2~6.9)であり、致死危険率(hazardrateofdeath)で49%(95%CI,46.3~51.9;P<0.0001)の低下が得られていた。治療後20年、30年累積死亡率は、内科治療群でそれぞれ20.0、46.0%であったのに対し、外科治療群ではそれぞれ8.8、29.5%であった。さらに、2型糖尿病合併の有無別にみると、外科治療群では両者ともに全死亡率が低下し、特に、2型糖尿病合併例における効果は顕著であった(P<0.0001)。2型糖尿病の合併例における治療後20年累積死亡率は、内科治療群の35.2%に対し、外科治療群では21.1%、一方、非合併例ではそれぞれ19.3、11.9%であり、内科治療に対する外科治療の生存期間延長効果は糖尿病合併例で9.3年(95%CI,7.1~11.8)、非合併例で5.1年(2.0~9.3)であった。これらの生存期間延長効果は、肥満外科の主要な術式(胃バイパス、袖状胃切除、胃バンディング)すべてにおいて示されたとしている。Metabolicsurgeryの効果の周知により、2016年米国糖尿病学会(ADA)のガイドラインでは高度肥満症(体格指数[BMI]35以上、アジア系:BMI32.5以上)を伴う制御困難な2型糖尿病に対して外科治療が「推奨」され、世界45学会(日本糖尿病学会を含む)が承認した(2)。2021年7月には、日本肥満症治療学会、日本肥満学会、日本糖尿病学会の3学会合同により、「日本人の肥満2型糖尿病に対する減量・代謝改善手術に関するコンセンサスステートメント」が発刊された(3)。日本においても、今後さらに本手術の普及が進むことが期待されている。 1. Fifth IFSO Global Registry Report 2019(IFSO & Dendrite Clinical Systems) 2. 糖尿病診療ガイドライン2019(日本糖尿病学会) 3. 日本人の肥満2型糖尿病に対する減量・代謝改善手術に関するコンセンサスステートメント(日本肥満症治療学会/日本肥満学会/日本糖尿病学会,2021)
ループス腎炎に用いるvoclosporinとプラセボの有効性および安全性の比較(AURORA 1) 多施設共同二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験
ループス腎炎に用いるvoclosporinとプラセボの有効性および安全性の比較(AURORA 1) 多施設共同二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験
Efficacy and safety of voclosporin versus placebo for lupus nephritis (AURORA 1): a double-blind, randomised, multicentre, placebo-controlled, phase 3 trial Lancet. 2021 May 29;397(10289):2070-2080. doi: 10.1016/S0140-6736(21)00578-X. Epub 2021 May 7. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約【背景】ループス腎炎成人患者の治療薬として承認された新たなカルシニューリン阻害薬voclosporinによって、第II相試験でループス腎炎患者の腎奏効が改善した。この試験は、ループス腎炎の治療に用いるvoclosporinの有効性と安全性を評価することを目的とした。【方法】この多施設共同、二重盲検、無作為化第III相試験は、27カ国の142施設で実施された。米国リウマチ学会の基準に基づきループス腎炎を呈する全身性エリテマトーデスと診断され、2年以内の腎生検でクラスIII、IVまたはV(単独またはクラスIII、IVとの併存)の患者を適格とした。自動ウェブ応答システムを用いて、ミコフェノール酸モフェチル(MMF、1gを1日2回)と急速に減量する低用量経口ステロイドによる基礎治療を実施した上で、患者を経口voclosporinとプラセボに(1対1の割合で)無作為化により割り付けた。主要評価項目は、52週時の腎の完全寛解とし、主要評価項目評価直前の尿蛋白/クレアチニン比0.5mg/mg未満、腎機能安定(eGFR値60mL/min/1.73m^2または治療前からの低下度20%以下と定義)、レスキュー薬非投与および44~52週に3日以上連続または7日間以上にわたるprednisone 10mg/日相当量未満の投与の複合と定義した。このほか、安全性を評価した。intention-to-treatで有効性解析、無作為化し試験治療を1回以上実施した患者で安全性解析を実施した。試験は、ClinicalTrials.govにNCT03021499で登録されている。【結果】2017年4月13日から2019年10月10日の間に、179例をvoclosporin群、178例をプラセボ群に割り付けた。主要評価項目に定めた腎の完全寛解は、voclosporin群の患者の方がプラセボ群の患者よりも多く達成した(179例中73例[41%]vs. 178例中40例[23%];オッズ比2.65;95%CI 1.64~4.27;P<0.0001)。有害事象は両群が拮抗していた。voclosporin群178例中37例(21%)とプラセボ群178例中38例(21%)に重篤な有害事象が発現した。最も多く見られた感染症などの重篤な有害事象は肺炎であり、voclosporin群の7例(4%)とプラセボ群の8例(4%)に発現した。試験期間中または試験追跡期間中に計6例が死亡した(voclosporin群1例[1%未満]とプラセボ群5例[3%])。死亡に至る事象に、試験担当医師が試験治療に関連があると考えたものはなかった。【解釈】MMF+低用量ステロイドとvoclosporinの併用は、MMF+低用量ステロイドのみよりも、臨床的にも統計的にも腎の完全寛解率が良好であり、安全性のデータも同等であった。この結果は、活動性ループス腎炎治療の重要な成果である。 第一人者の医師による解説 標準薬のMMFにボクロスポリン併用で寛解率改善 国内での保険収載を期待 廣村 桂樹 群馬大学大学院医学系研究科内科学講座腎臓・リウマチ内科学分野教授 MMJ. December 2021;17(6):180 活動性ループス腎炎の治療では、まず寛解導入療法を実施して腎炎を鎮静化し、その後維持療法により長期間の寛解維持を目指す。寛解導入療法は、中等量~大量のグルココルチコイドと免疫抑制薬の投与が基本である。2009年に報告されたALMS試験では、ミコフェノール酸モフェチル(MMF)とシクロホスファミド静注療法(IVCY)が比較され、両者がほぼ同等の寛解率を示し(1)、その結果をもとにMMFまたはIVCYが寛解導入における免疫抑制薬の標準薬となった。その後、より高い有効性を求め、標準薬に生物学的製剤などを併用する臨床試験がいろいろ試みられたが、ほとんどの試験が失敗に終わっている。そうした中、2015年に、MMFとカルシニューリン阻害薬であるタクロリムスの併用により、IVCYに比べ、寛解率が有意に高まることが中国の多施設共同試験で示され注目を集めた(2)。本論文で報告されたAURORA1試験は、シクロスポリン誘導体で新規カルシニューリン阻害薬のボクロスポリン(VCS)とMMFの併用療法の効果を検討した、日本も含めた国際的な第3相臨床試験である。ISN/RPS2003年分類III、IV、V型のループス腎炎患者357人を対象に、MMF(1回1g、1日2回)をベース薬としてVCS(1回23.7mg、1日2回)投与群とプラセボ投与群の2群に無作為に割り付け(1;1)、検討がなされた。なお本試験ではグルココルチコイド投与量がかなり少ないことが特徴である。治療開始時にメチルプレドニゾロン(0.5g/日、2日間)を投与後、プレドニゾン25mg/日(体重45kg以上の場合)から開始して漸減し、16週目以降は2.5mg/日に減量するプロトコールであり、通常投与量の半分以下となる。主要評価項目である52週後の完全腎奏効(早朝尿での尿蛋白/尿Cr比0.5mg/mgCr以下、eGFR60mL/分/1.73m2以上またはベースラインからのeGFR低下20%以下など)が得られた患者は、VCS群41%に対してプラセボ群23%であり、VCS群が有意に優れていた(オッズ比,2.65;95%信頼区間,1.64~4.27;P<00001)。一方、有害事象は両群で差がみられず、感染症関連の重篤な有害事象として肺炎が最も多くみられたが、VCS群、プラセボ群ともに4%であった。本試験の結果を受けて、2021年1月に米食品医薬品局(FDA)はループス腎炎の治療薬としてボクロスポリンを承認し、米国では販売されている。日本の大塚製薬は日本と欧州でのVCSの独占販売権を取得しており、今後国内での保険収載が期待される。 1. Appel GB, et al. J Am Soc Nephrol. 2009;20(5):1103-1112. 2. Liu Z, et al. Ann Intern Med. 2015;162(1):18-26.
アデノシンデアミナーゼ欠損症に用いる自家ex vivoレンチウイルス遺伝子治療
アデノシンデアミナーゼ欠損症に用いる自家ex vivoレンチウイルス遺伝子治療
Autologous Ex Vivo Lentiviral Gene Therapy for Adenosine Deaminase Deficiency N Engl J Med. 2021 May 27;384(21):2002-2013. doi: 10.1056/NEJMoa2027675. Epub 2021 May 11. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約【背景】アデノシンデアミナーゼ(ADA)欠損による重症複合免疫不全症(ADA-SCID)は、生命を脅かすまれな原発性免疫不全症である。【方法】ADA-SCID 50例(米国で30例、英国で20例)にヒトADA遺伝子をコードする自己不活型レンチウイルスベクターを用いて体外で(ex vivo)形質導入した自己CD34+造血幹細胞および前駆細胞(HSPC)による開発中の遺伝子治療を実施した。24カ月間追跡した2つの米国試験のデータ(新鮮細胞および凍結保存細胞使用)を36カ月追跡した英国試験のデータ(新鮮細胞使用)と併せて解析した。【結果】最長24カ月間および36カ月間の全試験の総生存率が100%であった。(酵素補充療法の再開や救済療法としての同種造血幹細胞移植がない)無事象生存率は、12カ月時で97%(米国の試験)と100%(英国の試験)、24カ月時でそれぞれ97%と95%、36カ月時で95%(英国の試験)であった。米国試験の30例中29例、英国試験の20例中19例が遺伝子組み換えHSPCの生着を維持した。代謝解毒作用とADA活性値の正常化が保たれていた。免疫再構築が達成され、米国試験の90%および英国試験の100%がそれぞれ24カ月時および36カ月時までに免疫グロブリン補充療法を中止した。単クローン性増殖や白血球増殖性の合併症、複製可能なレンチウイルス出現の根拠は認めず、自己免疫疾患または移植片対宿主病の事象は発現しなかった。有害事象の大部分は低グレードであった。【結論】ex vivoレンチウイルスHSPC遺伝子治療でADA-SCIDを治療した結果、総生存率および無事象生存率が高く、ADA発現の持続、代謝補正および機能的な免疫再構築を認めた。 第一人者の医師による解説 レンチウイルスベクター遺伝子治療 第1選択のHSCTより安全性、有効性で優れる 有賀 正 社会医療法人 母恋 理事長 MMJ. December 2021;17(6):184 アデノシンデアミナーゼ(ADA)欠損症は重症複合免疫不全症(SCID)の一型で、従来から遺伝子治療の標的疾患として注目されていた。1990年、初の遺伝子治療臨床研究がこの疾患で実施され(1)、さまざまな遺伝性疾患へも遺伝子治療が応用されていった。しかし、2002年、X-SCIDに対するレトロウイルスベクター遺伝子治療で白血病様副作用が重ねて報告された(2)。これを契機に遺伝子治療の安全性が再強化され、現在、より安全で効果のある遺伝子治療が展開している。今回の報告は米国と英国で実施された異なる3つの遺伝子治療臨床研究「ADA欠損症に対するexvivoレンチウイルスベクター遺伝子治療」の結果を示している。ベクターはEFS-ADALVを共通して使用したが、標的細胞の採取方法、導入細胞の処理、移植細胞数など多くの点で異なっていた。対象はドナー不在のADA欠損症患者50人(米国30人、英国20人[5人は5歳超、このうち3人は10歳以上])で、自己の骨髄由来、または末梢血CD34+細胞が遺伝子導入標的である。必要最低標的細胞数は1x106/kg~4x106/kgであった。標的細胞採取後に、非骨髄破壊的量のブスルファンによる前処置を実施した。ADA酵素補充は診断直後から遺伝子治療終了後30日まで続けられた。生存率は100%(50/50)であった。2人が生着不良(1人は血液幹細胞移植[HSCT]を実施[米国]、1人は酵素補充を再開・継続[英国])で、無イベント生存率は96%(48/50)であった。この2人を除いた全例で、顆粒球、単核球で導入遺伝子が確認され、3カ月後には赤血球中のADA酵素活性の上昇と毒性代謝産物の著減を認めた。T細胞とそのサブセットは一時減少したが、漸次増加し、増加は継続している。ナイーブT細胞、T細胞特異マーカーのTcellreceptorexcisioncircle(TREC)は上昇し、T細胞の新生を示している。B細胞、NK細胞は一時減少も、正常レベルとなった。血清IgA、IgM値は上昇、ほとんどの患者で免疫グロブリン補充が中止できている。また、ワクチンへの反応も確認された。末梢血リンパ球数は正常レベルである。重症感染症の頻度は低く、コントロールできた。注目すべき合併症の免疫再構築炎症症候群が4人にみられたが、ステロイドが奏効した。レトロウイルスベクター遺伝子治療時に認めた白血病様副作用は認めず、増殖性ウイルスも検出されていない。ADA欠損症に対する第1選択治療はこれまでHLA一致ドナーからのHSCTであったが、最近では遺伝子治療もこれと同等と考えられている。今回のレンチウイルスベクター自己血液幹細胞遺伝子治療の結果は、従来のHSCTよりも安全性、有効性に優れていた。 1. Blaese RM et al. Science. 1995; 270(5235):475-480. 2. Hacein-Bey-Abina S, et al. New Engl J Med. 2003; 348(3): 255-256.
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